(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
(エタロンの構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエタロン1を模式的に示す側面図である。
【0017】
エタロンは、互いに平行な第1外側面51A及び第2外側面51Bを有する透光部3と、第1外側面51Aに設けられた第1反射膜5Aと、第2外側面51Bに設けられた第2反射膜5Bとを有している。
【0018】
なお、以下では、「第1」及び「A」等が付された構成について、「第1」及び「A」等を省略することがあるものとする。例えば、第1外側面51A及び第2外側面51Bについて、単に「外側面51」といい、両者を区別しないことがあるものとする。
【0019】
1対の外側面51の一方(
図1の例では第1外側面51A)は、光Ltの入射面を構成し、他方(
図1の例では第2外側面51B)は、光Ltの出射面を構成する。透光部3に入射した光Ltは、1対の反射膜5の間において繰り返し反射され、透光部3の光路長によって規定される所定の周波数の光のみが出射される。なお、光路長は、屈折率nの媒質中を距離dだけ光が通過するときにndで表わされる。
図1では、光Ltが入射面に垂直に入射した場合を例示しているが、光Ltは、入射面に対して斜めに入射してもよい。
【0020】
透光部3は、第1透光体7Aと、当該第1透光体7Aと貼り合わされた第2透光体7Bとを有している。
【0021】
第1透光体7Aは、既述の第1外側面51Aと、その背面となる第1内側面55Aとを有している。第2透光体7Bは、既述の第2外側面51Bと、その背面となる第2内側面55Bとを有している。そして、第1内側面55Aと第2内側面55Bとが互いに対向して接合されている。
【0022】
各透光体7は、例えば、側面形状が台形であり、各透光体7において、内側面55は、外側面51に対して傾斜角θで傾斜している。外側面51同士が互いに平行であり、内側面55同士が接合されていることから明らかなように、傾斜角θは、第1透光体7Aと第2透光体7Bとで同一である。なお、各透光体7を光Ltの透過方向に見た形状(外側面51及び内側面55の平面形状)は、矩形や円形等の適宜な形状とされてよい。
【0023】
内側面55が外側面51に対して傾斜していることから、内側面55において反射された反射光Lt′は、外側面51の垂線に対して傾斜する方向に進む。従って、反射光Lt′は、1対の反射膜5の間で共振されずに発散する。例えば、
図1の例では、反射光Lt′は、エタロン1の紙面上方側の面からエタロン1の外部へ放出される。その結果、反射光Lt′がエタロン1の特性に及ぼす影響が抑制される。
【0024】
なお、例えば、光Ltが第1外側面51Aに対して垂直に入射する場合において、内側面55を透過する光は、内側面55において屈折するから、エタロン1から出射される光は、第2外側面51Bの垂線に対して角度αで傾斜する方向へ出射される。従って、エタロン1及びその前後の光学要素は、この角度α(内側面55における屈折)を考慮して配置される。
【0025】
傾斜角θは、0°よりも多少なりとも大きければよい。多少なりとも大きければ、従来に比較して、反射光Lt′の影響は抑制される。なお、エタロンの入出射面の平行度の加工精度は、通常、秒単位(例えば10秒〜30秒)であるから、傾斜角θが1分以上であれば、意図的に内側面55を外側面51に対して傾斜させている(本願発明を利用している)と推定することができる。
【0026】
また、傾斜角θは、好ましくは、0.1°以上、0.5°以下である。0.1°以上であれば、上記の光Lt′を発散させる効果が十分に得られる。また、0.5°以下であれば、後述する、光路長ndがエタロン1の位置に応じて変化することによる特性の劣化は十分に小さいものとなる。
【0027】
透光体7の厚み等は、所望の光学特性に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、100μm〜2mmである。各面の面粗さ及び平行度も、所望の光学特性やその精度に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、面粗さは1nm未満であり、平行度は1分未満である。このような微小な面粗さや高精度な平行度は、例えば、各面の光学研磨により得られる。
【0028】
1対の透光体7の一方(本実施形態では第1透光体7Aとする)は、温度変化に対する光路長の変化が正(特性指数が正)の材料により形成されており、他方(本実施形態では第2透光体7Bとする)は、温度変化に対する光路長の変化が負(特性指数が負)の材料により形成されている。なお、
図1では、特性指数が正の材料が入射側、特性指数が負の材料が出射側に位置しているが、入出射と特性指数の正負との関係は、
図1と逆であってもよい。特性指数が正の材料としては、例えば、水晶(SiO
2)を挙げることができる。また、特性指数が負の材料としては、例えば、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)を挙げることがでる。
【0029】
第1内側面55Aと第2内側面55Bとの接合は、オプティカルコンタクトや原子拡散接合等の有機接着剤を用いない方法によりなされることが好ましい。有機接着剤の数ミクロンの厚みのばらつきは、FSR、消光比、波長温度特性等のエタロンの特定の低下やばらつきの原因となることからである。
【0030】
なお、第1内側面55Aと第2内側面55Bとの間には、不図示の反射防止膜が介在していてもよい。反射防止膜は、公知の構成と同様でよい。すなわち、反射防止膜は、光路長がエタロン1を透過させる光の1/4波長に近く若しくは一致するように形成され、より好ましくは、当該反射防止膜の屈折率が、反射防止膜の両側に位置する媒質(本実施形態では第1透光体7A及び第2透光体7B)の屈折率の幾何平均に近く若しくは一致するように形成されている。また、反射防止膜は、例えば、後に詳述する反射膜5を構成する材料と同様の材料からなる多層膜により構成されてよい。なお、各媒質の光路長や屈折率は、想定されるエタロン1の使用温度の範囲内において適宜に設定された温度のものが用いられてよい。
【0031】
反射膜5は、例えば、屈折率が互いに異なる複数の薄膜6が積層されることにより構成されている。複数の薄膜6は、例えば、誘電体により構成されている。誘電体は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)、二酸化チタン(TiO
2)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)である。複数の薄膜6は、所望の光学特性(例えば反射率)が得られるように、その材料、積層数及び厚みが設計されている。各薄膜6の厚みは、例えば、サブミクロン程度であり、複数の薄膜6の積層数は例えば10以下である。複数の薄膜6は、互いに密着して固定され、また、反射膜5は、透光体7に密着して固定されている。
【0032】
図2は、エタロン1の透過特性を模式的に示す図である。
図2において横軸は波長λを示し、縦軸は透過係数Tを示している。なお、透過係数Tは、光Ltの、エタロンへの入射前における強度I
inと、エタロンからの出射後の強度I
outとの比I
out/I
inである。
【0033】
既に述べたように、エタロン1に入射した光Ltは、1対の反射膜5の間において繰り返し反射されてエタロン1から出射される。従って、エタロン1においては、m次のピーク波長λ
m(ピーク振動数ν
m)において透過係数Tが周期的に上昇する。なお、通常、FSRは、ピーク振動数ν
mの間隔(ν
m−ν
m+1)で表現されるが、
図2では、理解の一助のためにFSRをピーク波長間において示している。
【0034】
FSRは、概略的には、1対の反射膜に挟まれた媒質の光路長ndを用いて、以下の(1)式により表わされる。
FSR=c/(2ndcosθ) (1)
ただし、cは光速、nは媒質の屈折率、dは媒質の厚み、θは媒質内の光の屈折角度である。
【0035】
1対の反射膜に挟まれた媒質が複数の媒質iからなる場合においては、光路長ndは、以下の(2)式により表わされる。
nd=Σn
id
i (2)
ただし、n
i及びd
iは媒質iの屈折率及び厚みである。
【0036】
エタロン1においては、1対の反射膜5に挟まれた媒質は、第1透光体7A及び第2透光体7Bであるから、各透光体7の光路長をn
1d
1、n
2d
2とすると、光路長ndは、以下の(3)式により表わされる。
nd=n
1d
1+n
2d
2 (3)
なお、1対の透光体7間に反射防止膜が介在する場合においては、反射防止膜の光路長を考慮に入れてもよい。
【0037】
ここで、第1透光体7A及び第2透光体7Bの一方は温度変化に対する光路長の変化が正であり、他方は温度変化に対する光路長の変化が負であるから、温度変化による光路長の変化は、1対の透光体7間において、少なくとも一部について相殺され、透光部3全体としては、光路長ndの変化が抑制される。その結果、温度変化に起因するFSRの温度変化が抑制される。
【0038】
好適には、1対の透光体7は、温度変化に起因する光路長の変化が概ね相殺されるように(変化の絶対値が概ね同等となるように)、材料(屈折率)の選択及び厚みの設定がなされる。すなわち、温度変化に起因する光路長の長さが一次関数で表わされると仮定したときに、概略、以下の(4)式が満たされるように、1対の透光体7は、材料(屈折率)の選択及び厚みの設定がなされる。
Σγ
in
id
i=0 (4)
ただし、n
i及びd
iは1対の反射膜間に位置する媒質i(透光体7)の所定の基準温度における屈折率及び厚み、γ
in
id
iは温度が1℃変化したときの光路長n
id
iの変化量、γ
iは光路長n
id
iの温度係数である。
【0039】
具体的には、エタロン1においては、1対の反射膜5に挟まれた媒質は、第1透光体7A及び第2透光体7Bであるから、(4)式は、次式(5)式となる。
γ
1n
1d
1+γ
2n
2d
2=0 (5)
そして、γ
1及びγ
2は、一方が正であり、他方が負である。
【0040】
以上のとおり、各透光体7は、所望のFSRに対して(1)式が満たされ、且つ、(4)式が満たされるように、材料(屈折率)の選択及び厚みの設定がなされる。
【0041】
エタロン1においては、内側面55が外側面51に対して傾斜していることから、透光体7の厚みd
1及びd
2は、外側面51に沿う方向(
図1の紙面上下方向)の位置により異なる。設計においては、例えば、光路の中央位置のd
1及びd
2を用いるなど、適宜な代表値を用いてよい。
【0042】
なお、傾斜角θを大きくし過ぎると、位置よるd
1及びd
2の変化が大きくなり、ひいては、エタロン1の特性は劣化する。しかし、上述のように、傾斜角θが0.5°以下であれば、エタロン1の特性の劣化は十分に小さい。
【0043】
エタロン1の製造方法は、公知の複合型エタロンの製造方法と概ね同様とされてよい。なお、内側面55の外側面51に対する傾斜は、例えば、各透光体7を形成するときに、内側面55が外側面51に対して傾斜するように内側面55(若しくは外側面51)を研磨することにより実現されてもよいし、貼り合わせ後の透光部3において、内側面55が外側面51に対して傾斜するように外側面51を研磨することにより実現されてもよい。
【0044】
(実施例)
以下の条件で実施例に係るエタロンを作製し、その反射光の影響を調査した。
第1透光体7A:
材料:水晶Z板(屈折率1.52)
厚み:1.5mm
第2透光体7B
材料:チタン酸ストロンチウム(屈折率2.28)
厚み:0.3mm
傾斜角θ:0.1°
反射膜5の反射率:50%
内側面55の接合方法:オプティカルコンタクト(接合前においては、接合強度を向上させるために、エキシマ光を内側面55に照射した。)
入射光:入射面に垂直に入射
FSR:50GHz
【0045】
内側面55における反射率は、第1透光体7A及び第2透光体7Bの屈折率差により、約4%である。従って、傾斜角θが0°のときには、約4%の反射光がエタロンの特性に影響を及ぼし、その結果、透過波形は乱れる。しかし、傾斜角θが0.1°であることにより、エタロンの特性に及ぼす反射光は、0.04%まで低減された。すなわち、反射率が0.04%になったのと等価の効果が得られた。そして、
図2に示した例と同様に、周期的な透過波形が得られた。なお、出射光の角度αは、0.08°であった。
【0046】
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態に係るエタロン201を模式的に示す側面図である。
【0047】
エタロン201は、透光部203の構成が第1の実施形態のエタロン1の透光部3と相違する。エタロン201のその他の構成は、第1の実施形態のエタロン1の構成と同様である。ただし、反射膜5の具体的な材料や膜厚等は、透光部203の構成の相違に応じて適宜に設定されてよい。
【0048】
第1の実施形態の透光部3では、第1透光体7Aと第2透光体7Bとが接合されていたのに対して、本実施形態の透光部203では、第1透光体207Aと第2透光体207Bとの間に、第3透光体207Cが介在している。
【0049】
第1透光体207A及び第2透光体207Bの側面視における形状(寸法除く)は、第1の実施形態の第1透光体7A及び第2透光体7Bと同様である。すなわち、第1透光体207A及び第2透光体207Bは、それぞれ、台形に形成されており、外側面51と、当該外側面51に対して傾斜する内側面55とを有している。
【0050】
第3透光体207Cは、側面視における形状が、例えば、平行四辺形であり、互いに平行な第1中間面57A及び第2中間面57Bを有している。第1中間面57Aは、第1内側面55Aと接合されており、第2中間面57Bは、第2内側面55Bと接合されている。なお、接合がオプティカルコンタクト等の有機接着剤を用いない方法によりなされることが好ましいことや、透過率を向上させるために接合面間に反射防止膜を介在させてもよいことは、第1の実施形態と同様である。
【0051】
1対の中間面57が互いに平行であることから明らかなように、1対の内側面55も互いに平行である。また、第1の実施形態と同様に、1対の外側面51は互いに平行であり、傾斜角θは第1透光体207Aと第2透光体207Bとで同一である。
【0052】
本実施形態においては、第1透光体207A及び第2透光体207Bは互いに同一の材料により形成されている。そして、第1透光体207A及び第2透光体207Bは、温度変化による光路長の変化が正及び負の一方(本実施形態では正とする)である材料により形成され、第3透光体207Cは、温度変化による光路長の変化が正及び負の他方(本実施形態では負とする)である材料により形成されている。
【0053】
そして、3つの透光体207は、第1の実施形態と同様に、(1)式及び(4)式が満たされるように、その材料(屈折率)の選択及び厚みの設定がなされる。
【0054】
ただし、第1透光体207A及び第2透光体207Bは、同一の材料により形成されているから、第1透光体207A、第2透光体207B及び第3透光体207Cに対応する添え字をそれぞれ1、2及び3とすると、透光部203全体の光路長nd((2)式)は以下の(6)式のようになる。
nd=n
1(d
1+d
2)+n
3d
3 (6)
また、(4)式は、以下の(7)式のようになる。
γ
1n
1(d
1+d
2)+γ
3n
3d
3=0 (7)
【0055】
以上の第2の実施形態によれば、まず、内側面55(中間面57)が外側面51に対して傾斜していることから、第1の実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、反射光Lt′は、外側面51の垂線に対して傾斜する方向に進むから、1対の反射膜5間で共振されずに発散し、反射光Lt′がエタロン201の特性に及ぼす影響が低減される。なお、
図3では、第1透光体207Aを透過した光が第1透光体207Aと第3透光体207Cとの界面において反射して生成された反射光Lt′と、第3透光体207Cを透過した光が第3透光体207Cと第2透光体207Bとの界面において反射して生成された反射光Lt′との2つの反射光Lt′を図示している。
【0056】
さらに、第1透光体207Aと第2透光体207Bとの間に、平行な中間面57を有する第3透光体207Cが介在する構成であることから、第1の実施形態とは異なり、外側面51に沿う方向(
図3の紙面上下方向)の位置によりd
1及びd
2が変化することに起因する特性劣化が生じない。すなわち、d
1+d
2及びd
3は、それぞれ、位置に関わらず一定であるから、(6)式のndは一定であり、ひいては、(1)式のFSRも一定である。また、(7)式も位置に関わらず満たされる。
【0057】
また、上記の理由から、傾斜角θの好適な範囲の上限も第1の実施形態よりも大きくなる。傾斜角θは、光学特性上では上限値に制限はないが、傾斜研磨プロセス、および光のずれ量tが大きくなることによる実装上の不具合の点から、現実的には3°以下であることが好ましい。
【0058】
また、d
1+d
2が一定であれば、d
1とd
2との比率は、(1)式及び(7)式に影響を及ぼさないことから、例えば、
図4等を参照して後述するように、母基板(ウェハ)からエタロン201を切り出す効率的なエタロン201の製造方法の採用が可能である。
【0059】
なお、エタロン201に入射した光Ltは、第1内側面55Aと第2内側面55Bとにおいて互いに逆向きに屈折するから、第2外側面51Bから出射される光(光線)は、第1外側面51Aに入射した光に対して、平行で、且つ、所定のずれ量tでずれて出射されることになる。例えば、第3透光体207Cの厚みが0.3mm、第3透光体207Cの屈折率が2.28、その両側の透光体207の屈折率が1.52、傾斜角θが0.1°と仮定すると、ずれ量tは0.0003mmである。このずれ量は、エタロン201を使用する上で、特に問題とならないほど小さい。
【0060】
図4(a)〜
図4(c)及び
図5(a)〜
図5(c)はエタロン201の製造方法の一例を示す図である。
【0061】
まず、
図4(a)に示すように、第1母基板271A、第2母基板271B及び第3母基板271Cを準備する。第1母基板271Aは、分割されることにより第1透光体207Aとなるものであり、第2母基板271Bは、分割されることにより第2透光体207Bとなるものであり、第3母基板271Cは、分割されることにより第3透光体207Cとなるものである。
【0062】
第1母基板271Aの第1外側主面273A及び第1内側主面275Aは、第1外側面51A及び第1内側面55Aとなる面であり、第1内側主面275Aは、第1外側主面273Aに対して傾斜角θ(
図3)で傾斜している。同様に、第2母基板271Bの第2外側主面273B及び第2内側主面275Bは、第2外側面51B及び第2内側面55Bとなる面であり、第2内側主面275Bは、第2外側主面273Bに対して傾斜角θで傾斜している。一方、第3母基板271Cの第1中間主面277A及び第2中間主面277Bは、第1中間面57A及び第2中間面57Bとなる面であり、これらは互いに平行である。内側主面275の外側主面273に対する傾斜は、研磨によって実現されてもよいし、スライスによって実現されてもよい。
【0063】
なお、
図4(a)では、母基板271の平面形状が矩形の場合を例示しているが、母基板271の平面形状は、円形等の他の形状とされてもよい。また、母基板271の側面も、外側主面273に垂直でなくてもよい。
【0064】
各内側主面275は、光学研磨されている。また、各中間主面277は、第3母基板271Cの厚みが第3透光体207Cの設計上の厚みとなるように(例えば設計値±0.1μm以内となるように)、光学研磨されている。なお、エタロン201において、内側面55と中間面57との間に反射防止膜が介在する場合においては、内側主面275又は中間主面277には、反射防止膜となる薄膜が形成されている。
【0065】
次に、
図4(b)に示すように、内側主面275と中間主面277とを接合して、積層体279を形成する。既に述べたように、接合は、有機接着剤を用いずに行われることが好ましい。一例として、オプティカルコンタクトの場合は、内側主面275及び中間主面277の汚れをエキシマ光の照射等により清浄化し、接合後、200〜300℃でアニール処理を行う。
【0066】
次に、
図4(c)に示すように、積層体279の厚みがエタロン201の透光部203の設計上の厚みになるように、外側主面273の光学研磨を行う。光学研磨は、1対の外側主面273の平行度を高くする観点から、両面研磨であることが好ましい。
【0067】
次に、
図5(a)に示すように、外側主面273上に反射膜5となる反射膜281を形成する(第1外側主面273A側の反射膜281のみ図示する。)。反射膜の形成方法は、公知の方法と同様でよい。
【0068】
そして、
図5(b)及び
図5(c)に示すように、反射膜281が形成された積層体279を縦横に切断し、複数のエタロン201を得る。切断は、公知のダイサーやスライサーによりなされてよい。
【0069】
このような製造方法により作製された複数のエタロン201は、第1透光体207Aの厚みd
1と第2透光体207Bの厚みd
2とが第3透光体207Cが傾斜する方向において互いに異なっている。しかし、d
1+d
2及びd
3は、それぞれ、一定であるから、(1)式により表わされるFSRは、複数のエタロン201間において互いに同一であり、また、複数のエタロン201のいずれにおいても、(7)式は満たされる。従って、均一な特性を有するエタロン201が一括で製造されることになる。
【0070】
母基板271を構成する2種の材料のうち、屈折率の高い材料により、先に平行平板とされる第3母基板271Cを形成し、屈折率の低い材料により、第1母基板271A及び第2母基板271Bを形成することが好ましい。このようにすることにより、透光部203全体の厚みばらつきが小さくなり、ひいては、FSRや温度特性のばらつきも小さくなる。
【0071】
なお、上記の製造方法では、母基板271を積層する前に、第1母基板271A及び第2母基板271Bにおいて、外側主面273と内側主面275とを互いに傾斜させる加工を行った。ただし、平行平板の状態の第1母基板271A〜第3母基板271Cを積層して積層体を構成し、その積層体の両面(外側主面273)を研磨するときに、外側主面273と内側主面275とを互いに傾斜するようにしてもよい。ただし、この場合、積層体の両面研磨ができないから、上記した製造方法に比較して、外側主面273の平行度を保つことが困難になる。
【0072】
<第3の実施形態>
図6は、第3の実施形態に係るエタロン301を模式的に示す側面図である。
【0073】
エタロン301は、透光部303の構成が第1の実施形態のエタロン1の透光部3と相違する。エタロン301のその他の構成は、第1の実施形態のエタロン1の構成と同様である。ただし、反射膜5の具体的な材料や膜厚等は、透光部203の構成の相違に応じて適宜に設定されてよい。
【0074】
第1の実施形態の透光部3では、第1透光体7A及び第2透光体7Bの内側面55が互いに接合されていたのに対して、本実施形態の透光部303では、内側面55間に、ギャップ53が介在している。また、第1内側面55Aは、第1反射防止膜9Aにより覆われ、第2内側面55Bは、第2反射防止膜9Bにより覆われている。第1透光体7A及び第2透光体7Bは、スペーサ11により互いに固定されている。
【0075】
第1透光体7A及び第2透光体7Bの形状及び材料は、第1の実施形態と同様である。ただし、(1)式等においては、ギャップ53等を媒質として考慮することから、具体的な寸法は、第1の実施形態とは相違する。
【0076】
ギャップ53は、密閉されていてもよいし、密閉されていなくてもよい。密閉されている場合において、ギャップ53内は、空気若しくは特定のガスが充填されていてもよいし、真空若しくは真空に近い状態とされていてもよい。また、空気等の気体が充填されている場合において、ギャップ53内の圧力は、大気圧よりも高くてもよいし、低くてもよい。
【0077】
スペーサ11は、例えば、第1内側面55Aに形成された第1金属層13Aと、第2内側面55Bに形成された第2金属層13Bとにより構成されている。各金属層13は、例えば、特に図示しないが、内側面55(反射防止膜9)から順に、Cr若しくはTaと、Auとが積層されて構成されている。そして、1対の金属層13は、Au同士が金属拡散により接合されることにより互いに接合されている。
【0078】
このようなエタロン301においても、内側面55が傾斜していることにより、第1の実施形態と同様に、反射光Lt′を発散させて、反射光Lt′がエタロン301に及ぼす影響を低減することができる。なお、
図3では、第1透光体7Aを透過した光が第1透光体7Aとギャップ53との界面において反射して生成された反射光Lt′と、ギャップ53を透過した光がギャップ53と第2透光体7Bとの界面において反射して生成された反射光Lt′との2つの反射光Lt′を図示している。また、傾斜角θの好ましい範囲は、第1の実施形態と同様である。
【0079】
(エタロンフィルタの応用例)
図7は、エタロン1(エタロン201、301でもよい。)の応用例を示すブロック図である。
【0080】
エタロン1は、レーザシステム101の光の波長を一定に保つための波長ロッカ103に組み込まれている。波長ロッカ103は、例えば、レーザシステム101からドロップされた光が入射するビームスプリッタ105と、ビームスプリッタ105を透過した光が入射するエタロン1と、エタロン1を透過した光が入射する第1光検出器107Aと、ビームスプリッタ105により反射された光が入射する第2光検出器107Bとを有している。そして、制御装置109は、第1光検出器107Aの検出した光の強度と、第2光検出器107Bの検出した光の強度とを比較して光の波長を検出し、その検出波長が一定に保たれるようにレーザシステム101の制御を実行する。
【0081】
反射光の影響が低減されることにより、FSRが高精度に設定されたエタロン1が、このような波長ロッカ103に用いられることによって、光の波長を高精度にモニタすることが可能となる。
【0082】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0083】
本願発明は、平行な反射膜間に界面が存在する場合に、その界面を傾斜させることを趣旨とする。従って、その趣旨の範囲内において、適宜に変更がなされてよい。例えば、反射膜間に位置する透光体(及びギャップ)は、2又は3に限定されず、4以上であってもよい。また、第1内側面と第2内側面とは、その間に他の透光体及び/又はギャップが介在する場合、互いに平行でなくてもよい。
【0084】
ただし、透光体が4以上となると、界面が多くなり、特性が低下することから、実施形態に例示した3態様のいずれかであることが好ましい。
【0085】
第2の実施形態(
図3)においては、第1内側面55Aと第1中間面57Aとを貼り合せ、また、第2内側面55Bと第2中間面57Bとを貼り合せた。しかし、第1内側面55A及び第1中間面57A、並びに、第2内側面55B及び第2中間面57Bの少なくとも一方において、内側面55と中間面57Bとの間にギャップが介在してもよい。なお、双方にギャップが介在する場合において、内側面55と中間面57(平行平板である第3透光体)とは平行でなくてもよい。1対の外側面51が互いに平行であり、1対の内側面55が互いに平行であり、且つ、1対の中間面57が互いに平行であれば、位置によらず光路長が一定に保たれる効果が奏される。また、ギャップは、真空であってもよいし、空気若しくは特定のガスが充填されていてもよい。
【0086】
互いに対向する第1透光体及び第2透光体の内側面は、外側面に対して傾斜する1平面により構成されるものに限定されない。例えば、
図8に示すように、内側面455は、側面視において弧状の曲面(若しくは球面)によって構成されていてもよい。この場合、内側面455は、一部の領域456において、外側面51に対して傾斜する曲面状の傾斜面を含んでいると捉えることができる。換言すれば、内側面455は、複数の傾斜面を組み合わせて構成されている。
【0087】
複数の透光体は、温度変化による光路長の変化を抑制することを目的として互いに異なる材料とされるものに限定されない。種々の目的に応じて複数の透光体が組み合わされてよい。
【0088】
透光体、反射膜、反射防止膜の材料は、適宜に変更されてよい。例えば、透光体は、水晶に代えて石英ガラスにより構成されてもよいし、チタン酸ストロンチウムに代えてルチルが用いられてもよい。
【0089】
なお、本願において、貼り合わされたという場合、互いに対向する面同士が直接に接合されるものと、反射防止膜乃至は有機接着剤等の薄膜を介して間接に接合されるものとの双方を含むものとし(第1の実施形態及び
図8参照)、また、面間に他の透光体(薄膜除く)乃至はギャップが介在するもの(第2及び第3の実施形態参照)を含まないものとする。