(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1カフは、前記装着者の腿部の後ろ側にあてがわれるように設けられ、前記第2カフは、前記装着者の膝下部の前側にあてがわれるように設けられることを特徴とする請求項7に記載の歩行訓練システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る歩行訓練システム10の外観斜視図である。また、
図2は、歩行訓練システム1のブロック構成図である。
図1及び
図2に示すように、歩行訓練システム1は、装着者Pの動作を補助する装着式動作補助装置100と、装着者Pが歩行訓練を行うための歩行訓練装置200とを備えている。ここで装着者Pとは、装着式動作補助装置100を装着した人間をいう。装着式動作補助装置100と歩行訓練装置200とは有線及び/又は無線により通信可能に接続されているものとする。
【0021】
まず、歩行訓練装置200について説明する。歩行訓練装置200は、トレッドミル210と、装着者Pの足にかかる荷重(体重)を免荷する免荷装置220とを備えている。トレッドミル210は、ローラ211及び212の回転により循環するように移動する歩行ベルト213を有する。歩行ベルト213は水平に設置されている。モータ218(
図2参照)はベルト等によりローラ211に接続されており、ローラ211を回転させることができる。ローラ211の回転速度を変化させることで、歩行ベルト213の速度を変えることができる。また、歩行ベルト213は、坂の様に前後方向に傾斜して設置されていても良い。坂を急にすることで歩行運動の負荷を大きく、水平に近づけることで負荷を小さく調節することができる。
【0022】
歩行ベルト213の左右(
図1における手前側と後側)にはフレーム214によって上端部が連結された2つの支柱215が設けられている。また、支柱215の中段部には、アームフレーム216が設けられており、装着者Pはアームフレーム216を握ることで、歩行訓練時の姿勢を安定化させることができる。
【0023】
アームフレーム216に荷重センサを取り付け、装着者Pがアームフレーム216にどの程度体重をかけて歩行しているか検知できるようにしてもよい。荷重センサには、例えば、歪みセンサ(ストレインゲージ)を用いることができる。歪みセンサは、アームフレーム216に荷重がかかった際の歪みから、荷重を求める。このような荷重センサをアームフレーム216に取り付けることで、歩行時の装着者Pの重心の移動をより正確に検出することができる。
【0024】
免荷装置220は、例えば吊り上げ用のハーネスを有し、一端がフレーム214に連結され、他端が装着者P又は装着式動作補助装置100に連結され、サーボモータ221(
図2参照)によりハーネスを持ち上げる。サーボモータ221がどの程度ハーネスを持ち上げるかで、装着者Pの足にかかる荷重の免荷量が決定する。ハーネスの持ち上げ量が大きい程、免荷量が大きくなり、装着者Pの足にかかる荷重は小さくなる。
【0025】
免荷装置220の吊り上げ用ハーネスは、装着者P及び装着式動作補助装置100の両方に連結されていてもよい。
【0026】
また、歩行訓練装置200には、モータ218によるローラ211の回転速度や、免荷装置220による免荷量を調節できる入力部230(
図2参照)が設けられている。この入力部230により、装着者Pが、歩行ベルト213の速度や、足にかかる荷重を調節することができる。例えば、入力部230を用いて、歩行ベルト213の速度を、装着者Pの歩行速度と同じ(同程度)に設定することができる。また、歩行ベルト213の速度を、装着者Pの歩行速度と比較してどの程度速くするか設定できるようにしてもよいし、どの程度遅くするか設定できるようにしてもよい。更に、現在の設定速度よりも遅く、または、早くするように設定できるようにしてもよい。
【0027】
次に、装着式動作補助装置100について、
図2を用いて説明する。装着式動作補助装置100は、生体電位信号検出手段101、関節角度検出手段103、重心位置検出手段104、制御装置110、駆動信号生成手段131、及び駆動源(アクチュエータ)132を備える。
【0028】
生体電位信号検出手段101は、装着者Pが発生する筋力に応じた筋電位を検出する。人が動こうとした場合には、その意思は電気信号となり体内の神経を通じて脳から筋肉へ伝達される。このとき、生体電位信号検出手段101は、皮膚表面に生じる生体電位信号を検出する。
【0029】
関節角度検出手段103は、装着者Pの動作に応じた関節角度を検出し、制御装置110へ出力する。
【0030】
重心位置検出手段104は、装着者Pの動作に応じた重心位置を検出し、制御装置110へ出力する。
【0031】
制御装置110は、随意制御手段111、自律制御手段112、データ格納手段113及び指令信号合成手段114を有する。
【0032】
随意制御手段111は、生体電位信号検出手段101により検出された生体電位信号(筋電位信号)に対して、フィルタ処理(スムージング処理)及び増幅を含む信号処理を行う。そして、随意制御手段111は、信号処理を施した生体電位信号を用いて、装着者Pの意思に従った動力を駆動源(アクチュエータ)132に発生させるための随意指令信号を生成する。
【0033】
データ格納手段113は、装着者Pのタスクのフェイズを特定するための基準パラメータデータベースと、特定されたフェイズに応じて装着者Pの動きをアシストするためのアシストパラメータとを格納する。タスクとは、人間の主要な動作パターンを分類したものである。フェイズとは、各タスクを構成する一連の最小動作単位である。
【0034】
図3に、基準パラメータデータベースに格納される各タスク及び各フェイズの一例を示す。
【0035】
図3に示されるように、装着者Pの動作を分類するタスクとしては、例えば、座位状態から立位状態に移行する立ち上がり動作データを有するタスクAと、立ち上がった装着者Pが歩行する歩行動作データを有するタスクBと、立った状態から座位状態に移行する座り動作データを有するタスクCと、立った状態から階段を昇り降りする階段昇降動作データを有するタスクDとが、基準パラメータデータベースに格納されている。
【0036】
そして、各タスクには、複数のフェイズデータが設定されており、例えば、歩行動作のタスクBには、左脚に重心を置いて立脚した状態から右脚を前に振り出そうとするときの動作データ(関節角度や重心位置の軌跡、トルクの変動、生体電位信号の変化など)を有するフェイズB1と、右脚を前に出した状態から着地して重心を移すときの動作データを有するフェイズB2と、右脚に重心を置いて立脚した状態から左脚を前に振り出そうとするときの動作データを有するフェイズB3と、左脚を右脚の前に出した状態から着地して重心を移すときの動作データを有するフェイズB4と、が設定されている。
【0037】
このように、人間の一般的な動作を分析すると、各フェイズにおける各関節の角度や重心の移動等の典型的な動作パターンが決まっていることが分かる。そこで、人間の多数の基本動作(タスク)を構成する各フェイズについて、典型的な関節角度の変位や重心移動の状態等を経験的に求め、それらを基準パラメータデータベースに格納しておく。
【0038】
また、各フェイズについては、複数のパターンのアシストパターンが割り当てられており、同じフェイズでも各アシストパターンで異なったアシストがされる。
【0039】
例えば、人間は体の大きさや、筋力の状態などにより、また、歩行速度などによって、異なる歩行パターンを有している。また、動作の目的(例えば、リハビリ目的、トレーニング目的、歩様の改善目的、動作(力の)補助目的等)によっても歩行パターンが異なる。また、リハビリ目的であっても、対象となる人の障害の度合いや、リハビリの進み具合によって、適した動作パターンは異なる。
【0040】
そのため、目的とする動作パターンに適したアシストも異なる。そこで、目的とする動作パターンに適したアシストに応じて、複数のアシストパターンの中から、最適なアシストパターンを選択できるように、各フェイズについて多数のアシストパターンが割り当てられている。
【0041】
自律制御手段112は、関節角度検出手段103により検出された関節角度及び重心位置検出手段104により検出された重心位置等の装着者の動作の状態をあらわすパラメータと、データ格納手段113に格納された基準パラメータとを比較して、装着者1の動作のタスク及びフェイズを特定する。自律制御手段112は、装着者の動作の状態に応じてフェイズを特定したら、そのフェイズに割り当てられたアシストパターンの中から、予め設定された目的に応じて、最適なアシストパターンを選択し、このアシストパターンに応じた動力を駆動源(アクチュエータ)132に発生させるための自律指令信号を生成する。
【0042】
指令信号合成手段114は、随意制御手段111により生成された随意指令信号と、自律制御手段112により生成された自律指令信号とを合成し、合成指令信号を駆動信号生成手段131へ出力する。随意指令信号と自律指令信号との合成比を各タスクのフェイズ毎に予め設定してデータ格納手段113に格納しておいてもよい。
【0043】
合成指令信号は、動作の開始から終了まで変化する随意的制御による動力と、フェイズ毎に自律的制御による動力とを合成した動力を駆動源132に発生させる波形を有する。
【0044】
駆動信号生成手段131は、合成指令信号に応じた駆動信号(駆動電流)を生成し、駆動源132に供給することにより、駆動源132を駆動する。駆動源132は、駆動信号に応じたアシスト力(動力)を装着者Pに付与する。
【0045】
また、制御装置110の算出手段(図示せず)は、装着者Pの足の長さ及び関節角度検出手段103により検出された関節角度の変遷から歩幅を求め、この歩幅と、足が地面から離れてから着地するまでの時間とから、歩行速度を算出する。制御装置110は、算出した歩行速度に基づく速度で歩行ベルト213が動くように、モータ218を制御することができる。
【0046】
さらに、制御装置110は、重心位置検出手段104によって検出された重心位置に基づいて、免荷装置220の免荷量を制御することができる。例えば、制御装置110は、重心位置が所定の領域から外れた場合、装着者Pの体が大きく傾いたと判断して、免荷装置220の免荷量が大きくなるようにサーボモータ221を制御し、装着者Pを持ち上げる。これにより、装着者Pの姿勢を安定化させることができる。また、重心位置検出手段104による重心位置の検出が困難な場合、例えば後述する靴51、52の中敷センサ及びスタビライザ53の底部の荷重センサが荷重を検出することが困難な場合、吊り上げ過ぎと判断し、免荷量が小さくなるようにサーボモータ221を制御する。
【0047】
また、制御装置110は、重心位置検出手段104によって検出された重心位置に基づいて、歩行ベルト213の速度を制御することができる。例えば、制御装置110は、重心位置が所定の領域よりも前方にずれてしまった場合には、装着者Pが前方に傾いている、すなわち、歩行ベルト213の速度に比べて装着者Pの歩行速度の方が速いと判断し、歩行ベルト213の速度を速くする。逆に、重心位置が所定の領域よりも後方にずれてしまった場合には、装着者Pが後方に傾いていると判断し、歩行ベルト213の速度を遅くする。
【0048】
また、重心位置が所定の領域を離れて左右にぶれている場合には、装着者Pの歩行が不安定になっていると判断し、装着者Pの安全に配慮して、歩行ベルト213の速度を徐々に遅くするとともに、免荷量を徐々に大きくする。
【0049】
ここでいう「所定の領域」とは、歩行動作中に重心位置が推移すべき領域であって、多数の者の歩行パターンをモニタリングして経験的に求められる理想的な領域を適用することもできるし、装着者Pの歩行動作の習熟度に応じて個別に領域を設定できるようにしても良い。
【0050】
例えば、装着者Pが安定した歩行を行う際に重心位置が推移する領域、すなわち上述の「所定の領域」は、
図4(a)に示す2本の破線の間の領域であり、この領域内に重心位置(実線)があれば、装着者Pの歩行は安定していると判断できる。
【0051】
図4(b)は、重心位置が「所定の領域」を外れ装着者Pの歩行が不安定な場合に、免荷装置220の免荷量や歩行ベルト213の速度を制御して、歩行を安定化させる例を示している。
図4(b)の地点A1のように、足よりも重心が外側にずれている場合は、スラビライザ53の方にほとんどの荷重がかかり、体が左右にぶれ過ぎていると判断できる。また、地点A2のように、重心移動のタイミングが先にずれている場合は、体が前のめりぎみになっており、歩行ベルト213の速度が遅すぎると判断できる。このような判断に基づいて、地点A3において免荷装置220の免荷量や歩行ベルト213の速度を制御することで、以降の装着者Pの歩行を安定化させることができる。
【0052】
また、装着者Pの歩行が安定している状態が持続していることが確認されたら(例えば、1分以上又は20歩以上など予め設定された所定の期間、重心移動が上記所定の領域内で推移している場合)、徐々に免荷量を小さくしたり、徐々に歩行ベルト213の速度を上げたりするように制御することで、装着者Pに対する歩行の負荷を徐々に上げていき、歩行訓練をすることができる。
【0053】
免荷装置220が、吊り上げている装着者Pの体の傾きを検出できる場合は、制御装置110が、免荷装置220により検出された装着者Pの体の傾きに基づいて免荷量を制御するようにしてもよい。例えば、装着者Pの体幹部にジャイロセンサー等の傾き検出手段を取り付け、この検出信号に基づいて、装着者Pの体が傾いているか否か判断する。
【0054】
図5は、装着者Pを後側からみた斜視図である。装着式動作補助装置100は、例えば、骨格筋の筋力低下により歩行が不自由な下肢運動機能障害者、又は、歩行運動のリハビリを行う患者などのように自力歩行が困難な人の歩行動作を補助(アシスト)する装置であり、脳からの信号により筋力を発生させる際に生じる生体信号(表面筋電位)を検出し、検出した生体信号に基づいてアクチュエータからの駆動力を装着者Pに付与するように作動する。
【0055】
装着式動作補助装置100を装着した装着者Pは、自らの意思で歩行動作を行おうとすると、その際に発生した生体信号に応じて歩行動作に必要な駆動トルクがアシスト力として動作補助装置100から付与される。従って、装着者Pは、自身の筋力が足りず歩行することができない場合であっても、自らの意思に基づく生体信号に応じて、アクチュエータから付与される駆動トルクとの合力によって、脚を動かして歩行することができる。
【0056】
その際、動作補助装置100は、歩行動作に伴う重心の移動に応じて付与されるアシスト力が装着者Pの意思を反映するように制御している。そのため、動作補助装置100のアクチュエータは、装着者Pの意思に反するような負荷を与えないように制御されており、装着者Pの動作を妨げない。
【0057】
図5に示すように、動作補助装置100は、腰部フレーム10、脚部フレーム11〜14、締結ベルト21〜24、パワーユニット31〜34、筋電位センサ41〜44、靴51、52及びコントロールユニット60を有する。また、動作補助装置100は、パワーユニット31〜34やコントロールユニット60等に電力を供給する電源(図示せず)を備える。電源は腰部フレーム10に取り付けることができる。
【0058】
腰部フレーム10は、装着者Pの腰回りを支持するためのフレームであり、装着者1の胴体に固定される。
【0059】
腰部フレーム10には、パワーユニット31、32が腰部フレーム10に対して回動自在となるように連結されている。パワーユニット31、32は、脚部フレーム11、12を介してパワーユニット33、34に連結される。パワーユニット33、34は、脚部フレーム11、12に対して回動自在となるように連結されている。
【0060】
靴51、52は、フレーム13、14を介してパワーユニット33、34に連結される。
【0061】
パワーユニット31〜34は、大腿、下腿それぞれの関節(股関節、膝関節)に該当する部分に設けられる。フレーム11、12は装着者Pの腿外側に沿うように設けられ、フレーム13、14は装着者Pの脛外側に沿うように設けられる。従って、フレーム11〜14は、装着者1の脚と同じ動作を行えるように構成されている。
【0062】
フレーム11、12は締結ベルト21、22により、装着者Pの腿に締結される。また、フレーム13、14は締結ベルト23、24により、装着者Pの膝下に締結される。
【0063】
パワーユニット31〜34は、駆動モータを含み、駆動モータの回転軸が、ギヤを介して被駆動側となるフレーム11〜14に駆動トルクを伝達する。この駆動トルクは、締結ベルト21〜24を介して装着者1の脚にアシスト力として伝達される。
【0064】
駆動モータは、関節角度を検出する角度センサを有する。角度センサは、例えば、関節角度に比例したパルス数をカウントするロータリエンコーダにより構成される。角度センサは検出した関節角度をコントロールユニット60へ出力する。
【0065】
パワーユニット31〜34は、
図2における関節角度検出手段103、駆動信号生成手段131及び駆動源132に相当する。
【0066】
筋電位センサ41、42は、装着者Pの尻に貼着され、大殿筋等の股関節の伸展にかかる筋肉の表面筋電位を検出する。
【0067】
筋電位センサ43、44は、装着者1の膝上後側に貼着され、大腿二頭筋等の膝関節の屈曲にかかる筋肉の表面電位を検出する。
【0068】
また、図示していないが、装着者Pの腿の付け根部分前側に貼着され、大腿直筋の等の股関節の屈曲にかかる筋肉の表面筋電位を検出する筋電位センサ、及び、装着者Pの膝上前側に貼着され、外側広筋又は内側広筋等の膝関節の伸展にかかる筋肉の表面筋電位を検出する筋電位センサも設けられている。
【0069】
筋電位センサは、検出した筋電位をコントロールユニット60へ出力する。筋電位センサ41〜44は、生体電位信号検出手段101に相当する。
【0070】
靴51、52には中敷センサ(図示せず)が設けられている。中敷センサは、例えば、右脚、左脚の前側、後側に対する反力を検出する反力センサを含む。反力センサは、例えば、印加された荷重に応じた電圧を出力する圧電素子からなり、重心位置等を検出することができる。中敷センサは、検出結果をコントロールユニット60へ出力する。
【0071】
また、靴51、52の外側部には足関節の内反を防ぐスタビライザ53が設けられている。さらに、スタビライザ53の底部には、フレーム11〜14を介して地面(床)にかかる荷重を検出し、コントロールユニット60へ出力する荷重センサが搭載されている。この荷重センサと、靴51、52の中敷センサとが、
図2の重心位置検出手段104に相当する。
【0072】
中敷センサは、靴51、52の内部に中敷きのように設けられるが、同様のセンサを靴51、52の内部でなく、靴底の裏(床に接する面)に設けるようにしてもよい。靴の中にセンサを設ける場合は、装着者Pの足裏にかかる荷重、すなわち、装着者P単体の重心位置を検出することができる。一方、靴底の裏にセンサを設ける場合は、靴底にかかる荷重、すなわち、装着者Pと装着式動作補助装置100とを合わせた全体の重心位置を検出することができる。例えば、装着者Pが重度の障害を持っている場合、足の裏に体重がかかり難く、中敷きの位置で荷重を測定するよりも、靴底にかかる荷重を測定した方が、重心位置を精度良く検出でき、良好な歩行支援を行うことができる。
【0073】
歩行訓練システム1を利用して歩行訓練を行う装着者Pの歩行フェイズには、
図6に示すように、片脚毎に、単脚支持期、両脚支持期、遊脚期の3つのフェイズがある。上述した随意制御手段111及び自律制御手段112により、右脚、左脚のそれぞれについて、フェイズ毎にアクチュエータの制御を切り替えることができる。
【0074】
具体的には、随意制御手段111が、生体電位信号検出手段101により検出された生体電位が閾値を超えたか否かに基づいて、装着者Pが脚を振り上げようとしているか否か判定する。また、自律制御手段112が、重心位置検出手段104により検出された足底荷重を用いて左右の足底荷重比率を算出し、この足底荷重比率が、左単脚支持、両脚支持、右単脚支持のいずれの状態を示すか判断する。
【0075】
そして、例えば、右脚の生体電位が閾値を超え、かつ足底荷重比率が左単脚支持を示す場合、制御装置110は、右脚に遊脚期のアシストを開始し、左脚には単脚支持期のアシストを開始する。逆に、左脚の生体電位が閾値を超え、かつ足底荷重比率が右単脚支持を示す場合、制御装置110は、左脚に遊脚期のアシストを開始し、右脚には単脚支持期のアシストを開始する。あるいはまた、足底荷重比率が両脚支持を示す場合、制御装置110は、両脚支持を維持するアシストを行う。
【0076】
次に、各歩行フェイズでのアシスト手法について説明する。
【0077】
人の歩行における両脚支持期では、両脚で体重を支えつつ次の遊脚の振り出しに備えて、前側の脚に体重を移す。本実施形態では、免荷装置220やアームフレーム216により上半身の姿勢が支えられるため、制御装置110は膝関節部のパワーユニット33、34にトルクを付与し、膝折れを防止する。股関節に対しては直立位になるようにフィードバック制御を行う。その際に、後ろ側の脚に対してフィードバック制御を行うと、装着者Pが体重を前側の脚に移すための動作の妨げになり得るので、前側の脚のみにフィードバック制御を行う。股関節部のパワーユニット31、32の角度センサの目標角度、目標角速度は共に0である。
【0078】
単脚支持期では、片脚で体重を支えつつ体幹を前に進める働きをする。膝関節は両脚支持期と同様に体重を支える役割があるので、両脚支持期と同じ制御を適用する。一方、股関節は体幹を前に進めるために伸展させる必要があるので、健常者の歩行時の股関節伸展の角度パターンを目標とした軌道追従制御を行う。
【0079】
遊脚期では、前半で膝と股関節が屈曲し、後半で伸展することで脚を前方に振り出して次の着地に備えるという一連の動作を行っている。本実施形態では、健常者の遊脚期の膝と股関節の角度、角速度の軌道パターンを目標として軌道追従制御を行う。
【0080】
続いて、歩行訓練システム1を利用して歩行訓練を行う方法を
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
【0081】
(ステップS101)装着式動作補助装置100を装着する。
【0082】
(ステップS102)装着者Pが、トレッドミル210の歩行ベルト213上に乗り、免荷装置220に連結される。なお、装着式動作補助装置100を予め免荷装置220に連結しておき、この状態で人間が装着式動作補助装置100を装着する、言い換えれば免荷装置220に連結された装着式動作補助装置100に乗り込むようにしてもよい。
【0083】
(ステップS103)装着者P又はオペレータが、入力部230を用いて免荷量を設定する。例えば50%の免荷量が設定され、装着者Pの足にかかる荷重が低減される。
【0084】
(ステップS104)装着者P又はオペレータが、入力部230を用いて歩行ベルト213の初期速度を設定する。例えば0.2km/hの速度が設定される。
【0085】
(ステップS105)生体電位信号検出手段101が、装着者Pの生体電位信号を検出する。また、重心位置検出手段104が装着者Pの左右の足底荷重を検出する。
【0086】
(ステップS106)制御装置110が、左右の足底荷重から足底荷重比率を算出し、左単脚支持、両脚支持、右単脚支持のいずれの状態であるかを判定する。また、制御装置110が、生体電位が閾値を超えたか否かに基づいて、装着者Pが脚を振り上げようとしているか否か判定する。
【0087】
(ステップS107)制御装置110が、ステップS107における判定結果に基づいて各脚の歩行フェイズを特定し、特定した歩行フェイズに対応したアシストを付与する。これにより、装着者Pは歩行を行うことが可能となる。
【0088】
(ステップS108)制御装置110が、装着者Pの歩行速度を算出する。具体的には、まず、装着者Pの足の長さ及び関節角度検出手段103により検出された関節角度の変遷から歩幅を求める。そして、求めた歩幅と、足が地面から離れてから着地するまでの時間とから、歩行速度を算出する。
【0089】
(ステップS109)ステップS108で算出した歩行速度に基づいて歩行ベルト213の速度を決定し、制御装置110がモータ218を制御する。例えば、装着者Pの歩行速度と歩行ベルト213の速度とが同じになるようにモータ218を制御する。
【0090】
(ステップS110)装着者Pの姿勢が安定しているか否か判定する。姿勢が安定していないと判定された場合はステップS111へ進み、姿勢が安定していると判定された場合はステップS112へ進む。例えば、重心位置検出手段104によって検出された重心位置が所定の領域から外れている場合、装着者Pの姿勢が安定していないと判定する。
【0091】
(ステップS111)制御装置110が免荷装置220の免荷量を制御し、装着者Pの姿勢を安定化させる。例えば、免荷量を大きくして装着者Pをさらに持ち上げるようにする。また、歩行ベルト213の速度を遅くしてもよい。
【0092】
(ステップS112)歩行ベルト213の速度を変更する場合はステップS113へ進み、変更しない場合はステップS114へ進む。
【0093】
(ステップS113)入力部230を用いて、歩行ベルト213の速度設定を変更する。例えば、歩行ベルト213の速度を歩行速度よりどの程度速くするかを入力部230に入力する。これ以降、ステップS109では、この設定に基づいて歩行ベルト213の速度を決定してモータ218を制御する。
【0094】
(ステップS114)免荷装置220による免荷量を変更する場合はステップS115へ進み、変更しない場合はステップS116へ進む。
【0095】
(ステップS115)入力部230を用いて、免荷量の設定を変更する。これにより、装着者Pの足にかかる荷重を調節し、装着者Pは所望の姿勢をとることができる。
【0096】
(ステップS116)歩行訓練を継続する場合はステップS105に戻る。
【0097】
このように、本実施形態に係る歩行訓練システムによれば、免荷装置220により装着者Pを吊り上げて姿勢を安定化させつつ、装着式動作補助装置100により装着者Pに対してアシスト力を付与し歩行動作を補助する。また、装着式動作補助装置100の制御装置110により、装着者Pの歩行速度に基づいてトレッドミル210の歩行ベルト213の速度を制御するとともに、装着者Pの重心位置や体の傾きに基づいて免荷装置220の免荷量を制御することができる。そのため、下肢の自力動作が困難な患者であっても、転倒の心配をせずに、安全に歩行訓練を行うことができる。
【0098】
上記実施形態では、重心位置検出手段104によって検出された重心位置や、免荷装置220によって検出された装着者Pの体の傾きに基づいて装着者Pの姿勢が安定か否か判断する例を説明したが、アームフレーム216に荷重センサを設け、この荷重センサにより検出された荷重が所定値以上になると装着者Pの姿勢が不安定になっていると判断するようにしてもよい。装着者Pは、姿勢が不安定になると、アームフレーム216に体重をかけ、姿勢を安定化させようとするためである。
【0099】
また、上記実施形態では、例えば、膝関節へのアシストであれば、大腿二頭筋や外側広筋または内側広筋のように対応する関節の屈曲及び伸展にかかる筋肉の筋電位を検出していたが、腹筋の筋電位を検出して、装着者Pの脚上げの意思を検知するようにしてもよい。これにより、大腿直筋などの主要な股関節屈筋群の近傍から随意的な生体電位信号を検出することが困難な場合でも、脚上げの意思を検知することができる。
【0100】
また、上記実施形態では、制御装置110が装着者Pの歩行速度を算出し(ステップS108)、歩行ベルト213の速度が、算出した歩行速度に対応した速度となるようにモータ218を制御(ステップS109)していたが、これらの処理を省略してもよい。この場合、制御装置110は、装着者Pの姿勢安定性(重心位置)、又は入力部230を介した変更指示に基づいて、免荷量及び/又は歩行ベルト213の速度を制御する。
【0101】
(歩行訓練装置200の第1変形例)上記実施形態に係る歩行訓練装置200は、トレッドミル210を使用した据置型であったが、
図8に示すように、左右一対の前輪240及び左右一対の後輪241を備えた自走式としてもよい。前輪240と後輪241とはフレーム242により連結され、支柱215はフレーム242に対して垂直に設けられる。
【0102】
モータ218(
図2参照)が、前輪240又は後輪241の駆動を行い、歩行訓練装置200は、装着者Pの歩行速度にあわせた速度で前後に移動することができる。制御装置110は、上記実施形態における歩行ベルト213の制御と同様に、自走式の歩行訓練装置200の移動速度を制御することができる。
【0103】
このような構成にすることで、装着者Pは実際に床の上を歩きながら歩行訓練を行うことができる。
【0104】
また、アームフレーム216に荷重センサを設け、検出される荷重のバランスに応じて、前輪240または後輪241を駆動(回転)させ、歩行訓練装置200の進行方向を右又は左方向に変えることができる。
【0105】
図8に示す構成は四輪であるが、三輪でもよいし、五輪以上でもよい。モータ218は、歩行訓練装置200が前後方向に動けるように少なくともいずれか1つの車輪を駆動する。
【0106】
(歩行訓練装置200の第2変形例)
図9に示すように、免荷装置220が天井に設けられたレール250に沿って移動するようにしてもよい。駆動部251に吊り上げ用のハーネスの一端が連結されている。駆動部251には、ハーネスを持ち上げるサーボモータ221(
図2参照)、レール250に沿って移動する車輪(図示せず)、及びこの車輪を回転させるモータ218(
図2参照)が設けられている。駆動部251は、装着者Pの歩行速度にあわせた速度で移動する。
【0107】
このような構成によっても、装着者Pは実際に床の上を歩きながら歩行訓練を行うことができる。なお、装着者Pは姿勢を安定させるために杖252をつくことが好ましい。
【0108】
杖252に荷重センサを取り付け、装着者Pが杖252にどの程度体重をかけて歩行しているか検知できるようにしてもよい。荷重センサには、例えば、歪みセンサ(ストレインゲージ)を用いることができる。歪みセンサは、杖252に荷重がかかった際の歪みから、荷重を求める。このような荷重センサを杖252に取り付けることで、歩行時の装着者Pの重心の移動をより正確に検出することができる。
【0109】
上記実施形態及び変形例では、装着式動作補助装置100の制御装置110がモータ218やサーボモータ221を制御する構成について説明したが、装着者Pの歩行速度に基づいてモータ218を制御したり、歩行者Pの姿勢に応じてサーボモータ221を制御したりする制御手段を歩行訓練装置200に設けてもよい。この場合、制御手段は、装着式動作補助装置100から装着者Pの歩行速度や姿勢(重心位置)についての情報を取得して、モータ218やサーボモータ221を制御する。
【0110】
上述した実施形態で説明した歩行訓練システム10の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、歩行訓練システム10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0111】
また、歩行訓練システム10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0112】
上記実施形態に係る装着式動作補助装置100では、締結ベルト21〜24が装着者Pの腿や膝下に直接締結されていたが、フレーム11〜14を装着者Pの脚に固定するために、フレーム11〜14に湾曲したカフを設け、このカフを腿や膝下の後ろ半面にあてがってから、締結ベルト21〜24を巻き付けるようにしてもよい。このようなカフを用いることで、アクチュエータの力をより効率良く装着者Pの脚に伝えることができる。
【0113】
カフは腿及び膝下の後ろ側からあてがってもよいし、腿にあてがう向きと膝下にあてがう向きとを逆にしてもよい。通常の歩行動作では、脚を振り出して進むため、カフを腿及び膝下の後ろ側から当てることで、アクチュエータの力を効率良く脚に伝えることができる。しかし、装着者Pが重い障害を持っている場合は、腿のカフを後ろ側からあてがい、膝下のカフを前側からあてがうことが好ましい。障害が重い人は、脚に力が入り難く、膝が曲がった状態となりやすいため、下腿のカフは、後ろ側からあてがうより、前側からあてがう方が、効果的に重さを支えることができ、歩行動作を補助しやすくなるためである。
【0114】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。