特許第5936589号(P5936589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936589
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】水門開閉装置及び開閉制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   E02B7/20 111
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-209229(P2013-209229)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-71922(P2015-71922A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241290
【氏名又は名称】豊国工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】下見 広司
(72)【発明者】
【氏名】垰 佑一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸治
(72)【発明者】
【氏名】深川 公貴
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭35−008146(JP,Y1)
【文献】 実公平01−018675(JP,Y2)
【文献】 実公昭35−010247(JP,Y1)
【文献】 特開昭53−019858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20− 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水門を開閉する扉体を昇降させる電動機と、前記扉体を自重により降下させる際、前記扉体の自重降下速度を略一定に制動する自重降下制動装置とを備えた開閉装置本体が、扉体の幅方向両側にそれぞれ独立して一対配置された水門開閉装置の開閉制御方法であって、
前記扉体を降下させる際、前記各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動による自重降下を含むように制御して、
前記扉体の降下中、前記扉体の幅方向が前記水門の幅方向に対して傾斜した場合、前記各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、前記扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することを特徴とする水門開閉装置の開閉制御方法。
【請求項2】
水門を開閉する扉体を昇降させる水門開閉装置であって、
該水門開閉装置は、
前記扉体の昇降に伴って回転する回転軸と、該回転軸と連結される出力軸を有する差動装置と、該差動装置の第1入力軸に連結される電動機と、該第1入力軸を解放または拘束する第1ブレーキ手段と、前記差動装置の第2入力軸に連結され、前記扉体の自重降下速度を略一定に制動する自重降下制動装置と、該第2入力軸を解放または拘束する第2ブレーキ手段とを備え、前記扉体の幅方向両側にそれぞれ独立して一対配置された開閉装置本体と、
前記扉体の昇降時、該扉体の幅方向が前記水門の幅方向に対して傾斜した状態を検知する開度偏差計と、
前記扉体の降下速度を制御する降下速度制御装置と、を備え、
該降下速度制御装置は、
前記扉体を降下させる際、前記各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により、少なくとも前記第2入力軸を解放して、前記各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動による自重降下を含むように制御して、
前記扉体の降下中、前記開度偏差計により前記扉体の傾斜姿勢を検知した場合、前記各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により第1及び第2入力軸を解放して、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、前記扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することを特徴とする水門開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水門を開閉する扉体が降下される際の降下速度を適正化する水門開閉装置及び開閉制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、水門を閉鎖するに伴って扉体を降下させる際、通常通り電動機を閉方向に回転駆動させることにより扉体を降下させると、水門を完全に閉鎖する時間が長くなるために、閉鎖時間を短縮するために扉体の自重を利用して扉体を高速で降下させる自重降下機能付きの水門開閉装置が多数採用されている。
【0003】
上述したような従来の水門開閉装置では、昇降の際に使用する電動機と、自重降下させる際に使用する自重降下制動装置とを安全に確実に切り換えができる差動装置を利用した切換装置が備えられている。なお、切換装置である差動装置は一つの出力軸と二つの入力軸を有している。そして、切換装置の出力軸には扉体の昇降に伴って回転する回転軸が連結される。また、切換装置の第1入力軸には、該第1入力軸を解放または拘束するブレーキ手段を介して電動機が連結されて、一方、切換装置の第2入力軸には、該第2入力軸を解放または拘束するブレーキ手段を介して自重降下制動装置が連結される。なお、自重降下制動装置としては、遠心ブレーキ、ファンブレーキ及び油圧ブレーキなどが用いられ、扉体の自重降下速度が一定の速度に到達すると、扉体自重による回転トルクが自重降下制動装置の制動機構の発生するトルクと等しくなるようにされている。
【0004】
そして、上述した従来の水門開閉装置では、常時においては、自重降下制動装置側のブレーキ手段の操作により第2入力軸を拘束する状態として、一方、電動機側のブレーキ手段の操作により第1入力軸を解放した状態として、電動機の回転駆動により扉体の昇降を行っている。また、扉体を自重で降下させるには、自重降下制動装置側のブレーキ手段の操作により第2入力軸を解放した状態として、一方、電動機側のブレーキ手段の操作により第1入力軸を拘束した状態として、第2入力軸の回転が自重降下制動装置に入力されるようにして、自重降下制動装置により扉体を一定の降下速度で降下させるようにしている。
【0005】
なお、扉体を自重降下させる従来技術として特許文献1には、被駆動軸に、扉体が自重降下する際その降下速度を調節する遠心ブレーキが連結され、これにより、停電時、無動力においても扉体は自重で降下するが、降下する際には遠心ブレーキによって、扉体の降下速度が一定速度以下となるように調節される水門開閉装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−146522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明を含む従来の水門開閉装置では、扉体を自重降下させる際その降下速度が一定であるため、水門の閉鎖時間を短縮するため降下速度を速く設定すると床面に到達した際に床面との衝突により扉体が損傷する虞があり、一方、扉体が損傷しないように、降下速度を遅く設定すると降下時間(水門の閉鎖時間)が長くなり、好ましくない。
【0008】
しかも、扉体の幅方向両側に電動機及び自重降下制動装置等から構成される水門開閉装置が一対備えられる場合、扉体を自重降下させる際、扉体をその幅方向が水門の幅方向に対して傾斜することなく平衡状態で自重降下させるには、一対の自重降下制動装置の各降下速度(制動速度)を同調させる必要がある。しかしながら、自重降下制動装置として採用される遠心ブレーキ、ファンブレーキ及び油圧ブレーキでは、その制動回転数のばらつきが大きく降下速度の精度を確保することが困難になる。例えば、遠心ブレーキにおいては、回転片とドラムとの摩擦係数が制動トルクの大きさを決定する支配的な要素となるが、その摩擦係数が常時安定しないために、一対の自重降下制動装置それぞれの降下速度を同調するのが困難になる。
【0009】
さらに、降下中に扉体が傾斜した場合、扉体の幅方向両側において先行して降下する側の自重降下制動装置への入力を一時遮断する操作を行い、扉体の傾斜を補正する必要があるが、補正のために各自重降下制動装置への入力に対する解放及び遮断を繰り返す制御を行った場合、自重降下速度が高速のうえに、解放及び遮断に対する応答性が悪く、扉体の傾斜を補正するには問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、扉体を降下させる際、その降下速度を制御して安定して降下させることのできる水門開閉装置及び開閉制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した水門開閉装置の開閉制御方法に係る発明は、水門を開閉する扉体を昇降させる電動機と、前記扉体を自重により降下させる際、前記扉体の自重降下速度を略一定に制動する自重降下制動装置とを備えた開閉装置本体が、扉体の幅方向両側にそれぞれ独立して一対配置された水門開閉装置の開閉制御方法であって、前記扉体を降下させる際、前記各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動による自重降下を含むように制御して、前記扉体の降下中、前記扉体の幅方向が前記水門の幅方向に対して傾斜した場合、前記各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、前記扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することを特徴とするものである。
請求項1に記載した水門開閉装置の開閉制御方法に係る発明では、扉体は、少なくとも、自重降下制動装置の作動による降下速度によって高速で自重降下するようになり、水門の閉鎖時間を短縮することができる。
すなわち、請求項1の発明では、自重降下制動装置の作動により高速で自重降下している時に、電動機側の回転駆動として正転または逆転(開方向または閉方向)を加えることにより、降下速度を調節することが可能となる。
また、降下中、扉体の幅方向が水門の幅方向に対して傾斜した場合、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正するので、扉体が傾斜しても水門の閉鎖時間に影響を及ぼすことはない。
なお、電動機の回転駆動の制御は、回転方向、回転速度、起動及び停止を含む制御である。
【0012】
また、請求項1に記載した水門開閉装置の開閉制御方法に係る発明では、例えば、扉体を降下させる際、各開閉装置本体の、自重降下制動装置の作動と電動機の回転駆動とを加えて降下させて、扉体の降下中、扉体が傾斜した場合、先行して降下している側の開閉装置本体の電動機だけを停止または開方向に回転駆動させて、扉体の幅方向両端部の降下速度を調整することで、扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することができる。
さらに、請求項1に記載した水門開閉装置の開閉制御方法に係る発明では、例えば、扉体を降下させる際、各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動により自重降下させて、扉体の降下中、扉体が傾斜した場合、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御(例えば、先行して降下している側の電動機を開方向に回転駆動または起動させず、遅行して降下している側の電動機を閉方向に回転駆動させる)して、扉体の幅方向両端部の降下速度を調整することで、扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することができる。
【0013】
請求項に記載した水門開閉装置に係る発明は、水門を開閉する扉体を昇降させる水門開閉装置であって、該水門開閉装置は、前記扉体の昇降に伴って回転する回転軸と、該回転軸と連結される出力軸を有する差動装置と、該差動装置の第1入力軸に連結される電動機と、該第1入力軸を解放または拘束する第1ブレーキ手段と、前記差動装置の第2入力軸に連結され、前記扉体の自重降下速度を略一定に制動する自重降下制動装置と、該第2入力軸を解放または拘束する第2ブレーキ手段とを備え、前記扉体の幅方向両側にそれぞれ独立して一対配置された開閉装置本体と、前記扉体の昇降時、該扉体の幅方向が前記水門の幅方向に対して傾斜した状態を検知する開度偏差計と、前記扉体の降下速度を制御する降下速度制御装置と、を備え、該降下速度制御装置は、前記扉体を降下させる際、前記各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により、少なくとも前記第2入力軸を解放して、前記各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動による自重降下を含むように制御して、前記扉体の降下中、前記開度偏差計により前記扉体の傾斜姿勢を検知した場合、前記各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により第1及び第2入力軸を解放して、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、前記扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することを特徴とするものである。
請求項2に記載した水門開閉装置の開閉制御方法に係る発明では、扉体は、第1及び第2ブレーキ手段の操作により差動装置の少なくとも第2入力軸を解放することで、扉体は、少なくとも、自重降下制動装置の作動による降下速度によって高速で自重降下するようになる。
また、降下中、扉体の幅方向が水門の幅方向に対して傾斜した場合、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御することで、扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正するので、扉体が傾斜しても水門の閉鎖時間に影響を及ぼすことはない。
なお、電動機の回転駆動の制御は、回転方向、回転速度、起動及び停止を含む制御である。
【0014】
また、請求項2に記載した水門開閉装置に係る発明では、例えば、扉体を降下させる際、各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により第1及び第2入力軸を共に解放して、各開閉装置本体の、自重降下制動装置の作動と電動機の回転駆動とを加えて降下させて、扉体の降下中、開度偏差計により扉体の傾斜姿勢を検知した場合、各開閉装置本体の第1及び第2入力軸の解放状態を継続しつつ、先行して降下している側の開閉装置本体の電動機だけを停止または開方向に回転駆動させて、扉体の幅方向両端部の降下速度を調整することで、扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することができる。
さらに、請求項2に記載した水門開閉装置に係る発明では、例えば、扉体を降下させる際、各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により第2入力軸だけを解放して、各開閉装置本体の自重降下制動装置の作動により自重降下させて、扉体の降下中、開度偏差計により扉体の傾斜姿勢を検知した場合、各開閉装置本体の第1及び第2ブレーキ手段の操作により各開閉装置本体の第1及び第2入力軸を共に解放して、各開閉装置本体の電動機の回転駆動を制御(例えば、先行して降下している側の電動機を開方向に回転駆動または起動させず、遅行して降下している側の電動機を閉方向に回転駆動させる)して、扉体の幅方向両端部の降下速度を調整することで、前記扉体の降下を継続させながら、その傾斜姿勢を補正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水門開閉装置及び開閉制御方法によれば、扉体の降下の際、扉体の降下初期から着床直前までの範囲では、比較的高速で降下させることができ、着床直前から着床までの範囲では、扉体へ着床時に衝撃を与えない程度の安全な降下速度で降下させることができる。これにより、扉体に着床時に損傷を与えることなく、短時間で水門を閉鎖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る水門開閉装置の模式図である。
図2図2は、本発明の第2の実施形態に係る水門開閉装置の模式図である。
図3図3は、第2の実施形態に係る水門開閉装置に備えた降下速度制御装置における制御フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図1図3に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に、本発明の第1及び第2の実施形態に係る水門開閉装置1a、1bを説明するが、そのうち、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bが、特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
まず、本発明の第1の実施形態に係る水門開閉装置1aを図1に基づいて説明する。
水門を構成する左右一対の門柱10、11間に扉体2が昇降自在に案内されている。扉体2の上部には左右一対のシーブ3、4がそれぞれ配置されている。各シーブ3、4には、ワイヤロープ5が巻回されており、該ワイヤロープ5の一端は他方の門柱11の上端に係止され、一方、ワイヤロープ5の他端は一方の門柱10の上方に配置されたワイヤロープ巻取ドラム13に巻回されている。そして、ワイヤロープ巻取ドラム13を開閉方向に回転駆動させることでワイヤロープ5を介して扉体2を門柱10、11間に沿って昇降させるようにしている。
【0018】
そして、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aは、ワイヤロープ巻取ドラム13を開閉方向に回転駆動させるものである。該水門開閉装置1aは、一方の門柱10の上方に配置されている。該水門開閉装置1aは、ワイヤロープ巻取ドラム13に連結され、該ワイヤロープ巻取ドラム13との間で相互に回転駆動を伝達する回転軸15と、該回転軸15に連結され該回転軸15との間で相互に回転駆動を伝達する出力軸17を有する差動装置20と、該差動装置20の第1入力軸18に連結される電動機21と、該第1入力軸18を解放または拘束する第1ブレーキ手段25と、差動装置20の第2入力軸19に連結され、扉体2の自重降下速度を略一定に制動する自重降下制動装置30と、該第2入力軸19を解放または拘束する第2ブレーキ手段27と、電動機21、第1ブレーキ手段25及び第2ブレーキ手段27の作動及び停止により、扉体2の降下速度を制御する降下速度制御装置35とを備えて構成される。また、本水門開閉装置1aには、扉体2が着床する直前を検知すると共に、扉体2が完全に着床した状態を検知するための検知スイッチ40を備えている。この検知スイッチ40は、例えば、回転軸15の回転による回転角度(位相の変化)により、扉体2が着床する直前に到達した時点、及び扉体2が完全に着床した時点を検知するように構成される。
【0019】
回転軸15には平歯車15aが一体的に連結されている。差動装置20から延びる出力軸17にも平歯車17aが一体的に連結されている。これら回転軸15の平歯車15aと出力軸17の平歯車17aとが噛み合っており、回転軸15と出力軸17とは相互に回転駆動を伝達するように構成される。差動装置20の第1入力軸18は電動機21に連結されている。第1入力軸18には第1ブレーキ手段25が備えられる。該第1ブレーキ手段25は第1入力軸18を拘束及び解放するためのものであり、油圧押上げブレーキや電磁ブレーキ等が採用される。また、差動装置20の第2入力軸19は自重降下制動装置30に連結されている。第2入力軸19には第2ブレーキ手段27が備えられる。該第2ブレーキ手段27は第2入力軸19を拘束及び解放するためのものであり、第1ブレーキ手段25と同様に油圧押上げブレーキや電磁ブレーキ等が採用される。前述したように、自重降下制動装置30は、遠心ブレーキ、ファンブレーキ及び油圧ブレーキなどが採用される。自重降下制動装置30により、扉体2を自重降下させる際には、その降下速度を略一定に調節することができる。扉体2の自重降下速度は自重降下制動装置30により予め設定される。降下速度制御装置35は、検知スイッチ40、電動機21、第1ブレーキ手段25及び第2ブレーキ手段27に電気的に接続されており、検知スイッチ40からの信号に基づいて、電動機21、第1ブレーキ手段25及び第2ブレーキ手段27の作動及び停止を制御するものである。
【0020】
次に、降下速度制御装置35による制御方法を詳細に説明する。
なお、本実施形態では、電動機21の閉方向への回転駆動による扉体2の降下速度はα(m/min)に設定される。一方、自重降下制動装置30の作動による扉体2の自重降下速度はβ(≧α)(m/min)に設定される。
【0021】
まず、扉体2の降下初期の段階では、降下速度制御装置35からの信号により、電動機21を閉方向に回転駆動させて、第1ブレーキ手段25の操作により第1入力軸18を解放すると共に第2ブレーキ手段27の操作により第2入力軸19を解放した状態とする。
すると、差動装置20からの第1入力軸18は電動機21の閉方向への回転駆動により所定速度で回転すると共に第2入力軸19も自重降下制動装置30の作動により所定速度で回転し(扉体2の自重による降下に対して自重降下制動装置30により制動力が作用する)、差動装置20からの出力軸17は第1及び第2入力軸18、19の回転速度を合わせた回転速度で閉方向に回転駆動するようになる。その結果、扉体2は降下速度α+β(m/min)で降下するようになる。
【0022】
次に、扉体2が着床直前に到達すると、検知スイッチ40によりその信号が降下速度制御装置35に入力される。そして、降下速度制御装置35からの信号により、電動機21の閉方向への回転駆動を維持して、第1ブレーキ手段25の操作により第1入力軸18を解放すると共に第2ブレーキ手段27の操作により第2入力軸19を拘束した状態とする。
すると、差動装置20からの第1入力軸18だけが電動機21の閉方向への回転駆動により回転し、第1入力軸18の回転駆動だけが差動装置20の出力軸17に伝達されて該出力軸17が閉方向に回転駆動するようになる。その結果、扉体2は降下速度α(m/min)で降下するようになる。
【0023】
なお、電動機21の回転駆動による降下速度α(m/min)>自重降下制動装置30の作動による降下速度β(m/min)の場合、扉体2が着床直前に到達した際、電動機21の回転駆動を停止して、第1ブレーキ手段25の操作により第1入力軸18を拘束すると共に第2ブレーキ手段27の操作により第2入力軸19を解放して、差動装置20の第2入力軸19だけを自重降下制動装置30の作動により所定速度で閉方向へ回転させて、扉体2を降下速度β(m/min)で降下させるようにしてもよい。
【0024】
最終的に、扉体2が完全に着床すると、検知スイッチ40によりその信号が降下速度制御装置35に入力される。そして、降下速度制御装置35からの信号により、電動機21の閉方向への回転駆動を停止して、第1ブレーキ手段25の操作により第1入力軸18を拘束すると共に第2ブレーキ手段27の操作により第2入力軸19を拘束した状態とする。
【0025】
このように、扉体2を降下させる際、降下速度制御装置35の制御により、扉体2の降下初期から着床直前までの範囲では、扉体2を比較的高速の降下速度α+β(m/min)で降下させることができ、扉体2の着床直前から着床までの範囲では、扉体2へ着床時に衝撃を与えない安全な降下速度α(m/min)で降下させることができる。
【0026】
なお、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aにより扉体2を上昇させるには、降下速度制御装置35からの信号により、第1ブレーキ手段25の操作により第1入力軸18を解放すると共に第2ブレーキ手段27の操作により第2入力軸19を拘束した状態として、電動機21を開方向へ回転駆動させれば、扉体2は門柱10、11間に沿って所定の上昇速度で上昇するようになる。
【0027】
以上説明した、本発明の第1の実施形態に係る水門開閉装置1aによれば、降下速度制御装置35の制御により、扉体2の降下初期から着床直前までの範囲では、電動機21を閉方向に回転駆動させると共に、第1ブレーキ手段25及び第2ブレーキ手段27の操作により第1及び第2入力軸18、19を解放した状態とすることで、扉体2が降下速度α+β(m/min)で降下するようになる。一方、扉体2の着床直前から着床までの範囲では、電動機21の閉方向への回転駆動を維持すると共に、第1ブレーキ手段25及び第2ブレーキ手段27の操作により第1入力軸18だけを解放した状態とすることで、扉体2が降下速度α(m/min)で降下するようになる。その結果、扉体2を降下初期から着床直前までの範囲では、比較的高速である降下速度α+β(m/min)で降下させることができ、扉体2の着床直前から着床までの範囲では、扉体2へ着床時に衝撃を与えない安全な降下速度α(m/min)で降下させることができる。これにより、扉体2に着床時に損傷を与えることなく、短時間で水門を閉鎖することができる。
【0028】
なお、本水門開閉装置1aでは、扉体2を自重降下制動装置30の作動により自重降下させている際、電動機21の開方向または閉方向への回転駆動により扉体2の降下速度を調節することも可能となる。
【0029】
次に、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bを図2及び図3に基づいて詳細に説明する。第2の実施形態に係る水門開閉装置1bを説明する際には第1の実施形態に係る水門開閉装置1aとの相違点のみを説明する。
左右一対の門柱10、11の上方にはワイヤロープ巻取ドラム13、14がそれぞれ配置されている。扉体2の幅方向両側には一対のシーブ3、4がそれぞれ配置されている。各シーブ3、4には、独立したワイヤロープ5、6がそれぞれ巻回されている。一方のワイヤロープ5は対応するシーブ3に巻回されて、一方のワイヤロープ5の一端が一方の門柱10の上端に係止され、該一方のワイヤロープ5の他端が一方のワイヤロープ巻取ドラム13に巻回されている。同様に他方のワイヤロープ6は対応するシーブ4に巻回されて、他方のワイヤロープ6の一端が他方の門柱11の上端に係止され、該他方のワイヤロープ6の他端が他方のワイヤロープ巻取ドラム14に巻回されている。
【0030】
そして、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、回転軸15、16、電動機21,21、差動装置20、20、自重降下制動装置30、30、第1ブレーキ手段25、25及び第2ブレーキ手段27、27から構成される開閉装置本体38、39が左右一対の門柱10、11上(扉体2の幅方向両側)にそれぞれ備えられている。各開閉装置本体38、39の回転軸15、16が、各ワイヤロープ巻取ドラム13、14との間で相互に回転駆動を伝達するように連結されている。第2の実施形態に係る水門開閉装置1bは開度偏差計41を備えている。該開度偏差計41は、水門の開放領域が左右のいずれかに偏った状態、すなわち、扉体2が平衡状態に維持されておらず、一方または他方の門柱10、11に向かって傾斜している状態(扉体2の幅方向が水門の幅方向に対して傾斜している状態)を計測するものである。例えば、開度偏差計41は、各開閉装置本体38、39の回転軸15、16の位相差を計測することによってその傾斜状態(扉体2の傾斜姿勢)を算出するように構成される。また、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bにも検知スイッチ40が採用されており、各開閉装置本体38、39の回転軸15、16の回転による回転角度(位相の変化)により、扉体2が着床する直前に到達した時点、及び扉体2が完全に着床した時点を検知するように構成される。そして、降下速度制御装置36は、各開閉装置本体38、39の電動機21、21、第1ブレーキ手段25、25及び第2ブレーキ手段27、27と、検知スイッチ40と、開度偏差計41と電気的に接続されている。
【0031】
次に、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bの降下速度制御装置36による制御方法を図3に基づいて説明する。
まず、扉体2の降下初期の段階では、ステップS1において、降下速度制御装置36からの信号により、各開閉装置本体38、39の電動機21、21を閉方向に回転駆動させる。これと同時に、ステップS2において、各開閉装置本体38、39の第1ブレーキ手段25、25の操作により第1入力軸18、18を解放すると共に第2ブレーキ手段27、27の操作により第2入力軸19、19を解放した状態とする。
すると、扉体2は、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aと同様に、降下速度α+β(m/min)で降下するようになる。
【0032】
次に、扉体2が降下速度α+β(m/min)で降下中ステップS3にて、検知スイッチ40により扉体2が着床直前であるか否かが判定される。続いて、ステップS3にて検知スイッチ40により扉体2が着床直前ではない(NO)と判定されるとステップS4に進む。続いて、ステップS4では開度偏差計41による計測結果に基づいて扉体2の傾斜状況が算出され、該傾斜状況に基づいて傾斜補正が必要か否かが判定される。ステップS4にて扉体2の傾斜補正は必要ない(NO)と判定されるとステップS3の前段階に戻る。一方、ステップS4にて扉体2の傾斜補正が必要である(YES)と判定されるとステップS5に進み、各開閉装置本体38、39のうち扉体2の傾いている側(扉体2の幅方向両側において先行して降下している側)の開閉装置本体38または39の電動機21が停止される。なお、ステップS5において、扉体2の傾斜角度が基準値よりも大きい場合には、傾いている側(先行して降下している側)の開閉装置本体38または39の電動機21を開方向に回転駆動させてもよい。続いて、ステップS6では、開度偏差計41による計測結果に基づいて扉体2の傾斜状況が算出され、傾斜補正が完了したか否かが判定される。ステップS6にて、傾斜補正が完了していない(NO)と判定されると、ステップS6の前段階に戻る。一方、ステップS6にて、傾斜補正が完了していると(YES)と判定されるとステップS7に進む。続いて、ステップS7にて、停止中の電動機21を再起動させた後、ステップS3の前段階に戻る。
【0033】
一方、ステップS3において、検知スイッチ40により扉体2が着床直前に到達したことが検知される(YES)と、ステップS8において、降下速度制御装置36からの信号により、各開閉装置本体38、39の電動機21、21の閉方向への回転駆動を維持して、各開閉装置本体38、39の第1ブレーキ手段25、25の操作により第1入力軸18,18を解放すると共に第2ブレーキ手段27、27の操作により第2入力軸19、19を拘束した状態とする。
すると、扉体2は、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aと同様に、降下速度α(m/min)で降下するようになる。
【0034】
最終的に、ステップS9において、検知スイッチ40により扉体2が完全に着床したことが検知されると、ステップS10において、その信号が降下速度制御装置36に入力され、降下速度制御装置36からの信号により、各開閉装置本体38、39の電動機21、21の閉方向への回転駆動を停止して、各開閉装置本体38、39の第1ブレーキ手段25、25の操作により第1入力軸18、18を拘束すると共に第2ブレーキ手段27、27の操作により第2入力軸19、19を拘束した状態とする。
【0035】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、開閉装置本体38、39が扉体2の左右両側に一対設けられた場合でも、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aと同様に、扉体2の降下初期から着床直前までの範囲では、扉体2が比較的高速である降下速度α+β(m/min)で降下すると共に、扉体2の着床直前から着床までの範囲では、扉体2へ着床時に衝撃を与えない安全な降下速度α(m/min)で降下するようになり、着床時に扉体2に損傷を与えることなく、短時間で水門を閉鎖することができる。しかも、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、開度偏差計41により、降下中の扉体2が平衡状態を維持できずに、その幅方向が水門の幅方向に対して傾斜した場合、傾斜した側(扉体2の幅方向において先行して降下している側)の開閉装置本体38または39の電動機21または21を停止または逆転(開方向)することで、その傾斜を補正することができるので、特に有効である。
【0036】
本発明の第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、各開閉装置本体38、39の電動機21、21の回転駆動及び停止により、各自重降下制動装置30、30の作動による高速の自重降下において、扉体2の幅方向両端部の降下速度を容易に同調させる、すなわち扉体2の傾斜補正を容易に行うことができる。
【0037】
なお、本発明の第1及び第2の実施形態に係る水門開閉装置1a、1bにおいては、電動機21とは別構成にて第1ブレーキ手段25を備えたが、電動機21をブレーキ付き電動機として構成して第1ブレーキ手段25を省いてもよい。また、自重降下制動装置30に第2ブレーキ手段27を内蔵しているものを採用すれば、第2ブレーキ手段27を省いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1a、1b 水門開閉装置,2 扉体,15、16 回転軸,17 出力軸,18 第1入力軸,19 第2入力軸,20 差動装置,21 電動機,25 第1ブレーキ手段,27 第2ブレーキ手段,30 自重降下制動装置,35、36 降下速度制御装置,38、39 開閉装置本体,41 開度偏差計
図1
図2
図3