特許第5936642号(P5936642)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936642圧力容器用ライナー、その成形型、および圧力容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936642
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】圧力容器用ライナー、その成形型、および圧力容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/16 20060101AFI20160609BHJP
   F17C 1/04 20060101ALI20160609BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F17C1/16
   F17C1/04
   B29C45/27
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-65916(P2014-65916)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-224602(P2014-224602A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-86225(P2013-86225)
(32)【優先日】2013年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】瀬島 栄三郎
(72)【発明者】
【氏名】田代 康
(72)【発明者】
【氏名】相山 武範
【審査官】 佐野 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−112413(JP,A)
【文献】 特開2001−153296(JP,A)
【文献】 特開2012−189106(JP,A)
【文献】 特開平08−219388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/16
B29C 45/27
F17C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の二端部に底部を持つ有底筒状をなし、少なくとも一方の前記底部には口金を挿入可能な開口部が形成され、前記底部の径方向外側にある周縁部は周壁と滑らかに連続するドーム状をなすとともに前記底部は前記周縁部に対して軸方向内側に陥没している樹脂製のライナー本体部と、
前記底部の軸方向外側面に一体に形成され、前記開口部の周縁に配置され、前記ライナー本体部の軸方向外側および径方向内側に向けて突出する凸部と、前記凸部に連続する凹部と、が前記ライナー本体部の周方向に沿って交互に配列してなり、前記凸部における径方向外側端部と前記凹部における径方向外側端部とは前記周方向に連続した外周端部を構成するとともに、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凹部の突出長さは、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凸部の突出長さに比べて短い噛合部と、
記噛合部の外周端部よりも径方向外側に配置されているフィルムゲート痕跡部と、を持つ圧力容器用ライナー。
【請求項2】
前記フィルムゲート痕跡部から前記凹部の内周端部までの径方向長さは、前記凹部における内周端面の軸方向長さ以上である請求項1に記載の圧力容器用ライナー。
【請求項3】
前記フィルムゲート痕跡部から前記凹部の内周端部までの径方向長さは5mm以上である請求項1または請求項2に記載の圧力容器用ライナー。
【請求項4】
前記フィルムゲート痕跡部の少なくとも一部は、前記凸部における軸方向外側の端面と前記ライナー本体部の前記周壁における外側面とを滑らかに連続する仮想曲面に対して、隆起している請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の圧力容器用ライナー。
【請求項5】
前記フィルムゲート痕跡部の少なくとも一部と、前記凸部における軸方向外側の端面と前記ライナー本体部の前記周壁における外側面とを滑らかに連続する仮想曲面と、が面一である請求項1から請求項3の何れか一項に記載の圧力容器用ライナー。
【請求項6】
前記フィルムゲート痕跡部はリング状をなす、請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の圧力容器用ライナー。
【請求項7】
請求項1〜請求項の何れか一項に記載の圧力容器用ライナーを成形するための成形型であって、
前記圧力容器用ライナーを成形するためのキャビティを区画するライナー用型面と、フィルムゲートを成形するためのキャビティを区画するゲート用型面と、を持ち、
前記ゲート用型面は、前記ライナー用型面において前記噛合部の外周端部を形成するための領域よりも径方向外側に配置されているライナー用成形型。
【請求項8】
前記ゲート用型面から、前記ライナー用型面において前記凹部の内周端部を成形するための領域までの径方向長さは、前記凹部の内周端面を成形するための領域の軸方向長さ以上である請求項に記載のライナー用成形型。
【請求項9】
前記ゲート用型面から、前記ライナー用型面において前記凹部の内周端部を成形するための領域までの径方向長さは、5mm以上である請求項または請求項に記載のライナー用成形型。
【請求項10】
前記ライナー用型面のなかで前記凸部における軸方向外側の端面を成形するための領域と、前記ライナー用型面のなかで前記ライナー本体部の前記周壁における外側面を成形するための領域と、を滑らかに連続する仮想曲面と、前記ゲート用型面のなかで前記フィルムゲート痕跡部の基端部を成形するための領域と、の距離は0mmを超え1mm以下である請求項〜請求項の何れか一項に記載のライナー用成形型。
【請求項11】
請求項1〜請求項の何れか一項に記載の圧力容器用ライナーと、筒状をなし前記圧力容器用ライナーの前記開口部に挿入されるとともに前記噛合部と噛合している口金と、を含む圧力容器。
【請求項12】
軸方向の二端部に底部を持つ有底筒状をなし、少なくとも一方の前記底部には口金を挿入可能な開口部が形成され、前記底部の径方向外側にある周縁部は周壁と滑らかに連続するドーム状をなすとともに前記底部は前記周縁部に対して軸方向内側に陥没している樹脂製のライナー本体部と、
前記底部の軸方向外側面に一体に形成され、前記開口部の周縁に配置され、前記ライナー本体部の軸方向外側および径方向内側に向けて突出する凸部と、前記凸部に連続する凹部と、が前記ライナー本体部の周方向に沿って交互に配列してなり、前記凸部における径方向外側端部と前記凹部における径方向外側端部とは前記周方向に連続した外周端部を構成するとともに、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凹部の突出長さは、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凸部の突出長さに比べて短い噛合部と、を有する圧力容器用ライナーを樹脂成形する際に、成形時におけるフィルムゲートを前記噛合部の外周端部よりも径方向外側に配置する、圧力容器用ライナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種加圧物質を充填するための圧力容器に用いられる樹脂製のライナー、および当該ライナーを製造するための成形型、並びに当該ライナーを含む圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器に充填される加圧物質としては、高圧水素、CNG(圧縮天然ガス)等の各種圧縮ガス、液体水素、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス等が例示される。
【0003】
これらの各種加圧物質を充填するための圧力容器として、一般には、中空状をなす容器本体に金属製の口金部を取り付け、さらに、口金部にバルブを取り付けたものが用いられている。この種の圧力容器においては、容器本体の内周面を樹脂製のライナーで構成し、ライナーの外周面を高強度樹脂(FRP;Fiber Reinforced Plastic等)製の補強部で覆うのが一般的である。
【0004】
ライナーを含む圧力容器には、高圧ガスを充填したときにも耐え得るだけの強度が要求される。また、強度に優れるライナーを得るためには、ライナーに形成されるウェルドを低減する必要があると考えられている。ウェルドは、成形時における溶融樹脂の流動経路が分岐し、再度合流したときに発生し易いと考えられている。溶融樹脂の流動経路が分岐すると、溶融樹脂の流速や温度がその経路毎に異なる可能性が高い。このような場合には、再度合流した溶融樹脂が均一に混ざり合い難い。したがって、得られた成形品においては、ウェルドラインを境界として互いに隣接する樹脂領域が互いに融着した状態にあると考えられている。
【0005】
このため、ウェルドの発生した成形品において、ウェルドライン付近における強度は他の部分における強度に比べて低いと考えられる。上述したように、ライナーには高強度であることが要求されるため、ウェルドの発生し難いライナー、および、ウェルドの発生を抑制しつつライナーを成形し得る技術が求められている。
【0006】
ウェルドの発生を抑制するためには、成形型のキャビティ内における溶融樹脂の分岐および合流を低減するのが有効だと考えられる。従来から、フィルムゲート用の型面を備える成形型を用いてライナーを成形することで、キャビティ内における溶融樹脂の分岐および合流を低減し、ウェルドの発生を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ライナーの形状によっては、特許文献1に紹介されている技術を用いてもウェルドの発生を十分に抑制することができなかった。このため、ウェルドの発生をより一層低減し得る技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−77995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、圧力容器のライナーにおけるウェルドの発生を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の圧力容器用ライナーは、
軸方向の二端部に底部を持つ有底筒状をなし、少なくとも一方の前記底部には口金を挿入可能な開口部が形成され、前記底部の径方向外側にある周縁部は周壁と滑らかに連続するドーム状をなすとともに前記底部は前記周縁部に対して軸方向内側に陥没している樹脂製のライナー本体部と、
前記底部の軸方向外側面に一体に形成され、前記開口部の周縁に配置され、前記ライナー本体部の軸方向外側および径方向内側に向けて突出する凸部と、前記凸部に連続する凹部と、が前記ライナー本体部の周方向に沿って交互に配列してなり、前記凸部における径方向外側端部と前記凹部における径方向外側端部とは前記周方向に連続した外周端部を構成するとともに、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凹部の突出長さは、前記外周端部から前記径方向内側に向けた前記凸部の突出長さに比べて短い噛合部と、
記噛合部の外周端部よりも径方向外側に配置されているフィルムゲート痕跡部と、を持つライナーである。
以下、本明細書中の「ゲート部」なる文言は「フィルムゲート痕跡部」と読み替えるものとする。
【0010】
本発明の圧力容器用ライナーは、以下の(1)〜(4)の何れかを備えるのが好ましく、複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記ゲート部から前記凹部の内周端部までの径方向長さは、前記凹部における内周端面の軸方向長さ以上である。
(2)前記ゲート部から前記凹部の内周端部までの径方向長さは5mm以上である。
(3)前記ゲート部の少なくとも一部は、前記凸部における軸方向外側の端面と前記ライナー本体部の前記周壁における外側面とを滑らかに連続する仮想曲面に対して、隆起している。
(4)前記ゲート部の少なくとも一部と、前記凸部における軸方向外側の端面と前記ライナー本体部の前記周壁における外側面とを滑らかに連続する仮想曲面と、が面一である。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の成形型は、上述した本発明の圧力容器用ライナーを成形するための成形型であって、
前記圧力容器用ライナーを成形するためのキャビティを区画するライナー用型面と、前記フィルムゲートを成形するためのキャビティを区画するゲート用型面と、を持ち、
前記ゲート用型面は、前記ライナー用型面において前記噛合部の外周端部を形成するための領域よりも径方向外側に配置されている成形型である。
【0012】
本発明の圧力容器用ライナーは、下記の(5)〜(7)の何れかを備えるのが好ましく、複数を備えるのがより好ましい。
(5)前記ゲート用型面から、前記ライナー用型面において前記凹部の内周端部を成形するための領域までの径方向長さは、前記凹部の内周端面を成形するための領域の軸方向長さ以上である。
(6)前記ゲート用型面から、前記ライナー用型面において前記凹部の内周端部を成形するための領域までの径方向長さは、5mm以上である。
(7)前記ライナー用型面のなかで前記凸部における軸方向外側の端面を成形するための領域と、前記ライナー用型面のなかで前記ライナー本体部の前記周壁における外側面を成形するための領域と、を滑らかに連続する仮想曲面と、前記ゲート用型面のなかで前記ゲート部の基端部を成形するための領域と、の距離は0mmを超え1mm以下である。
【0013】
また、上記課題を解決する本発明の圧力容器は、上述した本発明の圧力容器用ライナーの何れかと、筒状をなし前記圧力容器用ライナーの前記開口部に挿入されるとともに前記噛合部と噛合している口金と、を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧力容器用ライナーによると、フィルムゲートの位置を噛合部の外周側にずらして配置したことで、上述したウェルドの発生が抑制される。また、本発明のライナー用成形型によると、ウェルドの発生を抑制しつつ圧力容器用ライナーを成形することが可能である。さらに、本発明の圧力容器は、ウェルドの発生が抑制された圧力容器用ライナーを含むため、高圧の加圧物質を充填するのに好適である。
【0015】
以下、図面を基に本発明の圧力容器およびその製造方法を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の圧力容器を模式的に表す断面図である。
図2】フィルムゲートが一体化されている状態の実施例1の圧力容器用ライナーを模式的に表す切り欠き斜視図である。
図3】実施例1の成形型を模式的に表す要部拡大断面図である。
図4図2の要部拡大図である。
図5】実施例1の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図である。
図6】実施例1の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図である。
図7】フィルムゲートが一体化されている状態の比較例の圧力容器用ライナーを模式的に表す切り欠き斜視図である。
図8図7の要部拡大図である。
図9】比較例の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図である。
図10】比較例の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図である。
図11】実施例2の成形型を模式的に表す要部拡大断面図である。
図12】実施例2の圧力容器用ライナーを模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、具体例を挙げて本発明の圧力容器を説明する。
【0018】
(実施例1)
実施例1の圧力容器は、車載用の水素燃料タンクであり、上記(1)、(3)を備える。実施例1の圧力容器を模式的に表す断面図を図1に示し、フィルムゲートが一体化されている状態の実施例1の圧力容器用ライナーを模式的に表す切り欠き斜視図を図2および図4に示す。実施例1の成形型を模式的に表す要部拡大図を図3に示し、実施例1の成形型で実施例1の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図を図5および図6に示す。詳しくは、図1は実施例1の圧力容器を軸方向に切断した様子を模式的に表す断面図である。図4図2の要部拡大図である。図5は、凹部近傍に位置する噛合部および底部を成形している様子を表す断面図である。図6は、凸部近傍に位置する噛合部および底部を成形している様子を表す断面図である。以下、各実施例および比較例において、上、下、前、後とは各図に示す上、下、前、後を指す。軸方向とは各図に示す前後方向と同じ方向である。径方向とは、軸方向に直交する方向であり、各図に示す上下方向と同じ方向である。なお、後述する口金、Oリングおよび圧力容器全体の軸方向および径方向は一致している。
【0019】
実施例1の圧力容器は、圧力容器用ライナー1と、口金7と、Oリング80と、補強部85とを備える。圧力容器用ライナー1は、軸方向の二端部が各々ドーム状に縮径するとともに、その略中央部が軸方向内側に向けて陥没した有底筒状をなす。当該陥没した部分は、各々、底部20を構成している。なお、圧力容器用ライナー1におけるドーム状の部分、すなわち、底部20の周縁部29は、後述するライナー本体部25の周壁25aと滑らかに連続している。
【0020】
圧力容器用ライナー1は、軸方向の一端部を構成する分体11と、軸方向の他端部を構成する分体12と、に二分割された状態で成形され、軸方向の略中央部で二つの分体(11、12)が溶着一体化されてなる。圧力容器用ライナー1における各底部20の略中央部には貫通孔状をなす開口21が形成され、開口21の周縁部は軸方向内側に向けて筒状に延出している。換言すると、底部20には無底の略筒状をなす開口部22が形成されている。圧力容器用ライナー1は、ガスバリア性に優れるEVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂)からなる。
【0021】
圧力容器用ライナー1における各開口部22には、口金7が取り付けられている。より具体的には、一方の開口部22には貫通孔状の口金開口70が形成された口金7aが取り付けられ、他方の開口部22には口金開口70が形成されず封止された口金7bが取り付けられている。口金7は、金属製であり、ボス部71とフランジ部72とを持つ。ボス部71は筒状をなす。ボス部71の内周面のなかで軸方向外部側(図1中前側)の部分には、図略のネジ溝が形成されている。フランジ部72は、ボス部71の外周面から径方向外方に向けて突出している。実施例1の圧力容器において、フランジ部72は、ボス部71の外周全周に連続する略環状をなす。ボス部71の後側部分である口金延出部73は、フランジ部72よりもさらに後側にまで延出している。一方の口金7a(図1中前側の口金7)には、図略のバルブが脱着可能に取り付けられる。
【0022】
口金延出部73の外周面には環溝状のOリング保持溝74が陥没形成されている。Oリング保持溝74には、弾性体からなるOリング80が挿入されている。口金延出部73の外周面は圧力容器用ライナー1の一部である開口部22によって覆われている。
【0023】
圧力容器用ライナー1の外周側には補強部85が形成されている。具体的には、補強部85は、カーボン繊維とエポキシ樹脂とを含むFRPからなり、圧力容器用ライナー1の外周に巻回形成されている。すなわち圧力容器用ライナー1は、補強部85の内周面を覆っている。
【0024】
圧力容器用ライナー1は、底部20と、開口部22と、ライナー本体部25と、からなる。図1に示すように、底部20は、略円板状をなしフランジ部72の底面(つまり、フランジ部72における軸方向内側面)を覆う。開口部22は開口21の周縁部からなり、上述したように、略筒状をなし、口金延出部73の外周面を覆う。ライナー本体部25は、その他の部分であり略筒状をなす。より具体的には、ライナー本体部25における軸方向の略中央部分は略円筒状をなし、二つの軸方向端部は略ドーム状をなす。
【0025】
底部20における軸方向外側面20aには、噛合部3が一体に形成されている。なお、図1中前側に配置されている底部20における軸方向外側面20aは前面であり、図1中後側に配置されている底部20における軸方向外側面20aは後面である。図1および図2に示すように、噛合部3は、複数の凸部31と複数の凹部32とで構成されている。より具体的には、凹部32と凸部31とは圧力容器の周方向に沿って交互に配列されている。したがって噛合部3は、開口部22の径方向外側(すなわち開口部22の外周側)に、開口部22と同軸的に配置されている。なお、底部20の軸方向外側面20aは凸部31の軸方向外側面31aおよび凹部32の軸方向外側面32aよりも軸方向内側に配置されている。また、底部20の肉厚は、ライナー本体部25の肉厚よりも薄肉である。
【0026】
各々の凸部31は、略短冊状をなし、底部20の軸方向外側面20aから軸方向外側に向けて突出(隆起)するとともに、径方向外側から径方向内側つまり開口部22側に向けて突出する。各々の凹部32もまた略短冊状をなし、底部20の軸方向外側面20aから軸方向外側に向けて突出するとともに、径方向外側から径方向内側に向けて突出する。各凹部32は、隣接する二つの凸部31を連絡する。各凸部31および各凹部32の突出高さは、底部20の軸方向外側面20aからの突出高さを指す。
【0027】
図2および図4に示すように、噛合部3は径方向外側(外周側)においては圧力容器の周方向に沿って滑らかに連続している。また、噛合部3は、径方向内側(内周側)においては、凸部31が径方向内側に出っ張り、凹部32が径方向外側に引っ込む歯列状をなす。つまり、噛合部3の外周面は円弧状をなし、噛合部3の内周面は段差状をなす。したがって、各凹部32の外周端部から径方向内側に向けた突出長さ(換言すると、凹部32の外周面を起点とする各凹部32の径方向長さ)は、凸部31の当該突出長さ(換言すると、凸部31の外周面を起点とする各凸部31の径方向長さ)に比べて短い。
図5および図6に示すように、凸部31の軸方向外側面31aおよび凹部32の軸方向外側面32aは滑らかに連続する。また、図4に示すように、凸部31の径方向外側端部31bと凹部32の径方向外側端部32bとは滑らかに連続する。したがって噛合部3は、全体としては略円板状をなす。なお、凸部31の径方向外側端部31bと凹部32の径方向外側端部32bとは圧力容器の周方向に連続する。径方向外側端部31bおよび径方向外側端部32bは本発明における外周端部に相当する。そして、凸部31の径方向内側に向けた突出長さは、凸部31の外周面(すなわち径方向外側端部31b)を起点とする凸部31の径方向長さを指す。また、凹部32の径方向内側に向けた突出長さは、凹部32の外周面(すなわち径方向外側端部32b)を起点とする凹部32の径方向長さを指す。各凹部32の径方向内側に向けた突出長さは、各凸部31の当該突出長さに比べて短い。
【0028】
なお、図5および図6に示すように、凸部31および凹部32の軸方向外側に向けた突出高さは、径方向外側から径方向内側に向けて徐々に大きくなっている。
【0029】
なお、口金7におけるフランジ部72の底面(つまり噛合部3と対面する面)には、噛合部3と相補的な凹凸形状を持つ口金側噛合部(図略)が形成されている。噛合部3は、口金側噛合部と噛合し、圧力容器用ライナー1に対する口金7の回転を規制する。
【0030】
図2および図3に示すように、ゲート40はゲート口41とフィルムゲート42とで構成されている。ゲート口41は軸方向に延び、フィルムゲート42はゲート口41に連続している。フィルムゲート42は、蓋壁43を前方に向けるとともに後方に向けて拡径する略ドーム状をなす。フィルムゲート42の後端部は開口し、ライナー本体部25に一体化されている。より具体的には、フィルムゲート42の後端部は略リング状をなし、圧力容器用ライナー1における噛合部3の外周側においてライナー本体部25に一体化されている。フィルムゲート42とライナー本体部25とは段差状に連絡している。
【0031】
なお、後述するように、噛合部3の外周端部よりもさらに径方向外側には、略環状をなすゲート部45が形成されている。ゲート部45は、成形時におけるフィルムゲート42の痕跡である。フィルムゲート42は、成形後に切除、研磨等により除去されるが、その痕跡は凸形状および/または凹形状として圧力容器用ライナー1に残存する。
【0032】
実施例1の圧力容器用ライナー1の製造方法を以下に説明する。
【0033】
成形型としては、図3に示すように、外型50と二つの内型55(第1内型56、第2内型57)とを持つ射出成形型を用いる。外型50および第1内型56によってゲート40を成形するためのキャビティ(ゲート用キャビティ60と呼ぶ)を区画する。外型50の型面および第1内型56の型面のなかでゲート用キャビティ60を区画する部分をゲート用型面(50z、56z)と呼ぶ。
【0034】
また、第1内型56および第2内型57によって噛合部3を成形するためのキャビティ(噛合部用キャビティ61と呼ぶ)、圧力容器用ライナー1の底部20を成形するためのキャビティ(底部用キャビティ62と呼ぶ)、および開口部22を成形するためのキャビティ(開口部用キャビティ63と呼ぶ)を区画する。第1内型56の型面のなかで、噛合部用キャビティ61を区画する部分を噛合部用型面56yと呼び、底部用キャビティ62を区画する部分を底部用型面56xと呼ぶ。第2内型57の型面のなかで底部用キャビティを区画する部分を底部用型面57xと呼ぶ。噛合部用型面56yのなかで凹部32を成形するための領域を凹部形成領域562yと呼び、噛合部用型面56yのなかで凸部31を成形するための領域を凸部成形領域561yと呼ぶ。
【0035】
さらに、外型50および第2内型57によってライナー本体部25を成形するためのキャビティ(ライナー用キャビティ64と呼ぶ)を区画する。外型50の型面および第2内型57の型面のなかでライナー用キャビティ64を区画する部分をライナー用型面(50w、57w)と呼ぶ。
【0036】
第1内型56、第2内型57および外型50からなる射出成形型を型締めし、ゲート用キャビティ60、噛合部用キャビティ61、底部用キャビティ62、およびライナー用キャビティ64を形成する。そして、ゲート用キャビティ60に溶融樹脂を射出する。すると、溶融樹脂は、ゲート用キャビティ60において先ず放射状に広がり、次いで前方から後方に向けて流動し、ライナー用キャビティ64、噛合部用キャビティ61および底部用キャビティ62の境界部分に流入する。このとき、図5および図6に示すように、ライナー用キャビティ64に流入した溶融樹脂の一部は、ライナー用型面50wおよび57wに沿って流動する。
【0037】
ところで、溶融樹脂の流動速度は、成形型の型面にぶつかると低下する。そして、一旦低下した溶融樹脂の流動速度は再度上昇し難い。実施例1においては、図4図6に示すように、ゲート40を噛合部3の外周側に配置している。換言すると、噛合部用型面56yにおいて凸部31の内周端面31cを成形するための領域561z、および、凹部32の内周端面32cを成形するための領域562zは、ゲート用型面56zの内周側にオフセットされている。このため、ゲート用キャビティ60の軸方向(図中前後方向)に沿って流動し、ゲート用キャビティ60から噛合部用キャビティ61に流入した溶融樹脂は、領域561zおよび領域562zの干渉をあまり受けず、噛合部用キャビティ61の径方向外側および内側(図中上側および下側)に広がり得る。つまり、このとき溶融樹脂の一部または大部分は、型面にぶつからずに流動方向を変える。したがって、このとき溶融樹脂の流速は低下し難い。その後溶融樹脂は、噛合部用キャビティ61およびライナー用キャビティ64よりも狭幅の底部用キャビティ62に流入する。しかし、上述したように一部の溶融樹脂の流動方向は既に径方向に変化しているため、ライナー用キャビティ64から底部用キャビティ62に流入する際の流速低下も小さい。したがって、凹部形成領域562yに沿って流動し噛合部用キャビティ61から底部用キャビティ62に流入する溶融樹脂(図4中矢印V1で表す)の流動速度と、凸部形成領域561yに沿って噛合部用キャビティ61を流動する溶融樹脂(図4中矢印V2で表す)の流動速度との間には、さほど大きな差が生じない。つまり、V1とV2との流動速度差は小さく、このV1とV2との境界部分Bにおけるウェルドの発生は抑制される。
【0038】
ところで、図5に示すように、ゲート用型面(50z、56z)から凹部成形領域562yの内周端部562iまでの径方向長さ(換言すると、ゲート用型面56zと凹部成形領域562yの内周端部562iとの距離)をW1とする。また、凹部成形領域562yにおいて凹部32の内周端面32cを成形するための領域の軸方向長さ(つまり、凹部成形領域562yにおける内周端部562iの軸方向長さ)をH1とする。実施例1においては、径方向長さW1は軸方向長さH1以上である。したがって、実施例1の成形型においては、溶融樹脂が径方向に十分に広がった後に型面(つまり、領域561zおよび領域562z)にぶつかる。つまり、実施例1の成形型においては、径方向長さW1を軸方向長さH1以上にしたことで、溶融樹脂の流動速度低下を抑制し、その結果、ウェルドの発生を抑制できる。径方向長さW1は軸方向長さH1以上であれば良いが、所定の長さ以上であるのがより好ましい。実施例1の成形型においては、軸方向長さH1が5mmであり、径方向長さW1もまた5mmであるため、径方向長さW1は軸方向長さH1以上である。このため、実施例1の成形型においてはウェルドの発生を抑制できている。
【0039】
また、実施例1の成形型を用いて成形された実施例1の圧力容器用ライナー1においては、ゲート部45から凹部32の内周端部(内周端面32c)までの径方向長さ(W1)は、凹部32における内周端面の軸方向長さ(H1)以上であり、かつ、ゲート部45から凹部32の内周端面32cまでの径方向長さは5mmである。したがって、圧力容器用ライナー1においても同様に、径方向長さW1が軸方向長さH1以上であれば良く、径方向長さW1は5mm以上であるのがより好ましいと言える。この径方向長さW1は5mm以上であれば良く、ウェルド発生を抑制するという観点においては特に上限は無い。しかし、強いて言うとすると、底部20の周縁部29にフィルムゲート42を設けることが好ましい。具体的には、W1は5mm以上50mm以下であるのが好ましく、5mm以上25mm以下であるのがより好ましい。これは、圧力容器の製造工程を考慮したW1の上限値である。
【0040】
つまり、圧力容器用ライナー1におけるドーム状の部分、すなわち、底部20の周縁部29は、他の部分に比べて厚肉である。一般的に、圧力容器用ライナー1の肉厚は、周縁部29からライナー本体部25の周壁25aに向けて徐々に薄くなる。そして周壁25aにおいては、圧力容器用ライナー1の肉厚は略一定である。成形後に、圧力容器用ライナー1からフィルムゲート42を切削や研磨等により除去することを考慮すると、切削の容易性や強度の観点から、フィルムゲート42はこの厚肉の部分に設けるのが好ましい。一例としては、圧力容器用ライナー1における底部20の周縁部29を、底部20の径方向外側に連続する部分(厚肉部29aと呼ぶ)と、当該厚肉部29aと周壁25aとを連絡する変曲部分(肩部29bと呼ぶ)とに分けた場合、フィルムゲート42は厚肉部29aに設けるのが好ましい。
【0041】
ここで、肩部29bは変曲部分であり、厚肉部29aに比べて曲率の大きな部分といえる。さらに言い換えると、図1に示すように、圧力容器の軸方向断面において、圧力容器の軸線L0と直交する直線L1と、圧力容器用ライナー1の表面における接線L2と、の交差角θが20°を超え90°未満となる領域を肩部29bと定義し、当該交差角θが0°以上かつ20°以下となる領域を厚肉部29aと定義することもできる。なお、交差角θは劣角である。
【0042】
さらに視点を変えると、実施例1の圧力容器の直径は300〜400mm程度であり、径方向長さW1の上限値は圧力容器の直径に関係する。圧力容器の直径が400mm程度である場合には、W1を50mm以下にすることで、周縁部29のなかでも厚肉の部分、つまり厚肉部29aに、フィルムゲート42を設け得る。また、圧力容器の直径が300mm程度である場合には、W1を25mm以下にすることで、厚肉部29aにフィルムゲート42を設け得る。
【0043】
さらに、圧力容器用ライナー1の成形性を考慮すると、厚肉の周縁部29はフィルムゲート42になるべく近づけるのが良く、フィルムゲート42の直下に周縁部29を設けるのが特に好ましい。これは、厚肉の部分つまり周縁部29を成形するためのキャビティをフィルムゲート42に近づけることで、成形時においてなるべく高温の溶融樹脂を当該キャビティに到達させ、樹脂の流動性を充分に確保するためである。以上のことを勘案すると、ゲート部45は厚肉部29aに設けるのが好ましく、具体的には、ゲート部45から凹部32の内周端部までの径方向長さ(W1)は、5mm以上50mm以下の範囲でなるべく短いのが良いと言える。参考までに、フィルムゲート42における周縁部29との境界部の内周端42aは、底部20の軸方向外側面20aよりも軸方向外側(図5における前方)に設けられている。なお、実施例において、フィルムゲート42の位置は底部20に対して軸方向の外側(図1中前側)にある。
【0044】
成形後、成形型を開いて成形品を取り出し、ゲート40を切削、研磨等の既知の方法で除去することで、実施例1の圧力容器用ライナー1を得た。この圧力容器用ライナー1におけるゲート部45は、比較的滑らかである。つまり実施例1の圧力容器用ライナー1ではバリの発生が抑制されている。これは、ゲート部45が噛合部3の外周側にオフセットされ、凹部32の内周端面32cや凸部31の内周端面31cから離間していることに起因すると考えられる。換言すると、実施例1の圧力容器用ライナー1においては、ゲート部45が比較的平坦な面に形成されていることで、バリの発生(特に糸状をなすバリの発生)が抑制されている。つまり、ゲート部45が例えば凹部32における内周端面の近傍に配置されると、フィルムゲート42の切削加工および/または研磨加工の際に、フィルムゲート42とともに凹部32の内周端面32cが切削される。したがって、この場合には凹部32の内周端面32cと軸方向外側面32aとの境目、つまり、角の部分に、細い糸状のバリが生じ易い。実施例1の圧力容器用ライナー1においては、凹部32の内周端面32cよりも外周側にずれた位置にゲート部45を配置したことで、凹部32の内周端面32cおよび凸部31の内周端面31cは切削および/または研磨され難い。また、ゲート部45自体が比較的平坦な面に配置されているため、ゲート40自体を切削および/または研磨する際にも、バリが生じ難い。よって、実施例1の圧力容器用ライナー1は比較的滑らかな外表面を持ち、補強部85形成後にも応力が集中し難いため、比較的高圧の加圧物質を充填するのに適している。また、実施例1の成形型によると、比較的高圧の加圧物質を充填するのに適した圧力容器用ライナー1を容易に製造できる。
【0045】
なお、実施例1の圧力容器用ライナー1においては、図5に示すように、図5中破線で示す仮想曲面ISはゲート部45と略面一になる。ここで言う仮想曲面ISとは、凸部31における軸方向外方側の端面(つまり軸方向外側面31a)と、ライナー本体部25の周壁における外側面25sと、を滑らかに連続する仮想上の曲面を指す。仮想曲面ISとゲート部45とが略面一であれば、上述したように圧力容器用ライナー1への応力集中が抑制される。
【0046】
その後、Oリング80を装着した口金7を圧力容器用ライナー1の開口部22に差し込む。最後に補強部85を巻回形成する。以上の工程によって、図1に示すように圧力容器用ライナー1、口金7、Oリング80、および補強部85を含む実施例1の圧力容器が得られる。
【0047】
実施例1の圧力容器におけるライナーはEVOHからなるが、本発明の圧力容器におけるライナーの材料は、充填すべき加圧物質に応じて適宜選択すればよい。例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリエチレン、ナイロン等がライナーの材料として好ましく用いられる。
【0048】
実施例1の圧力容器における補強部85は、カーボン繊維とエポキシ樹脂とを含むFRPからなるが、カーボン繊維にかえてガラス繊維やアラミド繊維等を用いても良い。
【0049】
(比較例)
比較例の圧力容器用ライナーは従来の圧力容器用ライナーであり、ゲート部が噛合部の凹部における内周端面に隣接したものである。比較例の圧力容器用ライナーを模式的に表す切り欠き斜視図を図7図8に示し、比較例の圧力容器用ライナーを成形している様子を模式的に表す説明図を図9および図10に示す。なお、図8図7の要部拡大図である。また、図9は、凹部近傍に位置する噛合部および底部を表す断面図である。図10は、凸部近傍に位置する噛合部および底部を表す断面図である。
【0050】
比較例の圧力容器用ライナー101は、ゲート部145と噛合部103の位置関係以外は実施例1の圧力容器用ライナー1と略同じものである。具体的には、図9および図10に示すように、ゲート140は噛合部103における凹部132の真上に配置され、凹部132の内周端面132cとゲート140とは径方向に略同位置にある。したがって、ゲート部145もまた、噛合部103における凹部132の真上に配置され、凹部132の内周端面132cとゲート部145とは径方向に略同位置に形成される。
【0051】
したがって、図9および図10に示すように、比較例の圧力容器用ライナー101を製造する際には、凹部成形領域162yに沿って流動する溶融樹脂は、流動初期において減速する。
【0052】
詳しくは、凸部成形領域161yに沿って流動する溶融樹脂に関しては、ゲート用キャビティ160から噛合部用キャビティ161に流入すると径方向に広がる。つまり、凸部成形領域161yに沿って流動する溶融樹脂に関しては、型面(つまり領域161z)の干渉をほぼ受けず流動方向を径方向に変える。このため、溶融樹脂の流速低下は抑制される。一方、凹部成形領域162yに沿って流動する溶融樹脂に関しては、ゲート用キャビティ160から噛合部用キャビティ161に流入すると型面(つまり領域162z)に沿って軸方向(図中後方向)に案内される。この段階では、溶融樹脂の流速低下は殆どない。その後、更に軸方向に流動した溶融樹脂は、底部用型面157xにぶつかる。このため溶融樹脂の流動速度は大きく低下する。また、溶融樹脂が噛合部用キャビティ161から狭幅の底部用キャビティ162に流入する際にも、溶融樹脂の流動速度は大きく低下する。したがって、凹部形成領域162yに沿って流動し噛合部用キャビティ161から底部用キャビティ162に流入する溶融樹脂(図8中矢印V3で表す)の流動速度と、凸部形成領域161yに沿って噛合部用キャビティ161を流動する溶融樹脂(図8中矢印V4で表す)の流動速度との間には、大きな差が生じる。つまり、V3とV4との流動速度差は大きく、このV3とV4との境界部分Bにおいてウェルドが発生すると考えられる。
【0053】
また、図9に示すように、ゲート140が凹部132の真上に配置され、ゲート部145から凹部132の内周端部(内周端面132c)までの距離はほぼ0である。このため比較例の圧力容器用ライナー101を製造する場合には、ゲート140を切削および/または研磨してゲート部145を形成する際に、糸状のバリが発生し易い。
【0054】
(実施例2)
実施例2の圧力容器用ライナーは上記(1)および(2)を備えるものである。実施例2のライナー用成形型を模式的に表す要部拡大断面図を図11に示す。実施例2の圧力容器用ライナーを模式的に表す要部拡大断面図を図12に示す。
【0055】
図11に示すように、実施例2のライナー用成形型においては、ゲート用型面(図11においては50z、56z)のなかでゲート部45の基端部を成形するための領域(図11においては50ze、56ze)と、仮想曲面ISと、はキャビティの厚さ方向(つまり、圧力容器用ライナー1の厚さ方向)に離間し、その距離は約0.5mmである。このような実施例2の成形型で成形された実施例2の圧力容器用ライナー1は、仮想曲面ISとゲート部45との位置関係以外は実施例1と略同じものである。具体的には、ゲート部45における外方側(圧力容器の表面側)の端面は、仮想曲面ISに対して隆起する。
【0056】
実施例2のライナー用成形型によると、圧力容器用ライナー1からゲート40を除去する際、つまり、切削および/または研磨加工の際に、圧力容器用ライナー1におけるゲート40付近の部分を多少削りすぎても、圧力容器用ライナー1の肉厚を十分に確保できる利点がある。なお、上述したゲート部45の基端部を成形するための領域(図11における50ze、56ze)と仮想曲面ISとは、キャビティの厚さ方向に離間していれば良く、その距離は0mmを超え1mm以下であるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の圧力容器は、例えば水素ガス、CNG、LNG、LPG等の各種液化ガスを充填するための圧力容器として好ましく使用できる。車載用の圧力容器として特に好ましく使用できる。
【0058】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0059】
1:圧力容器用ライナー 3:噛合部
7:口金 20:底部
20a:底部の軸方向外側面 22:開口部
25:ライナー本体部 25s:ライナー本体部の周壁における外側面
31:凸部 32:凹部
32c:凹部の内周端面 42:フィルムゲート
45:ゲート部 IS:仮想曲面
50z、56z:ゲート用型面 56y:噛合部用型面
56x、57x:底部用型面 50w、57w:ライナー用型面
50ze、56ze:ゲート用型面のなかでゲート部の基端部を成形するための領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12