【文献】
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【文献】
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【文献】
YAMANAKA, S.,Patient-specific pluripotent stem cells become even more accessible.,Cell Stem Cell,2010年 7月,Vol.7 No.1,pages1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0047】
I.はじめに
患者固有の人工多能性幹細胞(iPSC)は、病因を理解し新規な治療的介入の開発を促進するための、有用なモデルとして機能し得る(Yamanaka、2007)。近年、複数の方法によるリプログラミング因子の送達により、外来性DNAのないiPSCが作製されている。これらの方法には、oriP/EBNA−1(エプスタインバー核抗原−1)をベースとしたエピソームプラスミド(Yuら、2009)、小分子(small molecule)の存在下もしくは非存在下(Linら、2009;OkitaおよびYamanaka、2010;Okitaら、2010)、piggyBACトランスポゾン(Woltjenら、2009)、ミニサークル(iaら、2010)、タンパク質(Zhouら、2009)、主に線維芽細胞を使用するRNAのカクテル(Warrenら、2010)などが含まれる。しかし、これらの方法はいまだリプログラミング効率が比較的低いため、応用は限られている。
【0048】
侵襲的な皮膚生検から取得する線維芽細胞と比べて、末梢血はリプログラミングの供給源として扱いやすい。わずか0.5mLの血液から得たヒトB細胞を、EBVによりインビトロで形質転換して、リンパ芽球様細胞株(LCL)を作製することができる(Amoliら、2008)。現在では、国際研究集団向けに、いくつかの主要施設がLCLのコレクションを管理している。Bリンパ球は、Pax−5発現のダウンレギュレーションにより、マクロファージ(Cobaleda、2010;CobaledaおよびBusslinger、2008)、あるいは造血前駆細胞(HPC)に分化形質転換できる(CobaledaおよびBusslinger、2008)。Pax−5阻害の存在下(Hannaら、2008)または非存在下(Wadaら、2011)で、OCT3/4、SOX2、KLF4、およびc−MYCのウイルス形質導入を介したリプログラミングにより、マウスB細胞からiPSCが作製されている。
【0049】
本発明の特定の態様では、体細胞、特にエピソームベクター要素で不死化された体細胞をリプログラミングすることにより、iPS細胞を作製する方法を提供する。例えば、リンパ芽球様細胞(例えば、EBVにより形質転換されたB細胞)のリプログラミング、および、この細胞に由来するiPS細胞が本発明に含まれる。リンパ芽球様細胞などの不死化体細胞は、長期的増殖のためにエピソームベクター要素に依存し得るが、リプログラミングにより多能性状態が樹立した後は、リプログラミングされた細胞は正常な核型を有し、エピソームベクター要素(特にEBVが発現する遺伝子)に依存することなく増殖できるようになる。このような不死化細胞には、すでに入手可能となっているか保管されている任意のリンパ芽球様細胞株や、特定の生体に由来する不死化細胞が含まれ得る。
【0050】
本発明の方法を使用した体細胞のリプログラミングにより多能性または多分化能を有する細胞を作製することは、少なくとも以下の利点を有する。第一に、本発明の方法を使用すれば、個々の患者に固有の細胞である自己多能性細胞を作製することが可能になる。細胞治療において自己細胞を使用すると、非自己細胞に優る大きな利点が得られる。非自己細胞の場合、免疫学的拒絶反応を起こす可能性がある。これに対して、自己細胞の場合、著しい免疫学的拒絶反応を起こすことはまずない(Munsieら、2000を参照)。第二に、本発明の方法を使用すれば、胚、卵母細胞、および/または核移植技術を使用することなく、不死化体細胞の新規、持続可能、かつ簡便な供給源から多能性細胞を作製することが可能になる。本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、本発明は、被験体から直接得たB細胞でなく、不死化した細胞、例えばEBVで形質転換されたB細胞のリプログラミングを伴う。これにより、リプログラミングに必要な血液サンプルなどのサンプルの容量を低減する。
【0051】
oriP/EBNA−1を使用して不死化B細胞あるいはLCLをリプログラムすることのさらなる利点として、B細胞が生来有する可塑性、oriP/EBNA−1プラスミドに対するB細胞の受容性、LCL作製の容易さ、および預託されているLCLコレクションの入手のしやすさが挙げられる。実施例に示すように、LCL由来のiPSCは、正常な核型を有する多能性幹細胞の特性を示し、親LCLの遺伝的同一性を保持し、再構成されたIgG遺伝子座のクローン的特徴(clonal signature)を維持し、かつエピソーム性リプログラミング遺伝子およびウイルス性EBNA−1、EBNA−2、LMP−2A、およびBZLF−1遺伝子の発現を消失し、その結果、外来性リプログラミング要素およびウイルス要素を本質的に含まない自己持続性のLCL−iPSCをもたらした。
【0052】
追加的態様では、得られたiPS細胞は、細胞分裂中にエピソームベクター要素を除去または消失させ、このような外来性要素の影響を最小化し得る。したがって、正常な核型を有し、外来的に導入された癌遺伝子およびテロメラーゼがなく、かつ疾患に対する特定の遺伝マーカーを任意で保有する不死の細胞が提供され得る。本発明の時点までは、既存のEBV形質転換B細胞株を利用して、EBVウイルス遺伝子が残った状態で特定の疾患の遺伝的素因を調査できる見込みはほとんど存在しない。その理由は、特定の組織を作製し調査する際、結果に干渉したり結果を混乱させる可能性があるためである。しかし、こうしたエピソーム要素を除去することにより、iPS細胞由来の特定の細胞または組織において特定の疾患を調査する上で、B細胞株から作製されたiPS細胞は有用となると考えられる。
【0053】
さらなる態様では、生体から体細胞を取得し、エピソームベクター要素により不死化した後、リプログラミングしてiPS細胞にし得る。例えば、少量の血液から得たB細胞を含む細胞集団をEBVで形質転換してから、形質転換したB細胞をリプログラミングし得る。特定の態様では、EBVベクターのようなエピソームベクター要素は、誘導性リプログラミング発現カセットを含み得る。したがって、不死化細胞にリプログラミング因子を導入する代わりに、不死化細胞内のエピソームベクターに含まれるリプログラミングカセットを誘導してリプログラミングし得る。
【0054】
本発明のいくつかの態様は、形質転換されたB細胞をリプログラミングする方法を提供し、このようなB細胞に由来するiPS細胞を提供する。さらなる態様では、こうしたiPS細胞は、外来的に組み込まれた遺伝因子を本質的に含まない場合がある。これらの態様の特定の利点は、外来遺伝子の組み込みのない、リプログラミングされた子孫細胞に保持され得る、B細胞由来の免疫グロブリン遺伝子の再構成され減少したV、D、J遺伝子セグメントである。このセグメントは、B細胞由来iPS細胞の様々なクローン集団の固有の特性または「バーコード」として機能し、また、こうしたiPS細胞と、V(D)J組み換えを受けていない多能性幹細胞とを区別するのに役立ち得る。遺伝子組み込みがないことは、発癌性形質転換および機能障害の発達などのリスクなしにiPS細胞を将来使用する上で、重要である。本発明のさらなる実施形態および利点を以下に記述する。
【0055】
「リプログラミング」は、リプログラミングなしの同一条件下よりも、培養下またはインビボで少なくとも1つの新たな細胞型の子孫を形成する、測定可能に増大した能力を細胞に与えるプロセスである。より具体的には、リプログラミングは、体細胞に多能性潜在能力を与えるプロセスである。すなわち、新規な細胞型の表現型特性を有する子孫がリプログラミングの前に本質的に形成できなくても、十分な増殖後には、このような子孫が計測可能な割合で形成され、あるいは、新規な細胞型の特質を有する子孫の割合が、リプログラミングの前よりも計測可能に多いことを意味する。特定の条件下で、新たな細胞型の特性を有する子孫の割合は、好ましさが増す順で少なくとも約1%、5%、25%、またはそれより多くであり得る。
【0056】
本明細書で使用される用語「〜に対応する」は、ポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列の全部もしくは一部と相同(すなわち、厳密には進化的に関連していないが、同一である)であること、またはポリペプチド配列が参照ポリペプチド配列と同一であることを意味する。反対に、本明細書で使用される用語「相補的」は、相補的な配列が、参照ポリヌクレオチド配列の全部または一部と相同であることを意味する。例示として、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に相補的である。
【0057】
特定のタンパク質を「コード」する「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「コード領域」、「配列」、「セグメント」、「断片」、または「導入遺伝子」は、適切な調節配列の制御下に置かれると、インビトロまたはインビボで転写され、任意で遺伝子産物、例えば、ポリペプチドに翻訳もされる核酸分子である。コード領域は、cDNA型、ゲノムDNA型、またはRNA型のいずれかで存在し得る。DNA型で存在する場合は、核酸分子は、一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であり得る。コード領域の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。遺伝子には、ウイルス、原核生物、または真核生物のmRNA由来のcDNA、ウイルス、原核生物、または真核生物のDNA由来のゲノムDNA配列、および合成DNA配列が含まれ得るが、これらに限定されない。転写終結配列は、通常は、遺伝子配列の3’に位置する。
【0058】
用語「細胞」は、当技術分野におけるその最も広い意味で本明細書で使用され、多細胞生物の組織の構造単位であり、外部から細胞を隔離する膜構造物によって取り囲まれ、自己複製する能力を有し、かつ遺伝情報およびそれを発現させる機構を有する生体を指す。本明細書で使用される細胞は、天然に存在する細胞または人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞など)であり得る。
【0059】
本明細書で使用される用語「幹細胞」は、有糸分裂を通じて自己複製する能力、および様々な特殊細胞型に分化する能力(すなわち、多能性)を有する細胞を指す。典型的には、幹細胞は、傷害を受けた組織を再生することができる。本明細書の幹細胞は、限定されるものではないが、胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、または組織幹細胞(組織特異的幹細胞または体性幹細胞とも呼ばれる)であり得る。上記の能力を有し得る人工的に産生された任意の細胞(例えば、本明細書で使用される融合細胞、リプログラミングされた細胞など)は、幹細胞であり得る。
【0060】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期胚に由来する多能性幹細胞である。ES細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年からノックアウトマウスの作製にも利用されている。1998年にヒトES細胞が樹立され、現在は、再生医療で利用可能になっている。
【0061】
組織幹細胞は、ES細胞とは異なり、分化能が制限されている。
組織幹細胞は、組織の特定の位置に存在し、未分化の細胞内構造を有する。したがって、組織幹細胞の多能性は、典型的には低い。組織幹細胞は、比較的高い核/細胞質比を有し、細胞内小器官をほとんど有さない。ほとんどの組織幹細胞は、低い多能性、長い細胞周期、および個体の寿命を超える増殖能を有する。組織幹細胞は、細胞が由来する部位、例えば、皮膚系、消化系、骨髄系、神経系などに基づいて分類される。皮膚系の組織幹細胞には、表皮幹細胞、毛包幹細胞などが含まれる。消化系の組織幹細胞には、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが含まれる。骨髄系の組織幹細胞には、造血幹細胞、間葉幹細胞などが含まれる。神経系の組織幹細胞には、神経幹細胞、網膜幹細胞などが含まれる。
【0062】
一般にiPS細胞またはiPSCと略される「人工多能性幹細胞」は、ES細胞の特性に似た特性を有する幹細胞であり、特に多能性および増殖能力を有する細胞を指す。iPS細胞は、非多能性細胞、典型的には成体の体細胞または最終分化した細胞、例えば、線維芽細胞、造血細胞、筋細胞、ニューロン、または表皮細胞などから、リプログラミング因子と呼ばれる特定の因子を外来的に発現させることによって、人工的に作製される。
【0063】
「多能性」は、1つ以上の組織または器官、または好ましくは、3つの胚葉:内胚葉(内側胃内壁、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、または外胚葉(表皮組織および神経系)のいずれかを構成するすべての細胞に分化する潜在能力を有する幹細胞を指す。本明細書で使用される「多能性幹細胞」は、3つの胚葉のいずれかに由来する細胞、例えば、全能性細胞または人工多能性細胞の直系の子孫に分化できる細胞を指す。
【0064】
用語「体細胞」は、ES細胞、iPS細胞、その他、未分化で多能な状態を保持する細胞以外の、任意の細胞を指す。体細胞の具体例として、(i)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉幹細胞などの組織幹細胞(体性幹細胞)、(ii)組織前駆細胞、および(iii)リンパ球、上皮細胞、筋細胞、線維芽細胞などの分化細胞が挙げられる。本発明の作製方法で使われる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を好適に使用することができる。
【0065】
「ベクター」または「構築物」(時には、遺伝子送達または遺伝子輸送「ビヒクル」または「カセット」と呼ばれる)は、インビトロまたはインビボのいずれかで宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む巨大分子または分子の複合体を指す。ベクターは、直鎖状分子または環状分子であり得る。
【0066】
用語「エピソームベクター」は、自身を自律的に複製し維持する染色体外DNA分子を指す。ある特定の場合、エピソームベクターは環状かつ二本鎖である。このような特性を有する任意のエピソームベクターを、特定の限定なく本発明の作製方法に使用することができる。
【0067】
「発現構築物」または「発現カセット」は、転写を方向付けできる核酸分子を意味する。発現構築物には、少なくとも、プロモーター、またはプロモーターに機能的と等価な構造物が含まれる。追加の要素、例えば、エンハンサーおよび/または転写終結シグナルなども含まれ得る。
【0068】
用語「外来性」は、細胞または生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸、またはポリヌクレオチドに関連して使用される場合は、人工または天然の手段によって細胞または生物内に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、またはポリヌクレオチドを指し、細胞に関連して使用される場合は、単離されてから、人工または天然の手段によって他の細胞または生物に導入された細胞を指す。外来性核酸は、異なる生体もしくは細胞由来であってよく、または生体もしくは細胞中に天然に存在する核酸の1つ以上の追加的複製物であってよい。外来性細胞は、異なる生物に由来していても、同じ生物に由来していてもよい。非限定的な例として、外来性核酸は、天然の細胞の染色体位置とは異なる染色体位置にあるか、あるいは天然に見られるものとは異なる核酸配列に隣接する。
【0069】
核酸分子に関して「機能的に連結する」とは、2つ以上の核酸分子(例えば、転写される核酸分子、プロモーター、およびエンハンサー要素)が、核酸分子の転写を可能とするように連結していることを意味する。ペプチドおよび/またはポリペプチド分子に関して「機能的に連結する」とは、2つ以上のペプチドおよび/またはポリペプチド分子が、融合の各ペプチドおよび/またはポリペプチド成分の少なくとも1つの特性を有する1本のポリペプチド鎖、すなわち融合ポリペプチドを生じるように連結していることを意味する。融合ポリペプチドは、好ましくはキメラポリペプチドであり、すなわち異種性分子で構成される。
【0070】
用語「調節要素」は、レシピエント細胞においてコード配列の複製、転写、転写後プロセシング、および翻訳を集合的に提供する、プロモーター領域、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー、スプライス部位などを集合的に指す。選択されたコード配列が、適切な宿主細胞において複製、転写、および翻訳されることが可能であれば、これらの制御要素のすべてが常に存在する必要はない。
【0071】
用語「プロモーター」は、本明細書において通常の意味で使用され、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指す。この調節配列は、RNAポリメラーゼに結合して下流(3’方向)のコード配列の転写を開始できる遺伝子に由来する。
【0072】
「エンハンサー」は、プロモーターの近傍に位置すると、エンハンサードメインが存在しない場合のプロモーターによる転写活性と比較して、高い転写活性を与える核酸配列を意味する。
【0073】
II.リプログラミング用細胞の供給源
再生医療のための細胞のリプログラミングが有する医療的可能性は莫大であることから、最小量の操作で可塑性を示す理想的な細胞型を特定する努力が続けられている。本発明の特定の態様では、エピソームベクター要素、特にEBV要素により不死化された体細胞(例えば血液細胞、より特定的にはB細胞)のリプログラミングに使用する方法および細胞を提供する。リプログラミングされる細胞は、リンパ芽球様細胞であり得、例えば、血液サンプルから樹立または派生し、EBVで形質転換されたB細胞であり得る。B細胞の供給源は、生体または罹病した被験体、例えばヒトから得た少量の血液サンプルであり得る。
【0074】
血液は、人工多能性幹(iPS)細胞作製のためのリプログラミングに適した、簡便で利用しやすいヒト由来物質である。多くの研究室が、例えば臍帯血からのiPS細胞の誘導に成功している。より具体的には、T細胞、単球、および骨髄系前駆細胞のプール(血液を構成するCD34
+細胞を含む)からiPS細胞が作製されてきた。残念ながら、現在のところ、レトロウイルスまたはレンチウイルスをベースとした系に依存しない方法では、ヒト血液細胞のリプログラミングは非効率である。このような方法の一例は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来のoriPレプリコンに依存するプラスミドベースの方式を使用して、トランスフェクト先宿主細胞内でのプラスミドの保持と複製を促進する。例えば、リプログラミング因子の組み合わせをコードするoriPベースのプラスミドを用いて、細胞をトランスフェクトすることができる。そして、oriPレプリコンにより、重要なリプログラミング因子を発現するための十分な時間が得られる。その後、細胞分裂1回あたり約5〜8%の割合でプラスミドが宿主細胞から自然に消失して、外来性DNAを含まないiPS細胞が作製される(Nanboら、2007)。
【0075】
血液細胞の成熟状態と、その成熟状態とリプログラミングとの相関関係に関する議論が存在する。例えば、iPSクローンの作製効率を根拠として、CD34を発現する造血幹細胞前駆体は望ましい候補だと認識されてきた。この仮説については、臍帯血、動員/非動員末梢血、および骨髄に集合的に由来するCD34
+細胞間の相違を含めた、入念な検証が行われていない。さらに、末梢血単核細胞(PBMC)の総集団のうち、CD34
+細胞が占める割合はわずか(0.01%)である。したがって、血液細胞にDNAを組み込まないリプログラミング効率も低くなる(<0.01%)ため、複数のクローンを作製するに足る十分な出発物質を1mLの血液から取得することは困難を伴う。他方、上記と比べて、B細胞はPBMC集団の多くの割合(約20%)を占め、リプログラミングに対する受容性が高い可能性があると考えられる。
【0076】
本発明の特定の態様では、B細胞を含む細胞集団をエピソームベクター要素により不死化し、次いで、得られた不死化B細胞をリプログラミングする方法を提供し得る。リプログラミング発現カセットを別個に導入する必要をなくすため、エピソームベクター要素は、誘導性リプログラミング発現カセットを含み得る。特定の態様では、リンパ芽球様細胞のような樹立した形質転換B細胞をリプログラミングする方法を提供し得る。
【0077】
A.形質転換されたB細胞のリプログラミング
特定の態様では、形質転換されたB細胞のリプログラミングを、例えば、リプログラミング発現カセットまたはリプログラミングタンパク質を使用することにより提供し得る。B細胞の追加のリプログラミング因子、例えばPax−5阻害剤やC/EBPαエンハンサーを使用して、元のB細胞の系列特定化状態(lineage specification status)に基づくリプログラミングを亢進させ得る。特定の実施形態では、成熟B細胞をリプログラミングする場合でも、Pax−5阻害剤およびC/EBPαエンハンサーは不要であり得る。
【0078】
造血幹細胞からのBリンパ球の産生は、別個の発生側面を調節する複数の転写因子により制御される。イカロスとPU.1は、複数の並行経路において、必須のシグナル伝達受容体(Flt3、c−Kit、およびIL−7Rα)の発現を調節することにより、リンパ球前駆細胞の発達を部分的に制御するように作用する。再早期のB細胞前駆体の産生は、転写因子E2AおよびEBFの活性化に依存する。これらの転写因子は、B細胞遺伝子発現プログラムおよび免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成を協調的に活性化して、Bリンパ球新生の開始を刺激する。
【0079】
Pax−5は、系列に不適切な遺伝子の転写を抑制すると同時に、Bリンパ系シグナル伝達分子の発現を活性化することにより、リンパ球前駆細胞の発達オプションをB細胞系列に制限する。B細胞発達の再早期の間、B細胞は可塑性を示す。B細胞の分化では、IL7が3つの転写因子:E2A、EBF1、およびPax−5と共に(KirchmaierおよびSugden、1997;Kennedyら、2003)重要な役割を果たす。B細胞の発達の開始時点で、E2AおよびEBF1がBリンパ球遺伝子の発現を活性化するが、B細胞系列へのコミットメントを制御するのはPax−5である。Pax−5は、B系列に不適切な遺伝子の転写を抑制し、かつB細胞に特異的な遺伝子の発現を活性化するという、二重の能力を有する(MackおよびSugden、2008;Wendtnerら、2003)。
【0080】
細胞がPax−5を発現すると、プロB細胞は、各自の一方向経路に沿って成熟B細胞に分化すること以外はできなくなる。Pax−5 −/−ノックアウトプロB細胞は、多能性前駆細胞として振る舞う。なぜなら、このプロB細胞は多系列遺伝子を発現して、適切な条件下で大部分の造血系列へとプログラムされることが可能になるからである。
【0081】
近年、Pax−5のダウンレギュレーションと転写因子Oct3/4、Sox2、Klf4、およびc−Mycの強制発現の併用により、成熟B細胞から人工多能性幹細胞(iPSC)への転換が行われており、この転換は、成熟細胞からの早期前駆細胞の産生を伴う分化転換プロセスとみなすことができる(Delecluseら、1999)。この転換は、ある細胞状態への遷移を伴うプロセスであり、この細胞状態から、幹細胞の再生・維持に関連する遺伝子の再活性化、系列に特異的な転写因子の不完全な抑制、および不完全なエピジェネティックリモデリングが明らかにされる。
【0082】
コミットされたCD19
+B細胞も、骨髄性サイトカインの存在下で、骨髄系転写因子C/EBPαのレトロウイルス発現によりマクロファージへと分化転換できる(Delecluseら、1998;Hettichら、2006)。コミットされたB細胞からマクロファージへのC/EBPα誘導による転換は、B細胞とマクロファージの両方に属するマーカーを発現する非生理的な細胞中間体を介して、古典的な分化転換方法で発生する。
【0083】
Pax−5の役割と同様の、B細胞発達時に遺伝子発現を調節する際に重要な役割を果たす他の転写因子として、Blimp1、Oct2、Bob−1を含むいくつかの転写因子が特定されている。Blimp1は、形質細胞の分化を調節する重要な転写調節因子であり、B細胞および単球/マクロファージの最終分化に必要な抑制因子である。Oct2は、後期のB細胞発達において重要な役割を果たす、B細胞に特異的な転写因子である。Bob−1は、Oct2とPax−5のコアクチベーターである(BSAP)。
【0084】
B.リンパ芽球様細胞
リンパ芽球様細胞株(LCL)は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)やEBV由来エピソームベクター要素などのエピソームベクター要素により、リンパ球(例えば任意の種類のT細胞またはB細胞)をインビトロで形質転換して樹立できる。エプスタイン・バーウイルス(EBV)による末梢Bリンパ球の形質転換は、LCLの作製方法として特に適している。この方法は過去20年間に渡って使用され、高い成功率を示している。リンパ芽球様細胞は、体細胞突然変異率が0.3%で、細胞維持が容易であり、患者の遺伝物質を貯蔵するには現在でも好ましい選択肢である。
【0085】
リンパ芽球様細胞株(LCL)は、非EBVエピソームベクターでリンパ球を不死化することでも取得できる。例えば、T細胞(主としてCD4
+細胞)のマレック病ウイルス(MDV)の感染から、リンパ芽球様細胞を樹立できる(Parcellら、1999)。
【0086】
C.不死化細胞のさらなる供給源
生物学者たちは、ヘイフリック限界(DNAの損傷またはテロメアの短縮のため細胞がそれ以上分裂しなくなること)に制限されない細胞を指す語として、「不死」(immortal)を選択した。ヘイフリック限界とは、正常な細胞集団が細胞分裂を停止するまでの分裂回数をいう。細胞分裂が停止するのは、おそらくテロメアが臨界長に達するからだと考えられている。テロメア伸長酵素テロメラーゼを発現することによりアポトーシス(プログラム細胞死)を回避した細胞に対して、不死化(immortalization)という用語が適用された。また、正常な幹細胞および生殖細胞も、不死であると言える。
【0087】
不死の細胞は、癌遺伝子を誘導するか、腫瘍抑制遺伝子を消失させることで作製できる。不死性を誘導する1つの方法は、ウイルスの介在によるラージT抗原の誘導であり、一般的にはサル空胞ウイルス40(SV40)を介して導入する。SV40ラージT抗原(SV40 TAg)は、ポリオーマウイルスSV40に由来する癌遺伝子であり、六量体のタンパク質である。ポリオーマウイルスSV40は、種々の細胞型を形質転換する能力を有する。
【0088】
本発明の特定の態様では、エピソームベクター要素により不死化された体細胞が提供され得る。このようなエピソームベクター要素は、上記のようなリンパ球の形質転換のためにEBV遺伝子を発現し得、あるいは、任意の体細胞の不死化のために導入遺伝子(テロメラーゼなど)もしくは癌遺伝子を発現し得る。
【0089】
体細胞は、限定されるものではないが、線維芽細胞、造血細胞、間葉細胞、角化細胞、造血細胞、肝細胞、胃細胞、または神経幹細胞を含む、最終分化した細胞または組織幹細胞であり得る。体細胞は、組織細胞バンク、または選択されたヒト被験者、特に生きているヒトから得たものであり得る。これらの体細胞の子孫由来のゲノムは、特定の供給源、例えば、選択されたヒト個人の体細胞に由来するとみなされる。
【0090】
III.エピソームベクター要素および除去
iPS細胞樹立の成功により、ES細胞に起因する生命倫理上の問題が回避できるようになる。また、この成功は、免疫学的拒絶反応のない再生医療の実現に向けた大きな一歩である。しかしながら、従来のiPS細胞作製方法は、レトロウイルスベクターまたは別の類似のベクターであるレンチウイルスベクターを介した遺伝子導入を伴う。このようなウイルスベクターは、宿主細胞の染色体のランダム位置への遺伝子の組み込みを媒介するので、内在性遺伝子の突然変異または内在性癌遺伝子の活性化を引き起こし得る。再生医療において将来iPS細胞が使われることを考慮すると、このようなウイルスベクターの使用は、発癌性形質転換、機能障害の発生などのリスクを伴うことになる。したがって、将来のiPS細胞の利用に向けた極めて重要な開発の1つは、リプログラミング因子を組み込むゲノムなしでiPS細胞を作製する方法である。
【0091】
リンパ球などの体細胞を不死化する目的で、EBV、またはその変異体を含むエピソームベクター要素が提供され得る。さらなる態様では、リプログラミングの後、iPS細胞中のエピソームベクターが除去され得る。
【0092】
このような特性を有する任意のエピソームベクターを、特定の限定なく本発明の作製方法に使用することができる。具体的には、エピソームベクターの例として、ウイルスをベースとしたエピソームベクター、例えばマウスポリオーマウイルスをベースとしたエピソームベクター(Gassmannら、1995);ヒトポリオーマウイルスの一種であるBKウイルスをベースとしたエピソームベクター(De BenedettiおよびRhoads、1991);エプスタイン・バーウイルスをベースとしたエピソームベクター(Margolskeeら、1988);およびウシパピローマウイルス(BPV)をベースとしたエピソームベクター(Oheら、1995)が挙げられる。中でも、BKウイルスをベースとしたエピソームベクターとエプスタイン・バーウイルスをベースとしたエピソームベクターは、ヒト細胞で好適に使われる。
【0093】
これらのベクターの各々は、対応するウイルスに由来する複製起点(ori)を含む。この複製起点(ori)に「複製因子」が結合することにより、ベクターの複製が誘発される。本明細書で使用される用語「複製因子」は、複製に不可欠の因子であり、oriに結合することにより、核酸の複製を誘発する因子をいう。ウイルスをベースとした上記エピソームベクターの各々に対応する「複製因子」は、それぞれ、マウスポリオーマウイルスのラージT抗原、BKウイルスのラージT抗原、EBVウイルスのEBNA−1、およびBPVのE1とE2である。
【0094】
S/MAR(足場/マトリックス付着領域)と呼ばれる塩基配列を含むエピソームベクターも、本発明の作製方法で好適に使用できる。このエピソームベクターは、少なくとも1つのS/MARと、ウイルスまたは真核生物の少なくとも1つの複製起点(ori)を含む。上述の他のエピソームベクターと異なり、このエピソームベクターは、複製のためのoriに対応する複製因子は一切不要である。具体的には、このようなエピソームベクターの代表例として、ヒトインターフェロンβ遺伝子上流領域(約2kb)をS/MARとして含むエピソームベクターがあり、これについてはPiechaczekら(1999)に記述されている。
【0095】
加えて、細胞に導入された2種類のアデノウイルスベクターが、細胞内に環状のエピソームベクターを産生する系が知られている(Lebloisら、2000)。この系を使って取得したエピソームベクターも、本発明の作製方法に使用できる。この系はCre−loxP系をベースとしている。より具体的には、この系において、一方のアデノウイルスベクターがCreを発現し、他方のアデノウイルスベクターは、エピソームベクターとして機能するために必要な遺伝子構築物を格納する。この遺伝子構築物が、ベクターの2つのLoxP部位と隣接する領域に挿入される。2つのloxP部位と隣接する領域がCreにより切除されて、環状DNAを形成する。2つのloxP部位と隣接する領域が、発現単位に加えて複製起点と複製因子遺伝子(例えば、エプスタイン・バーウイルスの複製起点であるoriP配列と、エプスタイン・バーウイルスの複製因子遺伝子であるEBNA−1をコードする遺伝子)も保有するように設計されている場合、形成される環状DNAは細胞中のエピソームとして維持される。
【0096】
B.エピソームベクターの骨格
これらのリプログラミング方法は、染色体外で複製するベクター(すなわちエピソームベクター)を利用することもできる。このベクターは、エピソーム複製して、外来性ベクターまたはウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞を作製できるベクターである(参照することにより本明細書に組み入れられる米国特許公開第20100003757号;Yuら、2009を参照)。アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、EBVもしくはウシパピローマウイルス(BPV)、または出芽酵母ARS(自己複製配列)含有プラスミドなどの多数のDNAウイルスは、哺乳動物細胞内で染色体外複製またはエピソーム複製する。これらのエピソームプラスミドは、組み込み型ベクターに関連したこれらすべての不都合を元来有さない(Bodeら、2001)。例えば、上記に定義したEBV要素を含むリンパ球指向性ヘルペスウイルスをベースとしたベクターは、染色体外で複製し、体細胞へのリプログラミング因子の送達を支援し得る。
【0097】
例えば、本発明で使用されるプラスミドをベースとするアプローチは、詳細が後述されるように、EBV要素をベースとした系の臨床現場での取り扱いやすさを損なうことなく、この系の複製および維持の成功に必要な強い要素を引き出すことができる。必須のEBV要素は、OriPおよびEBNA−1またはその変異体もしくは機能的等価物である。この系のさらなる利点は、これらの外来性要素が、細胞に導入された後で時間の経過とともに消失し、外来性要素を本質的に含まない自己持続性のiPS細胞をもたらすことである。
【0098】
プラスミドまたはリポソームをベースとした染色体外ベクター、例えば、oriPをベースとしたベクター、および/またはEBNA−1の誘導体をコードするベクターの使用により、DNAの大きな断片が細胞に導入され、染色体外に維持され、細胞周期ごとに1回複製され、娘細胞に分割され、そして免疫応答を実質的に誘発しないことが可能となる。特に、OriPをベースとした発現ベクターの複製に必要な唯一のウイルスタンパク質であるEBNA−1は、MHCクラスI分子にその抗原の提示を必要とするプロセシングを回避する効率的な機序を発達させたため、細胞性免疫応答を誘発しない(Levitskayaら、1997)。さらに、EBNA−1は、トランスで作用してクローン化遺伝子の発現を促進することができ、一部の細胞株において最大100倍のクローン化遺伝子の発現を誘導する(Langle−Rouaultら、1998;Evansら、1997)。最後に、このようなoriPをベースとした発現ベクターの製造は低コストである。
【0099】
他の染色体外ベクターとしては、リンパ球指向性ヘルペスウイルスをベースとした他のベクターが含まれる。リンパ球指向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えば、ヒトBリンパ芽球)で複製し、そしてその自然の生活環の一部のためにプラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ球指向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ球指向性ヘルペスウイルスには、限定されるものではないが、EBV、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)、リスザルヘルペスウイルス(HVS)、およびマレック病ウイルス(MDV)が含まれる。また、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、またはBPVなどの、エピソームをベースとしたベクターの他の供給源も企図されている。
【0100】
ウイルス遺伝子送達の潜在的な問題を回避するために、今年、2つのグループが、ウイルスベクターを用いずにトランスポゾンをベースとしたアプローチでヒト細胞に多能性をもたらすことに成功した共同研究について報告した(Woltjenら、2009;Kajiら、2009)。ウイルス由来2Aペプチド配列を用いてリプログラミング因子を含むポリシストロニックベクターを作製し、これをpiggyBacトランスポゾンベクターにより細胞に送達することによって、安定したiPS細胞がヒトおよびマウス両方の線維芽細胞で作製された。次いで、樹立したiPS細胞株には不要の2A連結リプログラミング因子が除去された。本発明の特定の態様では、これらの戦略を体細胞の不死化および/またはリプログラミングに同様に適用し得る。
【0101】
C.エプスタイン・バーウイルスをベースとしたベクター要素
エプスタイン・バーウイルス(EBV)は、ヒトヘルペスウイルス4(HHV−4)とも呼ばれ、ヒトヘルペスファミリー(単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、およびサイトメガロウイルスを含む)のガンマヘルペスウイルスであり、ヒトにおける最も一般的なウイルスの1つである。
【0102】
EBVは、そのゲノムを染色体外に維持し、効率的な複製と維持のために宿主細胞機構と協働し(LindnerおよびSugden、2007)、細胞分裂時には、細胞内で自身を複製および保持するための2つの必須の特徴にのみ依存する(Yatesら、1985;Yatesら、1984)。一方の要素は、一般にoriPと呼ばれ、シスに存在し、複製の起点として機能する。他方の因子であるEBNA−1は、oriP内の配列に結合してプラスミドDNAの複製および維持を促進することによって、トランスで機能する。したがって、EBNA−1タンパク質は、ウイルスのゲノムの維持に不可欠である。
【0103】
Bリンパ球がインビトロでEBVに感染すると、無限に成長可能なリンパ芽球様細胞株が最終的に現れる。この細胞株の増殖形質変換は、ウイルスタンパク質の発現の結果である。本発明の特定の態様では、形質転換のため、EBVベクターにEBV遺伝子、例えばEBNA−2、EBNA−3A、EBNA−3C、EBNA−LP、および/またはLMP−1が含まれ得る。
【0104】
1.OriP
OriPは、DNAの複製を開始する部位またはその近傍であり、反復ファミリー(FR)と二分子対称(DS)として知られる約1キロ塩基対離れた2つのシス作用性配列から構成されている。
【0105】
FRは、30塩基対の反復の21の不完全なコピーから構成され、20の高親和性EBNA−1結合部位を含む。FRがEBNA−1によって結合されると、FRは、最大10キロ塩基対離れたシスにおけるプロモーターの転写エンハンサーとして機能し(ReismanおよびSugden、1986;Yates、1988;SugdenおよびWarren、1989;WysokenskiおよびYates、1989;GahnおよびSugden、1995;KennedyおよびSugden、2003;Altmannら、2006)、核の保持およびFRを含むプラスミドの忠実な維持に寄与する(Langle−Rouaultら、1998;KirchmaierおよびSugden、1995;Wangら、2006;Nanboら、2007)。oriPプラスミドの効率的な分割も、FRによる可能性が高い。このウイルスは、FRに20のEBNA−1結合部位を維持するように進化したが、効率的なプラスミドの維持には、これらの部位の7つのみが必要であり、合計12のEBNA−1結合部位を有するように、DSの3つのコピーのポリマーによって再構築することができる(WysokenskiおよびYates、1989)。
【0106】
二分子対称要素(DS)は、EBNA−1の存在下でのDNA合成の開始に十分であり(Aiyarら、1998;Yatesら、2000)、開始は、DSまたはその近傍で起こる(GahnおよびSchildkraut、1989;Nillerら、1995)。FRは、EBNA−1によって結合されると、2Dゲル電気泳動法によって観察されるように複製フォークの障壁として機能するため、ウイルスDNA合成の停止は、FRで起こると考えられる(GahnおよびSchildkraut、1989;Ermakovaら、1996;Wangら、2006)。DSからのDNA合成の開始は、1細胞周期に1回許可され(Adams、1987;YatesおよびGuan、1991)、細胞複製系の成分によって調節される(Chaudhuriら、2001;Ritziら、2003;Dharら、2001;Schepersら、2001;Zhouら、2005;Mienら、2004)。DSは、4つのEBNA−1結合部位を含むが、RFで見られるものよりも親和性が低い(Reismanら、1985)。DSのトポロジーは、4つの結合部位が、二対の部位として配置され、各対間で中心と中心が21塩基対離隔し、対になっていない2つの内部結合部位間で中心と中心が33塩基対離隔している(Baerら、1984;Rawlinsら、1985)。
【0107】
DS内の要素の機能的役割は、非効率的にDSの代替となることのできる要素として同定された、Rep*と呼ばれる、EBVのゲノムの別の領域の研究によって確認された(KirchmaierおよびSugden、1998)。Rep*を8回重合することにより、その複製の支援においてDSと同じ効率の要素が産生された(Wangら、2006)。Rep*の生化学的な分析により、その複製機能に極めて重要である、中心と中心が21塩基対離隔した一対のEBNA−1結合部位が同定された(上記)。Rep*の最小のレプリケーターは、ポリマーにおけるすべての隣接配列がラムダファージ由来の配列で置換された後でも、複製機能が維持される一対のEBNA1結合部位であることが分かった。DSとRep*の比較により、共通の機構が明らかになった。すなわち、これらのレプリケーターは、EBNA−1によって曲げられて結合される一対の適切な離隔部位を介して細胞内複製機構を動員することによって、DNA合成の開始を支援する。
【0108】
ある点ではEBVのRaji株内の開始のゾーンに類似しているように見える、EBVに関連していない哺乳動物細胞内で複製する他の染色体外プラスミドが存在する。Hans Lippsおよび彼の同僚らは、「核足場/マトリックス付着領域」(S/MAR)および強い転写単位(Piechaczekら、1999;Jenkeら、2004)を含むプラスミドを開発し研究した。このS/MARは、ヒトインターフェロン−β遺伝子に由来し、A/Tリッチであり、核マトリックスとのその関連と、低いイオン強度での、またはスーパーコイル状DNAに埋め込まれた時のその優先的な巻き戻しによって機能的に定義される(Bodeら、1992)。これらのプラスミドは、半保存的に複製し、複製開始点認識複合体(ORC)タンパク質に結合し、かつそのDNA全体での効率的かつランダムなDNA合成の開始を支援する(Schaarschmidtら、2004)。これらのプラスミドは、薬剤選択なしでも増殖中のハムスター細胞およびヒト細胞内で効率的に維持され、ブタ胎仔に導入されると動物胎仔のほとんどの組織におけるGFPの発現を支援することができる(Manziniら、2006)。
【0109】
2.EBNA−1
エプスタインバー核抗原1(EBNA−1)は、複製因子として、oriPまたはRep*のFRおよびDSに結合して、各細胞分裂中の細胞染色体と協調するが独立して、娘細胞へのEBVプラスミドの複製および忠実な分割を促進するDNA結合タンパク質である。
【0110】
EBNA−1の641のアミノ酸(AA)が、突然変異および欠失分析によって、その様々な機能に関連したドメインに分類された。AA40〜89とAA329〜378との間の2つの領域は、EBNA−1によって結合されるとシスまたはトランスにおける2つのDNA要素を連結することができ、このため連結領域1および2(LR1、LR2)と命名された(MiddletonおよびSugden、1992;FrappierおよびO’Donnell、1991;Suら、1991;Mackeyら、1995)。EBNA−1のこれらのドメインとGFPとの融合により、GFPが有糸分裂染色体に戻る(Marechalら、1999;Kandaら、2001)。LR1およびLR2は、複製のために機能的に重複しており、いずれか一方が欠損すると、DNAの複製を支持できるEBNA−1の誘導体が生じる(MackeyおよびSugden、1999;Searsら、2004)。LR1およびLR2は、アルギニンおよびグリシン残基が豊富であり、A/TリッチDNAに結合するATフックモチーフに類似している(AravindおよびLandsman、1998)、(Searsら、2004)。EBNA−1のLR1およびLR2のインビトロでの分析は、A/TリッチDNAに結合するそれらの能力を実証した(Searsら、2004)。1つのこのようなATフックを含むLR1が、EBNA−1のDNA結合および二量体化ドメインに融合されると、このLR1は、野生型EBNA−1よりも効率は低いが、oriPプラスミドのDNA複製には十分であることが分かった(上記)。
【0111】
本発明の特定の実施形態では、エピソームベクターは、oriPと、細胞分裂の際のプラスミドの複製およびその適切な維持を支持する能力を持つあるバージョンのEBNA−1の両方を含み得る。野生型ENBNA−1のアミノ末端の3分の1以内の反復性の高い配列および様々な細胞で毒性を実証した25のアミノ酸領域は、oriPに関連したEBNA−1のトランス作用機能に必要ではない(Yatesら、1985;Kennedyら、2003)。したがって、δUR1として知られる例示的な誘導体である、短縮型のEBNA−1は、このプラスミドをベースとした系内のoriPと共に使用され得る。染色体外の鋳型からの転写を活性化できるEBNA−1誘導体のさらなる例が公知である(例えば、参照することにより本明細書に組み入れられるKirchmaierおよびSugden、1997ならびにKennedyおよびSugden、2003を参照)。
【0112】
本発明に使用されるEBNA−1の誘導体は、対応する野生型ポリペプチドに対して改変されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。この改変には、EBNA−1におけるLR1(残基約40〜約89)の固有領域(残基約65〜約89)に対応する領域における少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入、置換が含まれ、そして、得られた誘導体が望ましい特性を有する限り、例えば、oriPに対応するoriを含むDNAを二量体化し結合する、核に局在する、非細胞毒性である、染色体外ベクターからの転写は活性化するが組み込まれた鋳型からの転写は実質的に活性化しない、などの特性を有する場合に限り、EBNA−1の他の残基、例えば、残基約1〜約40、残基約90〜約328(「Gly−Gly−Ala」反復領域)、残基約329〜約377(LR2)、残基約379〜約386(NLS)、残基約451〜約608(DNA結合および二量体化)、または残基約609〜約641に対応する領域における1つ以上のアミノ酸残基の欠失、挿入、および/または置換が含まれ得る。置換には、L型ではなくD型、ならびに他の周知のアミノ酸類似体、例えば、α−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、および乳酸などの非天然アミノ酸などを利用する置換が含まれる。
【0113】
3.他のEBV遺伝子
本発明の特定の態様では、エピソームベクター要素は1つ以上の形質転換遺伝子、例えば、EBNA−1、EBNA−2、EBNA−3A、EBNA−3C、EBNA−LP、またはLMP−1などのEBV由来の形質転換遺伝子を含み得る。
【0114】
インビトロでのEBVの感染により、B初代ヒト細胞が、連続的に増殖するリンパ芽球様細胞株(LCL)に転換される。EBVに形質転換されたLCLにおいて、EBVは、6つの核タンパク質[EBV核抗原(EBNA)であるEBNA−1、EBNA−2、EBNA−3A、EBNA−3B、EBNA−3C、およびEBNA−LP]、3つの内在性膜タンパク質(LMP−1、LMP−2A、およびLMP−2B)、2つの小型の非ポリアデニル化RNA(EBER1およびEBER2)、ならびにBamA右方向転写物を発現する。逆遺伝子実験により、これらのウイルス潜伏タンパク質のうち6つ、すなわちEBNA−1、EBNA−2、EBNA−3A、EBNA−3C、EBNA−LP、およびLMP−1が形質転換表現型に必要であることが示された。本発明の特定の態様において、形質転換用EBVベクターは、これらのEBV形質転換遺伝子の1つ以上を含み得る。
【0115】
EBV核抗原2(EBNA−2)は、エプスタイン・バーウイルスに関連するウイルスタンパク質である。EBNA−2がメインのウイルストランス活性化因子であり、感染後最初に使われるWpプロモーターからCpプロモーターへと転写を切り替える。LMP−1およびLMP−2A/2Bのプロモーターは、B細胞においてEBNA−2に活性化される(Zimber−Stroblら、1991)。EBNA−2は、Notch経路において重要な存在である宿主RBP−Jκタンパク質と結合することが知られている。c−Myc遺伝子の発現は、EBNA−2が介在する転写開始亢進により誘導されるものであり、EBNA−2は、EBVが介在する増殖形質転換に不可欠である。
【0116】
EBNA−3A、EBNA−3B、およびEBNA−3Cは、EBVゲノムにおいて縦に配列され、類似構造の遺伝子にコードされる。このことから、EBNA−3遺伝子は、祖先遺伝子の縦の三重重複から生じた可能性があると提唱されている。EBNA−3A、EBNA−3B、およびEBNA−3CのN末端アミノ酸が、配列特異的なDNA結合タンパク質であるRBP−Jκとの相互作用を介在する。組み換えEBVを用いた逆遺伝子実験では、EBVの介在により初代B細胞をLCLに転換するにはEBNA−3AとEBNA−3Cが必須であるが、EBNA−3Bは必須ではないことが示されている。EBNA−3Cは、Rb(Parkerら、1996)、サイクリンA(KnightおよびRobertson、2004)を含む細胞周期タンパク質と結合して、これらのタンパク質を調節する。
【0117】
潜伏膜タンパク質1(LMP−1)は、B細胞の形質転換に必須のウイルス遺伝子産物の1つであり、LCLの増殖に不可欠であり(Kilgerら、1998)、抗アポトーシス性、すなわちNF−κΒ経路の活性化を通じた抗アポトーシス性を示す(Cahir−McFarlandら、2000および2004)。LMP−1は、短い細胞質アミノ末端ドメイン、6つの疎水性膜貫通ドメイン、および細胞質カルボキシ末端ドメインから構成される内在性膜タンパク質である。LMP−1は、腫瘍壊死因子受容体ファミリーのメンバーである活性化CD40を模倣する、構成的に活性化した受容体の働きをすることが実証されている。LMP−1の細胞質カルボキシ末端は、腫瘍壊死因子受容体関連因子(TRAF)および腫瘍壊死因子受容体関連デスドメイン(TRADD)タンパク質と結合することにより、EBVに誘導されるB細胞の形質転換において重要な役割を果たす。
【0118】
LMP−1(BNLF1)遺伝子は、EBVゲノムのBamHI−N領域内に位置する3つのエクソンを含む。ヌクレオチド配列、およびB95−8株EBVのmRNAマッピングを基に、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が特定されている。第1エクソンの上流にED−L1プロモーターが位置し、このプロモーターから開始する転写物が第1のORFをコードする。このORFは、リンパ芽球様細胞株に大量発現する完全長LMP−1(386アミノ酸)をコードする。LMP−1遺伝子の第1イントロン内にED−L1Aプロモーターが位置し、このプロモーターから開始する別の転写物が第2のORFをコードする。この第2のORFの翻訳開始点は完全長LMP−1のメチオニン−129であり、よってこのORFは、LMP−1タンパク質のアミノ末端切断型をコードする。切断されたLMP−1(258アミノ酸)は、完全長LMP−1の第5および第6膜貫通ドメインと細胞質カルボキシ末端からなり、B細胞の溶解感染および再活性化時に発現する(Hudsonら、1985)。
【0119】
EBV核抗原リーダータンパク質(EBNA−LP、またはEBNA−4)は、EBV誘導によるB細胞の形質転換で重要な役割を果たす。このタンパク質は、初代B細胞がEBVに感染した後で最初に発現するEBV潜伏タンパク質の1つである。このことは、このタンパク質が細胞活性化に必要であり、その間の細胞周期進行にとって重要であることを示唆している。この主張を裏付けるさらなる証拠は、EBNA−LPがEBNA−2と共同でサイクリンD2の転写を活性化し(Sinclairら、1994)、また、LMP−1を含むウイルスタンパク質を同時活性化する(HaradaおよびKieff、1997)ことである。
【0120】
D.さらなるエピソームベクター要素
特定の態様では、本発明のエピソームベクターは、核リプログラミング因子をコードする遺伝子用、および/または複製因子をコードする遺伝子用の発現カセットを含む。この発現単位に使用されるプロモーターは、哺乳類細胞に使われる任意のプロモーターでよく、例として、CAGプロモーター、CMVプロモーター、βアクチンプロモーター、SV40プロモーター、PGKプロモーター、およびMuLV LTRプロモーターが挙げられる。このようなプロモーターの下流に、発現させる遺伝子(DNA)を挿入することにより、遺伝子産物の発現が細胞内で達成される。IRES(配列内リボソーム進入部位)を使用することにより、1つのプロモーターの制御下で複数の遺伝子を発現できる。使用するIRESは特に限定されず、例えばヒトHCV由来IRES、ピコルナウイルス由来IRESなどを使用できる。
【0121】
さらなる態様では、エピソームベクター内の発現カセットは、外部的に制御可能な1つ以上のプロモーターの制御下に置かれてよい。特定の態様では、不死化の後にリプログラミング因子を発現させるようにリプログラミング発現カセットを誘導し得る。例えば、複製因子発現カセットを誘導して、不死化またはリプログラミングのための不死化遺伝子またはリプログラミング因子を含むエピソームベクター要素を複製してから、この発現カセットをオフにして、後でエピソームベクター要素を除去することにより、複製を禁止できる。エピソームベクターが複製因子のドミナントネガティブ変異体を含み、この変異体がエピソームベクターの複製に干渉することにより、最終的にエピソームベクターが宿主細胞から消失するようにしてもよい。エピソームベクターが自殺因子を含み、エピソームベクターを保持する細胞を死滅させるように、自殺因子が誘導されてもよい。
【0122】
エピソームベクターが導入された細胞を単離もしくは濃縮するため、または後でベクターを除去するために、エピソームベクターにマーカー遺伝子を保有させることができる。エピソームベクターが導入された細胞を選択する目的で使用できるのであれば、マーカー遺伝子は特に限定されないが、薬剤耐性遺伝子が好適に使用される。細胞選択に使われる薬剤の例として、ネオマイシン(ジェネテシン(G418))、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ゼオシン(zeocin)、およびブラストサイジンが挙げられる。
【0123】
E.ベクターの消失または除去
特定の実施形態では、本方法は、エピソームベクター要素を消失した細胞を選択または濃縮するステップをさらに含み得る。例えば、ベクターを含む細胞の選択がなければ、ベクター要素は徐々に子孫細胞から消失すると考えられる。また、この選択は、マーカー遺伝子の発現に基づく選択または濃縮を含み得る。
【0124】
さらなる実施形態では、本方法は、ベクター除去ステップを含み得る。ベクター除去ステップとは、iPS細胞からエピソームベクターを除去することである。ベクター除去ステップは不要であり得る。その理由は、導入されたエピソームベクターの複製物は細胞増殖中にiPS細胞から次第に減少し、よってiPS細胞集団からエピソームベクターが除去されることになるからである。しかし、エピソームベクターがiPS細胞に残っていると、細胞の未分化状態が不安定となり得、または逆に、細胞が分化能力を失うことがあり得る。したがって、ベクター除去ステップを実施することが好ましい。さらに、エピソームベクターが長期間残っている場合、外来遺伝子が自然に染色体に組み込まれる可能性があり、結果として、レトロウイルスが介在する遺伝子組み込みに見られる問題と同様の問題が生じることになる。したがって、この場合も、外来遺伝子が自然に染色体に組み込まれる可能性を低減する目的で、ベクター除去ステップを実施することが好ましい。これにより、細胞の発癌性形質転換およびその後の細胞機能障害のリスクが低減される。エピソームベクターを排除する方法は特に限定されず、以下に非限定的な方法を示す。
【0125】
1.限界希釈法によるクローニング
上記の通り、エピソームベクターの存在は、時間が経過するにつれて細胞分裂とともに自然に減少する。細胞分裂を可能にするように培養を継続し、限界希釈法を利用して単一クローンを選択することにより、エピソームベクターを含まずiPS細胞だけからなる集団を取得することができる。
【0126】
2.レトロウイルスプロモーターの使用
レトロウイルスプロモーターは、未分化細胞において遺伝子発現を駆動しないことか多いが(Gormanら、1985)、このようなプロモーターからの残存遺伝子発現(residual gene expression)が報告されている(Yuら、2009)。多くの報告で、レトロウイルスベクターは未分化細胞内で不活化することが示されている(例えば、Pannellら、2000)。したがって、例えば、テトラウイルスプロモーターの下流で複製因子をコードする遺伝子を保有するエピソームベクターを使用すれば、体細胞からiPS細胞へのリプログラミングの後、複製因子の発現が停止するか大幅に制限される。その結果、このようなエピソームベクターは複製能力を失い、ベクターを含まずiPS細胞だけからなる集団が徐々に形成される。レトロウイルスプロモーターの下流に連結される遺伝子は、複製因子をコードする遺伝子に限定されず、核リプログラミング因子をコードする遺伝子であり得るが、ベクター複製抑制の観点から言えば、複製因子をコードする遺伝子が好ましい。
【0127】
3.薬剤調節遺伝子発現系の使用
特定薬剤の有無の間で培地条件を切り替えることにより、標的遺伝子産物の発現を調節することができる。この系を利用して、特定の薬剤を培地に加えることにより複製因子の発現が停止するようにした場合、複製因子の発現が阻害され、エピソームベクターが複製能力を失い、その後、エピソームベクターを含まずiPS細胞だけからなる集団が徐々に形成される。薬剤調節遺伝子発現系に用いる薬剤は特に限定されず、このような系の実現を支援できる限り、どの薬剤も好適に使用される。
【0128】
非限定的な例として、公知の系であるTet−Offシステムがある。Tet−Offシステムでは、複製因子をコードする遺伝子を保有しているエピソームベクターを、テトラサイクリン(またはその好適な類似体)を培地に加えると複製因子の発現が停止するように設計することができる。具体的には、例えば、例において使用する一次ベクターを改変して、CMVプロモーターの制御下でtTA(tet調節性転写活性化因子)を発現させ、かつtTA調節性tetO(Tetオペレーター配列)プロモーターの下流で複製因子(ラージT抗原)をコードする遺伝子を保有させることができる。このベクターの複製起点(ori)およびネオマイシン耐性遺伝子は不変である。このようなエピソームベクターを利用した場合、iPS細胞選択の後で培地にテトラサイクリンを加えることにより、複製因子の発現が阻害され、エピソームベクターが複製能力を失い、その後、エピソームベクターを含まずiPS細胞だけからなる集団が徐々に形成される。
【0129】
Tet−Onシステムを利用することも可能である。Tet−Onシステムは、Tet−Offシステムとは逆の方法で調節される。すわなち、培地からテトラサイクリンを除去すると、複製因子の発現が停止する。Tet−Onシステムを利用する場合は、iPS細胞が形成されるまではテトラサイクリンを含む培地を使用し、iPS細胞が形成された時点で、テトラサイクリンを含まない培地と交換すべきである。Tet−OffシステムとTet−Onシステムはクロンテック(Clontech)から市販されている。
【0130】
また、類似の薬剤調節性戦略を、自殺遺伝子、ドミナントネガティブ変異体、または、エピソームベクターからエピソーム除去する他の媒介物の条件的発現にも適用し得る。
【0131】
4.ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼの使用
複製因子をコードする遺伝子および/または核リプログラミング因子をコードする遺伝子を保有するだけでなく、ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子を保有するように、エピソームベクターを作製する。この場合、iPS細胞選択の後に培地にガンシクロビルまたはアシクロビルを加えることにより、エピソームベクター消失のためチミジンキナーゼの発現を停止するiPS細胞が選択的に残存するようになる。よって、エピソームベクターを含まずiPS細胞だけからなる集団を取得することができる。
【0132】
IV.細胞のリプログラミング
本発明のある態様では、不死化体細胞をリプログラミングすることにより、iPS細胞を作製することができる。リプログラミングには、1つ以上の内因性リプログラミング因子の発現を増加させること、或いは、核酸又はタンパク質の形で1つ以上のリプログラミング因子を導入することが含まれ得る。別の態様では、小分子などのシグナル調節因子を用いてリプログラミングの効率を高めることができる。また、フィーダーフリー条件などの培養条件もリプログラミングの促進に用いることができる。
【0133】
A.リプログラミング因子
iPS細胞の生成は、リプログラミング因子の使用によって決定される。以下の因子又はそれらの組合せは、本発明に開示される方法において用いることができる。ある態様では、Sox及びOct(好適にはOct3/4)をコードする核酸が、リプログラミングベクターに組み入れられる。例えば、1つ以上のリプログラミングベクターは、Sox2、Oct4、Nanog、及び必要に応じてLin28をコードする発現カセット、又はSox2、Oct4、Klf4、及び必要に応じてc−Mycをコードする発現カセット、又はSox2、Oct4、及び必要に応じてEsrrbをコードする発現カセット、又はSox2、Oct4、Nanog、Lin28、Klf4、c−Myc、及び必要に応じてSV40ラージT抗原をコードする発現カセットを含み得る。これらのリプログラミング因子をコードする核酸は、同じ発現カセット、異なる発現カセット、同じリプログラミングベクター、又は異なるリプログラミングベクターの中に含まれ得る。
【0134】
Oct4及びSox遺伝子ファミリーのいくつかのメンバー(Sox1、Sox2、Sox3、及びSox15)は、誘導プロセスに関与する重要な転写調節因子として同定され、これらが存在しなければ誘導ができない。一方、Klfファミリーのいくつかのメンバー(Klf1、Klf2、Klf4、及びKlf5)、Mycファミリー(c−Myc、L−Myc、及びN−Myc)、Nanog、及びLin28を含む別の遺伝子は、誘導効率を上げるものとして同定されている。
【0135】
Oct4(Pou5fl)は、八量体(「Oct」)転写因子のファミリーの1つであり、多能性の維持において重要な役割を果たす。割球及び胚性幹細胞などのOct4
+細胞にOct4が存在しない場合、自然に栄養膜細胞への分化が起きるため、Oct4の存在により胚性幹細胞の多能性及び分化能がもたらされている。Oct4の類縁体、Oct1、及びOct6を含む、「Oct」ファミリーの他の様々な遺伝子は、誘導を引き起こすことができず、これにより誘導プロセスに対するOct4の特殊性が示されている。
【0136】
Soxファミリーの遺伝子は、Oct4と同様に多能性の維持に関連しているが、多能性幹細胞のみに発現されるOct4とは対照的に、多能性及び単能性の幹細胞に関連している。Sox2は、Yamanakaら、Jaenischら、及びThompsonらによって導入に用いられた初期の遺伝子であるが、Soxファミリーの他の遺伝子も、誘導プロセスで機能することが見出されている。Sox1は、Sox2と同様の効率でiPS細胞を産生し、Sox3、Sox15、及びSox18遺伝子も、低効率であるがiPS細胞を発生させる。
【0137】
胚性幹細胞では、Nanogは、Oct4及びSox2と共に、多能性の促進に必要である。そのため、Nanogを因子の1つとしてiPS細胞の作製が可能であるとThomsonらが報告していたが、iPS細胞の作製にNanogは不要であるというYamanakaらの報告は驚くべきものであった。
【0138】
Lin28は、分化及び増殖に関連して胚性幹細胞及び胚性癌細胞で発現されるmRNA結合タンパク質である。Thomsonらにより、Lin28はiPS作製における因子の1つであるが、不要であることが示されている。
【0139】
Klfファミリーの遺伝子のうちのKlf4は、Yamanakaらによって最初に同定され、JaenischらによってマウスiPS細胞の作製の因子の1つとして確認され、また、YamanakaらによってヒトiPS細胞の作製の因子の1つであることが示されている。しかし、Thompsonらは、Klf4はヒトiPS細胞の作製に不要であり、実際にヒトiPS細胞は作製できなかったと報告している。Klf2及びKlf4は、iPS細胞を作製することが可能な因子であることが見出され、関連遺伝子Klf1及びKlf5も、低効率であるが同様である。
【0140】
Mycファミリーの遺伝子は、癌に関与するプロト癌遺伝子である。Yamanakaら及びJaenischらにより、c−MycはマウスiPS細胞の作製に関与する因子であることが示され、また、Yamanakaらにより、c−MycがヒトiPS細胞の作製に関与する因子であることが示されている。しかし、Thomsonら及びYamanakaらにより、c−MycはヒトiPS細胞の作製に不要であることが報告されている。iPS細胞の誘導における「Myc」ファミリーの遺伝子の使用については、c−Myc誘導iPS細胞を移植したマウスの25%で致死的な奇形腫を発症しており、臨床治療としてはiPS細胞の最終的結果に問題がある。N−Myc及びL−MycもiPS細胞の作製に寄与することができ、c−Mycと同様の効率が得られる。SV40ラージT抗原は、c−Mycが発現された際に起こり得る細胞傷害性を軽減又は防止するために用いることができる。
【0141】
本発明において使用されるリプログラミングタンパク質は、ほぼ同じリプログラミング機能をもつ相同タンパク質で置き換えることができる。これらの相同体をコードする核酸も、リプログラミングに用いることができる。保存的アミノ酸置換が好ましく、すなわち、例えば以下が挙げられる:極性酸性アミノ酸としてアスパラギン酸−グルタミン酸;非極性又は疎水性アミノ酸としてロイシン/イソロイシン/メチオニン/バリン/アラニン/グリシン/プロリン;極性塩基性アミノ酸としてリジン/アルギニン/ヒスチジン;極性又は非荷電親水性アミノ酸としてセリン/スレオニン。保存的アミノ酸置換には、側鎖に基づく分類も含まれる。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸群は、セリン及びスレオニンであり;含アミド側鎖を有するアミノ酸群は、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸群は、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸群は、リジン、アルギニン、及びヒスチジンであり;含硫黄側鎖を有するアミノ酸群は、システイン及びメチオニンである。例えば、ロイシンのイソロイシン又はバリンによる置換、アスパラギン酸のグルタミン酸による置換、スレオニンのセリンによる置換、又は、同様にあるアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸による置換は、得られるポリペプチドの特性に大きな影響を与えないと考えられる。アミノ酸の変化により機能性ポリペプチドが生じるかどうかは、ポリペプチドの比活性度を測定することで容易に決定することができる。
【0142】
B.リプログラミングシグナル伝達阻害剤
本発明のある態様では、細胞は、リプログラミングプロセスの少なくとも一部の間で、シグナル伝達カスケードに関与するシグナル伝達物質を阻害する1つ以上のシグナル伝達阻害剤の存在下、例えば、MEK阻害剤、GSK−3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、MEK阻害剤及びGSK−3阻害剤の両方、GSK−3阻害剤及びTGF−β受容体阻害剤の両方、MEK阻害剤及びTGF−β受容体阻害剤の両方、これら3つの阻害剤すべての組み合わせ、又は、これらと同じ経路内の他のシグナル伝達物質の阻害剤の存在下に維持される場合がある。ある態様では、HA−100若しくはH−1152などのROCK阻害剤、又はブレビスタチンなどのミオシンII ATPアーゼ阻害剤を用いて、リプログラミングした細胞及び得られるiPS細胞のクローン増殖を促進することができる。
【0143】
高濃度のFGFを、ヒトES細胞条件培地又は無血清合成N2B27培地などの特定のリプログラミング培地と組み合わせて用いることで、リプログラミング効率を高めることができる。本発明において用いられる、外部から加えるFGF、シグナル伝達阻害剤、又は他の薬品(β−メルカプトエタノールなど)の量は、少なくとも、およそ、又は最大で、0.1、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900ng/mL、少なくとも、およそ、又は最大で、0.05、0.1、0.2、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900μΜ、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mM、若しくはその中から得られる任意の範囲、又はエピソーム性リプログラミングを向上するのに有効な濃度であってよい。特定の実施形態では、高濃度のFGFを用いてもよく、例えば約40〜200ng/mLであり、より具体的には約100ng/mLである。シグナル伝達阻害剤を用いた細胞のリプログラミングの方法に関する更なる詳細は、米国特許出願第61,258,120号に開示されており、参照により本明細書に取り込まれる。
【0144】
ある実施形態では、エピソームベクターの成分により1つ以上のリプログラミング因子(例えば、本明細書に記載するように、2つ、3つ、又はそれ以上)を細胞に導入することに加えて、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、GSK−3阻害剤、及び必要に応じて白血病抑制因子(LIF)を含むリプログラミング培地によって、細胞を処理する。これらの分子を用いることで、リプログラミングの効率及び速度を向上することができ、これによりリプログラミングの初代培養におけるiPS細胞の確認が容易になり、したがってiPS細胞のクローン性を維持できる。
【0145】
これらの態様及び実施形態では、同じシグナル伝達経路(例えばERK1又はERK2カスケード)のシグナル伝達成分を阻害する他のシグナル伝達阻害剤は、必要に応じて、MEK阻害剤の代替となり得ることが理解される。これは、MAPK経路の上流の刺激の阻害、具体的にはFGF受容体を介した阻害(Ying, 2008)を含み得る。同様に、GSK−3阻害剤は、必要に応じて、GSK−3関連シグナル伝達経路(例えば、インスリン合成及びWnt/βカテニンシグナル伝達)の他の阻害剤を代替することができる;LIFは、必要に応じて、Stat3又はgp130シグナル伝達の他の活性化因子の代替となり得る。
【0146】
このようなシグナル伝達阻害剤、例えばMEK阻害剤、GSK−3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤は、少なくとも、又はおよそ、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500から約1000μΜ、又はその中から得られる任意の範囲の有効濃度で用いることができる。
【0147】
阻害剤は、当業者によって常法により得ることができ、又は一般的な供給者から提供され得る(国際公開第2007113505号も参照)。
【0148】
1.グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)は、特定の細胞基質中でセリン及びスレオニンアミノ酸へのリン酸分子の付加を媒介するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。GSK−3によるこれらのその他のタンパク質のリン酸化は、通常、標的タンパク質(「基質」とも呼ばれる)を阻害する。すでに述べたように、GSK−3はグリコーゲン合成酵素をリン酸化し、それにより不活性化することで知られている。また、損傷したDNA及びWntのシグナル伝達に対する細胞応答の調節にも関与している。また、GSK−3は、ヘッジホッグ(Hh)経路のCiをリン酸化し、それを不活性型へのタンパク質分解の標的とする。グリコーゲン合成酵素に加えて、GSK−3はほかにも多くの基質を有する。しかし、通常、基質を最初にリン酸化するには「プライミングキナーゼ」を必要とし、この点で他のキナーゼ類とは異なっている。
【0149】
通常、GSK−3のリン酸化の結果、基質が阻害される。例えば、GSK−3が、その基質の別のものである転写因子のNFATファミリーをリン酸化すると、これらの転写因子は細胞核へ移行できなくなり、そのため阻害される。GSK−3は、発生の過程での組織パターン形成の確立に必要なWntシグナル伝達経路における重要な役割に加えて、骨格筋肥大などの調節において誘導されるタンパク質合成に関しても重要である。また、NFATキナーゼとしての役割から、分化及び細胞増殖の両方における重要な制御因子としても位置付けられる。
【0150】
GSK−3の阻害とは、1つ以上のGSK−3酵素の阻害ということができる。GSK−3酵素ファミリーはよく知られており、多くの変異体が報告されている(Schaffer et al., 2003参照)。特定の実施形態では、GSK3−βが阻害される。GSK3−α阻害剤も適合しており、ある態様では、本発明において用いられる阻害剤は、GSK3−αとGSK3−βの両方を阻害する。
【0151】
GSK−3の阻害剤には、GSK3に結合する抗体、GSK3の優性阻害変異体、並びに、GSK3を標的とするsiRNA及びアンチセンス核酸が含まれる。GSK−3阻害剤の例は、Bennett et al., (2002)及びRing et al., (2003)に記載されている。
【0152】
GSK−3阻害剤の具体的な例としては、これらに限定されないが、ケンパウロン、l−アザケンパウロン、CHIR99021、CHIR98014、AR−A014418(例えば、Gould et al., 2004を参照)、CT99021(例えば、Wagman, 2004を参照)、CT20026(上記Wagmanを参照)、SB415286、SB216763(例えば、Martinet al., 2005を参照)、AR−A014418(例えば、Noble et al., 2005を参照)、リチウム(例えば、Gould et al.,2003を参照)、SB415286(例えば、Frame et al., 2001を参照)、及びTDZD−8(例えば、Chin et al., 2005を参照)などが含まれる。Calbiochemから入手可能な更なる例示的なGSK−3阻害剤としては(例えば、Daltonet al.、国際公開第2008/094597号を参照;参照により本明細書に取り込まれる)、これらに限定されないが、BIO(2’Z,3’L)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(GSK−3阻害剤IX);BIO−アセトキシム(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム(GSK−3阻害剤X);(5−メチル−1H−ピラゾール−3−イル)−(2−フェニルキナゾリン−4−イル)アミン(GSK−3阻害剤XIII);ピリドカルバゾール−シクロペンタジエニルルテニウム複合体(GSK−3阻害剤XV);TDZD−8 4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(GSK−3β阻害剤I);2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(l−ピリジル)−[1,3,4]−オキサジアゾール(GSK−3β阻害剤II);OTDZT 2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(GSK−3β阻害剤III);α−4−ジブロモアセトフェノン(GSK−3β阻害剤VII);AR−AO14418 N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)ウレア(GSK−3β阻害剤VIII);3−(1−(3−ヒドロキシプロピル)−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル]−4−ピラジン−2−イル−ピロール−2,5−ジオン(GSK−3β阻害剤XI);TWS1 19 ピロロピリミジン化合物(GSK−3β阻害剤XII);L803 H−KEAPP APPQSpP−NH2又はそのミリストイル化物(GSK−3β阻害剤XIII);2−クロロ−1−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン(GSK−3β阻害剤VI);AR−A0144−18;SB216763;及びSB415286が含まれる。
【0153】
GSK−3阻害剤は、例えば、Wnt/β−カテニン経路を活性化することができる。β−カテニンの下流の遺伝子の多くは、多能性遺伝子のネットワークを同時制御している。例えば、GSK−3阻害剤は、c−Mycの発現を活性化し、またそのタンパク質安定性及び転写活性を増強する。そのため、いくつかの実施形態では、GSK−3阻害剤は、細胞内での内因性Mycポリペプチドの発現を刺激するために用いることができ、それにより多分化能を誘導するために必要なMycの発現を省くことができる。
【0154】
また、GSK−3βの活性部位の構造は特徴付けられており、特異的及び非特異的な阻害剤と相互作用する鍵残基も同定されている(Bertrand et al., 2003)。この構造の特徴付けにより、その他のGSK阻害剤の同定を容易に行うことができる。
【0155】
本発明において用いられる阻害剤は、好適には、標的とするキナーゼに特異的である。ある実施形態の阻害剤は、GSK−3β及びGSK−3αに特異的で、erk2を実質的に阻害せず、またcdc2を実質的に阻害しない。好適には、阻害剤は、IC
50値の比率で、ヒトGSK−3に対してマウスerk2及び/又はヒトcdc2の少なくとも100倍、より好適には少なくとも200倍、さらに好適には少なくとも400倍の選択性を有する;ここで、GSK−3のIC
50値とは、ヒトGSK−3β及びGSK−3αの平均値を指す。GSK−3に特異的なCHIR99021では、良好な結果が得られている。CHIR99021の適切な使用濃度は、0.01〜100マイクロモル、好適には0.1〜20マイクロモル、より好適には0.3〜10マイクロモルの範囲である。
【0156】
2.MEK阻害剤
本発明のある態様では、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼ又はMEK)又はそれに関連するMAPKカスケードなどのシグナル伝達経路の阻害剤を含む、MEK阻害剤を用いることができる。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(sic)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼをリン酸化するキナーゼ酵素である。また、MAP2Kとしても知られる。細胞外刺激により、MAPキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼ(MEK、MKK、MEKK、又はMAP2K)、及びMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MKKK又はMAP3K)からなるシグナル伝達カスケード(「MAPKカスケード」)を通じて、MAPキナーゼが活性化される。
【0157】
本明細書において、MEK阻害剤とはMEK阻害剤全般を意味する。したがって、MEK阻害剤とは、MEK1、MEK2及びMEK5を含む、タンパク質キナーゼのMEKファミリーのメンバーに対する任意の阻害剤を意味する。MEK1、MEK2及びMEK5についても言及される。当技術分野で周知の適切なMEK阻害剤の例としては、MEK1の阻害剤であるPD184352及びPD98059、MEK1及びMEK2の阻害剤U0126及びSL327、並びにDavies et al., (2000)に記載されるものが含まれる。
【0158】
特に、PD184352及びPD0325901は、他の既知のMEK阻害剤と比較して、高い特異性と有効性を持つことが見出されている(Bain et al. , 2007)。その他のMEK阻害剤及びMEK阻害剤のクラスについては、Zhang et al., (2000)に記載されている。
【0159】
MEKの阻害剤には、MEKの抗体、MEKの優性阻害変異体、MEKの発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸が含まれ得る。MEK阻害剤の具体的な例としては、これらに限定されないが、PD0325901(例えば、Rinehart et al., 2004を参照)、PD98059(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(例えば、Sigma−Aldrichから入手可能)、ARRY−162(例えば、Array Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えば、Kleinet al., 2006を参照)、PD184352(CI−1040)(例えば、Mattingly et al., 2006を参照)、スニチニブ(例えば、Voss,et al.、米国特許出願第2008004287号を参照;参照により本明細書に取り込まれる)、ソラフェニブ(上記Vossを参照)、バンデタニブ(上記Vossを参照)、パゾパニブ(例えば、上記Vossを参照)、アキシチニブ(上記Vossを参照)、及びPTK787(上記Vossを参照)が含まれる。
【0160】
現在、いくつかのMEK阻害剤について臨床試験の評価が行われている。CI−1040は、癌のフェーズI及びII臨床試験で評価が行われている(例えば、Rinehart et al., 2004を参照)。臨床試験で評価が行われている他のMEK阻害剤としては、PD184352(例えば、Englishet al., 2002を参照)、BAY 43−9006(例えば、Chow et al., 2001を参照)、PD−325901(また、PD0325901)、GSKl 120212、ARRY−438162、RDEAl 19、AZD6244(また、ARRY−142886又はARRY−886)、RO5126766、XL518、及びAZD8330(また、ARRY−704)。
【0161】
MEKの阻害は、RNA干渉(RNAi)を利用することで簡便に達成することもできる。一般的には、MEK遺伝子の全体又は一部に相補的な二本鎖RNA分子を多能性細胞に導入することで、MEKをコードするmRNA分子の特異的分解を促進する。この転写後の機構により、標的MEK遺伝子の発現が減少又は失われる。RNAiを利用してMEKを阻害する適切な手法及びプロトコールは周知である。
【0162】
GSK−3阻害剤及びMEK阻害剤を含むキナーゼ阻害剤を同定する多くの試験法が知られている。例えば、Davies et al., (2000)では、キナーゼをペプチド基質と放射性標識ATPの存在下でインキュベートする試験法が記載されている。キナーゼによる基質のリン酸化により、標識が基質に組み込まれる。各反応の一定分量をホスホセルロースペーパー上に固定し、リン酸中で洗い、遊離ATPを除去する。その後、インキュベーション後の基質の活性を測定し、キナーゼ活性の指標を得る。このような試験法により、キナーゼ阻害剤候補物質の存在及び非存在での相対キナーゼ活性を容易に測定することができる。また、Downeyet al., (1996)では、キナーゼ阻害剤の同定に用いることができるキナーゼ活性の試験法が記載されている。
【0163】
3.TGF−β受容体阻害剤
TGF−β受容体阻害剤は、TGFシグナル伝達全般の任意の阻害剤、又はTGF−β受容体(例えば、ALK5)阻害剤に特異的な阻害剤を含み、TGF−β受容体(例えば、ALK5)の抗体、その優性阻害変異体、並びにその発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸が含まれ得る。TGF−β受容体/ALK5阻害剤の例としては、これらに限定されないが、SB431542(例えば、Inman et al., 2002を参照)、A−83−01、別名3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド(例えば、Tojoet al., 2005を参照、また、例えば、Toicris Bioscienceより入手可能);2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、Dalton,et al.、国際公開第2008/094597号参照;参照により本明細書に取り込まれる)、BMP4(上記Daltonを参照)、GW788388(−(4−[3−(ピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル]ピリジン−2−イル}−N−(テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibertet al., 2006を参照)、SM16(例えば、Suzuki et al., 2007を参照)、IN−1130(3−((5−(6−メチルピリジン−2−イル)−4−(キノキサリン−6−イル)−1H−イミダゾール−2−イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kimet al., 2008を参照)、GW6604(2−フェニル−4−(3−ピリジン−2−イル−1H−ピラゾール−4−イル)ピリジン)(例えば、deGouville et al., 2006を参照)、SB−505124(2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンヒドロクロライド)(例えば、DaCostaet al., 2004を参照)、及びピリミジン誘導体(例えば、Stiefl et al.、国際公開第2008/006583号に挙げられるものを参照;参照により本明細書に取り込まれる)が含まれる。
【0164】
また、「ALK5阻害剤」は非特異的キナーゼ阻害剤を含むことを意図しないが、「ALK5阻害剤」には、ALK5に加えてALK4及び/又はALK7を阻害する阻害剤、例えば、SB−431542(例えば、Inman et al., 2002を参照)などが含まれる。本発明の範囲を限定するものではないが、ALK5阻害剤は、間葉系から上皮系への転換/移行(MET)プロセスに作用すると考えられている。TGF−β/アクチビン経路は、上皮系から間葉系への移行(EMT)を推進する。TGF−β/アクチビン経路を阻害することで、MET(すなわち、リプログラミング)プロセスが促進されると考えられている。
【0165】
TGF−β/アクチビン経路の阻害も同様の効果があると考えられている。そのため、本明細書に記載するように、TGF−β/アクチビン経路の任意の阻害剤(例えば、上流又は下流)を、TGF−β/ALK5阻害剤と組み合わせて、又はその代わりに用いることができる。TGF−β/アクチビン経路の阻害剤の例としては、これらに限定されないが、TGF−β受容体阻害剤、SMAD2/3リン酸化の阻害剤、SMAD2/3及びSMAD4の相互作用の阻害剤、並びに、SMAD6及びSMAD7の活性化因子/アゴニストが含まれる。また、本明細書に記載する分類は、単に体系化を目的としており、当業者においては、化合物は経路内の1つ以上の点に作用することができ、そのため、定義した分類の2つ以上において機能し得ることが理解される。
【0166】
TGF−β受容体阻害剤には、TGF−β受容体の抗体、TGF−β受容体の優性阻害変異体、並びにTGF−β受容体を標的とするsiRNA又はアンチセンス核酸が含まれ得る。阻害剤の具体的な例としては、これらに限定されないが、SU5416;2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンヒドロクロライド(SB−505124);レルデリムマブ(lerdelimumb)(CAT−152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT−192);GC−1008;IDl 1;AP−12009;AP−11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB−505124;SB−431542;SD−208;SM16;NPC−30345;Κi26894;SB−203580;SD−093;グリベック;3,5,7,2’,4’−ペンタヒドロキシフィアボン(pentahydroxyfiavone)(Morin);アクチビン−M108A;P144;可溶性TBR2−Fc;及び、TGF−β受容体を標的とするアンチセンストランスフェクト腫瘍細胞(例えば、Wrzesinskiet al., 2007;Kaminska et al., 2005;及びChang et al., 2007を参照)が含まれる。
【0167】
C.リプログラミング細胞の培養
開示する方法を用いて、不死化体細胞にリプログラミング因子を導入した後、これらの細胞を多能性の維持に十分な培養液中で培養することができる。本発明において作製した誘導多能性幹(iPS)細胞の培養には、霊長類多能性幹細胞、より具体的には胚性幹細胞の培養のために開発された様々な培養液や手法を用いることができ、これらは米国特許出願第20070238170号及び第20030211603号に記載されている。当業者において周知である、ヒト多能性幹細胞の培養及び維持のためのその他の方法も、本発明に使用し得ることが理解される。
【0168】
ある実施形態では、非既知条件を用いることができる;例えば、幹細胞を未分化の状態に維持するために、多能性細胞を線維芽細胞フィーダー細胞で培養するか、又は線維芽細胞フィーダー細胞にさらした培養液で培養することができる。また、合成したフィーダー非依存培養系、例えばTeSR培養液などを用いて、多能性細胞を本質的に未分化の状態で培養、維持することができる(Ludwig et al., 2006a;Ludwig et al., 2006b)。フィーダー非依存培養系及び培養液は、多能性細胞の培養、維持に用いることができる。これらの手法により、マウス線維芽細胞の「フィーダー層」を必要とせずに、iPS細胞を本質的に未分化の状態に維持することができる。本明細書に記載するように、必要に応じてコストを削減するため、これらの手法に様々な変更を加えることができる。
【0169】
例えば、ヒト胚性幹(hES)細胞のように、iPS細胞は、80%のDMEM(Gibco#10829−018又は#11965−092)、20%の非熱失活合成ウシ胎児血清(FBS)(又はヒトAB血清)、1%の非必須アミノ酸、1mMのL−グルタミン、及び0.1mMのβ−メルカプトエタノール中で維持することができる。また、iPS細胞は、80%のKnock−Out DMEM(Gibco#10829−018)、20%の血清代替物(Gibco #10828−028)、1%の非必須アミノ酸、1mMのL−グルタミン、及び0.1mMのβ−メルカプトエタノールからなる無血清培地中で維持することができる。使用直前に、ヒトbFGFを最終濃度約4ng/mLで加えてもよく(国際公開第99/20741号)、又は、実施例に記載のように、ゼブラフィッシュbFGFを代わりに用いてもよい。
【0170】
ヒト多能性幹細胞の培養及び維持においては、様々な基質成分を用いることができ、好適にはフィーダー細胞の代わりに用いることができる。例えば、Ludwig et al. (2006a; 2006b)(参照によりそれら全体が本明細書に取り込まれる)に記載されるように、多能性細胞の成長のための固体担体を提供する手段として、マトリゲル(登録商標)、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチンの組み合わせを用いて、培養表面をコーティングすることができる。特に、マトリゲル(登録商標)は、細胞培養及びヒト多能性幹細胞の維持のための基材を提供するために用いることができる。マトリゲル(登録商標)は、マウスの腫瘍細胞から分泌されるゼラチン状のタンパク質混合物で、BD Biosciences(米国、ニュージャージー州)から入手できる。この混合物は、多くの組織に見られる複雑な細胞外環境に似ており、細胞培養のための基材として細胞生物学者に用いられている。
【0171】
ES細胞と同様に、iPS細胞は特徴的な抗原を有しており、それらは免疫組織化学又はフローサイトメトリーによって、SSEA−1、SSEA−3及びSSEA−4に対する抗体(Developmental Studies Hybridoma Bank、National Institute of Child Health and Human Development、Bethesda Md.)、並びにTRA−1−60及びTRA−1−81(Andrews et al., 1987)を用いることで同定又は確認することができる。胚性幹細胞の多能性は、約0.5〜10x10
6個の細胞を8〜12週齡の雄のSCIDマウスの後肢筋に注入することで確認できる。3つの胚葉それぞれの少なくとも1つの細胞型を示す奇形腫が発生する。
【0172】
V.リプログラミング因子の発現及び形質導入
本発明のある態様では、リプログラミング因子は、1つ以上のベクターに含まれる発現カセットから発現される。ベクターは、組み込み型ベクター又はエピソームベクターでもよい。別の態様では、リプログラミングタンパク質を、タンパク質形質導入によって体細胞に直接導入することができる(米国特許出願第61/172,079号を参照;参照により本明細書に取り込まれる)。
【0173】
A.組み込み型ベクター及びエピソームベクター
本発明において、iPS細胞は、リプログラミングタンパク質をコードする特定の核酸又は遺伝子を、例えば形質転換B細胞などの非多能性細胞に組み込むことで、作製することができる。DNAデリバリーは、一般的に、現在の手法においてレトロウイルスなどのウイルスベクターを組み込むことで達成される。導入される遺伝子には、マスター転写調節因子Oct4(Pouf51)及びSox2が含まれるが、他の遺伝子も誘導効率を高めることが示唆されている。臨界期の後、少数の形質導入細胞で、多能性幹細胞との形態学的及び生化学的な類似化が始まり、形態学的な選択、倍加時間、又はレポーター遺伝子及び抗生物質の選択によって単離することができる。
【0174】
2007年11月に、2つの別個の研究チームによって、成人ヒト線維芽細胞からiPSを作製するという画期的成果が達成された(Yu et al., 2007;Yamanaka et al., 2007)。Yamanakaは、これまでにマウスモデルで使用されたものと同じ原理により、レトロウイルス系を用いて同じ4つの中心的な遺伝子:Oct4、Sox2、Klf4、及びc−Mycでヒト線維芽細胞を多能性幹細胞に形質転換することに成功したが、c−Mycは発癌性である。Thomsonらは、c−Mycを使用せず、レンチウイルス系によりOct4、Sox2、Nanog、及び異なる遺伝子Lin28を用いている。
【0175】
上述のように、ヒト皮膚線維芽細胞からの多能性幹細胞の誘導は、リプログラミング遺伝子の異所的発現のためのレトロウイルス又はレンチウイルスベクターを用いて達成されている。モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)などの組換えレトロウイルスは、安定して宿主ゲノムに組み込むことができる。これらは、宿主ゲノムへの組み込みを可能にする逆転写酵素を含んでいる。レンチウイルスは、レトロウイルスのサブクラスである。レンチウイルスは、非分裂及び分裂細胞のゲノムに組み込む能力により、ベクターとして広く適用されている。RNAの形態のウイルスゲノムは、ウイルスが細胞に侵入すると逆転写されてDNAを産生し、その後DNAはウイルスインテグラーゼ酵素によってランダムな位置でゲノムに挿入される。
【0176】
リプログラミング因子遺伝子の導入は、トランスポゾン−転移酵素系を用いて達成することもできる。そのような使用可能なトランスポゾン−転移酵素系としては、Sleeping Beauty系、Frog Prince系(後者の説明に関しては、欧州特許第1507865号を参照)、又はTTAA特異的piggyBac系がある。
【0177】
トランスポゾンは、単一細胞のゲノム内で異なる位置に移動することが可能なDNAの配列で、このプロセスは転位と呼ばれる。このプロセスでは、トランスポゾンは変異を引き起こし、ゲノム内のDNAの量を変化させることができる。トランスポゾンは、かつてジャンピング遺伝子と呼ばれていたこともあり、可動性遺伝因子の例である。
【0178】
可動性遺伝因子には様々なものが存在し、転位のメカニズムに基づいて分類することができる。クラスI可動性遺伝因子、又はレトロトランスポゾンは、最初にRNAに転写されてそれ自身をコピーし、続いて、逆転写酵素によってDNAに逆転写され、その後、ゲノムの別の位置に挿入される。クラスII可動性遺伝因子は、転移酵素によってゲノム内で「切り貼り」を行うことで、ある位置から別の位置に直接移動する。
【0179】
本明細書においてすでに述べたように、これらのリプログラミング方法は、染色体外複製ベクター(ずなわち、エピソームベクター)を用いることもでき、これらのベクターはエピソームとして複製することができ、iPS細胞に外来のベクター又はウイルス成分を本質的に含まないようにすることができる(米国特許公開第2010/0003757号を参照;参照により本明細書に取り込まれる;Yu et al., 2009)。
【0180】
B.タンパク質形質導入
外来性遺伝子改変が標的細胞に導入されるのを防ぐための1つの考えられる方法は、送達される遺伝子の転写に依存するのではなく、リプログラミングタンパク質を直接細胞に導入することである。これまでの研究により、HIV Tatやポリアルギニンなどのタンパク質形質導入を媒介する短ペプチドを結合させることで、様々なタンパク質をインビトロ及びインビボで細胞に送達できることが示されている。ある最近の研究では、組換えリプログラミングタンパク質を直接送達することで、マウス線維芽細胞を多能性幹細胞に完全にリプログラミングできることが示されている(Zhou et al., 2009)。タンパク質形質導入で細胞をリプログラミングする方法に関する更なる詳細は、米国特許出願第61/172,079号に開示されている(参照により本明細書に取り込まれる)。
【0181】
本発明のある態様では、タンパク質形質導入ドメインを用いて、リプログラミングタンパク質を不死化体細胞に直接導入することができる。タンパク質形質導入により、リプログラミングタンパク質の細胞への送達を促進することができる。例えば、HIV Tatタンパク質に由来するTatタンパク質のある領域を標的タンパク質に融合し、標的タンパク質の細胞への侵入を可能にすることができる。これらの形質導入ドメインの融合を用いる利点は、タンパク質の侵入が迅速で、濃度依存的であり、また様々な種類の細胞に働くとみられる点である。
【0182】
本発明の別の態様では、核局在配列を用いて、リプログラミングタンパク質の核侵入を容易にすることもできる。核局在シグナル(NLS)は、様々なタンパク質について説明されている。核へのタンパク質輸送は、核局在シグナルを含む標的タンパク質がカリオフェリンのαサブユニットに結合することによって起こる。これに続いて、標的タンパク質:カリオフェリン複合体が核孔を介して核へ輸送される。しかし、リプログラミングタンパク質は、内因性核局在配列を有する転写因子である場合が多い。したがって、核局在配列は、必ずしも必要ではない。
【0183】
リプログラミングタンパク質の体細胞への直接導入を本発明に用いることができ、その場合、リプログラミングタンパク質はタンパク質形質導入ドメイン(PTD)に作用的に連結されており、この連結は、そのようなドメインを含む融合タンパク質を作製するか、又はリプログラミングタンパク質とPTDを各分子上の官能基を介して化学的に架橋結合することによって行われる。
【0184】
標準的な組換え核酸法を用いて、本発明で使用される1つ以上の形質導入可能なリプログラミングタンパク質を発現させることができる。ある実施形態では、形質導入可能なタンパク質をコードする核酸配列を、例えば、転写及び翻訳のための適切なシグナル及びプロセシング配列及び制御配列を有する核酸発現ベクターにクローニングする。別の実施形態では、タンパク質は、自動有機合成法を用いて合成することができる。
【0185】
また、タンパク質の細胞への輸送にも役立ち得るいくつかの方法があり、これらの1つ以上の方法を単独で使用するか、又は、これらに限定されないが、微量注入、エレクトロポレーション、及びリポソームの使用を含むタンパク質形質導入ドメインを用いた方法と組み合わせて使用することができる。これらの方法の多くは、精製したタンパク質調製物を必要とする場合がある。多くの場合、組換えタンパク質の精製は、親和性タグを発現構築物に組み込むことで容易になり、精製工程が迅速かつ効率的になる。
【0186】
VI.ベクターの構築及び送達
ある実施形態では、不死化及び/又はリプログラミングのためのベクターは、細胞内に、上述のような不死化遺伝子又はリプログラミング因子などの様々な成分をコードする核酸配列に加えて、他の要素を含むように構築することができる。これらのベクターの成分及び送達方法の詳細を以下に開示する。
【0187】
A.ベクター
当業者においては、標準的な組換え技術によってベクターを構築することができると考えられる(例えば、Maniatis et al., 1988及びAusubel et al., 1994を参照;ともに参照により本明細書に取り込まれる)。
【0188】
ベクターは、遺伝子送達及び/又は遺伝子発現をさらに調節する、又は標的細胞に有利な特性を他の方法で付与する、その他の成分又は機能も含むことができる。このような他の成分には、例えば、細胞への結合又は標的化に影響を与える成分(細胞型又は組織特異的な結合を媒介する成分を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を与える成分;取り込み後の細胞内のポリヌクレオチドの局在化に影響を与える成分(核局在化を媒介する作用物質など);及び、ポリヌクレオチドの発現に影響を与える成分が含まれる。
【0189】
また、このような成分には、ベクターによって送達された核酸を取り込んで発現している細胞の検出又は選択に用いることができる検出及び/又は選択マーカーなどのマーカーも含まれ得る。このような成分は、ベクターの天然の特徴として提供することができ(例えば、結合及び取り込みを媒介する成分又は機能性を有する特定のウイルスベクターの使用)、又は、ベクターをこのような機能性を提供するように改変することができる。このようなベクターは、様々なものが当技術分野で公知であり、一般に入手可能である。ベクターが宿主細胞に維持されている場合、ベクターは、自律構造物として有糸分裂の間に細胞によって安定的に複製されるか、宿主細胞のゲノム内に組み込まれるか、又は宿主細胞の核若しくは細胞質内に維持される。
【0190】
B.調節要素
ベクターに含まれる真核生物発現カセットは、好適には、タンパク質コード配列、介在配列を含むスプライシングシグナル、及び転写停止/ポリアデニル化配列に作動可能に連結された真核生物転写プロモーターを含む(5’から3’方向)。
【0191】
1.プロモーター/エンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始及び速度を制御する核酸配列の領域である制御配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼや他の転写因子などの調節タンパク質及び分子が結合して核酸配列の特異的な転写を開始する遺伝子要素を含む場合がある。「作用的に配置された」、「作用的に連結された」、「制御下」及び「転写制御下」とは、プロモーターが核酸配列に対して正しい機能位置及び/又は向きにあって、その配列の転写開始及び/又は発現を制御することを意味する。
【0192】
本発明のEBNA−1をコードするベクターでの使用に適したプロモーターは、EBNA−1タンパク質をコードする発現カセットの発現を誘導して、EBNA−1タンパク質を十分な定常状態のレベルにし、EBV oriPを含むベクターを安定的に維持するプロモーターである。また、プロモーターは、リプログラミング因子をコードする発現カセットの効率的な発現のためにも用いることができる。
【0193】
プロモーターは、一般に、RNA合成の開始部位の位置を決定する配列を含む。最もよく知られている例はTATAボックスであるが、TATAボックスを持たない一部のプロモーター、例えば、哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター及びSV40後期遺伝子のプロモーターなどでは、開始部位自体の上にある別個の要素が、開始位置の決定を補助する。別のプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30〜110塩基対上流の領域に位置するが、多数のプロモーターで、開始部位の下流でも機能要素を含むことが示されている。コード配列をプロモーター「の制御下」に置くためには、選択されたプロモーターの「下流」の(すなわち、3’側の)転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端の位置を決定する。「上流」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0194】
プロモーター要素間の間隔は、柔軟である場合が多いため、要素が互いに対して逆転又は移動しても、プロモーターの機能は保たれる。例えば、HSV−tkプロモーターでは、プロモーター要素間の間隔は、活性が低下し始めるまでに50塩基対まで広げることができる。プロモーターに応じて、個々の要素は協働又は独立して機能し、転写を活性化することができる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列である「エンハンサー」と共に用いてもよい。
【0195】
プロモーターは、核酸配列に天然に結合されたものでもよく、コードセグメント及び/又はエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することで得ることができる。このようなプロモーターは、「内因性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、核酸配列に天然に結合され、その配列の下流又は上流に位置してもよい。また、自然環境では通常は核酸配列に結合されていないプロモーターを意味する組換え又は異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを置くことによって、一定の利点が得られる。同様に、組換え又は異種エンハンサーは、自然環境では通常は核酸配列に結合していないエンハンサーを意味する。このようなプロモーター又はエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、及び任意の他のウイルス又は原核細胞若しくは真核細胞から単離されたプロモーター又はエンハンサー、及び、「天然に存在」していない、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素及び/又は発現を変える変異を含むプロモーター又はエンハンサーが含まれ得る。例えば、組換えDNAの構築に最も良く使用されるプロモーターには、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、及びトリプトファン(trp)のプロモーター系が含まれる。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列は、合成による作製に加えて、本明細書に開示される組成物に関連した組換えクローニング及び/又はPCR(登録商標)を含む核酸増幅技術を用いて作製することができる(米国特許第4,683,202号及び第5,928,906号を参照;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる)。さらに、ミトコンドリアや葉緑体などの非核細胞小器官内での配列の転写及び/又は発現を誘導する制御配列も利用できるということが考えられる。
【0196】
当然ながら、発現のために選択される細胞小器官、細胞型、組織、器官、又は生物におけるDNAセグメントの発現を効率的に誘導するプロモーター及び/又はエンハンサーを利用することが重要である。分子生物学の当業者においては、一般的に、タンパク質の発現のためのプロモーター、エンハンサー、及び細胞型の組合せの使用について知識を有する(例えば、Sambrook et al.. 1989を参照;参照により本明細書に取り込まれる)。利用されるプロモーターは、導入されるDNAセグメントの高レベルの発現を誘導する適切な条件下で、本質的、組織特異的、誘導可能、及び/又は有用であり、組換えタンパク質及び/又はペプチドの大量生産などに有利である。プロモーターは、異種性又は内因性である。
【0197】
また、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(例えば、ワールドワイドウエブのepd.isb-sib.ch/にある真核生物プロモーターデータベースEPDBを参照)を使用して発現を起こすこともできる。T3、T7、又はSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施形態である。真核細胞では、適切な細菌ポリメラーゼが送達複合体の一部として又は別の遺伝子発現構築物として提供されると、特定の細菌プロモーターによる細胞質転写が利用できる。
【0198】
プロモーターの非限定的な例としては、初期又は後期ウイルスプロモーター、例えば、SV40初期又は後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター;真核細胞プロモーター、例えば、βアクチンプロモーター(Ng, 1989;Quitsche et al., 1989)、GADPHプロモーター(Alexander et al., 1988、Ercolaniet al., 1988)、メタロチオネインプロモーター(Karin et al., 1989;Richards et al., 1984);及び連結応答要素プロモーター、例えば、サイクリックAMP応答要素プロモーター(cre)、血清応答要素プロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)、及び最小TATAボックス近傍の応答要素プロモーター(tre)などが挙げられる。また、ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbankに記載されているヒト成長ホルモン最小プロモーター、受託番号X05244、ヌクレオチド283〜341)、又はマウス乳腺腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能、カタログ番号ATCC45007)を使用することも可能である。具体的な例としては、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターが考えられる。
【0199】
2.開始シグナル及び内部リボソーム結合部位
コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルも必要である。これらのシグナルは、ATG開始コドン又は隣接配列を含む。ATG開始コドンを含む外来性翻訳制御シグナルが必要となる場合もある。当業者においては、容易にこれを決定し、必要なシグナルを提供することができると考えられる。周知のこととして、挿入断片全体を確実に翻訳するためには、開始コドンが所望のコード配列のリーディングフレームの「インフレーム」でなければならない。外来性翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然又は合成のいずれかとすることができる。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素を含めることによって高めることができる。
【0200】
本発明のある実施形態では、内部リボソーム侵入部位(IRES)要素を用いて、多重遺伝子又は多シストロン性メッセージを生成する。IRES要素は、5’メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを回避して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオ及び脳心筋炎)由来のIRES要素(Pelletierand Sonenberg, 1988)、及び、哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)については述べられている。IRES要素は、異種オープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームはまとめて転写することができ、それぞれがIRESによって分離され、多シストロン性メッセージを生成する。IRES要素によって、各オープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームにアクセス可能である。複数の遺伝子は、単一のプロモーター/エンハンサーを用いて1つのメッセージを転写することで効率的に発現させることができる(米国特許第5,925,565号及び第5,935,819号を参照;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる)。
【0201】
本発明のある実施形態では、多シストロン性転写のための、少なくとも1つのプロテアーゼ切断部位及び/又は自己切断ペプチドをコードする配列を用いることができる。例えば、ウイルス2Aペプチドなどのいくつかの自己切断ペプチドが存在する。
【0202】
3.マルチクローニング部位
ベクターは、マルチクローニング部位(MCS)を含むことができ、このMCSは、複数の制限酵素部位を含む核酸領域であり、どの制限酵素部位も、標準的な組換え技術とともに使用してベクターを消化することができる(例えば、Carbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、及びCocea., 1997を参照;参照により本明細書に取り込まれる)。「制限酵素消化」は、核酸分子の特定の位置でのみ機能する酵素を用いた核酸分子の触媒的切断を意味する。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は、当業者において広く知られている。しばしば、ベクターは、MCS内で切断して外来性配列のベクターへのライゲーションを可能にする制限酵素を使用して、線状化又は断片化される。「ライゲーション」とは、2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを意味し、これらの断片は互いに連続していても良いし、連続していなくても良い。制限酵素及びライゲーション反応を伴う技術は、組換え技術の当業者において周知である。
【0203】
4.スプライシング部位
転写された真核生物RNA分子の大部分は、一次転写物からイントロンを取り除くためのRNAスプライシングを受ける。真核生物ゲノム配列を含むベクターは、タンパク質発現のための転写物の適切なプロセシングを行うために、ドナー及び/又はアクセプターのスプライシング部位を必要とする場合がある(例えば、Chandler et al., 1997を参照;参照により本明細書に取り込まれる)。
【0204】
5.終結シグナル
本発明のベクター又は構築物は、一般に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」又は「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特異的な終結に関与するDNA配列から構成されている。したがって、ある実施形態では、RNA転写物の産生を終了させる終結シグナルが考えられる。ターミネーターは、所望のメッセージレベルを達成するためにインビボで必要となる場合がある。
【0205】
真核生物系では、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を露出するために新たな転写物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、特殊化された内因性ポリメラーゼに対して、約200A残基(ポリA)のストレッチを転写物の3’末端に付加するようにシグナルを出す。このポリA尾部で修飾されたRNA分子は、より安定であり、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物に関する他の実施形態では、ターミネーターがRNAの切断のためのシグナルを含むことが好ましく、また、ターミネーターのシグナルがメッセージのポリアデニル化を促進することがさらに好ましい。ターミネーター及び/又はポリアデニル化部位の要素は、メッセージレベルを強め、カセットから他の配列への通読を最小化する役割を果たすことができる。
【0206】
本発明のある態様での使用が考えられるターミネーターは、本明細書に記載する公知の転写ターミネーター、又は当業者に周知のターミネーターが含まれ、例えば、これらに限定されないが、ウシ成長ホルモンターミネーターなどの遺伝子の終結配列、又はSV40ターミネーターなどのウイルス終結配列が含まれる。ある実施形態では、終結シグナルは、配列の切断などにより、転写又は翻訳可能な配列が欠失している場合がある。
【0207】
6.ポリアデニル化シグナル
発現において、特に真核生物の発現では、通常、転写物の適切なポリアデニル化を生じさせるポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明を実施する上で重要とは考えられず、任意のそのような配列を用いることができる。好ましい実施形態では、簡便で様々な標的細胞において十分に機能することが知られているSV40ポリアデニル化シグナル又はウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写物の安定性を向上させ、又は細胞質輸送を容易にすることができる。
【0208】
7.複製起点
宿主細胞でベクターを増殖させるために、ベクターは、1つ以上の複製部位の起点(しばしば「ori」と呼ばれる)を含むことができ、例えば、複製が開始される特定の核酸配列であるoriPに関して、上述のEBVのoriP、又は分化プログラミングでの機能が同等又は向上した遺伝子組換えoriPに対応する核酸配列がある。また、上述の他の染色体外複製ウイルスの複製起点又は自己複製配列(ARS)を用いることもできる。
【0209】
8.選択マーカー及びスクリーニングマーカー
本発明のある実施形態では、本発明の核酸構築物を含む細胞は、発現ベクターにマーカーを含めることによって、インビトロ又はインビボで同定することができる。このようなマーカーは、識別可能な変化を細胞に付与し、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にする。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するマーカーである。陽性選択マーカーは、そのマーカーの存在により選択を可能にするマーカーであり、陰性選択マーカーは、そのマーカーの存在により選択を妨げるマーカーである。陽性選択マーカーの例としては、薬剤耐性マーカーがある。
【0210】
通常は、薬物選択マーカーを含むことで、形質転換体のクローニング及び同定がしやすくなり、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、及びヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が、有用な選択マーカーとなる。条件を満たすことで形質転換体の区別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、基準が比色分析であるGFPなどのスクリーニングマーカーを含む他の種類のマーカーも考えられる。また、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの陰性選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素を利用することができる。当業者においては、場合によりFACS分析と共に免疫学的マーカーを利用する方法も周知である。使用されるマーカーについては、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現可能である限り、重要であるとは考えられない。選択マーカー及びスクリーニングマーカーのさらなる例は、当業者において周知である。本発明の特徴の1つには、分化プログラミング因子がベクターを含まない細胞で所望の分化状態に変更した後に、選択マーカー及びスクリーニングマーカーを用いてそれらの細胞を選択することが含まれる。
【0211】
C.ベクター送達
本発明を用いたリプログラミングベクターの細胞への導入では、本明細書に記載する(例えば、ウイルス形質導入)、又は当業者に周知であると考えられる、細胞に核酸を送達するための任意の適切な方法を使用することができる。このような方法としては、これらに限定されないが、エキソビボトランスフェクション(Wilson et al, 1989、Nabel et al, 1989)、微量注入(Harland and Weintraub,1985;米国特許第5,789,215号;参照により本明細書に取り込まれる)を含む注入(米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、及び第5,580,859号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる);エレクトロポレーション(米国特許第5,384,253号、参照により本明細書に取り込まれる;Tur-Kaspaet al., 1986;Potter et al., 1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973:Chenand Okayama, 1987;Rippe et al., 1990);DEAE−デキストランに続いてポリエチレングリコールの使用(Gopal, 1985);直接超音波負荷(Fechheimeret al., 1987);リポソーム媒介トランスフェクション(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolauet al., 1987;Wong et al., 1980;Kaneda et al., 1989;Kato et al., 1991)、及び、受容体媒介トランスフェクション(Wuand Wu, 1987;Wu and Wu, 1988);微粒子銃(国際公開第94/09699号及び第95/06128号;米国特許第5,610,042号、第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、及び第5,538,880号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる);炭化ケイ素繊維を用いた攪拌(Kaeppleret al., 1990;米国特許第5,302,523号及び第5,464,765号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる);アグロバクテリウム媒介形質転換(米国特許第5,591,616号及び第5,563,055号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる);プロトプラストのPEG媒介形質転換(Omirullehet al., 1993;米国特許第4,684,611号及び第4,952,500号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる);乾燥/阻害媒介によるDNA取り込み(Potrykuset al., 1985)、及びこれらの方法の任意の組み合わせなどによる、DNAの直接送達が含まれる。このような技術を用いることで、細胞小器官、細胞、組織、又は生物を安定的又は一過性に形質転換することができる。
【0212】
1.リポソーム媒介トランスフェクション
本発明のある実施形態では、核酸は、例えばリポソームなどの脂質複合体の中に閉じ込めることができる。リポソームは、リン脂質二重層膜及び内部の水性媒体によって特徴付けられる小胞構造物である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。これらは、リン脂質が過剰の水溶液中で懸濁されると自然に生じる。脂質成分は、密閉構造物が形成される前に自己再構成され、脂質二重層間に水及び溶解した溶質を閉じ込める(Ghosh and Bachhawat, 1991)。また、Lipofectamine2000(Gibco BRL)又はSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸も考えられる。使用するリポソームの量は、リポソームの性質や用いる細胞によって異なり、例えば、百万〜1千万個の細胞に対して約5〜約20μgのベクターDNAが考えられる。
【0213】
リポソームを媒介したインビトロでの外来性DNAの核酸送達及び発現は、非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987)。また、培養したニワトリ胚細胞、HeLa細胞、及び肝細胞腫細胞における外来性DNAのリポソーム媒介送達及び発現の実行可能性も実証されている(Wonget al., 1980)。
【0214】
本発明のある実施形態では、リポソームは、センダイウイルス(HVJ)と複合体を形成し得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームカプセル化DNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の実施形態では、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG−1)と複合体を形成するか、又はそれと共に利用することができる(Katoet al., 1991)。さらなる別の実施形態では、リポソームは、HVJ及びHMG−1の両方と複合体を形成するか、又はこれらと共に利用することができる。他の実施形態では、送達媒体は、リガンド及びリポソームを含み得る。
【0215】
2.エレクトロポレーション
本発明のある実施形態では、核酸は、エレクトロポレーションによって細胞に導入される。エレクトロポレーションは、細胞及びDNAの懸濁液を高電圧放電にさらすことを含む。レシピエント細胞は、機械的創傷によってさらに形質転換しやすくなる。また、使用するベクターの量は、用いる細胞の性質によって異なり、例えば、百万〜1千万個の細胞に対して約5〜約20μgのベクターDNAが考えられる。
【0216】
エレクトロポレーションを用いた真核細胞のトランスフェクションは、非常に成功している。この方法により、マウス前Bリンパ球にヒトκ免疫グロブリン遺伝子がトランスフェクションされ(Potter et al., 1984)、また、ラット肝細胞にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子がトランスフェクションされている(Tur-Kaspaet al., 1986)。
【0217】
3.リン酸カルシウム
本発明の他の実施形態では、核酸は、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞に導入される。この技術を用いて、ヒトKB細胞にアデノウイルス5DNAがトランスフェクションされている(Graham and Van Der Eb, 1973)。同様にこの方法により、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV−1、BHK、NIH3T3、及びHeLa細胞に、ネオマイシンマーカー遺伝子がトランスフェクションされ(Chenand Okayama, 1987)、また、ラット肝細胞に様々なマーカー遺伝子がトランスフェクションされている(Rippe et al., 1990)。
【0218】
4.DEAE−デキストラン
別の実施形態では、核酸は、DEAE−デキストラン、続いてポリエチレングリコールを用いて細胞に送達される。この方法により、レポータープラスミドが、マウス骨髄腫細胞及び赤白血病細胞に導入されている(Gopal, 1985)。
【0219】
5.超音波負荷
本発明の別の実施形態では、直接超音波負荷による核酸の導入が含まれる。超音波負荷により、LTK−線維芽細胞に、チミジンキナーゼ遺伝子がトランスフェクションされている(Fechheimer et al., 1987)。
【0220】
6.受容体媒介トランスフェクション
さらに、核酸は、受容体媒介送達媒体によって標的細胞に送達することができる。これらは、標的細胞内で起こる受容体媒介エンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用している。様々な受容体の細胞型特異的分布から考えれば、この送達方法は、本発明に別の段階の特異性をもたらす。
【0221】
ある受容体媒介遺伝子標的媒介は、細胞受容体特異的リガンド及び核酸結合剤を含む。その他の媒体は、送達される核酸が作用的に結合された細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが、受容体媒介遺伝子輸送に使用され(Wu and Wu, 1987;Wagner et al, 1990;Perales et al, 1994;Myers,欧州特許第0273085号)、技術の操作性が確立されている。別の哺乳動物細胞型に関連した特異的送達についても述べられている(Wuand Wu, 1993;参照により本明細書に取り込まれる)。本発明のある態様では、リガンドは、標的細胞集団上で特異的に発現される受容体に対応して選択される。
【0222】
他の実施形態では、細胞特異的核酸標的媒体の核酸送達媒体成分は、リポソームと組み合わされた特異的結合リガンドを含む場合がある。送達される核酸はリポソーム内に収容され、特異的結合リガンドがリポソーム膜内に機能的に取り込まれる。したがって、リポソームは、標的細胞の受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。例えば、上皮成長因子(EGF)受容体の発現増加を示す細胞への核酸の受容体媒介送達にEGFが用いられる系を用いることで、このような系が機能的であることが示されている。
【0223】
さらなる実施形態では、標的化送達媒体の核酸送達媒体成分は、リポソーム自体であってもよく、好適には、これは細胞特異的な結合を誘導する1つ以上の脂質又は糖タンパク質を含む。例えば、ラクトシル−セラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシド(asialganglioside)が、リポソーム内に取り込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察されている(Nicolauet al., 1987)。本発明の組織特異的形質転換構築物が、同様の方法により標的細胞に特異的に送達可能であることも考えられる。
【0224】
7.微粒子銃
微粒子銃技術は、少なくとも1つの細胞小器官、細胞、組織、又は生物に核酸を導入するために用いることができる(米国特許第5,550,318号;第5,538,880号;第5,610,042号;及び国際公開第94/09699号;それぞれ参照により本明細書に取り込まれる)。この方法は、DNA被覆微粒子を高速に加速し、細胞を死滅させることなく、細胞膜を貫通して細胞内に侵入させるという手法による(Klein et al., 1987)。当技術分野で公知の様々な微粒子銃技術が存在し、その多くが本発明に適用可能である。
【0225】
この微粒子銃では、1つ以上の粒子を少なくとも1つの核酸で被覆し、推進力によって細胞に送達することができる。小さな粒子を加速させるためのいくつかの装置が開発されている。このような装置の1つは、電流を生成する高電圧放電を用いて、これが順に動力を供給する(Yang et al., 1990)。使用される微粒子発射物は、タングステン又は金の粒子やビーズなどの生物学的に不活性な物質からなる。粒子の例には、タングステン、白金、及び好適には金からなる粒子が含まれる。場合によっては、金属粒子上へのDNA沈殿は、微粒子銃を使用するレシピエント細胞へのDNA送達に必要ではないことも考えられる。しかし、粒子は、DNAで被覆されるのではなく、DNAを含んでもよいと考えられる。DNA被覆粒子は、粒子銃によるDNA送達のレベルを上げることができるが、DNA被覆粒子自体は必ずしも必要ではない。
【0226】
照射のためには、懸濁液中の細胞をフィルター又は固形培養培地上で濃縮する。また、未成熟胚又は他の標的細胞を、固形培養培地上に配置することもできる。照射される細胞は、微粒子発射物停止プレートよりも下の適切な距離に配置される。
【0227】
VII.iPS細胞の分化
本発明を用いて、例えばこれらに限定されないが、造血系細胞、筋細胞(例えば、心筋細胞)、神経細胞、線維芽細胞、及び上皮細胞、並びにそれらに由来する組織及び器官を含む細胞系列にiPS細胞を分化させるためには、様々な方法を用いることができる。iPS細胞の造血系分化の方法の例としては、例えば、米国特許出願第61/088,054号及び第61/156,304号に開示される方法(ともに参照によりその全体が本明細書に取り込まれる)、又は、胚様体(EB)を用いる方法(Chadwick et al., 2003;Ng et al., 2005)がある。Wang et al., 2007に例示されるように、フィブロネクチン分化方法も、血液系分化に用いることができる。iPS細胞の心臓系分化の例示的方法としては、胚様体(EB)による(Zhang,et al., 2009)、OP9間質細胞による方法(Narazaki et al., 2008)、又は、成長因子/化学物質による方法(米国特許公開第20080038820号、第20080226558号、第20080254003号、及び第20090047739号を参照;これらはすべて、参照によりそれらの全体が本明細書に取り込まれる)が含まれる。
【0228】
A.肝細胞
米国特許第6,458,589号及び国際公開第01/81549号(Geron Corporation)に記載されるように、肝細胞は、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤を用いることで、hES細胞などの多能性幹細胞から分化することができる。未分化の多能性幹細胞は、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤の存在下で培養することが可能である。例示的な方法では、1%DMSO、次いで、2.5mMのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤n−ブチレートにより分化を開始する。得られた細胞は、n−ブチレート、DMSO、及び成長因子(EGF、肝細胞成長因子、及びTGF−αなど)を含む肝細胞培養液中で4日間培養することで、成熟させることができる。
【0229】
hES細胞などの多能性幹細胞を肝細胞に分化させる段階的プロトコールが、米国特許出願第2005/0037493A1号(Geron Corp.)に記載されている。細胞は、いくつかの分化剤及び成熟化剤の組み合わせを順番に用いて培養し、hES細胞などの多能性幹細胞を最初に初期内胚葉又は肝細胞前駆体に分化させ、その後、肝細胞様細胞に成熟させる。
【0230】
内胚葉様細胞への分化は、ブチレート、DMSO、又はウシ胎児血清を用いて、必要に応じて線維芽細胞成長因子と組み合わせることで、開始することができる。その後、分化は、肝細胞成長因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、及び/又は骨形態形成タンパク質(例えば、BMP−2、4、又は7)などを様々な組み合わせで含む市販の肝細胞培養液を用いて継続することができる。最終成熟は、デキサメタゾンやオンコスタチンMなどの薬剤の存在により促進され得る。米国特許出願第2005/0037493A1号の「DMSOプロトコール」を本発明のレポーター肝細胞に応用したものの説明を、下記実施例3に示す。改良した肝細胞分化プロトコールでは、アクチビン活性を有するタンパク質を、典型的にはブチレート及び/又はDMSOなどの他の因子の存在下又はそれらと連続して用いて、分化を開始する(実施例6)。その後、細胞は、HGF、EGF、及び/又はBMPを用いて段階的に成熟させることができ、デキサメタゾン次いでオンコスタチンMの存在により増進される。
【0231】
本発明のある態様では、肝細胞は、肝細胞プログラミング因子の細胞内レベルを細胞の肝細胞へのプログラミングを促進するのに十分なレベルに増加させる条件を満たす培養液中で、多能性幹細胞又は他の非肝細胞を培養することにより作製される(米国特許出願第61/323,689号を参照;参照により本明細書に取り込まれる)。また、培養液は、様々な種類の成長因子など、1つ以上の肝細胞分化及び成熟化剤を含んでもよい。しかし、肝細胞プログラミング転写因子の細胞内レベルを増加させることで、本発明の態様では、各段階で培養液を変更せずに、成熟肝細胞へのほとんどの段階を省くことができる。
そのため、本発明がもたらす利点から見て、特定の様態では、肝細胞プログラミング下の細胞を培養する培養液は、1つ以上の肝細胞分化剤及び成熟化剤を本質的に含まないか、又はこれらの薬剤の異なる組み合わせを含む培養液を連続的に変更しなくてもよい。
【0232】
これらの薬剤は、細胞をより成熟した表現型に誘導する、又は、選択的に成熟細胞の生存を促進するために役立つか、若しくはこれらの効果の組み合わせを有する。本明細書に記載する肝細胞分化剤及び成熟化剤は、肝細胞系の細胞の成長を促進することができる可溶性の成長因子(ペプチドホルモン、サイトカイン、リガンド−受容体複合体、及びその他の化合物)を含んでいてもよい。このような薬剤の非限定的な例としては、これらに限定されないが、上皮成長因子(EGF)、インスリン、TGF−α、TGF−β、線維芽細胞成長因子(FGF)、ヘパリン、肝細胞成長因子(HGF)、オンコスタチンM(OSM)、IL−1、IL−6、インスリン様成長因子I及びII(IGF−1、IGF−2)、ヘパリン結合性成長因子1(HBGF−1)、並びにグルカゴンが含まれる。熟練の判読者においては、オンコスタチンMが白血病阻害因子(LIF)、インターロイキン−6(IL−6)、及び毛様体神経栄養因子(CNTF)と構造的に関連していることがすでに理解される。
【0233】
別の例としては、これまでの特許開示に記載されているように、n−ブチレートがある(米国特許第6,458,589号、第6,506,574号、;国際公開第01/81549号)。同様の効果を持つn−ブチレート相同体は容易に同定することができ、本発明の実施において代替物として用いることができる。一部の相同体は、n−ブチレートと同様の構造的及び物理化学的特性を有する:3〜10個の炭素原子と、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩及び他のプロトン供与体からなる群より選択される共役塩基とを含む、酸性炭化水素。例としては、イソ酪酸、ブテン酸、プロパン酸、他の短鎖脂肪酸、及びジメチルブチレートが含まれる。同様に含まれるものとして、プロパンスルホン酸及びプロパンホスホン酸などの炭化水素スルホン酸又はホスホン酸同配体、並びに、アミド、サッカライド、ピペラジン、及び環状誘導体などの複合物がある。ブチレート相同体の更なるクラスとしては、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤がある。非限定的な例としては、トリコスタチンA、5−アザシチジン、トラポキシンA、オキサムフラチン、FR901228、シスプラチン、及びMS−27−275が含まれる。薬剤の別のクラスとしては、DMSOなどの有機溶媒がある。同様の特性を持つ代替物としては、これらに限定されないが、ジメチルアセトアミド(DMA)、ヘキサメチレンビスアセタミド、及び他のポリメチレンビスアセタミドが含まれる。このクラスの溶媒は、細胞の膜透過性を高めるという特性で、部分的に関連している。また、ニコチンアミドなどの溶質も関心がもたれる。
【0234】
本開示において、「肝細胞」又は「肝細胞系細胞」とは、以下の特徴の1つ以上、好適には少なくとも3つ、より好適には5つ又は7つを有する細胞を意味する:α
1−アンチトリプシン;アシアロ糖タンパク質、グリコーゲン貯蔵、シトクロムP450発現;グルコース−6−ホスファターゼ活性、低レベルから無視できるレベルのα-フェトプロテイン、及び肝細胞の形態学的特徴(立方細胞で、場合によりそれらの間に小管の間隙を持つ)。ヒト肝臓から単離した成熟肝細胞の他の特徴も存在し得るが、本定義において細胞を肝細胞として限定するためには必要ではない。細胞マーカーを同定する試験方法は、米国特許第6,458,589号に詳しく記載されている。本発明の「肝細胞」は、ヒト胚性幹細胞から分化させることで得ることができるが、明示的に必要とされない限り、必ずしもこれによるものではない。
【0235】
薬物スクリーニングとの関連では、利用者においては、シトクロムP450酵素などの特定の薬物代謝酵素の活性を試験したいと希望する場合もある。シトクロムP450の活性を調べる簡便な方法としては、細胞を基質の「カセット」と結合させる:例えば、ミダゾラム(CYP3A4により代謝される)、トルブタミド(CYP2C9により代謝される)、フェナセチン(CYP1A2)、及びブフラロール(CYP2D6)。活性は、HepG2細胞などの基準細胞株の約0.1倍、1倍、又は10倍として定量化できる。カセット内の全薬剤の代謝産物を同時に観察する簡便な方法としては、GCMSを用いる。必要であれば、薬物スクリーニングの前又はその間に、デキサメタゾンやリファンピシンなどの化合物で細胞を処理し、細胞内のシトクロムP450の発現又は活性を高めることができる。
【0236】
B.神経細胞
神経細胞は、hES細胞などの多能性幹細胞から、米国特許第6,833,269号;Carpenteret al., 2001;及び国際公開第03/000868号(Geron Corporation)に記載される方法により作製することができる。未分化のhES細胞又は胚様体細胞は、1つ以上のニューロトロフィン及び1つ以上のマイトジェンを含む培養液中で培養され、少なくとも〜60%の細胞がA2B5、ポリシアル酸化NCAM、又はネスチンを発現し、培養中に少なくとも20回倍加することができる細胞集団を作る。マイトジェンの例としては、EGF、塩基性FGF、PDGF、及びIGF−1がある。ニューロトロフィンの例としては、NT−3及びBDNFがある。TGF−βスーパーファミリーアンタゴニスト、又はcAMPとアスコルビン酸の組み合わせを用いることで、ドーパミン系神経細胞の特徴であるチロシンヒドロキシラーゼに対して陽性を示す神経細胞の比率を高めることができる。増殖性細胞は、その後、マイトジェンの非存在下でニューロトロフィンとともに培養することで、末端分化が生じる。
【0237】
オリゴデンドロサイトは、hES細胞などの多能性幹細胞から、FGFなどのマイトジェン、並びにトリヨードチロニン、セレン、及びレチノイン酸などのオリゴデンドロサイト分化因子を含む培養液中に懸濁させた細胞集合体として培養することで作製することができる。細胞は、その後、固体表面上で培養し、レチノイン酸を取り除き、集団を増殖させる。末端分化は、ポリ−L−リジン上で培養し、すべての成長因子を取り除くことで生じる。得られる細胞集団では、細胞の80%以上がNG2プロテオグリカン、A2B5、及びPDGFRαなどのオリゴデンドロサイトマーカーに対して陽性で、神経細胞マーカーNeuNに対して陰性である。国際公開第04/007696号、及びKeirstead et al., 2005を参照。網膜色素上皮細胞の誘導についても、報告されている(Klimanskaya etal., 2004)。
【0238】
C.心臓細胞
本明細書に記載するiPS細胞は、米国特許出願第2011/0097799号(参照により本明細書に取り込まれる)に記載される方法により、心筋細胞に分化することができる。心筋細胞又は心筋細胞前駆体は、hES細胞などの多能性幹細胞から、国際公開第03/006950号に記載される方法によって作製することができる。同様にして、iPS細胞は、ウシ胎児血清又は血清代替物、さらに必要に応じて、DNAのメチル化に影響を及ぼす5−アザシチジンなどの心臓作用因子(cardiotrophic factor)を含む懸濁液中で培養することができる。また、心筋細胞塊は、固体基質上でアクチビンAとともに培養し、その後、BMP4などの骨形態形成タンパク質とともに培養し、さらに必要に応じてIGF−1などのインスリン様成長因子とともに培養することで、得ることができる。必要であれば、密度遠心分離によって、集団中の自発的収縮細胞を他の細胞から分離することができる。
【0239】
さらなる処理の工程としては、Cardiac Bodies(登録商標)として知られる集団を形成するように細胞を培養し、単一細胞を取り除き、その後、Cardiac Bodies(登録商標)を逐次反復で分散、再形成することが含まれる。得られた集団では、細胞の大部分が、cTnl、cTnT、心臓特異的ミオシン重鎖(MHC)、及び転写因子Nkx2.5に対して染色陽性である。国際公開第03/006950号、Xu et al., 2002;及び米国特許出願第2005/0214939A1(Geron Corporation)を参照。
【0240】
D.その他の細胞型
膵島細胞は、アクチビンA、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(ブチレートなど)、マイトジェン(bFGFなど);及びTGF−βスーパーファミリーアンタゴニスト(ノギンなど)から選択されるいくつかの因子の組み合わせを含む培養液中で培養して分化を開始させることで、hES細胞などの多能性幹細胞から分化させることができる(国際公開第03/050249号、Geron Corp.)。その後、細胞は、ニコチンアミドとともに培養して成熟させ、細胞の少なくとも5%がPdx1、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドを発現する細胞集団を得ることができる。細胞塊は、インスリン生産細胞に富んだ芽を形成することができ、該細胞は濾過により回収することができる。国際公開第03/050249号(GeronCorp.)を参照。
【0241】
造血細胞は、hES細胞などの多能性幹細胞をマウス骨髄細胞と共培養することで作製することができ、又は卵黄嚢内皮細胞を用いて、造血細胞マーカーを有する細胞を作製する(米国特許第6,280,718号)。また、造血細胞は、米国特許出願第2003/0153082A1号及び国際公開第03/050251号(Robarts Institute)に記載されるように、幹細胞を造血サイトカイン及び骨形態形成タンパク質とともに培養することでも作製することができる。本明細書に記載するiPS細胞から造血細胞への分化方法としては、米国特許出願第2010/0216181号及び2010/0279403号に記載されている(いずれも参照により本明細書に取り込まれる)。
【0242】
間葉系前駆細胞及び線維芽細胞は、国際公開第03/004605号に記載の方法によって、hES細胞などの多能性幹細胞から作製することができる。hES由来間葉細胞は、その後、骨形態形成タンパク質(特にBMP4)などの骨形成因子、ヒトTGF−β受容体のリガンド、又はヒトビタミンD受容体のリガンドを含む培養液中で、さらに骨芽系細胞に分化することができる(国際公開第03/004605号、Sotile et al., 2003)。米国特許出願第2004/0009589A1(Iskovitz-Elder et al.)及び第2003/0166273A1(Kaufmanet al., Wisconsin)では、ヒト胚性幹細胞由来の内皮細胞が報告されている。軟骨細胞又はその前駆細胞は、国際公開第03/050250号(GeronCorp.)に記載される分化因子の有効な組み合わせを用いて、微細凝集塊で幹細胞を培養することで作製することができる。
【0243】
当技術分野で公知の他の分化方法、又はその後に開発されたものを、本発明とともに用いて、他の組織に相応する人工細胞を作ることができる。
【実施例】
【0244】
以下の実施例は、本発明の好適な実施形態を示す目的で記載される。当業者においては、以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが見出された技術を示しており、そのため、その実施のために好適な形態を構成すると考えられることが理解される。しかし、当業者においては、本開示を踏まえて、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、開示された具体的な実施形態に多数の変更を加えることができ、その場合でも同じ又は同様の結果が得られることが理解される。
【0245】
実施例1
リプログラミングのためのMaxi EBV粒子の作製
EBV陽性B細胞のリプログラミングへの受容性がより高いことが示されれば、EBV陰性のB細胞は、リプログラミング因子をコードし得る人工EBV粒子に感染させることで、より感受性を高めることができる。EBVは、ヒトヘルペスウイルスファミリーの一員で、非常に大きな量のDNA(≦165kb)を包含することが可能で、これは分子工学上の望ましい特徴である。EBVの特徴を利用して組換えEBV由来ベクターを作製することができ、これを、ヘルパー細胞株と組み合わせることで、リプログラミング、形質転換などに不可欠なタンパク質を送達する媒体として働くMaxi−EBV粒子の作製に用いることができる(Wendtner et al., 2003;Delecluse et al., 1999;Delecluse et al., 1998;Hettichet al., 2006)。このような粒子を得るために必要となり得るプロセスの概要を以下に記載する:
最初に、感染B細胞株を作製するため、ウイルス欠陥ヘルパー細胞株を293細胞から作製する:完全長EBVゲノム(165kb)を、真核細胞プロモーター由来のマーカー遺伝子(8〜10wks)を同時に含む原核細胞レプリコン上にクローニングする;TR配列を含まない染色体外EBVゲノムを293細胞に導入し、これによりEBVベクターの全パッケージ機能を提供する;そして、トランスフェクションにより得られるクローン群を維持する。「非トランスフェクション」ミニEBVプラスミドを、以下をコードするように作製する:セレクション(ハイグロマイシン、GFP、など)、EBV(TR)の末端反復、2つの複製起点(oriLyt及びoriP)、EBNA−1。ミニEBVプラスミドは、必要に応じて、EBNA−1のリプログラミング遺伝子及び/又は優性阻害誘導体を、場合によっては条件付きオペレーター又はプロモーターとともに、含んでいてもよい。パッケージングしたミニEBVは以下により作製する:人工ウイルス欠陥細胞(上述)にミニEBVプラスミド及びウイルストランス活性化因子を一時的にトランスフェクトする;上清を回収、精製、濃縮する;Hyg抵抗性及び/又はGFP陽性のクローンの感染及びスクリーニングのための試験細胞株を樹立する;そして、より大規模な生産を確立し、ウイルス力価を決定する。その後、一次B細胞をミニEBVとともにインキュベートして感染させ、次いで48時間後の感染効率を評価する(蛍光指標を用いた場合)。
【0246】
実施例2
リンパ芽球様細胞株(LCL)及び標準B細胞のリプログラミング
1)リプログラミング試験のための、成熟B細胞集団の前駆体状態への誘導、又はPax−5プロB細胞の前駆細胞型の単離
成熟B細胞集団を前駆細胞型に脱分化させるためには、Pax−5、Blimp1、Oct2、及びBob−1の阻害、又はC/EBPαの発現上昇が必要となる場合がある。
【0247】
Pax−5の発現を低下させるためには、以下の試薬/処理が用いられる:
Pax−5の発現を低下させるためには、コハク酸プレドニゾロンナトリウム又はSN38又はSU11274(Kanteti et al., 2009;Marie-Cardine et al., 2008)などのグルココルチコイド(GC)で細胞を処理する(Rahmanet al., 2001)。生存細胞をIL−7含有培養液に入れ、プロB細胞を成長させる。
【0248】
B細胞は、アンチセンスRNA、小分子干渉RNA、リボザイムで処理するか、又はPax−5阻害オリゴヌクレオチド分子をコードする発現カセットをトランスフェクトする。同様の方法を、Blimp1、Oct2及びBob−1に対しても用いることができる。これらの遺伝子をさらにもう一度発現低下させることで、リプログラミングの促進が可能である。
【0249】
Pax−5、Blimp1、Oct2又はBob−1の発現低下の代わりに、又はそれに加えて、C/EBPα遺伝子をコードするレトロウイルスに成熟B細胞を感染させる。C/EBPαの発現上昇によって、細胞を骨髄系前駆細胞様状態に誘導し、リプログラミング因子の受容性を高めることができる。この手法は、Jaenisch et al.に略述されている。また、C/EBPαの発現カセットは、エレクトロポレーションによって導入することができる。
【0250】
2)リプログラミング試験のための、Pax−5欠損プロB細胞前駆細胞型の同定と単離
この方法では、CD34、CD38及びCD10抗原を共発現するリンパ球前駆細胞の単離と精製が含まれ得る。
【0251】
CD34
+、CD10
+、CD19
−前駆B細胞は、Pax−5の発現が欠損している。そのため、この細胞集団はリプログラミングの標的細胞型となり得る。
【0252】
プロB細胞は、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン15(IL−15)、Flt3リガンド(FL)、及び胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)の組み合わせを用いて、培養液中で増殖させることができる。
【0253】
第2の方法では、末梢血液から移行B細胞を単離することを含む。移行B細胞は、CD19(+)、CD24(高)、CD38(高)の発現細胞として同定される骨髄(BM)未成熟B細胞と末梢成熟B細胞の重要な関連を特徴づける。これらの細胞は、正常な成人末梢血液中のB細胞の約4%を占める(Chung et al., 2003)。
【0254】
移行B細胞の発生頻度は、免疫異常及びHIV患者において増加している。この細胞型は疾患特異的なドナーからiPS細胞を作製するための標的細胞になり得る。
【0255】
未成熟B細胞(Pax−5
−)細胞、若しくはリンパ球前駆細胞又は移行B細胞に、リプログラミング因子(Oct4、Sox2、Nanog又はKlf4、必要に応じてLin28又はc−Myc;
図1A〜1Bを参照)を含むプラスミドをトランスフェクトする方法を用いて、iPSCを作製することができる。
【0256】
3)EBVで形質転換した一次B細胞のリプログラミング
一次B細胞に対するEBVの効率的な形質転換能力は、リンパ芽球様細胞株(LCL)を樹立、貯蔵するためにインビボで日常的に用いられている。ウイルスタンパク質EBNA−2及びLMP−1によって引き起こされるエプスタイン・バーウイルス(EBV)のIII型潜伏感染プログラムが、インビボでのB細胞の形質転換に直接的に関与している。
【0257】
LCLは、上昇したレベルのc−Mycを発現し、これはEBVに誘導されるB細胞増殖に少なくとも部分的に関与している。また、LCLはNF−κBの誘導も示し、これは次にアポトーシスからの保護に関与している。
【0258】
c−Mycはリプログラミング因子の1つである。c−Myc又はSV40−T抗原を持たないリプログラミング因子をLCLにトランスフェクトすることで、iPSCを作製することができる。
【0259】
NF−κB及びp53の阻害剤は、LCLのリプログラミング試験の補助剤として用いることができる。
【0260】
4)受容細胞のトランスフェクション後のケア
受容B細胞は、B細胞が生存できる培養液中に置くことができる。トランスフェクション後の最初の数日間では、BLyS、BAFF(B細胞の必須生存因子である、サイトカインのTNFファミリーのメンバー)、又はCD40リガンドを加えることで、リプログラミング因子を含むB細胞の増殖を増加させることができる(Fu et al., 2009)。
【0261】
LCLを用いたリプログラミング試験は、無血清条件で実施することができる。細胞を放射線照射MEF又はマトリゲル上に置き、MEFからの馴化培養液を用いて、又は小分子を含む強化培養液によるMEFフリー条件で、30日間培養することができる。
【0262】
化学的なMEFフリーのリプログラミング方法を容易にするいくつかの条件も含まれ得る。
【0263】
実施例3
Pax−5の予防的阻害又はC/EBPα−R遺伝子の過剰発現を含まない、既知のフィーダーフリー条件を用いたリンパ芽球様細胞株(LCL)のリプログラミング
一次LCLは、10−20%FBSを含むRPMI培地中で得て増殖させた。培養したLCLに、以下のリプログラミング因子を含むEBV由来エピソームベクターを、エレクトロポレーションによりトランスフェクションした。
【0264】
リプログラミングは、以下の3セットのリプログラミング因子を形質導入した3つのLCL細胞株を用いて実施した:7個のリプログラミング因子(Oct4、Sox2;Nanog、Lin28、Klf4、c−Myc、SV40ラージT抗原)、5個のリプログラミング因子(Oct4、Sox2;Nanog、Lin28及びSV40ラージT抗原)、又は4個のリプログラミング因子(Oct4、Sox2;Nanog及びSV40ラージT抗原)。
【0265】
リプログラミングに最適なDNA濃度は、1〜2μgであった。トランスフェクションの効率は、GFPなどの蛍光マーカーを含む関連するプラスミドのバックボーンを用いて評価した。
【0266】
GFP含有プラスミドのトランスフェクション効率は、40〜95%であった。GFPとともにリプログラミング因子を含むプラスミドのトランスフェクション効率は、2〜20%であった。LCLは、oriP含有プラスミドに対して非常に適した細胞型である。
【0267】
MEFが存在することで、トランスフェクションしていない細胞の増殖が制御できなくなった。そのため、プロセス全体をフィーダーフリー条件で行った。トランスフェクション後、結合を促進するために細胞をフィーダーフリーの基質上に置いた。基質成分は、マトリゲル(登録商標)、フィブロネクチン、レトロネクチン(登録商標)(フィブロネクチンの断片)、レトロネクチンとマトリゲルとの組み合わせ、CellStart(登録商標)、コラーゲン、又は支持細胞層に代わる任意の成分を含んでいてもよい。トランスフェクション後の細胞の生存率は、約5〜50%であった。
【0268】
トランスフェクションした細胞は、DMEM/F12、N2補助剤、B27補助剤、1%NEAA、1%グルタマックス、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、100ng/mLのゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞成長因子(zbFGF)、0.5μΜのPD0325901、3μΜのCHIR99021、0.5μΜのA−83−01、1000U/mLのヒト組み換えLIF、及び10μΜのHA100(CHALP培地)を含む培養液中に置いた。トランスフェクション後の第1週は、1日おきに新しい培養液を細胞に供給した。第2週では、各ウェルから使用済み培養液の半分を穏やかに取り除き、1日おきに新しい培養液を細胞に供給した。培養液の交換は、培養容器表面に付着している細胞が取り除かれないよう、非常に穏やかに行った。トランスフェクションから2〜3週間後、培養液を徐々にmTeSR1又はTeSR2に移行した。続く2〜3週間では、1日おきに新しいTeSR培地を供給した。
【0269】
Pax−5の発現レベルは、トランスフェクションしていないLCLとトランスフェクションしたLCLで測定した。Pax−5のレベルは、トランスフェクションから4〜6日後に、フローサイトメトリーにより定量化した。未トランスフェクションのLCLにおけるPax−5の発現は、60〜85%であった。リプログラミングプラスミドをトランスフェクションしたLCLでは、Pax−5の発現が減少した(10〜60%)。様々な組み合わせのプラスミドで、異なるレベルのPax−5発現の低下が見られた(
図6A〜6D)。Pax−5発現の阻害が最も高い組み合わせで、iPSCが発生した。リプログラミング因子がPax−5の発現を低下させる正確な仕組みはわかっていない。小分子の存在下でのエピソームによるフィーダーフリーのリプログラミングは、内因性Pax−5発現の低下をもたらし、そしてこれによりLCL由来iPSCの発生を促進することができる。さらに詳細な分析により、リプログラミングプロセスに適切なPax−5発現の閾値が10〜30%であることが明らかとなった。65〜90%のPax−5阻害をもたらすリプログラミング条件によりiPSCが得られるが、次善の阻害である20〜50%では、LCLからiPSCへのリプログラミングに適切ではなかった。
【0270】
LCLの培養細胞に、C/EBPα遺伝子をコードするプラスミドをトランスフェクションした。トランスフェクションした遺伝子の存在はPCRで確認した。C/EBPαの過剰発現細胞の選択は、細胞をG418含有培養液中に置くことで行った。選択後、細胞にリプログラミング因子をトランスフェクションした。別の方法では、C/EBPα遺伝子をコードするプラスミドをリプログラミング因子とともにLCLにトランスフェクションした。
【0271】
接着したコロニーがウェル内に出現し、LCLの形態が懸濁した細胞型から接着細胞型に変化した。接着したコロニーを取り、マトリゲルでコーティングしたプレート上で増殖させた。コロニーは、徐々にiPS様コロニーの標準的形態を獲得し始めた。Tra−1−60による生染色を行い、コロニーのiPS状態を確認した(
図2A〜2B、3A〜3B、4A〜4B、及び4A〜5B)。リプログラミング因子のみをトランスフェクションしたLCLが、iPSコロニーであることが確認された。リプログラミング以前のC/EBPα遺伝子の過剰発現、又はPax−5の発現抑制は、LCLのリプログラミングに必須ではなかった。
【0272】
トランスフェクションしたLCLを、hESC培養液又はMEF馴化培地の存在下で、放射線照射したMEF上に置くことにより、未トランスフェクションLCLの増殖が見られた。フィーダー及びKOSR含有培養液の存在下では、トランスフェクション後、急速に培養細胞が増殖した。B細胞のリプログラミングでは、フィーダーフリー条件が適切であった。
【0273】
実施例4
iPSコロニーから残留EBVを取り除く方法
EBVはB細胞に選択的に感染し(例えば、リンパ芽球株を産生する)、細胞から失われないため、宿主細胞に選択的優位性をもたらす。そのため、可能性の1つとして、EBVのoriPレプリコンを有するプラスミドが、他の細胞型に比べて、これらの細胞内でより有利に遺伝子発現及びプラスミド保持を促進することができる。例えば、これらの感染細胞にすでに存在するEBNA−1は、リプログラミング因子をコードする新たに導入されたoriPプラスミドの保持を促進することで補完し、リプログラミングが確実に行われるように発現のための十分な時間を確保すると考えられる。一旦iPS細胞への移行が起きると、内因性EBV及びトランスフェクションしたoriP由来プラスミドは、細胞に選択的優位性をもたらさないため、自然に細胞から失われると考えられる。一方、これらのエピソームが失われる速度は、望ましい速度からは非常に遅い場合がある。
【0274】
これらの可能性のいずれかを目的として、EBV及びその関連するoriP由来DNAを細胞から強制的に取り除く方法としては、3つの考えられる方法がある。第1に、トランスフェクションしたoriP由来プラスミドは、得られるiPSクローンに選択的優位性をもたらさないと考えられるため、細胞分裂の過程で細胞から徐々に自然に失われる。プラスミドを含まないことに成功したクローンを同定するには、分子スクリーニングを用いることが考えられる。第2に、薬剤耐性、蛍光、又は細胞表面マーカー(例えば、ハイグロマイシン、GFP、CD4など)などの選択マーカーをコードすることで、トランスフェクションしたoriP由来プラスミドを保持し続けている細胞を選択するカセットに、プラスミドを組み込むことができる。しかし、この方法では、宿主細胞に存在し続けている可能性のある内因性EBVを取り除くことができない。
【0275】
そのため、第3の方法として、野生型EBNA−1の機能を阻害する優性阻害体として作用するEBNA−1の誘導体をコードするカセットに、トランスフェクションしたDNAを組み込む。あるいは、EBNA−1の優性阻害体であるTat融合タンパク質(Tatはタンパク質形質導入ドメイン)を作製して、iPS細胞に加えることができる。
【0276】
アミノ末端側半分を欠損しながら、核に局在してDNAに結合する能力を保持しているEBNA−1の誘導体は、細胞からoriP含有プラスミドの除去を促進する、よく研究されたEBNA−1の阻害剤である(Kirchmaier and Sugden, 1997;Kennedy et al., 2003;Mack and Sugden,2008)。このEBNA−1のDNA結合ドメイン(DBD)変異体は、ヘテロ二量体を形成することで野生型EBNA−1と競合し、oriP DNA内の部位に結合し、oriP含有プラスミドの複製を補助するEBNA−1の能力を阻害することで、プラスミドDNAが除去される。oriPレプリコンは野生型EBVプラスミドにも見られることから、これらもDBDタンパク質の存在下で細胞から除去される。そのため、一旦リプログラミングに成功すれば、初期トランスフェクションからの残留oriP由来プラスミドを誘導してEBNA−1のDBDドメインを発現させる(
図1A〜1B)か、又は別のプラスミドから導入することができる。
【0277】
EBNA−1の選択又は優性阻害誘導体をコードするカセットの発現は、条件的プロモーターによって誘導される(
図1A〜1B)。このプロモーターは、エストロゲン、テトラサイクリン、又は、Nanog若しくはOct4タンパク質の存在に対して反応する。エストロゲン受容体は転写調節因子として働き、エストロゲンに反応して核に移動し、そこでDNA内の応答配列に結合する。これは、漏出の可能性があるが、テトラサイクリン系と比べて素早く応答する。Tet系は、調節が高度であり、漏出しにくい点で有利である。例えば、本発明の所望の遺伝子の発現レベルは、系に加えるドキシサイクリンの量と相関する。条件的にNanog又はOct4の存在に基づく発現系は、細胞が多能性に関連する性質を獲得したことを確実にする。Oct4又はNanogのレベルが高いほど、EBNA−1の薬剤選択又は優性阻害誘導体をコードするカセットからの発現レベルが高くなると考えられる。
【0278】
実施例5
iPSコロニーから残留EBVを取り除く別の方法
iPSコロニーが形成された後、残留EBVは、試薬を含む培養液を供給し、以下に詳述する方法を用いる第4の方法で取り除くこともできる。生存クローンを選別することで、EBVが存在しないことを示すことができる。
【0279】
iPSコロニーから残留EBVを取り除くために、以下の方法を用いることができる:
アシクロビル[9−(2−ヒドロキシエトキシメチル)グアニン]、EBVの溶解的複製に対して効果を持つ臨床的に有用な最初の薬剤。
【0280】
3つのヌクレオシド類似体であるE−5−(2−ブロモビニル)−2’−デオキシウリジン、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−β−D−アラビノフラノシル)−5−ヨードシトシン、及び1−(2−デオキシ−2−フルオロ−β−D−アラビノフラノシル)−5−メチルウラシルは、インビトロで効果を有するEBV複製阻害剤である(Lin et al., 1983)。
【0281】
β−L−5−ヨードジオキソランウラシルは、強い抗エプスタイン・バーウイルス(EBV)活性を有し(50%有効濃度=0.03μM)、細胞毒性が低い(50%細胞毒性濃度=1,000μM)。これは、複製可能なEBVのDNAとウイルスタンパク質の合成を抑制することで抗ウイルス活性を発現する(Kira et al., 2000)。
【0282】
3’−アジド−3’−デオキシチミジンと、α及びγインターフェロンとの組み合わせを用いて、EBVを受容細胞から取り除くことができる。
【0283】
グアニン四重鎖特異的化合物であるTMPyP3、TMPyP4、及びBRACO−19の培養液への添加を用いることができる。これらの化合物は、EBVの増殖を阻害し、EBNA−1が分裂中期の染色体に結びつく能力を妨げる(Norseen et al., 2009)。
【0284】
Hsp90阻害剤は、正常細胞に対しては無害な投与量で、樹立したEBV−転換リンパ芽球様細胞株の細胞死を誘導し、そして、Gly−Ala反復配列を欠損した機能性EBNA−1変異体を発現するレトロウイルスにリンパ芽球様細胞を安定的に感染させた場合、この効果は実質的に逆転する(Sun et al., 2010)。EBVと野生型EBNA−1を保持するiPS細胞は、特異的に標的化及び選択される。
【0285】
LCLはc−Mycを過剰発現するため、残りのリプログラミングされていない細胞及び部分的にリプログラミングされたiPSコロニーは、c−Mycを発現し続ける。化学阻害剤(10058−F4)によるc−Mycの不活性化、又は優性阻害c−Mycの条件的発現を用いて、c−Mycを発現する細胞を取り除くことができる。
【0286】
実施例6
EBVフリーの誘導多能性幹細胞にリプログラミングされたリンパ芽球様B細胞株
簡単に述べると、リンパ芽球様細胞株(LCL)はCoriell Cell Repositoriesより入手し、RPMI1640(Invitrogen)と15%FBS(Hyclone)を用いて維持した。細胞は、前述のoriP/EBNA−1由来のエピソームベクターを用いてトランスフェクションした(Yu et al., 2009;Yu et al., 2007)。トランスフェクション後、マトリゲルでコーティングした組織培養プレート(BD Biosciences)で、細胞をリプログラミング培養液(RM)中に2〜3週間置き(Yuet al.,;2010年12月に提出された文献)、次いで、TeSR−2培地(Stem Cell Technologies)中でさらに2週間維持した。iPSC様コロニーを最初に手動で選択し、マトリゲルコーティングプレート上でTeSR−2培地を用いて増殖させた。フローサイトメトリー、PCR、及びテラトーマ分析により、4つのLCL−iPSCの特性評価を行った(Yuet al., 2009)。iCell Cardiomyocytes(登録商標)、iCell Hepatocytes(登録商標)、及びiCell Neurons(登録商標)(Cellular Dynamics International)の開発において確立されたプロトコールに従って、神経系、造血系、心臓系、及び肝細胞系へのインビトロでの分化を行った。EBVの存在を、RT−PCR、ゲノムDNA PCR、及び免疫組織化学的試験により評価し、EBNA−1タンパク質の検出を行った。LCL−iPSCの核型をGバンド法(WiCell Research Institute)により分析した。親系統との遺伝的同一性を、短反復配列(STR)分析(Cell Line Genetics)により確認した。IgGH受容体再配列分析を、親系統及びLCL−iPSCに対して行った(Hematologics)。
【0287】
LCLは、Yu et al.(2010年12月に提出された文献)に記載されるフィーダーフリー条件で、リプログラミング遺伝子をコードするoriP/EBNA−1プラスミドの単一トランスフェクションによって、リプログラミングした。oriP/EBNA−1−GFPプラスミドをトランスフェクションしたLCLでは、トランスフェクション効率は50〜80%で、生存率は50〜70%であった(データ掲載せず)。LCLは、トランスフェクション後、速やかにマトリゲルコーティングプレート上に置き、リプログラミング培養液で2〜3週間培養した。トランスフェクション後およそ2週間で、接着性コロニーが観察され(
図7A)、その後、培養液をTeSR−2に移行した。TeSR−2培地中で約2週間培養した後、Tra−1−60発現の生細胞染色によって、コロニーの多能性状態を確認した(
図7Ci)。様々な用量及び組み合わせのリプログラミングプラスミドで、LCLのリプログラミングが可能である(
図7B)。L−Myc及びc−Mycでは、LCLからのiPSC発生で同等の効率が示された。Tra−1−60染色により、接着性コロニー全体の3〜11%がiPSCであることが確認された。7週目の時点で確認されたTra−1−60陽性コロニーの数は、トランスフェクション後5週目の時点のコロニー数よりも多く、標準的iPSCへの接着性コロニーの転換を裏付けている。これはさらに、アルカリホスファターゼ染色によっても確認された(データ掲載せず)。この方法によるLCL−iPSCの作製は、エピソームリプログラミングによる線維芽細胞及びケラチン生成細胞からのiPSC作製(Okitaet al., 2010;Carey et al., 2009;Okita et al., 2008)や、ウイルスを用いてリプログラミングした高分化型マウスB細胞(Hannaet al., 2008)の平均的効率よりも効率が高いが、臍帯血のエピソームリプログラミングほどは効率的ではない(Yu et al.,;2010年12月に提出された文献)。最近の発見によれば、「オープン」なクロマチンの状態が、多能性の維持に寄与することが示されている(Gaspar-Maiaet al., 2011)。EBNA−1は、クロマチン構造を維持してウイルス複製を調節する細胞性転写因子の広範な再配列を調整することが示されている。B細胞の形質転換及び他のウイルスタンパク質の発現中に誘導されるEBNA−1の多面効果は、一次細胞に比べてLCLにおけるリプログラミングプロセスを好む可能性がある(Sompallaeet al., 2010)。
【0288】
各LCLから得られた2つのクローンについて、詳細な特性評価を行った。LCL−1から得られたiPSCを、LCL−iPS1a及び1bと呼び、LCL−2から得られたものをLCL−iPS2a及びiPS2bと呼ぶ。すべてのLCL−iPSクローンで、SSEA−4、Tra−1−81及びOCT3/4の発現が90%を超え(
図7Cii)、正常な核型を有していた(
図7Ciii)。RT−PCR分析では、多能性関連転写物の強い発現が示され(
図7Civ)、またリプログラミング因子が存在しないことが示された(
図7E−7F)。4つすべてのLCL−iPSCで、高分化の奇形腫が発生し、中胚葉(軟骨組織)、杯状細胞(内胚葉)、及び神経ロゼット(外胚葉)の存在が見られた(
図7D)。LCL−iPSCのインビトロ分化は、3D懸濁培養液を用いて行った。内胚葉のポテンシャルは、肝細胞様細胞を作製し、α1−アンチトリプシン陽性細胞を定量化することで確認した(
図8Di)。外胚葉のポテンシャルは、β3−チューブリン/ネスチン二重陽性神経前駆細胞の発生、及びβ3−チューブリン陽性神経培養細胞の存在で確認した(
図8Diii〜iv)。中胚葉のポテンシャルは、心筋細胞及び多能性HPCを作製することで確認した。LCL−iPSCは、分化14日目に、2〜15%の心筋トロポニンT陽性細胞を発現し、拍動する凝集塊が発生した(
図8Dii)。LCL−iPSCは、HPCを発現して、CD34+、CD45+、CD43+、CD41+及びCD235aを発生し、メチルセルロースを用いたコロニー形成アッセイでコロニーを形成し、その後、巨核球、マクロファージ、及び顆粒球などの既知の細胞型を発生した(
図8Dv〜vii)。このように、LCL−iPSCは、高分化の細胞系を発生することができる。LCL−iPSCは、親LCLとの同一性を保持し、少なくとも50代まで継代が可能である。LCL−iPSCは、親LCLと同様のクローンIgGH再配列特性を示した(
図8E)。IgGHスペクトルは、LCL−iPSCのクローン追跡手段として用いることができる(Kuppers, 2009;van Dongen et al., 2003)。
【0289】
EBNA−1は、エピソームの潜伏感染の確立、LCLの長期生存(Leight andSugden, 2000;Altmann et al., 2006)に必要であり、また、宿主細胞内でのEBV感染の持続に不可欠な唯一のウイルスタンパク質である。LCL−iPSCは、初期継代及び後期継代において、EBNA−1の存在を検査した。25継代以降のLCL−iPSCにおいて、ゲノム/エピソームレベル、転写レベル(
図8A〜8B)、及びタンパク質レベル(
図8C)で、EBNA−1の発現は検出されなかった。しかし、EBVは、静止細胞において、潜在型0で、EBNA−1の検出可能な発現なしに存在し続けることができる(Thorley-Lawsonand Gross, 2004)。そのため、EBNA−1の発現が見られない(
図8A)ということだけで、EBVの消失を明確に示すことはできない。検出可能なEBNA−1及びoriP配列が存在しないこと、並びに別のウイルス潜在遺伝子EBNA−2及びLMP−2A、また溶菌遺伝子BZLF−1が存在しないこと(
図8A〜8B)で、リプログラミングプロセスの結果、ウイルス性成分が失われたことを確認した。LCL−iPSC中のEBVが完全に失われたことを実証するには詳細な分析が必要であるが、EBVを含まないLCL−iPSC、又はEBVを含まないLCL−iPSCに由来する既知の細胞型の作製により、これらの細胞の将来的な移植研究に向けた臨床応用の可能性が考えられる。
【0290】
iPSCの細胞培養と維持
リンパ芽球様細胞(LCL)は、15%FBSを含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO
2の加湿インキュベータ内で維持した。LCLからのiPSCの誘導は、マトリゲルでコーティングした組織培養プレート上で行った。トランスフェクションの12時間後に、細胞をリプログラミング培養液に移行した。リプログラミング培養液は、DMEM/F12に、非必須アミノ酸(NEAA)、グルタマックス、N2、B27(すべてInvitrogenから)、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、100ng/mLのゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞成長因子(zbFGF)、0.5μΜのPD0325901、3μΜのCHIR99021、0.5μΜのA−83−01(すべてStemgentから)、1000ユニット/mLのhLIF(Millipore)、及び10μΜのHA−100(Santa Cruz)を加えたものからなる。2週間は、1日おきに新しい培養液を細胞に供給した。14〜20日で、培養液をTeSR2に移行した。トランスフェクション後14〜20日では、iPSコロニーと同様の形態のコロニーが容易に観察された。正確なiPSコロニーの存在を、形態学的に、及びTra−1−60抗体による生細胞染色により確認した。すべてのLCL由来iPS細胞を、マトリゲルでコーティングした組織培養皿上で、TeSR−2完全培地(Stem cell Technologies)中で維持した。
【0291】
エピソームベクター
oriP/EBNA−1由来エピソームベクターの構築は、Yuらにより述べられている(Yuet al., 2009)。LCL−iPSCの作製には、6つのリプログラミングプラスミドを用いた。簡単に述べると、OSNKは、配列内リボソーム進入部位(IRES2)を媒介したOCT4、SOX2、NANOG及びKLF4の発現を利用するoriP/EBNA−1プラスミドである。以下のプラスミドは、発現のために同じバックボーンを利用する:OSTKは、OCT4、SOX2、SV40ラージT抗原及びKLF4をコードし、OSNLは、OCT4、SOX2、NANOG及びLin28をコードし、OSTNは、OCT4、SOX2、SV40ラージT抗原及びNANOGをコードし、c−mLはc−MYC及びLIN28をコードし、L−mLはL−MYC及びLIN28をコードする。
【0292】
LCLのリプログラミング
上述及び
図8Bに記載するエピソームベクターの様々な組み合わせを用いたLCLのリプログラミングは、ヒトB細胞96ウェルNucleofectorキット(Lonza)及びプログラムE0〜100を用いたヌクレオフェクションにより、1反応当たり1〜2μgのDNAを用いて実施した。ヌクレオフェクションを行った細胞(1条件当たり〜1.0E+06個の細胞)は、数時間回復させ、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートでリプログラミング培養液中に直接蒔いた。
【0293】
免疫蛍光、免疫ペルオキシダーゼ、及びアルカリホスファターゼ染色
細胞を、10μgのTra−1−60一次抗体(R&D Systems)とともに1時間インキュベートして、DMEM/F12で簡単に3回洗い、その後、IgM AlexaFluor488複合二次抗体(Invitrogen)を1:100で希釈したものとともに、30分間インキュベートして、Tra−1−60生細胞染色を行った。染色された細胞を洗い、Tra−1−60コロニーを蛍光顕微鏡で可視化した。アルカリホスファターゼ(AP)染色は、Vector Blue Alkaline Phosphatase Substrate Kit III(Vector Laboratories)を用いて、製造者の指示に従って実施した。
【0294】
サイトスピン細胞調製物は、親LCL及びLCL−iPSCの細胞懸濁物から作製し、アセトンで固定した。次に、スライドグラスをPBS中で再水和し、0.5%トリトンのPBS溶液で透過処理し、そして10%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて室温で1時間ブロックした。抗EBNA−1(Santa Cruz、クローン0211)を用いて、サイトスピンを4℃で一晩染色した。切片を洗い、ヤギ抗マウスIgG HRP又は関連するイソタイプ対照抗体で染色した。ジアミノベンジジンでシグナルを可視化し、スライドグラスを対比のためにヘマトキシリンで対比染色した。
【0295】
画像は、Olympus IX−71とOlympus DP−70カメラにより記録した。
【0296】
RT−PCR
各試料の全RNA及びcDNAは、それぞれ、RNeasy Mini Plusキット(Qiagen)とImprom II Reverse Transcriptionキット(Promega)を用いて、製造者の指示に従って調製した。導入遺伝子及び内因性mRNAの発現を分析するRT−PCRは、Yuら(2007)によって述べられたプライマーを用いて実施した。追加されたEBV遺伝子の検出に用いられたプライマーは以下である:EBNA−2 F 5’−CAT AGA AGA AGA AGA GGA TGA AGA −3’(配列番号1)及びEBNA−2 R 5’−GTA GGG ATT CGA GGG AAT TAC TGA−3’(配列番号2)、LMP−2A F 5’−AGG AAC GTG AAT CTA ATG AAG A−3’(配列番号3)及びLMP−2A R 5’−AAG TGA CAA CCG CAG TAA GCA−3’、BZLF−1 F 5’(配列番号4)−CAC GGT AGT GCT GCA GTT GC−3’(配列番号5)及びBZLF−1 R 5’−CCC AGA ATC AAC AGA CTA ACC AAG CCG−3’(配列番号6)。PCRは、1μLの希釈cDNAテンプレート(1:2)を用いて、30〜35サイクルで、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒により行った。
【0297】
ゲノム/エピソームDNAのPCR
全細胞性DNA及びウイルスDNAを、DNeasy Blood and Tissueキット(Qiagen)を用いて、製造者の指示に従って単離した。エピソームリプログラミングベクター及びウイルスDNAを検出するPCRを、前述のプライマー(Yu et al., 2009;Yu et al., 2007)又は上述のプライマーセットを用いて実施した。PCRは、1反応当たり150ngのgDNAを用いて、30〜35サイクルで、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒により行った。
【0298】
インビトロ分化
すべてのインビトロ分化試験では、マトリゲル上で25継代を超えて維持されているLCL−iPSCを用いた。
【0299】
TrypLE(Invitrogen)を用いて、内胚葉、神経、心臓、及び造血系培養細胞を解離して単一細胞懸濁液とし、第1の工程には、超低接着表面フラスコ中で、rock阻害剤H1152(EMD Biosciences)の存在下で、凝集塊を24時間形成させることを含む。
【0300】
造血系の分化は、NEAA、Glutamine(Invitrogen)及び2%のSR3(Sigma)を添加したIMDM培養液中に細胞を置き、25ng/mLのzbFGF、50ng/mLのrhBMP4(R&D Systems)、50ng/mlのrhVEGF、25ng/mLのrhFlt−3リガンド、25ng/mLのrhSCF、25ng/mLのrhIL−3、及び25ng/mLのrhIL−6(すべてProSpec−Tany TechnoGene Ltd.から)の存在下で、12日間行った。細胞を回収し、CD31、CD34、CD43、CD45、CD41及びCD235aの存在に対して染色し、フローサイトメトリーで分析した。個別化した細胞を、MethoCult(Stem Cell Technologies)培養液中に置き、製造者の指示に従って、コロニー形成率を定量化した。
【0301】
LCL−iPSCから得たHPCを、MegaCult(登録商標)−Cコラーゲン系培養液(Stem Cell Technologies)中に置き、巨核球前駆細胞を検出した。10日後にMegacult培養物を染色し、巨核球上のMk特異的抗原GPIIb/IIIa(CD41)の存在を、製造者の指示に従って検出した。
【0302】
LCL−iPSCから得たHPCを10日間増殖させ、骨髄系細胞を増やした。1%Excyte(Serologicals)、モノチオグリセロール(450μΜ、Sigma)、NEAA(0.1mM)、L−グルタミン(2mM)、GM−CSF(100ng/mL、ProSpec−Tany TechnoGene Ltd.)を加えたSFEM培地(Stem Cell Technologies)中に置いた。サイトスピンにライト染色を行い、異なる細胞型の存在を検出した。また、フローサイトメトリーにより、培養細胞をマクロファージ(CD68)、顆粒球(CD15)及び単球(CD14)に特異的な抗原に対して染色した(データ掲載せず)。
【0303】
心臓系の分化は、10%FBS及びzbFGF−2を添加したDMEM/F12中に凝集塊を7日間置き、続いて10%FBSを添加したDMEM/F12に移行して8日間置くことで行った。分化14日目に、拍動する凝集塊を解離し、心筋トロポニンT(cTnT)(Abcam)の存在に対して染色した。
【0304】
神経系の分化は、1%のN2添加剤、0.5〜1μΜのドルソモルフィン、及び5μΜのSB431542(ともにSigma Aldrich)を添加したDMEM/F12中に凝集塊を1週間置き、続いて、N2及びB27添加剤のみを含むDMEM/F12に移行してさらに2週間置くことで、誘導した。神経凝集塊は、分化のおよそ20日目に個別化し、マトリゲルコーティングプレート上でさらに1〜2週間培養した。β3−チューブリン及びネスチンの発現をフローサイトメトリーにより定量化した。また、細胞は、免疫蛍光によりβ3−チューブリンの存在を検出するために染色し、核は、DNA染色のためにヘキストで対比染色した。抗チューブリン抗体及び抗ネスチン抗体は、BD Pharmingenより購入した。
【0305】
内胚葉の分化は、2%のN2添加剤及び50〜100ng/mLのアクチビンA(Invitrogen)を添加したRPMI1640培養液中に、凝集塊を最初の3〜4日間置き、その後2週間、10〜50ng/mLのBMP4(R&D Systems)、zbFGF−2及びHGF2(R&D Systems)を加えることで、誘導した。肝細胞様細胞は、オンコスタチンM(R&D Systems)及びデキサメタゾン(Sigma)の存在下で成熟させ、培養細胞を分化33日目に回収した。
【0306】
奇形腫形成
マトリゲルコーティングプレート上でTeSR−2の存在下で維持したLCL−iPSCを、コラゲナーゼIVを用いて回収し、SCID/ベージュマウス(Harlan Laboratories、ウィスコンシン州マディソン)の後肢に筋肉内投与した。1細胞株につき3個体のマウスにそれぞれ6ウェルプレートの細胞を投与した。投与前に、細胞懸濁液に総体積の1/3のマトリゲルを加えた。8〜10週目に腫瘍が形成され、ウィスコンシン大学マディソン校に設置されたDepartment of SurgeryのImmunohistochemical Core Serviceによって、ヘマトキシリン及びエオシン染色、並びに組織学的解析のための処理が行われた。動物実験は、すべて、Cellular Dynamics International Animal Care and Use Committeeに認可された関連する国内及び国際ガイドラインに従って実施した。
【0307】
DNAフィンガープリント法
DNeasy Blood and Tissueキット(Qiagen)を用いて、LCL−iPSC及び親LCLからゲノムDNAを単離した。試料は、WiCell Research Institute及びCell Line Geneticsに送り、短反復配列(STR)分析を行った。8つのSTR遺伝子座の遺伝子型について、親LCL及びLCL−iPSCで分析を行った。
【0308】
核型分析
WiCell Research Instituteによって、Gバンド分析が行われた。
【0309】
IgGH再配列分析
製造者のプロトコールに従って(DNeasy Blood and Tissueキットを用いて)、親LCL及びLCL−iPSCからゲノムDNAを単離した。3つの免疫グロブリン重鎖フレームワーク領域の特徴的なモノクローナルアンプリコンを検出するため、Hematologicsにより、多重PCR反応を用いたIgG重鎖遺伝子再配列アッセイが実施された。
【0310】
フローサイトメトリー分析
マトリゲル上で維持したLCL−iPSCを回収し、Tra−1−81(AlexaFluor488複合TRA−1−81、Millipore)、及びSSEA−4(BD Pharmingen、クローンMC813−70)の存在に対して染色を行った。ヨウ化プロピジウムで染色した死細胞は、分析から除外した。2%パラホルムアルデヒドで固定化し、PBS+0.1%サポニンで透過処理した細胞に、細胞内OCT3/4(BD、クローン40/OCT−3)染色を行った。細胞は一晩かけて行い、翌日にフローサイトメーター(Accuri)で分析した。イソタイプの抗体(BD Pharmingen)を対照として用いた。
【0311】
インビトロ分化試験のため、LCL−iPSCは、多クローン性のα1−アンチトリプシン抗体(Bethyl Laboratories)を用いて染色し、肝細胞様細胞の定量化を行った。LCL−iPSCから得た神経前駆細胞は、抗チューブリン(TUJ1)及びネスチン(25 NESTIN)、BD Pharmingenを用いて染色した。心臓の分化では、細胞は抗心筋トロポニンT抗体(Abcam、クローン1C11)を用いて染色した。LCL由来HPCは、造血前駆細胞を、panCD45(クローンHI30);CD43(クローン1G10);CD34(クローン581);CD41(クローンHIP8);CD235a(クローンHIR2)抗体(すべてBD Biosciencesから)で表面染色することで定量化した。
【0312】
本明細書において開示及び請求するすべての方法は、本開示に照らして過度の実験を行うことなく実施し、達成することができる。本発明の組成物及び方法は、好適な実施形態という観点で記載されているが、当業者においては、本発明の概念、主旨、及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載する方法、及びそれらの工程又は工程の順番を変更可能であることが容易に理解される。より具体的には、本明細書に記載する薬剤に代えて、化学的かつ生理学的に関連している特定の薬剤を用いて、同じ又は同様の結果が達成されることが容易に理解される。このような、当業者に容易に理解される類似した代替物及び変更は、すべて、別紙の特許請求の範囲により定義される本発明の主旨、範囲、及び概念に含まれるものとみなされる。
【0313】
(参考文献)
以下の参考文献は、本明細書に記載するものを補足する例示的な方法又は他に関する詳細を提供する範囲で、参照により本明細書に明示的に取り込まれる。
【0314】
【化1】
【0315】
【化2】
【0316】
【化3】
【0317】
【化4】
【0318】
【化5】
【0319】
【化6】
【0320】
【化7】
【0321】
【化8】
【0322】
【化9】