【実施例】
【0015】
図1に示すように、門形をなす工作機械1の下部には、ベッド11が設けられている。このベッド11の幅方向中央部には、テーブル12がX軸方向(機械前後方向)に移動可能に支持されており、このテーブル12
の上面には、ワークWoが着脱可能に取り付けられている。
【0016】
また、ベッド11上には、左右一対のコラム13a,13bが立設されており、これらコラム13a,13bの上端間には、ブリッジ部14が架け渡されている。そして、コラム13a,13bの前面には、クロスレール15がW軸方向(機械上下方向)に昇降可能に支持されており、このクロスレール15の前面には、サドル16がY軸方向(機械左右方向)に移動可能に支持されている。
【0017】
更に、サドル16には、ラム17がZ軸方向(後述する主軸18の軸心方向)に繰り出し可能に支持されており、このラム17内には、主軸18が回転可能に支持されている。そして、主軸18の先端には、工具Tが着脱可能に装着されている。
【0018】
ここで、
図1乃至
図3に示すように、サドル16は、移動部材21及び旋回部材22から構成されている。移動部材21は、クロスレール15に対して、Y軸方向に移動可能に支持されており、旋回部材22は、その移動部材21に対して、旋回軸A周りに旋回可能に支持されている。なお、旋回部材22の旋回中心(傾動中心)となる旋回軸Aは、X軸方向と平行で、且つ、Z軸方向(主軸18の軸心)と直交している。
【0019】
移動部材21には、ラム旋回用モータ41が設けられており、このラム旋回用モータ41の出力軸41aには、ピニオン42及び板カム(旋回用カム)46が接続されている。そして、板カム46のカム面には、油圧制御弁(旋回用圧力制御弁)47の従動子47aが接触している。
【0020】
一方、旋回部材22には、ラム支持孔22a、収納部22b、及び、ラック部22cが形成されている。ラム支持孔22aは、旋回部材22の中央部を上下方向に貫通するように形成されており、ラム17をZ軸方向に繰り出し可能に支持している。また、収納部22bは、旋回部材22における上部の一部分を開口するような有底孔となっており、ラム支持孔22aの側部と連通している。更に、ラック部22cは、旋回部材22の後面を形成しており、上記ピニオン42と噛み合っている。
【0021】
また、ラム17の側方には、モータ支持部材51が配置されている。このモータ支持部材51の上端には、ラム繰り出し用モータ52が設けられており、当該モータ支持部材51の下端は、収納部22b内に支持されている。更に、ラム繰り出し用モータ52には、送りねじ53が回転可能に連結されており、この送りねじ53の下端は、収納部22b内において、歯車列55を介して、板カム(繰り出し用カム)56a,56bと接続している。そして、板カム56a,56bのカム面には、油圧制御弁(繰り出し用圧力制御弁)57a,57bの従動子571a,571bが接触している。
【0022】
一方、ラム17の側部には、螺合部材54が設けられており、この螺合部材54のねじ孔内には、上記送りねじ53が螺合されている。
【0023】
従って、ラム旋回用モータ41を駆動させることにより、移動部材21に対して、旋回部材22を旋回軸A周りに旋回させることができる。これにより、その旋回部材22に支持されたラム17(主軸18、工具T)を、Z軸方向に対して、所定の旋回角度(傾斜角度)αで傾斜させることができる。なお、旋回角度αは、鉛直軸(Z軸、W軸)を基準として、反時計回り方向をプラス方向とし、時計回り方向をマイナス方向としている。
【0024】
また、ラム繰り出し用モータ52を駆動させることにより、旋回部材22に対して、ラム17をZ軸方向に繰り出すことができる。これにより、ラム17(主軸18、工具T)の繰り出し量ΔZを調整することができる。
【0025】
そして、上述したように、ラム17を、繰り出したり、旋回させたりすると、当該ラム17には、その繰り出し量ΔZや旋回角度αに応じて、たわみが生じることになる。なお、ラム17のたわみ量をδで示しており、このたわみ量δにおいては、ラム17の旋回角度αがプラスの値となる場合にはプラスの値とし、ラム17の旋回角度αがマイナスの値となる場合にはマイナスの値としている。
【0026】
更に、
図2乃至
図4に示すように、ラム17内における四隅には、左右二対のテンションバー31a,31bが、Z軸方向に摺動可能に挿入されている。テンションバー31a,31bの上端には、ナット34の上方からの締め付けによって、環状のピストン部材32a,32bが嵌合されている。一方、テンションバー31a,31bの下端には、ナット34の下方からの締め付けによって、環状の引張用スリーブ33a,33bが嵌合されている。
【0027】
また、ラム17内における上部及び下部の四隅には、左右二対のシリンダ部171a,171b及び受け部172a,172bが、テンションバー31a,31bと同軸となるように形成されている。即ち、シリンダ部171a,171b内には、ピストン部材32a,32bが摺動可能に支持されており、受け部172a,172b内には、引張用スリーブ33a,33bが摺動可能に支持されている。
【0028】
従って、ラム17のシリンダ部171a,171bに対して、圧力を加減(給排)することにより、テンションバー31a,31bのピストン部材32a,32bを摺動させることができる。これにより、テンションバー31a,31bの引張用スリーブ33a,33bも、ラム17の受け部172a,172b内を摺動することになり、この摺動した引張用スリーブ33a,33bが、受け部172a,172bを上方に向けて引っ張り上げることになる。
【0029】
この結果、ラム17の先端を、テンションバー31a,31bの引張力によって、上方に向けて引っ張りあげることができるので、当該ラム17の先端を変位させ、最終的に、ラム17全体のたわみを補正することができる。即ち、ラム17の繰り出し量ΔZ及び旋回角度αに応じて、そのシリンダ部171a,171b内に供給する圧力を制御することにより、ラム17のたわみ量δをゼロにすることができる。
【0030】
そこで、工作機械1には、油圧をラム17のシリンダ部171a,171b内に供給するための油圧装置(圧力供給手段)60が設けられており、この油圧装置60は、
図5に示すような油圧回路を有している。
【0031】
つまり、
図5に示すように、油圧装置60においては、タンク71に貯められた油を、油圧供給管61と、この油圧供給管61の下流側端部から分岐した油圧分岐管62a,62bとを介して、ラム17のシリンダ部171a,171b内に供給するようにしている。
【0032】
油圧供給管61の上流側端部は、タンク71と接続しており、当該油圧供給管61には、ポンプ72が設けられている。なお、ポンプ72には、ポンプ駆動用モータ73及び油圧計74が接続されている。
【0033】
一方、油圧分岐管62a,62bの下流側端部は、ラム17のシリンダ部171a,171bと接続しており、当該油圧分岐管62a,62bには、逆止弁75a,75bが設けられている。
【0034】
また、油圧供給管61における油圧分岐管62a,62bとの接続部よりも上流側には、油圧逃がし管63が接続されている。そして、油圧逃がし管63の下流側端部は、タンク71と接続しており、当該油圧逃がし管63には、上記油圧制御弁47が設けられている。
【0035】
更に、油圧分岐管62a,62bにおける逆止弁75a,75bの設置位置よりも下流側には、油圧逃がし管64a,64b及び油圧計76a,76bが接続されている。そして、油圧逃がし管64a,64bの下流側端部は、タンク71と接続しており、当該油圧逃がし管64a,64bには、上記油圧制御弁57a,57bが設けられている。
【0036】
ここで、
図6(a)に示すように、油圧制御弁47においては、その従動子47aを板カム46のカム面に押圧可能としているため、板カム46の回転に伴う従動子47aの運動によって、油圧分岐管62a,62b側(油圧制御弁57a,57b側)に供給する油圧(設定圧力)が変化するようになっている。つまり、油圧制御弁47においては、板カム46の回転に伴って、従動子47aの変位量(突出量)が変化し、その変位量に応じて、弁開度が調整されるようになっている。
【0037】
具体的には、従動子47aが板カム46の回転によって上方に移動すると、当該従動子47aの変位量が少なくなり、油圧制御弁47の弁開度が小さくなる。これにより、油圧制御弁47を通過する油量(タンク71側に逃がす油量)が減少するため、油圧分岐管62a,62b側に流れる油量が増大する。
【0038】
一方、従動子47aが板カム46の回転によって下方に移動すると、当該従動子47aの変位量が大きくなり、油圧制御弁47の弁開度が大きくなる。これにより、油圧制御弁47を通過する油量(タンク71側に逃がす油量)が増大するため、油圧分岐管62a,62b側に流れる油量が減少する。
【0039】
そして、
図6(a),(b)に示すように、板カム46のカム形状は、ラム17の旋回角度α及び油圧制御弁47の設定圧力に基づいて設定されている。
【0040】
例えば、カム46の左右の回転角度に対して、左右の最大旋回角度(ここでは、±40°としている)までの各旋回角度(ここでは、0°、±5°、±10°、±20°、±30°、±40°としている)αを対応させ、それら各旋回角度αに応じて、油圧制御弁47の設定圧力(ここでは、0〜7MPaとしている)を規定する。
【0041】
即ち、旋回角度αが大きくなると、その分、ラム17のたわみ量δも大きくなるため、板カム46のカム形状を設定する場合には、旋回角度αが大きくなるに従って、油圧制御弁47の設定圧力が大きくなるようにする。
【0042】
同様に、
図7(a)に示すように、油圧制御弁57a,57bにおいては、その従動子571a,571bを板カム56a,56bのカム面に押圧可能としているため、板カム56a,56bの回転に伴う従動子571a,571bの運動によって、シリンダ部171a,171b側に供給する油圧(設定圧力)が変化するようになっている。つまり、油圧制御弁57a,57bにおいては、板カム56a,56bの回転に伴って、従動子571a,571bの変位量(突出量)が変化し、その変位量に応じて、弁開度が調整されるようになっている。
【0043】
具体的には、従動子571a,571bが板カム56a,56bの回転によって上方に移動すると、当該従動子571a,571bの変位量が少なくなり、油圧制御弁57a,57bの弁開度が小さくなる。これにより、油圧制御弁57a,57bを通過する油量(タンク71側に逃がす油量)が減少するため、シリンダ部171a,171b側に流れる油量が増大する。
【0044】
一方、従動子571a,571bが板カム56a,56bの回転によって下方に移動すると、当該従動子571a,571bの変位量が大きくなり、油圧制御弁57a,57bの弁開度が大きくなる。これにより、油圧制御弁57a,57bを通過する油量(タンク71側に逃がす油量)が増大するため、シリンダ部171a,171b側に流れる油量が減少する。
【0045】
そして、
図7(a),(b)に示すように、板カム56a,56bのカム形状は、ラム17の繰り出し量ΔZ及び油圧制御弁57a,57bの設定圧力に基づいて設定されている。
【0046】
例えば、カム56a,56bの回転角度に対して、最大繰り出し量(ここでは、1200mmとしている)までの各繰り出し量(ここでは、0、250、500、750、1000、1200mmとしている)ΔZを対応させ、それら各繰り出し量ΔZに応じて、油圧制御弁57a,57bの設定圧力(ここでは、0〜6MPaとしている)を規定する。
【0047】
即ち、繰り出し量ΔZが大きくなると、その分、ラム17のたわみ量δも大きくなるため、板カム56a,56bのカム形状を設定する場合には、繰り出し量ΔZが大きくなるに従って、油圧制御弁57a,57bの設定圧力が大きくなるようにする。
【0048】
従って、ワークWoを加工する際に、ラム繰り出し用モータ52及びラム旋回用モータ41を駆動させ、ラム17を、所定の繰り出し量ΔZで繰り出すと共に、所定の旋回角度αで旋回させると、それらラム旋回用モータ41及びラム繰り出し用モータ52の駆動に連動して、板カム46,56a,56bが回転する。
【0049】
これと同時に、ポンプ駆動用モータ73の駆動によって、ポンプ72が作動しており、このポンプ72によって汲み上げられた油は、油圧供給管61及び油圧分岐管62a,62bを介して、ラム17のシリンダ部171a,171bに供給される。
【0050】
このとき、油圧供給管61に供給された油の一部は、板カム46の回転によって開閉した油圧制御弁47を通過して、油圧逃がし管63からタンク71に排出される。これにより、油圧分岐管62a,62bに供給される油は、ラム17の旋回角度αに応じた油圧となる。
【0051】
次いで、油圧分岐管62a,62bに供給された油の一部は、板カム56a,56bの回転によって開閉した油圧制御弁57a,57bを通過して、油圧逃がし管64a,64bからタンク71に排出される。これにより、ラム17のシリンダ部171a,171bに供給される油は、ラム17の旋回角度αに応じた油圧となるだけでなく、繰り出し量ΔZにも応じた油圧となる。
【0052】
そして、ラム17のシリンダ部171a,171bに油が供給されると、テンションバー31a,31bのピストン部材32a,32bが摺動するため、その引張用スリーブ33a,33bが、ラム17の受け部172a,172bを上方に向けて引っ張り上げる。これにより、ラム17の繰り出し量ΔZ及び旋回角度αに応じたたわみが補正される。
【0053】
なお、上述した実施形態では、テンションバー31a,31bの引張力を、板カム46,56a,56b及び油圧制御弁47,57a,57bを用いて制御するようにしているが、それらに替えて、比例電磁制御弁を用いて制御するようにしても構わない。このような構成では、比例電磁制御弁に加える電流値を変えることより、ラム17のシリンダ部171a,171b内に供給する設定圧力を変更することができるので、テンションバー31a,31bの引張力が制御可能となる。
【0054】
従って、本発明に係る工作機械1によれば、ラム17の繰り出し及び旋回によって生じる当該ラム17自身のたわみを、その繰り出し量ΔZ及び旋回角度αに応じて補正することができるので、加工精度の低下を防止することができる。