【実施例】
【0052】
<4.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、吸収層12について、単層構造(Ta、Si)と、2層構造(Ta/Si)のサンプルを作製し、光学特性について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1:吸収層Ta]
図3(A)に示すように、先ず、水晶基板上に吸収層としてTa、誘電体層としてSiO
2、反射層としてAlSiを成膜した。また、反射層上に反射防止膜(BARC)を成膜し、レジストにより格子状のマスクパターンを形成した。なお、水晶結晶の光学軸に対して平行方向に吸収層、誘電体層、及び反射層を積層させた。
【0054】
次に、
図3(B)に示すように、Ar/O
2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、Cl
2/BCl
3によりAlSiをエッチングした。その後、
図3(C)に示すように、H
2Oプラズマにより腐食層(塩化化合物)を除去し、O
2アッシングにより、レジスト、反射保護膜を除去した。そして、
図3(D)に示すように、CF
4/ArガスによりSiO
2、Ta、及び水晶をエッチングし、格子状凸部を形成し、実施例1の偏光素子を作製した。
【0055】
図4に、実施例1の偏光素子を示す概略断面図を示す。この偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Taの厚さを20nm、SiO
2の厚さを50nm、AlSiの厚さを45nmとした。
【0056】
図5に、実施例1の偏光素子の光学特性を示す。
図5に示す結果から、吸収層としてTaを用いた偏光素子は、長波長側において良好なコントラストを持つことが分かった。
【0057】
また、
図6に、実施例1の偏光素子の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)画像を示す。この断面写真より、吸収層の透過軸方向の幅が他の層(反射層、誘電体層)よりも小さいことが分かる。これは、CF
4/Arガスによるエッチングによるものであるが、吸収層の幅が他の層よりも小さいことにより、後述するように、吸収軸反射率Rsが最小となる波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0058】
なお、実施例1の偏光素子は、水晶基板を露出させるため、オーバーエッチングにより水晶基板が掘り込まれているが、エッチング条件を変更し、水晶基板を掘り込まないようにしても構わない。
図7に、水晶基板が掘り込まれていない偏光素子の断面のSEM画像を示す。オーバーエッチングによる水晶基板の掘り込みの有無によっては、偏光素子の光学特性に大きな変化は見られなかった。
【0059】
[実施例2:吸収層Si]
図8に、実施例2の偏光素子を示す概略断面図を示す。この偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Siの厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを45nmとした。なお、吸収層をSiとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の偏光素子を作製した。
【0060】
図9に、実施例2の偏光素子の光学特性を示す。
図9に示す結果から、吸収層としてSiを用いた偏光素子は、短波長側において良好なコントラストを持つことが分かった。
【0061】
[実施例3:吸収層Ta/Si]
図10に、実施例3の偏光素子を示す概略断面図を示す。この偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Taの厚さを10nm、Siの厚さを10nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを45nmとした。なお、吸収層をTa、Siの2層構造とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の偏光素子を作製した。
【0062】
図11に、実施例3の偏光素子の光学特性を示す。
図11に示す結果から、吸収層としてTa、Siを積層した偏光素子は、実施例1の長波長側の良好なコントラストと実施例2の短波長側の良好なコントラストとを併せ持つことが分かった。
【0063】
[実施例1〜3の偏光素子の緑域の特性]
表1に、実施例1〜3の偏光素子について、測定波長を緑域の520〜590nmとしたときの透過率と反射率の平均値を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
同等のコントラストが得られる偏光素子について、理想的な特性とは、透過軸透過率が高く、反射率が低いことであるが、実施例1、2の特性を見ると、実施例1は、長所として反射率が低いものの、短所として透過率が低かった。一方、実施例2は、長所として透過率が高いものの、短所として反射率が高かった。これに対し、実施例3は、透過軸透過率が高く、反射率が低いという理想的な特性が得られた。なお、実施例3は、吸収軸反射率の波長選択性が強くなっているが、Si膜厚もしくはSiO
2膜厚を調整することで、低反射の波長帯域をコントロールすることが可能である。
【0066】
[実施例4:グリッド幅に対する吸収軸透過率]
次に、偏光素子におけるグリッド幅を変化させ、吸収軸透過率を測定した。
図12にグリッド幅に対する吸収軸透過率の関係を示す。なお、吸収率透過率は、520〜590nmの緑域を測定波長としたときの平均値である。また、偏光素子の凸部のピッチを150nmとし、吸収層(Ta、Si、Ta/Si)の厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを45nmとした。
【0067】
図12に示す結果より、吸収層としてTa、Siを積層した偏光素子は、吸収層がSi単層の偏光素子と同程度にまで、吸収軸透過率を低下させることができることが分かった。また、グリッド幅により吸収軸透過率をコントロール可能であることが分かった。
【0068】
[実施例5:吸収層の積層順に対する光学特性]
図13に示すように水晶基板上にTa、Siをこの順番に積層(積層順A)した偏光素子と、
図14に示すように水晶基板上にSi、Taをこの順番に積層(積層順B)した偏光素子を作製した。
図15及び
図16に、それぞれ積層順A及び積層順Bの偏光素子の断面のSEM画像を示す。
【0069】
これらの偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Taの厚さを5nm、Siの厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを35nmとした。なお、吸収層をTa、Siの2層構造とした以外は、実施例1と同様にして、積層順A、Bの偏光素子を作製した。
【0070】
図17及び
図18に、それぞれ積層順A及び積層順Bの偏光素子の光学特性を示す。また、表2に、積層順A及び積層順Bの偏光素子について、測定波長を青域の430〜510nm、緑域の520〜590nm、及び赤域の600〜680nmとしたときの透過率と反射率の平均値を示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示す結果から、吸収層としてTa、Siを積層した偏光素子は、積層順A、Bともに緑域(520〜590nm)において反射率が低く、良好なコントラストが得られることが分かった。
【0073】
また、
図19及び
図20に、測定波長を緑域の520〜590nmとしたときの透過軸及び吸収軸における透過率及び反射率をプロットしたグラフを示す。これらの結果において、積層順A及び積層順B共に反射率に差は見られないものの、透過率については積層順Aよりも積層順Bの方が良好であることが分かった。
【0074】
[実施例6:吸収層の幅に対する光学特性]
次に、
図21に示すように吸収層の幅Wを変え、光学特性に及ぼす影響について評価した。先ず、シミュレーションソフト(GSD社製、Gsolver)を用いて、幅Wが40.0nm、37.5nm、30.0nm、及び22.5nmである偏光素子の光学特性を計算した。偏光素子のモデルは、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Taの厚さを5nm、Siの厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを35nmとし、水晶基板上にSiを積層させた積層順Bのものを用いた。
【0075】
図22〜
図25に、透過軸透過率Tp、透過軸反射率Rp、吸収軸透過率Ts、及び吸収軸反射率Rsのシミュレーション結果を示す。
図22及び
図23に示す透過軸においては、吸収層の幅Wの違いによる大きな差は見られなかった。一方、
図24及び
図25に示す吸収軸においては、幅Wが小さくなるにしたがって透過率Tsが上がり、反射率Rsの最小となる波長が短波長側にシフトすることが分かった。
【0076】
また、吸収層の幅Wが異なる偏光素子を作製し、前述したシミュレーション結果を検証した。吸収層の幅W(サイドエッチング量)は、CF
4/Arガスによるエッチングにおけるエッチング時間により調整した。なお、前述した
図16に示す積層順Bの偏光素子(幅W=46.6nm)をサンプルAとした。
【0077】
図26に、吸収層の幅Wをグリッド幅よりも小さくした偏光素子の断面のSEM画像を示す。この偏光素子は、吸収層の幅Wが41.0nmであった。これを、サンプルBとした。また、この偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、グリッド幅を45nm、Taの厚さを5nm、Siの厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを35nmとした。なお、吸収層をTa、Siの2層構造とした以外は、実施例1と同様にして、積層順Bの偏光素子を作製した。
【0078】
図27〜
図30に、透過軸透過率Tp、透過軸反射率Rp、吸収軸透過率Ts、及び吸収軸反射率Rsの測定結果を示す。
図27及び
図28に示す透過軸においては、シミュレーション同様、吸収層の幅Wの違いによる大きな差は見られなかった。一方、
図29及び
図30に示す吸収軸においても、シミュレーションと同様、幅Wが小さくなるにしたがって透過率Tsが上がり、反射率Rsの最小となる波長が短波長側にシフトしたが、シミュレーションに比べ、大きくシフトすることが分かった。よって、吸収層の幅Wを小さくすることにより、青域(430〜510nm)において反射率が低い偏光素子を得ることができることが分かった。
【0079】
また、表3に、サンプルA及びサンプルBの偏光素子について、測定波長を青域の430〜510nm、緑域の520〜590nm、及び赤域の600〜680nmとしたときの透過率と反射率の平均値を示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示す結果から、吸収層の幅が小さいサンプルBは、高い透過率を有することが分かった。また、サンプルBは、短波長の青域(430〜510nm)において、良好な吸収軸反射率Rsを示すことが分かった。
【0082】
[実施例7:保護膜の成膜]
図31に示すように、耐湿性など信頼性改善を目的として、格子形状を被覆するようにSiO
2からなる保護膜を成膜した。保護膜の厚さは7.5nmであり、格子状凸部の隙間にも保護膜が成膜されていることが確認された。この偏光素子は、液晶表示装置で実用上重要である緑域(550nm近辺)において、コントラスト(消光比:透過軸透過率/吸収軸透過率)が2〜10程度で、反射率が最低になるように構造設計され、ピッチを150nm、保護膜を含むグリッド幅を65nm、Taの厚さを5nm、Siの厚さを20nm、SiO
2の厚さを30nm、AlSiの厚さを35nmとした。また、凸部の形状は、CF
4/Arガスによるエッチングにより、他の層と比較してTa/Si層の幅が細くなっており、水晶基板も5nm掘り込まれていた。すなわち、この偏光素子は、
図13に示す積層順Aの偏光素子と同様にして作製され、さらに保護膜が成膜されたものである。保護膜の成膜方法は、被覆性を良くするため、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)を用い、原料ガスにTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)及びO
2を用いた。
【0083】
図32は、保護膜が形成された偏光素子の断面のSEM画像である。この断面写真より、吸収層の透過軸方向の幅が他の層(反射層、誘電体層)よりも小さいことが確認された。なお、この断面写真では積層された凸部と保護膜との境界が明確ではないが、AlSiとSiO
2界面から凸部頂点までの長さ(AlSiと保護膜を足した厚み)を実測したところ42nmであった。これからAlSi膜厚設計値の35nmを差し引いた分の7nmが保護膜厚と推定できる。
【0084】
また、
図33及び
図34は、それぞれ保護膜が成膜された偏光素子の透過率及び反射率を示すグラフである。CF
4/Arガスによるエッチング後の偏光素子と、プラズマCVDによる保護膜の成膜後の偏光素子とについて、それぞれ透過軸透過率、吸収軸透過率、透過軸反射率、及び吸収軸反射率を測定した(n=36)。
【0085】
CF
4/Arガスによるエッチング後の偏光素子と、プラズマCVDによる保護膜の成膜後の偏光素子との変化量の平均値(n=36)は、それぞれ透過軸透過率が−0.1%、吸収軸透過率が+3.4%、透過軸反射率が±0.0%、及び吸収軸反射率が+0.5%であった。本実施の形態にける偏光素子は、水晶基板側から光が入射されるため、反射率の変化量はほとんどなく、また、透過率の変化量も小さかった。また、
図14に示す積層順Bの偏光素子に保護膜を成膜した場合も同様な結果が得られた。