(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持部に設けられた一対の前記刺激電極は、前記軸線に直交する方向に一対の前記刺激電極に対向するように見たときに、一対の前記刺激電極を通る基準線が前記軸線に対して交差するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電極ユニット。
前記先端留め具、前記基端留め具および前記軸線側に弾性的に変形した複数の前記支持部が挿通可能なチャンネルが形成され、先端部に自然状態で湾曲した湾曲部が設けられたガイドシースを備えることを特徴とする請求項1に記載の電極ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る組織刺激システムの第1実施形態を、
図1から
図10を参照しながら説明する。この組織刺激システムは、患者の血管内に一定期間留置させ、血管の管壁を通して周囲の神経組織に電気的刺激を印加するためのものである。
図1および
図2に示すように、本実施形態の組織刺激システム1は、本発明の電極ユニット2と、電極ユニット2に着脱可能とされた電気刺激装置(刺激発生部)20およびシリンジピストンポンプ(薬液供給部)25とを備えている。
【0014】
電極ユニット2は、互いに離間して配置された先端留め具31および基端留め具32と、端部が先端留め具31および基端留め具32にそれぞれ接続された4本のワイヤ部(支持部)33と、4本のワイヤ部33のうちの1本に設けられた一対の刺激電極34と、先端部が刺激電極34に電気的に接続された配線部35と、配線部35に沿って延びるように配置された送液管36とを有している。
【0015】
留め具31、32は、この例では、ステンレス鋼やチタンなどの生体適合性を有する材料で略円柱形に形成されている。先端留め具31は、基端留め具32よりも先端側に配置されている。
ワイヤ部33は、
図3に示すように、中心に設けられたワイヤ41と、ワイヤ41の外周面を覆う内部被膜42と、内部被膜42の外周面を覆う外部被膜43とを有している。
ワイヤ41としては、形状記憶合金や超弾性ワイヤなど、重力以外の外力が作用していない自然状態のワイヤ41に外力を作用させて変形させた後で、その外力を解除したときに塑性変形することなく元の形状に戻る材料のものを好適に用いることができる。ワイヤ41の外径は、例えば、0.3〜0.5mmに設定される。
被膜42、43は、ポリウレタンなどの樹脂で、厚さが50〜500μmとなるように形成されている。このように構成することで外部被膜43の外周面が滑らかとなり、この外周面上に血栓が生じるのが防止される。
外部被膜43には、先端留め具31および基端留め具32を通る直線状の軸線C1(
図1参照。)を規定したときに、外部被膜43の軸線C1方向の中間部分における軸線C1とは反対側に、一対の透孔43aが軸線C1方向に並べて形成されている。透孔43aは
図4に示す側面視で、軸線C1方向に長いほぼ楕円形状に形成されている。透孔43aの大きさは、例えば、長径が1.8mm、短径が0.5mmとなっている。一対の透孔43aの中心部の軸線C1方向の距離は、3〜5mm程度に設定されている。
【0016】
図3に示すように、内部被膜42と外部被膜43との間には、円筒形状の前述の刺激電極34が設けられている。刺激電極34の大きさは、例えば、外径1mm、長さが2mm程度であり、白金イリジウム合金などで形成されている。それぞれのワイヤ部33には一対の刺激電極34が設けられている。各刺激電極34には内部被膜42が挿通され、刺激電極34は透孔43aを塞ぐことで外部に露出している。
それぞれの刺激電極34の内周面には、配線部35を構成する電気配線35aが電気的に接続されている。電気配線35aとしては、耐屈曲性を有するニッケルコバルト合金(35NLT25%Ag材)からなる撚り線を、電気的絶縁材(例えば、厚さ20μmのETFE(ポリテトラフルオロエチレン)等)で被覆したものを好適に用いることができる。
電気配線35aは、外部被膜43内に配置されて外部被膜43に沿って延び、基端留め具32内を通してさらに基端側に延びている。
【0017】
ワイヤ部33は、
図1および
図2に示すように、弾性を有する材料で、全体として中心角度が180°程度の円弧状に形成されている。ワイヤ部33の半径は、留置される血管の内径に応じて10〜20mm程度に設定される。
本実施形態では、4本のワイヤ部33は、軸線C1周りに等角度ごとに配置されている。すなわち、ワイヤ部33は、軸線C1方向の中間部分が軸線C1から離間するように湾曲するとともに、この中間部分が軸線C1周りに互いに離間するように配置されている。4本のワイヤ部33は、球面上に配置される。
4本のワイヤ部33、および留め具31、32で、電極部38を構成する。
自然状態における電極部38の外径D1は、20〜40mm程度となる。この外径D1は、電極部38が留置される血管の内径よりも大きく設定される。
ワイヤ部33は留め具31、32に、溶接、接着、またはカシメなどで接合されている。
【0018】
送液管36の先端部は、
図1および
図5に示すように、基端留め具32内を貫通している。送液管36は、基端留め具32の前方に開口36aを有している。開口36aは、軸線C1上に配置されている。送液管36の管路36bの内面における軸線C1に直交する断面は、円形となっている。送液管36は、例えば、ETFEなどの樹脂で形成することができる。
基端留め具32には、管状のリード本体45の先端部が取り付けられている。リード本体45はポリウレタンなどで形成されていて、その大きさは、例えば、外径が2〜3mm、長さが500mm程度となる。リード本体45内に前述の配線部35および送液管36が挿通されている。送液管36の基端側は、リード本体45の側面から突出するように構成されていて、送液管36の基端部には、ルアーロックを備えるコネクタ46が取り付けられている。リード本体45における送液管36が突出する部分は、血管内に電極部38を留置する時に患者の体外に位置する部分となる。
【0019】
リード本体45の基端部には、例えば、公知のIS1型のコネクタ48が設けられていて、配線部35の基端部がコネクタ48と電気的に接続されている。
コネクタ48は、負電極用コネクタピン48aおよび正電極用コネクタピン48bと、一対のゴムリング48cとを備える。ゴムリング48cは、負電極用コネクタピン48aおよび正電極用コネクタピン48bを互いに絶縁するとともに、電気刺激装置20に接続した時に水密を保つためのものである。負電極用コネクタピン48aおよび正電極用コネクタピン48bは、いずれもステンレス鋼で形成されている。また、ゴムリング48cは、生体適合性を有するシリコーンゴムによって形成されている。コネクタ48としては、IS1型以外にも、電気刺激装置20が体外に設置される場合に用いられる防水コネクタを用いることができる。
【0020】
電気刺激装置20は、不図示の電気刺激供給部を有していて、定電流方式又は定電圧方式による電気的刺激を発生させることができる。この例では、電気的刺激として、
図6に示すように、定電圧方式であって位相が切り替わるバイフェージック波形群を、所定の間隔を有して発生させる。具体的なバイフェージック波形としては、例えば、周波数20Hz、パルス幅50〜400μsecでプラス数ボルトからマイナス数ボルトの間で電圧が変化するものを挙げることができる。電気刺激装置20は、このようなバイフェージック波形を1分間あたり3〜10秒間発生する。
図1に示すように、電気刺激装置20が有するコネクタ21と、前述のコネクタ48とにより、配線部35の基端部に電気刺激装置20が着脱可能となっている。そして、両コネクタ21、48を接続したときに、電気刺激装置20は、それぞれのワイヤ部33に設けられた一対の刺激電極34間に、前述のバイフェージック波形を印加することができる。その際に、一対の刺激電極34のうち一方の刺激電極34がプラス側電極として作用し、他方の刺激電極34がマイナス側電極として作用する。
【0021】
シリンジピストンポンプ25は公知の構成のものであり、シリンジ26に対してピストン27がスライド可能となっている。シリンジ26の先端部に設けられた注出口26aは、送液管36のコネクタ46に着脱可能である。シリンジ26内はヘパリンやアルバトロパンなどの抗凝固剤が収容されていて、コネクタ46に注出口26aを装着した状態でシリンジ26に対してピストン27を押し込むことで、抗凝固剤を注出口26aを通して送液管36の管路36bに供給することができる。
【0022】
次に、以上のように構成された組織刺激システム1を用いて、電極ユニット2の電極部38を上大静脈に留置する手技について説明する。この場合、電極部38の自然状態における外径D1は、上大静脈の内径より大きく設定される。以下で説明する組織刺激システム1には、初期状態として、電気刺激装置20およびシリンジピストンポンプ25は装着されていない。
なお、本組織刺激システム1は、体内にシステム全体を植え込む長期神経刺激システムとは異なり、短期神経刺激を行うことに適している。
【0023】
まず、術者は、
図7に示すように、患者Pの頸部近傍を切開して開口P1を形成する。この開口P1に、公知のイントロデューサーやダイレーター(不図示)を装着して、電極ユニット2を電極部38側から導入する。このとき、X線下でワイヤ部33のワイヤ41や配線部35の位置を確認することで、電極ユニット2の位置を確認しながら導入する。
外頚静脈P2に電極部38を導入すると、
図8に示すように、外頚静脈P2の内壁に押されることで、それぞれのワイヤ部33が軸線C1側に弾性的に変形して電極部38全体として縮径するとともに、軸線C1方向に延びる。これにより、電極部38の外径D2は、自然状態における外径D1より小さくなる。
【0024】
術者は、X線下で位置を確認しながら電極ユニット2を導入し、
図9に示すように、電極部38を上大静脈P3に概略配置する。このときも、電極部38の外径D1が前述のように設定されているため、それぞれのワイヤ部33は上大静脈P3により軸線C1側に押し付けられ、
図3に示すように、透孔43aから露出したそれぞれの刺激電極34が上大静脈P3の内壁に対向するように配置される。
図9に示すように、この上大静脈P3に隣接して迷走神経(神経組織)P6が併走している。
【0025】
続いて、患者Pの体外において、配線部35のコネクタ48と電気刺激装置20のコネクタ21とを接続し、電気刺激装置20からバイフェージック波形群を発生させて一対の刺激電極34間に印加する。
術者は、リード本体45を操作して、電極部38における上大静脈P3の長手方向の位置を調節するとともに、リード本体45を軸線C1回りに回転させながら患者Pに取り付けた心電計などにより心拍数を測定する。一対の刺激電極34が迷走神経P6に近づいて対向するように配置され、一対の刺激電極34から迷走神経P6に伝達される電気的刺激が大きくなったときに、患者Pの心拍数が最も低下する。術者は、心拍数が最も低下するように、すなわち、一対の刺激電極34が迷走神経P6側に向くように、電極部38の軸線C1回りの向きを調節する。
【0026】
電極部38の軸線C1回りの位置を位置決めした状態で、上大静脈P3に電極ユニット2を留置する。患者Pの体外において、送液管36のコネクタ46にシリンジピストンポンプ25の注出口26aを接続し、ピストン27をゆっくり押し込むと、抗凝固剤が送液管36の管路36bを通して開口36aから血液中に放出される。抗凝固剤を放出する速度は、例えば、1時間当たり0.05〜0.2ml程度とし、電極部38を留置している間は抗凝固剤を持続的に放出し続ける。
上大静脈P3における電極部38が配置された部分では、
図9中に矢印A1で示すように血液が流れる。このため、開口36aから放出された抗凝固剤は、血液とともにワイヤ部33に沿うように先端留め具31側に移動し、ワイヤ部33や留め具31、32で血液が凝固して血栓が生じるのが抑えられる。
なお、抗凝固剤の供給を開始する時期はこれに限ることなく、上大静脈P3に電極部38を配置したときに抗凝固剤の供給を開始するなど、適宜設定することができる。
【0027】
電気刺激装置20により一定期間、迷走神経P6に電気的な刺激を印加し続けたら、電極ユニット2から電気刺激装置20およびシリンジピストンポンプ25を取り外す。
電極ユニット2を引き戻すと、血管やイントロデューサーの内径に応じて電極部38の外径が変化するため、小さな傷口からも抜去することができ、電極ユニット2を患者Pの体外に容易に取り出すことができる。電極ユニット2の抜去のために、外科的な再手術は必要としない。
この後で、開口P1を縫合するなど適切な処置を行い、一連の手技を終了する。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の電極ユニット2および組織刺激システム1によれば、電極部38を、自然状態における電極部38の外径D1より内径が小さな上大静脈P3内に配置する。このとき、それぞれのワイヤ部33における刺激電極34側が上大静脈P3の内壁に当接した状態で、ワイヤ部33が弾性的に軸線C1側に変形するとともに、軸線C1方向に延びる。これにより、刺激電極34を上大静脈P3の内壁に確実に接触させることができる。
電気刺激装置20により発生させたバイフェージック波形群を配線部35を介して一対の刺激電極34間に印加しつつ、電極ユニット2を軸線C1回りに回転させて患者Pの心拍数を測定する。このようにすることで、刺激電極34が迷走神経P6側に向いて迷走神経P6に効果的に電気的刺激を印加できるように、電極部38の向きを調節することができる。刺激電極34が血液に接触するのを抑え、一対の刺激電極34間に印加した電圧が、血液側に漏洩するのを抑制することができる。
【0029】
シリンジピストンポンプ25から供給した抗凝固剤を送液管36を通して開口36aから血液中に放出することで、ワイヤ部33や留め具31、32で血液が凝固して血栓が生じるのが抑えられる。血栓は血液の流れを阻害しやすい形状部に発生しやすいため、留め具31、32とワイヤ部33とが集結する箇所に積極的に抗凝固剤の放出口を形成することが有効である。
このように、上大静脈P3内に配置された一対の刺激電極34から上大静脈P3の管壁を介して迷走神経P6に電気的刺激を印加することで、迷走神経P6に直接的接触することなく間接的に電気的刺激を与えることができる。これにより、低侵襲で処置を行うことができる。
【0030】
ワイヤ部33は軸線C1周りに等角度ごとに配置されているため、4本のワイヤ部33が軸線C1に対して4回転対称の形状となっている。このため、電極部38を軸線C1回りに回転させても形状の変化が少なくなり、電極部38の操作性が向上する。
生体内の血管形状は部位により様々な形状をなしているが、本実施の形態のワイヤ部33は軸線C1周りに等角度ごとに配置されているため、様々な血管形状に呼応して変形し、確実に、刺激電極34を血管の内壁に当接させ、血液に電気が漏洩するのを抑えることができる。
なお、上記作用効果は低下するが、ワイヤ部33を軸線C1周りに不均等角度ごとに配置されている場合でも、電極部38の操作性を幾分改善し、血管形状によっては対応できることは言うまでもない。
さらに、本実施の形態においてはワイヤ部33を4本形成した場合を示したが、2本以上あれば、血管内で電極部38を任意の位置に固定できることは言うまでもない。ワイヤ部33の形成本数が多いほど、より安定した操作性が実現でき、様々な血管形状に対応した固定が実現しやすくなる。
【0031】
近年、心不全の治療法の分野において、慢性心不全の増悪時に、その予後が悪化することが明らかになりつつある。自律神経に対して直接的に電子的介入を加える組織刺激システムを用いることにより、循環調節異常を是正できることが知られるようになった。
本組織刺激システムを用いることにより、急性心筋梗塞時の再灌流治療後に発生する不整脈及びリモデリング現象を低減することができる。迷走神経P6を電気的に刺激し、再灌流治療後に一定期間、継続的に心拍数を低下させることにより、心臓の負荷を減少させ、心臓リモデリングを低減することができる。
【0032】
本実施形態の組織刺激システム1によれば、神経組織に電気刺激を行うにあたり、対象となる神経組織に大きな外科的な侵襲を与えずに、目的とする神経刺激を実現することができる。電極ユニット2の設置は、カテーテル手術で多用されている一般的な経静脈アプローチにより実現でき、間接的に電気刺激を行うため、電極ユニット2の設置時に神経組織の損傷を気にせずに、短時間で設置を完了し、治療終了後には抜去することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、
図10に示す電極ユニット2Aのように、送液管36の長手方向の中間部に送液管36の管路36bに連通する側部開口36cを形成するとともに、この側部開口36cがリード本体45から外部に露出するように構成してもよい。側部開口36cが形成される位置は、電極ユニット2Aを体内に導入したときに血管内となる位置とする。
このように構成することで、シリンジピストンポンプ25から抗凝固剤を供給したときに側部開口36cからも抗凝固剤が放出される。したがって、ワイヤ部33や留め具31、32に血栓が発生するのをより確実に抑えることができる。
なお、送液管36に形成される側部開口36cの数に制限はなく、複数でもよいことは言うまでも無い。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図11から
図13を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図11および
図12に示すように、本実施形態の組織刺激システム3で用いられる電極ユニット4は、第1実施形態の電極ユニット2において送液管36の開口36aの位置が変更されているとともに、ガイドシース50を備えている。
【0035】
本実施形態では、送液管56の先端側は、1つのワイヤ部33の軸線C1側の面に取り付けられていて、送液管56の先端側の開口56aは、先端留め具31の側面に対向するように配置されている。
【0036】
ガイドシース50の先端部には、自然状態で湾曲した湾曲部51が設けられている。湾曲部51は後述する内頸静脈側に向きやすいように、中心角が45〜90°程度に設定されている。ガイドシース50のチャンネル52の内径は、縮径した電極部38が挿通可能となるように設定されている。
ガイドシース50は、前述のETFE等で形成することができ、その厚さは、術者が周方向に容易に引き裂くことができるように設定されている。ガイドシース50を引き裂きやすいように、ガイドシース50の外面に長手方向に延びる溝を形成してもよい。
【0037】
次に、以上のように構成された組織刺激システム3を用いて、電極部38を内頸静脈に留置する手技について説明する。この場合、電極部38の自然状態における外径D1は、内頸静脈の内径より大きく設定される。
図13に示すように、内頸静脈P4にも迷走神経P6が併走している。
ガイドシース50を装着した電極ユニット4を、開口P1から右鎖骨下静脈P7を通して経静脈的に導入する。ガイドシース50の先端側には湾曲部51が設けられているため、右鎖骨下静脈P7に導入した電極部38を内頸静脈P4側に向けることができる。電極ユニット4を押し込んで電極部38を内頸静脈P4内に留置してから、ガイドシース50を引き裂いて除去する。
この後で、第1実施形態と同様に、電極部38の軸線C1回りの向きを調節する。本実施形態においても、一対の刺激電極34を迷走神経P6側に対向させて血管内壁に当接させることにより、患者Pの心拍数が顕著に低下する。
【0038】
続いて、送液管56にシリンジピストンポンプ25を接続し、ピストン27を押し込むと、抗凝固剤が送液管56の開口56aから血液中に放出される。内頸静脈P4における電極部38が配置された部分では、
図13中に矢印A2で示すように血液が流れる。このため、開口56aから放出された抗凝固剤は、血液とともにワイヤ部33に沿うように基端留め具32側に移動し、ワイヤ部33や留め具31、32で血液が凝固して血栓が生じるのが抑えられる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の電極ユニット4および組織刺激システム3によれば、電極部38を内頸静脈P4に留置した場合であっても、迷走神経P6に直接的接触することなく間接的に電気的刺激を与えることができる。
電極ユニット4にガイドシース50を備えることで、右鎖骨下静脈P7に導入した電極部38を内頸静脈P4側に容易に向けることができ、手技を容易にすることができる。
なお、基端留め具32近傍に抗凝固剤を放出する開口をさらに形成することにより、血栓が生じるのをさらに効果的に抑えられることは言うまでも無い。
【0040】
なお、本実施形態では、
図14および
図15に示す電極ユニット4Aのように、先端留め具31に、先端側に開口する開口部31aを形成するとともに、送液管56の開口56aが開口部31aに連通するように構成してもよい。
電極ユニット4Aをこのように構成することで、電極ユニット4Aを内頸静脈P4に留置したときに、開口部31aから抗凝固剤を放出することで、先端留め具31とワイヤ部33との接続部に発生する血栓も効果的に低減することができる。
以上のように、電極部が設置される血管の血流に合わせ、血栓が生じやすい部分に積極的に抗凝固剤を放出する開口を形成することにより、血栓が生じるのを効果的に抑えられる。よって、抗凝固剤を放出する開口はこれらに限定されるものではなく、例えば、先端留め具31には、基端留め具32側に開口する開口部を設けてもよい。
【0041】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図16から
図18を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図16に示すように、本実施形態の組織刺激システム5で用いられる電極ユニット6は、第1実施形態の電極ユニット2の各構成に加えて、一対の刺激電極34が設けられたワイヤ部33とは異なるワイヤ部33に設けられた一対の測定電極61と、先端部が一対の測定電極61に電気的に接続された第二の配線部62とを備えている。
【0042】
図17および
図18に示すように、外部被膜43には、軸線C1方向の中間部分における軸線C1側に、一対の透孔43bが軸線C1方向に、間隔5〜10mmにて並べて形成されている。透孔43bは側面視で、軸線C1方向に長いほぼ矩形状に形成されている。透孔43bの大きさは、例えば、長辺が1.8mm、短辺が0.8mmであり、透孔43aより大きく形成されている。
測定電極61は、
図17に示すように円筒形状に形成され、刺激電極34とは軸線C1方向に位置をずらして配置されている。測定電極61は、透孔43bを塞ぐことで外部に露出している。それぞれの測定電極61の内周面には、第二の配線部62を構成する電気配線62aが電気的に接続されている。測定電極61、第二の配線部62は、刺激電極34、配線部35と同様に構成されているため、説明を省略する。
【0043】
図16に示すように、リード本体64は、基端側において第一の分岐部65および第二の分岐部66に分岐している。第一の分岐部65の基端部には前述のコネクタ48が設けられていて、配線部35の基端部がコネクタ48と電気的に接続されている。第二の分岐部66の基端部にはコネクタ48と同型のコネクタ68が設けられていて、第二の配線部62の基端部がコネクタ68と電気的に接続されている。すなわち、本実施形態では電極ユニット6は基端側において、送液管36、第一の分岐部65、および第二の分岐部66の3つに分岐されている。第一の分岐部65は電気刺激リードととなり、第二の分岐部66はセンシングリードとなる。
【0044】
本実施形態の電気刺激装置は、図示はしないがコネクタ48、68の両方が着脱可能となっている。本実施形態の電気刺激装置は、電気刺激装置20の各構成に加えて、一対の測定電極61を用いて心拍数を計測する心拍数計測部と、測定された心拍数に基づいて電気刺激供給部の出力を制御する制御部とを有している。
【0045】
心拍数計測部は、血液に接触したときの一対の測定電極61間の電位差を検出することにより、心臓の電気活動によって変化する電位変化、すなわち、心電信号を得ることができる。また、心拍数計測部は、得られた心電信号の波形に基づいて、例えば、心電信号の電位の大きさまたは変化率が所定の閾値より大きくなる時刻の時間間隔から、心拍数を計測することができる。
制御部は、心臓が徐脈の状態になって心拍数が低下したときには、電気刺激供給部が出力する電気的刺激のエネルギーを低下又は供給停止させる。これにより、心臓の心拍数低下が抑えられ、心拍数が上昇する。一方で、心臓が頻脈の状態になって心拍数が上昇したときには、電気刺激供給部が出力する電気的刺激のエネルギーを増加させる。これにより、静脈の近傍を通る迷走神経を刺激して、心拍数を低下させる。
【0046】
このように構成された本実施形態の電極ユニット6の電極部38を、上大静脈P3や内頸静脈P4などの血管内に留置すると、一対の刺激電極34が血管の内壁に当接すると同時に、一対の測定電極61が血液に接触する。これにより、一対の測定電極61は心臓活性、言い換えれば、心電信号を取得する。一対の測定電極61に接続された電気刺激装置20は、この心電信号から患者Pの心拍数を計測し、患者Pが所定の心拍数になるように、迷走神経P6に印加する電気的刺激のエネルギーを調節する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の電極ユニット6および組織刺激システム5によれば、前記第1実施形態の電極ユニット2、組織刺激システム1と同様の効果を奏することができる。
さらに、一対の測定電極61および第二の配線部62を備えることで、一対の測定電極61間の電位差から患者Pの心拍数を計測し、患者Pが所定の心拍数になるように迷走神経P6に印加する電気的刺激のエネルギーを調節することができる。
電気刺激装置は患者Pが徐脈になりすぎることを監視でき、異常時にはアラームを出すとともに、電気刺激条件を自動で変更し、心拍数が一定の割合で低下した状態を常時維持できる。また、患者Pの生体活動により、心拍数が変化しても、所定量の心拍低下効果、言い換えれば心臓負担の軽減効果を常時維持することができる。
患者Pの体表面に心電図パッドを設置して測定する一般的な心電信号に比較して、本実施形態の血液を経由して取得する心電波形は、生体活動によるノイズの影響を受けづらく、心拍数を安定して計測することができる。
【0048】
なお、電気刺激装置が変更する電気刺激条件としては、電気刺激パルス電圧又は電流の大きさ、周波数、パルス幅、刺激終了時間、刺激開始時間、刺激継続時間、電気刺激停止等が挙げられる。
また、本実施の形態では刺激電極34と測定電極61をそれぞれ異なるワイヤ部33に形成したが、一つのワイヤ部33に刺激電極34と測定電極61を形成してもよい。この際、一対の刺激電極34を挟むように、先端留め具31側と基端留め具32側に測定電極61を形成し、測定電極61の電極間隔を長くするほうが、心電図波形を良好に取得することが可能である。
【0049】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について
図19および
図20を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図19および
図20に示すように、本実施形態の組織刺激システム7で用いられる電極ユニット8は、第1実施形態の電極ユニット2の先端留め具31に、軸線C1上で貫通する先端貫通孔31bが形成されている。
【0050】
先端貫通孔31bの内面における軸線C1に直交する断面は、楕円形に形成されている。
本実施形態の組織刺激システム7は、送液管36の管路36b、および先端貫通孔31bにスタイレット(軸状部材)Sが挿通されて用いられる。先端貫通孔31bにスタイレットSを挿通したときに、先端留め具31より前方にスタイレットSが充分に突出するように用いる。スタイレットSにおける先端貫通孔31bに挿通される部分S1の外面の断面は、前述の先端貫通孔31bの断面よりわずかに小さな楕円形に形成されている。スタイレットSは、一定の可撓性を有するとともに、自身の中心軸線回りのトルクを伝達できる程度の剛性を有するものとなっている。スタイレットSの先端部は略半球状に形成されていて、血管内壁を傷つける恐れがないものを用いることが好ましい。
【0051】
以上のように構成された組織刺激システム7を用いた手技は、以下のように行われる。
すなわち、患者Pの体外において、送液管36の管路36b、および先端留め具31の先端貫通孔31bにスタイレットSを挿通しておく。そして、対象となる血管内に電極部38を留置する。スタイレットSは可撓性を有するので、血管内において、電極ユニット8とともにスタイレットSを容易に湾曲させることができる。また、電極部38を留置するときに、電極部38が軸線C1方向に延びることでスタイレットSに対して先端留め具31が前方に移動する。しかし、先端留め具31より前方にスタイレットSを充分に突出させていたため、スタイレットSから先端留め具31が脱落することはない。
【0052】
電極部38を概略配置した後で、術者は、リード本体45およびスタイレットSの両方を把持してスタイレットSの中心軸線C2回りに回動させる。すると、スタイレットSの部分S1が先端貫通孔31bの内面に係合することで、スタイレットSとともに電極部38が軸線C1回りに回動する。
なお、電極部38の向きを調節した後で、スタイレットSは送液管36から引き抜かれ、抗凝固剤を供給するための流路が確保される。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の電極ユニット8および組織刺激システム7によれば、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
さらに、術者が作用させる回転力を、スタイレットSを介して電極部38に効果的に伝達することができ、電極部38の軸線C1回りの向きを短時間で調節することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、先端貫通孔31bの内面における軸線C1に直交する断面は、楕円形に形成されているとした。しかし、この断面は、楕円形に限られることなく、円形以外の形状であれば矩形などの凸多角形状などでもよい。この場合、スタイレットSの部分S1の外面の断面は、先端貫通孔31bの内面に係合するように先端貫通孔31bの内面における断面よりわずかに小さい形状に形成される。
【0055】
以上、本発明の第1実施形態から第4実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、
図21に示す電極ユニット11のように、4本のワイヤ部33のうちの一部のワイヤ部33を、軸線C1から離間するように湾曲する程度が他のワイヤ部33よりも小さくなるように構成してもよい。
また、
図22に示すように、電極ユニット12が備えるワイヤ部33の数に制限はなく、複数であればいくつでもよい。ワイヤ部33の数を多くすることで、電極ユニット12を血管内に安定して留置することができる。内径の大きい血管に留置する時はワイヤ部33の数を多くし、内径の小さい血管に留置する時はワイヤ部33の数を少なくすることが好ましい。
ワイヤ部33は軸線C1周りに等角度ごとに配置されていなくてもよく、軸線C1周りに血管の管壁を支持できるように配置されていればよい。
【0056】
図23および
図24に示す電極ユニット13のように、4本のワイヤ部73のそれぞれをS字状、かつ正面から見て円弧形状に形成してもよい。この場合、軸線C1に直交する方向に一対の刺激電極34に対向するように見たときに、一対の刺激電極34は、一対の刺激電極34を通る基準線C3が、軸線C1に対して交差するように配置されている
以上のように構成された電極ユニット13を血管内に留置すると、基準線C3は、軸線C1すなわち血管の長手方向に対して傾斜して配置されることになるが、これは、血管に対して迷走神経P6が斜めに併走している場合に有効である。
また、血管に対して迷走神経P6が平行に併走している場合、斜めに併走している場合のいずれにおいても、一対の刺激電極34が迷走神経P6をまたぐように配置することができ、一対の刺激電極34で迷走神経P6を確実に刺激することができる。
【0057】
なお、軸線C1に直交する方向に見たときに、一対の刺激電極34を通る基準線C3を軸線C1に対して交差させる概念は、本変形例に限らず、基準線C3の交差角度やワイヤ部の形状により、様々な形態で実現できることは言うまでもない。
また、刺激電極34が形成されないワイヤ部73の軸線C1側に前述の測定電極61を形成してもよいことは言うまでもない。
また、
図25に示す電極ユニット14では、4本のワイヤ部75の内2本に、対となる刺激電極34が1個ずつ形成されている。一対の刺激電極34を通る基準線C3は前述のように、軸線C1に対して交差するように配置されており、同様に、血管に対して迷走神経P6が斜めに併走している場合に有効である。
【0058】
前記第1実施形態から第4実施形態では、2本以上のワイヤ部33に一対の刺激電極34や一対の測定電極61を設けてもよい。このとき、リード本体の基端部には、刺激電極34と測定電極61の対の数だけIS1型のコネクタを設置し、電気刺激装置に接続するコネクタを選択することにより、より短時間により効果的な神経刺激を開始することができる。
また、留め具31、32、ワイヤ部、リード本体の外面などに、血液の凝固を防止するためのコーティングを施すことは、当然に有効である。
【0059】
組織刺激システムは、電極ユニットを頸部近傍の開口P1から導入した。しかし、電極ユニットは鎖骨下付近に形成した開口などから体内に導入してもよい。