特許第5936633号(P5936633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5936633-ベルト式無段変速機の変速制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936633
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160609BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-6326(P2014-6326)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135141(P2015-135141A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュワン
(72)【発明者】
【氏名】大石 裕二
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/151000(WO,A1)
【文献】 特開2012−042037(JP,A)
【文献】 特開2013−152008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12、61/16−61/24、
61/66−61/70、63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに巻回されたベルトとを備えたベルト式無段変速機と、
車速を検出する車速センサと、
前記ベルト式無段変速機への入力トルクと目標変速比とに基づいて前記各プーリの油圧室に供給するプーリ油圧の比である推力比を演算し、該推力比に基づく基準プーリ油圧を演算すると共に、前記目標変速比と実変速比との差分に応じたフィードバック制御によりフィードバック油圧を演算し、前記基準プーリ油圧と前記フィードバック油圧とに基づいて変速制御を行う変速制御手段と、
を備えたベルト式無段変速機の変速制御装置において、
前記変速制御手段は、車速が前記車速センサの検出分解能の関係から精度が十分に確保できない所定値未満のときは、前記フィードバック制御を中止し、前記推力比を、最ロー変速比であって、かつ、前記入力トルクに関わらず最ロー変速比を達成可能であって前記入力トルクがゼロのときに設定される推力比よりも低い所定推力比に設定して変速制御を行うことを特徴とするベルト式無段変速機の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ間の動力をベルトにより伝達する際の変速比を無段階に変更可能なベルト式無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、ベルト式無段変速機において、登坂路等で一旦停止後、再発進する際に、現在選択されている走行レンジとは逆方向に車両が移動すると、プーリのトルク容量変化によってベルト滑りが発生する問題を解決するために、プーリの逆回転を検知した場合には、ライン圧を上昇させてトルク容量を補正することでベルト滑りを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-263151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者が鋭意検討した結果、逆回転が発生しているときにライン圧を上昇させたとしても、変速比がハイ側にシフトしてしまい、所望の変速比が得られず発進性の悪化を招くという新たな課題が見出された。
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、プーリに逆回転が生じた場合であっても安定した変速制御を達成可能なベルト式無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のベルト式無段変速機の変速制御装置では、ベルト式無段変速機への入力トルクと目標変速比とに基づいて推力比を演算し、該推力比に基づく基準プーリ油圧を演算すると共に、目標変速比と実変速比との差分に応じたフィードバック制御によりフィードバック油圧を演算し、基準プーリ油圧とフィードバック油圧とに基づいて変速制御を行う。このとき、車速が車速センサの検出分解能の関係から精度が十分に確保できない所定値未満のときは、フィードバック制御を中止し、推力比を、最ロー変速比であって、かつ、前記入力トルクに関わらず最ロー変速比を達成可能であって前記入力トルクがゼロのときに設定される推力比よりも低い所定推力比に設定して変速制御を行うこととした。
【発明の効果】
【0006】
よって、低い推力比に基づいて制御することが可能となり、ハイ側へのシフトを抑制することで安定した変速制御を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1のベルト式無段変速機の変速制御装置を表すシステム図である。
図2】実施例1の変速制御処理を表す制御ブロック図である。
図3】実施例1の要求トルクに対するセカンダリ油圧の特性を表すマップである。
図4】実施例1のベルト式無段変速機の変速制御に使用されるトルク比−推力比マップである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1は実施例1のベルト式無段変速機の変速制御装置を表すシステム図である。実施例1の車両は、内燃機関であるエンジン1と、ベルト式無段変速機とを有し、ディファレンシャルギヤ7を介して駆動輪8に駆動力を伝達する。ベルト式無段変速機は、エンジン1のクランク軸と接続された変速機入力軸2と、変速機入力軸2と一体に回転するプライマリプーリ3と、変速機出力軸6と一体に回転するセカンダリプーリ5と、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間に巻回され動力伝達を行うベルト4と、を有する。
【0009】
プライマリプーリ3には、変速機入力軸2と一体に形成された固定シーブ3aと、変速機入力軸2の軸上を移動可能な可動シーブ3bとを有する。可動シーブ3bには、プライマリ油圧室3b1が設けられ、プライマリ油圧室3b1に供給される油圧によって固定シーブ3aと可動シーブ3bとの間に押圧力を発生させ、ベルト4を狭持する。同様に、セカンダリプーリ5には、変速機出力軸6と一体に形成された固定シーブ5aと、変速機出力軸6の軸上を移動可能な可動シーブ5bとを有する。可動シーブ5bには、セカンダリ油圧室5b1が設けられ、セカンダリ油圧室5b1に供給される油圧によって固定シーブ5aと可動シーブ5bとの間に押圧力を発生させ、ベルト4を挟持する。
【0010】
エンジンコントローラ10は、エンジン1の運転状態(燃料噴射量や点火タイミング等)を制御することでエンジン回転数及びエンジントルクを制御する。また、エンジンコントローラ10内では、アクセル開度センサ21により検出されたアクセル開度信号APO及び車速センサ22により検出された車速信号VSPに基づいて、運転者の要求トルクTDを演算する要求トルク演算部10aと、変速機入力軸2に伝達されるエンジントルクTENGを演算するエンジントルク演算部10bとを有する。
変速機コントローラ20内では、走行状態に応じたプライマリ油圧及びセカンダリ油圧を算出し、コントロールバルブユニット30に対して制御信号を出力する。変速機コントローラ20内の詳細については後述する。
コントロールバルブユニット30は、変速機入力軸2にチェーン駆動されるオイルポンプ9を油圧源とし、変速機コントローラ20から送信された制御信号に基づいて各油圧を調圧する。そして、プライマリ油圧室3b1及びセカンダリ油圧室5b1にそれぞれプライマリ油圧及びセカンダリ油圧を供給し、変速制御を実行する。
【0011】
図2は実施例1の変速機コントローラ内における変速制御処理を表す制御ブロック図である。目標変速比演算部201では、アクセル開度信号APOと車速信号VSPに基づいて目標変速比Gaを演算する。この目標変速比Gaは、エンジン1が最適燃費を達成するように予め設定された変速特性に基づいて行われる。トルク比演算部202では、要求トルクTDに基づいて設定されるセカンダリ油圧に応じたトルクTmax(図3参照)に対するエンジントルクTENGの比であるトルク比Qtを演算する。
【0012】
実変速比演算部203では、プライマリ回転数センサ23により検出されたプライマリ回転数Npriとセカンダリ回転数センサ24により検出されたセカンダリ回転数Nsecとを読み込み、実変速比Gbを演算する。尚、これらプライマリ及びセカンダリ回転数センサ23,24は、外周に凹凸が形成された回転体の回転時における凹凸変化をコイルの磁界変化により検出する回転数センサであり、低コストで回転数を検出できるものの、回転方向については認識できない。また、凹凸の幅によって分解能が決定されていることから極低車速領域では正しい回転数を検出することが困難となる。
【0013】
偏差演算部204では、目標変速比Gaと実変速比Gbとの偏差ΔGを演算する。フィードバック演算部205では、検出された偏差ΔGに基づくフィードバック油圧を演算する。例えば、PI制御やPID制御によってプライマリ油圧及び/又はセカンダリ油圧に加減算する油圧(以下、フィードバック油圧と記載する。)を出力する。
【0014】
第1推力演算部206では、目標変速比Gaとトルク比演算部202で演算されたトルク比Qtとに基づいて予め設定されたマップからプーリ推力比を演算する。図4は実施例1のベルト式無段変速機の変速制御に使用されるトルク比−推力比マップである。目標変速比Gaに基づいて特性が選択され、選択された特性とトルク比Qtとから推力比Qfを演算する。次に、図3のセカンダリ油圧特性を表すマップから要求トルクTDに基づいて基準となる油圧である基準セカンダリ油圧Psecを演算し、この基準セカンダリ油圧Psecに推力比Qfを乗算して基準プライマリ油圧Ppriを演算する。以下、基準セカンダリ油圧Psecと基準プライマリ油圧Ppriとを総称して基準プーリ油圧と記載する。
【0015】
乗算部207では、基準プーリ油圧にフィードバック油圧を加算し、通常の変速制御時に使用する第1プライマリ油圧指令値及び第1セカンダリ油圧指令値(以下、総称して第1プーリ油圧指令値と記載する。)を出力する。
第2推力演算部208では、要求トルクTDに基づいて第2セカンダリ油圧指令値を決定し、予め設定された低車速用推力比Qf0に基づいて第2プライマリ油圧指令値(以下、総称して第2プーリ油圧指令値と記載する。)を決定する。
【0016】
制御切り換え部209では、車速VSPに基づいて車速センサ22の検出分解能の関係から精度が十分に確保できない車速VSP1未満か否かを判断し、VSP1未満の場合は第2プーリ油圧指令値に切り替え、VSP1以上の場合は第1プーリ油圧指令値に切り替える。言い換えると、車速がVSP1以上の場合はフィードバック制御によって所望の変速比を達成するように変速制御を行い、VSP1未満の場合はフィードバック制御を禁止し、低車速用推力比Qf0に基づいて最ロー変速比を達成する。
【0017】
ここで、制御切り替え部209を設けた理由について説明する。通常は、図4に示すマップに基づいてトルク比Qtから推力比Qfを演算し、この推力比Qfに基づいて第1プーリ油圧指令値を算出する。しかし、車両停止状態を含む低車速領域では、プライマリ回転数センサ23やセカンダリ回転数センサ24の検出精度が確保できず、フィードバック制御による補償が十分に行えない。また、登坂路等で車両停止から再発進する場合、例えば運転者はDレンジを選択して前進を意図していたとしても、勾配によっては後ろにずり下がる場面が生じうる。このとき、プライマリプーリ3も前進側とは反対側に回るため、入力トルクTinが負値となる。このとき、図4のマップに示すように、トルク比Qtが負の所定値(-Qt1:プライマリ回転数が逆回転している状態)のときは、設定すべき推力比が小さくなる特性を持つ。
【0018】
しかしながら、プライマリ回転数センサ23やセカンダリ回転数センサ24は回転方向を認識できないことから、逆回転しているかどうかが判別できず、トルク比Qtが正の所定値(Qt1:プライマリ回転数が正回転している状態)と誤認識して制御する場合がある。すると、実際のトルク比は-Qtであることから、このトルク比Qtに見合った変速比は図4中のG3(G1よりもハイ側の変速比)となり、ベルト式無段変速機は最ロー変速比からハイ側にアップシフトしてしまう。そうすると、エンジン1側からトルクを出力したとしても十分な減速比が得られず、発進性が悪化するという問題があった。
そこで、実施例1では、所定車速VSP1未満の場合は、フィードバック制御を禁止すると共に、最ロー変速比であって、かつ、トルク比Qtがゼロのときに設定される推力比Qf1よりも低い所定推力比Qf0に設定することとした。これにより、トルク比Qtの値に係らず最ロー変速比を確保することができ、安定した変速制御を達成できる。
【0019】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)プライマリプーリ3と、セカンダリプーリ5と、両プーリに巻回されたベルト4とを備えたベルト式無段変速機と、エンジントルクTENG(ベルト式無段変速機への入力トルク)と目標変速比Gaとに基づいて各プーリの油圧室に供給するプーリ油圧の比である推力比を演算し、該推力比に基づく基準プーリ油圧を演算すると共に、目標変速比Gaと実変速比Gbとの差分に応じたフィードバック制御によりフィードバック油圧を演算し、基準プーリ油圧とフィードバック油圧とに基づいて変速制御を行う変速機コントローラ20(変速制御手段)と、を備えたベルト式無段変速機の変速制御装置において、変速機コントローラ20は、所定の運転条件が成立したときは、フィードバック制御を中止し、推力比を、最ロー変速比であって、かつ、トルク比Qt(入力トルク)がゼロのときに設定される推力比Qf1よりも低い低車速用推力比Qf0(所定推力比)に設定して変速制御を行うこととした。
よって、低い推力比に基づいて変速制御することが可能となり、ハイ側へのシフトを抑制することで安定した変速制御を達成できる。
【0020】
(2)低車速用推力比Qf0は、トルク比Qtに係らず最ロー変速比を達成可能な推力比である。よって、入力トルクに係らず常に最ロー変速比を確保できる。
(3)所定の運転条件は、車速が所定車速VSP1未満である。よって、低車速領域のように回転数センサの分解能が低下する領域では、フィードバック制御を行わず固定した推力比に基づいて制御することで、安定した変速制御を実現できる。
【0021】
(他の実施例)
以上、実施例1に基づいて説明したが、上記実施例に限らず、他の構成であっても本発明に含まれる。実施例1では所定推力比Qf0を固定値として設定したが、例えば、Qf1より小さい範囲でトルク比Qtに応じた推力比を可変に設定してもよい。また、所定の運転条件として車速VSPが所定車速VSP1未満か否かに基づいて制御切り換え部209を作動させたが、車速に限らず、トルク比に応じて制御切り換えを行ってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 エンジン
2 変速機入力軸
3 プライマリプーリ
3a 固定シーブ
3b 可動シーブ
3b1 プライマリ油圧室
4 ベルト
5 セカンダリプーリ
5a 固定シーブ
5b 可動シーブ
5b1 セカンダリ油圧室
10 エンジンコントローラ
10a 要求トルク演算部
10b 実エンジントルク演算部
20 変速機コントローラ
30 コントロールバルブユニット
201 目標変速比演算部
図1
図2
図3
図4