(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936340
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂用硬化剤
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
C08G59/50
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-272456(P2011-272456)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-124265(P2013-124265A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
【審査官】
佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/059683(WO,A1)
【文献】
特開平09−118741(JP,A)
【文献】
特開平03−084078(JP,A)
【文献】
特開2002−088137(JP,A)
【文献】
特開2010−076139(JP,A)
【文献】
特表2006−523746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 63/00−63/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物からなるエポキシ樹脂用硬化剤。
【化1】
(R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基である。nは1〜5の整数であり
、kは0〜4の整数である
。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイミダゾール系化合物を用いたエポキシ樹脂用硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は、その硬化物が機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性等に優れた性能を有することから、塗料、電気電子用絶縁材料、接着剤等の幅広い用途に用いられており、エポキシ樹脂の硬化剤についても、イミダゾール類、アミン類、ジシアンジアミド、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジン類、グアニジン類等の種々の硬化剤が広く用いられていた。
【0003】
これらの中でもイミダゾール系のエポキシ樹脂硬化剤は広い用途に用いられており、例えば特許文献1では、半導体装置の電子回路部品の封止用途に用いられるエポキシ樹脂の硬化剤(硬化促進剤)として1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール等の種々イミダゾール系化合物が使用されており、特許文献2では、繊維強化複合材料用途において、強化用繊維材料にエポキシ樹脂組成物を含浸させて得られる所謂プリプレグを形成する際に2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物が使用されている。
【0004】
エポキシ樹脂の硬化条件については、その樹脂組成や使用される用途により熱環境が大きく異なるものであるため、エポキシ樹脂の硬化の際に用いられるエポキシ樹脂硬化剤についても、近年、さまざまな温度条件で安定的、効率的にエポキシ樹脂硬化性能を発揮することが求められており、それぞれの用途に適したエポキシ樹脂硬化剤を選択、開発することが重要となっている。
【0005】
例えば、特許文献1のような電子回路部品の封止用途では、硬化剤は150〜170℃程度の高温領域で硬化性能を示すものが使用されており、特許文献2のような繊維強化複合材料用途では、室温では硬化性能を示さず、80℃以下の温度領域での一次硬化性能、130℃以上の温度領域での二次硬化性能を示す硬化剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−68418号公報
【特許文献2】特開2003−73456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年ではエポキシ樹脂の使用用途は多様化してきており、上記特許文献1や特許文献2と同じように130〜170℃付近の高温領域でエポキシ樹脂の硬化が行なわれる場合であっても、60〜100℃付近の低温領域では非硬化性が求められるといった、選択的な硬化性が要求される用途も生じてきている。このような選択的な硬化性が求められる用途では、特許文献1や特許文献2に記載されている1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾールや、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤は使用することができないものであった。
【0008】
そこで、本発明では、このような背景下において、80℃前後と150℃前後におけるエポキシ樹脂の硬化性能に差があり、150℃付近で選択的にエポキシ樹脂の硬化反応を行なうことができるエポキシ樹脂用硬化剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物をエポキシ樹脂の硬化剤に用いることにより、80℃付近ではエポキシ樹脂に対する硬化性能を示さないか、或いは実用的ではないほど硬化速度が遅いが、150℃付近では短時間でエポキシ樹脂を硬化させることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物からなるエポキシ樹脂用硬化剤である。
【化1】
(R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基である。nは1〜5の整数であり
、kは0〜4の整数である
。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、80℃付近ではエポキシ樹脂に対する硬化性能を示さないか、或いは実用的ではないほど硬化速度が遅いが、150℃付近では選択的にエポキシ樹脂の硬化反応を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、エポキシ樹脂用硬化剤とは、硬化剤として働くもののみならず硬化促進剤(硬化助剤)として働くものも概念として含めるものである。
【0013】
まず、下記一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物(以下、単に「イミダゾール系化合物」と略すことがある。)について説明する。
【0015】
上記一般式(1)中のR1〜R3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基である。アルキル基の炭素数としては、好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは1〜6であり、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。特にR1〜R3の全てが水素原子であること、またはR1が水素原子、メチル基、またはエチル基で、R2およびR3が水素原子またはメチル基であることが本発明による硬化性能を発揮しやすい点で好ましい。
【0016】
また、上記アルキル基およびフェニル基は置換基を有するものであってもよく、置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、スルファニル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられ、好ましくは水酸基、アリール基である。
【0017】
上記一般式(1)中のnは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3、特に好ましくは2である。
【0018】
上記一般式(1)中の芳香環における水酸基は、1つであ
る。水酸基は、芳香環上
のパラ位の水素原子のみが置換されたものである。
【0019】
上記一般式(1)中のkは、芳香環上の置換基Rの数を示し、0〜4の整数である
。すなわち、上記一般式(1)は、水酸基で置換されていない芳香環上の水素原子がRで置換されたものであってもよい。Rは、炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基であり、上記のR1〜R3で説明した炭素数1〜10のアルキル基およびフェニル基と同様の置換基が挙げられる。芳香環上にRが複数存在する場合には、それぞれのRは同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0020】
一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物としては、例えば、1−(p−ヒドロキシベンジル)イミダゾール、1−(p−ヒドロキシベンジル)−2−メチルイミダゾール、1−(p−ヒドロキシフェネチル)イミダゾール、1−(p−ヒドロキシフェネチル)−2−メチルイミダゾー、1−〔3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピル〕イミダゾール、1−〔3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピル〕−2−メチルイミダゾール、1−〔4−(p−ヒドロキシフェニル)ブチル〕イミダゾール、1−〔4−(p−ヒドロキシフェニル)ブチル〕−2−メチルイミダゾール、1−〔5−(p−ヒドロキシフェニル)ペンチル〕イミダゾール、1−〔5−(p−ヒドロキシフェニル)ペンチル〕−2−メチルイミダゾール等が挙げられるが、これらの中でも、1−(p−ヒドロキシベンジル)イミダゾール、1−(p−ヒドロキシベンジル)−2−メチルイミダゾールが好ましい。
【0021】
一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物は公知化合物であり、例えば(ハロゲン化アルキル)メトキシベンゼンとイミダゾールのN−アルキル化反応を行なった後、フェノール化反応を行なうことによって製造することができる(特表2007−526274号公報を参照)。
また、特に一般式(1)中のn=1の場合には、ヒドロキシメチルフェノールと1−無置換イミダゾールの縮合反応により製造することが好ましい(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 19, 2009, 4698を参照)。
【0022】
本発明の硬化剤が対象とするエポキシ樹脂は、平均して一分子内に2個以上のエポキシ基を有するものである。代表的なエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のその他の2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール等のトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂、p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂、4,4−ジアミノジフェニルメタンやm−アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物やトリグリシジルイソシアヌレート等のアミン型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルー3’、4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキサイド等が挙げられ、これら1種または2種以上の混合したものが用いられる。
【0023】
かかるエポキシ樹脂には、必要に応じて希釈剤、可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、消泡剤、レベリング剤、充填剤、顔料、染料等の各種添加剤を加えることができる。
【0024】
上記イミダゾール系化合物をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合、イミダゾール系化合物の使用量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、通常0.1〜30重量部、好ましくは0.2〜25重量部、特に好ましくは0.3〜20重量部である。かかる使用量が多すぎると、硬化物の物性が低下する傾向があり、少なすぎると硬化反応が進行し難くなる傾向がある。
【0025】
本発明におけるイミダゾール系化合物は、硬化剤として単独で用いることもできるし、アミン類、ポリアミン類、ヒドラジン類、酸無水物、ジシアンジアミド、オニウム塩類、ポリチオール類、フェノール類、ケチミン等の一般的に使用されている硬化剤と併用することもできる。また、公知一般のエポキシ樹脂用硬化促進剤(硬化助剤)を併用することも可能である。
【0026】
また、本発明におけるイミダゾール系化合物からなるエポキシ樹脂用硬化剤は、上記公知一般の硬化剤と併用して、硬化性能を触媒的に促進させるために用いることができる。
【0027】
イミダゾール系化合物をエポキシ樹脂と混合する方法としては、例えば、所定量のイミダゾール系化合物とエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂混合物を、ロール混練機、ニーダー、または押出機等を用いて混練する。次いで、かかる混練後のエポキシ樹脂混合物を加熱することにより、エポキシ樹脂硬化物を得ることができる。加熱条件としては、エポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類、添加剤の種類、各成分の配合量を考慮し、加熱温度、加熱時間を適宜選択することができる。
【0028】
かくして本発明においては、硬化剤として一般式(1)で示されるイミダゾール系化合物を用いることによりエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0030】
実施例1
『1−(p−ヒドロキシベンジル)イミダゾールの合成』
50ml反応器にイミダゾール54.8g(0.81mol)、p−ヒドロキシベンジルアルコール20.0g(0.16mol)を加えた。次いで、反応液温を130℃になるよう加温し、130℃で30分間反応を行った。反応終了後、反応液を50℃の温水200ml中に仕込み、結晶を析出させた。析出した結晶を濾過で分取し、結晶を50℃の温水50mlで洗浄した。得られた結晶を50℃で減圧下乾燥することで、硬化剤としての1−(p−ヒドロキシベンジル)イミダゾールを27.2g取得した。収率は97%であった。
【0031】
実施例2
『1−(p−ヒドロキシベンジル)−2−メチルイミダゾールの合成』
50ml反応器に2−メチルイミダゾール82.7g(1.01mol)、p−ヒドロキシベンジルアルコール25.0g(0.20mol)を加えた。次いで、反応液温を130℃になるよう加温し、130℃で30分間反応を行った。反応終了後、反応液を50℃の温水200ml中に仕込み、結晶を析出させた。析出した結晶を濾過で分取し、結晶を50℃の温水50mlで洗浄した。得られた結晶を50℃で減圧下乾燥することで、硬化剤としての1−(p−ヒドロキシベンジル)イミダゾールを37.3g取得した。収率は98%であった。
【0032】
〔硬化性試験〕
実施例1、2で得られた硬化剤、特開平1−316365号公報に記載された1−ベンジル−2−メチルイミダゾールを比較例1の硬化剤として用いて、硬化性試験を行なった。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に対し、各硬化剤を5重量部添加し混合することでエポキシ樹脂組成物を調製した。得られた混合組成物2gを用い、ゲルタイムテスター(安田精機製作所製)により、80℃および150℃におけるゲル化時間(硬化時間:ローターのトルクが約3.3Kg・cmに達するまでに要する時間)を測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
上記試験結果より、実施例1、2に記載の硬化剤は、80℃においてはエポキシ樹脂に対して硬化性能を示さないものの、150℃において比較例1と同等に良好な硬化性能を有することが明らかとなった。すなわち、実施例1、2に記載の硬化剤は、150℃付近でのみエポキシ樹脂を硬化させる特異的硬化性能があることがわかる。
【0035】
一方、比較例1で用いた1−ベンジル−2−メチルイミダゾールは、150℃において良好な硬化性能を有するものの、80℃において20分足らずで硬化性を示すものであり、硬化性能における150℃での選択性は実施例1、2よりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、80℃前後と150℃前後におけるエポキシ樹脂の硬化性能に差があり、150℃付近で選択的にエポキシ樹脂の硬化反応を行なうことができる。したがって、プリプレグ(特には、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂、プリント回路板や銅張積層板などのエポキシ樹脂系の積層板に使用するプリプレグ)等の幅広い用途において、温度選択的な硬化性が求められる場合に、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は有用なものである。