特許第5936417号(P5936417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936417車両用ホイールディスクの成形方法、及び車両用ホイールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936417
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】車両用ホイールディスクの成形方法、及び車両用ホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 3/04 20060101AFI20160609BHJP
   B21D 53/26 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B60B3/04 A
   B60B3/04 G
   B21D53/26 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-81537(P2012-81537)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209042(P2013-209042A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健
(72)【発明者】
【氏名】海老原 治
(72)【発明者】
【氏名】好井 健司
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−104423(JP,A)
【文献】 特開昭58−044934(JP,A)
【文献】 特開昭63−108924(JP,A)
【文献】 特開昭56−117833(JP,A)
【文献】 特開平07−241264(JP,A)
【文献】 特開平11−057913(JP,A)
【文献】 特開2004−322104(JP,A)
【文献】 特開2007−083297(JP,A)
【文献】 特開2008−238270(JP,A)
【文献】 米国特許第06332653(US,B1)
【文献】 特開2000−085301(JP,A)
【文献】 実開平06−023801(JP,U)
【文献】 米国特許第04181364(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 3/04
B21D 53/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基材を絞り成形することにより、中央に凹部を有すると共に該凹部より径方向外側に鍔部を有する中間材を得る予備成形工程と、
前記鍔部を第1上型と第1下型の間で拘束して保持する保持工程と、
前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束した状態で、前記凹部の底壁を第2上型と第2下型の間で所定のハブ取付部に成形するハブ取付部成形工程と、
前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束した状態で、前記第2上型と前記第2下型の間で前記ハブ取付部を拘束するハブ取付部拘束工程と、
前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束し、かつ前記ハブ取付部を前記第2上型と前記第2下型の間で拘束した状態で、前記保持工程で保持した前記鍔部と前記ハブ取付部とを軸方向に相対的に近づけ、ハット部を増肉するように成形するハット部成形工程と、
を備える車両用ホイールディスクの成形方法。
【請求項2】
前記予備成形工程にて、前記凹部の底壁が周縁部から中央に向かって傾斜するように前記中間材を成形する請求項1に記載の車両用ホイールディスクの成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用ホイールディスクの成形方法によって成形された車両用ホイールディスク、リム接続る車両用ホイールの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、農耕用車両、産業用車両等の2ピースタイプの車両用ホイールにおけるホイールディスクの成形方法、及び車両用ホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2ピースタイプの車両用ホイールは、タイヤを保持する円環状のリムと、車両に取り付けられるホイールディスクの2つの部材を溶接して構成されている。
図1に示すように、ホイールディスクはプレス加工により成形され、まず平板状の基材1を用意し(図1(a))、この基材1を絞り成形して中央に凹部2を有する中間材3を得る(図1(b)の予備成形工程)。ここで、平面から見て円形をなす凹部2は、底壁2aと周壁2bとを有し、凹部2よりも径方向外側部分が鍔部3cを形成している。次に、底壁2aを円盤形状に成形してハブ取付部11を成形し(図1(c)のハブ取付部成形工程)、さらに周壁2bの外縁付近から鍔部3cを径方向外側へ向かって立ち下がるように成形してハット部12を得る(図1(d):ハット部成形工程)。ここでハット部12の成形とともにアール(R)部15の成形も同時に行っている。その後、ハブ取付部11の中心にハブ穴11aを成形するために、下穴を開口し、曲げ加工すると共に、ハット部12より径方向外側の部分をプレスして意匠部13及び軸方向に立ち下がるフランジ部14を成形する(図1(e)(f))。最後に、ハブ取付部11のハブ穴11aの外側にボルト穴11bを開口すると共に、意匠部13に飾り穴13aを開口してホイールディスク10を得る(図1(g))。
【0003】
そして、図2図3に示すように、得られたホイールディスク10のフランジ部14を、リム20のドロップ部21の内周に嵌めて溶接することにより、2ピースタイプの車両用ホイール30を製造することができる。
ところで、ハブ取付部11は車両のハブに固定されると、ハブの外周縁に隣接しているアール(R)部15に大きな負荷が加わる。そして、上記した図1(c)に示すハブ取付部成形工程でアール部15の板厚が減肉するため、アール部15に亀裂が発生してホイールディスク10の破壊の起点となるおそれがある。
このようなことから、中間材3の凹部2の寸法や形状を規定することで、ハブ取付部を成形する際にアール部15を増肉する技術が開発されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−74248号公報
【特許文献2】特開2007−83297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、アール部15だけでなく、ハット部12にも高い応力が発生し、疲労破壊し易くなることが判明した。図4は、本発明者が行った車両用ホイールのホイールディスクの各部分に発生する応力のFEM(有限要素法)解析結果を示す。ハット部12には、アール部15と同等以上の応力が発生することがわかる。
又、図5は、図1(d)の従来のハット部成形工程の詳細を示す。まず、鍔部3cを上型100と下型102とで保持(拘束)する(図5(a))。ここで、上型100の下面にはハット部の上面を形成する金型凹部100aが形成されている。次に、凹部2の下側に第2下型112を配置し、凹部2の上側から、鍔部3cを保持した上型100及び下型102を下降させる(図5(b))。ここで、第2下型112の上面にはハット部の下面を形成する金型凸部112aが形成され、上型100の下降により、周壁2bの外縁が金型凹部100aと金型凸部112aの間で引っ張られて突状のハット部12が成形される(図5(c))。このとき、周壁2bの外縁付近の材料が径方向内外のF方向にそれぞれ流動し、ハット部12が減肉することになる(図5(d))。
【0006】
そこで、本発明は、ハット部を増肉するように成形し、車両用ホイールの軽量化と強度向上とを実現した車両用ホイールディスクの成形方法、及び車両用ホイールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の車両用ホイールディスクの成形方法は、平板状の基材を絞り成形することにより、中央に凹部を有すると共に該凹部より径方向外側に鍔部を有する中間材を得る予備成形工程と、前記鍔部を第1上型と第1下型の間で拘束して保持する保持工程と、前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束した状態で、前記凹部の底壁を第2上型と第2下型の間で所定のハブ取付部に成形するハブ取付部成形工程と、前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束した状態で、前記第2上型と前記第2下型の間で前記ハブ取付部を拘束するハブ取付部拘束工程と、前記鍔部を前記第1上型と前記第1下型の間で拘束し、かつ前記ハブ取付部を前記第2上型と前記第2下型の間で拘束した状態で、前記保持工程で保持した前記鍔部と前記ハブ取付部とを軸方向に相対的に近づけ、ハット部を増肉するように成形するハット部成形工程と、を備える。
このようにすると、鍔部とハブ取付部の材料が保持(拘束)された状態でハット部を成形するので、この部分で材料がハット部に向かって流れ、径方向内外に流出するのを防止するので、ハット部が増肉して車両用ホイールディスクの軽量化と強度向上とを実現する。
【0008】
前記予備成形工程にて、前記凹部の底壁が周縁部から中央に向かって傾斜するように前記中間材を成形するとよい。
このようにすると、ハブ取付部を成形する際、底壁が下型によって円錐形状から円盤形状に成形される際、底壁の広がりが周壁により規制される。これにより、底壁と周壁の間のアール部に圧縮荷重が付与されてアール部が増肉する。そのため、より一層の車両用ホイールの軽量化と強度向上とを実現することができる。
【0009】
本発明の車両用ホイールの製造方法は、前記車両用ホイールディスクの成形方法によって成形された車両用ホイールディスク、リム接続
この車両用ホイールの製造方法によれば、アール部及びハット部が増肉して車両用ホイールディスク、ひいては車両用ホイールの軽量化と強度向上とを実現する。なお、車両用ホイールディスクのうち、リムと嵌合するディスクフランジ部は縮みフランジとして製造され、特段の加工を加えなければ肉太りになるため、車両用ホイールディスクの「フランジ部を除く」その他の部位の板厚と規定した。


【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ハット部を増肉するように成形し、車両用ホイールディスク、及び車両用ホイールの軽量化と強度向上とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用ホイールディスクの成形方法を示す工程図である。
図2】車両用ホイールディスクの斜視図である。
図3】車両用ホイールディスクの軸方向に沿う断面図である。
図4】ホイールディスクの各部分に発生する応力のFEM(有限要素法)解析結果を示す図である。
図5】従来のハット部成形工程の詳細を示す工程図である。
図6】本発明の実施形態に係る車両用ホイールディスクの成形方法を示す工程図である。
図7】本発明の別の実施形態に係る車両用ホイールディスクの成形方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明によって成形(製造)されるホイールディスクが適用される車両としては自動車、バス、トラック等が例示される。又、このホイールディスクをリムと接合してなる車両用ホイールは、ハット部を有し、公式な耐久強度の規定を満たすものであることが好ましい。但し、公式な耐久強度の規定を有しない産業車両用(農耕用)ホイールや応急使用ホイール(自動車用テンパーホイールを含む)等であっても本発明を適用することができる。
ここで、公式な耐久強度は我国のJIS D 4103「自動車部品―ディスクホイール―性能及び表示」 であるが、将来、規格が変わった場合は、その時点で我国の日本工業規格JIS(及び/又は国際標準化機構ISO)が定めるホイールの公式な耐久強度をいう。
又、本発明で用いるホイールディスクの材料としては、プレス成形が可能な鋼板、チタン板等が挙げられる。
なお、以下の説明において、ホイールの軸方向を「軸方向」と称し、ホイールの径方向を「径方向」と称する。
又、本発明の車両用ホイールディスクの成形方法は、ハット部成形工程に特徴があり、それ以外の工程は従来の成形方法と同様とすることができる。従って、ハット部成形工程以外の工程、及び得られた車両用ホイールディスク及び車両用ホイールの構成は、上記した図1図3と同様であるので説明を適宜省略する。
【0013】
本発明の実施形態に係る車両用ホイールディスクの成形方法は、図1と同様に、まず平板状の基材1を用意し(図1(a))、この基材1を絞り成形して中央に凹部2を有する中間材3を得る(図1(b)の予備成形工程)。ここで、基材1は、正方形の板材の四隅を円弧状にカットすることにより得られる。又、平面から見て円形をなす凹部2は、軸方向に垂直な平面状の底壁2aと、底壁2aから立ち上がる周壁2bとを有し、凹部2よりも径方向外側部分が軸方向に垂直な平面状の鍔部3cを形成する。
次に、図6に示すように、鍔部3cを第1上型101と第1下型102とで保持(拘束)する(図6(a):保持工程)。ここで、第1上型101の下面にはハット部の上面を形成する金型凹部101aが形成されている。次いで、凹部2の下側に第2下型112を配置し、凹部2の上側から第2上型111を下降させ、第2上型111及び第2下型112の間で凹部2の底壁2aをプレス加工して略円盤形状の所定の形状のハブ取付部11を成形するとともにこのハブ取付部11を拘束(保持)する(図6(b):ハブ取付部成形工程、ハブ取付部拘束工程)。ここで、第2下型112の上面にはハット部の下面を形成する凸部112aが形成されている。
【0014】
次に、ハブ取付部11を保持(拘束)した状態で第2上型111及び第2下型112をB方向(図6(c))へ上昇させる。一方、鍔部3cを保持した第1上型101及び第1下型102をA方向(図6(c))へ下降させる。これによりハブ取付部11(底壁2a)と鍔部3cとを軸方向に相対的に近づけ、周壁2bの外縁付近を金型凹部101aと金型凸部112aの間で圧縮しながら突状のハット部12を成形する(図6(c):ハット部成形工程)。このとき、周壁2bの径方向内側及び鍔部3cの径方向外側の材料が各型101〜112によって拘束されているので、拘束されていない周壁2bの径方向外側および鍔部3cの径方向内側の部分の材料がF方向に流れてハット部12に向かい、径方向内外に流出するのを防止するので、ハット部12が増肉することになる(図6(d))。なお、成形されたハット部12は、基材1に比べて5〜10%程度増肉されることが判明した。
このようにしてハット部12を成形した後は、図1(e)〜図1(g)と同様にしてホイールディスク10を得る。
なお、ハブ取付部成形工程(図6(b))は、保持工程(図6(a))の後に限らず、保持工程の前又は保持工程と同時に行ってもよい。又、ハット部成形工程(図6(c))においては、ハブ取付部11と鍔部3cとを軸方向に相対的に近づければよく、第1上型101及び第1下型102を移動させずに第2上型111及び第2下型112のみをB方向へ上昇させてもよく、第2上型111及び第2下型112を移動させずに第1上型101及び第1下型102のみをA方向へ下降させてもよい。
【0015】
図7は、予備成形工程(図1(b))にて、凹部2xの底壁2axが周縁部2bから中央に向かって傾斜するように中間材3xを成形した例を示す(図7(a))。底壁2axは円錐形状をなしており、中心軸線に向かって徐々に深くなっている。
次に、凹部2xの下側に第2下型112を配置し、凹部2xの上側から第2上型111を下降させ、第2上型111及び第2下型112の間で凹部2xの底壁2axをプレス加工して円盤形状に成形し、ハブ取付部11を成形する(図7(b):ハブ取付部成形工程)。ここで、ハブ取付部11を成形する際、底壁2axは円錐形状をなしているため、底壁2axが第2下型112に当たり円錐形状から円盤形状に成形される際に、底壁2axの広がりが周壁2bにより規制される。これにより、底壁2axを介してアール部15に圧縮荷重が付与されることになる。アール部15では凹部2xの他の部位に比べて大きな曲げ歪みが生じた状態で圧縮荷重を受けるため、増肉が集中する。その結果、成形されたアール部15は、基材1に比べて10%程度増肉される。これに対して、底壁2axからハブ取付部11を成形する過程では、ハブ取付部11の増肉は殆どないか、僅かしかない。ハブ取付部11はアール部15に比べて要求される疲労強度のレベルが低いので、薄肉になっても支障はない。
【0016】
図7(b)以降の工程は、図6(c)以降と同様であるので説明を省略する。又、図7(b)のハブ取付部成形工程で中間材3xを成形する際には、アール部15に圧縮荷重を付与するため、鍔部3cを保持しておく必要がある。つまり、保持工程の後、又は保持工程と同時に、ハブ取付部成形工程を行う必要がある。
なお、円錐形状をなす底壁2axを有する中間材3xを用いてハブ取付部11を成形する方法は、上記特許文献2に記載されている。
【0017】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0018】
1 基材
2 凹部
2a、2ax 底壁
2b 周壁
3、3x 中間材
3c 鍔部
10 車両用ホイールディスク
11 ハブ取付部
12 ハット部
15 アール部
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図3