【課題を解決するための手段】
【0013】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の難燃剤組成物の特徴構成は、
化9に示す環状カーボネート構造を有する有機リン化合物(I)を含有してなる点にある。
【化9】
ただし(I)中、
kは0以上の整数、
mは1以上の整数
n1は1以上の整数
n2は1以上の整数
Raは、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキレン基およびアリーレン基より選択される二価の基もしくは前記二価の基にさらに置換基部を有する三価以上の基であり、アルキレン基中およびシクロアルキレン基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリーレン基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良い。
Rbは、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキル基およびアリール基より選択される一価の基、またはオキソ基。アルキル基中およびシクロアルキル基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリール基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良く、複数のRbが存在する場合、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0014】
〔作用効果1〕
上記化9の環状カーボネート構造を有する有機リン化合物(I)は、リン化合物としての構造を有するとともに、環状カーボネート構造を有している。環状カーボネート構造を有する有機リン化合物(I)を添加した樹脂組成物が加熱されると、環状カーボネートが分解して炭酸ガスが発生して発泡層を形成することと、リン元素のもつ難燃性により、イントメッセント系の難燃剤と同様の難燃化効果を発揮すると考えられる。このため、環状カーボネート構造を有する有機リン化合物(I)は高い難燃性を発揮することが期待できる。
【0015】
ここにいうイントメッセント系の難燃剤とは、難燃剤による発泡作用によりできた発泡層が基材の断熱性を高め、熱伝導を抑制することにより、その基材の燃焼を遅延させる効果を発揮する難燃剤を指す。
【0016】
難燃化される樹脂としてはたとえば成形用に通常用いられている、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。なかでも、上記化合物は、環状カーボネート構造を備えるので、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高いので好ましい。
【0017】
〔構成2〕
また、前記環状カーボネート構造を有する有機リン化合物が、化10に示す環状カーボネート構造を有するホスフィン酸エステル化合物(II)であってもよい。
【0018】
【化10】
ただし(II)中、
CycCarは環状カーボネート構造である。
nは1以上の自然数である。
R1は、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキル基およびアリール基より選択される一価の基であり、ここでリン原子に酸素原子が直接結合していない限り、アルキル基中およびシクロアルキル基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリール基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良い。
R2は、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキル基およびアリール基より選択される一価の基であり、ここで酸素原子にヘテロ原子が直接結合していない限り、アルキル基中およびシクロアルキル基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリール基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良い。
R1、R2の間には結合が存在して、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキレン基およびアリーレン基より選択される二価の基となっていてもよく、ここでアルキレン基中およびシクロアルキレン基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリーレン基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良い。
R3は、直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキレン基およびアリーレン基より選択される二価の基もしくは前記二価の基にさらに置換基部を有する三価以上の基であり、ここでリン原子に酸素原子が直接結合していない限り、アルキレン基中およびシクロアルキレン基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリーレン基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団があっても良い。
【0019】
〔作用効果2〕
また、上記化10の化合物(II)は、環状カーボネート構造を有するから、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高い。そのため、ポリカーボネート樹脂に上記化10の化合物(II)を含有させる場合に、充分量を均一に混合することができ、ポリカーボネート樹脂の難燃性を大きく向上させるのに寄与することができる。また、上記化10の化合物(II)は、一分子内に環状カーボネート構造を2つ有するので、イントメッセント系難燃剤としての機能も高く、樹脂の難燃化に大きく寄与するものと考えられる。
【0020】
〔構成3〕
前記環状カーボネート構造としては、化11に示す5員環カーボネート構造(III)を採用することができる。
【化11】
【0021】
〔作用効果3〕
すなわち、前記環状カーボネート構造としては、前記化7の(VII)に示す構造が知られており、これらいずれの構造を備えた化合物であっても、加熱分解により二酸化炭素ガスを発生することが期待できる。この二酸化炭素ガスの発生を生起するカーボネート結合を備えることにより、前記化7の(VII)は、イントメッセント系の難燃剤として働くのであるが、前記化7の(VII)としては、エポキシ基に対する二酸化炭素付加により容易に合成することのできる、前記化11の基(III)が特に有用であると考えられる。
【0022】
〔構成4〕
前記化10におけるR1−R2を下記化12の(IV)に示される2,2’−ジフェニレン基とするホスファフェナントレン骨格としてもよい。
【0023】
【化12】
【0024】
〔作用効果4〕
前記化10における前記R1には、任意の置換基を用いることができ、
メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基
シクロヘキシル基等のシクロアルキル基
フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基等のアリール基
ピリジル基等のヘテロアリール基、
ベンジル基等のアラルキル基、
ビニル基、アリル基等のアルケニル基、
アクリル酸エステルなどのアクリロイル基、
ヒドロキシエチル基等のヒドロキシアルキル基、
パラヒドロキシフェニル基等のヒドロキシアリール基
等の一価の基から構成することができ、さらにこれらの基に他の基が結合したものも用いることができる。
【0025】
前記R2には、任意の置換基を用いることができ、
メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基
シクロヘキシル基等のシクロアルキル基
フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基等のアリール基
ピリジル基等のヘテロアリール基、
ベンジル基等のアラルキル基、
ビニル基、アリル基等のアルケニル基、
アクリル酸エステルなどのアクリロイル基、
ヒドロキシエチル基等のヒドロキシアルキル基、
パラヒドロキシフェニル基等のヒドロキシアリール基
等の一価の基から構成することができ、さらにこれらの基に他の基が結合したものも用いることができる。
【0026】
また、さらに、前記R1、R2には、結合が存在していてもよく、
ヘキサメチレン基等のアルキレン基、
シクロヘキシレン等のシクロアルキレン基、
ジフェニレン基等のアリーレン基、
フェニルピリジレン等のヘテロアリーレン基、
エチルフェニレン等のアラルキレン基、
2,3−ブテニレン等のアルケニレン基、
等の二価の基もしくは前記二価の基にさらに置換基部を有する三価以上の基となっていてもよい。
なかでも、R1、R2=ジフェニレンであるホスファフェナントレン骨格は、既存の難燃剤としても用いられており、さらに難燃性の向上された物質として期待できるので好ましい。
【0027】
〔構成5〕
前記R3が、下記化13の(V)破線に示されるヒドロキノンから誘導される構造を含むものとすることができる。
【0028】
【化13】
【0029】
〔作用効果5〕
前記R3には、
直鎖もしくは枝分かれ状の、飽和もしくは不飽和のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはメチレン基もしくはエチレン基を介して結合したシクロアルキレン基およびアリーレン基より選択される二価の基もしくは前記二価の基にさらに置換基部を有する三価以上の基が用いられ、ここでリン原子に酸素原子が直接結合していない限り、アルキレン基中およびシクロアルキレン基中のメチン基、メチレン基がヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団によって置き換えられても良く、アリーレン基中にヘテロ原子もしくはヘテロ原子を含む原子団であってもよいのであるが、環状カーボネート構造がオキシメチレン基に結合する構造は、R3としてヒドロキシ基を有する化合物にエピクロロヒドリンでグリシジルエーテル化した後、エポキシ基に二酸化炭素ガスを付加する反応で合成でき、合成が容易であるという特徴を有する。また、ヒドロキシ基がフェノール性であれば、特にエピクロロヒドリンの付加反応が進行しやすい。また、下記化14の(IV)の構成では、環状カーボネート構造を2単位備えるので、加熱分解時に1分子あたりの二酸化炭素ガス発生量が多く、好ましいと考えられる。
【0030】
〔構成6〕
また、下記化14に示される環状カーボネート化合物ホスフィン酸エステル(VI)を含有してもよい。
【0031】
【化14】
R4は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基より選択される一価の基である。
R5は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基より選択される一価の基である。
また、R4,R5ともに複数有してもよい。
【0032】
〔作用効果6〕
すなわち、前記化14に示す環状カーボネート構造を有するホスフィン酸エステル化合物(VI)は、ホスフィン酸エステルの難燃性に加え、環状カーボネート化合物のイントメッセント系難燃剤としての機能を併せ持つので、樹脂の難燃剤として高い性能を発揮する。
【0033】
なお、上記化14の化合物(VI)は、対応するエポキシ化合物に、二酸化炭素を付加することにより合成することができる。
【0034】
すなわち、上記化14の化合物(VI)は、原料となるエポキシ基を有するホスフィン酸エステル化合物に触媒下で二酸化炭素を接触させるだけの簡単な反応で目的とする化合物を得ることができ、安価、簡便に目的物を得ることができる。また、この反応は、二酸化炭素ガスの固定化に寄与するため、燃焼装置等に付随する設備として適用することで、少ない設備投資で有価物としての環状カーボネートを生産できるとともに、温室効果ガスの低減に寄与することができる。
【0035】
〔構成7〕
本願のポリカーボネート樹脂組成物の特徴構成は、上記難燃剤組成物を含有してなる点にある。
【0036】
〔作用効果7〕
上記難燃剤組成物は、カーボネート構造を備えるので、特にポリカーボネート樹脂との相溶性が高く、ポリカーボネート樹脂の難燃性を高め、難燃性が要求される用途でのポリカーボネート樹脂の利用に役立てることができる。
【0037】
なお、難燃剤組成物と樹脂との混合は、前述にしたがって一旦難燃剤組成物を調製し、押出機やニーダーを用いて溶融樹脂と混合する方法、樹脂溶液や硬化性樹脂前駆体溶液と液状難燃剤組成物を混合する方法が挙げられる。混合操作の煩雑さを軽減するには、前記化9の化合物(I)とポリカーボネート樹脂原料とを、押出機を用いて一回の溶融混合操作によって最終難燃樹脂組成物とする方法を選択しても良い。
【0038】
樹脂は単独でも、また複数組み合わせて用いても、さらにはフィラーや充填材を含んでも良い。フィラーとしてはガラス繊維、ガラスクロス、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルクなどが例示できる。これらの配合比率は材料の使用目的に応じて当業者公知の方法で設定すればよく、特に制約されるものではない。
【0039】
難燃性組成物と難燃化される樹脂の割合には特に制限はないが、通常重量比で0.1〜20:100である。
【0040】
また、ポリカーボネート樹脂の難燃性を高めるために、前記化9の化合物(I)のほかにさらに任意の環状カーボネート構造を有する化合物を混合しても良い。すなわち、前記化9の化合物(I)でリン元素のもつ難燃性に加えて、イントメッセント系の難燃剤と同様の難燃化効果を得るとともに、さらに任意の環状カーボネート構造を有する化合物を混合することで、環状カーボネートが分解して発生する炭酸ガスの量を増加させて難燃性を向上させることができる。このように任意の環状カーボネート構造を有する化合物を混合することは、コストを抑えたり、難燃性以外の樹脂性能を制御したりする上でも有効な手段となりえる。