特許第5936558号(P5936558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936558コンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936558
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】コンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/18 20060101AFI20160609BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   C04B28/18
   E04G23/02 B
   C04B18/14 Z
   C04B24/22 E
   C04B22/06 Z
   C04B24/26 C
   C04B24/26 E
   C04B22/14 A
   C04B111:70
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-556861(P2012-556861)
(86)(22)【出願日】2012年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2012052535
(87)【国際公開番号】WO2012108359
(87)【国際公開日】20120816
【審査請求日】2014年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-25260(P2011-25260)
(32)【優先日】2011年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】八木 徹
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−299291(JP,A)
【文献】 特開2010−150073(JP,A)
【文献】 特開平08−041455(JP,A)
【文献】 特開2007−217453(JP,A)
【文献】 特開2007−269536(JP,A)
【文献】 特開2009−062444(JP,A)
【文献】 特開平04−221116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
C04B 41/60−41/72
E04G 23/02−23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1.0μm以下であるジルコニア起源のシリカフューム、分散剤、及び水を含有したA材と、平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有したB材とを混合したものからなるコンクリートひび割れ補修用注入材を用いる注入工法であって、前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式、及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、コンクリートひび割れに注入することを特徴とするコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項2】
前記A材が湿式分散処理したものであり、かつ、前記B材が湿式粉砕分散処理したものであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項3】
前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項4】
前記A材の分散剤の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項5】
前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちのいずれか1項に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項6】
さらに、ポリマーディスパージョンを含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちのいずれか1項に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【請求項7】
さらに、硬化時間調整剤を含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項6のうちのいずれか1項に記載のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートひび割れ補修用注入材注入工法、特に、100μm以下の微細なコンクリートひび割れに対しても、優れた浸透性を有し、高い止水効果や耐久性が得られるコンクリートひび割れ補修用注入材注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは硬化時の温度収縮、硬化後の温度変化、及び乾燥等により、ひび割れが発生する場合が多い。そして、外観上問題にはならない100μm以下の微細なひび割れであっても、そのひび割れから水が侵入したり、封じ込めたガスが漏れたりすることがあるため、用途によっては、100μm以下の微細なひび割れを補修する高浸透性の注入材が求められている。
【0003】
従来、高浸透性の注入材として、水ガラスを原料とした溶液型シリカ注入材が知られている。例えば、水ガラス系アルカリ性注入材、酸性シリカゾルを主成分とした注入材、水ガラスを陽イオン交換樹脂又はイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分とした注入材、及び活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定化したシリカコロイド注入材等が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、上記溶液型シリカ注入材は、注入材自体の強度(ホモゲル強度)が0.01N/mm2以下と小さく、コンクリートのひび割れに注入した溶液型シリカ注入材が水圧で押し出されてしまい、止水性や長期耐久性が低減する課題があった。
【0005】
溶液型シリカ注入材に代えて、超微粒子セメントが用いられる場合があるが、微粒子セメントの平均粒子径は5μm程度と大きいため、100μm以下のコンクリートのひび割れに対しては浸透性が悪く、より優れた浸透性、止水効果、及び耐久性を持つ注入材が求められている。
【0006】
そこで、平均粒子径が小さいシリカフュームと硬化剤からなる注入材が提案された(特許文献1〜特許文献6、非特許文献1)。
【0007】
特許文献1には、シリカフュームとして、シリコンメタルやフェロシリコンを製造するときの副生物であるシリカと、硬化剤として、水酸化カルシウムなどを使用する記載があるが、シリカフュームがジルコニア起源のシリカフュームであることの記載は無く、分散剤を併用したシリカフュームの液と、分散剤を併用した硬化剤の液からなるグラウトの記載は無い。
【0008】
特許文献2には、「粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーと、第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーの微粒子材料と異なる粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第2の高分散化低粘性超微粒子スラリーとを混合し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌することを特徴とする高分散化低粘性超微粒子スラリーの製造方法。」(請求項3)の発明が記載され、「超微粒子材料が、シリカフュームおよび/または消石灰であること」(請求項6、段落[0034]、[0068])が記載され、レーザー回折/散乱式粒度分析装置で測定したシリカライム(消石灰/シリカフューム=1)の一次粒子平均粒径が0.10μmであること(段落[0068]、[0072]表1)、浸透率は平均凝集粒子径が1μm程度以下で100%になること([0070])も記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載された発明は、平均粒径を1μm以下とするために、上記のように、超微粒子材料(シリカフュームや消石灰)の解砕、攪拌、分散剤の添加を繰り返し行うという複雑な工程を経なければならないという問題があり、また、一次粒子に近い高分散化低粘性超微粒子グラウトを作製するためには、解砕方式として、ボール(ビーズ)を媒体にしてスラリーをミキサーで撹拌するという方式を適用する必要があった(段落[0021])。
さらに、特許文献2には、シリカフュームがジルコニア起源のシリカフュームであることの記載は無い。
【0009】
特許文献3には、シリカフューム、硫酸塩、及びアルカリ塩として、水酸化カルシウムなどが記載されているが、シリカフュームがジルコニア起源のシリカフュームであることの具体的な記載は無く、分散剤を併用したシリカフュームの液と、分散剤を併用した水酸化カルシウムなどの液からなる注入材の記載は無い。
【0010】
特許文献4には、シリカフュームと、アルミノケイ酸カルシウム、石膏、及び消石灰を含有し、最大粒径が20μm以下の注入材が記載されているが、シリカフュームがジルコニア起源のシリカフュームであることの具体的な記載は無く、1μm以下の、シリカフュームやアルミノケイ酸カルシウム、石膏、及び消石灰についての、また、分散剤を併用したシリカフュームの液と、分散剤を併用した消石灰等の液からなる注入材の記載は無い。
【0011】
特許文献5には、「予めポゾラン物質と水を含有するA材と、予めカルシウム含有物質と水を含有するB材を、別々に注入する注入材の施工方法。」(請求項1)、「A材が予め分散剤を含有する請求項1記載の注入材の施工方法。」(請求項2)の発明が記載され、「又、分散性を高めるためB材に分散剤を併用することも可能である。」(段落[0014])と記載されているが、カルシウム含有物質と水を含有するB材に分散剤を併用することについては具体的な記載がなく、A材とB材を同時注入した場合は、注入材が直ちに硬化してしまい、注入ができない(段落[0022])という問題があった。また、A材中に分散したポゾラン物質の平均粒径が1μm以下であることは示されていない。カルシウム含有物質を1μm以下に粉砕し、分散させることも示されていない。さらに、特許文献5には、「コンクリートのひび割れ補修の用途にも適応できる。」(段落[0026])と記載されているが、具体的な記載はなく、また、ポゾラン物質としてシリカフュームを使用することが記載されているが、シリカフュームがジルコニア起源のシリカフュームであることの記載は無い。
【0012】
特許文献6には、シリカ、ライム、分散剤の記載はあるが、A材、B材のそれぞれに分散剤を含有することの記載は無い。
【0013】
非特許文献1には、超微粒子球状シリカと水を含有するA剤と、超微粒子水酸化カルシウム、分散剤、及び水を含有するB剤とを混合したものからなるグラウト材料(注入材)が記載されているが、超微粒子球状シリカ以外のジルコニア起源のシリカフュームを使用することや、A剤に分散剤を含有させることについては記載がない。
【0014】
一方、ジルコニア起源のシリカフュームは、セメント混和材として使用されている(特許文献7、特許文献8)。
【0015】
特許文献7には、ジルコニア起源のシリカフュームがグラウトとして使用できるとの記載はあるが、グラウトに使用した具体的な記載は無く、消石灰等のカルシウム化合物や分散剤を併用することは記載が無い。
【0016】
特許文献8には、ジルコニア起源のシリカフュームと消石灰を併用する記載はあるが、注入材として使用する記載はなく、分散剤を併用すること、分散剤を併用したシリカフュームの液と、分散剤を併用した硬化剤の液からなるグラウトの記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平04−221116号公報
【特許文献2】特開平08−041455号公報
【特許文献3】特開2002−212557号公報
【特許文献4】特開2006−182821号公報
【特許文献5】特開2009−299291号公報
【特許文献6】国際公開第2005/123623号
【特許文献7】特開2004−203733号公報
【特許文献8】特開2011−006321号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】土木学会第64回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM)平成21年8月3日、第145頁〜第146頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、100μm以下のコンクリートのひび割れに対しても、高い浸透性が得られ、優れた止水効果や耐久性を示す注入工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)平均粒径が1.0μm以下であるジルコニア起源のシリカフューム、分散剤、及び水を含有したA材と、平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有したB材とを混合したものからなるコンクリートひび割れ補修用注入材を用いる注入工法であって、前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式、及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、コンクリートひび割れに注入することを特徴とするコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(2)前記A材が湿式分散処理したものであり、かつ、前記B材が湿式粉砕分散処理したものであることを特徴とする前記(1)のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(3)前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする前記(1)又は(2)のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(4)前記A材の分散剤の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする前記(1)〜(3)のうちのいずれか1項のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(5)前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする前記(1)〜(4)のうちのいずれか1項のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(6)さらに、ポリマーディスパージョンを含有してなることを特徴とする前記(1)〜(5)のうちのいずれか1項のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
(7)さらに、硬化時間調整剤を含有してなることを特徴とする前記(1)〜(6)のうちのいずれか1項のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、100μm以下の微細なひび割れを有するコンクリートにおいて、高い浸透性が得られ、優れた止水効果や耐久性を有するコンクリートひび割れ補修用注入材注入工法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
なお、本発明に記載する部や%は、記載が無い限りは、質量部、質量%を意味する。
【0023】
本発明のジルコニア起源のシリカフュームは、ジルコニアの製造工程において副生するシリカフュームとして得られ、従来の一般的なシリカフュームと比較して一次粒子径は大きいが、凝集しにくい材料である。なお、本発明のジルコニア起源のシリカフュームは、JIS A 6207「コンクリート用シリカフューム」に規定された品質を満足する必要はない。
【0024】
本発明のジルコニア起源のシリカフュームの主成分である二酸化ケイ素の量は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0025】
本発明において、ジルコニア起源のシリカフュームの粒度は、浸透性、圧縮強さを向上させるために、平均粒径1.0μm以下とするが、0.05〜0.8μmが好ましい。
ジルコニア起源のシリカフュームは、ジルコニアの製造工程において副生するため、粒度のコントロールは難しいが、ジルコニア起源のシリカフューム、分散剤、及び水からなる懸濁液を静置して水簸したり、液体サイクロンや遠心分離により平均粒径の異なるジルコニア起源のシリカフュームを製造することができる。
【0026】
本発明のカルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、及び石膏等の無機物質、ギ酸カルシウムなどの有機酸のカルシウム塩等が挙げられる。これらの中では、圧縮強さの点で、水酸化カルシウムが好ましい。
【0027】
本発明において、カルシウム化合物は、浸透性、圧縮強さを向上させるために、平均粒径1.0μm以下に粉砕するが、平均粒径0.05〜0.8μmに粉砕することが好ましい。
なお、カルシウム化合物が水酸化カルシウムの場合は、塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの可溶性アルカリ塩とを、それぞれ溶解し混合する、いわゆる、ビルドアップ法によって製造した微細な水酸化カルシウムを使用することができる。
【0028】
本発明では、ジルコニア起源のシリカフュームと分散剤、及びカルシウム化合物と分散剤を、水に分散し、それぞれA材及びB材として製造する。
【0029】
本発明のA材中のジルコニア起源のシリカフュームの濃度は50%以下が好ましく、5〜40%がより好ましい。ジルコニア起源のシリカフュームの濃度が60%を超えると高粘度となりコンクリートひび割れへの浸透性が低下する場合がある。
本発明では、あらかじめ、高濃度のジルコニア起源のシリカフュームを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。また、高濃度でコンクリートひび割れに浸透しない場合は、5%以下の低濃度で長時間注入を継続することで小さなコンクリートのひび割れにも確実に注入することができる。
【0030】
本発明のB材中のカルシウム化合物の量は、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、20〜250部が好ましく、50〜200部がより好ましい。カルシウム化合物の量が20部未満では圧縮強さが低下する場合があり、250部を超えるとコンクリートのひび割れへの浸透性が低下する場合がある。
【0031】
本発明のB材中のカルシウム化合物の濃度は50%以下が好ましく、2〜40%がより好ましい。カルシウム化合物の濃度が50%を超えると高粘度となり、コンクリートのひび割れへの浸透性が低下する場合がある。
本発明では、あらかじめ、高濃度のカルシウム化合物スラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。また、高濃度でコンクリートのひび割れに浸透しない場合は、2%以下の低濃度で長時間注入を継続することで小さなコンクリートのひび割れにも確実に注入することができる。
【0032】
本発明では、A材、B材それぞれに、分散剤を併用することが必要である。A材のみ、あるいは、B材のみに、分散剤を添加すると他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、好ましくない。ただし、注入状況によっては、分散剤の使用量を極少量に低下させることでゲルタイムを短くし、又は、瞬結とし、リーク防止や限定注入として活用することができる。
分散剤をA材とB材の両方に使用すると良好な浸透性が得られる理由は不明だが、分散剤がジルコニア起源のシリカフュームやカルシウム化合物の表面で反応し、ジルコニア起源のシリカフュームとカルシウム化合物が接触しても直ちに水和反応しないよう、硬化遅延しているためと考えられる。
【0033】
本発明で使用する分散剤としては、ナフタレンスルホン酸系分散剤、リグニンスルホン酸系分散剤、メラミンスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、及びポリエーテル系分散剤が使用可能であるが、これらのうち、ナフタレンスルホン酸系分散剤又はポリカルボン酸系分散剤がコンクリートのひび割れへの浸透性、圧縮強さの点で好ましい。
【0034】
A材の分散剤の使用量は、A材のジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、固形分換算で0.1〜30部が好ましく、1〜20部がより好ましい。0.1部未満だと他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強さが低い場合がある。
【0035】
B材の分散剤の使用量は、カルシウム化合物100部に対して、固形分換算で1〜30部が好ましく、5〜20部がより好ましい。1部未満だと、他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強さが低い場合がある。
【0036】
さらに、本発明では、適度な可塑性を保持しコンクリートのひび割れ注入材の逸流を防止することや、硬化後の注入材の圧縮強さ低下を防止する点から、ポリマーディスパージョンを併用することが好ましい。
ポリマーディスパージョンは、通常、A材に併用するが、B材に併用することにより、カルシウム化合物と直ちに反応し、増粘するため、所定の粘性を必要とする場合は、B材に併用することも可能である。
【0037】
ポリマーディスパージョンとしては、スチレンアクリル共重合体、アクリル共重合体、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びエチレン−アクリル酸エステル共重合体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を含有することが好ましい。これらのうち、少量で効果のある点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0038】
ポリマーディスパージョンの使用量は、固形分換算で、A材のジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、0〜10部が好ましく、0.1〜5部がより好ましい。添加量が10部を超えると粘性が高くなり、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合がある。
【0039】
本発明のコンクリートのひび割れ注入材は、硬化時間を調整するために、硬化時間調整剤を含有することができる。
硬化時間調整剤としては特に限定されるものではないが、例えば公知のアルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、及びアルカリ金属燐酸塩等の無機塩や、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、及び乳酸等の有機酸又はその塩から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中では、圧縮強さの点から、アルカリ金属硫酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩が好ましく、アルカリ金属硫酸塩がより好ましい。アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0040】
硬化時間調整剤の使用量は、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、30部以下が好ましく、0.1〜30部がより好ましく、1〜10部が最も好ましい。硬化時間調整剤が30部を超えるとコンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合がある。
【0041】
A材とB材の混合比率は質量比で、5:1〜1:5が好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0042】
コンクリートのひび割れへの浸透性を向上させるために、ジルコニア起源のシリカフュームやカルシウム化合物は、各種湿式粉砕機で分散処理又は粉砕分散処理して平均粒径を小さくすることが好ましい。
なお、ここで言う平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA−920型」)を用い、湿式分散処理又は湿式粉砕分散処理した懸濁液を、通常前処理として行う超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した値である。JIS R 1629では、超音波をかけて凝集物を分散処理してから粒度を測定するため、実際にコンクリートのひび割れに注入しても浸透性が悪い場合がある。そこで、超音波分散処理を行わずに測定することでコンクリートのひび割れへの浸透性と近い結果となる。超音波分散処理を行わずに測定したジルコニア起源のシリカフュームやカルシウム化合物の平均粒径が1.0μm以下である場合、コンクリートのひび割れへの浸透性が向上する。
なお、懸濁液の沈降性は、懸濁液の粘度や、分散剤の種類による粒子表面の帯電状態、いわゆる、ゼータ電位等により相違するため、一概にはいえないが、最大粒径で1.0μm程度を境に、それよりも粗いものは懸濁液に沈降し、細かいものは懸濁液に浮遊することから、沈降物を除去したものをコンクリートのひび割れ注入材としても良い。湿式分散処理又は湿式粉砕分散処理した懸濁液とは、ジルコニア起源のシリカフュームを湿式分散処理したA材、カルシウム化合物を湿式粉砕分散処理したB材をいう。
【0043】
本発明で使用する湿式粉砕機は、高速攪拌機、媒体攪拌式ミル、及び高圧水を使用した粉砕機等のいずれを使用する方法でも良く、単独又は併用して選択するものであり、コンクリートへの浸透性が高い点で、高圧水を使用した粉砕機が好ましい。
【0044】
高速攪拌機としては、単純に攪拌子が高速で回転するだけではなく、いわゆる、乱流状態となり、粒子に剪断力が働くような構造が好ましい。例えば、太平洋機工社製商品名「シャープフローミル」、特殊機化工業社製商品名「ホモミクサー」、「ホモミックラインミル」、及び「ホモディスパー」などがそれに類する。
【0045】
媒体攪拌式ミルとしては、奈良機械製作所社製商品名「マイクロス」などが挙げられる。
【0046】
高圧水を使用した粉砕機は、スラリーに50〜500MPaの高圧を加え、このスラリーを二つの流路に分岐させ、再度合流する部分で対向衝突させて粉砕するものである。このような粉砕機としては、スギノマシン社製商品名「スターバースト」や「アルティマイザー」、ナノマイザー社製商品名「ナノマイザー」、及びマイクロフルイディスク社製商品名「マイクロフルイタイザー」などが挙げられる。これらの中では、コンクリートのひび割れへの浸透性の点でスギノマシン社製商品名「スターバースト」が好ましい。
【0047】
本発明のコンクリートひび割れ補修用注入材をコンクリートのひび割れに注入するにあたっては、A材とB材とを混合する方法として、二重管を用いて先端部でA材とB材を合流混合して注入するいわゆる2ショット方式、A材とB材の両液を、注入ポンプから注入管に至る途中で合流混合して注入する、いわゆる、1.5ショット方式、さらに、ミキサーなどの調合槽でA材又はB材を調合した後、他液を加えて混合し、1液としてから注入する、いわゆる、1ショット方式いずれの方式でも行うことができる。
【0048】
本発明のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法は、上記コンクリートひび割れ補修用注入材をコンクリートのひび割れに注入することを特徴とするものである。
本発明のコンクリートひび割れ補修用注入材の注入工法は、例えば、コンクリートの100μm以下の微細なひび割れへの浸透性に優れ、かつ、高浸透水圧が作用しても注入材が押し出されることなく長期止水性を維持することができる注入工法にかかわるものであって、上記効果を得られるものである。なお、本発明の注入工法は、コンクリートのみならず、モルタルや岩盤等の微細なひび割れなどにも適用できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実験例によって説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0050】
実験例は特記しない限り、20℃で行った。
【0051】
実験例1
ジルコニア起源のシリカフューム100部、分散剤α5部(固形分換算)、及び水100部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、コクサン社製商品名「上部排出型遠心分離機H−130A」により、A材中のシリカフュームの平均粒径が、0.05μm、0.1μm、0.5μm、0.8μm、1.0μm、及び1.5μmになるように調整し、さらに、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、固形分換算で3部のポリマーディスパージョンを加え、A材を作製した。
一方、カルシウム化合物100部、分散剤α10部(固形分換算)、及び水150部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で粉砕時間を変えて湿式粉砕分散処理し、B材中のカルシウム化合物の平均粒径が、0.05μm、0.1μm、0.5μm、0.8μm、1.0μm、及び1.5μmになるようにし、さらに、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、5部の硬化時間調整剤を加えて、B材を作製した。
スギノマシン社製商品名「スターバースト」のスラリーに加えた圧力は全て245MPaとした。
カルシウム化合物の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、75部になるように、A材とB材を混合し、注入材を作製した。注入材の、硬化時間、圧縮強さ、及び浸透幅を確認した。配合及び結果を表1に示す。
なお、比較のため、ジルコニア起源のシリカフュームの代わりにフェロシリコン副生シリカフュームを使用して同様に実験を行ったが、フェロシリコン副生シリカフュームは凝集して解砕しにくく、平均粒径は20μmで、超音波分散処理をした場合の平均粒径は5.5μmであった。また、湿式分散処理を行わないジルコニア起源のシリカフュームを使用した実験も併記する。
【0052】
<使用材料>
ジルコニア起源のシリカフューム:中国産ジルコニア起源のシリカフューム、SiO2 95.2%、Al2O3 0.71%、CaO 0.15%、Fe2O3 0.29%、MgO 0.07%、ZrO2 2.72%、比表面積15.1m2/g
フェロシリコン副生シリカフューム:ノルウェー産フェロシリコン副生シリカフューム、SiO2 96.3%、Al2O3 0.98%、CaO 0.25%、Fe2O3 0.09%、MgO 0.55%、ZrO2 0%、比表面積18.4m2/g
カルシウム化合物:水酸化カルシウム、市販品、平均粒径9.5μm
分散剤α :ナフタレンスルホン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
ポリマーディスパージョン:エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるポリマーディスパージョン、市販品、固形分濃度46%
硬化時間調整剤:硫酸ナトリウム、市販品
水 :水道水
【0053】
(評価方法)
平均粒径 :レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製「LA−920型」)を用いた。A材及びB材を、超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した。
硬化時間 :注入材をプラスチック容器に入れ、傾倒しても流動性が無くなるまでの時間を硬化時間とした。
圧縮強さ :4×4×16cmの供試体を作製し、28日間20℃水中養生後、3日間20℃−相対湿度80%下で乾燥させ、注入材の圧縮強さを測定した。
浸透幅 :直径11mmの鉄筋を中心に入れた、10×10×40cmのコンクリート供試体に曲げ荷重を加えて100μm以下のひび割れを作製し、注入材を注入した。注入材が硬化後にコンクリートを切断し、実体顕微鏡にてひび割れへの浸透状況を確認した。注入が確認できる亀裂のひび割れ最小幅を浸透幅とした。小さい数値ほどコンクリートのひび割れへの浸透性が良好である。
【0054】
【表1】
【0055】
平均粒径が1.0μm以下の、ジルコニア起源のシリカフュームとカルシウム化合物を用いることにより、100μm以下の微細なコンクリートのひび割れに注入材が浸透することが、また、乾燥後の圧縮強さも高いことがわかる。
【0056】
実験例2
湿式分散処理した平均粒径が0.5μmのジルコニア起源のシリカフュームを含有するA材と、湿式粉砕分散処理した平均粒径が0.5μmのカルシウム化合物を含有するB材とを用い、カルシウム化合物の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、表2に示す量になるように、A材とB材を混合したこと以外は実験例1と同様に硬化時間、圧縮強さ、及び浸透幅を確認した。配合及び結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
ジルコニア起源のシリカフュームに対する、カルシウム化合物の割合を変えることにより、ひび割れへの浸透幅や、乾燥後の圧縮強さが向上することがわかる。
【0059】
実験例3
湿式分散処理した平均粒径が0.5μmのジルコニア起源のシリカフュームを含有するA材と、湿式粉砕分散処理した平均粒径が0.5μmのカルシウム化合物を含有するB材とを用い、A材中のジルコニア起源のシリカフュームとB材中のカルシウム化合物の濃度を表3に示すようにしたこと以外は実験例1と同様に硬化時間、圧縮強さ、及び浸透幅を確認した。配合及び結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
ジルコニア起源のシリカフュームの濃度が50%以下、カルシウム化合物の濃度が40%以下であれば、濃度が高いほど乾燥後の圧縮強さは高くなることがわかる。
【0062】
実験例4
湿式分散処理した平均粒径が0.5μmのジルコニア起源のシリカフュームを含有するA材と、湿式粉砕分散処理した平均粒径が0.5μmのカルシウム化合物を含有するB材とを用い、ジルコニア起源のシリカフューム100部又はカルシウム化合物100部に対して、固形分換算で表4に示す量の分散剤を使用し、カルシウム化合物の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、75部になるように、A材とB材を混合したこと以外は実験例1と同様に硬化時間、圧縮強さ、及び浸透幅を確認した。配合及び結果を表4示す。
【0063】
<使用材料>
分散剤β :ポリカルボン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
【0064】
【表4】
【0065】
A材、B材それぞれに分散剤を併用することにより、100μm以下の微細なコンクリートのひび割れに注入材が浸透し、また、乾燥後の圧縮強さも高いことがわかる。
【0066】
実験例5
湿式分散処理した平均粒径が0.5μmのジルコニア起源のシリカフュームを含有するA材に、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、固形分換算で表5に示す量のポリマーディスパージョンを混合し、また、湿式粉砕分散処理した平均粒径が0.5μmのカルシウム化合物を含有するB材に、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、表5に示す量の硬化時間調整剤を混合したこと以外は実験例1と同様に硬化時間、圧縮強さ、及び浸透幅を確認した。配合及び結果を表5示す。
【0067】
【表5】
【0068】
ポリマーディスパージョンを併用することにより、乾燥後の圧縮強さを高くすることが、また、硬化時間調整剤を併用することによって、硬化時間を調整することができる。
【0069】
実験例6
平均粒径0.8μmのジルコニア起源のシリカフュームを100部、分散剤α5部、及び水100部を混合し、さらに、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、表6に示すポリマーディスパージョンを加えてA材を作製した。
一方、市販の水酸化カルシウム100部、分散剤α10部、及び水150部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式粉砕分散処理し、B材中のカルシウム化合物の平均粒径が0.8μmになるようにし、さらに、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、表6に示す硬化時間調整剤を加えて、B材を作製した。スギノマシン社製商品名「スターバースト」のスラリーに加えた圧力は245MPaとした。
カルシウム化合物の使用量が、ジルコニア起源のシリカフューム100部に対して、75部になるように、A材とB材を混合し、注入材を作製し、コンクリート亀裂への浸透性を確認した。配合及び結果を表6に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
平均粒径が1.0μm以下のジルコニア起源のシリカフュームを用いた場合、湿式分散処理をしなくても、100μm以下のコンクリートひび割れに浸透することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の注入材は、例えば、下記用途に使用される。
100μm以下の微細なコンクリートひび割れに対しても優れた浸透性を有し、高い止水効果や耐久性能が得られるコンクリートひび割れ補修用注入材であって、あらゆるコンクリート構造物に適用可能である。