(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、太陽電池セルを封止する封止材としては、EVA樹脂が使用されており、このEVA系封止材の上にフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用したバックシートが熱圧着される。しかしながら、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとが直接接触する構成の太陽電池モジュールの場合、高温高湿の条件下で耐久性試験を行うと、バックシート(フッ化ビニリデン系樹脂フィルム)が黄色に変色するという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において変色しにくいフッ化ビニリデン系樹脂組成物、樹脂フィルム、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの変色は、封止材に用いられている太陽電池モジュール用EVA樹脂中に含有されるヒンダードアミン系の光安定剤に起因していることがわかった。具体的には、高温・高湿の環境下に長時間置かれると、EVA樹脂中のヒンダードアミン系光安定剤により、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとの界面に局所的にアルカリ雰囲気が生じ、これにより、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムに脱フッ化反応が起こり、ポリエン構造が生成していることを発見した。
【0009】
そこで、本発明者は、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとの界面におけるアルカリ雰囲気の発生を抑制するための方法を検討し、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムに、特定構造のフッ化ビニリデン系樹脂と酸化防止剤とを含有させることにより、耐湿熱性の耐久性評価における変色を大幅に抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、1H−NMRにより測定した頭尾結合と頭頭結合とのピーク値の比(頭尾結合/頭頭結合)が11.5以下でありかつ質量平均分子量(Mw)が1.30×10
5以上であるフッ化ビニリデン樹脂と、酸化防止剤と、を少なくとも含有する。
また、本発明は、ヒンダードアミン系光安定剤含有樹脂に積層するためのフッ化ビニリデン系樹脂組成物を提供し、当該樹脂組成物は、上記フッ化ビニリデン樹脂と酸化防止剤とを少なくとも含有する。
このフッ化ビニリデン系樹脂組成物では、樹脂成分全質量あたり、前記フッ化ビニリデン樹脂を50質量%以上含有していてもよい。
また、前記酸化防止剤は、例えば、樹脂成分100質量部あたり0.01〜5質量部配合することができる。
一方、樹脂成分として、前記フッ化ビニリデン樹脂と共にメタクリル酸エステル系樹脂を、樹脂成分全質量あたり5〜50質量%の範囲で含有していてもよい。
また、樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンを5〜30質量部配合することもできる。
【0011】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、前述したフッ化ビニリデン系樹脂組成物からなり、厚さが10〜200μmのものである。
また、本発明に係る太陽電池用バックシートは、前述したフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを用いたものである。
更に、本発明に係る太陽電池モジュールは、この太陽電池バックシートを用いたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定構造のフッ化ビニリデン樹脂と酸化防止剤とを含有しているため、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも、特定の分子鎖構造及び分子量を有するフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)と、酸化防止剤とを含有する。
【0016】
[樹脂成分]
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分の50質量%以上がPVDF樹脂である。そして、ホモポリマーであり、分子鎖における頭尾結合と頭頭結合との比率R(=頭尾結合/頭頭結合)が11.5以下で、かつ質量平均分子量(Mw)が1.30×10
5以上であるPVDF樹脂を含有する。このような分子鎖構造のPVDF樹脂を含有させることにより、太陽電池用バックシートに用いた場合に、長期の耐湿熱性の耐久性評価において、アルカリ雰囲気の発生を防止し、黄色系の変色を抑制することができる。
【0017】
ここで、PVDF樹脂がホモポリマーか否かは、19F−NMRにより確認することができる。また、比率Rは、1H−NMRにより、一般的な評価条件(溶媒:DMSO−d6,測定温度:60℃,測定周波数:500MHz)で測定した頭尾結合(2.87ppm)と頭頭結合(1.0ppm)のピーク値の比である。
【0018】
更に、質量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル透過クロマトグラフィー)により測定することができる。その際の測定条件は、例えば、溶離液:N,N´−ジメチルホルムアミド(臭化リチウムを10mmol/L含有)、標準物質:ポリエチレンオキサイド及びポリエチレングリコール、カラム温度:50℃である。
【0019】
一方、PVDF樹脂の分子鎖における頭尾結合と頭頭結合との比率R(=頭尾結合/頭頭結合)が11.5を超える場合、又は、PVDF樹脂の質量平均分子量(Mw)が1.30×10
5未満の場合、フィルムとしたときに、後述する耐久性評価において、黄色系の色に変色する傾向が強くなり、前述した効果が得られない。なお、フィルムの製膜性の観点から、PVDF樹脂の結合比Rは8.0以上であることが好ましく、PVDF樹脂の質量平均分子量(Mw)は2.00×10
5以下であることが好ましい。
【0020】
このような分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂成分の全質量あたり50質量%以上であることが好ましい。これにより、黄変を抑制する効果を更に向上させることができる。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物では、前述したPVDF樹脂と共に、メタクリル酸エステル系樹脂を含有していてもよい。その場合、メタクリル酸エステル系樹脂の配合量は、樹脂成分全質量あたり5〜50質量%であることが望ましい。このように、メタクリル酸エステル系樹脂を配合することにより、他の素材との接着性を高めることができる。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物に配合されるメタクリル酸エステル系樹脂は、メタクリル酸メチルの単独重合体又はメタクリル酸メチルと他の単量体(50質量%未満)の共重合体をいう。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、例えば炭素数2〜4のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどの炭素数1〜8のアクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びその他のエチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0023】
なお、本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、前述した特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂以外のPVDF樹脂や、メタクリル酸エステル系樹脂以外の樹脂を配合することもできる。
【0024】
[酸化防止剤]
本実施形態の樹脂組成物は、前述した特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂と共に、酸化防止剤が配合されている。これにより、太陽電池用の裏面保護シートに用いたときに、長期の耐湿熱性の耐久性評価において、黄色系の変色を著しく抑制することができる。本実施形態の樹脂組成物に配合される酸化防止剤は、ラジカル補足剤としての役割をもつフェノール系酸化防止剤、過酸化物分解剤としての役割を持つホスファイト系酸化防止剤のいずれででもよいが、これらを併用することにより相乗効果が期待できる。
【0025】
フェノ−ル系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4−4’−チオビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4−4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などが挙げられる。
【0026】
また、ホスファイト系酸化防止剤としては、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイトなどが挙げられる。
【0027】
更に、酸化防止剤の配合量は特に限定されるものではないが、黄変抑制効果及び製造コストの観点から、樹脂成分100質量部あたり、0.01〜5質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜2質量部である。
【0028】
[酸化チタン]
本実施形態の樹脂組成物には、酸化チタンを配合することもできる。PVDF樹脂は耐候性に優れているため、樹脂フィルム自体の耐候性は十分に確保することできるが、酸化チタンを配合することにより、太陽電池用バックシートに使用した場合に、太陽光の反射率を高め、太陽
電池モジュールの発電効率を向上させることができる。
【0029】
ただし、酸化チタンの配合量が、樹脂成分100質量部あたり5質量部未満の場合、太陽光の反射率を高める効果が十分に得られない虞がある。また、樹脂成分100質量部あたり30質量部を超えて酸化チタンを配合すると、樹脂組成物中の分散が不均一になったり、フィルムの製膜が困難になったりする虞がある。よって、酸化チタンを配合する場合は、樹脂成分100質量部あたり5〜30質量部とすることが好ましい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物に配合される酸化チタンとしては、塩化物法又は硫酸塩法により得られるルチル型又はアナターゼ型結晶形態のものが好ましい。例えば、塩化物法により酸化チタンを製造する場合には、TiCl
4を酸化してTiO
2粒子にする。また、硫酸塩法により酸化チタン(TiO
2)を製造する場合には、硫酸及びチタンを含有する鉱石を溶解し、得られた溶液を一連の工程を通してTiO
2を生成させる。
【0031】
実用的には、耐候性劣化による着色が少ないルチル型の結晶構造の酸化チタンを使用することが望ましい。また、樹脂組成物中の分散性を高め、かつ樹脂分解作用を低減するため、最表面に無機被覆層が形成されている酸化チタンが特に好ましい。
【0032】
酸化チタンの粒子径は、沈降法により算出した平均粒子径で、0.05〜2.0μmであることが好ましい。酸化チタンの粒子径が0.05μmよりも小さいと、可視光の透過による透明性を示すようになり、また、酸化チタンの粒子径が2μmを超えると、樹脂組成物への分散性が劣化して凝集しやすくなるからである。
【0033】
なお、本実施形態の樹脂組成物には、前述した酸化チタン以外に、無機顔料として、酸化亜鉛、硫化亜鉛又は硫酸バリウムなどが配合されていてもよく、また、隠蔽性を向上させるため、酸化チタン以外の金属酸化物が配合されていてもよい。更に、本実施形態の樹脂組成物には、前述した各成分に加えて、酸化防止剤、分散剤、カップリング剤、熱安定剤、界面活性剤、帯電防止剤、防曇剤及び紫外線吸収剤などが添加されていてもよい。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂と、酸化防止剤とを含有しているため、製膜性に優れ、EVA系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが得られる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂フィルム(以下、単に樹脂フィルムともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂フィルムは、前述した第1の実施形態に係る樹脂組成物を製膜したものであり、その厚さは10〜200μmである。なお、樹脂フィルムの厚さが、10μm未満の場合は機械的強度が不足することがあり、また、200μmを超えると製膜性が低下する。
【0036】
[製造方法]
本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されるものではなく、第1の実施形態の樹脂組成物を、例えば溶融押出成形などの一般的な方法で製膜することができる。各種製膜方法の中でも、押出機によりフィルム用T−ダイを用いて、製膜する方法が好ましい。また、原料には、溶融混練した樹脂組成物を使用してもよいが、個々の原料を配合して、直接、単軸又は二軸の押出機に供給し、例えば150〜260℃の温度でそれらを溶融して、フィルム用T−ダイを通して押し出すことによって、製膜することもできる。
【0037】
本実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂と、酸化防止剤とを含有しているため、EVA系封止材に直接積層した場合でも、アルカリ雰囲気の発生を抑えることができる。このため、本実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、高温・高湿の環境下で、長期間耐久性試験を行っても黄変しにくく、太陽電池のバックシート用として極めて有用である。
【0038】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る太陽電池用バックシート(以下、単にバックシートともいう。)について説明する。本実施形態のバックシートは、前述した第2の実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムと、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルムなどの電気絶縁性樹脂フィルムとを積層し、貼り合わせることにより得られる。
【0039】
なお、これらのフィルムの貼り合わせには、各種接着剤による接着が可能である。また、PET系フィルムなどの他の樹脂フィルムは、バックシートに、電気絶縁性、遮蔽性、水蒸気バリア性(防湿性)を付与する目的で積層されている。
【0040】
本実施形態のバックシートは、特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂と、酸化防止剤とを含有するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用しているため、EVA系封止材に直接積層した場合でも、アルカリ雰囲気の発生が抑えられる。このため、長期間の耐湿熱性の耐久性評価を行っても、EVA系封止材と接している面の黄変の程度が極めて小さい。
【0041】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る太陽電池モジュールについて説明する。
図1は本実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール10は、光起電力素子である太陽電池セル5がEVA系封止材2により封止されている。
【0042】
そして、太陽光6が照射される面には、ガラスなどからなる透明基板1が積層され、裏面側には前述した第3の実施形態のバックシート3が積層されており、これらの周囲には、フレーム4が設けられている。なお、EVA系封止材2とバックシート3とは、100〜150℃の加熱プレスにより貼り合わせることができる。
【0043】
本実施形態の太陽電池モジュール10は、バックシート3に、特定の分子鎖構造及び分子量を有するPVDF樹脂と、酸化防止剤とを含有するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用しているため、EVA系封止材2にバックシート3が直接積層されているにもかかわらず、耐湿熱性の耐久性評価におけるバックシート3の黄変を抑制することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、実施例及び比較例のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを作製し、その耐湿熱性を評価した。
【0045】
<原料>
(1)フッ化ビニリデン(PVDF)樹脂
PVDF樹脂としては、下記表1に示すものを用いた。なお、下記表1に示すNo.A〜FのPVDF樹脂は、いずれもホモポリマーである。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)メタクリル酸エステル系樹脂(三菱レーヨン社製 ハイペットHBS000)
:アクリル酸ブチル(n−BA)とメタクリル酸ブチル(BMA)のゴム成分を含むメタクリル酸エステル系樹脂。MFR(230℃,10kg加重)は4〜7g/10分。
【0048】
(3)酸化チタン(デュポン社製 R960)
:粒子径が約0.35μm。純チタン分が約89質量%。
【0049】
(4)酸化防止剤(アデカ社製 2112)
:ホスファイト系酸化防止剤
【0050】
<評価試料の作製方法>
(実施例1)
先ず、No.Aのフッ化ビニリデン樹脂100質量部に対して、酸化チタンを22質量部、酸化防止剤を1質量部配合した混合物を、φ30mmの2軸押出機によって混練し、コンパウンドを作製した。次に、このコンパウンドをφ40mmの単軸押出機にて、押出温度250℃にてT−ダイを用いてフィルム成形し、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0051】
(実施例2)
No.Aのフッ化ビニリデン樹脂を80質量%、メタクリル酸エステル系樹脂を20質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンを22質量部、酸化防止剤を1質量部配合した混合物を使用して、前述した実施例1と同様の方法及び条件で厚さ30μmのフィルムを得た。
【0052】
(実施例3)
No.Bのフッ化ビニリデン樹脂を用いた以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0053】
(比較例1)
No.Cのフッ化ビニリデン樹脂を用いた以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0054】
(比較例2)
酸化防止剤を配合しないこと以外は、前述した実施例3と同様の方法及び条件で、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0055】
(比較例3〜5)
No.D〜Fのフッ化ビニリデン樹脂を用いた以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0056】
<評価方法>
(PVDF樹脂特性)
(1)比率R(頭尾結合/頭頭結合)
実施例及び比較例で用いたNo.A〜FのPVDF樹脂について、下記の測定器及び測定条件で評価を行い、2.87ppmのピーク値と、1.0ppmのピーク値の比率により、頭尾結合と頭頭結合との比(R値)を算出した。
・測定器:NMR(BrukerAVA
NCEIII500)
・核種 :1H(−NMR)
・溶媒:DMSO−d6
・測定温度:60℃
・測定周波数:500MHz
【0057】
(b)質量平均分子量(Mw)
実施例及び比較例で用いたNo.A〜FのPVDF樹脂について、GPC装置を用いて、下記測定条件で評価した。
・カラム:ShodexGPC KD-806×2+KD802
・溶離液:N,N´−ジメチルホルムアミド(臭化リチウム:10mmol/L含有)
・標準物質:ポリエチレンオキサイド及びポリエチレングリコール
・カラム温度:50℃
【0058】
(フィルムの耐湿熱性)
前述した方法で作製した実施例及び比較例の樹脂フィルムから10cm角の試料を切り出し、プレス機により、加熱温度230℃、圧力5MPaの条件で、太陽電池モジュール用EVA樹脂フィルム(EVA系封止材)と貼り合わせて、積層物を作製した。そして、これらの試料について、耐湿熱性評価として、JIS C8990に準拠し、環境試験機を用いて、温度85℃±2℃、相対湿度85%±5%の条件で、1000時間のダンプヒート試験を行った。
【0059】
そして、EVA貼り合わせ面のフィルムの黄変度は、JIS K7105に準拠して色差測定を行い、ΔYI(イエローインデックス)値を算出し、その値により評価した。その際、ΔYI値が10以下であれば実用上問題ないレベルと判断した。その結果を、下記表2にまとめて示す。
【0060】
【表2】
【0061】
上記表2に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜3の樹脂フィルムは、比較例1〜5の樹脂フィルムに比べて、黄変度が大幅に低減されていた。具体的には、使用しているPVDF樹脂の頭尾結合と頭頭結合との比(R)が近似値を示す実施例2と比較例1、実施例3と比較例3をそれぞれ比較すると、PVDF樹脂の質量平均分子量が1.30×10
5以上である実施例2,3は、PVDF樹脂の質量平均分子量が1.30×10
5未満である比較例1,3に比べて、黄変度が少なかった。
【0062】
また、使用しているPVDF樹脂の分子量が近似値を示す実施例3と比較例4を比較すると、PVDF樹脂の頭尾結合と頭頭結合との比(R)が11.5以下である実施例3は、PVDF樹脂の頭尾結合と頭頭結合との比(R)が11.5を超えている比較例4に比べて黄変度が少なかった。
【0063】
以上の結果から、本発明によれば、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを実現できることが確認された。