特許第5937070号(P5937070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許59370703D細胞培養に用いる改良された架橋ヒアルロナンヒドロゲル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937070
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】3D細胞培養に用いる改良された架橋ヒアルロナンヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-515891(P2013-515891)
(86)(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公表番号】特表2013-529464(P2013-529464A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】EP2011060465
(87)【国際公開番号】WO2011161172
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年6月23日
(31)【優先権主張番号】11305333.4
(32)【優先日】2011年3月24日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10305666.9
(32)【優先日】2010年6月22日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510244765
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ ド ルアン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE ROUEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ヴァニエ,ジャン ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ルセール,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】デュロン,ヴィルジニー
(72)【発明者】
【氏名】コックレル,ベレニス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥマンジュ,エリーズ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−073102(JP,A)
【文献】 特表2010−519934(JP,A)
【文献】 米国特許第03551556(US,A)
【文献】 国際公開第2009/026158(WO,A1)
【文献】 特表2009−528437(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/074099(WO,A1)
【文献】 特表2007−526239(JP,A)
【文献】 ACTA BIOMATERIALIA,2008年,Vol. 4, No. 2,P. 256-263
【文献】 FERTILITY AND STERILITY,2005年,Vol. 83, No. SUPPL. 1,P. 1275-1283
【文献】 「ヒトコラーゲンVitroColTM」・「ヒアルロン酸ハイドロゲル」先行注文20%OFF 販売開始のお知らせ ,2009年 8月,<http://atg.ushop.jp/rika/hbin/09_08_06.html>、検索日:2015-03-24
【文献】 Journal of Biomedical Materials Research Part A,2004年,Vol. 68A, No. 2,P. 365-375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 5/00−5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D細胞培養に適した架橋ヒアルロナンヒドロゲルを得る方法であって、
(a)架橋ヒアルロナンヒドロゲルを凍結乾燥して凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを得る工程または凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを提供する工程と、
(b)凍結乾燥されたヒアルロナンヒドロゲルを殺菌する工程とを含み、
凍結乾燥されたヒアルロナンヒドロゲルを殺菌する工程は、まずヒドロゲルを加熱する工程と、次いでヒドロゲルを純粋アルコールに室温で浸す工程と、浸されたヒドロゲルを物理的に圧縮する工程とを含み、
浸されたヒドロゲルを物理的に圧縮する工程では、ヒドロゲルに閉じ込められている空気を取り除く、方法。
【請求項2】
加熱する工程は、100℃でオイルバスを用いて一時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
殺菌前に、凍結乾燥されたヒアルロナンヒドロゲルを所望の形状及び寸法に切り分ける工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
殺菌の後に、殺菌されたヒアルロナンヒドロゲルを−20℃の無菌状態で貯蔵する工程をさらに含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の後に、殺菌されたヒドロゲルを、膨張平衡に達するまで再水和化する工程をさらに含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
細胞培養媒体において、殺菌されたヒドロゲルを再水和化する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
再水和化の後に、再水和化されたヒアルロナンヒドロゲルを、37℃、5%CO2雰囲気中で、抗生物質を含む再水和化媒体で貯蔵する工程をさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連特許出願〕
本願は、2010年6月22日出願の欧州特許出願EP10305666および2011年3月24日出願の欧州特許出願EP11305333に基づく優先権を主張するものである。上記各欧州特許出願に記載されたすべての内容がここに援用される。
【0002】
〔背景技術〕
細胞培養研究の大部分は、マイクロウェル・プレート、組織培養フラスコ、ペトリ皿のような二次元(2D)表面で行われてきた。これは、2D培養が容易かつ便利で、細胞の生存可能性が高いためである。こうした従来の2D細胞培養システムは基礎的な細胞生物学に対する我々の理解を著しく広げてきたが、薬学的な検査や細胞生物学における新たな難問には不十分であり不適切であることが判明している。実際、2D細胞培養システムは、細胞形態学、成長率、接触形状、輸送量、その他多くの細胞機能に影響することが知られている、生体内状態の複雑で動的な諸環境を再現できない。
【0003】
2D培養の限界を乗り越えるために、スキャフォールド(足場、scaffold)とも呼ばれる三次元(3D)細胞培養マトリックスが導入されてきた。こうしたマトリックスは、その構造上であるいは構造内で細胞の成長や組織化や分化を助けることができる多孔性の物質である。従来の培養と比べ、3D培養における細胞は、細胞の形状と細胞の環境に関して生体内状態により近いことが実証されてきた。3Dマトリックスの方が2D基板よりも構造的・物質的にはるかに多様である。生体内環境の多様性に適合する種々の外見、多孔性、透過性、機構的特徴、ナノスケールの表面形態学を備えた細胞支持材を作るために、さまざまな製造方法や生体材料が開発または改造されてきた。
【0004】
細胞外マトリックスに関する天然物質をスキャフォールド用の生体材料として用いることを探求するのに多くの努力が集中されてきた。実際、正常細胞および腫瘍細胞のふるまいは、ヒアルロナンおよびコラーゲンが主な構成成分である細胞外マトリックス(ECM)の組成によって直接制約されることが知られている。ヒアルロナンは、グルクロン酸とN−アセチルグリコサミン(β1、4−GlcUA−β1、3−GlcNAc)の二糖の繰り返しからなるグリコサミノグリカンであり、細胞の増殖と移動に重要な役割を果たし、数多くの細胞表面受容体相互作用に関わっている。ヒアルロナンはまた、腫瘍の進行にも関わっていると一般的に考えられている(Stern, Pathol. Biol., 2005, 53: 372-382)。細胞内にヒアルロナンが多量に含まれ、細胞外マトリックスに蓄積されると、悪性細胞の移動、増殖、侵襲に好適な微環境が作られる(Delpech et al., J. Intern. Med., 1997, 242: 41-48; Toole, J. Biol. Chem., 2002, 277: 4593-4596)。したがって、悪性細胞の侵襲力は細胞外マトリックスとの相互作用に依存し、ヒアルロナン生産物によって促進される。この例としては、結腸悪性腫瘍(Kim et al., Cancer Res., 2004, 64: 4569-4576)、胸部腺癌(Auviven et al., Am. J. Pathol., 2000, 156: 529-536)、胃癌(Vizoso et al., Eur. J. Surg. Oncol., 2004, 30: 318-324)が挙げられる。癌細胞の活動は、RHAMMまたはCD44のようなヒアルロナン膜受容体を伴う形質導入メカニズムによって制御される。とりわけ、細胞表面に遍在する接着分子でありヒアルロナンの主な受容体であるCD44は、細胞対細胞および細胞対ECMの相互作用、および癌細胞の移動に関わっている(Assman et al., J. Pathol., 2001, 195: 191-196; Knudson et al., Matrix Biol., 2002, 21: 15-23; Ponta et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 2003, 4: 33-45)。これらの所見から、ヒアルロナンを3Dマトリックスの生体材料として用いることが導かれた。
【0005】
とりわけ、3D細胞培養に適した網状のヒアルロナンヒドロゲルは、本発明の発明者の研究所において開発され、3Dでの癌細胞侵襲の検査および抗癌剤に対する癌細胞の感度を評価するのに用いられてきた(David et al., Matrix Biology, 2004, 23: 183-193; David et al., Cell Prolif., 2008, 41: 348-364; David et al., Acta Biomaterialia, 2008, 4: 256-263; Coquerel et al., Glia, 2009, 57: 1716-1726)。しかし、当該技術分野では常に、性質を改良した3Dマトリックスが必要とされている。
【0006】
〔発明の概要〕
本発明は、おしなべて、三次元細胞培養を含むさまざまな用途に用いうる架橋ヒアルロナンヒドロゲルを作成する方法に関する。より具体的には、本発明は、架橋ヒアルロナンヒドロゲルを、細胞培養用のスキャフォールドとして用いる前に処理または加工する方法を提供する。特に、本発明に係る方法は、そうした処理をされていない類似のヒドロゲルに比べて改良された性質を有するヒアルロナンヒドロゲルを産出する。実際、本発明に係るヒドロゲルはより高い再水和性を示し、これはマトリックスへのより完全で均一な細胞の移動をもたらし、ひいてはより優れた3D細胞培養をもたらす。
【0007】
したがって、ある局面では、本発明は、3D細胞培養に適した架橋ヒアルロナンヒドロゲルを得る方法であって、(a)架橋ヒアルロナンヒドロゲルを凍結乾燥して凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを得る工程または凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを提供する工程と、(b)上記凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを殺菌する工程とを含み、上記凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを殺菌する工程は、まず当該ヒドロゲルを加熱する工程と、次いで当該ヒドロゲルをアルコールに浸す工程と、当該浸したヒドロゲルを物理的に圧縮する工程と、を含む方法を提供する。
【0008】
本発明に係る方法で処理しうるヒアルロナンヒドロゲルは、本質的に架橋ヒアルロナンのみからなるか、あるいは架橋ヒアルロナンと、生体分子、生物学的活性剤、薬学的活性剤、及びそれらの組み合わせの少なくとも一つとを含んでもよい。適切な生体分子の例としては、コラーゲンや、基底接着分子や、プロテオグリカンや、グリコサミノグリカン鎖や、ホルモンや、成長因子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0009】
ある実施形態では、本発明に係る方法の上記加熱する工程は100℃のオイルバスを用いて30分から一時間行われる。
【0010】
ある好ましい実施形態では、加熱後、上記凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルは室温の純粋エタノールに浸される。ある実施形態では、上記加熱する工程と上記浸す工程との間に、ヒドロゲルを室温で無菌状態(例えば、無菌フード内)で放置してもよい。他の実施形態では、上記加熱する工程のあと、ヒドロゲルはすぐにアルコールに浸される。
【0011】
ある好ましい実施形態では、上記浸したヒドロゲルを物理的に圧縮する工程では、当該ヒドロゲルに閉じ込められている空気を取り除く。
【0012】
ある実施形態では、本発明に係る方法は、殺菌前に、上記凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを0℃を下回る温度、例えば−20℃で貯蔵する工程をさらに含む。
【0013】
ある実施形態では、本発明に係る方法は、殺菌前に、上記凍結乾燥ヒアルロナンヒドロゲルを所望の形状及び寸法に切り分ける工程をさらに含む。形状及び寸法は通例、ヒドロゲルの用途に応じて決められる。
【0014】
ある実施形態では、本発明に係る方法は、殺菌後に、殺菌されたヒアルロナンヒドロゲルを−20℃の無菌状態で貯蔵する工程をさらに含む。
【0015】
ある実施形態では、本発明に係る方法は、殺菌されたヒドロゲルを使用前に再水和化する工程をさらに含む。好ましくは、再水和化する工程は細胞培養媒体のような再水和化媒体を用いて行われ、殺菌されたヒドロゲルは所望の質量または体積になるまで膨張する。ある実施形態では、ヒドロゲルは約100倍の質量になるまで膨張する。
【0016】
他の局面では、本発明は、本発明に係る方法で得られる、または得ることができる、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルを提供する。本発明はまた、本発明に係る方法で得られる、または得ることができる、再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルを提供する。
【0017】
本発明のある好ましい実施形態では、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルと再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、組織化され相互につながった多孔性のネットワークを持ち、孔は外部に通じる長方形の開口部を持ち、当該開口部の最大幅は125μmから460μmのあいだであり、当該開口部の最小幅は105μmから450μmのあいだである。
【0018】
本発明のある好ましい実施形態では、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルと再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルには裂け目や裂傷がまったくない。
【0019】
本発明のある好ましい実施形態では、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルまたは再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、殺菌される前の形状を保つ。本発明の他の好ましい実施形態では、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルまたは再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、切り分けられた際の形状を保つ。
【0020】
さらに別の局面では、本発明は、殺菌架橋ヒアルロナンヒドロゲルと、当該ヒドロゲルを無菌状態で含む容器とを備えたキットを提供する。ある実施形態では、上記キットは、細胞培養媒体のような再水和化媒体をさらに含む。
【0021】
さらに別の局面では、本発明は、本明細書に記載する架橋ヒアルロナンヒドロゲルを、3D細胞培養を含む用途に用いる方法を提供する。
【0022】
本発明のこれらの目的、利点、特徴および他の目的、利点、特徴は、好ましい実施形態についての以下の詳細な記述を読んだ当業者には明らかとなるであろう。
【0023】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、培養後一日経った造血幹細胞を含む架橋ヒアルロナンヒドロゲルの画像である(×10)。小さな矢印は相互につながった多孔性ネットワークの隙間を示し、大きな矢印は細胞が移動したときのそのような隙間を示す。
【0024】
図2は、培養条件1(50ng/mL SCF)と培養条件4(50ng/mL SCF、10ng/mL VEGF、300ng/mL Ang−1)で培養した、架橋ヒアルロナンヒドロゲル内の造血前駆細胞のコロニーの、0日目(D0)と56日目(D56)の顕微鏡写真(×100)四枚一組である。
【0025】
図3は、環境走査型電子顕微鏡(ESEM)((A)と(B))及び走査型電子顕微鏡(SEM)((C)と(D))でヒアルロナンヒドロゲルを撮った断面顕微鏡写真一組である。
【0026】
図4は、培養56日後のヒアルロナンヒドロゲル上のCD34CBCをSEMで撮った写真一組である。
【0027】
図5は、培養35日後のヒアルロナンヒドロゲル上のCD34CBCをSEMで撮った写真一組である。(A)、(C)、(E)、(G)において、ヒアルロナンヒドロゲルは本発明に係る方法で作成された。(B)、(D)、(F)、(H)において、ヒアルロナンヒドロゲルは、物理的に圧縮されなかった点を除いては、本発明に係る方法で作成された。(D)において、矢印はヒドロゲルにおける裂け目の存在を示している。(E)において、矢印は細胞コロニーを示しているが、(F)においては、矢印は細胞一個を示している。
【0028】
〔定義〕
本明細書を通して、以下の段落で定義するいくつかの用語が用いられる。
【0029】
本明細書における「ヒドロゲル」という用語は、当該技術分野で理解されたとおりの意味を持ち、水を吸収してさまざまな弾性のゲルを形成できる水膨張性重合体マトリックスを指す。「マトリックス」という用語は、共有および/または非共有架橋によって結合された高分子の3Dネットワークを指す。水溶性の環境に置かれると、乾燥ヒドロゲルは架橋の程度に許される範囲で膨張する。吸収される水の量は、用いられる高分子成分によって調整される。ヒドロゲルは、薬学的活性剤および/または生物学的活性剤を包含または含有することができる。
【0030】
「薬学的活性剤」および「治療的活性剤」という用語は、本明細書において交換可能に用いられる。これらの用語は、病気あるいは症状の治療に有効な物質、分子、化合物、剤、成分または組成を指す。
【0031】
「生物学的活性剤」という用語は、生物学的事象または生物学的メカニズムに影響(例えば、修正、抑制、阻害、反転、増大)する物質、分子、化合物、剤、成分または組成を指す。生物学的活性剤は薬学的活性剤であってもよい。
【0032】
本明細書における「有効量」という用語は、意図した目的(例えば、細胞、組織、システム、あるいは被験者に対する所望の生物学的あるいは医薬的反応)を達成するのに十分な物質、分子、化合物、剤、成分または組成の量を指す。
【0033】
本明細書において数に関して用いられる「約」および「およそ」という用語は、通例、特に断りのない限りあるいは文脈から明らかでない限り、その数の両方向における10%の範囲(その数より10%大きいまたは小さい範囲)に含まれる数を含む(ただし、そのような数が、とりうる数値の100%を超える場合を除く)。
【0034】
その他の用語は、必要に応じて以下で定義される。
【0035】
〔発明を実施するための形態〕
上記したように、本発明は、3D細胞培養を含むさまざまな用途に用いるのに適した架橋ヒアルロナンヒドロゲルを得る方法を提供する。本発明に係る方法は、3Dマトリックスにおいてよりよい細胞移動を可能にするヒアルロナンヒドロゲルを産出するという利点を持つ。
【0036】
〔I‐架橋ヒアルロナンヒドロゲルの処理方法〕
本発明に係る方法は、概して、架橋ヒアルロナンヒドロゲルを凍結乾燥する工程と、凍結乾燥したヒドロゲルを殺菌する工程とを含む。殺菌は二つの連続した工程で行われ、第一の工程は凍結乾燥したヒドロゲルを加熱する工程を含み、第二の工程は凍結乾燥したヒドロゲルをアルコールに浸す工程と、浸したヒドロゲルを物理的に圧縮する工程とを含む。
【0037】
(1‐架橋ヒアルロナンヒドロゲル)
本発明に係る方法で処理することのできる架橋ヒアルロナンヒドロゲルには、3D細胞培養を含むさまざまな用途に用いるのに適したどのような架橋ヒアルロナンヒドロゲルも含まれる。
【0038】
上記したように、ヒアルロナンは、D−グルクロン酸とD‐N−アセチルグルコサミンがβ‐1,4グリコシド結合とβ‐1,3グリコシド結合によって交互に結合されてなる二糖単位からなるグリコサミノグリカン(GAG)である。生体内では、ヒアルロナンの重合体のとりうるサイズは5×10から2×10Daである。ある好ましい実施形態では、架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、高分子量のヒアルロナン、例えば分子量が少なくとも1×10Daであるヒアルロナンを用いて作成される。
【0039】
ヒアルロナンは生体内では高い代謝回転速度を示すので、そのままで用いれば、脆弱で不安定なスキャフォールドを生み出し、生体外培養に必要な実用的な方法で用いられるスキャフォールドの能力に影響を与えてしまう。したがって、本発明に係る方法で用いるのに適したヒアルロナンスキャフォールドは、化学的(共有)架橋によって「安定させる」ことが好ましい。スキャフォールドにおいて、ヒアルロナン分子は、適切な共有化学結合ならばどのような結合によって架橋されてもよい。ある実施形態では、ヒアルロナン分子はアルデヒド橋によって架橋される。他の実施形態では、ヒアルロナンはジスルフィド橋によって架橋される。
【0040】
本発明に係る方法で処理しうる架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、適切な方法ならばどのような方法によって作成されてもよい。高分子を架橋する方法およびヒドロゲルを作成する方法は、当該技術分野で知られている。実施例1に、そのような方法を記載する。
【0041】
本発明に係る処理方法で用いるのに適した架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、架橋ヒアルロナンのみから、あるいは本質的に架橋ヒアルロナンのみからなってもよい。本質的に架橋ヒアルロナンのみからなるヒドロゲルの例としては、Prestwich et al., J. Control. Release, 1998, 53: 93-103や、Rowley et al., Biomaterials, 1999, 20: 45-53や、 Comisar et al., Biomaterials, 2007, 28: 4409-4417や、 Ferreira et al., Biomaterials, 2007, 28: 2706-2717や、Chua et al., Biomaterials, 2008, 29: 1412-1421に記載されたヒドロゲルや、Lifecore Biomedical LLCや Glycosan BiosystemsやBD Biosciencesから購入可能なヒドロゲルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
あるいは、架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、架橋ヒアルロナンと、種々の生体分子のいずれとを含んでもよい。3D細胞培養用のスキャフォールドに用いることが意図されたヒドロゲルでは、そうした生体分子が存在することが望ましい。そのような生体分子の例としては、コラーゲン(例えば、I型、III型、IV型、あるいはV型コラーゲン)や、基底接着分子(例えば、ラミニンやフィブロネクチン)や、プロテオグリカンや、グリコサミノグリカン鎖(例えば、ヘパリンコンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパリン硫酸、あるいはそれらのプロテオグリカン)や、ホルモン(例えばインシュリン、トランスフェリン、成長ホルモン、3ヨードチロニン、グルカゴンなど)のような細胞外マトリックス成分や、成長因子(例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、形質転換成長因子(TGF‐β)、肝細胞成長因子(HGF)、白血病抑制因子(LIF)、インターロイキン6(IL‐6)、インターロイキン11(IL‐11)、インターロイキン13(IL‐13)、インターロイキン8(IL‐8)、インターロイキン3(IL‐3)、インターロイキン5(IL‐5)、顆粒球マクロファージ幹細胞因子(GM‐SCF)、顆粒球幹細胞因子(G‐SCF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、オンコスタチンM)や、化学誘引物質(例えば、ペプチド・インテグリン・モチーフ(RGD)、コラーゲン、ケラスチン由来モチーフ(VGVAPG)、ケモカインSDF1‐α)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
あるいは、もしくはそれに加えて、本発明に係る方法で用いるのに適した架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、種々の生物学的活性剤、薬学的活性剤、およびその組み合わせのうちの少なくとも一つをさらに含む。
【0044】
生体分子、生物学的活性剤、または薬学的活性剤を含むもしくはそれらで覆われているヒドロゲルを製造する方法は、当該技術分野で知られている。
【0045】
あるいは、本発明に係る方法でマトリックスを処理した後で、生体分子、生物学的活性剤、および/または薬学的活性剤を、架橋ヒアルロナンヒドロゲルに加えてもよい。例えば、処理済みのヒドロゲルを、生体分子、生物学的活性剤、および/または薬学的活性剤を含む細胞培養媒体で前培養することで、そのような生体分子、生物学的活性剤、および/または薬学的活性剤を当該ヒドロゲルに加えてもよい。上記前培養は、当該ヒドロゲルの再水和化後、細胞の播種前に行うのが好ましい。
【0046】
(2‐架橋ヒアルロナンヒドロゲルの処理)
(a‐凍結乾燥)
本発明に係る方法の第一の工程は、架橋ヒアルロナンヒドロゲルを凍結乾燥する工程もしくは凍結乾燥した架橋ヒアルロナンヒドロゲルを提供する工程を含む。本明細書において「凍結乾燥する」「フリーズドライする」およびそれらに関連する用語は、交換可能に用いられる。これらの用語は、凍結乾燥すべき物質を凍結させ、その後、周辺圧力を減少させて、当該物質の凍結した水分が直接固体から気体へ昇華するだけの熱を加えることによって行われる脱水工程を指す。
【0047】
架橋ヒアルロナンヒドロゲルの凍結乾燥は、適切な方法ならばどのような方法を用いてもよい。研究所では、凍結は、凍結乾燥すべき物質をフリーズドライフラスコに入れて当該フラスコをシェルフリーザーと呼ばれるバス中で回転させ、当該フラスコをドライアイスとメタノールまたは液体窒素を用いた機械的冷却によって冷やすことで行う。より大規模には、凍結は通例、フリーズドライ装置を用いて行う。一般的に、凍結温度は−50℃から−80℃のあいだである。当業者ならば、ヒアルロナンヒドロゲルの凍結乾燥を行うのに適切な条件を選ぶことができる。
【0048】
ある実施形態では、凍結乾燥された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、殺菌の前に貯蔵される。凍結乾燥ヒドロゲルは、0℃を下回る温度で貯蔵されるのが好ましい。例えば、凍結乾燥後、ヒドロゲルは約−20℃で、あるいは−20℃を下回る温度(例えば約−30℃、約−50℃、約−80℃)で貯蔵される。
【0049】
ある実施形態では、凍結乾燥された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、殺菌の前に、所望の形、所望の寸法に切断される。一般的に、所望の形(外形)と寸法(サイズ)は、ヒドロゲルの用途(例えば、3D細胞培養、組織工学、薬理試験)によって決められる。ヒドロゲルは、適切な方法および手段によるならば、どのような方法および手段で切断してもよい。例えば、ヒドロゲルは、鋭い刃を用いて手で切断してもよい。しかし、ある実施形態では、ヒドロゲルは、切断装置あるいはスライス装置、例えばコンピュータ制御の切断装置を用いて切断することが好ましい。こうすれば、外形と寸法の点でよりよく再現できる。所望ならば、あるいは用途に必要ならば、切断されたヒドロゲルの寸法は、例えばSaisam(登録商標)のような画像処理ソフトウェアを用いて測定してもよい。
【0050】
ある実施形態では、架橋ヒアルロナンヒドロゲルを凍結乾燥してから貯蔵し、その後、所望の形および寸法に切断してから殺菌する。他の実施形態では、凍結乾燥したヒアルロナンヒドロゲルを所望の形および寸法に切断し、その後、殺菌処置をするまで貯蔵する。
【0051】
(b‐殺菌)
本発明に係る方法では、殺菌処置は二つの連続した工程で行われる。第一の工程は凍結乾燥したヒドロゲルを加熱する工程を含み、第二の工程は凍結乾燥したヒドロゲルをアルコールに浸す工程と、浸したヒドロゲルを物理的に圧縮する工程とを含む。
【0052】
第一の工程(すなわち、加熱)は、(1)得られたヒドロゲルが殺菌され、(2)ヒドロゲルを加熱する際の条件および手段がヒドロゲルの構造に重大な影響を与えない限り、どのような条件下でどのような手段を用いて行ってもよい。好ましくは、ヒドロゲルは約100℃で、30分から1時間、処理される。ある好ましい実施形態では、加熱工程は、ヒドロゲルを含む容器を100℃で加熱したオイルバスに入れて行われる。当業者ならば、研究所で行うのに適したこれらの条件および手段を、より大規模な作成に合わせるにはどのようにしたらよいかわかるであろう。
【0053】
殺菌処置の第二の工程は、凍結乾燥したヒドロゲルをアルコールに浸す工程と、浸したヒドロゲルを物理的に圧縮する工程とを含む。ある好ましい実施形態では、ヒアルロナンヒドロゲルは、室温の純エタノールのバスに浸される。こうして浸すことで、ヒドロゲルはアルコールと接触する。
【0054】
本明細書において、「物理的に圧縮」と「物理的に圧迫」という用語は交換可能に用いられる。これらの用語は、力が表面に加えられたときに生じる効果を指す。したがって、浸したヒドロゲルを物理的に圧縮するとは、ヒドロゲルに圧縮応力または圧縮力を加えてその体積を減らすことを意味する。本発明の実施では、ヒドロゲルの体積の削減はたいていは一時的なものであり、圧縮応力が働いているあいだだけ続く。
【0055】
本発明の発明者は、そのような処置(すなわち、ヒドロゲルが浸されているあいだ圧縮応力を加える処置)をすることにより、凍結乾燥処置のために凍結乾燥後のヒドロゲル内に通例存在する気泡やエアポケットを除くことができることを見出した。こうした気泡やエアポケットが存在すると、ヒドロゲルを良好に再水和化できなくなる。実際、かなり疎水性である空気と水溶液である再水和媒体とが交換されるのは時間がかかる。(ヒドロゲル内に空気が残ったために)スキャフォールドが部分的にしか再水和化されないと、今度は、細胞がスキャフォールドを不完全にしか侵襲または占拠せず、満足のいかない3D細胞培養となってしまう。実際、出願人が実証したところによれば、本発明の方法に従い、ただしエタノールに浸しているあいだ圧縮応力を加えずに作成したヒドロゲルが提供する環境は、本発明に係る方法で作成されたヒドロゲルが提供する環境よりも、3D細胞培養に不向きである(実施例4参照)。さらに、出願人が発見したところによれば、本発明に係るヒドロゲルは再水和化と細胞培養のあとも平行六面体の形状を維持していたが、圧縮されなかったヒドロゲルはその形状がたるんだり歪んだりし、裂け目や裂傷が生じた。
【0056】
本発明の実施において、浸した架橋ヒアルロナンヒドロゲルを物理的に圧縮する方法は、ヒドロゲル内に閉じ込められた空気を取り除ける適切な方法ならばどのような方法でもよい。そのような方法はスキャフォールドの構造を大きく変えることなく、かつ/または恒久的に変えることのないことが好ましい。したがって、例えば、ヒドロゲルを、浸されているアルコール容器の底表面に手で押しつけてもよい。その場合、圧縮力は、指で直接ヒドロゲルに加えてもよいし、ヒドロゲルの最上部に置かれた平面表面(例えばガラスのスライド)に加えてもよいし、ヒドロゲル上に転がされる一つまたは複数(例えば一つまたは二つ)の円筒形の表面(例えばガラスの棒)に加えてもよい。あるいは、浸したヒドロゲルを二つの平面表面のあいだに置き、圧縮力を一方のまたは両方の表面に加えてもよい。当業者ならば、物理的に圧縮する工程のあいだ殺菌されたヒドロゲルと接触するアルコール容器の材料および/または平面表面または円筒形表面の材料をどのように選べばよいかわかるであろう。適切な材料としては、ガラスやセラミックやテフロン(登録商標)やチタニウムや陽極酸化アルミニウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
加えられる圧縮圧力は、浸したヒドロゲル内のいかなる気泡やエアポケットを除くのにも十分なものとする。一般的に、圧縮圧力は1kPaから1000kPaの範囲とする。圧縮圧力は物理的に圧縮する工程全体を通して一定でもよい。あるいは、圧縮圧力は時間とともに(連続的にあるいは段階的に)減少または増大させてもよい。
【0058】
ある実施形態では、凍結乾燥したヒアルロナンヒドロゲルを100℃で加熱する工程と当該ヒドロゲルを室温のアルコールに浸す工程との間に、当該ヒドロゲルを室温で無菌状態で放置してもよい。例えば、ヒドロゲルを無菌フードにおいてもよい。しかし、他の実施形態では、凍結乾燥したヒアルロナンヒドロゲルを100℃で加熱する工程のあと、当該ヒドロゲルはすぐに室温のアルコールに浸される。
【0059】
殺菌後(すなわち、加熱及び物理的圧縮後)、再水和化の前に、ヒドロゲルを−20℃で無菌状態で貯蔵してもよい。
【0060】
(c‐再水和化)
本発明に従って処理された殺菌済みの架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、3D細胞培養を含む用途で使用する前に再水和化される。再水和化は、適切な方法ならばどのような方法で行ってもよい。好ましくは、再水和化は、殺菌したヒドロゲルを室温の再水和化媒体に置くことで行われる。そのあと、ヒドロゲルは、37℃で5%CO雰囲気の中、再水和化が完了するまでこの媒体に放置される。ある実施形態では、ヒドロゲルは数日間、例えば少なくとも三日間、再水和化される。再水和化媒体は、適切な水溶液ならばどのようなものでもよい。しかしながら、ある好ましい実施形態では、再水和化媒体は細胞培養媒体である。再水和化工程で用いられる再水和化媒体は、そのあと、ヒドロゲルが目的とする3D細胞培養の用途で用いられることが好ましい。
【0061】
再水和化は、ヒドロゲルの再水和化が完了する(すなわち、膨張平衡状態に達する)のに必要な時間ならば何時間でも行うのが好ましい。溶媒にさらす結果起きるヒドロゲルの膨張(すなわち、質量と体積の増大)は、文献において広範囲に研究されてきた。ヒドロゲルの膨張は、他のどの要素にもまして、重合体の親水性、架橋の性質と程度、再水和化の温度、再水和化媒体に依存することが知られている。当業者は、ヒドロゲルの膨張の程度は、乾燥状態のヒドロゲルの体積に対する膨張状態のヒドロゲルの体積の比率を割り出すことによって、あるいは乾燥状態のヒドロゲルの重量に対する膨張状態のヒドロゲルの重量の比率を割り出すことによって、数値化できることを知っている。したがって、ある実施形態では、ヒドロゲルの再水和化は、当該ヒドロゲルが所望の質量または体積に膨張するまで、好ましくは当該ヒドロゲルの膨張平衡状態に対応する所望の質量または体積に膨張するまで行う。
【0062】
再水和化ヒドロゲルは再水和化してすぐに用いてもよいし、汚染を防ぐために抗生物質を含んだ細胞培養媒体で、37℃、5%CO雰囲気の中で貯蔵してもよい。これらの条件下で、ヒドロゲルを数週間貯蔵してもよい。ヒドロゲルが貯蔵される細胞培養媒体は、少なくとも週に一度は交換することが好ましい。
【0063】
上記したように、播種の前に、再水和化ヒドロゲルを、生体分子、生物学的活性剤、薬学的活性剤、およびそれらの組み合わせのうちの一つを含む細胞培養媒体で前培養してもよい。
【0064】
〔II‐処理済みの架橋ヒアルロナンヒドロゲル〕
本明細書に記載した方法によって得られるヒドロゲルも本発明の範囲に含まれる。
【0065】
(1‐処理済みの架橋ヒアルロナンヒドロゲル)
本発明に係る方法に従って処理された架橋ヒアルロナンヒドロゲルには、同じ処理を施されていない類似のヒドロゲルにはないいくつかの特質がある。
【0066】
特に、本発明に係る方法に従って処理された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、そうした処理が施されていない架橋ヒアルロナンヒドロゲルに比べて再水和化がより簡単に、より完全に、より均一に行われる。実際、上記したように、ヒドロゲルを物理的に圧縮することで、前段の凍結乾燥処置のあいだにヒドロゲル内部に閉じ込められた空気を除去できる。その結果、本発明に係るヒドロゲルは、そうした処理が施されていないヒドロゲルよりも膨張の程度が高い。ある実施形態では、本発明に係るヒドロゲルは、そうした処理が施されていないヒドロゲルよりも膨張の程度が少なくとも1500%、好ましくは少なくとも2000%、さらに好ましくは約2500%高い。
【0067】
本発明に係る方法に従って処理された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、膨張の程度がより大きく、かつ/または膨張がより均一であるため、処理前に切り分けられた形(例えば、平行六面体、立方体など)を保つか、あるいはもし所望の形に切り分けられていなかったのであれば、処理前の形を保つのに対し、気泡を取り除くための圧縮を施していないヒドロゲルは、形がたるんだり歪んだりした(実施例4参照)。
【0068】
本発明に係る方法に従って処理された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、膨張の程度がより大きく、かつ/または膨張がより均一であるため、ヒアルロナン3Dマトリックスにおいて細胞がよりよく移動し、より均一に占拠し、細胞の成長と細胞のコロニー形成により適した環境を提供する(実施例4参照)。
【0069】
図1図3に示すように、本発明に係るヒドロゲルは相互に通じる多孔性のネットワークを有する。本明細書において「多孔性のネットワーク」という用語は、ヒドロゲルの孔と隙間からなる空隙容量の結合または全空隙容量を指す。本明細書において「孔」という用語は、3Dマトリックスの表面において少なくとも一つの外部に通じる開口部を持つヒドロゲルの表面、本体、または表面と本体における空洞やくぼみを指す。本明細書において「隙間」という用語は、3Dマトリックスの表面において直接外部に通じる開口部を持たないヒドロゲルの本体における空洞やくぼみを指す。しかし、隙間は、隣接する孔および/または隙間に通じる一つまたは複数のつながりや結合を介してマトリックスの外表面に通じる間接的な外部開口部または通路を有してもよい。したがって、相互に通じる多孔性のネットワークは、孔や隙間を持つ多孔性のネットワークであり、当該隙間の少なくともいくつかは、3Dマトリックスの外表面に通じる間接的な外部開口部または通路を有している。
【0070】
本発明の発明者によって得られた膨張したヒアルロナンヒドロゲルのESEM画像に示すように(図3の(A)、(B)参照)、本発明に係る方法で作成され平行六面体に切り分けられたヒアルロナンヒドロゲルは、当該平行六面体の上表面と下表面がなめらかであり(すなわち、上下表面には孔状の外部開口部がまったくない)、孔状の外部開口部は平行六面体の主に平行した面で見られる多孔性のネットワークを有する。
【0071】
ある好ましい実施形態では、本発明に係るヒアルロナンヒドロゲルは、長方形または卵形の外部開口部を持つ孔を有し、当該開口部の最大幅は125μmから460μmのあいだ、最小幅は105μmから450μmのあいだである。当該孔の平均最大幅は約235μmであり、平均最小幅は約225μmであることが好ましい。いくつかの孔の外部開口部は円形であることが理解される。
【0072】
本発明に係るヒドロゲルは再水和性がより高いので、マトリックスの相互に通じる多孔性のネットワークにおいて細胞がより完全かつ均一に移動し占拠し、細胞の成長と細胞のコロニー形成により適した環境を提供することができる。
【0073】
(2‐殺菌・再水和化された架橋ヒアルロナンヒドロゲル)
本発明は、本発明に係る方法を用いて得られる、あるいは得ることができる、殺菌された架橋ヒアルロナンヒドロゲルを提供する。本発明に係る殺菌された架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、無菌状態で−20℃で貯蔵されることが好ましい。貯蔵は非常に長い期間(例えば一年以上)行ってもよい。
【0074】
本発明はまた、本明細書に記載するように、本発明に係る殺菌された架橋ヒアルロナンヒドロゲルを再水和化して得られる再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルを提供する。本発明に係る再水和化架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、37℃で5%CO雰囲気の下で再水和化媒体(例えば細胞培養媒体)に貯蔵されることが好ましい。再水和化媒体は、汚染を防ぐために抗生物質を含むことが好ましい。これらの条件下で、新しい再水和化媒体が規則的な間隔で、例えば一週ごとまたは十日ごとに加えられるならば、貯蔵は数週間行ってもよい。
【0075】
上記したように、本発明に係る架橋ヒアルロナンヒドロゲル(殺菌されたものであっても再水和化されたものであっても)は、切り分けられた形(例えば、平行六面体、立方体など)あるいは処理前の形を保つ。これらの架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、裂け目や裂傷をまったく有しないか、有するにしてもその数はわずかである。これらの架橋ヒアルロナンヒドロゲルは、組織化された相互に通じる多孔性のネットワークを有し、孔は長方形または卵形の外部開口部を有し、当該開口部の最大幅は125μmから460μmのあいだ、最小幅は105μmから450μmのあいだである。
【0076】
〔III‐処理済みの架橋ヒアルロナンヒドロゲルの使用〕
上記したように、本明細書に記載した方法で処理されていない類似のヒドロゲルに比べて、本発明の架橋ヒアルロナンヒドロゲルは改善された性質を示す。こうした改善された性質のために、3D細胞培養に対応する能力と適性が増す。したがって、本発明に係るヒドロゲルは、3D細胞培養を含むさまざまな用途のいずれにも用いることができ、とりわけこれまでヒアルロナンヒドロゲルが用いられてきた用途のいずれにも用いることができる。本明細書において「3D細胞培養を含む用途」という用語は、三次元での細胞培養を含む(ヒドロゲルの)使用すべてを指す。そのような用途において、3D細胞培養は最終的な目的であってもよいし、最終的な目的を達成する工程に過ぎなくてもよい。
【0077】
本発明のヒドロゲルを用いて三次元で培養できる細胞としては、幹細胞、人工多能性幹細胞、前駆細胞、分化細胞がある。適した細胞は、単細胞タイプ(例えば、心筋細胞や線維芽細胞)でもよいし、少なくとも二つの異なる細胞タイプ(例えば、ケラチノサイトと線維芽細胞の共培養)を含んでもよい。本発明に係る架橋ヒアルロナンヒドロゲルで培養する細胞は、哺乳類(動物または人間)に由来することが好ましい。哺乳類の細胞は、体液由来または組織由来のどの器官のものでもよいし(例えば、脳、肝臓、皮膚、肺、腎臓、心臓、筋肉、骨、骨髄、血液、羊水、臍帯血など)、どのような細胞タイプでもよい(下記参照)。細胞は一次細胞でもよいし、二次細胞でもよいし、不死化細胞(すなわち株化細胞)でもよい。これらの細胞は、当該技術分野で周知の技術によって生体外の生体サンプルから分離されたまたはそれに由来するものでもよいし、志願者または患者から得たものでもよいし、あるいはその代わりに商業リソース(例えば、American Type Culture Collection、マナサス、バージニア州)から購入したものでもよい。その代わりに、あるいはそれに加えて、細胞を処理して、問題の遺伝子、例えば成長因子や受容体を発現する遺伝子を含ませたり、または欠陥遺伝子を含ませたり、またはOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc遺伝子を含ませたりして、成人の体細胞からヒト人工幹細胞を作成してもよい。
【0078】
本発明の3Dヒドロゲルマトリックスで成長しうる成人の分化細胞の例としては、基底細胞や、上皮細胞や、血小板や、リンパ球や、T細胞や、B細胞や、ナチュラルキラー細胞や、網状赤血球や、顆粒球や、単球や、肥満細胞や、神経細胞や、神経芽細胞や、グリア芽腫や、巨大細胞や、樹状細胞や、マクロファージや、割球や、内皮細胞や、間質細胞や、クッパー細胞や、ランゲルハンス細胞や、沿岸細胞や、筋肉細胞や脂肪細胞のような組織細胞や、骨芽細胞や、線維芽細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
本発明に係る架橋ヒアルロナンヒドロゲルで成長しうる前駆細胞の例としては、造血前駆細胞、上皮前駆細胞、神経前駆細胞、間葉前駆細胞、骨形成前駆細胞、間質前駆細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の発明者は、架橋ヒアルロナンヒドロゲルにおける造血前駆細胞の3D培養の実現可能性を実証した(実施例参照)。
【0080】
本発明に係る3Dヒドロゲルマトリックスで成長しうる幹細胞の例としては、胚幹細胞、成人幹細胞、人工多能性幹細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
細胞培養は、「適切な培養媒体と状態」を用いて行われる。「適切な培養媒体と状態」という用語は、マトリックスで培養される細胞の生存と増殖を助ける培養媒体と状態を指す。そのような培養媒体と状態は当該技術分野で知られているし、当業者によって容易に最適化することもできる。
【0082】
本発明に係る架橋ヒアルロナンヒドロゲルが用いられる3D細胞培養を含む用途の例としては、生体内での環境により近似した生体外環境(例えば研究道具)での細胞および組織の増殖や、生体外におけるそのような細胞培養や組織における薬学的成分のスクリーニングや毒物検査や、細胞治療や、細胞デリバリや、薬物デリバリや、生化学的置換(biochemical replacement)や、生物学的活性分子の生産や、組織工学(例えば、生体外器官モデル、組織外植片、生体内組織再生)や、生体材料や、臨床試験が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
〔IV‐キット〕
他の局面では、本発明に係る殺菌された架橋ヒアルロナンヒドロゲルと、当該ヒドロゲルを無菌状態で含有する容器とを備えたキットが提供される。本発明に係る再水和化された架橋ヒアルロナンヒドロゲルと、抗生物質を含む再水和化媒体に入った当該ヒドロゲルを含有する容器とを備えた他のキットが提供される。
【0084】
本発明に係るキットはさらに、上記殺菌されたヒドロゲルを貯蔵するための指示書、および/または上記殺菌されたヒドロゲルを再水和化するための指示書、および/または上記再水和化されたヒドロゲルを貯蔵するための指示書、および/または上記再水和化されたヒドロゲルを使用するための指示書を含んでもよい。キットはさらに、再水和化媒体および/または試薬や、抗生物質や、本明細書に記載した生体分子、生物学的活性剤、および/または薬学的活性剤や、細胞培養媒体および/または試薬や、細胞や、播種手段などを含んでもよい。
【0085】
本発明に係るキットに含まれる異なる種類の付加的な試薬は、固体状態(例えば、凍結乾燥状態)で供給してもよいし、液体状態で供給してもよい。本発明に係るキットは、個々の緩衝液および/または試薬ごとに異なる容器(例えば、水薬瓶、アンプル、試験管、フラスコ、またはボトル)を任意で含んでもよい。各成分は通例、それぞれの容器に等分する、または濃縮状態で提供するのが適切である。ある処置(例えば、再水和化、細胞培養、スクリーニングなど)を行うのに適した他の容器(例えば、水薬瓶、アンプル、試験管、フラスコ、ボトル、またはアッセイプレート)を提供してもよい。キットの個々の容器は、販売のため密閉状態に置くことが好ましい。
【0086】
薬学的または生物学的製品の製造、使用、または販売を管理する政府機関の規定する形式で記された注意書きまたは添付文書をキットに任意で付けてもよい。この注意書きは、ヒトまたは動物への投与のための製造、使用、または販売を上記機関が承認したことを示すものである。
【0087】
識別子(例えば、バーコード、無線周波数、IDタグなど)がキット内またはキット上にあってもよい。識別子は、例えば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間の移動の追跡などの目的のためにキットを一意的に識別するのに用いることができる。
【0088】
〔実施例〕
以下の実施例では、本発明を作成し実施する好ましい様態のいくつかを記載する。しかしながら、これらの実施例はあくまでも例示のためであり、本発明の範囲を限定するものではない。また、実施例の記載が過去形でなされていない限り、その文章は、明細書の残りの箇所と同様、実験が実際に行われたまたはデータが実際に得られたことを示すものではない。
【0089】
〔実施例1:架橋ヒアルロナンヒドロゲルの合成〕
ここで用いるヒアルロナン(HA)ヒドロゲルは、架橋剤としてのアジピン酸ジヒドラジド(ADH、シグマ)と架橋したヒアルロナンの長鎖と、試薬としての1‐エチル‐3[3‐(ジメチルアミノ)‐プロピル]カルボジイミド(EDCI、シグマ)を用いて作成した。ヒドロゲルはすべて、Prestwich et al.(J. Control. Release, 1998, 53: 93-103)に記された手順に従い、高分子量のヒアルロナン(>1×10Da)から作成した。手短に言えば、ヒアルロナンに対するADHの比率と、EDCIに対するヒアルロナンの比率を、細胞粘着および細胞培養に最適なヒドロゲルが得られるように調整した。ADHとヒアルロナンとの比率が10:1、ヒアルロナンとEDCIとの比率が1:1のとき、もっともよい結果が得られた。ヒアルロナンとヒドラジドの架橋剤(ADH)をmilliQ水に溶かし、0.1N HClを加えてpHを4に調整した。カルボジイミド試薬(EDCI)をmilliQ水に溶かし、反応混合物に加え、2時間のあいだ優しくかき混ぜてゲル状にした。ヒアルロナンヒドロゲルは、0.1N NaClで2日間、次いで水とエタノールの混合液(3/1、v/v)で2日間、milliQ水で2日間平衡化させ、ADHを取り除いた。このようにして得られた架橋ヒアルロナンヒドロゲルを、本発明に従って処理した。
【0090】
〔実施例2:架橋ヒアルロナンヒドロゲルの処理〕
実施例1記載のようにして得られた架橋ヒアルロナンヒドロゲルを、まず凍結乾燥した。個々のヒドロゲルを透析し、プラスチックの容器に入れて凍結した。凍結に続いて、ヒドロゲルを凍結乾燥機(Alpha1‐2、性能:氷2kg/24時間、T=−55℃)に入れた。除去すべき水の量に応じて、凍結乾燥を4日から5日間行った。凍結乾燥されたヒドロゲルを、その後、−20℃で貯蔵した。
【0091】
殺菌の前に、凍結乾燥されたヒドロゲルを直方体(約5×5×1.5mm)に切り分けた。切り分けられたヒドロゲルを、オイルバスを用いて、100℃で1時間殺菌した。それから、ヒドロゲルを純粋エタノールに浸し、手で圧縮して、ヒドロゲル構造内部に閉じ込められた空気を取り除いた。それから、細胞培養媒体(例えば、抗生物質を含んだRPMI(ユーロバイオ))を用いて、ヒドロゲルを体積が100倍に膨らむまで再水和化した。
【0092】
〔実施例3:処理された架橋ヒアルロナンヒドロゲルの特性決定〕
本発明に係る方法に従って処理し、造血幹細胞を播種した架橋ヒアルロナンヒドロゲルの倒立顕微鏡写真を、図1に示す。写真は播種後24時間経った時点で撮影した。この図には、隙間のいくつかに細胞が存在していること、およびヒドロゲルの多孔構造がはっきりと示されている。
【0093】
走査型電子顕微鏡(SEM)と環境走査型電子顕微鏡(ESEM)を用いて、ヒアルロナンヒドロゲルの特性、およびヒアルロナンヒドロゲルと細胞との相互作用の特性を決定した。スキャフォールドをグルタルアルデヒド(1%PBS)の中で1時間、4℃で培養した。それから、標本を2時間40℃ですばやく乾燥させた。それから、標本をアルゴン層で覆い、SEM EVO(登録商標)シリーズ(カール・ツァイスAG、 ドイツ)を用いて調べた。ESEMの技術は標本の脱水化を必要としないので、水和化したスキャフォールドの表面を、表面温度0℃のペルチェ冷却プレートを付けた同じSEM装置(カール・ツァイスAG、ドイツ)で直接観察した。スキャフォールドの孔の大きさは、ESEM画像から孔を測定することで割り出した。ヒアルロナンヒドロゲルのESEM画像およびSEM画像を図3の(A)−(D)に示す。
【0094】
ESEMは、細胞培養のあと(56日目)にヒアルロナンヒドロゲルの微細構造を分析するのにも用いた。細胞とヒアルロナンヒドロゲルとの相互作用はSEMによって分析した。
【0095】
(CD34CBCsの分離)
フランスの倫理法に則り、児童の親に説明したうえで同意を得て、臍帯血標本を集めた。単核球(MNCs)を密度勾配分離(d=1.077、パーコール、シグマ、フランス)で分離した。得られた細胞をハンクス液(ユーロバイオ、フランス)で二度洗浄し、それからプラスチック接着によって単球を45分間(37℃、5%CO)、10%のウシ胎仔血清(FCS)を含むRPMI1640中で減らした。
【0096】
CD34MNCの破片を、Vario磁気細胞分離(MACS)装置とMS分離カラム(ミルテニーバイオテク、フランス)を用いてマイクロビーズ選択で分離した。この分離はCD34発現細胞を積極的に選択することで行った。CD34細胞は、フォスフェイト緩衝液(PBS、ユーロバイオ、フランス)、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ−アルドリッチ、フランス)、2mM EDTA緩衝液(シグマ−アルドリッチ、フランス)で懸濁した。これらの細胞は、マイクロビーズと結合したモノクローナル抗体とともに30分間4℃で培養して直接標識付けした。これらの細胞を分離緩衝液で洗浄し、磁場に設置したMSカラムに置いた。磁気的に標識付けしたCD34細胞はカラムに残り、カラムを磁場から取り除いたあと、細胞を積極的に選択された破片として抽出できる一方で、標識付けされていないCD34細胞は通り抜ける。
【0097】
CD34細胞の純度を、フルオレセインイソチオシアネート(クローン581、ベックマン・コールター、フランス)と共役した抗CD34モノクローナル抗体を用いてFACSによって評価した。臍帯血CD34細胞の純度は93%から95%のあいだであった。
【0098】
(CD34CBCsのヒアルロナンヒドロゲル培養)
細胞播種の前に、ヒアルロナンヒドロゲルを100ng/mLのヒトSDF−1α(R&Dシステム、フランス)で補足したRPMI1640中で24時間培養し、それからPBSで洗浄して、細胞がヒドロゲルへ移動・移植するのを容易にした。
【0099】
各ウェルで、5×10CD34CBCsを、50ng/mLのSCF(R&Dシステム、フランス)と0.1%のペニシリンとストレプトマイシンを加えた2mLのStemspan(ステムセル・テクノロジーズ, イギリス)の中で培養した。上記のように作成した三つのヒアルロナンヒドロゲルを各培養ウェルに置いた(液体対照を除く)。培地を1日、28日間、または56日間、培養した(37℃、5%CO)。週ごとに、培養液体相の半分は新鮮な媒体と交換した。遠心分離のあと、細胞をそれぞれの培養ウェルに戻した。
【0100】
(ヒアルロナンヒドロゲル上の粘着細胞の形態学)
56日目にSEM画像撮影を行って、CD34CBCsとヒアルロナンヒドロゲルの相互作用を調べた。造血細胞がマトリックスにしっかりと付着していた(図4)。
【0101】
明らかに円形ではない細胞コロニーはおそらく、単一の細胞または小集団の細胞がスキャフォールド上で放射状に増殖したことによるものである(図4の(A)、(B))。粘着細胞は、細胞表面から発する無数の尾脚(uropodia)を介してマトリックスにつなぎとめられていた(図4の(C)、(D))。
【0102】
〔実施例4:架橋ヒアルロナンヒドロゲルの作成方法の影響〕
架橋ヒアルロナンヒドロゲルを作成するのに二つの異なる方法を用い、作成方法がヒドロゲルの性質に及ぼす影響を分析した。第一の方法は、実施例1と2に記載した方法と同じもの(すなわち、本発明に従った方法)であった。第二の方法は、100℃で殺菌したあと、ヒドロゲルを純粋アルコールに浸し、それから細胞培養触媒を用いて直接再水和化する点を除いては、第一の方法と同じものであった。言い換えれば、第二の方法では、ヒドロゲルを手で圧縮してヒドロゲル構造内部に閉じ込められている空気を取り除くことはしなかった。それから、細胞播種の前に、両組のヒドロゲル(すなわち、圧縮されたものとされていないもの)を100ng/mLのヒトSDF−1α(R&Dシステム、フランス)で補足したRPMI1640中で24時間培養し、それからPBSで洗浄して、細胞がヒドロゲルへ移動・移植するのを容易にした。それから、実施例3に記載したように、CD34CBCsをヒドロゲルに播種した。
【0103】
播種後35日目における両組のヒドロゲルのSEM画像を記録し、二つの異なる作成方法で得られたヒドロゲルの性質を比較した。得られたSEM画像の幾枚かを図5に示す。
【0104】
図5の(A)に示すように、再水和化と細胞培養のあとでも、本発明に従って作成したヒドロゲルはその平行六面体の形状を保ったが、エタノールに浸さず物理的に圧縮しなかったヒドロゲルのほうは、ゆがんで垂れ下がった形状となった(図5の(B)参照)。さらに、スキャフォールドの裂け目は、圧縮されなかったヒドロゲルの場合にのみ見られた(図5の(D)参照)。
【0105】
さらに、細胞の移動は、本発明に係る方法で作成されたヒドロゲルにおける方が、圧縮されなかったヒドロゲルにおけるよりも、より完全で、より均一で、より組織化されていた(例えば、細胞が写真全体に見られる図5の(C)と、それに対して少数のまばらに散らばった細胞のみが見られる図5の(D)または(F)とを参照)。さらに、本発明に係る方法で作成したヒドロゲルでは、細胞の集団または細胞コロニーが一般的に見られた(例えば、図5の(C)と(E)参照)のに対し、圧縮されなかったヒドロゲルでは、細胞の集団または細胞コロニーは極端に少なかった(例えば、図5の(D)と(H)参照)。これは、前者では改良された培養環境が提供されていることを示している。
【0106】
〔他の実施形態〕
ここに開示された本発明の明細書または実施を考慮すれば、本発明の他の実施形態は当業者には明らかであろう。本明細書及び実施例はあくまでも例示であり、本発明の真の範囲は以下の請求項によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1】培養後一日経った造血幹細胞を含む架橋ヒアルロナンヒドロゲルの画像である(×10)。小さな矢印は相互につながった多孔性ネットワークの隙間を示し、大きな矢印は細胞が移動したときのそのような隙間を示す。
図2】培養条件1(50ng/mL SCF)と培養条件4(50ng/mL SCF、10ng/mL VEGF、300ng/mL Ang−1)で培養した、架橋ヒアルロナンヒドロゲル内の造血前駆細胞のコロニーの、0日目(D0)と56日目(D56)の顕微鏡写真(×100)四枚一組である。
図3】環境走査型電子顕微鏡(ESEM)((A)と(B))及び走査型電子顕微鏡(SEM)((C)と(D))でヒアルロナンヒドロゲルを撮った断面顕微鏡写真一組である。
図4】培養56日後のヒアルロナンヒドロゲル上のCD34CBCをSEMで撮った写真一組である。
図5】培養35日後のヒアルロナンヒドロゲル上のCD34CBCをSEMで撮った写真一組である。(A)、(C)、(E)、(G)において、ヒアルロナンヒドロゲルは本発明に係る方法で作成された。(B)、(D)、(F)、(H)において、ヒアルロナンヒドロゲルは、物理的に圧縮されなかった点を除いては、本発明に係る方法で作成された。(D)において、矢印はヒドロゲルにおける裂け目の存在を示している。(E)において、矢印は細胞コロニーを示しているが、(F)においては、矢印は細胞一個を示している。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5(A-D)】
図5(E-H)】