特許第5936343号(P5936343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936343SiC結晶の成長方法、SiC結晶の製造装置、および結晶基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936343
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】SiC結晶の成長方法、SiC結晶の製造装置、および結晶基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20160609BHJP
   C30B 19/12 20060101ALI20160609BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B19/12
   H01L21/208 D
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-275587(P2011-275587)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-124213(P2013-124213A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 顕次
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】宇治原 徹
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊太
(72)【発明者】
【氏名】関 和明
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−100890(JP,A)
【文献】 特開2003−095796(JP,A)
【文献】 特開2013−124214(JP,A)
【文献】 KHLEBNIKOV,Y. et al,"Local epitaxy and lateral epitaxial overgrowth of SiC",Journal of Crystal Growth,2001年,Vol.233,pp.112-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 21/208
WPI
JSTPlus(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC結晶の成長方法であって、
サファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱して、カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンが接する状態を実現する工程と、
前記カーボンを含む膜の一部が消失し、その消失部でサファイア基板と溶融シリコンが直接接触するに至るまで前記状態を持続する工程と、
前記カーボンを含む膜の一部が消失した後に、溶融シリコンを冷却する工程と、
を備えることを特徴とするSiC結晶の成長方法。
【請求項2】
前記カーボンを含む膜が少なくとも一面に成膜されているサファイア基板にシリコン基板を重ねて、サファイア基板と前記カーボンを含む膜とシリコン基板が順に積層されている積層構造を準備する工程を備えており、
その積層構造をサファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱して、前記カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンが接する状態を実現することを特徴とする請求項1の結晶成長方法。
【請求項3】
前記カーボンを含む膜としてカーボンの微結晶を含む膜をサファイア基板の表面に成膜する工程を備えていることを特徴とする請求項1または2の結晶成長方法。
【請求項4】
サファイア基板の表面に物理気相成長法(PVD)で前記カーボンの微結晶を含む膜を成膜することを特徴とする請求項3の結晶成長方法。
【請求項5】
サファイア基板の表面に10ナノメートル以上の膜厚の前記カーボンを含む膜を成膜することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項6】
サファイア基板の{0001}面に前記カーボンを含む膜を成膜することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項7】
サファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱しておいた溶融シリコンに少なくとも一面に前記カーボンを含む膜が成膜されているサファイア基板を浸漬して、サファイア基板の少なくとも一面に成膜されている前記カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンとが接する状態を実現することを特徴とする請求項1に記載の結晶成長方法。
【請求項8】
サファイア結晶を含んでいる第1層と、
アモルファス構造を有しており、カーボンを含み、第1層の表面の一部を覆っている第2層と、
SiC結晶を含んでおり、第2層の表面を覆うとともに第2層から露出している第1層の表面を覆う第3層と、
を備える結晶基板。
【請求項9】
第1層の表面は、サファイア結晶の{0001}面であることを特徴とする請求項8に記載の結晶基板。
【請求項10】
第3層の表面は、SiC結晶の{100}面であることを特徴とする請求項8または9に記載の結晶基板。
【請求項11】
SiC結晶の製造装置であって、
サファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱して、カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンが接する状態を実現する手段と、
前記カーボンを含む膜の一部が消失し、その消失部でサファイア基板と溶融シリコンが直接接触するに至るまで前記状態を持続する手段と、
前記カーボンを含む膜の一部が消失した後に、溶融シリコンを冷却する手段と、
を備えることを特徴とするSiC結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、炭化珪素(SiC)結晶の成長方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
SiC結晶の成長方法の一つに、液相成長法がある。液相成長法では、SiおよびCを含む溶液(SiC溶液)に種結晶基板を接触させ、種結晶基板上にSiC結晶をエピタキシャル成長させる方法である。種結晶基板に、サファイア基板を使用することが提案されている。サファイア基板は、SiC結晶基板に比して安価であるため、サファイア基板を種結晶基板に用いることができれば、SiC結晶基板の製造コストを低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−100890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サファイア基板にSiを含む溶液を接触させると、当該溶液とサファイアが反応し、サファイアが溶液中に溶解する。すると、種結晶基板であるサファイア基板が消失してしまわないように、溶液温度やサファイア基板厚さなどの各種のパラメータを厳密に調整する必要が生じるため、SiC結晶を成長させることが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、サファイア基板を種結晶に用いることができるSiC結晶の成長方法を開示する。この成長方法では、サファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱して、カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンが接する状態を実現する工程を備える。また、カーボンを含む膜の一部が消失し、その消失部でサファイア基板と溶融シリコンが直接接触するに至るまで前記状態を持続する工程を備える。また、カーボンを含む膜の一部が消失した後に、溶融シリコンを冷却する工程を備える。
【0006】
上記方法では、表面にカーボンを含む膜が成膜されているサファイア基板を用いる。カーボンを含む膜によってサファイア基板の表面を保護することができるため、種結晶基板となるサファイア基板が溶融シリコンへ溶解してしまう事態を防止することが可能となる。また、カーボンを含む膜の消失部では、サファイア基板と溶融シリコンが直接接触する状態を形成することができる。そして、サファイア基板と溶融シリコンが直接接触している部分をSiC結晶の成長の起点とすることができるため、溶融シリコンを冷却することにより、下地のサファイア基板の結晶面に揃うようにSiC結晶をエピタキシャル成長させることができる。
【0007】
上記の結晶成長方法では、カーボンを含む膜が少なくとも一面に成膜されているサファイア基板にシリコン基板を重ねて、サファイア基板とカーボンを含む膜とシリコン基板が順に積層されている積層構造を準備する工程を備えており、その積層構造をサファイア基板の融点以下でシリコンの融点以上の温度に加熱してもよい。これにより、カーボンを含む膜を介してサファイア基板と溶融シリコンが接する状態を、容易に作り出すことが可能となる。
【0008】
上記の結晶成長方法では、カーボンを含む膜としてカーボンの微結晶を含む膜をサファイア基板の表面に成膜する工程を備えていることが好ましい。これにより、溶融シリコンからサファイア基板を保護する効果をより高めることができる。
【0009】
上記の結晶成長方法では、サファイア基板の表面に物理気相成長法(PVD)でカーボンの微結晶を含む膜を成膜することが好ましい。これにより、カーボンの微結晶を含む膜を効率よく形成することが可能となる。
【0010】
上記の結晶成長方法では、サファイア基板の表面に10ナノメートル以上の膜厚のカーボンを含む膜を成膜することが好ましい。これにより、溶融シリコンからサファイア基板を効果的に保護することができる。
【0011】
また、上記の結晶成長方法では、サファイア基板の{0001}面にカーボンを含む膜を成膜することが好ましい。
【0012】
上記の結晶成長方法では、シリコンの融点以上でサファイア基板の融点以下の温度に加熱しておいた溶融シリコンに少なくとも一面にカーボンを含む膜が成膜されているサファイア基板を浸漬してもよい。これによっても、溶融シリコンとサファイア基板がサファイア基板の少なくとも一面に成膜されているカーボンを含む膜を介して接する状態を実現することができる。
【0013】
上記の結晶基板は、サファイア結晶を含んでいる第1層と、アモルファス構造を有しており、カーボンを含み、第1層の表面の一部を覆っている第2層と、SiC結晶を含んでおり、第2層の表面を覆うとともに第2層から露出している第1層の表面を覆う第3層と、を備えていてもよい。
【0014】
上記の結晶基板では、第2層は、カーボンを含んでいてもよい。また、第1層の表面は、サファイア結晶の{0001}面であってもよい。また、第3層の表面は、SiC結晶の{100}面であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本明細書に開示の技術によれば、SiC結晶をサファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長させる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のSiC結晶製造装置の模式図である。
図2】SiC結晶の成長方法のフロー図である。
図3】積層状態を示す図である。
図4】断面TEM写真である。
図5】SiC結晶の成長過程の模式図である。
図6】SiC結晶の成長過程の模式図である。
図7】SiC結晶の成長過程の模式図である。
図8】SiC結晶の成長過程の模式図である。
図9】実施例2のSiC結晶製造装置の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例1)
本願の実施例1について図面を参照しながら説明する。図1に、実施例1に係るSiC結晶製造装置(以下では結晶製造装置と略称する)1を示す。結晶製造装置1は、坩堝10を備える。坩堝10は、炭素を含有する材質によって形成されている。坩堝10の材質としては、黒鉛やSiCが挙げられる。坩堝10は坩堝台11の上に配置されている。坩堝台11は回転させることが可能である。坩堝10は、坩堝蓋14により密閉することができる。坩堝10の外周は、保温のために断熱材12で覆われている。断熱材12の外周には、常伝導コイル13が配置されている。常伝導コイル13は、坩堝10を誘導加熱するための装置である。常伝導コイル13には、不図示の高周波電源が接続されている。坩堝10、断熱材12、常伝導コイル13は、チャンバ15の内部に配置される。チャンバ15は、吸気口16と排気口17とを備える。
【0018】
坩堝10の底部には、サファイア基板20が載置されている。載置されているサファイア基板20の表面には、カーボン膜21が成膜されている。坩堝10内にはシリコン溶液22が保持されている。シリコン溶液22は、シリコンを融解して得られた溶液である。そして、シリコン溶液22中にサファイア基板20が浸漬している状態が形成されている。この状態は、後述する、SiC結晶をサファイア基板上に成長させるための状態である。
【0019】
実施例1に係るSiC結晶の成長方法を、図2のフローと、図5図8の模式図を用いて説明する。ステップS1において、サファイア基板20の表面に、カーボン微結晶を含むカーボン膜21を成膜する工程が行われる。具体的には、面方位が{0001}であるサファイア基板20を用意する。そして、PVD(物理気相成長)法によって、カーボン微結晶を含むカーボン膜21をサファイア基板の{0001}面に成膜する。
【0020】
PVD法によってカーボン膜21を成膜することにより、カーボン膜21にカーボンの微結晶を含ませることが可能となる。カーボン微結晶を含んでいるカーボン膜21は、アモルファス(非晶質)状態のカーボン膜に比して膜強度が高い。よって、後述する工程において、より効果的にサファイア基板20をシリコン溶液22から保護することができる。また、カーボン微結晶を含んでいるカーボン膜21は、アモルファス(非晶質)状態のカーボン膜に比して、高温のシリコン溶液等に溶解する際に、より不均一に溶解する。よって、後述する工程において、カーボン膜21の一部がサファイア基板20の表面の所々で消失している形状を、より作成しやすくすることができる。また、カーボン膜21の膜厚は10ナノメートル以上であることが好ましい。10ナノメートル以上の膜厚により、後述する工程において、シリコン溶液22からサファイア基板20を効果的に保護することができることが、実験上から明らかとなっている。また、カーボン膜21の膜厚が10マイクロメートル程度であっても、SiC結晶をサファイア基板20上にヘテロエピタキシャル成長させることができることが、実験上から明らかとなっている。
【0021】
また、PVD法の具体例としては、スパッタリング法やイオンプレーティング法などが挙げられる。これらの方法では、ターゲットとなる黒鉛を真空中でイオンビーム、アーク放電及びグロー放電等に晒し、飛び散った炭素原子をサファイア基板の表面に付着させることが行われる。なお、PVD法によるさらなる具体的な成膜方法については、周知の技術であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】
またステップS1において、サファイア基板20の表面(SiC結晶を成長させる面)に加えて、側面や裏面にもカーボン膜21を成膜することが好ましい。これにより、より効果的にサファイア基板20をシリコン溶液22から保護することができる。
【0023】
次に、ステップS2において、図3に示すように、サファイア基板20とシリコン基板23とが坩堝10の底部に重ねて載置される。これにより、サファイア基板20とカーボン膜21とシリコン基板23が、下方から順に積層されている積層状態を形成することができる。なお、シリコン基板23の重量は、後述するステップS3で生成されるシリコン溶液22中において、CとSiの比率が所定比率となるように定めればよい。実施例1では、シリコン溶液22中のCとSiの重量パーセントが、それぞれ98(wt%)および2(wt%)の比率となるように、シリコン基板23の重量を決定した。
【0024】
ステップS3において、シリコン基板23を融解し、シリコン溶液22を生成する。具体的には、ステップS2において内部にサファイア基板20とシリコン基板23がセットされた坩堝10を、結晶製造装置1の坩堝台11に載置する。そして常伝導コイル13へ所定周波数の交流電流を流すことにより、坩堝10を誘導加熱する。またチャンバ15内に吸気口16から不活性ガスを供給するとともに、坩堝台11を所定回転数で回転させる。加熱温度は、シリコンの融点(1410℃)以上でサファイア基板の融点(2040℃)以下の温度とされる。これにより、シリコン基板23が溶解し、シリコン溶液22が生成される。そして、図5の模式図に示すように、サファイア基板の表面に成膜されているカーボン膜21を介して、シリコン溶液22とサファイア基板20とが接する状態が作り出される。
【0025】
実施例1では、チャンバ15内にアルゴンガスを供給し、チャンバ15内の圧力を大気圧、シリコン溶液22の温度を1500℃に調整した。なお、実施例1で用いたこれらの条件は一例であり、他の条件を用いることも可能である。
【0026】
ステップS3において、シリコン溶液22の温度が1500℃に維持されている間は、シリコン溶液22にカーボン膜21が溶解していく。カーボン膜21が溶解する際には、カーボン膜21の全面が同一の速度で溶解することはなく、不均一に溶解する。すると、カーボン膜21の溶解速度に関する各種のパラメータ(カーボン膜21の膜厚、シリコン溶液22を1500℃に維持する時間、シリコン溶液22の温度、など)を適切に制御することにより、カーボン膜21の一部がサファイア基板20の表面の所々で消失しており、その消失部でサファイア基板20の表面が露出している形状を作成することができる(図6の模式図を参照)。これにより、カーボン膜21の消失部では、シリコン溶液22がサファイア基板20に直接接触することになる。また、サファイア基板20の表面に残存するカーボン膜21は、シリコン溶液22によってダメージを受けることにより、少なくとも一部がアモルファス状態となる。このアモルファス状態となったカーボン膜21は、SiやAlなどを含んでいると考えられる。
【0027】
ステップS4において、SiC結晶をサファイア基板20の表面上に成長させる。具体的には、サファイア基板20がシリコン溶液22に浸漬している状態を維持しながら坩堝10の全体を除々に冷却する、冷却工程を実施する。ステップS4における、SiC結晶の成長メカニズムを説明する。ステップS4の冷却工程では、坩堝10の表面から熱が放出される。また、サファイア基板20は坩堝10に接触している。すると、サファイア基板20の表面近傍に存在するシリコン溶液22は、他の場所に存在するシリコン溶液22に比して、冷却速度が若干早くなるため、サファイア基板20の表面に接触する部分のシリコン溶液22が、他の部分のシリコン溶液22よりも低温化される。よって、サファイア基板20の表面近傍のシリコン溶液22が過飽和状態となるため、サファイア基板20上へのSiC結晶のエピタキシャル成長が行われる。また、サファイア基板20の表面が露出している部分が、SiC結晶の成長の起点となるため、下地のサファイア基板20の結晶面に揃うように、SiC結晶のヘテロエピタキシャル成長が行われる。これにより、図7の模式図に示すように、カーボン膜21の消失部を埋めるようにSiC結晶26が成長する。
【0028】
カーボン膜21の消失部を埋めるようにSiC結晶が成長した後において、サファイア基板20がシリコン溶液22に浸漬している状態をさらに維持すると、カーボン膜21の消失部を埋めているSiCの結晶の表面や、残存しているカーボン膜21の表面に、SiC結晶をエピタキシャル成長させることができる。このとき、カーボン膜21の消失部を埋めているSiCの結晶の結晶面に揃うように、残存しているカーボン膜21の表面にSiC結晶を成長させることができる。これにより、図8の模式図に示すように、カーボン膜21の表面を覆うとともに、カーボン膜21の消失部で露出しているサファイア基板20の表面を覆うように、SiC結晶26を成長させることができる。なお、カーボン膜21がSiC結晶で覆われた後においても、坩堝10の溶解によってシリコン溶液22中にカーボンを供給することができるため、SiC結晶を成長させることが可能である。
【0029】
図4に、実施例1で得られたSiC結晶とサファイア基板との界面の断面TEM写真を示す。図4では、電子ビームの透過率の違いに起因する濃淡により、サファイア基板、アモルファス層、SiC結晶を区別することができる。図4の写真では、見易さのために、SiC結晶とアモルファス層との界面に点線L1を描いている。また、アモルファス層とサファイア基板との界面に点線L2を描いている。また、SiC結晶とサファイア基板との界面に点線L3を描いている。図4に示すように、サファイア基板がシリコン溶液に溶解せずに残存していることが分かる。また、サファイア基板の表面にSiC結晶が成長していることが分かる。また、点線L3の領域では、サファイア基板の表面にSiC結晶が直接に成長していることが分かる。また、点線L1およびL2の領域では、サファイア基板の表面を被覆しているアモルファス層の表面に、SiC結晶が成長していることが分かる。また、サファイア基板の表面にSiC結晶が直接に接触している領域と、サファイア基板の表面を被覆しているアモルファス層の表面にSiC結晶が接触している領域とが、混在していることが分かる。
【0030】
なお、電子線回折により、図4でサファイア基板として示している領域がサファイア結晶であること、および、図4でSiC結晶として示している領域がSiC結晶であることが確認された。また電子線回折により、図4でアモルファス層として示している領域が、アモルファス状態であることが確認された。また、XRD(X線回折)分析による結晶方位の特定の結果、SiC結晶の表面には3C−SiCの(100)面が主に成長していることが分かった。また、図4の右上部において、SiC結晶の領域が断面TEM写真に写っていないが、これはイオンミリングにより試料を薄膜化する際に消失したものであり、薄膜化前の段階ではSiC結晶が存在していた領域である。
【0031】
<比較例1>
比較例1では、表面にカーボン膜を成膜していないサファイア基板を用いて、図1に示した結晶製造装置1を用いて、サファイア基板上へのSiC結晶の液相成長法を試みた例を示す。なお、その他の条件は実施例1で用いた条件と同一である。
【0032】
この場合、シリコン溶液とサファイア基板とが反応し、サファイア基板がシリコン溶液中に溶解してしまった。種結晶基板であるサファイア基板が消失してしまったため、サファイア基板上にSiC結晶を成長させることができなかった。
【0033】
<効果>
実施例1に係るSiC結晶の製造方法の効果を説明する。サファイア基板20の表面全面をシリコン溶液22に直接に接触させる場合には、シリコン溶液22とサファイア基板20とが反応し、サファイア基板20がシリコン溶液22中に溶解してしまう。すると、種結晶基板であるサファイア基板20が消失してしまうため、サファイア基板20上にSiC結晶を成長させることができない。
【0034】
一方、実施例1に係るSiC結晶の製造方法では、サファイア基板20の表面に残存しているカーボン膜21によってサファイア基板20の表面を保護するとともに、カーボン膜21の消失によりサファイア基板20の表面が露出している部分を起点として、SiC結晶を成長させることができる。すなわち、サファイア基板20の一部のみをシリコン溶液22に接触させることにより、サファイア基板20の溶解を防止しながら、サファイア基板20の結晶面に揃うようにSiC結晶を成長させることが可能となる。よって、サファイア基板20上にSiC結晶をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0035】
サファイア基板は、SiC結晶基板に比して安価であるため、サファイア基板を種結晶基板に用いることにより、SiC結晶基板の製造コストをさらに低下させることができる。また、サファイアとSiCとの格子定数不整合は、シリコンとSiCの格子定数不整合に比べると小さい。よって、成長したSiC結晶内に発生する、格子不整合に起因する欠陥の数を、シリコン単結晶を種結晶基板に用いる場合に比して、サファイア基板を種結晶基板に用いる場合の方が低減させることができる。
【0036】
また実施例1に係るSiC結晶の製造方法では、サファイア基板の表面に、カーボンの微結晶を含むカーボン膜を成膜する工程を備えている。カーボン微結晶を含むカーボン膜は、アモルファス(非晶質)状態のカーボン膜に比して膜強度が高いため、より効果的にサファイア基板をシリコン溶液から保護することができる。
【0037】
(実施例2)
図9に、実施例2に係る結晶製造装置1aを示す。坩堝10内にはシリコン溶液22が保持されている。坩堝10の上方には、保持治具18が備えられている。保持治具18の先端部には、カーボン膜21が成膜されている面が坩堝10と対向するように、サファイア基板20が取付けられている。保持治具18は、昇降させることが可能である。また保持治具18は、黒鉛によって形成されている。なお、結晶製造装置1aのその他の構造は、実施例1に係る結晶製造装置1(図1)と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0038】
実施例2に係るSiC結晶の成長方法を説明する。なお、実施例1に係るSiC結晶の成長方法と同様である部分については、説明を省略する。まず、サファイア基板20の表面に、カーボン微結晶を含むカーボン膜21を成膜する工程が行われる。カーボン膜21が成膜されたサファイア基板20は、カーボン膜21が成膜されている面が坩堝10と対向するように、保持治具18の先端部に固定される。次に、坩堝10内にシリコン原料を入れ、シリコンの融点以上でサファイア基板の融点以下の温度に加熱することにより、シリコン溶液22を生成する。そして、保持治具18を坩堝10の上方から坩堝10内部へ降下させ、サファイア基板20をシリコン溶液22に浸漬させる。これにより、シリコン溶液22とサファイア基板20とが、カーボン膜21を介して接する状態を作り出す。カーボン膜21の一部がサファイア基板20の表面の所々で消失し、その消失部でサファイア基板20の表面が露出している形状が作成できたら、冷却工程へ移行する。カーボン膜21の表面を覆うとともに、カーボン膜21の消失部で露出しているサファイア基板20の表面を覆うように、SiC結晶がエピタキシャル成長するまで、浸漬状態を維持する。SiC結晶の完成後、保持治具18を上方へ引き上げることにより、SiC結晶の製造工程が終了する。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0040】
ステップS1において、カーボンの微結晶を含むカーボン膜を成膜する工程はPVD法に限られず、例えばCVD法を用いて成膜してもよい。
【0041】
ステップS1において、サファイア基板20の表面の一部にカーボン膜21を成膜することで、サファイア基板20の表面の所々が露出している形状を形成してもよい。これにより、ステップS3において、カーボン膜21の一部を溶解により消失させる工程を省略することが可能となる。
【0042】
ステップS4の冷却工程において、サファイア基板20の表面近傍のシリコン溶液22を過飽和状態にするための手段は特に制限されない。液相成長法において一般に利用可能な任意な手段を採用することができ、例えば冷却装置を使用してもよい。
【0043】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0044】
1:結晶製造装置、10:坩堝、13:常伝導コイル、20:サファイア基板、
21:カーボン膜、22:シリコン溶液
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図4