【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記BZYは、優れた化学安定性を有するが、多結晶材料として焼結性が悪く、また、結晶粒が小さいため結晶粒界の比率が大きくなってプロトン導電性を阻害し、総電気伝導率が低くなるという問題があった。このため、上記BZYは、これまで有効利用がなされていなかった。
【0008】
特に、イットリウムの添加量が10mol%以下の場合は、焼結時に結晶粒が成長しにくいため、粒界面密度が高くなって抵抗が大きくなり、これを燃料電池に利用した場合発電性能が低くなる。
【0009】
一方、イットリウムを15mol%以上添加した場合、イットリウムを均等に分散固溶させることが困難である。このため、200℃〜400℃の温度範囲において、非平衡相の緩和が生じて熱膨張率が変化するという現象が発生する。
【0010】
イットリウム添加量を異ならせた固体電解質の温度変化に対する格子定数の変化を
図4に示す。この図に示すように、イットリウムを添加しない場合、温度変化に対する格子定数の変化率はほぼ一定であり、格子定数は所定の勾配を有する直線状グラフに沿って一次関数的に増加する。一方、イットリウムの添加量を増加させていくと、同一温度に対する格子定数が一定割合で大きくなるとともに、400℃前後の温度範囲において、格子定数の値が一次関数の直線近傍から外れて大きく増加する領域が現れる。上記格子定数が大きく増加する領域は、イットリウムの添加量が15mol%を越えると表れ、20mol%では顕著になる。これは、上記温度領域において、非平衡相の緩和が生じたためであると推測される。
【0011】
なお、上記格子定数は、高温XRD測定結果からリートベルト解析によって算出したものである。
【0012】
格子定数は、結晶の単位格子の各辺の長さであるため、上記格子定数の変化に応じて、熱膨張率も変化することになる。すなわち、イットリウムの添加量が多くなると、400℃近傍の領域において熱膨張率が大きく変化する。上記固体電解質を燃料電池に用いる場合、薄膜状の固体電解質層の両側面に電極層が積層形成される。上記電極層を構成する材料は熱膨張係数がほぼ一定であり、温度に比例して熱膨張する。このため、イットリウム添加量が多い固体電解質を採用した場合、400℃近傍において、上記固体電解質と上記電極材料を積層して形成される積層体の境界面に大きな剪断力が発生して、固体電解質層にクラックが生じたり、電極層が剥離するという問題が生じる。この結果、製造工程における歩留りや、燃料電池の耐久性を確保できないという問題があった。
【0013】
本願発明は、上記問題を解決するために案出されたものであって、イットリウム添加量を増加させた場合にも、上記熱膨張率の変化が生じないイットリウム添加ジルコン酸バリウムからなる固体電解質及びその製造方法等を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、水素イオン導電性を有するイットリウム添加ジルコン酸バリウムからなる固体電解質であって、上記イットリウム添加量が、15〜20mol%であるとともに、上記固体電解質の100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率が、
3.3×10−5Å/℃〜4.3×10−5Å/℃である固体電解質に係るものである。
【0015】
本願発明では、イットリウムの添加量を15〜20mol%に設定している。これにより、高いプロトン伝導度を確保できるとともに、焼結性を改善することが可能となる。
【0016】
上記イットリウムの添加量が15mol%以下である場合、熱膨張率の変化は比較的小さく、熱膨張による問題が生じることは少ない。しかし、焼結性を改善するとともに、上記中温域におけるプロトン伝導度を確保するためには、イットリウムの添加量を15mol%以上に設定するのが好ましい。一方、上記イットリウムの添加量が20mol%を越えると、イットリウムを均等に分散配合することが困難になり、またイオン導電性も低下する。
【0017】
本願発明に係る固体電解質では、100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率がほぼ一定である。すなわち、上記温度範囲において非平衡相の緩和が生じることがなく、熱膨張率がほぼ一定に保持される。このため、電極層を積層形成する工程等において、熱膨張率の変化によるクラックの発生を防止できるとともに、電極層が剥離する恐れもなくなる。
【0018】
上記固体電解質の100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率を、3.3×10
−5Å/℃〜4.3×10
−5Å/℃に設定するのが好ましい。格子定数の増加率を上記範囲に設定することにより、熱膨張率を所要の範囲に設定することが可能となる。100℃〜1000℃における平均熱膨張率が、5×10
−6(1/K)〜9.8×10
−6(1/K)となるように、上記格子定の増加率を設定するのがより好ましい。
【0019】
本願発明に係る固体電解質を薄膜状に成形し、この薄膜状固体電解質に電極材料を積層形成した後、焼結する温度が約1000℃である。したがって、100℃から1000℃における格子定数を上記値に設定することにより、電極層の焼結工程において、固体電解質層と電極層との熱膨張量に大きな相違が生じることがなくなり、クラックや剥離が生じるのを効果的に防止することができる。
【0020】
上記固体電解質の結晶粒の平均径を1μm以上に設定する
のが好ましい。
【0021】
上述したように、固体電解質の結晶粒の平均径が小さくなると、粒界面密度が高くなって抵抗が大きくなり、プロトン伝導度が低下する。結晶粒の平均径を1μm以上とすることにより、上記問題を回避することができる。
【0022】
固体電解質の室温での格子定数を4.190Å〜4.230Åに設定する
のが好ましい。
【0023】
室温での格子定数は、イットリウムの添加量や、400℃近傍の格子定数の変化と相関がある。このため、室温での格子定数を上記の範囲に設定することにより、400℃近傍での格子定数を推定して、固体電解質の熱膨張係数を把握することができる。また、積層した電極層を焼結させる場合に、剥離等を防止することができる。
【0024】
固体電解質の400℃〜800℃における、プロトン伝導度を1mS/cm〜60mS/cmに設定するのが好ましい。上記温度範囲において上記プロトン伝導度を確保できるため、燃料電池を構成した場合の中温域における所要の発電性能を確保することが可能となる。
【0025】
本願発明に係る固体電解質を利用して形成される固体電解質積層体の形態は特に限定されることはない。上述した固体電解質から形成された固体電界質層の両側面に電極層を積層形成することにより、中温域において使用することができる固体電解質積層体を形成することができる。
【0026】
上述した固体電解質積層体は、次の工程を含む製造方法によって製造される。たとえば、BaCO
3と、ZrO
2と、Y
2O
3とを混合して粉砕する第1の粉砕工程と、上記粉砕した混合物を、所定温度で所定時間熱処理する第1の熱処理工程と、上記第1の熱処理工程を終えた混合物を再度粉砕する第2の粉砕工程と、
上記第2の粉砕工程を終えた混合物を圧縮成形する第1の圧縮成形工程と、上記圧縮成形した成形体を所定温度で熱処理する第2の熱処理工程と、上記第2の熱処理工程を終えた成形体を粉砕する第3の粉砕工程と、上記第3の粉砕工程を終えた粉砕物を圧縮成形する第2の圧縮成形工程と、上記第2の圧縮成形工程により成形された成形体を、酸素雰囲気下、1400℃〜1600℃の温度で、少なくとも20時間熱処理する固体電解質焼結工程と、上記固体電解質焼結工程を終えた焼結体を、上記固体電解質焼結工程より低い温度で所定時間保持する第3の熱処理工程とを含んで製造することができる。
【0027】
上記BaCO
3と、ZrO
2と、Y
2O
3の配合量は、イットリウム添加量が15〜20mol%となれば、特に限定されることはない。たとえば、イットリウム添加量を15mol%とする場合、BaCO
3を62wt%と、ZrO
2を33wt%と、Y
2O
3を5wt%とを混合した材料を採用することができる。
【0028】
本願発明では、固相反応法によって固体電解質焼結体を形成する。上記粉砕工程を行う手法も特に限定されることはない。たとえば、既知のボールミリングによって粉砕工程を行うことができる。たとえば、第1の粉砕工程と第2の粉砕工程を、ボールミリングを約24時間行うことにより上記粉砕工程を行うことができる。上記粉砕工程後の粉砕粒度は特に限定されることはないが、平均粒径が355μm以下となるように粉砕するのが好ましい。
【0029】
上記第1の熱処理工程は、たとえば、大気雰囲気下、1000℃に約10時間保持することにより、また、上記第2の熱処理工程は、大気雰囲気下、1300℃に約10時間保持することにより、それぞれ行うことができる。
【0030】
上記圧縮成形工程を行う手法も特に限定されることはない。たとえば、粉砕した材料を1軸成形して所要の成形体を形成することができる。上記圧縮成形工程は、各配合成分を均一に分散混合するものであり、粉砕を容易に行うことができれば、成形体の形態は特に限定されることはない。たとえば、直径20mmの円筒型を用いて、10MPaの圧縮力を軸方向に作用させ、円盤状の成形体を形成する。
【0031】
上記成形体を約1300℃で約10時間熱処理することにより、各成分粉体を固溶させて、上記各成分が均一に分散された材料を形成することができる。その後、上記第2の熱処理工程を終えた成形体を粉砕する第3の粉砕工程が行われる。上記各成分粉体を均一に分散混合させるため、上記第3の粉砕工程−上記圧縮成形工程−第2の熱処理工程を繰り返し行うのが望ましい。これにより、各成分が均一に分散固溶した材料を形成することができる。上記各成分粉体が均一に分散されているかどうかは、X線回折装置(XRD)を用いて確認することができる。
【0032】
次に、上記第3の粉砕工程を終えた粉砕物を圧縮成形する第2の圧縮成形工程が行われる。第2の圧縮成形工程、エチルセルロース等のバインダを添加して、上記粉砕物を圧縮成形することにより行うことができる。上記第2の圧縮成形工程は、上記粉砕物を固体電解質層の形態に成形するものであり、たとえば、所定厚みの円盤状に成形することができる。
【0033】
次に、上記成形体を、酸素雰囲気下、1400℃〜1600℃の温度で、少なくとも20時間熱処理する焼結工程を行うことにより、固体電解質焼結体を得ることができる。
【0034】
上記工程において得られた固体電解質の格子定数は、上述したように、400℃近傍の温度領域において、特異な変化を示す。このため、本願発明では、上記固体電解質焼結体を、上記焼結工程より低い温度で所定時間保持する第3の熱処理工程を行う。
【0035】
上記第3の熱処理工程は、上記固体電解質焼結体に、格子定数の変化が生じない特性を付与できれば特に限定されることはない。たとえば、上記第3の熱処理工程を、400℃〜1000℃の温度で、5〜30時間保持することにより行うことができる。
【0036】
上記第3の熱処理工程を行うことにより、400℃近傍の温度領域において、格子定数が特異的に変化することがなくなり、100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率をほぼ一定にすることができる。
【0037】
上記第3の熱処理工程を、上記焼結工程後に上記焼結体を常温まで冷却した後に行うことができる。また、上記焼結工程と上記第3の熱処理工程とを連続して行うこともできる。
【0038】
上記第3の熱処理工程を終えた上記固体電解質焼結体の一側にアノード電極材料を積層するアノード電極材料積層工程と、上記固体電解質層の他側にカソード電極材料を積層するカソード電極材料積層工程と、上記電極材料を形成した積層体を所定温度に加熱して、上記電極層を焼結させる電極材料焼結工程とを行うことにより、固体電解質積層体が形成される。
【0039】
本願発明に係る固体電解質層形成工程によって形成された固体電解質層は、温度変化に対する格子定数の変化が一定であり、熱膨張率が温度によって変化することがない。このため、上記電極材料焼結工程において、上記固体電解質層にクラックが生じたり、電極層が剥離することがない。
【0040】
上記電極材料も特に限定されることはない。たとえば、カソード電極材料として、プラチナやLSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)等の電極材料を採用できる。また、アノード電極材料として、Ni−BZY(ニッケルを添加したイットリウム添加ジルコン酸バリウム)等の電極材料を採用することができる。
【0041】
上記電極材料を、上述した製造方法によって形成された固体電解質の表面に積層し、所要の温度に加熱して焼結させることにより、固体電解質積層体を形成することができる。
【0042】
上述した製造方法では、まず固体電解質層を構成する円盤状の焼結体を形成し、この円盤状の焼結体を支持部材として電極層を積層形成したが、製造方法は上記方法に限定されることはない。
【0043】
たとえば、まずアノード電極を構成する成形体を形成し、このアノード電極成形体を支持部材として、上記固体電解質層及び上記カソード電極層を順次積層形成する手法を採用できる。
【0044】
上記アノード電極成形体は、たとえば、BaCO
3と、ZrO
2と、Y
2O
3から合成したBZYとNiとを混合するアノード電極材料調整工程と、上記アノード電極材料を圧縮成形してアノード電極層となるアノード電極成形体を形成するアノード電極成形工程とにより形成することができる。上記アノード電極は支持部材となるため、厚みが1mm程度に設定するのが好ましい。
【0045】
上記アノード電極成形体に固体電解質層を積層形成する手法は以下のように行うことができる。すなわち、上述した製造方法と同様に、上記第1の粉砕工程と、上記第1の熱処理工程と、上記第2の粉砕工程と、上記第1の圧縮成形工程と、上記第2の熱処理工程と、上記第3の粉砕工程とを行い、BZYの粉砕物を形成する。
【0046】
次に、上記粉砕物をペースト化するペースト化工程と、上記ペースト化された粉砕物を、上記アノード電極成形体の一側に積層する固体電解質積層工程とを行う。上記固体電解質積層は、支持部材とならないため、厚みを10μm〜100μmに設定できる。
【0047】
そして、上記固体電解質積層工程において成形された積層体を、酸素雰囲気下、1400℃〜1600℃の温度で、少なくとも20時間熱処理するアノード電極−固体電解質焼結工程と、上記アノード電極−固体電解質焼結工程を終えた積層体を、上記アノード電極−固体電解質焼結工程より低い温度で所定時間保持する第3の熱処理工程とが行われる、
【0048】
上記第3の熱処理工程を終えた薄膜状固体電解質の一側に、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)又はランタンストロンチウム鉄コバルト複合酸化物(LSCF)等からなるカソード電極材料を積層するカソード電極材料積層工程と、上記カソード電極材料の焼結温度以上に加熱するカソード電極焼結工程とを行う。なお、カソード電極材料積層工程とカソード電極焼結工程とは上述した方法と同様に行うことができる。これら工程によっても上述した固体電解質積層体を形成することができる。
【0049】
本願発明では、上記固体電解質層に第3の熱処理がほどこされているため、100℃〜1000℃の温度範囲において格子定数の温度変化に対する増加率が一定となり、これにともない熱膨張率も一定となっている。このため、固体電解質層と電極層とに歪等を生じさせることなく焼結させることが可能となり、固体電解質層にクラックが生じたり、電極層が剥離することなく、固体電解質積層体を形成することができる。また、内部応力等の発生も抑制されるため、耐久性の高い固体電解質積層体を形成することができる。
【0050】
本願発明に係る固体電解質は、600℃以下の温度範囲で使用される種々の形式の燃料電池に好適であるが、600℃以上の温度で使用される燃料電池にも利用することができる。