【文献】
トランジスタ技術編集部 編,「GPSのしくみと応用技術 測位原理,受信データの詳細から応用製作まで」,CQ出版株式会社,2011年 1月 1日,第2版,p.91-99
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明は、カルマンフィルタを使用することで誤差を除去するのに時間遅れが生ずるので、リアルタイムに変位の発生を検知できないという問題がある。一方で、誤差を除去しない測位データを変位の検知に用いると、マルチパスなどの影響を受けた場合に、変位を誤検知するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、マルチパスなどの影響を受けて測位データが変動しても変位として検知せず、実際に発生した変位を正確に且つリアルタイムに検知することができる変位検知方法および変位検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明の変位検知方法は、GPS観測点における
地盤の変位を検知する方法であって、
GPS観測点でリアルタイムに得られた測位データから、時間遅延が生ずる処理を行わずに、恒星日ごとの誤差を除去する誤差除去ステップと、
この誤差除去ステップにて誤差が除去された測位データを記憶していくデータ記憶ステップと、
上記誤差が除去された測位データの基準となる基準値を算出する基準値算出ステップと、
上記基準値を基準として、現在における上記誤差が除去された測位データの偏差を算出する偏差算出ステップと、
上記データ記憶ステップにて記憶された現在までの所定時間における測位データから、標準偏差を算出し、この標準偏差に所定係数を乗じて上記偏差の許容範囲とする許容範囲算出ステップと、
現在における上記偏差が上記許容範囲外か否かを判断する第一判断ステップと、
この第一判断ステップにて判断された結果を記憶していく判断結果記憶ステップと、
この判断結果記憶ステップにて記憶された現在までの他の所定時間における上記結果のうち、偏差が許容範囲外と判断された割合が所定値以上であれば、変位として検知する第二判断ステップと、
この第二判断ステップにて変位として検知された場合に、その後の測位データに近づく値に上記基準値を修正する基準値更新ステップとを具備するものである。
【0009】
また、請求項2に係る本発明の変位検知方法は、請求項1に係る発明の変位検知方法において、許容範囲に下限値が設定されたものである。
さらに、請求項3に係る本発明の変位検知装置は、GPS観測点における
地盤の変位を検知する装置であって、
GPS観測点でリアルタイムに得られた測位データから、時間遅延が生ずる処理を行わずに、恒星日ごとの誤差を除去する誤差除去部と、
この誤差除去部で誤差が除去された測位データを記憶していくデータ記憶部と、
上記誤差が除去された測位データの基準となる基準値を算出する基準値算出部と、
上記基準値を基準として、現在における上記誤差が除去された測位データの偏差を算出する偏差算出部と、
上記データ記憶部に記憶された現在までの所定時間における測位データから、標準偏差を算出し、この標準偏差に所定係数を乗じて上記偏差の許容範囲とする許容範囲算出部と、
現在における上記偏差が上記許容範囲外か否かを判断する第一判断部と、
この第一判断部で判断された結果を記憶していく判断結果記憶部と、
この判断結果記憶部に記憶された現在までの他の所定時間における上記結果のうち、偏差が許容範囲外と判断された割合が所定値以上であれば、変位として検知する第二判断部と、
この第二判断部で変位として検知された場合に、その後の測位データに近づく値に上記基準値を修正する基準値更新部とを具備するものである。
【0010】
また、請求項4に係る本発明の変位検知装置は、請求項3に係る発明の変位検知装置において、許容範囲に下限値が設定されたものである。
【発明の効果】
【0011】
上記変位検知方法および変位検知装置によると、マルチパスなどの影響を受けて測位データが変動しても変位として検知せず、実際に発生した変位を正確に且つリアルタイムに検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るGPS観測点の変位検知方法および変位検知装置を、
図1〜
図5に基づき説明する。
なお、本実施の形態においては、GPSを使用した地盤観測システムに、本発明に係るGPS観測点の変位検知方法および変位検知装置を適用した場合について説明する。
【0014】
本実施の形態に係る地盤観測システムにおいては、リアルタイム・キネマティック方式(以下、RTK方式という)を用いて地盤の測位データを得ることになる。
このRTK方式を簡単に説明すると、位置が既知である基準局からのデータを用いる相対測位方式で、詳しくは動的干渉測位方式である。
【0015】
このRTK方式は、GPS衛星からの搬送波の位相を計測することで、高精度な計測を行うことができるが、干渉測位における整数波長分である整数値バイアスを確定する必要があり、例えば5個以上のGPS衛星からの測位データに最小二乗法を適用して決定される。
【0016】
このように、整数値バイアスが決定された場合の計測位置をフィックス解(整数値バイアスが確定した整数値確定状態ともいう)といい、整数値バイアスを決定することができない場合の計測位置をフロート解(整数値バイアスが確定しない整数値非確定状態ともいう)という。すなわち、このRTK方式においては、測位精度として、フィックス解(数センチ程度の精度)によるもの、フロート解(数センチ〜数十センチ程度の精度)によるもの、基準局からのデータを用いて補正が行われたDGPS解(数メートル程度の精度で、正確にはコードDGPS解という)によるもの、単独測位による単独測位解(数十メートル程度の精度)によるもの、および解が得られない測位演算不能状態があり、通常、RTK方式のGPS受信機には、現時点での測位精度を知らせるための測位精度データ(精
度ステータスともいう)の出力機能が具備されている。
【0017】
そして、本実施の形態に係る地盤観測システムでは、測位精度データがフィックス解であれば、測位データをリアルタイムに解析して、GPS観測点に変位が生じているか否かを検知する。
【0018】
まず、GPS観測点の変位を検知する変位検知装置を具備した地盤観測システムの概略構成を、
図1に基づき説明する。
図1に示すように、この地盤観測システム1は、例えば山間など地盤の変位を計測できる地点に設置されたGPS観測点2と、GPS観測誤差を相殺できる位置(例えばGPS観測点2から10kmの範囲内)に設置されたGPS基準点3と、GPS観測点2およびGPS基準点3からのデータを解析してGPS観測点2における測位データ(三次元座標データ)をRTK方式により算出する測位解析装置4と、この測位解析装置4からの測位データに基づいてGPS観測点2の変位を検知し得る変位検知装置5と、この変位検知装置5で検知されたGPS観測点2の変位を表示するモニタリング装置(例えばパソコン用モニタ)6とを具備している。
【0019】
また、上記GPS観測点2およびGPS基準点3は、GPS衛星からの信号を受信するGPSアンテナが頂部に設けられており、他の計測ユニットと通信するための通信装置と、その他必要な機器とを内部に具備している。
【0020】
次に、本発明の要旨である変位検知装置5について、
図2に基づき詳細に説明する。
図2に示すように、この変位検知装置5は、GPS観測点2における測位データを上記測位解析装置4からリアルタイムに入力するとともに当該測位データを時系列で記憶する入力記憶部11と、この入力記憶部11に入力および記憶された測位データから時間遅延が生ずる処理を行わずに恒星日ごとの誤差をリアルタイムに除去する誤差除去部12と、この誤差除去部12で誤差が除去された測位データからフィックス解の測位データをリアルタイムに選別するデータ選別部13と、このデータ選別部13で選別されたフィックス解の測位データを時系列で記憶するデータ記憶部14と、このデータ記憶部14に記憶された多数の測位データから基準値を算出する基準値算出部15と、基準値に基づく上記データ選別部13の測位データの偏差をリアルタイムに算出する偏差算出部16とを備えている。
【0021】
また、上記変位検知装置5は、上記データ記憶部14に記憶された所定時間における多数の測位データから標準偏差をリアルタイムに算出するとともに当該標準偏差に所定係数を乗じて上記偏差の許容範囲をリアルタイムに算出する許容範囲算出部17と、上記偏差算出部16で算出された偏差が上記許容範囲算出部17で算出された許容範囲外かをリアルタイムに判断する第一判断部18と、この第一判断部18による判断の結果を時系列で記憶する判断結果記憶部19と、この判断結果記憶部19に記憶された他の所定時間における上記結果のうち偏差が許容範囲外であると判断された割合が所定値以上であれば変位として検知する第二判断部20と、この第二判断部20で変位として検知された場合に偏差算出部16で用いる基準値を新たな基準値に更新する基準値更新部21と、上記第二判断部20で変位として検知された旨をモニタリング装置6に出力する出力部22とを備えている。なお、上記所定係数は、誤検知しない値として、例えば、過去1週間のデータを使って反復計算により決定される。
【0022】
上記誤差除去部12は、恒星日ごとにGPS衛星が同じ配置になることを利用し、現在の測位データから入力記憶部11に記憶された1恒星日前の測位データを減じることで、測位データから恒星日ごとの誤差をリアルタイムに除去するものである。また、上記基準値更新部21は、第二判断部20で変位として検知される度に、変位として検知される直前の所定数の測位データをデータ記憶部14から読み込み、これらの読み込まれた測位データから、新たな基準値を算出するとともに、偏差算出部16で用いる基準値を当該新たな基準値に更新するものである。
【0023】
以下、上記変位検知装置5を使用した変位検知方法について
図1〜
図3に基づき説明する。
図1に示すように、GPS観測点2およびGPS基準点3は、常時、GPS衛星からの信号を受信するとともに、測位データを算出するためのデータを測位解析装置4に送信する。測位解析装置4では、GPS観測点2およびGPS基準点3からの上記データを解析してGPS観測点2の測位データをRTK方式により算出し、この測位データを変位検知装置5に送信する。
【0024】
図2に示すように、変位検知装置5では、上記測位データを入力記憶部11にリアルタイムに入力するとともに当該測位データを時系列で記憶させた後、誤差除去部12で上記測位データから時間遅延が生ずる処理を行わずに恒星日ごとの誤差をリアルタイムに除去する(誤差除去ステップ)。そして、恒星日ごとの誤差が除去された測位データからフィックス解の測位データをデータ選別部13でリアルタイムに選別し、選別されたフィックス解の測位データをデータ記憶部14に時系列で記憶する(データ記憶ステップ)。その後、データ記憶部14に記憶された多数の測位データから基準値算出部15で基準値を算出する(基準値算出ステップ)。また、偏差算出部16で基準値に基づくデータ選別部13の測位データの偏差をリアルタイムに算出する(偏差算出ステップ)。
【0025】
そして、許容範囲算出部17で、データ記憶部14に記憶された所定時間における多数の測位データから標準偏差をリアルタイムに算出するとともに、この標準偏差に所定係数を乗じて上記許容範囲をリアルタイムに算出する(許容範囲算出ステップ)。そして、第一判断部18で、偏差算出部16で算出された偏差が上記許容範囲算出部17で算出された許容範囲外かをリアルタイムに判断する[第一判断ステップであり
図3(a)参照]。この第一判断部18による判断の結果を判断結果記憶部19に時系列で記憶させる(判断結果記憶ステップ)。その後、判断結果記憶部19に記憶された他の所定時間における結果のうち、偏差が許容範囲外であると判断された割合が所定値以上であれば、第二判断部20で変位として検知する[第二判断ステップであり
図3(b)参照]。また、第二判断部20で変位として検知された場合に、基準値更新部21で、偏差算出部16で用いる基準値を新たな基準値に更新する(基準値更新ステップ)。一方、出力部22で、第二判断部20で変位として検知された旨をモニタリング装置6に出力する。
【0026】
以下、上記変位検知装置5により変位を検知する様子を、
図4および
図5に示す測位データの時系列グラフに沿って説明する。
まず、GPS観測点2で実際に変位が発生する場合について
図4に基づき説明する。
【0027】
実際に変位が発生した場合の測位データは、
図4(a)に示すように、ある時間t2において急激に変動するものの、変動前の時間t1および変動後の時間t3〜t5は略一定となる。言い換えれば、測位データの時系列グラフは、顕著な段差を有する形状である。この段差は実際に発生する変位によるものである。
【0028】
詳細に説明すると、
図4(a)に示すように、測位データは、時間t1において、多少の変動があるものの略一定である。当然ながら、
図4(b)に示すように、測位データから基準値を減じた値である偏差も、時間t1において、横軸(0点)近くで略一定である。そして、
図4(a)に示す測位データは時間t2で急激に変動し、
図4(b)に示す偏差も同様に急激に変動する。測位データの変動に伴ってその標準偏差が増大するので、
図4(b)に示すように、標準偏差に所定係数を乗じた値である許容範囲も時間t2で急激に増大する。その後、
図4(a)に示す測位データは時間t3で略一定となり、
図4(b)に示す偏差も同様に略一定となる。このため、測位データの標準偏差が時間t3で急速に減少するので、
図4(b)に示す許容範囲も急速に減少する。すると、
図4(b)に示すように、時間t4の最初の時点で、偏差が許容範囲外となる。また、時間t4の最後の時点で、他の所定時間における第一判断部18の結果のうち偏差が許容範囲外と判断される割合が50%(所定値の一例である)以上となれば、変位の発生を検知するとともに、
図4(a)に示すように、基準値を更新する。これにより、時間t5の最初の時点で、
図4(a)に示す基準値が再び略一定の測位データに近づくので、
図4(b)に示す偏差も同様に横軸(0点)に近づき略一定となる。このため、
図4(b)に示すように、時間t5において、偏差が許容範囲内となり、新たな変位が発生しない限り、変位を検知しない。したがって、実際に変位が発生している場合、変位検知装置5は変位の発生をリアルタイムに検知する。
【0029】
次に、GPS観測点2でマルチパスなどの影響を受けるものの変位が発生しない場合について
図5に基づき説明する。
この場合の測位データは、
図5(a)に示すように、ある時間t’2〜t’4において変動するものの、時間t’2〜t’3前半と時間t’3後半〜t’4で変動方向が逆転し、変動前の時間t’1および変動後の時間t’5は略一定となる。言い換えれば、測位データの時系列グラフは、谷(または山)を有する形状である。この谷(または山)はマルチパスなどの影響によるものである。
【0030】
詳細に説明すると、
図5(a)に示すように、測位データは、時間t’1において、多少の変動があるものの略一定である。当然ながら、
図5(b)に示すように、測位データから基準値を減じた値である偏差も、時間t’1において、横軸(0点)近くで略一定である。そして、
図5(a)に示す測位データは時間t’2で変動し、
図5(b)に示す偏差も同様に変動する。測位データの変動に伴ってその標準偏差が増大するので、
図5(b)に示すように、標準偏差に所定係数を乗じた値である許容範囲も時間t’2で増大する。その後、
図5(a)に示す測位データは時間t’3でピークとなり変動方向が逆転するので、
図5(b)に示す偏差も同様となる。測位データがピークとなり変動方向が逆転すると、測位データの標準偏差が減少するので、
図5(b)に示す許容範囲も減少する。すると、
図5(b)に示すように、時間t’3で偏差が許容範囲外となる。しかし、時間t’4で測位データは変動方向が反転したまま変動を続けるので、測位データの標準偏差が再び増大し、許容範囲も増大する。このため、時間t’4において、他の所定時間における第一判断部18の結果のうち偏差が許容範囲外と判断される割合が50%(所定値の一例である)以上となる前に、偏差が許容範囲内となる。また、時間t’5において、測位データが基準値近くで略一定となるので、偏差が横軸(0点)近くで略一定となるから、
図5(b)に示すように、偏差が許容範囲内のまま維持される。なお、時間t’1およびt’5において、測位データが安定し標準偏差が極めて小さくなる場合でも、許容範囲に下限値が設定されているので、測位データが僅かに変動しても許容範囲外とならず、変位を誤って検知しない。したがって、実際に変位が発生していない場合、マルチパスなどの影響を受けて測位データが変動しても、変位検知装置5は変位の発生を検知しない。
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係る変位検知装置5および変位検知方法を、より具体的に示した実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0032】
本実施例に係る変位検知装置5および変位検知方法では、測位データの計測頻度を毎秒1回とし、測位データの標準偏差を算出するための所定時間を360秒(360個の測位データが母数となる)とし、所定係数を1.2とし、第二判断部20で変位の発生を検知するための他の所定時間を360秒(第一判断部18による360個の判断の結果が第二判断部による判断対象となる)とし、許容範囲の下限値を1mmとした。
【0033】
この条件で、実際に10mmの変位が発生した場合の時系列グラフを
図6に示す。また、上記の条件で、測位データが乱れとして15分間に10mm程度変動するものの、変位が発生しなかった場合の時系列グラフを
図7に示す。
【0034】
実際に10mmの変位が発生した場合は、
図6(a)に示すように、測位データの時系列グラフで13:01頃に段差が見られた。また、
図6(b)に示すように、13:07頃から、偏差が許容範囲外となり続け、
図6(c)に示すように、360秒間における第一判断部18の結果のうち偏差が許容範囲外と判断される割合が増大し始めた。そして、この割合が13:14頃に50%以上となり、変位の発生が検知された。
【0035】
測位データが乱れとして15分間に10mm程度変動するものの、変位が発生しなかった場合は、
図7(a)に示すように、測位データの時系列グラフで10:45頃〜11:02頃に山が見られた。また、
図7(b)に示すように、10:51頃から、偏差が許容範囲外となり続け、
図7(c)に示すように、360秒間における第一判断部18の結果のうち偏差が許容範囲外と判断される割合が増大し始めた。しかし、
図7(b)に示すように、11:02頃から偏差が許容範囲内となり、
図7(c)に示すように、上記割合が減少し始め、50%に達することがなく、変位の発生が検知されなかった。
【0036】
このように、上記実施の形態および実施例に係る変位検知装置5および変位検知方法によると、マルチパスなどの影響を受けて測位データが変動しても変位として検知せず、実際の変位の発生を正確に且つリアルタイムに検知することができる。
【0037】
また、上記実施の形態および実施例に係る変位検知装置5および変位検知方法によると、時間遅延が生ずることなく、GPS観測点2の変位の発生をリアルタイムに検知することができる。
【0038】
ところで、上記実施の形態および実施例では、地盤観測システム1に適用されるものついて説明したが、これに限定されるものではなく、海面観測システムなど他のシステムに適用されるものであってもよい。
【0039】
また、上記実施の形態および実施例では、RTK方式により測位データを算出するとして説明したが、これに限定されるものではなく、単独測位やDGPS方式など他の方式によるものであってもよい。