特許第5936735号(P5936735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936735アナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5936735
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】アナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20160609BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20160609BHJP
   B01J 23/50 20060101ALI20160609BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20160609BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20160609BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160609BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20160609BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20160609BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B01J23/42 M
   B01J23/50 M
   C09D1/00
   B05D5/00 H
   B05D7/24 303B
   B05D7/00 L
   B05D1/36 Z
   B01J35/02 J
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-50889(P2015-50889)
(22)【出願日】2015年3月13日
【審査請求日】2015年4月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513009897
【氏名又は名称】株式会社バイオミミック
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋 口 洋
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−235201(JP,A)
【文献】 特開平09−262481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B32B 9/00
B05D 1/36
B05D 5/00
B05D 7/00
B05D 7/24
C09D 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキソチタン酸水溶液をA液とし、
前記A液を70乃至200℃に加熱して製造したアナターゼ型酸化チタン分散液に、貴金属の塩又はナノコロイドを加えた液をB液とし、
前記B液の前記貴金属の塩又はナノコロイドの含有量は、貴金属の塩又はナノコロイドの重量を金属の重量に換算し、B液の重量を100重量部とした場合に、1×10−4乃至1×10−9重量部の範囲内であり、
建築物の内装面に、前記A液を塗布し乾燥させた上に、前記B液を塗布し乾燥させて形成することを特徴とするアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記A液のペルオキソチタン酸の含有量は、ペルオキソチタン酸の重量を酸化チタンの重量に換算し、A液の重量を100重量部とした場合に、0.1乃至10重量部の範囲内であることを特徴とする請求項に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項3】
前記B液のアナターゼ型酸化チタン含有量は、B液の重量を100重量部とした場合に、0.1乃至10重量部の範囲内であることを特徴とする請求項に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項4】
前記A液の含有するペルオキソチタン酸の重量を酸化チタンの重量に換算した重量と、前記B液の含有する酸化チタンの重量と、の比が、10:1乃至1:10の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属の塩又はナノコロイドが、銅、銀、金、及び白金の塩又はナノコロイドからなる群のうちの1以上であることを特徴とする請求項に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項6】
前記A液の内装面に対する塗布量が1乃至100g/mであり、前記Bの塗布量が1乃至100g/mであることを特徴とする請求項に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【請求項7】
前記内装面が、建造物内部の壁、天井、床、仕切部材、家具、及び照明器具を含むことを特徴とする請求項に記載のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜及びその製造方法に係り、より詳しくは、光触媒活性及び抗菌活性に優れ、膜形成能が高く、内装面との密着性が強く、塗装が容易で、且つ光化学反応によって生成する活性酸素による内壁面への侵襲が軽減された、アナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、アナターゼ型とルチル型の結晶型を有する。この中、アナターゼ型酸化チタンは、光化学反応の触媒活性を有し、光の照射を受けて空気中の酸素を活性化して活性酸素を生成する。生成した活性酸素は、強力な酸化作用を示して種々の物体を酸化分解すると共に、強力な抗菌作用を有することが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
例えば、ガラスの表面に形成されたアナターゼ型酸化チタン膜は、光を受けると活性酸素を発生させてガラスの表面に付着した汚染物を分解除去する。汚染物が除去されたガラスは、本来の親水性をとり戻すので(親水化作用)、表面に付着した水が水玉にならずに広がって曇りを生じない(防曇効果)。アナターゼ型酸化チタン被膜は、この作用を利用して自動車ミラーや交通標識の表面に塗布されている。
【0004】
また、アナターゼ型酸化チタン被膜は、付着した汚染物質を酸化分解すると共に、親水化作用によって雨水を付着面に浸みこませて汚染物質を洗い流すという自己洗浄作用を有する。
更に、光触媒皮膜から生成される活性酸素は、窒素酸化物(NOX)や悪臭物質のような気体を酸化分解するので、アナターゼ型酸化チタン被膜が、高速道路の防音壁や家電製品などの空気清浄、脱臭作用等に用いられている。
【0005】
このように、光触媒の有用性は広く認められており、平成21年度の特許出願技術動向調査報告書によれば、当時の光触媒膜関連産業のグローバル市場規模は一千億円であって、将来的な潜在的な市場規模は、2兆81千億円と見積もられていた(非特許文献1参照)が、市場規模は、まだここまで広がっていない。
このように巨大な潜在市場を開拓するための課題の一つとして、大量生産可能で、安価で、高熱処理を必要としないアナターゼ型酸化チタン被膜の製造方法の確立が要望されている。
【0006】
アナターゼ型酸化チタン被膜の形成方法は、酸化チタン粉体スラリーあるいは塩化チタンや硫酸チタンの水溶液を基体に塗布して焼成する塗布法、金属アルコキシドの加水分解で作製したゾルを基体に塗布して焼成するゾルゲル法、高真空中で酸化物のターゲットをスパッタリングし基体上に成膜するスパッタリング法、有機金属化合物やハロゲン化物を揮発させ加熱炉の中で分解して基体上に膜を作製するCVD法、固体粒子を大気中で発生させたプラズマ中で溶融し基体表面に照射するプラズマ溶射等がある。
【0007】
このうち、塗布法とゾルゲル法とが簡便で実用性が高いとされている。
しかし塗布法は、アナターゼ型酸化チタン膜の形成には数百度以上の温度を必要とするために、基体は高温に耐えるものに限られるという問題点があるし、ゾルゲル法も、原料ゾル中に酸や有機物質を焼成除去するのに400℃以上の加熱が必要であるという同様の問題点を有する。
【0008】
更に、光触媒から放出される活性酸素は基体も侵襲してしまうという問題点がある。即ち、ガラス、金属、及びコンクリートのように、活性酸素に侵襲されない基体の上には光触媒膜を形成することができるが、例えばペイント塗装面のように、活性酸素に侵襲される基体の上に光触媒を塗布すると、汚染物と共に基体が侵襲され、基体の劣化が促進されてしまう。このために、活性酸素に分解される基体の表面にアナターゼ型酸化チタン膜を形成するためには、活性酸素を遮断するアンダーコートが必要である。しかし、そのようなアンダーコート材料は、種類が限定されているし、多くは形成するのに高温が必要である。
更に光触媒は、光のない、若しくは光の弱い場所では、十分な活性を発揮することができないが、抗菌活性に関しては、特に暗所には菌が繁殖しやすいという問題がある。
【0009】
一方、ペルオキソチタン酸水和物の水溶液を加熱することによってアナターゼ型酸化チタンが得られ、可視光に対しても光触媒活性を有する光触媒膜の形成が可能であることが開示されている(例えば、特許文献3、4を参照)。しかし、この方法で製造したアナターゼ型酸化チタン膜は、密着性が十分ではないという問題点を有する。また、基材に対する侵襲を防ぐためにはアンダーコートが必要であるという問題は解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−155598号公報
【特許文献2】特開平9−225319号公報
【特許文献3】特許第2875993号公報
【特許文献4】特許第3490012号公報
【特許文献5】特許第3490013号公報
【特許文献6】特許第2938376号公報
【特許文献7】特許第3122658号公報
【特許文献8】特許第4452689号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】平成21年度特許出願技術動向調査報告書、光触媒(要約版)、(平成22年4月、特許庁、P63−65)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、本発明の課題は、可視光や弱い光線であっても、光触媒活性を有して活性酸素を生成し、自己洗浄作用を有すると共に、内装面に対する活性酸素の侵襲を効果的に遮蔽したナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜を提供することにある。
【0013】
また本発明は、光照射時に光触媒によって生成された活性酸素による強い抗菌作用を示すと共に、暗所においても強い抗菌活性を有するナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜を提供することを課題とする。
更に本発明は、成膜性及び密着性が良く、触媒効率が高く、製造方法が容易であって安価なアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するための本発明のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜の製造方法は、ペルオキソチタン酸水溶液をA液とし、前記A液を70乃至200℃で加熱して製造したアナターゼ型酸化チタン分散液に、貴金属の塩又はナノコロイドを加えた液をB液とし、前記B液の前記貴金属の塩又はナノコロイドの含有量は、貴金属の塩又はナノコロイドの重量を金属の重量に換算し、B液の重量を100重量部とした場合に、1×10−4乃至1×10−9重量部の範囲内であり、建築物の内装面に、前記A液を塗布し乾燥させた上に、前記B液を塗布し乾燥させて形成することを特徴とする。
【0015】
前記A液のペルオキソチタン酸の含有率は、ペルオキソチタン酸の重量を酸化チタンの重量に換算し、A液の重量を100重量部とした場合に、0.1乃至10重量部の範囲内であり、前記B液のアナターゼ型酸化チタン含有率は、B液の重量を100重量部とした場合に、0.1乃至10重量部の範囲内であることを特徴とする。
【0016】
前記A液が含有するペルオキソチタン酸の重量を酸化チタンの重量に換算した重量と、前記B液が含有する酸化チタンの重量と、の比が、10:1乃至1:10の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
前記貴金属の塩又はナノコロイドが、銅、銀、金、及び白金の塩又はナノコロイドからなる群のうちの1以上であることを特徴とする。
ここで、前記B液の貴金属の塩又はナノコロイドの含有率は、貴金属の塩又はナノコロイドの重量を金属の重量に換算し、B液の重量を100重量部とした場合に、1×10−4乃至1×10−9重量部の範囲内であることを特徴とする。
【0018】
前記A液の内装面に対する塗布量が1乃至100g/mであり、前記B液の塗布量が1乃至100g/mであることを特徴とする。
前記内装面が、建造物内部の壁、天井、床、仕切部材、家具、及び照明器具を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜は、チタン原料と過酸化水素水とからA液(ペルオキソチタン酸水溶液)を製造し、A液を70乃至200℃で加熱して製造したアナターゼ型酸化チタン分散液に貴金属を加えてB液とし、内装面にA液を塗布し乾燥させた上に、B液を塗布し乾燥させて容易かつ安価に製造することができ、A液の加熱温度も、ゾル・ゲル法や酸化チタン塗布法よりはるかに低温で製造することができた。
【0020】
また本発明は、B液を塗布し乾燥して形成したアナターゼ型酸化チタン膜が、高い光触媒活性を有し、可視光や弱い光線であっても、光の照射を受けて光化学活性触媒機能を示し、活性酸素を生成して強い自己浄化作用及び強い抗菌、抗カビ、抗ウイルス活性を有すると共に、消臭作用、及びホルムアルデヒド分解作用を示した。
また、含まれた貴金属が、暗所においても強い抗菌、抗カビ、抗ウィルス活性を示し、暗所では活性を示さない光触媒の弱点を補った。
【0021】
更に本発明は、A液を塗布後乾燥することによって形成された非結晶性の酸化チタン膜は、種々の基体と膜形成性及び接着性の良い高密度の膜を形成すると共に、アナターゼ型酸化チタン分散液(B液)から形成されたアナターゼ型酸化チタン膜とも良好な接着性を有し、アナターゼ型酸化チタン膜の接着性の不足を補うと共に、光触媒反応で生成された活性酸素に対する良好なアンダーコート膜の作用を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係るアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜およびその製造方法を詳しく説明する。
本発明は、アナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜に関する。ここで、内装とは、建築物の内面に設けられた装備・部材であれば特に制限されないが、例えば壁、天井、床、扉、間仕切り、家具、照明器具、調理台、浴室、及び便所等を含むことができる。
【0023】
建築物の内装は、一般的に、外装のように厳しい外気条件には曝されることはなく、塗膜の強度はそれほど要求されないものの、より美麗さを要求され、また活性酸素の侵襲を受けやすい材料が多く用いられるので、その対策が必要である。更に、建築物の内部は、受ける光の量が外装より少ないので、より高い光触媒活性を有する酸化チタン複合膜が要求される。内装で処理するべき汚染物としては、通常の汚染物のほかに、悪臭、ホルムアルデヒド、煙草の煙などがあり、また抗菌活性、特に暗所での強い抗菌活性が要求される。
【0024】
このため、本発明のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜は、ペルオキソチタン酸水溶液をA液とし、A液を70乃至200℃で加熱して製造したアナターゼ型酸化チタン分散液に貴金属を加えてB液とし、内装面の基材にA液を塗布し乾燥させて成膜性及び接着性の良いアンダーコート膜を形成させて基材と光触媒膜を接着させると共に活性酸素から基材を保護し、その上にB液を塗布し乾燥させて、アナターゼ型酸化チタン及び貴金属を含有し光触媒作用及び殺菌作用を有する内装用複合膜を形成した。
【0025】
(ペルオキソチタン酸水溶液の製造)
本発明で、A液として用いるペルオキソチタン酸水溶液は、本発明の実施に支障のないものであれば、何れの方法によって製造したものでも使用することができる。
特許文献5に記載されているように、チタン原料含有水溶液に、反応当量より過剰の水酸化水素水を加え、次いでアンモニア水を加えて中和し、得られた黄色溶液を放置してペルオキソチタン酸塩を沈殿させ、沈殿をろ取・洗浄し、水に懸濁させて過酸化水素水を加えると、黄色透明なペルオキソチタン酸水溶液(A液)が得られる。塗布され、乾燥されたA液は、ペルオキソ基を有する非晶質の固体を形成する。
【0026】
また、特許文献6に記載されているように、チタン原料含有水溶液にアルカリ成分を加えて生成させた水酸化チタンゲルを、沈殿形成に用いた物質が検出されなくなるまで十分に水洗して用いることができる。沈殿形成に用いた物質が残存していると、製造したペルオキソチタン酸水溶液(A液)及び時段階のアナターゼ型酸化チタン分散液の凝集が起こり、生成したアナターゼ型酸化チタン分散液の酸化チタン粒子の大きさが大きくなって、塗布剤が不安定になり、密着性あるいは密度が劣る場合があった。得られた水酸化チタンゲルに、過酸化水素水を加えて一夜反応させると、黄色粘調液体のペルオキソチタン酸水溶液(A液)が得られる。
このほか、種々のペルオキソチタン酸水溶液(A液)の製造方法が特許文献7に記載されている。
【0027】
ペルオキソチタン酸水溶液(A液)の濃度は、A液の重量を100重量部とした場合に、ペルオキソチタン酸を酸化チタンに換算した重量が0.1乃至10重量部であることが好ましい。ペルオキソチタン酸の酸化チタン重量に換算した含有量が0.1重量部以下では十分な厚さのアンダーコート膜を形成することができないことがあり、10重量部以上では、ペルオキソチタン酸水溶液の粘度が増加して取り扱いが困難になる場合がある。
【0028】
(アナターゼ型酸化チタン分散液の製造)
ペルオキソチタン酸水溶液(A液)を70℃乃至200℃において、40時間乃至2時間、好ましくは80乃至120℃で3乃至30時間、最も好ましい実例として90℃乃至100℃未満で5乃至20時間の加熱処理をしてアナターゼ型酸化チタン分散液を製造することができる。加熱温度が70℃以下では、反応に時間がかかりすぎて好ましくなく。200℃以上に加熱しても、反応が速くなりすぎて制御が困難になると共に、装置が大掛かりになるだけでそれに見合う効果がない。
特許文献5、6に記載されているように、ペルオキソチタン酸水溶液を加熱処理した液を塗布し固化させて形成された膜のX線解析スペクトルは、アナターゼ型酸化チタンに基づくピークを有する。
【0029】
(貴金属の塩又はナノコロイドの添加)
本発明は、アナターゼ型酸化チタン分散液に貴金属の塩又はナノコロイドを添加してB液とすることを特徴とする。使用する貴金属は、銅、銀、金、及び白金から選ばれる群のうちの1以上を含むことが好ましく、より好ましい例として、銀塩及び白金塩を挙げることができる。これらの貴金属は、強力な抗菌、抗カビ、及び抗ウィルス活性を示す。
【0030】
貴金属を陽イオンとする貴金属塩の陰イオンは、強酸の塩として塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、テトラフロロホウ酸塩、及びヘキサフロロリン酸塩を例示することができ、また、弱酸の塩として酢酸塩、ギ酸塩、炭酸塩を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、白金塩としては、ヘキサクロロ白金酸及びテトラクロロ白金酸及びそれらの塩類を含むことができる。
貴金属ナノコロイドは、本発明の目的に可能物であれば、公知のものを使用することができる。
【0031】
B液中のアナターゼ型酸化チタンの濃度は、B液の重量を100重量部とした場合に、酸化チタンの重量が0.1乃至10重量部であることが好ましい。酸化チタンの重量が0.1重量部以下では、十分な厚さの光触媒膜を形成することができにくくなり、10重量部以上では、アナターゼ型酸化チタンの粘度が増加して取り扱いが困難になる場合がある。
【0032】
B液中の貴金属の塩又はナノコロイドの濃度は、貴金属の塩又はナノコロイドの重量を金属の重量に換算し、B液の重量を100重量部とした場合に、1×10−4乃至1×10−9重量部の範囲内であることが好ましい。貴金属の量が1×10−9重量部以下の濃度では、十分な抗菌活性を示すことができない可能性があり、また1×10−4以上加えても、加えた量に比べて効果が増強されない。
【0033】
(ペルオキソチタン酸水溶液(A液)を塗布し乾燥する工程)
ペルオキソチタン酸水溶液(A液)を塗布し乾燥する工程の塗布方法は、本発明の目的にかなうものであれば、何れの方法でもよい。塗布量は、特に制限されないが、1.0乃至100ml/mであることができる。1.0ml/m以下では、ペルオキソチタン酸膜の厚さが不十分になることがあり、100ml/m以上厚く塗布しても効果が増加しないので不利である。塗布は1回で行うことも、複数回に分けて行うこともできる。また、乾燥温度が70℃以上ではペルオキソチタン酸がアナターゼ型結晶に変化してしまうので、例えば40℃以下で行うことが好ましい。
【0034】
B液を塗布し乾燥する工程の塗布方法は、本発明の目的にかなうものであれば、何れの方法でもよい。塗布量は、特に制限されないが、1.0乃至100ml/mであることができる。1.0ml/m以下では、内壁としてアナターゼ型酸化チタン膜の厚さが不十分なことがあり、100ml/m以上厚く塗布しても効果が増加しないので不利である。塗布は1回で行うことも、複数回に分けて行うこともできる。乾燥は60℃以下で行うことが好ましい。
【0035】
A液とB液の比は、A液が含有するペルオキソチタン酸の重量を酸化チタンの重量に換算したチタン酸重量と、前記B液が含有するチタン酸重量と、の比が、10:1乃至1:10の範囲内であることが好ましく、4:1乃至1:4の範囲内であることがより好ましい。B液がA液の1/10以下では、アナターゼ型酸化チタン膜は光活性触媒として十分な活性を示すことができないことがあり、又A液がB液の1/10以下では、ペルオキソチタン酸膜はアナターゼ型酸化チタン膜が生成する活性酸素に対して十分なコーティング作用を示すことができないことがあり、複合膜としての特徴を示すことができないことがある。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
[第1工程]ペルオキソチタン酸水溶液(A液)の製造
四塩化チタンの60%(重量/容量)水溶液39.6mlを蒸留水で4000mlとした溶液に2.5%(重量/容量)アンモニア水、440mlを滴下して水酸化チタンを沈殿させた。沈殿物をろ取し、蒸留水で洗浄後、蒸留水を加えて720mlとした水酸化チタン懸濁液に、30%(重量/容量)の過酸化水素水、80mlを加えて攪拌した。7℃において24時間放置して余剰の過酸化水素水を分解させて、黄色粘性液体1000mlを得た。
【0037】
[第2工程]B液の製造
第一工程で得られたペルオキソチタン酸水溶液を耐圧ガラス容器に密閉して水浴中で12時間煮沸(98〜100℃)したところ、淡黄色半透明の1.00%(重量/容量)のアナターゼ型酸化チタン分散液が生成した。
1.00%(重量/容量)のアナターゼ型酸化チタン分散液100mlに対し、金属銀として0.1%(重量/容量)の銀を含む硝酸銀水溶液を0.1ml加え、1×10−6%(重量/容量)撹拌・混合しての銀を含むB液を作成した。
【0038】
[第3工程]ペルオキソチタン酸水溶液(A液)を内装面に塗布し乾燥する工程
第1工程で製造したペルオキソチタン酸水溶液(A液)を、噴射スプレーを用いてスライドガラス上に10ml/mの量で塗布して、25℃で乾燥することによって、ペルオキソチタン酸膜を製造した。
【0039】
[第4工程]B液を塗布し乾燥する工程
第3工程で製造したA液を塗布し乾燥したスライドガラス板の上に、第2工程で製造したB液を、10ml/mの量で塗布して、40℃で乾燥することによって、実施例1のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜を塗布した試料を得た。
【0040】
(実施例2)
[第1工程]A液の製造
60%(重量/容量)四塩化チタン水溶液、5.00mlを蒸留水で500mlに希釈した溶液に、30%(重量/容量)過酸化水素水、20mlを加えて攪拌して褐色の透明液体を作製し、この溶液に10%アンモニア水(濃アンモキア水1容量部:水9容量部)を滴下してpHを7とし、黄色透明の溶液を作製した。得られた溶液を25℃で一昼夜放置し、黄色の析出沈殿物を生成させた。これを、ろ取し、洗浄後、蒸留水を加えて約150mlとし、陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B、H型)及び陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、OH型)をそれぞれ25gずつ投入して30分間放置し、ろ過してイオン交換樹脂を取り除いた後、蒸留水で約180mlとし、氷水で冷却し、30%(重量/容量)過酸化水素水、20mlを加えて冷却することによって、1時間後に透明黄色液体のA液、200mlを得た。
第2工程〜第4工程は、実施例1と同様に行って実施例2のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜を塗布した試料を得た。
【0041】
(実施例3)
[第1工程]A液の製造
実施例1と同様にしてA液を得た。
[第2工程]B液の製造
第一工程で得られたペルオキソチタン酸水溶液を耐圧ガラス容器に封入して水浴中で12時間煮沸(98〜100℃)したところ、淡黄色半透明の1.00%(重量/容量)のアナターゼ型酸化チタン分散液を得た。1.00%(重量/容量)のアナターゼ型酸化チタン分散液100mlに対し、金属白金として0.001%(重量/容量)の白金ナノコロイド(特許文献8を参照)を含む水溶液を0.1ml加え、1×10−8重量部(重量/容量)の白金ナノコロイドを含む1.00%(重量/容量)のB液を作成した。
第3工程及び第4工程は、実施例1と同様に行って実施例3のアナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜を塗布した試料を得た。
【0042】
(比較例1)
実施例1の第2工程で得たB液を、スライドガラス上に10ml/mの量を塗布し、40℃で乾燥、加熱処理することによって、比較例1のアナターゼ型酸化チタン複合膜が塗布した試料を得た。
【0043】
(比較例2)
実施例1の第1工程で得たペルオキソチタン酸水溶液(A液)を、スライドガラス上に10ml/mの量を塗布して、40℃で乾燥することによって、比較例2アナターゼ型酸化チタン複合膜を塗布した試料が得られた。
【0044】
(比較例3)
実施例1と同様に、但し第2工程で硝酸銀を加えずにアナターゼ型酸化チタン複合膜を塗布した試料を得た。
【0045】
(試験例1)酸化窒素除去試験
試料 :実施例1〜3及び比較例1、2の試験片、及びガラス片
試験方法:JIS R 1701−1:2004,ファインセラミックス−光触媒材料
の空気浄化性能試験方法−第1部:窒素酸化物の除去性能 6.1,6.2
試験機関:株式会社 環境技術研究所
結果を表1に示す。
触媒膜及びアンダーコーを有する実施例1〜3は、優れた酸化窒素除去作用を有
することが示された。
比較例1は、アナターゼ型酸化チタンの光触媒膜を有するが、成膜性が良くない
ために、酸化窒素除去作用が実施例1〜3より劣る。
触媒膜を有していない比較例2及びガラス片は、酸化窒素除去作用を有していな
い。
【表1】
【0046】
(試験例2)活性酸素遮蔽試験
試料 :10cm×10cmの表面を磨いた木片に、0.1molメチレンブルーの
エタノール溶液を均等に噴霧して活性酸素遮蔽試験片を作成した。
実施例1〜3及び比較例1、2の方法に従って、但しガラス片の代わりに上
記の活性酸素遮蔽試験片を用いて活性酸素遮蔽試験用の試料を作成し、暗所
で25℃で2日間乾燥した。
試験方法 1)0.1molメチレンブルー、及びそれ2倍及び4倍に希釈した溶液を
塗布した標準色調片を作成した。
2)ガラス片の代わりに上記の活性酸素遮蔽試験片を用いて試料から10
cm離して、照度5000ルックスの蛍光灯で照射して試験片の色相の変化
を観測し、下記の評価用語に従って評価した。
4:変化なし
3:2倍に希釈した標準色調片と同等の色調になった
2:4倍に希釈した標準色調片と同等の色調になった
1:青色が殆ど消失した
0:青色が完全に消失した
結果 結果を表2に示す。
触媒膜を有し、アンダーコートを有していない比較例1は、メチレンブルーが
速に退色し、活性酸素が基材に達していることが示された。
触媒膜及びアンダーコートを有する実施例1〜3は、メチレンブルーの退色速
度が遅く、アンダーコートが活性酸素の侵襲を防いでいることが示された。
【表2】
【0047】
(試験例3)抗菌試験
試料 :実施例1、3及び比較例3の試験片
試験機関:社団法人京都微生物研究所
試験方法:光照射フィルム密着法(明条件、暗条件)
「抗菌性技術協議会の光照射フィルム密着法」に従い、蛍光灯照射(550
0lx、10cm)/非照射試験片上に滴下した菌液中の菌液について、
24時間後に生菌数を測定した。
結果 結果を表3に示す。
触媒膜、アンダーコート、及び貴金属を含む実施例1の試験片は、明条件及び
暗条件下の何れにおいても抗菌活性を有すが、貴金属を含まない比較例1、3
の試験片は、明条件下で抗菌活性を有するが、暗条件下では抗菌活性を有さな
いことが示された。
【表3】
【要約】
【課題】可視光や弱い光線であっても、光触媒活性を有して活性酸素を生成し、自己洗浄作用を有すると共に、内装面に対する活性酸素の侵襲作用を効果的に遮蔽したナターゼ型酸化チタンを含有する内装用複合膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ペルオキソチタン酸水溶液をA液とし、A液を70乃至200℃に加熱して製造したアナターゼ型酸化チタン分散液に、貴金属の塩又はナノコロイドを加えた液をB液とし、建築物の内装面に、A液を塗布し乾燥させた上に、A液と前記B液とを混合した混合液を塗布し乾燥させて形成したことを特徴とする。

【選択図】 なし