特許第5936228号(P5936228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936228スピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936228
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】スピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガー
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20160609BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20160609BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20160609BHJP
   F16J 15/54 20060101ALI20160609BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20160609BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20160609BHJP
   F16J 15/447 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   B23Q11/00 E
   F16C19/16
   F16C33/80
   F16J15/54
   B23Q11/08 Z
   B23B19/02 A
   !F16J15/447
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-191657(P2012-191657)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-46410(P2014-46410A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003090
【氏名又は名称】東邦テナックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】米山 博樹
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
(72)【発明者】
【氏名】喜多須 正也
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5487631(US,A)
【文献】 特開2002−130307(JP,A)
【文献】 特開平6−226506(JP,A)
【文献】 特開2008−272853(JP,A)
【文献】 特開平5−227692(JP,A)
【文献】 特開平6−346916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23B 19/02
B23Q 11/08
F16C 19/16
F16C 33/80
F16J 15/54
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記フリンガーは、
前記回転軸にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材と、
前記第1及び第2の金属部材の少なくとも一方に形成された円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から軸方向他端側に延設される円環部と、を備えるフリンガー本体と、
を有し、
前記フリンガー本体は、炭素繊維複合材料からなり、
前記第1及び第2の金属部材は、互いに協働して、前記フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込む
ことを特徴とするスピンドル装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の金属部材はそれぞれ、円筒部と、該円筒部の軸方向端部から径方向外側に延出して前記基部の軸方向端面とそれぞれ当接する鍔部と、を有する鍔付き間座である
ことを特徴とする請求項1に記載のスピンドル装置。
【請求項3】
前記フリンガー本体の円環部の軸方向他端部には、径方向外側に延出する他の鍔部が形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスピンドル装置。
【請求項4】
円筒状の基部と、前記基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から軸方向他端側に延設される円環部と、を備えるフリンガー本体と、
前記フリンガー本体の基部に外嵌される円筒部と、該円筒部の軸方向端部から径方向外側に延出して前記フリンガー本体の基部の軸方向端面とそれぞれ当接する鍔部と、をそれぞれ有する環状の第1及び第2の金属部材と、
を備えるスピンドル装置用フリンガーであって、
前記フリンガー本体は、炭素繊維複合材料からなり、
前記フリンガー本体と前記第1及び第2の金属部材とは、前記第1及び第2の金属部材が、互いに協働して、前記フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込んだ状態で、前記フリンガー本体の基部と、前記第1及び第2の金属部材の円筒部とをすきま嵌めして接着接合することで、一体化されることを特徴とするスピンドル装置用フリンガー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガーに関し、より詳細には、防水機能を有し、工作機械に適用するのに好適なスピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガーに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に適用されるスピンドル装置の回転軸は、高速回転して被加工物の切削加工や研削加工を行っている。加工に際して、一般的に、刃具や砥石等の加工工具および加工部位の潤滑や冷却を目的として多量の加工液が加工部に供給される。即ち、潤滑により、被削特性の向上、加工刃先の摩耗抑制、工具寿命の延長などが図られる。また、冷却により、加工工具及び被加工物の熱膨張が抑制されて加工精度の向上、加工部位の熱溶着を防止して加工効率の向上や加工面の表面性状の向上が図られる。スピンドル装置と加工部との距離が近いこともあり、加工液がスピンドル装置の前面にも多量にかかる。この多量に供給される加工液が回転軸を支持する軸受内部に浸入しやすく、加工液が軸受内部に浸入すると、軸受の潤滑不良や焼付きなどの原因となるため軸受の防水性能が重要となる。特に、グリース封入潤滑やグリース補給潤滑される軸受においては、エアと共に潤滑油が供給されるオイル・エア潤滑やオイルミスト潤滑の軸受と比較して軸受内部が低圧であるため、加工液が軸受内部に浸入し易く、より高い防水性能が必要となる。
【0003】
一般的な防水機構としては、オイルシールやVリングなどの接触式シールが知られている。しかしながら、この接触式シールを、使用する軸受のdmn値が40万以上(より好適には、50万以上)の高速回転で使用されるスピンドル装置に適用した場合、接触式シールの接触部からの発熱が大きく、シール部材が摩耗して防水性能を長期間に亘って維持し難い問題がある。このため、工作機械では、スピンドル装置の前端部(工具側)に、回転軸と一体回転可能にフリンガーを固定し、該フリンガーとハウジングとの間の隙間を小さくした非接触シールである、所謂ラビリンスシールを構成して防水を図っている。高速で回転するフリンガーは、ラビリンス効果と共に、フリンガーに降りかかった加工液を遠心力で径方向外方に振り飛ばして、加工液の軸受内部への浸入を防止している。
【0004】
フリンガーによる遠心力及びラビリンス効果を利用した防水効果は、回転の高速化や大径のフリンガーを用いることで遠心力を大きくすると共に、フリンガーとハウジングとの間の隙間を極力小さく、且つ、長く設けることが効果的である。しかし、高速回転したり、フリンガーの直径を大きくすると、フリンガーに作用する遠心力及びフープ応力もこれに比例して大きくなる。
【0005】
遠心力による影響を抑制する従来の技術としては、工具に装着されたコレットを工具保持部のテーパ孔に挿入し、工具保持部に螺合するナットを締め付けて工具を工具保持部に固定するようにした工具ホルダにおいて、ナットの外周面に炭素繊維層を巻き付け、遠心力によるナットの膨張抑制を図ったものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、特許文献2に記載の工作機械用主軸装置におけるシール装置においては、主軸の先端部と一体的に回転する遮蔽版を、ハウジングの先端面に対して隙間を隔てて対向するように配置し、遮蔽版とハウジングの先端面との間にラビリンス部を設けている。このように構成することによって、ワークなどに当たって跳ね返ったクーラントがハウジングの内部に浸入することを防止している。
【0007】
また、特許文献3に記載の工作機械用主軸装置においては、主軸キャップと端面カバーとで形成するラビリンスシールを備え、当該ラビリンスシールがラビリンス室を備えるように構成されており、ラビリンス室の容積を大きく設定することで、主軸キャップと端面カバーとの隙間からラビリンス室にクーラント液が浸入した場合、ラビリンス室内のクーラント液の圧力が低下しクーラント液の流動を減衰させることを図っている。そして、主軸と主軸ヘッドの主軸ハウジングとの隙間から主軸の先端側に向かって大量の圧縮エアを供給することなく、主軸の軸受部にクーラント液が浸入するのを防止している。
【0008】
また、特許文献4に記載のスピンドルユニットは、ハウジングと、該ハウジングにベアリングを介して回転自在に装着される回転軸と、該回転軸に螺着され該ベアリングの内輪を押さえる内輪押さえ部材と、該ハウジングに固着され該ベアリングの外輪を押さえる外輪押さえ部材と、を含み、内輪押さえ部材には、外輪押さえ部材を非接触で覆う防水カバーが形成されることが開示されている。そして、上記防水カバーによって、外輪押さえ部材と内輪押さえ部材との間、即ちベアリング部位への切削水の浸入を防止し、錆の発生等を解消させることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−226516号公報
【特許文献2】特開2002−263982号公報
【特許文献3】特開2010−76045号公報
【特許文献4】特開平11−77529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、一般的にフリンガーは、SC材、SCM材、SUS材、CU材などの比較的比重が大きな金属材料で製作されている。従って、フリンガーに降りかかる加工液に大きな遠心力を作用させるために、フリンガーの直径を大きくすると、フリンガー自身、特に外径側に大きな遠心力が作用する。工作機械の回転軸のように使用する軸受のdmn値が100万以上となる高速回転においては、遠心力によってフリンガーが変形し、場合によってはフリンガー本来の防水機能が低下する虞があった。このため、遠心力による影響が許容される程度に、フリンガーの直径や回転軸の回転速度を制限する必要がある。
【0011】
従来の使用する軸受のdmn値が100万以上となる環境下で使用されるスピンドル装置では、遠心力の大きさを考慮してフリンガーの寸法を制限していたために、防水性能の点で改善の余地があった。
【0012】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用する軸受のdmn値が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガーの変形を防止することができ、さらに、フリンガーの軽量化と材料の節約が図られるスピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記フリンガーは、
前記回転軸にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材と、
前記第1及び第2の金属部材の少なくとも一方に形成された円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から軸方向他端側に延設される円環部と、を備えるフリンガー本体と、
を有し、
前記フリンガー本体は、炭素繊維複合材料からなり、
前記第1及び第2の金属部材は、互いに協働して、前記フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込む
ことを特徴とするスピンドル装置。
(2) 前記第1及び第2の金属部材はそれぞれ、円筒部と、該円筒部の軸方向端部から径方向外側に延出して前記基部の軸方向端面とそれぞれ当接する鍔部と、を有する鍔付き間座である
ことを特徴とする(1)に記載のスピンドル装置。
(3) 前記フリンガー本体の円環部の軸方向他端部には、径方向外側に延出する他の鍔部が形成される
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のスピンドル装置。
(4) 円筒状の基部と、前記基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から軸方向他端側に延設される円環部と、を備えるフリンガー本体と、
前記フリンガー本体の基部に外嵌される円筒部と、該円筒部の軸方向端部から径方向外側に延出して前記フリンガー本体の基部の軸方向端面とそれぞれ当接する鍔部と、をそれぞれ有する環状の第1及び第2の金属部材と、
を備えるスピンドル装置用フリンガーであって、
前記フリンガー本体は、炭素繊維複合材料からなり、
前記フリンガー本体と前記第1及び第2の金属部材とは、前記第1及び第2の金属部材が、互いに協働して、前記フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込んだ状態で、前記フリンガー本体の基部と、前記第1及び第2の金属部材の円筒部とをすきま嵌めして接着接合することで、一体化されることを特徴とするスピンドル装置用フリンガー。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスピンドル装置によれば、フリンガーは、回転軸にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材と、第1及び第2の金属部材の少なくとも一方に形成された円筒部に外嵌され、炭素繊維複合材料からなるフリンガー本体と、を有し、第1及び第2の金属部材は、互いに協働して、フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込む。
このように、フリンガーは、遠心力が大きい径方向外側のフリンガー本体が、一般的な金属より比強度(引張強さ/比重)が高い炭素繊維複合材料からなるので、径方向膨張を小さくできると共に、遠心力による変形を抑制することが可能である。
また、フリンガーは、遠心力が小さい径方向内側に第1及び第2の金属部材を有するので、第1及び第2の金属部材に作用する応力を小さくすることができる。
また、通常、金属からなる回転軸に、フリンガーの第1及び第2の金属部材が外嵌されるので、回転軸とフリンガーとの径方向接続関係が金属部材同士の嵌合となり、フリンガーの回転軸への取付けあるいは取外しが容易であると共に、これら取付け、取外しを繰り返しても嵌合部に問題が生じない。
以上のように、スピンドル装置は、使用する軸受のdmn値が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガーの変形を防止することができると共に、従来の金属材料からなるフリンガーと同様、フリンガーの取り付け、取り外しを嵌め合い面の損傷なく容易に行なうことができ、且つ、軸方向に精度良く位置決めすることができる。
また、フリンガー本体は、その基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部を有するので、周囲の垂直壁を可能な限り低く(浅く)する事で垂直壁に発生する遠心力を小さくすることができる。また、遠心力により傾斜部に応力が作用して、傾斜が小さくなる方向に変形が生じるため、予め傾斜部の肉厚を薄くすることが可能となり、軽量化と材料の節約が図られる。
【0015】
また、本発明のスピンドル装置用フリンガーによれば、フリンガーは、回転軸にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材と、第1及び第2の金属部材の少なくとも一方に形成された円筒部に外嵌され、炭素繊維複合材料からなるフリンガー本体と、を有し、第1及び第2の金属部材は、互いに協働して、フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込む。これにより、使用する軸受のdmn値が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガーの変形を防止することができると共に、従来の金属材料からなるフリンガーと同様、フリンガーの取り付け、取り外しを嵌め合い面の損傷なく容易に行なうことができ、且つ、軸方向に精度良く位置決めすることができる。また、フリンガー本体は、その基部の軸方向一端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向他端側に向けて傾斜する傾斜部を有するので、遠心力により傾斜部に応力が作用して、傾斜が小さくなる方向に変形が生じ、傾斜部は軸方向の肉厚が増加することになる。このため、予め傾斜部の肉厚を薄くすることが可能となり、軽量化と材料の節約が図られる。また、フリンガー本体と第1及び第2の金属部材は、第1及び第2の金属部材が、互いに協働して、フリンガー本体の基部を軸方向両側から挟み込んだ状態で、フリンガー本体の基部と、第1及び第2の金属部材の円筒部とをすきま嵌めして接着接合することで、一体化される。これにより、フリンガー本体と第1及び第2の金属部材が一体化されているので、フリンガーとして取り扱いが容易であり、組み付け性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るスピンドル装置の断面図である。
図2図1のスピンドル装置の要部拡大断面図である。
図3図1に示すフリンガーの断面図である。
図4】本発明の変形例に係るフリンガーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るスピンドル装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、スピンドル装置10は、工作機械用のモータビルトイン式スピンドル装置であり、回転軸11が、その工具側(前側、軸方向前方、軸方向一端側)を支承する2列の前側軸受50,50と、反工具側(後側、軸方向後方、軸方向他端側)を支承する2列の後側軸受60,60を介して、ハウジングHに回転自在に支持されている。ハウジングHは、工具側から順に、前側軸受外輪押さえ12、外筒13、後側ハウジング14、後蓋5によって構成されている。
【0018】
回転軸11の工具側には、軸中心を通り軸方向に形成された工具取付孔24及び雌ねじ25が設けられている。工具取付孔24及び雌ねじ25は、不図示の加工工具を回転軸11に取付けるために使用される。例えば、工具取付孔24及び雌ねじ25には、不図示の砥石クイルが取り付けられることで、研削加工が可能となる。
なお、回転軸11の構成は、一端側に加工工具が取り付けられるものであればよく、工具取付孔24及び雌ねじ25の代わりに、回転軸11の軸芯にドローバーを摺動自在に挿嵌するようにしてもよい。ドローバーは、工具ホルダを固定する不図示のコレット部を備え、皿ばねの力によってコレット部を反工具側方向に付勢する。
【0019】
回転軸11の前側軸受50,50と後側軸受60,60間の略軸方向中央には、回転軸11と一体回転可能に配置されるロータ26と、ロータ26の周囲に配置されるステータ27と、を備える。ステータ27は、ステータ27に焼き嵌めされた冷却ジャケット28を、ハウジングHを構成する外筒13に内嵌することで、外筒13に固定される。ロータ26とステータ27とはモータMを構成し、ステータ27に電力を供給することでロータ26に回転力を発生させて回転軸11を回転させる。
【0020】
各前側軸受50は、外輪51と、内輪52と、接触角を持って配置される転動体としての玉53と、図示しない保持器と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、各後側軸受60は、外輪61と、内輪62と、転動体としての玉63と、図示しない保持器と、を有するアンギュラ玉軸受である。前側軸受50,50(並列組合せ)と後側軸受60,60(並列組合せ)とは、互いに協働して背面組み合わせとなるように配置されている。
【0021】
前側軸受50,50の外輪51,51は、外筒13に内嵌されており、外筒13にボルト締結された前側軸受外輪押さえ12によって外輪間座54を介して外筒13に対し軸方向に位置決め固定されている。前側軸受50,50の内輪52,52は、回転軸11に外嵌されており、回転軸11に締結されたナット16によって、内輪間座55及び後述するフリンガー40を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0022】
後側軸受60,60の外輪61,61は、後側ハウジング14に対して軸方向に摺動自在に内嵌するスリーブ18に内嵌すると共に、このスリーブ18にボルト66で一体的に固定された後側軸受外輪押え19によって、外輪間座64を介してスリーブ18に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0023】
後側軸受60,60の内輪62,62は、回転軸11に外嵌されており、回転軸11に締結された他のナット21によって、内輪間座65を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。後側ハウジング14と後側軸受外輪押え19との間にはコイルばね23が配設され、このコイルばね23のばね力が、後側軸受外輪押え19をスリーブ18と共に後方に押圧する。これにより、前側軸受50,50及び後側軸受60,60に予圧が付与される。
【0024】
ここで、本実施形態のような研削加工では、一般的に研削液を多量に加工部に供給し、加工部の冷却及び加工粉の除去を行なっている。この加工液が前側軸受50,50に浸入しないように、フリンガー40が、前側軸受50,50より工具側(図2中左側)において回転軸11の周囲に一体回転可能に固定されており、前側軸受外輪押さえ12との間にラビリンスシールを構成して、外部からかかる研削液を回転軸11の回転と共に振り切り、前側軸受50,50への液体の浸入を抑制する防水機能を与える。
【0025】
図2及び図3も参照して、フリンガー40は、回転軸11にそれぞれ外嵌され、SC材、SCM材、SUS材などの金属からなる環状の第1及び第2の金属部材70、71と、第1及び第2の金属部材70,71に外嵌されて、炭素繊維複合材料(CFRP)からなる環状のフリンガー本体41と、を備える。
【0026】
第1及び第2の金属部材70,71はそれぞれ、円筒部70a,71aと、該円筒部70a,71aの軸方向端部から径方向外側に延出する鍔部70b,71bと、を有する鍔付き間座である。
【0027】
また、フリンガー本体41は、第1及び第2の金属部材70,71の各円筒部70a,71aに外嵌して固定された基部としての円筒状のボス部42と、該ボス部42の軸方向前端部から径方向外方に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向後方に向けて傾斜する傾斜部43と、及び該傾斜部43の径方向外方端部から軸方向後方に向かってリング状に延設された円環部44と、を有する。
【0028】
そして、第1及び第2の金属部材70,71は、各円筒部70a,71aにフリンガー本体41のボス部42を外嵌させ、各鍔部70b,71bをフリンガー本体41のボス部42の軸方向端面とそれぞれ当接させ、互いに協働して、フリンガー本体41のボス部42を軸方向両側から挟み込む。このようにしてフリンガー本体41、第1及び第2の金属部材70,71が一体化されたフリンガー40を回転軸11に外嵌して、ナット16により内輪52,52と共に軸方向に締め付けることで、フリンガー40は回転軸11に一体回転可能に固定される。
【0029】
このとき、ナット16によるフリンガー40の内輪52への軸方向締め付けが、第1及び第2の金属部材70,71を介して行われるので、金属部材同士の締め付けとなり、軸方向の位置決めが確実である。なお、仮に、この軸方向締め付けを、炭素繊維複合材料を直接介して行った場合、弾性変形が大きく、密着力が弱くなってしまう。特に、PAN系CFRP等、線膨張係数の小さいCFRP材を使用した場合、昇温によって金属からなる回転軸11との熱膨張差の違いから、軸方向の密着力が低下してナット16の締結力が低下し、クリープ等の不具合が生じる虞がある。
【0030】
なお、第2の金属部材71の鍔部71bは、フリンガー本体41のボス部42とともに、前側軸受外輪押さえ12の内周面との間にラビリンスシールを構成することから、第2の金属部材71の鍔部71bの外径は、フリンガー本体41のボス部42の外径と略等しいことが好ましい。
【0031】
回転軸11と第1及び第2の金属部材70,71の嵌合は、すきま嵌合としてもよいし、しめしろ嵌合としてもよい。また、第1及び第2の金属部材70,71とフリンガー本体41との嵌合は、適度なすきまを持ったすきま嵌合として接着接合される。なお、第1及び第2の金属部材70,71とフリンガー本体41とをしめしろ嵌合とした場合、取外しの際に、樹脂材であるフリンガー本体41の嵌め合い面に表面損傷が発生する虞がある。
【0032】
また、ボス部42は、前側軸受外輪押さえ12の内周面12aに対して僅かな隙間を介して径方向に対向配置され、傾斜部43は前側軸受外輪押さえ12の軸方向前端側のテーパ面12bに対して僅かな隙間を介して軸方向に対向配置され、円環部44は前側軸受外輪押さえ12の外周面12c及び当該外周面12cに滑らかに接続する外筒13の外周面13aに対して僅かな隙間を介して径方向に対向配置される。このように、フリンガー40は、ハウジングHを構成する前側軸受外輪押さえ12及び外筒13と僅かな軸方向隙間及び径方向隙間、例えば0.5mm程度の隙間を介して対向配置され、所謂ラビリンスシールを構成する。
【0033】
特に、円環部44の内周面と、前側軸受外輪押さえ12及び外筒13の外周面12c、13aと、の間にはその周速度の差によってエアカーテンが形成され、被加工物を加工する際、スピンドル装置10に降りかかる加工液が前側軸受50,50側に入ることを抑制するための防水機構を構成する。
【0034】
また、傾斜部43は、フリンガー本体41の回転軸線xに対して垂直な面Sに対して傾斜角αだけ傾斜している。このように、フリンガー本体41は、傾斜部43を設けることによって、周囲の垂直壁を可能な限り低く(浅く)する事で垂直壁に発生する遠心力を小さくすることができる。また、フリンガー本体41は、遠心力によって円環部44が拡径するように変形することで、傾斜部43に応力が作用し、傾斜角αが小さくなる方向に変形が生じる。このため、予め傾斜部43の肉厚を薄くすることが可能となり、軽量化と材料の節約が図られる。さらに、傾斜角αを設定することによって、フリンガー本体41の固有値の最適化を図っている。
【0035】
なお、傾斜角αとしては、15〜30°の範囲とすることが好ましい。応力解析の結果15°未満では、強度向上の効果が十分に与えられず、また、30°を越えると、前側軸受50の配置スペースが狭くなり、軸受50及び周辺部品のレイアウトが困難となる。
【0036】
また、フリンガー本体41は、金属と比較して、引張強度が高く、比重が小さい炭素繊維複合材料(CFRP)から形成されており、例えば、PAN(ポリアクリルニトリル)を主原料とした炭素繊維からなる糸を平行に引きそろえたものや、炭素繊維からなる糸で形成した織物(シート状)に、硬化剤を含むエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂を含浸させてなるシートを多数層重ね合わせて、芯金などに巻きつけ、加熱硬化させることで製造される。また、ピッチ系を主原料とした炭素繊維を使用することもできる。炭素繊維複合材料は、纖維方向・角度を最適化することで、引張強度、引張弾性率、線膨張係数などの物性値を用途に合わせて最適化することができる。
【0037】
繊維強化複合材料の特性としては、例えば、引張強度が1800〜5800MPa、好ましくは3500〜5800MPa、引張弾性率が130〜540GPa、好ましくは200〜540GPa、比重が1.5〜2.0g/ccの物性値を持ったPAN系を主原料とした炭素繊維を用いると、従来の高張力鋼等と比べて、引張強度は同等以上であり、比重は1/5程度であり、比強度では通常の金属材料と比べて約3倍となる。また、熱膨張係数は、繊維方向・角度を最適化することにより、−5〜+12×10−6−1にすることができるので、従来の炭素鋼に比べて1〜1/10程度にすることができる。
【0038】
このように、一般的な金属と比較して比強度(引張強さ/比重)が高い炭素繊維複合材料を用いることで、直径が同じであればフリンガー40に作用する遠心力を大幅に小さくすることができる。従って、回転軸11の回転速度に対する制約や、フリンガー40の大きさ(径方向)に対する制限を大幅に緩和することができる。
【0039】
これにより、従来達成することが困難であった更なる高速回転化、或いはフリンガー40の大型化が可能となり、加工液に作用する遠心力を高めて、降りかかる加工液を確実に径方向外方に振り飛ばして軸受内部への浸入を防止することができる。また、フリンガー本体41の円環部44に作用する遠心力が小さくなることで、比較的強度が弱い片持ち構造となる円環部44の開口側(図中右側)が径方向外方へ拡径することを抑制することができる。これにより、円環部44の径方向長さ及び軸方向長さを長く設定して、ラビリンスシールの長さが長くなり防水効果が向上する。
【0040】
なお、外筒13の外周面13aには、フリンガー40の自由端部よりも軸方向右側に隣接して円周溝13bが全周に亘って形成されている。従って、外筒13の外周面13aに付着した加工液が円周溝13bに溜まるので、加工液がラビリンスシールを介して前側軸受50に浸入するのを防止することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のスピンドル装置10によれば、フリンガー40は、回転軸11にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材70,71と、第1及び第2の金属部材70,71に形成された円筒部70a,71aに外嵌され、炭素繊維複合材料からなるフリンガー本体41と、を有し、第1及び第2の金属部材70,71は、互いに協働して、フリンガー本体41のボス部42を軸方向両側から挟み込む。
このように、フリンガー40は、遠心力が大きい径方向外側のフリンガー本体41が、一般的な金属より比強度(引張強さ/比重)が高い炭素繊維複合材料からなるので、径方向膨張を小さくできると共に、遠心力による変形を抑制することが可能である。
また、フリンガー40は、遠心力が小さい径方向内側に第1及び第2の金属部材70,71を有するので、第1及び第2の金属部材70,71に作用する応力を小さくすることができる。
また、通常、金属からなる回転軸11に、フリンガー40の第1及び第2の金属部材70,71が外嵌されるので、回転軸11とフリンガー40との径方向接続関係が金属部材同士の嵌合となり、フリンガー40の回転軸11への取付けあるいは取外しが容易であると共に、これら取付け、取外しを繰り返しても嵌合部に問題が生じない。
以上のように、主軸に使用される軸受50,60のdmn値(特に、フリンガー40が前方に配置される前側軸受50のdmn値)が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガー40の変形を防止することができると共に、従来の金属材料からなるフリンガー40と同様、フリンガー40の取り付け、取り外しを嵌め合い面の損傷なく容易に行なうことができ、且つ、軸方向に精度良く位置決めすることができる。また、フリンガー本体41は、そのボス部42の軸方向前端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向後方に向けて傾斜する傾斜部43を有するので、周囲の垂直壁を可能な限り低く(浅く)する事で垂直壁に発生する遠心力を小さくすることができる。また、遠心力により傾斜部43に応力が作用して、傾斜が小さくなる方向に変形が生じるため、予め傾斜部43の肉厚を薄くすることが可能となり、軽量化と材料の節約が図られる。
【0042】
また、本実施形態のスピンドル装置用フリンガー40によれば、回転軸11にそれぞれ外嵌される環状の第1及び第2の金属部材70,71と、第1及び第2の金属部材70,71の少なくとも一方に形成された円筒部70a,71aに外嵌され、炭素繊維複合材料からなるフリンガー本体41と、を有し、第1及び第2の金属部材70,71は、互いに協働して、フリンガー本体41の基部42を軸方向両側から挟み込む。これにより、主軸に使用される軸受50,60のdmn値(特に、フリンガー40が前方に配置される前側軸受50のdmn値)が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガー40の変形を防止することができると共に、従来の金属材料からなるフリンガーと同様、フリンガー40の取り付け、取り外しを嵌め合い面の損傷なく容易に行なうことができ、且つ、軸方向に精度良く位置決めすることができる。また、フリンガー本体41は、そのボス部42の軸方向前端部から径方向外側に延設され、径方向外側に向かうにつれて軸方向後方に向けて傾斜する傾斜部43を有するので、周囲の垂直壁を可能な限り低く(浅く)する事で垂直壁に発生する遠心力を小さくすることができる。また、遠心力により傾斜部43に応力が作用して、傾斜が小さくなる方向に変形が生じるため、予め傾斜部43の肉厚を薄くすることが可能となり、軽量化と材料の節約が図られる。また、フリンガー本体41と第1及び第2の金属部材70,71は、第1及び第2の金属部材70,71が、互いに協働して、フリンガー本体41のボス部42を軸方向両側から挟み込んだ状態で、フリンガー本体41のボス部42と、第1及び第2の金属部材70,71の円筒部70a,71aとをすきま嵌めして接着接合することで、一体化される。これにより、フリンガー本体と第1及び第2の金属部材70,71が一体化されているので、フリンガー40として取り扱いが容易であり、組み付け性が良い。
【0043】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0044】
図4は、本発明の変形例に係るフリンガーの断面図である。このフリンガー40では、フリンガー本体41の円環部44の自由端部44b(軸方向他端部)に、径方向外方に延出する他の鍔部46が形成されている。
【0045】
フリンガー本体41の遠心力による半径方向の変形量は、傾斜部43の傾斜角αが小さくなる方向への変形分と、円環部44の径方向の膨張量との和となり、円環部44の自由端部44bで最も大きくなり、応力も最大となる。したがって、この変形例にように、他の鍔部46によって自由端部44bの肉厚を適度に増加させることで、自由端部44bの応力を緩和することができ、円環部44の半径方向における膨張を軸方向で均一化でき、円環部44におけるラビリンスシールの径方向すきまを軸方向に亘って一定にすることができる。
【0046】
また、モータビルトイン式スピンドル装置として説明したが、これに限定されず、ベルト駆動方式スピンドル装置、モータの回転軸とカップリング連結されたモータ直結駆動方式スピンドル装置にも同様に適用可能である。更に、工作機械用のスピンドル装置に限定されず、防水機能が要望される、他の高速回転機器のスピンドル装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 スピンドル装置
11 回転軸
12 前側軸受外輪押さえ
12a 内周面
12b テーパ面
12c 外周面
13 外筒
13a 外周面
16 ナット
40 フリンガー(スピンドル装置用フリンガー)
41 フリンガー本体
42 ボス部(基部)
43 傾斜部
44 円環部
44b 自由端部(軸方向他端部)
46 鍔部
50 前側軸受(軸受)
51 外輪
52 内輪
53 玉
54 外輪間座
55 内輪間座
70 第1の金属部材
71 第2の金属部材
70a、71a 円筒部
70b、71b 鍔部
H ハウジング
S 面
x 回転軸線
図1
図2
図3
図4