特許第5936214号(P5936214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長岡香料株式会社の特許一覧

特許5936214レトルト臭マスキング用香料組成物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5936214
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】レトルト臭マスキング用香料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20160609BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20160609BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20160609BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A23L1/22 Z
   A23L1/39
   A23L1/48
   A23L3/00 101C
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-116037(P2015-116037)
(22)【出願日】2015年6月8日
【審査請求日】2015年6月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591016839
【氏名又は名称】長岡香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(72)【発明者】
【氏名】赤井 則博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章生
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅弘
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−092209(JP,A)
【文献】 特開平05−049433(JP,A)
【文献】 特開2002−300868(JP,A)
【文献】 特開2002−320453(JP,A)
【文献】 特開2010−142124(JP,A)
【文献】 特開平09−187231(JP,A)
【文献】 特開昭53−041463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 3/00
A23L 23/00
A23L 35/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種を溶融する工程と、
溶融した成分(A)に、(B)デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、加工デンプン、糖アルコール、トレハロース、天然ガムおよびアラビアガムからなる群より選択される少なくとも1種の粉末基剤および(C)香料成分を添加して混合物を得る工程と、
混合物を固化させて粉砕する工程
を含み
成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれることを特徴とするレトルト臭マスキング用香料組成物の製造方法
【請求項2】
前記成分(A)が、菜種極度硬化油およびパーム極度硬化油の少なくとも一方である請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種を溶融する工程と、
溶融した成分(A)に、(B)デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、加工デンプン、糖アルコール、トレハロース、天然ガムおよびアラビアガムからなる群より選択される少なくとも1種の粉末基剤および(C)香料成分を添加して混合物を得る工程と、
混合物を固化させて粉砕し、混合物の粉砕物を得る工程と、
混合物の粉砕物とレトルト用の食品とを混合する工程と、
を含み、
成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれることを特徴とするレトルト食品の製造方法
【請求項4】
前記レトルト用の食品と前記混合物の粉砕物とが、90:10〜99.99:0.01の質量比で含まれる請求項3に記載のレトルト食品の製造方法
【請求項5】
前記成分(C)が、前記レトルト用の食品またはレトルト用の食品に含まれる食材の香味を有する香料成分である請求項3または4に記載のレトルト食品の製造方法。
【請求項6】
(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種を溶融する工程と、
溶融した成分(A)に、(B)デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、加工デンプン、糖アルコール、トレハロース、天然ガムおよびアラビアガムからなる群より選択される少なくとも1種の粉末基剤および(C)香料成分を添加して混合物を得る工程と、
混合物を固化させて粉砕し、混合物の粉砕物を得る工程と、
混合物の粉砕物とレトルト用の食品とを、加圧加熱殺菌用容器に入れて密閉する工程と、
密閉された加圧加熱殺菌用容器をレトルト処理に供する工程と、
を含み、
成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれることを特徴とするレトルト臭のマスキング方法。
【請求項7】
前記成分(C)が、前記レトルト用の食品またはレトルト用の食品に含まれる食材の香味を有する香料成分である請求項6に記載のレトルト臭のマスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、レトルト食品を製造する際に発生する不快なレトルト臭をマスキングし、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感を付与することができるレトルト臭マスキング用香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品は簡便に喫食することができ、保存性にも優れた食品であることから、近年では種々のレトルト食品が市販されている。レトルト食品とは、レトルトパウチなどの加圧加熱殺菌用容器で密封され、加圧加熱殺菌処理された食品のことをいう。レトルト食品の製造過程において、加熱殺菌など高温高圧条件下で処理する工程が存在する。このような処理を行う際に、例えば肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)、水産物類(サケ、タラ、イカ、タコ、ホタテ、カニ、エビなど)、野菜類(ニンジン、ダイコン、ジャガイモ、タマネギなど)などの食材から、不快な臭気(レトルト臭)が発生しやすい。
【0003】
このようなレトルト臭を改善する方法が種々検討されている。例えば、特許文献1には、レトルト食品に所定の果汁を配合する方法が記載され、特許文献2には、風味油を添加する方法が記載され、特許文献3には、クロロゲン酸、カフェー酸およびフェルラ酸の少なくとも1種を配合する方法が記載されている。しかし、特許文献1および2に記載の方法では、レトルト臭はマスキングされるものの、得られるレトルト食品を喫食した際に、果汁由来の呈味や風味油由来の風味を感じさせる、すなわちレトルト食品本来の呈味を変性するという問題がある。一方、特許文献3に記載の方法では、レトルト臭が抑制されるものの、レトルト食品自体の風味が乏しくなり、味抜けが生じてコクや旨味が弱くなるという問題がある。
【0004】
ところで、市販されている一般的な飲食品には、香料が含まれていることがある。香料は、香りの強化(着香)、補香(賦香)、風味矯正(マスキング)などの目的で使用されている。しかし、香料成分と食用油脂やトリアセチンなどの液状物とを混合して得られる一般的な液体香料では、レトルト臭を十分にマスキングすることはできない。一方、アラビアガムやデキストリンを用いて香料成分をO/W乳化し、噴霧乾燥機を用いて製剤化した従来の粉末香料は(例えば、特許文献4)、香料成分が包摂されていることから一般的に耐熱性を有している。しかし、特許文献4に記載のように、噴霧乾燥して得られる香料粉末は、香気の少なくとも一部が熱によって喪失し、その結果、十分なマスキング効果が発揮されないという問題がある。
【0005】
レトルト臭をマスキングする香料として、特許文献5には、酵母マイクロカプセル化香料が記載されている。しかし、特許文献5に記載の香料は酵母の菌体内に香料が内包されているため、喫食当初の香味発現が弱く、十分なマスキング効果が発揮されず、食品に風味を付与するという効果にも乏しい。さらに、酵母の菌体内に香料内包させる工程が煩雑であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−192528号公報
【特許文献2】特開平6−339364号公報
【特許文献3】特開2000−308477号公報
【特許文献4】特開昭60−92209号公報
【特許文献5】特開2009−268395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、レトルト食品を製造する際に発生する不快なレトルト臭をマスキングし、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感を付与することができるレトルト臭マスキング用香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種と、(B)粉末基剤と、(C)香料成分とを含み、粉末状に粉砕された香料組成物であり、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれることを特徴とするレトルト臭マスキング用香料組成物。
(2)成分(A)が、菜種極度硬化油およびパーム極度硬化油の少なくとも一方である上記(1)に記載の組成物。
(3)成分(C)が、添加されるレトルト用の食品またはレトルト用の食品に含まれる食材の香味を有する香料成分である上記(1)または(2)に記載の組成物
(4)(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種を溶融する工程と;溶融した成分(A)に、(B)粉末基剤および(C)香料成分を添加して混合物を得る工程と;混合物を固化させて粉砕する工程とを含み、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれることを特徴とするレトルト臭マスキング用香料組成物の製造方法。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のレトルト臭マスキング用香料組成物とレトルト用の食品とを含むレトルト食品。
(6)レトルト用の食品とレトルト臭マスキング用香料組成物とが、90:10〜99.99:0.01の質量比で含まれる上記(5)に記載のレトルト食品。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のレトルト臭マスキング用香料組成物とレトルト用の食品とを、加圧加熱殺菌用容器に入れて密閉する工程と;密閉された加圧加熱殺菌用容器をレトルト処理に供する工程とを含むレトルト臭のマスキング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレトルト臭マスキング用香料組成物によれば、レトルト食品を製造する際に発生する不快なレトルト臭をマスキングし、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のレトルト臭マスキング用香料組成物(以下、単に「香料組成物」と記載する場合がある)は、(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種(成分(A))と、(B)粉末基剤(成分(B))と、(C)香料成分(成分(C))とを含む香料組成物であって、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれる。
【0011】
本発明に用いられる成分(A)は、50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種であれば、特に限定されない。50℃未満の融点を有する硬化油脂および50℃未満の融点を有するワックスを用いると、冷却しても固化しにくくペースト状やシャーベット状のような湿潤状態となり、粉末状の組成物が得られない。成分(A)としては、50℃以上の融点を有する硬化油脂を単独で用いるか、または50℃以上の融点を有する硬化油脂と50℃以上の融点を有するワックスとの混合物を用いるのが好ましい。さらに、成分(A)の中でも55℃以上の融点を有する硬化油脂および55℃以上の融点を有するワックスの少なくとも1種が好ましい。
【0012】
50℃以上の融点を有する硬化油脂としては、例えば、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、米極度硬化油、豚脂極度硬化油、牛脂硬化油、牛脂極度硬化油などが挙げられる。これらの中でも、臭気が少ない点で、菜種極度硬化油およびパーム極度硬化油が好ましい。50℃以上の融点を有する硬化油脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
50℃以上の融点を有するワックスとしては、例えば、カルナウバロウ、コメヌカロウ、カンデリラロウ、ミツロウ、サトウキビロウ、モクロウなどが挙げられる。これらの中でも、臭気が少ない点で、カルナウバロウが好ましい。50℃以上の融点を有するワックスは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
成分(A)は、成分(A)と後述の成分(B)と後述の成分(C)との合計量を100質量%としたときに、30〜70質量%の割合で含まれる。成分(A)の含有量が30質量%未満の場合、各成分を均一に混合することが困難となり、均質な組成物が得られない。その結果、マスキング効果などが発揮されにくくなる。一方、成分(A)の含有量が70質量%を超える場合、粉砕してもシュレッド状でしっとりした物性となり、粉末化が困難となる。さらに、このような状態ではハンドリング性(使い勝手)が悪い、しっとりした物性のため粉末化しても粉末同士が凝集するなどの問題点もある。成分(A)は、成分(A)と後述の成分(B)と後述の成分(C)との合計量を100質量%としたときに、好ましくは40〜60質量%の割合で含まれる。
【0015】
本発明に用いられる成分(B)は、食品または食品添加物として許容されている粉末基剤であれば、特に限定されない。成分(B)としては、例えば、デキストリン、シクロデキストリン、小麦粉、デンプン(片栗粉、葛粉、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、コーンスターチなど)、加工デンプン、米粉、糖アルコール(キシリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、エリスリトールなど)、トレハロース、天然ガム、アラビアガム、乳糖、脱脂粉乳、全脂粉乳、ホエイパウダーなどが挙げられる。
【0016】
成分(B)は、成分(A)と成分(B)と後述の成分(C)との合計量を100質量%としたときに、29.9〜55質量%の割合で含まれる。成分(B)の含有量が29.9質量%未満の場合、得られる組成物がしっとりしているため凝集しやすく、粉末状態にするのが困難である。一方、成分(B)の含有量が55質量%を超える場合、他の成分と均一に混合するのが困難になる。成分(B)は、成分(A)と成分(B)と後述の成分(C)との合計量を100質量%としたときに、好ましくは40〜50質量%の割合で含まれる。
【0017】
本発明に用いられる成分(C)は、食品添加物として許容されている香料成分であれば、特に限定されない。成分(C)は、油溶性の香料成分でも水溶性の香料成分でもよいが、水溶性の香料成分を用いる場合は、W/O乳化処理を施してから用いるのが好ましい。
【0018】
成分(C)としては、例えば、天然香料(単離香料、各種天然精油、エキストラクト、オレオレジンなど)、合成香料成分、および2種以上の香料成分を調合した調合香料が挙げられる。より具体的には、ビーフフレーバー、親子丼フレーバー、牛丼フレーバー、チキンフレーバー、ポークフレーバー、中華丼フレーバー、麻婆豆腐フレーバー、ミートソースフレーバー、カルボナーラフレーバー、ホワイトソースフレーバー、照り焼きフレーバー、焼き鳥フレーバー、焼き肉フレーバー、ベーコンフレーバー、スパイスフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、チーズフレーバー、生クリームフレーバー、ハチミツフレーバー、メープルフレーバー、タマゴフレーバー、マヨネーズフレーバー、トマトフレーバー、パンプキンフレーバー、オニオンフレーバー、コンソメフレーバー、コーンフレーバー、エビフレーバー、カニフレーバー、醤油フレーバー、ごま油フレーバー、ワインフレーバー、ラムフレーバー、ローストフレーバーなどが挙げられる。
【0019】
成分(C)は、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、0.1〜30質量%の割合で含まれる。成分(C)の含有量が30質量%を超える場合、成分(A)と成分(B)と成分(C)とを混合して冷却しても固化されずに、ペースト状やシャーベット状のような湿潤状態となり、粉末状の組成物が得られない。成分(C)は、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、好ましくは1〜20質量%の割合で含まれる。
【0020】
本発明の香料組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、食品や食品添加物として許容される他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、各種ミネラル、ビタミン類、酸化防止剤、保存料、着色料、甘味料、調味料、苦味料、スパイス、ハーブ、シーズニングパウダーなどが挙げられる。これらの添加剤は、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の割合で添加される。
【0021】
次に、本発明のレトルト臭マスキング用香料組成物を製造する方法について説明する。まず、成分(A)を加温して溶融させ、そこに成分(B)および成分(C)を添加し、必要に応じて他の添加剤を添加して、均一になるように、撹拌混合する。混合後、得られた混合物が固化する温度で冷却する。通常、室温下で冷却すれば固化するが、室温以下(例えば、冷蔵庫、冷凍庫など)で冷却してもよい。
【0022】
固化した混合物を粉砕して香料組成物を調製する。粉砕は任意の方法で行われ、例えば、ハンマーミル、ボールミル、ローラーミル、ジェットミル、凍結粉砕機などの粉砕機を用いて行われる。粉砕機の具体例としては、(株)昭和化学機械工作所製のパワーミル、(株)菊水製作所製のオシレータ式整粒機などが挙げられる。このようにして得られた香料組成物は、通常、1μm〜10mm、好ましくは10μm〜2mm、より好ましくは30〜500μmの平均粒子径を有する。なお、本明細書においては、粒子径が粉末よりも大きな「顆粒」も、「粒子」に包含される。
【0023】
次に、本発明のレトルト臭マスキング用香料組成物の使用方法について説明する。レトルト用の食品と本発明の香料組成物とを加圧加熱殺菌用容器に入れて、密閉する。加圧加熱殺菌用容器としては、例えば、レトルトパウチ、トレー状などの成形容器、缶、ビンなどが挙げられる。レトルト用の食品と本発明の香料組成物とは予め混合して加圧加熱殺菌用容器に入れてもよく、レトルト用の食品と本発明の香料組成物とを加圧加熱殺菌用容器の中で混合してもよい。
【0024】
レトルト用の食品と香料組成物との混合割合は、食品の種類によって適宜設定されるが、レトルト用の食品と香料組成物とは、90:10〜99.99:0.01、好ましくは95:5〜99.9:0.1の質量比で混合される。レトルト用の食品は特に限定されず、カレー、シチュー、スープ、親子丼や牛丼などの丼の素、パスタソース、粥、雑炊、ハンバーグ、ミートボール、ソーセージ、サバの味噌煮、ウナギの蒲焼、混ぜごはんの素、麻婆豆腐、酢豚、焼き肉、焼き鳥などが挙げられる。
【0025】
香料組成物は、レトルト用の食品に合ったものを使用するのが好ましい。すなわち、香料組成物に含まれる香料成分が、添加されるレトルト用の食品またはレトルト用の食品に含まれる食材の香味を有する香料成分であることが好ましい。例えば、親子丼に添加することを目的とした香料組成物であれば、組成物に含まれる香料成分としては、親子丼フレーバー、チキンフレーバー、タマゴフレーバー、オニオンフレーバーなどが好ましい。牛丼であれば、牛丼フレーバー、ビーフフレーバー、オニオンフレーバーなどが好ましい。カレーであれば、カレーフレーバー、ビーフフレーバー、ポークフレーバー、オニオンフレーバーなどが好ましい。
【0026】
レトルト用の食品と本発明の香料組成物とを入れた加圧加熱殺菌用容器は、一般的なレトルト処理(120℃で4分以上加熱)に供され、レトルト食品が得られる。このようにして得られたレトルト食品は、不快なレトルト臭がマスキングされており、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感が付与される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
530gの菜種極度硬化油(融点67℃、横関油脂工業(株)製)を容器に入れ、80℃で加熱して完全に溶融させた。次に、70gの香料(ビーフフレーバー、長岡香料(株)製)および400gのデキストリン(松谷化学工業(株)製の「パインデックス#2」)を、溶融させた菜種極度硬化油に添加して、80℃で均一に撹拌して混合物を得た。得られた混合物を室温下で静置して固化させた後、パワーミル((株)昭和化学機械工作所製、P−3型)を用いて粉砕し、篩(12メッシュ)にかけて香料組成物1を得た(香料含有量:7質量%、平均粒子径:約35μm)。
【0029】
(実施例2)
下記の処方に変更した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物2を得た(香料含有量:7質量%、平均粒子径:約35μm)。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、松谷化学工業(株)製の「エマルスター#500A」を使用した。
パーム極度硬化油(融点57℃、横関油脂工業(株)製):630g
実施例1で使用した香料(ビーフフレーバー):70g
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム:300g
【0030】
(実施例3)
下記の処方に変更した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物3を得た(香料含有量:10質量%、平均粒子径:約35μm)。
菜種極度硬化油(融点67℃):500g
香料(親子丼フレーバー、長岡香料(株)製):100g
実施例1で使用したデキストリン:400g
【0031】
(実施例4)
下記の処方に変更した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物4を得た(香料含有量:10質量%、平均粒子径:約35μm)。D−ソルビトールは、物産フードサイエンス(株)製の「ソルビットFP 100M」を使用した。
パーム極度硬化油(融点57℃):500g
実施例3で使用した香料(親子丼フレーバー):100g
D−ソルビトール:400g
【0032】
(実施例5)
下記の処方に変更した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物5を得た(香料含有量:20質量%、平均粒子径:約35μm)。
菜種極度硬化油(融点67℃):500g
香料(牛丼フレーバー、長岡香料(株)製):200g
実施例1で使用したデキストリン:300g
【0033】
(実施例6)
下記の処方に変更して、90℃で均一に撹拌した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物6を得た(香料含有量:20質量%、平均粒子径:約35μm)。カルナウバワックスは、横関油脂工業(株)製の「精製カルナウバワックスR−100」を使用し、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンは、松谷化学工業(株)製の「フードテックス」を使用した。
菜種極度硬化油(融点67℃):250g
カルナウバワックス(融点83℃):250g
実施例5で使用した香料(牛丼フレーバー):200g
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン:300g
【0034】
(実施例7)
下記の処方に変更した以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物7を得た(香料含有量:20質量%、平均粒子径:約35μm)。
菜種極度硬化油(融点67℃):300g
実施例5で使用した香料(牛丼フレーバー):200g
実施例1で使用したデキストリン:500g
【0035】
(比較例1)
180gのアラビアガム(日本粉末薬品(株)製)および750gの実施例1で使用したデキストリンを、1640gの熱水に溶解した。そこに70gの実施例1で使用した香料(ビーフフレーバー)を添加し、TKホモミキサー(プライミクス(株)製)を用いて乳化を行いO/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−12型)を用いて噴霧乾燥を行い(送風温度150℃および排風温度84℃)、香料組成物Aを得た(香料含有量:7質量%)。
【0036】
(比較例2)
実施例1で用いた香料およびデキストリンに代えて、比較例1で得られた香料組成物Aを使用し、かつ下記の処方とした以外は、実施例1と同様の手順で香料組成物Bを得た(香料含有量:3.5質量%)。
菜種極度硬化油(融点67℃):500g
比較例1で得られた香料組成物A:500g
【0037】
(比較例3)
下記の原料を均一に撹拌して液体状香料組成物Cを得た(香料含有量:7質量%)。食用油脂は、築野食品工業(株)製の「米サラダ油」を使用した。
食用油脂:930g
実施例1で使用した香料(ビーフフレーバー):70g
【0038】
(比較例4)
下記の原料を均一に撹拌して液体状香料組成物Dを得た(香料含有量:10質量%)。
比較例3で使用した食用油脂:900g
実施例3で使用した香料(親子丼フレーバー):100g
【0039】
(比較例5)
下記の原料を均一に撹拌して液体状香料組成物Eを得た(香料含有量:20質量%)。
比較例3で使用した食用油脂:800g
実施例5で使用した香料(牛丼フレーバー):200g
【0040】
(試験1:レトルトカレー)
市販されているレトルトカレーを未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例1で得られた香料組成物1を添加した。レトルトカレーと香料組成物とは、99.8:0.2の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用カレー1を得た。同様にして、香料組成物1の代わりに実施例2で得られた香料組成物2、比較例1および2で得られた香料組成物AおよびB、ならびに比較例3で得られた液体状香料組成物Cをそれぞれ用いて試験用カレー2およびA〜Cを得た。なお、比較例2で得られた香料組成物については、レトルトカレーと香料組成物とを、99.6:0.4の質量比で使用した。一方、レトルトカレーを未使用のレトルトパウチに移して、香料組成物を添加せずに121℃で20分間レトルト処理を行い、対照品(対照カレー)を得た。
【0041】
さらに、市販されているレトルトカレーを未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例1で使用した香料、菜種極度硬化油(融点67℃)および実施例1で使用したデキストリンを、それぞれ添加した。レトルトカレーと香料と菜種極度硬化油とデキストリンとは、99.8:0.014:0.106:0.08の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用カレーX(比較例6)を得た。
【0042】
得られた試験用カレーおよび対照品(対照カレー)を、6名のパネラーに試食してもらい、下記の基準で官能評価をしてもらった。評価項目は、(1)レトルト臭のマスキング効果、(2)コク・旨味、および(3)一体感・調理感の3項目である。評価結果(6名のパネラーの平均点)を表1に示す。
<評価基準>
4点:対照品と比較して顕著に向上していると感じた場合。
3点:対照品と比較して向上していると感じた場合。
2点:対照品と比較して若干向上していると感じた場合。
1点:対照品と比較して差がないか、または悪化していると感じた場合。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、本発明の香料組成物を用いた試験用カレー1および2は、試験用カレーA〜CおよびX(比較例1〜3および6)と比べて、レトルト臭が効果的にマスキングされていることがわかる。さらに、コクや旨味など他の評価項目においても優れていることがわかる。
【0045】
(試験2:レトルト親子丼)
市販されているレトルト親子丼を未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例3で得られた香料組成物3を添加した。レトルト親子丼と香料組成物とは、99.8:0.2の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用親子丼3を得た。同様にして、香料組成物3の代わりに実施例4で得られた香料組成物4および比較例4で得られた液体状香料組成物Dをそれぞれ用いて試験用親子丼4およびDを得た。一方、レトルト親子丼を未使用のレトルトパウチに移して、香料組成物を添加せずに121℃で20分間レトルト処理を行い、対照品(対照親子丼)を得た。
【0046】
さらに、市販されているレトルト親子丼を未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例3で使用した香料、菜種極度硬化油(融点67℃)および実施例1で使用したデキストリンを、それぞれ添加した。レトルト親子丼と香料と菜種極度硬化油とデキストリンとは、99.8:0.02:0.1:0.08の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用親子丼Y(比較例7)を得た。
【0047】
得られた試験用親子丼および対照品(対照親子丼)を、6名のパネラーに試食してもらい、試験1と同様にして官能評価をしてもらった。評価結果(6名のパネラーの平均点)を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、本発明の香料組成物を用いた試験用親子丼3および4は、試験用親子丼DおよびY(比較例4および7)と比べて、レトルト臭が効果的にマスキングされていることがわかる。さらに、コクや旨味など他の評価項目においても優れていることがわかる。
【0050】
(試験3:レトルト牛丼)
市販されているレトルト牛丼を未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例5で得られた香料組成物5を添加した。レトルト牛丼と香料組成物とは、99.8:0.2の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用牛丼5を得た。同様にして、香料組成物5の代わりに実施例6および7で得られた香料組成物6および7、ならびに比較例5で得られた液体状香料組成物Eをそれぞれ用いて試験用牛丼6、7およびEを得た。一方、レトルト牛丼を未使用のレトルトパウチに移して、香料組成物を添加せずに121℃で20分間レトルト処理を行い、対照品(対照牛丼)を得た。
【0051】
さらに、市販されているレトルト牛丼を未使用のレトルトパウチに移し、そこに実施例5で使用した香料、菜種極度硬化油(融点67℃)および実施例1で使用したデキストリンを、それぞれ添加した。レトルト牛丼と香料と菜種極度硬化油とデキストリンとは、99.8:0.04:0.1:0.06の質量比で使用した。均一に撹拌混合した後、密封して121℃で20分間レトルト処理を行い、試験用牛丼Z(比較例8)を得た。
【0052】
得られた試験用牛丼および対照品(対照牛丼)を、6名のパネラーに試食してもらい、試験1と同様にして官能評価をしてもらった。評価結果(6名のパネラーの平均点)を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、本発明の香料組成物を用いた試験用牛丼5〜7は、試験用牛丼EおよびZ(比較例5および8)と比べて、レトルト臭が効果的にマスキングされていることがわかる。さらに、コクや旨味など他の評価項目においても優れていることがわかる。
【0055】
したがって、本発明の香料組成物は、レトルト食品を製造する際に発生する不快なレトルト臭をマスキングし、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感を付与していることがわかる。一方、比較例1〜8は、レトルト臭のマスキング効果も、コクや旨味、味の一体感や調理感も乏しいことがわかる。
【要約】
【課題】レトルト食品を製造する際に発生する不快なレトルト臭をマスキングし、かつレトルト食品に優れた風味、コクおよび旨味といった呈味、レトルト食品中の各具材が有する味の一体感および調理感を付与することができるレトルト臭マスキング用香料組成物を提供する。
【解決手段】本発明のレトルト臭マスキング用香料組成物は、(A)50℃以上の融点を有する硬化油脂および50℃以上の融点を有するワックスから選択される少なくとも1種と、(B)粉末基剤と、(C)香料成分とを含み、粉末状に粉砕された香料組成物であり、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量を100質量%としたときに、成分(A)が30〜70質量%、成分(B)が29.9〜55質量%、および成分(C)が0.1〜30質量%の割合で含まれる。
【選択図】なし