特許第5936281号(P5936281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000002
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000003
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000004
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000005
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000006
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000007
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000008
  • 特許5936281-車両の車線逸脱防止制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936281
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】車両の車線逸脱防止制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20160609BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   B60R21/00 624F
   B60R21/00 626A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-73027(P2014-73027)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194946(P2015-194946A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 武
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−188853(JP,A)
【文献】 特開2012−234295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行している車線を逸脱するか否かを判断し、車線を逸脱すると判断した場合に車線逸脱を防止するための少なくとも警報を含む支援制御を実行する支援制御部を備えた車両の逸脱防止制御装置において、
前記支援制御部は、
車両が走行している車線の幅方向の車両横位置及び車線に対する車両のヨー角及び車両速度から車両が将来的に車線から逸脱するに至る車線逸脱予想時間を算出し、この車線逸脱予想時間から車線逸脱を判断する第1の支援制御部と、
車両横位置及び車線に対する車両ヨー角より車両ヨー角が逸脱側に向いた場合に、車線を逸脱するか否かを判断する第2の支援制御部とを備え、
車両横位置が走行環境に応じて設定される閾位置より車線中央側である場合、前記第1の支援制御部を選択し、車両横位置が前記閾位置より車線端側である場合、前記第2の支援制御部を選択する
ことを特徴とする車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項2】
車線中央部に、前記支援制御を実行しない不感帯を設けたことを特徴とする請求項1記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項3】
前記閾位置は、車両速度に応じて可変設定され、車両速度が速くなるほど車線中央側に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項4】
前記閾位置は、車線の曲率に応じて可変設定され、車線の曲率が大きくなるほど、カーブ外側の前記閾位置が車線中央側に設定される一方、カーブ内側の前記閾位置が車線端側に設定されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項5】
前記閾位置は、車線幅に応じて可変設定され、車線幅が大きくなるほど車線中央側に設定されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項6】
前記閾位置は、走行路のカントに応じて可変設定され、カントが大きくなるほど、カントの上側では前記閾位置が車線端側に設定される一方、カントの下側では前記閾位置が車線中央側に設定されることを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する車線からの逸脱を防止する車両の車線逸脱防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、運転を支援する様々な装置が開発、実用化されており、車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御装置もそのような装置の一つである。例えば、特開平7−105498号公報(以下、特許文献1)では、自車両の推定進行路と車線の側縁との交点までの距離と、交点における推定進行路と側縁とのなす角度とに基づき、車線からの逸脱状態を予測し、該予測に基づいて逸脱を防止すべく自動的な修正操舵を行う自動車の走行状態判定装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−105498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示されるような車線逸脱防止制御では、車線逸脱予想時間に基づいて車線に対して逸脱を防止する車両挙動を発生することはできるが、車両が車線端付近を走行しているような状況では、車線に対する車両のヨー角が小さい場合、算出される車線逸脱予想時間が長くなる。このため、結果的にドライバが制御開始を遅いと感じる等、ドライバが所望する逸脱防止開始タイミングとの乖離が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車線逸脱防止の制御開始タイミングをドライバの感覚と乖離することのない適正なタイミングとして、ドライバに違和感を与えることのない車両の車線逸脱防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による車両の車線逸脱防止制御装置は、車両が走行している車線を逸脱するか否かを判断し、車線を逸脱すると判断した場合に車線逸脱を防止するための少なくとも警報を含む支援制御を実行する支援制御部を備えた車両の逸脱防止制御装置において、前記支援制御部は、車両が走行している車線の幅方向の車両横位置及び車線に対する車両のヨー角及び車両速度から車両が将来的に車線から逸脱するに至る車線逸脱予想時間を算出し、この車線逸脱予想時間から車線逸脱を判断する第1の支援制御部と、車両横位置及び車線に対する車両ヨー角より車両ヨー角が逸脱側に向いた場合に、車線を逸脱するか否かを判断する第2の支援制御部とを備え、車両横位置が走行環境に応じて設定される閾位置より車線中央側である場合、前記第1の支援制御部を選択し、車両横位置が前記閾位置より車線端側である場合、前記第2の支援制御部を選択する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車線逸脱防止の制御開始タイミングをドライバの感覚と乖離することのない適正なタイミングとして、ドライバに違和感を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両の操舵系の構成図
図2】X−Z座標上における自車両及び車線と各パラメータの説明図
図3】車両横位置と第1,第2の支援制御の関係を示す説明図
図4】車速に応じた閾位置の修正特性を示す説明図
図5】車線曲率に応じた閾位置の修正特性を示す説明図
図6】カントに応じた閾位置の修正特性を示す説明図
図7】車線幅に応じた閾位置の修正特性を示す説明図
図8】車線逸脱防止制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は操舵角をドライバ入力と独立して設定自在な電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0010】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオンが噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0011】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2、ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン軸(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0012】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動パワーステアリングモータ(電動モータ)12が連設されており、この電動モータ12にてステアリングホイール4に加える操舵トルクのアシスト、及び、設定された目標旋回量(例えば、目標ヨーレート)となるような操舵トルクの付加が行われる。電動モータ12は、操舵制御部20から制御出力値としての目標トルクがモータ駆動部21に出力されてモータ駆動部21により駆動される。
【0013】
操舵制御部20は、ドライバの操舵力を補助する電動パワーステアリング制御機能、車両を目標進行路に沿って走行させるレーンキープ制御機能、車線の車線区画線(左右白線)からの逸脱を判断して車線逸脱を防止する車線逸脱防止制御機能等を有している。本実施の形態においては、操舵制御部20が有する車線逸脱防止制御機能の構成について説明する。
【0014】
操舵制御部20には、車線区画線(左右白線)を検出し、車線区画線から車線情報と、車線に対する車両の姿勢角・位置情報を取得する前方認識装置31が接続されている。また、操舵制御部20には、車速Vを検出する車速センサ32、操舵角(実舵角)θpを検出する操舵角センサ33、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34、車線のカント角θcaを検出するカント角検出センサ35が接続されている。
【0015】
前方認識装置31は、例えば、車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像する1組のCCDカメラと、このCCDカメラからの画像データを処理するステレオ画像処理装置とから構成されている。前方認識装置31のステレオ画像処理装置における、CCDカメラからの画像データの処理は、例えば以下のように行われる。
【0016】
まず、CCDカメラで撮像した自車両の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求め、距離画像を生成する。白線データの認識では、白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差とに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。
【0017】
自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、本実施の形態では、例えば、図2に示すように、ステレオカメラの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をX軸(左方向を「+」)、車高方向をY軸(上方向を「+」)、車長方向(距離方向)をZ軸(前方向を「+」)とする。このとき、X−Z平面(Y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車両の車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を所定に近似して連結することによって表現される。
【0018】
尚、本実施の形態では、車線の形状を1組のCCDカメラからの画像を基に認識する例で説明したが、他に、単眼カメラ、カラーカメラからの画像情報を基に求めるものであっても良い。
【0019】
また、カント角検出センサ35は、例えば、以下の(1)式により、カント角θcaを算出するようになっている。
θca=sin-1((G’−G)/g) …(1)
ここで、gは重力加速度、Gは横加速度センサ(図示せず)で検出した横加速度値、G’は、例えば、以下の(2)式により算出される計算横加速度値である。また、(2)式におけるAsは車両固有のスタビリティファクタで、Lwはホイールベースである。
【0020】
G’=(1/(1+As・V2))・(V2/Lw)・θp …(2)
尚、カント角θcaは、他に、図示しないナビゲーションシステムの地図情報等から得られるものであっても良い。
【0021】
更に、操舵制御部20には、ドライバに対する警報出力を制御する警報制御装置40が接続されており、車線逸脱を防止するための支援制御を実行する支援制御部を形成している。この車線逸脱防止の支援制御は、少なくともドライバに警報を発する警報制御を含む制御、すなわち、ドライバに対する警報制御のみ、或いはドライバに対する警報制御に加えて車線逸脱防止のための修正操舵やブレーキ制御等の制御介入を実施することを想定している。
【0022】
後述するように、操舵制御部20における支援制御部としての機能は、車線逸脱の判断条件が異なる第1の支援制御部20aと第2の支援制御部20bとの2つの機能部を有して構成されている。操舵制御部20は、上述の車線位置情報、各センサ信号を基に、車線の幅方向の車両横位置xvを算出し、車両横位置xvに応じて第1の支援制御部20aによる第1の支援制御と第2の支援制御部20bによる第2の支援制御とを選択的に実行する。
【0023】
車両横位置xvは、前方認識装置31で取得した左右白線に基づいて算出される。自車両の左側の白線(白線モデル)xL、右側の白線(白線モデル)xRは、最小二乗法により、以下の(3),(4)式により近似される。
xL=AL・z2+BL・z+CL …(3)
xR=AR・z2+BR・z+CR …(4)
【0024】
ここで、上述の(3)式、(4)式における、「AL」と「AR」は、それぞれの曲線における曲率を示し、左側の白線の曲率κは、2・ALであり、右側の白線の曲率κは、2・ARである。また、(3)式、(4)式における、「BL」と「BR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における傾きを示し、「CL」と「CR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における位置を示す(図2参照)。
【0025】
従って、自車両の車線に対するヨー角(対車線ヨー角)θyawは、以下の(5)式により算出することができる。また、車線中央からの幅方向の自車両位置である車両横位置xvは、以下の(6)式により算出することができる。
θyaw=(BL+BR)/2 …(5)
xv=(CL+CR)/2 …(6)
【0026】
以上の(6)式による車両横位置xvを用いた車線逸防止の支援制御においては、図3に示すように、車線中央に車線逸脱防止制御を実施しない幅Hの不感帯Dを設ける。そして、この不感帯Dの外側に自車両が位置するとき、車両横位置xvに応じて第1の支援制御と第2の支援制御とを選択的に実行する。尚、図3は、自車両が車線中央から左白線側を走行している場合を図示しているが、左白線側を走行している場合も同様である。
【0027】
詳細には、第1の支援制御は、車両横位置xvが不感帯Dの外側、且つ車線幅方向に設定される横位置である閾位置xthよりも内側の車線中央側の領域R1内であるときに実行され、第2の支援制御は、車両横位置xvが閾位置xthの外側の車線端側の領域R2内であるときに実行される。
【0028】
第1の支援制御は、所定時間後の車両横位置に基づいて車線を逸脱するか否かを判断して実施される制御である。具体的には、車両横位置xvと車両のヨー角θyawと車速Vに基づいて、車両の推定進行路と車線側縁との交点Pcpに到達するまでの時間(車線から逸脱するまでの車線逸脱予想時間)Tttlcを、例えば以下の(7)式により算出し、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値(支援開始時間)とを比較することにより、第1の支援制御を開始するか否かを判断する。
Tttlc=L/(V・sin(θyaw)) …(7)
【0029】
尚、(7)式におけるLは、車線車両間距離(図2参照)であり、以下の(7’)式により算出される。ここで、TRは車両のトレッドであり、本実施の形態では、タイヤ位置を車線逸脱判定の基準に用いるものとする。
L=((CL−CR)−TR)/2−xv …(7’)
【0030】
そして、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合、車線逸脱と判断して警報制御や修正操舵等の支援制御を行う。警報制御は、警報制御装置40から音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報を出力し、ドライバに対して車線逸脱警報を発する。また、操舵修正の支援制御では、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて、車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを、以下の(8)式により算出する。
γt=−θyaw/Tttlc …(8)
【0031】
次に、目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に、車線からの逸脱を防止する車両のヨー角を目標ヨー角θyawtとして、例えば、以下の(9)式により算出する。ここで、θyaw0は、実験、演算等により予め設定しておいたヨー角基準値で、逸脱方向とは反対方向の小さな値に設定されている。また、Gnは、車速、曲率、カント、車線幅等に基づいて設定される感応ゲインである。
【0032】
θyawt=Gn・θyaw0 …(9)
【0033】
そして、目標ヨーレートγtを設定した後は、例えば、以下の(10)式により、目標トルクTpを算出し、この目標トルクTpをモータ駆動部21に出力して電動モータ12を駆動することで、車線逸脱を回避する操舵修正の制御介入を実施する。ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインである。
【0034】
Tp=Kp・(γt-γ)+Ki・∫(γt-γ)dt+Kd・d(γt-γ)/dt…(10)
【0035】
一方、第2の支援制御は、現在の車両横位置xvと車線に対するヨー角θyawとに基づいて車線を逸脱するか否かを判断して実施される制御であり、車線境界付近で車線に対する車両のヨー角が小さい場合にも適正に逸脱防止制御を機能させるための制御である。すなわち、車線逸脱予想時間Tttlcに基づく第1の支援制御では、車線境界付近に車両がいる状況であっても、車線に対する車両のヨー角が小さい場合には、算出される車線逸脱予想時間Tttlcが長くなるため、結果的に、逸脱防止制御の開始が遅く感じられる等、ドライバが所望する逸脱開始タイミングと乖離してしまう。このため、車線境界付近では、第1の支援制御から第2の支援制御に切り換えて、車線逸脱防止制御の開始タイミングがドライバの感覚と乖離しないように適正化する。
【0036】
具体的には、第2の支援制御では、車両横位置xvが左白線有或いは右白線近傍の領域R2内にあり、且つ、車線に対するヨー角θyawが所定時間継続して車線から逸脱する方向を指向しているとき(例えば、車線に対するヨー角θyawが車線外側を指向している状態或いは車線内側であっても設定値以下の状態が所定時間継続しているとき)、車線逸脱と判断して警報制御や修正操舵等の支援制御を行う。ここで、本実施の形態においては、第2の支援制御は、第1の支援制御とは車線逸脱判断による警報や修正操舵の開始タイミングが異なるのみで、警報や修正操舵の支援制御は、第1の支援制御と基本的に同様であるが、警報の強さや操舵制御の各ゲインを変更するようにしても良い。
【0037】
以上の第1の支援制御と第2の支援制御を切り換える車両位置となる閾位置xthは、車速V、車線の曲率κ、カント角θca、車線幅w等の走行環境に応じて動的に変更される。このような閾位置xthは、例えば、予め基準位置を設定しておき、この基準位置を修正する係数を予め実験やシミュレーション等によって求めてマップを作成し、このマップを参照して得られる係数で基準位置を修正することにより動的に変更される。
【0038】
閾位置xthを修正する係数のマップは、車速V、車線の曲率κ、カント角θca、車線幅w等の各パラメータ毎に個別に作成しても良く、また、車速V、車線の曲率κ、カント角θca、車線幅w等の各パラメータを用いた多次元のマップとして作成しても良い。ここでは、個別のパラメータ毎に係数マップを作成するものとして、自車両の車速V、走行路(車線)の曲率κ、走行路のカント角θca、車線幅wをパラメータとする各修正係数Kv,Kκ,Kca、Kwの特性の一例について説明する。尚、修正係数は、修正無しを1として値が大きくなる程、閾位置xthが車線中央側に移動するものとする。
【0039】
車速Vに応じた閾位置xthの修正係数Kvは、例えば、図4に示すように、車速Vが速くなるほど、係数値が大きくなるように設定されている。これは、車速が速い場合には、閾位置xthを車線中心側に移動させて第2の支援制御(車両横位置による支援制御)の開始タイミングを早くし、確実に逸脱防止が図られるようにするためである。
【0040】
また、曲率κに応じた閾位置xthの修正係数Kκは、例えば、図5に示すように、カーブ外側を走行する場合(図中に実線で示す特性)と、カーブ内側を走行する場合(図中に破線で示す特性)とで異なる特性に設定されている。カーブ外側を走行する場合は、曲率κが大きくなるほど、係数値が大きくなるように設定され、カーブ内側を走行する場合は、曲率κが大きくなるほど、係数値が小さくなるように設定されている。
【0041】
すなわち、カーブ外側を走行する場合とカーブ内側を走行する場合とを比較すると、車線から逸脱しないように走行するには、カーブ内側を走行する方が相対的に大きなヨー角が必要になる。従って、曲率κが大きくなるほど、カーブ外側では閾位置xthを車線中央側に移動させ、カーブ内側では閾位置xthを車線端部側に移動させることで、第1の支援制御から第2の支援制御に移行するタイミングを適正化する。
【0042】
更に、カント角θcaに応じた閾位置xthの修正係数Kcaは、例えば、図6に示すように、車両がカントの下側を走行する場合と、カントの上側を走行する場合とに分けて設定されている。カントの下側を走行する場合は、図6中に実線で示すように、カント角θcaが大きくなるほど、修正係数Kcaが大きくなるように設定され、カントの上側を走行する場合は、図6中に破線で示すように、カント角θcaが大きくなるほど、修正係数Kcaが小さくなるように設定されている。
【0043】
すなわち、カントの下側を走行する場合には、重力による横加速度がカントを下ってカント下側の車線を逸脱させる方向に作用するため、閾位置xthを車線中央側に移動させて早期に車両横位置による逸脱防止制御(第2の支援制御)が開始されるようにする。逆に、カントの上側を走行する場合には、重力による横加速度がカントを下ってカント上側の車線から遠ざかる方向(車線を逸脱し難い方向)に作用するため、閾位置xthを車線の端部側に移動させて第2の支援制御への移行を緩やかなものとして、警報や制御介入のタイミングを適正化してドライバの感覚との乖離を防止する。
【0044】
また、車線幅wに応じた閾位置xthの修正係数Kwは、例えば、図7に示すように、車線幅wが広いほど、閾位置xthが車線中央側に移動するように大きな値に設定されており、車線幅wが狭くなると、閾位置xthが車線端側に移動する。これは、車線幅wが広いほど、第1の支援制御による車線逸脱防止制御では、逸脱判定の警報や操舵制御が開始されるまでの時間が長くなるため、閾位置xthを車線中央側に移動させて早期に車両横位置による逸脱防止制御(第2の支援制御)が開始されるようにし、逆に、車線幅wが狭い場合には、第1の支援制御から第2の支援制御に不用意に移行しないようにするためであり、第1の支援制御と第2の支援制御との切り換えタイミングを適正化してドライバに違和感を与えることを防止する。
【0045】
尚、不感帯Dの幅Hは、予め設定した固定幅とするが、閾位置xthと同様、走行環境に応じて動的に変更するようにしても良い。
【0046】
次に、操舵制御部20で実行される車線逸脱防止制御のプログラム処理について、図8に示すフローチャートを用いて説明する。
この車線逸脱防止制御では、先ず、最初のステップS1において、現在の車両横位置xvが不感帯Dの外側にあるか否かを調べる。そして、車両横位置xvが不感帯Dの内側である場合には、車線逸脱防止のための制御は実行せずに本処理を抜け、車両横位置xvが不感帯Dの外側である場合、ステップS1からステップS2へ進んで車両横位置xvが閾位置xthよりも内側の車線中央側の領域R1内であるか否かを調べる。
【0047】
ステップS2において、車両横位置xvが領域R1内である場合、ステップS2からステップS3へ進み、車線逸脱予想時間Tttlcを算出し((7)式参照)、車線逸脱予想時間Tttlcが予め設定した支援開始時間Tst以上であるか否かを調べる。そして、Tttlc<Tstの場合には本処理を抜け、Tttlc≧Tstになった場合、ステップS3からステップS4へ進んで、車線逸脱予想時間Tttlcに基づく上述の第1の支援制御を開始する。
【0048】
一方、ステップS2において、車両横位置xvが領域R1内でない場合には、ステップS2からステップS5へ進み、車両横位置と左右白線位置との関係を調べて車線逸脱状態にあるか否かを判断する。その結果、車線を逸脱していない場合には、ステップS5からステップS6以降へ進んで第2の支援制御に係る処理を行い、既に車線を逸脱している場合には本処理を抜け、車線復帰処理に移行する。この車線復帰処理は、詳細は省略するが、ドライバに対して警報を出力すると共に車線中央側への操舵制御を行、状況に応じて強制的にブレーキを作動させたりする処理である。
【0049】
ステップS6以降の処理では、ステップS6で車両が左逸脱側にあるか右逸脱側にあるか、すなわち車両横位置が左白線内側の近傍か右白線内側の近傍かを調べる。左逸脱側の場合には、ステップS7へ進み、右逸脱側の場合、ステップS11へ進む。先ず、左逸脱側の処理について説明し、次に、右逸脱側の処理について説明する。
【0050】
左逸脱側の処理では、ステップS7で車線に対するヨー角(対車線ヨー角)θyawが左白線を逸脱する方向の角度であるか否かを調べる。その結果、対車線ヨー角θyawが左白線に対して車線中央側を指向する等して左白線を逸脱する方向でない場合には、ステップS7から本処理を抜け、対車線ヨー角θyawが左白線を逸脱する方向である場合、ステップS7からステップS8へ進む。
【0051】
ステップS8では、左白線を逸脱する方向である状態が連続して継続する時間を計時するカウンタC1をカウントアップ(C1←C1+1)し、ステップS9でカウンタC1が予め設定した支援開始時間に相当する閾値C1Th以上となったか否かを調べる。C1<C1Thの場合には、本処理を抜け、C1≧C1Thの場合、ステップS10で車両横位置に基づく上述の第2の支援制御を開始する。
【0052】
一方、右逸脱側のステップS11以降の処理では、ステップS11で対車線ヨー角θyawが右白線を逸脱する方向の角度であるか否かを調べる。その結果、対車線ヨー角θyawが右白線に対して車線中央側を指向しており、右白線を逸脱する方向でない場合には、ステップS11から本処理を抜け、対車線ヨー角θyawが右白線を逸脱する方向である場合、ステップS11からステップS12へ進む。
【0053】
ステップS12では、右白線を逸脱する方向である状態が連続して継続する時間を計時するカウンタC2をカウントアップ(C2←C2+1)し、ステップS13でカウンタC2が予め設定した支援開始時間に相当する閾値C2Th以上となったか否かを調べる。C2<C2Thの場合には、本処理を抜け、C2≧C2Thの場合、ステップS14で第2の支援制御を開始する。
【0054】
尚、左逸脱側のステップS7〜S10の制御処理、左逸脱側のステップS11〜S14の制御処理は、ステップS7,S12の対車線ヨー角θyawの判断基準が異なるのみで、カウンタの閾値C1Th,C2Thや第2の支援制御の内容は基本的に同様であるが、道路の車線の数や現在走行している車線の位置等に応じて左右の制御内容を調整するようにしても良い。
【0055】
このように本実施の形態においては、車両横位置xvが不感帯Dの外側、且つ車線幅方向に設定される横位置である閾位置xthよりも内側の車線中央側の領域R1内であるときには、車線逸脱予想時間Tttlcから車線逸脱を判断する第1の支援制御を選択し、車両横位置xvが閾位置xthの外側の車線端側の領域R2内であるときには、車両横位置xvと対車線ヨー角θyawに基づいて車線逸脱を判断する第2の支援制御を選択する。これにより、車線境界付近を車両が走行しているような状況での逸脱防止制御を、ドライバの感覚と乖離することなく早期に開始することが可能となり、ドライバに違和感を与えることがない。
【符号の説明】
【0056】
1 電動パワーステアリング装置
12 電動モータ
20 操舵制御部(支援制御部)
20a 第1の支援制御部
20b 第2の支援制御部
21 モータ駆動部
31 前方認識装置
32 車速センサ
33 操舵角センサ
34 ヨーレートセンサ
35 カント角検出センサ
40 警報制御装置
xv 車両横位置
xth 閾位置
D 不感帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8