特許第5936553号(P5936553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936553
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】新規糖転移酵素遺伝子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160609BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20160609BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20160609BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20160609BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20160609BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20160609BHJP
   A01H 5/02 20060101ALI20160609BHJP
   A23L 5/41 20160101ALI20160609BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20160609BHJP
   C12P 19/44 20060101ALI20160609BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20160609BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   A01H5/00 A
   A01H5/02
   A23L1/272
   C12N9/10
   C12P19/44
   A23L1/30 B
   A61K31/7048
   A61K8/60
【請求項の数】16
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-552745(P2012-552745)
(86)(22)【出願日】2012年1月11日
(86)【国際出願番号】JP2012050379
(87)【国際公開番号】WO2012096307
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2014年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-6317(P2011-6317)
(32)【優先日】2011年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
(72)【発明者】
【氏名】興津 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】松井 啓祐
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−519940(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/156211(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0030090(US,A1)
【文献】 Phytochemistry,1998年,Vol.48, No.2,p.389-393
【文献】 Natural Product Reports,2009年,Vol.26, No.7,p.884-915
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e):
(a)配列番号1又は3又は12の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1又は3又は12の塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
【請求項2】
(a)配列番号1又は3又は12の塩基配列からなるポリヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
(c)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
(f)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
(g)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
(h)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
DNAである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターが導入された非ヒト宿主。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを用いてフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を付加する方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが導入され、かつ、該ポリヌクレオチドを含有する、植物若しくはその子孫又はそれらの部分若しくは組織。
【請求項13】
切花である、請求項12に記載の植物の部分。
【請求項14】
請求項13に記載の切花を用いた切花加工品。
【請求項15】
以下の工程:
請求項10に記載の非ヒト宿主を培養し又は生育させ、そして
該非ヒト宿主からフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を採取する、
を含む、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項16】
以下の工程:
請求項10に記載の非ヒト宿主を培養し又は生育させ、そして
該非ヒト宿主から、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されたフラボンを採取する、
を含む、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されたフラボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
花産業において、新しい形質を持つ花は常に珍重される。特に、花の最も重要な形質である「色」を変化させた植物の開発は産業上重要視され、これまで、古典的な方法である交配による品種改良によってさまざまな色の花が開発されてきた。交配は有効な品種改良方法であるものの、植物に固有の遺伝的制限があるため、交配可能な近縁種が持つ遺伝子資源しか利用することができないという欠点がある。例えば、長年の交配育種にもかかわらず、バラ、カーネーション、キク、ユリには紫色〜青色、リンドウ、アイリスには鮮やかな赤色、ゼラニウム、アサガオには黄色の品種は、これまで作出されていない。
【0003】
花の色は、フラボノイド、カロテノイド、クロロフィル、ベタレインの4種類の色素に起因する。この中で、フラボノイドは黄、赤、紫、青といった多様な色を呈する。赤、紫、青色を呈する1グループはアントシアニンと総称され、アントシアニンの構造の多彩さが花の色が多彩である原因の1つである。アントシアニンはその生合成経路を考慮するとアグリコンの構造に依り、大きく3つのグループに分類することができる。カーネーションやゼラニウムのような鮮やかな赤色の花にはペラルゴニジン型アントシアニンが、青色や紫色の花にはデルフィニジン型アントシアニンが含まれることが多い。バラ、カーネーション、キク、ユリに青や紫色の品種が存在しないのは、これらの植物がデルフィニジン型アントシアニンを合成する能力がないことが原因である。
【0004】
花色が青くなるためにはデルフィニジンが蓄積することに加え、(i)アントシアニンが1つ又は複数の芳香族アシル基により修飾されること、(ii)アントシアニンがフラボンやフラボノールなどのコピグメントと共存すること、(iii)鉄イオンやアルミニウムイオンがアントシアニンと共存すること、(iv)アントシアニンが局在する液胞のpHが中性から弱アルカリ性に上昇すること、又は(v)アントシアニン、コピグメント、金属イオンが錯体を形成すること(このようなアントシアニンはメタロアントシアニンと呼ばれる)のいずれかが必要であると考えられている(以下、非特許文献1)。
【0005】
フラボノイドやアントシアニン生合成はよく研究され、関連する生合成酵素やそれをコードする遺伝子が同定されている(以下、非特許文献2参照、図1参照)。例えば、デルフィニジンの生合成に必要なフラボノイドのB環を水酸化するフラボノイド3’,5’−水酸化酵素(F3’5’H)の遺伝子は多くの植物から得られている。また、これらのF3’5’H遺伝子をカーネーション(以下、特許文献1参照)、バラ(以下、非特許文献3、特許文献2、3参照)、キク(以下、特許文献4参照)に導入することにより、花弁でデルフィニジンを蓄積し、花の色が青く変化した遺伝子組換え植物も作出されている(以下、非特許文献4参照)。このようなカーネーションとバラは市販されている。
【0006】
フラボン(flavone)は、有機化合物の1種で、フラバン誘導体の環状ケトンであり、狭義には化学式C15102、分子量222.24の化合物、2,3−ジデヒドロフラバン−4−オン(2,3-didehydroflavan-4-one)を指す。広義にはフラボン類に属する誘導体を「フラボン」と称する。広義のフラボン(フラボン類)はフラボノイドのカテゴリーの1つであり、フラボノイドの中でフラボン構造を基本骨格とし、さらに3位に水酸基を持たないものが「フラボン」に分類される。代表的な「フラボン」としてはアピゲニン(apigenin; 4',5,7-trihydroxyflavone)やルテオリン(luteolin; 3',4',5,7-tetrahydroxyflavone)が挙げられる。本願明細書中、用語「フラボン」とは、広義のフラボン、すなわち、フラボン類に属する誘導体を意味する。
【0007】
フラボンの生合成に必要なフラボン合成酵素(FNS)の遺伝子も多くの植物から得られている。フラボンは、アントシアニンと共存するとアントシアニンの色を青く濃くする効果があることが知られており、これらのFNS遺伝子は花色改変において注目されていた。F3’5’Hと共にFNS遺伝子を、フラボンを合成する能力がないバラへ導入することにより、花弁でデルフィニジンを蓄積すると同時に、フラボンも蓄積し、花の色がより一層青く変化した(以下、特許文献5参照)。また、フラボンは、花色青色化以外に、紫外線を吸収することから、植物を紫外線から守ったり、虫媒花では昆虫の視覚へのシグナルとして機能する。また、フラボンは植物と土壌微生物との相互作用にも関係している。さらに、フラボンは健康によい成分として食品や化粧品の素材としても用いられている。 例えば、フラボンは抗癌作用を有するといわれており、フラボンを多く含む食材を摂取することによって、ガンの治療や予防になることも実証されている。
【0008】
また、アントシアニンやフラボンを修飾する遺伝子も多くの植物から得られている。糖転移酵素、アシル基転移酵素、メチル基転移酵素などがあるが、ここでは配糖化反応を触媒する糖転移酵素(GT)について記載する。例えば、アントシアニンの3位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、リンドウ、シソ、ペチュニア、バラ、キンギョソウなどから単離されている(以下、非特許文献4〜6、特許文献6参照)。アントシアニンの5位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、シソ、ペチュニア、リンドウ、バーベナ、トレニアなどから単離されている(以下、非特許文献5〜7、特許文献7参照)。フラボンの7位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、シロイヌナズナから単離されている(以下、非特許文献8参照)。バイカレンの7位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がコガネバナから単離されており、この遺伝子を大腸菌で発現させたタンパク質がフラボノイドの7位の水酸基にグルコースを転移する活性を示す反応を触媒することも報告されている(以下、非特許文献9参照)。アントシアニンの3’位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、リンドウ、チョウマメ、サイネリアから単離されている(以下、特許文献8参照)。また、アントシアニンのA環とC環の異なる2箇所の水酸基に逐次的にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がバラで単離されている(以下、特許文献9参照)。アントシアニンのB環の異なる2箇所の水酸基に逐次的にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がチョウマメで単離されている(以下、特許文献10参照)。
【0009】
前記した糖転移酵素は、UDP−グルコースを糖供与体としているが、最近、アシルグルコースを糖供与体とする糖転移酵素も同定されている。アントシアニン−3グルコシドの5位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がカーネーションから、7位の水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がデルフィニウムから単離されている(以下、非特許文献10参照)。
【0010】
このように糖転移酵素としては様々な水酸基にグルコースを転移する活性を有するタンパク質が多数存在している。
しかしながら、その機能が同定されていない糖転移酵素も未だ多数残っていると考えられている。例えば、フラボノイドの4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子や、フラボノイドのA環とB環の2箇所の水酸基に逐次的に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は未だ同定されていない。リビングストンデージー由来の糖転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させたタンパク質が、in vitro においてフラボノイドの4’位又は7位のいずれか一方の水酸基にグルコースを転移する活性を示すことが報告されているが、この糖転移酵素の植物体における本来の活性は、ベタニジンの5位の水酸基にグルコースを転移するものである(以下、非特許文献11参照)。
【0011】
ところで、ツユクサ、ヤグルマギク、サルビア、ネモフィラの色素に代表されるメタロアントシアニンは、アントシアニン6分子、フラボン6分子、及び金属イオン2原子からなり、各成分が集合して安定な青色色素を形成している(図2、非特許文献1参照)。例えば、ネモフィラのメタロアントシアニンは、ネモフィリン(図3参照)、マロニルアピゲニン4’,7−ジグルコシド(図4参照)、Mg2+、及びFe3+から形成されている。サルビアのメタロアントシアニンは、シアノサルビアニン(図5参照)、アピゲニン4’,7−ジグルコシド(図6参照)、及びMg2+から形成されている。これまでの研究によって、メタロアントシアニンを形成する青い花はすべて、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されているフラボンを生合成しており、そのフラボンに付加されている糖が、メタロアントシアニン形成における分子認識において、重要な役割を担っていることが分かっている。フラボンの4’位に配位されている糖が形成時の分子認識に重要であり、7位の糖はその安定性に寄与することが示されている(以下、非特許文献1参照)。これら2つの糖がフラボンに付加されてはじめて、メタロアントシアニンが形成され、美しい青色が発現する。また、青いダッチアイリス花弁には4’位に糖が付加したフラボンが含まれている。また、フラボンに糖が2個付加されることによって溶解度が上がり、物性も変わるため、健康食品、医薬品や化粧品素材としての用途が拡がることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第WO2006/105598号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO2010/122849号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO2005/017147号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2009/062253号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO2008/156211号パンフレット
【特許文献6】国際公開第WO2007/094521号パンフレット
【特許文献7】国際公開第WO99/05287号パンフレット
【特許文献8】国際公開第WO01/092509号パンフレット
【特許文献9】特開2006−149293号公報
【特許文献10】特開2005−95005号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Natural Product Reports (2009), 26, 884-915
【非特許文献2】Biosci. Biotechnol. Biochem (2010), 74(9), 1760-1769
【非特許文献3】Plant Cell Physiol (2007), 48(11), 1589-1600
【非特許文献4】Plant Cell Physiol (1996), 37(5), 711-716
【非特許文献5】J. Biol. Chem (1999), 274(11), 7405-7411
【非特許文献6】Plant Molecular Biology (2002), 48, 401-411
【非特許文献7】Journal of Experimental Botany (2008), 59(6), 1241-1252
【非特許文献8】Biosci. Biotechnol. Biochem (2006), 70(6), 1471-1477
【非特許文献9】Planta (2000), 210, 1006-1013
【非特許文献10】Plant Cell (2010), 22(10), 3374-89
【非特許文献11】The Plant Journal (1999), 19(5), 509-519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
フラボンの物性を変えることは、花の色を変えることや、食品、医薬品、化粧品の素材の開発に必要である。例えば、デルフィニジンを蓄積しているカーネーション、バラ、キクの色は青紫色であるが、この色をさらに青くする研究が行われている。
かかる状況の下、本発明が解決しようとする課題は、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、本願出願人らは鋭意検討し、実験を重ねた結果、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを単離し、これを使用することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
【0016】
[1]以下の(a)〜(e):
(a)配列番号1又は3又は12の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1又は3又は12の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
【0017】
[2](a)配列番号1又は3又は12の塩基配列からなるポリヌクレオチドである、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
【0018】
[3](c)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
【0019】
[4](f)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
【0020】
[5](g)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記[4]に記載のポリヌクレオチド。
【0021】
[6](h)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して、98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記[5]に記載のポリヌクレオチド。
【0022】
[7]DNAである、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0023】
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質。
【0024】
[9]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【0025】
[10]前記[9]に記載のベクターが導入された非ヒト宿主。
【0026】
[11]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いてフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を付加する方法。
【0027】
[12]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入され、かつ、該ポリヌクレオチドを含有する、植物若しくはその子孫又はそれらの部分若しくは組織。
【0028】
[13]切花である、前記[12]に記載の植物の部分。
【0029】
[14]前記[13]に記載の切花を用いた切花加工品。
【0030】
[15]以下の工程:
前記[10]に記載の非ヒト宿主を培養し又は生育させ、そして
該非ヒト宿主からフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を採取する、
を含む、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質の製造方法。
【0031】
[16]以下の工程:
前記[10]に記載の非ヒト宿主を培養し又は生育させ、そして
該非ヒト宿主から、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されたフラボンを採取する、
を含む、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されたフラボンの製造方法。
【0032】
[17]前記[16]に記載の製造方法により製造された4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されフラボンを含有する食品。
【0033】
[18]前記[16]に記載の製造方法により製造された4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されフラボンを含有する医薬品。
【0034】
[19]前記[16]に記載の製造方法により製造された4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されフラボンを含有する化粧品。
【発明の効果】
【0035】
本発明のポリヌクレオチドを適切な宿主細胞内で発現させることにより、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に特異的に糖を転移する活性を有するタンパク質を製造することが可能となる。本発明により、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を、植物内で、構成的又は組織特異的に発現させることで、花色の改変に利用することができる。また、本発明により、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加したフラボンの製法、及び該製法によって得られた食品、医薬品、化粧品なども提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】アントシアニンの生合成経路を説明する図である。
図2】メタロアントシアニンの構造の概要図である。
図3】ネモフィラ由来のアントシアニン(ネモフィリン)の構造式である。
図4】ネモフィラ由来のフラボン(マロニルアピゲニン4’,7−ジグルコシド)の構造式である。
図5】サルビア由来のアントシアニン(シアノサルビアニン)の構造式である。
図6】サルビア由来のフラボン(アピゲニン4’,7−ジグルコシド)の構造式である。
図7】花弁抽出液とアピゲニンを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図8】アピゲニン4’,7−ジグルコシドの生合成経路を説明する図である。
図9】NmGT3タンパク質溶液とアピゲニンを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図10】NmGT4タンパク質溶液とアピゲニンを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図11】NmGT3タンパク質溶液とアピゲニン7−グルコシドを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図12】NmGT4タンパク質溶液とアピゲニン7−グルコシドを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図13】NmGT3タンパク質、NmGT4タンパク質、SuGT5タンパク質とバイカレンの5位に糖を付加する酵素の、各種フラボノイド基質に対する反応性をまとめた図である。
図14】NmGT3とNmGT4のアミノ酸配列を比較するアラインメント図である(同一性31%、核酸レベルの同一性は51%)。
図15】NmGT3とカーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列を比較するアラインメント図である(同一性32%、核酸レベルの同一性は47%)。
図16】NmGT4とコガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列を比較するアラインメント図である(同一性52%、核酸レベルの同一性は60%)。
図17】トレニアへ導入したNmGT3、4を含んだコンストラクト(pSPB4584〜4587)
図18】ペチュニアへ導入したNmGT3、4を含んだコンストラクト(pSPB5414、5427)
図19】カーネーションへ導入したNmGT3を含んだコンストラクト(pSPB5433)
図20】バラへ導入したNmGT3を含んだコンストラクト(pSPB4581、4582、5437、5440)
図21】SuGT5タンパク質溶液とアピゲニンを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図22】SuGT5タンパク質溶液とアピゲニン7−グルコシドを酵素反応させた液の高速液体クロマトグラムである。
図23】SuGT5とNmGT3のアミノ酸配列を比較するアラインメント図である(同一性38%、核酸レベルの同一性は47%)。
図24】SuGT5とNmGT4のアミノ酸配列を比較するアラインメント図である(同一性51%、核酸レベルの同一性は58%)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、以下の(a)〜(e):
(a)配列番号1又は3又は12の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1又は3又は12の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号2又は4又は13のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
からなる群から選ばれるポリヌクレオチドに関する。
【0038】
本明細書中、用語「ポリヌクレオチド」はDNA又はRNAを意味する。
本明細書中、用語「ストリジェント条件」とは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと、ゲノムDNAとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。さらに、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。したがって、用語「ストリンジェント条件」とは、各塩基配列間の「同一性」又は「相同性」の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリダイズするような条件を意味する。「ストリンジェント条件」としては、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることができ、具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものを挙げることができる。
【0039】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然由来のもの、例えば、植物由来のもの、植物由来以外のものであってもよい。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであっても化学合成したDNAでもよい。
【0040】
上記「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を意味する。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
また、本発明に係るDNAは、当業者に公知の方法、例えば、ホスホアミダイド法等により化学的に合成する方法、植物の核酸試料を鋳型とし、目的とする遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計したプライマーを用いる核酸増幅法などによって得ることができる。
【0041】
本明細書中、用語「同一性」及び「相同性」とは、ポリペプチド配列(又はアミノ酸配列)あるいはポリヌクレオチド配列(又は塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、2つのポリペプチド配列又は2つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものであり、「同一性」及び「相同性」は容易に算出できる。2つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、用語「同一性」及び「相同性」は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988); Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994); von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press, New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991)等参照)。
【0042】
また、本明細書に記載される「同一性」及び「相同性」の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、好ましくは、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5、Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いて算出される数値である。
【0043】
本発明のポリヌクレオチド(核酸、遺伝子)は、着目のタンパク質を「コードする」ものである。ここで、「コードする」とは、着目のタンパク質をその活性を備えた状態で発現させるということを意味している。また、「コードする」とは、着目のタンパク質を連続する構造配列(エクソン)としてコードすること、又は介在配列(イントロン)を介してコードすることの両者の意味を含んでいる。
【0044】
生来の塩基配列を有する遺伝子は、以下の実施例に記載するように、例えば、DNAシークエンサーによる解析によって得られる。また、修飾されたアミノ酸配列を有する酵素をコードするDNAは生来の塩基配列を有するDNAを基礎として、常用の部位特定変異誘発やPCR法を用いて合成することができる。例えば、修飾したいDNA断片を生来のcDNA又はゲノムDNAの制限酵素処理によって得て、これを鋳型にして、所望の変異を導入したプライマーを用いて部位特定変異誘発やPCR法を実施し、所望の修飾したDNA断片を得る。その後、この変異を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
あるいは短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば、目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば、全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分の配列からなるDNA断片を合成し、連結すればよい。
【0045】
また、得られたポリヌクレオチドを大腸菌及び酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、酵素活性を測定することにより、得られたポリヌクレオチドがフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードすることを確認することができる。さらに、当該ポリヌクレオチドを発現させることにより、ポリヌクレオチド産物であるフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を得ることができる。あるいは配列番号2又は4又は13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体を用いてもフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を取得することができ、かかる抗体を用いて他の生物由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローン化することもできる。
【0046】
本発明は、前記したポリヌクレオチドを含む(組換え)ベクター、特に発現ベクター、さらに該ベクターによって形質転換された宿主にも関する。
宿主としては、原核生物又は真核生物を用いることがきる。原核生物としては細菌、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えば、バシルス・スブシルス(Bacillus subtilis)など常用の宿主を用いることができる。真核生物としては、下等真核生物、例えば、真核微生物、例えば、真菌である酵母又は糸状菌が使用できる。
【0047】
酵母としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属微生物、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが挙げられ、また糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム(Penicillium)属微生物が挙げられる。宿主としては、さらに動物細胞又は植物細胞が使用でき、動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒトなどの細胞系が使用され、さらに、昆虫細胞、例えば、カイコ細胞、カイコの成虫それ自体も宿主として使用される。
【0048】
本発明の発現ベクターは、それらを導入する宿主の種類に依存して発現制御領域、例えば、プロモーター、ターミネーター、複製起点などを含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、常用のプロモーター、例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーターなどが使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーターなどが使用され、そして糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼプロモーター、trpCプロモーターなどが使用される。また、動物細胞宿主用のプロモーターとしては、ウイルス性プロモーター、例えば、SV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーターなどが使用される。植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、mac-1プロモーター等が挙げられる。また、組織特異的な遺伝子発現のためには、その組織で特異的に発現する遺伝子のプロモーターを用いることができる。
発現ベクターの作製は、制限酵素、リガーゼなどを用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主の形質転換も常法に従って行うことができる。
【0049】
前記発現ベクターによって形質転換された宿主を培養、栽培又は生育させ、培養物又は培地から常法に従って、例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどにより回収・精製して、目的とするタンパク質を得ることができる。
本明細書では、ネモフィラ又はサルビア由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子について述べているが、本発明に係るポリヌクレオチドは、ネモフィラ又はサルビア由来の遺伝子に限定されるものではなく、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の起源としては植物でも動物でも微生物であってもよく、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有している限り、起源を問わず、植物における花色の変更に利用可能である。
【0050】
本発明は、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする外因性ポリヌクレオチドを植物に導入し、これを該植物内に含有させることにより得られる、植物若しくはその子孫又はこれらの部分若しくは組織にも関する。該部分若しくは組織の形態としては切花であることができる。本発明に係るフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを使用して、フラボンの4’位と7位の両方を配糖化したり、又はフラボンの4’位と7位の両方の配糖化を抑制することができ、その結果として植物における花色を変更することができる。
【0051】
現在の技術水準の下では、植物にポリヌクレオチドを導入し、そのポリヌクレオチドを構成的又は組織特異的に発現させる技術を利用することができる。植物へのDNAの導入は、当業者に公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、バイナリーベクター法、エレクトロポレーション法、PEG法、パーティクルガン法等によって行なうことができる。
【0052】
形質転換可能な植物の例としては、バラ、カーネーション、キク、キンギョソウ、シクラメン、ラン、トルコキキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリプ、アンセリウム、コチョウラン、イネ、オオムギ、コムギ、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、ダイズ、アルファルサ、ルービン、トウモロコシ、カリフラワー、ダリアなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0053】
本発明は、上記切花を用いた加工品(切花加工品)にも関する。ここで、切花加工品としては、当該切花を用いた押し花、プリザードフラワー、ドライフラワー、樹脂密封品などを含むが、これに限定されるものではない。
【0054】
また、本発明の製造方法により製造された4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加されたフラボンは、食品、医薬品、化粧品の製造方法などの用途に使用することができる。
【0055】
本発明においては、アンチセンス法、コサプレッション法、RNAi法などによって、植物内で目的の遺伝子の発現を抑制することも可能である。目的の遺伝子の発現を抑制する方法は、当業者に公知の方法に従って行なうことができるが、例えば、アンチセンスRNA/DNA技術[Biotechnology,9, 358 (1992)、Trends in Biotechnology,10, 87 (1992) 、Trends in Biotechnology,10, 152 (1992)]、トリプル・ヘリックス技術[Trends in Biotechnology,10, 132 (1992)]等が挙げられる。例えば、遺伝子の発現の抑制は、本発明による遺伝子のアンチセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の全部又は一部を含んでなる一本鎖核酸分子を用いて行なわれる。このような方法はアンチセンス法として知られている。アンチセンス法では、発現を抑制したい遺伝子に相補的な配列をもつRNAを高レベルで発現させることにより、標的遺伝子の発現が抑制される。この方法では、本発明に係るポリヌクレオチド(遺伝子)のアンチセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の全部を含んでなる一本鎖RNAを用いることができる。また、上記の方法では、本発明による遺伝子のアンチセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の一部を含んでなる一本鎖RNAを用いることもできる。このような部分的な一本鎖RNAは本発明による遺伝子の発現を抑制しうるものであればよく、当業者であれば適宜設計することができるが、好ましくは本発明による遺伝子に特異的なものとされ、その鎖長は、好ましくは5〜100ヌクレオチド、より好ましくは5〜50ヌクレオチド、さらに好ましくは10〜20ヌクレオチドとされる。
【0056】
遺伝子の発現の抑制は、本発明に係る遺伝子のセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の全部又は一部を含んでなる一本鎖核酸分子を用いて行なわれる。すなわち、このセンス一本鎖核酸は、上記のアンチセンス一本鎖核酸と同様に、本発明による遺伝子の発現の抑制に用いることが可能である。この方法では、本発明による遺伝子のセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の全部を含んでなる一本鎖RNAを用いることができる。また、上記の方法では、遺伝子のセンス鎖と同一のヌクレオチド配列の一部を含んでなる一本鎖RNAを用いることもできる。このような部分的な一本鎖RNAは本発明による遺伝子の発現を抑制しうるものであればよく、当業者であれば適宜設計することができるが、好ましくは本発明による遺伝子に特異的なものとされ、その鎖長は、好ましくは5〜100ヌクレオチド、より好ましくは5〜50ヌクレオチド、さらに好ましくは10〜20ヌクレオチドとされる。
【0057】
さらに、遺伝子の発現の抑制は、本発明による遺伝子と同一のヌクレオチド配列の全部又は一部を含んでなる二本鎖核酸分子を用いて行なわれる。例えば、この二本鎖核酸分子を用いることにより、被子植物において本発明による遺伝子のアンチセンス又はセンス一本鎖核酸を発現させることができる。本発明による二本鎖核酸分子は、好ましくはDNAとされ、その鎖長及び具体的なヌクレオチド配列は、目的とする一本鎖核酸分子の鎖長およびヌクレオチド配列に対応するものとされる。例えば、上記アンチセンス一本鎖核酸を発現させる場合には、本発明による二本鎖核酸分子は、本発明による遺伝子のアンチセンス鎖をコード鎖として含むものとされる。また、上記センス一本鎖核酸を発現させる場合には、本発明による二本鎖核酸分子は、本発明による遺伝子のセンス鎖をコード鎖として含むものとされる。
【0058】
二本鎖核酸分子は、当業者に公知の方法を用いて植物中で発現させることができる。例えば、プロモーター、本発明による二本鎖核酸分子、及び転写ターミネーター等を含む発現ベクター、目的とする植物中に導入し、得られた植物体を栽培することにより、二本鎖核酸分子を発現させることができる。植物への発現ベクターの導入は、当業者に公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、バイナリーベクター法、エレクトロポレーション法、PEG法、パーティクルガン法等によって行なうことができる。
【0059】
本発明による核酸分子を用いた遺伝子発現の抑制法の他の例としては、コサプレッション法が挙げられる。この方法では、本発明による遺伝子の全ヌクレオチド配列を有するセンス二本鎖DNAが目的の植物中に導入される。これにより、本発明によるセンス一本鎖RNAが発現され、このRNAにより該遺伝子の発現が極端に抑制される(Plant Cell 9: 1357-1368, 1997)。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に従って発明を具体的に説明する。
[実施例1:ネモフィラ花弁におけるフラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性の検出]
ネモフィラ(Nemophila menziesii)の花弁を、以下のように定義した発達段階に分けて採取し、液体窒素で凍らせ、−80℃冷凍庫で保存した:
ステージ1:色が付いていない堅く閉じたつぼみ(約2−5mm);
ステージ2:有色の堅く閉じたつぼみ(約2−5mm);
ステージ3:有色の閉じたつぼみ、がく片がちょうど開こうとしているつぼみ(約5−10mm);
ステージ4:花弁が開こうとしているつぼみ(約10−15mm)
ステージ5:完全にひらいた花
【0061】
<ネモフィラ花弁抽出液の調製>
アントシアニンが生合成される前の花弁のステージ1と2で、フラボン糖転移酵素活性が検出されることが期待される。そこで、ステージ1と2の花弁を用いて、花弁抽出液を調製した。500mgの花弁サンプル(−80℃で保存していたステージ1と2のサンプル250mgずつ)を液体窒素で冷やしながら乳鉢ですりつぶし、1.5mlの抽出バッファー(組成;リン酸カリウム緩衝液(pH7.5):100mM、ジチオスレイトール(DTT):1mM、ポリビニルピロリドン40:50mg/ml、スクロース:100mg/ml)に溶かした。得られたタンパク質溶液を遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)し、回収した上清に30%の飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを加えた。4℃で1時間撹拌した後、遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)して上清を回収した。得られた上清に硫酸アンモニウムを飽和濃度70%となるように添加し、4℃で1時間撹拌した後、遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)して沈澱を得た。この沈澱を500μlの溶出バッファー(組成;TrisHCl(pH7.5):2.5mM、DTT:1mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に溶かし、NAP−5Colums Sephadex G−25 DNA Grade(GE Healthcare社)を用いてカラム精製を行って、硫酸アンモニウムを取り除いた。この液を「花弁抽出液」とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0062】
<酵素活性測定>
40μlの花弁抽出液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1M TrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl アピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を、30℃で1時間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く5分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。コントロールとして、花弁抽出液を100℃20分で熱処理した花弁抽出液を用いて同じ条件下で酵素反応させた反応液を用いた。
その結果、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(図7参照)。UDP−グルコースを加えずに酵素反応したときには、何も生合成されなかった。これらの結果より、ネモフィラ花弁には、UDP−グルコースに依存したフラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質が存在することが分かった。
【0063】
[実施例2:アピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大の決定]
フラボン4’,7−ジグルコシドの生合成経路を明らかにするためにアピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大を決定することにした。
実施例1におけるアピゲニン4’,7−ジグルコシドが生合成される過程で、アピゲニン4’ −グルコシドとアピゲニン7−グルコシドが中間生成物として生合成されるはずである(図8参照)。実施例1の解析結果において、標品があるアピゲニン7−グルコシド、アピゲニン4’,7−ジグルコシド以外のピークが現れることを期待した。
その結果、アピゲニン7−グルコシドと近い保持時間を示すフラボンが生合成されており、これがアピゲニン4’ −グルコシドであると判断された(図7参照)。アピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大を決定することができた。
【0064】
[実施例3:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の取得]
<totalRNAの単離>
Plant RNAeasy Kit(QIAGEN社)を用い、製造者に推奨されているプロトコールに従い、ネモフィラのステージ1と2の花弁からtotalRNAを単離した。
<ネモフィラの花弁由来のcDNAの発現解析>
30μgのネモフィラの花弁由来totalRNAの逆転写反応を行った後、均一化cDNAライブラリーを作製した。作製したライブラリーをエマルジョンPCRによって、クローンごと増幅した後、ゲノムシークエンサーFLX(Roche Diagnostics Japan株式会社)により塩基配列の決定を行った。また、得られた配列データをアミノ酸配列に翻訳し、リンドウのアントシアニン3’−糖転移酵素のアミノ酸配列と相同性を示す配列を抽出した。これらの配列をアセンブルし、糖転移酵素をコードする候補遺伝子を得た。
【0065】
[実施例4:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の完全長cDNA配列の取得]
実施例3では糖転移酵素遺伝子の配列が25種得られた。その内10個の遺伝子(NmGT0〜9)について完全長cDNA配列を取得するための実験を行った。
完全長cDNA配列の取得は、GeneRacer Kit(invitrogen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って行った。実施例3で得られたcDNA部分配列の中からそのクローンに特異的な領域を選び、この領域の配列に基づいてRACE用プライマーを設計し、RACE PCRによって5’,3’末端配列を得た。この配列をもとに、完全長cDNA配列を増幅するためのプライマーを設計し、ネモフィラcDNAを鋳型にして、KOD−plus polymerase(TOYOBO社) を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、50μlでPCR反応を行った(94℃で2分間保持し、94℃15秒間、55℃30秒間、68℃で2分間のサイクルを30サイクル繰り返した後、4℃で保持した)。ネモフィラのcDNAは、SuperScriptII Reverse Transcriptase(invitrogen社)を用いて、実施例2で単離したtotal RNAを鋳型にして、製造者に推奨されているプロトコールに従って合成した。プライマーは、大腸菌発現ベクターpET15b(Novagen社)にNmGT0〜9遺伝子を挿入できるよう、完全長cDNAの両端に制限酵素サイトが含まれるように設計した。このPCR生成物を用いて、Zero Blunt TOPO PCR Cloning kit for sequencing(invitrogen)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って、NmGT遺伝子の完全長を含むプラスミド(pTOPO−NmGT0〜9)を取得した。プラスミドに挿入された塩基配列を解析し、フラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子(NmGT0〜9)の完全長cDNA配列を取得した(NmGT3:配列番号1、NmGT4:配列番号3)。
【0066】
[実施例5:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質候補の酵素活性測定実験(粗酵素を用いた場合)]
<大腸菌発現コンストラクトの作製>
それぞれ3μgのpTOPO−NmGT0〜9を該当する制限酵素で処理し、得られた約1.5kbのDNA断片を回収した。2μgのベクターpET15bも制限酵素で処理し、得られたDNA断片とライゲーションさせて、大腸菌発現コンストラクト(pET−NmGT0〜9)を作製した。
【0067】
<糖転移酵素の大腸菌での発現>
pET−NmGT0〜9を、One Shot BL21(DE3)(invitorgen)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、大腸菌株BL2へ導入し、形質転換大腸菌を取得した。この大腸菌をOvernight Express Autoinduction System1(Novagen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、培養した。調製した培養液2mlで、形質転換大腸菌をOD600値が0.5になるまで37℃で培養した(約4時間)。この大腸菌液を前培養液として、50mlの培養液に加え、27℃で一晩本培養した。
一晩本培養した大腸菌液を遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)し、集菌した菌体を5mlのソニックバッファー(組成;TrisHCl(pH7.0):2.5mM、ジチオスレイトール(DTT):1mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に懸濁し、超音波処理により大腸菌を粉砕した後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)して、上清を回収した。その上清を粗酵素液とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0068】
<酵素活性測定>
80μlの粗酵素液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1M TrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl のアピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で30分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く5分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。コントロールとして、インサートを挿入しないpETベクターを導入した大腸菌の粗酵素液を用いて同じ条件化で酵素反応させた反応液を用いた。
その結果、NmGT3、NmGT4について、基質以外のピークがみられた。NmGT3、NmGT4は、7,3’GTクラスターに含まれていた。
以下、実施例6〜10は、NmGT3とNmGT4(それぞれ、配列番号1と3)について記載する。
【0069】
[実施例6:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質の酵素活性測定実験(His−Tagを付加したタンパク質を精製した場合)]
<糖転移酵素の大腸菌での発現とタンパク質精製>
実施例5で記載したpET−NmGT3、pET−NmGT4を導入した大腸菌株BL2をOvernight Express Autoinduction System1(Novagen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、培養した。調製した培養液8mlで、形質転換大腸菌をOD600値が0.5になるまで37℃で培養した(約4時間)。この大腸菌液を前培養液として、200mlの培養液に加え、25℃で一晩本培養した。
一晩本培養した大腸菌液を遠心分離(1000×g、4℃、10分間)し、集菌した菌体を20mlの緩衝液(組成;NaCl:0.5M、TrisHCl(pH7.9):20mM、イミダゾール:5mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に懸濁し、超音波処理により大腸菌を粉砕した後、遠心分離(1400×g、4℃、20分)して、上清を回収した。その上清を0.45μmフィルターに通し、Profinia(Bio−Rad)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って、His−Tag精製した。得られた精製タンパク質溶液を、centrifugal Filters(Ultracel−10K)(Amicon Ultra社)を用いて、遠心分離(7500×g、4℃、15分間)し、その濃縮されたタンパク質溶液を「NmGT3タンパク質溶液」、「NmGT4タンパク質溶液」とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0070】
<酵素活性測定>
20μlのタンパク質溶液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1MTrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl アピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で20分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%メタノール水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く6分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。
【0071】
その結果、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成されていた(図9、10参照)。基質を500ng/μlのアピゲニン7−グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(図11、12参照)。さらに、基質をアピゲニン4’ −グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(図示せず)。これらの結果より、NmGT3タンパク質溶液、NmGT4タンパク質溶液は、アピゲニン、アピゲニン4’ −グルコシド、アピゲニン7−グルコシドを基質として、アピゲニン4’,7−ジグルコシドを生合成することができるフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質であることが証明された。さらに、図13に示すように、各種フラボノイド化合物、及びベタニジンに対する反応性を調べたところ、NmGT3、4タンパク質は、アピゲニンやその配糖化物だけではなく、ルテオリンやその配糖化物、フラボノールやその配糖化物に対しても活性を有し、これらを配糖化することが明らかとなった。
【0072】
尚、リビングストンデージー由来の糖転移酵素遺伝子(Dbs5GT;betanidin5GT)は、本来、ベタニジンの5位の水酸基にグルコースを転移するものであるが、in vitro においてフラボノイドの4’位又は7位のいずれか一方の水酸基にグルコースを転移する活性を示すことが報告されている。このリビングストーンデージー由来の糖転移酵素は、本発明のNmGT3、4タンパク質と、フラボノイド化合物やベタニジンに対する反応性が大きく異なることを明らかとした(図13参照)。
【0073】
NmGT3とNmGT4のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号2と4)の同一性は31%、相同性は47%であった(図14参照)。この解析には、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5、Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いた。尚、NmGT3とNmGT4の核酸レベルの同一性は51%であった。
既に同定されている糖転移酵素の中で、NmGT3と最も同一性が高いアミノ酸配列は、カーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素(GenBank accession No.BAD52006)であった。NmGT3とカーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列の同一性は32%であった(図15参照)。尚、NmGT3とカーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素の核酸レベルの同一性は47%であった。
既に同定されている糖転移酵素の中で、NmGT4と最も同一性が高いアミノ酸配列は、コガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素(非特許文献9に記載)であった。NmGT4とコガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列の同一性は52%であった(図16参照)。尚、NmGT4とコガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素の核酸レベルの同一性は60%であった。
【0074】
[実施例7:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のトレニアにおける発現]
本発明のNmGT3遺伝子とNmGT4遺伝子が、植物内でフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を翻訳するかどうかを確かめるため、NmGT3、NmGT4を発現させるためのバイナリーベクターpSPB4584〜4587を構築し、トレニア(サマーウェーブ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(図17参照)。
<コンストラクトの作製>
pSPB4584は、植物導入用バイナリーベクターpBINPLUS(vanEngel et al.,Transgenic Reserch 4,p288)を基本骨格とし、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター上流にエンハンサー配列を2回繰り返してもつEl235Sプロモーター(Mitsuhara et al.,(1996)Plant Cell Physiol.37,p49)と完全長cDNANmGT3とmasターミネーターが含まれている。
pSPB4585は、pBINPLUSを基本骨格とし、El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT4とmasターミネーターを含んでいる。
pSPB4586は、pBINPLUSを基本骨格として、2つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB4587は、pBINPLUSを基本骨格とし、2つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT4とmasターミネーター)が含まれている。
【0075】
<組織特異的発現解析>
カナマイシンを含む選択培地でシュートを形成し、発根が見られた個体を馴化し、それぞれの形質転換体のガク割れしていないつぼみの花弁を用いて、遺伝子発現解析を行った。totalRNA単離は実施例3に記載した方法と同様にして、cDNA合成は実施例4に記載した方法と同様にして行った。逆転写PCR反応は、cDNAを鋳型として、ExTaq polymarase(Takara社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、30μlで行った(94℃で2分間保持し、94℃で1分、55℃で1分、72℃で2分間保持のサイクルを25サイクル繰り返した後、4℃で保持した)。それぞれの完全長cDNAが特異的に増幅するようなプライマーを設計した。その結果、トレニアにおけるNmGT3とNmGT4の転写が確認された。
【0076】
[実施例8:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のペチュニアにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB5414、5427を構築し、ペチュニア(サフィニアブーケレッド)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(図18参照)。
<コンストラクトの作製>
pSPB5414は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’H(PCT/JP2004/011958に記載、配列番号5参照)と、異種遺伝子の植物での発現に極めて有効である熱ショックタンパク質ターミネーター(HSPターミネーター)(Plant Cell Physiol(2010)51,328−332)、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素(PCT/JP2008/061600に記載、配列番号7参照)とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
pSPB5427は、pBINPLUSを基本骨格とし、3つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0077】
<組織特異的発現解析>
カナマイシンを含む選択培地でシュートを形成し、発根が見られた個体を馴化し、それぞれの形質転換体の葉を用いて、実施例7に記載した方法と同様にして、遺伝子発現解析を行った。その結果、ペチュニアにおけるNmGT3とNmGT4の転写が確認された。
【0078】
[実施例9:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のカーネーションにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB5433を構築し、カーネーション(クリームシンデレラ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(図19参照)。
pSPB5433は、植物導入用バイナリーベクターpWTT2132(DNA Plant Technologies, USA=DNAP)を基本骨格とし、4つの発現カセット(1.キンギョソウカルコン合成酵素プロモーター(PCT/AU94/00265に記載)と完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.キンギョソウカルコン合成酵素プロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、3.カーネーションアントシアニン合成酵素プロモーター(PCT/AU/2009/001659に記載)と完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、4.カーネーションアントシアニン合成酵素プロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0079】
[実施例10:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のバラにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB4581、4582、5437、5440を構築し、バラ(ノブレス、リタパヒューメラ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(図20参照)。
pSPB4581は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.シソアントシアニン3−アシル基転位酵素プロモーター(PCT/JP2010/053909に記載)と完全長cDNAパンジーF3’5’Hとmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とmasターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB4582は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.パンジーF3’5’Hプロモーター(PCT/JP2010/053909)と完全長cDNAパンジーF3’5’Hとmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とmasターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB5437は、pBINPLUSを基本骨格とし、5つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.シソアントシアニン3−アシル基転位酵素染色体遺伝子(PCT/JP2010/053909に記載、配列番号9参照)、3.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、5.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
pSPB5440は、pBINPLUSを基本骨格とし、5つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.El235SプロモータープロモーターとcDNAラベンダーアントシアニン3−アシル基転位酵素(PCT/JP/1996/000348に記載、配列番号10参照)とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、5.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0080】
[実施例11:サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の取得]
サルビアウルギノーサの花弁は、アピゲニン4’,7−ジグルコシド(図6参照)を主要のフラボンとして含有する。よって、サルビアウルギノーサはフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有することが期待される。そこで、サルビアウルギノーサのつぼみから花弁を取得し、PCT/JP2003/010500に記載した方法と同様にして、cDNAライブラリーを作製し、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子をスクリーニングした。24個の陽性クローンの塩基配列を決定した結果、7,3’GTクラスターに含まれているcDNA配列を3種取得した(SuGT2、5、10)。これらの遺伝子について、実施例4に記載した方法と同様にして、cDNA完全長を含むプラスミド(pTOPO−SuGT2、5、10)を作製した。プラスミドに挿入された塩基配列を解析し、サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子(SuGT2、5、10)の完全長cDNA配列を取得した(SuGT5、配列番号12参照)。
【0081】
[実施例12:サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質候補の酵素活性測定実験((His−Tagを付加したタンパク質を精製した場合))]
<大腸菌発現コンストラクトの作製>
実施例5に記載した方法と同様にして、大腸菌発現コンストラクト(pET−SuGT2、5、10)を作製した。
【0082】
<糖転移酵素の大腸菌での発現とタンパク質精製>
実施例5に記載した方法と同様にして、「SuGT2タンパク質溶液」、「SuGT5タンパク質溶液」、「SuGT10タンパク質溶液」を調整した。
【0083】
<酵素活性測定>
20μlのタンパク質溶液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1MTrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μgのアピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で90分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%メタノールル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く6分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。
【0084】
その結果、SuGT5タンパク質溶液を用いたときにアピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成されていた(図21参照)。基質を500ng/μgのアピゲニン7−グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(図22参照)。これらの結果より、SuGT5タンパク質溶液は、アピゲニン、アピゲニン7−グルコシドを基質として、アピゲニン4’,7−ジグルコシドを生合成することができるフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質であることが証明された。
【0085】
SuGT5は、前述のNmGT3、4タンパク質と同様、アピゲニンやその配糖化物だけではなく、ルテオリンやその配糖化物、フラボノールやその配糖化物に対しても活性を有し、これらを配糖化することが明らかとなった。一方、リビングストーンデージー由来の糖転移酵素とは、フラボノイド化合物やベタニジンに対する反応性が大きく異なっていた(図13参照)。
【0086】
SuGT5とNmGT3のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号2と6)の同一性は38%、相同性は47%であった(図23参照)。この解析には、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5、Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いた。尚、SuGT5とNmGT3の核酸レベルの同一性は47%であった。
SuGT5とNmGT4のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号4と6)の同一性は51%、相同性は66%であった(図24参照)。尚、SuGT5とNmGT4の核酸レベルの同一性は58%であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明において、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが初めて同定された。本発明のポリヌクレオチドを適切な宿主細胞内で発現させることにより、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に特異的に糖を転移する活性を有するタンパク質を製造することが可能となる。本発明により、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を、植物内で、構成的又は組織特異的に発現させることで、花色の改変に利用することができる。また、本発明により、4’位と7位の両方の水酸基に糖が付加したフラボンの製法、及び該製法によって得られた食品、医薬品、化粧品なども提供される。
図1
図2
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図11
図12
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図15
図16
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図20
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図22
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]