【文献】
社団法人日本道路協会,道路土工−のり面工・斜面安定工指針,社団法人日本道路協会,2007年 3月15日,改訂版第15刷,P.136〜139、表3−1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切土工程および前記切土法面処理工程のいずれか少なくとも一方の工程を、ワイヤーに支持された加工機械を用い、前記ワイヤーの牽引力を利用して前記加工機械を前記縦方向分割施工区域内で移動させて実施する請求項1又は2記載の地山斜面の安定化工法。
前記切土工程又は前記切土法面処理工程の実施する前記加工機械は、幅方向に間隔をおいて一対のワイヤーが設けられており、前記各ワイヤーの上端を前記縦方向分割区域の上方で支持し、前記各ワイヤーの牽引力を利用して前記加工機械を前記縦方向分割施工区域内で移動させ、一の縦方向分割施工区域における切土工程又は切土法面処理工程を実施したのち、前記各ワイヤーで前記加工機械を前記縦方向分割施工区域の上部にまで移動させ、ついで、当該加工機械を他の縦方向分割施工区域に移動させて当該他の縦方向分割施工区域内の切土工程又は切土法面処理工程を実施する請求項3記載の地山斜面の安定化工法。
前記一対のワイヤーは、前記縦方向分割施工区域の上方で支持された部位における該一対のワイヤー間の間隔が、前記加工機械に支持された部位における該一対のワイヤー間の間隔よりも広くなるように張設されている請求項4記載の地山斜面の安定化工法。
前記加工機械として、前記ワイヤーを巻き取りまたは巻き戻すウインチが設けられ、かつ当該ウインチよりも前方に一定間隔をおいて前記ワイヤーが巻き掛けられるガイド部材が設けられているものを使用する請求項1〜5のいずれか1に記載の地山斜面の安定化工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の逆巻工法には次のような問題がある。
まず、上段の施工区域の切土施工と切土法面の安定化処理が完了するまでは下段の施工区域の工事に進むことができないという問題である。上段の施工区域の工事完了前に下段の施工区域の工事に着手すると、上段の施工区域の崩落や作業足場の損壊などが発生する恐れがあるからである。
【0006】
このため、ある施工区域において、切土施工に用い、それに続く切り土法面処理工事にあっては既に不要である加工機械であっても、切土法面処理工事が完了するまでは当該施工区域に放置しておかなければならないという問題もある。そのため、高価な加工機械を徒に遊休させることになり、その使用効率は著しく低下し、工期を長引かせるとともに工事費を高めることにもなる。また、下段の施工区域に工事を進める場合には、これら加工機械や解体した作業足場などを下段の施工区域に移動させなければならないのであるが、それは多大な時間と労力を必要とする。
【0007】
また、ある施工区域において形成された切土法面の高さが高くかつ傾斜が比較的なだらかであり、そしてそこに切土法面処理工事を実施する場合には、作業足場は当該切土法面の最底部ではなく、切土法面そのものに組み立てることが必要になるのであるが、それは作業足場を極めて不安定なものにするという問題もある。
【0008】
本発明は、上記した問題に鑑みなされたものであり、切土法面の安定化処理の完了を待つことなく次の施工区域の工事を可能とし、それにより、加工機械の遊休期間の短縮、工期の短縮、工事費の削減を実現することができる地山斜面の安定化工法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため、本発明者は、従来の逆巻工法の上記した問題が切土対象とする地山斜面の全幅に亘って横切る施工区域を設定していることに起因することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の地山斜面の安定化工法は、地山斜面を切土して切土法面を形成する切土工程と形成された当該切土法面を処理する切土法面処理工程とを有する地山斜面の安定化工法であって、切土対象の地山斜面を幅方向に沿って複数に区分し、前記地山斜面の上下方向に沿った縦方向分割施工区域を複数設定し、前記複数の縦方向分割施工区域のうち、一の縦方向分割加工区域に切土工程を実施したのち、当該縦方向分割加工区域における切土法面処理工程と、次の縦方向分割施工区域における切土工程とを共に実施することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の地山斜面の安定化工法は、地山斜面を切土して切土法面を形成する切土工程と形成された当該切土法面を処理する切土法面処理工程とを有する地山斜面の安定化工法であって、切土対象の地山斜面を上下方向に沿って複数に区分して横方向分割施工区域を設定するとともに、前記横方向分割施工区域ごとにその幅方向に沿って複数に区分し、前記地山斜面の上下方向に沿った複数の縦方向分割施工区域を設定し、前記横方向分割施工区域のうち上段に位置する横方向分割施工区域において、当該横方向分割施工区域内に位置する前記複数の縦方向分割施工区域のうち、一の縦方向分割施工区域に切土工程を実施したのち、当該縦方向分割施工区域における切土法面処理工程と、当該横方向分割施工区域内又はその下段の横方向分割施工区域内に位置する次の縦方向分割施工区域に切土工程とを共に実施し、その後、順次、より下段に位置する横方向分割施工区域において前記切土処理及び前記切土法面処理を実施することを特徴とする。
【0012】
前記切土工程および前記切土法面処理工程のいずれか少なくとも一方の工程を、ワイヤーに支持された加工機械を用い、前記ワイヤーの牽引力を利用して前記加工機械を前記縦方向分割施工区域内で移動させて実施することが好ましい。
【0013】
前記切土工程又は前記切土法面処理工程の実施する前記加工機械は、幅方向に間隔をおいて一対のワイヤーが設けられており、前記各ワイヤーの上端を前記縦方向分割区域の上方で支持し、前記各ワイヤーの牽引力を利用して前記加工機械を前記縦方向分割施工区域内で移動させ、一の縦方向分割施工区域における切土工程又は切土法面処理工程を実施したのち、前記各ワイヤーで前記加工機械を前記縦方向分割施工区域の上部にまで移動させ、ついで、当該加工機械を他の縦方向分割施工区域に移動させて当該他の縦方向分割施工区域内の切土工程又は切土法面処理工程を実施することが好ましい。
【0014】
前記一対のワイヤーは、前記縦方向分割施工区域の上方で支持された部位における該一対のワイヤー間の間隔が、前記加工機械に支持された部位における該一対のワイヤー間の間隔よりも広くなるように張設されていることが好ましい。
【0015】
前記加工機械として、前記ワイヤーを巻き取りまたは巻き戻すウインチが設けられ、かつ当該ウインチよりも前方に一定間隔をおいて前記ワイヤーが巻き掛けられるガイド部材が設けられているものを使用することが好ましい。
【0016】
前記切土法面処理工程にはアンカー工を実施する工程を含み、前記アンカー工を実施する際に、アウターケーシングとインナーロッドとの二重管式の削孔部材と前記削孔部材を移動可能に支持するガイドシェルとを備えた加工機械であって、前記アウターケーシングとインナーロッドを、削孔時には切土法面の所定の位置に向かって共に前記ガイドシェルに沿って前進移動させ、削孔後、前記アウターケーシングを削孔内に位置させたまま、前記インナーロッドを前記ガイドシェルに沿って後退移動させ、その後、前記インナーロッドを取り外すことなく前記アウターケーシングを前記ガイドシェル上に後退させることができる加工機械を用いることが好ましい。
【0017】
前記加工機械として、前記ガイドシェルに沿って移動可能であると共に、前記アウターケーシング及びインナーロッドが接続され、前記アウターケーシング及びインナーロッドによる削孔を実施する際の駆動力を付与するドリフタと、前記ドリフタとは独立して前記ガイドシェルに沿って移動可能であると共に、前記アウターケーシングを保持可能な回転引抜装置とを有し、前記アウターケーシング及びインナーロッドによる削孔後、前記アウターケーシングを前記回転引抜装置に保持させると共に前記ドリフタとの接続を解除し、前記アウターケーシングを前記削孔内に位置させたまま、前記ドリフタを後退させて前記インナーロッドを前記ガイドシェルの待機位置に復帰させ、前記削孔内に位置する前記アウターケーシング内への充填材の充填作業後、前記アウターケーシングを保持した前記回転引抜装置を後退させ、待機状態の前記インナーロッドの周囲に、前記アウターケーシングを外挿して前記ドリフタに再接続可能な構成のものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、切土対象の地山斜面の幅方向に複数の縦方向分断施工区域を設定し、その縦方向分断施工区域に対して切土工程や切土法面処理工程を実施することができる。そのため、例えば地山斜面の幅方向に隣接して設定されている縦方向分割施工区域に対して、切土工程とそれに続く切土法面処理工程を順次連続して実施することができる。すなわち、先に切土工程を実施した縦方向分割施工区域における切土法面処理工程の完了を待つことなく、当該縦方向分割施工区域の切土法面処理工程と、次の縦方向分割施工区域の切土工程とを共にすなわち並行して実施でき、作業効率の向上を図ることができる。特に、切土法面形成用の加工機械あるいは形成された切土法面処理用の加工機械を用いた場合には、各加工機械を遊休させることなく、工期の短縮、工事費の削減を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の安定化工法は、切土施工を行って切土法面を形成する工程(切土工程)と、切土工程で形成された切土法面に切土法面処理を施して当該切土法面を安定化させる工程(切土法面処理工程)を有しているが、説明の都合上、まず、切土工程で実施される切土工法について説明する。この切土工法には、本発明の第1の実施形態に係る安定化工法で適用される第1切土工法と第2の実施形態に係る安定化工法で適用される第2切土工法の2つの態様がある。まず、
図1に基づき、第1の実施形態に係る安定化工法で適用される第1切土工法について説明する。
【0021】
この工法は、切土対象の地山斜面の面積が比較的小さい場合や、地山斜面の面積は小さくないが土質が強固で切土しても崩落や地滑りなどが発生しないような地山斜面に適用される。
【0022】
この工法では、まず工事に先立ち、切土対象の地山斜面に当該地山斜面の上下方向に延びる複数の縦方向分割施工区域を設定する。地山斜面の全面を一度に切土すると、当該地山斜面の崩落や地滑りなどが起こる危険性もあるので、それを避けるために本発明の第1切土工法では切土施工する箇所を予め複数に分割しておく。すなわち縦方向分割施工区域の設定個数は複数個に設定される。各縦方向分割施工区域の幅は制限されるものではなく、土質等を考慮して現場毎に適宜の幅に設定される。また、各縦方向分割施工区域の幅は等幅であってもよいし、異なる幅であってもよい。
【0023】
例えば、
図1で示したように、全幅がWである地山斜面を3つに区分して分割することにより、地山斜面の頂部から底部にまで至る上下方向に延び、幅がそれぞれW1、W2、W3である3つの縦方向分割施工区域A1、A2、A2を設定する。縦方向分割施工区域A1、A2、A3のそれぞれにつき、地山斜面の上方から下方に向けて切土施工を実施する。具体的には、例えば縦方向分割施工区域A1に対してその頂部から底部に向かう切土施工を実施して当該縦方向分割施工区域A1を切土法面Aに整形し、そこが終われば次の縦方向分割施工区域A2の切土施工に移るという態様で切土施工は進められていく。
【0024】
このときの切土施工には、従来用いられている各種の施工方法で実施される。自走式の加工機械で行う場合もあるし、人力で行う場合もある(ここでいう「人力」とは自走式の加工機械で行うのではなく、施工対象場所で人が種々の道具をを用いて行う作業である)。なお、この点は、後述の第2切土工法においても同様であるし、また、第1安定化工法及び第2安定化工法における切土法面処理工程の作業でも同様である。自走式の加工機械を用いる際、施工対象の法面が、加工機械の自走での登坂能力(通常、30〜35度)以下の場合には、自走しながら作業を行うことができることはもちろんであるが、施工対象の法面が、加工機械の自走での登坂能力(通常、30〜35度)を越える斜度の場合には、加工機械側と縦方向分割施工区域の上方との間に少なくとも1本のワイヤーを掛け渡し、このワイヤーを巻き取り巻き戻すようにして、加工機械の自走での登坂能力にワイヤーによる牽引力を付加できる構成とすることが好ましい。これにより、加工機械の自走での登坂能力を越える急傾斜地でも安定した施工が可能となる。
【0025】
但し、登坂能力を超える急傾斜地においてより安定した作業を可能とするために、例えば特公平7−100944号公報に開示されているような加工機械を以下の態様で駆動させて切土施工を行うことが好ましい。すなわちその加工機械1は、
図1で示したように、架台の両側に例えば無限軌道や車輪からなる走行部1a、1bを備えていて自走可能であり、また旋回自在でかつ水平姿勢の維持が可能な作業台と切土するための掘削手段(ショベル)が搭載されたバックホー等から構成される。そして、この加工機械1には、幅方向に一定間隔をおいて一対のワイヤー2a、2bが配設されている。具体的には、例えば加工機械1の架台の前後方向中央付近から後端部までの間の任意位置に幅方向に一定間隔をおいて一対のウインチ3a、3bが搭載され、そしてウインチ3aにワイヤー2aが巻回され、ウインチ3bにワイヤー2bが巻回されている。ウインチ3a、3bに巻回されたワイヤー2a、2bは前方に引き出され、さらに、架台の前端部付近に設けたガイド部材31a、31bに巻き掛けられている。一方、縦方向分割施工区域A1の上方に一対の支持具4a、4bを固定配置し、ここに前記した各ワイヤー2a、2bの上端を結合する。加工機械1の自重により支持具4a、4bとウインチ3a、3b間にはワイヤー2a、2bが張設され、当該加工機械1は縦方向分割施工区域A1の上部に配置され、支持される。
【0026】
このとき、一対の支持具4a、4b間の間隔を、加工機械1における一対のワイヤー2a、2b間の間隔(ウインチ3a、3b間の間隔)よりも広くして、支持具4a、4bと加工機械1との間で張設されているワイヤー2a、2bの平面視形状が、
図1で示したように、逆ハの字状にすることが好ましい。加工機械1の縦方向分割施工区域A1内における駆動動作の自由度が高まり、同時に加工機械1の駆動動作時における安定性が高まるからである。また、加工機械1として、走行部1a、1b及び架台は、法面と同角度傾斜するが、作業性やエンジンの姿勢を考慮して作業台が常に水平姿勢を保つように制御できるものを用いた場合、すなわち、法面の傾斜に応じて、走行部1a、1b及び架台に対して、作業台の前端側を中心として後端側が上方に回動するように制御できるものを用いた場合、法面の傾斜が急になるほど、作業台は架台に対して離隔するため、加工機械1の安定性は低下し、左右に傾倒しやすくなるほか、後方へも転倒しやすくなる。ところが、本実施形態のように、逆ハの字状に張設した一対のワイヤー2a、2bに支持させることにより、このような姿勢における加工機械1の安定性が確保される。
【0027】
ここで、ウインチ3a、3bは、走行部1a、1bを支持する架台の前端部付近に設けることもできるが、本実施形態のように、架台の前後方向中央付近から後端部までの間に配置し、前端部付近にはガイド部材31a、31bを設けることが好ましい。ワイヤー2a、2bは上記したように逆ハの字状に張設されることになるため、これを直接ウインチ3a、3bに巻回させると、ワイヤー2a、2bが偏って巻き付けられるなどの弊害が生じる場合がある。そこで、逆ハの字状に張設されるワイヤー2a、2bを架台の前端付近に配置したガイド部材31a、31bで一旦受けて方向を制御し、ウインチ3a、3bの軸方向に略直交する方向に沿ってワイヤー2a、2bが出し入れされるようにすることが好ましい。このようなガイド部材31a、31bとしては、ローラー、滑車、フェアリーダー、ユニバーサルフェアリーダー等を用いることができる。また、各ワイヤー2a、2bの上端を縦方向分割施工区域A1の上方に配置した一対の支持具4a、4bに結合しているが、一対の支持具4a、4bとしては、アンカーボルトのようなものであってもよいし、立木等を用いることもできる。
【0028】
切土施工は次のように行われる。まず、上記のようにワイヤー2a、2bに支持された加工機械1を縦方向分割施工区域A1の最上部に配置する。次に、ワイヤー2a、2bを繰り出しながら下方に移動しつつ加工機械1を操作して切土していく。上方から下方に順に切土していくと、最終的に加工機械1は、縦方向分割施工区域A1の最底部に至ることになる。なお、その途中において、ウインチ3a、3bをそれぞれ独立してワイヤー2a、2bの巻き取り、巻き戻しを適宜に行って加工機械1を縦方向分割施工区域A1内で可能な範囲で上下左右方向へ移動させことはできるが、基本的には、上方から下方へと作業を実施していく。
【0029】
縦方向分割施工区域A1の切土施工が終了したならば、ウインチ3a、3bによってワイヤー2a、2bを巻き取り、当該縦方向分割施工区域A1の最底部(造成された平坦な小段)に位置する加工機械1をその自走力に併せてワイヤー2a、2bの牽引力を利用して、形成された切土法面Aの頂部にまで移動させる。次に、隣接する縦方向分割施工区域A2の頂部に加工機械1を移動する。縦方向分割施工区域A2の頂部に固定配置された一対の支持具(立木等も可)に一対のワイヤ−2a、2bを結合して、加工機械1を縦方向分割施工区域A2の上方から下方に向かって、前記した態様で再び切土施工を行う。この作業を順次行うことにより、切土対象の地山斜面の全てが切土法面Aに整形される。
【0030】
次に、
図2に基づき、本発明の第2の実施形態に係る安定化工法で適用される第2切土工法について説明する。
この工法は、切土対象の地山斜面が比較的大面積である場合や、それほど大面積ではないが土質が軟弱で切土施工時に崩落や地滑りを起こす危険性が想定される地山斜面に適用される。
【0031】
この工法では、まず、切土対象の地山斜面に当該地山斜面の幅方向に延びる複数の横方向分割施工区域を設定し、さらに横方向分割施工区域ごとに当該地山斜面の上下方向に延びる複数の縦方向分割施工区域を設定する。その場合、横方向分割施工区域の設定は従来の逆巻工法に準じて行えばよく、そして縦方向分割施工区域の設定は上記した本発明の第1切土工法を適用して行えばよい。なお、各縦方向分割施工区域の幅は制限されるものではなく、土質等を考慮して現場毎に適宜の幅に設定され、各縦方向分割施工区域の幅は等幅であってもよいし、異なる幅であってもよいことは上記第1切土工法と同様である。
【0032】
また、各段の横方向分割施工区域のそれぞれにおける縦方向分割施工区域の設定個数は同じであっても異なっていてもよく、その個数は地山斜面の土質の状態や面積の大小を考慮して適宜に選択すればよい。
【0033】
例えば、
図2で示したように、上下方向の斜面全長がLである地山斜面を3つに分割することにより、地山斜面の幅方向に延び、上下方向の長さがそれぞれL1、L2、L3である3つの横方向分割施工区域B1、B2、B3を設定する。次に、それぞれの横方向分割施工区域ごとに、前記した第1切土工法の場合と同じようにして複数の縦方向分割施工区域を設定する。
図2の場合は、最上段の横方向分割施工区域B1に4つの縦方向分割施工区域A1〜A4が、中段の横方向分割施工区域B2に5つの縦方向分割施工区域A5〜A9が、そして最下段の横方向分割施工区域B3に6つの縦方向分割施工区域A10〜A15が設定されている。
【0034】
第2切土工法では、まず最上段の横方向分割施工区域B1において、縦方向分割施工区域A1について前記した第1切土工法と同じ態様で、すなわち、上方から下方に向かって切土施工を行う。次に、隣接する縦方向分割施工区域A2について同様に切土施工を行って、さらに縦方向分割施工区域A3、A4について、順次、切土施工を行う。これにより、横方向分割施工区域B1の全体が切土法面Aに整形される。
【0035】
このとき、同じ横方向分割施工区域内のある縦方向分割施工区域から隣接する縦方向分割施工区域の切土施工に移る場合は、前記した第1切土工法と同様の作業を行えばよい。すなわち、例えば縦方向分割施工区域A1の切土施工が終了して当該施工区域の最底部(横方向分割施工区域B1に造成された小段)に位置する加工機械1を、ワイヤー2a、2bで牽引して縦方向分割施工区域A1の上部にまで移動させ、他方で縦方向分割施工区域A2の頂部に新たに一対の支持具を固定配置し(一対の支持具として立木等を利用できる点は上記と同様である)、そこに加工機械1の一対のワイヤーを結合して、当該加工機械1を縦方向分割施工区域A2の上部に移動配置したのち駆動して、当該縦方向分割施工区域A2の切土施工を実施する。
【0036】
また、ある横方向分割施工区域の完了して下段の横方向分割施工区域の切土施工に移る場合、例えば横方向分割施工区域B1全体の切土施工が完了した場合は、一対の支持具を横方向分割施工区域B2に設定されている縦方向分割施工区域A5の上方に位置する地山斜面の頂部に固定配置し、それにワイヤー2a、2bを結合して加工機械1を縦方向分割施工区域A5の上部に移動配置し、以後、縦方向分割施工区域A5から縦方向分割施工区域A9まで順次切土施工を行って当該横方向分割施工区域B2の全体を切土法面に整形する。そしてその後、同様にして加工機械1を横方向分割施工区域B3に設定されている縦方向分割施工区域A10に移動配置して縦方向分割施工区域A10から縦方向分割施工区域A15まで順次切土施工を行って、地山斜面全体の切土施工を完了する。
【0037】
なお、
図2では加工機械1を支持する支持具4a、4bを地山斜面の頂部に固定して各段の横方向分割施工区域に切土施工を行う事例を示したが、上段の切土施工が完了したら、支持具を、上段の横方向分割施工区域の最底部(造成された小段)または下段の横方向分割施工区域の上部に固定配置して加工機械を当該下段の横方向分割施工区域に移動配置してそこの切土施工を行うこともできる。
【0038】
第2切土工法においても、人力によって作業したり、自走式の加工機械を用いて作業したりすることができるが、上記のように、ワイヤーで支持した加工機械を利用して切土施工を行うと、地山の斜面に沿った高さ方向に長くなるように施工区域(縦方向分割施工区域)を設定した際に、加工機械は最底部から最上部へと移動することが容易であり、不安定な作業足場を組むことなく実施でき、作業スピードを向上させ、工事費の低減に寄与する。
【0039】
次に、
図3に基づき、本発明の第1の実施形態に係る安定化工法(第1安定化工法)について説明する。
この工法は、前記した第1切土工法で形成された切土法面に切土法面処理を施して当該切土法面を安定化させる工程(切土法面処理工程)を進めながら、次の縦方向分割施工区域に切土施工を行って切土法面を形成する工程(切土工程)を行うという態様で、一方の縦方向分割施工区域と他方の縦方向分割施工区域同士とで、切土工程と切土法面処理工程を並列して行う工法である。
【0040】
この工法では、
図3で示したように、まず、第1切土工法によって切土対象の地山斜面に複数の縦方向分割施工区域が設定され、そしてその1つに第1切土工法を適用してそこを切土法面Aに整形する。従って、その時点では残りの縦方向分割施工区域A2、A3は未施工の地山斜面のままになっている。
【0041】
次に、整形された切土法面Aに対して切土法面処理工程が実施され、これと並列して、隣接する縦方向分割施工区域A2に対して切土工程が実施される。具体的には、例えば、縦方向分割施工区域A2の頂部に一対の支持具4a、4bを固定配置し、そこに加工機械1に設けられている一対のワイヤー2a、2bのそれぞれ上端を結合して当該加工機械1を縦方向分割施工区域A2の上部に移動配置し、その加工機械1を駆動して縦方向分割施工区域A2の上方から下方に向けて切土工程を実施する。
【0042】
一方、縦方向分割施工区域A1に属する既に整形された切土法面Aの頂部には、例えば、新たに一対の支持具4A、4Bが固定配置され、ここに、切土法面処理用の加工機械1’が新たに接続される。すなわち、一対のワイヤー2A、2Bを備え、それらを巻き取りまたは巻き戻す一対のウインチ3A、3Bが幅方向での間隔をおいて配設されている加工機械1’の当該各ワイヤー2A、2Bの上端をそれぞれ支持具4A、4Bに結合することにより、加工機械1’を切土法面Aの上部に配置して支持する。そして、当該加工機械1’を駆動して切土法面Aの上方から下方に向けて所定の切土法面処理工程を実施する。この場合も、第1切土工法の場合と同じように、一対の支持具4A、4B間の間隔を、加工機械1’における一対のワイヤー2A、2B間の間隔(ウインチ3A、3B間の間隔)よりも広くして、支持具4A、4Bと加工機械1’との間で張設されているワイヤー2A、2Bの平面視形状が、逆ハの字状にすることが好ましい。また一対のウインチ3A、3Bの前方に一定間隔をおいて一対のフェアリーダ等のガイド部材31A、31Bを配設することが好ましい。
【0043】
縦方向分割施工区域A2の切土工程が終了してそこが切土法面に整形されれば、上記態様と同様にして、その切土法面に対する切土法面処理工程と隣接する縦方向分割施工区域A3に対する切土工程が並行して実施される。
【0044】
次に、
図4に基づき、本発明の第2の実施形態に係る安定化工法(第2安定化工法)について説明する。
この工法は、前記した第2切土工法で形成された切土法面に切土法面処理工程を実施しして当該切土法面を安定化させながら、これと並列的に、次に工事すべき未施工の縦方向分割施工区域に対して切土工程を実施する工法である。
【0045】
以下にこの工法を
図4で示した例を参照して説明する。
図4の例では、切土対象の地山斜面に3つの横方向分割施工区域B1、B2、B3を設定し、横方向分割施工区域B1には4つの縦方向分割施工区域A1〜A4を、横方向分割施工区域B2には同じく4つの縦方向分割施工区域A5〜A8を、横方向分割施工区域B3にも同じく4つの縦方向分割施工区域A9〜A12を設定している。
【0046】
また、
図4では、既に、横方向分割施工区域B1内の縦方向分割施工区域A1、A2、A3までは切土工程とそれに続く切土法面処理工程が完了していて、その処理面は安定化処理法面A0になっているが、縦方向分割施工区域A4の場合は切土工程だけが終了していて、その法面は未処理の切土法面Aの状態を示している。そして、縦方向分割施工区域A4で既に切土工程を実施してそこを切土法面Aに整形した加工機械1が、前記した第1安定化工法の場合と同じように、横方向分割施工区域B1の下段の横方向分割施工区域B2内に位置する縦方向分割施工区域A5に移動配置され、また未だ切土法面処理工程が実施されていない縦方向分割施工区域A4に切土法面処理用の加工機械1’が新たに配置された状態を示している。
【0047】
従って、切土施工用の加工機械1は一対の支持具4a、4bと一対のウインチ3a、3bとの間に平面視形状が逆ハの字状に張設された一対のワイヤー2a、2bで縦方向分割施工区域A5の上に配置されて支持されており、また切土法面を処理する加工機械1’は縦方向分割施工区域A4の頂部に新たに固定配置された一対の支持具4A、4Bと一対のウインチ3A、3Bとの間に同じく平面視形状が逆ハの字状に張設された一対のワイヤー2A、2Bを介して切土法面Aに配置されて支持されている。
【0048】
この状態で、切土法面Aの上方から下方に向けて加工機械1’を駆動させて当該切土法面Aに対する切土法面処理工程が実施されて当該切土法面Aを安定化処理法面A0にする工事が進められる。これと並列して、縦方向分割施工区域A5の上方から下方に向けて加工機械1を駆動させて当該縦方向分割施工区域A5に対する切土工程が実施されて当該縦方向分割施工区域A5を切土法面Aにする工事が独立して進められる。
【0049】
これらの各区域の工事が終了すると、加工機械1を前記した第1安定化工法と同様の作業を行って次の縦方向分割施工区域A6に移動配置してそこでの切土工程を実施し、また加工機械1’を第1安定化工法と同様にして既に切土工程が終了している縦方向分割施工区域A5の切土法面Aに移動配置してそこでの切土法面処理工程を実施するという態様で、切土工程と切土法面処理工程を同時進行で実施させる。そして、横方向分割施工区域B2の各縦方向分割施工区域A5〜A8に引き続き、最下段の横方向分割施工区域B3の各縦方向分割施工区域A9〜A12においても同様の作業を行い、最終的に、全ての面を安定化処理面に施工する。
【0050】
上記した第1及び第2の実施形態に係る第1及び第2安定化工法によれば、縦方向分割施工区域を設定して作業ができ、不安定な作業足場を組む必要がなくなることに加え、切土工程とそれに続く切土法面処理工程を順次連続して実施することができる。そのため、先に切土工程を行った縦方向分割施工区域において切土法面処理工程を実施している際に、他の縦方向分割施工区域においては切土工程を実施するというように異なる作業工程を並列的に実施することができ、作業効率が高まる。また、各加工機械を遊休させることなく、さらなる工期の短縮、工事費の削減を実現することができる。なお、切土法面処理工程は、上記したように2本のワイヤーで牽引する加工機械に限るものではなく、人力によって作業したり、ワイヤーで支持しないもの、あるいは1本のワイヤーで支持するもの等、種々の加工機械を用いて作業したりすることができることは上記したとおりである。
【0051】
また、第1及び第2安定化工法における切土法面処理としては、例えばモルタル・コンクリート吹付工、石張工、現場打ちコンクリート枠工、ロックボルト工、グランドアンカー工などの各種安定化工法をあげることができるが限定されるものではない。
【0052】
このうち、ロックボルト工、グランドアンカー工等のアンカー工を加工機械を用いて行う場合には、アウターケーシングとインナーロッドとの二重管式の削孔部材と前記削孔部材を移動可能に支持するガイドシェルとを備え、アウターケーシングとインナーロッドを、削孔時には切土法面の所定の位置に向かって共に前記ガイドシェルに沿って前進移動させ、削孔後、前記アウターケーシングを削孔内に位置させたまま、前記インナーロッドを前記ガイドシェルに沿って後退移動させ、その後、前記インナーロッドを取り外すことなく前記アウターケーシングを前記ガイドシェル上に後退させることができる
図5〜
図12に示したような加工機械100を用いることが好ましい。
【0053】
この加工機械100は、架台101に無限軌道等の走行部102,102が取り付けられて自走式になっていると共に、架台101には左右に所定間隔をおいて一対のウインチ103,103が設けられ、このウインチ103,103に巻回されたワイヤー104,104が、施工区域の上方に設置される支持具200,200に連結されている。なお、ウインチ103,103の前方にはフェアリーダ等のガイド部材105,105が設けられており、ワイヤー104,104はこのガイド部材105,105に巻き掛けられ、張設方向が安定するようになっている。すなわち、ウインチ103,103とガイド部材105,105との間では、2本のワイヤー104,104は相互に略平行になるように張られているが、一対の支持具200,200の離隔距離を架台101の幅よりも広い距離としている場合に、ガイド部材105,105から支持具200,200までは一対のワイヤ104,104が拡開するように広がり、すなわち逆ハ字状に張設されることになる。このように張設することにより、上記したように加工機械100の動作方向の自由度が高まり、かつ、動作時における安定性が高まる。
【0054】
架台101の前方端寄りに削孔機構部支持台106が設けられている。削孔機構部は、ガイドシェル107とこのガイドシェル107に支持される二重管式の削孔部材であるアウターケーシング108とインナーロッド109を有している。ガイドシェル107には、その下面の前方寄りに第1ブラケット107aが設けられており、この第1ブラケット107aが削孔機構部支持台106の上部に支軸106aを介して連結され、該ガイドシェル107はその後端側が上下に回動するように設けられている。ガイドシェル107において、上記第1ブラケット107aよりも後方に適宜の間隔離れた位置に第2ブラケット107bが下方に突出するように設けられており、この第2ブラケット107bと削孔機構部支持台106の下部との間にシリンダ120が連結配設されている。すなわち、シリンダ本体121の底部側が削孔機構部支持台106の下部に回動可能に連結され、ピストン122の先端側が第2ブラケット107bに回動可能に連結されている。従って、シリンダ120のピストン122がシリンダ本体121に対して伸長方向に変位すると、ガイドシェル107は、支軸106aを中心として上方に回動し、ピストン122がシリンダ本体121に収納される方向に変位すると、ガイドシェル107は支軸106aを中心として下方向に回動する。目的の削孔位置に移動するまでは、ピストン122をシリンダ本体121に収納された状態としてガイドシェル107を架台101に対して略平行に保持し、削孔位置に至ったならば、ピストン122を伸長させてガイドシェル107の後端側を上昇させ、ガイドシェル107を削孔位置に対して略垂直姿勢となるようにする(
図8及び
図9参照)。
【0055】
ガイドシェル107は、二重管式のアウターケーシング108及びインナーロッド109を支持できる長さを備えている。例えば、ロックボルト工用であれば、アウターケーシング108及びインナーロッド109は例えば5〜10mの長さで形成され、ガイドシェル107はそれとほぼ同じがそれ以上の長さを有している。
【0056】
ガイドシェル107には、該ガイドシェル107に沿って走行可能な走行体110が設けられている。この走行体110は、ガイドシェル107の下面側に配置された伝動装置111に連結され、ガイドシェル107に沿って移動する。伝動装置111は、ガイドシェル107の後端側に配置された駆動モータ111dにより回転するギヤやプーリ等からなる原動側回転部材111aと、ガイドシェル107の先端側に配置されたギヤやプーリ等からなる従動側回転部材111bと、原動側回転部材111aと従動側回転部材111bに巻き掛けられるチェーンやベルト等からなる帯状部材111cとを備えて構成され、帯状部材111cに走行体110が連結されている。従って、駆動モータ111dの駆動により原動側回転部材111aが回転すると帯状部材111cが原動側回転部材111aと従動側回転部材111bとの間で回転動作する。これにより、帯状部材111cに連結された走行体110がガイドシェル107に沿って後端側から先端側へ、あるいは、先端側から後端側へとスライド移動する。
【0057】
ガイドシェル107には、走行体110を挟んで後端側にドリフタ112が配設され、先端側に回転引抜装置114が配設されている。ドリフタ112及び回転引抜装置114は、いずれもガイドシェル107に沿って移動可能に設けられている。ドリフタ112にはガイドシェル107の先端側に向かって突出する連結用バー112aが設けられ、回転引抜装置114にはガイドシェル107の後端側に向かって突出する連結用バー114aが設けられている。一方、走行体110の前後には連結用穴110a,110aが設けられており(
図7(a)参照)、後端側の連結用穴110aにドリフタ112の連結用バー112aを連結することにより、ドリフタ112が走行体110に牽引されてガイドシェル107上をスライド移動する。走行体110の先端側の連結用穴110aに回転引抜装置114の連結用バー114aを連結することにより、回転引抜装置114が走行体110に牽引されてガイドシェル117上をスライド移動する。
【0058】
ここで、ドリフタ112には、スイベル112bを介して、インナーロッド109及びアウターケーシング108の後端側が接続される。また、インナーロッド109及びアウターケーシング108の先端側は、回転引抜装置114を貫通し、さらに、ガイドシェル107の最先端部に設けられた支持板115を貫通して支持されている。回転引抜装置114には、
図7に示したように、中央部に回転自由に配設された筒状部材114bが配設されており、筒状部材114b内をアウターケーシング108が貫通する。筒状部材114bの周囲にはギア部材114cが設けられており、このギア部材114cは、回転引抜装置114に付設された回転モータ114dの出力軸に連結された出力ギア114eにかみ合い、回転モータ114dを駆動させると、出力ギア114e、ギア部材114cを介して筒状部材114bが回転する。一方、アウターケーシング108の後端付近には、回り止め用の角形の回転引抜用ブロック108aが溶接等により固着されている。また、筒状部材114bの後端側には、回転引抜用ブロック108aが嵌ることができる同形状に形成された凹状のチャック部114fが形成されている。従って、アウターケーシング108を前進させ、回転引抜用ブロック108aをチャック部114fに嵌め合わせ、ドリフタ112との接続を解除すると、回転引抜装置114の回転モータ114dの駆動により、筒状部材114bと共にアウターケーシング108が回転することになる。
【0059】
この加工機械100によれば、所定の削孔位置までは、
図8に示したように削孔機構部を架台101に対して略平行な姿勢で移動する。なお、この初期状態では、ドリフタ112をガイドシェル107の後端側に、回転引抜装置114をガイドシェル107の先端側に位置させ、走行体110はドリフタ112の連結用バー112aに連結させた状態としておく。削孔位置に至ったならば、ガイドシェル107の後方が上昇するようにシリンダ120のピストン122を伸長させて回動し、
図9に示したように、二重管式のアウターケーシング108及びインナーロッド109が削孔位置に対して略垂直になるようしてセットして位置決めする。
【0060】
位置決めしたならば、伝動装置111を駆動し、帯状部材111cを回動させて走行体110をガイドシェル107の先端側に向かって移動させる。また、ドリフタ112を駆動させ、アウターケーシング108とインナーロッド109を共に地面(法面)に押しつけて回転させながら打撃していく。これにより、アウターケーシング108の先端のアウタービット108bにより削孔され、アウターケーシング108及びインナーロッド109が共に地面に侵入していき、削孔300を形成していく(
図12参照)。なお、このとき、アウターケーシング108の回転引抜用ブロック108aは、回転引抜装置114のチャック部114fに嵌め合わせないようにしておく。
【0061】
アウターケーシング108及びインナーロッド109が所定長さ地面に侵入して削孔工程が終了したならば、回転引抜用ブロック108aを回転引抜装置114のチャック部114fに嵌め合わせる。また、アウターケーシング108の後端部をドリフタ112から外す。この状態で伝動装置111を動作させて走行体110をガイドシェル107に沿って後退移動させる。これにより、
図11に示したように、アウターケーシング108を削孔300内に残した状態で、インナーロッド109のみが引き抜かれ、ガイドシェル107上に復帰する。
【0062】
インナーロッド109を引き抜いたならば、
図12に示したように、削孔300内に存置されているアウターケーシング108内に鉄筋等の応力材301を挿入し、さらに、セメント等の充填材302を充填する。
【0063】
次に、ドリフタ112の連結用バー112aと走行体110の連結用穴110aとの連結を解除し、走行体110を前進させ、回転引抜装置114の連結用バー114aを走行体110の連結用穴110aに接続する。その状態で、
図12に示したように、回転引抜装置114の回転モータ114dを駆動し、筒状部材114bを回転させる。アウターケーシング108は回転引抜用ブロック108aが回転引抜装置114のチャック部114fに嵌め合わせられているため、筒状部材114bが回転することにより回転する。アウターケーシング108をこのようにして回転させながら、走行体110を後退移動させると、回転引抜装置114が後退していき、アウターケーシング108は削孔300から引き抜かれていく。削孔前の状態では、ガイドシェル107上において、アウターケーシング108はインナーロッド109の外周を取り囲むようにセットされていたため、アウターケーシング108を引き抜いていくと、既にガイドシェル107上に復帰しているインナーロッド109の周囲に該アウターケーシング108は外挿されることになる。そして、アウターケーシング108の後端部をスイベル112bを介してドリフタ112に再接続する。なお、回転引抜装置114は、走行体110を動作させてガイドシェル107の先端側の初期位置に復帰させ、さらにその後走行体110を後退させて、ドリフタ112の連結用バー112aに走行体110を連結して
図9に示した状態にする。これにより、次の削孔作業を行うことができる状態となる。
【0064】
ある一つのロックボルト等のアンカーを施工したならば、一対のウインチ103,103に接続された一対のワイヤー104,104の長さを調整し、上下左右に加工機械100を移動させて、次の削孔位置において上記作業を順次行っていく。
【0065】
従来、二重管式の削孔装置では、引き抜く際には、まず、アウターケーシングを削孔内に残したまま、ドリフタを後退させてインナーロッドのみを引き抜き、インナーロッドを取り外してから、ドリフタを再度前進させてアウターケーシングに接続し、アウターケーシングを引き抜くという工程を経て行われる。このため、インナーロッドを取り外した際の一時保管場所の確保に問題があり、また、インナーロッドの取り外し作業等の手間がかかっていた。しかしながら、上記した加工機械100によれば、例えばロックボルト工であれば、例えば5〜10mの長さを有するアウターケーシング108及びインナーロッド109を用いると共に、ガイドシェル107としてそれと同程度かそれ以上の長さを有するものを用い、さらにアウターケーシング108を単独で支持しかつ単独で後退移動できる機構を採用する。それにより、5〜10m程度の削孔300を形成するのに必要な長さを備えた、二重管式のアウターケーシング108及びインナーロッド109を引き抜いた際に、その長さのまま受け入れることができる。その結果、上記のように先に引き抜いたインナーロッド109を取り外すことなく、その外周囲にアウターケーシング108を外挿することができ、従来よりも効率のよい作業を実施できる。従って、工期の短縮、工事費の削減を目的とする本発明の安定化工法にける切土法面処理に極めて適している。
【0066】
なお、上記した加工機械100はロックボルト工に限らずグランドアンカー工でも適用可能である。すなわち、従来のグランドアンカー工において用いていた二重管式削孔装置では、1〜1.5mのアウターケーシング及びインナーロッドを複数本連結しながら削孔し、引き抜く際は、それらを一つずつ切り離しながら行う必要があった。しかしながら、この工法においても上記した加工装置100ならば、ガイドシェルとして、グランドアンカー工における削孔に必要な1〜1.5mのものを複数本連結した長さ以上(数m〜数十m)のものを用いることで、連結されて1本の状態になったインナーロッドを一度に引き抜き、かつ、同じく1本の状態になったアウターケーシングを同様に引き抜いてインナーロッドに外挿させることが可能となり、効率のよい作業を行うことが可能となる。