(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936290
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】再充電不能バッテリを有する埋め込み可能医療デバイスのための電力アーキテクチャ
(51)【国際特許分類】
A61N 1/378 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
A61N1/378
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-556575(P2014-556575)
(86)(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公表番号】特表2015-506781(P2015-506781A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】US2013023890
(87)【国際公開番号】WO2013119439
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】61/597,250
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/747,898
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507213592
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック ニューロモデュレイション コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ラモント ロバート ジー
(72)【発明者】
【氏名】パラモン ホルディ
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2007/0097719(US,A1)
【文献】
米国特許第5757167(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め込み可能医療デバイスのための回路であって、
バッテリ電圧を出力する再充電不能バッテリと、
前記バッテリ電圧をブースト電圧まで昇圧するためのブースト回路と、
前記バッテリ電圧が閾値電圧よりも高いか又はそれに等しいか、又は、閾値電圧より低いかを判定するように構成された比較回路と、
前記バッテリ電圧が前記閾値電圧よりも高いか又はそれに等しいと前記比較回路により判定された時に前記バッテリ電圧によって、及び、前記バッテリ電圧が該閾値電圧よりも低いと前記比較回路により判定された時に前記ブースト電圧によって、給電される第1の回路と、
前記バッテリ電圧によってのみ給電される第2の回路と、
を含むことを特徴とする回路。
【請求項2】
前記第1の回路は、1つ又はそれよりも多くのレギュレータを含むことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項3】
複数の回路素子を更に含み、
前記1つ又はそれよりも多くのレギュレータの各々が、前記回路素子の少なくとも1つに給電するために一定電圧を供給することを特徴とする請求項2に記載の回路。
【請求項4】
前記回路素子のうちの1つが、アナログ回路であることを特徴とする請求項3に記載の回路。
【請求項5】
前記回路素子のうちの1つが、デジタル回路であることを特徴とする請求項3に記載の回路。
【請求項6】
前記回路素子のうちの1つが、メモリであることを特徴とする請求項3に記載の回路。
【請求項7】
前記閾値電圧は、前記第1の回路が適正に作動するのに必要な最小電圧であることを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項8】
スイッチを更に含み、
前記スイッチは、前記バッテリ電圧が閾値電圧よりも高いか又はそれに等しい時に該バッテリ電圧を前記第1の回路に提供するように前記比較回路によって制御可能であり、該スイッチは、該バッテリ電圧が該閾値電圧よりも低い時に前記ブースト電圧を該第1の回路に提供するように制御可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項9】
前記第2の回路は、DC−DCコンバータを含むことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項10】
少なくとも1つのデジタル/アナログ変換器を更に含み、
前記DC−DCコンバータは、前記少なくとも1つのデジタル/アナログ変換器に給電するためのコンプライアンス電圧を生成することを特徴とする請求項9に記載の回路。
【請求項11】
患者の組織に接触させるための少なくとも1つの電極を更に含み、
前記デジタル/アナログ変換器が、少なくとも1つの電極に電流を提供することを特徴とする請求項10に記載の回路。
【請求項12】
前記第2の回路は、テレメトリアンテナに結合されたタンク回路を含むことを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項13】
単一集積回路を更に含み、
前記第1及び第2の回路は、前記単一集積回路上に集積されることを特徴とする請求項1に記載の回路。
【請求項14】
前記レギュレータのうちの少なくとも1つが、リニアレギュレータであることを特徴とする請求項2に記載の回路。
【請求項15】
前記ブースト回路は、入力と出力を有し、該入力での電圧を該出力でのより高い電圧に変換し、
前記第1の回路は、前記ブースト回路の前記出力に接続された第1の入力電源部を含み、
前記スイッチは、前記バッテリ電圧が閾値電圧よりも高いか又はそれに等しい時に該バッテリ電圧を前記第1の入力電源部に経路指定し、該バッテリ電圧が該閾値電圧よりも低い時に該バッテリ電圧を前記ブースト回路の前記入力に経路指定するように前記比較回路によって制御可能であり、
前記第2の回路は、前記バッテリ電圧に接続された第2の入力電源部を含むことを特徴とする請求項8に記載の回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、引用によって本明細書に組み込まれ、かつそれに対して優先権を主張する2012年2月10日出願の米国特許仮出願番号第61/597,250号及び2013年1月23日出願の米国特許出願番号第13/747,898号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般的に埋め込み可能医療デバイスに関し、より具体的には、1次バッテリを有する埋め込み可能医療デバイスのための改善されたアーキテクチャに関する。
【背景技術】
【0003】
埋め込み可能神経刺激器デバイスは、不整脈を治療するためのペースメーカー、心細動を治療するための細動除去器、難聴を治療するための蝸牛刺激器、盲目を治療するための網膜刺激器、協働する体肢運動を生成するための筋肉刺激器、慢性疼痛を治療するための脊髄刺激器、運動障害及び心理的障害を治療するための皮質及び脳深部刺激器、及び尿失禁、睡眠時無呼吸、肩関節亜脱臼などを治療するための他の神経刺激器のような様々な生物学的障害の治療のために電気刺激を発生させて身体の神経及び組織に送出するデバイスである。以下に続く説明は、一般的に、米国特許第6,516,227号明細書に開示されているもののような「脊髄刺激(SCS)」システム内での本発明の使用に着目することになる。しかし、本発明は、あらゆる埋め込み可能医療デバイスに適用性を見出すことができる。
【0004】
図1A及び
図1Bに示すように、一般的に、SCSシステムは、例えば、チタンのような導電材料で形成された生体適合性デバイスケース30を含む「埋め込み可能パルス発生器(IPG)」100を含む。一般的に、ケース30は、IPGの回路及びこの回路に電力を供給するバッテリを保持する。特定の要求とIPGを使用することになる患者の状況とに基づいて、バッテリは、再充電可能又は再充電不能1次バッテリのいずれかとすることができる。IPG100は、各々がいくつかの電極106を含む1つ又はそれよりも多くの電極アレイ(2つのそのようなアレイ102及び104を示す)を含む。電極106は、各電極に結合された個々の電極リード112及び114も含む可撓性本体108上に担持される。図示の実施形態において、アレイ102上にE
1−E
8とラベル付けした8つの電極が存在し、アレイ104上にE
9−E
16とラベル付けした8つの電極が存在するが、アレイ及び電極の個数は用途に特定のものであり、従って、異なる可能性がある。アレイ102、104は、例えば、エポキシを含むことができる非導電性ヘッダ材料36内に固定されたリードコネクタ38a及び38bを用いてIPG100に結合される。
【0005】
図2に示すように、一般的に、IPG100は、プリント回路基板(PCB)16をPCB16に装着されたマイクロプロセッサ、集積回路、及びコンデンサのような様々な電子構成要素20と共に含む電子基板アセンブリを含む。これらの電子構成要素20のうちの一部に対して、下記で更に解説する。IPG100内には、データを外部コントローラ80に送信し、かつそこから受信するためのテレメトリコイル13(より一般的にはアンテナ)が存在する。一般的に、テレメトリコイル13は、図示のようにIPG100のヘッダ36の内部に装着され、フェライト芯13’の周囲に巻くことができる。一実施形態において、テレメトリコイル13は、ケース30の内部に存在することができる。IPG100のような再充電可能バッテリを有するIPG内には、外部充電器82を用いてIPGのバッテリを充電又は再充電するための充電コイル18も存在する。
【0006】
直ぐ上で説明したように、データをIPG100に無線送信し、そこから無線受信するために、手持ち式プログラマー又は臨床医のプログラマーのような外部コントローラ80が使用される。例えば、外部コントローラ80は、IPG100が患者に与えることになる治療を指定するためにプログラミングデータをIPG100に送信することができる。更に、外部コントローラ80は、IPGからのデータ、例えば、IPGの関連に対して報告する様々なデータの受信機としての役割ももたらすことができる。外部コントローラ80も、IPG100と同様に、外部コントローラ80の作動を制御するために電子構成要素72が配置されたPCB70を含む。コンピュータ、セル電話、又は他の手持ち式電子デバイスに使用されるものと同様であり、例えば、タッチ可能ボタン及びディスプレイを含むユーザインタフェース74は、患者又は臨床医が外部コントローラ80を作動させることを可能にする。外部コントローラ80へ及びそこからのデータの通信は、IPG100内のコイル13と通信するコイル(アンテナ)17によって可能にされる。
【0007】
同じく典型的に手持ち式デバイスである外部充電器82は、IPGのバッテリが再充電可能である場合にそれを再充電するために使用することができる電力をIPG100に無線伝達するのに使用される。外部充電器82からの電力の転送は、IPG100内のコイル18によって受信される電力を発生させるコイル(アンテナ)17’によって可能にされる。外部充電器82を外部コントローラ80と類似の構造を有するものとして示すが、現実には、これらのものは、当業者に理解されるようにその機能に従って異なることになる。
【0008】
図3は、再充電可能バッテリ26を使用するIPG100におけるアーキテクチャを示している。
図3には、本発明の開示のフォーカスであって太線に示すIPG100内の様々な電力供給を特別に強調して示している。
図3には、以下に解説する範囲で他のいくつかの非電力供給信号を示しており、そのような信号を細線に示している。当業者は、IPG100が多くのそのような「通常」の信号線を含み、これらの線を便宜上示していないことを認めるであろう。
【0009】
一般的に、再充電可能バッテリ26は、リチウムイオンポリマーバッテリを含み、その消耗レベルに基づいて約3.2ボルトから4.2ボルトまでのバッテリ電圧Vbatを有することができる。IPG100は、充電コイル18と再充電可能バッテリ26の間の媒介として機能するバッテリインタフェース回路32を含む。バッテリインタフェース回路32は、外部充電器82(
図2)から充電コイル18において受信された電力を整流して再充電可能バッテリ26を制御された態様で充電するための回路を含む。再充電可能バッテリ26からの電力は、バッテリインタフェース回路32内の制御可能切換回路を通して送られ、IPG100内の回路の残りの部分に電圧Vbat’として供給される。Vbat’の大きさは、Vbatからバッテリインタフェース回路32内の切換回路の両端で発生する小さい電圧降下を差し引いたものと実質的に同じである。バッテリインタフェース回路32の例は、2011年7月20日出願の米国特許出願第61/509,701号明細書に見出すことができる。
【0010】
バッテリインタフェース回路32は、電圧Vbat’を電圧レギュレータ40、42、及び44を通してIPG100内の様々な回路要素又は回路素子に供給する。レギュレータ40、42、及び44は、それに接続した回路素子、すなわち、アナログ回路50、デジタル回路52、及びメモリ54それぞれに給電するのに適切な供給電圧VDDA、VDDD、及びVDDFに電圧Vbat’を調整するのに使用される。レギュレータ40、42、及び44は、ごく僅かな電力のみを用いて電力を節約することでバッテリ給電埋め込み医療デバイスでは特に有利である低電力低ドロップアウトリニアレギュレータを含むことができる。リニアレギュレータは、スイッチングレギュレータよりも低いノイズしか発生させないことでも有利である。
【0011】
回路50、52、及び54の各々に必要とされる電源電圧VDDD、VDDA、及びVDDFの大きさは同じとすることができ、各回路は、好ましくは、その独自の電圧レギュレータによって電力が供給される。デジタル回路52は、スイッチングする時に、時にアナログ回路50の性能に影響を及ぼす可能性があるノイズをVDDD上に発生させるので、アナログ回路50とデジタル回路52は、好ましくは、別個のレギュレータ40及び42を有する。メモリ50は、VDDFが供給しなければならない大量の電流を消費する可能性があるので、好ましくは、独自のレギュレータ44を有する。更に、VDDFは、節電するために随時停止することができる。
【0012】
アナログ回路50は、サーミスタ、バンドギャップ電圧基準器、発振器及びクロック、データをテレメトリコイル13に結合されたタンク回路24にデータを送り、そこからデータを受け入れる変調及び復調回路、アナログ測定及び経路指定回路、並びに類似のものを含む電源VDDAによって給電されるいくつかの低電圧アナログ回路素子をIPG100の内部に含む。VDDAは、一例では2.8ボルトを含むことができる。
【0013】
デジタル回路52は、マイクロコントローラ60及びタイミング回路66を含む電源VDDDによって給電されるデジタル回路をIPG100内に含む。VDDDは、一例では2.8ボルトを含むことができる。デジタル回路52は、例えば、米国特許出願公開第2008/0319497号明細書に示されているか、又はそれとは別個のものとすることができる単一の混合モードASIC集積回路上にアナログ回路50の少なくとも一部と共に少なくとも部分的に集積することができる。
【0014】
電源VDDFによって給電されるメモリ54は、システムのための(例えば、マイクロコントローラ60のための)オペレーティングソフトウエアを保持することができ、分析及び/又は患者へのフィードバックに向けて外部コントローラ80に報告される記録データのようなデータを格納するための空き領域として機能することができる。メモリ54は、外部コントローラ80から送信された先に参照した治療設定値のようなデータを格納することができ、これらのデータは、更にマイクロコントローラ60に送られる。メモリ54は、フラッシュEPROM、ランダムアクセスメモリ(RAM)、静的RAM(SRAM)、又はハードドライブなどのようないずれかのタイプのメモリとすることができる。しかし、電力が消失した場合でもデータを保持することを確実にするために、多くの場合に、メモリ54は、フラッシュEPROMメモリを含む。フラッシュEPROMは、プログラムすること及び消去することの両方において追加の電流を必要とする可能性があるので、一般的に、VDDFは、上述したように高電力レギュレータ44によって供給される。VDDFは、一例では2.8ボルトを含むことができる。
【0015】
再充電可能バッテリ26は、治療電流パルスを特定の刺激電極106を通して送るのに必要な電力も供給する。この供給は、DC−DCコンバータ22を用いてコンプライアンス電圧V+を生成することによって行われる。コンバータ22は、レギュレータ40、42、及び44と同様に、Vbat’から治療電流Ioutを生成するために1つ又はそれよりも多くのデジタル/アナログ変換器(DAC)33に給電するのに使用される電圧(V+)を発生させる。コンプライアンス電圧V+は、実際にDAC33に対する電源を含む。DAC33によって生成される治療電流の大きさIoutは、デジタル信号61によって指定される。Ioutは、患者の組織R25を通過する場所で選択することができるIPG100の特定の電極106に出力される。(別の電極106’が、Ioutに対する戻り経路又は基準を与えることができる。)
【0016】
治療電流は随時変化する可能性があるので、この電流を生成する必要があるコンプライアンス電圧V+も変化することができ、従って、V+をコンバータ22によって変更することができる。米国特許出願公開第2007/0097719号明細書に記載されているように、V+監視及び調節回路19が、DAC33が治療電流を発している時の電極106での電圧を測定することができ、この電流を供給するのに最適なV+に対する値V+(opt)をコンバータ22に通知することができる。’719公報に記載されているように、V+が低すぎる場合には、DAC33は、「ロードされた状態」になることになり、望ましい電流Ioutを供給することができない。V+が高すぎる場合には、DAC33は、望ましい電流を供給することができることになるが、電力は浪費されることになり、コンプライアンス電圧V+のうちのある程度の部分は、いかなる有利な効果も伴わずにDAC33の両端で降下することになる。同じく’719公報に開示するように、コンバータ22は、コンデンサベースの交換ポンプ、誘導子ベースのセットアップコンバータ、又はその組合せを含むことができる。V+は、コンバータ22により、一例では3ボルトから18ボルトまでの間のいずれかのレベルに設定することができる。
【0017】
テレメトリコイル13に結合されたタンク回路24もVbat’によって給電される。例えば、米国特許出願公開第2009/0069869号明細書に示すように、タンク回路24は、コイル13のインダクタンスと協働して作動してコイル13の共振周波数を設定する同調コンデンサを含むことができ、更に、変調回路(アナログ回路50の一部)によって制御され、コイル13が送信状態にある時に共振周波数でタンクを切り換えるトランジスタを含むことができる。送信ではなくデータを受信するときには、タンク回路24は、復調回路(同じくアナログ回路50の一部を含むことができる)に結合される。
【0018】
多くのIPGが再充電可能バッテリを使用するが、1次バッテリの使用が有利である可能性がある状況が存在する。1次バッテリは、そこに充電電流を通すことによって電気化学反応が可逆ではなく、従って、バッテリを再充電不能にするものである。1次バッテリは、その電極の一方又は両方において材料を使い切り、従って、限られた寿命期間のみを有する。
【0019】
しかし、1次バッテリは、一般的に再充電可能バッテリよりも廉価であり、同じ信頼性の懸念に悩まされることがないと考えられる。従って、適切な場合に、例えば、1次バッテリの予想寿命が患者の余命よりも大きいと予想されることになる場合に、又は身体的又は精神的な制限を有する患者がバッテリを充電するのに困難を有することになる状況では、医療埋め込み可能デバイス内での1次バッテリの使用は好ましい。1次バッテリを埋め込み可能医療デバイス内に使用することにより、特に充電コイル18が不要であるので設計も簡素化される。
【0020】
図4は、例えば、1.2ボルトから3.2ボルトまでの電圧Vbatを有するリチウムCFxバッテリ又はCFxとのSVO混成のものとすることができる1次バッテリ12を使用するIPG400におけるアーキテクチャを示している。図示のように、IPG400内の回路素子及び接続の多くは、
図3の再充電可能バッテリIPG100内に使用されるものと同じである。そのような類似の態様に対しては再度解説しない。
【0021】
図4の1次バッテリアーキテクチャにおける有意な相違点は、1次バッテリ12からの電力を様々な回路ブロックに供給する際のバッテリインタフェース回路32の代わりのブーストコンバータ64の使用である。その名称が意味するように、ブーストコンバータ64は、ブーストコンバータ64が接続した回路ブロック(レギュレータ40、42、44、DC−DCコンバータ22、及びテレメトリコイル13に結合されたタンク回路24)による使用に適するより大きい大きさのVbat+までバッテリ電圧Vbatをブースト(昇圧)する。Vbat+は、この例では3.2V程度とすることができる。そのようなブーストは、再充電可能バッテリ26に対する1次バッテリ12の比較的低い電圧の理由から必要である。ブーストされない場合に、Vbatは、レギュレータ40、42、及び44が望ましい大きさ(ここでもまた、約2.8V)の電源電圧VDDD、VDDA、及びVDDFを生成することを可能にするには低すぎることになる。ブーストコンバータ64は、DC−DCコンバータ22と同様に、コンデンサベースの交換ポンプ、誘導子ベースのセットアップコンバータ、又はその組合せを含むことができる。
【0022】
残念ながら、IPG400内の回路素子に供給される電圧をブーストするのにブーストコンバータ64を使用することは、そのようなブースト自体が1次バッテリ12からの電力を取るので非効率である。1次バッテリは再充電することができないので、効率は、1次バッテリを有する埋め込み可能医療デバイスにおいて特に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第6,516,227号明細書
【特許文献2】米国特許出願第61/509,701号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0319497号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0097719号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0069869号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従って、埋め込み可能医療デバイス、より具体的には、埋め込み可能刺激器デバイスは、1次バッテリを使用する改善されたアーキテクチャから利益を得ると考えられ、そのような解決法の実施形態を本明細書に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】埋め込み可能パルス発生器(IPG)と従来技術に従って電極アレイがIPGに結合される方式とを示す図である。
【
図1B】埋め込み可能パルス発生器(IPG)と従来技術に従って電極アレイがIPGに結合される方式とを示す図である。
【
図2】従来技術によるIPG、外部コントローラ、及び外部充電器の図である。
【
図3】従来技術による再充電可能バッテリを使用するIPG電力アーキテクチャの態様の図である。
【
図4】従来技術による1次バッテリを使用するIPG電力アーキテクチャの態様の図である。
【
図5】1次バッテリを使用する改善されたIPG電力アーキテクチャの態様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1次バッテリを使用する埋め込み可能医療デバイスのための改善されたアーキテクチャが開示され、これは1次バッテリの電圧がブーストされる状況を低減し、従って、インプラント内で引き出される電力を低減する。このアーキテクチャは、1次バッテリの電圧を選択的にブーストし、このブースト電圧をデジタル回路、アナログ回路、及びメモリを含む回路ブロックのうちのある一定のものに供給するためのブーストコンバータを含む。しかし、ブーストコンバータは、バッテリ電圧の大きさが閾値よりも小さい場合にのみバッテリ電圧をブーストするように使用され、閾値よりも大きい場合には、バッテリ電圧はブーストされずに回路ブロックに渡される。更に、テレメトリタンク回路及びコンプライアンス電圧発生器を含む低いバッテリ電圧でも作動させることができる一部の回路は、ブーストなしに、かつバッテリ電圧の電流の大きさに関係なくバッテリ電圧を直接受け入れる。
【0027】
図5は、
図4を参照して先に解説した1次バッテリと類似のものとすることができる1次バッテリ12を使用するIPG500のための改善されたアーキテクチャを示している。上述の場合のように、IPG500内の回路素子及び接続の多くは、図の再充電可能バッテリIPG100及び
図4の1次バッテリIPG400に使用されるものと同じである。そのような類似の態様に対しては再度解説しない。
【0028】
図4のIPG400の1次バッテリアーキテクチャの場合と同様に、IPG500は、1次バッテリ12の電圧Vbatを様々な回路に給電するのに必要なより高い電圧Vbat+に電位的にブースト(昇圧)するブーストコンバータ64を含む。しかし、2つの相違点が明らかである。
【0029】
第1に、ブーストコンバータ64は、Vbatの閾値Vtとの関係に依存して設定されるスイッチ76によって制御される。Vbatがこの閾値よりも大きいか又はそれに等しい時に、スイッチ76は、アナログ回路50、デジタル回路52、及びメモリ54それぞれに対して電源電圧VDDD、VDDA、及びVDDFを生成するレギュレータ40、42、及び44を含む第1の回路81に入力電源部88としてVbatを直接送るように設定される。VbatがVtよりも小さい場合に、スイッチ76は、Vbatをブーストコンバータ64の入力28に送り、それによってブーストコンバータ64が第1の回路81、従って、レギュレータ40、42、及び44への入力電源部88としてより高い電圧Vbat+を供給することを可能にする。図示していないが、ブーストコンバータ64はまた、スイッチ76がブーストコンバータ64にVbatを送らない時にブーストしようとすることのないように、Vbat<Vtの時にのみ選択的に有効化することができる。ブーストコンバータへのそのような有効化信号は、スイッチ76を制御するのに使用されるものと同じ信号、又はこの信号の逆のものを含むことができる。
【0030】
閾値Vtの値は、レギュレータ40、42、及び44が作動するのに必要とされる最小電圧と、上述したように1.2Vから3.2Vまでの範囲にわたるとすることができる1次バッテリの電圧Vbatの予想範囲とに従って設定することができる。例えば、これらのレギュレータが、2.8Vに等しい電源VDDD、VDDA、及びVDDFを生成しなければならない場合に、Vtは、2.9Vという若干高めの電圧に設定することができる。従って、2.9<Vbat<3.2である場合に、スイッチ76は、ブーストすることなくVbatを第1の回路81に直接送ることになる。次に、レギュレータは、この電圧を適切な電源レベルまで降下させることができる。1.2<Vbat<2.9である場合に、スイッチ76は、Vbatをブーストコンバータ64に送ることになり、そこでVbatは、ここでもまた、3.2V程度を含むことができるVbat+までブーストすることができる。レギュレータは、このブースト電圧Vbat+を適切な電源レベルまで再度降下させることができる。この手法を使用すると、
図4のアーキテクチャとは対照的に、バッテリ電圧Vbatは、レギュレータに送られる前に必ずブーストされるわけではなく、その代わりにVbatが閾値よりも下回って降下した場合にしかブーストされない。電圧のブーストは電力を必要とするので、このような様式のブーストコンバータ64の選択的な有効化は、従来の手法と比較してIPG500内の電力を節約する。
【0031】
図示していないが、Vbat及びVtの適正な大きさを決定する段階、及びスイッチ76に対する適切な制御記号を生成する段階は、いくつかの異なる手法で達成することができる。スイッチ76に対する適切なデジタル制御記号を発するために、Vbatは、アナログからデジタルへの(A/D)コンバータでデジタル化し、デジタル回路52でVtとデジタル的に比較することができる。これに代えて、アナログ回路50の一部を構成する比較器が、Vbat及びVtをアナログ形式で受け入れることができ、次に、スイッチ76に対するデジタル制御記号を発することができる。スイッチ76は、単一のトランジスタ又はより複雑な切換回路を含むことができる。
【0032】
図4の1次バッテリアーキテクチャとの第2の相違点において、テレメトリタンク回路24と、コンプライアンス電圧V+を発生させるDC−DCコンバータ22とを含む第2の回路84が、ブーストコンバータ64からのブーストなしにバッテリ電圧Vbatを直接受け入れることに注意しなければならない。これは、これらの回路が、非常に低レベルのVbatにおいても良好に作動させることができ、従って、電力を消費してこれらの回路の入力電源部86をより高いレベルまでブーストすることが不要であるという認識の下にある。例えば、DC−DCコンバータ22は、その入力電圧をブーストし、すなわち、DAC33に給電するのに必要なV+までブーストするための回路を既に含み、コンバータ22の内部のそのようなブースト回路は、機能するのにいずれの特定の大きさの入力電圧も必要としない。タンク回路24も、低レベルのVbatで良好に機能することができる。Vbatが低レベルまで降下した場合には、コイル13から外部コントローラ80(
図2)への無線信号の送信強度は、それに応じて低下することになる。しかし、IPG500からの無線送信が低い信号強度のみを有する場合であっても、これらの無線送信は、時により短い距離からであったとしても、外部コントローラ80においてそれにも関わらず受信することができることになる。いずれにしても、DC−DCコンバータ22及びタンク回路24にブーストコンバータ64から給電しないことにより、ここでもまた、コンバータ64への依存性が低下し、それによってIPG500内の電力が節約される。ブーストコンバータ64は、特定の限られた状況においてのみ作動され、レギュレータ40、42、及び44に給電するためのみに使用されるので、コンバータ64は、電流容量に見合う高さの出力Vbat+を供給する必要がない。
【0033】
図5のIPG500のアーキテクチャは、
図4のIPG400のアーキテクチャと比較した場合に有意な電力の節約をもたらし、これは、上述したように、再充電不能1次バッテリを使用する埋め込み可能医療デバイスでは重要である。ブーストコンバータ64は、約70%の効率で作動し、それに対してレギュレータ40、42、及び44は、入力電源部88を低減して低い電源電圧VDDA、VDDD、及びVDDFを形成する場合には約90%の効率で作動する。従って、Vbat>Vtである場合に、この電圧を供給するのにブーストコンバータ64を使用するよりも、レギュレータが入力電源部88の電圧を低くすることを可能にする方がより効率的である。
【0034】
本発明の特定の実施形態を図示して記述したが、以上の解説は、本発明をこれらの実施形態に限定するように意図したものではないことを理解しなければならない。当業者には、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変形及び修正を加えることができることが明らかであろう。従って、本発明は、特許請求によって定められる本発明の精神及び範囲に収まる可能性がある代替物、修正物、及び均等物を網羅するように意図したものである。
【符号の説明】
【0035】
12 1次バッテリ
24 タンク回路
33 デジタル/アナログ変換器
54 メモリ
500 埋め込み可能パルス発生器