【文献】
坂本 達朗 他,導電性塗料を用いたノーズ可動クロッシングのき裂検知の基礎検討,鉄道総研報告,2012年12月 1日,Vol. 26, No. 12,pp. 23-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1及び
図2に示す鋼構造物1は、鋼材によって構成された固定構造物である。鋼構造物1は、例えば、鉄道車両が走行する線路の下部に空間を確保し列車の荷重を支持する橋梁である。鋼構造物1は、
図1に示すように、鋼板と山形鋼とを溶接などによって接合してI形の桁に組み立てた主桁1aを備えており、この主桁1aは主桁1aの下部板を形成する下フランジ1bと、主桁1aの上部板を構成する上フランジ1cと、下フランジ1bと上フランジ1cとを結合する腹板1dなどから構成されている。例えば、
図1及び
図2に示す鋼構造物1には、
図2に示すように、主桁1aの長さ方向の略中間における下フランジ1bの縁部から亀裂C
1が発生しており、
図1に示すように下フランジ1bと腹板1dとが接合する接合部から亀裂C
2,C
3が発生している。
【0030】
図3に示す亀裂監視装置2は、鋼構造物1に発生する亀裂C
1〜C
3を監視する装置である。亀裂監視装置2は、
図1〜
図6に示す亀裂監視材3と、
図7に示す板状導体4と、保護材5と、配線材6と、
図3に示す給電部7,8と、通電状態測定部9,10と、評価部11,12と、通信部13と、制御部14と、
図1、
図3及び
図5に示す収容部15などを備えている。亀裂監視装置2は、
図1及び
図2に示す亀裂C
1〜C
3の発生が予測される鋼構造物1の部位にそれぞれ設置されている。以下では、
図2に示すように、下フランジ1bの縁部(長辺部)に発生する亀裂C
1を亀裂監視装置2によって監視する場合を例に挙げて説明する。
【0031】
図1〜
図6に示す亀裂監視材3は、亀裂C
1の発生が予測される鋼構造物1の表面に形成され、この鋼構造物1の亀裂C
1の発生及びこの亀裂C
1の進展を監視する部材である。亀裂監視材3は、
図2に示すように、亀裂C
1の発生が予測される鋼構造物1の縁部に刷毛、ローラ又はスプレーなどによって塗布され形成されている。亀裂監視材3は、鋼構造物1に発生する亀裂C
1を検出する亀裂発生検出部として機能するとともに、この鋼構造物1に発生する亀裂C
1の進展を検出する亀裂進展検出部としても機能する。亀裂監視材3は、亀裂C
1の発生を初期の段階で検出し、この発生後の亀裂C
1の進展を継続して検出する。亀裂監視材3は、
図2〜
図6及び
図8に示す亀裂進展検出用導電層3aと、亀裂進展検出用電極層3b〜3eと、
図2〜
図6に示す亀裂発生検出用導電層3fと、亀裂発生検出用電極層3g,3hと、
図2、
図4及び
図6に示す防錆絶縁層3iと、環境遮断層3jと、環境遮断層3kと、耐候層3mと、
図1、
図3〜
図5、
図7及び
図8に示す配線用導電層3n,3pと、
図7に示す接着剤層3qと、保護層3rなどを備えている。
【0032】
図2〜
図6及び
図8に示す亀裂進展検出用導電層3aは、鋼構造物1に発生する亀裂C
1の進展方向に亀裂発生検出用導電層3fと間隔をあけて、この亀裂発生検出用導電層3fが検出した亀裂C
1の進展を検出する部分である。亀裂進展検出用導電層3aは、亀裂C
1の発生した位置を検出し、亀裂C
1の進展に応じて電気抵抗が変化する塗膜である。亀裂進展検出用導電層3aは、
図2、
図4及び
図6に示すように、鋼構造物1に発生が予測される亀裂C
1の起点側に長辺側が位置するように、環境遮断層3jの表面に帯状に形成されている。亀裂進展検出用導電層3aは、鋼構造物1に許容される亀裂長さに応じた幅に形成されており、鋼構造物1に許容される亀裂長さが長いときには幅が広く形成され、鋼構造物1に許容される亀裂長さが短いときには幅が狭く形成される。亀裂進展検出用導電層3aは、
図3〜
図5及び
図8に示すように、亀裂進展検出用電極層3b〜3eによって複数の監視領域A
1,A
2,A
3に区画されている。亀裂進展検出用導電層3aは、この亀裂進展検出用導電層3aの長さ方向の隣接する一対の亀裂進展検出用電極層3b,3cによって監視領域A
1が形成され、一対の亀裂進展検出用電極層3c,3dによって監視領域A
2が形成され、一対の亀裂進展検出用電極層3d,3eによって監視領域A
3が形成されている。亀裂進展検出用導電層3aは、長期間にわたり耐久性が期待できる塗装系材料によって構成されており鋼構造物1の表面に形成されている。亀裂進展検出用導電層3aは、例えば、導電顔料と有機樹脂とを含む導電性塗料を塗布して形成されており、導電顔料としてはカーボンブラック、グラファイト、ニッケル、銅、銀などが好ましく、有機樹脂としてはエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキルシリケート樹脂などが好ましい。亀裂進展検出用導電層3aは、主剤にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤にポリアミドアミンを用いたエポキシ樹脂をベースとして、導電性の顔料としてカーボンブラックを質量比で樹脂:顔料=1:2となるように配合することが好ましい。
【0033】
亀裂進展検出用導電層3aの塗膜厚さは、10μm以下では現場施工によって連続した塗膜が得られないおそれがあり、100μm以上では塗装したときに垂れなどの塗膜欠陥が多く発生し、この塗膜欠陥を防止するために粘度を高くすると施工性が犠牲になるおそれがある。このため、亀裂進展検出用導電層3aの塗膜厚さは、10〜100μmが好ましく、特に30〜60μmが好ましい。亀裂進展検出用導電層3aの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10%を下回ると鋼構造物1の温度差による伸縮などの他の要因によって割れるおそれがあり、30%を超えると鋼構造物1の亀裂発生時やボルトの緩み時に亀裂進展検出用導電層3aが同時に破壊しないおそれがある。このため、亀裂進展検出用導電層3aの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10〜30%であることが好ましい。亀裂進展検出用導電層3aは、体積抵抗率が1〜10Ω・cmとなり、塗布後の電極間の抵抗が200〜10000Ω、好ましくは200〜2000Ωとなるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成されている。亀裂進展検出用導電層3aの塗膜幅は、15〜20mmが望ましく、亀裂進展検出用導電層3aの長さは100〜1000mm程度が望ましい。亀裂進展検出用導電層3aの塗料粘度は、現場で刷毛、ローラ又はスプレーなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。
【0034】
図2〜
図6及び
図8に示す亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、亀裂進展検出用導電層3aに電流を流す塗膜である。亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、
図3〜
図5及び
図8に示すように、亀裂進展検出用導電層3aの長さ方向に、この亀裂進展検出用導電層3aの表面に等間隔で複数箇所(例えば4箇所)に配置されている。亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、亀裂進展検出用導電層3aの短辺と平行になるように、この亀裂進展検出用導電層3aの幅と同じ長さで線状に塗布されている。亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、亀裂進展検出用導電層3aを複数の監視領域A
1〜A
3に区画している。亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、亀裂進展検出用導電層3aと同一の導電性塗料を塗布して形成されており、塗膜厚さ、塗膜の物性及び塗料粘度も亀裂進展検出用導電層3aと同一である。亀裂進展検出用電極層3b〜3eは、体積抵抗率が1〜10Ω・cmとなるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成することが好ましい。
【0035】
図2〜
図6に示す亀裂発生検出用導電層3fは、鋼構造物1に発生する亀裂C
1を検出する部分である。亀裂発生検出用導電層3fは、亀裂進展検出用導電層3aと同様に、亀裂C
1の発生に応じて電気抵抗が変化する塗膜である。亀裂発生検出用導電層3fは、
図2及び
図4に示すように、鋼構造物1に発生が予測される亀裂C
1の起点側に長辺側が位置するように、環境遮断層3jの表面に帯状に形成されている。亀裂発生検出用導電層3fは、
図2〜
図5に示すように、亀裂発生時の極僅かな亀裂長さを検知可能なように、亀裂進展検出用導電層3aよりも幅が狭く線状に形成されている。亀裂発生検出用導電層3fは、
図2〜
図6に示すように、亀裂進展検出用導電層3aと所定の間隔をあけて、この亀裂進展検出用導電層3aと略平行に塗布されてこの亀裂進展検出用導電層3aと並べて配置されている。亀裂発生検出用導電層3fは、亀裂進展検出用導電層3aと同一の導電性塗料を塗布して形成されており、塗膜厚さ、塗膜の物性及び塗料粘度も亀裂進展検出用導電層3aと同一である。亀裂発生検出用導電層3fは、例えば、導電顔料と有機樹脂とを含む導電性塗料を塗布して形成されており、導電顔料としてはカーボンブラック、グラファイト、ニッケル、銅、銀などが好ましく、有機樹脂としてはエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキルシリケート樹脂などが好ましい。亀裂発生検出用導電層3fは、主剤にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤にポリアミドアミンを用いたエポキシ樹脂をベースとして、導電性の顔料としてカーボンブラックを質量比で樹脂:顔料=1:2となるように配合することが好ましい。
【0036】
亀裂発生検出用導電層3fの塗膜厚さは、10μm以下では現場施工によって連続した塗膜が得られないおそれがあり、100μm以上では塗装したときに垂れなどの塗膜欠陥が多く発生し、この塗膜欠陥を防止するために粘度を高くすると施工性が犠牲になるおそれがある。このため、亀裂発生検出用導電層3fの塗膜厚さは、10〜100μmが好ましく、特に30〜60μmが望ましい。亀裂発生検出用導電層3fの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10%以下では鋼構造物1の温度差による伸縮などの他の要因によって割れるおそれがあり、30%以上では鋼構造物1の亀裂発生時に亀裂発生検出用導電層3fが同時に破壊しないおそれがある。このため、亀裂発生検出用導電層3fの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10〜30%であることが好ましい。亀裂発生検出用導電層3fは、亀裂進展検出用導電層3aと略同じ体積抵抗率となるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成されている。亀裂発生検出用導電層3fの塗膜幅は、2〜5mmが望ましく、亀裂発生検出用導電層3fの長さは100〜1000mm程度が望ましい。亀裂発生検出用導電層3fの塗料粘度は、現場で刷毛、ローラ又はスプレーなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。亀裂発生検出用導電層3fは、亀裂進展検出用導電層3aとの間の間隔が2mmを下回ると亀裂発生検出用導電層3fと亀裂進展検出用導電層3aとが接触するおそれがあり、亀裂進展検出用導電層3aとの間の間隔が10mmを超えると亀裂C
1が発生してからこの亀裂C
1が進展までこの亀裂C
1の検出が不可能になる。このため、亀裂発生検出用導電層3fは、亀裂進展検出用導電層3aとの間の間隔が2〜10mmになるように形成することが好ましい。
【0037】
図2〜
図6に示す亀裂発生検出用電極層3g,3hは、亀裂発生検出用導電層3fに電流を流す塗膜である。亀裂発生検出用電極層3g,3hは、
図3〜
図5に示すように、亀裂発生検出用導電層3fの長さ方向の両端部に配置されており、亀裂発生検出用導電層3fの短辺と平行になるように、亀裂発生検出用導電層3fの幅と同じ長さで線状に塗布されている。亀裂発生検出用電極層3g,3hは、亀裂進展検出用導電層3aと同一の導電性塗料を塗布して形成されており、塗膜厚さ、塗膜の物性及び塗料粘度も亀裂進展検出用導電層3aと同一である。亀裂発生検出用電極層3g,3hは、亀裂進展検出用電極層3b〜3eと体積抵抗率が同一になるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成することが好ましい。
【0038】
図2、
図4及び
図6に示す防錆絶縁層3iは、亀裂進展検出用導電層3a、亀裂発生検出用導電層3f及び配線用導電層3n,3pと鋼構造物1とを電気的に絶縁するとともに、鋼構造物1の腐食を防止する塗膜である。防錆絶縁層3iは、鋼構造物1の表面(鋼素地)に亀裂C
1の検知範囲を含むように広く塗布され形成されている。防錆絶縁層3iは、例えば、
図1に示すように、測定が困難な箇所(検出箇所P
1)である下フランジ1bから腹板1dに沿って、測定が容易な箇所(測定箇所P
2)である上フランジ1cまで帯状に形成されている。防錆絶縁層3iは、例えば、防錆顔料入りエポキシ樹脂又は有機ジンクリッチペイントなどのような鋼構造物用防食塗装系に適用されている下塗り塗料であり、圧膜型変性エポキシ樹脂系塗料によって形成することが好ましい。防錆絶縁層3iの塗膜厚さは、30〜100μmが好ましく、防錆絶縁層3iの塗料粘度は現場で刷毛又はローラなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。
【0039】
図2、
図4及び
図6に示す環境遮断層3jは、亀裂進展検出用導電層3a、亀裂発生検出用導電層3f及び配線用導電層3n,3pと鋼構造物1とを電気的に絶縁するとともに、鋼構造物1の防食性を向上させる塗膜である。環境遮断層3jは、防錆絶縁層3iを被覆するように、この防錆絶縁層3iの表面に塗布され形成されている。環境遮断層3jは、例えば、防錆顔料入りエポキシ樹脂系塗料などのような鋼構造物用防食塗装系に適用される中塗り塗料であり、圧膜型変性エポキシ樹脂系塗料によって形成することが好ましい。環境遮断層3jの塗膜厚さは、60〜120μmが好ましく、環境遮断層3jの塗料粘度は現場で刷毛又はローラなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。
【0040】
図2、
図4及び
図6に示す環境遮断層3kは、亀裂進展検出用導電層3a、亀裂進展検出用電極層3b〜3e、亀裂発生検出用導電層3f、亀裂発生検出用電極層3g、3h及び配線用導電層3n,3pを保護するとともに、鋼構造物1の防食性を向上させる塗膜である。環境遮断層3kは、亀裂進展検出用導電層3a、亀裂進展検出用電極層3b〜3e、亀裂発生検出用導電層3f及び亀裂発生検出用電極層3g、3hを被覆するように、これらの表面に塗布されている。環境遮断層3kは、例えば、環境遮断性に優れた防錆顔料入りのエポキシ樹脂系塗料などのような鋼構造物用防食塗装系に適用される中塗り塗料であり、水系エポキシ樹脂塗料によって形成することが好ましい。環境遮断層3kの塗膜厚さは、60〜120μmが好ましく、環境遮断層3kの塗料粘度は現場で刷毛又はローラなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。
【0041】
図2、
図4及び
図6に示す耐候層3mは、環境遮断層3kを自然因子の作用から保護する塗膜である。耐候層3mは、環境遮断層3kを被覆するようにこの表面に耐候性塗料を塗布して形成されている。耐候層3mは、例えば、耐紫外線性及び耐薬品性に優れたポリウレタン樹脂又はふっ素樹脂などのような鋼構造物用防食塗装系に適用される上塗り塗料であり、水系上塗塗料によって形成することが好ましい。
【0042】
図1、
図3〜
図5、
図7及び
図8に示す配線用導電層3n,3pは、亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fに電流を流す塗膜である。配線用導電層3nは、一方の端部が
図3〜
図5及び
図7に示す亀裂進展検出用電極層3b〜3eにそれぞれ取り付けられ接続されており、他方の端部が
図7に示す板状導体4に接続されている。また、配線用導電層3nは、一方の端部が
図3〜
図5に示す亀裂発生検出用電極層3g,3hに取り付けられ接続されており、他方の端部が
図7に示す板状導体4に接続されている。配線用導電層3nは、
図2、
図4及び
図6に示す防錆絶縁層3iの表面に塗布された環境遮断層3jの表面に形成されており、環境遮断層3k及び耐候層3mによって被覆されている。配線用導電層3nは、例えば、
図1に示すように、検出箇所P
1から腹板1dに沿って測定箇所P
2まで帯状に形成されている。
図3〜
図5及び
図8に示すように、配線用導電層3nは亀裂進展検出用電極層3b〜3eと一体に電気的に接続するとともに、亀裂発生検出用電極層3g,3hと一体に電気的に接続するように、環境遮断層3jの表面に線状に塗布され形成されている。
図7に示すように、配線用導電層3pは配線用導電層3nと一体に電気的に接続するように、環境遮断層3j、配線用導電層3n、接着剤層3q及び板状導体4の表面に重ねて線状に塗布され形成されている。配線用導電層3n,3pは、亀裂発生検出用導電層3fと同一の導電性塗料を塗布して形成されている。配線用導電層3n,3pは、例えば、導電顔料と有機樹脂とを含む導電性塗料を塗布して形成されており、導電顔料としては銀又は銀被覆銅フレークなどが好ましく、有機樹脂としてはポリウレタン樹脂などが好ましい。
【0043】
図7に示す接着剤層3qは、板状導体4と環境遮断層3jとを接着する層である。接着剤層3qは、板状導体4の裏面と環境遮断層3jの表面とが面接合するように、環境遮断層3jの表面に塗布され形成されている。接着剤層3qは、例えば、有機化合物であるシアノアクリレートを主成分とする瞬間接着剤などである。
【0044】
図7に示す保護層3rは、配線用導電層3pと板状導体4とが接合する接合部の表面を保護する塗膜である。保護層3rは、環境遮断層3j、配線用導電層3n,3p、接着剤層3q、板状導体4及び保護材5を被覆するようにこれらの表面に塗布され形成されている。保護層3rは、例えば、シリコンコーキング材のような防水材であり、配線用導電層3pと板状導体4との接合部を防水する防水層である。
【0045】
図7に示す板状導体4は、亀裂監視材3の配線用導電層3pと面接合した状態でこの配線用導電層3pに電気的に接続される可撓性の電線である。板状導体4は、一方の端部が亀裂監視材3の配線用導電層3pに取り付けられ接続されており、他方の端部が配線材6に接続されている。板状導体4は、配線材6に接続される側の端部にコネクタ端子が取り付けられている。板状導体4は、配線用導電層3n,3pに電流を流す電線であり配線用導電層3pの裏面に接着されている。板状導体4は、鋼構造物1の振動に追従して弾性変形可能なように、配線用導電層3p及び配線材6に弛緩状態で接続されている。板状導体4は、例えば、柔軟性に優れ、振動を吸収可能であり、表面積が大きい導体であり、軟銅線、スズめっき軟銅線又はその他の素線を集束して編組し平板状に成型した平編銅線、平編線又は平編素線などの可撓性を有する平編金属線である。
【0046】
図7に示す保護材5は、板状導体4の表面を保護する部材である。保護材5は、板状導体4の表面を被覆するようにこの板状導体4の表面と密着している。保護材5は、例えば、加熱することによって収縮する電子線架橋軟質ポリオレフィン樹脂又は電子線架橋軟質難燃性ポリオレフィン樹脂などからなる収縮チューブのような被覆材である。
【0047】
図7に示す配線材6は、板状導体4に電流を流す電線である。配線材6は、一方の端部が板状導体4に取り付けられ接続されており、他方の端部が通電状態測定部9,10に接続されている。配線材6は、板状導体4と接続される側の端部にコネクタ端子が取り付けられており、この板状導体4側のコネクタ端子と着脱自在に接続可能である。配線材6は、例えば、鋼構造物1の表面に接着剤などによって貼り付けられている。配線材6は、例えば、複数本又は1本の銅線、銀めっき銅線、銅ニッケル合金線、ニッケルクラッド銅線又はニッケルめっき銅線などを被覆材によって被覆したリード線である。
【0048】
図3に示す給電部7は、亀裂進展検出用導電層3aに電力を供給する直流電源である。給電部7は、制御部14からの指令に基づいて、亀裂進展検出用電極層3b,3c間、亀裂進展検出用電極層3c,3d間、及び亀裂進展検出用電極層3d,3e間に直流電力を供給し、これらの間に直流電圧を印加し亀裂進展検出用導電層3aに直流電流を流す。
【0049】
図3に示す給電部8は、亀裂発生検出用導電層3fに電力を供給する交流電源であり、複数の異なる周波数の交流電力をこの亀裂発生検出用導電層3fに供給する。給電部8は、亀裂発生検出用電極層3g,3hに低周波側と高周波側との間で周波数を変えながら交流電力を供給する。給電部8は、例えば、所定の電圧で周波数を0.1Hzから100kHzまで変えながら、亀裂発生検出用電極層3g,3h間に交流電圧を印加し、亀裂発生検出用導電層3fに交流電流を流す。給電部8は、制御部14からの指令に基づいて、亀裂発生検出用電極層3g,3h間に交流電力を供給する。
【0050】
図3及び
図8に示す通電状態測定部9は、亀裂進展検出用導電層3aの通電状態を測定する抵抗測定器などである。通電状態測定部9は、制御部14からの指令に基づいて、監視領域A
1〜A
3毎に通電状態を測定するとともに、隣接する2つの監視領域A
1,A
2;A
2,A
3毎に通電状態を測定する。通電状態測定部9は、給電部7に接続されており、給電部7からの直流電力を亀裂進展検出用電極層3b〜3eに供給する。
【0051】
通電状態測定部9は、
図8(A)に示すように、監視領域A
1に亀裂C
1が発生したときには、亀裂進展検出用電極層3b,3c間(監視領域A
1)の亀裂進展検出用導電層3aの電気抵抗を測定するとともに、亀裂進展検出用電極層3c,3d間(監視領域A
2)の電気抵抗又は亀裂進展検出用電極層3d,3e間(監視領域A
3)の電気抵抗を測定する。一方、通電状態測定部9は、
図8(B)に示すように、亀裂進展検出用電極層3cに亀裂C
1が発生したときには、亀裂進展検出用電極層3b,3d間(監視領域A
1,A
2)の亀裂進展検出用導電層3aの電気抵抗を測定するとともに、亀裂進展検出用電極層3c,3e間(監視領域A
2,A
3)の電気抵抗を測定する。通電状態測定部9は、通電状態の測定結果(電気抵抗)を通電状態測定信号(通電状態測定情報)として制御部14に送信する。
【0052】
図3に示す通電状態測定部10は、亀裂発生検出用導電層3fの通電状態を測定する抵抗測定器などである。通電状態測定部10は、複数の異なる周波数毎にこの亀裂発生検出用導電層3fの交流インピーダンスを測定する。通電状態測定部10は、亀裂発生検出用導電層3fに周波数を変えながら複数の異なる周波数(例えば、10Hz,100Hz,1kHz,10kHz)で給電部8が交流電力を供給したときに、これらの複数の異なる周波数毎に亀裂発生検出用導電層3fの交流インピーダンスをそれぞれ測定する。通電状態測定部10は、制御部14からの指令に基づいて、亀裂発生検出用導電層3fの通電状態を測定する。通電状態測定部10は、亀裂発生検出用導電層3fの亀裂発生検出用電極層3g,3h間に交流電流を流し、この亀裂発生検出用電極層3g,3h間の交流インピーダンスを測定する。通電状態測定部10は、給電部8に接続されており、給電部8からの交流電力を亀裂発生検出用電極層3g,3hに供給する。
【0053】
図9に示す縦軸は、交流インピーダンス(Ω)の対数であり、横軸が周波数(Hz)の対数である。通電状態測定部10は、
図9に示すような交流インピーダンスの測定結果をボード線図(ボーデ線図)として生成する。通電状態測定部10は、
図9(A)に示すように、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していないときには、周波数にかかわらず交流インピーダンス値が略一定のボード線図を生成する。一方、通電状態測定部10は、
図9(B)に示すように、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生したときには、低周波数側では交流インピーダンス値が略一定であるが高周波数側では周波数の対数に対して交流インピーダンスの対数が略一定で減少するようなボード線図を生成する。通電状態測定部10は、通電状態の測定結果(ボード線図)を通電状態測定信号(通電状態測定情報)として制御部14に送信する。
【0054】
図3に示す評価部11は、通電状態測定部9の測定結果に基づいて鋼構造物1に発生する亀裂C
1を評価する部分である。評価部11は、監視領域A
1〜A
3毎の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂C
1の発生した監視領域A
1を特定し亀裂C
1の規模を評価する。評価部11は、例えば、亀裂進展検出用導電層3aを形成したときの通電状態測定部9の測定結果(初期抵抗値)と、亀裂進展検出用導電層3aを形成してから所定時間経過後(全般検査周期)の通電状態測定部9の測定結果(測定抵抗値)とに基づいて抵抗値変化量を演算し、この抵抗値変化量に基づいて鋼構造物1に発生する亀裂C
1の規模を評価する。評価部11は、亀裂C
1の発生した監視領域A
1及びこの亀裂C
1の規模などに関する評価結果を評価結果信号(評価結果情報)として制御部14に送信する。
【0055】
図3に示す評価部12は、通電状態測定部10の測定結果に基づいて亀裂C
1の発生状況を評価する部分である。評価部12は、通電状態測定部10が生成したボード線図に基づいて、鋼構造物1の初期の亀裂C
1の発生状況を評価する。評価部12は、複数の異なる周波数に対応する各交流インピーダンス値が略同一であるときには、亀裂C
1が発生していないと評価する。評価部12は、例えば、
図9(A)に示すように、低周波数側で測定したときの交流インピーダンス値と、高周波側で測定した交流インピーダンス値とが略同一であるときには、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していないと評価する。一方、評価部12は、複数の異なる周波数に対応する各交流インピーダンス値が異なるときには、亀裂C
1が発生していると評価する。評価部12は、例えば、
図9(B)に示すように、低周波数域で測定したときの交流インピーダンス値に比べて、高周波域で測定した交流インピーダンス値が減少したときには、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していると評価する。評価部12は、鋼構造物1に発生する初期の亀裂C
1などに関する評価結果を評価結果信号(評価結果情報)として制御部14に送信する。
【0056】
図3に示す通信部13は、評価部11,12の評価結果を送信する部分である。通信部13は、制御部14が出力する評価情報を図示しない中央監視室内の送受信機に有線又は無線により送信したり、この中央監視室内の送受信機からの評価情報の送信指令を受信したりする送受信機などである。
【0057】
図3及び
図8に示す制御部14は、亀裂監視装置2の種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部14は、給電部7に直流電力の供給を指令したり、給電部8に複数の異なる周波数の交流電力の供給を指令したり、通電状態測定部9,10に通電状態の測定を指令したり、通電状態測定部10にボード線図の生成を指令したり、通電状態測定部9,10の測定結果を評価部11,12に送信してこの評価部11,12に亀裂C
1を評価させたり、評価部11,12の評価結果を通信部13から送信させたりする。制御部14には、
図3に示すように、給電部7,8と、通電状態測定部9,10と、評価部11,12と、通信部13などが接続されている。
【0058】
図1、
図3及び
図5に示す収容部15は、亀裂監視装置2の信号処理部を収容する部分である。収容部15は、
図3に示す給電部7,8、通電状態測定部9,10、評価部11,12、通信部13及び制御部14などを収容している。収容部15には、配線材6が引き込まれており図示しない接続端子にこれらが接続されている。収容部15は、
図1及び
図3に示すように、給電部7,8及び通電状態測定部9,10などの信号処理部をユニット化した状態で収容する端子箱などであり、全般検査時に点検可能なように
図1に示す鋼構造物1の表面又は点検用足場の付近に取り付けられ固定されている。
【0059】
次に、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視装置における亀裂監視材の製造方法を説明する。
図1及び
図2に示すように、鋼構造物1では構成部材のエッジ部などの限られた範囲を起点として亀裂C
1〜C
3が発生するおそれがある。例えば、
図3及び
図4に示すように、下フランジ1bのエッジ部を起点として亀裂C
1の発生が予測される場合には、
図4に示すように鋼構造物1の塗替え塗装時にこのエッジ部に沿って、鋼構造物1の表面に防錆絶縁塗料を塗布して、
図2、
図4及び
図6に示すように防錆絶縁層3iが
図1に示す検出箇所P
1に形成される。また、
図1に示すように、検出箇所P
1から腹板1dに沿って測定箇所P
2まで鋼構造物1の表面に防錆絶縁塗料を塗布して、検出箇所P
1から測定箇所P
2まで防錆絶縁層3iが形成される。次に、防錆絶縁層3iの表面を被覆するように、この防錆絶縁層3iの表面に環境遮断性を有する防錆絶縁塗料を塗布して環境遮断層3jが形成される。
【0060】
次に、環境遮断層3jの表面に導電性塗料を帯状に塗布して、
図2〜
図6及び
図8に示すように亀裂進展検出用導電層3aが形成される。その後に、亀裂進展検出用導電層3aの表面に導電性塗料を等間隔に複数本(例えば4本)線状に塗布して亀裂進展検出用電極層3b〜3eが形成され、亀裂進展検出用電極層3b〜3eにそれぞれ導電塗料を帯状に塗布して、亀裂進展検出用電極層3b〜3eに配線用導電層3nが接続される。
【0061】
次に、
図1〜
図6に示すように、下フランジ1bのエッジ部に沿って環境遮断層3jの表面に、亀裂進展検出用導電層3aと平行に間隔をあけてこの環境遮断層3jよりも狭い幅で導電性塗料を帯状に塗布して、亀裂進展検出用導電層3aと並べて亀裂発生検出用導電層3fが形成される。その後に、
図3〜
図6及び
図8に示すように、亀裂発生検出用導電層3fの表面の両端部に導電性塗料をそれぞれ線状に塗布して、亀裂発生検出用電極層3g,3hが形成される。次に、亀裂発生検出用電極層3g,3hにそれぞれ導電塗料を帯状に塗布して、亀裂発生検出用電極層3g,3hに配線用導電層3nが接続される。
【0062】
次に、
図2、
図4及び
図6に示すように、亀裂進展検出用導電層3a、亀裂進展検出用電極層3b〜3e、亀裂発生検出用導電層3f、亀裂発生検出用電極層3g,3h及び配線用導電層3nの表面に環境遮断性を有する塗料を帯状に塗布して環境遮断層3kが形成される。その後に、環境遮断層3kの表面に耐候性塗料を帯状に塗布して耐候層3mが形成されて、
図1〜
図6及び
図8に示すように鋼構造物1の表面に亀裂監視材3が形成される。
【0063】
次に、
図7に示すように、板状導体4の端部裏面と環境遮断層3jの表面とを接着剤層3qによって接合し、板状導体4の端部表面と配線用導電層3nの端部表面とに跨るように、導電性塗料を帯状に塗布して配線用導電層3pが形成される。その後に、接着剤層3qによって接着される側とは反対側の板状導体4の端部に配線材6を接続する。次に、収縮チューブによって板状導体4を被覆した状態でこの収縮チューブを加熱すると、板状導体4の表面が保護材5によって被覆され保護される。次に、配線用導電層3n,3p、接着剤層3q、板状導体4及び保護材5の表面にシリコンコーキング材を塗布して保護層3rが形成される。最後に、
図1、
図3及び
図4に示すように、鋼構造物1の表面に収容部15を固定して、板状導体4に接続される側とは反対側の配線材6の端部が収容部15の接続端子に接続される。
【0064】
次に、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視装置の板状導体の作用を説明する。
例えば、
図1及び
図2に示す鋼構造物1上を列車が走行すると鋼構造物1が振動して、
図7に示す板状導体4が追従して撓むため、この板状導体4の重量や抵抗力が亀裂監視材3の配線用導電層3nに殆ど伝わらない。例えば、亀裂監視材3の配線用導電層3nと配線材6とを直接接合すると、鋼構造物1の振動によって配線用導電層3nと配線材6との接合部からこの配線材6が外れる可能性がある。この実施形態では、
図7に示すように、配線用導電層3nと板状導体4とが接合部で面接合しており、この配線用導電層3nに板状導体4が弛緩状態で接続されている。このため、鋼構造物1が振動しても板状導体4の重量や張力などが亀裂監視材3の配線用導電層3nに伝わらず、配線用導電層3nから板状導体4が外れるのを防ぐ。
【0065】
次に、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視方法を説明する。
図10に示すステップ(以下Sという)100において、亀裂C
1〜C
3の測定開始時期になったか否かが判断される。制御部14は、例えば、時刻を測定する計時機能を有しており、全般検査時のような予め設定されている所定時期又は所定時刻に達するとS100〜S260の処理を開始する。制御部14は、S130において鋼構造物1に亀裂C
1が発生したと評価部12が評価したときには、亀裂C
1の発生部位を要観察箇所としこの発生部位の重要度に応じて、全般検査時期よりも短期間である最適な時期に測定開始時期を再設定する。亀裂C
1〜C
3の測定開始時期になったと制御部14が判断したときにはS110に進み、亀裂C
1〜C
3の測定開始時期になっていないと制御部14が判断したときには一連の亀裂監視処理を終了する。
【0066】
S110において、電源がONする。
図3に示す制御部14が給電部7に直流電力の供給を指令すると、亀裂進展検出用電極層3b〜3eに給電部7が直流電力を供給し、亀裂進展検出用電極層3b〜3eに直流電流が流れる。また、制御部14が給電部8に交流電力の供給を指令すると、亀裂発生検出用電極層3g,3hに給電部8が周波数を変えて複数の異なる周波数の交流電力を供給し、亀裂発生検出用導電層3fに交流電流が流れる。
【0067】
S120において、亀裂発生検出用導電層3fの通電状態が測定される。
図3に示す制御部14が通電状態測定部10に通電状態の測定開始を指令する。このため、複数の異なる周波数の交流電力を亀裂発生検出用導電層3fに給電部8が供給したときに、それぞれの周波数毎の交流インピーダンスを測定する。その結果、亀裂発生検出用導電層3fの通電状態の変化を通電状態測定部10が測定して、
図9に示すボード線図を生成しこの測定結果を制御部14に送信する。
【0068】
S130において、亀裂C
1の発生が評価される。
図3に示す通電状態測定部10の測定結果を制御部14が評価部12に送信すると、評価部12がボード線図に基づいて亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生したか否かを評価する。
図1に示すように、下フランジ1bのエッジ部を起点として亀裂C
1が発生すると、
図2〜
図6に示すようにこのエッジ部側の亀裂監視材3の縁部が部分的に破断して亀裂監視材3に亀裂C
1が発生する。亀裂発生時の極僅かな亀裂長さでは亀裂部分の開口幅が変動し、亀裂発生検出用導電層3fの電気抵抗が変化する。複数の異なる周波数の交流電力を亀裂発生検出用導電層3fに給電部8が供給すると、通電状態測定部10が作成したボード線図の交流インピーダンスが変化する。
図9(A)に示すように、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していないときには、周波数にかかわらず交流インピーダンス値が略一定のボード線図を通電状態測定部10が生成する。このため、例えば、
図9(A)に示すように、低周波数側で測定したときの交流インピーダンス値と、高周波側で測定した交流インピーダンス値とが略同一であるときには、鋼構造物1に亀裂C
1が発生していないと評価部12が評価する。一方、
図9(B)に示すように、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生したときには、低周波数側では交流インピーダンス値が略一定であるが高周波数側では周波数の対数に対して交流インピーダンスの対数が略一定(−1の勾配)で減少するようなボード線図を通電状態測定部10が生成する。このため、例えば、
図9(B)に示すように、低周波数域で測定したときの交流インピーダンス値に比べて、高周波域で測定した交流インピーダンス値が減少したときには、鋼構造物1に亀裂C
1が発生していると評価部12が評価する。
【0069】
S140において、評価結果が送信される。亀裂C
1の発生の有無を評価部12が評価情報として制御部14に送信するとこの評価情報を制御部14が通信部13に送信し、図示しない中央監視室にこの評価情報を通信部13が送信する。
【0070】
S150において、監視領域A
1〜A
3毎に通電状態が測定される。制御部14が通電状態測定部9に通電状態の測定開始を指令すると、
図3〜
図5及び
図8に示す監視領域A
1〜A
3毎に亀裂進展検出用導電層3aの通電状態の変化を通電状態測定部9が測定して、測定結果を制御部14に送信する。
【0071】
S160において、通電状態が変化したか否かが評価される。通電状態測定部9の測定結果を制御部14が評価部11に送信すると、監視領域A
1〜A
3毎に電気抵抗の変化を評価部11が評価する。通電状態が変化したと評価部11が評価したときにはS170に進み、通電状態が変化していないと評価部11が評価したときにはS230に進む。
【0072】
S170において、亀裂発生領域が評価される。
図8(A)に示すように、亀裂進展検出用導電層3aの監視領域A
1内に亀裂C
1が発生してこの亀裂C
1がさらに成長し進展すると、監視領域A
2,A
3内の電気抵抗の変化量に比べて監視領域A
1内の電気抵抗の変化量が大きくなる。このため、各監視領域A
1〜A
3内の亀裂進展検出用導電層3aの電気抵抗を通電状態測定部9がそれぞれ測定して、各監視領域A
1〜A
3内の電気抵抗の変化を評価部11が評価する。その結果、電気抵抗の変化が最も大きい監視領域A
1内に亀裂C
1が発生したことが評価部11によって評価されて亀裂C
1の発生位置が特定される。
【0073】
S180において、亀裂C
1の発生した監視領域A
1の抵抗値が測定される。通電状態測定部9が監視領域A
1内の抵抗値を測定してこの測定結果を制御部14に送信し、制御部14がこの測定結果を評価部11に送信する。
【0074】
S190において、亀裂長さが評価される。通電状態測定部9が測定した監視領域A
1内の抵抗値の変化量に基づいて、実際の亀裂C
1の長さを評価部11が評価する。
【0075】
S200において、評価結果が送信される。亀裂C
1の発生及び長さを評価部11が評価情報として制御部14に送信するとこの評価情報を制御部14が通信部13に送信し、図示しない中央監視室にこの評価情報を通信部13が送信する。
【0076】
S210において、許容亀裂長さに亀裂C
1が到達したか否かが評価される。例えば、
図1に示す下フランジ1bに亀裂C
1が発生した場合には、許容亀裂長さ20mmにこの亀裂C
1が達したときに鋼構造物1が直ちに補強が必要な状態になる。このため、通電状態測定部9の測定結果に基づいて許容亀裂長さに亀裂C
1が到達したか否かを評価部11が評価する。許容亀裂長さに亀裂C
1が到達したときにはS220に進み、許容亀裂長さに亀裂C
1が到達していないときにはS180に戻り亀裂長さの評価を繰り返す。
【0077】
S220において、評価結果が送信される。鋼構造物1に直ちに補強が必要であるという評価結果を評価部11が評価情報として制御部14に送信すると、この評価情報を制御部14が通信部13に送信して、図示しない中央監視室にこの評価情報を通信部13が送信し、一連の処理を終了する。
【0078】
S230において、隣接する監視領域A
1,A
2;A
2,A
3毎に亀裂進展検出用導電層3aの通電状態が測定される。
図8(B)に示すように、亀裂進展検出用電極層3cに亀裂C
1が発生したときには、各監視領域A
1,A
2,A
3毎に亀裂進展検出用導電層3aを通電状態測定部9が測定しても抵抗値に変化が見られないおそれがある。このため、制御部14が通電状態測定部9に通電状態の測定開始を指令すると、隣接する監視領域A
1,A
2及び隣接する監視領域A
2,A
3の通電状態の変化を通電状態測定部9が測定して測定結果を制御部14に送信する。
【0079】
S240において、通電状態が変化したか否かが評価される。通電状態測定部9の測定結果を制御部14が評価部11に送信すると、隣接する監視領域A
1,A
2及び隣接する監視領域A
2,A
3の電気抵抗の変化を評価部11が評価する。通電状態が変化したと評価部11が評価したときにはS250に進み、通電状態が変化していないと評価部11が評価したときには、鋼構造物1に亀裂C
1が発生していないと考えられるため一連の亀裂監視処理を終了する。
【0080】
S250において、亀裂発生領域が評価される。
図8(B)に示すように、亀裂進展検出用電極層3c内に亀裂C
1が発生してこの亀裂C
1がさらに成長し進展すると、亀裂進展検出用電極層3c,3e間の電気抵抗の増加量に比べて亀裂進展検出用電極層3b,3d間の電気抵抗の増加量が大きくなる。その結果、電気抵抗の変化が最も大きい監視領域A
1,A
2内の亀裂進展検出用電極層3cに亀裂C
1が発生したことが評価部11によって評価されて亀裂C
1の発生位置が特定される。
【0081】
S260において、亀裂C
1の発生した亀裂進展検出用導電層3aを含む監視領域A
1,A
2の抵抗値が測定される。亀裂進展検出用電極層3b,3d間(監視領域A
1,A
2内)の抵抗値を通電状態測定部9が測定してこの測定結果を制御部14に送信し、制御部14がこの測定結果を評価部11に送信する。S260以降はS190に進み、亀裂長さの評価などの処理がされる。
【0082】
この発明の第1実施形態に係る亀裂監視装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、鋼構造物1に発生する亀裂C
1を亀裂発生検出用導電層3fが検出しており、この鋼構造物1に発生する亀裂C
1の進展方向にこの亀裂発生検出用導電層3fと間隔をあけて、この亀裂発生検出用導電層3fが検出した亀裂C
1の進展を亀裂進展検出用導電層3aが検出する。このため、例えば、鋼構造物1の表面に塗布した下地処理塗料の表面に所定幅のマスキングテープを貼り付けて導電性塗料を塗布し、このマスキングテープを剥離することで、亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fを簡単に形成することができる。その結果、亀裂進展検出用導電層3aと亀裂発生検出用導電層3fとの間隔を所定長さに設定することができ、亀裂進展検出用導電層3aと亀裂発生検出用導電層3fとが電気的に導通することを防ぎ、亀裂進展検出用導電層3aと亀裂発生検出用導電層3fとを確実に電気的に絶縁することができる。
【0083】
(2) この第1実施形態では、亀裂C
1の発生した位置を亀裂進展検出用導電層3aが検出する。このため、鋼構造物1の健全性に影響する重大な変状の発生位置を特定することができ、この亀裂C
1の発生した位置を重点的に監視することができる。
【0084】
(3) この第1実施形態では、亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fが導電性塗料を塗布して形成されている。このため、例えば、鋼構造物1の塗替え塗装工事に合わせて導電性塗料を塗布して亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fを形成することができる。その結果、屋外や現場で容易に施工することができるとともに、検査のためだけに足場を架設する必要がなくなり経費を節減することができる。
【0085】
(4) この第1実施形態では、亀裂C
1の進展に応じて電気抵抗が変化する亀裂進展検出用導電層3aに亀裂進展検出用電極層3b〜3eが電流を流し、亀裂C
1の発生に応じて電気抵抗が変化する亀裂発生検出用導電層3fに亀裂発生検出用電極層3g,3hが電流を流す。このため、亀裂C
1の発生や進展などの鋼構造物1の変状を検査通路などの遠隔地から電気抵抗の変化として確認することができる。
【0086】
(5) この第1実施形態では、亀裂進展検出用導電層3aが亀裂進展検出用電極層3b〜3eによって複数の監視領域A
1〜A
3に区画されており、この亀裂進展検出用導電層3aの長さ方向の隣接する一対の亀裂進展検出用電極層3b〜3eによって一つの監視領域A
1〜A
3が形成されている。その結果、いずれの監視領域A
1〜A
3内に亀裂C
1が発生したかを容易に検出することができる。
【0087】
(6) この第1実施形態では、鋼構造物1に発生が予測される亀裂C
1の起点側に長辺側が位置するように、亀裂発生検出用導電層3fが帯状に形成されている。その結果、亀裂発生時の極僅かな亀裂長さであっても電気抵抗の変化が大きくなり、亀裂C
1の発生を容易に検出することができる。
【0088】
(7) この第1実施形態では、亀裂発生検出用導電層3fは亀裂進展検出用導電層3aよりも幅が狭く形成されている。このため、亀裂C
1が発生したときの電気抵抗の変化が亀裂進展検出用導電層3aに比べて亀裂発生検出用導電層3fのほうが大きくなり、亀裂発生検出用導電層3fによって極僅かな亀裂C
1の発生も検出することができる。
【0089】
(8) この第1実施形態では、亀裂進展検出用導電層3aは鋼構造物1に許容される亀裂長さに応じた幅に形成されている。このため、鋼構造物1に許容される亀裂長さに達するまで亀裂C
1の成長を監視し評価することができる。
【0090】
(9) この第1実施形態では、亀裂監視材3の配線用導電層3nと面接合した状態でこの配線用導電層3nに可撓性の板状導体4が電気的に接続される。このため、列車通過時に発生する鋼構造物1の振動に追従して板状導体4が撓み、配線用導電層3nから板状導体4が外れるのを防ぐことができる。その結果、亀裂C
1の監視性能を長期間にわたり維持することができるとともに、鋼構造物1に発生する亀裂C
1を長期間正確に監視することができる。
【0091】
(10) この第1実施形態では、板状導体4が平編金属線である。このため、安価で簡単な構造の平編金属線を利用することで配線用導電層3pから平編金属線が外れるのを防ぐことができ、亀裂監視装置2の耐久性を向上させることができる。また、平編金属線の一部が破断しても電気的な通電状態を長期間にわたり維持することができるとともに、配線用導電層3pとの接合面積が広くなって配線用導電層3pに平編金属線から安定して電力を供給することができる。
【0092】
(11) この第1実施形態では、板状導体4が配線用導電層3pの表面に接着されている。このため、板状導体4と配線用導電層3pとを接着剤などによって簡単に接合することができ、現場での施工性を向上させることができる。
【0093】
(12) この第1実施形態では、板状導体4と配線用導電層3pとが接合する接合部の表面を保護層3rが保護する。このため、板状導体4と配線用導電層3pとの接合部が腐食するのを防ぐことができ、屋外で亀裂C
1を長期間にわたり監視することができる。
【0094】
(13) この第1実施形態では、板状導体4の表面を保護材5が保護する。このため、板状導体4の表面が腐食するのを防ぐことができ、屋外で亀裂C
1を長期間にわたり監視することができる。
【0095】
(14) この第1実施形態では、複数の異なる周波数の交流電力を亀裂発生検出用導電層3fに給電部8が供給し、この複数の異なる周波数毎にこの亀裂発生検出用導電層3fの交流インピーダンスを通電状態測定部10が測定し、この通電状態測定部10の測定結果に基づいて亀裂C
1の発生状況を評価部12が評価する。このため、亀裂C
1の開口幅が変動しても交流インピーダンスを測定することによって亀裂C
1の発生を初期の段階から正確に検知することができる。
【0096】
(15) この第1実施形態では、複数の異なる周波数に対応する各交流インピーダンス値が異なるときには、亀裂C
1が発生していると評価部12が評価する。このため、異なる周波数のときの各交流インピーダンスを測定することによって亀裂C
1の開口部の存在を簡単に把握することができ、実用的な疲労亀裂を検出することができる。
【0097】
(16) この第1実施形態では、低周波数側で測定したときの交流インピーダンス値に比べて、高周波数側で測定したときの交流インピーダンス値が減少したときには、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していると評価部12が評価する。このため、亀裂C
1の発生を初期の段階から迅速に検知することができ、鋼構造物1の変状の早期修繕を図ることによって鋼構造物1の長期延命化を図ることができる。
【0098】
(17) この第1実施形態では、複数の異なる周波数に対応する各交流インピーダンス値が略同一であるときには、亀裂C
1が発生していないと評価部12が評価する。このため、異なる周波数のときの各交流インピーダンスの変化を測定することによって亀裂C
1の有無を正確に把握することができ、亀裂C
1が発生していないにもかかわらず亀裂C
1が発生しているものと誤検知してしまうのを防ぐことができる。
【0099】
(18) この第1実施形態では、低周波数側で測定したときの交流インピーダンス値と、高周波数側で測定したときの交流インピーダンス値とが略同一であるときには、亀裂発生検出用導電層3fに亀裂C
1が発生していないと評価部12が評価する。このため、鋼構造物1が変位して亀裂C
1の開口幅が狭くなっても交流インピーダンスの変化を測定することによって亀裂C
1の有無を正確に検知することができ、誤検知の発生を未然に防ぐことができる。
【0100】
(19) この第1実施形態では、亀裂進展検出用導電層3aが複数の監視領域A
1〜A
3に区画されているときに、この監視領域A
1〜A
3毎に通電状態を通電状態測定部9が測定し、この監視領域A
1〜A
3毎の通電状態の測定結果に基づいて亀裂C
1の発生した監視領域A
1を評価部11が特定する。このため、亀裂C
1の発生した位置を正確に検出することができる。
【0101】
(第2実施形態)
以下では、
図1〜
図9及び
図11に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明する。
図10に示す亀裂監視装置2は、振動検出部16を備えており、この振動検出部16は鋼構造物1の振動を検出する部分である。振動検出部16は、鋼構造物1を列車などの移動体が通過したときに発生する振動を検出して、この振動に応じた振動検出信号(振動検出情報)を制御部14に送信する。振動検出部16は、例えば、加速度センサ、速度センサ又は変位センサなどの振動センサである。
【0102】
次に、この発明の第2実施形態に係る亀裂監視方法を説明する。
以下では、
図10に示すステップと対応するステップについては、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図11に示すS100において、振動を検出したか否かが判断される。鋼構造物1を列車が通過すると、この列車の荷重を受けてこの鋼構造物1が振動しこの鋼構造物1が変位するとともに、亀裂発生検出用導電層3fも鋼構造物1と一体となって変位する。振動検出部16が鋼構造物1の振動を検出すると振動検出信号を制御部14に送信し、制御部14が振動検出信号を受信したと判断したときにはS110に進み、給電部7に直流電力の供給を制御部14が指令するとともに、給電部8に交流電力の供給を制御部14が指令する。一方、振動検出部16が鋼構造物1の振動を検出しないときには、振動検出部16が振動検出信号を制御部14に送信しないため、制御部14が振動検出信号を受信していないと判断し一連の亀裂監視処理を終了する。
【0103】
この発明の第2実施形態に係る亀裂監視装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、鋼構造物1の振動を振動検出部16が検出したときに、亀裂発生検出用導電層3fに複数の異なる周波数の交流電力を給電部8が供給し、この複数の異なる周波数毎に亀裂発生検出用導電層3fの交流インピーダンスを通電状態測定部10が測定する。このため、鋼構造物1の振動によって亀裂発生検出用導電層3fの亀裂C
1の開口幅が変動したときに、この亀裂発生検出用導電層3fの交流インピーダンスを測定することによって、鋼構造物1の亀裂C
1の発生を初期段階からより一層高精度に検出することができる。
【0104】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、監視対象物として鋼構造物1を例に挙げて説明したが、コンクリート構造物などの他の構造物についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、疲労亀裂などによって鋼構造物1に亀裂C
1が発生する場合を例に挙げて説明したが、リベットやボルトなどの緩みによって塗膜に亀裂が発生する場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、4本の亀裂進展検出用電極層3b〜3eによって亀裂進展検出用導電層3aを3つの監視領域A
1〜A
3に区画する場合を例に挙げて説明したがこれに限定するものではなく、2つ以下又は4つ以上の監視領域に区画することもできる。
【0105】
(2) この実施形態では、ニッケルなどによって亀裂監視材3を形成する場合を例に挙げて説明したがこれに限定するものではない。例えば、酸化物によって表面が覆われたニッケル以外の他の金属顔料であっても、樹脂中で粉砕することで亀裂監視材3を形成できる場合には、このような他の金属顔料によって亀裂監視材3を製造することもできる。また、この実施形態では、亀裂進展検出用導電層3aに直流電力を給電部7によって供給しているが、亀裂進展検出用導電層3aに交流電力を給電部7によって供給することもできる。この場合には、給電部7,8を一つの給電部によって構成して亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fに交流電力を供給したり、通電状態測定部9,10を一つの通電状態測定部によって構成して亀裂進展検出用導電層3a及び亀裂発生検出用導電層3fの通電状態を測定したりすることもできる。さらに、この実施形態では、板状導体4が平編金属線である場合を例に挙げて説明したが、断面形状が長方形の複数本の平型導体を絶縁材によって板状に被覆したフレキシブルフラットケーブル(Flexible Flat Cable(FFC))などを板状導体4として使用することもできる。