(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937094
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】気道に使用する人口かさぶた
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20160609BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20160609BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20160609BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20160609BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20160609BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20160609BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20160609BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K9/70
A61K47/36
A61K47/38
A61K45/00
A61P17/02
A61P41/00
A61L25/00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-536780(P2013-536780)
(86)(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公表番号】特表2013-540821(P2013-540821A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】US2011057893
(87)【国際公開番号】WO2012058312
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年4月24日
(31)【優先権主張番号】61/407,391
(32)【優先日】2010年10月27日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507020152
【氏名又は名称】メドトロニック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100093089
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 滋
(72)【発明者】
【氏名】ヒッソン,ジェームズ・ビー
(72)【発明者】
【氏名】ミンティ,マシュー・エフ
(72)【発明者】
【氏名】メダイナ,ジェニファー・ジー
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/132225(WO,A1)
【文献】
特表2006−514843(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/132228(WO,A1)
【文献】
特開2003−321398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A61L 15/00
A61L 25/00
A61L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に溶媒和可能であるキトサン粒子と少なくとも部分的に溶媒和可能である酸化多糖粒子よりなる、乾燥した自由流動性の粉末状混合物を含む組成物であって、
前記粉末状混合物は、体液で湿潤した手術部位又は創傷部位に付着されることにより、該粉末状混合物の粒子が該体液の存在に基づいて架橋的反応を生じて互いに付着して不均一で非結合の固形シート状体を形成し、当該固形シート状体を形成する前記粒子どうしの結合力は、該固形シート状体の前記手術部位又は創傷部位に対する結合力より小さい、組成物。
【請求項2】
体液で湿潤した手術部位又は創傷部位に付着する不均一で非結合の固形シート状体を含む人工かさぶたを形成する組成物であって、
前記固形シート状体は、キトサン粒子及び多糖粒子からなって前記手術部位又は創傷部位に付着されることにより、該体液の存在に基づいて互いに付着し合っている粒状混合物を具備し、当該固形シート状体を形成する前記粒子どうしの結合力は、該固形シート状体の前記手術部位又は創傷部位に対する結合力より小さい、組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物において、
前記キトサンが、500kDaより高い数平均分子量を有する塩を含む、又は前記酸化多糖が、酸化セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、及びヒアルロン酸のうちのいずれかを含む、組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の組成物において、
前記キトサンがグルタミン酸塩を含み、前記酸化多糖が酸化でんぷんを含む、組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の組成物において、
10〜90wt%のキトサンと、90〜10wt%の酸化多糖とを含む、組成物。
【請求項6】
請求項1又は2記載の組成物において、
さらに、抗菌剤、鎮痛薬、抗-コリン作動薬、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤、生物静力学的組成物、化学療法剤又は抗腫瘍剤、サイトカイン、充血除去剤、追加の止血剤、免疫抑制剤、粘液溶解剤、核酸、ペプチド、タンパク質、ステロイド、血管収縮剤、ビタミン、及びこれらの組合せのいずれかを含む、組成物。
【請求項7】
請求項2記載の組成物において、
前記手術部位又は創傷部位は気道内にあり、前記人工かさぶたは1日より長く2週間より短い滞留期間を有する、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
[0001]本出願は、2010年10月27日に出願された米国特許仮出願第61/407391号「気道に使用する人口かさぶた(ARTIFICIAL SCAB FOR USE IN AN AIRWAY)」の優先権を主張するものである。この米国特許仮出願の開示内容を、ここで参照することによって本願明細書に援用する。
【0002】
[0002]本発明は、喉、鼻道、及び気道のその他の場所における創傷部位や手術部位を治療するために用いられる材料に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]アデノイド(咽頭扁桃)及び扁桃腺(口蓋扁桃)は、滲出性慢性中耳炎(COME)、再発性急性中耳炎(RAOM)、咽頭炎、小児慢性副鼻腔炎、扁桃炎、小児閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、成人OSA、慢性連鎖球菌性咽頭炎など、耳、鼻、及び喉の多数の疾病に関与している。舌扁桃は感染することがあり、咽喉炎の痛みを引き起こす又は悪化させることがある。これらの様々な症状の初期治療としては、通常、薬剤の経口投与が考えられるが、小児及び成人睡眠時無呼吸の場合は、持続的陽圧呼吸(CPAP)装置を使用することが一般的である。中耳炎は換気チューブ術を使用して治療する場合がある。治療の成功率は理想には届かないことが多く、大抵の場合、最終的には、扁桃腺、アデノイド、又はその他の咽喉組織を外科的手法により取り除くことになる可能性がある。しかし、このような手術は痛みを伴うものであり、通常、麻酔の投与や長期に渡る術後の回復期間を必要とする。さらに、術後出血、脱水症状、体重の減少、扁桃周囲膿瘍、斜頸(torticilis)(頸部強直)、組織の再増殖、前回の組織除去が不完全だった分の再手術、継続的COME又はRAOM、継続的OSAなどの合併症を引き起こすことがあり、時には死につながることもある。現存する術後治療では、一般的に、限定的な軽減をもたらすにとどまり、その方法は、食事制限、うがい、及び術後の痛みや感染を抑えるための痛み止め薬剤又は経口抗生物質の投与などである。
【0004】
[0004]米国特許出願公開番号第2008/0195037A1号には、ポリマー膜形成シーリング材が記載されている(特許文献1)。米国特許出願公開番号第2009/0270346A1号には、キトサン及び酸化多糖よりなる、2液型流体組成物が記載されている(特許文献2)。米国特許出願公開番号第2009/0291912A1号には、部分的に架橋された多糖及び多糖用のさらなる架橋材からなる噴霧可能な2液型流体組成物が記載されている(特許文献3)。米国特許出願公開番号第2009/0291912A1号に記載の組成物では、前記多糖又はさらなる架橋材がキトサンを含んでいる。そして、当該組成物は、水和及び混合すると噴霧塗布器より流体として噴射でき、体温で実質的に垂直な皮膚表面に薄いコンフォーマルな保護層を形成する。全体的に、これら3つの特許出願(いずれも本発明の譲受人に譲渡された特許出願)の目的は、治療部位に、均質で結合した保護ヒドロゲル層又は均質で結合した保護バリヤ膜を形成することである。このようなヒドロゲル層又はバリヤ膜は、多種の手術において有用であるが、気道に塗布された場合、ヒドロゲル層又はバリヤ膜が剥がれ落ちたり、その他治療部位から離れたときに、気道を閉塞する及び患者を窒息させるような事故を引き起こしたり、その他の危険を引き起こす可能性がある。同様な問題は、シアノアクリレートなどのその他の膜形成創傷被覆材を使用するときにも発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開番号第2008/0195037A1号
【特許文献2】米国特許出願公開番号第2009/0270346A1号
【特許文献3】米国特許出願公開番号第2009/0291912A1号
【特許文献4】PCT出願公開番号:WO03/020771A1
【特許文献5】米国特許出願公開番号:US2007/0264310A1
【特許文献6】PCT出願公開番号:WO2009/132229A2
【0006】
【非特許文献1】「口腔における制御下の薬剤供給のための基盤としての粘膜付着性チオール化キトサン:合成及び生体外評価(Mucoadhesive thiolated chitosans as platforms for oral controlled drug delivery: synthesis and in vitro evaluation)」(ロルド(Roldo)等著、薬剤学及び生物薬剤学のヨーロッパジャーナル(European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics)57、115ページ〜121ページ、2004年)、
【非特許文献2】「新しい現場ゲル化チオール化キトサン共役の粘弾性(Viscoelastic Properties of a New in situ Gelling Thiolated Chitosan Conjugate)」(クラウランド(Krauland)等著、薬剤開発及び製剤学(Drug Development And Industrial Pharmacy)31、885ページ〜893ページ、2005年)、
【非特許文献3】「チオマー:粘膜接着性ポリマーの新たな生成(Thiomers: A new generation of mucoadhesive polymers)」(ベルンコップ‐シュナーシュ(Bernkop-Schnurch)著、先進的薬剤供給レビュー(Advanced Drug Delivery Reviews)57、1569ページ〜1582ページ、2005年)、
【非特許文献4】「チオマー:粘膜接着性ナノ粒子薬剤供給システムの準備及び生体外評価(Thiomers: Preparation and in vitro evaluation of a mucoadhesive nanoparticulate drug delivery system)」(ベルンコップ‐シュナーシュ(Bernkop-Schnurch)等著、薬学国際ジャーナル(International journal of Pharmaceutics)317、76ページ〜81ページ、2006年)、及び
【非特許文献5】「酸化デキストラン及びN−カルボキシエチル・キトサンから生成される現場架橋可能ヒドロゲルのレオロジー特性(Rheological Characterization of in Situ Crosslinkable Hydrogels Formulated from Oxidized Dextran and N-Carboxyethyl Chitosan)」(ウェング(Weng)等著、生体高分子(Biomacromolecules)8、1109ページ〜1115ページ、2007年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0005]一態様によると、本発明は、組成物であって、少なくとも部分的に溶媒和可能であるキトサン粒子と少なくとも部分的に溶媒和可能である酸化多糖粒子よりなる、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物を含む組成物であって、前記粉末状混合物は、体液で湿潤した手術部位又は創傷部位に付着することによって不均一で非結合の固形シート状体を形成し、当該固形シート状体は前記手術部位又は創傷部位から剥がれた場合より小さな欠片へと分解するようになっていることを特徴とする組成物を提供する。
【0008】
[0006]別の態様によると、本発明は、手術部位又は創傷部位に付着する不均一で非結合の固形シート状体を含む人工かさぶたであって、当該固形シート状体は、前記手術部位又は創傷部位から剥がれるとより小さな欠片へ分解するようになっているキトサン粒子及び多糖粒子からなる粒状混合物を含んでいることを特徴とする人工かさぶたを提供する。
【0009】
[0007]さらに別の態様によると、本発明は、(a)少なくとも部分的に溶媒和可能であるキトサン粒子と少なくとも部分的に溶媒和可能である酸化多糖粒子よりなる、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物を、血液やその他の体液、又は水で湿潤した、気道中の手術部位又は創傷部位に塗布する工程と、(b)前記組織又は構造に付着した不均一で非結合の固形シート状体であって、前記手術部位又は創傷部位から剥がれたときにより小さい欠片へと分解する、前記キトサン粒子及び前記多糖粒子からなる粒状混合物を含む固形シート状体からなる人工かさぶたを形成する工程と、を含む方法を提供する。
【0010】
[0008]本開示の組成物と、人工かさぶたと、方法とは、扁桃摘出術、アデノイド切除術、及び口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)の各手術において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の方法において使用可能な、本開示の組成物用の塗布器を示す斜視図である。なお、図面中の各要素は、実際の縮尺通りにはなっていない[0009]。
【0012】
[0010]以下の詳細な説明では、ある実施形態について記載されているが、これを本発明を限定するものと捉えるべきではない。分量、パーセンテージ、比率のすべては、特段別記がない限りは重量換算である。ここで、以下の説明で使用する各用語の意味を定義しておく。
【0013】
[0011]「気道」という用語は、哺乳類の呼吸通路、つまり、口、鼻、喉、及び気管で形成される経路を意味する。
【0014】
[0012]「抗菌性」という用語は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、又はカタラリス菌のうちの一つ以上の個体群において、90パーセントより多い数値的減少(すなわち、少なくとも1ログオーダー(対数で1桁)の減少)を引き起こす能力を意味する。
【0015】
[0013]「生物適合性」という用語は、物質に関連して使用される場合、その物質が、生体に対して顕著な有害作用又は副作用を何も示さないことを意味する。
【0016】
[0014]「生物分解性」という用語は、物質に関連して使用される場合、その物質が生体内で分解され又は破壊されて、より小さな化学的種または物理的種を形成することを意味する。酵素的、化学的、又は物理的な分解プロセスもここに含まれる。
【0017】
[0015]「生体吸収性」という用語は、物質に関連して使用される場合、その物質が、生体によって吸収され得るものであること意味する。
【0018】
[0016]「粉砕された」という用語は、粒子材料に関連して使用される場合、その粒子が、切断、研磨、微粉砕、粉末化、または外部から印加された力を使用したその他の粒子破砕工程により、破砕されて微細化されたことを意味する。
【0019】
[0017]「コンフォーマル」という用語は、手術部位又は創傷部位に塗布される組成物に関連して使用される場合、その組成物が、当該組成物が塗布される領域上に実質的に連続した層を形成することができることを意味する。
【0020】
[0018]「止血手段」という用語は、血流を止める又は凝固を促進する装置又は材料を意味する。
【0021】
[0019]「均一の」という用語は、装置又は物質に関連して使用される場合、その装置又は物質が、通常の倍率による観察下で、全体を通して実質的に一様な組成物及び物理構造を有することを意味する。例えば、小麦粉、牛乳、及び果肉入りではないオレンジジュースなどは均一である。
【0022】
[0020]「水和可能な」という用語は、装置又は物質に関連して使用される場合、その装置または物質が、水和水(化学的結合水)を取り込むことができることを意味する。「完全に水和」された装置又は物質は、追加の水和水を取り込むことができない。「部分的に水和」された装置又は物質は、水和水を含んでおり、さらに追加の水和水を取り込むことができる。
【0023】
[0021]「不均一な」という用語は、装置又は物質に関連して使用される場合、その装置又は物質が、通常の倍率による観察下で、全体を通して実質的に一様な組成物及び物理構造を有していないことを意味する。例えば、ナッツ入りパン、チョコレートチップ入りアイスクリーム、及び果肉入りオレンジジュースは不均一である。
【0024】
[0022]「粘膜接着性」という用語は、装置又は物質に関連して使用される場合、その装置又は物質が、粘液被覆上皮に対して接着することを意味する。
【0025】
[0023]「鼻腔又は副鼻腔」という用語は、鼻および洞内の通常は空気で満たされた通路および室を画定する様々な組織のことを意味する。この組織には、鼻孔、鼻甲介、前頭骨、篩骨、ちょう形骨洞及び上顎洞、副鼻腔口及び鼻咽頭が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
[0024]「多糖」という用語は、多糖の誘導体および修飾された多糖、ならびに個々の多糖種の誘導体および個々の修飾多糖種が含まれる。例えば、「カルボキシメチルセルロース」という用語には、カルボキシメチルセルロース誘導体および修飾カルボキシメチルセルロースが含まれ、「キトサン」という用語には、キトサン誘導体および修飾キトサンが含まれ、そして「でんぷん」という用語には、でんぷん誘導体および修飾でんぷんが含まれる。
【0027】
[0025]「保護」という用語は、手術部位又は創傷部位上の材料に関連して使用される場合、その材料が、例えば、炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、またはその他の正常機能の完全な又は部分的な回復などの、一つ以上の治癒メカニズムを介して、外科的修復組織表面、傷害組織表面、又は炎症組織表面を、正常な状態に戻るのを補助し得ることを意味する。
【0028】
[0026]「滞留期間」という用語は、手術部位又は創傷部位上の保護材料に関連して使用される場合、その材料又は材料の一部が、巨視的観察のもとで、生体内で適所に留まり続ける期間を意味する。
【0029】
[0027]「溶媒和可能」という用語は、物質又は装置に関連して使用される場合、その物質又は装置が、例えばイオン形成又はイオン遊離などにより、水を溶解し又は水に溶解されて溶媒を形成できることを意味する。
【0030】
[0028]「実質的にコラーゲン不含」という用語は、牛海綿状脳症(BSE)または変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の伝播またはそれへの感染の潜在的リスクをもたらさないように、実質的に低量のコラーゲンしか含有ないことを意味する。
【0031】
[0029]「実質的に乾燥」という用語は、溶媒和可能粉末に関連して使用される場合、その粉末が、例えば、10パーセント未満又は5パーセント未満など、実質的に低量の水分しか含んでおらず、自由流動可能な状態であることを意味する。
【0032】
[0030]「一時的」という用語は、手術部位又は創傷部位の上の保護材料に関連して使用される場合、その材料が一か月未満の滞留期間しか有さないことを意味する。
【0033】
[0031]「非結合」という用語は、手術部位又は創傷部位の上の材料に関連して使用される場合、
その材料が、当該手術部位又は創傷部位から剥がれた場合、より小さい欠片へと分解できるように、当該手術部位又は創傷部位への混合物の接着力よりも弱い結合力を有していることを意味する。
【0034】
[0032]
図1を参照すると、本開示の組成物は、ベローズ型の塗布器1に導入されていてもよい。図示するように、ベローズ型塗布器1は、外科医の手袋をはめた上向きの手2によって、親指4と、人差し指6と、中指8とで把持され、斜めに下を向くような角度で保持されている。ベローズ12の上部10を押圧することによって、ストロー18を介して、粉末状の人工かさぶた材16を粉末流20として噴射し手術部位22上に塗布することができる。脱着可能のキャップ24を使用してストロー18の開口端部を閉じるようになっていてもよい。ベローズ12とストロー18とは、例えば半透明ポリエチレンなどの、各種の可撓性材料のいずれによって形成されていてもよい。透明又は半透明の材料が使用された場合、ストロー18を通して流通する粉末16をストロー18の側壁越しに視認でき、ベローズ12内の粉末16の残量も同様に、ベローズ12の側壁越しに視認できるようになる。望ましくは、ベローズ12は、使用者が、気道の所望の手術部位又は創傷部位に通常所望の分量の粉末16を塗布しながら違和感なく保持できるような寸法を有している。同様に、望ましくは、ストロー18は、患者の口外で保持され、通常所望の分量の粉末16を塗布するように使用できるような寸法を有している。例えば、ストロー18は、約120mmの長さと、2mmの内径寸法と、4mmの外径寸法とを有していてもよい。
【0035】
[0033]当業者には自明であるが、本開示の組成物は、上述したもの以外の方法又は器具を使用して塗布してもよい。その他の方法の例として、組成物を適所に落下させる(例えば、散布するなどして)ことが考えられる。また、その他の器具の例として、スプーン、スポンジ、噴霧器、注射器などが挙げられる。
【0036】
[0034]使用時には、本開示の組成物は、A、B、C、Dという名称を使用して説明することができる一連の段階をたどる。最初の段階では、組成物は、本開示の粉末状混合物を所望の手術部位又は創傷部位に配置することによって「塗布」又は「投与」される。この手術部位又は創傷部位に到着するまでは、実質的に乾燥した粉末粒子は、例えば、空気を介して送出され、所望の部位に配置されると、望ましくは、組織及び互い対して粘性を持って接着する。組織及び自身以外の粒子への接着は、当該手術部位又は創傷部位の内部または上に存在する血液及びその他の体液の湿潤効果によって、又は当該手術部位又は創傷部位に加えられた水又はその他の流体の湿潤効果によって促進される。望ましくは、粉末粒子は、比較的薄い層状に塗布され、必要であれば層に渡って異なる厚さを持つように塗布される。しかし、好適には、当該手術部位又は創傷部位を完全に覆うことと、後に十分に頑丈な人工かさぶたになることとを可能にできる十分な厚さを持つように塗布される。
【0037】
[0035]第2の段階では、上述のように配置された粉末は、血液又はその他の体液によって少なくとも部分的に溶媒和されると、「接着」又は「体液溶媒和」という状態になる。例えば、手術部位が完全に焼灼されているため比較的乾燥している場合など、粉末の塗布の前、塗布中、又は塗布後に、少量の水分(例えば無菌食塩水溶液)を当該手術部位に加えることによって、溶媒和を促進又は加速することが望ましい場合がある。塗布された粒子は、手術部位又は創傷部位の組織、及びお互いに対して接着する。キトサンと酸化多糖の溶液を塗布することによって形成されるヒドロゲルや、別々のキトサン溶液と酸化多糖溶液を塗布することによってその場で形成されるヒドロゲルに比べると、乾燥した粒子を塗布すると、
組織への増大した接着力が取得できると思われる。
この増大した接着力は、完全に溶媒和した物体としてではなく、混合されているが実質的には乾燥した粉末状粒子としてのキトサンと酸化多糖との塗布によって、
粒子間の架橋反応の競争に遅れが生じるため、このような効果が得られる可能性がある。望ましくは、初期段階の組織接着の程度は十分に高いので、塗布された粒子を手術部位又は創傷部位から大量に取り除くことなしに、塗布のすぐ後(例えば、1、2分後)に、塗布された粉末に静かに水分(例えば、カニューレ又は注射器によって供給された食塩水を重力送りして)を加えてもよい。「接着」及び「体液溶媒和」の過程では、ある程度の水和が起こる場合がある。キトサン又は酸化多糖の粉末状粒子の外側が少なくとも部分的に溶媒和し、そして、少なくとも部分的に互いに反応し合い、これに伴いゲル体も形成される場合がある。しかし、粉末状粒子は完全には溶媒和せず、すなわち、均一の溶媒を形成するように溶解するのではなく、元々の粒子構造の中央部の少なくとも一部は固体状の不溶な態様を保つことが望ましい。また、粉末状粒子は均一のゲルを形成するのではなく、液体又はゲル体の領域を含みながらも、その中に固体領域が分散されているような、不均一の粒状の構造を保持することが望ましい。形成された不均一構造によって、形成されたシート状体は脆弱化し、一つの大きな塊として手術部位又は創傷部位から剥がれるのではなく、小さな欠片へと分解されるようになり、これによって呼吸閉塞の危険性を減らすことができる。
【0038】
[0036]第3の段階では、溶媒和された又は部分的に溶媒和された組成物は「統合」又は「外皮形成」の状態を経て、手術部位又は創傷部位に接着された、不均一で非結合(若干の結合も含む)のシート状固体人工かさぶたを形成する。第3の段階が起こる確率は、血液凝固、呼吸サイクル、そして一般的な手術部位の多くで当てはまる垂直の姿勢などによって高められる。その結果形成された人工かさぶたは、ヒドロゲルが形成された場合は存在しない固体状の表面及び堅さと、均一のポリマー膜が形成された場合は存在しない不均一の表面態様及び不均一の内部構造とを取得する場合がある。この人工かさぶたの不均一の構造によって、人工かさぶたが脆弱化し、人工かさぶたが剥がれたとき、又はその他手術部位又は創傷部位から離れたときに、より小さな欠片へと分解できるようになっている。人工かさぶたは、自然劣化又は吸収作用が起こるまでは、部位から剥がれる又はその他の崩壊に抗うようになっていることが望ましい。一方、天然かさぶたによってもたらされる一つ以上の望ましい治癒的効果は、この限りではないが、止血、治療の向上、痛みの抑制、組織の保護、炎症の抑制、周囲の解剖構造への癒着部形成の予防などが目につくものである。本開示の人工かさぶたは、さらに、この限りではないが、細菌付着の予防、抗感染特性、局所的な免疫調整、繊毛の再生のための好適な環境の最適化などの、潜在的に目に見えにくい効果をもたらす可能性がある。
【0039】
[0037]第4の段階では、人工かさぶたは「分解」又は「消滅」の状態を経る。この段階では、人工かさぶたは、徐々に崩壊し吸収される、又は、小さく安全な呼吸閉塞の危険性が最小限である欠片へと分解される。この段階は、例えば、一日から数日(例えば、2、3、4日)又は数週間などの生体内の滞留期間に渡って引き起こされる。なお、望ましくは、この滞留期間は、通常の扁桃摘出術の患者が通常の食物や飲み物を摂食又は摂飲するときに痛みを感じる可能性がある期間を超えた期間である。
【0040】
[0038]本開示の組成物と、人工かさぶたと、方法とには、様々な種類の溶媒和可能なキトサンを使用できる。キトサン塩としては、例えば、クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、塩化物、グルタミン酸塩などを用いるのが好適であるが、これらの例に限定されるものではない。例示の未処理のキトサン及びキトサン塩は、例えば、フルカ・ケミー・エージー(Fluka Chemie AG)、キトジミー・エス・エー(KitoZyme S.A.)、ヘップ・メディカル・キトサン・ジーエムビーエッチ(Heppe Medical Chitosan GmbH)、エフエムシー・バイオポリマー・エーエス(FMC BioPolymer AS)のノバマトリックス(NovaMatrix)ユニット、及びシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Co.)などの様々な商業的供給源から入手できる。また、キトサンは、キチン(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)を脱アセチル化して、加水分解による窒素原子のアセチル基を取り除くことによって合成してもよい。得られたポリマーは、複数の繰り返しユニット(例えば、約30〜約3000の繰り返しユニット、約60〜約600の繰り返しユニット、または選択された最終用途のための所望され得るその他の量等)を有し、そのいくつかまたはすべては脱アセチル化アミノ基を含有し(例えば、全繰り返しユニットの約30〜約100%または約60〜約95%)、残りの繰り返しユニットは(もし存在する場合には)アセチル化アミノ基を含有する。ポリマーはカチオン性であり、そしてグルコサミンモノマーから構成されるものと考えることができる。アミノ基は、酸化多糖に存在するアルデヒド基と反応する。数平均分子量については、例えば、約5〜約2000kDa、約10〜約500kDa、または約10〜約100kDaなどの様々な数平均分子量のいずれを有するキトサンを選択してもよい。キトサンは、例えば、約50kDa未満の数平均分子量を有する超低分子量材料、約50〜約200kDaの数平均分子量を有する低分子量材料、約200〜約500kDaの数平均分子量を有する中間分子量材料、又は約500kDaを越える数平均分子量を有する高分子量材料であってもよいが、特に高分子量材料であることが好適である。また、キトサン誘導体、例えば、1つ以上のヒドロキシル基又はアミノ基が、誘導体の可溶性又は粘膜接着特性を変化させることを目的として修飾されたような誘導体も使用することができる。例えば、誘導体としては、チオール化キトサンや、アセチル化キトサン、アルキル化キトサン又はスルホン酸化キトサン(例えば、O−アルキルエーテル、О−アシルエステル、カチオン化トリメチルキトサン、及びポリエチレングリコールで修飾されたキトサン)などの非チオール化キトサン誘導体などが挙げられる。キトサン誘導体は、様々な供給源から入手することができる。例えば、チオール化キトサンは、ティオマトリックス・フォーシュングス・ベラタングス・ジーエムビーエッチ(ThioMatrix Forschungs Beratungs GmbH)及びマコバイオマー・バイオテクノロジーシュ・フォーシュングス・ウント・エントウィックラングス・ジーエムビーエッチ(Mucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbH)から入手することができる。又は、例えば、PCT出願公開番号:WO03/020771A1(特許文献4)中に記載されていたり、文献「口腔における制御下の薬剤供給のための基盤としての粘膜付着性チオール化キトサン:合成及び生体外評価(Mucoadhesive thiolated chitosans as platforms for oral controlled drug delivery: synthesis and in vitro evaluation)」(ロルド(Roldo)等著、薬剤学及び生物薬剤学のヨーロッパジャーナル(European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics)57、115ページ〜121ページ、2004年)(非特許文献1)、文献「新しい現場ゲル化チオール化キトサン共役の粘弾性(Viscoelastic Properties of a New in situ Gelling Thiolated Chitosan Conjugate)」(クラウランド(Krauland)等著、薬剤開発及び製剤学(Drug Development And Industrial Pharmacy)31、885ページ〜893ページ、2005年)(非特許文献2)、文献「チオマー:粘膜接着性ポリマーの新たな生成(Thiomers: A new generation of mucoadhesive polymers)」(ベルンコップ‐シュナーシュ(Bernkop-Schnurch)著、先進的薬剤供給レビュー(Advanced Drug Delivery Reviews)57、1569ページ〜1582ページ、2005年)(非特許文献3)、文献「チオマー:粘膜接着性ナノ粒子薬剤供給システムの準備及び生体外評価(Thiomers: Preparation and in vitro evaluation of a mucoadhesive nanoparticulate drug delivery system)」(ベルンコップ‐シュナーシュ(Bernkop-Schnurch)等著、薬学国際ジャーナル(International journal of Pharmaceutics)317、76ページ〜81ページ、2006年)(非特許文献4)、及び文献「酸化デキストラン及びN−カルボキシエチル・キトサンから生成される現場架橋可能ヒドロゲルのレオロジー特性(Rheological Characterization of in Situ Crosslinkable Hydrogels Formulated from Oxidized Dextran and N-Carboxyethyl Chitosan)」(ウェング(Weng)等著、生体高分子(Biomacromolecules)8、1109ページ〜1115ページ、2007年)(非特許文献5)等に記載されている様に、キトサンと適切なチオール化反応剤との反応により調製することができる。
【0041】
[0039]本開示の組成物、人工かさぶた、及び方法では、様々な酸化多糖が使用できる。この多糖としては、例えば、寒天、アルギネート、カラギーナン、セルロース、キチン、キトサン(これによってキトサンをその酸化された対応物を使用して架橋することができる)、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ガラクトマンナン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、でんぷん、および酸化することができるその他の生体適合性多糖等がある。酸化セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、及びでんぷんなどの酸化多糖が好ましい。特に酸化でんぷんが好ましい。多糖は、本開示の、不均一で非結合の一時的な人工かさぶたの形成を促進することができるアルデヒド基を提供するために十分な程度に酸化されていることが望ましい。代表的な酸化剤または技術としては、a)過ヨウ素酸ナトリウム、b)ジ-tert-アルキルニトロキシル触媒の存在下での次亜塩素酸イオン、c)例えば、ルテニウムを使用する金属触媒酸化、d)例えば、ハロカーボン中の二酸化窒素を使用した無水酸化、e)でんぷん、グアー及びその他の多糖の酵素的酸化又は化学酵素的酸化、これらa)〜e)を使用すること、および当業者に知られ得るその他の酸化剤および技術等が挙げられる。選択された酸化剤または技術によって、様々な程度の酸化、様々な程度のポリマー化および酸化部位を使用することができる。例えば、一次(primary)ヒドロキシル基(例えば、グルカンの無水グルコース単位における6−ヒドロキシル基)に向けた酸化によって、保存された環状構造を有するカルボキシル多糖を生じてもよい。また、単糖環に存在する近接のジオール機能(例えば、無水グルコース単位におけるC2〜C3部位)に向けた酸化によって、単糖単位の切断およびジアルデヒド官能基またはジカルボキシル官能基の産生を生じてもよい。例えば、このような酸化多糖のジアルデヒド含量は、例えば、利用可能な酸化部位の30%以上、又は50%以上等、2%〜実質的に100%の酸化の程度の範囲であってもよい。酸化多糖は、その他の官能基、例えば、ヒドロキシアルキル基、カチオン基、カルボキシル基、そしてその他の酸性基を含有していてもよい。一般的に、多糖酸化の程度が増加してしまうため、本開示の組成物、人工かさぶた、及び方法では、使用する酸化多糖の量を減らしてもよい。例示の酸化多糖は、カーボメア社(CarboMer Inc.)、モノマー‐ポリマー及びダジャック・ラボ社(Monomer-Polymer and Dajac Labs, Inc.)、及びシグマ‐アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Co.)等の様々な商業的供給源から入手できる。
【0042】
[0040]キトサンと酸化多糖の両方とも、例えば平均粒径が約1mm未満、約100μm未満、約1〜約80μm、又は約1μm未満などである自由流動性の粒子の形態など、乾燥した粒子の形態で入手することが望ましい。所望であれば、キトサンと酸化多糖のいずれか又は両方とも粉砕されている、凍結乾燥されている、又は結晶化されていてもよい。キトサンと酸化多糖とは、最終使用者へ出荷される前によく混合しておき、使用時にさらなる混合作業が必要ないようになっていることが望ましい。通常は、得られる粉末状混合物におけるキトサンと酸化多糖との推奨される量は、酸化多糖の酸化程度に基づく等、キトサンと酸化多糖それぞれの機能と分子量とによって異なる。一般的には、酸化多糖の酸化の程度が高いほど、酸化多糖の利用量を減らしてもよい。用途によっては、良好な抗菌特性を提供するために、キトサンの量は実行可能である限り多い方が好ましい。このような場合は、高度に酸化された多糖を少量使用して、これにより人工かさぶたの形成を迅速化させることが好ましい。例えば、キトサンと酸化多糖とはそれぞれ、粒状混合物のうちの約10〜約90%、約20〜約80%、又は約30〜約70%程度であってもよい。比率としては、キトサンと酸化多糖とは、例えば、約10:1〜約1:20、約5:1〜約1:10、又は約3:1〜約1:5の比率で混合してもよい。
【0043】
[0041]例えば、グルタルアルデヒドまたはゲニピン等の低分子量アルデヒドを使用した架橋と比較して、酸化多糖は、低分子量のアルデヒド液体を使用することを回避しつつ、より速い人工かさぶたの形成をもたらすと思われる。キトサン中のアミン基と反応する能力に加えて、酸化多糖中のアルデヒド基は、粘膜接着性を上昇させることができる。酸化多糖は、改良された又はより適切に調節された生物分解性、生体吸収性、薬剤送達特性、または止血特性を含む追加的な利益を提供することができる。ホスフェートイオンの存在は、架橋反応を加速すると思われる。ホスフェートは、キトサン/酸化多糖の粒状混合物に対して適切な粒状リン酸塩を加えることによって提供することができる。
【0044】
[0042]本開示の組成物は、実質的にコラーゲン不含であることが望ましい。好ましくは、組成物は、十分にコラーゲン不含(例えば、コラーゲンを全く含まない)なものであり、これによって人体において制限なしに使用するために世界中で販売可能になる。
【0045】
[0043]本開示の組成物には、場合により、様々なその他の乾燥している材料が含まれていてもよい。これらのその他の材料としては、例えば、適切な酸、塩基、緩衝化剤、抗菌剤、治療剤、およびその他のアジュバント等が挙げられる。酸、塩基または緩衝化剤は、例えば、5よりも高いpH、ほぼ中性のpH、又は8.5未満のpH等、人体組織と接触するために適切なpHで組成物を維持する役割を果たす場合がある。緩衝化剤としては、例えば、バルビタールナトリウム、グリシンアミド、グリシン、塩化カリウム、リン酸カリウム、炭酸水素カリウムフタレート、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びそれらの共役酸等が挙げられる。
【0046】
[0044]本開示の組成物は、別個の抗菌剤を追加する必要なしに、最初から抗菌性を有していることが望ましい。抗菌性活性は、組成物中のキトサン比率(より高いキトサン比率は、より高い抗菌性活性をもたらす傾向がある)と、利用可能なキトサンアミン水素原子の数により、影響される可能性がある。従って、少数の利用可能なアミノ水素原子を含有するキトサン誘導体(例えば、上述したウェング等の論文において所望されるN−カルボキシエチル誘導体)を使用することは、禁忌を示す可能性がある。いずれにしても、所望の場合、別個の抗菌剤を使用してもよい。そのような抗菌剤の有用なリストは、例えば、米国特許出願公開番号:US2007/0264310A1中に見出すことができる(特許文献5)。
【0047】
[0045]本開示の組成物において使用することができる治療剤には、例えば、鎮痛薬、抗コリン作動薬、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤、生物静力学的組成物、化学療法剤/抗腫瘍剤、サイトカイン、充血除去剤、本開示の粉末状混合物自体によって提供済みの効果を超えた効果をもたらす追加の止血剤(例えば、トロンビン)、免疫抑制剤、粘液溶解剤、核酸、ペプチド、タンパク質、ステロイド、血管収縮剤、ビタミン、これらの組合せ、そして当業者に知られているその他の治療用材料を含む、目的とする治療部位で使用するのに適したすべての材料等が含まれる。このような治療剤の有用なリストは、例えば、上述の米国特許出願公開番号:US2007/0264310A1中に見出すことができる。
【0048】
[0046]本開示の組成物に加えることができるその他のアジュバントとしては、例えば、染料、色素又はその他の着色剤(例えば、赤色3号、赤色20号、黄色6号、青色2号、緑色5号、橙色4号、赤色8号、キャラメル、二酸化チタン、ビート粉末又はβカロテン等の果物又は野菜の着色剤、ターメリック、パプリカ、および当業者に知られているその他の材料);指示薬;アニス油、サクラ、桂皮油、柑橘油(例えば、レモン油、ライム油またはオレンジ油)、ココア、ユーカリ、ハーブ芳香剤(例えば、丁子油、セージ油またはカッシア油)、ラクトース、マルトース、メントール、ペパーミント油、サッカリン、シクラミン酸ナトリウム、スペアミント油、ソルビトール、スクロース、バニリン、冬緑油、キシリトール、およびこれらの混合物を含むがこれらには限定されない香味剤または甘味剤;抗酸化剤及び消泡剤等が挙げられる。本開示の組成物は、粘膜組織または粘膜構造に潜在的に悪影響を与える可能性がある成分を含有しないことが望ましい。
【0049】
[0047]例えば、ポリープまたは浮腫性組織から液体を除去する場合など、組織から水を除去することが好ましい場合は、開示された組成物において高浸透圧剤を使用してもよい。高浸透圧剤としては、例えば、フロセミド、塩化ナトリウム、及び組織から水を引き出すその他の塩類などが挙げられる。治療剤の持続的放出または遅延放出が望ましい場合、離型剤修正剤が含まれていてもよい。
【0050】
[0048]本開示の組成物は、通常は滅菌に供され、そして最終消費者への出荷前に適切に密封梱包される。γ線照射処理または電子線(E-Beam)処理等の滅菌手順を使用して制御された鎖切断を生じさせることにより、さらに特性を調整することができる。PCT出願公開番号:WO2009/132229A2(特許文献6)に記載されている様に、低温イオン化放射線滅菌(例えば、低温電子線(E-Beam)滅菌)を使用して、鎖切断の程度を制限することができる。
【実施例】
【0051】
[0049]以下では、限定的ではない実施例において本発明をさらに説明している。
【0052】
実施例1
[0050]キトサングルタメート(エフエムシー・バイオポリマー・エーエス(FMC BioPolymer AS)のノバマトリックス(NovaMatrix)ユニット製のPROTASAN(登録商標)UP G 213)と酸化でんぷん(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)製のP9265ポリマージアルデヒド)との50:50の混合物から、粉末混合物を生成した。以下の表では「実行第1号」としたこの混合物について、ハムスターの頬袋モデルを使用して、その生体内粘膜接着性を評価した。ハムスターの頬袋のそれぞれにおいて2か所、紙やすりで皮をめくって、その露出した表面にテスト試料を塗布した。動物たちにはカラーをつけて試料が剥がれてしまわないようにして、塗布のあと1日、3日、5日、7日後に目視で検査を行い、滞留期間を評価した。また、粉末状混合物を湿らせたソーセージの皮の欠片にも塗布し、混合物が古くなっていくうちに気道を塞いでしまう危険性が発生するかどうかについて、医者団によって客観的に判断してもらった。同様の粘膜接着性と気道閉塞についての評価を、PCT出願公開番号:WO2009/132229A2に記載の通りに低温電子線ビーム(cold e-beam)で滅菌した酸化でんぷんとして、モノマー・ポリマー及びダジャック・ラボ社(Monomer-Polymer and Dajac Labs, Inc.)製のジアルデヒドスターチ(Dialdehyde Starch)9056を使用して生成した試料(実行第2号)において行った。その他7つの市販されている又は実験により生成可能なシーリング材(実行第3〜9号)を同様に評価した。以下の表にその結果を示す。
【表1】
【0053】
[0051]表1の結果では、実行第1号材料と実行第2号材料とが、他の試験試料よりも滞留期間がかなり優れており、評価した医師団の意見では、気道を塞ぐ危険性も発生しなかった。また、実行第1号材料と実行第2号材料とで治療した箇所は、試験した他の材料で治療した箇所に比べて、最初からかなり異なる様相を呈していた。実行第1号材料と実行第2号材料とによって治療した箇所では、薄いが全体的に連続的な食卓塩の層がその部位に渡って覆っているような見た目だった。一方、他の材料で治療した箇所は、半透明又は透明な液体状のカバーが覆っていた。どこに実行第1号材料と実行第2号材料とが塗布されているのか簡単に判断でき、その覆っている範囲と初期段階の粒子溶媒和も確認しやすかった。
【0054】
実施例2
[0052]実施例1における実行第1号の粉末状混合物を、犬の扁桃摘出術モデルを使用して評価し、組織学的分析を通して、無治療対照と比較して刺激性がないものと判断された。第2の犬扁桃摘出術テストを行い、様々な電気焼灼器切除の設定を使用し、また、粉体の塗布直後に潅注工程を実行して、その止血作用を評価した。電気焼灼器の設定に関わらずすべての部位において粉末状混合物は問題なく接着し、止血効果を発揮することが分かった。塗布された粉末状混合物は潅注後であってもその場に留まり続けた。扁桃床の治癒についても検査したが、その結果は、電気焼灼器設定が低いほど、治癒効果が高いということを示した。
【0055】
実施例3
[0053]実施例1における実行第1号の粉末状混合物を、豚肝臓生検パンチ止血モデルにおいて評価した。当該混合物は、可撓性のある背部を有するキトサンをベースとした止血材料である、ヘムコム・メディカルテクノロジーズ社(HemCon Medical Technologies, Inc.)製のHemCom(登録商標)包帯が示す機能と同様の機能を示し、止血手段として認められるものであると評価された。
【0056】
実施例4
[0054]第3の犬扁桃摘出術テストを行い、治療の効能を評価した。塗布から10日後、実施例1の実行第2号の粉末状混合物によって治療した創傷部位は、無治療対照の部位と比較して約50%小さくなっていた。
【0057】
[0055]実行した実験と評価したデータでは、キトサン/酸化多糖からなる粉末状混合物は、創傷部位によく接着し、手術中の出血を止血し、創傷部位の治療効果が優れていた。さらに、この混合物は、刺激性がなく、粘膜に付着可能であるがそれ自身は結合せず、閉塞の危険性もないようであった。
【0058】
[0056]本開示では、好適な実施形態を説明する目的で特定の実施形態を図示し説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、同じ目的を達成するために計算された様々な代替の又は等価的な形態も、本開示に図示し説明した特定の実施形態に代えることができることは、当業者にとっては明白であろう。本願には、本開示に記載した好適な実施形態のいかなる改変も変形も含まれるものと意図されている。よって、本発明は、特許請求の範囲とその同等のものとによってのみ限定されるものと明白に意図されている。
【0059】
本発明の第1の態様は、少なくとも部分的に溶媒和可能であるキトサン粒子と少なくとも部分的に溶媒和可能である酸化多糖粒子よりなる、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物を含む組成物であって、粉末状混合物は、体液で湿潤した手術部位又は創傷部位に付着することによって不均一で非結合の固形シート状体を形成し、固形シート状体は手術部位又は創傷部位から剥がれた場合、より小さな欠片へと分解するようになっている。
【0060】
本発明の第2の態様は、第1の態様の組成物において、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物は、10wt%未満の水を含んでいる。
【0061】
本発明の第3の態様は、第1の態様の組成物において、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物は、5wt%未満の水を含んでいる。
【0062】
本発明の第4の態様は、第1の態様の組成物において、キトサンは、高分子量のキトサンを含む。
【0063】
本発明の第5の態様は、第1の態様の組成物において、キトサンは、塩を含む、組成物。
【0064】
本発明の第6の態様は、第1の態様の組成物において、キトサンは、グルタミン塩を含む。
【0065】
本発明の第7の態様は、第1の態様の組成物において、酸化多糖は、酸化セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、及びヒアルロン酸のうちのいずれかを含む。
【0066】
本発明の第8の態様は、第1の態様の組成物において、酸化多糖は、酸化でんぷんを含む。
【0067】
本発明の第9の態様は、第1の態様の組成物において、約10〜約90wt%のキトサンと、約90〜10wt%の酸化多糖とを含む。
【0068】
本発明の第10の態様は、第1の態様の組成物において、約20〜約80wt%のキトサンと、約90〜10wt%の酸化多糖をと含む。
【0069】
本発明の第11の態様は、第1の態様の組成物において、約30〜約70wt%のキトサンと、約90〜10wt%の酸化多糖をと含む。
【0070】
本発明の第12の態様は、第1の態様の組成物において、さらに抗菌剤を含む。
【0071】
本発明の第13の態様は、第1の態様の組成物において、さらに、鎮痛薬、抗コリン作動薬、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤、生物静力学的組成物、化学療法剤又は抗腫瘍剤、サイトカイン、充血除去剤、追加の止血剤、免疫抑制剤、粘液溶解剤、核酸、ペプチド、タンパク質、ステロイド、血管収縮剤、ビタミン、及びこれらの組合せのうちのいずれかを含む。
【0072】
本発明の第14の態様は、手術部位又は創傷部位に付着する不均一で非結合の固形シート状体を含む人工かさぶたであって、固形シート状体は、手術部位又は創傷部位から剥がれるとより小さな欠片へ分解するようになっているキトサン粒子及び多糖粒子からなる粒状混合物を含んでいる。
【0073】
本発明の第15の態様は、第14の態様の人工かさぶたにおいて、手術部位又は創傷部位は気道内にある。
【0074】
本発明の第16の態様は、第14の態様の人工かさぶたにおいて、1日よりも長い滞留期間を有する。
【0075】
本発明の第17の態様は、第14の態様の人工かさぶたにおいて、3日よりも長い滞留期間を有する。
【0076】
本発明の第18の態様は、第14の態様の人工かさぶたにおいて、2週間未満の滞留期間を有する。
【0077】
本発明の第19の態様は、方法であって、(a)少なくとも部分的に溶媒和可能であるキトサン粒子と少なくとも部分的に溶媒和可能である酸化多糖粒子よりなる、実質的に乾燥した自由流動性の粉末状混合物を、血液やその他の体液、又は水で湿潤した、気道中の手術部位又は創傷部位に塗布する工程と、(b)組織又は構造に付着した不均一で非結合の固形シート状体であって、手術部位又は創傷部位から剥がれたときにより小さい欠片へと分解する、キトサン粒子及び多糖粒子からなる粒状混合物を含む固形シート状体からなる人工かさぶたを形成する工程と、を含む。
【0078】
本発明の第20の態様は、第19の態様の方法において、手術部位又は創傷部位から大量の塗布した粉末を取り除くことなしに、塗布した粉末状混合物に水を加える工程をさらに含む。
【符号の説明】
【0079】
1:塗布器、2:医者の手、4:親指、6:人差し指、8:中指、10:上部、12:ベローズ、16:粉末状の人工かさぶた材料、18:ストロー、20:粉末流、22:手術部位、24:キャップ