【実施例】
【0060】
以下、実施例に従って発明を具体的に説明する。
[実施例1:ネモフィラ花弁におけるフラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性の検出]
ネモフィラ(
Nemophila menziesii)の花弁を、以下のように定義した発達段階に分けて採取し、液体窒素で凍らせ、−80℃冷凍庫で保存した:
ステージ1:色が付いていない堅く閉じたつぼみ(約2−5mm);
ステージ2:有色の堅く閉じたつぼみ(約2−5mm);
ステージ3:有色の閉じたつぼみ、がく片がちょうど開こうとしているつぼみ(約5−10mm);
ステージ4:花弁が開こうとしているつぼみ(約10−15mm)
ステージ5:完全にひらいた花
【0061】
<ネモフィラ花弁抽出液の調製>
アントシアニンが生合成される前の花弁のステージ1と2で、フラボン糖転移酵素活性が検出されることが期待される。そこで、ステージ1と2の花弁を用いて、花弁抽出液を調製した。500mgの花弁サンプル(−80℃で保存していたステージ1と2のサンプル250mgずつ)を液体窒素で冷やしながら乳鉢ですりつぶし、1.5mlの抽出バッファー(組成;リン酸カリウム緩衝液(pH7.5):100mM、ジチオスレイトール(DTT):1mM、ポリビニルピロリドン40:50mg/ml、スクロース:100mg/ml)に溶かした。得られたタンパク質溶液を遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)し、回収した上清に30%の飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを加えた。4℃で1時間撹拌した後、遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)して上清を回収した。得られた上清に硫酸アンモニウムを飽和濃度70%となるように添加し、4℃で1時間撹拌した後、遠心分離(10000rpm、4℃、10分間)して沈澱を得た。この沈澱を500μlの溶出バッファー(組成;TrisHCl(pH7.5):2.5mM、DTT:1mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に溶かし、NAP−5Colums Sephadex G−25 DNA Grade(GE Healthcare社)を用いてカラム精製を行って、硫酸アンモニウムを取り除いた。この液を「花弁抽出液」とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0062】
<酵素活性測定>
40μlの花弁抽出液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1M TrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl アピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を、30℃で1時間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く5分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。コントロールとして、花弁抽出液を100℃20分で熱処理した花弁抽出液を用いて同じ条件下で酵素反応させた反応液を用いた。
その結果、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(
図7参照)。UDP−グルコースを加えずに酵素反応したときには、何も生合成されなかった。これらの結果より、ネモフィラ花弁には、UDP−グルコースに依存したフラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質が存在することが分かった。
【0063】
[実施例2:アピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大の決定]
フラボン4’,7−ジグルコシドの生合成経路を明らかにするためにアピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大を決定することにした。
実施例1におけるアピゲニン4’,7−ジグルコシドが生合成される過程で、アピゲニン4’ −グルコシドとアピゲニン7−グルコシドが中間生成物として生合成されるはずである(
図8参照)。実施例1の解析結果において、標品があるアピゲニン7−グルコシド、アピゲニン4’,7−ジグルコシド以外のピークが現れることを期待した。
その結果、アピゲニン7−グルコシドと近い保持時間を示すフラボンが生合成されており、これがアピゲニン4’ −グルコシドであると判断された(
図7参照)。アピゲニン4’ −グルコシドの保持時間・吸収極大を決定することができた。
【0064】
[実施例3:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の取得]
<totalRNAの単離>
Plant RNAeasy Kit(QIAGEN社)を用い、製造者に推奨されているプロトコールに従い、ネモフィラのステージ1と2の花弁からtotalRNAを単離した。
<ネモフィラの花弁由来のcDNAの発現解析>
30μgのネモフィラの花弁由来totalRNAの逆転写反応を行った後、均一化cDNAライブラリーを作製した。作製したライブラリーをエマルジョンPCRによって、クローンごと増幅した後、ゲノムシークエンサーFLX(Roche Diagnostics Japan株式会社)により塩基配列の決定を行った。また、得られた配列データをアミノ酸配列に翻訳し、リンドウのアントシアニン3’−糖転移酵素のアミノ酸配列と相同性を示す配列を抽出した。これらの配列をアセンブルし、糖転移酵素をコードする候補遺伝子を得た。
【0065】
[実施例4:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の完全長cDNA配列の取得]
実施例3では糖転移酵素遺伝子の配列が25種得られた。その内10個の遺伝子(NmGT0〜9)について完全長cDNA配列を取得するための実験を行った。
完全長cDNA配列の取得は、GeneRacer Kit(invitrogen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って行った。実施例3で得られたcDNA部分配列の中からそのクローンに特異的な領域を選び、この領域の配列に基づいてRACE用プライマーを設計し、RACE PCRによって5’,3’末端配列を得た。この配列をもとに、完全長cDNA配列を増幅するためのプライマーを設計し、ネモフィラcDNAを鋳型にして、KOD−plus polymerase(TOYOBO社) を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、50μlでPCR反応を行った(94℃で2分間保持し、94℃15秒間、55℃30秒間、68℃で2分間のサイクルを30サイクル繰り返した後、4℃で保持した)。ネモフィラのcDNAは、SuperScriptII Reverse Transcriptase(invitrogen社)を用いて、実施例2で単離したtotal RNAを鋳型にして、製造者に推奨されているプロトコールに従って合成した。プライマーは、大腸菌発現ベクターpET15b(Novagen社)にNmGT0〜9遺伝子を挿入できるよう、完全長cDNAの両端に制限酵素サイトが含まれるように設計した。このPCR生成物を用いて、Zero Blunt TOPO PCR Cloning kit for sequencing(invitrogen)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って、NmGT遺伝子の完全長を含むプラスミド(pTOPO−NmGT0〜9)を取得した。プラスミドに挿入された塩基配列を解析し、フラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子(NmGT0〜9)の完全長cDNA配列を取得した(NmGT3:配列番号1、NmGT4:配列番号3)。
【0066】
[実施例5:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質候補の酵素活性測定実験(粗酵素を用いた場合)]
<大腸菌発現コンストラクトの作製>
それぞれ3μgのpTOPO−NmGT0〜9を該当する制限酵素で処理し、得られた約1.5kbのDNA断片を回収した。2μgのベクターpET15bも制限酵素で処理し、得られたDNA断片とライゲーションさせて、大腸菌発現コンストラクト(pET−NmGT0〜9)を作製した。
【0067】
<糖転移酵素の大腸菌での発現>
pET−NmGT0〜9を、One Shot BL21(DE3)(invitorgen)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、大腸菌株BL2へ導入し、形質転換大腸菌を取得した。この大腸菌をOvernight Express Autoinduction System1(Novagen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、培養した。調製した培養液2mlで、形質転換大腸菌をOD600値が0.5になるまで37℃で培養した(約4時間)。この大腸菌液を前培養液として、50mlの培養液に加え、27℃で一晩本培養した。
一晩本培養した大腸菌液を遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)し、集菌した菌体を5mlのソニックバッファー(組成;TrisHCl(pH7.0):2.5mM、ジチオスレイトール(DTT):1mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に懸濁し、超音波処理により大腸菌を粉砕した後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)して、上清を回収した。その上清を粗酵素液とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0068】
<酵素活性測定>
80μlの粗酵素液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1M TrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl のアピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で30分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く5分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。コントロールとして、インサートを挿入しないpETベクターを導入した大腸菌の粗酵素液を用いて同じ条件化で酵素反応させた反応液を用いた。
その結果、NmGT3、NmGT4について、基質以外のピークがみられた。NmGT3、NmGT4は、7,3’GTクラスターに含まれていた。
以下、実施例6〜10は、NmGT3とNmGT4(それぞれ、配列番号1と3)について記載する。
【0069】
[実施例6:フラボンの4’位と7位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質の酵素活性測定実験(His−Tagを付加したタンパク質を精製した場合)]
<糖転移酵素の大腸菌での発現とタンパク質精製>
実施例5で記載したpET−NmGT3、pET−NmGT4を導入した大腸菌株BL2をOvernight Express Autoinduction System1(Novagen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、培養した。調製した培養液8mlで、形質転換大腸菌をOD600値が0.5になるまで37℃で培養した(約4時間)。この大腸菌液を前培養液として、200mlの培養液に加え、25℃で一晩本培養した。
一晩本培養した大腸菌液を遠心分離(1000×g、4℃、10分間)し、集菌した菌体を20mlの緩衝液(組成;NaCl:0.5M、TrisHCl(pH7.9):20mM、イミダゾール:5mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸(APMSF):10μM)に懸濁し、超音波処理により大腸菌を粉砕した後、遠心分離(1400×g、4℃、20分)して、上清を回収した。その上清を0.45μmフィルターに通し、Profinia(Bio−Rad)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従って、His−Tag精製した。得られた精製タンパク質溶液を、centrifugal Filters(Ultracel−10K)(Amicon Ultra社)を用いて、遠心分離(7500×g、4℃、15分間)し、その濃縮されたタンパク質溶液を「NmGT3タンパク質溶液」、「NmGT4タンパク質溶液」とした。遠心分離には、Avanti HP−26XP(ローター:JA−2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0070】
<酵素活性測定>
20μlのタンパク質溶液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1MTrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μl アピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で20分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%メタノール水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く6分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。
【0071】
その結果、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成されていた(
図9、10参照)。基質を500ng/μlのアピゲニン7−グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(
図11、12参照)。さらに、基質をアピゲニン4’ −グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(図示せず)。これらの結果より、NmGT3タンパク質溶液、NmGT4タンパク質溶液は、アピゲニン、アピゲニン4’ −グルコシド、アピゲニン7−グルコシドを基質として、アピゲニン4’,7−ジグルコシドを生合成することができるフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質であることが証明された。さらに、
図13に示すように、各種フラボノイド化合物、及びベタニジンに対する反応性を調べたところ、NmGT3、4タンパク質は、アピゲニンやその配糖化物だけではなく、ルテオリンやその配糖化物、フラボノールやその配糖化物に対しても活性を有し、これらを配糖化することが明らかとなった。
【0072】
尚、リビングストンデージー由来の糖転移酵素遺伝子(Dbs5GT;betanidin5GT)は、本来、ベタニジンの5位の水酸基にグルコースを転移するものであるが、in vitro においてフラボノイドの4’位又は7位のいずれか一方の水酸基にグルコースを転移する活性を示すことが報告されている。このリビングストーンデージー由来の糖転移酵素は、本発明のNmGT3、4タンパク質と、フラボノイド化合物やベタニジンに対する反応性が大きく異なることを明らかとした(
図13参照)。
【0073】
NmGT3とNmGT4のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号2と4)の同一性は31%、相同性は47%であった(
図14参照)。この解析には、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5、Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いた。尚、NmGT3とNmGT4の核酸レベルの同一性は51%であった。
既に同定されている糖転移酵素の中で、NmGT3と最も同一性が高いアミノ酸配列は、カーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素(GenBank accession No.BAD52006)であった。NmGT3とカーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列の同一性は32%であった(
図15参照)。尚、NmGT3とカーネーションのカルコノナリンゲニンの2’位に糖を付加する酵素の核酸レベルの同一性は47%であった。
既に同定されている糖転移酵素の中で、NmGT4と最も同一性が高いアミノ酸配列は、コガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素(非特許文献9に記載)であった。NmGT4とコガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素のアミノ酸配列の同一性は52%であった(
図16参照)。尚、NmGT4とコガネバナのフラボノイドの7位に糖を付加する酵素の核酸レベルの同一性は60%であった。
【0074】
[実施例7:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のトレニアにおける発現]
本発明のNmGT3遺伝子とNmGT4遺伝子が、植物内でフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質を翻訳するかどうかを確かめるため、NmGT3、NmGT4を発現させるためのバイナリーベクターpSPB4584〜4587を構築し、トレニア(サマーウェーブ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(
図17参照)。
<コンストラクトの作製>
pSPB4584は、植物導入用バイナリーベクターpBINPLUS(vanEngel et al.,Transgenic Reserch 4,p288)を基本骨格とし、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター上流にエンハンサー配列を2回繰り返してもつEl235Sプロモーター(Mitsuhara et al.,(1996)Plant Cell Physiol.37,p49)と完全長cDNANmGT3とmasターミネーターが含まれている。
pSPB4585は、pBINPLUSを基本骨格とし、El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT4とmasターミネーターを含んでいる。
pSPB4586は、pBINPLUSを基本骨格として、2つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB4587は、pBINPLUSを基本骨格とし、2つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT4とmasターミネーター)が含まれている。
【0075】
<組織特異的発現解析>
カナマイシンを含む選択培地でシュートを形成し、発根が見られた個体を馴化し、それぞれの形質転換体のガク割れしていないつぼみの花弁を用いて、遺伝子発現解析を行った。totalRNA単離は実施例3に記載した方法と同様にして、cDNA合成は実施例4に記載した方法と同様にして行った。逆転写PCR反応は、cDNAを鋳型として、ExTaq polymarase(Takara社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、30μlで行った(94℃で2分間保持し、94℃で1分、55℃で1分、72℃で2分間保持のサイクルを25サイクル繰り返した後、4℃で保持した)。それぞれの完全長cDNAが特異的に増幅するようなプライマーを設計した。その結果、トレニアにおけるNmGT3とNmGT4の転写が確認された。
【0076】
[実施例8:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のペチュニアにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB5414、5427を構築し、ペチュニア(サフィニアブーケレッド)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(
図18参照)。
<コンストラクトの作製>
pSPB5414は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’H(PCT/JP2004/011958に記載、配列番号5参照)と、異種遺伝子の植物での発現に極めて有効である熱ショックタンパク質ターミネーター(HSPターミネーター)(Plant Cell Physiol(2010)51,328−332)、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素(PCT/JP2008/061600に記載、配列番号7参照)とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
pSPB5427は、pBINPLUSを基本骨格とし、3つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0077】
<組織特異的発現解析>
カナマイシンを含む選択培地でシュートを形成し、発根が見られた個体を馴化し、それぞれの形質転換体の葉を用いて、実施例7に記載した方法と同様にして、遺伝子発現解析を行った。その結果、ペチュニアにおけるNmGT3とNmGT4の転写が確認された。
【0078】
[実施例9:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のカーネーションにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB5433を構築し、カーネーション(クリームシンデレラ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(
図19参照)。
pSPB5433は、植物導入用バイナリーベクターpWTT2132(DNA Plant Technologies, USA=DNAP)を基本骨格とし、4つの発現カセット(1.キンギョソウカルコン合成酵素プロモーター(PCT/AU94/00265に記載)と完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.キンギョソウカルコン合成酵素プロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、3.カーネーションアントシアニン合成酵素プロモーター(PCT/AU/2009/001659に記載)と完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、4.カーネーションアントシアニン合成酵素プロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0079】
[実施例10:フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のバラにおける発現]
NmGT3を発現させるためのバイナリーベクターpSPB4581、4582、5437、5440を構築し、バラ(ノブレス、リタパヒューメラ)へ導入した。導入したコンストラクトの詳細を以下に示す(
図20参照)。
pSPB4581は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.シソアントシアニン3−アシル基転位酵素プロモーター(PCT/JP2010/053909に記載)と完全長cDNAパンジーF3’5’Hとmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とmasターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB4582は、pBINPLUSを基本骨格とし、4つの発現カセット(1.パンジーF3’5’Hプロモーター(PCT/JP2010/053909)と完全長cDNAパンジーF3’5’Hとmasターミネーター、2.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とmasターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とmasターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とmasターミネーター)が含まれている。
pSPB5437は、pBINPLUSを基本骨格とし、5つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.シソアントシアニン3−アシル基転位酵素染色体遺伝子(PCT/JP2010/053909に記載、配列番号9参照)、3.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、5.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
pSPB5440は、pBINPLUSを基本骨格とし、5つの発現カセット(1.El235Sプロモーターと完全長cDNAパンジーF3’5’HとHSPターミネーター、2.El235SプロモータープロモーターとcDNAラベンダーアントシアニン3−アシル基転位酵素(PCT/JP/1996/000348に記載、配列番号10参照)とHSPターミネーター、3.El235Sプロモーターと完全長cDNAトレニアフラボン合成酵素とHSPターミネーター、4.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT8とHSPターミネーター、5.El235Sプロモーターと完全長cDNANmGT3とHSPターミネーター)が含まれている。
【0080】
[実施例11:サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の取得]
サルビアウルギノーサの花弁は、アピゲニン4’,7−ジグルコシド(
図6参照)を主要のフラボンとして含有する。よって、サルビアウルギノーサはフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有することが期待される。そこで、サルビアウルギノーサのつぼみから花弁を取得し、PCT/JP2003/010500に記載した方法と同様にして、cDNAライブラリーを作製し、フラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子をスクリーニングした。24個の陽性クローンの塩基配列を決定した結果、7,3’GTクラスターに含まれているcDNA配列を3種取得した(SuGT2、5、10)。これらの遺伝子について、実施例4に記載した方法と同様にして、cDNA完全長を含むプラスミド(pTOPO−SuGT2、5、10)を作製した。プラスミドに挿入された塩基配列を解析し、サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子(SuGT2、5、10)の完全長cDNA配列を取得した(SuGT5、配列番号12参照)。
【0081】
[実施例12:サルビアウルギノーサ由来のフラボンの4’位と7位の両方の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質候補の酵素活性測定実験((His−Tagを付加したタンパク質を精製した場合))]
<大腸菌発現コンストラクトの作製>
実施例5に記載した方法と同様にして、大腸菌発現コンストラクト(pET−SuGT2、5、10)を作製した。
【0082】
<糖転移酵素の大腸菌での発現とタンパク質精製>
実施例5に記載した方法と同様にして、「SuGT2タンパク質溶液」、「SuGT5タンパク質溶液」、「SuGT10タンパク質溶液」を調整した。
【0083】
<酵素活性測定>
20μlのタンパク質溶液、20μlの5mM UDP−グルコース、20μlの1MTrisHCl(pH7.5)、1μlの500ng/μgのアピゲニンを混合し、水で200μlになるように氷上で調整した反応液を30℃で90分間保持した。その後、200μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて反応を停止させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))にて分析した。検出器は島津PDA SPD−M10AVPを用い330nmでフラボンを検出した。カラムはShim−Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%メタノールル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれに続く6分間3:7の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。
【0084】
その結果、SuGT5タンパク質溶液を用いたときにアピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成されていた(
図21参照)。基質を500ng/μgのアピゲニン7−グルコシドに代えて、同じ反応条件下で酵素反応を行っても、アピゲニン4’,7−ジグルコシド精製品と同じ保持時間・吸収極大を示すフラボンが生合成された(
図22参照)。これらの結果より、SuGT5タンパク質溶液は、アピゲニン、アピゲニン7−グルコシドを基質として、アピゲニン4’,7−ジグルコシドを生合成することができるフラボンの4’位と7位に糖を転移する活性を有するタンパク質であることが証明された。
【0085】
SuGT5は、前述のNmGT3、4タンパク質と同様、アピゲニンやその配糖化物だけではなく、ルテオリンやその配糖化物、フラボノールやその配糖化物に対しても活性を有し、これらを配糖化することが明らかとなった。一方、リビングストーンデージー由来の糖転移酵素とは、フラボノイド化合物やベタニジンに対する反応性が大きく異なっていた(
図13参照)。
【0086】
SuGT5とNmGT3のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号2と6)の同一性は38%、相同性は47%であった(
図23参照)。この解析には、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5、Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いた。尚、SuGT5とNmGT3の核酸レベルの同一性は47%であった。
SuGT5とNmGT4のアミノ酸配列(それぞれ、配列番号4と6)の同一性は51%、相同性は66%であった(
図24参照)。尚、SuGT5とNmGT4の核酸レベルの同一性は58%であった。