特許第5936490号(P5936490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936490
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20160609BHJP
   B41J 2/015 20060101ALI20160609BHJP
   B41J 2/155 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B41J2/01 203
   B41J2/01 209
   B41J2/015
   B41J2/155
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-188653(P2012-188653)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-46467(P2014-46467A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】前坂 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 衛
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】寺門 亮
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173178(JP,A)
【文献】 特開平11−048468(JP,A)
【文献】 特開2014−000724(JP,A)
【文献】 特開平09−029958(JP,A)
【文献】 特開2002−079668(JP,A)
【文献】 特開2001−096733(JP,A)
【文献】 特開2007−268899(JP,A)
【文献】 特開2000−108332(JP,A)
【文献】 特開2007−144787(JP,A)
【文献】 特開2009−220309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される印刷媒体にインク液滴を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
印刷媒体の平滑度を検出する検出部と、
印刷媒体の平滑度に基づき、前記ノズルから吐出するインク液滴の推進力および吐出タイミングを制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、インク液滴の大きさ、インク液滴の吐出速度、および、1ノズルから吐出する1画素あたりのインク液滴数のうちの少なくともいずれか1つにより、インク液滴の推進力を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、ヘッドギャップを考慮して、インク液滴の吐出タイミングを制御することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドから印刷媒体にインクを吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用紙を搬送しつつ、インクジェットヘッドから用紙へインクを吐出するインクジェット印刷装置が知られている。
【0003】
このようなインクジェット印刷装置において、表面に比較的大きな起伏があって平滑度が低い部分を有する用紙に印刷することがある。平滑度が低い部分としては、用紙種類(紙質)に固有のものや、外力により形成されたしわによるものなどがある。
【0004】
平滑度が低い部分がある用紙が搬送されると、その部分の起伏による気流の変化が生じる。このような気流の変化により、インクの着弾ずれが生じることがある。インクの着弾ずれは、印刷画質の低下を招く。
【0005】
気流の影響による着弾ずれを抑える技術としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1の技術では、滴量が異なる複数種類の液滴を吐出する場合に、滴量が少なく気流の影響を受けやすい液滴ほど、吐出速度が速くなるよう制御することで、着弾ずれを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−173178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、上述した平滑度が低い部分を有する用紙の搬送時の気流の変化によるインクの着弾ずれは考慮されておらず、これによる印刷画質の低下には対処できない。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、印刷画質の低下を抑制できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、印刷媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される印刷媒体にインク液滴を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、印刷媒体の平滑度を検出する検出部と、印刷媒体の平滑度に基づき、前記ノズルから吐出するインク液滴の推進力および吐出タイミングを制御する制御部とを備えることにある。
【0010】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記制御部は、インク液滴の大きさ、インク液滴の吐出速度、および、1ノズルから吐出する1画素あたりのインク液滴数のうちの少なくともいずれか1つにより、インク液滴の推進力を制御することにある。
【0011】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴は、前記制御部は、ヘッドギャップを考慮して、インク液滴の吐出タイミングを制御することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、印刷媒体の平滑度に基づき、ノズルから吐出するインク液滴の推進力および吐出タイミングを制御する。これにより、インクジェット印刷装置は、印刷媒体の平滑度の影響による気流の変化が招くインクの着弾ずれを低減できる。この結果、インクジェット印刷装置は、印刷画質の低下を抑制できる。
【0013】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴によれば、インク液滴の大きさ、インク液滴の吐出速度、および、1ノズルから吐出する1画素あたりのインク液滴数のうちの少なくともいずれか1つによりインク液滴の推進力を制御することで、インク液滴の推進力を容易に制御できる。
【0014】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴によれば、ヘッドギャップを考慮して、インク液滴の吐出タイミングを制御する。これにより、ヘッドギャップを調整可能なインクジェット印刷装置において、印刷媒体の種類等に応じて適切なタイミングでインク液滴の吐出を行い、印刷画質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
図2】実施の形態に係るインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図である。
図3】搬送部およびインクジェットヘッドの平面図である。
図4】ヘッドブロックの概略構成を一部断面で示す斜視図である。
図5図4におけるA−A線に沿ったヘッドブロックの部分断面図である。
図6】平滑度が高い用紙に対するインク液滴の飛翔の様子の説明図である。
図7】平滑度が高い用紙に対するインク液滴の着弾位置の説明図である。
図8】平滑度が低い部分を有する用紙に対するインク液滴の飛翔の様子の説明図である。
図9】平滑度が低い部分を有する用紙に対するインク液滴の着弾位置の説明図である。
図10】各ノズルの吐出動作の制御処理のフローチャートである。
図11】通常吐出用の駆動波形を示す図である。
図12】ヘッドブロックにおける吐出動作の説明図である。
図13】ヘッドブロックにおける吐出動作の説明図である。
図14】通常吐出よりもインク液滴の吐出速度を大きくする駆動波形の一例を示す図である。
図15】(a)は、ドロップ数の変換前の画像データの一例を示す図、(b)ドロップ数の変換後の画像データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図、図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図、図3は、搬送部およびインクジェットヘッドの平面図、図4は、ヘッドブロックの概略構成を一部断面で示す斜視図、図5は、図4におけるA−A線に沿ったヘッドブロックの部分断面図である。以下の説明において、図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、図1に示すように、前方から見て、上下左右を上下左右方向とする。また、図1において破線で示す経路が、印刷媒体である用紙Pが搬送される搬送経路Rである。以下の説明における上流、下流は、搬送経路Rにおける上流、下流を意味する。
【0019】
図1図2に示すように、インクジェット印刷装置1は、給紙部2と、搬送部3と、インクジェットヘッド部4と、ヘッド駆動部5と、検出部6と、制御部7とを備える。
【0020】
給紙部2は、用紙Pの給紙を行う。給紙部2は、給紙台11と、給紙ローラ12と、レジストローラ13とを備える。
【0021】
給紙台11は、印刷に用いられる用紙Pが積載されるものである。
【0022】
給紙ローラ12は、給紙台11に積載された用紙Pを1枚ずつピックアップしてレジストローラ13に向けて搬送する。給紙ローラ12は、給紙台11の上側に配置されている。給紙ローラ12は、図示しないモータにより回転駆動される。
【0023】
レジストローラ13は、給紙ローラ12により搬送されてきた用紙Pを一旦止め、用紙Pにたるみが形成された後、搬送部3に向けて搬送する。レジストローラ13は、給紙ローラ12の下流側に配置されている。レジストローラ13は、図示しないモータにより回転駆動される。
【0024】
搬送部3は、レジストローラ13から搬送されてきた用紙Pを搬送する。搬送部3は、搬送ベルト21と、駆動ローラ22と、従動ローラ23〜25と、ベルト駆動モータ26と、エンコーダ27とを備える。
【0025】
搬送ベルト21は、駆動ローラ22および従動ローラ23〜25に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト21には、用紙Pを吸着保持するための貫通穴であるベルト穴が多数形成されている。搬送ベルト21は、ファン(図示せず)の駆動によりベルト穴に発生する吸着力により、用紙Pを搬送面21a上に吸着保持する。搬送面21aは、駆動ローラ22と従動ローラ23との間で略水平となる搬送ベルト21の上面である。搬送ベルト21は、駆動ローラ22の回転駆動により、図1における時計回り方向に回転する。これにより、搬送ベルト21は、無端移動することで、搬送面21a上に吸着保持した用紙Pを右方向へ搬送する。
【0026】
駆動ローラ22および従動ローラ23〜25は、搬送ベルト21が掛け渡されるものである。駆動ローラ22は、搬送ベルト21を回転させる。従動ローラ23〜25は、搬送ベルト21を介して駆動ローラ22に従動する。従動ローラ23は、駆動ローラ22と略同じ高さで、駆動ローラ22から左右方向に所定間隔だけ離間して配置されている。従動ローラ24,25は、駆動ローラ22および従動ローラ23の下方において、互いに左右方向に所定間隔だけ離間して、略同じ高さに配置されている。
【0027】
ベルト駆動モータ26は、駆動ローラ22を回転駆動させる。
【0028】
エンコーダ27は、従動ローラ23に設置され、従動ローラ23の所定の回転角度ごとにパルス信号を出力する。
【0029】
インクジェットヘッド部4は、搬送部3により搬送される用紙Pにインクを吐出して画像を印刷する。インクジェットヘッド部4は、インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yと、昇降モータ32とを備える。
【0030】
インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yは、搬送部3により搬送される用紙Pにインクを吐出する。インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yは、それぞれ、シアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色のインクを吐出する。インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yは、搬送部3の上方において、左右方向に並列して配置されている。
【0031】
インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yは、ライン型のインクジェットヘッドであり、図3に示すように、それぞれ6個のヘッドブロック33を有する。各インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yにおいて、6個のヘッドブロック33は、千鳥配置されている。具体的には、6個のヘッドブロック33は、前後方向(主走査方向)に配列され、かつ、1つおきに左右方向(副走査方向)における位置をずらして配置されている。なお、色の区別が必要ない場合等に、符号における色を示すアルファベットの添え字(C,K,M,Y)を省略することがある。
【0032】
ヘッドブロック33は、シェアモード型である。ヘッドブロック33は、1つのノズルから1つの画素に対して吐出するインクの液滴数(ドロップ数)を変えることができ、液滴数(例えば、1〜7ドロップ)により濃度を表現する印刷を行う。図4図5に示すように、ヘッドブロック33は、複数のインク室41と、ノズルプレート42とを有する。
【0033】
インク室41は、供給されるインクを保持するとともに、後述するノズルプレート42のノズル47からインクを吐出させる。複数のインク室41は、主走査方向(前後方向)に並んで配置されている。各インク室41を隔てる隔壁43は、分極方向が相反する第1圧電部材44と第2圧電部材45とにより構成されている。第1圧電部材44および第2圧電部材45は、例えば、PZT(PbZrO−PbTiO)等の公知の圧電材料からなる。インク室41の側面を構成する隔壁43の表面には、電極46が密着形成されている。電極46は、駆動電圧が印加されると、隔壁43をせん断変形させることによりインク室41の容積およびインク室41内の圧力を変化させる。これにより、ノズル47からインク室41内のインクが吐出される。
【0034】
ノズルプレート42は、各インク室41に連通する複数のノズル47が形成された板状の部材である。複数のノズル47は、主走査方向(前後方向)の間隔が略等間隔になるように形成されている。ノズルプレート42は、インク室41の下端に配置されている。
【0035】
昇降モータ32は、搬送部3をインクジェットヘッド31に対して昇降させるための駆動力を発生するものである。昇降モータ32の駆動力が、図示しない昇降機構により搬送部3に伝達され、搬送部3が昇降するようになっている。これにより、ヘッドギャップが調整可能になっている。ヘッドギャップは、搬送部3の搬送面21aとインクジェットヘッド31のヘッドブロック33の吐出面(下面)との間の距離である。ヘッドギャップは、用紙Pの用紙種類等に応じて調整される。
【0036】
ヘッド駆動部5は、インクジェットヘッド31C,31K,31M,31Yを駆動してインクを吐出させる。具体的には、ヘッド駆動部5は、ヘッドブロック33の電極46に駆動電圧を印加し、ノズル47からインクを吐出させる。
【0037】
検出部6は、用紙Pの平滑度を検出するためのものである。具体的には、検出部6は、搬送される用紙Pの上面との間の距離を、用紙Pの幅方向(前後方向)の全体にわたって測定する。検出部6は、レジストローラ13とインクジェットヘッド31との間において、搬送ベルト21の上方に配置される。検出部6は、例えば、レーザ変位計により構成される。
【0038】
制御部7は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部7は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0039】
具体的には、制御部7は、給紙部2により用紙Pを搬送部3へ給紙し、搬送部3により用紙Pを搬送しつつ、インクジェットヘッド31からインクを吐出して用紙Pに印刷を行うよう制御を行う。
【0040】
ここで、用紙Pの平滑度がインク液滴の着弾位置に与える影響について説明する。図6は、平滑度が高い用紙Pに対するインク液滴の飛翔の様子の説明図、図7は、平滑度が高い用紙Pに対するインク液滴の着弾位置の説明図、図8は、平滑度が低い部分を有する用紙Pに対するインク液滴の飛翔の様子の説明図、図9は、平滑度が低い部分を有する用紙Pに対するインク液滴の着弾位置の説明図である。
【0041】
図6に示すように、ヘッドブロック33と用紙Pとの間には、用紙Pの搬送により搬送方向の気流W1が発生する。ヘッドブロック33から吐出されたインク液滴48は、気流W1の影響を受け、ノズル直下の理想的な着弾位置に対して下流側にずれた位置に着弾する。用紙Pの平滑度が高い場合、ヘッドブロック33の各ノズル47から吐出されるインク液滴48の着弾位置が気流W1の影響で、理想的な着弾位置から一様にずれる。このため、図7に示すように、各着弾ドット49の相対的な位置関係に乱れはほとんど生じない。したがって、印刷画質に対する気流W1の影響は、目視においては確認できない程度に小さい。
【0042】
一方、図8に示すように、隆起部50が形成された用紙Pが搬送されると、隆起部50に右側の空気が衝突することで、上方へ吹き上げる気流W2が発生する。また、隆起部50の影響で、搬送方向の気流W1が強まる。気流W2は、下方向へ吐出されたインク液滴48の推進力を弱める。下方向への推進力が低下したインク液滴48に対して、気流W1が作用することで、図8に示すように、隆起部50付近において、インク液滴48の着弾位置が理想的な着弾位置から大きくずれる。このため、図9に示すように、副走査方向における着弾ドット49の位置に乱れが発生する。これは、印刷画質の低下の要因となる。
【0043】
上述のような要因による印刷画質の低下を抑制するため、制御部7は、用紙Pの平滑度に基づき、インクジェットヘッド31のノズル47から吐出するインク液滴の推進力および吐出タイミングを制御する。
【0044】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0045】
印刷対象の画像データが入力されることにより、制御部7は、印刷動作を開始する。ここでは、画像データとして、各色のドロップデータが入力されるものとする。各色のドロップデータは、各画素に吐出する各色のインク液滴数(ドロップ数)を示すデータである。
【0046】
印刷動作を開始すると、制御部7は、ベルト駆動モータ26により駆動ローラ22を回転駆動させる。これにより、搬送ベルト21が周回駆動される。また、制御部7は、給紙部2を駆動させ、用紙Pを搬送部3へと搬送させる。
【0047】
また、制御部7は、検出部6を駆動させ、その出力信号の取得を開始する。制御部7は、所定時間ごとに検出部6の出力信号を取得する。検出部6の下方に用紙Pが到達していないときは、検出部6は、搬送ベルト21までの距離を示す信号を出力する。
【0048】
制御部7は、検出部6の出力信号から、用紙Pの先端が検出部6に到達したか否かを判断する。用紙Pの先端が検出部6に到達すると、前後方向における用紙幅分の長さの範囲で検出部6と検出対象物までの距離が変化する(小さくなる)ことから、制御部7は、検出部6の出力信号から用紙Pの先端が検出部6に到達したか否かを判断できる。用紙Pの先端が検出部6に到達したと判断すると、制御部7は、エンコーダ27の出力パルス数のカウントを開始する。このカウント値は、用紙Pの先端が検出部6に到達してからの搬送部3による用紙Pの搬送量、換言すれば、用紙Pの位置を示す。
【0049】
そして、制御部7は、搬送部3により搬送される用紙Pに対し、エンコーダ27の出力パルス数のカウント値および画像データ(ドロップデータ)に基づき、インクジェットヘッド31の各ノズル47からインク液滴を吐出させる。これにより、用紙Pに画像が印刷される。
【0050】
上述の印刷動作中において、制御部7は、取得した検出部6の出力信号を解析することで、用紙Pの低平滑度領域を検出する。低平滑度領域は、用紙Pの上面において、その上方における気流の変化を生じさせる(気流W2を発生させる)程度の起伏がある、平滑度が低い領域である。制御部7は、低平滑度領域に対してインク液滴を吐出する場合、他の領域に対してインク液滴を吐出する場合よりもインク液滴の推進力が大きくなるように、各ノズル47の吐出動作を制御する。
【0051】
各ノズル47の吐出動作の制御処理について、図10のフローチャートを参照して説明する。図10のフローチャートの処理は、ノズル47ごとに行われるものである。
【0052】
印刷動作を開始すると、制御部7は、図10のステップS10において、制御部7は、画像データ(ドロップデータ)に基づき、処理対象のノズル47に吐出対象画素があるか否かを判断する。当該ノズル47に吐出対象画素がないと判断した場合(ステップS10:NO)、制御部7は、処理を終了する。
【0053】
当該ノズル47に吐出対象画素があると判断した場合(ステップS10:YES)、ステップS20において、制御部7は、エンコーダ27の出力パルス数のカウント値および画像データに基づき、吐出タイミングになったか否かを判断する。吐出タイミングになっていないと判断した場合(ステップS20:NO)、制御部7は、ステップS20を繰り返す。
【0054】
吐出タイミングになったと判断した場合(ステップS20:YES)、ステップS30において、制御部7は、今回の吐出が低平滑度領域に対する吐出であるか否かを判断する。
【0055】
今回の吐出が低平滑度領域以外の、平滑度の高い領域に対する吐出であると判断した場合(ステップS30:NO)、ステップS40において、制御部7は、当該ノズル47が通常吐出を行うよう制御する。具体的には、制御部7は、当該ノズル47に対応するインク室41の電極46にヘッド駆動部5により、図11に示す通常吐出用の駆動波形(通常波形)の電圧を印加させる。
【0056】
ここで、ヘッド駆動部5により図11に示す通常波形の電圧を印加したときのヘッドブロック33における吐出動作について説明する。図5における中央のインク室41が吐出動作する場合で説明する。
【0057】
図5に示す定常状態から、ヘッド駆動部5は、吐出対象である中央のインク室41の両側に隣接するインク室41の電極46を接地し、中央のインク室41の電極46に、図11に示す負電圧(−V)の拡張パルスP1を印加する。すると、中央のインク室41の両側の隔壁43を構成する第1圧電部材44および第2圧電部材45の分極方向に垂直な方向の電界が生じる。これにより、第1圧電部材44と第2圧電部材45との接合面にズリ変形が生じ、図12に示すように、中央のインク室41の両側の隔壁43は互いに離反する方向に変形し、中央のインク室41の容積が拡張する。この結果、中央のインク室41内のインクに負圧が生じて、図示しないインク流入口からインク室41にインクが流れ込む。
【0058】
拡張パルスP1のパルス長(印加時間)は1ALである。AL(Acoustic Length)は、容積が拡張したインク室41にインクが流入することによる圧力波が、インク室41の全域を伝播してノズル47に達するまでの時間である。ALは、ヘッドブロック33の構造や、インクの密度等に依存して決まるものである。
【0059】
拡張パルスP1の印加後、ヘッド駆動部5は、図11に示すように、中央のインク室41の電極46に印加する電圧を接地電位に戻す。これにより、中央のインク室41の両側の隔壁43は、図12の状態から、図5の中立位置に戻る。この結果、中央のインク室41内のインクが急激に加圧され、対応するノズル47からインクが吐出される。
【0060】
中央のインク室41の電極46に印加する電圧を接地電位に戻してから1ALの休止時間が経過すると、ヘッド駆動部5は、中央のインク室41の電極46に正電圧(V)の収縮パルスP2を印加する。収縮パルスP2のパルス長は1ALである。この収縮パルスP2の印加により、図13に示すように、中央のインク室41の両側の隔壁43は互いに接近する方向に変形し、中央のインク室41の容積が収縮する。
【0061】
インクは、拡張パルスP1の印加終了直後にインク室41内の圧力がピークを迎えることで吐出される。圧力がピークを迎えた後、インク室41内には負圧が生じる。収縮パルスP2を印加してインク室41内の容積を収縮させて加圧力を発生させることで、インク吐出後のインク室41内の負圧が抑えられ、インク室41内におけるインクの残留振動が減衰される。これにより、次回の吐出動作を安定して行うことができる。
【0062】
収縮パルスP2の印加後、ヘッド駆動部5は、中央のインク室41の電極46に印加する電圧を接地電位とし、図5の状態に戻す。
【0063】
以上により1回(1ドロップ)の吐出動作が終了する。1画素に複数のインク液滴を吐出する場合、制御部7は、図11の通常波形の電圧を連続して電極46に印加させる。これにより、上述の吐出動作が繰り返される。
【0064】
図10に戻り、今回の吐出が低平滑度領域に対する吐出であると判断した場合(ステップS30:YES)、ステップS50において、制御部7は、当該ノズル47が通常吐出の場合よりもインク液滴の推進力を増大した吐出を行うよう制御する。
【0065】
具体的には、制御部7は、インク液滴の大きさ(液適量)および吐出速度のうちの少なくともいずれか一方を、通常吐出の場合よりも大きくするよう制御する。そのために、例えば、制御部7は、図11に示す通常波形に対し、駆動電圧VおよびAL値のうちの少なくともいずれか一方を変更した駆動波形を、当該ノズル47に対応する電極46に印加させる。駆動電圧VおよびAL値のうちの少なくともいずれか一方を変更することで、1ドロップの液適量および吐出速度のうちの少なくとも一方を変更することができる。
【0066】
また、例えば、図14に示す駆動波形により、図11に示す通常波形の場合より、インク液滴の吐出速度を大きくすることができる。図14の駆動波形では、拡張パルスP1の印加後の休止時間をごく短時間とし、その後、パルス長が2ALの正電圧(V)の収縮パルスP3を印加する。これにより、図11の通常波形よりも吐出タイミングでのインク室41内の圧力を高め、インク液滴の吐出速度を向上することができる。
【0067】
また、ステップS50において、制御部7は、インク液滴の推進力の増大に応じて、通常吐出の場合よりも吐出タイミングを遅らせるよう制御する。インク液滴の推進力の増大により、ノズル47から吐出されてから用紙Pに到達するまでの時間が短縮されるからである。ここで、制御部7は、搬送部3による用紙Pの搬送速度を考慮して、吐出タイミングを制御する。
【0068】
また、制御部7は、ヘッドギャップを考慮して吐出タイミングの制御する。前述のように、用紙種類等に応じてヘッドギャップが調整される。このため、ヘッドブロック33の吐出面と用紙Pのとの間の距離は、用紙種類等により異なることがある。ヘッドブロック33の吐出面と用紙Pとの間の距離により、インク液滴がノズル47から吐出されてから用紙Pに到達するまでの時間が異なる。よって、制御部7は、吐出タイミングの制御において、ヘッドギャップを考慮する。
【0069】
図10に戻り、ステップS40またはステップS50の後、ステップS60において、制御部7は、当該ノズル47のすべての吐出対象画素に対する吐出が終了したか否かを判断する。吐出対象画素が残っていると判断した場合(ステップS60:NO)、制御部7は、ステップS20へと戻る。すべての吐出対象画素に対する吐出が終了したと判断した場合(ステップS60:YES)、制御部7は、一連の処理を終了する。
【0070】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、用紙Pの平滑度に基づき、ノズル47から吐出するインク液滴の推進力および吐出タイミングを制御する。これにより、インクジェット印刷装置1は、用紙Pの平滑度の影響による気流の変化が招くインクの着弾ずれを低減できる。この結果、印刷画質の低下を抑制できる。
【0071】
また、インクジェット印刷装置1は、インク液滴の大きさおよび吐出速度のうちの少なくともいずれか一方により、インク液滴の推進力を制御する。これにより、インクジェット印刷装置1は、ヘッドブロック33の駆動を制御することで容易にインク液滴の推進力を制御できる。
【0072】
また、インクジェット印刷装置1は、ヘッドギャップを考慮して吐出タイミングの制御する。これにより、ヘッドギャップを調整可能なインクジェット印刷装置1において、用紙種類等に応じて適切なタイミングでインク液滴の吐出を行い、印刷画質の低下を抑制できる。
【0073】
なお、1ノズルから吐出する1画素あたりのインク液滴数(ドロップ数)により、インク液滴の推進力を制御することもできる。1画素あたりのドロップ数が大きいほうが、インク液滴の吐出により生じるノズル47から下方への気流が強くなり、インク液滴の推進力が大きくなる。そこで、例えば、比較的ドロップ数が小さい複数の画素のドロップ数を、1つの画素のドロップ数にまとめることで、吐出されるインク液滴の推進力を増大させるようにしてもよい。
【0074】
具体的には、例えば、図15(a)に示すように、3画素×3画素の単位面積の領域において、ドロップ数が「1」である画素が5つあるとする。この領域に対し、図15(b)に示すように、1つの画素のドロップ数を「5」とし、他の画素のドロップ数を「0」とする。これにより、当該領域内の濃度を維持しつつ、吐出されるインク液滴の推進力を増大させることができる。そこで、制御部7は、図15のような画像データ(ドロップデータ)の変換処理を用いることで、1画素あたりのドロップ数を大きくして、吐出されるインク液滴の推進力を増大させるようにしてもよい。なお、画像データの変換の方法は、図15の例に限らない。
【0075】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェット印刷装置
2 給紙部
3 搬送部
4 インクジェットヘッド部
5 ヘッド駆動部
6 検出部
7 制御部
31C,31K,31M,31Y インクジェットヘッド
47 ノズル
P 用紙
図1
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