特許第5936506号(P5936506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5936506-裏地用織物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936506
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】裏地用織物
(51)【国際特許分類】
   A41D 27/02 20060101AFI20160609BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20160609BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A41D27/02
   D03D15/00 D
   D03D15/00 G
   D03D1/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-214322(P2012-214322)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-70281(P2014-70281A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】三野 正博
(72)【発明者】
【氏名】尾形 正二
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−174635(JP,A)
【文献】 特開2008−081914(JP,A)
【文献】 特開2002−309423(JP,A)
【文献】 特開2011−106074(JP,A)
【文献】 特開平07−145532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00−27/18
A41D27/00−27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が130℃以上250℃未満のポリエステルを鞘部に、融点が250℃以上のポリエステルを芯部に配した芯鞘型複合繊維からなる糸条と、融点が250℃以上のポリエステル繊維からなる糸条とが配列された織物であって、
前記織物の経糸及び緯糸ともに、前記芯鞘型複合繊維からなる糸条が1本又は2〜4本連続して配列される毎に前記ポリエステル繊維からなる糸条が複数本配列され、
前記配列された芯鞘型複合繊維からなる糸条により形成された格子の大きさが前記織物の経方向及び緯方向いずれも1.5mm以上2.5mm以下であり、
前記経糸及び緯糸として配列された前記芯鞘型複合繊維からなる糸条同士が熱融着されており、
滑脱抵抗力が前記織物の経方向及び緯方向ともに3mm以下であり、
目付が45g/m以下であることを特徴とする裏地用織物。
【請求項2】
経糸又は緯糸として配列された前記芯鞘型複合繊維からなる糸条と、緯糸又は経糸として配列された前記ポリエステル繊維からなる糸条とが、熱融着されていることを特徴とする請求項1記載の裏地用織物。
【請求項3】
前記融点が130℃以上250℃未満のポリエステルの共重合成分が1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の裏地用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた滑脱抵抗力を備えた軽量裏地用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーツ上着、ジャケット等の軽量化に伴い、表地織物のみならず裏地用織物においても軽量化が要望されている。
【0003】
裏地用織物を軽量化する方法としては、裏地用織物を構成する糸の繊度を細くする、または裏地用織物密度を小さくする、又はアルカリ減量加工をすることが挙げられる。
【0004】
しかし、上記の方法で得られた裏地用織物をスーツ等に用いた場合、着用などで製品縫製後の縫い目に応力が加わると、該織物の経糸または緯糸がずれて開いてしまう現象(すなわち、縫い目ずれ)が発生しやすい。
【0005】
縫い目ずれの生じにくい裏地用織物として、経糸及び緯糸ともポリエステル系フィラメントで構成され、カバーファクターを特定の値とする裏地用織物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、縫い目ずれの生じにくい裏地用織物として、経糸または緯糸の少なくともいずれか一方に、繊維横断面形状が異型断面であるポリエステルマルチフィラメントを含む織物であって、カバーファクターを特定のものとする裏地用織物が知られている(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−309423号公報
【特許文献2】特開2005−330615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の裏地用織物は、縫い目ずれを生じにくくするために該織物の組織を高密度にするものである。そのため、該文献の実施例に具体的に開示されている裏地用織物は、JIS L 1096の滑脱抵抗力が経方向及び緯方向ともに3mm以下であるが、目付が50g/m以上であり、前記軽量化の要望に十分応えることができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2の裏地用織物は、異型断面糸を用い単糸間に空隙をもたせることで縫い目ずれを生じにくくさせることを図っている。しかし、該文献の実施例に具体的に開示されている裏地用織物は、やはり特許文献1の裏地用織物と同様に、カバーファクターを特定の値とし裏地用織物の密度を高密度にしたものである。そのため、該織物の滑脱抵抗力は経方向及び緯方向ともに3mm以下であるが、該織物の目付は50g/m以上であり、前記軽量化の要望に十分応えることができないという問題がある。以上から、目付が45g/m以下であって、かつ、滑脱抵抗力に優れた裏地用織物は存在しなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、軽量でありながら優れた滑脱抵抗力を備える裏地用織物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記(1)〜(3)の通りである。
【0012】
(1)融点が130℃以上250℃未満のポリエステルを鞘部に、融点が250℃以上のポリエステルを芯部に配した芯鞘型複合繊維からなる糸条と、融点が250℃以上のポリエステル繊維からなる糸条とが配列された織物であって、前記織物の経糸及び緯糸ともに、前記芯鞘型複合繊維からなる糸条が1本又は2〜4本連続して配列される毎に前記ポリエステル繊維からなる糸条が複数本配列され、前記配列された芯鞘型複合繊維からなる糸条により形成された格子の大きさが前記織物の経方向及び緯方向いずれも1.5mm以上2.5mm以下であり、前記経糸及び緯糸として配列された前記芯鞘型複合繊維からなる糸条同士が熱融着されており、滑脱抵抗力が前記織物の経方向及び緯方向ともに3mm以下であり、目付が45g/m以下であることを特徴とする裏地用織物。
(2)経糸又は緯糸として配列された前記芯鞘型複合繊維からなる糸条と緯糸又は経糸として配列された前記ポリエステル繊維からなる糸条とが熱融着されていることを特徴とする上記(1)記載の裏地用織物。
(3)前記融点が130℃以上250℃未満のポリエステルの共重合成分が1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の裏地用織編物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の裏地用織物によれば、上記構成とすることにより、軽量でありながら優れた滑脱抵抗力を備えることができる。従って、該裏地用織物を裏地に用いるスーツ上着、ユニフォーム等衣料品は、縫い目ずれが生じにくく、かつ、軽量なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の裏地用織物の組織の一例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の裏地用織物は、融点が130℃以上250℃未満のポリエステル(以下、ポリエステルAと略する場合がある。)を鞘部に、融点が250℃以上のポリエステル(以下、ポリエステルBと略することがある。)を芯部に配した芯鞘型複合繊維からなる糸条(以下、複合繊維糸条と略することがある。)と、融点が250℃以上のポリエステル繊維からなる糸条(以下、ポリエステル繊維糸条と略することがある。)とが配列されてなる。
【0017】
複合繊維糸条とポリエステル繊維糸条とが配列された織物をポリエステルAの融点以上ポリエステルBの融点以下の温度で熱処理した際、ポリエステルAのみが融解する。これにより、経糸及び緯糸として配列された複合繊維糸条同士が交点において熱融着されるので、該織物は優れた滑脱抵抗力を備える裏地用織物とすることができる。加えて、経糸又は緯糸として配列された複合繊維糸条が、緯糸又は経糸として配列されたポリエステル繊維糸条と交点において熱融着されることにより、該織物は滑脱抵抗力に特に優れたものとなる。
【0018】
前記ポリエステルAとしては、例えばエチレンテレフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位、ポリプロピレンテレフタレート単位等を主骨格とし、第三成分としてイソフタル酸、スルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、p−オキシ安息香酸、ナフタリン、2,6−ジカルボン酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、p−オキシエトキシ安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、ネオペンチルグリコール、脂肪族ラクトンなどを共重合させたものが挙げられる。
【0019】
中でも、ポリエステルAは、テレフタル酸成分及びエチレングリコール成分からなり、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含む共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
ポリエステルAが上記成分であると、得られる芯鞘型複合繊維は、結晶性が高くなり、結晶化速度が速くなる。これにより、該複合繊維からなる糸条を用いた織物を熱処理し裏地用織物とした場合、該裏地用織物において該裏地用織物を構成する糸条同士が均一に接着され、該裏地用織物中における滑脱抵抗力のムラが生じにくくなる。
【0021】
前記ポリエステルAにおいて、1,4−ブタンジオール成分を共重合する場合、1,4−ブタンジオール成分の共重合量は、全グリコール成分に対して40〜60モル%とすることが好ましい。該共重合量が40モル%未満または60モル%を超えると、ポリエステルAの融点が高いものとなりやすい。
【0022】
前記ポリエステルAにおいて、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の共重合量を10モル%以上とすることにより、ポリエステルAの融点は、後述する熱接着性繊維として適した温度(130〜200℃)となりやすい。一方、該共重合量を20モル%以下とすることにより、ポリエステルAの結晶性が高いものとなりやすく、紡糸時の単糸密着が起こりにくくなる。
【0023】
前記脂肪族ラクトン成分としては、ポリエステルAの結晶性を良好なものとしつつ、ポリエステルAの融点を本発明における複合繊維糸条の熱接着に適したものとする観点から、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0024】
前記ポリエステルAにおいて、アジピン酸成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%以上とすることにより、ポリエステルAの融点は、後述する熱接着性繊維として適した温度(130〜200℃)となりやすい。一方、該共重合量を20モル%以下とすることにより、ポリエステルAの結晶性が高いものとなりやすく、紡糸時の単糸密着が起こりにくくなる。
【0025】
前記ポリエステルAは、融点130〜200℃、ガラス転移点20〜80℃、結晶開始温度90〜130℃のポリエステルであることが好ましい。
【0026】
ポリエステルAの融点が130℃以上であると、本発明の該裏地用織物は高温雰囲気下での耐熱性に優れたものとなる。一方、融点が200℃以下であると、熱処理時の温度を比較的低いものとすることができ経済的に好ましく、また、該熱処理により芯部の強度低下及び熱収縮が生じにくくなる。
【0027】
ポリエステルAのガラス転移点が20℃以上であると、複合繊維糸条は溶融紡糸時に単糸間密着が発生しにくくなる。一方、ガラス転移点が80℃以下であると、複合繊維糸条は比較的低温で延伸熱処理することができ、繊維構造に結晶化ムラが生じにくく、延伸性が優れたものとなる。
【0028】
ポリエステルAの結晶化開始温度が90℃以上であると、熱延伸工程で結晶化が進行しにくくなり、延伸ムラが生じにくく延伸性が優れたものとなり、次の熱処理工程において安定な結晶構造を再構築しやすく、十分な強度を有する繊維を得やすくなる。一方、該温度が130℃以下であると、ポリエステルAの融点が200℃以下となりやすく好ましい。
【0029】
一方、前記ポリエステルBは、融点が250℃以上のポリエステルであり、該ポリエステルとして、例えば、繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位(以下、PETと略する。)、ブチレンテレフタレート単位またはトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルが挙げられる。特に、該繰り返し単位が95モル%以上であるポリエステルが好ましい。
【0030】
ポリエステルBの融点が250℃未満である場合、該ポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維からなる糸条を用いた織物を熱処理し裏地用織物とする際、該裏地用織物は熱処理前後での寸法変化が大きいものとなる。
【0031】
ポリエステルBにブレンドまたは共重合することのできる他の成分として、例えばイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンギカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、e−カプロラクトン、燐酸等の酸成分、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチルプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。
【0032】
ポリエステルAとポリエステルBとの質量比率(A/B)は、2/8〜6/4の範囲であることが好ましい。該質量比率が6/4を超えたものである場合、得られる芯鞘型複合繊維からなる糸条を用いた織物を熱処理し裏地用織物とすると、該裏地用織物は強度に劣ったものとなりやすい。また、該質量比率が2/8未満である場合、得られる芯鞘型複合繊維からなる糸条は熱接着性に乏しいものとなりやすく、該複合繊維糸条を用いた織物を熱処理し裏地用織物とすると、該裏地用織物は滑脱抵抗力が不十分なものとなりやすい。
【0033】
本発明において、芯鞘型複合繊維の複合形状は、本発明の効果を阻害しなければ特に限定されるものではなく、同心円型、偏心型のいずれであってもよい
【0034】
本発明において、ポリエステルA及びポリエステルBは、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0035】
本発明において、ポリエステル繊維糸条を構成するポリエステルは融点が250℃以上であれば特に限定されるものではない。
【0036】
本発明において、糸条とは、1本の連続した繊維からなるモノフィラメント糸、複数の連続した繊維からなるマルチフィラメント糸、短繊維化された繊維からなる紡績糸等が挙げられる。複合繊維糸条及びポリエステル繊維糸条は仮撚り加工や実撚等が施された加工糸としてもよい。
【0037】
複合繊維糸条及びポリエステル繊維糸条の単糸繊度及び総繊度は、得られる裏地用織物の目付を45g/m以下とすることができればよく、単糸繊度が0.3〜10.0dtex、総繊度が10〜100dtexとするのが好ましい。
【0038】
本発明の裏地用織物は、該織物の経糸及び緯糸ともに、複合繊維糸条が1本又は2〜4本連続して配列される毎にポリエステル繊維糸条が複数本配列される。
【0039】
図1は、本発明の裏地用織物の組織の一例を示す平面模式図である。図1に示す裏地用織物組織では、緯方向にわたって、複合繊維糸条1が経糸として2本連続して配列される毎にポリエステル繊維糸条2が6本連続して配列されている。そして、経方向にわたって、複合繊維糸条1が経糸として2本連続して配列される毎にポリエステル繊維糸条2が4本連続して配列されている。前記ポリエステル繊維糸条が連続して配列される本数は、該糸条の総繊度及び裏地用織物の所望の目付に従い、後述する格子の大きさを満たすよう選択され、2〜60本とすることが好ましい。
【0040】
図1では、織物の経方向及び緯方向にわたって複合繊維糸条1が経糸及び緯糸ともに2本連続して配列されている織物組織の例を示しているが、これに限定されるものではなく、複合繊維糸条1が経糸及び緯糸とも1本又は2〜4本連続して配列される組織であればよい。従って、1本又は2〜4本連続して配列される複合繊維糸条の本数は、経糸と緯糸とで異なるものであってもよいし、織物の経方向及び/又は緯方向において上記範囲内で変化するものであってもよい。
【0041】
経糸及び/又は緯糸として複合繊維糸条が0本配列される場合(裏地用織物が複合繊維糸条を経糸及び/又は緯糸として含まない場合)、滑脱抵抗力に優れた裏地用織物を得ることができない。経糸及び/又は緯糸として複合繊維糸条が5本以上連続して配列される場合、得られる織物を熱処理して裏地用織物とすると、該裏地用織物は風合いが硬くなってしまい、該裏地用織物を裏地とした衣服は着用快適性に劣るものとなる。
【0042】
図1において、経糸及び緯糸として配列された複合繊維糸条1によって、格子3が形成される。そして、該格子3の大きさは、織物を熱処理して得られる裏地用織物において、該織物の経方向及び緯方向いずれも1.5mm以上2.5mm以下であることが必要である。図1において、該格子3の大きさは、該格子を形成する複合繊維糸条1のうち、該格子の最も内側に配列される本発明における複合繊維糸条間の長さ(4a、4b)を測定するものとする。
【0043】
前記格子の大きさが経方向及び緯方向いずれも1.5mm以上2.5mm以下であることにより、本発明の裏地用織物は滑脱抵抗力が優れ、かつ、該裏地用織物を裏地とした衣服は着用快適性に優れたものとなる。該格子の大きさが経方向及び/又は緯方向において1.5mm未満の場合、裏地用織物は風合いが硬くなり、該裏地用織物を用いた衣服は着用快適性に劣るものとなる。該格子の大きさが経方向及び/又は緯方向において2.5mmを超える場合、裏地用織物は滑脱抵抗力が劣ったものとなり、該裏地用織物を用いた衣服は縫い目ずれが発生しやすくなる。
【0044】
本発明の裏地用織物は、目付が45g/m以下であることが必要であり、20〜40g/mであることが好ましい。本発明の裏地用織物は目付を45g/m以下と軽量なものとしても、前記したように複合繊維糸条を特定の配列となるように製織するので、滑脱抵抗力が優れたものとすることができる。そして、裏地用織物の目付を45g/m以下とすることにより、該織物を用いた衣服も軽量化を図ることができ、着用快適性に優れたものとなる。
【0045】
本発明の裏地用織物の織組織としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。
【0046】
本発明の裏地用織物の密度も、複合繊維糸条及びポリエステル繊維糸条を前記配列とし、該織物の目付を45g/m以下とすれば、特に限定されるものではない。
【0047】
本発明の裏地用織物は、滑脱抵抗力が3mm以下であることが好ましい。ここで、滑脱抵抗力は、JIS L 1096:2010の縫目滑脱B法に従い、荷重を78.5Nとして測定するものである。該滑脱抵抗力を3mm以下とすることにより、得られる裏地用織物を用いた衣服は縫い目ずれが発生しにくくなる。
【0048】
前記滑脱抵抗力を3mm以下とすることは、複合繊維糸条及びポリエステル繊維糸条を前記したように配列した織物を熱処理し、該複合繊維糸条を熱融着することにより可能となる。該熱処理は、該複合繊維糸条を構成するポリエステルAの融点以上ポリエステルBの融点以下の温度で熱処理すればよいが、該複合繊維糸条の強度の観点からポリエステルAの融点より10℃以上の温度として熱処理することが好ましい。
【0049】
該熱処理する方法としては、織物の通常の仕上げ工程で用いられる染色加工、プレセット、ファイナルセットなどによる熱処理が挙げられる。染色加工における生織セットの際におこなうと、染色工程等の中間工程において経糸及び緯糸の目ずれを防止することができるので好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
以下の実施例、比較例における測定及び評価は下記の方法でおこなった。
【0052】
(1)目付
JIS L 1096:2010 8.3.2 標準状態における単位面積当たりの質量 A法に従って測定、算出した。
【0053】
(2)滑脱抵抗力
JIS L 1096:2010 8.23.1滑脱抵抗法 B法に従い、荷重を78.5Nとして測定、算出した。
【0054】
(3)複合繊維糸条によって形成される格子の大きさ
実体顕微鏡により観察、測定した。
【0055】
(4)風合い
得られた織物の風合いについて5人のパネラーによる評価をおこなった。10段階で評価し、風合いが柔らかいものを高い点数とし、7点以上を合格とした。
【0056】
(実施例)
複合繊維糸条として、エチレンテレフタレート単位を主体とし、1,4−ブタンジオールを全グリコール成分に対して50モル%共重合した融点が180℃のポリエステルAを鞘部に、エチレンテレフタレート単位が全繰り返し単位中95モル%以上である融点が257℃のPETであるポリエステルBを芯部に、芯鞘質量比率(芯成分:鞘成分)を70:30として配した芯鞘型複合繊維からなる糸条(56dtex24フィラメント)を用いた。ポリエステル繊維糸条として、融点が255℃であり、エチレンテレフタレート単位が全繰り返し単位中95モル%以上であるPETフィラメント糸(56dtex24フィラメント)を用いた。そして、該芯鞘型複合繊維からなる糸条及びPETフィラメント糸にそれぞれZ方向800回/mの撚りを施した。
【0057】
経糸として、前記芯鞘型複合繊維からなる糸条を2本連続して配列する毎に前記PETフィラメント糸を6本配列し、緯糸として、前記芯鞘型複合繊維からなる糸条を2本連続して配列する毎に前記PETフィラメント糸を4本配列した。そして、筬密度60羽/3.788cm、入れ本数2本/1羽の条件で、水噴射式織機で平織りとし、経糸密度86本/2.54cm、緯糸密度55本/2.54cm、仕上げ幅128cmの生織を得た。
【0058】
前記生織を、テンターを用いて190℃、60秒の条件で生織セットをおこない、この際、該生織を構成する芯鞘型複合繊維からなる糸条が融解し、経糸及び緯糸として配列された芯鞘型複合繊維からなる糸条同士が熱融着された。サーキュラー染色機を用いて、90℃、10分の条件で精錬、130℃、40分の条件で染色をおこない、次いでテンターを用いて190℃、60秒の条件で仕上げセットをおこない、経糸密度88本/2.54cm、緯糸密度63本/2.54cm、仕上げ幅124cm、目付36g/mである本発明の裏地用織物を得た。該裏地用織物の組織において、芯鞘型複合繊維からなる糸条によって形成される格子の大きさは、織物経方向が2.0mm、織物緯方向が2.1mmであった。
【0059】
(比較例1)
織物組織において、緯糸として、前記芯鞘型複合繊維からなる糸条を2本連続して配列する毎に前記PETフィラメント糸を6本配列したこと以外は、実施例1と同様におこない、経糸密度88本/2.54cm、緯糸密度63本/2.54cm、仕上げ幅124cm、目付36g/mである織物を得た。該織物の組織において、芯鞘型複合繊維からなる糸条によって形成される格子の大きさは、織物経方向が2.0mm、織物緯方向が2.8mmであった。
【0060】
(比較例2)
経糸、緯糸ともに、前記PETフィラメント糸のみを用いた(すなわち、芯鞘型複合繊維からなる糸条を前記PETフィラメント糸に置き換えた)こと以外は、実施例1と同様におこない、経糸密度88本/2.54cm、緯糸密度63本/2.54cm、仕上げ幅124cm、目付36g/mである織物を得た。
【0061】
得られた結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように実施例の裏地用織物は、滑脱抵抗力が3mm以下であり風合いも良好なものであった。従って、軽量でありながら滑脱抵抗力に優れた裏地用織物を得ることができ、該織物は、該織物を裏地とする衣服の縫い目ずれが発生しにくく、着用快適性に優れるものであった。一方、比較例1の織物は、本発明における複合繊維糸条によって形成される格子の大きさが、織物緯方向において2.5mmを越えるものであったことから、緯糸の滑脱が大きくなり、経方向の滑脱抵抗力が3mmを超えるものとなった。すなわち、該織物は、衣服の裏地として用いた場合に縫い目ずれが生じやすいものであった。比較例2の織物は、本発明における複合繊維糸条を含まないものであったことから、滑脱抵抗力が経方向、緯方向とも3mmを大きく超えるものとなった。すなわち、該織物も、衣服の裏地として用いた場合に縫い目ずれが生じやすいものであった。
【符号の説明】
【0064】
1 複合繊維糸条
2 ポリエステル繊維糸条
3 経糸及び緯糸として配列された複合繊維糸条によって形成される格子
4a 格子の最も内側に配列される複合繊維糸条であって緯糸として配列された糸条間の長さ(mm)
4b 格子の最も内側に配列される複合繊維糸条であって経糸として配列された糸条間の長さ(mm)
図1