(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブラッググレーティングを構成する前記材質が、ガリウム砒素、ニオブ酸リチウム単結晶、酸化タンタル、酸化亜鉛およびアルミナからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に模式的に示す外部共振器型発光装置1は、半導体レーザ光を発振する光源2と、グレーティング素子9とを備えている。光源2とグレーティング素子9とは、共通基板3上にマウントされている。
【0033】
光源2は、半導体レーザ光を発振する活性層5を備えている。本実施形態では、活性層5は基体4に設けられている。基体4の外側端面には反射膜6が設けられており、活性層5のグレーティング素子側の端面には無反射層7Aが形成されている。
【0034】
また、光源2は、単独でレーザ発振するものであってよい。ここで、単独でレーザ発振するとは、グレーティング素子と外部共振器を構成することなしにレーザ発振できることを意味する。この場合、光源2は、縦モードがシングルモード発振するものが好ましい。しかし、グレーティング素子を使用した外部共振器型レーザの場合、反射特性に波長依存性を持たせることができる。このため、反射特性の波長依存性の形状を制御することにより、光源2は縦モードがマルチモード発振していても、外部共振器からはシングルモード発振させることが可能である。
【0035】
この場合、基体4の外側端面には高反射膜6が設けられており、グレーティング素子側の端面7Aにはグレーティングの反射率よりも小さい反射率の膜が形成されている。
【0036】
図1、
図3に示すように、グレーティング素子7には、半導体レーザ光Aが入射する入射面11aと所望波長の出射光Bを出射する出射面11bを有する光学材料層11が設けられている。Cは反射光である。光学材料層11内には、ブラッググレーティング12が形成されている。光学材料層11の入射面11aとブラッググレーティング12との間には、回折格子のない伝搬部13が設けられており、伝搬部13が活性層5と間隙14を介して対向している。7Bは、光学材料層11の入射面側に設けられた無反射膜であり、7Cは、光学材料層11の出射面側に設けられた無反射膜である。光学材料層18はリッジ型光導波路であり、光学材料層11に設けられている。光学材料層11は、ブラッググレーティング12と同一面に形成されていてもよく、相対する面に形成されていてもよい。
【0037】
無反射層7A、7B、7Cの反射率は、グレーティング反射率よりも小さい値であればよく、さらに0.1%以下が好ましい。しかし、端面における反射率がグレーティング反射率よりも小さい値であれば、無反射層はなくてもよく、反射膜であってもよい。
【0038】
図2に示すように、本例では、基板10上に接着層15、下側バッファ層16を介して光学材料層11が形成されており、光学材料層11上に上側バッファ層17が形成されている。光学材料層11には例えば一対のリッジ溝19が形成されており、リッジ溝の間にリッジ型の光導波路18が形成されている。
【0039】
また、リッジ溝19は光学材料層11を完全に切り込まない構造になっている。すなわち、各リッジ溝19下にはそれぞれ肉薄部11eが形成されており、各肉薄部11eの外側に延在部11fが形成されている。本発明においては、リッジ溝19は光学材料層11を完全に切り込まず、リッジ溝19の底面とバッファ層との間に肉薄部11eを残留させる。
この場合、ブラッググレーティングは平坦面11c面に形成していてもよく、11d面に形成していてもよい。ブラッググレーティング、およびリッジ溝の形状ばらつきを低減するという観点では、ブラッググレーティングを11c面上に形成することによって、ブラッググレーティングとリッジ溝19とを基板の反対側に設けることが好ましい。
【0040】
このようなリッジ型の光導波路は、リッジ溝を完全に切り込んだ構造(肉薄部11eが設けられておらず、延在部11dが形成されている構造)と比較して、光の閉じ込めを弱くすることができる。このため光のスポット形状が大きくなっても横モード:マルチモードが励振することなく、基本モードを励振することができる。
【0041】
これまでのグレーティング素子は、光学材料層を完全に切り込んだコア層を光導波路としている。特許文献8で開示される光導波路はこの切り込み型のコア層を形成している。コア層としてSiO
xN
1−x、クラッド層にSiO
2の場合には、コアの幅1.2μm、厚み0.4μmとなっている。
またコア層としてこれより屈折率の大きいSi/SiNとクラッド層にSiO
2を使用する場合には、コアの幅が0.28μm、厚みが0.255μmとなっており、サイズが小さくなっている。この場合、光導波路の光閉じ込めが強いために、横モードが基本モードの光のみを励振するために、サイズを小さくしていると考えられる。
【0042】
特許文献9には、拡散導波路やプロトン交換導波路が開示されている。これらの光導波路の場合、スポット形状はドーピングしたTiやプロトンの拡散分布に依存するために、コア部とクラッド部の屈折率差を大きくすることができず、光の閉じ込めは、リッジ光導波路よりもさらに小さくなる。このためスポット形状の水平方向/垂直方向のアスペクト比を大きくできず、形状の制御も難しい。
【0043】
光閉じ込めを大きくするために、高濃度ドーピングすると伝搬損失が大きくなることや光損傷により劣化するといった問題も生じる。
【0044】
グレーティング素子を外部共振器レーザに使用する場合には、出力光がガウス分布の光スポット形状が必要であり、横モードが基本モードとなることが望まれる。したがって、グレーティング素子の光導波路はレーザ光によってマルチモードが励振されないように基本モード導波路であることが好ましい。
【0045】
図16は、光学材料層をTa
2O
5として屈折率2.08、厚みT
s=1.2μm、リッジ幅Wm=3μmの場合に溝深さT
rを0.1μmから1.2μmにしたとき、波長800nmにおける光導波路の横モード:基本モードの実効屈折率(等価屈折率)の計算結果である。
【0046】
この結果から、T
rが0.1から0.4μmまでは基板に光が漏れ、基板モードで光伝搬している。T
rが0.5から1.1μmまでは、実効屈折率が変化せず、リッジ導波モードで伝搬する。しかし、完全に切り込まれたT
rが1.2μmでは実効屈折率が増加して閉じ込めが強くなることがわかる。
【0047】
図17は、
図16で計算した光導波路の基本モードの水平方向と垂直方向のスポットサイズの計算結果である。この結果から、T
rを大きくすると水平方向のスポットサイズは小さくなり閉じ込めが強くなることがわかる。その後、T
rが0.5μmから完全に切り込まれた1.2μmまで水平方向のスポット形状はほとんど変化しない。また、垂直方向はT
rに依存せずほぼ一定値になることがわかる。
【0048】
外部共振器レーザの場合、レーザ光がグレーティング素子の基本モードを効率よく励振するために、グレーティング素子の光スポット形状はレーザ光のスポット形状よりも大きくすることが好ましく、光学材料層の厚みTsは0.5μm以上が好ましい。また、厚みTsが大きいとマルチモードの影響を抑えることが難しくなり、この観点で光学材料層の厚みTsは3μm以下が好ましく、さらに2.5μm以下が好ましい。
【0049】
溝深さT
rは、前述した観点からは、光学材料層の材質を変更した場合にも、光学材料層の厚みT
sで規格化することができることを確認した。すなわち、T
r/T
sは
0.55以上が好ましく、0.9以下であることが好ましい。
【0050】
外部共振器レーザにグレーティング素子を使用する場合には、前述のように横モード:基本モードが好ましい。しかし、レーザ光の導波路への結合を高効率にするためには光学材料層の厚みは0.5μm以上が好ましく、導波路はマルチモード化しやすくなる。
【0051】
光導波路から出射する光の横モードがマルチモードであるときに、それぞれの導波モードの実効屈折率に対応して複数のグレーティング反射波長が存在する。このためマルチモードに対応したレーザ発振が起こってしまう。しかし、基本モードと高次モードの実効屈折率の差を大きくし、高次モードの反射波長をレーザのゲイン範囲外にシフトできれば高次モードでレーザ発振することなく基本モード光を得ることができる。この観点で基本モードと高次モードの反射波長の差は3nm以上
とする。
【0052】
光源2として半導体レーザを使用する場合には、レーザのゲイン範囲が小さく発振波長範囲が狭いので基本モード光をさらに容易に得ることができる。
【0053】
本発明では、マルチモードが発生しても基本モードとの
波長差を大きくでき
、発振装置からのマルチモードの励振を抑えることができる。この観点において、T
r/T
sは下限値として0.4以上が好ましく、さらに0.55が好ましい。上限値については0.9以下が好ましく、さらに0.75以下であることが好ましい。
【0054】
また、
図4に示す素子9Aでは、基板10上に接着層15、下側バッファ層16を介して光学材料層11が形成されており、光学材料層11上に上側バッファ層17が形成されている。光学材料層11の基板10側には、例えば一対のリッジ溝19が形成されており、リッジ溝19の間にリッジ型の光導波路18が形成されている。この場合、ブラッググレーティングは平坦面11c側に形成していてもよく、リッジ溝のある11d面に形成していてもよい。ブラッググレーティング、およびリッジ溝の形状ばらつきを低減するという観点では、ブラッググレーティングを平坦面11c面側に形成することによって、ブラッググレーティングとリッジ溝19とを基板の反対側に設けることが好ましい。また、上側バッファ層17はなくてもよく、この場合、空気層が直接グレーティングに接することができる。これによりグレーティング溝が有る無しで屈折率差を大きくすることができ、短いグレーティング長で反射率を大きくすることができる。
【0055】
図5は、他の実施形態に係る装置1Aを示す。本装置1Aの大部分は
図1の装置1と同様のものである。光源2は、レーザ光を発振する活性層5を備えているが、活性層5のグレーティング素子9側の端面に無反射層7Aを設けず、その代わりに反射膜20が形成されている。
【0056】
この場合、レーザ光の発振波長は、グレーティングにより反射される波長で決定される。グレーティングによる反射光と活性層5のグレーティング素子側の端面からの反射光がレーザのゲイン閾値を上回れば、発振条件を満足する。これにより波長安定性の高いレーザ光を得ることができる。
【0057】
波長安定性をより高くするには、グレーティングからの帰還量を大きくすればよく、この観点からグレーティングの反射率は活性層5の端面における反射率よりも大きくする方が好ましい。
【0058】
光源としては、高い信頼性を有するGaAs系やInP系材料によるレーザが好適である。本願構造の応用として、例えば、非線形光学素子を利用して第2高調波である緑色レーザを発振させる場合は、波長1064nm付近で発振するGaAs系のレーザを用いることになる。GaAs系やInP系のレーザは信頼性が高いため、一次元状に配列したレーザアレイ等の光源も実現可能である。スーパールミネッセンスダイオードや半導体光アンプ(SOA)であってもよい。
【0059】
波長が長くなるとブラッグ波長の温度変化が大きくなることから、波長安定性を高めるには、光源2の中心波長は990nm以下が特に好ましい。一方、波長が短くなると半導体の屈折率変化△naが大きくなりすぎるため、波長安定性を高めるためには光源2の中心波長は、780nm以上が特に好ましい。
また、活性層の材質や波長も適宜選択できる。
【0060】
なお、半導体レーザとグレーティング素子との組み合わせでパワー安定化を行う方法は、下記に開示されている。
(非特許文献3: 古河電工時報 平成12年1月 第105号 p24-29)
【0061】
リッジ型の光導波路は、例えば外周刃による切削加工やレーザアブレーション加工することによって物理的に加工し、成形することによって得られる。
【0062】
ブラッググレーティングは以下のようにして物理的、あるいは化学的なエッチングにより形成することができる。
具体例として、Ni、Tiなどの金属膜を高屈折率基板に成膜し、フォトリソグラフィーにより周期的に窓を形成しエッチング用マスクを形成する。その後、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング装置で周期的なグレーティング溝を形成する。最後に金属マスクを除去することにより形成できる。
【0063】
高屈折率層中には、光導波路の耐光損傷性を更に向上させるために、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、スカンジウム(Sc)及びインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有させてもよく、この場合、マグネシウムが特に好ましい。また結晶中には、ドープ成分として、希土類元素を含有させることができる。希土類元素としては、特にNd、Er、Tm、Ho、Dy、Prが好ましい。
【0064】
接着層の材質は、無機接着剤であってよく、有機接着剤であってよく、無機接着剤と有機接着剤との組み合わせであってよい。
【0065】
また、光学材料層11は、支持基体上に薄膜形成法によって成膜して形成してもよい。こうした薄膜形成法としては、スパッタ、蒸着、CVDを例示できる。この場合には、光学材料層11は支持基体に直接形成されており、上述した接着層は存在しない。
【0066】
支持基体の具体的材質は特に限定されず,ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英ガラスなどのガラスや水晶、Si、サファイア、窒化アルミニウム、SiCなどを例示することができる。
【0067】
無反射層の反射率は、グレーティング反射率以下である必要があり、無反射層に成膜する膜材としては、二酸化珪素、五酸化タンタルなどの酸化物で積層した膜や、金属類も使用可能である。
【0068】
また、光源素子、グレーティング素子の各端面は、それぞれ、端面反射を抑制するために斜めカットしていてもよい。また、グレーティング素子と支持基板の接合は、
図2の例では接着固定だが、直接接合でもよい。
【0069】
以下、
図15に示すような構成において本発明の条件の意味について更に述べる。
ただし、数式は抽象的で理解しにくいので、最初に、従来技術の典型的な形態と本発明の実施形態とを端的に比較し、本発明の特徴を述べる。次いで、本発明の各条件について述べていくこととする。
【0070】
まず、半導体レーザの発振条件は、下式のようにゲイン条件×位相条件で決まる。
【0072】
ゲイン条件は、(2-1)式より下式となる。
【数7】
【0073】
ただし、αa、αg、αwg、αgrは、それぞれ、活性層、半導体レーザと導波路間のギャップ、入力側のグレーティング未加工導波路部、グレーティング部の損失係数であり、La、Lg、Lwg、Lgrは、それぞれ、活性層、半導体レーザと導波路間のギャップ、入力側のグレーティング未加工導波路部、グレーティング部の長さであり、r1、r2は、ミラー反射率(r2はグレーティングの反射率)であり、Coutは、グレーティング素子と光源との結合損失であり、ξ
tg
tは、レーザ媒体のゲイン閾値であり、φ1は、レーザ側反射ミラーによる位相変化量であり、φ2は、グレーティング部での位相変化量である。
【0074】
(2-2)式より、レーザ媒体のゲインξ
tg
th(ゲイン閾値)が損失を上回れば、レーザ発振することを表す。レーザ媒体のゲインカーブ(波長依存性)は、半値全幅は50nm以上あり、ブロードな特性をもっている。また、損失部(右辺)は、グレーティングの反射率以外はほとんど波長依存性がないので、ゲイン条件はグレーティングにより決まる。このため、比較表では、ゲイン条件はグレーティングのみで考えることができる。
【0075】
一方、位相条件は(2-1)式から、下式のようになる。ただし、φ1については零となる。
【数8】
光源2がレーザ発振している場合は、複合共振器になるために上記の(2-1)、(2-2)、(2-3)式は複雑な数式になり、レーザ発振の目安として考えることができる。
【0076】
外部共振器型レーザは、外部共振器として、石英系ガラス導波路、FBGを用いたものが製品化されている。従来の設計コンセプトは、
図6と
図7に示すように、グレーティングの反射特性は△λ
G=0.2nm程度、反射率10%となっている。このことから、グレーティング部の長さは1mmとなっている。一方、位相条件については、満足する波長は離散的になり、△λ
G内に、(2-3)式が2〜3点あるように設計されている。このため、レーザ媒体の活性層長さが長いものが必要になり、1mm以上のものが使用されている。
【0077】
ガラス導波路やFBGの場合、λgの温度依存性は非常に小さく、dλ
G/dT=0.01nm/℃程度となる。このことから、外部共振器型レーザは、波長安定性が高いという特徴をもつ。
【0078】
しかし、位相条件を満足する波長の温度依存性は、これに比してdλ
s/dT=dλ
TM/dT =0.05nm/℃と大きく、その差は0.04nm/℃となる。
また、コア層としてSi02やSiO(1-x)Nxを使用する場合、屈折率の温度変化率△nfは 1×10
-5/℃と小さく、波長1.3μmではλgの温度依存性は非常に小さくdλ
G/dT=0.01nm/℃となる。一方、外部共振器の位相条件が成り立つ波長(発振波長)の温度係数について、InGaAsP系レーザを使用した場合、光源の等価屈折率3.6、屈折率の温度変化3×10-4/℃、長さLa=400μm、回折格子の等価屈折率1.54、1×10-5/℃、長さ155μmとするとdλ
G/dT=dλ
TM/dT= 0.09nm/℃となる。したがって、その差は0.08 nm/℃となる。
【0079】
このようにしてレーザ発振したレーザ光のスペクトル波形は、線幅は0.2nm以下となる。広い温度範囲でレーザ発振するために、さらにモードホップしない温度範囲をより広くするために、室温25℃における外部共振器によるレーザ発振波長はグレーティング反射率の中心波長よりも短波長側であることが好ましい。この場合、温度が上昇するにつれてレーザ発振波長は長波長側にシフトしてグレーティング反射率の中心波長よりも長波長側でレーザ発振することになる。
【0080】
また広い温度範囲でレーザ発振するために、さらにモードホップしない温度範囲をより広くするために、室温25℃における外部共振器によるレーザ発振波長は光源2の同じ温度での発振波長よりも長波長側で発振することが好ましい。この場合、温度が上昇するにつれて、外部共振器によるレーザ発振波長は、光源2の発振波長に対して短波長側でレーザ発振することになる。
【0081】
室温での外部共振器によるレーザ発振波長と光源2の発振波長の差は、レーザ発振の温度許容範囲を広くする観点において、0.5nm以上が好ましく、さらに2nm以上であってもよい。しかし、波長差を大きくしすぎると、パワーの温度変動が大きくなるので、この観点から10nm以下が好ましく、さらに6nm以下が好ましい。
【0082】
一般的に、モードホップが起こる温度T
mhは、非特許文献1より下式のように考えることができる(Ta=Tfとして考える)。
ΔG
TMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長間隔(縦モード間隔)である。先に用いた△λは△G
TMに等しく、λ
sはλ
TMに等しい。
【0084】
これより従来の場合、T
mhは5℃程度となる。このためモードホップが起こりやすい。したがって、モードホップが起こってしまうと、グレーティングの反射特性に基づきパワーが変動し、5%以上変動することになる。
【0085】
以上から、実動作において、従来のガラス導波路やFBGを利用した外部共振器型レーザは、ペルチェ素子を利用して温度制御を行っていた。
【0086】
これに対し、本発明は、前提条件として(2-4)式の分母が小さくなるグレーティング素子を使用するものである。(2-4)式の分母は、0.03nm/℃以下にすることが好ましく、具体的な光学材料層としては、ガリウム砒素(GaAs)、ニオブ酸リチウム(LN)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミナ(Al
2O
3)が好ましい。
【0087】
位相条件を満足する波長は、△λ
G内に5点以下存在していれば、モードホップが起こったとしても、安定なレーザ発振条件で動作が可能であることがわかった。
【0088】
すなわち、本発明構造は、例えば、LNのz軸の偏光を使用する場合に温度変化に対して、発振波長はグレーティングの温度特性に基づき0.1nm/℃で変化するが、モードホップは起こしてもパワー変動が起こりにくくすることが可能である。本願構造は、△λ
Gを大きくするためにグレーティング長Lbは例えば100μmとし、△G
TMを大きくするためにLaは例えば250μmとしている。
【0089】
なお、特許文献6との相違についても補足する。
本願は、グレーティング波長の温度係数と半導体のゲインカーブの温度係数を近づけることを前提としている。このことから屈折率が1.8以上の材料を使用することとしている。さらにグレーティングの溝深さtdを20nm以上、250nm以上とし、反射率を3%以上、60%以下で、かつその半値全幅△λ
Gを0.8nm以上、250nm以下としている。これらにより共振器構造をコンパクトにでき、かつ付加するものをなくして温度無依存性が実現できる。特許文献6では、各パラメータは以下のように記載されており、いずれも従来技術の範疇となっている。
△λ
G=0.4nm
縦モード間隔△G
TM=0.2nm
グレーティング長Lb=3mm
LD活性層長さLa=600μm
伝搬部の長さ=1.5mm
【0090】
以下、本発明の以下の各条件について更に具体的に述べる。
0.8nm≦△λ
G≦
5.0nm・・・(1)
10μm≦L
b≦300μm ・・・(2)
20nm≦td≦250nm ・・・(3)
n
b≧1.8 ・・・(4)
【0091】
式(4)において、ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率n
bは1.8以上とする。
従来は石英などの、より屈折率の低い材料が一般的であったが、本発明の思想では、ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率を高くする。この理由は、屈折率が大きい材料は屈折率の温度変化が大きいからであり、(2-4)式のT
mhを大きくすることができ、さらに前述のようにグレーティングの温度係数dλ
G/dTを大きくできるからである。この観点からは、n
bは1.9以上であることが更に好ましい。また、n
bの上限は特にないが、グレーティングピッチが小さくなりすぎて形成が困難になることから4以下であるが、さらに3.6以下であることが好ましい。また、同じ観点で光導波路の等価屈折率は3.3以下であることが好ましい。
【0092】
ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅△λ
Gを0.8nm以上とする(式1)。λ
Gはブラッグ波長である。すなわち、
図6、
図7に示すように、横軸にブラッググレーティングによる反射波長をとり、縦軸に反射率をとったとき、反射率が最大となる波長をブラッグ波長とする。またブラッグ波長を中心とするピークにおいて、反射率がピークの半分になる二つの波長の差を半値全幅△λ
Gとする。
【0093】
ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅△λ
Gを0.8nm以上とする(式(1))。これは、反射率ピークをブロードにするためである。この観点からは、半値全幅△λ
Gを1.2nm以上とすることが好ましく、1.5nm以上とすることが更に好ましい。また、半値全幅△λ
Gを5nm以下とするが、3nm以下とすることが更に好ましく、2nm以下とすることが好ましい。
【0094】
ブラッググレーティングの長さL
bは300μm以下とする(式2)。ブラッググレーティングの長さL
bは、光導波路を伝搬する光の光軸の方向におけるグレーティング長である。ブラッググレーティングの長さL
bを300μm以下と従来に比べて短くすることは、本発明の設計思想の前提となる。すなわち、モードホップをしにくくするために位相条件を満足する波長間隔(縦モード間隔)を大きくする必要がある。このためには、共振器長を短くする必要がありグレーティング素子の長さを短くする。この観点からは、ブラッググレーティングの長さL
bを200μm以下とすることがいっそう好ましい。
【0095】
グレーティング素子の長さを短くすることは、損失を小さくすることになりレーザ発振の閾値を低減できる。この結果、低電流、低発熱、低エネルギーで駆動が可能となる。
【0096】
また、グレーティングの長さL
bは、3%以上の反射率を得るためには、5μm以上が好ましく、5%以上の反射率を得るためには、10μm以上が更に好ましい。
【0097】
式(3)において、tdは、前記ブラッググレーティングを構成する凹凸の深さである。20nm≦td≦250nmとすることで、△λ
Gを0.8nm以上、250nm以下とすることができ、縦モードの数を△λ
Gの中に2以上、5以下に調整することができる。こうした観点からは、tdは、30nm以上が更に好ましく、また、200nm以下が更に好ましい。半値全幅を3nm以下とするには150nm以下が好ましい。
【0098】
好適な実施形態においては、レーザ発振を促進するために、グレーティング素子の反射率は3%以上、40%以下に設定することが好ましい。この反射率は、より出力パワーを安定させるために5%以上が更に好ましく、また、出力パワーを大きくするためには25%以下が更に好ましい。
【0099】
レーザ発振条件は、
図15に示すように、ゲイン条件と位相条件から成立する。位相条件を満足する波長は離散的であり、たとえば
図13に示される。すなわち、本願構造ではゲインカーブの温度係数(GaAsの場合0.3nm/℃)とグレーティングの温度係数dλ
G/dTを近づけることにより、発振波長を△λ
Gの中に固定することができる。さらに△λ
Gの中に縦モードの数が2以上、5以下存在するときには、発振波長は△λ
Gの中でモードホップを繰り返し、△λ
Gの外でレーザ発振する確率を低減できることから大きなモードホップが起こることがなく、さらに波長が安定で、出力パワーが安定に動作できる。
【0100】
好適な実施形態においては、活性層の長さL
aも500μm以下とする。この観点からは、活性層の長さL
aを300μm以下とすることが更に好ましい。また、レーザの出力を大きくするという観点では活性層の長さL
aは、150μm以上とすることが好ましい。
【0102】
式(6)において、dλ
G/dTは、ブラッグ波長の温度係数である。
また、dλ
TM/dTは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長の温度係数である。
ここで、λ
TMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長であり、つまり前述した(2.3式)の位相条件を満足する波長である。これを本明細書では「縦モード」と呼ぶ。
【0103】
以下、縦モードについて補足する。
(2.3)式の中のβ=2πneff/λであり、neffはその部の実効屈折率であり、これを満足するλがλ
TMとなる。φ2は、ブラッググレーティングの位相変化であり、λ
TMは
図13で示される。
【0104】
△G
TMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長間隔(縦モード間隔)である。λ
TMは、複数存在するので、複数のλ
TMの差を意味する。
【0105】
したがって、式(6)を満足することで、モードホップが起こる温度を高くし、事実上モードホップを抑制することができる。式(6)の数値は、0.025以下とすることが更に好ましい。
【0106】
好適な実施形態においては、グレーティング素子の長さL
WGも600μm以下とする。L
WGは400μm以下が好ましく、300μm以下が更に好ましい。また、L
WGは50μm以上が好ましい。
【0107】
好適な実施形態においては、光源の出射面と光導波路の入射面との距離L
gは、1μm以上、10μm以下とする。これによって安定した発振が可能となる。
【0108】
好適な実施形態においては、伝搬部の長さL
mは、100μm以下とする。さらに外部共振器の長さを短くするという観点で40μm以下が好ましい。これによって安定した発振が促進される。また、伝搬部の長さL
mの下限値は特にないが、10μm以上が好ましく、20μm以上が更に好ましい。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
図1、
図2に示すような素子9を作製した。
具体的には、石英基板にスパッタ装置にてTa2O5を1.2μm成膜して導波路層を形成した。次に、Ta2O5上にTiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Tiパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ232nm、長さLb 5〜 100μm、300μm、500μm、1000μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さtdは20、40、60、100、160、200、350nmとした。さらにy軸伝搬の光導波路を形成するために、上記と同様な方法で反応性イオンエッチングにより、幅Wm3μm、Tr0.5μmの溝加工を実施した。
【0110】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さL
wg 500μmとした。
【0111】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子にTEモードの光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。測定した素子の反射中心波長は全て945±1nmであった。
【0112】
溝深さtdが200nmの場合、グレーティング長30μm〜70μmまでの反射特性結果を
図8に示す。この結果からグレーティング長が短くなるにつれ、反射率が小さくなることがわかった。
【0113】
さらにグレーティング長が10μm〜1000μmまでの反射率と反射半値幅の結果を
図9に示す。この結果から、グレーティング長9μmでは、反射率2%、半値幅7nmとなるが、10μm(17μm)以上では、反射率3%(20%)以上となり、半値幅は6nm(5nm)以下となる。
【0114】
グレーティング溝深さが200nmと350nmのグレーティング長100μm以上での反射率と半値幅の結果を
図10に示す。この結果から、この深さ、長さでは反射率、半値幅は変化がなく、制御できない。
【0115】
また、グレーティング溝深さ20、40、60nmにした場合のグレーティング長50〜1000μmの反射率と半値幅の結果を
図11に示す。この溝深さの領域では、グレーティング長によって大きく反射率を制御できることがわかる。半値幅はグレーティング長が400μm以下では単調増加する傾向がある。深さ20nmではグレーティング長200μm以上になると半値幅が0.8nmよりも小さくなる。
【0116】
(実施例2)
z板MgOドープのニオブ酸リチウム結晶基板にTiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Tiパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ214nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは20、40、60nmとした。また、y軸伝搬の光導波路を形成するために、エキシマレーザにて、グレーティング部に、幅Wm3μm、Tr0.5μmの溝加工を実施した。さらに、溝形成面にSiO2からなるバッファ層17をスパッタ装置で0.5μm成膜し、支持基板としてブラックLN基板を使用してグレーティング形成面を接着した。
【0117】
次に、ブラックLN基板側を研磨定盤に貼り付け、グレーティングを形成したLN基板の裏面を精密研磨して1.2μmの厚み(Ts)とした。その後、定盤からはずし研磨面をスパッタにてSiO2からなるバッファ層16を0.5μm成膜した。
【0118】
ブラックLNとは、酸素欠損状態にしたニオブ酸リチウムのことであり、焦電による電荷発生を抑制できる。これにより温度変動があった場合の耐サージによる基板クラックを防止できる。
【0119】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さL
wg 500μmとした。
【0120】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子にTEモードの光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。結果を
図11に示す。
【0121】
この結果から、LN、Ta205はほぼ同じことがわかる。
TEモードに対して中心波長945nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
【0122】
(実施例3)
y板MgOドープのニオブ酸リチウム結晶基板にTiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりx軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Tiパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ224nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは20、40、60nmとした。また、x軸伝搬の光導波路を形成するために、エキシマレーザにて、グレーティング部に、幅Wm3μm、Tr0.5μmの溝加工を実施した。さらに、溝形成面にSiO2からなるバッファ層17をスパッタ装置で0.5μm成膜し、支持基板としてブラックLN基板を使用してグレーティング形成面を接着した。
【0123】
次に、ブラックLN基板側を研磨定盤に貼り付け、グレーティングを形成したLN基板の裏面を精密研磨して1.2μmの厚み(Ts)とした。その後、定盤からはずし研磨面をスパッタにてSiO2からなるバッファ層16を0.5μm成膜した。
【0124】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さL
wg 500μmとした。
【0125】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子にTEモードの光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。結果を
図12に示す。
【0126】
この結果から、素子実施例1から3の反射率と半値幅は同じとなり、LN、TA205の反射率と半値幅も同じ結果になる。TEモードに対して中心波長945nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
【0127】
また波長が変わっても600nm〜1.55μmの波長領域ではほとんど同じ反射率、半値幅が得られることがわかった。
【0128】
(実施例4)
図4に示すような装置を作製した。
具体的には、z板MgOドープのニオブ酸リチウム結晶基板にTiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Tiパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ214nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは40nmであった。また、y軸伝搬の光導波路を形成するために、エキシマレーザにて、グレーティング部に、幅Wm3μm、Tr0.5μmの溝加工を実施した。さらに、溝形成面にSiO2からなるバッファ層16をスパッタ装置で0.5μm成膜し、支持基板としてブラックLN基板を使用してグレーティング形成面を接着した。
【0129】
次に、ブラックLN基板側を研磨定盤に貼り付け、グレーティングを形成したLN基板の裏面を精密研磨して1.2μmの厚み(Ts)とした。その後、定盤からはずし研磨面をスパッタにてSiO2からなるバッファ層17を0.5μm成膜した。
【0130】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さL
wg 500μmとした。
【0131】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子にTEモードの光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、TEモードに対して中心波長945nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
【0132】
次に、このグレーティング素子を使用した外部共振器型レーザの特性評価のために、
図1に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子としてGaAs系レーザ構造を有し、片端面には高反射膜、もう一方の端面は反射率0.1%のARコートを成膜したものを用意した。
【0133】
光源素子仕様:
中心波長: 950nm
出力 20mW
半値幅: 50nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 1μm
Lm: 20μm
【0134】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、中心波長945nm、出力50mWのレーザ特性であった。レーザのスペクトル特性を
図14に示す。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.05nm/℃、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は80℃、この温度域内でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。
【0135】
また、TM光を素子に入射させた場合にも同様な実験を行った結果、波長907nmでレーザ発振をして、その発振波長の温度係数は0.1nm/℃であった。さらに、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は100℃まで広がることを確認でき、この温度域内でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。
これは、LN結晶の場合、y軸、x軸よりもz軸方向の屈折率の温度変動が大きいことに起因する。
【0136】
(実施例5)
実施例4と同じ方法でピッチ間隔Λ222nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは40nmとした。グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子に光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、TEモードに対して中心波長975nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
【0137】
次に、
図5に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子は通常のGaAs系レーザで出射端面にはARコートなしとした。
【0138】
光源素子仕様:
中心波長: 977nm
出力: 50mW
半値幅: 0.1nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 1μm
Lm: 20μm
【0139】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、グレーティングの反射波長に対応した中心波長975nmで発振し、出力はグレーティング素子がない場合よりも小さくなるが40mWのレーザ特性であった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.05nm/℃、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は80℃、この温度域でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。
【0140】
(比較例)
実施例5において、グレーティング素子がない場合には、レーザ発振波長の温度係数は0.3nm/℃で大きく、モードホップ温度は10℃程度とであった。10℃以上ではパワー変動が大きくなり、出力変動は10%以上となった。
【0141】
(実施例6)
石英基板にスパッタ装置にてTa2O5を1.2μm成膜して導波路層を形成した。次に、Ta2O5上にNiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Niパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ232nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは40nmとした。次に、上記と同様にして反応性イオンエッチングにより、
図2、
図3に示す形状の光導波路を形成した。グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子に光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、TEモードに対して中心波長945nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
【0142】
次に、
図1に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子は通常のGaAs系レーザで出射端面には0.1%ARコートを成膜した。
【0143】
光源素子仕様:
中心波長: 950nm
出力: 20mW
半値幅: 50nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 1μm
Lm: 20μm
【0144】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、グレーティングの反射波長に対応した中心波長945nmで発振し、出力は50mWであった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.03nm/℃、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は50℃、その温度域でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。
【0145】
(実施例7)
石英からなる支持基板10にスパッタ装置にてTa2O5を2μm成膜して導波路層11を形成した。次に、Ta2O5からなる導波路層11上にNiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Niパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ228nm、長さLb 100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは140nmとした。
【0146】
次に、上記と同様にして反応性イオンエッチングにより、
図2、
図3に示す形状の光導波路18を形成した。グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子に光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、TEモードに対して中心波長
975nm、最大反射率は20%で、半値全幅△λ
Gは2nmの特性を得た。
また、これとは別に短波長側で複数の波長で反射ピークが観察された。
【0147】
この原因を確かめるためにシミュレーションを実施した結果、光導波路から出射する光の横モードがマルチモードになることがわかった。つまり、マルチモードの場合、実効屈折率、等価屈折率が基本モードのそれよりも小さくなり、このために短波長側にマルチモードに起因する反射ピークが出現することが推察できる。これを実験的に確認するために光導波路のニアフィールドパターンを観察した。この結果、基本モードが励振されるが、軸ずれさせるとマルチモードが励振されることがわかりマルチモード導波路と確認できた。
【0148】
次に、
図5に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子は通常のGaAs系レーザで出射端面にはARコートなしとした。
【0149】
光源素子仕様:
中心波長: 977nm
出力: 50mW
半値幅: 0.1nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 1μm
Lm: 20μm
【0150】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、グレーティングの反射波長に対応した中心波長975nmで発振した。このモジュールから発振したレーザ光の横モードが基本モードであった。レーザ光の出力は、グレーティング素子がない場合よりも小さくなるが、40mWのレーザ特性であった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.03nm/℃、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は50℃、この温度域でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。