(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936680
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】バナジウムを含んでいない、またはバナジウムを減少させたDeNOx触媒のための原料、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20160609BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20160609BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20160609BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20160609BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20160609BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B01J23/888 A
B01J35/10 301J
B01J37/04 102
B01J37/03 B
B01J37/08
B01J37/02 301C
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-509645(P2014-509645)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公表番号】特表2014-512956(P2014-512956A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】EP2012055810
(87)【国際公開番号】WO2012152506
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2014年10月30日
(31)【優先権主張番号】11165659.1
(32)【優先日】2011年5月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513101124
【氏名又は名称】ザハトレーベン ピグメント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sachtleben Pigment GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート アウアー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヒプラー
(72)【発明者】
【氏名】ニコル ガルバルチュク
(72)【発明者】
【氏名】カイ−スヴェン ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】ホアスト ギュネル
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ デアシューク
【審査官】
田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−168341(JP,A)
【文献】
特開平03−221147(JP,A)
【文献】
特開昭50−089264(JP,A)
【文献】
特開2011−005475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86,53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる組成物であって、前記チタン化合物が、化学式TiO2・xH2O(式中、0<x≦1)のメタチタン酸であること、ならびに前記組成物が、Vとして算出されるバナジウム含有量を、該組成物の固体含有量に対して0.15質量%未満有していることを特徴とする前記組成物。
【請求項2】
チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる組成物であって、前記チタン化合物が、TiO2、または化学式TiO2・xH2O(式中、0<x≦1)のメタチタン酸であること、ならびに前記組成物が、Vとして算出されるバナジウム含有量を、該組成物の固体含有量に対して0.15質量%未満有しており、且つCl/TiO2の比の値が、0.0005より小さいことを特徴とする前記組成物。
【請求項3】
チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる請求項1または2に記載の組成物であって、前記チタン化合物が、結晶子の平均サイズ4〜10nmの微晶質のアナターゼ構造を有することを特徴とする前記組成物。
【請求項4】
前記組成物が、150m2/g超のBET表面積を有していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記鉄化合物が、有機鉄化合物であり、および/またはFe2O3として算出される鉄含有量が、該組成物の固体含有量に対して0.1〜5質量%であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
WO3として算出される前記タングステン含有量が、前記組成物の固体含有量に対して、2〜30質量%であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、セリウム化合物を含んでいて、およびCeO2として算出されるセリウム含有量を、該組成物の固体含有量に対して0.01〜5質量%有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、ZrO2として算出されるZr含有量を、該組成物の固体含有量に対して8質量%未満有していることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物の硫酸塩含有量が、0.05〜3.5質量%であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
Cl/TiO2の比の値が、0.0005より小さいことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、懸濁液またはペーストの形態で存在していることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
チタン化合物、鉄化合物ならびにタングステン化合物の混合を含み、前記チタン化合物は、化学式TiO2・xH2O(式中、0<x≦1)のメタチタン酸である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項13】
水溶性の鉄化合物および/または水溶性のタングステン化合物が、前記チタン化合物上に析出されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、触媒への加工の前に300℃を上回る熱処理に供されておらず、および100〜500m2/gの該組成物のBET表面積が得られることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物の、触媒の製造のための使用。
【請求項16】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物を含んでいる触媒または触媒原料。
【請求項17】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物、結合剤および可塑剤を有する、焼成された成形体の形態での、形状安定な触媒活性の固形体。
【請求項18】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物、結合剤、可塑剤およびさらなる添加剤を有する、焼成された成形体の形態での、請求項17に記載の形状安定な触媒活性の固形体。
【請求項19】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物、結合剤および可塑剤を担体材料上に有する、焼成された形態での、形状安定な触媒活性の固形体。
【請求項20】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物、結合剤、可塑剤およびさらなる添加剤を担体材料上に有する、焼成された形態での、請求項19に記載の形状安定な触媒活性の固形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムを含んでいない、またはバナジウムを減少させたDeNO
x触媒を製造するための原料に好適な組成物であって、硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られ、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有しているチタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる前記組成物、ならびにこの組成物の製造方法、ならびにこの組成物から得られ、触媒として例えば窒素酸化物の低減のために用いることができる、形状安定な触媒活性の固形体(Festkoerper)に関する。
【0002】
化石燃料の燃焼は、我々のエネルギー生成およびモビリティの基礎である。しかし、酸素ならびに含窒素化合物、もしくは大気中の窒素の存在は、燃焼プロセスでは環境および人間の健康に著しい負担をかける窒素酸化物(NO
x)を形成させる。かなり以前から、窒素酸化物をアンモニアを用いて無害の窒素にする触媒による変換が確立されている。担持触媒は、特に窒素酸化物の触媒による分解で重要な役割を果たしている。特に重要になっているのは選択接触還元(SCR)であり、窒素酸化物は、添加された含窒素化合物、好ましくはアンモニアまたは尿素により、触媒の存在下に還元される。アンモニアを用いる窒素酸化物の選択接触還元(NH
3−SCR)は、以下の通りにまとめられる:
【数1】
【0003】
前記反応で必要なアンモニアは、移動性の用途ではほとんどの場合、窒素を含む出発化合物の熱分解により触媒のすぐ前で生成される。このSCRのための商業的な触媒は、特に貴金属、金属酸化物およびゼオライトである。概要は、Pio Forzatti,Present status and perspectives in de−NO
x SCR catalysis(Applied Catalysis A:General 222(2001),221〜236)が提供している。重要な触媒系は、TiO
2担体に担持されたWO
3触媒もしくはV
2O
5−WO
3触媒であり、このTiO
2は、規則的に大部分がアナターゼ型で存在しているものである(例えば、US5,723,404またはWO2006/044768を参照)。
【0004】
化石燃料で稼働される機械もしくはエンジンのNO
x排出に対する法律がいっそう厳しくなるのと同時に、触媒成分もいっそう増して法律制定の焦点になっている。例えば、触媒成分であるバナジウムを法律によって禁止しようとする動きがある、それというのは、バナジウムが、運転条件下で揮発し、基本的な有毒性のゆえにV含有化合物が、人間および環境にとって危険になる可能性がありうるからである。この問題の技術的な解決法は、公知である。例えば、ゼオライトベースの系が記載されており、その活性成分は銅もしくは鉄であってよい。さらに、窒素酸化物の選択接触還元において触媒活性を示す混合酸化物が記載されている。例えば、WO2008/049491A1に記載されている系は、Ce/Zr混合酸化物をベースにしている。
【0005】
さらに、TiO
2上の鉄が、一定の触媒活性を示すことはかなり以前から公知である。バナジウムの問題の他に、特に、前記確立された系の耐劣化性および低温活性が問題である、それというのは、1つには、Vを含む系が、低温負荷で大きく低減された触媒活性を示すからである。さらに、低温活性(約200℃以上)について触媒への要求がますます大きくなっている。FeゼオライトおよびCuゼオライトは、定義された作用範囲において、完全に作用するSCR触媒であることが確かに明らかであるが、長期安定性および触媒反応のための気体組成の要件において欠点が現れる。特に、ゼオライトの系とは別の方法でありうる解決策を見出すには高い費用が必要である。特許文献および専門文献に記載されている系は、ここで一般に、確かに定義された高純度のものであるが、大規模工業的な適用にはむしろ重要ではない特殊化学物質に基づいている。
【0006】
これを背景にすると、本発明の基礎をなす課題は、触媒作用の高い、ならびに耐劣化性のSCR触媒を製造するための原料を提供することであり、この触媒は、低いバナジウム含有量を有している、またはバナジウムを含んでおらず、簡単な方法で大規模工業的にも経済的に魅力的な方法で入手できるものである。
【0007】
前記課題は、チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる組成物であって、このチタン化合物が、硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られ、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有していること、ならびに前記組成物が、Vとして算出されるバナジウム含有量を、この組成物の固体含有量に対して0.15質量%未満、好ましくは0.05質量%未満、さらに好ましくは0.03質量%未満、特に好ましくは0.01質量%未満有していることを特徴とする前記組成物により解決される。
【0008】
さらに、本発明は、本発明による組成物を含んでいる触媒または触媒原料にも関する。
【0009】
前記課題は、それとは別に、上記組成物を結合剤、可塑剤および場合によりさらなる添加剤と混合し、こうして得られた組成物を、好ましくは押出機により成形して、引き続き焼成することにより得られる、形状安定な触媒活性の固形体を提供することにより、または、上記組成物を、場合により結合剤、可塑剤およびさらなる添加剤と一緒に担体に塗布して、引き続き焼成することにより得られる、形状安定な触媒活性の固形体を提供することにより解決される。
【0010】
本発明は、また、本発明による組成物の使用、同じく本発明による形状安定な固形体の、触媒としての、または触媒を製造するための使用、ならびに硫酸法によるTiO
2の製造における硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られる、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有しているチタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物の混合による前記組成物の製造方法に関する。
【0011】
以下に記載される本発明の実施態様は、任意に互いに組み合わせてよく、このようにして特に好ましい実施態様がもたらされる。
【0012】
以下の詳細な記載は、個々の本発明による特徴の特異的および/または好ましい別形を開示している。2つまたはそれ以上の好ましい実施態様を任意に組み合わせることにより起こる実施態様も、本発明によればおよび一般に、さらに好ましいということが理解される。
【0013】
特に記載がない限り、「含んでいる」または「含む」という概念は、本願との関連において、明確に記載された成分以外に、任意にさらなる成分が存在しうることを示すために使用される。ただし、これらの概念は、記載された成分からのみなっている、つまり、記載されたもの以外のさらなる成分を含んでいない実施態様もここに含まれているとも理解される。
【0014】
特に記載がない限り、パーセント割合はすべて、質量に関するパーセント割合である。パーセント割合の表示、または一般的な概念により定義されている成分のその他の相対的な量表示は、一般的な概念に含まれるあらゆる特異的な別形の総量に対するものであると理解される。一般に定義された成分が、本発明による実施態様においてさらに、一般的な概念に含まれる特異的な別形に詳細に記されている場合、さらに一般的な概念に含まれる別の特異的な別形は存在しないと理解されるため、あらゆる特異的な別形の当初示された総量は、したがってある特定の特異的な別形の量に対するものである。
【0015】
本発明による組成物、ならびに触媒および触媒原料の製造
本発明は、窒素酸化物を含む燃焼排気ガスを、例えばアンモニアを用いる触媒による選択還元により窒素に還元するのに好適な触媒のための、二酸化チタンを含む原料の製造に関する。詳細は、本発明の以下の実施態様に含まれている。
【0016】
(1)チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物を含んでいる組成物であって、このチタン化合物が、硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られ、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有していること、ならびに前記組成物が、Vとして算出されるバナジウム含有量を、この組成物の固体含有量に対して0.15質量%未満、好ましくは0.05質量%未満、さらに好ましくは0.03質量%未満、特に好ましくは0.01質量%未満有していることを特徴とする前記組成物。
【0017】
(2)硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られる、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有している前記チタン化合物が、前記組成物のあらゆるチタン含有成分の50質量%超、好ましくは70質量%超、特に好ましくは90質量%超を形成していることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0018】
(3)前記組成物が、150m
2/g超、好ましくは200m
2/g超、特に好ましくは250m
2/g超のBET表面積を有していることを特徴とする、(1)または(2)に記載の組成物。
【0019】
(4)前記鉄化合物が、有機鉄化合物、好ましくはクエン酸鉄(III)アンモニウムであり、および/またはFe
2O
3として算出される鉄含有量が、この組成物の固体含有量に対して0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3.5質量%であることを特徴とする、(1)から(3)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0020】
(5)WO
3として算出される前記タングステン含有量が、前記組成物の固体含有量に対して2〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、好ましくは5〜15質量%であることを特徴とする、(1)から(4)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0021】
(6)前記組成物が、セリウム化合物を含んでいて、およびCeO
2として算出されるセリウム含有量を、この組成物の固体含有量に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3.5質量%、特に好ましくは0.5〜2.5質量%有していることを特徴とする、(1)から(5)のいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0022】
(7)前記組成物が、ZrO
2として算出されるZr含有量を、この組成物の固体含有量に対して8質量%未満、好ましくは5質量%未満、特に好ましくは1質量%未満有していることを特徴とする、(1)から(6)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0023】
(8)前記組成物の硫酸含有量が、0.05質量%〜3.5質量%、好ましくは0.2質量%〜3.0質量%、特に好ましくは0.5質量%〜2.5質量%であることを特徴とする(1)から(7)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0024】
(9)Cl/TiO
2の比の値が、0.0005より小さい、好ましくは0.0001より小さいことを特徴とする、(1)から(8)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0025】
(10)前記組成物が、懸濁液またはペーストの形態で存在していることを特徴とする、(1)から(9)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物。
【0026】
(11)硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られる、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有しているチタン化合物、鉄化合物ならびにタングステン化合物の混合を含んでいる、(1)から(10)までのいずれか1つの実施態様に記載の組成物の製造方法。
【0027】
(12)水溶性の鉄化合物および/または水溶性のタングステン化合物が、前記チタン化合物上に析出されることを特徴とする(11)に記載の方法。
【0028】
(13)前記組成物が、触媒への加工の前に300℃を上回る熱処理に供されておらず、100〜500m
2/g、好ましくは200〜400m
2/gの前記組成物のBET表面積が得られることを特徴とする、実施態様(11)または(12)のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
(14)実施態様(1)から(10)までのいずれか1つに記載の組成物の、触媒の製造のための使用。
【0030】
(15)実施態様(1)から(10)までのいずれか1つに記載の組成物を含んでいる触媒または触媒原料。
【0031】
(16)形状安定な触媒活性の固形体において、
(i)実施態様(1)から(10)までのいずれか1つに記載の組成物を、結合剤、可塑剤および場合によりさらなる添加剤と混合し、こうして得られた組成物を、好ましくは押出により成形して、引き続き焼成する、
または、
(ii)実施態様(1)から(10)までのいずれか1つに記載の組成物を、場合により結合剤、可塑剤および/またはさらなる添加剤と一緒に担体材料に塗布して、引き続き焼成する、
ことにより得られる前記固形体。
【0032】
本発明による組成物ならびにその製造方法の特徴は、チタン化合物、鉄化合物、およびタングステン化合物の組み合わせを使用することにあり、このチタン化合物は、硫酸法によるTiO
2の製造において硫酸チタニルを含む溶液の加水分解で得られ、および/または微晶質のアナターゼ型構造を有している。
【0033】
前記チタン化合物は、150m
2/g超、好ましくは200m
2/g超、特に好ましくは250m
2/gのBET表面積を有していて、大規模工業的に容易に入手可能な微晶質のTiO
2からなっているのが好ましい。
【0034】
チタン化合物として、好ましくは微晶質のアナターゼ型二酸化チタンが使用され、この二酸化チタンは、純粋なTiO
2であってよい、または純粋なTiO
2を含んでいてよいだけでなく、酸化チタン水和物であってよい、または酸化チタン水和物を含んでいてもよい。酸化チタン水和物(二酸化チタン水和物またはメタチタン酸とも呼ばれる)は、化学式TiO(OH)
2、H
2TiO
3またはTiO
2・xH
2O(式中、xは0より大、1以下)により記載することができる。
【0035】
しかし、前記チタン化合物、好ましくは前述の酸化チタン水和物は、X線回折法により測定される、アナターゼ型の二酸化チタンの、ルチル型の二酸化チタンに対する比90:10超、特に好ましくは99:1超を有していてもよい。X線結晶性(roentgenkristallinen)の相は、X線回折法により質的かつ量的に測定することができる(例えば、H.Kirschner und B.Koppelhuber−Bitschnau,Roentgenstrukturanalyse und Rietveldmethode,5.Auflage,Friedr.Vieweg & Sohn Verlagsgesellschaft mbH,Braunschweig/Wiesbaden,1994を参照)。
【0036】
前記酸化チタン水和物の粒子は、例えば硫酸を含む硫酸チタニル溶液の加水分解により得ることができる。硫酸を含む硫酸チタニル溶液の起源および組成に応じて、前記加水分解では、酸化チタン水和物の硫酸懸濁液が得られ、これは、不所望の不純物、特に重金属をさらに含んでいることがある。したがって、一般に、酸化チタン水和物から不所望の不純物を除去するために、1つまたはそれ以上の洗浄工程が行われる。
【0037】
硫酸法による二酸化チタンのための製造法で生じる、硫酸チタニルの加水分解により発生する酸化チタン水和物を使用するのが好ましい。前記方法は、例えばIndustrial Inorganic Pigments,3.Auflage,Hrsg.Gunter Buxbaum,Wiley−VCH,2005に記載されている。
【0038】
微晶質という概念は、この関連においては、シェラーの方程式による微晶質のTiO(OH)
2のX線粉末回折図の反射幅の評価が、4〜10nmの結晶子の平均的なサイズを示していると理解される。
【0039】
本発明による微晶質の材料は、上述の通り、硫酸を含む硫酸チタニル溶液の加水分解により得ることができ、硫酸法による二酸化チタンのための製造法で生じるものである。
【0040】
非晶質の酸化チタン水和物は、本発明による微晶質の材料と比べて非常に大きく広がったX線反射を示しており、その相応の結晶領域(Kristalldomaenen)は4nm未満の大きさを有しており、例えばチタンアルコキシド、例えば、Ti(OEt)
4の加水分解から得ることができる。
【0041】
高結晶性の材料、例えば、Crenox GmbH社のA−K−1は、微晶質または非晶質のTiO(OH)
2の熱処理により得ることができ、10nm超のシェラー評価による結晶子の大きさを有している。A−K−1の典型的な特性は、約20nmの結晶子の大きさ、および約90m
2/gのBET表面積である。
【0042】
驚くべきことに、特に、微晶質のTiO(OH)
2の、触媒活性材料の製造のための出発材料としての使用は、非晶質のTiO
2もしくは高結晶性のTiO
2と比べて有利であることが示されたことを見出すことができた。
【0043】
前記チタン化合物もしくは酸化チタン水和物の硫酸塩含有量は、TiO
2に対して好ましくは2.5質量%までである。例えば、この硫酸塩含有量は、TiO
2に対して0.5〜2.5、好ましくは1.5〜2.5質量%であってよいが、0.5質量%よりも小さくてもよい。
【0044】
前記チタン化合物、例えば酸化チタン水和物もしくは前記組成物は、好ましくは150m
2/g超、好ましくは200m
2/g超、特に好ましくは250m
2/g超のBET表面積を有している。前記チタン化合物の最大BET表面積は、好ましくは500m
2/gである。BET表面積の測定は、ここでDIN ISO9277に準拠してN
2を用いて77Kで、酸化チタン水和物粒子からの、140℃にて1時間脱気および乾燥された試料で行われる。評価は、多点測定(10点測定)で行われる。
【0045】
本発明による組成物は、鉄化合物およびタングステン化合物がTiO
2を含む担体上に塗布されて存在しているのが好ましく、水溶性の化合物が使用されるのが好ましい。
【0046】
本発明による組成物は、好ましくはナトリウムを含んでいて、Na
2O/TiO
2と示されるNa/Tiの質量比の値は、好ましくは0.001よりも小さく、特に好ましくは0.0001よりも小さい。
【0047】
本発明による組成物は、さらに好ましくは元素SiまたはMnの化合物、またはこれらの元素の組合せをさらなる添加物として含んでいる。
【0048】
本発明による組成物中では、SiO
2の質量分率は、好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは5〜10質量%であってよく、および/またはMnO
2として示されるマンガンの質量分率は、好ましくは0〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%である。
【0049】
本発明による組成物は、触媒への加工の前に、300℃を上回る熱処理に供されてよく、この熱処理後の前記組成物のBET表面積は、好ましくは10〜250m
2/g、特に好ましくは50〜150m
2/gである。
【0050】
それとは別に、本発明による組成物は、触媒への加工の前に、300℃を上回る熱処理に供されなくてよく、前記組成物のBET表面積は、この場合、好ましくは100〜500m
2/g、特に好ましくは200〜400m
2/gである。
【0051】
本発明による組成物の製造は、ここで好ましくは酸化チタン水和物を出発点としており、この酸化チタン水和物は、水性懸濁液として、例えば含浸法によって、触媒活性成分が備えられる。前記組成物の触媒活性成分もしくはプロモーターの鉄およびタングステンは、水溶性の化合物、例えば、クエン酸鉄アンモニウムまたはパラタングステン酸アンモニウムによって導入される、もしくは酸化チタン水和物上で析出され、前記化合物は、熱処理下にそれぞれの酸化物に変わる。ここで、担持の結果として、酸化物の化合物、水酸化物の化合物、純粋な前駆体化合物または前記3つの種類の混合型がTiO(OH)
2上に析出したかどうかは重要ではない。
【0052】
析出の後、好ましくは2〜9、特に好ましくは3〜7.5のpH値が得られる、もしくは調整される。
【0053】
典型的には、水中に懸濁されたTiO(OH)
2に撹拌しながらそれぞれの混合酸化物前駆体を加える。ここで、この添加は、相応の金属塩の固体の形で、またはしかし、相応の金属塩の水性溶液としても行われてよい。ここでの添加の順序は、任意に選ぶことができ、それぞれの金属塩は、あらかじめ一緒に溶解されて、次にTiO(OH)
2懸濁液に添加されてもよい。金属塩によるTi(OH)
2の処理は、金属塩の溶解されていない成分が、本発明による組成物の乾燥前に懸濁液中に残留していないことが担保されることだけが必要である、それというのは、これにより金属塩の析出がTiO(OH)
2上で行われないからである。金属塩の添加後に、pH値の変化のゆえに、例えば、金属水酸化物の沈殿が起こらないことが注意されねばならない、それというのは、これにより同様に、TiO(OH)
2上での金属の種類の可能な限り均一な析出が保証されえないからである。それゆえ、場合により、選択された金属塩によって、例えば、アンモニアまたは硫酸を使ってpH値の訂正を行う必要がありうる。金属塩によるTiO(OH)
2の処理の時間および温度は、固体の形態の塩を添加する場合は、それらの金属塩の溶解度に合わせる。例えば、溶解しやすい化合物、例えば、実施例で使用される塩、クエン酸鉄アンモニウムおよびパラタングステン酸アンモニウムでは、この混合物を室温で30分間撹拌すれば充分でありうる。比較的長い処理時間は、触媒による特性にマイナス効果を全く示さない。本発明による組成物は、金属塩による処理により得られる。押出により得られるDeNO
x完全触媒(Vollkatalysatoren)を製造するための使用の場合、前記組成物から水を除去して、金属塩を相応の酸化物に変換することが必要であることがある。水の除去は、様々な方法で行われてよい。例えば、実験規模でのロータリーエバポレーターによる蒸留による除去でも、乾燥棚(130℃および常圧)での例えばガラスまたは金属容器内での蒸発濃縮でもよい。大規模工業的には、スプレードライ、またはスピンフラッシュドライを使用してよい。同様に、フィルタープレスによる焼成前の含水率をより少なくすることができる。
【0054】
触媒として使用する前に、触媒活性種が生成されることだけが担保されなければならない。これは、一般に、焼成工程により担保される。この焼成は、例えば回転炉において間接的な加熱によって、しかし直接的な加熱によっても行われてよい。同様に、熱水焼成工程は、触媒活性種を生成することができる。静的焼成、例えばマッフル炉での静的焼成も、高動的焼成と同じく、例えばいわゆる脈動反応器での1秒未満から数十秒までの滞留時間での短期焼成によって、触媒活性種を得るために有益であることがある。
【0055】
本発明によれば、高い温度安定性を示す、組成物もしくは触媒原料および触媒を得ることができる。ここで、熱安定性を高めるためには、安定させる物質をTiO
2に塗布することが有利でありうる。ここで、SiO
2、Al
2O
3、または例えばP
2O
5を目標化合物として考慮にいれてよい。本願の場合、例えばSiO
2がTiO(OH)
2上に析出されている。後続の含浸工程は、その後、触媒活性成分もしくは構造を安定させる成分を導入することができる。触媒活性に好影響を及ぼす、および/または熱安定性を有する金属酸化物は、例えば、タングステン、鉄、セリウム、ケイ素および/またはマンガンの酸化物である。
【0056】
場合により、例えば、SiO
2が、NaSiO
3からの沈殿により導入される場合、追加的なろ過工程および洗浄工程が、さらなる触媒活性成分もしくは構造を安定させる成分を塗布する前に必要になることがある。
【0057】
形状安定な触媒活性の固形体
本発明による組成物から本発明による形状安定な固形体を製造するには、本発明による組成物を、有機結合剤および場合により可塑剤(例えば、アルカリ金属ステアリン酸塩)およびさらなる添加剤、例えばガラス繊維と、好ましくは水の存在下に混合して、セラミックのペーストを製造する。この組成物は、ここで、こうして得られた混合物に対して、好ましくは60〜90質量%、特に70〜80質量%の量で使用される。
【0058】
結合剤および/またはチキソトロピー剤として、層状ケイ酸塩、例えばベントナイトおよびカオリンを用いてよい。層状の構造ユニット(フィロシリケート)を有するこれらの鉱物の典型的な例は、蛇紋岩Mg
3(OH)
4[Si
2O
5]、カオリナイトAl
2(OH)
4[Si
2O
5]、ならびにベントナイトの主要鉱物であるモンモリロナイトである。
【0059】
混合物として使用することができるさらなる添加剤は、例えば構造強化のためにガラス繊維(例えば、5〜15質量%の含分で)、結合剤としてアクリルポリマー、安定剤/可塑剤としてセルロースまたはセルロース誘導体、可溶化剤および/または錯体形成剤として水酸化アンモニウム、無機酸、例えば乳酸もしくはシュウ酸、ならびにpH調整のためにアミノアルコール、例えばアミノメチルプロパノールまたはモノエタノールアミンを含んでいる。
【0060】
本発明による触媒原料、結合剤、場合により可塑剤およびさらなる添加物からこうして得られた混合物のさらなる加工では、実質的に2つの別形、すなわちいわゆる完全触媒の製造と、触媒活性の粉末が固体の担体に塗布されるシェル触媒(Schichtkatalysatoren)の製造とで区別することができる。
【0061】
完全触媒とは、形状安定な固形体と理解され、この固形体は、完全もしくは全般的に、本発明による触媒原料、結合剤、場合により可塑剤およびさらなる添加剤からの上述の混合物から製造されるものである。「形状安定」とは、本発明によれば実質的に「粉末状でない」および自己支持性と理解される。そのためには、前記混合物は好ましくは混練され、その後、好ましくは押出またはプレスにより、一定の形にされる。特に好ましくは、前記混合物は、押し出されてハニカム状の固形体と描写できるセラミックモノリスにされる。ここでハニカムは、任意の、当業者に公知の幾何学的形状をとってよい。このハニカムは、一般に、断面が正方形であり、その名前から推測されるような六角形ではない。総質量に対して少なくとも80質量%の担体材料含有量を有する形状安定な固形体が好ましい。
【0062】
押出もしくはプレスの後、前記固形体は乾燥され、引き続き焼成される。こうして得られたハニカム体は、好ましくは壁厚さ0.5〜2mm、および溝幅3〜10mmを有している。
【0063】
特に、押出により製造される完全触媒の原料としての使用の場合、大きすぎるBET表面積は、混練プロセスおよび/または押出プロセスにおいて加工の問題をもたらすことがある。BET表面積の好ましい範囲50〜150m
2/gへの低下は、例えば550℃の温度で1時間焼成することにより行うことができる。
【0064】
シェル触媒の製造では、以下の通り行われる:本発明による組成物は、場合により結合剤、可塑剤および/またはさらなる添加剤と一緒に担体材料に塗布され、引き続き乾燥されて焼成される。この担体材料は、幾何学的な体、好ましくは成形された板および場合により穴あけされた板、例えば紙またはセラミック、または金属もしくは金属網の板であってよい。典型的に使用されるセラミックハニカム体は、本発明による組成物で被覆する場合、担体材料のはたらきをすることができ、例えば、コーディエライトからなっている。
【0065】
触媒としての適用
本発明による組成物および成形体は、触媒に好適である。
【0066】
本発明による触媒原料およびそれに由来する生成物は、排ガス中の窒素酸化物(NO
x)の、含窒素化合物、好ましくはアンモニアもしくはNO
xとの反応中または反応前にアンモニアに変わる窒素を含む出発化合物(ここで、尿素が特に好ましい)による効率的な触媒還元のための脱硝触媒としての、排煙脱窒(DeNO
x)のための方法における使用に好適である。とりわけ、
【数2】
で示される、窒素酸化物の、アンモニアによる選択接触還元(SCR)における使用に、ここで関心が持たれている。導入領域は、移動性の分野では、自動車、乗用車、貨物自動車、船舶、ならびに固定性の分野では、例えば発電所、石炭発電所、ガス発電所、ゴミ焼却設備、硝酸生産または硝酸加工のための設備、製鉄所である。
【0067】
本発明は、特に、本発明による形状安定な固形体の、窒素酸化物を低減させるための触媒としての、特に選択接触還元(SCR)のため、つまり、迅速なSCR(fast SCR)のための使用を提供し、この選択接触還元では、以下の反応:
【数3】
が進行する。
【0068】
本発明による触媒の、自動車における、特に好ましいのは酸化触媒との組み合わせでの、好ましくは下流に接続されての使用が特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】例1および例2で得られた試料の触媒活性(NO変換値)を、温度との関連において、WO
3を10質量%含んでいるTiO
2/WO
3担体上のV
2O
5 1.5質量%を有する例X8による標準材料と比べて示す図。
【
図2】48時間で750℃まで加熱して劣化させた後の例1および例2で得られた試料の触媒活性(NO変換値)を、温度との関連において、例X8による標準材料と比べて示す図。
【
図3】本発明により使用された微晶質のアナターゼ型TiO(OH)
2をベースとする例X5で得られたTi−Fe試料の触媒活性(NO変換値)を、温度との関連において、非晶質(例X6)もしくは高結晶性のアナターゼ型TiO
2(例X7)をベースとするTi−Fe試料と比べて示す図。
【0070】
実施例
本発明によるDeNO
x触媒粉末の製造は、例えば、例1から例4までに記載されている簡単な水性含浸工程によって行われる。SiO
2は、NaSiO
3からの沈殿により導入され、それによりろ過工程および洗浄工程が必要であった。
【0071】
製造例
製造例1:Ti−W−Fe材料
本発明による微晶質のTiO(OH)
2の約25%懸濁液3036gに、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム247.19gを加える。約30分撹拌した後、同じく撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム75gを添加する。引き続き再び約30分撹拌する。ロータリーエバポレーターで前記溶剤を除去して、乾燥棚にて130℃で2時間乾燥させた後、本発明による組成物が粉末として得られる。
【0072】
製造例2:Ti−W−Fe−Ce材料
本発明による微晶質のTiO(OH)
2の約15%懸濁液950gに、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム22.47gを加える。約30分撹拌した後、同じく撹拌しながら酢酸セリウム(III)68.47gを添加する。引き続き再び約30分間撹拌して、その後撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム20.23gを添加する。30分間の再撹拌の後、前記溶剤をロータリーエバポレーターで除去して、乾燥棚にて130℃で2時間乾燥を行う。
【0073】
製造例3:Ti−W−Fe−Si材料
本発明による微晶質のTiO(OH)
2の10%懸濁液1943gに、5分以内にNa−水ガラス溶液(SiO
2 27.66%)87.75gを加える。添加した後、pH値6.0に調整する。ろ過した後、残留物を、ろ過液の最終導電率が70μS/cm未満に達するまで熱水で洗浄する。得られたこの固体物質を水約1L中に懸濁させて、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム83.41gを加える。約30分後に、クエン酸鉄アンモニウム33.37gを添加する。再び約30分撹拌して、得られた懸濁液から溶剤をロータリーエバポレーターでの蒸留により除去する。空気循環乾燥棚(Umlufttrockenschrank)にて130℃で2時間乾燥の後、本発明による組成物が粉末として得られる。
【0074】
製造例4:Ti−W−Fe−Si−Ce材料
本発明による微晶質のTiO(OH)
2の10%懸濁液1565gに、5分以内にNa−水ガラス溶液(SiO
2 27.66%)70.67gを加える。添加した後、pH値6.0に調整する。ろ過した後、残留物を、ろ過液の最終導電率が70μS/cm未満に達するまで熱水で洗浄する。得られたこの固体物質を水約1リットル中に懸濁させて、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム75.72gを加える。約30分後に、Ce(NO
3)
3 126.22gを添加する。約30分後に、撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム30.30gを添加する。再び約30分撹拌して、得られた懸濁液から溶剤をロータリーエバポレーターでの蒸留により除去する。空気循環乾燥棚にて130℃で2時間乾燥の後、本発明による組成物が粉末として得られる。
【0075】
製造例X1(比較例):非晶質のTiO(OH)
2上のTi−W−Fe、前駆体:硫酸チタニル
硫酸チタニル溶液534.51g(換算して9.23%のTiO
2含有量を有する)を、25%のアンモニア溶液でpH値6.5にする。生じる懸濁液を、さらに30分撹拌し、ろ過して、導電率が70μS/cm未満になるまで洗浄する。こうして得られた材料に水を加えて、この懸濁液531g(TiO
2約8.08%を含んでいる)に、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム14.65gを添加する。さらに30分後、クエン酸鉄アンモニウム8.33gを添加する。この懸濁液を再び30分間撹拌した後、蒸留およびその後乾燥棚内で乾燥させることにより溶液を除去する。
【0076】
製造例X2(比較例):非晶質のTiO(OH)
2上のTi−W−Fe、前駆体:オルトチタン酸テトラエチル(TEOT)
TEOT250mlにエタノール2730mlを加える。ゆっくりと撹拌しながら、この溶液に、エタノール150ml/H
2O 2830mlの混合物を滴加する。完全に添加した後、1時間撹拌し、引き続きこの残留物をろ過して、エタノールで洗浄する。このろ過残留物に水を混合して約20%の懸濁液にする。この懸濁液442gに、撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム12.66gを加える。さらに30分後に、クエン酸鉄アンモニウム7.17gを添加する。この懸濁液を再び30分間撹拌した後、蒸留および引き続き乾燥棚内で乾燥させることにより前記懸濁液から溶剤を除去する。
【0077】
製造例X3(比較例):非晶質のTiO(OH)
2上のTi−W−Fe、前駆体:H
2SO
4を添加したオルトチタン酸テトラエチル(TEOT)
前記懸濁液442gに、96%のH
2SO
4 0.64gを加え、30分間さらに撹拌する。引き続き、パラタングステン酸アンモニウム12.66gを撹拌しながら添加する。さらに30分後、クエン酸鉄アンモニウム7.17gを添加する。前記懸濁液を30分間再び撹拌した後、蒸留および引き続き乾燥棚内で乾燥させることにより前記懸濁液から溶剤を除去する。
【0078】
製造例X4(比較例):高結晶性のTiO
2上のTi−W−Fe
H
2O 196.24gに、AK−1(Crenox GmbH社の結晶子の大きさ10nm超、BET表面積約90m
2/gの、商業的に入手可能の、高結晶性のTiO
2)50.46gを5分以内に添加する。こうして得られた20%の懸濁液に撹拌しながらパラタングステン酸アンモニウム16.07gを添加して、さらに30分撹拌する。クエン酸鉄アンモニウム6.36gを添加し、30分撹拌した後、前記懸濁液を濃縮して乾燥物にする(例えば、ロータリーエバポレーターで)。
【0079】
製造例X5(比較例):本発明による微晶質の酸化チタン水和物上のTi−Fe
TiO(OH)
2懸濁液2244g(TiO
2 490gに相当)に、撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム66.7gを加え、30分間撹拌する。懸濁液から、蒸留および引き続き乾燥棚内で乾燥させることにより溶剤を除去する。
【0080】
製造例X6(比較例):新たなTiOSO
4からの、非晶質の酸化チタン水和物上のTi−Fe
TiO
2含有量9.22%の硫酸チタニル溶液1062.9gを、25%のアンモニア溶液でpH7.5に調整し、生じる沈殿物をろ過して、水で最終導電率70μS/cm未満まで洗浄する。水で再懸濁された沈殿物(TiO
2約20%)に、撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム12.45gを加えて、30分間撹拌する。この懸濁液から、蒸留および引き続き乾燥棚内で乾燥させることにより溶剤を除去する。
【0081】
製造例X7(比較例):結晶性のTi前駆体上のTi−Fe:
水1948.8gにA−K−1(Crenox GmbH社の結晶子の大きさ10nm超、BET表面積約90m
2/gの、商業的に入手可能の高結晶性のTiO
2)501.2gを添加する。この約20%の懸濁液に、撹拌しながらクエン酸鉄アンモニウム66.7gを加える。この懸濁液を30分間撹拌した後、蒸留および引き続き乾燥棚内で乾燥させることにより溶剤を除去する。
【0082】
製造例X8(比較例):Ti/W/V−バナジウムを含む比較生成物
丸底フラスコ2L内で、A−DW−1(Crenox GmbH社の、WO
3 10質量%および結晶子の大きさ10nm超およびBET表面積約90m
2/gの商用的に入手可能の高結晶性のTiO
2)200gを水1000mlに懸濁させて、撹拌しながらメタバナジン酸アンモニウム3.87gを加える。撹拌しながら10分で70℃まで加熱して、引き続きこの溶剤を真空で除去する。乾燥棚にて乾燥および焼成の後、使用したA−DW−1に対してV
2O
5 1.5質量%を有する、完成した、触媒活性の比較材料が得られる。
【0083】
触媒活性の測定のための例
触媒活性の測定のために、製造例によって得られる原材料の焼成を、マッフル炉内で550℃にて1時間行い、ここで、金属酸化物前駆体は反応してそれらの酸化物になる。
【0084】
耐劣化性の試験のために、まず550℃で1時間焼成した前記粉末を、マッフル炉にて750℃で48時間、さらなる熱処理に供した。
【0085】
触媒作用による測定で使用する前に、前記試料を、プレス、引き続き粉砕、およびふるい分けにより粒子直径255〜350μmを有する粒分に変えた(ふるい分級物)。
【0086】
触媒の負荷を定量化するために、空間速度(GHSV、gas hourly space velocity)を使用した。これは、出発気体の総体積流量と触媒体積とからの指数として定義されている:GHSV=V
気体/(m
触媒/ρ
触媒)。この場合、総体積流量183.4ml/minが、触媒75mgによって送られ、そこから空間速度GHSVは100,000h
-1であることが結果として生じる。いずれの場合において、出発気体混合物は、NO 1000ppm、NH
3 1000ppm、およびヘリウム中のO
2 2%を含んでいた。生成物気体混合物の分析は、NO、NO
2ならびにNH
3を検出するために光度測定器(BINOS)の組み合わせを用いて行われた。
【0087】
図1および
図2は、例1および例2による試料の触媒試験台(Katalyseteststand)で達成されたNO変換値を温度との関連において示している。比較として、WO
3 10質量%を含んでいるTiO
2/WO
3担体上のV
2O
5 1.5質量%を有する標準材料の曲線が示されている。
図1では、組成物Ti/W/Feを有する本発明による材料が、約450〜600℃の高い温度範囲において、例X8によるバナジウムを含んでいる標準材料に比べて主要な利点を示していることがはっきりと読み取れる。低温範囲(約200〜300℃)では、Ti/W/Ce/Feの系は、卓越した変換率を示している。前記粉末を48時間で750℃まで加熱することにより劣化させた後(
図2)、Ti/W/Ce/Feの系の場合、低い温度範囲においてわずかな変換率損失が見て取れる。しかし、得られた変換値は、例X8による劣化させていない比較材料の値を依然として著しく上回っている。約450〜600℃の高い温度範囲では、Ti/W/Ce/Feの系の場合、さらに、前記比較材料の触媒活性とほぼ等しい比較的高い活性が見て取れる。Ti/W/Feの系の場合、SiO
2の導入により、劣化後にもとりわけ高い温度範囲において非常に優れた触媒値を提供する材料が得られる。
【0088】
図3は、本発明により使用された形態での微晶質のアナターゼ型TiO
2が、非晶質もしくは高結晶性のアナターゼ型TiO
2と比べて、本発明によるDeNO
x触媒の製造で根本的な利点を提供することを示している。これらの変換率曲線は、使用されたアナターゼ型TiO
2の結晶度でのみ区別される同一に構成された系の場合、本発明により使用された微晶質のTiO
2の場合、明らかにより優れた値が得られることをはっきりと示している。