(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936879
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】培養プレートの抗菌処理方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/22 20060101AFI20160609BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
C12M1/22
C12M1/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-43204(P2012-43204)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-176344(P2013-176344A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591112795
【氏名又は名称】オーウェル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】小原 收
(72)【発明者】
【氏名】高橋 善和
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘
(72)【発明者】
【氏名】中台 康紀
【審査官】
植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−224033(JP,A)
【文献】
特開2012−062504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養プレートの表面に合成樹脂被膜を形成後、酸素雰囲気で真空紫外光照射処理することにより前記培養プレートに抗菌性を付与することを特徴とする、培養プレートの抗菌処理方法。
【請求項2】
ディップコート、スピンコート、又は蒸着重合により合成樹脂被膜を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
合成樹脂がポリ尿素、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート又はポリイミドである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記培養プレートがガラス又はプラスチックであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
培養プレートの表面に合成樹脂被膜を形成後、酸素雰囲気で真空紫外光照射処理することにより前記培養プレートに抗菌性を付与することを含む、抗菌性培養プレートの製造方法。
【請求項6】
前記培養プレートがガラス又はプラスチックであることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の情報を持つ細胞を、生きた状態で分離し(セルソーター)、薬剤の効果を実証するなどで用いられる培養プレートの抗菌処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定の情報を持つ細胞を、生きた状態で分離し(セルソーター)、薬剤の効果を実証するなどで用いられる培養プレートでは分離した細胞が培養プレートに付着した雑菌によって死滅するなどの大きな影響を受けるため培養プレート自身に抗菌性が求められつつある。
【0003】
培養プレートは抗菌性の度合いにより菌増殖の程度が大きく影響を受ける。
このような培養プレートは、耐久性を考慮して、プラスチックや金属、セラミックス等が材料とされる場合が多い。
【0004】
プラスチックから培養プレートを製造して抗菌性を付与する方法としては、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリプロピレン等のプラスチックを加熱溶融し、5〜30%の濃度で抗菌剤を含有したプラスチックペレットであるマスターバッチを添加することにより、抗菌剤を練り込む方法が一般に行われている。尚、この方法の場合、最終製品への抗菌剤の添加量は0.3〜2%程度となる。前記プラスチックには、その種類や加工方法により若干の差があるものの通常は250〜300℃以上の耐熱性が要求され、また、抗菌剤には、この温度において、抗菌剤成分の揮発、分解、含有水分の放出等による抗菌剤の重量変化、抗菌効果の低下や変色等を生じないことが必要とされるため、プラスチックや抗菌剤の材料の選定に制限が生じるという問題があった。
【0005】
一方、金属やセラミックスへ抗菌性を付与する方法としては、予め成形した部材表面に貼着剤により抗菌剤を塗布したプラスチックフィルムを貼着する方法が一般に行われている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、培養プレートのように部材の形状が凹凸で複雑である場合には、かかる部材表面の全面に均一に抗菌性を付与することは困難であるという問題があった(特許文献2参照)。
【0006】
このような凹凸形状を有する多孔質部材の表面に抗菌性を付与する方法として蒸着重合膜を部材表面に被覆した後、オゾン処理によって抗菌性を付与する方法がある(特許文献3参照)。しかしながら、オゾン処理によって抗菌性を付与した培養プレートは、オゾン処理後経時変化が激しく約1ヶ月で抗菌性が無くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−80957号公報
【特許文献2】特開平10−100311号公報
【特許文献3】特許第4669714号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題点を解消し、抗菌性を付与する対象となる培養プレート全面に、いわゆる抗菌剤を用いることなく抗菌性を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決するべく鋭意検討の結果、培養プレートの表面にポリ尿素、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド等の合成樹脂被膜を形成後、真空紫外光照射処理することにより前記培養プレートに優れた抗菌性を付与することできることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下の態様を有する。
[態様1]
培養プレートの表面に合成樹脂被膜を形成後、酸素雰囲気で真空紫外光照射処理することにより前記培養プレートに抗菌性を付与することを特徴とする、培養プレートの抗菌処理方法。
[態様2]
ディップコート、スピンコート、又は蒸着重合により合成樹脂被膜を形成する、態様1記載の方法。
[態様3]
合成樹脂がポリ尿素、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート又はポリイミドである、態様1又は2記載の方法。
[態様4]
前記培養プレートがガラス又はプラスチックであることを特徴とする態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]
態様1〜4のいずれか一項に記載の方法で得られる、抗菌性培養プレート。
[態様6]
前記培養プレートがガラス又はプラスチックであることを特徴とする態様5に記載の抗菌性培養プレート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、ディップコート、スピンコート、蒸着重合等により合成樹脂被膜を形成して抗菌性を付与するため、培養プレートを構成する材料及び培養プレートの形状等について制限されることなく、合成樹脂被膜の形成後に、真空紫外光照射処理を短時間することによって、培養プレート表面に均一に、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎かん菌、緑膿菌、O−157、枯草菌、セラチア及びMRSA等に対する優れた抗菌性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の抗菌処理方法に使用される装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗菌処理方法は、まず、培養プレートの表面にディップコート、スピンコート、蒸着重合等の当業者に公知の任意の方法から、培養プレートの材質などに応じて適宜選択した方法によって合成樹脂被膜を形成する。
【0014】
前記培養プレートとしては、ガラス、金属、プラスチック等を使用することができ、この中でもガラス又はプラスチックを使用することが好ましい。因みに、培養プレートの大きさ及び形状等に特に制限はない。
【0015】
前記合成樹脂被膜は、ポリ尿素、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド等の当業者に公知の任意の材質を使用することができる。尚、前記合成樹脂被膜の厚みは、合成樹脂被膜及び培養プレートの種類などに応じて、0.1μm以上の適当な厚さとすることが好ましい。0.1μm未満であると、抗菌性能が不足するからである。
【0016】
上記の培養プレートの表面に合成樹脂被膜を形成された後に、該皮膜に真空紫外光照射処理し、抗菌性を付与する。前記真空紫外光照射処理に関しては、前記合成樹脂被膜を酸素雰囲気で真空紫外光照射させることができれば特に温度や時間等の条件、紫外光照射のための装置及び照射出力等についての制限はなく、当業者が適宜選択することができる。通常、合成樹脂被膜が形成された培養プレートを室温、又は、約100℃まで、例えば、60〜80℃の範囲に加熱した後、 10000〜70000Pa程度の範囲の真空度に酸素を導入し、かかる酸素雰囲気で10〜60分程度真空紫外光照射させるようにすればよい。
【0017】
上記方法により、処理された培養プレートは、抗菌性を有する培養プレートとして機能することになる。
【0018】
抗菌処理室1には図示しないが真空排気系が接続されて任意の真空度に調整自在となっている。抗菌処理室1にはエキシマ紫外線レーザー照射装置2が設置されていて成膜処理された培養プレート3を抗菌処理室1に設置した後、真空排気し、酸素ガス導入機構4から任意の真空度に酸素を導入しエキシマ紫外線レーザー照射ができるように設置されている。また、前記抗菌処理室1の中央下部に基板上下機構5が配置され、この基板上下機構5の上には被抗菌処理物である培養プレート3が設置され、最適条件下で抗菌処理ができるようにしてある。
【0019】
以下、実施例を参照して本発明を説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれら実施例の記載に限定されるものではなく、これら記載に基づき当業者が適宜変更・修正したものも本発明に含まれる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
ポリ尿素膜の成膜原料物質としては、1,12-ジアミノドデカン(DAD)と、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)を用いた。また、非成膜処理物としては、ガラス製培養プレートを用いた。まず、特許文献3の実施例1に記載されている蒸着重合装置及び方法を用いてガラス製培養プレート(ウェルの径:35mm、ウェルの深さ:1.45〜1.55mm、プレート外寸:8.5×12.7×2.0cm、
http://www.phoenixsci.co.jp/product/product07/を参照)にポリ尿素膜(厚さ:
0.2μm)を形成させた。その後、
図1に示した抗菌処理装置を用いて、下記の処理条件で抗菌性付与処理を行った。
【0021】
具体的な真空紫外光照射条件は、抗菌処理室1の基板上下機構5上に設置した後、基板上下機構5によりエキシマ紫外線レーザー光源の窓6から培養プレート3までの距離を100mmに調整しバルブ7を閉じた。
【0022】
次に前記抗菌処理室1の真空排気を停止し、酸素導入機構4から5×10
4Paの真空度に酸素を導入し、室温にて、エキシマ紫外線レーザー照射(照射出力40W)、を20分間行った。
【0023】
尚、エキシマ紫外線レーザー光源としてはウシオ電機株式会社製光化学実験用エキシマ光照射ユニット(型式SUS06)を用いた。
【0024】
エキシマ紫外線レーザー照射終了後、抗菌処理室1に窒素ガスを大気圧になるまで導入し培養プレート3を取り出した。
【0025】
(実施例2)
まず、実施例1と同様の蒸着重合法によってガラス製培養プレートにポリエチレンテレフタレート被覆被膜(厚さ:0.2μm)を形成させた。該培養プレートを、抗菌処理室1内で100℃に加熱した後、実施例1同じ真空紫外光照射処理条件で培養プレートに抗菌処理した。
【0026】
(抗菌性試験1)
こうして得られた本発明の培養プレートに加えて、実施例1と同様にポリ尿素膜を形成させた後、上記真空紫外光照射が施されていないポリ尿素膜被覆培養プレートを比較例1とした。更に、特許文献3に記載の方法で抗菌処理を施した培養プレート(ポリイミド被覆)を比較例2とした。これらの各培養プレートを、大気中に1週間放置し、その後、JIS Z 2801に従った試験方法で抗菌性の試験を行った。上記試験の結果を下記表1に示す。
【0027】
(抗菌性試験1)
更に、抗菌処理後1ヶ月大気に暴露した各培養プレートについて、JIS Z 2801に従った試験方法で抗菌性の試験を行った。上記試験の結果を下記表2に示す。
【0028】
【表1】
【表2】
【0029】
以上の表に示された結果から、実施例1及び2の処理がされた本発明の培養プレートは、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎かん菌、緑膿菌、O−157、枯草菌、セラチア及びMRSAのいずれに対しても、比較例2と比べても極めて優れた抗菌性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の抗菌処理方法は様々な大きさ及び形状等を有する各種の培養プレートに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 抗菌処理室
2 エキシマ紫外線レーザー照射装置
3 培養プレート
4 酸素導入機構
5 基板上下機構
6 エキシマ紫外線レーザー光源の窓
7 バルブ