(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機溶液は、液状陽イオン交換体として20〜80容量%のオレイン酸および、溶媒としてラウリン酸メチルエステルを含有し、前記有機化合物は12−アミノラウリン酸メチルエステルであり、かつ、前記水溶液中に、組み換えアルカンモノオキシゲナーゼ、組み換えトランスアミナーゼならびに、さらに加えて、アルコール脱水素酵素、アラニン脱水素酵素およびAlkL遺伝子産物またはその変異体を含む群からの少なくとも1の酵素を有する細菌細胞が存在している、請求項10に記載の方法。
前記水溶液は、さらに、組み換えアルカンモノオキシゲナーゼ、組み換えトランスアミナーゼならびに、さらに加えて、アルコール脱水素酵素、アラニン脱水素酵素およびAlkL遺伝子産物またはその変異体を含む群からの少なくとも1の酵素を有する細胞を含有している、請求項12に記載の反応混合物。
【技術分野】
【0001】
本出願は、1以上の正電荷を有する有機化合物を水溶液から取り出す方法であって、a)当該有機化合物を含んだ水溶液と、液状陽イオン交換体を含有した疎水性有機溶液(ここで、当該液状陽イオン交換体は疎水性を有する)とを準備するステップと、b)当該水溶液と当該有機溶液とを接触させるステップと、c)当該有機溶液を当該水溶液から分離するステップ(ここで、当該有機化合物は式NH
3+−A−COOR
1の化合物ならびに該化合物と関連した反応混合物である)とを含んでなる方法に関する。
【0002】
従来は化石燃料から出発して合成されるファインケミカルを、再生可能原材料から出発してバイオテクノロジーによって製造する方法の根本的な問題は、通常多量の水相中に存在する一旦得られた生成物を有機相に移行させる点にある。この移行は、一方で、完成中間生成物または最終生成物を濃縮し、場合により、爾後の反応ステップにおいて有機溶液中での合成加工を可能にするために行われ、他方で、所望の生成物を取り出すことによって水相での反応の収率を改善しあるいはそもそも技術的に有意なレベルでの反応の進行を初めて可能とするために行われる。しばしば低い濃度で存在する生成物を多量の水溶液から直接熱的に濃縮することは、通常、有効ではない。
【0003】
混合しない水性親水相と有機疎水相とからなる2相系における化合物の分配は、それぞれの化合物の物理化学的特性に決定的に依存している。非置換炭化水素の割合の高いまたはもっぱら非置換炭化水素からなる化合物は主として疎水相に集積するが、極性基の割合の高いたとえばヘテロ原子含有官能価数の高い化合物および、なかんずく特に、電荷を有する化合物は主としてまたは実際にもっぱら水相中に存在するため、これによって、有機相への移行は困難とされる。
【0004】
平衡が生じた後の上記2相系における化合物の分配は、しばしば、分配係数を用い、たとえばネルンストの式
α=c
相1/c
相2
によって記述される。特別な分配係数は、オクタノール相と水相との化合物の分配平衡を特徴づける(P値とも称される)K
owである:
K
ow=P=c
オクタノール/C
水
工業的に非常に需要の高い正電荷を帯びた有機化合物の一例を表しているのは、12−アミノラウリン酸(ALS)とその誘導体とくに同メチルエステル(ALSME)である。ALSは、たとえば配管系およびナイロンを製造するためのポリマー製造に際する重要な出発材料である。これまでのところ、ALSは、化石原料から出発して、ブタジエンの三量化、続いてシクロドデカン形成下での水素化、続いての酸化によるシクロドデカノン生成、ヒドロキシラウリンとの反応およびそれに続くベックマン転位によって合成されるラウリンラクタムを経て低収率の方法で製造されている。ALSないしALSMEをバイオテクノロジー法によって製造するための有望な方途はドイツ特許第10200710060705号に開示されている。
【0005】
従来の技術は、生物剤を含有した水性反応混合物を、有機溶媒を含有した有機相と接触させることにより、正電荷を帯びた化合物が得られることを示している。したがって、たとえばドイツ特許第10200710060705号は、水性反応混合物から酢酸エチルエステルによる溶媒抽出によって、製品としてのALSMEを得ることを開示している。Asano et al.(2008)は、ALS合成酵素を含有する水性反応溶液からトルエンによってALSを抽出することを開示している。
【0006】
そこで、本発明の課題は、正電荷を帯びた化合物、特に、少なくとも1つの正電荷を有するω−アミノカルボン酸を、水性反応混合物から取り出す方法であって、反応混合物と抽出剤として使用された疎水性有機相との分配平衡状態はできるだけ有利であるのが望ましく、換言すれば、分配平衡ができるだけ大幅に疎水性有機相側にあるようにする方法を開発することである。
【0007】
本発明のさらに別の課題の本旨は、少なくとも1つの正電荷を有する有機化合物とくにω−アミノカルボン酸を、生物剤を含有した水溶液から疎水性有機相を抽出剤として使用して取り出す方法であって、分配平衡ができるだけ大幅に疎水性有機相側にあるようにする方法を開発することにある。
【0008】
本発明のさらに別の課題の本旨は、少なくとも1つの正電荷を有する有機化合物とくにω−アミノカルボン酸を、水溶液から疎水性有機溶液を抽出剤として使用して取り出す方法であって、バイオテクノロジー上重要な微生物とくにEscherichia coliの増殖をできるだけ毀損ないし緩慢化させることなくおよび/または、その際、分裂可能および/または生存可能および/または呼吸活性および/または代謝・合成活性を有する細胞の数をできるだけ減少させない方法を開発することにある。
【0009】
最後に、本発明の課題は、少なくとも1つの正電荷を有する有機化合物とくにω−アミノカルボン酸を、生物剤を含有した水溶液から疎水性有機相を抽出剤として使用して取り出す方法であって、収率、総代謝率および基礎をなすバイオテクノロジー合成法の速やかな実施可能性にとって決定的な特性の全体、特に、生物剤に対する有機相の毒性および有機抽出剤への化合物の吸収が、総収率またはより速やかな反応進行または、連続法において、とりわけ、少なくとも1つの正電荷を有する有機化合物が生物剤の触媒活性の関与下で合成される合成法の産物または中間産物である場合、当該生物剤のできるだけ長期的な使用可能性という点から見て、最適化された方法を見出すことである。
【0010】
上記の課題およびその他の課題は、本出願の対象および特にまた添付の独立請求項の対象によって解決され、その際、従属請求項から一連の実施形態が判明する。
【0011】
本発明の上記課題は、第1の態様において、1以上の正電荷を有する有機化合物を水溶液から取り出す方法であって、
a)当該有機化合物を含んだ水溶液と、液状陽イオン交換体を含有した疎水性有機溶液(ここで、当該液状陽イオン交換体は疎水性を有する)とを準備するステップと、
b)当該水溶液と当該有機溶液とを接触させるステップと、
c)当該有機溶液を当該水溶液から分離するステップと
を含み、当該有機化合物は式I
NH
3+−A−COOR
1 (I)
[式中、
R
1は、水素、メチル基、エチル基または1つの負電荷であり、
Aは、少なくとも3個、好ましくは少なくとも8個の炭素原子を有する非置換直鎖アルキレン基である]の化合物であり、当該液状陽イオン交換体は脂肪酸である方法によって解決される。
【0012】
上記第1の態様の第一の実施形態において、上記問題は請求項1に記載の方法によって解決され、その際、ステップb)の温度は28〜70℃、好ましくは30〜37℃である。
【0013】
上記第1の態様の上記第一の実施形態の1実施形態でもある第二の実施形態において、上記問題は請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法によって解決され、その際、ステップb)のpH値は6〜8、好ましくは6.2〜7.2である。
【0014】
上記第1の態様の上記第一〜第二の実施形態の1実施形態でもある第三の実施形態において、上記問題は、液状陽イオン交換体の有機化合物に対する物質量比が少なくとも1である方法によって解決される。
【0015】
上記第1の態様の上記第一〜第三の実施形態の1実施形態でもある第三の実施形態において、上記問題は、有機溶液の水溶液に対する容量比が1:10〜10:1である方法によって解決される。
【0016】
上記第1の態様の上記第一〜第三の実施形態の1実施形態でもある第四の実施形態において、上記問題は、当該液状陽イオン交換体が、12個を上回る数、好ましくは14〜22個、より好ましくは16〜18個の炭素原子を有する脂肪酸である方法によって解決される。
【0017】
上記第1の態様の上記第一〜第四の実施形態の1実施形態でもある第五の実施形態において、上記問題は、当該液状陽イオン交換体は不飽和脂肪酸、好ましくはオレイン酸またはエルカ酸である方法によって解決される。
【0018】
上記第1の態様の上記第一〜第五の実施形態の1実施形態でもある第六の実施形態において、上記問題は、当該水溶液がさらに触媒活性を有する生物剤を含有している方法によって解決される。
【0019】
上記第1の態様の上記第一〜第六の実施形態の1実施形態でもある第七の実施形態において、上記問題は、当該生物剤が細胞、好ましくは細菌細胞であり、該細胞は、より好ましくは、組み換えアルカンモノオキシゲナーゼ、組み換えトランスアミナーゼならびに、好ましくはさらに加えて、アルコール脱水素酵素、アラニン脱水素酵素およびAlkL遺伝子産物またはその変異体を含む群からの少なくとも1の酵素を有している方法によって解決される。
【0020】
上記第1の態様の上記第一〜第七の実施形態の1実施形態でもある第八の実施形態において、上記問題は、当該有機化合物の存在は、好ましくは、当該有機化合物が上記細胞にとって毒性を有する化合物であることにより、当該触媒活性に不適な作用をもたらす方法によって解決される。
【0021】
上記第1の態様の上記第一〜第八の実施形態の1実施形態でもある第九の実施形態において、上記問題は、当該有機溶液が、さらに、少なくとも1の有機溶媒、好ましくは脂肪酸および/または脂肪酸エステルを含んでいる方法によって解決される。
【0022】
上記第1の態様の上記第一〜第九の実施形態の1実施形態でもある第十の実施形態において、上記問題は、当該有機溶液が、液状陽イオン交換体として20〜80容量%、好ましくは25〜75容量%のオレイン酸および、溶媒としてラウリン酸メチルエステルを含有し、当該有機化合物は12−アミノラウリン酸メチルエステルであり、かつ、当該水溶液中に、組み換えアルカンモノオキシゲナーゼ、組み換えトランスアミナーゼならびに、好ましくはさらに加えて、アルコール脱水素酵素、アラニン脱水素酵素およびAlkL遺伝子産物またはその変異体を含む群からの少なくとも1の酵素を有する細菌細胞が存在している方法によって解決される。
【0023】
第2の態様において、本発明が解決しようとする問題は、水溶液と疎水性有機溶液(ここで、
当該疎水性有機溶液は、液状陽イオン交換体として脂肪酸、好ましくは12個を上回る数の炭素原子を有する脂肪酸、より好ましくは不飽和脂肪酸を含有し、
当該水溶液は、式(I)
NH
3+−A−COOR
1 (I)
[式中、
R
1は、水素、メチル基、エチル基または1つの負電荷であり、
Aは、少なくとも3個、好ましくは少なくとも8個の炭素原子を有する非置換直鎖アルキレン基である]の化合物である)とを含有した反応混合物によって解決される。
【0024】
上記第2の態様の1実施形態において、本発明が解決しようとする問題は、上記第1の態様に記載した反応混合物(ここで、当該水溶液は、さらに、組み換えアルカンモノオキシゲナーゼ、組み換えトランスアミナーゼならびに、好ましくはさらに加えて、アルコール脱水素酵素、アラニン脱水素酵素およびAlkL遺伝子産物またはその変異体を含む群からの少なくとも1の酵素を有する細菌細胞を含有している)によって解決される。
【0025】
上記第2の態様のその他の実施形態は上記第1の態様のすべての実施形態を包含している。
【0026】
本発明が解決しようとする課題は、第4の態様において、1以上の正電荷を有する有機化合物を水溶液から取り出す方法であって、
a)当該有機化合物を含んだ水溶液と、液状陽イオン交換体を含有した疎水性有機溶液(ここで、当該液状陽イオン交換体は疎水性を有し、かつ、当該液状陽イオン交換体は1以上の負電荷および全負電荷を有する)とを準備するステップと、
b)当該水溶液と当該有機溶液とを接触させるステップと、
c)当該有機溶液を当該水溶液から分離するステップと
を含んでなる方法によって解決される。
【0027】
本発明の上記第一の実施形態の1実施形態でもある、本発明の上記第4の態様の第二の実施形態において、上記方法は、
d)好ましくは当該有機化合物をさらに別の水溶液に逆抽出することにより、当該有機溶液を再生するステップ
を含んでいる。
【0028】
本発明の上記第一〜第二の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第三の実施形態において、本発明による方法のステップb)の温度は28〜70℃、好ましくは30〜37℃である。
【0029】
本発明の上記第一〜第三の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第四の実施形態において、本発明による方法のステップb)のpH値は3〜8、好ましくは6〜8、特に好ましくは6.2〜7.2である。
【0030】
本発明の上記第一〜第四の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第五の実施形態において、本発明による方法における液状陽イオン交換体の有機化合物に対する物質量比は少なくとも1である。
【0031】
本発明の上記第一〜第五の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第六の実施形態において、有機溶液の水溶液に対する容量比は1:10〜10:1である。
【0032】
本発明の上記第一〜第六の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第七の実施形態において、当該有機化合物は、式(I)
−N
+R
2R
3R
4 (I)
[式中、
R
2、R
3およびR
4は、互いに独立して、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、ヒドロキシル基、置換または非置換および/または直鎖または分枝または環状アルキル基またはアルケニル基からなる群から選択されている]の少なくとも1つの正電荷を帯びた置換基を有するかまたは、R
2、R
3およびR
4からなる群のうちの少なくともいずれか1置換基が水素である限り、非プロトン化された形のそれを有する。
【0033】
本発明の上記第一〜第七の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第八の実施形態において、当該有機化合物は、式(II)
Z−A−N
+R
2R
3R
4 (II)
[式中、
R
2、R
3およびR
4は、互いに独立して、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、ヒドロキシル基、置換または非置換および/または直鎖または分枝または環状アルキル基またはアルケニル基からなる群から選択されており、
Aは、少なくとも3個の炭素原子を含んだ炭化水素鎖、好ましくは非置換アルケニル基を表し、
Zは、−COOH、−COOR
5、−COH、−CH
2OHおよび非プロトン化されたそれら(ここでR
5は、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、ヒドロキシル基、置換または非置換および/または直鎖または分枝または環状アルキル基またはアルケニル基からなる群から選択されている)からなる群から選択されている]を有するかまたは、R
2、R
3およびR
4からなる群のうちの少なくとも1の置換基が水素である限り、非プロトン化された形のそれを有する。
【0034】
本発明の上記第一〜第八の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第九の実施形態において、当該有機化合物は、式(III)
NH
3+−A−COOR
1 (III)
[式中、
R
1は、水素、メチル基、またはエチル基であり、
Aは、少なくとも3個の炭素原子を有する非置換直鎖アルキレン基である]を有するか、または非プロトン化された形のそれを有する。
【0035】
本発明の上記第一〜第九の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十の実施形態において、当該液状陽イオン交換体は、少なくとも6個の炭素原子を有する少なくとも1のアルキル基またはアルケニル基ならびに、−COOH、−OSO
2H、−OPO(OH)
2−および−OPO(OH)O−および非プロトン化されたそれらからなる群のうちのいずれかの末端置換基を有している。
【0036】
本発明の上記第一〜第十の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十一の実施形態において、当該液状陽イオン交換体は、不飽和脂肪酸、好ましくはオレイン酸である。
【0037】
本発明の上記第一〜第十一の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十二の実施形態において、当該水溶液は、さらに、触媒活性を有する生物剤を含有している。
【0038】
本発明の上記第一〜第十二の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十三の実施形態において、当該生物剤は細胞、好ましくは細菌細胞である。
【0039】
本発明の上記第一〜第十三の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十四の実施形態において、当該有機化合物の存在は上記触媒活性に不適に作用する。
【0040】
本発明の上記第一〜第十四の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十五の実施形態において、当該有機溶液は、さらに、少なくとも1の有機溶媒、好ましくは脂肪酸および/または脂肪酸エステルを含有している。
【0041】
本発明の上記第一〜第十五の実施形態の1実施形態でもある、本発明の第4の態様の第十六の実施形態において、当該有機溶液は、液状陽イオン交換体として20〜80容量%、好ましくは25〜75容量%のオレイン酸を、溶媒としてラウリン酸メチルエステルを含有し、当該有機化合物は12−アミノラウリン酸メチルエステルであり、当該水溶液中には12−アミノラウリン酸メチルエステルの合成に係わる触媒活性を有する細菌細胞が存在している。
【0042】
第5の態様において、本発明が解決しようとする課題は、水溶液と、生物剤と、液状陽イオン交換体を含有した疎水性有機溶液とを含んだバイオリアクターによって解決される。本発明の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"バイオリアクター"なる用語は、同所においてバイオテクノロジー法によって使用可能な微生物が制御された条件下で培養されおよび/または同所において当該微生物がバイオテクノロジー法(好ましくは有機化合物の合成)に使用可能な任意の容器として理解される。
【0043】
本発明の上記第3の態様の上記第一の実施形態の1実施形態でもある、上記第5の態様の第二の実施形態において、当該液状陽イオン交換体は脂肪酸、好ましくはオレイン酸である。
【0044】
本発明の上記第3の態様の上記第一〜第二の実施形態の1実施形態でもある、上記第5の態様の第三の実施形態において、当該疎水性有機溶液は、さらに、脂肪酸エステル、好ましくはラウリン酸メチルエステルを含有している。
【0045】
本発明の上記第2の態様の第一〜第三の実施形態の1実施形態でもある、上記第5の態様の第四の実施形態において、当該疎水性有機溶液は、陽イオン交換体としてオレイン酸を、溶媒として25〜75容量%のラウリン酸メチルエステルを含有している。
【0046】
本発明の上記第5の態様の第一〜第四の実施形態の1実施形態でもある、第五の実施形態において、当該有機化合物は本発明の上記第1の態様の一連の実施形態のいずれか1つに記載の化合物である。
【0047】
第6の態様において、本発明が解決しようとする課題は、1以上の正電荷を有する有機化合物(ここで、当該有機化合物は、当該有機化合物の合成に関与する細胞、好ましくは、当該合成の少なくとも1ステップを触媒する細胞を、液状陽イオン交換体および場合により有機溶媒を含有する疎水性有機溶液の存在において、水溶液中で培養することを含め、当該細胞に対して毒性を有する)の製造方法によって解決される。
【0048】
本発明の第6の態様の第二の実施形態において、当該有機化合物は12−アミノラウリン酸または同メチルエステルであり、当該有機溶媒はラウリン酸メチルエステルである。
【0049】
上記第4、第5および第6の態様のその他の実施形態は、本発明の上記第1および第2の態様のすべての実施形態を含んでいる。
【0050】
本発明の発明者らは、1以上の正電荷を有する有機化合物を水溶液から取り出して疎水性有機溶液中にもたらす効率は、この有機溶液が液状陽イオン交換体を含有していれば、驚異的に高められるとのことを見出した。なんらの理論に依拠することもなく、本発明の発明者らは、液状陽イオン交換体の負電荷(単数/複数)は当該有機化合物の正電荷(単数/複数)とイオン性相互作用を行い、この相互作用によって、有機相での溶解性を高める少なくとも1つの正電荷がマスキングされることになると推定している。
【0051】
好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"液状陽イオン交換体"なる用語は、疎水性有機溶媒に可溶であって、1以上の永久負電荷を有することにより少なくとも1つの陽イオンとイオン性相互作用可能な化合物を意味している。一般に、液状陽イオン交換体は、直鎖状または分枝していてよい少なくとも1つの飽和または不飽和炭化水素鎖ならびに、負電荷を帯びた基たとえばカルボキシ基を含んでいる。好ましい実施形態において、当該液状イオン交換体は脂肪酸であり、より好ましい実施形態においては、不飽和脂肪酸たとえばオレイン酸である。好ましい実施形態において、当該液状イオン交換体はジ(2−エチルヘキシル)リン酸(DEHPAまたはD2EHPAとも称される)である。
【0052】
好ましい実施形態において、当該液状イオン交換体は全負電荷を有しているだけでなく、正電荷をまったく有していない。好ましい実施形態において、本願明細書に使用される、当該イオン交換体またはその他の分子の"全電荷"なる用語は、当該分子と共有結合しているすべての官能基の電荷の総和として理解されることとする。たとえば、ラウリン酸はpH7にて、当該水溶液中に存在しているその他の分子または反対イオンたとえばカリウムイオンの存在にかかわりなく、全電荷として1つの負電荷を有している。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"接触"なる用語は、2つの相が直接に、特に、物理的バリアたとえば膜などが中間介在することなく、互いに直に曝露されることとして理解される。こうした接触は、最も簡単なケースでは、双方の相が同一の容器に入れられ、適切な方法たとえば攪拌によって混合されることによって行われる。
【0054】
好ましい実施形態において、当該有機化合物は、全正電荷を有している。さらに別の好ましい実施形態において、当該有機化合物は、負電荷をまったく有していない。好ましい実施形態において、当該有機化合物はω−アミノカルボン酸である。
【0055】
好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"電荷を有する"なる用語は、そのように称される化合物が水溶液中で、pH0〜14、好ましくは2〜12、2〜6、8〜12、3〜10、6〜8、最も好ましくはpH7にて、当該電荷を有することを意味している。好ましい実施形態において、これは永久電荷である。さらに別の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"電荷を有する"なる用語は、当該官能基または化合物がpH7にて圧倒的に、つまり、少なくとも50%、好ましくは90%、より好ましくは99%が当該電荷を有して存在していることを意味している。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、"含んでいる(enthaltend)"なる用語は"含有している(umfassend)"の趣旨で理解されなければならず、つまり、非限定的に理解されなければならない。この意味で、Aを含んだ混合物とは、A以外にその他の成分を有していてもよい。"1以上の電荷"なる表現は、当該性質の少なくとも1の電荷ということを意味している。
【0057】
好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"疎水性"なる用語は、水相の存在において明瞭な境界をなして水相から区分される固有の液相を形成する液体の性質として理解される。後者は、一体液相またはエマルジョンであってよい。さらに別の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"疎水性"なる用語によって、基本的に水に不溶という化合物の性質が理解される。最後に、本願明細書に使用されるこの用語は、さらに別の好ましい実施形態において、このように称される化合物がP値(J.Sangster, Octanol−Water Partition Coefficients: Fundamentals and Physical Chemistry, Vol.2 of Wiley Series in Solution Chemistry, John Wiley & Sons, Chichester, 1997)を有し、その常用対数が0を上回り、好ましくは0.5を上回り、より好ましくは1を上回り、最も好ましくは2を上回っていることとして理解される。
【0058】
本発明のさらに別の実施形態において、当該液状イオン交換体は、バイオテクノロジー上重要な微生物に対してなんらの毒性作用も有していないかまたは中度の毒性作用を有しているだけである。本願明細書に使用される"毒性作用"なる用語は、本発明の好ましい実施形態において、当該微生物との接触時にそれらの増殖速度を低下させ、それらの代謝活性を低下させ、それらのエネルギー消費を増加させ、それらの光学密度または生存細胞の数を低下させおよび/または直接にそれらの死滅および溶解を結果する化合物の性質として理解される。好ましい実施形態において、毒性化合物が有する上記作用の少なくともいずれか1つは、低濃度で、好ましくは1000mg/Lの濃度で、好ましくは100、より好ましくは50または25、最も好ましくは5mg/Lの濃度ですでに達成される。当業者には、毒性の調査に用いることのできる数多くの日常的に使用可能な方法が知られている。こうした方法に数え入れられるのは、たとえば、O
2電極を介した当該微生物の呼吸測定あるいは微生物試料の比較プレーティングとそれに続くコロニー形成単位(cfu)のカウントである。好ましい実施形態において、"中度の毒性作用"とは、増殖相にある微生物が当該化合物の存在において増殖し続けおよび/または代謝活性を有するが、その程度は同一条件下で当該化合物の不在において培養される対照群の場合よりも低度でありおよび/またはLag相が延長することとして理解される。
【0059】
水相と有機相との接触は、適切な条件下で、特に、当該有機化合物が水相から有機相へ移動するのに十分な期間にわたって、理想的には、まさしく当該平衡が生ずるのに十分な期間にわたって生ずる。当業者は、こうした期間および条件を、日常的な実験の範囲で決定することができる。
【0060】
特に好ましい実施形態において、1以上の正電荷を有する有機化合物とは、末端位がアミノ化された脂肪酸、特に12−アミノラウリン酸またはそのエステルまたは双方の化合物の混合物である。当業者は、脂肪酸のエステルは、エステラーゼ活性を含んだ生物系の存在において、部分的に相応した酸の形で存在可能であり、双方の化合物はこの点で、その限りにおいて、等価と見なすことができる旨認めるであろう。したがって、特に好ましい実施形態において、本願明細書で使用される脂肪酸または脂肪酸誘導体は、当該エステル、好ましくは当該メチルエステルを含み、またその逆も可能である。
【0061】
特に好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"アルキレン基"なる用語は、式−(CH
2)
n−の基、つまり、2個の未定の、好ましくは末端置換基を有するアルカンである。これらの2個の置換基は、たとえば、アミン基およびカルボキシ基であってよい。好ましい実施形態において、nは、少なくとも3、より好ましくは少なくとも6、さらに好ましくは11である。"置換アルキレン鎖"の場合、少なくとも1個の水素原子は、水素原子以外の置換基またはアルキル基、好ましくは、水素原子以外の原子によって置換されている。他方、特別な実施形態において、本願明細書に使用される"非置換アルキレン基"なる用語は、この種の置換基を持たない式−(CH
2)
n−の炭化水素鎖を意味している。
【0062】
ステップb)の温度は、当該液状陽イオン交換体の性質に依存しているだけでなく、特に、当該水溶液と有機溶液との接触が水相中での反応進行時に生ずる場合には、水相中で生ずる当該反応の温度要件にも依存している。特に、生物剤たとえば生細胞が水相中で触媒活性を有している場合には、温度はこの活性の維持に適していなければならない。好ましい実施形態において、ステップb)の温度は、0〜100℃、好ましくは20〜80℃、28〜70℃、30〜37℃、35〜40℃である。
【0063】
ステップb)のpH値も、同時に進行する反応があればそれらの反応の要件、反応体、生成物、中間生成物または試剤の安定性を考慮に入れなければならない。好ましい実施形態において、当該pH値は、3〜8、好ましくは6〜8、より好ましくは6.2〜7.2である。
【0064】
当該有機化合物を水相からできるだけ完全に有機相に移動させるには、十分な量の当該液状陽イオン交換体が必要である。本発明の好ましい実施形態において、液状陽イオン交換体の有機化合物に対する物質量比は、少なくとも1つのステップにつき、連続的プロセスの場合には反応の全経過にわたって積算して、少なくとも1であり、換言すれば、当該有機化合物の1分子当たり、液状陽イオン交換体の少なくとも1分子が使用される。より好ましい実施形態において、この比は、2、3、5、10、15または20を上回っており、好ましくは1.5〜3である。
【0065】
当該有機溶液の水溶液に対する容量比は、陽イオン交換体/有機化合物の物質量比と共に、効率的な方法にとって重要である。特に好ましい実施形態において、これは、100:1〜1:100、より好ましくは20:1〜1:20、さらに好ましくは10:1〜1:10、4:1〜1:4、3:1〜1:3または最も好ましくは1:2〜2:1である。
【0066】
本発明の好ましい実施形態において、脂肪酸は液状陽イオン交換体として使用される。本発明の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"脂肪酸"なる用語は、少なくとも6個、好ましくは8個、より好ましくは10個、最も好ましくは12個の炭素原子を有するカルボン酸、好ましくはアルカン酸として理解される。好ましい実施形態において、それは直鎖脂肪酸であり、さらに別の実施形態において、それは分枝脂肪酸である。好ましい実施形態において、それは飽和脂肪酸である。特に好ましい実施形態において、それは不飽和脂肪酸である。さらに別の好ましい実施形態において、それは少なくとも12個の炭素原子を有する、好ましくは第9位に二重結合を含んだ直鎖脂肪酸である。さらに別の好ましい実施形態において、それは第9位および/または第11位に二重結合が位置する一価不飽和脂肪酸である。さらに別の好ましい実施形態において、液状陽イオン交換体は、オレイン酸、パルミトレイン酸およびガドレイン酸およびイコセン酸からなる群から選択された不飽和脂肪酸である。好ましい実施形態において、それは、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30個の炭素原子、好ましくは12個を上回る数の炭素原子、より好ましくは14個以上の数の炭素原子、より好ましくは14〜28、14〜22個の炭素原子、最も好ましくは16〜18個の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0067】
さらに別の好ましい実施形態において、液状イオン交換体として、たとえば大豆油またはヒゴタイ油の形で存在しているさまざまな脂肪酸の混合物が使用される。これは必要に応じ、当該脂肪酸がエステルとして存在していれば、事前の加水分解を含んでいる。
【0068】
本発明の特に好ましい実施形態において、2つの液状陽イオン交換体(好ましくはそのうち少なくとも一方は脂肪酸である)の組み合わせが使用される。
【0069】
本発明の特別な利点は、本発明による方法とバイオテクノロジー法ならびにその際に使用される生物剤との適合性にある。本発明の特に好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"触媒活性を有する生物剤"なる用語は、細胞によって合成された、全細胞から、単離された分子までに及ぶ、あらゆる精製レベルにおける生体触媒として理解される。好ましい実施形態において、それは触媒活性を有する酵素発現細胞である。この細胞は、始原菌を含んだ原核生物または、好ましくはPseudomonas、CorynebacteriumおよびE.coliからなる群のうちのいずれかの真核生物であってよい。より好ましい実施形態において、当該生物剤はバクテリア細胞であり、より好ましくはグラム陰性バクテリア細胞であり、最も好ましくはE.coliである。さらに別の好ましい実施形態において、それは真核細胞、より好ましくは真菌細胞、さらに好ましくは酵母細胞、最も好ましくはSaccharomycesまたはCandida、Pichia、とくにCandida tropicalisである。特別な実施形態における"細胞"なる用語は、本出願において、用語"微生物"なる用語と同一の意味であって、交換可能な概念として使用される。さらに、細胞とは、単離された細胞または培養体の混合物であってよい。
【0070】
生物剤として使用される細胞は生存細胞であってよく、またはその調剤たとえば膜画分または細胞画分または粗細胞抽出物であってよい。
【0071】
当該生物剤がさまざまな精製レベルの単離分子である場合には、それは1つの細胞から製造された触媒活性を有するあらゆる分子であってよい。特に好ましい実施形態において、それは、ペプチド、ポリペプチド、炭水化物、核酸またはそれらの混合体からなる群のうちのいずれかの分子である。より好ましい実施形態において、それは触媒作用を有するポリペプチドである。さらに別の好ましい実施形態において、それは固定化された分子である。
【0072】
バイオテクノロジー合成法に必要とされる触媒機能は多様である。好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"触媒活性"なる用語は合成活性のことであり、つまり、少なくとも1つの新たな共有結合の形成を含んだ化学反応の触媒を意味している。さらに別の好ましい実施形態において、それは輸送活性のことであり、つまり、分子輸送能力であって、他の分子を1つの区画から他の区画への輸送を実施すること、たとえば、物質を水性溶媒から細胞膜を経て細胞内部に取り込むことを意味している。
【0073】
特に好ましい実施形態において、生物剤は、当該液状陽イオン交換体の存在において触媒作用のために使用される生細胞、好ましくは、続いてまたは同時に当該液状イオン交換体によって疎水性有機相に取り出される1以上の正電荷を有する有機化合物を合成するために使用される生細胞である。
【0074】
特に好ましい実施形態において、当該有機化合物の存在は触媒活性に不適に作用する。一実施形態において、これは存在する活性量を減少させることがあり、これは酵素のk
catの低下として表すことができる。さらに別の実施形態において、触媒活性を有する生物剤の(酵素のK
Mの高まりとしての)親和性が損なわれることがある。さらに別の実施形態において、たとえば、好ましくは所望の基質分子以外の分子を転換または好ましくは反応させることにより、触媒活性の特異性が変化することがある。さらに別の実施形態において、当該有機化合物は生物剤としての細胞に対して毒性作用を有している。
【0075】
さらに別の実施形態において、当該有機化合物は、不可欠なCo基質またはCo酵素の利用率を低下させる有機化合物である。これは、たとえば、当該有機化合物が当該再生反応を阻止する場合がそうである。
【0076】
当該疎水性有機相は、当該液状陽イオン交換体のほかに、さらに、疎水性溶媒を含んでいてよい。これは、疎水相における液状陽イオン交換体の吸収能を高め、望ましくない挙動たとえば凝降を阻止するのに有用である。好ましい実施形態において、当該溶媒は水溶液中で進行する反応の反応物、極めて好ましくは、水溶液中で進行する酵素触媒反応の基質である。好ましい実施形態において、それは脂肪酸エステルである。特に好ましい実施形態において、当該溶媒は脂肪酸エステル、好ましくは、液状陽イオン交換体として機能する脂肪酸のメチルエステルである。
【0077】
それが存在する場合の、疎水性有機相に占める当該溶媒の割合は、好ましい実施形態において、1〜99容量パーセント(Vol.−%)である。好ましい実施形態において、当該溶媒の割合は、10〜90、より好ましくは20〜80、最も好ましくは25〜75容量%である。
【0078】
本方法の好ましい実施形態において、当該有機化合物は、ドイツ特許第10200710060705号に開示されているような、組み換えE.coli株の水相中でラウリン酸メチルエステルの末端位炭素原子の段階的な酸化によって製造される12−アミノラウリン酸および/または12−アミノラウリン酸メチルエステルであり、疎水相は、反応の基質としてのラウリン酸メチルエステルに溶解された液状陽イオン交換体としての25〜75%のオレイン酸を含有している。
【0079】
本発明の技術思想は、本願明細書に開示された生体高分子の正確なアミノ酸配列または核散配列の使用下で実施可能であるだけでなく、1個以上のアミノ酸または核酸の欠失、付加または置換によって得られるこの種の高分子の変異体の使用下でも実施可能である。好ましい実施形態において、本願明細書に使用される核酸配列またはアミノ酸配列の"変異体"なる用語(これは以下、"同族体"なる用語と同一の意味であって、それと交換可能な用語として使用可能である)は、当該の元来の野生型の核酸配列またはアミノ酸配列の点で、本願明細書において同一性と同じ意味で使用される、70、75、80、85、90、92、94、96、98、99%またはそれ以上の相同性を有する別の核酸配列またはアミノ酸配列を意味しており、この場合、好ましくは、触媒活性中心を形成するアミノ酸以外または構造もしくは畳み込みに不可欠なアミノ酸以外のアミノ酸は欠失しているかまたは置換されておりあるいは後者は単に保守的に、たとえば、アスパラギン酸塩に代えてグルタミン酸塩またはバリンに代えてロイシンのように、置換されているにすぎない。従来の技術は、2つの配列の相同性の程度の計算に使用可能なアルゴリズムを述べている。たとえば、Arthur Lesk (2008), Introduction to bioinformatics, 3
rd edition。本発明のさらに別の好ましい実施形態において、アミノ酸配列または核酸配列の変異体は、好ましくは、上述した配列相同性に加えて、基本的に同一の、野生型分子ないし元来の分子の酵素活性を有している。たとえば、プロテアーゼとして酵素活性を有するポリペプチドの変異体はポリペプチド酵素と同一のまたは基本的に同一のタンパク質分解活性、つまり、ペプチド結合の加水分解を触媒する能力を有している。好ましい実施形態において、"基本的に同一の酵素活性"なる用語は、野生型ポリペプチドの基質の点で、バックグラウンド活性を顕著に上回る活性または/および、野生型ポリペプチドが同一の基質に関して有するK
M値および/またはk
cat値との相違が3桁を下回る、好ましくは2桁を下回る、より好ましくは1桁を下回る活性を意味している。さらに別の好ましい実施形態において、核酸配列またはアミノ酸配列の"変異体"なる用語は、当該核酸配列またはアミノ酸配列の1活性部分またはフラグメントを含んでいる。さらに別の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"活性部分"なる用語は、当該アミノ酸配列の全長よりも短い長さを有するアミノ酸配列または核酸配列ないし当該アミノ酸配列の全長よりも短い長さをコードするアミノ酸配列または核酸配列を意味し、この場合、当該野生型アミノ酸配列よりも短い長さを有するアミノ酸配列またはコードされたアミノ酸配列は野生型ポリペプチドまたはその変異体と同じ、たとえばアルコール脱水素酵素、モノオキシゲナーゼまたはトランスアミナーゼとしての酵素活性を有している。特別な実施形態において、核酸の"変異体"なる用語は、その相補的鎖状分子が、好ましくは厳密な条件下で、野生型核酸に結合する核酸を含んでいる。ハイブリダイゼーション反応の厳密性は当業者によって容易に決定可能であり、それは一般にプローブの長さ、洗浄時の温度および塩濃度に依存している。一般に、より長いプローブはハイブリダイゼーションにより高い温度を要するが、短いプローブは低い温度で十分である。ハイブリダイゼーションが生ずるか否かは、一般に、変性したDNAがその周囲に存在する相補的鎖状分子に、しかも溶融温度以下で、環付加し得る能力に依存している。ハイブリダイゼーション反応の厳密性と当該条件は、Ausubel et al. 1995により詳細に述べられている。好ましい実施形態において、本願明細書に使用される核酸の"変異体"なる用語は、元来の核酸と同じアミノ酸配列またはこのアミノ酸配列の変異体を遺伝コードの縮重の範囲内でコードする任意の核酸配列を含んでいる。
【0080】
式(I)の有機化合物の製造に使用可能な適切なポリペプチド、特に、アルカンモノオキシゲナーゼ、AlkL、トランスアミナーゼ、アルデヒド・デヒドロゲナーゼおよびアラニン脱水素酵素は従来の技術、たとえば、ドイツ特許第10200710060705号、欧州特許第11004029号またはPCT/EP2011/053834号に述べられている。
【0081】
最も好ましい実施形態において、アルカンモノオキシゲナーゼはAlkB型のアルカンモノオキシゲナーゼである。AlkBは、その水酸化酵素活性によって知られている、Pseudomonas putidaに由来するAlkBGT系の酸化還元酵素を表している。これはさらに2つのポリペプチド、AlkGおよびAlkTに依存している。AlkTは、電子をNADHからAlkGに転送するFAD依存性ルブレドキシン還元酵素として特徴づけられる。AlkGはルブレドキシンであり、AlkBの直接の電子供与体として機能する鉄含有酸化還元タンパク質である。好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"alkB型のアルカンモノオキシゲナーゼ"なる用語は、膜結合型アルカンモノオキシダーゼとして理解される。さらに別の好ましい実施形態において、"alkB型のアルカンモノオキシゲナーゼ"なる同じ用語は、Pseudomonas putida Gpol(データバンク・コード: CAB54050.1)のAlkBの配列と少なくとも(好ましくはより高いパーセンテージにて)75、80、85、90、92、94、96、98または99%の配列相同性を有するポリペプチドとして理解される。さらに別の好ましい実施形態において、同じ用語は、シトクロム非依存性モノオキシゲナーゼとして理解される。さらに別の好ましい実施形態において、"alkB型のアルカンモノオキシゲナーゼ"5なる用語は、少なくとも1つのルブレドキシンまたは同族体を電子供与体として使用するシトクロム非依存性モノオキシゲナーゼとして理解される。特に好ましい実施形態において、同じ用語は、Pseudomonas putida GpolのAlkBの配列と少なくとも(好ましくはより高いパーセンテージにて)60、70、80、85、90、92、94、96、98または99%の配列相同性を有し、電子供与体として少なくともAlkG(CAB54052.1)、ただし、好ましくはAlkGと還元酵素AlkT(CAB54063.1)との組み合わせ(ここで、alkGおよび/またはalkTはそれぞれのポリペプチドの同族体であってもよい)を必要とする膜結合型シトクロム非依存性アルカンモノオキシゲナーゼとして理解される。本願明細書に使用される"配列"なる用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列および/またはそれをコードする核酸配列を基礎としていてよい。さらに別の好ましい実施形態において、本願明細書に使用される"alkB型のアルカンモノオキシゲナーゼ"は、シトクロム非依存性酸化還元酵素、つまり、シトクロムを補因子として含まない酸化還元酵素である。
【0082】
以下、本発明を、本発明のその他の特徴、実施形態、態様および利点を看取することのできる以下の図ならびに本発明を制限するものではない実施例によってさらに具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】
図1は、E.coli W3110株を用いて検査し、陰性対照としてのリン酸カリウム緩衝液(Kpi)と比較した、LSMEが毒性作用を持たないことを証明するための対照実験を示した図である。
【
図2】
図2は、E.coli W3110株の生存能力を、液状陽イオン交換体の不在下およびさまざまな液状陽イオン交換体の存在下において当該株が0時間後、4時間後および24時間後に形成し得るcfuの数の形で示した図である。
【
図3】
図3は、液状陽イオン交換体が毒性に及ぼす使用効果を、ALSME 0.2%、アンモニアで標定したDEHPA("D2EHPNH3 2%")ないし、ALSME 0.2%の存在におけるDEHPA/LSME混合物の存在下におけるそれぞれのE.coli−W3110株の生存細胞数の変化によって示した図である。
【
図4】
図4は、さまざまな液状陽イオン交換体がアミノラウリン酸メチルエステル産生E.coli株のOTRに及ぼす効果を示した図である。この実験は実施例4に述べたのと同様にして実施された。
【
図5】
図5は、さまざまな液状陽イオン交換体が、適切な遺伝子組み換えによるE.coli株の産生するアミノラウリン酸メチルエステルの収量に及ぼす影響を示した図である。この実験は実施例4に述べたのと同様にして実施された。
【0084】
実施例1:液状陽イオン交換体と共に使用される溶媒LSMEの毒性に関する検査
この試験によって、LSMEを本発明による方法の適切な有機溶媒とする、バイオテクノロジー上重要な微生物に対するLSMEの相対的に僅かな毒性が明らかとなった。
【0085】
CFUの決定を実施可能とする前に、プレートLB(カゼイン由来のペプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L)にE.coli BW3110を塗布して、24時間培養を行った。その翌日の夕方に、先に塗布したこのプレートの予備培養体を接種した。この予備培養体は体積50mLのLB培養基を有しており、一晩約16時間にわたって培養された。翌日、0.2のOD
600を有するこの予備培養体を、200mLのM9培養基(Na
2HPO
4 6.79g/L;KH
2PO
4 3.0g/L;NaCl 0.5g/L;NH
4Cl 1g/L;1mL/L微量元素溶液、pH7.4、微量元素溶液:HCl 37%(=455.8g/L)36.50g/L;MnCl
2*7H
2O 1.91g/L;ZnSO
4*7H
2O 1.87g/L;Na−EDTA*2H
2O(TitriplexIII)0.84g/L;H
3BO
3 0.30g/L;Na
2MoO
4*2H
2O 0.25g/L;CaCl
2*2H
2O 4.70g/L;FeSO
4*7H
2O 17.80g/L;CuCl
2*2H
2O 0.15g/L)中に、3%のグルコース(w/v)と共に接種し、約20時間培養を行った。この主培養体の培養後に細胞を採取し、5258gで4℃にて10分間遠心分離を行い、30のOD
600にて、10mlの50mM Kp
i緩衝液、pH7.4(または、ALSMEによるCFU決定を実施した場合には、25mM HEPES緩衝液、pH7.4)に再懸濁した。使用した双方の緩衝液は5%のグルコース(w/v)を含んでいた。続いて、このバクテリア懸濁液を振とうフラスコに移し、それぞれの物質溶液と混合した。フラスコの振とうによる十分な混合を行った後、100μlの懸濁液をピペットで取り出して、あらかじめ設けておいた滅菌塩水に加えた。これは時点t
0でのサンプリングに相当した。続いて、250Upm、30℃にて、試料の培養を行った。CFUは22時間にわたって調査された。サンプリングは、先ず、時点t
0、t
3、t
6およびt
22に行った。少なからぬ試料につき、さらに別のサンプリング時点t
1.5を追加し、加えてさらに、誤差を最小化するため、さらに別の追加連続希釈プレーティングを行った。
【0086】
OD
600は60であった。細胞は10mlのKp
i緩衝液に再懸濁され、続いて、フラスコ中で5mLのLSME 98%(w/v)と混合された。試料当たり1希釈レベルがプレーティングされた。CFU数/mLは6時間不変であった。22時間後、単に30.3%の生細胞数のパーセンテージ減退が記録されただけであった。
【0087】
実施例2:バイオテクノロジー上重要な微生物に対するさまざまな液状陽イオン交換体の毒性に関する比較試験
この実施例は、その他の液状陽イオン交換体たとえばDEHPAならびに分枝および非分枝飽和脂肪酸に比較した非分枝脂肪酸の低毒性を示している。
【0088】
先ず、20mlのLB培養基を含んだ予備培養体に、100ml三角フラスコ中で、当該株の低温培養体を接種した。この培養体を一晩、37℃、200Upmの振とうにて培養し、翌日、同じ主培養体を0.2のOD上に接種するために使用した。この主培養体(それぞれ30mLのLB培養基)を続いて同一条件下で培養続行した。OD0.4〜0.5にて、主培養体をそれぞれ同じ容量(30ml)の溶媒で覆い、引き続き、培養続行した。
【0089】
cfu(colony−forming unitsまたはコロニー形成単位)の数を決定するため、以下の試験に際し、0.1mlの試料を採取し、滅菌した0.9%NaCl溶液で希釈した。適切な希釈レベルをLB寒天プレートにプレーティングした。34℃にて一晩培養した後、形成されたコロニーを正確にカウントして、cfuを決定した。
【0090】
試験1:液状陽イオン交換体としてのDE2HPAと飽和脂肪酸との毒性比較
それぞれLSMEに溶解され、ALSMEを等モルないし25モル%含有した液状陽イオン交換体としての50%DEHPAないしラウリン酸(15%)を、E.coli BL21(DE3)株と接触させて、この株がコロニーを形成する能力に対するそれら双方の化合物の影響(cfuで表現)を検査した。予備試験において、ラウリン酸メチルエステル(これは電荷を欠いているために液状陽イオン交換体として機能不能である)は、使用された株によって十分に耐えられる旨、明らかにすることができた。
【0091】
第1表:
【表1】
【0092】
双方の液状陽イオン交換体は、DEHPAに比較してラウリン酸使用時には、cfuの数を顕著に低下させるが、なお若干の生存細胞が存在しており、したがって、液状陽イオン交換体としては飽和脂肪酸の方が好ましい旨、明らかである。
【0093】
試験2:液状イオン交換体としての分枝飽和脂肪酸とさまざまな量のオレイン酸との毒性比較
この場合、2つの異なった濃度のオレイン酸を使用し、相応した量のLSME(ラウリン酸メチルエステル)の添加によって量の適合化を行った。
【0094】
第2表:
【表2】
【0095】
不飽和脂肪酸たるオレイン酸をLSMEと共に使用する際の生存細胞の数は、分枝飽和脂肪酸を使用する場合に比較して一貫して著しく高い旨、明らかである。
【0096】
試験3:液状陽イオン交換体としての非分枝飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との毒性比較
この場合、さまざまな量の不飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とが、液状陽イオン交換体として使用される際の毒性の点で比較された。不飽和脂肪酸たるラウリン酸の溶解性が低いために、これは少量で使用された。さまざまな陽イオン交換体の容量はLSMEで一様化された。cfuの数は、当初時、4.5時間後および24時間後に決定された。
【0097】
図2から、液状陽イオン交換体としての飽和脂肪酸の添加は、たとえ不飽和脂肪酸の濃度より低濃度であっても、cfuの減少をもたらし、他方、不飽和脂肪酸の場合には、cfuの増加が認められる旨、看取することができる。
【0098】
総じて、検査されたさまざまな液状陽イオン交換体の毒性の低下は、以下の順序:DEHPA>飽和脂肪酸>不飽和脂肪酸であることが明らかである。
【0099】
実施例3:液状陽イオン交換体との接触による、正電荷を有する有機化合物の毒性の低下
この試験は、液状陽イオン交換体の存在により、発酵培養液たる水相中での正電荷を帯びた有機化合物の毒性作用は、この化合物が有機相中に抽出されることによって、低下され得る旨、明らかにしている。
【0100】
基本的な実験手順は実施例1の場合と同じであった。
【0101】
水系中に溶解されたALSME 0.2%(w/v)は殺菌作用を有するために、この試験は、D2EHPNH3/LSME 2/98%(w/w)との組み合わせで、あらためて、振とうフラスコ中で実施されたが、D2EHPNH3は定量的にアンモニアを含有するD2EHPAであった。液状陽イオン交換体の使用により、有機相へのALSMEの移動が改善され、それによって、細胞も存在している水相中におけるその濃度は低下する。D2EHPAに起因する毒性作用を減少させるため、2%(w/v)の低濃度のD2EHPNH3が使用された。
【0102】
バクテリアを、先ず、5mL(緩衝液容積の1/2に相当)に再懸濁した。さらに5mLの緩衝液を、場合により、0.4%(w/v)のALSMEと混合し、続いて、場合により、5mLのD2EHPNH3/LSME 2/98%(w/w)と共に1分間3000Upmにてボルテックスした。この溶液を、あらかじめ振とうフラスコに入れておいたバクテリア懸濁液に加え、混合した。その後に最初のサンプリングを行った。
【0103】
当該溶液は、試験の開始時には、泡沫状の稠度を有していたが、それは2つの試験の2回目のサンプリング時には消失していた。略語"D/L"はD2EHPNH3(アンモニア含有D2EHPA)/LSME 2/98%(w/w)に代えて使用された。サンプリングt
0とt
1.5hとの間に、CFU/mLの数は34.3%だけ増加した。サンプリング(t
1.5)から最後のサンプリング(t
22)までに、CFU/mLの数は54.9%だけ減少した。ALSME 0.2%(w/v)の添加なしの、D2EPHNH3/LSME 2/98%(w/w)を有する試料に比較して、増殖性細胞の数は22時間後には4.5倍になり、3.4%で、HEPES緩衝液中の対照試料の平均値を有意に下回ってはいなかった(
図4、参照)。有機相の添加なしの、振とうフラスコ中のALSME 0.2%(w/v)を有する試料に比較して、CFU/mLの数は2800倍であった。
【0104】
当該液状陽イオン交換体の存在は、ここで、残存cfuの数で確認されたように、正電荷を帯びた化合物の毒性を低下させることは明白である。
【0105】
実施例4:ω−アミノラウリン酸(ALS)およびメチルエステル(ALSME)産生微生物に対するさまざまな液状陽イオン交換体の毒性の比較試験
ラウリン酸メチルエステルからアミノラウリン酸メチルエステルへの生体内変換は、さまざまなイオン交換体を有するDasGipの8重並行発酵系でテストされた。
【0106】
発酵には1L反応器を使用した。pHプローブを、pH4.0とpH7.0の標準溶液を用いた2点キャリブレーションによって目盛り定めした。反応器に300mLの水を満たし、滅菌を確実にするため、20分間121℃にてオートクレーブ滅菌した。続いて、pO2プローブを一晩(少なくとも6時間)にわたって二極化した。翌朝、クリーン・ベンチ下で水を取り出し、50mg/Lのカナマイシンと34mg/Lのクロラムフェニコールを有した高細胞密度培養基と交換した。続いて、pO2プローブを1点キャリブレーション(攪拌機;600rpm/ガス導通:10sL/h空気)で目盛り定めし、フィード区間、修正培地区間および誘導培地区間をクリーン・イン・プレースで浄化した。そのために、チューブを、70%エタノール、続いて1MのNaOH、次いで滅菌した純水を用いて洗い流し、最後に、それぞれの培養基で満たした。
【0107】
ALSおよびALSME産生E.coli株BL21(DE3)T1r pBT10 pACYC:Duet[TAcv]を、先ず、50mg/Lのカナマイシンと34mg/Lのクロラムフェニコールを有したLB培養基(100mLの三角フラスコ中、25mL)の低温培養体から、一晩、37℃、200rpmにて、約18時間にわたって吸収した。続いて、それぞれ2mLを、50mg/Lのカナマイシンと34mg/Lのクロラムフェニコールを有した高細胞密度培養基(グルコース15g/L(30mL/1%のMgSO
4*7H
2Oと2.2%のNH
4Clとを有した別個にオートクレーブ滅菌された500g/Lの原液L当たり)、(NH
4)
2SO4 1.76g/L、K
2HPO
4 19.08g/L、KH
2PO
4 12.5g/L、酵母エキス6.66g/L、クエン酸三ナトリウム二水和物11.2g、クエン酸アンモニウム鉄溶液17mL/別個にオートクレーブ滅菌された1%原液L当たり、微量元素溶液5ml/別個にオートクレーブ滅菌された原液(HCl(37%)36.50g/L、MnCl
2*4H
2O 1.91g/L、ZnSO
4*7H
2O 1.87g/L、エチレンジアミン四酢酸二水和物0.84g/L、H
3BO
3 0.30g/L、Na
2MoO
4*2H
2O 0.25g/L、CaCl
2*2H
2O 4.70g/L、FeSO
4*7H
2O 17.80g/L、CuCl
2*2H
2O 0.15g/L)L当たり)(3×100mLの三角フラスコ中それぞれ25mL)に接種して、37℃/200rpmにて、さらに6時間にわたって培養した。
【0108】
3つの培養体を1つの振とうフラスコにまとめ、光学密度7.2を測定した。反応器に0.1の光学密度を接種するため、5mLの注射器にそれぞれ4.2mLを吸い上げて、反応器に隔壁を越えてカニューレで接種した。
【0109】
以下の標準プログラムを使用した:
【表3】
【0110】
実施した実験は2つの相、細胞が所定の光学密度に達するようにする培養と、それに続く、バイオテクノロジーによるALSME製造法に必要な遺伝子の発現を誘導した生体内変換、に区分することができる。pH値は、一方で、アンモニア(12.5%)によってpH6.8にコントロールされた。培養および生体内変換の間、培地中の溶存酸素(DO、dissolved Oxygen)は攪拌機回転数とガス導通速度とによって30%にコントロールされた。発酵は供給バッチとして実施され、その際、供給スタート(5g/Lhグルコース供給(1%MgSO
4*7H
2Oおよび2.2%NH
4Clを有したグルコース500g/L))は、DOピークを越えて、トリガされた。供給スタートと共に、温度も37℃から30℃に低下された。トランスアミナーゼの発現は、供給スタートから2時間後に、IPTG(1mM)の自動添加によって誘導された。alk遺伝子の誘導は、供給スタートから10時間後に、手動によるDCPK(0.025%v/v)の添加によって行われた。生体内変換のスタート前に、培養液の光学密度が決定された。
【0111】
生体内変換のスタートは、供給スタートから14時間後に行った。そのため、ラウリン酸メチルエステルとその都度のイオン交換体(10%w/w)とからなる混合物150mLを、バッチとして、発酵培養液に加えた。イオン交換体としては、ジ−(2−エチルヘキシル−)リン酸(DEHPA)、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸および、ヒゴタイ油の鹸化に由来する遊離脂肪酸からなる混合物を使用した。トランスアミナーゼのアミノ基ドナーを供するために、有機相の添加と同時に、10.7mLのアラニン溶液(125g/L)が発酵培養液に加えられた。サンプリングのために、2mLの発酵培養液を容器から取り出し、そのうちの一部1/20をアセトン−HCl−混合液(c(HCl)=0.1mol/L)で希釈し、抽出した。試料は、生体内変換のスタートから1.25時間後、3時間後、5時間後、20時間後、22時間後および25時間後に、8つの反応器のすべてから採取された。酸素の代謝率(OTR=oxygen transfer rate)および炭素の代謝率(CTR=carbon transfer rate)は、発酵中、DasGip系につき排気分析によって決定した。発酵終了は生体内変換のスタートから22時間後に行われた。
【0112】
発酵試料中のALS、ALSME、DDS、DDSME、LS、LSME、HLS、HLSME、OLSおよびOSLMEの量定は、すべての検体の外部キャリブレーションに依拠し、かつ、内部標準アミノウンデカン酸(AUD)を使用して、LC−ESI/MS
2によって行った。
【0113】
その際、以下の機器が使用された:
・ HPLC装置1260(Agilent;Boeblingen):自動サンプラー(G1367E)、バイナリポンプ(G1312B)およびカラムオーブン(G1316A)付き
・ 質量分析計TripelQuad 6410(Agilent;Boeblingen):ESIソース付き
・ HPLCカラム:Kinetex C18、100×2.1mm、粒子サイズ:2.6μm、ポアサイズ100Å(Phenomenex;Aschaffenburg)
・ プレカラム:KrudKatcher Ultra HPLC In−Line Filter;0.5μmフィルタ深さおよび0.004mm内径(Phenomenex;Aschaffenburg)
【0114】
試料は、1900μLの溶媒(アセトン/0.1 N HCl−混合液=1:1)および100μLの試料をピペットで2−mL−反応容器に移して準備された。この混合物を、約10秒間ボルテックスし、続いて、約13000rpmにて5分間遠心分離した。透明な上澄み液をピペットで採取し、希釈剤(80%(v/v)ACN、20%重蒸留H
2O(v/v)、+0.1%ギ酸)で相応した希釈を行った後に、分析した。それぞれ900μLずつの試料に、ピペットにて、100μLのISTDを加えた(90μLの試料容積につき10μL)。
【0115】
HPLC分離は、上述したカラムないしプレカラムによって行われた。注入量は0.7μL、カラム温度は50℃、フロー速度は0.6mL/min.であった。移動相は溶離剤A(0.1%(v/v)の水性ギ酸)と溶離剤B(0.1%(v/v)のギ酸を有するアセトニトリル)で構成された。以下の勾配プロファイルが利用された。
【0116】
【表4】
【0117】
ESI−MS
2分析は、以下のESIソースのパラメータを用い、正モードで行われた:
・ ガス温度 280℃
・ ガスフロー 11L/min
・ 噴霧圧力 50psi
・ 毛管張力 4000V
【0118】
個々の化合物の検出および量定は以下のパラメータを用いて行われ、その際、それぞれ1つの生成物イオンが限定子、1個のイオンが量化子として利用された。
【0119】
【表5】
【0120】
結果:
DEHPAが従来の技術に述べられているように陽イオン交換体として使用される場合には、培養体への当該化合物の添加直後に、OTRの落ち込みが生ずる。この曲線は短時間で0にまで低下するが、このことは培養体中にもはや代謝活性を有する細胞が存在しないことを示している。したがって、DEHPAは細胞に対して高度な毒性作用を有する。
【0121】
DEHPAに代えてラウリン酸が液状陽イオン交換体として使用される場合には、同様にOTRの落ち込みが生ずるが、その落ち込みはそれほど強いものではなく、続く22時間で細胞は回復し、代謝活性の上昇を示す。したがって、ラウリン酸はDEHPAほど顕著な毒性を有していない。
【0122】
比較的長い炭化水素鎖を有する飽和脂肪酸を使用する場合には、さらに著しく良好な結果を観察することができる。パルミチン酸およびステアリン酸が使用される場合には、OTRカーブの落ち込みは、ラウリン酸またはDEHPAさえも使用される場合に比較して、遥かに僅かなものである。このことから、この脂肪酸の毒性作用は著しく低いものであると結論することができる。
【0123】
不飽和脂肪酸たとえばパルミトレイン酸、鹸化ヒゴタイ油(主としてリノール酸を含有している)およびオレイン酸を使用する場合には、驚くべきことに、さらに著しく良好な結果がもたらされる。これらの脂肪酸は、驚くべきことに、飽和脂肪酸よりもさらに低い毒性を示している。
【0124】
参考文献