特許第5936883号(P5936883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5936883モータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936883
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/38 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   H02P8/38
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-47001(P2012-47001)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-183572(P2013-183572A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100143557
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 美保
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】高田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆之
(72)【発明者】
【氏名】スコット ジェイコブズ
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−261045(JP,A)
【文献】 特開2008−141868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイルを有するステッピングモータを駆動させるために各相のコイルの通電状態を制御するモータ制御装置であって、
前記複数相のコイルのうち、通電が停止されている相のコイルに誘起される逆起電圧を測定する測定手段と、
前記ステッピングモータの温度又はそれに対応する温度の温度情報を取得する取得手段と、
前記測定手段の測定結果、及び前記取得手段により取得された温度情報に応じて、前記ステッピングモータが脱調しているか否かを判定する判定手段とを備え
前記判定手段は、
前記取得手段により取得された温度情報に応じて前記ステッピングモータの脱調に関する判定基準を設定する設定手段と、
前記測定手段の測定結果と前記設定手段により設定された判定基準とを比較する比較手段とを有し、
前記比較手段の比較結果に応じて、前記判定を行う、モータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御装置の一部又は全部は、制御回路を構成しており、
前記取得手段は、前記制御回路の温度を前記温度情報として取得する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御回路は、集積回路である、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記設定手段は、
前記取得手段により取得された温度情報が示す温度が、予め設定された少なくとも2つの温度範囲のうちいずれの温度範囲に属するかを判断し、
前記属すると判断された温度範囲に対して予め対応付けられている基準値を用いて、前記判定基準を設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
複数相のうちいずれか1つの相のコイルに流れるコイル電流の向きが切り替わる際に、そのコイルへの電圧の印加を一時的に停止させる停止手段をさらに備え、
前記測定手段は、前記停止手段により電圧の印加が停止されている停止期間中に、前記コイルに誘起される逆起電圧を測定する、請求項1からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
複数相のコイルを有するステッピングモータの脱調状態判定方法であって、
前記複数相のコイルのうち、通電が停止されている相のコイルに誘起される逆起電圧を測定する測定ステップと、
前記ステッピングモータの温度又はそれに対応する温度の温度情報を取得する取得ステップと、
前記測定ステップの測定結果及び前記取得ステップにより取得された温度情報に応じて、前記ステッピングモータが脱調しているか否かを判定する判定ステップとを備え
前記判定ステップは、
前記取得ステップにより取得された温度情報に応じて前記ステッピングモータの脱調に関する判定基準を設定する設定ステップと、
前記測定ステップの測定結果と前記設定ステップにより設定された判定基準とを比較する比較ステップとを有し、
前記比較ステップの比較結果に応じて、前記判定を行う、ステッピングモータの脱調状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法に関し、特に、逆起電圧を測定して脱調状態の判定を行うモータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモータは、種々の特長を有するものであり、広く用いられている。すなわち、ステッピングモータは、その構造上ステータとロータとに機械的な接触がないため、長寿命である。また、ステッピングモータが励磁状態であるときには、大きな静止トルクを得られる。
【0003】
ステッピングモータではいわゆる脱調状態が発生することがあり、それが問題となることがある。ステッピングモータが脱調状態になると、ロータが正常に回転できなくなる。脱調状態は、例えば、パルス信号の周期が短かったり負荷が大きかったりするとき、発生することがある。
【0004】
ステッピングモータは、一般に、回転の角度や速度を高精度に制御する用途に使われることが多い。ステッピングモータは、制御側から発振されるパルス数によって回転位置の管理を行うため、脱調状態の検出が遅れて制御のみが進行すると、駆動対象となるギア等の位置がずれてしまうことがある。また、脱調状態の検出が遅れると、音声的なノイズが引き起こされる場合がある。したがって、ステッピングモータを用いた装置等で適正な動作を行うために、脱調状態が発生したことを速やかに検出することが必要となる。
【0005】
このように、ステッピングモータが脱調状態となったときには、速やかにその状態を検出すること、及び、速やかに回転を止めたり正常な回転状態に復帰させたりするなどのエラー処理を行うことが必要である。そのため、ステッピングモータにおいては、脱調状態を検出し、その後のエラー処理を実行させるための回路やシステムが併せて用いられる場合が多い。
【0006】
特許文献1には、次のような脱調状態検出方法が開示されている。すなわち、ステッピングモータの回転に影響を与えない程度の短い時間だけ、ステッピングモータの各相のコイルの制御電流を、各相順番に停止させる。そして、制御電流の停止中に逆起電圧を測定し、その測定結果が所定の脱調状態判定基準を充足した場合に、脱調が発生したことを検出する。
【0007】
特許文献2には、上述の特許文献1のような方法に加え、制御電流の停止期間中において、逆起電圧を測定するコイル以外のすべてのコイルを、固定電圧に設定するようにしたモータの制御方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、モータ制御装置において、回転中のモータの逆起電力を測定することで、ステッピングモータの脱調に関する状態を判断することが開示されている。
【0009】
特許文献4には、ステッピングモータの駆動装置において、脱調検出回路により脱調が発生したことが検出されると、駆動パルスの出力を停止して、ステッピングモータの励磁コイルへの通電を停止することが開示されている。この駆動装置では、逆起電圧によって生じる電圧の変動に基づき、脱調が発生したことを検出することが開示されている。
【0010】
なお、特許文献5には、環境温度を測定する温度センサで計測した温度が閾値である所定温度よりも低い場合に、予熱制御手段によりステッピングモータが回転しないように励磁電流をステッピングモータへ供給するようにしたステッピングモータの制御装置が開示されている。
【0011】
特許文献6には、モータ駆動制御装置において、モータが駆動する駆動ローラや従動ローラなどの負荷機構の温度状態を検出し、検出された温度状態に基づいて、モータの駆動電流を設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−261045号公報
【特許文献2】特開2012−16221号公報
【特許文献3】特開2011−259525号公報
【特許文献4】特開2000−166297号公報
【特許文献5】特開2005−039874号公報
【特許文献6】特開2006−014440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記の特許文献1や特許文献2に記載されているように逆起電圧を測定して脱調状態を検出するモータ制御装置において、ステッピングモータが高温状態であるときや低温状態であるときに、脱調検出の精度が悪化することがあるという問題が発見された。このような問題に対して有効な解決策は、上記特許文献3から6には何ら開示されていない。
【0014】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、幅広い温度域で、脱調状態であるか否かをより確実に判定できるモータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、複数相のコイルを有するステッピングモータを駆動させるために各相のコイルの通電状態を制御するモータ制御装置は、複数相のコイルのうち、通電が停止されている相のコイルに誘起される逆起電圧を測定する測定手段と、ステッピングモータの温度又はそれに対応する温度の温度情報を取得する取得手段と、測定手段の測定結果、及び取得手段により取得された温度情報に応じて、ステッピングモータが脱調しているか否かを判定する判定手段とを備え、判定手段は、取得手段により取得された温度情報に応じてステッピングモータの脱調に関する判定基準を設定する設定手段と、測定手段の測定結果と設定手段により設定された判定基準とを比較する比較手段とを有し、比較手段の比較結果に応じて、判定を行う
【0016】
好ましくはモータ制御装置の一部又は全部は、制御回路を構成しており、取得手段は、制御回路の温度を温度情報として取得する。
【0017】
好ましくは制御回路は、集積回路である。
【0019】
好ましくは設定手段は、取得手段により取得された温度情報が示す温度が、予め設定された少なくとも2つの温度範囲のうちいずれの温度範囲に属するかを判断し、属すると判断された温度範囲に対して予め対応付けられている基準値を用いて、判定基準を設定する。
【0020】
好ましくはモータ制御装置は、複数相のうちいずれか1つの相のコイルに流れるコイル電流の向きが切り替わる際に、そのコイルへの電圧の印加を一時的に停止させる停止手段をさらに備え、測定手段は、停止手段により電圧の印加が停止されている停止期間中に、コイルに誘起される逆起電圧を測定する。
【0021】
この発明の他の局面に従うと、複数相のコイルを有するステッピングモータの脱調状態判定方法は、複数相のコイルのうち、通電が停止されている相のコイルに誘起される逆起電圧を測定する測定ステップと、ステッピングモータの温度又はそれに対応する温度の温度情報を取得する取得ステップと、測定ステップの測定結果及び取得ステップにより取得された温度情報に応じて、ステッピングモータが脱調しているか否かを判定する判定ステップとを備え、判定ステップは、取得ステップにより取得された温度情報に応じてステッピングモータの脱調に関する判定基準を設定する設定ステップと、測定ステップの測定結果と設定ステップにより設定された判定基準とを比較する比較ステップとを有し、比較ステップの比較結果に応じて、判定を行う
【発明の効果】
【0022】
これらの発明に従うと、通電が停止されているコイルに誘起される逆起電圧と、ステッピングモータの温度及びモータ制御装置の温度のうち少なくとも一方に対応する温度情報とに基づいて、ステッピングモータが脱調しているか否かが判定される。したがって、幅広い温度域で、脱調状態であるか否かをより確実に判定できるモータ制御装置及びステッピングモータの脱調状態判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
図2】ステッピングモータの回路構成を模式的に示す図である。
図3】本実施の形態における脱調状態判定方法を示すフローチャートである。
図4】基準値設定テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ制御装置について説明する。
【0025】
モータ制御装置は、複数相のコイルを有するステッピングモータを駆動させるためのものである。モータ制御装置は、ステッピングモータを駆動させるために各相のコイルの通電状態を制御する。本実施の形態において、モータ制御装置は、ステッピングモータのコイルに通電する駆動回路と、駆動回路の制御を行う制御回路とを有している。換言すると、モータ制御装置の一部は、制御回路を構成している。
【0026】
モータ制御装置と、それにより駆動されるステッピングモータとで、モータ駆動装置が構成される。モータ駆動装置において、ステッピングモータは、電源から供給される電力に基づいて、駆動回路から駆動電力が供給されることで駆動される。モータ駆動装置において、制御回路によって駆動回路が制御されることにより、ステッピングモータの駆動が制御される。
【0027】
[実施の形態]
【0028】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【0029】
図1に示されるように、モータ駆動装置1は、モータ制御装置10と、ステッピングモータ20とを有している。ステッピングモータ20は、例えば、A相及びB相の2相励磁で駆動される。ステッピングモータ20は、A相のコイル及びB相のコイル(図2に示す。)を有している。ステッピングモータ20は、モータ制御装置10から各相のコイルに電力が供給されて駆動される。ステッピングモータ20は、例えば、車両に搭載される空調装置用のアクチュエータとして利用される。なお、ステッピングモータ20及びモータ駆動装置1の用途はこれに限られるものではない。
【0030】
モータ制御装置10は、制御回路12と、駆動回路14とを有している。
【0031】
駆動回路14は、モータ駆動部142と、電流センサ144とを有している。駆動回路14は、ステッピングモータ20に電力を供給し、ステッピングモータ20を駆動する。
【0032】
制御回路12は、CPU(中央演算処理装置;判定手段の一例、設定手段の一例、比較手段の一例)122と、電流測定部124と、逆起電圧測定部(測定手段の一例)126と、温度計測部(取得手段の一例)128とを有している。制御回路12は、駆動回路14の制御を行うことで、ステッピングモータ20の駆動を制御する。本実施の形態において、制御回路12は、IC(集積回路)としてパッケージ化されている。
【0033】
モータ駆動部142は、ステッピングモータ20の各相のコイルに電圧を印加するモジュールである。モータ駆動部142には、CPU122から制御信号が送られる。モータ駆動部142は、制御信号に基づいて、電圧を印加する。本実施の形態では、駆動回路14とステッピングモータ20とは、A相の正極(+)、A相の負極(−)、B相の正極(+)、B相の負極(−)の4つのラインで接続されている。モータ駆動部142は、制御信号に応じて、これらの各ラインを介して、ステッピングモータ20に電力を供給する。
【0034】
電流センサ144は、ステッピングモータ20の各相のコイルに流れる電流(コイル電流)をセンシングするモジュールである。電流センサ144は、コイル電流のセンシング結果を、電流測定部124に出力する。
【0035】
電流測定部124は、ステッピングモータ20のコイル電流を測定するモジュールである。電流測定部124には、電流センサ144から出力されたコイル電流のセンシング結果が入力される。電流測定部124は、入力されたセンシング結果に基づいて、コイル電流を測定する。電流測定部124は、コイル電流の測定結果を、CPU122に出力する。
【0036】
逆起電圧測定部126は、ステッピングモータ20の各相のコイルに誘起される逆起電圧を測定するモジュールである。本実施の形態において、逆起電圧測定部126は、駆動回路14とステッピングモータ20とを接続する4つのラインのそれぞれに接続されている。逆起電圧測定部126は、逆起電圧の測定結果を、CPU122に出力する。
【0037】
温度計測部128は、例えば、制御回路12のICの温度を測定する温度センサである。温度計測部128は、制御回路12の温度を示す温度情報をCPU122に出力する。
【0038】
CPU122には、電流測定部124から出力されたコイル電流の測定結果と、逆起電圧測定部126から出力された逆起電圧の測定結果と、温度計測部128から出力された温度情報とが入力される。CPU122は、ステッピングモータ20に印加する電圧を制御するための制御信号を生成する。CPU122は、ステッピングモータ20を駆動するとき、コイル電流の測定結果に基づいて、制御信号を生成する。CP122は、生成した制御信号を、モータ駆動部142に出力する。
【0039】
図2は、ステッピングモータ20の回路構成を模式的に示す図である。
【0040】
図2に示されるように、ステッピングモータ20は、2つのコイル21a,21bと、ロータ22と、複数のステータヨーク(図示せず)とを有している。
【0041】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータヨークを励磁するコイルである。コイル21a,21bは、それぞれ、駆動回路14に接続されている。コイル21aは、A相のコイルである。コイル21bは、B相のコイルである。コイル21a,21bには、それぞれ異なる位相のコイル電流が流される。
【0042】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22sとN極22nとが交互に反転するように多極着磁された永久磁石を備える。なお、図2においては、ロータ22は、S極22sとN極22nとが1つずつ設けられているように簡略化されて示されている。ステータヨークは、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に接近して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることで回転する。
【0043】
本実施の形態において、ステッピングモータ20が駆動されるとき、CPU122及びモータ駆動部142は、コイル21a,21bのそれぞれに、パルス幅変調されたパルス電圧を印加する。
【0044】
ステッピングモータ20は、以下のようにして駆動される。すなわち、コイル21aには、所定の周期でコイル電流Iaの極性(すなわち、コイル電流Iaの方向)が変わるように、パルス電圧が印加される(コイル電圧Va)。他方、コイル21bには、コイル21aと同一の周期で、パルス電圧が印加される(コイル電圧Vb)。コイル21bには、コイル電流Iaに対して所定の位相だけ遅れてコイル電流Ibの極性(すなわち、コイル電流Ibの方向)が変わるように、パルス電圧が印加される。
【0045】
コイル21a,21bにそれぞれコイル電流Ia,Ibが流れると、コイル電流Ia,Ibの極性に応じて、コイル21a,21bのステータヨークが励磁される。これにより、ロータ22が所定のステップ単位で回転する。
【0046】
ここで、モータ制御装置10には、後述のような脱調状態判定方法により、ステッピングモータ20で脱調が発生したか否か(脱調状態であるか否か)を判定する機能が設けられている。この機能は、制御回路12の各部を用いてCPU122が処理を行うことで実現されている。この機能及びステッピングモータ20で脱調が発生したと判定されたときの動作について、以下に説明する。
【0047】
本実施の形態において、ステッピングモータ20の脱調が発生したか否かの判定は、CPU122がステッピングモータ20を駆動させる駆動処理を行っているときに行われる。駆動処理は、ステッピングモータ20の駆動を開始してから停止するまで、繰り返される。判定は、逆起電圧測定部126により測定された逆起電圧、及び温度計測部128により取得された温度情報に応じて行われる。判定は、後述のようにして設定された脱調判定基準値(判定基準の一例)に基づいて行われる。
【0048】
まず、CPU122が行う脱調状態判定方法の流れについて、おおまかに説明する。
【0049】
図3は、本実施の形態における脱調状態判定方法を示すフローチャートである。
【0050】
駆動処理がスタートすると、ステップS101において、CPU122は、温度計測部128による温度計測を行う。これにより、温度情報が取得される。
【0051】
ステップS102において、CPU122は、取得した温度情報に基づいて、脱調判定基準値の選択及び設定を行う。
【0052】
ステップS103において、CPU122は、逆起電圧測定部126により、逆起電圧を測定する。
【0053】
ステップS104において、CPU122は、ステッピングモータ20が脱調状態であるか否かを判定する。脱調状態だと判定されなければ、CPU122は、逆起電圧の測定と、脱調状態であるか否かの判定とを繰り返す(S103,S104)。
【0054】
ステップS104において脱調状態であると判定されると、ステップS105において、CPU122は、ステッピングモータ20を停止させる処理を行う。ステッピングモータ20を停止させると、ステッピングモータ20の駆動処理は終了する。
【0055】
ここで、上述のステップS103の処理において、逆起電圧は、次のようにして測定される。CPU122は、A相及びB相のうちいずれか1つの相のコイル21a,21bに流れるコイル電流Ia,Ibの向きが切り替わる際に、一時的に、そのコイル21a,21bへのパルス電圧の印加を停止させる(停止期間)。そして、逆起電圧測定部126は、このような停止期間中に、パルス電圧の印加が停止されている相のコイル21a,21bに誘起される逆起電圧を、個別に(相毎に、又はコイル毎に)測定する。
【0056】
すなわち、コイル電流Iaの極性が変わるときには、コイル電流Iaがゼロになるように、コイル21aへのパルス電圧の印加が停止される。この停止期間においては、コイル21aに逆起電圧が誘起される。また、コイル電流Ibの極性が変わるときには、コイル電流Ibがゼロになるように、コイル21bへのパルス電圧の印加が停止される。この停止期間においては、コイル21bに逆起電圧が誘起される。逆起電圧測定部126は、これらの逆起電圧を測定する。
【0057】
より具体的には、ステッピングモータ20の駆動時において、CPU122の制御により、コイル21a,21bにパルス電圧が印加される(PWM制御)。これにより、コイル21a,21bにそれぞれコイル電流Ia,Ibが流れる。
【0058】
PWM制御が行われると、その後、通電停止処理及び定電圧制御が実行される。例えばコイル21aの通電停止処理が行われる場合には、所定の停止期間だけコイル21aへのパルス電圧の印加が停止される。これにより、コイル電流Iaがゼロになる。停止期間は、CPU122により任意に設定される。例えば、CPU122は、予め決められた停止期間を設定してもよいし、モータ駆動装置1の外部から停止期間の設定を受け付けてもよい。このような停止期間中に、逆起電圧測定部126は、コイル21aに誘起される逆起電圧を測定する。測定結果は、CPU122に供給される。
【0059】
なお、本実施の形態において、このようにコイル21aについて通電停止処理が行われる場合、CPU122は、定電圧制御として、その停止期間中においてコイル21bのコイル電圧Vbを固定電圧に設定する。すなわち、CPU122は、停止期間中に、逆起電圧を測定するコイル以外のすべてのコイルを固定電圧に設定する。固定電圧の電圧レベルは、直前のコイル電圧と同じ電圧レベル(例えば、電源電圧レベル又はグラウンド(GND)レベルなど)であってもよいし、所定の基準電圧レベルであってもよい。これにより、例えばコイル21aについて通電停止処理が行われる場合には、コイル21bのコイル電圧Vbが一定(本実施の形態では、例えば、電源電圧レベル)になる。
【0060】
固定電圧の電圧レベルが電源電圧レベルであるとき、コイル21aについて通電停止処理が行われる場合におけるコイル21bのコイル電流Ibは、上述のPWM制御が行われている期間におけるコイル電流Ibに比べて多少上昇する。停止期間中のコイル電圧Vbは一定であるので、コイル電圧Vbの印加に伴うノイズは発生しない。その結果、停止期間中のコイル21aのコイル電圧Vaにはノイズが重畳されない。すなわち、停止期間中のコイル電圧Vaを測定することにより、コイル21aに誘起される逆起電圧が正確に測定される。これにより、脱調状態の誤検出を防ぐことができる。
【0061】
上述のようにして逆起電圧が計測されると、CPU122は、逆起電圧が、所定の脱調判定基準、すなわちステップS102で設定された脱調判定基準値を充足するか否かを判定する(上述のステップS104)。換言すると、CPU122は、得られた逆起電圧の値と、脱調判定基準値とを比較する。比較結果に応じて、ステッピングモータ20で脱調が発生したか否かが判定可能である。例えば、CPU122は、測定された逆起電圧の値が脱調判定基準値に達しているとき、ステッピングモータ20で脱調が発生していると判定する。
【0062】
次に、温度情報に基づく脱調判定基準の設定について説明する。
【0063】
本実施の形態では、脱調状態であるか否かの判定が行われるまでに、予め、温度情報に基づく脱調判定基準値の設定が行われる(上述のステップS101,S102)。そして、予め設定された脱調判定基準値に基づいて、脱調状態であるか否かの判定が行われる。
【0064】
ステッピングモータ20の逆起電圧には、ステッピングモータ20の温度に対する依存性があることがわかってきた。そこで、ステッピングモータ20の温度の温度情報や、ステッピングモータ20の温度に対応するモータ制御装置10の温度の温度情報を用いて、脱調判定基準値の設定が行われる。モータ制御装置10は、それ自体ステッピングモータ20と同環境に置かれることが多く、また、ステッピングモータ20の動作に応じた動作を行う。そのため、モータ制御装置10の温度は、ステッピングモータ20の温度に対応するものとなる。このような温度情報を用いて脱調判定基準値の設定が行われることにより、より正確に脱調状態の判定ができるようになる。
【0065】
本実施の形態において、より具体的には、温度計測部128は、制御回路12の温度、すなわちICの内部温度を温度情報として取得する。ここで、制御回路12は、ステッピングモータ20と略同じ環境下に置かれることが多いものである。また、制御回路12は、ステッピングモータ20の動作に伴い、動作するものである。そのため、ICの内部温度は、ステッピングモータ20の置かれた環境(周囲の温度等の状況)や、ステッピングモータ20の負荷状況に略相関する。したがって、ICの内部温度の温度情報を活用して、温度に応じた脱調判定基準値が選択されることで、より正確にステッピングモータ20の脱調状態の判定ができるようになる。
【0066】
温度計測部128により温度情報が取得されると、CPU122は、その温度情報に応じて脱調判定基準値を設定する。このとき、CPU122は、温度計測部128により取得された温度情報が示す温度が、予め設定された3つの温度範囲(3ランクの温度範囲)のうちいずれの温度範囲に属するかを判断する。そして、CPU122は、3つの温度範囲のうち、属すると判断された温度範囲に対して予め対応付けられている基準値(閾値)を、脱調判定基準値として設定する。各温度範囲と基準値との対応関係は、例えば、予め、基準値設定テーブルとして設定されている。基準値設定テーブルは、例えば、制御回路12内に設けられた記憶部(メモリ;図示せず)に記憶されている。なお、対応関係は、このような基準値設定テーブルにより定められていなくてもよい。
【0067】
本実施の形態においては、3つの温度範囲として、例えば、セ氏5度以下である第1の範囲、セ氏5度より大きくセ氏75度未満である第2の範囲、及びセ氏75度以上の第3の範囲の3つが設定されている。そして、第1の範囲、第2の範囲、第3の範囲のそれぞれについて、脱調判定基準値として設定するべき基準値V1,V2,V3が対応づけられている。
【0068】
CPU122は、温度計測部128により取得された温度情報が示す温度が、3つの温度範囲(第1の範囲〜第3の範囲)のいずれに属するかを判断する。そして、CPU122は、属すると判断した範囲について対応付けられている基準値を選択し、脱調判定基準値として設定する。
【0069】
例えば、温度計測部128により取得された温度情報が示す温度がセ氏50度である場合を想定する。このとき、温度は、第2の範囲に属する。したがって、第2の範囲に対応付けられている基準値V2が、脱調判定基準値として設定される。CPU122は、設定された脱調判定基準値V2と逆起電圧の値とを比較し、ステッピングモータ20で脱調が発生したか否かを判定する。
【0070】
同様に、温度計測部128により取得された温度情報が示す温度が例えばセ氏0度であるときには、脱調判定基準値として基準値V1が選択される。また、温度が例えばセ氏100度であるときには、脱調判定基準値として基準値V3が選択される。これにより、ステッピングモータ20の温度に対応する脱調判定基準値に基づいて、ステッピングモータ20で脱調が発生したか否かが判定される。
【0071】
なお、温度範囲としては、例えば、高温側と低温側との、少なくとも2つに分かれていればよいし、3つより多く分かれていてもよい。温度範囲は、例えば、セ氏5度以下、セ氏5度〜セ氏45度、セ氏45度〜セ氏60度、セ氏60度〜セ氏75度、及びセ氏75度以上のように、5段階に分かれていてもよいし、7段階などに分かれていてもよい。
【0072】
[実施の形態における効果]
【0073】
以上のように構成されたモータ制御装置10では、ステッピングモータ20の温度に対応する温度を計測し、計測して得た温度に応じて、脱調判定基準値が設定される。そして、設定された脱調判定基準値と、別途計測した逆起電圧を比較することで、脱調状態が判定される。ステッピングモータ20の逆起電圧には温度に対する依存性があるが、モータ制御装置10においては、ステッピングモータ20の温度に応じて、そのとき検出される逆起電圧の基準となる脱調状態判定基準値を変化させたうえで、脱調状態の判定を行うことができる。したがって、ステッピングモータ20が比較的高温である状態や低温である状態においても、高精度で、ステッピングモータ20で脱調が発生したことを判定することができる。
【0074】
脱調判定基準値は、温度情報が示す温度が属する温度範囲について予め対応付けられている基準値を選択することにより設定される。したがって、比較的単純な処理により、脱調判定基準値の設定を行うことができる。
【0075】
また、本実施の形態においては、制御回路12内に設けられている温度計測部128を用いて測定した温度を用いて、脱調判定基準値の設定が行われる。このようにモータ制御用の制御回路12の内部に従来用いられている「IC内部温度を計測する機能」を利用することにより、モータ制御装置10の部品点数を少なくすることができる。したがって、モータ制御装置10の製造コストを低く抑えることができる。また、モータ制御装置10を小型化することができ、モータ制御装置10の設置に必要なスペースを小さくすることができる。IC内部温度は、ステッピングモータ20の置かれた環境(周囲の温度)やステッピングモータ20の負荷状況に略相関するものである。このIC内部温度の温度情報を活用して、温度に応じた脱調判定基準値を設定するので、より正確に、脱調状態の判定ができるようになる。
【0076】
なお、温度の計測は、制御回路12内に設けられている温度計測部128を用いて行われるものに限られない。例えば、別の温度センサを用いて、ステッピングモータ20の温度やモータ制御装置10の温度や、その温度に対応する温度を計測するようにしてもよい。
【0077】
[変型例の説明]
【0078】
温度範囲に対応付けられている基準値は、上述のように1つでもよいし、2つより多くてもよい。例えば、複数の基準値を用いて脱調判定基準を設定するようなときには、それぞれの基準値が基準値設定テーブルにより求められるようにすればよい。
【0079】
図4は、基準値設定テーブルの一例を示す図である。
【0080】
図4においても、セ氏5度以下である第1の範囲、セ氏5度より大きくセ氏75度未満である第2の範囲、及びセ氏75度以上の第3の範囲の3つの温度範囲が設定されている。それぞれの温度範囲について、3つの基準値(閾値Va,Vb,Vc)が設定されている。
【0081】
ここで、閾値Va,Vb,Vcは、例えば、それぞれ次のようなものである。すなわち、閾値Vaは、測定された逆起電圧の値と比較されるものである。また、閾値Vbは、連続する前後の測定機会における逆起電圧の変動値の絶対値と比較されるものである。閾値Vcは、逆起電圧の変動値が連続して所定の条件を満たす変動を行う期間における、逆起電圧の変動値の絶対値の差分と比較されるものである。
【0082】
脱調判定基準は、これらの閾値Va,Vb,Vcを用いて設定される。すなわち、例えば、特開2009−261045号公報で公知であるように、測定された逆起電圧の値が閾値Vaに対して所定の条件を満たすこと、逆起電圧の変動値の絶対値が閾値Vbに対して所定の条件を満たすこと、及び逆起電圧の変動値の絶対値の差分が閾値Vcに対して所定の条件を満たすこと、などを含む複数の条件のうち、いずれか1つが充足されるとき、脱調判定基準が満たされたと判断されるようにしてもよい。また、これらを含む複数の条件のうち、2つ以上の所定数の条件が充足されたり、特定の2つ以上の条件がそろって充足されたりしたとき、脱調判定基準が満たされたと判断されるようにしてもよい。
【0083】
図4に示される例において、基準値設定テーブルには、第1の範囲について、3つの閾値Va,Vb,Vcとして、それぞれ、閾値Va1、閾値Vb1及び閾値Vc1が対応付けられている。また、第2の範囲について、閾値Va2、閾値Vb2及び閾値Vc2が対応付けられている。第3の範囲について、閾値Va3、閾値Vb3及び閾値Vc3が対応付けられている。CPU122は、温度計測部128により取得された温度情報が示す温度が属すると判断した温度範囲について対応付けられている閾値Va,Vb,Vcをそれぞれ選択し、脱調判定基準を設定する。これにより、比較的複雑な脱調判定基準を採用して脱調状態の判定を行う場合であっても、計測した温度に応じて、脱調判定基準を適切に変更可能である。基準値設定テーブルを用いることにより、比較的単純な処理で脱調判定基準を設定することができる。
【0084】
また、CPU122は、上述のような温度範囲に対応付けられた基準値を選択する方法に限られず、種々の方法により、脱調判定基準を設定するように構成されていればよい。例えば、CPU122は、温度をパラメータとした計算式を用いて、脱調判定基準値を求めるように構成されていてもよい。
【0085】
例えば、次式のように、脱調状定基準値Vを、IC内部温度tをパラメータとした関数F(t)で表し、この関数F(t)を用いて脱調判定基準値Vを求めるようにすればよい。
【0086】
V=F(t)
【0087】
具体的には、例えば、次式のように表される数式を用いて、脱調判定基準値Vを求めることができる。
【0088】
V=a*t^2(tの2乗)+b*t+c (a,b,cは定数)
【0089】
なお、上式は一例であり、関数F(t)は、2次より高い次数の高次関数として表現するようにしてもよい。
【0090】
逆起電圧の温度依存性に応じた計算式を用いて脱調判定基準値を設定するようにすることにより、より温度の変化に適合した脱調判定基準値を設定することができる。したがって、ステッピングモータ20で脱調が発生しているか否かをより精度良く判定することができる。したがって、脱調状態であるか否か、より確実に判定できるようになる。
【0091】
[その他]
【0092】
上記実施の形態において、逆起電圧の測定は、各相のコイルの制御電流の停止中において、他のコイルを固定電圧に設定して行われるが、これに限られるものではない。当該他のコイルについては固定電圧に設定するか否かにかかわらず、ある相のコイルの制御電流の停止期間において、そのコイルについての逆起電圧を測定するようにすればよい。また、逆起電圧は、種々のタイミングで適宜測定するようにすればよい。
【0093】
制御回路の一部分のみが集積回路として構成されていてもよい。また、モータ制御装置のうち、制御回路とは異なる部分の一部が集積回路として構成されていてもよい。モータ制御装置の全部が集積回路として構成されていてもよい。
【0094】
ステッピングモータは2相のものに限られない。例えば、ステッピングモータは、5相のものであってもよい。
【0095】
ステッピングモータやモータ制御装置など、モータ駆動装置のハードウェア構成は上述に限られるものではない。モータ制御装置により上記のような脱調状態判定機能が行われるように、モータ駆動装置の構成は適宜変更可能である。
【0096】
上述の実施の形態における処理は、ソフトウェアによって行っても、ハードウェア回路を用いて行ってもよい。
【0097】
上述の実施の形態における処理を実行するプログラムを提供することもできるし、そのプログラムをCD−ROM、フレキシブルディスク、ハードディスク、ROM、RAM、メモリカードなどの記録媒体に記録してユーザに提供することにしてもよい。プログラムはインターネットなどの通信回線を介して、装置にダウンロードするようにしてもよい。上記のフローチャートで文章で説明された処理は、そのプログラムに従ってCPUなどにより実行される。
【0098】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 モータ駆動装置
10 モータ制御装置
12 制御回路
14 駆動回路
20 ステッピングモータ
21a,21b コイル
22 ロータ
22n N極
22s S極
122 CPU(中央演算処理装置;判定手段の一例、設定手段の一例、比較手段の一例)
124 電流測定部
126 逆起電圧測定部(測定手段の一例)
128 温度計測部(取得手段の一例)
142 モータ駆動部
144 電流センサ
図1
図2
図3
図4