特許第5937114号(P5937114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5937114標的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルを制御するためのマイクロ流体システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937114
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】標的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルを制御するためのマイクロ流体システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20160609BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20160609BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20160609BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C12M1/34 A
   G01N37/00 101
   G01N35/08 A
   C12M1/00 A
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-557199(P2013-557199)
(86)(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公表番号】特表2014-508529(P2014-508529A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】IB2012051001
(87)【国際公開番号】WO2012120424
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2015年2月4日
(31)【優先権主張番号】1100660
(32)【優先日】2011年3月4日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512190608
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック−シーエヌアールエス
(73)【特許権者】
【識別番号】512073725
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール
(73)【特許権者】
【識別番号】504317743
【氏名又は名称】ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シズエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】503127873
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ボルドー セガラン
(73)【特許権者】
【識別番号】513266630
【氏名又は名称】フォンズ デ レスプシ−ジョージズ チャーパク
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ダハン、マキシム
(72)【発明者】
【氏名】モレル、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ガラス、ジャン−クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】スチュダー、ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】バートロ、デニス
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147387(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0245102(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/00
G01N 1/00−44
G01N 35/00−10
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルを制御するためのマイクロ流体システムであって、前記システムは、
少なくとも1つのマイクロ流体チャネル(4、40)を備えるマイクロ流体装置(1、100)を備え、前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネル(4、40)は少なくとも、
第1の流体(F)のための入口オリフィス(21、201、420)を備える第1の枝路(42、42’)と、
前記標的を刺激すると考えられる分子を備える第2の流体(F)のための入口オリフィス(430)を備える第2の枝路(43、43’)と、
前記流体(F、F)のための出口オリフィス(22、203、45)を備える、前記流体のための共通の枝路(44、45’)とを有し、
前記システムはさらに、
前記マイクロ流体チャネル(4、40)の前記入口オリフィスに接続され、前記流体(F、F)を前記チャネルに供給する少なくとも1つの手段と、
前記標的を受け取ることを目的とした基板(6)を有する少なくとも1つのチャンバ(8)または他のマイクロ流体チャネルと、
前記共通の枝路(44、45’)の接続器(41、41’)で配置され、前記チャンバ(8)または前記他のマイクロ流体チャネルをマイクロ流体チャネル(4、40)から分ける少なくとも1つの微多孔膜(5)とを備え、
前記微多孔膜(5)は、前記基板(6)から離れて配置され、その結果、前記供給手段が前記流体(F、F)を前記マイクロ流体チャネル(4、40)に供給すると、次いで、前記標的を刺激すると考えられる前記分子は、前記微多孔膜(5、50)を通った後、前記チャンバ(8)もしくは前記他のマイクロ流体チャネルを通って拡散し、前記チャンバ(8)もしくは前記他のマイクロ流体チャネル内の前記濃度プロファイルを制御する、
ことを特徴とするマイクロ流体システム。
【請求項2】
前記マイクロ流体チャネル(4、40)は、ガラスもしくはケイ素、非弾性光架橋ポリマー、金属、電気伝導体もしくは半導体である合金、セラミック、石英、サファイア、エラストマーから選択されたいずれかの材料製のカバー(2,20)を備える、
請求項1に記載のマイクロ流体システム。
【請求項3】
前記流体のための前記少なくとも1つの入口オリフィス(21、201、202)および前記少なくとも1つの出口オリフィス(22、203)は、前記カバー(2、20)内に形成される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記マイクロ流体チャネル(4、40)は、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の少なくとも1つの壁(3、30、30’)を備える、請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項5】
前記微多孔膜(5)は、前記マイクロ流体チャネル(4、40)の前記側壁(3、30、30’)上を横方向に伸び、前記チャネルの底を閉じる、請求項1から4のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項6】
前記マイクロ流体チャネル(40)はいくつかの階層で編成され、各階層は、少なくとも1つの流体のための少なくとも1つの入口オリフィス(201、202)を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項7】
前記チャンバ(8)または前記他のマイクロ流体チャネルの前記基板(6)は、光透過性材料製である、請求項1から6のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項8】
前記チャンバ(8)または前記他のマイクロ流体チャネルは、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の側壁(7a、7b)を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項9】
前記微多孔膜(5)は、前記チャンバ(8)もしくは前記他のマイクロ流体チャネルの前記側壁(7a、7b)の間を横方向に伸び、前記チャンバもしくは前記他のマイクロ流体チャネルの上部を閉じる、請求項1から8のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項10】
前記微多孔膜(5)は、ガラス、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、石英、ケイ素、シリカ、または炭化ケイ素から選択されるいずれかの材料製である、請求項1から9のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項11】
前記微多孔膜(5)は、密度が10から1010孔/cmである孔を備える、請求項1から10のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項12】
前記孔は、水力直径が0.05μmから12μmである、請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項13】
光学的可視化手段(18)を備える、請求項1から12のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項14】
前記光学的可視化手段(18)は、光活性化局在性顕微鏡法の技術、または誘導放出制御顕微鏡法の技術を使用する、請求項1から13のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項15】
前記孔は、水力直径が0.05μmから3μmである、請求項12に記載のマイクロ流体システム。
【請求項16】
前記標的は、生細胞の集合によって形成されている、請求項1に記載のマイクロ流体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体技術の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体技術は、大きさが、一般に、数10から数100マイクロンであるマイクロメートルの寸法を有するシステムを使用する。
【0003】
これらのシステムは、多数の分野、例えば、細胞診断試験、医薬品の開発、基礎生物学もしくは美容学で使用することができる。
【0004】
これらの分野では、生細胞のある種の分子に対する反応、特に、空間的ならびに時間的に制御された濃度プロファイルに対する反応を定量するためのマイクロ流体システムに対する要求が増加している。
【0005】
例えば、化学療法で使用される分子に対するガン細胞の反応の測定に関する問題が挙げられる。この反応を正確に定量するには、この反応を引き起こすであろう分子の使用を制御することが必要となる。この制御は、ガン細胞と相互作用する分子の量、ガン細胞がさらされる分子の濃度プロファイル、これらの分子の量ならびに/もしくはガン細胞で使用されるこれらの分子の濃度プロファイルの経時変化等に関連しうる。
【0006】
美容学の分野では、マイクロ流体システムは、生細胞および/または細胞組織におけるある種の分子の毒性を試験するために使用することが可能である。細胞に投与される、有毒である可能性がある分子の量を制御すること、およびこれらの分子を投与する方法は、毒性閾値を判断するために必要である。
【0007】
生細胞を刺激するために広く使用されるマイクロ流体システムの例は、特許文献1に提示されている。特に、このマイクロ流体システムは、プロファイルが長時間にわたって直線状および安定である分子の濃度勾配に生細胞を従わせることを可能にする。
【0008】
この種類のマイクロ流体システムの主な欠点は、せん断力を生成し、生細胞を摂動する流動を生細胞が受けることである。このせん断効果は、特に、神経細胞の成長円錐における走化性反応の研究を目的とする場合、問題となる。実際に、この流動は、最も良い場合では標的細胞の反応を変化させる、そうでなければ細胞の死もしくは剥離を引き起こすせん断応力を生成する。
【0009】
この方法で研究された生細胞の生理学的作用は、本明細書で開示するシステムで摂動される。
【0010】
したがって、生細胞を流動によって摂動させることなく、生細胞を分子の濃度勾配に従わせる解決策が提案されてきた。
【0011】
生細胞を刺激すると考えられる分子の濃度勾配を適用するためのマイクロ流体システムは、例えば、非特許文献1の論文に示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許7374906
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Taesung Kim、Mikhail Pinelis、および、Michel M. Maharbiz著「Generating steep, shear−free gradients of small molecules for cell culture」、Biomed Microdevices(2009年)、Vol.11、65−73ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このマイクロ流体システムは、マイクロ流体装置10および装置に流体を供給する手段(図示せず)を備える。
【0015】
本明細書に開示するマイクロ流体システム10を、図1に分解斜視図で示す。
【0016】
マイクロ流体システム10は、ほぼ四角形の中央帯12を備え、中央帯12に対して十字の形に配置されたチャネル13a、13b、13c、および13dに接続されたポリジメチルシロキサン(PDMS)基板11を備える。さらに、PDMS基板11の中央帯12を覆うポリエステル微多孔膜14も備える。最後に、ポリエステル膜14と、PDMS基板11と、チャネル13a、13b、13c、13dとを覆うPDMSカバー15を備える(カバー15は、図1に切断型で示す)。
【0017】
したがって、マイクロ流体システム10はポリエステル膜14によって2つの部分に分けられる。
【0018】
第1の部分は、流体が循環することを可能にするチャネルを形成し、前記チャネルは膜14によって上部で閉じられ、したがって、膜の下側は、このチャネルの壁を形成して、流動を受ける。
【0019】
第2の部分は、チャネルとは反対側となる膜14の上側によって形成され、培養した生細胞(LC)が配置される。
【0020】
流体を供給する手段は図示しない。しかしながら、第1の流体がマイクロ流体システム10の基板11に、導入口E1を介して導入されること、および第2の流体がマイクロ流体システム10の基板11に、導入口E1とは反対側の導入口E2を介して導入されることに留意されたい。これら流体の少なくとも一方は、ポリエステル膜14を通過することによって、生細胞を刺激することを目的とした分子を備える。
【0021】
したがって、導入口E1、E2を介して導入される流体は、マイクロ流体システム10の基板11内で循環し、向かい合って接触し、この2つの流体の界面で混合域を作り出し、次いで、放出口Sを介してこの基板11から放出される。
【0022】
長時間にわたって空間内で生細胞の培養を制御するために、マイクロ流体システム10を用いて、流体の流量を調整して、ポリエステル膜14における分子の所定の濃度プロファイルを確立することが可能である。
【0023】
より正確には、適切な流体を選択した後、2つの流体のそれぞれの流量を調整することで、2つの流体の間の界面でかなり特定された混合域を作り出すこと、すなわち、生細胞を刺激することを目的とした分子のかなり特定された濃度プロファイルを作り出すことが可能となる。規定されたプロファイルにより濃度勾配を生成したこの混合域は、概ね図1に示す軸Aに沿って、基板11の2つの放出口Sを通過して伸びる。
【0024】
しかしながら、このマイクロ流体システムにはいくつかの欠点がある。
【0025】
第1に、導入口E1、E2からの流体の各流量は、非常に正確に制御されて、ポリエステル膜14の下側で安定する分子の濃度プロファイルを生成する必要がある。
【0026】
流量のこのような制御は、マイクロ流体システム10の上流で、つまり、流体供給手段自体で実行され、勾配が基板11におけるその部分に対して、2つの流体の間の界面で生成される。
【0027】
そのため、2つの流体の一方または他方の流量の摂動は、2つの流体の間の界面を変更し、その結果、膜14の下側における分子の濃度プロファイルも変更する。したがって、濃度プロファイルの安定を実現することは困難である。
【0028】
さらに、生細胞が膜14の上側に配置されるため、生細胞に適用された濃度プロファイルは、膜の下側で適用されたプロファイルにほぼ対応する。このことはすべて、膜14の厚さが10μmと小さい場合、より当てはまる。
【0029】
第2に、生細胞で得られた濃度プロファイルの勾配は、マイクロ流体チャネルにおける流量、および導入口E1、E2からの2つの流体の間の界面の位置に左右される。したがって、プロファイルの勾配を制御することは非常に困難である。
【0030】
第3に、マイクロ流体システム10は、ポリエステル膜14を使用し、ポリエステル膜14は、その下側がPDMS基板11の縁部に固定され、四角形であり、その上側がPDMS製のカバー15に固定される。これらの材料が選択されるのは、膜14、基板11、およびカバー15を、本明細書で述べる処理によって共に固定することをとりわけ可能にするためである。膜14およびチャネル13a、13b、13c、13dのカバー15があることで、膜14と基板11との間の機械抵抗ならびに密封性を強化することが可能となり、膜14と基板11との間の固定が、基板11の縁部でのみ実際に実行される。さらに、膜14はPDMSのプレポリマーの堆積と共に固定され、機械圧力下で加熱することによって装置の不可逆的製造を可能にする。膜14およびカバー15がひとたび固定されると、カバー15の横に開いた開口を介して、細胞を膜14上に挿入することが可能となる。
【0031】
この構成およびこれら材料の選択を用いることで、このように、適切な機械抵抗および密封性を得ることが可能となる。
【0032】
チャネルと膜14との間の密封性を確実にするために、マイクロ流体システムは、カバーを用いて閉じる必要がある。その場合、マイクロ流体システム10内で細胞を培養する必要がある。これは、ニューロン、移植組織、もしくは組織の切片の1次培養等の複雑な細胞培養に対してあまり実用的ではない。
【0033】
さらに、PDMSカバー15を用いると、生細胞を刺激する反応を視覚化することができないか、もしくは視覚化することが困難になる。このことは、PDMS材料は弾性係数が低いことから、PDMSカバーの操作を可能にするには、ある厚さを持たせる必要があるため、より重大である。厚さが大きいと、この材料の光学品質がさらに低下する。したがって、適切な光学手段を用いて、膜上に配置された生細胞の反応を観測することは非常に困難である。
【0034】
本発明の目的の1つは、これらの欠点の少なくとも1つを克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
これらの目的の少なくとも1つを達成するために、本発明は、例えば、生細胞の集合によって形成された標的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルを制御するマイクロ流体システムを提案し、本システムは以下を備える。
【0036】
・少なくとも1つの流体に対して、少なくとも1つの入口オリフィスと少なくとも1つの出口オリフィスとを有する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを備えるマイクロ流体装置
・標的を刺激すると考えられる分子を備える少なくとも1つの流体をマイクロ流体チャネルに供給するための少なくとも1つの手段
・標的を受け取ることを目的とした基板を有する少なくとも1つのチャンバまたは他のマイクロ流体チャネル
・マイクロ流体チャネルからチャンバまたは他のマイクロ流体チャネルを分ける少なくとも1つの微多孔膜
前記微多孔膜は、基板から離れて配置され、したがって、供給手段が、マイクロ流体チャネルに、微多孔膜と接する層状領域において流動する少なくとも1つの流体を供給する場合、標的を刺激すると考えられる分子は、微多孔膜を通過した後、チャンバもしくは前記他のマイクロ流体チャネルを通って拡散し、最後に、このチャンバ内もしくはこの他のマイクロ流体チャネル内で安定した濃度プロファイルを形成する。
【0037】
本システムは、以下のように、他の技術的特徴を単独で、もしくは組み合わせて想定することが可能である。
【0038】
・マイクロ流体チャネルは、ガラスもしくはケイ素、非弾性光架橋ポリマー、金属、電気伝導体もしくは半導体である合金、セラミック、石英、サファイア、エラストマーから選択された材料製のカバーを備える。
・流体に対する前記少なくとも1つの入口オリフィスおよび少なくとも1つの出口オリフィスは、カバー内に形成される。
・マイクロ流体チャネルは、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の少なくとも1つの壁を備える。
・微多孔膜は、マイクロ流体チャネルの側壁上を横方向に伸び、前記チャネルを底で閉じる。
・マイクロ流体チャネルはいくつかの階層で編成され、各階層は、少なくとも1つの流体のための少なくとも1つの入口オリフィスを有する。
・チャンバまたは前記他のマイクロ流体チャネルの基板は、光透過性材料製である。
・チャンバまたは前記他のマイクロ流体チャネルは、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の側壁を備える。
・微多孔膜は、チャンバもしくは前記他のマイクロ流体チャネルの側壁の間を横方向に伸び、前記チャンバもしくは前記他のマイクロ流体チャネルを上部で閉じる。
・微多孔膜は、ガラス、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、石英、ケイ素、シリカ、または炭化ケイ素から選択される材料製である。
・微多孔膜は、密度が10から1010孔/cmである孔を備える。
・孔は、水力直径が0.05μmから12μm、好ましくは、0.05μmから3μmである。
・光学的可視化手段を備える。
・光学手段は、光活性化局在性顕微鏡法の技術、または誘導放出制御顕微鏡法の技術を使用する。
【0039】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の図面を参照して、以下の詳細な記述で提示する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1従来技術によるマイクロ流体システムの斜視図である。
図2】本発明によるマイクロ流体装置の部分的な断面透視図である。
図3図3(a)〜図3(d)は、図2に示すマイクロ流体装置の製造プロセスの工程、またはこのプロセスのある工程の最後で得られる中間構造体を、必要に応じて示した図である。
図4図4(a)〜図4(c)は、本装置の基板および側壁によって形成された組立体の製造中に得られる中間構造体の図であり、前記組立体は、図2のマイクロ流体装置の一部を形成することを目的とする。
図5】(a)は、本発明によるマイクロ流体装置のマイクロ流体チャネルの図であり、(b)は、本発明による第1のチャネル内で流動する流体の図であり、(c)は、本発明による装置のチャンバ内で得られる濃度プロファイルのグラフである。
図6図6(a)〜図6(c)は、すべて本発明によるマイクロ流体装置の断面図であり、本装置のチャンバ内で生細胞を刺激することを目的とした分子の濃度プロファイルの、経時的に安定化する様々な工程を順に観測することが可能である。
図7】(a)は、本発明によるマイクロ流体装置の他のマイクロ流体チャネルの図であり、(b)は、第1のチャネル内で流動する流体の図であり、(c)は、本発明による装置のチャンバ内で得られる濃度プロファイルのグラフである。
図8】拡散により、様々な溶液に対し、生細胞を刺激することを目的とした分子の不変領域を確立するための経時変化を示す図である。
図9図2に模式的に示したマイクロ流体装置の場合よりも複雑な濃度プロファイルを生成することを可能にする、本発明によるマイクロ流体装置の一実施形態の断面図である。
図10】空間的・周期的な濃度プロファイルを示すグラフであり、図9によるマイクロ流体装置のチャンバ内でほぼ頂点となる。
図11図11(a)〜図11(c)は、図9に示すマイクロ流体装置の製造工程において得られるいくつかの中間構造体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、例えば、生細胞の集合によって形成された標的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルを制御するマイクロ流体システムに関し、システムは、マイクロ流体装置と、本標的を刺激すると考えられる分子を備える少なくとも1つの流体を本装置に供給する少なくとも1つの手段とを備える。
【0042】
マイクロ流体装置は図2を参照して説明し、本装置の製造工程は図3(a)から図3(d)および図4(a)から図4(c)を参照して説明する。次いで、非限定的な例として、図5(a)および図6(a)を参照して、本装置内で使用することが可能な特定の形態のマイクロ流体チャネルを説明する。
【0043】
図2は、本発明によるマイクロ流体装置1の部分的な断面透視図を示す。
【0044】
本マイクロ流体装置1は、有利には硬質であり、2つのオリフィス21、22を備えるカバー2と、有利には光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の側壁3とを備える。装置1の側壁3は、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の単一の層として生成される。
【0045】
マイクロ流体装置1はまた、その下部において、側壁3の基板に対し横方向に伸びる微多孔膜5によって覆われる開口47を備える。側壁3、カバー2、および微多孔膜5は、マイクロ流体チャネル4と、前記オリフィス21、22から成る導入口ならびに放出口とを画定することが可能である。
【0046】
微多孔膜5は、マイクロ流体チャネル4内を流動しようとする流体が、この膜の他の側に移動することを防ぐが、この移動は、マイクロ流体チャネル4内の流体によって搬送される、標的を刺激すると考えられる分子の拡散を可能にする。
【0047】
本マイクロ流体装置1は、有利には硬質で透過である基板6と、有利には光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の側壁7a、7bとを備える。これらの側壁7a、7b、基板6、および微多孔膜は、標的細胞に対する培養チャンバとなるチャンバ8を形成することを可能にする。チャンバ8を形成するために、4つの側壁が設けられるが、実際には、これらの壁は、単一の輪郭と見立てることができ、本製造工程では、有利には、これらの壁を一体形成する。
【0048】
チャンバ8の底は、例えば、生細胞から形成される標的を受け取ることを目的とした基板6の上側61で形成される。したがって、生細胞を微多孔膜5上に配置することを目的としないが、微多孔膜5から離れて、チャンバ8の基板6上に配置される。したがって、マイクロ流体装置4とは別々に、生細胞は標準条件で培養することができる。
【0049】
結果として、微多孔膜5は、装置を2つの別々のマイクロ流体チャネル4、8に分ける。マイクロ流体チャネル4は、標的を刺激すると考えられる分子を備える流体が循環することを可能にする。これは、後の記述でより詳細に説明するように、微多孔膜5を通ってチャンバ8に分散することにより実行され、次いで、その底に、例えば、刺激標的の生細胞(LC)を備えるチャンバ8(培養チャンバ)を通って拡散することによって実行される。
【0050】
有利には、基板6は光透過性材料、例えば、ガラス製である。これは、例えば、チャンバ8の底に配置された生細胞の刺激に対する反応を視覚化するために、装置の外部の光学的可視化手段を調整することが可能であるため興味深い。
【0051】
カバー2は、ガラスもしくはケイ素、非弾性光架橋ポリマー、金属、電気伝導体もしくは半導体である合金、セラミック、石英、サファイア、エラストマーから選択された材料から製造することが可能である。
【0052】
微多孔膜5の孔の大きさは、第1のマイクロ流体チャネル4とチャンバ8との間でいかなる流体の通過も防ぐよう選択される。孔が円筒状である場合、この大きさは孔の直径に相当する。より一般的には、孔の大きさは、孔の水力直径と見立てることが可能である。
【0053】
実際には、微多孔膜5を流体の通過に対して完全に不透過性にすることはできない。したがって、微多孔膜5を通る流体の流液速度が限界値未満である場合、チャンバ8の底に配置された細胞はいかなる流動も受けないと考えられる。
【0054】
例えば、限界速度は1μm/s程度であると考えられる。この場合、細胞にかかるせん断応力は、チャンバ8の高さh’が、例えば、20μmの小ささである場合でさえも、無視できる。
【0055】
さらに、マイクロ流体チャネル4における速度は、一般に、100μm/sから1000μm/sとなる。
【0056】
したがって、限界値1μm/sを得るために、微多孔膜5の流体力学的抵抗Rh,膜は、チャネル4における流体の速度に応じて、マイクロ流体チャネル4の流体力学的抵抗Rh,チャネルより100から1000倍大きくする必要がある。
【0057】
特に、マイクロ流体チャネル4における流体の流速が1000μm/sである場合、膜5を通る流体の速度が考慮した限界値1μm/s未満となることを確実にするために、以下の不等式に従うことが必要である。
1000×Rh,チャネル<Rh,膜 (R1)
さらに、高さh、幅w、ならびに長さLの長方形のマイクロ流体チャネル4、および厚さがeであり、半径rと同一で円筒状であり、表面孔密度ρを有する孔を備えた微多孔膜5を考慮した場合、関係(R1)は、以下の形式で書き表される。
1000×μ.L/(w.h)<μ.e/(r.ρ.Lw) (R2)
および
θ=r.ρ/e<10−3×h/L (R3)
【0058】
高さh=100μm、幅w=1000μm、および長さL=1000μmのマイクロ流体チャネル4に対し、関係(R3)を満たすにはθは10−9m未満である必要がある。さらに、半径1μmで、膜厚10μmの円筒状の孔を考慮した場合、表面孔密度ρは、10孔/cm未満である必要がある。
【0059】
当然、関係(R3)は、一方で微多孔膜5を通る流体の限定速度、他方でマイクロ流体チャネル4内の流体の流速について考慮した値に応じて一般化することができる。
【0060】
微多孔膜5は、水力直径が0.05μmから12μmである孔を有することが可能である。特に、孔が円筒状である場合、孔の水力直径は、その直径に対応する。
【0061】
有利には、しかしながら、この水力直径は、0.05μmから3μmとなるであろう。実際に、水力直径が3μm未満である孔を有する膜を使用すると、発生する可能性の高いほとんどの使用条件に対して、チャンバ8における一切の流通を防ぐことになる点に留意されたい。
【0062】
現在では、膜の製造者は、孔の水力直径が概ね0.2μm超である膜を提供する。したがって、本発明において、有利には、孔は0.2μmから3μmの水力直径を有することが可能である。しかしながら、理論上、孔の水力直径に対して下限はなく、そのため、水力直径が0.05μmに達する孔を使用することも想定される。
【0063】
しかしながら、孔を大きくすると、マイクロ流体装置を使用して、(例えば、マイクロ流体チャネル4内の流量を選択する際に)微多孔膜5を流体が通らなくすることがより難しくなる。
【0064】
孔の密度については、10から1010孔/cmとすることが可能である。孔の高さは、50nmから100μmとすることが可能である。
【0065】
さらに、微多孔膜5は、ガラス、石英、ケイ素、シリカもしくは炭化ケイ素、またはマイクロ流体装置の他の部分のために使用されるであろうポリマーと同じ性質のポリマー等の様々な材料で製造することが可能である。したがって、ポリカーボネート、ポリエステル、またはポリエチレンテレフタレートを使用することが可能である。
【0066】
第1の例によれば、ポリカーボネート微多孔膜5は、孔の水力直径が0.2μmから1μmである際、例えば、Whatman社によるCyclopore型(Whatman Cyclopore(商標))を想定することが可能である。第2の例によれば、ポリエステル微多孔膜5は、孔の水力直径が0.4μmから3μmである際、例えば、Corning社によるTranswell型(Corning(登録商標)Transwell(登録商標))を想定することが可能である。第3の例によれば、ポリエチレンテレフタレート微多孔膜5は、孔の水力直径が0.4μmから8μmである際、例えば、Becton Dickinson社による「Track−Etched」型を想定することが可能である。
【0067】
これらの微多孔膜には、図3(a)から図3(d)を参照して以下に記載するマイクロ流体装置1の製造工程と適合可能な利点がある。これらはまた、特に様々な分子を通過させるために生体適合可能および官能化可能である利点がある。「官能化可能」とは、微多孔膜5が化学的に変性し、特定の機能(特定の種や化学反応等の保持)を満たすことが可能であるという意味である。
【0068】
通常は、本装置は以下の寸法を有することができる。マイクロ流体チャネルの高さhは、1μmから1000μm、有利には、10μmから200μmとすることができる。その幅(図示せず)は、10μmから2mmとすることができる。チャンバ8の高さh’は、10μmから1000μm、有利には、50μmから200μmとすることができる。さらに、導入口Eと放出口Sとの間の距離は、数センチメートルとする。
【0069】
本発明によるマイクロ流体装置1の製造工程の一例は、少なくとも以下の工程を備える処理である。
(a)エラストマー材料製のスタンプ1’を使用して、微多孔膜5を備える基板2’上に配置された光硬化性液体および/または熱硬化性液体をプリントする。
(b)液体Lに光照射および/または加熱を行い、微多孔膜5によって底部が閉じられている第1の側壁3を形成する。
(c)第1の側壁3上、すなわち基板2’の反対側に、少なくとも2つのオリフィス21、22を備えるカバー2を固定し、液体が循環することを可能とするマイクロ流体チャネル4を形成する。
(d)基板2’を除去することによって接触可能となる第1の側壁3の一部を固定する基板2’を除去した後、組立体は少なくとも基板6と、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂製の前記少なくとも2つの第2の側壁7a、7bとを備え、チャンバ8を形成する。
この処理は、国際公開第2008/009803号明細書に開示された処理に基づく。
【0070】
工程(a)の間に実行される処理を図3(a)に示す。
【0071】
工程(a)で使用されるスタンプ1’は、PDMS等のエラストマー材料で製造することが可能である。スタンプ1’は、ここで生成しようとするマイクロ流体装置1の輪郭に相補的である鋳型として使用される輪郭を有する。したがって、スタンプ1’は、ここで得ようとするマイクロ流体装置1のチャネル4に対応する突起1’aを有する。スタンプ1’はまた、マイクロ流体装置1の前記第1の側壁3の形成を目的とした領域である、突起1’aを取り囲む中空帯1’bを有する。基板2’はまた、PDMSで製造することができ、平坦な輪郭を有する。
【0072】
微多孔膜5は、基板2’上にあらかじめ配置され、次いで、スタンプ1’が基板2’に対して押しつけられる。このように、スタンプ1’は突起1’aを介して、基板2’に対して膜5を押し込む。
【0073】
次に、液状形態の光架橋性樹脂および/または光重合型樹脂LRは、スタンプ1’と基板2’との間にある容積を、適切な量で、とりわけスタンプ1’の中空帯1’bにおいて充填する。この充填により微多孔膜5の位置は変化せず、微多孔膜5はスタンプ1’と基板2’との間に押し込まれる。
【0074】
光架橋性樹脂ならびに/もしくは光重合型樹脂は、モノマーならびに/もしくはプレポリマーに基づく溶液もしくは分散系である。接着剤、凝固剤、もしくは表面被覆として通常使用する光架橋性樹脂および/または光重合型樹脂を、本発明の処理において使用する。
【0075】
有利には、光学分野で通常使用する接着剤、粘着剤、または表面被覆が選ばれる。それらの樹脂は、照射、および光架橋ならびに/もしくは光重合されると、固体になる。このように形成された固体は透明であり、気泡、または他のあらゆる異常がないことが好ましい。
【0076】
一般に、そのような樹脂は、エポキシ、エポキシシラン、アクリラート、メタクリレート、アクリル酸、またはメタクリル酸系のモノマー/コモノマー/プレポリマーに基づくが、チオレン、ポリウレタン、およびウレタン−アクリラート樹脂を挙げることもできる。樹脂は、ポリアクリルアミドゲル等の光架橋性水性ゲルと置き換えることができ、常温で液体となるよう選択される。樹脂はまた、ポリジメチルシロキサン(PDMS)と置き換えることができる。
【0077】
本発明において使用可能な光架橋性樹脂として、Norland Optics社によりNOA(登録商標) Norland Optical Adhesiveの名称で市販されている商品、例えば、NOA81およびNOA60や、Dymax社による一連の「Dymax Adhesiveおよび光硬化系」として市販されている商品や、Bohle社による「UV接着剤」商品群として市販されている商品や、Sartomer社によりSR492およびSR499の製品コードで市販されている商品を用いることもできる。
【0078】
これらの樹脂の重合および/または架橋結合は、あらゆる適切な手段、例えば、UV、可視光、もしくはIR放射を用いた照射を使用する光活性化により実行される。
【0079】
樹脂は、重合および/または架橋結合すると、硬質かつ非柔軟性となる樹脂から選択されることが好ましく、これは、流体がマイクロ流体装置1において加圧下で循環した場合、エラストマー樹脂は変形する傾向があるためである。しかしながら、生細胞の弾性の研究等の特定の用途においては、光架橋性エラストマー樹脂の使用は除外されない。
【0080】
スタンプ1’と基板2’との間の容量を液体樹脂LRで満たすと、圧力Pがスタンプ1’にかかり、可能な限りの余分な樹脂を排除する。図2において、突出部、とりわけエラストマースタンプ1’の突起1’aは、基板2’と接する。液体樹脂は、スタンプ1’の中空帯の形状であると仮定する。
【0081】
工程(b)の最後で得られる構造体を図3(b)に示す。
【0082】
工程(b)の間、樹脂の照射は、装置の基板に垂直な軸方向に、スタンプ1’を通じて実行される。照射は正確に配分される必要があり、したがって、必要ならば、活性重合および/または架橋結合部位が、前記第1の樹脂側壁3の表面上に残される。次いで、スタンプ1’が、装置から除去される。図3(b)は、光重合樹脂および/または光架橋性樹脂製の第1の側壁3を示し、スタンプ1’の中空帯の輪郭と相補的な輪郭を有する。
【0083】
スタンプ1’の輪郭を、例えば、光重合樹脂および/または光架橋性樹脂が他のパターンの輪郭になるようなものと想定することが可能であることが理解されよう。これは、とりわけ、本発明によるマイクロ流体装置100に対する場合であり、図9を参照してさらに説明する。
【0084】
液状の樹脂の状態のエラストマースタンプ1’を用いてプリントすることで、非常に良好な解像度を有する非常に小型の構造体を得ることが可能となる。
【0085】
次いで、工程(c)の間、少なくとも2つのオリフィス21、22を有するカバー2は、装置上で、以前にスタンプ1’と接していた前記第1の側壁3の側に固定される。次いで、基板2’は除去することができる。
【0086】
工程(c)の最後で得られる構造体を図3(c)に示す。
【0087】
基板2’の除去は、微多孔膜を光重合樹脂および/または光架橋性樹脂から剥がすことなく、および、抜き取ったり部分的に引き離したりすることなく実行される。
【0088】
カバー2は、ガラス、ケイ素、固体ポリマー膜、金属、導体もしくは半導体である合金、セラミック、石英、サファイア、エラストマーから製造することが可能である。
【0089】
ガラススライド、ポリマー膜、またはケイ素スライドが選択されることが好ましい。カバー2を形成するために使用される材料は、マイクロ流体装置1の所期の用途に応じて選択される。
【0090】
したがって、カバー2を光透過性材料、例えばガラス等で製造することは、観測、すなわち光学検出(透過性)を容易にするためにより適切である。ガラスの他の利点は、熱伝導性が非常に良好であり、装置を均一に加熱できる点である。
【0091】
マイクロ流体チャネル4の下部での微多孔膜5の構成により、その使用が、生細胞を培養するための標準手順と適合することに留意されたい。実際に、その場合、基板6は生細胞を培養するガラススライドであり、そのため、以下の記述で説明するように、前記スライドは、工程(c)の最後で得られた構造体上に固定されてチャンバ8(培養チャンバ)を形成すると想定することが可能である。
【0092】
基板6と2つの第2の側壁7a、7bとを備える組立体は、以下の処理工程に基づいて生成することが可能である。
(e)エラストマー材料製で、光硬化性および/または熱硬化性液体樹脂LRを受け取ることを目的とした基板側3’aおよび空隙3’bを有する開放鋳型3’を使用する。
(e)鋳型3’の基板側3’a上に基板6を配設する。
(e)基板6上にマスク4’を配設し、次いで、光照射または加熱して、前記第2の側壁7a、7bを形成する。
【0093】
工程(e)から(e)の最後で得られた構造体を図4(a)に示すが、ここで、工程(e)は、光照射した液体樹脂からなる場合である。
【0094】
スタンプ1’および基板2’のように、鋳型3’はPDMS等のエラストマーから製造することが可能である。
【0095】
壁7a、7bを形成するために使用する光硬化性および/または熱硬化性液体樹脂は、工程(a)で使用した液体樹脂のために前に説明したものから選択することが可能である。工程(a)および(e)から(e)のために使用する液体樹脂は、同じであることが好ましい。変形として、上記したもののような光架橋性水性ゲル、もしくはポリジメチルシロキサン(PDMS)を使用することが可能である。
【0096】
基板6は、カバーのために使用する材料から選択することが可能である。有利には、光透過性材料を使用して、専用の装置による光学的可視化を容易にすることが可能である。この光透過性材料は、特に、ガラスとすることができ、したがって、基板6は、生細胞(LC)を培養するために通常使用するようにガラスカバーを形成することが可能である。さらに、ガラスを使用することで、この基板に対してすでに利用可能な化学的および生物学的表面処理を利用することが可能になる。
【0097】
マスク4’は、マイクロ流体装置の前記第2の側壁7a、7bを形成するために、液体樹脂の的確な領域への光照射を可能にするオリフィス4’a、4’bを有することができる。
【0098】
工程(e)が完了すると、残る作業は、工程(e)でマスク4’と鋳型3’とを除去して、前記第2の側壁7a、7bおよび基板6によって形成される組立体だけにすることのみである。この組立体を図4(b)に示す。
【0099】
一般に、工程(e)が次に実行され、工程(e)は、例えば、体積の比率が90/10のエタノール/アセトン混合物で前記組立体を洗浄する作業で構成される。このように洗浄することで、基板6上に残る可能性の高い、光照射されなかった、または加熱されなかったすべての樹脂を除去することが可能となる。
【0100】
次いで、工程(c)の最後で得られた構造体を有する組立体を配設する前であって、工程(d)を開始する前に、生細胞(LC)を培養する。
【0101】
この作業のために、組立体を生体適合することが必要である。
【0102】
この目的のために、組立体を、例えばUVで強力に光照射し、その後、水等の中性溶液で数時間かけて強く洗浄してもよい。
【0103】
最後に、次いで、図4(c)に示すように、基板6の上側61で生細胞の培養を行うことができる。この培養は、標準条件で実行される。特に、前記培養は、従来のガラススライドの形である基板6上で行うことができる。
【0104】
この培養が完了すると、工程(d)を実行することが可能となる。
【0105】
工程(d)で実行される処理を、図3(d)に示す。
【0106】
工程(d)が実行されると、マイクロ流体装置1は、使用可能な状態になる。マイクロ流体装置1は、特に、チャンバ8(培養チャンバ)内の微多孔膜5の反対側となる基板6の上側61に生細胞を備える。
【0107】
このマイクロ流体装置1を使用するために、本発明によるマイクロ流体システムにも属する流体供給手段(図示せず)と組み合わせる。この供給手段は、マイクロ流体チャネルに、生細胞を刺激すると考えられる分子を備える少なくとも1つの流体を供給することを可能にする。
【0108】
この供給手段を、例えば、1組の流体タンクで形成し、毛細管でマイクロ流体チャネル4に接続することが可能である。この手段を用いると、次いで、様々な貯水器から受け取った様々な流体の希釈および/または混合を、流体がマイクロ流体チャネルに入る前に行うことができる。
【0109】
さらに、マイクロ流体チャネル4は、特定の形状を有することができる。
【0110】
使用されることが多いマイクロ流体チャネル4の例を、図5(a)に透視図で模式的に示す。
【0111】
この例は、1つで2つの異なる流体F、Fに対応するマイクロ流体チャネル4である。流体F、Fは、標的細胞に対する刺激分子が、2つの流体のうち一方に低濃度で存在することのみ異なる。流体は、2つの枝路42、43に伝達され、枝路42、43は、マイクロ流体装置1の微多孔膜5が上に配置することを目的とした接続器41を有する共通の枝路44に結合する。
【0112】
この特定の場合において、供給手段は、流体F、Fそれぞれに対する2つの流体源をもたらすことが理解されよう。
【0113】
これらの流体F、Fは、導入口420、430を介してマイクロ流体チャネル4に導入される。さらに、共通の枝路44の端は、2つの流体F、Fに対する共通の放出口45を有する。マイクロ流体チャネル4の一般的な形状は、Y形である。
【0114】
導入口420、430は、図2における入口オリフィス21に相当し、放出口45は、図2における出口オリフィス22に相当することに留意されたい。図2において、マイクロ流体チャネル4は、単一のオリフィス21によって導入され、単一のオリフィス22によって放出される単一の流体のみが循環するよう設計されている。
【0115】
図5(b)は、マイクロ流体チャネル4の異なる枝路における流体F、Fの流動を示す模式図である。特に、共通の枝路44において、流体F、Fは、層状領域内を互いに並んで流動することに留意されたい。流動が層状である場合、流体は流体力学的に混ざらない。
【0116】
既知であるように、この共通の枝路504における流動のレイノルズ数が、流体力学ハンドブックから容易に決定することができる限界レイノルズ数未満である場合、流動は層状であると考えられる。
【0117】
レイノルズ数は、関係式Re=(V.D)/νにより定義される無次元数であり、ここで、Vは共通の枝路44における流体の速度、Dは共通の枝路44の水力直径、νは流体の動粘性率である。水力直径は共通の枝路44の形状によって決まる。
【0118】
マイクロ流体チャネルの形状を考慮して、臨界レイノルズ数は2300程度とする。
【0119】
流動の性質を考えて、「並行流」型の供給手段について説明する。
【0120】
実際には、マイクロ流体チャネル40の寸法がマイクロメートルである場合、流動は、本発明により想定される用途のために使用される流体および流体の流速に対し層状である。
【0121】
これらの流体F、Fは、マイクロ流体装置1のマイクロ流体チャネル4内を流動することを目的とし、どちらも微多孔膜5と接するが、チャンバ8(培養チャンバ)内には流動しない。
【0122】
次に、マイクロ流体チャネル4と、チャンバ8の基板6上に配置された前記細胞との間で生細胞を刺激すると考えられる(2つの流体F、またはFの少なくとも一方に含有されている)分子の伝達は、微多孔膜5を通じてチャンバ8内に拡散することによって生じる。
【0123】
より正確には、これらの分子の伝達は、第1に、微多孔膜5を通って拡散し、次いで、チャンバ8を通って拡散することによって生じ、最後に、チャンバ8の基板6の上側61、つまり、生細胞が配置された側61に達する。
【0124】
しかしながら、濃度プロファイルがチャンバ内で安定するためにはある程度の時間がかかる。特に、チャンバ8の基板6では、安定化時間Tstabは約h’/Dであり、h’はチャンバ8の高さであり、Dはチャンバ8内で標的細胞を刺激することを目的とした分子の拡散係数である。過度な安定化時間を避けるために、チャンバの高さは、概ね、500μmに限定されるであろうことに留意されたい。
【0125】
図6(a)から図6(c)は、「並行流」型の流体供給を考慮する場合の拡散現象におけるいくつかの工程を示す。白の場合、流体Fは、チャンバ8の基板61上に配置されることを目的とした生細胞に対する刺激分子を備える。黒の場合、流体Fは中性である。図6(a)において、流体供給は微多孔膜5に到達し、分子がチャンバ8内で拡散し始める。図6(b)は、濃度プロファイルが安定局面にある遷移過程である。図6(c)において、濃度プロファイルが安定した。
【0126】
拡散は、チャンバ8内の拡散が他の方向に生じる場合でも、主に、チャンバ8(培養チャンバ)の高さ全体に生じ、すなわち、マイクロ流体チャネル4内の流体F、Fの流動方向におよそ垂直である方向に生じることが理解されよう。
【0127】
図5(c)は、マイクロ流体装置1を配置した接続器41で生じることを示す断面図である。
【0128】
これに対し、第1の流体Fとして中性溶液を、第2の流体Fとして蛍光溶液を用いて実験を行った。蛍光溶液Fは、生細胞を刺激するために通常使用される分子と同様の拡散係数を有する分子を備える。この場合、使用する蛍光溶液はフルオレセインイソチオシアネートとすることができ、「緑色蛍光タンパク質」として、GFPuvと呼ばれる蛍光タンパク質を備えることができ、またはデキストラン−70MW−ローダミン蛍光分子と関連したタンパク質を備えることができる。これは、ロードアミン−Bの蛍光分子に結合したタンパク質デキストラン−70である。
【0129】
微多孔膜5の上、つまり、マイクロ流体装置1のマイクロ流体チャネル4において、図5(c)に示す蛍光溶液の濃度プロファイルは、(図6(c)にさらに示すような)クレネレーションである。実際に、この蛍光溶液は、マイクロ流体チャネル4の一部のみを占め、前記チャネル4の他の部分は、中性溶液によって占められる。
【0130】
刺激しようとしている生細胞が配置される可能性の高い基板6の上側61で得られる濃度プロファイルを決定するために、次いで、マイクロ流体装置1を、本発明によるマイクロ流体システムに属する光学手段18を用いて観測した。
【0131】
基板6の上側61で得られた濃度プロファイルは、「erf」型の関数の代表曲線の形を有する。この形は、中性溶液および蛍光溶液が微多孔膜5を通り、次いで、チャンバ8を通って拡散することによって得られる。
【0132】
したがって、「並行流」型の流体供給手段50を用いる場合、チャンバ8の基板で、つまり、刺激しようとしている生細胞についてのかなり特定された濃度プロファイルを得ることが可能となる。
【0133】
他の形式のマイクロ流体チャネル4’を図7(a)から図7(c)に示す。
【0134】
流体F、Fは、2つの枝路42’、43’に伝達され、枝路42’、43’は、1つとなり、3つのチュービングコイル(図示せず)に繋がる3つの放出口を有する同じチャネル44’に繋がる。第1の流体Fは、第1の放出口を介して放出され、第1のチュービングコイルに誘導され、第2の流体Fは、第2の放出口を介して放出され、第2のチュービングコイルに誘導され、2つの流体FおよびFの混合液は、最後に、チャネル44’の中央放出口を介して放出され、中央チュービングコイルに誘導される。蛇行チューブの放出口では、流体は、本発明によるマイクロ流体装置1の微多孔膜5を有する接続器41’を有する共通の枝路45’に結合される。
【0135】
共通の枝路45’の端46’は、流体F、Fに対する放出口を有する。
【0136】
図7(b)は、マイクロ流体チャネル4’の異なる枝路における流体F、Fの流動を示す模式図である。異なる流体が、層状領域内のマイクロ流体チャネル4を流動する。
【0137】
次いで、「3流路」型の流体供給手段について説明する。
【0138】
図7(c)は、接続器41’での流体の挙動を示す断面図である。この目的のために使用する実験装置は、「並行流」型のマイクロ流体チャネル4に対して上記したものと同様である。
【0139】
図7(c)は、マイクロ流体チャネル4’における濃度プロファイルが階段型であることを明白に示す。図7(c)は、(光学的に透明な)基板6の上側61で得られた濃度プロファイルは、線形の中央帯を有し、ある種の標的細胞を刺激するために使用することが可能であることも示す。
【0140】
したがって、「3流路」型のマイクロ流体チャネル4’を用いた場合、刺激しようとしている生細胞上のカバーの中心で線形の濃度プロファイルを適用することが可能である。
【0141】
本発明によるマイクロ流体システムは、上記した「並行流」型または「3流路」型に従ってのみ設計した第1のマイクロ流体チャネル4、4’を使用するものに限定されない。したがって、他の種類の第1のマイクロ流体チャネルを、生細胞に適用することを所望する濃度プロファイルに応じて想定することが可能である。
【0142】
したがって、本発明によるマイクロ流体システムは、生細胞等の標的を刺激すると考えられる分子の濃度プロファイルをより簡単に制御することを可能にする。
【0143】
そのため、流体F、Fのいずれの流量が変化しても、生細胞に適用される分子の濃度プロファイルに実質的な変化を引き起こさない。
【0144】
理由の1つとして、生細胞が微多孔膜5上に配置されず、チャンバ8の基板6上に配置されるということがある。実際に、生細胞が膜5の反対側に配置された場合、チャンバ8を通って拡散するための時間が、マイクロ流体チャネル4における流体の流動が摂動する可能性を少なくする。
【0145】
図5(c)および図7(c)は、例として、生細胞に適用する可能性の高い異なる濃度プロファイルを示す。
【0146】
本発明によるマイクロ流体システムの設計もまた、挙動を動的に表示し、多数の試験を迅速に実行することを可能にする。
【0147】
このことは、以下に記載する試験によって実証され、動的状態において実行される。
【0148】
これらの試験のために、微多孔膜5は、400nmの孔を有するWhatman Cyclopore型の膜とする。培養チャンバは、高さh’=200μm、幅1mmとする。
第1の流体F(中性溶液)は、マイクロ流体チャネル4内を循環し、その後、第2の流体Fが、これと同じチャネル4内を循環し、この場合、流体Fは、生細胞を刺激するために通常使用される分子に相当する拡散係数を有する分子を備える蛍光溶液によって形成される。
【0149】
3つの蛍光溶液(フルオレセイン、GFP、およびDextran70MW)に対して得られた結果を、図8に示す。
【0150】
図8は、時間の関数として、基板6の背後に配置した共焦点顕微鏡等の光学手段を用いて測定した蛍光溶液の正規化強度の変化を示す。顕微鏡を用いる測定は基板6で行い、基板6は、この場合、ガラススライドである。
【0151】
図8に示す3つの曲線(t=0秒)のそれぞれの起点は、第2の流体Fの循環の開始に対応する。
【0152】
このガラススライドでの濃度プロファイルを確立するための時間は、蛍光溶液の性質に応じて、数十秒から数分の間であることが理解できる。論理的に、この溶液が含有する分子が多くなれば、確立するための時間が長くなる。
【0153】
通常は、確立するための時間は比較的短く、チャンバ8(培養チャンバ)の高さh’と同じくらいの距離にわたって拡散するための時間に相当し、安定した濃度プロファイルを用いて実験を迅速に行うことを可能にすることが理解される。
【0154】
マイクロ流体システムでは独立して生細胞を培養することが可能であるため、通常は1時間から2時間の時間で試験を迅速に実行することができる。その後、他の培養物を用いて、他の試験に移ることが可能である。
【0155】
これは、図1に示すマイクロ流体システムでは想定されない。実際に、この場合、培養はマイクロ流体システム内で行われ、そのため、試験を実行するために数日が必要となる。
【0156】
一般に、マイクロ流体システムは、基板6を通じて培養チャンバ8を視覚化するための光学装置を備えることになる。そのような光学装置を備える場合、基板は光透過性材料で作ると有利である。したがって、この基板6上に配置された生細胞のある種の分子による刺激に対する反応を追うことがより容易となる。
【0157】
図9は、本発明によるマイクロ流体装置の一実施形態を、部分断面図で示す。実際に、図9は、マイクロ流体装置、(例えば、生細胞の培養物を受け取る可能性のある)基板を備える組立体、およびマイクロ流体装置100を使用可能にするために必要となる微多孔膜5の下でチャンバを形成する可能性の高い側壁の上部のみを示す。
【0158】
マイクロ流体装置100は、図2を参照して説明したマイクロ流体装置1と同様の特徴を有し、この場合、「並行流」型または「3流路」型のマイクロ流体チャネル40と共に使用することができる。
【0159】
マイクロ流体チャネル40は、上記したような流体供給手段から供給を受けることができる。
【0160】
ただし、マイクロ流体チャネルの構造は変更される。実際に、この実施形態において、マイクロ流体チャネル40は、いくつかの階層、この場合は、図9に示す例における2つの階層40、40で構成される。各階層は、カバー20内に形成されたオリフィス201、202に対応する流体導入口と、共通の流体放出口203とを備える。
【0161】
いくつかの階層を有するマイクロ流体チャネルを備えるマイクロ流体装置を使用することの利点は、生細胞を刺激すると考えられる分子のより複雑な濃度プロファイルの適用が可能になることである。例えば、チャンバ8における凹状、凸状、または周期的な濃度プロファイルを使用し、それでもなお、流体の導入口と放出口を限られた数に保持することを想定することが可能である。
【0162】
さらに、図10は、空間的・周期的な濃度プロファイルを得ることを可能にする、2つの階層を有するチャネル4を備えるマイクロ流体装置を用いて得られたシミュレーションの結果を示す。チャンバ8の幅を横座表で示し、刺激分子の正規化濃度を縦座標で示す。異なる実線曲線は、シミュレーションした濃度プロファイルが安定するまでの経時変化を示す。点線曲線は、フルオレセインの流動により得られた実験データに対応する。
【0163】
特に、周期的に適用する所与の濃度プロファイルを実現するために、流体F、Fを、マイクロ流体チャネルの第1の階層40内に(オリフィス202を介して)「並行流」型の供給手段で導入し、次いで、規則的な間隔で、例えば、「並行流」型の他の供給手段を用いて、他の流体F’、F’を第2の階層40に、オリフィス201を介して導入することが想定可能である。
【0164】
これはとりわけ、微多孔膜5上にあらゆる形状のマイクロ流体チャネルを構築することを可能にする製造プロセスを使用したために可能となる。
【0165】
第1のチャネル40が、適用したい濃度プロファイルの複雑さに応じて、3つ以上の階層を有することが可能であることが理解されよう。
【0166】
図8に示す構造体の製造は、上記した処理の適用に基づく。
【0167】
したがって、工程(a)および(b)は、図11(a)に示す構造体200を生成するために実行される。これらの工程で使用する基板は、参照番号20’で示し、側壁30’’は底部が微多孔膜5により閉じられる。
【0168】
次いで、図11(b)に示す構造体200’を、上記した工程(a)から(c)と同様の工程を使用して生成する。構造体200’は、3つのオリフィス201、202(流体導入口用)および202(流体の共通の放出口用)を備えるカバー2に固定された4つの第1の側壁30、30’’’を備える。この場合、側壁30の基板に微多孔膜は設けないが、これは、マイクロ流体チャネル40の階層40が、これと同じマイクロ流体チャネル40の第2の階層40と流体連結する必要があるためである。
【0169】
次いで、構造体200および200’は、図11(c)に示すように、互いに固定される。このような固定は、光照射または加熱により実行することができ、その結果、側壁30”および30’’’は、互いに固定されて側壁30’を形成する。したがって、この工程は、マイクロ流体チャネル40の第2の階層40を形成することを可能にする。
【0170】
最後に、微多孔膜の下でチャンバを形成するために、工程(d)と同様の工程を、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂の2つの第2の側壁を備える組立体に対して実行する。図4(a)から図4(c)を参照して上記した工程(e)から(e)を繰り返す処理を、この目的のために実行する。
【0171】
上記した装置1、100は、チャンバ8(当然、マイクロ流体チャネル4、40に固定された場合、閉じる)を備え、チャンバ8の中に生細胞が配置されることに留意されたい。このチャンバ8は、培養ゲルを備えることができるが、そうしない方が都合がよい。さらに、このチャンバは、マイクロ流体チャネルによって置き換えることができ、したがって、有利には、横方向に配置された開口を備える。後者の場合、マイクロ流体装置は流体を循環させるマイクロ流体チャネル4、40と、生細胞が配置された他のマイクロ流体チャネル4とを備えることになる。
【0172】
したがって、本発明によるマイクロ流体システムにより、複数の可能性がもたらされる。
【0173】
特に、生細胞を刺激することを目的とした分子の濃度勾配を適用することが可能であり、この濃度勾配は、これらの生細胞で所望の形状(上記の例は、「erf」関数の形における勾配、または装置1、100のチャンバ8の中央部分における線形形状の勾配を示す)を有する。濃度プロファイルがチャンバ8内で確立され、生細胞が微多孔膜5から離れて、より正確には、チャンバ8内の膜5と反対側に配置された装置の基板上に配置される(このチャンバをマイクロ流体チャネルと置き換えることが可能である)。
【0174】
そのため、このプロファイルは流体供給手段で適用されない。その場合、流体供給手段はシンプルであり、生細胞で適用した濃度プロファイルが顕著に変動することなく、流量がわずかに変化することが可能である流体のみを供給する。したがって、生細胞での濃度プロファイルの制御がより容易であり、マイクロ流体システムの外部で起こり得る摂動の影響を受けにくい。
【0175】
このように、主に、チャンバの高さと刺激分子の拡散係数とによって決まる安定化のための時間の後、チャンバ8において、特に、このチャンバの基板61で、安定した濃度プロファイルを得ることが可能である。
【0176】
本発明によるマイクロ流体装置の製造プロセスはまた、光透過性材料製の基板、例えば、標準手順により細胞を培養することが可能なガラススライドを使用することが可能である。したがって、生細胞の挙動(成長等)は、ガラススライドの背後に配置した光学的可視化手段を用いて容易に観測することができる。
【0177】
光学観測は、光透過性材料製の基板を非常に薄くすることが可能であるため、高い空間解像度で実行することができる。例えば、光活性化局在性顕微鏡法(PALM)または誘導放出制御顕微鏡法(STED)等の技術を用いて得られた高解像度、もしくは超解像度蛍光顕微鏡法さえもが、厚さ150μmのガラススライドで形成された基板を使用して、実行することができる。
【0178】
同時にこの視覚化手段は、生細胞に適用した刺激分子の濃度プロファイルを知ることを可能にする。したがって、生細胞について観測された挙動と、生細胞に適用する濃度プロファイルとの間の相関関係を、実験的に実行することがより容易となる。
【0179】
最後に、多数の試験を迅速に実行することができる。
【0180】
本発明は、特に生物学の分野で、生細胞の培養、観測、および研究のために使用することができる。特に、例えば、ニューラルネットワークを作り出すために、ある種の分子に対する神経細胞の走化性反応を判断することができる。特に、化学療法のために使用される分子に対するガン細胞の反応を測定することも可能である。マイクロ流体システムはまた、バイオチップを作成するために使用することもできる。
【0181】
本発明と関連した利点は、他の分野の用途に対して、例えば、美容学におけるある種の分子の毒性閾値を判断するために適用することが可能である。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図3(d)】
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図9
図11(a)】
図11(b)】
図11(c)】
図6
図8
図10