特許第5936356号(P5936356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936356
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】堤脚部の洗掘防止工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/04 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   E02B3/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-1196(P2012-1196)
(22)【出願日】2012年1月6日
(65)【公開番号】特開2013-139702(P2013-139702A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2015年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】山野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】白木 孝一
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−046011(JP,A)
【文献】 特開昭62−029608(JP,A)
【文献】 特開平08−209710(JP,A)
【文献】 特開2000−319842(JP,A)
【文献】 実開昭64−019623(JP,U)
【文献】 実開平05−014219(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04− 3/14
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤脚部の洗掘防止工法であって、前記堤脚部が設置された底質における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を、網状袋体に内包して洗掘防止ユニットを製作し、
前記洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置し、該洗掘防止ユニット下方の底質に対し水を高圧噴射して底質の液状化を促し、前記洗掘防止ユニットを自重により、
前記堤脚部を囲む底質に、前記洗掘防止ユニットの少なくとも一部を沈設させるようにして設置することを特徴とする堤脚部の洗掘防止工法。
【請求項2】
前記洗掘防止ユニットの上面が、底質の表面と同一レベル以下となるように、前記洗掘防止ユニットの全体を沈設させることを特徴とする請求項1記載の堤脚部の洗掘防止工法。
【請求項3】
前記洗掘防止ユニットを気中にて環状に構成し、該洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置する際に、前記洗掘防止ユニットの環状を維持して前記堤脚部上方から挿通し、前記堤脚部を囲む底質の表面へと載置することを特徴とする請求項1又は2記載の堤脚部の洗掘防止工法。
【請求項4】
前記洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置する際に、複数の洗掘防止ユニットを、平面視で環状に隙間無く並べることを特徴とする請求項1又は2記載の堤脚部の洗掘防止工法。
【請求項5】
前記洗掘防止ユニットを、底質の深さ方向に複数層沈設させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の堤脚部の洗掘防止工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤脚部の洗掘防止工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水底に設置された杭式構造物、防波堤、護岸等の、港湾構造物、海岸構造物、海洋構造物は、その設置構造が、杭式構造であると重力式構造であるとを関わらず、堤脚部において局所洗掘を受けることが知られている。
図5には、底質12に設置された円形断面を有する脚柱14に生じる局所洗掘のメカニズムが示されている。図示の如く、定常流中におかれた脚柱14の前面には、馬蹄形の渦が生じることで、脚柱14の側部と表面の底質12がはがれ、流下方向へと流される。このとき、水の流れに向かって45°付近の、底質12の表面で大きなせん断力が生じ、この付近から局所洗掘が始まる。そして、時間の経過と共に洗掘が進行し、脚柱14の周辺が逆円錐状の地形となっていくものである。
【0003】
このようなメカニズムにより発生する局所洗掘を放置しておくと、脚柱14の倒壊を招くことも懸念されることから、その発生を防止するための様々な手法が、従来から発案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
一般的な洗掘防止工としては、捨石やブロックにより、底質12の局所洗掘の発生区域表面を防護する対策が取られている。この場合、捨石やブロックの下部には、底質12の吸出し防止効果を有する吸出し防止フィルターが設られる。ここで用いられる吸出し防止フィルターは、砂利や砕石によってマットを形成したものであり、そだ沈床や、合成繊維製のシート、マットが利用されることも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−207210号公報
【特許文献2】特表2011−516756号公報
【特許文献3】特開2011−137365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の洗掘防止手法は、堤脚部が設置された底質の表面に、底質の吸出し防止効果を有するフィルターを設置し、更に別途洗掘防止工を設置する必要があり、対策工数が複数にわたるものである。
又、吸出し防止フィルターには砂利や砕石等が用いられるが、その粒径は、吸出しを防止すべきコア材料の粒径の数倍から10倍程度の大きさが必要とされており、その上に設置する表層部の捨石又はブロックは、波動場に対して安定性を保つ必要がある。このため、吸出し防止フィルターを構成する砂利や砕石等の材料自体の吸出しを防止するために、フィルター層自体を複数設置することが、必要不可欠となる。
【0006】
更には、吸出し防止フィルターに合成繊維製のシートやマットを用いる場合、水底地盤高の変形に伴う吸出し防止フィルターの変形を防ぎ、安定性を保つための、捨石やブロックによっても変形を受ける。そして、この変形が局所的に大きくなると、吸出し防止フィルターの破損を来たし、破損によって吸出し防止機能が損われる虞もある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、底質の吸出し防止効果を安定して発揮し、かつ、施工も容易な堤脚部の洗掘防止工を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)堤脚部の洗掘防止工法であって、前記堤脚部が設置された底質における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を、網状袋体に内包して洗掘防止ユニットを製作し、前記堤脚部を囲む底質に、前記洗掘防止ユニットの少なくとも一部を沈設させるようにして設置する堤脚部の洗掘防止工法。
【0009】
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、洗掘防止ユニットを、網状袋体に、堤脚部が設置された底質における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を内包して製作する。このとき、洗掘防止ユニットを構成する網状袋体は、中詰め材が脱落せず、かつ、洗掘防止ユニット内外の水の流通を許容するメッシュ粗さのものが用いられることで、洗掘防止ユニット内外の水の適切な流通を許容し、洗掘防止ユニットの波動場での安定性を高めるものとなる。
又、洗掘防止ユニットに作用する波力が、網状袋体を介して中詰め材に作用することで減少し、洗掘防止ユニット周辺部の底質への、波力の影響も減少させることとなる。しかも、堤脚部を囲む底質に、洗掘防止ユニットの少なくとも一部を沈設させるようにして設置することで、洗掘防止ユニットはその周囲から拘束され、耐波安定性も向上するものとなる。
更に、洗掘防止ユニット内部での中詰め材の移動は許容されることから、洗掘防止ユニット自体が適切に変形して、設置環境に応じて安定した形状へと収まることとなる。又、同様の理由から、全体が固体の態様と異なり、洗掘防止ユニットにはいわゆるロッキングは生じないものである。
【0010】
)上記()項において、前記洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置し、該洗掘防止ユニット下方の底質に対し水を高圧噴射して底質の液状化を促し、前記洗掘防止ユニットを自重により底質へと沈設させる堤脚部の洗掘防止工法(請求項)。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、洗掘防止ユニットを、堤脚部を囲む底質の表面に載置し、洗掘防止ユニット下方の底質に対し水を高圧噴射し、底質をほぐして液状化を促し、洗掘防止ユニットを自重により底質へと沈設させることで、局所洗掘の発生が始まる部分の底質を、洗掘防止ユニットに置き換えるものである。
【0011】
)上記()項において、前記洗掘防止ユニットの上面が、底質の表面と同一レベル以下となるように、前記洗掘防止ユニットの全体を沈設させる堤脚部の洗掘防止工法(請求項2)。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、洗掘防止ユニットの上面が、底質の表面と同一レベル以下となるように、洗掘防止ユニットの全体を、堤脚部を囲む底質に沈設することで、洗掘防止領域の底質と洗掘防止ユニットとを置き換えるものである。そして、沈設された洗掘防止ユニット自体が、底質中で吸出し防止フィルター層を形成することにより、洗掘防止領域における底質の吸出しが生じ得ず、局所洗掘を防止するものとなる。
しかも、洗掘防止ユニットをその上面が底質の表面と同一レベル以下となるように沈設することで、設置される水域の水の流速や圧力の地形変化による急変点が、洗掘防止ユニットの設置によって生じることがない。又、洗掘防止ユニット内を水が移動することで、乱流、摩擦等により水流のエネルギーは失われて減速する。このため、洗掘防止ユニットと底質との境界部分において、底質が移動する外力が増大することは無く、この境界部分での局所洗掘も回避するものとなる。
【0012】
(4)上記(2)(3)項において、前記洗掘防止ユニットを気中にて環状に構成し、該洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置する際に、前記洗掘防止ユニットの環状を維持して前記堤脚部上方から挿通し、前記堤脚部を囲む底質の表面へと載置する堤脚部の洗掘防止工法(請求項)。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、予め、洗掘防止ユニットを気中にて環状に構成するものである。そして、洗掘防止ユニットを、堤脚部を囲む底質の表面に載置する際に、洗掘防止ユニットの環状を維持して堤脚部上方から挿通し、堤脚部を囲む底質の表面へと載置することで、洗掘防止ユニットは、堤脚部の周囲の底質上に、平面視で円形に隙間無く載置されるものである。そして、この円形を維持したまま、堤脚部を囲む底質に、少なくとも一部を沈設させることで、堤脚部を囲む領域において、洗掘防止ユニットの円周方向に隙間無く、上記作用を奏するものとなる。
【0013】
(5)上記(2)(3)項において、前記洗掘防止ユニットを、前記堤脚部を囲む底質の表面に載置する際に、複数の洗掘防止ユニットを、平面視で環状に隙間無く並べる堤脚部の洗掘防止工法(請求項)。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、複数の洗掘防止ユニットを並べることで、全体として、平面視で環状に隙間のない洗掘防止ユニット集合体を構成するものである。そして、この円形を維持したまま、堤脚部を囲む底質に、少なくとも一部を沈設させることで、堤脚部を囲む領域において、洗掘防止ユニットの円周方向に隙間無く、上記作用を奏するものとなる。又、この場合、必要に応じて、個々の洗掘防止ユニット同士を、洗掘防止ユニットを構成する網状袋体と同等の強度を有するロープ等で緩やかに連結することにより、沈設時や波動場におかれた状態で、各ユニットの飛散をより確実に防止するものとなる。
【0014】
(6)上記(1)から(5)項において、前記洗掘防止ユニットを、底質の深さ方向に複数層沈設する堤脚部の洗掘防止工法(請求項)。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、洗掘防止ユニットを、底質の深さ方向に複数層沈設することで、必要な厚みの洗掘防止ユニット層を構成するものである。又、下層の洗掘防止ユニットは、上層の洗掘防止ユニットによって拘束され、耐波安定性がより一層高まるものである。
【0015】
(7)上記(1)から(6)項において、前記洗掘防止ユニットを上方から消波構造体で覆う堤脚部の洗掘防止工法。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止工法は、洗掘防止ユニットを更に上方から消波構造体で覆うことで、洗掘防止ユニットの耐波安定性をより向上させるものである。
【0016】
(8)堤脚部の洗掘防止構造であって、前記堤脚部が設置された底質における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を、網状袋体に内包してなる洗掘防止ユニットが、前記堤脚部を囲む底質に、少なくとも一部が沈設するように設置されている堤脚部の洗掘防止構造。
【0017】
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、洗掘防止ユニットを、網状袋体に、堤脚部が設置された底質における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を内包して製作される。このとき、洗掘防止ユニットを構成する網状袋体として、中詰め材が脱落せず、かつ、洗掘防止ユニット内外の水の流通を許容するメッシュ粗さのものが用いられることで、洗掘防止ユニット内外の水の適切な流通を許容し、洗掘防止ユニットの波動場での安定性を高めるものとなる。
又、洗掘防止ユニットに作用する波力が、網状袋体を介して中詰め材に作用することで減少することとなり、洗掘防止ユニット周辺部の底質への、波力の影響も減少させることとなる。しかも、堤脚部を囲む底質に、洗掘防止ユニットの少なくとも一部が沈設するように設置されることで、洗掘防止ユニットはその周囲から拘束され、耐波安定性も向上するものとなる。
更に、洗掘防止ユニット内部での中詰め材の移動は許容されることから、洗掘防止ユニット自体が適切に変形して、設置環境に応じて安定した形状へと収まることとなる。又、同様の理由から、全体が固体の態様と異なり、洗掘防止ユニットにはいわゆるロッキングは生じないものである。
【0018】
(9)上記(8)項において、前記洗掘防止ユニットの上面が、底質の表面と同一レベル以下となるように、前記洗掘防止ユニットの全体が沈設されている堤脚部の洗掘防止構造。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、洗掘防止ユニットの上面が、底質の表面と同一レベル以下となるように、洗掘防止ユニットの全体が、堤脚部を囲む底質に沈設されていることで、洗掘防止領域の底質と洗掘防止ユニットとを置き換えるものである。そして、沈設された洗掘防止ユニット自体が、吸出し防止フィルター層を形成することにより、洗掘防止領域における底質の吸出しが生じ得ず、局所洗掘を防止するものとなる。
しかも、洗掘防止ユニットをその上面が底質の表面と同一レベル以下となるように沈設することで、設置される水域の水の流速や圧力の地形変化による急変点が、洗掘防止ユニットの設置によって生じることがない。又、洗掘防止ユニット内を水が移動することで、乱流、摩擦等により水流のエネルギーは失われて減速する。このため、洗掘防止ユニットと底質との境界部分において、底質が移動する外力が増大することは無く、この境界部分での局所洗掘も発生しないものである。
【0019】
(10)上記(7)(8)項において、前記洗掘防止ユニットは、平面視で環状に形成されている堤脚部の洗掘防止構造。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、洗掘防止ユニットは、平面視で環状に形成され複数の洗掘防止ユニットにより、堤脚部を囲む領域において、上記作用を奏するものとなる。例えば、複数の洗掘防止ユニットを隙間無く並べることで、全体として、平面視で環状に隙間のない洗掘防止ユニット集合体を構成するものである。
【0020】
(11)上記(8)項において、前記洗掘防止ユニットを構成する網状袋体が、環状袋体である堤脚部の洗掘防止構造。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、環状袋体の内部に、気中にて中詰め材を充填することで、洗掘防止ユニットを気中にて環状に構成することが可能なものである。この、環状の洗掘防止ユニットを、洗掘防止ユニットの環状を維持して堤脚部上方から挿通し、堤脚部を囲む底質の表面へと載置することで、洗掘防止ユニットは、堤脚部の周囲の底質上に、平面視で円形に隙間無く載置されるものである。そして、例えば、洗掘防止ユニット下方の底質に対し水を高圧噴射して、底質をほぐすことにより液状化を促し、洗掘防止ユニットを自重により底質へと沈設されるものである。
【0021】
(12)上記(8)項において、前記洗掘防止ユニットが、平面視で、環状に複数並んで形成されている堤脚部の洗掘防止構造。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、複数の洗掘防止ユニットが並ぶことで、全体として、平面視で環状に隙間のない洗掘防止ユニット集合体が構成されるものである。又、この場合、必要に応じて、個々の洗掘防止ユニット同士を、洗掘防止ユニットを構成する網状袋体と同等の強度を有するロープ等で緩やかに連結することにより、沈設時や波動場に置かれた状態で、各ユニットの飛散をより確実に防止するものとなる。
【0022】
(13)上記(8)から(12)項において、前記洗掘防止ユニットが、底質の深さ方向に複数層沈設されている堤脚部の洗掘防止構造。
本項に記載の堤脚部の洗掘防止構造は、洗掘防止ユニットが、底質の深さ方向に複数層沈設されていることで、必要な厚みの洗掘防止ユニット層が構成されるものである。又、下層の洗掘防止ユニットは、上層の洗掘防止ユニットによって拘束され、耐波安定性がより一層高まるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明はこのように構成したので、底質の吸出し防止効果を安定して発揮し、かつ、施工も容易な堤脚部の洗掘防止工を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止構造を示すものであり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止工法を示すものであり、(a)は洗掘防止ユニットを、堤脚部を囲む底質の表面に載置し、洗掘防止ユニット下方の底質に対し水を高圧噴射して底質の液状化を促す様子を、(b)は、洗掘防止ユニットが自重により底質へと沈設された様子を示すものである。
図3】本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止工法における、洗掘防止ユニットの別の設置例を示す平面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止工法を、重力式構造部の堤脚部に実施した例を示すものであり、(a)は、重力式構造物が底質に直接設置されている場合の設置例を、(b)は、重力式構造物が基礎マウンドを介して底質に設置されている場合の設置例を示すものである。
図5】杭式構造物の堤脚部に局所洗掘が生じるメカニズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1には、本発明の実施の形態に係る、脚柱14の堤脚部の洗掘防止構造10が示されている。かかる堤脚部の洗掘防止構造10は、洗掘防止ユニット16が、脚柱14を囲む底質12に、その上面16aが底質12の表面12aと同一レベル以下となるように沈設されているものである。又、洗掘防止ユニット16は、脚柱14が設置された底質12における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材(例えば砕石)を、網状袋体の内部に内包したものである。
【0026】
しかも、図1に示されるように、堤脚部が脚柱14のような杭構造を有する場合には、洗掘防止ユニット16は平面視で環状に形成されるものである。なお、洗掘防止ユニット16の設置範囲は、それが設置される水域の水流や、底質12の性質にもよるが、図1の例では、脚柱14の直径をD14、洗掘防止ユニット16の外周部の直径をD16として、D16=3×D14程度に設定される。図示の洗掘防止ユニット16は平面視で円形をなしているが、洗掘防止ユニット16の製作工数や設置環境に応じ、適宜、多角形その他の環状形を採用することも可能である。又、中詰め材には、砂利や砕石が用いられるが、その粒径は、底質12の性質や、水流等の設置場所の条件に応じ、吸出し防止フィルター効果を発揮できる範囲のものが使用される。一般には、その粒径は、吸出しを防止すべきコア材料の粒径の数倍から10倍程度の大きさのものが用いられる。
更に、洗掘防止ユニット16を構成する網状袋体のメッシュ粗さは、使用される中詰め材が脱落することなく、かつ、洗掘防止ユニット内外の水の適切な流通を許容する範囲のものが使用される。
【0027】
本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止工法は、図2に示される手順となる。まず、洗掘防止ユニット16を気中にて環状に構成する。具体的には、気中の作業所において、環状の網状袋体に中詰め材を詰め込み、網状袋体の口を塞ぐ。そして、環状を維持したまま洗掘防止ユニット16を吊り上げて、脚柱14に対してその上方からフィルーユニット16を挿通する。そして、図2(a)に示されるように、脚柱14を囲む底質12の表面12aへと載置する。続いて、洗掘防止ユニット16下方の底質12に対し、ホース18等を用いて水を高圧噴射し、底質12をほぐして液状化を促す。すると、洗掘防止ユニット16は自重により、底質12へと沈設していく。そして、水の高圧噴射を続け、図2(b)に示されるように、その上面16aが底質12の表面12aと同一レベル以下となるまで沈設させる。
【0028】
なお、それ単体で環状の洗掘防止ユニット16を用いるのみならず、図3に示されるように、複数の洗掘防止ユニット16を、平面視で環状に隙間無く並べることで、環状の洗掘防止ユニット集合体18を構成することとしても良い。この場合には、必要に応じて、個々の洗掘防止ユニット16同士を、洗掘防止ユニット16を構成する網状袋体と同等の強度を有するロープ等で緩やかに連結し、各洗掘防止ユニット16の飛散を防止することとしても良い。
又、図示は省略するが、洗掘防止ユニット16を、底質12の深さ方向に複数層沈設することとしても良い。更には、必要に応じ、洗掘防止ユニット16を、更に上方から消波構造体で覆うこととしても良い。
【0029】
又、本発明の実施の形態に係る堤脚部の洗掘防止構造10は、堤脚部が脚柱14のような杭構造を有する場合のみならず、防波堤、護岸、潜堤、人工リーフ、重力式プラットホーム等の重力式構造物20に対しても、同様に適用可能である。この場合、図4(a)に示されるように、重力式構造物20が底質12に直接設置されている場合には、底質12の、重力式構造物20の堤脚部を囲む位置に、洗掘防止ユニット16を沈設する。又、図4(b)に示されるように、重力式構造物20が基礎マウンド22を介して底質に設置されている場合には、底質12の、基礎マウンド22を囲む位置に、洗掘防止ユニット16を沈設する。
【0030】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。
まず、本発明の実施の形態によれば、脚柱14の堤脚部が設置された底質12における吸出し防止フィルター効果を発揮するための粒径を有する中詰め材を、網状袋体に内包して、洗掘防止ユニット16を製作するものである。よって、中詰め材は、網状袋体のメッシュから脱落することはなく、かつ、洗掘防止ユニット16内外の水W(図1)の流通を許容するものとなり、洗掘防止ユニット16の波動場での安定性を高めることができる。
【0031】
又、洗掘防止ユニット16を、脚柱14の堤脚部を囲む底質12に沈設することで、洗掘防止領域の底質12と洗掘防止ユニット16とを置き換えるものである。そして、沈設された洗掘防止ユニット16自体が、吸出し防止フィルター層を形成することにより、洗掘防止領域における底質12の吸出し(図1に矢印Pで示す)が生じ得ず、局所洗掘を防止することができる。
又、洗掘防止ユニット16に作用する波力が、網状袋体を介して中詰め材に作用することで減少することとなり、洗掘防止ユニット16周辺部の底質12への、波力の影響も減少させることとなる。しかも、洗掘防止ユニット16は沈設によってその周囲から拘束されることで、耐波安定性も向上するものとなる。
【0032】
更に、洗掘防止ユニット16内部での中詰め材の移動は許容されることから、洗掘防止ユニット16自体が適切に変形して、設置環境に応じて安定した形状へと収まることとなる。又、同様の理由から、全体が固体の態様と異なり、洗掘防止ユニット16にはロッキングは生じないものである。
しかも、洗掘防止ユニット16をその上面16aが底質12の表面12aと同一レベル以下となるように沈設することで、設置される水域の水Wの流速や圧力の地形変化による急変点が、洗掘防止ユニット16の設置によって生じることがない。又、洗掘防止ユニット16内を水Wが移動することで、乱流、摩擦等により水流のエネルギーは失われて減速する。このため、洗掘防止ユニット16と底質12との境界部分において、底質12が移動するほど外力が増大することは無く、この境界部分での局所洗掘も発生しないものである。
【0033】
又、洗掘防止ユニット16を、脚柱14の堤脚部を囲む底質12の表面12aに載置し(図2(a))、洗掘防止ユニット16下方の底質12に対し水Wを高圧噴射して底質の液状化を促し、洗掘防止ユニット16を自重により底質へと沈設させることで(図2(b))、局所洗掘の発生が始まる部分の底質12を、洗掘防止ユニット16に置き換えることができる。
又、予め、洗掘防止ユニット16を気中にて環状に構成し、環状の洗掘防止ユニット16を、脚柱14の堤脚部を囲む底質12の表面12aに載置する際に、洗掘防止ユニット16の環状を維持して堤脚部上方から挿通し、堤脚部を囲む底質12の表面へと載置する。これにより、洗掘防止ユニット16は、堤脚部の周囲の底質12の上に、平面視で円形に隙間無く載置されることとなる。そして、洗掘防止ユニット16の円形を維持したまま、堤脚部を囲む底質12に、その上面16aが底質12の表面12aと同一レベル以下となるように沈設することで、堤脚部を囲む領域において、隙間無く上記作用効果を奏するものとなる。
【0034】
又、複数の洗掘防止ユニット16(図3)を並べることで、全体として、平面視で環状に隙間のない洗掘防止ユニット集合体18を構成することとしても、同様の作用効果を得ることが可能である。
又、洗掘防止ユニット16を、底質12の深さ方向に複数層沈設することで、必要な厚みの洗掘防止ユニット層を構成することも可能である。この場合には、下層の洗掘防止ユニット16は、上層の洗掘防止ユニット16によって拘束され、耐波安定性がより一層高まるものである。
【0035】
又、必要に応じて、洗掘防止ユニット16を更に上方から消波構造体で覆うことで、洗掘防止ユニット16の耐波安定性をより一層向上させることも可能である。
なお、本発明の実施の形態では、洗掘防止ユニット16の上面16aが、底質12の表面12aと同一レベル以下となるように、洗掘防止ユニット16の全体が沈設されている場合を例示して説明している。しかしながら、本発明者らの検証によれば、洗掘防止ユニット16は、少なくとも一部が沈設するように設置されていることでも、洗掘防止領域における底質12の吸出しを防ぎ、局所洗掘を防止する効果があることが確認されている。又、洗掘防止ユニット16を、底質12に対し、少なくとも一部が沈設するように設置することで、洗掘防止ユニット16の耐波安定性が向上するが、設置環境に応じて、底質12の表面12aに単に載置することとしても、同等の洗掘防止効果があることが確認されている。
【符号の説明】
【0036】
10:堤脚部の洗掘防止構造、12:底質、12a:表面、14:脚柱、16:洗掘防止ユニット、16a:上面、18:洗掘防止ユニット集合体、W:水
図1
図2
図3
図4
図5