(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936817
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】自動車用坂道発進補助方法、坂道発進補助装置及び車両
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
B60T7/12 A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-503554(P2010-503554)
(86)(22)【出願日】2008年4月2日
(65)【公表番号】特表2010-524761(P2010-524761A)
(43)【公表日】2010年7月22日
(86)【国際出願番号】FR2008050582
(87)【国際公開番号】WO2008139090
(87)【国際公開日】20081120
【審査請求日】2011年3月18日
【審判番号】不服2014-13352(P2014-13352/J1)
【審判請求日】2014年7月9日
(31)【優先権主張番号】0754563
(32)【優先日】2007年4月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】マレ, ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ポタン, リシャール
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
小関 峰夫
【審判官】
冨岡 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−88733(JP,A)
【文献】
特表2004−537457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坂道でのユーザの車両操作を助ける坂道発進補助方法であって、ブレーキシステムと電子ブレーキ制御を有し、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、ここで車両の各キャリパへの圧力が制御可能であり、この方法は、
(a)クラッチによって伝達された、クラッチペダルの角度位置θclutchの関数として表わされ、クラッチの摩擦カーブから得られる、トルク(CT)を概算し、
(b)ユーザによるブレーキペダルの作動から生じたマスターシリンダ圧力(Pmc)の値に対応する、ユーザによって加えられた最大マスターシリンダ圧力に関する情報(Pstore)のアイテムを記録し、
(b’)クラッチによって伝達されたトルク(CT)は、閾値発進トルク(CT_thresh)より大きく、
(c)ブレーキシステムが、設定時間中、記録された情報(Pstore)と等しい圧力設定値に応じて、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したときに、キャリパへの圧力を維持し、
(d)ユーザがブレーキペダルを、再作動させたとき、すなわち更に押し下げたときに、記録された情報(Pstore)を更新するステップを含み、
ブレーキシステムが設定時間中、情報(Pstore)の最後に更新され記録された値と等しい圧力設定値に応じて、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したときに、キャリパへの圧力を維持し、
(e)所定時間が経過する前に発進条件、すなわち(1)ギア比が固定されていること、(2)ギア比が坂道の傾斜と一致していること、そして(3)クラッチによって伝達されたトルク(CT)が、車両の閾値発進トルク(CT_thresh)よりも大きいこと、が同時に満たされれば、コントローラは圧力の解放を命令し、よってキャリパへ加えられた圧力が、ブレーキ解放条件に応じて変化する速度で、ゼロになるまで減らされ、
設定時間が、システムによって規定された所定時間と、設定された前記発進条件が同時に満たされるのに必要な時間の、いずれか短い時間と等しい、
ことを特徴とする、前記坂道発進補助方法。
【請求項2】
発進条件の1つが、ギア比が固定されていることであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発進条件の1つが、クラッチによって伝達されるトルク(CT)が閾値発進トルク(CT_thresh)より大きいことであることを特徴とする、請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
発進条件の1つが、固定されたギア比が坂道の傾斜と一致していることであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ブレーキ解放速度がブレーキ解放条件に応じて変化する速度であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ブレーキシステムがESP(英語表現“electronic stability program”に関するこの略号が、ダイナミック・スタビリティ・コントロールに対して一般的に用いられる)タイプの油圧装置であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
外力と電子ブレーキ制御によって動き、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、車両の各キャリパへの圧力が制御可能であるブレーキシステムと、
クラッチへ伝達された、クラッチペダルの角度位置θclutchの関数として表わされ、クラッチの摩擦カーブから得られるトルクを概算するための手段と、
ユーザによるブレーキペダルの作動から生じたマスターシリンダ圧力(Pmc)の値に対応する、ユーザによって加えられた最大マスターシリンダ圧力に関する情報(Pstore)のアイテムを記録する手段からなる車両用坂道発進補助装置であり、
クラッチへ伝達されたトルク(CT)は、閾値発進トルク(CT_thresh)より大きく、
装置が設定時間中、記録された情報(Pstore)の値と等しい圧力設定値に応じて、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したときに、キャリパへの圧力を維持し、
装置が設定時間中、ユーザがブレーキペダルを、再作動させたとき、すなわち更に押し下げたときに、最後に更新され記録された情報(Pstore)の値と等しい圧力設定値に応じて、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したときに、キャリパへの圧力を維持し、
所定時間が経過する前に発進条件、すなわち(1)ギア比が固定されていること、(2)ギア比が坂道の傾斜と一致していること、そして(3)クラッチによって伝達されたトルク(CT)が、車両の閾値発進トルク(CT_thresh)よりも大きいこと、が同時に満たされれば、コントローラは圧力の解放を命令し、よってキャリパへ加えられた圧力が、ブレーキ解放条件に応じて変化する速度で、ゼロになるまで減らされ、
設定時間が、システムによって規定された所定時間と、設定された前記発進条件が同時に満たされるのに必要な時間の、いずれか短い時間と等しい、
ことを特徴とする、前記車両用坂道発進補助装置。
【請求項8】
キャリパへの圧力が、記録手段によって記録されたマスターシリンダ圧力(Pstore)よりも低いときにのみ維持されることを特徴とする、請求項7に記載の補助装置。
【請求項9】
ブレーキシステムと電子ブレーキ制御を有し、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、車両の各キャリパへの圧力が制御可能な車両であり、請求項7および8のいずれか1項に記載の補助装置を含むことを特徴とする、前記車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用坂道発進補助装置に関する。
【0002】
より詳しくは、油圧ブレーキ回路に基づいた、マニュアルギアボックスを有する自動車用の坂道発進補助装置に関する。
【背景技術】
【0003】
今日の車において、坂道発進(すなわち坂道上での発進)は車のユーザのストレス源であり、ユーザはベストを尽くして車がバックする程度を制限しようとする。
【0004】
一般に、車が坂道を下る時間がないように、ユーザはできるだけ素早くブレーキペダルからアクセルペダルに足を移し換えなくてはならない。
【0005】
このストレス源をなくすための解決法が公知である。
【0006】
文献DE10242122は、クラッチに伝達されたトルクに応じてブレーキ解放が行われる方法を提案している。このために、この方法はまずホイールに働く長手方向の力および静止している場合に車に働く慣性力を測定し、そしてエンジントルクを概算し、クラッチに伝達されたその瞬間のトルクを推定する。もしもこのようにして計算された伝達トルクが、坂道による長手方向の力を補うのに十分大きければ、そのとき装置はブレーキを解放する。
【0007】
この方法はだが、クラッチの摩耗および劣化に敏感であるとの欠点を有する。
【0008】
文献EP1410940はそれに関して、車が動くのを防ぐため、操作者がブレーキペダルを操作する必要なしに、ホイールキャリパへと要求される圧力を維持するようにブレーキが電気的に制御される方法を提案しており、これはクラッチペダルが設定された閾値を超えるまで行われる。
【0009】
文献DE19621628は、車が動かない状態でまずブレーキペダルが作動されると、ペダルの作動のための動きとは無関係にブレーキ力が車の少なくとも1つのホイールで維持される装置を開示している。そしてブレーキペダルが解放されると、前記少なくとも1つのホイールでブレーキ力が減じられ、スムーズな発進が可能になる。この方法を実施するため、ブレーキシステムの電動弁が、装置によって直接制御される。
【0010】
最後に文献WO2004/103785は、“hill−holder”の英語名で一般に知られるタイプの、坂道に車を保持する機能を無効化させるのにピッチセンサが用いられる坂道発進補助方法を記載している。設定された発進条件が満たされるまで、およびピッチ変化閾値を超えるまで、車はその場に保たれる。
【0011】
しかしながら、ピッチ角の測定は、例えば車内の同乗者の動きが原因のノイズに対して非常に敏感である。さらに、ピッチ角センサは応答時間が長く、発進中の最適なブレーキ解放を困難とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
坂道発進に関連するストレス源を避けるために、よって本発明の目的は、車両の坂道発進補助機能(“坂道発進補助”を意味する英語の略号ESAが一般に用いられる)を改善するための新規な方法を提案することである。
【0013】
本発明の他の目的は、ブレーキ解放の瞬間が最適であって、バックしたり引き止められたりすることなく車両が解放される坂道発進補助方法を提案することである。
【0014】
本発明の他の目的は、不要なブレーキングは一切なしで、信頼性を向上させた坂道発進補助方法を提案することである。
【0015】
本発明の最後の目的は、クラッチの劣化、摩耗、そして製造差にほとんど影響を受けない坂道発進補助方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このために、本発明は、坂道でのユーザの車両操作を助ける坂道発進補助方法であり、ブレーキシステムと電子ブレーキ制御を有し、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、ここで車両の各キャリパへの圧力が制御可能であり、この方法は、
(a)クラッチによって伝達されたトルクを概算し、
(b)ユーザによるブレーキペダルの作動から生じたマスターシリンダ圧力の値に対応する情報のアイテムを記録し、
(c)ユーザがブレーキペダルをさらに押し下げるまたは少し解放することによって再作動させたときに、マスターシリンダ圧力の値に対応する記録された情報を更新するステップからなり、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したとき、ブレーキシステムが設定時間中、情報の最新の記録値と等しい圧力設定値に応じて、キャリパへの圧力を維持することを特徴とする、坂道発進補助方法を提案する。
【0017】
本発明の方法のある好ましい、だが非制限的な側面は以下の通りである、
・設定時間が、システムによって規定された所定時間と、設定された発進条件が同時に満たされるのに必要な時間との間の最短時間と等しい、
・発進条件の1つが、ギア比が固定されていることである、
・発進条件の1つが、クラッチによって伝達されるトルクが閾値発進トルクより大きいことである、
・発進条件の1つが、固定されたギア比が傾斜と一致していることである、
・ブレーキ解放速度がパラメータ化可能である、
・ブレーキシステムがESP(英語表現“electronic stability program”に関するこの略号が、ダイナミック・スタビリティ・コントロールに対して一般的に用いられる)タイプの油圧装置である。
【0018】
本発明の第2の側面によれば、外力と電子ブレーキ制御によって動き、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、車両の各キャリパへの圧力が制御可能であるブレーキシステムと、
クラッチへと伝達されたトルクを概算するための手段と、
ユーザによるブレーキペダルの作動から生じたマスターシリンダ圧力の値を記録し、記録されたマスターシリンダ圧力値を必要に応じて更新するための手段からなる車両用坂道発進補助装置であり、ユーザがブレーキペダルを完全に解放したとき、装置が設定時間中、マスターシリンダ圧力の
更新された記録値と等しい圧力設定値に応じて、キャリパへの圧力を維持することを特徴とする、前記車両用坂道発進補助装置が提案される。
【0019】
本発明の装置のある好ましい、だが非制限的な側面は以下の通りである。
・これはキャリパへの圧力に対して、この圧力が本発明の方法の間に記録手段によって記録されたマスターシリンダ圧力よりも低いときにのみ影響を与える。
【0020】
本発明はまた、ブレーキシステムと電子ブレーキ制御を有し、少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備え、車両の各キャリパへの圧力が制御可能な車両であり、本発明の補助装置を含むことを特徴とする、前記車両を提案する。
【0021】
本発明のさらなる特徴、目的、および利点は、添付の図面を参照しながら、非制限的な例として示された以下の詳細な説明を読むことで明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明によるHSA機能のコントローラを示す。
【
図2】本発明で採用された車両のホイールへと伝達されたトルクを概算するコントローラの動作原理を示す。
【
図3】本発明の方法が実施される車両の機能的構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法を採用した坂道発進補助装置を備えた車両は、動力装置、自動パーキングブレーキ5、車両の残り6からの信号を伝えるバス4、および動力装置管理コンピュータを有する。バス4は好ましくは、CAN(登録商標)規格(英語の“Control Area Network”を表すこの語句は、コントロール・エリア・ネットワークに関して一般的に用いられている)のバスである。動力装置は、ユーザによってクラッチペダルを介して制御されるギアボックスとクラッチからなるトランスミッション装置によって駆動ホイールへと連結された燃焼機関から出来ている。他の実施例においては、動力装置は、燃焼機関を有するまたは有さない、1つ以上の電動機からなるものとすることができる。
【0024】
坂道発進補助装置は、自動パーキングブレーキ5を制御するコンピュータ1と協働するもので、これもまたバス4に接続されている。コンピュータ1は、公知のように、自動パーキングブレーキ5の作動および解放のための命令を生成するための手段を備えており、ブレーキ5への前記命令は、自動パーキングブレーキ5へと正しく通じる接続ライン上に生成される。
【0025】
適切とあらば、コンピュータ1はまた、バス4へと自動パーキングブレーキ5の状態に関する情報アイテムを伝達するための手段を備える。
【0026】
自動パーキングブレーキ5を制御するコンピュータ1は、傾斜センサ2に適切なラインで接続されている。車両が坂道で静止しているとき、傾斜センサ2は、車両がその上で静止している坂道の傾斜を表す信号を送り出す。
【0027】
自動パーキングブレーキ5を制御するコンピュータ1がブレーキを作動させる命令を生成したとき、ブレーキの可動部はディスクに対して圧着され、自動パーキングブレーキ5が作動する。
【0028】
逆に、自動パーキングブレーキ5を制御するコンピュータ1が自動パーキングブレーキ5を解放させる命令を生成したとき、ブレーキの可動部は解放される。
【0029】
さらに、発進状態(坂道の傾斜とは無関係)では、車両の動力装置からトルクが生じるが、これはクラッチペダルの角度位置に基づいた程度に、クラッチが繋がっているか否かに基づき、ホイールに伝達される又は伝達されない可能性がある。
【0030】
本発明の方法は、クラッチによって伝達されたトルクC
Tの概算に基づくもので、この概算は、クラッチの摩擦カーブから得られ、これは伝達トルクC
Tをクラッチペダルの角度位置θ
clutchの関数として表す。
【0031】
発進のためには、坂道に停まった車両が、地球の引力が原因の、坂道の影響を克服しなくてはならない。
【0032】
この影響は、坂道の傾斜および車両重量の関数であり、値
m.g.sin(θ
slope)
を有し、ここで
・mは車両重量、
・gは重力、
・θ
slopeは坂道の傾斜である。
【0033】
車両の発進を可能とする(すなわち坂道で発進する)ためにホイール駆動ラインを介してクラッチへと伝達されるべき最小トルクC
T_threshはしたがって、少なくとも
C
T_thresh=m.g.sin(θ
slope).r(b).ρ
wheels
と等しくなくてはならず、ここで
・r(b)はギアレバーの位置bに対応した固定されたギア比、
・ρ
wheelsは車両のホイールの負荷時の半径である。
【0034】
このトルクC
T_threshが、閾値発進トルクである。よってそれが取る値は
・記録された傾斜特性(θ
slope_store)が正またはゼロであり後退ギアが固定されていれば、あるいは記録された傾斜(θ
slope_store)が負またはゼロであり前進ギアが固定されていれば、0であり、
・記録された傾斜特性(θ
slope_store)が完全に正であり前進ギアが固定されていれば、あるいは記録された傾斜(θ
slope_store)が完全に負であり後退ギアが固定されていれば、m.g.sin(θ
slope).r(b).ρ
wheelsである。
【0035】
閾値発進トルクC
T_threshのこの定義は、したがって、ユーザが坂道の下り方向に発進したときに、前記閾値発進トルクC
T_threshをゼロに設定することを可能とする。本発明の提案する方策は、この関係の利用に基づいている。
【0036】
とりわけこれは、クラッチへ伝達されたトルクC
Tが閾値発進トルクC
T_threshより大きいときの、静止状態からの発進フェーズにおける自動パーキングブレーキの解放にある。
【0037】
ここで伝達トルクC
Tは、フランス特許出願FR2828450に記載されたもののように、コントローラによって概算されるものと仮定する(添付の
図2に示されているが、明細書の残りの部分ではこれ以上は説明しない)。
【0038】
本発明によって提案の解決法は、HSA機能を有するコントローラで、これはクラッチによって伝達されたトルクC
Tの概算に基づき、ブレーキシステムと電子ブレーキ制御を提供し、各キャリパでの圧力に影響を及ぼす少なくとも1つのマスターシリンダ圧力センサを備えている。
【0039】
好ましくは、ブレーキシステムは、従来のESPタイプ(英語表現“Electronic Stability Program”に関するこの略号が、ダイナミック・スタビリティ・コントロールに対して一般的に用いられる)の油圧ブレーキ装置である。
【0040】
本発明の詳しい動作について以下に述べる。
【0041】
HSA機能コントローラの動作アルゴリズムは、3つの要素、コントローラ入力および出力、発進信号の生成、およびブレーキ圧力設定値の生成へと分解できる。
【0042】
好適な手段は入力時、コントローラに、
・坂道の傾斜θ
slopeの測定値(傾斜センサ2によって決定される)、
・アクセルペダルの角度位置θ
accの測定値(アクセルペダルが押し下げられた程度を測定するセンサによって決定される)、
・クラッチペダルの角度位置θ
clutchの測定値(クラッチペダルが押し下げられた程度を測定するセンサによって決定される)、
・ユーザが車両を静止状態に保つことを望むか否かを判断することを可能とする、圧力センサを用いたマスターシリンダ圧力P
mcの測定値、
・固定されたギア比のタイプに関する情報(前進、固定されたギア比、後退、ニュートラル)
・車両速度vの測定値、
・作動中のエンジンの自律性を示す、エンジンの回転速度ωの測定値、
・クラッチマップから学んだ伝達トルクC
Tの概算(フランス特許出願FR2828450に記載の方法を用いて、坂道の傾斜θ
slope、アクセルペダルの角度位置θ
acc、クラッチペダルの角度位置θ
clutch、および車両重量mから得られる)を提供する。
【0043】
伝達比とギアレバーの位置(これは固定されたギア比のタイプに関する情報をもたらす)の決定は、ユーザの意図に沿うように補助方法の感度を調整可能とし、および例えばユーザが1速以外のギア比を用いて発進を望むかどうかを判断する。
【0044】
コントローラの動作は、添付の
図1に示されている。
【0045】
コントローラは、初期状態10(ここでは車両はドライブ中か、あるいはエンジンを切って静止している)では、活動条件が同時に満たされるまでは、休止したままである。
【0046】
そうした条件とは、
・車両速度vが最低速度v
minよりも低い、
・マスターシリンダ圧力P
mcが閾値マスターシリンダ圧力P
mc_threshよりも高い、
・ギア比が固定されている、
・エンジンの回転速度ωが最低回転速度ω
minよりも高い、
・固定されたギア比が坂道と一致している(ユーザが前進または後退ギアで坂道を上ることを望まなければならない必要がある)、である。
【0047】
コントローラは次に、クラッチによって伝達されたトルクC
Tを概算し、
マスターシリンダ圧力Pmcの設定値に対応する情報P
storeの一部を、記録手段を用いてメモリに記憶する第2の状態20へ切り換わる。
【0048】
車両のユーザがブレーキペダルを再作動させると、記録手段は、ユーザによって加えられた最大マスターシリンダ圧力に関する情報P
storeの値を更新する。
【0049】
ユーザがブレーキペダルを完全に解放したとき、コントローラは第3の状態30へ切り換わる。
【0050】
理論上加えられる
マスターシリンダ圧力Pmcの設定値は減少し、そして記憶圧力情報P
storeの値より低くなる。
【0051】
ただしコントローラは、制御圧力をP
storeと等しい値に保つようにマスターシリンダに命令し、自動的にタイマを始動させる。
【0052】
ただし安全上の理由で、この自動的な圧力
維持は、例えば
最大で10秒間のみ行われるものとすることができる。
【0053】
所定時間の終わりで発進条件が同時に満たされていなければ、コントローラはキャリパの圧力を解放するように命令し、最初の状態10へ戻る。
【0054】
所定時間が経過する前に発進条件が同時に満たされれば、コントローラは圧力の解放を命令し、よってキャリパへ加えられた圧力が、パラメータ化可能な速度でゼロになるまで減らされ、車両がスムーズな坂道発進を行う。コントローラはそして、最初の状態10へ戻り、再び休止状態となる。
【0055】
ユーザが所定時間の終わる前に再びブレーキペダルを押し下げれば、コントローラは状態20へ戻り、そして記録手段がメモリに持っている圧力値P
storeを再更新し、これをユーザによって加えられた新たな最大圧力P
mcに等しい値とする。
【0056】
そして対応する圧力は、この新たな設定値の強さでキャリパへと加えられる。
【0057】
少なくとも3つの発進条件がある。とりわけ必要なのが、
・ギア比が固定されていること、
・ギア比が坂道と一致していることで、ユーザが前進ギアで坂道発進を行いたいならギアが固定されていることが、ユーザが後退で坂道発進を行っているなら後退ギアが固定されていることが必要、
・クラッチによって伝達されたトルクC
Tが車両の閾値発進トルクC
T_threshよりも大きいこと、である。
【0058】
油圧回路の利用の利点の1つは、それがABSの作用の外部で(ABSは坂道発進に関係していない)、キャリパで加えられる圧力が少なくともマスターシリンダ圧力P
mcと等しいと保証することを可能にすることである。
【0059】
詳しく言えば、キャリパの圧力は、マスターシリンダ圧力P
mcが記録圧力P
storeより低いときにのみHSA機能によって影響を受け、安全上の問題に繋がりかねない望ましからざるブレーキングを避けることを可能とする。
【0060】
それにもかかわらず、仕切り弁として知られる電動弁を閉じることで、マスターシリンダ圧力値P
mcが情報P
storeの記録値より低いときにのみHSA機能はキャリパの圧力に影響を及ぼす。
【0061】
さらに、ブレーキが解放される速度はパラメータ化可能であり、ブレーキ解放条件に応じて変化する。例えば、所定時間の終わる前に発進条件が同時に満たされずコントローラがブレーキを解放したとき(第1の変形例の場合)、ブレーキ解放速度は、コントローラが坂道発進を行っているときより低い。さらに、このブレーキ解放の進行はまた、ユーザによるスムーズな発進を可能とする。
【0062】
最後に、クラッチによって伝達されたトルクC
Tの測定値が、例えばエンジントルクからの計算にではなく、クラッチマップを学ぶことによる伝達トルクの概算に基づく事実は、クラッチの劣化、摩耗、そして製造差にほとんど影響を受けない方法および装置を得ることを可能にする。
【0063】
もちろん本発明は、上述の実施例にいかなる意味でも限定されるものではなく、これへの包括的変形または改造の加え方は当業者には自明である。