特許第5936293号(P5936293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5936293
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20160609BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20160609BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20160609BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20160609BHJP
   D06M 101/38 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   D06M15/643
   D06M13/02
   D06M13/224
   D06M13/184
   D06M101:38
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-218771(P2015-218771)
(22)【出願日】2015年11月6日
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-97488(P2015-97488)
(32)【優先日】2015年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰伸
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−287127(JP,A)
【文献】 特開2009−287126(JP,A)
【文献】 特許第5590755(JP,B2)
【文献】 特許第5630933(JP,B2)
【文献】 特許第5627825(JP,B2)
【文献】 特開平11−269765(JP,A)
【文献】 特開平08−74179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のポリウレタン系弾性繊維に対し、下記の処理剤が0.1〜10質量%の割合で付着されていることを特徴とする乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
ポリウレタン系弾性繊維:示差走査熱量計(DSC)測定による150〜300℃での発熱量が150〜450mJ/mgであるポリウレタン系弾性繊維
処理剤:下記の平滑剤と下記の解舒性向上剤とから成り、且つ下記の平滑剤を85〜99.7質量%及び下記の解舒性向上剤を0.3〜15質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る処理剤
平滑剤:シリコーンオイル、鉱物油及びエステルから選ばれる少なくとも一つ
解舒性向上剤:分子中に3官能性シロキサン単位及び/又は4官能性シロキサン単位を構成単位として有する質量平均分子量が3000〜100000のシリコーンレジン及び炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【請求項2】
解舒性向上剤のシリコーンレジンが、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン、Tシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれる少なくとも一つである請求項1記載の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
【請求項3】
解舒性向上剤のシリコーンレジンが、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれる少なくとも一つである請求項1記載の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
【請求項4】
解舒性向上剤のシリコーンレジンが、M/Q比が0.5〜1.1である場合のものである請求項3記載の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
【請求項5】
解舒性向上剤の脂肪酸のアルカリ土類金属塩が、ステアリン酸マグネシウムである請求項1〜4のいずれか一つの項記載の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
【請求項6】
処理剤が、平滑剤を90〜99.7質量%及び解舒性向上剤を0.3〜10質量%(合計100質量%)の割合で含有するものである請求項1〜5のいずれか一つの項記載の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維に関し、更に詳しくは優れた解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性が同時に付与された乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維として、末端基封鎖型ポリエーテル基を有する変性シリコーンを含有する処理剤が付着されたもの(例えば特許文献1参照)、水溶性シリコーンを含有する処理剤が付着されたもの(例えば特許文献2参照)、ポリアルキレンエーテルジオール、高級アルコール、鉱物油及びジメチルシリコーンを含有する処理剤が付着されたもの(例えば特許文献3参照)、鉱物油及び脂肪族エステル化合物を含有する処理剤が付着されたもの(例えば特許文献4参照)等、各種が知られている。ところが、これら従来の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維には、示差走査熱量計(以下、DSCという)測定による発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に対して付与される解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性が不充分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−296377
【特許文献2】特開平10−158938
【特許文献3】特開2005−344215号公報
【特許文献4】特開2011−42891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、DSC測定による発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に対して、優れた解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性が同時に付与された乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、DSC測定による発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に対しては特定の平滑剤と特定の解舒性向上剤を特定割合で含有する特定の処理剤が特定割合で付着されたものが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記のポリウレタン系弾性繊維に対し、下記の処理剤が0.1〜10質量%の割合で付着されていることを特徴とする乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維に係る。
【0007】
ポリウレタン系弾性繊維:示差走査熱量計(DSC)測定による150〜300℃での発熱量が150〜450mJ/mgであるポリウレタン系弾性繊維
【0008】
処理剤:下記の平滑剤と下記の解舒性向上剤とから成り、且つ下記の平滑剤を85〜99.7質量%及び下記の解舒性向上剤を0.3〜15質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る処理剤
【0009】
平滑剤:シリコーンオイル、鉱物油及びエステルから選ばれる少なくとも一つ
【0010】
解舒性向上剤:分子中に3官能性シロキサン単位及び/又は4官能性シロキサン単位を構成単位として有する質量平均分子量が3000〜100000のシリコーンレジン及び炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【0011】
本発明に係る乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維(以下、本発明の弾性繊維という)において、ポリウレタン系弾性繊維は、DSC測定による150〜300℃での発熱量が150〜450mJ/mgであるポリウレタン系弾性繊維である。ポリウレタン系弾性繊維のDSC測定については複数の報告がある(特表2010−509512号公報、国際公開WO2004/113599号等)。本発明の弾性繊維において、ポリウレタン系弾性繊維のDSC測定による150〜300℃での発熱量は、サンプルを25℃から−50℃に10℃/分で降温した後、−50℃から300℃まで10℃/分で昇温させたときの150〜300℃での発熱量を測定することにより求めることができる。DSCとしてはセイコーインスツル社製の商品名DSC6200を用い、ポリウレタン系弾性繊維のサンプリング量は3mgとし、リファレンスにはAlを用いて測定することができる。
【0012】
前記のようなDSC測定による150〜300℃での発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に付着されている処理剤は、平滑剤と解舒性向上剤とから成るものである。用いる平滑剤は、シリコーンオイル、鉱物油及びエステルから選ばれる少なくとも一つである。
【0013】
平滑剤として用いるシリコーンオイルの具体例としては、信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs、信越化学工業社製の商品名KF−96−20cs、信越化学工業社製の商品名KF−96−50cs、信越化学工業社製の商品名KF−50−100cs、信越化学工業社製の商品名KF−4003、信越化学工業社製の商品名KF−4917、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の商品名TSF451−10、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の商品名TSF451−20、東レ・ダウコーニング社製の商品名SH200−10CS、東レ・ダウコーニング社製の商品名SH510−100CS等が挙げられる。これらはいずれも、25℃における粘度が2〜100mm/sであるポリジメチルシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン等であり、1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
また平滑剤として用いる鉱物油にも特に制限はなく、これには市販品を用いることができ、かかる市販品としては、Witoco社製の商品名Semtol40、Witoco社製の商品名Carnation、コスモ石油ルブリカンツ社製の商品名コスモピュアスピンD、コスモ石油ルブリカンツ社製の商品名コスモピュアスピンRC、コスモ石油ルブリカンツ社製の商品名コスモピュアスピンRB、富士興産社製の商品名フッコールNT−60、富士興産社製の商品名フッコールNT−100、S−OIL社製の商品名Ultra−S2、S−OIL社製の商品名Ultra−S3、SK Lubricants社製の商品名YUBASE3、SK Lubricants社製の商品名YUBASE4、出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8、出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W32、出光興産社製の商品名ダイアナフレシア G9、出光興産社製の商品名ダイアナフレシア K8、エクソンモービル社製の商品名クリストール N72等の、25℃における粘度が2〜100mm/sのスピンドル油や流動パラフィン等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
更に平滑剤として用いるエステルにも特に制限はなく、次に例示するような各種の脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルが挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができるが、25℃における粘度が2〜100mm/sのものが好ましい。
【0016】
前記エステルの原料となる脂肪酸には、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級脂肪酸であっても、環状の脂肪酸であっても、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。かかる脂肪酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキシル酸、カプリン酸、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、アジピン酸、セバシン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0017】
また前記のエステルの原料となるアルコールには、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級アルコールであっても、環状のアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。かかるアルコールとしては、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、ミリスチリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール、ソルビトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0018】
処理剤に用いる解舒性向上剤は、分子中に3官能性シロキサン単位及び/又は4官能性シロキサン単位を構成単位として有する質量平均分子量が3000〜100000のシリコーンレジン及び炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ土類金属塩から選ばれるものを用い、これらは1種又は2種以上を用いることができる。質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPCという)測定によりポリスチレン換算で求めることができる。
【0019】
用いるシリコーンレジンはそれが前記したようなものである限りその種類に特に制限はないが、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン、Tシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものが好ましく、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものがより好ましい。なかでも、シリコーンレジンとして、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものを用いる場合、M/Q比が0.5〜1.1であるものを用いるのが特に好ましい。尚、シリコーンレジンに冠したM、D、T、Qはシリコーンレジンを構成するシロキサン単位の表記方法として一般的に使用されているもので、Mは一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位、Dは一般式がRSiO2/2で示される2官能性シロキサン単位、Tは一般式がRSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位、Qは一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位である。ここで、R〜Rは炭素数1〜24の炭化水素基、一般式が−RNHRNH(R及びRは炭素数2又は3の炭化水素基)や−RNH(Rは炭素数2又は3の炭化水素基)等で示される有機アミノ基、ビニル基、カルビノール基等である。
【0020】
解舒性向上剤として用いる炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ土類金属塩にもそれ以上に特に制限はなく、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等のカルシウム塩やマグネシウム塩等が挙げられるが、なかでもステアリン酸マグネシウムが好ましい。ステアリン酸マグネシウムとしては市販品を用いることができ、かかる市販品としては、サンエース社製の商品名SAK−MS−P、サンエース社製の商品名SAK−MS−P/USP、日油社製の商品名マグネシウムステアレートG、日油社製の商品名マグネシウムステアレートGF−200、日油社製の商品名マグネシウムステアレートGR、日油社製の商品名工マグネシウムステアレート、日油社製の日局ステアリン酸マグネシウム、日東化成工業社製の商品名Mg−St、日東化成工業社製の商品名Mg−LF等が挙げられる。
【0021】
処理剤は、以上説明した平滑剤と解舒性向上剤とから成るものであり、平滑剤を85〜99.7質量%及び解舒性向上剤を0.3〜15質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、平滑剤を90〜99.7質量%及び解舒性向上剤を0.3〜10質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましい。
【0022】
処理剤は、以上説明した平滑剤及び解舒性向上剤から成るものであるが、合目的的に必要に応じて他の成分を併用することもできる。これには例えば、濡れ性向上剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。かかる他の成分の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜決定することができるが、可及的に少量であることが好ましい。
【0023】
以上説明した処理剤の調製方法は特に制限されず、これには公知の方法を適用できる。
【0024】
以上説明したような処理剤を、希釈することなくニートの状態で、ポリウレタン系弾性繊維に付着させる。付着方法としては、ローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。付着工程は紡糸工程が好ましい。紡糸工程における紡糸方法としては、乾式紡糸法、溶融紡糸法、湿式紡糸法等が挙げられるが、なかでも乾式紡糸法を適用する。ポリウレタン系弾性繊維に対する処理剤の付着量は、0.1〜10質量%となるようにするが、1〜8質量%となるようにすることが好ましい。尚、ポリウレタン系弾性繊維の形態は特に制限されず、フィラメント系のものにも、またスパン系のものにも適用できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明によると、DSC測定による150〜300℃での発熱量が150〜450mJ/mgのポリウレタン系弾性繊維に対し、優れた解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性が同時に付与された乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維が得られるという効果がある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0027】
試験区分1(解舒性向上剤としてのシリコーンレジンの調製)
SIR−1の調製
トリメチルメトキシシラン823.338g(7.9モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0g及びテトラエトキシシラン2083.3g(10モル)を反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノールとエタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量濾過した。得られた濾液の有効濃度(キシレン溶液中のシリコーンレジン濃度)を50%に調整した後、その全量と、N−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピルメチルジメトキシシラン20.636g(0.1モル)及び水10gを別の反応容器に仕込み、80℃で1時間反応を行なった。反応溶液からキシレン、水、メタノールを留去して、シリコーンレジンSIR−1を得た。シリコーンレジンSIR−1について、以下の分析を行なったところ、このシリコーンレジンSIR−1は、R、R、Rが何れもメチル基である場合の一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位/RがN−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基であり且つRがメチル基である場合の一般式がRSiO2/2で示される2官能性シロキサン単位/一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位=7.9/0.1/10(モル比)である質量平均分子量が20000のシリコーンレジンであった。
【0028】
・シリコーンレジンを構成するシロキサン単位の分析
シリコーンレジンSIR−1を、NMRスペクトル分析に供し、シリコーンレジンを構成するシロキサン単位のモル比を算出した。同様にして、他のシリコーンレジンについても、それぞれを構成するシロキサン単位のモル比を算出した。
【0029】
SIR−2の調製
トリメチルメトキシシラン729.54g(7モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0g及びテトラエトキシシラン2083.3g(10モル)を反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノールとエタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量濾過し、更にキシレンを留去して、シリコーンレジンSIR−2を得た。このシリコーンレジンSIR−2を分析したところ、R、R、Rが何れもメチル基である場合の一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位/一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位=7/10(モル比)である質量平均分子量が11000のシリコーンレジンであった。
【0030】
SIR−3の調製
トリメチルメトキシシラン1042.2g(10モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0g及びテトラエトキシシラン2083.3g(10モル)を反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノールとエタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量濾過し、更にキシレンを留去して、シリコーンレジンSIR−3を得た。このシリコーンレジンSIR−3を分析したところ、R、R、Rが何れもメチル基である場合の一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位/一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位=1/1(モル比)である質量平均分子量が8000のシリコーンレジンであった。
【0031】
SIR−4の調製
トリメチルメトキシシラン1042.2g(10モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0g及びテトラエトキシシラン2083.3g(10モル)を反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノールとエタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量濾過した。得られた濾液の有効濃度(キシレン溶液中のシリコーンレジン濃度)を50%に調整した後、その全量と、N−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピルメチルジメトキシシラン206.36g(1モル)及び水10gを別の反応容器に仕込み、80℃で1時間反応を行なった。反応溶液からキシレン、水及びメタノールを留去して、シリコーンレジンSIR−4を得た。このシリコーンレジンSIR−4を分析したところ、R、R、Rが何れもメチル基である場合の一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位/RがN−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基であり且つRがメチル基である場合の一般式がRSiO2/2で示される2官能性シロキサン単位/一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位=10/1/10(モル比)である質量平均分子量が7000のシリコーンレジンであった。
【0032】
SIR−5の調製
ヘキシルトリメトキシシラン2063.5g(10モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0gを反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量を濾過し、更にキシレンを留去してシリコーンレジンSIR−5を得た。シリコーンレジンSIR−5を分析したところ、Rがヘキシル基である場合の一般式がRSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位からなる質量平均分子量が4500のシリコーンレジンであった。
【0033】
SIR−6の調製
N−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピルトリメトキシシラン2223.6g(10モル)及び水800gを反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間還流加温撹拌した。次いで、水及び反応により副生したメタノールを留去して、シリコーンレジンSIR−6を得た。シリコーンレジンSIR−6を分析したところ、RがN−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基である場合の一般式がRSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位からなる質量平均分子量が5000のシリコーンレジンであった。
【0034】
SIR−7の調製
トリメチルメトキシシラン312.66g(3モル)、ヘキシルトリメトキシシラン206.35g(1モル)、水800g、メタンスルホン酸2.0g及びテトラエトキシシラン1041.65g(5モル)を反応容器に仕込み、加温して反応系の温度を65℃に保ち、24時間加温撹拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム1.78gを加えて中和した後、5時間還流し、熟成した。更に、キシレン2000gを加え、水及び反応により副生したメタノール、エタノールを留去してキシレン溶液に置換後、全量を濾過し、更にキシレンを留去してシリコーンレジンSIR−7を得た。シリコーンレジンSIR−7を分析したところ、R、R、Rが何れもメチル基である場合の一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位/Rがヘキシル基である場合の一般式がRSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位/一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位=3/1/5(モル比)である質量平均分子量が30000のシリコーンレジンであった。
【0035】
試験区分2(処理剤の調製)
処理剤(E−1)の調製
平滑剤として表1に記載したポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)69.5部と鉱物油(L−2:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)30部、また解舒性向上剤として表2に記載したMDQシリコーンレジン(SIR−1)0.5部、以上を均一混合して、処理剤(E−1)を調製した。
【0036】
処理剤(E−7)の調製
平滑剤として表1に記載したポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)88部と鉱物油(L−2:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)10部、また解舒性向上剤として表2に記載したMDQシリコーンレジン(SIR−1)1部と表3に記載したステアリン酸マグネシウム(S−1:サンエース社製の商品名SAK−MS−P)1部、以上を均一混合した後、湿式分散機で処理して、処理剤(E−7)を調製した。
【0037】
処理剤(E−8)の調製
平滑剤として表1に記載したポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)96部、また解舒性向上剤として表3に記載したステアリン酸マグネシウム(S−1:サンエース社製の商品名SAK−MS−P)4部、以上を均一混合した後、湿式分散機で処理して、処理剤(E−8)を調製した。
【0038】
処理剤(E−9)の調製
平滑剤として表1に記載したポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)29部と鉱物油(L−2:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)70部、また解舒性向上剤として表2に記載したTシリコーンレジン(SIR−5)1部、以上を均一混合して、処理剤(E−9)を調製した。尚、後述する試験区分3では、この処理剤(E−9)100部当たりラウリルジエタノールアミンとセチルアルコールリン酸ジエステルの塩1部を併用したものを用いた。
【0039】
処理剤(E−10)の調製
平滑剤として表1に記載したポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)87部と鉱物油(L−3:SK Lubricants社製の商品名YUBASE 3)10部、また解舒性向上剤として表2に記載したTシリコーンレジン(SIR−6)3部、以上を均一混合して処理剤(E−10)を調製した。尚、後述する試験区分3では、この処理剤(E−10)100部当たりアミノ変性シリコーン(信越化学工業社製の商品名KF−861)0.5部を併用したものを用いた。
【0040】
処理剤(E−2)〜(E−6)、(R−1)〜(R−6)及び(R−8)の調製
処理剤(E−1)と同様にして、平滑剤と解舒性向上剤を均一混合して、処理剤(E−2)〜(E−6)、(R−1)〜(R−6)及び(R−8)を調製した。
【0041】
処理剤(R−7)、(R−9)及び(R−10)の調製
処理剤(E−7)と同様にして、平滑剤及び解舒性向上剤を均一混合した後、湿式分散機で処理して、処理剤(R−7)、(R−9)及び(R−10)を調製した。以上で調製した各処理剤の内容を表4にまとめて示した。
【0042】
試験区分3(評価)
・乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維の製造
先ず、分子量2900のテトラメチレンエーテルグリコール、ビス−(p−イソシアネートフェニル)−メタン及びエチレンジアミンからなるポリウレタンのN、N’−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)の35%溶液を重合して、溶液(A)を得た。
【0043】
次に、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応によって生成させたポリウレタン(デュポン社製の商品名メタクロール(登録商標)2462)と、p−クレゾールとジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製の商品名メタクロール(登録商標)2390)との2対1(質量比)の混合物のDMAcの35%溶液を調製し、溶液(B)を得た。
【0044】
前記の溶液(A)と溶液(B)とを96対4(質量比)の割合で均一混合し、紡糸原液とした。
【0045】
こうして得られた紡糸原液を用いて、公知のスパンデックスで用いられる乾式紡糸方法により、44dtex/3filのマルチフィラメントのポリウレタン系弾性繊維を紡糸して、巻き取り前のオイリングローラーから処理剤(E−1)〜(E−10)及び(R−1)〜(R−10)をそのままニートの状態でローラー給油した。かくしてローラー給油したものを、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。ポリウレタン系弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、オイリングローラーの回転数を調整することにより、ポリウレタン系弾性繊維に対して、いずれも5%となるように行なった。かかる紡糸の工程中で窒素気流によりDMAcを揮発させたが、このときの温度が高い程、また巻き取り時の伸長倍率が高い程、得られるポリウレタン系弾性繊維のDSC測定による150〜300℃での発熱量が小さくなり、逆にDMAcを揮発させるときの温度が低い程、また巻き取り時の伸長倍率が低い程、得られるポリウレタン系弾性繊維のDSC測定による150〜300℃での発熱量が大きくなるが、これらを表4に記載したように変更することにより、表4に記載したような発熱量を有する各例のポリウレタン系弾性繊維を得た。得られた乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージについて、下記の測定及び評価を行ない、結果を表5にまとめて示した。
【0046】
・ポリウレタン系弾性繊維のDSC測定による150〜300℃での発熱量の測定
前記で得た紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージから取り出したサンプルを25℃から−50℃に10℃/分で降温した後、−50℃から300℃まで10℃/分で昇温させ、このときの150〜300℃での発熱量を測定した。尚、DSCとしてはセイコーインスツル社製の商品名DSC6200を用い、ポリウレタン系弾性繊維のサンプリング量は3mgとし、リファレンスにはAlを用いた。
【0047】
・解舒性の評価
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに前記で得た紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。かかる強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定し、下記の数1から解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
【0048】
【数1】
【0049】
解舒性の評価基準
◎:解舒性が120%未満(全く問題なく、安定に解舒できる)
○:解舒性が120%以上180%未満(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×:解舒性が180%以上(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある)
【0050】
・経日的な解舒性の評価
紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージの代わりに紡糸後6か月保管した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いた以外は、解舒性の評価と同様の評価を行った。
【0051】
・耐綾落ち性の評価
前記で得た紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを送り出し20m/分、巻き取り40m/分で1000m巻き取ったときのパッケージの綾落ちによる断糸の回数を求め、次の基準で評価した。
【0052】
耐綾落ち性の評価基準
◎:綾落ちによる断糸が0回
○:綾落ちによる断糸が1回以上3回未満
×:綾落ちによる断糸が3回以上
【0053】
・耐スカム堆積性の評価
前記で得た紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃で65%RHの雰囲気下に糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドでのスカムの脱落及び蓄積状態を肉眼観察し、下記の基準で評価した。
【0054】
耐スカム堆積性の評価基準
◎:スカムの堆積がほとんどなかった。
○:スカムがやや堆積しているが、糸の安定走行に問題はなかった。
×:スカムの堆積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において、
粘度:30℃の動粘度
L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs
L−2:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8
L−3:SK Lubricants社製の商品名YUBASE 3
【0057】
【表2】
【0058】
表2において、
M1:一般式がRSiO1/2で示され、R、R及びRがいずれもメチル基である場合の1官能性シロキサン単位
D1:一般式がRSiO2/2で示され、R及びRが共にメチル基である場合の2官能性シロキサン単位
D2:一般式がRSiO2/2で示され、Rがメチル基、RがN−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基である場合の2官能性シロキサン単位
T1:一般式がRSiO3/2で示され、Rがヘキシル基である場合の3官能性シロキサン単位
T2:一般式がRSiO3/2で示され、RがN−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基である場合の3官能性シロキサン単位
Q1:一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位
【0059】
【表3】












【0060】
【表4】











【0061】
【表5】
【0062】
表1〜表4に対応する表5の結果からも明らかなように、本発明によれば、DSC測定による発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に対し、優れた解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性が同時に付与された乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維が得られる。
【要約】
【課題】DSC測定による発熱量が特定範囲のポリウレタン系弾性繊維に対し、優れた解舒性、経日的な解舒性、耐綾落ち性及び耐スカム堆積性を同時に付与するポリウレタン系弾性繊維用処理剤及びかかる処理剤を用いたポリウレタン系弾性繊維の処理方法を提供する。
【解決手段】下記のポリウレタン系弾性繊維用の処理剤として、下記の平滑剤と下記の解舒性向上剤とから成り、且つ下記の平滑剤を85〜99.7質量%及び下記の解舒性向上剤を0.3〜15質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものを用いた。
ポリウレタン系弾性繊維:示差走査熱量計(DSC)測定による150〜300℃での発熱量が150〜450mJ/mgであるポリウレタン系弾性繊維
平滑剤:シリコーンオイル、鉱物油及びエステルから選ばれる少なくとも一つ
解舒性向上剤:分子中に3官能性シロキサン単位及び/又は4官能性シロキサン単位を構成単位として有する質量平均分子量が3000〜100000のシリコーンレジン及び炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【選択図】なし