(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936252
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】塩素含有ダストの処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
B09B 3/00 20060101AFI20160609BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B3/00ZAB
C04B7/44
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-32258(P2012-32258)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-166135(P2013-166135A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年10月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健三朗
【審査官】
松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−229429(JP,A)
【文献】
特開昭60−187354(JP,A)
【文献】
特開平10−128304(JP,A)
【文献】
特開2009−241010(JP,A)
【文献】
特開2005−279370(JP,A)
【文献】
特開2006−272168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00− 5/00
C04B 7/26,7/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を用いることが不可能又は水が高価な地域において、塩素含有ダストに含まれる水溶性塩素分を海水に溶解させた後除去する水洗脱塩工程と、
該水洗脱塩工程によって得られた脱塩ケーキをセメントキルンに投入する投入工程とからなることを特徴とする塩素含有ダストの処理方法。
【請求項2】
前記水洗脱塩工程は、
前記塩素含有ダストを海水を用いてスラリー化するステップと、
該スラリーに前記セメントキルンの排ガスを吹き込み、該スラリーのpHを9.5以上11.5以下に調整するステップと、
該pH調整後のスラリーを洗浄しながら固液分離するステップとからなることを特徴とする請求項1に記載の塩素含有ダストの処理方法。
【請求項3】
前記塩素含有ダストは、都市ごみ焼却飛灰又は/及び塩素バイパスダストであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩素含有ダストの処理方法。
【請求項4】
塩素含有ダストに含まれる水溶性塩素分を海水に溶解させた後除去する水洗脱塩装置と、
該水洗脱塩装置からの脱塩ケーキをセメントキルンに投入する投入装置とを備え、
水を用いることが不可能又は水が高価な地域に設置されることを特徴とする塩素含有ダストの処理装置。
【請求項5】
前記水洗脱塩装置は、前記塩素含有ダストを海水を用いてスラリー化し、該塩素含有ダスト中に含まれる塩素を溶解させる溶解槽を備えることを特徴とする請求項4に記載の塩素含有ダストの処理装置。
【請求項6】
前記水洗脱塩装置は、前記溶解槽からのスラリーを、前記脱塩ケーキとろ液に分離する固液分離機を備えることを特徴とする請求項5に記載の塩素含有ダストの処理装置。
【請求項7】
前記固液分離機は、前記溶解槽からのスラリーに海水を用いて洗浄しながら固液分離する洗浄手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の塩素含有ダストの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有ダストの処理方法及び処理装置に関し、特に、都市ごみ焼却飛灰や塩素バイパスダスト等の塩素含有ダストを脱塩処理して有効利用する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒーターの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。
【0003】
この塩素バイパスシステムでは、抽気した燃焼ガスを冷却して生成したダストの微粉側に塩素が偏在しているため、ダストを分級機によって粗粉と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルン系に戻すとともに、分離された塩化カリウム等を含む微粉(塩素バイパスダスト)を水洗して塩素を除去し、固液分離して得られた脱塩ケーキをセメント原料として利用していた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、可燃性の家庭ごみ廃棄物及び産業廃棄物を焼却した際に生ずる焼却飛灰についても、水洗して塩素を除去した後固液分離し、得られた脱塩ケーキをセメント原料として利用していた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−330148号公報
【特許文献2】再表2005/025768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記塩素含有ダストからの塩素除去に水(工水)を利用することができないか、水が高価な地域では、上記脱塩処理を行うことができず、塩素含有ダストを有効利用することができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、工水等を利用せずに塩素含有ダストを脱塩処理して有効利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、塩素含有ダストの処理方法であって、
水を用いることが不可能又は水が高価な地域において、塩素含有ダスト
に含まれる水溶性塩素分を海水
に溶解させた後除去する水洗脱塩
工程と、該水洗脱塩
工程によって得られた脱塩ケーキをセメントキルンに投入する
投入工程とからなることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、塩素含有ダストの処理に工水等に代えて海水を利用するため、工水等を用いずに塩素含有ダストの脱塩処理して有効利用することができる。
【0010】
前記塩素含有ダストの処理方法において、
前記水洗脱塩工程を、前記塩素含有ダストを海水を用いてスラリー化
するステップと、該スラリーに前記セメントキルンの排ガスを吹き込み、該スラリーのpHを9.5以上11.5以下に調整
するステップと、該pH調整後のスラリーを洗浄しながら固液分離するステップとからなる工程とすることができる。これにより、後段の設備でスケールが発生することを防止し、安定運転を維持することができる。
【0011】
前記塩素含有ダストの処理方法において、前記塩素含有ダストを、都市ごみ焼却飛灰又は/及び塩素バイパスダストとすることができ、これらを有効利用することができる。
【0012】
また、本発明は、塩素含有ダストの処理装置であって、塩素含有ダスト
に含まれる水溶性塩素分を海水
に溶解させた後除去する水洗脱塩装置と、該
水洗脱塩装置からの脱塩ケーキをセメントキルンに投入する投入装置とを備え
、水を用いることが不可能又は水が高価な地域に設置されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、上記発明と同様に、工水等を用いずに塩素含有ダストを脱塩処理して有効利用することができる。
【0014】
前記塩素含有ダストの処理装置において、前記
水洗脱塩装置に、前記塩素含有ダストを海水を用いてスラリー化し、該塩素含有ダスト中に含まれる塩素を溶解させる溶解槽を設
けることができる。
【0015】
前記塩素含有ダストの処理装置において、前記
水洗脱塩装置に、前記溶解槽からのスラリーを、前記脱塩ケーキとろ液に分離する固液分離機を設けることができる。
【0016】
前記塩素含有ダストの処理装置において、前記固液分離機に、前記溶解槽からのスラリーに海水を用いて洗浄しながら固液分離する洗浄手段を設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、工水等を利用せずに塩素含有ダストを脱塩処理して有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る塩素含有ダストの処理装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明においては、本発明に係る塩素含有ダストの処理装置によって、セメントキルンに付設された塩素バイパスシステムから回収された塩素バイパスダストを処理する場合を例にとって説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る塩素含有ダストの処理装置(以下「処理装置」と略称する)の一実施の形態を示し、この処理装置1は、溶解槽2と、固液分離機としてのベルトフィルタ3と、ベルトフィルタ3からの脱塩ケーキCをセメントキルンに投入する投入装置(不図示)等で構成される。
【0021】
溶解槽2は、塩素バイパスダストDと海水W1とを混合撹拌してスラリーSを発生させると共に、スラリーSにセメントキルンの排ガスを吹き込むための吹込装置2aを備える。
【0022】
ベルトフィルタ3は、溶解槽2からのスラリーSを固液分離すると共に、スラリーSに海水W2を噴霧して洗浄しながら固液分離するノズル(洗浄手段)3aを備える。
【0023】
次に、上記構成を有する処理装置1を用いた塩素含有ダストの処理方法について、
図1を参照しながら説明する。
【0024】
塩素バイパスダストDと海水W1とを溶解槽2に供給し、これらを混合撹拌してスラリーSを生成し、溶解槽2において、塩素バイパスダストDに含まれる水溶性塩素分を海水W1に溶解させる。これと同時に、スラリーSに吹込装置2aよりセメントキルンの排ガスG1を吹き込み、スラリーSのpHを9.5以上11.5以下に調整する。このpH調整は、後段のベルトフィルタ3等でスケールが発生することを防止し、安定運転を継続するために行う。溶解槽2からの排ガスG2は、適宜排ガス処理を施した後大気に放出する。
【0025】
次に、溶解槽2から排出されたスラリーSをベルトフィルタ3に供給し、ベルトフィルタ3において、ノズル3aから噴霧される海水W2によってスラリーSを洗浄しながら脱塩ケーキCとろ液(塩水)Lとに固液分離する。
【0026】
ベルトフィルタ3で塩素分が除去された脱塩ケーキCをセメントキルンに投入装置を介して投入してセメント原料として利用する。一方、塩素分を含むろ液Lは、適宜排水処理を施した後、系外へ排出する。
【0027】
以上のように、本発明によれば、海水W1を用いて塩素バイパスダストDをスラリー化して水溶性塩素分を海水W1に溶解させると共に、海水W2によってスラリーSを洗浄しながら脱塩ケーキCを得るため、工水等を利用せずに塩素バイパスダストDの脱塩処理を行うことができ、脱塩ケーキCをセメント原料として利用することができる。
【0028】
尚、上記実施の形態においては、溶解槽2と、固液分離機としてのベルトフィルタ3とで脱塩処理を行ったが、固液分離機としてベルトフィルタ3以外にもフィルタプレス等を用いることもでき、海水を用いて脱塩処理することが可能であれば、いかなる装置を用いることもできる。
【0029】
また、上記実施の形態においては、塩素含有ダストとして塩素バイパスダストDを例示したが、これに代えて、都市ごみ焼却飛灰等についても処理装置1を用いて脱塩処理し、脱塩ケーキをセメント原料として利用することができる。
【0030】
尚、本発明では、海水を利用して脱塩処理を行うため、得られた脱塩ケーキに残存する塩素量が水を用いた場合よりも多くなる。そのため、セメントキルンに付設された塩素バイパスシステムから塩素バイパダストDを回収して脱塩処理し、脱塩ケーキをセメント原料として利用する場合には、水を用いて脱塩処理する場合より、セメントキルンの窯尻からキルン排ガスを多く抽気して対応する必要がある。
【符号の説明】
【0031】
1 塩素含有ダストの処理装置
2 溶解槽
2a 吹込装置
3 ベルトフィルタ
3a ノズル
C 脱塩ケーキ
D 塩素バイパスダスト
G1 セメントキルン排ガス
G2 排ガス
L ろ液
S スラリー
W1、W2 海水