(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイヤモンド板は、前記薄膜ターゲットが形成された側が真空雰囲気に配置され、前記薄膜ターゲットが形成された側と反対側が冷媒に直接接触して冷却される側に配置されるようにX線発生装置に組み込まれるものであることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置のターゲット。
前記ダイヤモンド板は、結晶学的空間群Fd3mに属する結晶構造を持つダイヤモンド材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線発生装置のターゲット。
前記薄膜ターゲットは、Al、Cr、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Ag、Au、Rh、Sm、Laなどの導電性金属物質で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
前記薄膜ターゲットと前記ダイヤモンド板との間に厚さ1nm〜20nmの下地膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
前記ダイヤモンド板の前記薄膜ターゲットが形成された側と反対側に、厚さ1nm〜20nm厚の下地膜をつけ、その上に、5μm〜10μmの耐腐食性膜を形成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
前記下地膜がCr、Ti、V、W、Moのいずれかであり、前記耐腐食性膜がAu、Crのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のX線発生装置のターゲット。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置としては、一般に、熱電子源であるフィラメントを陰極とし、電子を衝突させる対象であるターゲットを陽極とし、これらの間に、数十キロボルトの高電圧を印加し、高速電子をターゲットに衝突させることによってX線を発生させる装置が知られている。
【0003】
X線発生装置の最も基本的な性能の1つとして、発生できるX線の輝度(以下、X線強度という)の大きさがあり、従来から、X線強度増大のために様々な試みがなされている。なお、X線強度を直接示すかわりに、ターゲット上のX線発生領域(焦点)の面積で印加された電力(=印加電圧×印加電流)を除した値(=単位面積当たりの印加電力)をもってX線強度を示す値として用いられる場合も少なくない。発生されるX線の強度が単位面積あたりの印加電力にほぼ比例するからである。本願明細書においても単位面積当たりの印加電力の値をもってX線強度を示す値として用いることとする。
【0004】
上述の通り、X線強度は、ターゲットに対する単位面積当たりの印加電力の値によって定まる。したがって、X線強度を増大させるには単位面積当たりの印加電力の値を増大させればよい。印加電力増大のカギは、電子の衝突によって発生した熱をこの衝突部位から如何にすばやく逃がすことができるかという点である。したがって、従来から、その点に的を絞った様々な提案がなされている。
【0005】
その提案のなかの多くは、衝突部位から効率的に熱を逃がすために、ターゲット部材を小さくもしくは薄く形成し、このターゲット部材よりも熱伝導率の大きい部材(熱拡散部材)を上記ターゲット部材に接触させるというものである(例えば、特許文献1参照)。すなわち、特許文献1(特開平8−115798号公報)の「段落0035〜0036」には、(実施例1)として、直径10mm、厚さ1mmの多結晶ダイヤモンド基板2(熱伝導率16.9w/cm)の中心に、直径0.2mmの貫通孔を設け、この貫通孔に金属Cuを充填してターゲット(対陰極1)とし、裏面にCu膜を形成するとともに、側面を冷却ホルダ5に接触させてセットしたもの(
図2)が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献1の「段落0044」には、(比較例1)として、直径10mm、厚さ1mmの円盤状の多結晶ダイヤモンド基板32の片面に金属Cu膜33を蒸着して薄膜ターゲットにし、
図2に示したホルダ5に側面を接触させてセットした例が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、高出力のX線を発生させるためは、例えば、ターゲットの焦点に数十キロボルトで十数ミリアンペア程度の電力を供給する必要がある。ここで、特許文献1に記載のようなターゲットは、電子線が照射されるターゲット物質は導電性であるが、これに接触
するダイヤモンド基板は電気的絶縁性の材料である。このため、特許文献1のように、ダイヤモンド基板の中に小さな円柱状のターゲットを形成したような場合には、このターゲットを電源に接続する接続部が不完全である場合、ターゲットを損傷する虞があるという問題がある。
【0009】
また、薄膜ターゲットを形成したダイヤモンド板を、従来のターゲット支持方法にならってそのまま従来のターゲット固定用部材に固定しようとしても、ダイヤモンドと固定部材との熱膨張率の差が大きく、高温になり、かつ、温度勾配の大きなX線ターゲットとしては安定な接合が難しいという問題があった。
【0010】
以上述べてきたような困難さのために、ダイヤモンド基板の上に薄膜のターゲットを形成するという方式は、いまだ実験的レベルと思われる文献がある程度あって、製品として採用できるような実用的技術はほとんど提案されていないのが現状である。
本願発明は、上述の背景の下でなされたものであり、高強度のX線を安定して発生させることができるX線発生用ターゲット、X線発生装置、及びX線発生用ターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)X線発生装置の内部に配置されて加速された電子が照射されることでX線を発生するX線発生装置のターゲットであって、
導電性材料で構成され、開口部を備えたホルダ部と、
前記ホルダ部の上記開口部を塞ぐように気密に接合されたダイヤモンド板と、
前記ダイヤモンド板の表面に設けられた薄膜ターゲットとを備え、
前記薄膜ターゲットはその外周部が前記ホルダ部に至るまでそのまま延長して設けられて前記ホルダ部に電気的に接続されたものであり、
前記ホルダ部はX線発生装置の電源に電気的に接続されるように構成されたものであり、
前記ダイヤモンド板は、前記薄膜ターゲットが形成された側が真空雰囲気に配置され、前記薄膜ターゲットが形成された側と反対側が冷媒に熱的に接触されて冷却される側に配置されるようにX線発生装置に組み込まれるものであることを特徴とするX線発生装置のターゲット。
(2)前記ダイヤモンド板は、前記薄膜ターゲットが形成された側が真空雰囲気に配置され、前記薄膜ターゲットが形成された側と反対側が冷媒に直接接触して冷却される側に配置されるようにX線発生装置に組み込まれるものであることを特徴とする(1)に記載のX線発生装置のターゲット。
(3)前記ダイヤモンド板は、結晶学的空間群Fd3mに属する結晶構造を持つダイヤモンド材料からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のX線発生装置のターゲット。
(4)前記薄膜ターゲットは、Al、Cr、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Ag、Au、Rh、Sm、Laなどの導電性金属物質で構成されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
(5)前記ダイヤモンド板は、厚さ0.3mm〜1.5mm、直径2mm〜25mmの円板状もしくは楕円板状であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
(6)前記薄膜ターゲットと前記ダイヤモンド板との間に厚さ1nm〜20nmの下地膜が形成されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
(7)前記下地膜が、Cr、Ti、V、W、Moのいずれかであることを特徴とする(6)に記載のX線発生装置のターゲット。
(8)前記ダイヤモンド板の前記薄膜ターゲットが形成された側と反対側に、厚さ1nm〜20nm厚の下地膜をつけ、その上に、5μm〜10μmの耐腐食性膜を形成したことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
(9)前記下地膜がCr、Ti、V、W、Moのいずれかであり、前記耐腐食性膜がAu、Crのいずれかであることを特徴とする(8)に記載のX線発生装置のターゲット。
(10)前記ホルダ部は円筒状をなしたものであり、
前記ダイヤモンド板は、前記円筒状ホルダ部の上部開口部を塞ぐように該円筒状ホルダ部に気密に接合されたものであり、
前記円筒状ホルダ部は、この円筒状ホルダ部と前記ダイヤモンド板との熱膨張の差によって前記円筒状ホルダ部に接合されたダイヤモンド板が破壊しない程度に変形可能な展性を備えたものであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲット。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲットを製造するX線発生装置のターゲット製造方法であって、
前記ダイヤモンド板を前記ホルダ部に接合した状態で、前記ダイヤモンド板表面と前記ホルダ部表面とを含む領域にイオンビームスパッタなどの薄膜形成法を用いて導電性のターゲット物質を堆積させることによって、前記ダイヤモンド板表面に薄膜ターゲットを形成するとともに、前記薄膜ターゲットの外周部が前記ホルダ部に至るまでそのまま延長するようにして設けられて前記薄膜ターゲットが前記ホルダ部に電気的に接続されるように形成することを特徴とするX線発生装置のターゲット製造方法。
(12)(1)〜(10)のいずれかに記載のX線発生装置のターゲットをX線発生用ターゲットとして内部に組み込んで用いたことを特徴とするX線発生装置。
【発明の効果】
【0012】
上述の手段(1)〜(9)によれば、導電性材料のホルダ部の開口部を塞ぐようにダイヤモンド板を気密に接合してその表面に薄膜ターゲットを設け、その薄膜ターゲットの外周部をホルダ部に至るまでそのまま延長してホルダ部に電気的に接続するようにしたことにより、薄膜ターゲットの膜を非常に薄くしてもX線焦点への電力供給を良好に行うことを可能にしている。そして、薄膜ターゲットの膜厚を薄くできたことにより、ターゲットで発生した熱を素早く高い熱伝導率を有するダイヤモンド板に逃がすことを可能にし、さらに、タイヤモンド板の裏面を冷却するようにしたことにより、ターゲットからの熱を最短距離で外部に放散させることを可能にしている。これにより、より強力なX線の発生を可能としている。なお、上述の手段(2)において、ダイヤモンド板が冷媒に直接接触して冷却される場合とは、ダイヤモンド板がなんらの介在物も介さずに直接冷媒に接触する場合の他に、非常に薄い膜を介在させるが、熱的には実質的に直接接触する場合と略等しいような場合も含まれる意味である。
上述の手段(10)によれば、前記ホルダ部は円筒状をなしたものであり、ホルダ部を円筒状にし、この円筒状ホルダ部とダイヤモンド板との熱膨張の差によって前記円筒状ホルダ部に接合されたダイヤモンド板が破壊しない程度に変形可能な展性を備えたものにすることによって、ダイヤモンド板を薄くしても破壊の虞を防止可能としている。これにより、冷却効率のさらなる向上と、コスト削減とを可能にしている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態に係るX線装置のターゲット)
図1は本発明の第1実施形態に係るX線装置のターゲットの部分拡大断面図、
図2は、本発明の第1実施形態に係るX線装置のターゲットの断面図、
図3は、本発明の第1実施形態に係るX線装置を分解状態で示す斜視図、
図4は、
図3に示すX線装置の断面図で
ある。以下、これらの図面に基づき本発明の実施形態に係るX線装置のターゲット、X線装置のターゲット製造方法及びX線装置を説明する。
【0015】
図1及び
図2において、X線発生装置のターゲット100は、導電性の材料で円筒状に形成されたホルダ部120の上部開口部を塞ぐように円板状のダイヤモンド板110が気密的に接合され、このダイヤモンド板110の表面110aに導電性材料からなる薄膜ターゲット111が設けられ、さらに、この薄膜ターゲット111を構成する薄膜層がダイヤモンド板110の側面及びホルダ部120の表面に至るまでそのまま延長して設けられてホルダ部120に電気的に接続されたものである。
【0016】
すなわち、ホルダ部120は、円筒状をなし、その上端部は、円筒の内周面120dの内径より内径がわずかに大きい部位が設けられて段差状に形成されており、その大径部の内周面120bから小径部の内周面、つまりは円筒の内周面120dに続く部位は、円筒の中心軸と直交あるいはそこから所定の角度θをもつ平面と平行な面とされて上端面120cとされ、円筒状ホルダ部120の図中もっとも上端に位置する面がやはり円筒の中心軸と直交あるいはそこから所定の角度をもつ平面と平行な面とされて最上端面120aとされている。そして、上記大径部の内径が上記ダイヤモンド板110の外径とほぼ同じか僅かに大きく形成され、また、上記大径部の高さ、つまりは大径部の内周面120bの高さもしくは段差の高さは、上記ダイヤモンド板110の厚さとほぼ同じに形成されている。
【0017】
ダイヤモンド板110は、上記上端面120c上に配置されて真空雰囲気を維持できる程度に気密的に接合される。この接合は、ろう付け等の接合方法で行うことができる。このダイヤモンド板110の表面110aには、薄膜ターゲット111が形成され、また、この薄膜ターゲット111を構成する薄膜層は、ホルダ部120の最上端面120a及び大径部の外周面120eにも連続して形成される。これによって、薄膜ターゲット111がホルダ部120に電気的に接続されることになる。この薄膜層の形成は、例えば、イオンビームスパッタのような薄膜堆積法によって行うことができる。なお、後述するように、ダイヤモンド板110の薄膜ターゲット111が形成された側が真空雰囲気とされ、ダイヤモンド板110の裏面110c側が冷媒側(大気側)とされる。
【0018】
図2に示されるように、ホルダ部120の下端部は、ターゲット支持体130の上端部に気密的に接合固定される。すなわち、ターゲット支持体130は、下方にいくにしたがって段階的に拡径する略円筒状の台座であり、その上端部に形成された取付孔132に上記ホルダ部120の下端部が嵌め込まれてろう付けなどによって気密的に結合固定されている。この取付孔132のすぐ下にこの取付孔132よりわずかに小径である小径部133を形成することで段差部を形成し、取付孔132から小径部133に到る部位を円筒の中心軸と直交あるいはそこから所定の角度θをもつ平面と平行な面として下端面132a
とし、この下端面132aにホルダ部120の下端部をろう付け等で気密的に接合したものである。また、これによってホルダ部120とターゲット支持体130とは電気的にも結合されることになる。
【0019】
ターゲット支持体130の下部の内部は、上記小径部133の下方に続く部位に大径部134が形成され、この大径部134の下方に続く部位に、下方に行くにしたがって徐々に拡径していく拡径部135が形成され、この拡径部135の下方に続く部位に最大径部136が形成されている。そして、ターゲット支持体130の外周部は、最上端面である上端面131aから続く外周面であって,内周部における上記取付孔132と小径部133と大径部134とを含む領域の外周部である小径の外周部134aとされ、内周部における上記拡径部135の下端部近傍に到るまでの領域の外周部が大径の外周部135bとされ、その下部にフランジ部137が形成されている。
【0020】
上記フランジ部137は、後述するX線発生装置たるX線管球の管球フランジ2(
図3参照)に取り付けられるようになっている。なお、管球フランジ2の中心部には環状突起18aが設けられ、この環状突起18aにキャップ18が固定されるようになっている。キャップ18は、上端部が閉じられ、下端部が開口された円筒状のキャップであり、閉じられた上端部にスリット状もしくは細孔状をなしたスリット28が形成され、下端部の開口部が上記環状突起18aにはめ込まれて固定されるものである。ターゲット支持体130とキャップ18とが管球フランジ2に固定されると、キャップ18のスリット28が上記ダイヤモンド板110の裏面110cの近くに対向して位置するようになっている。
【0021】
上記キャップ18の内部には、冷却媒体としての水を導入する冷却液通路26が結合され、この冷却液通路26を通じて導入された水が上記スリット28を通じて上記ダイヤモンド板110の裏面110cに向けて噴出してこれを冷却し、その後、キャップ18の外周面とホルダ部120の内周面との間通り、冷却液通路27を通じて外部に排出されるようになっている。
【0022】
上述のダイヤモンド板110は、CVD法で製造された結晶ダイヤモンドであり、結晶学的な空間群がFd3mである結晶構造を有し、熱伝導率が1600W/m・K以上を有するものである。薄膜ターゲット111は、Cuの薄膜であり、イオンスパッタリング法で堆積したものである。ダイヤモンド板110は、外径約9mm、厚さ約500μmであり、薄膜ターゲットは、厚さが約10μmである。また、ホルダ部120の肉厚は約0.5mmである。なお、ダイヤモンド板110の外径は、4mm〜25mm、厚さは、300μm〜800μm、薄膜ターゲットの厚さは3μm〜15μm、ホルダ部120の肉厚は0.7mm〜1.5mmが好ましいが、より好ましくは、ダイヤモンド板110の外径は、3mm〜10mm、厚さは、400μm〜600μm、薄膜ターゲットの厚さは8μm〜12μm、ホルダ部120の肉厚は0.4mm〜0.6mmが望ましい。
【0023】
ダイヤモンド板110の外径の下限に特に制限はないが、水冷機構等の構造上の制約から4mm程度以上であることが望ましい。また、25mmを超えると、耐真空と冷却水の圧力とが同一方向にかかるため、機械的強度を保持するための構造が複雑になってしまうという不都合がある。また、ダイヤモンド板110の厚さが300μm未満だと、真空を保てないという不都合があり、800μmを超えると冷却効果が不十分になるという不都合がある。
【0024】
薄膜ターゲットの厚さが3μm未満だと、電子がターゲット膜を突き抜けて基板のダイヤモンドに侵入するという不都合があり、15μmを超えると、熱の逃げが不十分になるという不都合がある。ホルダ部120の肉厚が0.7mm未満だと強度不足という不都合があり、1.5mmを超えると、圧縮応力によってダイヤモンド板に損傷を与える虞があ
るという不都合がある。
【0025】
(第1実施形態に係るX線装置のターゲットの製造方法)
上述のX線発生装置のターゲットは以下のようにして製造される。まず、導電性の材料で円筒状に形成されたホルダ部120と、ダイヤモンド板110とを用意する。次に、このホルダ部120の上部開口部を塞ぐように円板状のダイヤモンド板110を、上記ホルダ部120に、ろう付けにより気密的に接合する。
【0026】
次に、ダイヤモンド板110が接合された状態で、ダイヤモンド板110の表面110a、ダイヤモンド板110の側面110b、ホルダ部120の上端面120c、ホルダ部120の大径部の内周面120b、及びホルダ部120の最上端面120aに蒸着法によってCu膜を約5〜15μmの厚さに堆積させる。この堆積は、例えば、高真空に保持されたイオンスパッタリング装置を用いて行う。
【0027】
次に、上記ホルダ部120の下端部を、上記ターゲット支持体130の下端面132aにホルダ部120の下端部をろう付け等で気密的に接合する。こうしてX線発生装置のターゲット100が取り付けられたターゲット支持体130は、後述するX線発生装置たるX線管球の管球フランジ2(
図2、
図3参照)に取り付けられる。
【0028】
(第1実施形態に係るX線装置)
図3は本発明の第1実施形態に係るX線装置の分解斜視図であり、封入型X線発生装置に適用した場合の例を示している。ここに示す封入型X線発生装置は、管球本体1と管球フランジ2とを結合して成るX線管球3と、管球本体1の全体を収容すると共に管球フランジ2が結合されるチューブシールド4とを有する。チューブシールド4は、例えば、真鍮によって形成される。
【0029】
本実施形態の場合は、1つの筐体部分としてのチューブシールド4と、もう1つの筐体部分としての管球フランジ2とを互いに接合することによって1つの筐体が構成される。
【0030】
管球本体1は、ガラス製の先端部6と、その先端部6につながる金属製の基部7と、その基部7の適所に形成したX線通過窓8とを有する。先端部6は、
図4に示すように、内側ガラス壁9aと外側ガラス壁9bとによって形成される2重ガラス構造を有し、その内側ガラス壁9aの内部に円筒状の凹部11が形成される。そして、その凹部11の底部に電圧供給用の端子12が設けられる。
【0031】
内側ガラス壁9aと外側ガラス壁9bとによって囲まれる凹部11の周囲部分及びその周囲部分に連通する基部7の内部は気密に密封されており、それらの内部は高真空状態に保持されている。基部7の内部には端子12に導電接続されたフィラメント13が設けられ、そのフィラメント13のまわりにはウエネルト14が設けられる。また、フィラメント13に対向する位置にはターゲット100が設けられる。
【0032】
管球本体1の基部7の底面に結合される管球フランジ2は、
図3に示すように、正方形又は長方形といった方形状のベース17と、そのベース17の中央部に設けたキャップ18と、そのキャップ18の周囲に円形のリング状に設けた嵌合突起19とを有する。キャップ18の頂面にはスリット28が形成されている。ベース17及びキャップ18は、例えば、真鍮によって形成される。
【0033】
ベース17の1つの隅部には冷却液流入口21が形成され、反対側の隅部には冷却液排出口22が設けられる。また、キャップ18の近傍のベース17には冷却液回収口23が設けられる。
図4において、キャップ18の内部に位置するベース17には冷却液出射口
24が設けられ、この冷却液出射口24と冷却液流入口21とはベース17の内部に形成された冷却液通路26によって結ばれる。また、冷却液回収口23と冷却液排出口22はベース17の内部に形成された冷却液通路27によって結ばれる。
【0034】
X線管球3は、管球フランジ2のベース17を管球本体1の基部7の底部に結合することによって形成されるが、この結合方法は任意の方法によって達成できる。例えば、基部7の底部に雌ネジを形成し、ベース17の対応する部分に貫通穴を形成し、その貫通穴を貫通させたボルトを上記雌ネジにねじ込むことにより、ベース17を基部7の底部に固定結合できる。
【0035】
図3において、X線管球3の管球本体1を収容するチューブシールド4の底部には、管球フランジ2に設けた嵌合突起19の外周面に嵌合する円形状の嵌合穴29が形成され、その嵌合穴29を開口とする円筒状の凹部空間31が形成されている。この凹部空間31は、管球本体1の外径よりもわずかに大きい内径を有し、さらにその管球本体1の長さよりも長い長さを有しており、管球本体1はその凹部空間31内へ収容される。
【0036】
チューブシールド4の嵌合穴29に対向する端部には、先端に高圧端子33を備えた筒状の高圧中継子32が装着される。高圧端子33は高圧ケーブル34につながっていて、その高圧ケーブル34を通して高圧端子33に高電圧が印加される。また、チューブシールド4の内部であって凹部空間31の外側位置には2本の冷却液通路35が設けられる。
【0037】
X線管球3とチューブシールド4とを組み付ける場合には、
図3において、X線管球3の管球本体1をチューブシールド4の開口すなわち嵌合穴29を通して凹部空間31の内部へ挿入し、そして、管球フランジ2をチューブシールド4の底面に接触させる。このとき、チューブシールド4の嵌合穴29は、
図2に示すように、管球フランジ2の嵌合突起19の外周に嵌合する。
【0038】
その後、適宜の結合方法によって管球フランジ2をチューブシールド4の底面に固定連結する。この締結方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、
図3において、管球フランジ2のベース17の1つの隅部に貫通穴36を設け、反対側の隅部にも貫通穴(図示せず)を設け、さらに、それらの貫通穴に対応するチューブシールド4の底面に雌ネジ(図示せず)を形成し、貫通穴36等を貫通させたボルト(図示せず)をチューブシールド4の底面の雌ネジに締め付けることにより、管球フランジ2をチューブシールド4の底面に固定結合することができ、これにより、
図4に示すようなX線発生装置が組み立てられる。
【0039】
X線管球3がチューブシールド4の凹部空間31の内部に収容されると、チューブシールド4側の高圧端子33とX線管球3側の端子12とが導電接続される。高圧ケーブル34を通して高電圧が供給されると、フィラメント13に通電が成され、さらにフィラメント13とターゲット100との間に高電圧が印加され、さらにフィラメント13とウエネルト14との間に所定の制御用電圧が印加される。また、管球フランジ2のベース17がチューブシールド4の底面に結合されると、ベース17の冷却液流入口21及び冷却液排出口22がチューブシールド4の冷却液通路35にそれぞれ連通する。
【0040】
フィラメント13は通電によって発熱して熱電子を放出し、その放出された熱電子はウエネルト14に印加された制御用電圧によって進行方向を制御されながら、フィラメント13とターゲット100との間に印加された高電圧によって加速されてターゲット100に衝突し、その衝突の際にターゲット100からX線が発生して広い角度領域内に発散する。
【0041】
ターゲット100からX線が発生される間、冷却液流入口21を通してベース17の冷却液通路26へ導入された冷却液、例えば冷却水が冷却液出射口24及びキャップ18のスリット28(スリット状もしくは細孔状をなしたもの)を通してターゲット100の裏面に向けて噴射され、これにより、ターゲット100が異常な高温になるのを防止する。冷却処理後の冷却水は、キャップ18の近傍に設けた冷却液回収口23からベース17の内部の冷却液通路27へ回収され、さらに冷却液排出口22を通して外部へ排出される。
【0042】
チューブシールド4の底面に近い適所には、X線通路を開閉できるX線シャッタ37が設けられており、ターゲット100から発散するX線はX線通過窓8を通過した後にX線シャッタ37に到達する。このX線シャッタ37が開状態に設定されていれば、そのX線シャッタ37を通過したX線が外部へ取り出され、一方、X線シャッタ37が閉状態に設定されていれば、チューブシールド4の外側へのX線の取り出しが止められる。
【0043】
上述の第1実施形態に係るX線装置のターゲット100に、0.1mm×1.1mm(=焦点サイズ)に絞った電子線を連続して照射したところ、5.4Kw/mm
2の負荷で
長時間安定したX線が得られた。ターゲットの最大負荷は焦点サイズに依存するので、上記値を20μm×80μmの焦点サイズに換算すると、40kW/mm
2となる。一方で、バルクCuを用いた通常のCuターゲットの場合、この値は半分以下である。なお、
図5に、X線発生試験後のターゲットの表面状態を示した。すなわち、
図5(A)は従来のCuバルクターゲットに40kV・11mA(=440W=4kW/mm
2)で約1時間負荷をかけた後の表面状態であり、表面が完全に損傷されていることがわかる。一方、
図5(B)は、本発明の第1実施形態に係るX線装置のターゲットに40kV・15mA(=600W=5.45kW/mm
2)で約100時間負荷をかけた後の表面状態であり、
表面が全く正常状態であることがわかる。なお、焦点サイズは両者とも0.1mm×1.1mmである。
【0044】
(第2実施形態に係るX線装置のターゲット)
図6は、本発明の第2実施形態に係るX線装置のターゲットの部分拡大断面図である。
図6に示されるように、この実施形態は、ダイヤモンド板110の表面110aに、厚さ約10nmのCr膜の下地膜112を形成し、その上に第1実施形態と同様の薄膜ターゲット111を形成し、さらに、ダイヤモンド板110の裏面110cに、下地膜114を形成し、その上に耐腐食性膜113を形成したものであり、そのほか構成は第1実施形態と同じである。下地膜114は、厚さ約10nmのCr膜であり、耐腐食性膜113は、厚さ10μmのAu膜である。
【0045】
なお、前記薄膜ターゲット111と前記ダイヤモンド板110との間に設けられる下地膜112の厚さは、1nm〜20nmの範囲で適切な値を選び、用いる材料は、Cr、Ti、V、W、Moのいずれかで、薄膜ターゲットの材質により選択する。また、ダイヤモンド板110の裏面110cに設けられる下地膜114は、厚さが1nm〜20nmの範囲で、材料は、Cr、Ti、V、W、Moの中から適切に選択する。さらに、下地膜114の上に形成される耐腐食性膜113は、厚さが5μm〜10μmのAuまたはCrの膜が好ましい。この実施形態によれば、下地膜112を形成したことにより、タイヤモンド板110と薄膜ターゲット111との結合がより強固になり、耐久性をより向上できる。また、ダイヤモンド板110の裏面110cに、下地膜114と耐腐食性膜113を形成したことにより、冷却用冷媒によってダイヤモンド板が経年劣化する虞を防止することができる。なお、ここで、ダイヤモンド板110の裏面110cに設ける膜としては、下地膜114を設けずに、耐腐食性膜113のみを設けるだけでもよい。
【0046】
図7は、本発明の第3実施形態に係るX線装置のターゲットの部分拡大断面図である。本実施の形態では、
図7に示されるように、円筒状ホルダ部120の上端部の内周面の一
部を除去して薄肉部121を設け、この薄肉部121を設けたことによって形成される部位である上端面120cの上にダイヤモンド板110を載せて接合するようにしたものであり、そのほか構成は第1実施形態と同じである。この実施の形態によれば、ホルダ部120を、円筒体の上端部の内周面の一部を切削により除去するだけで簡単に製作できるというメリットがある。
【0047】
図8は、本発明の第4実施形態に係るX線装置のターゲットの断面図である。本実施の形態では、
図8に示されるように、ターゲット支持体130が第1実施形態(=第3実施形態)と異なるほかは、第3実施形態と同じである。この実施形態におけるターゲット支持体130は、略円柱状体に上記ホルダ部120の外径よりわずかに大きい内径を有する円形孔131を形成し、この円形孔の下端部に第1の小径部132及びこの第1の小径部よりさらにわずかに小径である第2の小径部133を順次形成することで段差部を形成し、第1の小径部132から第2の小径部133に到る部位を円筒の中心軸と直行する平面と平行な面として下端面132aとし、この下端面132aにホルダ部120の下端部をろう付け等で気密的に接合したものである。この実施の形態によれば、ターゲット支持体130の熱容量が増大することによって、放熱効果を向上でき、また、ターゲットの周囲を導電体で囲むことによって電界分布を良好にしてターゲット上における電子のフォーカス形状を整えるという利点がある。