【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代大型有機ELディスプレイ基盤技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空槽内において、第1経路により導かれた、蒸発された第1蒸着材料と、第2経路により導かれた、蒸発された、前記第1蒸着材料の蒸着量と比べて蒸着量が小さい第2蒸着材料とを、第3経路において合流させて混合し、蒸発されたこれら2種類の蒸着材料を、被蒸着部材に付着させる蒸着装置であって、
前記第1経路に、この第1経路の開度を調節する第1調節手段を設け、
前記第2経路に、この第2経路の開度を調節する第2調節手段を設け、
前記第2調節手段より下流側の前記第2経路内に、オリフィスを設け、
前記第1の調節手段より下流側の第1経路内に、第1圧力センサを設け、
前記第3経路内または前記真空槽内に、第2圧力センサを設け、
前記第2の調節手段より下流側で、前記オリフィスより上流側の第2経路内に、第3圧力センサを設け、さらに前記オリフィスより下流側の第2経路内に、第4圧力センサを設け、
前記第1圧力センサと前記第2圧力センサにより測定された圧力の圧力差により前記蒸発された第1蒸着材料の流量を求めることにより、前記蒸発された第1蒸着材料の前記被蒸着部材への蒸着レートを計測し、この計測した蒸着レートが所定の蒸着レートとなるように、前記第1調節手段により前記第1経路の開度を調節し、且つ
前記第3圧力センサと前記第4圧力センサにより測定された圧力の圧力差により前記蒸発された第2蒸着材料の流量を求めることにより、前記蒸発された第2蒸着材料の前記被蒸着部材への蒸着レートを計測し、この計測した蒸着レートが所定の蒸着レートとなるように、前記第2調節手段により前記第2経路の開度を調節するコントローラを設けたことを特徴とする蒸着装置。
前記第2調節手段より下流側の前記第2経路内に設けたオリフィスに代えて、前記第2の調節手段より下流側の第2経路の一部を、この第2経路の径より小さい径の小経路に形成し、
前記第3圧力センサを、前記小経路の上流側に取り付け、前記第4圧力センサを前記小経路の下流側に取り付けたこと
を特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【背景技術】
【0002】
一般に上記薄膜等は、真空度を10
−4Pa以上の高真空とした真空内において蒸着で形成される。例えば特許文献1に示すように、真空蒸着装置は、高真空とした真空チャンバ内に、加熱機構を設けた材料収納容器(坩堝)から蒸発された蒸着材料(蒸発粒子)が導かれる分散室(マニホールド)を設け、蒸発粒子をこのマニホールド上部に設けた複数のノズルから放出させて基板に蒸着させることにより薄膜を形成する構成とされている。この蒸着装置は、マニホールドのノズル設計(配置、大きさ、角度など)を適正化することにより、基板回転などの可動部分がなくても大面積基板に対して膜厚均一性を得ることができるという利点を有している。
【0003】
通常、基板に単位時間当たりに蒸着する蒸着材料の量、すなわち蒸着レートは、坩堝の加熱温度で制御するが、坩堝温度が安定していても坩堝内材料へは熱伝導などで温度が徐々に伝達されるなどによって、蒸着レートは安定し難い。そこで、蒸発分子の経路内に流量調整バルブを入れ、膜厚センサからの信号を流量調整バルブにフィードバックすることで蒸着レートを安定させる方法がある(例えば、特許文献2)。
【0004】
上記蒸着レートの計測や蒸着レート制御のフィードバックのための膜厚センサには、水晶振動子式膜厚センサが広く使用されている。この水晶振動子式膜厚センサは、水晶振動子に交流電場を印加し、水晶振動子の固有振動数と交流電場の振動数が等しくなったところで共振する現象を利用したものである。水晶振動子表面に金属等の物質が蒸着されると,水晶振動子の固有振動数は低い振動数の方向に変化する。この変化量は蒸着物質の量に比例する。つまり,前述の共振現象を用いてこの共振周波数の変化を精度よく検出することにより蒸着物の膜厚を算出している。
【0005】
しかしながら、水晶振動子の表面上に例えば7000〜8000オングストローム(700〜800nm)もの厚さの蒸着膜が付着すると、共振周波数が低くなり、計測誤差が大きくなるため、もはや水晶振動子として使用することが困難となり、新たな水晶振動子と交換しなければならない。例えば、毎分2オングストローム(0.2nm)の蒸着レートで成膜処理を行うと、60〜70時間程度で水晶振動子の寿命が尽きることとなる。この場合、蒸着源を冷却し、真空チャンバ内を大気圧に戻す必要が生じる。しかし、生産ラインなどでは1週間程度の連続蒸着が求められ、蒸着材料を頻繁に冷却することはできない。例えば、蒸着材料が有機EL用の有機化合物の場合、セラミックスなどの坩堝を用いて300℃程度の加熱することで蒸着を行うが、この坩堝を冷却して再び加熱するには、数時間を要するため、その間の蒸着工程が停止するため、生産性が低下する。
【0006】
そこで、水晶振動子を用いることなく蒸着レートを制御する蒸着装置が、特許文献3に開示されている。この特許文献3に開示された蒸着装置は、真空容器内に坩堝が配置され、さらにこの坩堝に対向して基板ホルダが配設されている。前記坩堝の外周部には、坩堝内に収容される蒸着材を加熱して蒸発させるための加熱手段として電気ヒータが巻装され、また真空容器内には蒸着材の周辺雰囲気の圧力を測定するために圧力センサが配置されており、この圧力センサにコントローラが接続され、さらにコントローラに電気ヒータが接続されている。
【0007】
この構成により、コントローラから電気ヒータに電力が供給され、電気ヒータによってるつぼ内の蒸着材が加熱されると、坩堝から放出された蒸発粒子(気化分子;蒸発された蒸着材)により蒸着材の周辺雰囲気の圧力が高まり、圧力センサによって測定される。ここで、蒸着材の周辺雰囲気の圧力と気化した蒸着材の量(蒸発粒子の流量)との間には一定の相関関係があり、また蒸発粒子の流量と蒸着レートとの間にも一定の相関関係があるため、コントローラは、圧力センサで測定された圧力から蒸着レートを算出することができる。そこで、コントローラは圧力センサにより測定された圧力(測定値)が予め設定されている設定値となるように、電気ヒータに供給する電力量を調整し、これにより、所定の蒸着レートが維持され、基板の表面上に形成される蒸着膜の厚さが制御されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3においては、蒸着材の周辺雰囲気の圧力を測定する1台の圧力センサにより、蒸発粒子の流量を求めている。これは、基板の周囲の圧力変動は少ないとして、基板の周囲の圧力を一定値として扱っているためと考えられるが、実際には蒸発粒子が真空チャンバに放出されると、真空チャンバ中の蒸発粒子量が増大して圧力変動を生じるため、蒸発粒子の流量を計測できているとは言うことができず、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成することができず、蒸着膜に求められる特性を得ることができないという問題があった。
また1台の圧力センサでは、2種類の蒸着材料による共蒸着により蒸着膜を形成するとき、各蒸着材料の蒸着レートを求めることができないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、真空チャンバを大気圧に戻すことなく蒸着レートを連続的に計測でき、生産性の低下を回避できるとともに、蒸発粒子の流量を正確に求めることができ、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成できる蒸着装置を提供することを目的としたものである。
また本発明は、真空チャンバを大気圧に戻すことなく蒸着レートを連続的に計測でき、生産性の低下を回避できるとともに、2種類の蒸着材料により蒸着膜を形成するとき、各蒸着材料の蒸発粒子の流量を正確に求めることができ、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成できる蒸着装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
また請求項
1に記載の発明は、真空槽内において、第1経路により導かれた、蒸発された第1蒸着材料と、第2経路により導かれた、蒸発された、前記第1蒸着材料の蒸着量と比べて蒸着量が小さい第2蒸着材料とを、第3経路において合流させて混合し、蒸発されたこれら2種類の蒸着材料を、被蒸着部材に付着させる蒸着装置であって、前記第1経路に、この第1経路の開度を調節する第1調節手段を設け、前記第2経路に、この第2経路の開度を調節する第2調節手段を設け、前記第2調節手段より下流側の前記第2経路内に、オリフィスを設け、前記第1の調節手段より下流側の第1経路内に、第1圧力センサを設け、前記第3経路内または前記真空槽内に、第2圧力センサを設け、前記第2の調節手段より下流側で、前記オリフィスより上流側の第2経路内に、第3圧力センサを設け、さらに前記オリフィスより下流側の第2経路内に、第4圧力センサを設け、前記第1圧力センサと前記第2圧力センサにより測定された圧力値の圧力差により前記蒸発された第1蒸着材料の流量を求めることにより、前記蒸発された第1蒸着材料の前記被蒸着部材への蒸着レートを計測し、この計測した蒸着レートが所定の蒸着レートとなるように、前記第1調節手段により前記第1経路の開度を調節し、且つ前記第3圧力センサと前記第4圧力センサにより測定された圧力の圧力差により前記蒸発された第2蒸着材料の流量を求めることにより、前記蒸発された第2蒸着材料の前記被蒸着部材への蒸着レートを計測し、この計測した蒸着レートが所定の蒸着レートとなるように、前記第2調節手段により前記第2経路の開度を調節するコントローラを設けたことを特徴とするものである。
【0018】
上記構成によれば、第1圧力センサと第2圧力センサにより測定された圧力の圧力差により、第1調節手段より下流側の第1経路を通過する第1蒸発粒子(蒸発された第1蒸着材料)の流量が正確に測定され、この第1蒸発粒子の被蒸着部材への蒸着レートが計測される。計測された蒸着レートを所定の蒸着レートとするために、第1調節手段によって第1経路の開度を調整することにより、第1蒸発粒子の流量を調節する。
【0019】
またオリフィスのC(コンダクタンス)によりオリフィスの前後に圧力差が生じ、第3圧力センサと第4圧力センサにより測定された圧力の圧力差により、第2調節手段より下流側の第2経路を通過する第2蒸発粒子(蒸発された第2蒸着材料)の流量がより正確に測定され、この第2蒸発粒子の被蒸着部材への蒸着レートが計測される。計測された蒸着レートを所定の蒸着レートとするために、第2調節手段によって第2経路の開度を調整することにより、第2蒸発粒子の流量を調節する。
またオリフィスを設けることにより、オリフィスの上流側の圧力が下流側の圧力よりも大きくなり、第2経路において、第2蒸発粒子の逆流、および第1経路からの第1蒸発粒子の逆流が防止される。
【0020】
また請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の発明であって、前記第2調節手段より下流側の前記第2経路内に設けたオリフィスに代えて、前記第2の調節手段より下流側の第2経路の一部を、この第2経路の径より小さい径の小経路に形成し、前記第3圧力センサを、前記小経路の上流側に取り付け、前記第4圧力センサを前記小経路の下流側に取り付けたことを特徴とするものである。
【0021】
上記構成によれば、小経路のC(コンダクタンス)により前後に圧力差が生じ、この圧力差により、第1蒸着材料の蒸着量と比べて蒸着量が小さい第2蒸着材料の蒸発粒子の流量が、より正確に求められる。
【発明の効果】
【0023】
また本発明の蒸着装置は、4台の圧力センサを設けることにより2つの蒸着材料の蒸着レートを個別に正確に計測することができ、よって各蒸着材料による蒸着膜を正確な割合・蒸着レートで形成でき、蒸着膜に求められる特性を確実に実現でき、さらに水晶振動子式膜厚センサを用いた際に必要であった水晶振動子の交換が不要となり、真空槽を大気に戻すことなく長時間連続的に蒸着レートを計測することが可能となり、よって長時間の連続蒸着が可能となり、生産性の低下を回避でき、さらにオリフィスを設けることにより、第2経路において、第2蒸発粒子の逆流、および第1経路からの第1蒸発粒子の逆流を防止することができる、という効果を有している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1における蒸着装置の構成図であり、
図1に示すように、真空チャンバ(真空槽/蒸着用容器)11内に、真空雰囲気中でガラス基板(被蒸着部材の一例)12の表面(下面)に対して蒸発粒子{蒸発した蒸着材料(例えば、有機EL材料)}を蒸着する蒸着室13が設けられており、真空チャンバ11には、真空ユニットにより真空雰囲気にされる真空ポート(図示せず)が形成されている。また真空チャンバ11の上部にはガラス基板12を保持するワーク保持具15が設けられており、ワーク保持具15に保持されたガラス基板12の下面(被蒸着面)に下方から蒸発粒子を蒸着するアップブロータイプ(アップデポ)に構成されている。
【0027】
真空チャンバ11の下部には、蒸発粒子をガラス基板12へ導く、開口部17aがガラス基板12の下面に対向して配置された材料輸送管(蒸発粒子をガラス基板へ導く経路の一例)17が設けられ、この材料輸送管17には、真空チャンバ11の外方に、その開度を調節することにより蒸発粒子の流量を制御する流量制御バルブ(調節手段の一例;コントロールバルブ)18が設けられている。
【0028】
また真空チャンバ11の外方で、材料輸送管17の上流端には材料収納容器19が設けられ、この材料収納容器19には、ヒータへの通電により蒸着材料を加熱して蒸発粒子を形成する坩堝(図示せず)が設けられ、坩堝より蒸発粒子が材料輸送管17へ供給されている。
【0029】
また真空チャンバ11の内方で、流量制御バルブ18より下流側の材料輸送管17内に第1圧力センサ21が設けられ、また真空チャンバ11内に第2圧力センサ22が設けられている。なお、この第2圧力センサ22は、第1圧力センサ21の下流側の材料輸送管17内に設けてもよい。これら圧力センサ21,22には、気体分子による熱伝導を利用する熱伝導式圧力センサを使用している。
なお、図示していないが、材料収納容器19(坩堝)の他、材料輸送管17、流量制御バルブ18、および圧力センサ21,22を、ヒータへの通電等により加熱している。圧力センサ21,22へ加熱して圧力センサ21,22の温度を周囲温度よりも高温にすることによりセンサ部に蒸発粒子が付着することを回避しており、連続計測を可能としている。
【0030】
また2台の圧力センサ21,22により測定された圧力P1,P2の圧力差(P1−P2)によって蒸発粒子の流量Qを求めることにより、蒸発粒子のガラス基板12への蒸着レートRを計測し、この計測した蒸着レートRが所定の蒸着レートReとなるように、流量制御バルブ18を制御して材料輸送管17の開度を調節するコントローラ24が設けられている。
【0031】
具体的には、コントローラ24には、第1圧力センサ21により測定された圧力P1と第2圧力センサ22により測定された圧力P2が入力され、コントローラ24より流量制御バルブ18へバルブ開度指令L(バルブ開度0〜100%に相当する電気信号)が出力されており、コントローラ24は、
図2に示すように、入力された圧力P1と圧力P2の圧力差を演算する第1減算器31と、この減算器31により演算された圧力差(P1−P2)により材料輸送管17を流れる蒸発粒子の流量Qを求め、求めた蒸発粒子の流量Qによりガラス基板12への蒸発粒子の蒸着レートRを求める蒸着レート演算部32と、予め設定された所定の蒸着レートReとこの蒸着レート演算部32により求められた蒸着レートRとの偏差を求める第2減算器33と、この第2減算器33により求められた偏差を無くすように前記バルブ開度指令Lを出力するPI制御部34から構成されている。
【0032】
前記蒸着レート演算部32は、まず材料輸送管17等のコンダクタンスをCとして、蒸発粒子の流量Qを次の式(1)で求め、さらにこの蒸発粒子の流量Qに蒸着レートRが比例することにより、比例乗数をFとして、蒸着レートRを次の式(2)で求めている。
Q=C×(P1−P2) …(1)
R=F×Q
=G×(P1−P2) …(2)
なお、G=F×C
図3に、蒸着レートRと圧力差(P1−P2)の関係の一例を示す。
【0033】
上記乗数Gは、蒸発粒子の材料、材料収納容器19内の坩堝による蒸着材料の加熱温度、材料輸送管17の流路長(長さ)・材質・径、材料輸送管17の開口部17aとガラス基板12との距離等により異なり、予め実験で求めることができる。実際に圧力センサ21,22を用いて蒸着レートRを計測する具体的方法の一例を以下に示す。
a.ガラス基板12横に水晶振動式膜厚センサを設け、この膜厚センサの指示値Xがほほ一定値となるように蒸着する。
このときの蒸着レートRは、水晶振動式膜厚センサにより測定される蒸着膜厚をDv、蒸着時間をTとすると、以の式(3)で求められる。
R=Dv/T …(3)
b.膜厚センサの指示値Xを上記式で求めた蒸着レートRと同じようになるように膜厚センサのゲインを調整し、膜厚センサ値の校正を行う。
c.蒸着レートRを変化させ、圧力センサ21,22により圧力P1,P2を測定し、膜厚センサ指示値Xとこれら圧力センサ21,22の圧力差(P1−P2)の関係、すなわち上記乗数Gを求める。
d.上記の関係から、圧力差(P1−P2)で蒸着レートRが計測可能となる。
【0034】
上記構成により、2台の圧力センサ21,22を設け、第1圧力センサ21と第2圧力センサ22により測定された圧力の圧力差(P1−P2)を求めることにより、材料輸送管17を通過する蒸発粒子の流量Qが求められ、この蒸発粒子の流量Qは、ガラス基板12への蒸着レートに比例することにより、連続的に蒸着レートRが計測され、この計測された蒸着レートRが所定の蒸着レートReとなるように、流量制御バルブ18が制御されて材料輸送管17の開度が調節され、これにより、蒸発粒子の流量Qが、所定の蒸着レートReに相当する所定の流量に制御され、所定の蒸着レートReでガラス基板12に蒸発粒子が蒸着される。
【0035】
以上のように、本実施の形態1によれば、予め2台の圧力センサ21,22の圧力差(P1−P2)と蒸着レートRの関係を水晶振動子式センサを使用して予め把握しておくことにより、それ以降、水晶振動子式膜厚センサを用いずに圧力センサ21,22のみで蒸着レートRの計測を行うことができ、このとき従来の1台の圧力センサを設けたときと比較して、蒸着レートRを正確に求めることができ、よって正確な所定の蒸着レートReでガラス基板12に蒸発粒子を蒸着でき、すなわち蒸着膜を正確な蒸着レートで形成でき、蒸着膜に求められる特性を確実に実現できる。また水晶振動子式膜厚センサを用いた際に必要であった水晶振動子の交換が不要となり、真空チャンバ11を大気に戻すことなく連続的に蒸着レートRを計測することができ、よって、長時間の連続蒸着が可能となり、生産性の低下を回避できる。
【0036】
[実施の形態2]
図4は本発明の実施の形態2における蒸着装置の構成図であり、
図1に示す蒸着装置の構成に新たに、流量制御バルブ18より下流側の材料輸送管17内にオリフィス41が設けられ、第1圧力センサ21をこのオリフィス41の上流側に取り付け、第2圧力センサ22をこのオリフィス41の下流側に取り付けている。
【0037】
この構成により、実施の形態1と同様に、第1圧力センサ21と第2圧力センサ22により測定された圧力の圧力差(P1−P2)を求めて、連続的に蒸着レートRを計測し、この計測された蒸着レートRが所定の蒸着レートReとなるように、流量制御バルブ18が制御されて材料輸送管17の開度が調節され、所定の蒸着レートReでガラス基板12に蒸発粒子が蒸着される。このとき、オリフィス41を設けたことにより、オリフィス41のC(コンダクタンス)によりオリフィス41の前後に圧力差が生じ、オリフィス41の下流側の圧力が低下し、よって圧力差(P1−P2)が大きくなり、材料輸送管17を通過する蒸発粒子の流量Qが、より正確に計測される。
【0038】
以上のように、本実施の形態2によれば、オリフィス41を設けることにより材料輸送管17を通過する蒸発粒子の流量Qをより正確に計測でき、よって、より正確に連続的に蒸着レートRを計測でき、正確に所定の蒸着レートReでガラス基板12に蒸発粒子を蒸着できる。
【0039】
[実施の形態3]
図5は本発明の実施の形態3における蒸着装置の構成図であり、例えば、有機ELのデバイスを作製する際、発光効率の向上のために2種類の有機材料を同時に成膜する共蒸着を実現する蒸着装置の構成図である。前記2種類の有機材料のうち、蒸発する際に濃度が濃い有機材料(以下、材料Bと呼す;第1蒸着材料の一例)と、蒸発する際に濃度が薄い有機材料(以下、材料Sと呼す;第1蒸着材料の蒸着量と比べて蒸着量が小さい第2蒸着材料の一例)との濃度の比率は、10〜100:1としている。
【0040】
図5に示すように、実施の形態1に示す材料輸送管17に代えて、分岐管45が設けられ、この分岐管45の一方の分岐部45A(第1経路の一例)により導かれた前記材料Bの第1蒸発粒子と、他方の分岐部45B(第2経路の一例)により導かれた前記材料Sの第2蒸発粒子とを、分岐管45の合流部45C(第3経路の一例)において合流させて混合し、これら2種類の蒸発粒子を、ガラス基板12に付着させるように構成されている。
【0041】
前記一方の分岐部45Aに、この一方の分岐部45Aの開度を調節する第1調節手段として第1流量バルブ18Aが設けられ、他方の分岐部45Bに、この他方の分岐部45Bの開度を調節する第2調節手段として第2流量バルブ18Bが設けられている。
【0042】
またこの2種類の有機材料を同時に成膜する共蒸着では、材料Sが通る経路にはオリフィスが必要となり、具体的には、第2流量バルブ18Bより下流側の他方の分岐部45B内に、オリフィス41が設けられている。これは、材料Sが蒸発する際に材料Bに対して圧力が低くなるために発生する、他方の分岐部45Bにおける材料Sおよび材料Bの逆流を防ぐためであり、オリフィス41を設けて、オリフィス41の上流の圧力を下流側の圧力よりも大きくしている。
このとき、オリフィス41の径は、共蒸着を行う前に材料Bおよび材料Sをそれぞれ単独でバルブ18A,18Bの開度に対する圧力センサの指示値を把握しておき、実際に共蒸着を行うときに材料Sが通る他方の分岐部45Bに設けているオリフィス41の上流の圧力が下流側の圧力よりも大きくなるように、選択される。
【0043】
また真空チャンバ11の外方で、一方の分岐部45Aの上流端には第1材料収納容器19Aが設けられ、この第1材料収納容器19Aには、ヒータへの通電により第1蒸着材料を加熱して第1蒸発粒子を形成する坩堝(図示せず)が設けられ、第1蒸発粒子が一方の分岐部45Aへ供給されている。また真空チャンバ11の外方で、他方の分岐部45Bの上流端には第2材料収納容器19Bが設けられ、この第2材料収納容器19Bには、ヒータへの通電により第2蒸着材料を加熱して第2蒸発粒子を形成する坩堝(図示せず)が設けられ、第2蒸発粒子が他方の分岐部45Bへ供給されている。
【0044】
また前記第1圧力センサ21は、前記第1流量バルブ18Aより下流側の一方の分岐部45A内に設けられ、前記第2圧力センサ22は、真空チャンバ11内に設けられている。なお、第2圧力センサ22は分岐管45の合流部45Cに設けるようにしてもよい。
また第2流量バルブ18Bより下流側で、オリフィス41より上流側の他方の分岐部45B内に、第3圧力センサ46が設けられ、オリフィス41より下流側の他方の分岐部45B内に、第4圧力センサ47が設けられている。これら第3圧力センサ46と第4圧力センサ47には、圧力センサ21,22と同様に熱伝導式圧力センサを使用している。
なお、図示していないが、実施の形態1と同様に、2台の材料収納容器19A,19B(坩堝)の他、分岐管45、2台の流量制御バルブ18A,18B、オリフィス41、および4台の圧力センサ21,22,46,47を、ヒータへの通電等により加熱している。圧力センサ21,22,46,47へ加熱して圧力センサ21,22,46,47の温度を周囲温度よりも高温にすることによりセンサ部に蒸発粒子が付着することを回避しており、連続計測を可能としている。
【0045】
コントローラ24’には、圧力センサ21,22,46,47により測定された圧力が入力され、コントローラ24’は、第1流量バルブ18Aと第2流量バルブ18Bの開度を制御している。
すなわち、コントローラ24’は、第1圧力センサ21により測定された圧力P1と第2圧力センサ22により測定された圧力P2の圧力差(P1−P2)により第1蒸発粒子の流量を求めることにより、第1蒸発粒子のガラス基板12への蒸着レートR1を計測し、この計測した蒸着レートR1が所定の蒸着レートRe1となるように、第1流量バルブ18Aへバルブ開度指令L1を出力して一方の分岐部45Aの開度を調節し、且つ第3圧力センサ46により測定された圧力P3と第4圧力センサ47により測定された圧力P4の圧力差(P3−P4)により第2蒸発粒子の流量を求めることにより、第2蒸発粒子のガラス基板12への蒸着レートR2を計測し、この計測した蒸着レートR2が所定の蒸着レートRe2となるように、第2流量バルブ18Bへバルブ開度指令L2を出力し、他方の分岐部45Bの開度を調節している。
【0046】
上記構成により、コントローラ24’によって、第1圧力センサ21と第2圧力センサ22により測定された圧力P1,P2の圧力差(P1−P2)に基づいて、所定の蒸着レートRe1とするように、一方の分岐部45Aの開度が調整され、第1蒸発粒子の流量が調節される。
【0047】
またオリフィス41によりオリフィス41の前後に圧力差が生じ、コントローラ24’によって、第3圧力センサ46と第4圧力センサ47により測定された圧力P3,P4の圧力差(P3−P4)に基づいて、所定の蒸着レートRe2とするように、他方の分岐部45Bの開度が調整され、第2蒸発粒子の流量が調節される。またオリフィス41を設けることにより、オリフィス41の上流側の圧力P3が下流側の圧力P4よりも大きくなり、第2蒸発粒子の逆流、および一方の分岐部45Aからの第1蒸発粒子の逆流が防止される。
【0048】
以上のように、本実施の形態3によれば、4台の圧力センサ21,22,46,47を設けることにより、2つの蒸着材料の蒸着レートR1,R2を個別に正確に計測することができ、よって正確な所定の蒸着レートRe1,Re2でガラス基板12に各蒸着材料の蒸発粒子を蒸着でき、すなわち各蒸着材料による蒸着膜をそれぞれ正確な割合・蒸着レートで形成でき、蒸着膜に求められる特性を確実に実現できる。
また従来のように蒸着膜が厚くなると水晶振動子式膜厚センサの水晶振動子を交換する必要がなくなり、よって長時間の2種類の有機材料を同時に成膜する連続共蒸着が可能となり、生産性の低下を回避できる。また共蒸着する際、水晶振動子式センサを用いるとそれぞれの蒸着レートR1,R2を個別に計測することはできないが、圧力センサ21,22,46,47を用いることにより個別に計測できる。
【0049】
また本実施の形態3によれば、オリフィス41を設けることにより、他方の分岐部45Bにおける、第2蒸発粒子の逆流、および一方の分岐部45Aからの第1蒸発粒子の逆流を防止することができる。
【0050】
なお、上記本実施の形態2では、オリフィス41を設けているが、
図6に示すように、オリフィス41に代えて、流量制御バルブ18より下流側の材料輸送管17の一部に、これら経路の径より小さい径の小経路51を形成し、第1圧力センサ21をこの小経路51の上流側に取り付け、第2圧力センサ22をこの小経路51の下流側に取り付けるようにしてもよい。また同様に、本実施の形態3においても、オリフィス41に代えて、第2流量バルブ18Bより下流側の他方の分岐部45Bの一部に、これら経路の径より小さい径の小経路51を形成し、第3圧力センサ46をこの小経路51の上流側に取り付け、第4圧力センサ47をこの小経路51の下流側に取り付けるようにしてもよい。
このように、小経路51を設けることにより、この小経路51のC(コンダクタンス)によって小経路51の前後の圧力差が大きくなることによって、より正確に流量が求めることができる。
【0051】
また本実施の形態1〜3では、圧力センサ21,22,46,47を蒸着粒子が流れる経路17,45B内に設けているが、
図7に示すように、蒸発分子が通過する経路17,45Bに、蒸発粒子が通過する経路以外の空間52を設けて、できるだけ静圧空間と形成し、この空間52に圧力センサ21,22,46,47を設けることにより、更に計測精度の向上を図ることができる。
【0052】
また本実施の形態1〜3では、ワーク保持具15に保持されたガラス基板12の下面(被蒸着面)に下方から蒸発粒子を蒸着するアップブロータイプ(アップデポ)の構成としているが、蒸着方向の向きを選ばない構成、すなわちサイドデポ、あるいはダウンデポの構成とすることもできる。