(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
カーボンナノチューブのランダムメッシュネットワークから得られる薄膜は、様々な透明基材上に堆積することには成功しているが、光起電装置及び他の電子用途、例えばOLED等に使用できるようにするには、更に改善する必要がある。ところが、特定の実施形態例は、可視透過率83.5%超において100オーム/平方未満の安定なシート抵抗を有する、化学変性された二層ナノチューブ及び複合体から製造された平滑な溶液堆積薄膜に関する。以下に詳述するように、カーボンナノチューブの変性による効果は、熱電能対温度の測定を利用して実証することができ、また変性フィルムの、風化作用に関する光電子工学特性の変化は、SEM、XPS、IR/ラマン及び分光透過率測定で調査することが可能である。また、特定の実施形態例は、ドープ済みフィルムをガラス上に適用すること、すなわち、容量方式タッチセンサー電極及び高速曇り除去装置における機能性コーティングとも関係がある。いずれの場合も、これらのフィルムは、従来の透明導電性酸化物の実行可能な代替物として有望である。
【0019】
溶液中での凝集傾向と関係のある、発達したカーボンナノチューブの疎水性は、材料の加工性を制限する多くの製造上の課題を有している。これまで、研究者らは、カーボンナノチューブ水溶液の真空ろ過方法を利用して、一般にバッキーペーパーと呼ばれるカーボンナノチューブ製の薄いマットを濾紙上に成形した。しかし、高度多孔質材料は、チューブ間のファン・デル・ワールス力が比較的弱いため、もろくて壊れやすい。カーボンナノチューブが提供する機械的性質を十分に利用するためには、フィルム全体でナノチューブ接続性の均一で高密度な分布が望ましい。この制限に応じて、特性の実施形態例は、ガラスに適合する有効な水性インクにCNTを誘導体化する工程と、拡張可能でしかも電気光学フィルム品質を高いスループットで達成可能な垂直スロットコーティング法を利用する工程とを含んでいる。
【0020】
長さ分布5〜10ミクロンの高品質CNTチューブは、触媒CVD法を用いて調製された。この方法では、一部の個々のSWNTと個々の平均直径が約1.4nmの大部分のDWNTとを含むナノチューブ混合物が製造される。これらナノチューブは、化学的耐性を有し、しかも大量生産が可能である。その後、得られた精製CNTは、界面活性剤を用いて低電力超音波処理で水に溶解し分散させて、前駆体インクを生成する。ガラス基材上でのインクレオロジーとコーティング性能を調整するためにコーティング助剤を用いた。このようなコーティング助剤には、例えばBTAC、DMF、NPH等を挙げることができる。このインクは、様々な剛性基材又はフレキシブル基材(例えば、ガラス、プラスチック、金属、シリコン等)にもコーティング可能である。垂直スロット法を用いて薄いソーダ石灰ガラス基材上にCNT薄膜を堆積した。垂直スロット法は、例えばスプレー法に比べて高いライン速度性能や大面積に及ぶ優れた均一性といった多くの利点をもたらす。定量方式の垂直スロットのヘッドは、インク流体のレオロジー特性に基づく公差を処理するように設計されていた。流体レオロジー設計パラメータは、特定の温度での粘度対ずり速度の比を暗号化するものであって、その内部流動形状を設計するのに用いられる。胴部材は、清掃のために分解してバラバラにすることができる。スロットは、塗布するのに適した温度で流体を保持し、流体を所望の被覆幅まで均一に分配し、そしてそれをガラス基材に適用するのに役立つ。流量のダイレクト設定は、コーティングされたフィルムの湿潤厚を求めるのに役立つ。前記方法には、精密な液体運搬システムと、横方向分配用スロットヘッドが必要である。うねりが無くしかも欠陥数が非常に少ない、ほぼ均一なコーティングがガラス上に形成される。前記方法には、例えば、東京エレクトロン(Tokyo Electron)及び/又はシャフリー・テクニクス(Shafley techniques)製の装置が含まれていてよい。
【0021】
スロットコーティングは、多層コーティングの適用に十分適している。CNTフィルムの湿潤厚は数十ミクロンの範囲であり、70〜90℃で迅速に乾燥することで5〜100nmの範囲の最終CNTフィルム厚が得られる。ガラス基材上のCNTフィルムをその後、9M H
2SO
4酸に10分間浸漬するか又はガス系のスルホン化処理に付した。これにより、フィルムの導電性が十分に低下する。ナノチューブ薄膜とガラス基材との接着を強化するだけでなく、ドープ済みのフィルムを安定化するためにも、同様のスロット法を用いて3〜5nm厚のPVPポリマーオーバーコートを適用して、CNTフィルムを封止する。硫酸処理した表面は、カルボン酸基とSOOH基を両方形成することでCNT表面に官能性を持たせる。別の実施例では、他の「超酸」を用いてフィルムに官能性を持たせることも可能であることが分かる。
【0022】
PVPオーバーコートに加えて又はその代わりに、オーバーコート又はパッシベーション層を官能化CNT薄膜の上に適用してもよい。このようなオーバーコート又はパッシベーション層は、酸を洗脱するときにフィルムを水から保護するのに役立ち、洗脱した酸に人が接触し得るのを防ぐのに役立ち、及び/又は下位層を(例えば、燃え尽きること等から)保護するのにも役立つ可能性がある。このようなコーティングは、ZnO、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、シリコンカードバイン(silicon cardbine)等の薄膜層であってよい。また、このようなコーティングは、ポリマー系の層、樹脂(例えば、エポキシ)等であってもよい。UV遮断コーティングをオーバーコート/パッシベーション層に使用してもよい。
【0023】
CNTコーティングを更に安定化するために、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(4−スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)−PEG複合薄膜を水分散液からスロットコーティングする。バイトロン(Baytron)P500中のポリエチレングルコール(PEG)添加物は、PEDOT:PSSの導電性向上に役立つ。また、PEGは、酸素を含む多数のエーテル基も両末端のヒドロキシル基の間に有している。遊離型未グラフト化PEG添加物を含有するPSCを、カルボニル基で官能基化したCNT上にコーティングすると、この遊離型未グラフト化PEG分子のヒドロキシル基が、CNT壁にあるカルボキシル基と反応する。これによって、PEGがH
2SO
4官能基化CNTにグラフト化する。PEG−PEDOT:PSSは、グラフト化PEGのエーテル基と遊離型未グラフト化PEGの両末端ヒドロキシル基との水素結合によってCNT壁に付着する。高い安定性は、空気から水を取り込み難くなったことから生じるが、これはPEDOT:PSS:PEG/CNT複合体のより高密度なパッキングに起因すると思われる。フィルムのシート抵抗及び粗さは、PSC溶液でコーティングした後に再び測定した。また、対照として、PSC溶液を裸のソーダ石灰ガラス基材にコーティングすることで、スピンコーティングしたフィルムの実際のシート抵抗及び粗さも調べた。この試験結果は以下に記載する。
【0024】
堆積したままのフィルムを真空中又はオーブンに入れると、コーティングの乾燥及び/又は過剰水分の除去を促進する可能性があることも分かるであろう。さらに、官能化CNT薄膜が熱的に強化され得ることも分かるであろう。
【0025】
また、化学的な官能化は、より永続的な又はより安定なドーパントを用いて行ってもよい。前記方法を、前記超酸手段の代わりに又はそれと組み合わせて使用してもよい。例えば、ジアゾニウム塩によってCNTを化学的に官能化することも可能である。例えば、4−ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(BDF)及び/又はトリエチルオキソニウムヘキサクロロアンチモネート(OA)を用いてCNTをドーピングしてもよい。BDFは、CNTから電子を取り出して窒素を放出する傾向がある。前記反応は、安定な電荷移動錯体の形成が引き金となり、結果としてCNTがp型ドーピング処理される。一電子酸化剤としてOAを用いても、同様のドーピング状態となる。装置は、BDFの5.5mM水溶液で10分間又はOAの2.7mMクロロベンゼン溶液で12時間のいずれかで処理した。化学変性後、試料は、大気中100℃で焼きなましした。どちらの化学反応も、CNTに正孔注入を生じさせて、CNTの側壁の欠陥に優先的に作用する。条件を最適化すると、付加的な構造欠陥を取り込む可能性が低減される及び/又はなくなる。
【0026】
別の例としては、ポリオール法を用いてもよく、その結果、金属塩前駆体(例えば、臭素及び/又はヨウ素を含む)が、ヒドロキシル基を複数含有する化合物であるポリオールによって還元される。この合成法で用いられるポリオールであるエチレングリコールは、還元剤と溶媒の両方の役割をしていた。エチレングリコール10mLを撹拌しながら(260rpm)150℃で1時間加熱した。この予熱は、油浴に浸けた使い捨てガラス瓶内で行った。4mMのCuCl
2・2H
2O/エチレングリコール溶液40μLを加えて、溶液を15分間加熱した。その後、114mMのPVP/エチレングリコール1.5mL、次いで100mMのAgNO
3/エチレングリコール1.5mLを、各瓶に添加した。試薬は全てピペットで投与した。約1時間後、反応を停止すると、溶液が灰色の薄い色になった。反応は、瓶に冷水を入れることで停止した。生成物を洗浄して、CNTインクに混合した。この方法及び/又は他の方法では、銀ナノワイヤーをインクに混合してから基材に適用してもよい。このことは、基材に銀ナノワイヤーを形成する代わりに又はそれに加えて(例えば、変性若しくは未変性のCNT含有インクを適用する前、適用中又は適用後に)行ってもよい。
【0027】
前記塩を臭化銀に変えてもよく、また、上記と同様のポリオール還元法を用いてもよい。形成されたAgワイヤーの密度及び統計学的な性質は銀の性質と同様であったが、臭化銀は、前記塩に比べると低いシート抵抗をもたらす可能性がある。UVを利用して銀の還元を光誘起することで、BrイオンをBrへ酸化してもよい。このことは、臭素がCNTチューブに対して有効なドーパントであることを示している。
【0028】
LiイオンがLiPONの状態で存在すると、純粋なCNTフィルムのシート抵抗を少なくとも50%低下させる効果があることも分かった。LiPONをガラスにスパッタしてから、例えばメイヤーロッド法を用いてCNTフィルムを堆積してもよい。同じような取り組みとして、LiPONをガラスに組み込んでからCNTインクをコーティングし、そしてその後、熱処理によって活性化してもよい。
【0029】
超酸と塩を用いた化学的な官能化法はp型ドーピングをもたらすことが分かるであろう。しかし、先に示唆したように、CNTはn型ドーパントにも適応し得る。n型ドーピングは、別のドーパントを用いるならば、前記と同様の方法を用いて行ってもよい。例えばAu、Al、Ti及び/又は他の金属等のドーパントを前記方法と共に使用してよい。例えばポリエチレンイミン(PEI)を包含する有機化学物質を用いてもよい。特にPEIはメタノールに溶解してもよい。そこへCNTコーティングを浸漬して、物理吸着及び化学吸着(physiand chemsorbtion)によってドーピングを行ってもよい。
【0030】
また、前記方法例の代わりに又はそれに加えて、リモート低エネルギー酸素プラズマ又はオゾンプラズマ処理をCNT薄膜に適用してもよい。この処理により、本質的にCOOHラジカルが生成する。特定の実施形態例では、基本的なコロナ放電(正極性若しくは負極性放電又はパルス放電)を利用して空気絶縁破壊を行って閉鎖領域にオゾンを発生させることで、フィルムをオゾンに暴露させる。コロナ放電の先端をコーティングから5〜10cm上に設定する。次に、フィルムをオゾンに暴露する。曝露時間は1分〜10分まで変えてよい。ガラスが放電している下を移動しているときにコロナを発生させるチップの付いた多重ロッドシステムを用いて、この方法を行ってもよい。本発明の別の実施形態では、他のオゾン発生器を用いてもよい。ガラス近傍でのこのオゾン放電は、堆積したCNTフィルムを炭素の酸化によって官能化するのに有用であり、これにより、チューブ表面に官能性部位を生成してチューブの導電性を高めることで、フィルムのp型ドーピングを有効に行う。
【0031】
次に、前記超酸法例の結果について、フィルムの特徴とCNTフィルム/ガラスの接着の観点から更に詳細に説明する。
【0032】
チューブの欠陥度合いは、ラマン分光法を用いて定量化することができる。例えば、
図1aには、典型的な元の状態の非ドープフィルムのラマンスペクトル生データを示す。これは、CNTの呼吸モードの重要な特徴を表している(約240cm
−1)。観測された一重及び二重のRBMピークはそれぞれ、SWNT及びDWNTの存在を裏付けるものである。ラマンシフトω
RBMは、ω
RBM(cm
−1)≒A/d
t+Bという関係によって直径と結びついている。式中、Aは234及びBは約10であることから、1.01nmという値が得られる。DWNTにおいて、Δω
RBMを用いると、チューブの内部と外部との距離は約0.32nmであると推測できる。
図1bにはGピークとDピークが示されており、それらの強度比はグラファイト格子の完全性と関連している。この比は一般に15程度であり、RBMモードと合わせて考慮すると、極めて薄い(約1.6nm)高電子品質のチューブの存在を裏付けるものである。一番下の線は、シリコン基材単独の場合のデータに相当し、真ん中の線は、単層チューブに関するデータに相当し、そして一番上の線は、二層チューブに関するデータに相当する。
【0033】
図2aの走査型電子顕微鏡(SEM)写真は、ガラス上の典型的なCNTフィルムのものである。このようなナノメッシュフィルムの直径及び長さの統計値をかなり正確に推測することができる。図から分かるように、フィルムは、ガラス基材の平面にチューブが付いたナノメッシュである。フィルム形態は、間隙率と束の平均直径で特徴づけることができる(束は個々のチューブで構成されている)。SEM写真はラマンデータを裏付けるものであり、個々のDWNTの直径が約1.6nmであること及び束の直径の中央値が約18nmであることが分かる。フィルム形態は、空隙率(空洞率でもあり、フィルムが細い又は薄いほど増加する)及び束の平均直径(インクの剥離及び超音波処理が良好であれば小さくなる傾向がある)で特徴づけることができる。本出願の発明者が行ったモデル化では、電気伝導度は、空隙率が低いほど増加することが分かった。空隙率は、フィルム濃度(浮遊法から抽出されるもの)及び個々のチューブ濃度との比から推測し得る。空隙率は、40〜70%の範囲であると推定される。
図2bは、実施態様例による、ネットワークが全体の約4分の1を占めるようにCNTに組み込まれたPEDOT/PSS複合体の走査型電子顕微鏡写真である。モデルの詳細を以下に記載する。
【0034】
堆積した3種類のフィルム、すなわち、非ドープフィルム、ドープ済みフィルム及びPSC被覆フィルムについて原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った。RMS粗さは、薄膜では約〜9nmであるが、PSC被覆フィルムでは約4nmまで低減していることが分かる。
【0035】
ガラス基材上のフィルムの分光透過率Tvis及び反射率Rvisは、5nm〜40nmの範囲のCNTフィルム厚さの関数として測定した。特に、直径1.4〜1.6nmの金属製SWNTは、可視スペクトルの透過率が550nm近辺で最も高いと考えられるので、汎用の透明伝導に望ましい対掌性であるように見てとれる。ドープ済みH
2SO
4官能化フィルムの透過率は、非ドープ状態の同様のフィルムよりも系統的には常に大きい(≦1%)。フィルムは更に、有効媒質近似を利用した偏光解析法を用いて光学的に特徴付けることで、曲線因子(又は空隙率)を推測した。
【0036】
フィルムのシート抵抗(R
δ)は、1〜100オーム/平方及び100〜1000オーム/平方において高度な測定が可能な4点プローブを用いて測定した。追加試験として、Nagyを用いて非接触式シート電気抵抗測定も行った。紫外光子放出分光法を用いた仕事関数測定からは、元のフィルムでは仕事関数が約5eVであり、化学変性したフィルムでは0.3eV高いことが分かる。
【0037】
図3aは、実施形態例によって製造された堆積時のままの試料とH
2SO
4で化学変性した試料の両者について測定した熱起電力の温度依存性を表している。フィルムの活性化エネルギーは低下することが分かり、フェルミ準位のシフトとDWNTでのH
2SO
4のドーピング効果に関して明らかな証拠を示している。右上がりの熱起電力からは、ITOのn型特徴と比べて、元のCNTフィルム及び変性されたCNTフィルムの両者では正孔が主要な電荷担体であるので、これらのフィルムには新しい有望な用途が広がっていることが分かる。
図3bは、高分解能FTIRスペクトルデータを表しており、約1050〜1100cm
−1にSO
4基による化学ドーピングが示されている。FTIRは反射モードで操作する。
【0038】
図3cは、非ドープCNTフィルムと、本発明の実施形態例によってドープしたCNTフィルムとの間のシフトを表すXPSグラフである。
図3cから分かるように、炭素K端は低エネルギー側に約0.35eVだけシフトする。これは、BDFとH
2SO
4が化学結合している証拠である。特定の実施形態例では、ドーパントは、基材に染み込ませた又は供給した後でCNTインクでコーティングしてもよいことが分かるであろう。例えば、ガラスは、低密度ジルコニアでコーティングしてよく、そしてそのジルコニアをH
2SO
4でスルホン化してもよい。特定の実施形態例では、CNTは、スルホン化されたZrO
2の上部にコーティングしてよい。ZrO
2のある代表的な利点は、H
2SO
4部分を固定することと、そのH
2SO
4部分を化学ドーピングできることである。
図3cのXPSグラフは、CNTでオーバーコートしたZrO
2:H
2SO
4に関する。炭素1sコアのシフトは、UV露光後でもドーパントを安定化できることを証明するのに役立つ。K端のシフトはSOOH部位及びSOOOH部位と関係があると考えられることに留意する。
【0039】
CNTナノメッシュフィルムのガラスに対する接着性を測定するために、被覆基材上で肉眼及び顕微鏡による引張り試験を行った。エポキシベースの引張り試験を、試料の、膜厚が10nm〜100nmまで様々なCNT複合フィルムが付いた範囲で行った。接着基準値の下限は、3.4×10
6Pa(500psi)を超え、使用されるエポキシ接着剤の強度又は引張破壊によってのみ制限されることが分かった。AFMチップを用いて顕微鏡による接着性試験を行って、フィルムの接着剤の表面エネルギーSを測定した。この方法は非常に再現性が良く、約0.12J/m
2のS値及び約0.15J/m
2のS値が得られるが、これは平均10
7Paに相当する。また別の手段では、約1J/m
2で引き合う2つの理想表面間のファン・デル・ワールス力により、接着強度計算値約10
8Paが得られる。ファン・デル・ワールス結合は通常「弱い」と考えられているが、2つの表面間のこの種の引力は、コーティングに関する一般的な接着強度に比べると大きい。比較として、市販の引っ張り試験器を用いて測定した接着値の上限は、5×10
7〜7.0×10
7Pa程度であり、エポキシ樹脂接着剤の強度で制限される。興味深いことに、前記値は、本出願の発明者が行ったDFT計算に基づく計算値0.2J/m
2で十分に立証される。各CNT間の接触が高い引っ張り強度を担う場合、何層かのナノメッシュCNTフィルムとガラス等の基材との間の接着が界面領域又は基材内のどちらかで不良となる可能性がある。
図4は、1.7nmの半導体二層チューブの状態密度(density of states:DOS)を表す曲げ図である。
【0040】
ナノメータ―スケールでは、フィルムは、基材とほぼ平行に配向された非常に大きな縦横比(L/D≧100)の個々のチューブと束とで構成された多孔質のメッシュ様構造からなる。束化は、半導体チューブでは最も一般的であって、長距離の未検査のファン・デル・ワールス力によって生じる可能性があり、また、直径分布をもたらす。光学伝導度と同様にdc伝導度も、束から束への電荷移動のトンネル現象によって制限されるが、dc伝導度全体は、フィルム全体の伝導性パスの数並びに特定パス上の束間接合点の数及び平均接合点の抵抗に左右される。したがって、σ
dc/σ
opt比又はT
vis/R
s比は、フィルム形態を制御することに加えて、金属フィルムと半導体フィルムとの割合を高めることによって最適化され得る。実施形態例によって製造された非ドープCNT薄膜、ドープ済みCNT薄膜及びドープ済みCNT複合薄膜のT
vis対R
sを示す
図5のT
vis対R
s曲線における左側へのシフトは、半導体分画のドーピングで説明することができ、これにより、形態構造を変化しないという理由からネットワーク中の個々のチューブの伝導度が改善される。よって、ナノチューブ間の接合点の抵抗は、個々の半導体チューブの抵抗よりも大きいか又はそれとほぼ同程度であると推定され得る。
【0041】
透明導電性SWNTフィルムの厚さは100nm未満であり、これは可視域及び赤外域の光学波長よりもかなり短いので、前記フィルムのシート抵抗は、前記フィルムの透過率と関連している場合がある。
【数1】
前記式中、σ
optは光学伝導度であって、光周波数ωの関数として変化するものであり、σ
dcは直流伝導度であり、そしてZ
oは自由空間のインピーダンス300オームに等しい定数である。この式の合計平均から非ドープ導電性フィルム、ドープ済み導電性フィルム及びドープ済み導電性複合フィルムに関するスペクトル透過率測定データ(400nm〜800nm)に合致するT
vis対Rを求めた後、σ
dc/σ
opt基準値を計算してもよい。
【表1】
【0042】
このようにして、化学変化したフィルムでは、元のフィルムに比べて約6倍高い伝導度が観測される。PEDOT:PSS/PEG複合体が多孔質ネットワークを備えしかも正孔の流量について電流の流れに平行な経路を与えることから、複合フィルムのファクターは更に高くなる。複合フィルムの安定度が高いことは、初期基準値と湿度及びUV光に10日間曝露してエージングした基準値との比で表される安定度が高いことからも分かる。ドープ済みDWNT−PSC複合フィルム群についてこれまでに観測された最良の結果は、前記複合体によって緻密なネットワークがもたらされることから、吸収されたSOOH種の損失が低減するということで説明することができる。
【0043】
前記ドーピング法の代わりに又はそれに加えて、CNT薄膜は、例えばパラジウム及び/又は銀により合金化又は別の方法で金属化されてもよい。
図6は、一実施形態例によるパラジウム及び/又は銀での合金化方法例を表すフローチャートである。工程S61で、CNTインクベースコートを供給する。これは、特定の実施形態例では、スロットダイ法と関連してロッド寸法を5インチ又は10インチとすることで達成され得る。次に、工程S63で、被覆物品をPdCl
2溶液槽に入れる。PdCl
2は、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.03〜0.5重量%、さらに好ましくは0.05〜0.1重量%の濃度で供給される。この濃度は、5重量%濃度のPdCl
2を供給した後、選択された濃度まで希釈することで達成してもよい。その後、この溶液を、予め堆積したCNTフィルムにコーティングする。フィルムはある程度の空隙率を有する(最も薄いフィルムでは、一般に約65%以下)。Pdが孔に効率良く(無電極的に)供給されると、より多くの電子をナノチューブに送り込むように働き、その結果、5秒〜1分間、より好ましくは10秒〜30秒間曝露することで電気伝導度が向上する。
【0044】
パラジウムに加えて又はパラジウムの代わりに銀による合金化又は金属化も利用できる。これに関し、銀による合金化又は金属化が工程S65で好ましい場合、その後の工程S66では、被覆物品を銀溶液槽に浸漬する。この処理は、銀鏡試験で行われる酸化反応に類似している。この試験では、アルデヒドをトレンス試薬で処理する。前記トレンス試薬は、水酸化ナトリウム溶液を硝酸銀溶液に滴下して、酸化銀(I)を沈殿させることによって調製する。希釈するのに足るだけのアンモニア溶液を添加して沈殿をアンモニア水に再び溶解すると、[Ag(NH
3)
2]
+錯体が得られる。この試薬は、炭素−炭素二重結合を攻撃せずに、アルデヒドをカルボン酸に転化する。「銀鏡試験」という名前は、この反応が銀沈殿物を生成し、その銀沈殿物の有無がアルデヒドの有無を試験するのに使用され得ることに由来する。アルデヒドがエノラート(例えば、ベンズアルデヒド)を生成し得ない場合、強塩基を添加してカニッツァロ反応を誘導する。この反応により、不均化が生じて、アルコールとカルボン酸の混合物が生成される。
【0045】
工程S66でCNTが銀によって合金化されたか又は金属化されたかに関わらず、トップコートを、例えばパラジウム及び/又は銀で合金化又は金属化したCNTを含むCNTをベースとするフィルム上に供給してよい。このトップコートは、例えば上記に従って銀又はパラジウムを更に堆積したものであってもよい。すなわち、工程S67で第2のトップコートが望まれる場合は、それを工程S68で供給してもよい。図示されていない1つ以上の工程で、前記封止オーバーコート又はパッシベーション層を供給してもよい。特定の実施形態例では、薄膜、ポリマー、樹脂及び/又は他の層は、例えば前記方法を用いて適用されてもよい。
【0046】
以下に記載するパラジウム及び/又は銀による合金化方法並びに加工条件は、例示であることが分かるであろう。別の例では、PdCl
2開始溶液(10%HCl中5%)を選択された濃度(5%HCl中0.25%又は0.2%HCl中0.1%)まで脱イオン水で希釈した。硝酸銀(0.01g)を脱イオン水に溶解した(10mL)。0.1N水酸化ナトリウム23mLを溶液に撹拌しながら滴下することで、混濁した褐色の酸化銀沈殿物が生成した。沈殿物溶液に、溶液が透明になるまで5Nアンモニアを滴下した(約0.4mL)。これはトレンス試薬の生成を表している。黒色の銀コロイド分散体が十分に生成するまで、希釈液であるヴァルスパー(Valspar)製GMPMA2000を溶液に撹拌しながら滴下した(2〜10mL)。CNTコーティングの付いたガラスを標準的な方法で調製及び測定して、ソリューションロスを抑制するために(一例では、0.25m×0.25mに)切断して小さくした。ガラスをPdCl
2溶液槽に予め決めた時間(10〜30秒、ただし、それ以上の時間浸漬することも可能)浸漬してから、余剰溶液をブロー乾燥させた。より大きな試料はすすぎ処理してもよいことに留意する。ガラスを次に、銀めっき溶液に10秒以内浸漬してから、ブロー乾燥させた。試料の裏面を硝酸で洗浄して残渣を除去してから、試料全体をNPAですすぎ洗いしてブロー乾燥することで、試料前面に付いた残渣による筋状の跡を取り除いた。この過程は、湿式ミラーラインで行うと高い生産水準が得られる可能性があることが分かるであろう。よって、特定の実施形態例の一つの代表的な利点は、既存装置、例えばミラーラインを用いてナノワイヤーを製造する及び/又はCNTを金属化することが可能であることである。このような実施例では、CNTの堆積は、垂直スロットと合金化用のミラーラインを用いて行ってよい。このような場合、ミラーコーティングを作製する代わりに、反応を抑制して、Pd及びAgワイヤーだけを堆積させてもよい。
【0047】
図7は、実施形態例によって製造された様々な試料に関する、合金化前後の可視透過率及びシート抵抗を記した表である。表から分かるように、シート抵抗(オーム/平方で表示)は著しく低下するが、可視透過率は比較的変化しない。このことは、σ
dc/σ
opt比の著しい増大は、本明細書に記載の合金化方法例を用いるて達成され得ることを示唆している。
【0048】
上述の通り、金属製及び半導体製のチューブ(束)の間に形成された接合点は、本質的には電気遮断接点であり、概して電流フローを制限する。この問題を回避する一つの方法は、専ら金属ナノチューブから構成されたCNTインクを供給することであり、金属又は半金属となるように対掌性を制御する。残念なことに、現在は、このようなインクを工業規模で供給することはできない。
【0049】
本出願の発明者は、ユニダイム(Unidym)製の市販インクを用いて銀ナノワイヤー及び炭素ナノチューブから成る溶液堆積型複合フィルムを合成することにより、前記及び/又は他の問題を緩和できることを確かめた。銀ナノワイヤーは、長距離の電荷移動に応じ、しかも特定の電流路内の炭素ナノチューブ抵抗接合点の数を減少させる。一方、炭素ナノチューブの束を少なくすると、銀ナノワイヤーメッシュの多孔領域に電荷が収集されて、銀ナノワイヤーへ電荷が運搬される。フィルムは、純銀ナノワイヤーと同等のシート抵抗と透明度を示す。試験からは、銀がCNTメッシュによって環境劣化から保護されていることも分かる。
【0050】
具体的には、エチレングリコール中、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)の存在下で硝酸Agを還元することによってAgナノワイヤーを合成した。得られたAgナノワイヤーの長さは2〜5ミクロンであり、直径は17〜80nmであった。ナノワイヤー懸濁液を用いて透明電極を作製するために、100nm厚の事前パターニングしたAgフリット導体パッドの付いたガラス基材に大量のナノワイヤー懸濁液を投下し、それを撹拌器で撹拌しながら10分間風乾させた。得られたフィルムは、ワイヤーがそれほど束化しておらず、基材の全領域でほぼ均一な、Agナノワイヤーのランダムメッシュであった。
【0051】
高分解能TEM及びSEM顕微鏡写真を一組として撮影して、CNT及び銀ナノチューブのメッシュネットワークを精査した。さらに、原子間力顕微鏡(AFM)及びSTM測定も行うことで、炭素ナノチューブ束の薄膜における抵抗損失を調べた。本発明の譲受人が使用したAFMリソグラフィー法は、装置内の電流を一本の束又は単独接合点に制限することでEFM(電界マッピング)を可能にして、電流路に沿って電位対距離のマップを作製するものである。こうすることで、ナノチューブの束に沿って生じる抵抗降下と束の接合点で生じる抵抗降下とを測定することができる。予備データからは、束の抵抗約5〜9Ω/μm及び束の接合点の抵抗20〜40kΩ/μmが得られることが分かっている。これら初期値からは、束の接合点の抵抗が、文献に記載の個々のチューブの接合点の抵抗値(約1MΩ/μm)よりも小さいことが分かる。
【0052】
ガラス基材上の透明導電性酸化物(transparent conductive oxide:TCO)膜は、アナログ抵抗性タッチパネル、投影型容量方式タッチパネル及び表面容量方式タッチパネルを含む様々なタッチパネルに使用される。現在ではITOが、PET、ポリカーボネート又は薄いガラス基材のどれに堆積されているかにかかわらず、前記用途の大部分における主力コーティングである。残念なことに、湿式エッチング処理にかかる費用と手間が(特に、投影型容量方式タッチパネルのようにTCCのパターニングが必要な用途において)ITOの役割を制限している。CNTをベースとするコーティングは、シート抵抗が約120オーム/平方以下のときにT
visが86%を超えれば、ITOを補完する又はITOと完全に置き換えるチャンスがある。CNTをベースとするコーティングは曲面基材上で特に有利な可能性があり、スロット塗工機でコーティングを移動した後でコーティングにレーザ描画することも可能である。
【0053】
本出願人の譲受人は、局所接触によって指紋の採取が可能な電子機器を組み込んだ、新たな完全一体型容量方式センサーを開発している。例えば、出願番号12/318,912号を参照し、この内容を全て参照として本明細書に組み込む。0.7mmのガラス及びPET基材上のドープ済みCNTコーティングに、レーザアブレーションを用いて2組の直交する電極パターンを作製する。その後、基材を積層すると、パターニングされたCNT電極で作製したフリンジ効果キャパシタアレイが形成される。スマートカード用の薄いフレキシブル基板は、付属の実装電子部品を内蔵している。
【0054】
タッチパネルディスプレイは、ITO若しくは他の導電層を含む容量方式又は抵抗性タッチパネルディスプレイであってよい。例えば、米国特許第7,436,393号、同第7,372,510号、同第7,215,331号、同第6,204,897号、同第6,177,918号及び5,650,597号並びに出願番号12/292,406号を参照し、これらの開示内容を参照として本明細書に組み込む。ITO及び/又は他の導電層は、このようなタッチパネルではCNTをベースとする層と置き換えられてよい。例えば、
図8は、特定の実施形態例による、CNTをベースとする層を組み込んだタッチスクリーンの断面概略図である。
図8には、下部のディスプレイ802が含まれており、これは、特定の実施形態ではLCDディスプレイ、プラズマディスプレイ又は他のフラットパネルディスプレイであってよい。光学的に透明な接着剤804が、ディスプレイ802と薄いガラスシート806とを結合している。
図8の実施形態例では、変形可能なPET箔808が最上層として供給されている。PET箔808は、複数のピラースペーサー810及びエッジシール812によって、薄いガラス基材806の上面から離して配置されている。第1及び第2のCNTをベースとする層814及び816はそれぞれ、PET箔808の、ディスプレイ802に近い方の表面と、薄いガラス基材806の、PET箔808と対向している表面とに供給されてよい。CNTをベースとする層814及び816の一方又は両方は、例えばイオンビーム及び/又はレーザエッチングによってパターニングされていてもよい。
【0055】
図8に示すものと同様の実施形態では、CNTをベースとする層のシート抵抗は、約500オーム/平方未満が好ましく、またCNTをベースとする層のシート抵抗は、約300オーム/平方未満が有利である。
【0056】
ディスプレイ802に通常含まれるITOを、1層以上のCNTをベースとする層で置き換えてよいことが分かるであろう。例えば、ディスプレイ802がLCDディスプレイであれば、カラーフィルター基材上の共通電極として及び/又はいわゆるTFT基材上のパターニングされた電極としてCNTをベースとする層を供給してよい。ドープ済み又は非ドープのCNTをベースとする層は当然、個々のTFTの設計及び製造に関連して用いられてよい。また、同様の配置は、プラズマディスプレイ及び/又は他のフラットパネルディスプレイと関連して展開してもよい。
【0057】
前記方法のさらに別の種類では、CNT電極を、フロントガラスの表面4に(又は表面2及び表面3のそれぞれの間に)印刷する。ドライバー電子機器は、容量方式で連結されていても、又はピンによって直接接触していてもよく、それにより、CNTコーティングをベースとして励起電極、対極板及びシールド電極と組み合せた、フラクタルに基づく電界センサーシステムが製造される。例えば、出願番号12/453,755号を参照し、この内容を全て参照として本明細書に組み込む。このシステムは、1500mm
2のセンサー領域を獲得することができ、フロントガラスの表面に適合する。前記システムには、互いに重ねられかつ電気的に絶縁及び遮断された複数の分散アレイコンデンサ層が収容されている。このコンパクト設計では、フリップチップ光センサーを内蔵することで、車内に入ってくる夜間の視界と太陽光の輻射の両者における可視スペクトルとIRスペクトルの両方をモニターすることも可能である。例えば、米国特許第7,504,957号を参照し、この内容を全て参照として本明細書に組み込む。前記センサーは、消費電力(mW)を削減し、しかも高解像度(ミリメートル)、低遅延(ミリ秒)、高い更新率(1kHz)及び高いノイズ耐性(>70dB)をも有し得る。
【0058】
前記光センサー及びレインセンサーは、冷蔵庫/冷凍庫のドア用途にも利用され得る。容量方式センサーを供給してもよく、少なくとも1層のCNTをベースとする層を含んでいてもよい。水分又は凝縮が検出された場合は、活性溶液によって、CNTをベースとするライン又は層を選択的に加熱して結露を抑制してもよい。例えば、出願番号12/419,640号を参照し、この内容を全て参照として本明細書に組み込む。このような活性な結露防止用途では、CNTをベースとするライン又は層を用いてITO又は他のTCOと置き換えてもよい。このことは、CNTをベースとするライン又は層が電流により上手く耐え得るという点で特に有利な場合がある。というのも、CNTをベースとするライン又は層は、例えばTCO(例えば、ITOが挙げられる)ほど迅速に分解又は酸化しないためである。活性溶液の例は、例えば出願番号12/458,790号、米国特許第7,246,470号、同第6,268,594号、同第6,144,017号及び第5,852,284号、並びに公開番号2006/0059861号に開示されており、これらの内容を全て参照として本明細書に組み込む。
【0059】
曇り除去及び凍結防止に関する実施形態例は、シート抵抗が10オーム/平方のCNT含有フィルムを用いて製造した。このフィルム例は、銀コーティングとITOのどちらよりも優れている。例えば、約1000回の曇り除去サイクル後でも腐食が生じなかった。それに引き換え、ITOは、この回数のサイクルでは酸素を放出して変色し始め、また、純銀薄膜は腐食し始める。チップでの高電場は、「より鮮明に」又はより明確に作用すると考えられる。1平方メートル当たり10kW程度を12×12の試料に印加したが、この程度では性能は非常に良好であった。
【0060】
また、CNTをベースとする層を用いて導電性データライン/バス線、母線、アンテナ等を作製してもよい。このような構造はガラス基材、シリコンウェハ等に形成/適用され得る。同様に、CNTをベースとする層を用いて、例えば固体バルブ等を組み込んだガラス上にp−n接合点、整流装置、トランジスタ、電子機器を形成してもよい。
図9は、特定の実施形態例による導電性データ線/バス線の作製方法例を表すフローチャートである。工程S901で、CNTをベースとする層を好適な基材上に形成する。任意工程S903では、CNTをベースとする層の上に保護層を供給してよい。工程S905で、CNTをベースとする層を選択的に除去又はパターニングする。この除去又はパターニングはレーザエッチングで行ってよい。このような場合、レーザの分解能が十分に高ければ、保護層の必要性は軽減される可能性がある。あるいは又はさらに、イオンビーム/プラズマ処理に晒すことでエッチングを行ってもよい。さらには、例えば熱フィラメントと関連してH
*を使用してもよい。エッチングにイオンビーム/プラズマ処理を使用する場合、保護層が望まれる場合がある。例えば、フォトレジスト材料を用いて、重要なCNT領域を保護してもよい。このようなフォトレジストは、例えば工程S903でスピンコーティングする等によって適用されてよい。このような場合は、別の任意工程S907で任意の保護層を除去する。例えばUV露光を、適切なフォトレジストと併用してもよい。
【0061】
CNTをベースとする層は、適性水準のシート抵抗を付与できるのであれば、光起電装置、例えば半導体層及び/又は吸収層に使用されてもよい。CNTをベースとする層は、先に説明した通り、ドーピングされたp型又はn型である可能性があるので、このような場合には特に有利かもしれない。
【0062】
上述の通り、CNTをベースとするコーティングをOLEDディスプレイに関連して使用してもよい。一般的なOLEDは、2層の有機層、すなわち電子伝達層と正孔輸送層を含み、これらは2つの電極間に埋め込まれている。上部電極は通常、高反射率の金属ミラーである。下部電極は通常、ガラス基材で支持された透明導電層である。上部電極は一般に陰極であり、そして下部電極は一般に陽極である。ITOは、陽極に使用されることが多い。電極に電圧をかけると、電場の影響を受けて電荷が装置内を移動し始める。電子は陰極から放出され、また、正孔は陽極から逆方向へ移動する。前記電荷の再結合により、発光分子のLUMOの準位とHOMOの準位とのエネルギー差(E=hν)によって生じた振動数で光子が生成される。このことは、電極に加えた電力が光に変換されたことを表す。様々な物質及び/又はドーパントを用いて異なる色を発生させてもよく、これらの色を組み合わせと更に別の色が得られる。CNTをベースとするフィルムを用いて、通常は陽極に含まれているITOと置き換えてもよい。さらに、CNTをベースとするフィルムをホールド輸送層(hold−transporting layer)に関連して使用してもよい。
【0063】
図10は、CNTをベースとするコーティングを組み込んだ、一実施形態例のOLEDの断面図の例である。ガラス基材1002は透明陽極層1004を支持するものであってよく、透明陽極層1004はCNTをベースとする層であってよい。正孔輸送層1006もまた、適切なドーパントでドープ処理するのであればCNTをベースとする層であってよい。従来の電子伝達発光層及び陰極層1008及び1010を供給することも可能である。OLED装置に関する追加情報については、例えば米国特許第7,663,311号、同第7,663,312号、同第7,662,663号、同第7,659,661号、同第7,629,741号及び同第7,601,436号を参照し、これらの内容を全て参照として本明細書に組み込む。
【0064】
特定の実施形態例では、前記方法によって製造されたCNTをベースとするフィルムを、低放射率用途に関連して用いてもよい。例えば、CNTをベースとするフィルムを、モノリシックな絶縁ガラス(IG)窓に設けてもよい。前記CNTをベースとするフィルムは熱処理できるため、それを支持する基材は、その上のフィルムと合わせてアニールされても又は熱的に強化されてもよい。CNTをベースとするフィルムは存続可能なので、このような窓のどの表面に設けてもよい。当然、それらをオーバーコート又はパッシベーション層で封止することで、残存性及び環境への曝露を確実にするのに役立つ場合もあることも分かるであろう。
【0065】
CNTをベースとする層を1層以上使用してよい電子デバイスの別の例は、太陽光発電装置である。このようなデバイス例としては、前面電極又は背後電極を挙げることができる。このようなデバイスでは、CNTをベースとする層を、一般にその中に用いられているITOと単純に置き換えてもよい。光起電装置については、例えば米国特許第6,784,361号、同第6,288,325号、同第6,613,603号及び同第6, 123,824号、米国出願公開番号2008/0169021号、同2009/0032098号、同2008/0308147号及び同2009/0020157号、並びに出願番号12/285,374号、同12/285,890号及び同12/457,006号に開示されており、これらの内容を参照として本明細書に組み込む。光起電装置はまた、「シリコンウェハレイが形成された、吸収性の高いフレキシブル太陽電池(Highly Absorbing, Flexible Solar Cells With Silicon Wire Arrays Created)」、ScienceDaily、2010年2月17日にも開示されており、この内容は全て参照として本明細書に組み込まれるもにであり、また、このような装置にCNTをベースとする層を使用してもよい。
【0066】
あるいは又はさらに、ドープ済みのCNTをベースとする層は、隣接する半導体層と調和するように中に組み込まれてもよい。例えば、
図11は、CNTをベースとする層を組み込んだ、特定の実施形態例の太陽光発電装置の断面概略図である。
図11の実施形態例には、ガラス基材1102が供給されている。例であって限定されるものではないが、ガラス基材1102は、米国特許出願番号11/049,292号及び同11/122,218号に記載のいずれかのガラスであってよく、これらの開示内容を参照として本明細書に組み込む。ガラス基材は、例えば太陽電池の効率を高めるために、場合により表面ナノ構造化されていてもよい。例えば透過率を上げるために、反射防止(AR)コーティング1104をガラス基材1102の外面に設けてもよい。反射防止コーティング1104は、単層反射防止(SLAR)コーティング(例えば、酸化ケイ素反射防止コーティング)であってもよく、又は多層反射防止(MLAR)コーティングであってもよい。このようなARコーティングは、任意の好適な方法を用いて形成されてよい。
【0067】
例えば
図11の実施形態例に示すような背後電極装置の場合、1層以上の吸収層1106を、ARコーティング1104とは反対側のガラス基材1102に設けてもよい。吸収層1106は、第1半導体と第2半導体に挟持されていてよい。
図11の実施形態例では、吸収層1106は、n型半導体層1108(ガラス基材1102に近い方)とp型半導体層1110(ガラス基材1102から遠い方)の間に挟持されている。(例えば、アルミニウム又は他の好適な材料の)バック接点1112をさらに設けてもよい。半導体1108とガラス基材1102の間及び/又は半導体1110とバック接点1112との間に、ITO又は他の導電性材料を設けるよりもむしろ第1及び第2のCNTをベースとする層1114及び1116を設けてよい。CNTをベースとする層1114及び1116はそれぞれ、隣接する半導体層1108及び1110と調和するようにドーピング処理されてよい。したがって、
図11の実施形態例では、CNTをベースとする層1114はn型ドーパントでドーピングされてよく、また、CNTをベースとする層1116はp型ドーパントでドーピングされてよい。
【0068】
CNTをベースとする層を直接構造化するのが困難な場合があることから、ガラス基材1102と第1のCNTをベースとする層1114の間に任意の層1118を設けてもよい。ただし、CNTをベースとするフィルムは柔軟性があるため、一般には、配置された表面になじむと考えられる。その結果、任意の層1118を構造化すると、そのテクスチャーが一般にコンフォーマルなCNTをベースとする層1114に「転写」され得るか又は別の方法で反映され得る可能性がある。この観点から、構造化された任意の層1118が亜鉛ドープ済み酸化スズ(ZTO)を含む場合もある。特定の実施形態では、半導体1108及び1110のうち一方又は両方を導電性高分子材料で置き換えてもよいことに留意する。
【0069】
CNTが近赤外域及び中赤外域で高透過性であるということは、最も高透過性の長波長放射線の侵入を可能にし、そして単一接合及びタンデム接合型太陽電池の両者のi層の深い部分に電荷を生成させ得ることを示唆している。このことは、CNTをベースとする層を用いれば既に効率が数%程度向上しているので、バック接点を形成する必要がない可能性があることを示している。
【0070】
CdS/CdTe太陽電池のヘテロ接合では現在、スクリーン印刷法、蒸発法及び焼結法並びに高温でのCdCl
2処理が用いられている。前記電池は高い曲線因子を有している(FF>0.8)。一方、直列抵抗Rsは効率制限信号(efficiency limiting artifact)である。Rsには、CdS層のシート抵抗から分布する部分と、そのすぐ上のCdTe及びグラファイトベース接点に関連する別の成分とが存在する。CNTをベースとする層を1層以上使用することが、Rsへの両者の寄与を軽減するのを助長する場合がある。このようなソーラー構造物に前面接点とバック接点の両方を配置する場合にCNTをベースとする層を組み込むことで、効率が実質的に向上する可能性がある。
【0071】
特定の実施形態例は単一接合型太陽電池を対象してよいが、特定の実施形態例はタンデム型太陽電池も対象としてよいことが分かるであろう。特定の実施形態例は、CdS太陽電池、CdTe太陽電池、CIS/CIGS太陽電池、アモルファスSi及び/又は他の種類の太陽電池であってよい。
【0072】
ドープ済みCNTをPd及び銀ナノワイヤーとともに組み込んだ特定の実施形態例は、10オーム/平方のシート抵抗を平均して約30%の分散で達成することができる。このコーティング例は、例えばソーラー用途(例としては、TCC等)に即有望な応用性を有している。表面粗さRMSは約10nmだが、他の場所で示したように、コーティングはどのような方法で平坦化されてもよい。この低シート抵抗のコーティングに関する他の有望な応用性には、超コンデンサ、例えば電荷貯蔵用のものも含まれる。前記インクは当然、平坦であっても又は曲面であってもよい多種多様な基材(例えば、ガラス、プラスチック、ポリマー、シリコンウェハ等)に印刷できるので、多くの異なる用途(may different applications)が考えられる。実際、CNTをベースとするコーティングは、特にZnO層(又はインク若しくは基材のZnOドーピング)に関連して配置される場合に、有望な抗菌性コーティングとして使用される可能性がある。このような有望な抗菌性は、本明細書に記載の冷蔵庫/冷凍庫のドア及び/又は他の用途に関して有利な場合がある。
【0073】
他の部分に示したように、CNTをベースとするコーティングは、例えば車両のフロントガラスのような曲面をコーティングするのに適している。この材料は、曲げが最大のライオン(reion)が薄くなりにくい。また、パターンをインクでスクリーン印刷することで、例えば銀フリットと置き換えてもよい。考えられる一例は、アンテナ 母線、曇り除去/凍結防止用途等である。
【0074】
特定の実施形態例は、さらに、エレクトロクロミック用途に関して使用してもよい。例えば、米国特許第7,547,658号、同第7.545,551号、同第7,525,714号、同第7,511,872号、同第7,450,294号、同第7,411,716号、同第7,375,871号及び同第7,190,506号、並びに出願公開番号61/237,580号を参照し、これらの内容を全て参照として本明細書に組み込む。CNTをベースとするフィルムは、ITOが経時的に分解し易い場合及び/又はそれ以外にITOがCNTをベースとするフィルムほど十分に機能しない場合に、ITOと置き換えることが可能である。
【0075】
ここで、前記モデルについて詳述する。前記モデルは、フィルム形態を理解しかつ制御することでσ
dc/σ
opt比を最適化することが可能であるという発明者の認識に依るものである。具体的には、上記観点から、CNTをベースとするコーティングの性能はネットワークと結びついており、また、ネットワークは、束の平均寸法<D>、束の平均長さ<L>、曲線因子φ、相互接続密度ni、個々のナノチューブの品質であるG/D比そしてNTの長さと関係があることが分かるであろう。これらを認めることで、本出願の発明者は、前記電流を生じさせかつ実験データの検証によってネットワークの予測が可能な現象学的モデルを導き出した。厚さは、システムが、どの検証フィルムにおいても浸透限界を上回る程度であると考えられる。
【0076】
特徴的な長さスケール又は尺度は、電気特性を精査する部分全体と規定する。そこで、スケールLcは、接合点間の平均距離とみなすことができる。長さスケールがLp<Lcであることを調べる場合、単一又は束状NTの個々の電動度がネットワークの電気特性で最も重要である。Lp>Lcという別の極値では、長さスケールは接合点数個分に及ぶ。接合密度が高いほど平行経路の選択肢は増加するので、制限因子、つまり平均接触抵抗は軽減し、それに応じて電気特性も減衰する。しかし、この単純な概念は、チューブの電気伝導度が等しい場合に及びその場合に限って通用する。したがって、フィルム伝導度は、チューブの対掌性、黒鉛化、ドーパント濃度及びチューブの長さによって決まる個々のチューブ電動度σ
NTで調節される。
【0077】
したがって、大きなスケールや
【数2】
で表されるスケールを超える場合、前記チューブ電動度σ
NTは、一般式として、σ
f=f(σ
NT)
*n
jで表すことができる。
【0078】
また、n
j=n
b*<c>と表すこともでき、ここで、n
bはNT束の密度であって、
【数3】
と表される。前記式中、Lは束又はチューブの平均長さであって、通常2〜3ミクロンであり、<d
2>は、チューブ束の平均二乗直径であって、チューブ剥離の程度に応じて2〜20μmであってよい。FFは、フィルムの曲線因子であって、ρ
f/ρ
NTに等しく、浮遊法又はフィルムの吸収係数(数4)から推定することができる。
【数4】
【0079】
<c>は、チューブあたりに形成される接合点の平均半数(mean half−number)であって、次の前提とオンサーガー(Onsager)と同様の論法にを用いて評価することで(c)を推測してよい。
・平均場近似、ただし、ナノチューブの数密度は平均数密度である。
・平均束D/L<<1
・接点には相関関係がない(全体的にランダムである)。
【0080】
ランダムに配列した、縦横比の大きな長いロッド又はひもの集合(平均数密度<ρ>)について検討する。試験粒子はP及び隣接物はNであり、これらの中心はベクトルrで結合されていると仮定する。自由空間では、Nだけが任意の配列を選択することができる。ただし、粒子Pの存在下では、予想される配列の割合f
ex(r
b)が見込まれる。この排除割合は、ランダムな配列を考えた場合、中心をr
bとした場合にNがPと接触する確率でもある。この仮定によれば、次の式(i)で表わされる:
【数5】
前記式中、<ρ
n>は平均ナノチューブ(束)数密度であり、そしてV
exは、チューブが柔軟なものであるという追加の仮定によって表される平均排除体積である。柔軟なコアの相互間貫入可能なシリンダーの排除堆積は次の通りである。
【数6】
【0081】
各束の平均体積は、
【数7】
と表され、前記式(i)〜(iii)から、特定のメッシュの曲線因子φを用いて束当たりの平均接点数を表すと次のようになる。
【数8】
【0082】
したがって、平均束密度n
jは次のように表される。
【数9】
【0083】
上記式から、n
jは次のように近似できることが分かる。
【数10】
【0084】
その結果、フィルムの伝導度は、チューブの長さの平均平方と前記平均の二乗との比で決まる。この比は、基本的に、長さ分布と前記平均の二乗との差である。さらに、前記解析は、有望な用途にフィルムネットワークを堆積させる場合には束の長さと直径の統計的分布を考慮することが重要であることも強調している。
【0085】
個々のチューブ又は束の抵抗が大半を占め、接合点の抵抗よりも極めて小さいLp>>Lcというスケールでは、フィルムのシート抵抗Rは次のように表すことができる。
【数11】
ここで、σ
f=knj/Rjにより、フィルム厚が
【数12】
である場合、厚さtのフィルムのシート抵抗は、透過率の関数として次の式で表される。
【数13】
【0086】
αは、有効媒質近似と曲線因子φとの比であり、定数を全てまとめて新たな定数k"とする。(差分Dが非常に小さい(実際に本明細書の場合のように)と仮定して)前記式を組み合わせると、次の式が得られる。
【数14】
これは、T'=1−A/Rと表すこともできる。曲線因子は大きいほど、実際の様々なフィルム密度の関数として、得られた曲線を説明するのに役立つ。曲線因子φは空隙率と、φ=1−Pという関係にある。
【0087】
符号Aは、T対R曲線の特性を制御する因子である。後者の解析は、ドーピング処理を行うと曲線が左側へシフトする(例えば、
図5)理由を考えるのに役立つ可能性がある。L及びDといったパラメータはいずれも、曲線因子と同様に固定する。Rjも影響を受ける。というのも、半導体チューブのドーピングが接合点の抵抗を下げるように作用するためである。ある時点では、ドーピング効果が飽和し、接合点の数密度が固定されて、ドーピング効率も飽和状態となると推量される。
【0088】
差分がゼロであり、しかもチューブの長さが全て等しい場合、長さへの依存性はほとんど現れないと考えられる。その結果、Aは、πD
3Rj/(4k"φ)と等しくなる。ただし、これは、ネットワーク形態の特徴及びインクそれぞれのCNTの統計データから明白なため、実際には当てはまらない。
【0089】
現時点では、NT伝導度の長さ依存性は考慮する必要がある。これは、電荷移動の平均自由行程が極めて大きいことが原因であり、SWCNTでは通常、約1μmである。密度汎関数法に基づく計算からは、DWNTの場合、この長さしきい値は約1μm超である(1〜10μm)と推量される。各DWCNTを1μmよりも短くすると、その全体的な抵抗はそれ以上増加しない。よって、導電性は、数ナノメートルという短い長さでは急に低下する。1μm超のDWCNTは銅よりも約一桁分高い抵抗を有し、また、長さ100nmのSWCNTの抵抗はWを上回る。DWCNTでは、平均自由行程は計算上、1μm超、一般的に約5μmである。上記の事実から、個々のチューブの伝導度の一次近似は、テイラー展開通り、チューブの長さの関数として次のように表すことができる。
【数15】
【0090】
ここで、式(viii)の結果を考慮すると、Rは(LとDの差分がゼロの範囲では)本質的に、個々のチューブの電気伝導度を空間Lp∧3内で平行なチューブの数で割った値によって決まる。Rは、チューブの長さの逆数で表すことができる。ここで、Aは、πD
3Rj/(4k"φ)
*1/σ
NTに相当する。その結果、チューブの長さ及びチューブの最高伝導度σ
NTDが、特にL<Lpのスケールにおいて、ネットワークの伝導率をどのようにして調節するかが分かる。上述の通りドーピング効果は飽和するので、その事実を利用して、フィルムが特定の空隙率を有しており、ナノ金属粒子で核を形成し、その核の作用がキャリアに平行経路を与えて接合点でチューブからチューブまでトンネル効果を生じさせるということを予測することができる。最後に、チューブの並置効果を処理し、因子<sinθ>で符号化する。この因子は、チューブの配列に左右される。平均値を計算するために、確率密度関数を積分して配向角P
θ*sinθを求める。出力は余弦関数なので、チューブが導電チャネルに沿って好ましい方向に配列するのであれば、この因子は長さ効果の方を増幅する。一様な角度分布では、伝導又は異方性の採択は期待できない。
【0091】
このモデルは、σ
dc/σ
opt比を考える場合、チューブの種類(金属であるか又は半導体であるか)が重要であることを示している。したがって、ある部分的な解決法は、CNTをベースとするフィルムをドーピングすることである。前記モデルはまた、接合点の抵抗が結局は最も重要なので、最終的にはドーピングで作業を停止することも示唆している。この課題は、合金化又は金属化する或いはPEDOT等での化学的な官能化することで前記接合点を短絡させることによって解決する場合がある。最終的に前記モデルからは、CNTをベースとするフィルムには次の特徴が望まれていることが分かる:チューブ径が小さいこと、チューブが長いこと、長さが様々であること、及び直径変動が小さいこと。
【0092】
図12及び13により、本明細書に記載の特定の方法例を簡潔に説明する。具体的には、
図12は、一実施形態例によりCNTをベースとするインクを適用して化学的に官能化するための具体的な方法を表すフローチャートである。工程S1201で、CNT含有インクを供給する。CNT含有インクは、例えば平均直径が約1.7nmの二層ナノチューブを含む又は本質的にそれから成るものであってよい。工程S1203では、例えば界面活性剤及び/又はコーティング助剤をCNT含有インクに添加することによってCNT含有インクのレオロジー特性を調整してもよく、そうすることで、インク内に含まれている半導体CNTが凝集又は凝固しないようにする。言い換えれば、CNT含有インクを、むしろ水に近いものにしてもよい。特定の実施形態例では、インクは水溶性であってよい。本発明の別の実施形態例では、有機及び/若しくは無機添加物並びに/又は溶媒を必要としない場合もある。特定の実施形態例では、インクを作製して脱イオン水に単に溶解してよいが、ある実施形態例では、アルコールを加えて(例えば水分蒸発を促進して)もよい。場合により、図には示していない工程で、Agナノワイヤーをインクに混入してもよい。工程S1205では、調節したレオロジー特性を有するインクを基材に適用して中間コーティングを形成してよい。スロットダイ装置を用いてこの応用を遂行してもよい。工程S1207で、中間コーティングを乾燥させる又は乾燥させておく。工程S1209では、中間コーティング上に、基材との接着性を高めるための材料(例えば、オーバーコート又はパッシベーション層)を供給する。この材料には、例えば、PVP、PEDOT:PSS、PEDOT:PSS−PEG複合体、ジルコニア、シリコン含有薄膜、ポリマー又は樹脂等を含むことができる。工程S1211では、塩及び/又は超酸を用いて中間コーティングをドーピング処理することで、CNT含有薄膜を形成する際に中間コーティングを化学的に官能化する。特定の実施形態例では、ドーピングは、PVPの供給とほぼ同時に行ってよい。特定の実施形態例では、超酸はH
2SO
4であり、またある実施形態例では、塩はジアゾニウム塩である(例えば、BDF又はOA等)。チューブは、ドーピングしてp型又はn型にすることができる。工程S1213では、例えば中間コーティング上に供給した材料又は別の導電層若しくは非導電性(だが、薄い)層を用いて、フィルムを実質上平坦化してよい。場合により、基材の近くで酸素又はオゾンを放電させて、そこに存在する炭素を酸化することによって中間コーティング及び/又はCNT含有フィルムを官能化してもよい。場合により、図には示していない1つ以上の工程で、エチレングリコール(及び/又はPVP)の存在下で硝酸銀を還元することによって銀ナノワイヤーを合成してもよい。特定の実施形態例では、銀ナノワイヤーは、長さ2〜5ミクロン及び直径17〜80nmであってよい。合成された銀ナノワイヤー懸濁液をガラス基材に投下した後、CNTをベースとするインクを適用してもよい。これに関し、
図14は、一実施形態例で製造された銀ナノワイヤーの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【0093】
図13は、一実施形態例によりCNTをベースとするインクを適用して合金化する及び/又は化学的に官能化するための具体的な方法を表すフローチャートである。工程S1301で、CNT含有インクを供給する。CNT含有インクは、二層ナノチューブを含む又は本質的にそれから成るものであってよい。工程S1303で、例えば界面活性剤をCNT含有インクに添加することによってCNT含有インクのレオロジー特性の調整を加減してよく、そうすることで、インク内に含まれている半導体CNTが凝集しないようにする及び/又はインクをむしろ水に近いものにする。工程1305で、インクを基材に適用して(例えばスロットダイ装置を用いて)中間コーティングを形成する。工程S1307で、中間コーティングを乾燥させる又は乾燥させておく。工程S1309で、中間コーティング上に基材との接着性を高めるための材料(例えば、PVP)を供給する。場合により、工程S1311では、中間コーティングをドーピング処理することで、CNT含有薄膜を形成する際に中間コーティングを化学的に官能化する。ドーピング方法例は先に詳述している。工程1313で、PdCl
2溶液を供給して、このPdCl
2溶液に中間コーティングを曝露させる。Pdは中間コーティング内の接合点で核を形成し、その結果、CNT含有薄膜を形成する際に中間コーティングの空隙率を低減する。これより、結果としてシート抵抗は低下するが、可視透過率は比較的変化がない。工程1315では、銀めっき溶液を供給し、この銀めっき溶液に中間コーティングを暴露することで、例えば中間コーティング内の接合点を短絡させる。中間コーティングは、PdCl
2溶液に曝露してから銀めっき溶液に暴露してもよい。銀めっき溶液は、硝酸銀を脱イオン水に溶解することで調製され得る。工程S1317では、前記曝露工程の後で、中間コーティング上にオーバーコート又はパッシベーション層(例えば、PEDOT:PSS、ジルコニア、シリコン系薄膜、ポリマー及び/又は樹脂等を含む)を設ける。工程1319では、CNT含有フィルムを実質上平坦化することで、表面粗さを軽減してよい。この平坦化は、オーバーコート又はパッシベーション層によって、或いは追加の層を堆積することによって行われてよい。
【0094】
本明細書で使用するとき、用語「の上に」及び「で支持された」等は、特に明記している場合を除き、2つの構成要素が互いに直接隣り合っていないことを表すものと解釈すべきである。つまり、1層以上の層が間に存在していても、第1の層が第2の層「の上に」又は第2の層「で支持されている」ということができる。
【0095】
本発明は、現在、最も有用で好ましい実施形態であると考えられているものに関して説明してきたが、本発明は、開示した実施形態に限定されるものではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲の主旨及び範囲に含まれる様々な変更及び同価値の構造をも網羅するものと理解されるべきである。