(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、場合により、互変異性体、ラセミ化合物、鏡像異性体、ジアステレオマー、及びこれらの混合物の形態である、一般式(11)
【化1】
(式中、基R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、特許請求の範囲及び明細書に記載される意味を有する)で表されるジヒドロプテリジノン及びその関連する中間体、ならびに場合によりこれらの塩を製造する方法に関する。
【0002】
発明の背景
プテリジノン及びプテリジノン誘導体は、特にポロ様キナーゼがPLK−1である場合、分裂調節因子としてのポロ様キナーゼを阻害することによって異常な細胞増殖を含む疾患を処置するための、好ましくは、癌、感染症、炎症、及び自己免疫疾患を処置及び/又は予防するための、抗増殖活性を有する活性物質として先行技術において知られている。
【0003】
例えば、国際公開第01/019825号は、特定のプテリジノンについて開示しており、これは、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)及び成長因子媒介キナーゼの強力な阻害剤であると記載されており、そして、細胞増殖性の疾患及び障害、特に腫瘍及びウイルス性疾患を処置するために用いられる。また、国際公開第03/020711号は、腫瘍性疾患を処置するためのジヒドロプテリジノン誘導体の使用について開示している。更に、国際公開第2006/018185号は、癌の治療におけるジヒドロプテリジノンの使用に関する。
【0004】
また、プテリジノンの多数の製造方法が、先行技術に記載されている。
【0005】
例えば、国際公開第2004/076454号及び国際公開第2006/018220号は、特定のジヒドロプテリジノン、その製造及び使用の方法について開示している。
【0006】
それにもかかわらず、上記問題点を克服するジヒドロプテリジノンの改善された製造方法が必要とされている。したがって、本発明の目的は、大規模で容易に実施することができる、改善された高純度を有するジヒドロプテリジノンを高収量で提供することができる方法を提供することである。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、ジヒドロプテリジノン及びその関連する中間体を製造する方法に関する。
【0008】
本発明によれば、製造される一般式(11)で表される化合物は、以下の通りである:
【化2】
(式中、
R
1及びR
2は、互いに独立して、水素又はC
1−C
6−アルキルを意味し、
R
3は、水素、又はC
1−C
6−アルキル及びC
3−C
8−シクロアルキルから選択される基を意味し、
R
4は、水素、又は−CN、ヒドロキシ、C
1−C
6−アルキル、C
1−C
5−アルキルオキシ及びC
1−C
6−アルキルチオから選択される基を意味し、
R
5は、C
1−C
6−アルキル、C
1−C
4−アルキル−C
3−C
8−シクロアルキル又はC
3−C
8−シクロアルキルを意味する)
場合により、これらの互変異性体、ラセミ化合物、鏡像異性体、ジアステレオマー、及び混合物の形態、そして、場合によりこれらの塩。
【0009】
本発明に係る方法は、一段法(工程1、又は工程2、又は工程3)を提供してもよく、又は多段法における工程の組合せを提供してもよく、前記方法の工程及び本発明に係る方法に従って製造することができる化合物は、以下の通りである:
【0010】
本発明は、Ni、Pd、Pt等の金属触媒と、溶媒又は溶媒混合物との存在下で水素化されるエナミン中間体を介して、式(5)
【化3】
(式中、
R
5は、C
1−C
6−アルキル、C
1−C
4−アルキル−C
3−C
10−シクロアルキル又はC
3−C
10−シクロアルキルを意味する)
で表される化合物を製造する方法(工程1)であって、
式(3)
【化4】
(式中、PGは保護基である)
で表される化合物と、一般式(4)
【化5】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物とを反応させることを特徴とする方法に関する。好ましい触媒は、Pt/C及び酸化白金IV(PtO
2)である。酸化白金IV(PtO
2)が最も好ましい。溶媒は、好ましくは、非プロトン性有機溶媒又はアルコール又は非プロトン性溶媒とアルコールとの混合物である。特に、トルエン/エタノール混合物が使用される。
【0011】
また、本発明は、式(6)
【化6】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法(工程2)であって、
一般式(5)
【化7】
(式中、
R
5及びPGは、上及び下に定義する通りである)
で表される化合物における保護基PGを、保護基を切断するための非求核性酸性試薬としてp−トルエンスルホン酸(TsOH)を使用する酸加水分解によって除去することを特徴とする方法に関する。
【0012】
また、本発明は、塩基としてのアルカリ又はアルカリ土類の水酸化物、好ましくはNaOH又はKOH及びプロトン性溶媒、好ましくは水とを使用して、式(8)
【化8】
(式中、
R
5は、上に定義した通りであり、
R
4は、水素、又は−CN、ヒドロキシ、C
1−C
6−アルキル、C
1−C
5−アルキルオキシ及びC
1−C
6−アルキルチオから選択される基を意味する)
で表される化合物を製造する方法(工程3)であって、
一般式(7)
【化9】
(式中、
R
4は、上に定義した通りである)
で表される化合物(場合により、ハロゲン化アシル化合物に変換される)を式(6)
【化10】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表されるアミン化合物とを反応させることを特徴とする方法に関する。
【0013】
また、本発明は、式(11)
【化11】
(式中、
R
1〜R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法(工程1〜工程5)であって、以下の工程を含む方法に関する:
工程1:金属触媒、好ましくはPt触媒と、溶媒又は溶媒混合物との存在下で水素化されるエナミン中間体を介して、式(3)
【化12】
(式中、PGは保護基である)
で表される化合物を、一般式(4)
【化13】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物と反応させて、
式(5)
【化14】
(式中、R
5及びPGは、上及び下に定義した通りである)
で表される化合物を得る工程と;
工程2:上に定義した通りの式(5)で表される化合物において、
保護基を切断するための非求核酸性試薬としてp−トルエンスルホン酸(TsOH)を使用する酸加水分解によって保護基PGを除去して、
式(6)
【化15】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を得る工程と;
工程3:塩基としてのアルカリ又はアルカリ土類の水酸化物、好ましくはNaOH又はKOH及びプロトン性溶媒、好ましくは水とを使用して、一般式(7)
【化16】
(式中、
R
4は、上に定義した通りである)
で表される化合物(場合により、ハロゲン化アシル化合物に変換される)を、式(6)
【化17】
(式中、
R
5は、上に定義した通りである)
で表されるアミン化合物とを反応させて、
式(8)
【化18】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を得る工程と;
工程4:上に定義した通りの一般式(8)で表される化合物を
水素化して、式(9)
【化19】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を得る工程と;
工程5:上に定義した通りの式(9)で表される化合物と、
式(10)
【化20】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、上に定義した通りであり、そして、Aは、脱離基である)
で表される化合物とを反応させて、
式(11)
【化21】
(式中、
R
1〜R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を得る工程。
【0014】
また、本発明は、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を使用して、式(9)
【化22】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法に関する。
【0015】
また、本発明は、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を使用して、式(11)
【化23】
(式中、
R
1〜R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法に関する。
【0016】
また、本発明は、式(11)
【化24】
(式中、
R
1〜R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法であって、
式(8)
【化25】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物(ここで、式(8)で表される化合物が、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を用いて得られる)を使用するか;
あるいは
式(9)
【化26】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物(ここで、式(9)で表される化合物が、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を用いて得られる)を使用する方法に関する。
【0017】
また、本発明は、式(9)
【化27】
(式中、
R
4及びR
5上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法(工程4)であって、
一般式(8)
【化28】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物(ここで、式(8)で表される化合物が、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を用いて得られる)を水素化することを特徴とする方法に関する。
【0018】
また、本発明は、式(11)
【化29】
(式中、
R
1〜R
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物を製造する方法(工程5)であって、
式(9)
【化30】
(式中、
R
4及びR
5は、上に定義した通りである)
で表される化合物と、式(10)
【化31】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、上に定義した通りであり、そして、Aは、脱離基である)で表される化合物とを反応させ、
式(9)で表される化合物が、上に定義した通りの方法の工程1及び/又は方法の工程2及び/又は方法の工程3を用いて得られる方法に関する。
【0019】
用いられる用語の定義
他の基の一部であるアルキル基を含む用語「アルキル基」は、1〜12個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子、最も好ましくは1〜4個の炭素原子を有する分枝状及び非分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル及びドデシル等である。特に明記しない限り、上述の用語プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル及びドデシルは、可能な異性体を全て含む。例えば、用語プロピルは、2つの異性体基n−プロピル及びイソプロピルを含み、用語ブチルは、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチルを含み、用語ペンチルは、イソペンチル、ネオペンチル等を含む。
【0020】
前述のアルキル基においては、1以上の水素原子が、場合により他の基で置換されていてもよい。例えば、これらアルキル基は、ハロゲン、好ましくは、フッ素、塩素及び臭素によって置換されていてもよい。場合により、アルキル基の水素原子が全て置換されていてもよい。
【0021】
「シクロアルキル基」の例は、3〜8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、又はシクロオクチル、好ましくは、シクロプロピル、シクロペンチル、又はシクロヘキシルであるが、前述のシクロアルキル基は、各々、場合により、1以上の置換基(例えば、OH、NO
2、CN、OMe、−OCHF
2、−OCF
3、−NH
2、又はハロゲン、好ましくはフッ素又は塩素、C
1−C
10−アルキル、好ましくはC
1−C
5−アルキル、好ましくはC
1−C
3−アルキル、より好ましくはメチル又はエチル、−O−C
1−C
3−アルキル、好ましくは−O−メチル又は−O−エチル、−COOH、−COO−C
1−C
4−アルキル、好ましくは−COO−メチル又は−COO−エチル、あるいは−CONH
2)を有していてもよい。シクロアルキル基の特に好ましい置換基は、=O、OH、NH
2、メチル又はFである。
【0022】
一般に、用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素、好ましくはフッ素、塩素又は臭素、最も好ましくは塩素を意味する。
【0023】
「脱離基A」は、例えば、−O−メチル、−SCN、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、又はp−トルエンスルホニル等の脱離基、好ましくは塩素を意味する。
【0024】
保護基「PG」は、例えば、メチルカルバメート、エチルカルバメート、2,2,2−トリクロロエチルカルバメート、2−トリメチルシリルエチルカルバメート、2−クロロエチルカルバメート、t−ブチルカルバメート、ビニルカルバメート、アリルカルバメート、ベンジルカルバメート、p−メトキシベンジルカルバメート、N−ホルミルアミド、N−アセチルアミド、N−トリフルオロアセチルアミド、N−フェニルアセチルアミド、N−ベンゾイルアミド及びベンジルオキシカルボニルアミド等の保護基を意味する。
【0025】
式(5)で表される化合物のアミノ基を保護するのに使用することができる更なる使用可能な保護基は、以下に記載されている:Protective Groups in Organic Synthesis, Third Edition. Theodora W. Greene, Peter G.M. Wuts,1999 John Wiley & Sons, Inc., Chapter 7 p494-653;
【0026】
本発明の好ましい実施形態
製造される好ましい化合物
好ましい実施形態によれば、R
3〜R
5は、上に定義した通りであり、そして、R
1及びR
2は、互いに独立して、水素又はC
1−C
3−アルキルを意味する。より好ましいR
1及びR
2は、互いに独立して、水素、メチル又はエチルを意味する。最も好ましくは、R
1は、水素を意味し、そして、R
2は、エチルを意味する。
【0027】
好ましい実施形態によれば、R
1、R
2、R
4及びR
5は、上に定義した通りであり、そして、R
3は、好ましくは、水素、又はC
1−C
3−アルキル及びC
3−C
6シクロアルキルから選択される基を意味する。より好ましいR
3は、メチル、エチル、プロピル又はイソプロピルを意味する。最も好ましくは、R
3の置換基は、イソプロピルを意味する。
【0028】
好ましい実施形態によれば、R
1、R
2、R
3及びR
5は、上に定義した通りであり、そして、R
4は、好ましくは、水素、又は−CN、ヒドロキシ、C
1−C
3−アルキル、C
1−C
3−アルキルオキシ、及びC
1−C
3−アルキルチオから選択される基を意味する。より好ましいR
4は、メトキシ、エトキシ、メチルチオ及びエチルチオを意味する。最も好ましくは、R
4の置換基は、メトキシを意味する。
【0029】
好ましい実施形態によれば、R
1〜R
4は、上に定義した通りであり、そして、R
5は、好ましくは、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
2−アルキル−C
3−C
6−シクロアルキル又はC
3−C
6−シクロアルキルを意味する。より好ましいR
5は、メチル、エチル、プロピル又は−CH
2−シクロプロピルを意味する。最も好ましくは、R
5の置換基は、−CH
2−シクロプロピルを意味する。
【0030】
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5の特に好ましい基に関して、本発明の方法に従って製造することができる特に好ましい式(11)で表される化合物は、先行技術である国際公開第2006/018220号及び国際公開第2004/076454号に開示されており、両文書の全開示は、それぞれ、参照することにより本明細書の内容に組み込まれる。
【0031】
R
1〜R
5の定義において言及された全ての基は、場合により、分岐及び/又は置換していてもよい。
【0032】
本発明の意味の範囲内において、本発明の方法に従って製造される一般式(5)、(6)、(8)、(9)、又は(11)で表される化合物は、場合により、互変異性体、ラセミ化合物、鏡像異性体、ジアステレオマー、及びこれらの混合物の形態であってよく、そして、場合により塩の形態であってよい。また、一般式(11)で表される化合物は、その生理学的に許容しうるか又は薬理学的に許容しうる塩、溶媒和物、水和物又は多形も包含する。式(5)、(6)、(8)及び(9)で表される化合物は、式(11)で表される化合物を調製するための重要な中間生成物を表す。
【0033】
本発明に従って製造される化合物は、以下に記載する合成法により調製することができるが、一般式(3)〜(11)の置換基は、上記意味を有する。多数の工程、例えば、2工程を組み合わせる場合、全ての工程の生成物を、それぞれ公知の方法、好ましくは再結晶化に従って精製してもよく、又は得られた生成物を、後続の工程でそのまま使用してもよい。
【0034】
好ましい製造方法
工程1
工程1に従って、式(3)で表される化合物と式(4)で表される化合物とを反応させて、式(5)で表される化合物を得る(
図1を参照されたい)。化合物(3)及び化合物(4)は、いずれも市販されているか、又は化学文献から公知である手順によって調製してもよい。
【0035】
【化32】
【0036】
工程1では、適切な溶媒又は溶媒の混合物中において、化合物(3)(窒素原子が保護基PGによって保護されているアミノシクロヘキサノン)と、一般式(4)で表される複素環式化合物とを反応させる。反応は、好ましくは、還流下で行われる。次いで、得られたエナミンを、適切な水素圧下、例えば30〜60psiで、THF、トルエン、エタノール、メタノール、酢酸エチル及びこれらの混合物等の適切な溶媒中で、金属触媒、好ましくは、好ましくはPt/C及び酸化白金IV(PtO
2)から選択されるPt触媒、最も好ましくは酸化白金IV(PtO
2)を用いて水素化する。通常、この反応は、室温を超える温度、例えば、35℃〜65℃の範囲で実施される。次いで、触媒を除去する。シス形及びトランス形の混合物の形態の反応生成物(遊離塩基)が得られ、それを通常通り後処理してよい(例えば、水を添加し、次いで、塩酸水溶液等の希酸を添加する)。シス−及びトランス−化合物を、結晶化によって水から分離する。例えば、純粋なトランス生成物を得るために、粗生成物を適切な溶媒から再結晶化させてよい。
【0037】
先行技術、例えば、国際公開第2006/018220号から公知の方法では、水素源としてNaBH
4を用いてエナミンの還元的アミノ化を実施し、次いで、塩酸を添加する。しかし、水素化ホウ素ナトリウム試薬を使用すると、反応工程が不均質になって、収率が低く、そして、副生成物が生じる場合があるので、不都合が生じる可能性がある。
【0038】
本発明に係る工程1では、先行技術の方法とは対照的に、水素を用いる不均一触媒法を実施する。適切な触媒は、金属触媒、好ましくはPt触媒であることが見出されている。好ましい触媒は、Pt/C及び酸化白金IV(PtO
2)である。酸化白金IV(PtO
2)が最も好ましい。溶媒は、好ましくは、非プロトン性有機溶媒、例えばジクロロメタン、アセトン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジグリム、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、好ましくはトルエン又はTHF、最も好ましくはトルエンである。また、好ましい溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール及び/又はtert.−ブタノール等のアルコールであり、最も好ましくは、エタノール又はメタノールである。より好ましくは、溶媒は、非プロトン性溶媒とアルコールとの混合物である。好ましくは、溶媒は、トルエンとアルコールとの混合物である。特に、トルエン/エタノール混合物が使用される。トルエン/アルコール、好ましくはトルエン/エタノールの混合物の比率は、好ましくは約4〜5:1の範囲で調整される。本工程1は、トランス形化合物:シス形化合物の比率を約3:1と著しく改善することができる。したがって、立体選択性の還元的アミノ化が達成される。最良の結果は、好ましくは約4〜5:1の範囲のトルエン/エタノールの混合物中で触媒として酸化白金IVを用いて得られる。したがって、>50%(トランス異性体)の単離収率を達成することができる。Pd/C又はラネーニッケル等の他の触媒は、以下の表に示す通りのトランス/シス比で、同様にエナミンを水素化する。
【0039】
【表1】
【0040】
工程2
工程2に従って、工程1で得られた化合物(5)において、保護基を除去して化合物(6)を得る(
図2を参照されたい)。
【0041】
【化33】
【0042】
保護基PGの切断は、先行技術において周知の手順である。通常、アミノ保護基PGは、当技術分野において公知である任意の適切なアミノ保護基であってよい。保護基の典型例は、既に上記されており、tert−ブチルオキシカルボニル(Boc)、アセチル及びホルミル等である。窒素保護基の切断の工程は、一般的に、先行技術において周知の技術によって行われる。通常、アルコール、エーテル又はジクロロメタン(DCM)等の様々なプロトン性又は極性非プロトン性の溶媒中における、HCl、H
2SO
4、TFA、AcOH、MeSO
3H又はTsOH等の有機酸又は無機酸による酸加水分解が使用される。しかし、先行技術の方法では、保護基の除去は、通常、数時間還流下で塩酸を用いて行われる。得られるアミンは、そのHCl塩として単離される。この方法の問題は、塩酸がヘテロ原子に存在する置換基と反応する場合があるので、不純物が形成される可能性があることである。
【0043】
本発明に係る方法の工程2では、この不純物の形成は回避される。酸加水分解は、保護基を切断するための非求核性酸性試薬としてp−トルエンスルホン酸(トシル酸、TsOH)を用いて実施される。この種の非求核性酸性試薬は、望ましくない副反応における化合物の分解下でいずれの置換基とも反応しない。本発明に係る工程2で使用される好ましい保護基は、アセチル、ホルミル、トリフルオロアセチル、エトキシカルボニル、tert.−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、ベンジル、メトキシベンジル又は2,4−ジメトキシベンジル基である。したがって、工程2の生成物は、結晶質のトリトシル酸塩であり、これは、通常、高収量で得られる。
【0044】
工程3
工程3に従って、工程2で得られた式(6)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物とを反応させて、一般式(8)で表される化合物を得る(
図3を参照されたい)。
【0045】
【化34】
【0046】
工程3では、場合により先ずハロゲン化アシル化合物に変換される安息香酸化合物(7)を、塩基及び溶媒を使用して、式(6)で表されるアミン化合物と反応させる。通常、この反応は、室温を超える温度、例えば、35℃〜75℃の範囲で実施される。反応生成物(化合物(8))は沈殿し、次いで、通常通り後処理される。得られた化合物(6)をクロマトグラフィー又は結晶化によって精製してもよく、又は合成の後続工程4において粗生成物として使用してもよい。
【0047】
先行技術に係る方法では、一般に使用される塩基は、N−エチルジイソプロピルアミン(ヒューニッヒ塩基)であり、そして、一般に使用される溶媒は、THFである。塩基としてN−エチルジイソプロピルアミンの代りにNaOH又はKOH等のアルカリ又はアルカリ土類の水酸化物を使用し、そして、非プロトン性溶媒THFの代りに水等のプロトン性溶媒を使用することが有利であることが見出されている。驚くべきことに、収量を83%から97%に著しく増加させることができる。
【0048】
工程4
工程4に従って、工程3で得られた式(8)で表される化合物を水素化させて、式(9)で表される化合物を形成する(
図4を参照されたい)。この工程は、化学文献から公知の方法を使用して行うことができる。
【0049】
【化35】
【0050】
工程4では、式(8)で表される化合物を、適切な水素圧下(20〜100psi)、好ましくは30〜60psiの範囲で、溶媒中で触媒を使用して水素化する。通常、水素化反応は、室温を超える温度、例えば、40℃〜70℃の範囲で実施される。触媒は、先行技術から公知である任意の触媒であってよく、特に好ましくは、ラネーニッケルである。反応が完了した後、触媒を除去する。得られた式(9)で表される化合物は、精製してもよく、又は更に精製することなく次の工程でそのまま使用してもよい。
【0051】
工程5
工程5に従って、式(11)で表される化合物を得るための工程4で得られた式(9)で表される化合物の反応(
図5)は、化学文献、例えば、国際公開第2009/019205号、同第2007/090844号、同第2006/021378号、同第2006/018220号、及び同第2004/076454号から公知の方法を用いて実施することができる。
【0052】
【化36】
【0053】
例えば、工程5では、式(10)で表される化合物及び式(9)で表される化合物を、数時間、還流温度で、溶媒(例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール)中にて、酸(例えば塩酸又はトシル酸)と共に撹拌する。沈殿した生成物(11)を分離し、通常通り後処理し、場合により水で洗浄し、そして乾燥させる。得られた化合物(11)は、クロマトグラフィー又は結晶化によって精製してもよい。
【0054】
無論、望ましい反応生成物を得るために、上記工程のうちのいずれかを単独で使用してもよく、又は数工程を組み合わせてもよい。
【0055】
各個別の工程に最適な反応条件及び反応時間は、使用される具体的な反応物質に依存して変動しうる。別段の定めがない限り、溶媒、温度及び他の反応条件は、当業者によって容易に選択され得る。具体的な手順を合成実施例の章に提供する。典型的に、反応の進行は、必要に応じて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってモニタすることができる。中間体及び生成物は、結晶化によって精製してよい。特に記載しない限り、出発物質及び試薬は、市販されているか、又は化学文献に記載の方法を使用して、市販の材料から当業者によって調製され得る。
【0056】
合成実施例
略語:
EtOH エタノール
MeOH メタノール
THF テトラヒドロフラン
p−TsOH p−トルエンスルホン酸
【0057】
化合物(11a)の合成
完全を期すために、一般式(11a)で表される化合物の製造方法を以下に詳細に記載する。
【0058】
【化37】
【0059】
以下の方法は、それを本発明の発明主題に限定することなく、本発明の例示として理解されるべきである。以下のスキーム1では、反応工程1〜5を詳細に示す。
【0060】
【化38】
【0061】
100.0g(644.4mmol)の化合物(3a)、すなわちN−アセチル−アミノシクロヘキサノンと、1.0Lのトルエンと、99.4g(708.8mmol)のシクロプロピルメチル−ピペラジン化合物(4a)との混合物を還流させながら加熱した。還流させながら、水分離器によって水を除去し、そして、更に35mLのトルエンを留去した。反応が完了した後、反応混合物を70℃に冷却し、200mLのエタノールを添加した。エナミンを含有する溶液を、50℃で1.00gのPtO
2の存在下で50psiにて水素化した。完全に変換された後、触媒を濾取し、そして、ケーキを275mLのトルエンですすいだ。トルエンを、蒸留によって部分的に除去した。残渣に、50℃で600mLの水を添加し、次いで、83.0g(68.31mmol)のHCl水溶液を添加した。分離された水層に、60mLの水に溶解している59.3g(74.10mmol)の水性NaOH(50%)を添加した。添加後、結晶が生じた。懸濁液を1.5時間以内に20℃に冷却した。生成物を濾過によって回収し、それぞれ75mLの水で2回洗浄し、そして、50℃で真空乾燥させた。
収量:101.0g(56.1%)のピペラジン化合物(5a)。
【0062】
再結晶化:
100.0gのピペラジン化合物(5a)(357.9mmol)と800mLの水との混合物を、還流させながら加熱した。得られた溶液を2.5時間以内に20℃に冷却した。懸濁液を20℃で更に30分間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、それぞれ100mLの水で2回洗浄し、そして、50℃で真空乾燥させた。
収量:79.0g(79.0%)のピペラジン化合物(5a)。
【0063】
【化39】
【0064】
20.0g(71.57mmol)のピペラジン化合物(5a)、68.08g(357.8mmol)のトシル酸、及び25mLの水のスラリーを、密封された反応器において6時間かけて120℃まで加熱した。完全に変換された後、120mLのトルエンを添加し、そして、二相混合物を還流するまで加熱した。共沸蒸留によって29mLの水を除去した。二相混合物に、150mLのエタノールを添加し、そして、100mLの溶媒を留去した。得られた懸濁液を0℃に冷却し、そして、0℃で更に1時間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、それぞれ40mLのトルエン/エタノール混合物で2回洗浄し、そして、50℃で真空乾燥させた。
収量:49.15g(91.0%)のアミン化合物(6a)。
【0065】
【化40】
【0066】
82mLのトルエン中11.5g(58.36mmol)の3−メトキシ−4−ニトロ安息香酸(化合物(7a))の懸濁液に、116μLのピリジンを添加し、そして、還流するまで加熱した。還流したら、38mLのトルエンに溶解している7.60g(63.88mmol)の塩化チオニルを30分以内に添加した。混合物を、還流させながら更に1時間撹拌した。反応が完了した後、得られた溶液を、60℃で40.0gのアミン化合物(6a)(53.05mmol)、74mLの水及び247mmolのNaOHの混合物に添加した。添加中に直ちに生成物が沈殿した。得られた懸濁液を1時間以内に20℃に冷却し、そして、20℃で更に1時間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、それぞれ100mLの水で2回洗浄した。生成物を、一定重量になるまで45℃で乾燥させた。
収量:21.49g(97%)のアミド化合物(8a)。
【0067】
再結晶化:
10.0g(24.0mmol)のアミド化合物(8a)を、還流下で60mLのエタノールに溶解させた。溶液を20℃に冷却した。懸濁液を、20℃で更に1時間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、そして、15mLのエタノールで洗浄した。生成物を、一定重量になるまで45℃で乾燥させた。
収量:9.09g(91%)のアミド化合物(8a)。
【0068】
【化41】
【0069】
20.0g(48.02mol)のアミド化合物(8a)を、80mLのメタノールと100mLのテトラヒドロフランとの混合物に溶解させた。20gのラネーニッケルを添加した後、混合物を50psi及び60℃で水素化した。完全に変換された後、触媒を濾取し、そして、ケーキを40mLのメタノールですすいだ。140mLの溶媒を真空下で除去した。残渣に、140mLのメタノールを添加した。透明な溶液が得られるまで、懸濁液を還流させた。溶液を2℃に冷却した。得られた懸濁液を更に1時間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、60mLのメタノールで洗浄した。生成物を、一定重量になるまで60℃で乾燥させた。
収量:17.30g(93.0%)のアニリン化合物(9a)。
【0070】
【化42】
【0071】
350mLの2−メチル−4−ペンタノール中の23g(59.5mmol)の(9a)、16.8g(62.5mmol)の(10a)及び28.3g(149mmol)のパラトルエンスルホン酸水和物の溶液を、水分離器を使用して、22時間還流させる。1gの(10a)を添加した後、混合物を更に2時間還流させる。300mLの溶媒を留去し、そして、粘性の油状物を60℃に冷却する。300mLの塩化メチレン及び300mLの脱イオン水を添加し、そして、10規定の水酸化ナトリウム溶液を約20mL添加することによりpHを9に上昇させる。有機相を脱イオン水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させる。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして、残留物を65℃で200mLの酢酸エチルに溶解させる。混合物を20℃に徐冷し、沈殿物を吸引濾過し、そして、冷酢酸エチルで洗浄する。真空乾燥棚において60℃で乾燥させた後、24.4gの生成物(11a)が得られる(m.p.=182℃、DSC:10K/分、融解前のDSCダイヤグラムにおける更なる吸熱の結果)。