特許第5937118号(P5937118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937118
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】水路用制水装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   E02B7/20 105
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-12678(P2014-12678)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-140534(P2015-140534A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】片山 博司
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−040217(JP,A)
【文献】 特開2012−007312(JP,A)
【文献】 特開昭61−038010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20〜 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路の所定位置に配備される水車ゲートであって、水路の伸びる方向に対して交差し、水面に浮上する浮力を有する回転軸及び該回転軸から径方向に突出した複数枚の羽根板を有する水車ゲートと、
水位の上昇によって上昇した水車ゲートの羽根板を衝止させる上部ストッパであって、水底の方を向いている羽根板の下端縁と水底との間の距離が水車ゲートよりも上流側の水の流下を制限する開度で保持されるように、水車ゲートの回転及び浮力による上昇を衝止する位置に設けられた上部ストッパとを備えていることを特徴とする水路用制水装置。
【請求項2】
水位の低下によって下降する水車ゲートを水底に衝突させないようにする下部ストッパを備えていることを特徴とする請求項1に記載の水路用制水装置。
【請求項3】
前記回転軸は、前記羽根板を固定するシャフトと、該シャフトの全部又は一部を囲むフロートとを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水路用制水装置。
【請求項4】
基端側が前記水路に支持され、先端側が前記水車ゲートの回転軸を支持するアームを備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水路用制水装置。
【請求項5】
前記回転軸は、筒状に成形され、前記アームは、前記各側壁に沿う平行な2本のロッド部と、該ロッド部の先端に設けられ、前記水車ゲートの筒状の回転軸に挿通される支軸部とを備えていることを特徴とする請求項4に記載の水路用制水装置。
【請求項6】
前記水車ゲートの羽根板と上部ストッパの少なくとも一方は、互いに当接する部位に緩衝部材を備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の水路用制水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路内を流れる水の流量が所定量よりも多くなならないように制限するための水路用制水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水路式の水力発電所において併設された水路には、所定の流量以上の水を流さないようにするための水路用制水装置が設けられている。この水路用制水装置は、種々提供されているが、一例とし、水路に固定される筒状の取水体と、この取水体内で回転可能に支持された水車ゲートと、水車ゲートの逆転を阻止する上部ストッパ及び下部ストッパとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
水車ゲートは、水平姿勢とされた回転軸と、この回転軸の径方向に突出した複数の遮水羽根板及び複数の取水制限羽根板とを備えている。遮水羽根板は、板状体で水の通過を阻止する。取水制限羽根板は、網状体で水を通過させる。上部ストッパ及び下部ストッパは、水車ゲートの一方向(反時計方向)の回転を許容し、他方向(時計方向)の回転を阻止する機能を有している。
【0004】
水路の水位が通常水位以下のときは、水車ゲートの下向きの遮水羽根板が水圧を受けることで、遮水羽根板及び取水制限羽根板が一方向に回転する。水路の水位が設定値を超えると、上向きの遮水羽根板が水圧を受けることで、遮水羽根板及び取水制限羽根板が逆方向に回転し、遮水羽根板が上部ストッパに当接し、取水制限羽根板が下部ストッパに当接することで、水車ゲートの回転がロックされた状態に停止する。
【0005】
この水車ゲートの回転がロックされた状態において、下向きとなった遮水制限羽根板を所定の流量以下の水が通過する。したがって、この水路用制水装置では、水路の水位が設定値を超えたときにおいて、水路を流れる水の流量を制限された所定量以下とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−7312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の水路用制水装置にあっては、水車ゲートの回転軸が取水体内に支持されているため、遮水羽根板と取水制限羽根板とが完全に水没したときに、水車ゲートが停止して、制限された流量以下の水が水路を流れる。しかし、遮水羽根板と取水制限羽根板とが完全に水没するまでの、低い水位においても、水路を流れる水の流量を制限したい場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、水路内の水位に関わりなく、水路を流れる水を制限することができるようにした水路用制水装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水路用制水装置は、水路の所定位置に配備される水車ゲートであって、水路の伸びる方向に対して交差し、水面に浮上する浮力を有する回転軸及び該回転軸から径方向に突出した複数枚の羽根板を有する水車ゲートと、
水位の上昇によって上昇した水車ゲートの羽根板を衝止させる上部ストッパであって、水底の方を向いている羽根板の下端縁と水底との間の距離が水車ゲートよりも上流側の水の流下を制限する開度で保持されるように、水車ゲートの回転及び浮力による上昇を衝止する位置に設けられた上部ストッパとを備えていることを特徴としている。
【0010】
この水路用制水装置によれば、水車ゲートが浮力を有する回転軸を有していることにより、水路を流れる水の水位が低下したり上昇したりしたときに、その水位の変動に追従して無電源で水車ゲートが下降したり上昇したりする。
【0011】
また、水位が上昇することで上昇した水車ゲートは、羽根板が上部ストッパに当接することで、回転できなくなり、水車ゲートと水底との間が所定の開度に維持される。したがって、上昇した水車ゲートより上流側の水は、水車ゲートと水底との間から所定の水量以下で下流側へ流下する。
【0012】
ここで、本発明に係る水路用制水装置の一態様として、水位の低下によって下降する水車ゲートを水底に衝突させないようにする下部ストッパを備えている構成を採用することができる。この水路用制水装置によれば、水位が低下することで下降した水車ゲートが下部ストッパによって、それ以上、下降しないように下限位置で規制され、羽根板が水底に衝突することなく回転するようにすることができる。
【0013】
また、本発明に係る水路用制水装置の他態様として、前記回転軸は、前記羽根板を固定するシャフトと、該シャフトの全部又は一部を囲むフロートとを備えている構成を採用することができる。この水路用制水装置によれば、羽根板がシャフトに強固に固定され、また、フロートの材質や外径などを変更することにより水車ゲートの浮力を容易に調整することができる。
【0014】
また、本発明に係る水路用制水装置のさらに異なる他態様として、基端側が前記水路に支持され、先端側が前記水車ゲートの回転軸を支持するアームを備えている構成を採用することができる。この水路用制水装置によれば、水車ゲートの回転軸がアームに支持され、アームが水路に支持されることで、水車ゲートが所定の位置で上昇したり下降したりする。
【0015】
この場合、前記回転軸は、筒状に成形され、前記アームは、前記各側壁に沿う平行な2本のロッド部と、該ロッド部の先端に設けられ、前記水車ゲートの筒状の回転軸に挿通される支軸部とを備えている構成を採用することができる。この水路用制水装置によれば、水車ゲートがアームの2本のロッド部によって安定して支持され、そして、支軸部が筒状の回転軸に挿通されることで、回転軸が安定して周方向に回転する。
【0016】
また、本発明に係る水路用制水装置のさらに異なる他態様として、前記水車ゲートの羽根板と上部ストッパの少なくとも一方は、互いに当接する部位に緩衝部材を備えている構成を採用することができる。この水路用制水装置によれば、特に羽根板が勢いよく回転している場合であっても、羽根板に備えられた緩衝部材が上部ストッパに当接することで、又は羽根板が上部ストッパに備えられた緩衝部材に当接することで、又は羽根板に備えられた緩衝部材と上部ストッパに備えられた緩衝部材が当接することで、羽根板が衝撃力を受けないようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水路内の水位に関わりなく、水路を流れる水を制限することができるようにした水路用制水装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、制限取水状態を示す断面正面図である。
図2図2は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、制限取水状態を示す断面平面図である。
図3図3は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、制限取水状態を示す断面側面図である。
図4図4は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、通常取水状態を示す断面正面図である。
図5図5は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、通常取水状態を示す断面側面図である。
図6図6は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、通常取水状態を示す断面正面図である。
図7図7は、本発明に係る水路用制水装置の一実施形態であって、通常取水状態を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る水路用制水装置の一実施形態について図1ないし図7を参照しながら説明する。この水路用制水装置は、水路1の所定位置に配備される。水路1は、一対の側壁2,2と、この側壁2,2の下端の水底3とによって構成される。
【0020】
そして、水路用制水装置は、水位の変動に追従して下降したり上昇したりする水車ゲート10と、上昇した水車ゲート10を所定の位置で衝止し、それ以上上昇しないようにする上部ストッパ40とを備えている。さらに、水路用制水装置は、水車ゲート10を支持するアーム20と、下降した水車ゲート10を衝止する下部ストッパ30とを備えている。
【0021】
水車ゲート10は、水面に浮上する浮力を有する回転軸11と、この回転軸11から径方向に突出した複数枚(図面では正面視が十字状の4枚であるが、2枚以上であれば何枚でもよい。)の羽根板12とを備えている。回転軸11は、水路1の伸びる方向と交差する方向、好ましくは直交方向に向けられる。そして、回転軸11は、羽根板12を固定するシャフト11aと、このシャフト11aのほぼ全長を囲む円柱状のフロート11bとを備えている。
【0022】
シャフト11aの長さは、一対の側壁2,2の間隔よりも短めとされている。また、シャフト11aは、筒状に形成されている。そして、フロート11bの外周面から径方向に羽根板12が突出している。フロート11bは、シャフト11aよりも大きな浮力を有する材質で成形され、また、大きさ(直径)を変更することで、任意の浮力を有するように調整することができる。
【0023】
そして、アーム20は、各側壁2,2に沿う2本の平行なロッド部21,21と、このロッド部21,21の先端で架け渡され、シャフト11a内に挿通される支軸部22とを備えている。アーム20のロッド部21は、その基端部21aが側壁2,2に軸支されることで、揺動自在とされている。そして、アーム20のロッド部21が揺動することで、支軸部22が上下に移動する。
【0024】
また、アーム10の支軸部22が回転軸11のシャフト11aに挿通されることで、水車ゲート10は、羽根板12がアーム20,20の先願側で回転自在に支持される。したがって、アーム20の支軸部22が上下に移動することで、水車ゲート10も上下に移動する。
【0025】
そして、下部ストッパ30は、下降した水車ゲート10の下向きとなった羽根板12の下端縁12aが水底3に衝突しないようにする下限位置に設けられる。すなわち、下部ストッパ30は、所定の位置において、アーム20のロッド部21の先端側を衝止するように各側壁2から突設される。この下部ストッパ30の上面には、アーム20のロッド部21に衝撃力が加えられないようにするための緩衝部材33が固着されている。
【0026】
そして、上部ストッパ40は、水車ゲート10が上昇したときに、水底3の方(図面では真下)を向いている羽根板12の下端縁12aと水底3との間が所定の開度、すなわち、水車ゲート10よりも上流側の水の流下を制限する開度になったときに、羽根板12が回転しないようにする位置に設けられる。したがって、上部ストッパ40は、水車ゲート10が所定の開度となった位置まで上昇したときに、上向きの羽根板12の上端部12bを衝止するように各側壁2から突設される。
【0027】
そして、上向きの羽根板12の上端部12bが上部ストッパ40に衝止したときに、羽根板12に衝撃力が加えられないように、上部ストッパ40と羽根板12の端部とには、緩衝部材13,43が備えられている。ただし、緩衝部材13,43は、上部ストッパ40又は羽根板12のいずれか一方にのみ別途に固着してもよいし、上部ストッパ40と羽根板12の両方又は一方を軟質材で成形し,上部ストッパ40、羽根板12自体を緩衝部材43,13としてもよい。
【0028】
この実施形態の水路用制水装置は、以上のように構成される。次に、この水路用制水装置の使用態様について説明する。
【0029】
図1ないし図3に示すように、アーム20に支持された状態の水車ゲート10よりも上流側(図1及び図2では左側)の水位が上昇し、流下させる水量を制限する必要があるときはフロート11bの浮力によって、水車ゲート10が上昇している。この水車ゲート10は、上向きの羽根板12の上端部12bが上部ストッパ40に当接することで、回転しない。したがって、水底3の方を向いている羽根板12の下端縁12aと水底3との間が所定の開度となり、水車ゲート10から所定量以下の水が流下する。
【0030】
そして、図4及び図5に示すように、水車ゲート10よりも上流側(図4では左側)の水位が下降すると、フロート11bが水面に浮くことから、水車ゲート10が無電源で下降する。すると、水車ゲート10の上向きの羽根板12が上部ストッパ40に当接しないことから、羽根板12が回転する。したがって、水車ゲート10よりも上流側の水が流下する。
【0031】
そして、図6及び図7に示すように、水車ゲート10よりも上流側(図6では左側)の水位がさらに下降すると、フロート11bが水面に浮くことから、水車ゲート10がさらに下降する。ただし、アーム20の先端側が下部ストッパ30に当たることで、それ以上下降しないように規制される。したがって、回転して下向きとなった羽根板12の下端縁12aが水底3に衝突することはない。しかも、羽根板12は回転し続けるため、水車ゲート10よりも上流側の水が流下する。
【0032】
以上のように、この水路用制水装置は、水面が上昇したときに、流下させる水量を所定量以下に制限し、水面が下降したときにも、水を流下させることができるようになっている。
【0033】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定することなく種々変更することができる。例えば、前記実施の形態では、回転軸11は、シャフト11aとフロート11bとを別体としたが、一体としてもよい。また、フロート11bは、シャフト11aのほぼ全長でなく、部分的に囲むようにしてもよい。
【0034】
また、前記のアーム20は、2本のロッド部21の先端に支軸部22を架け渡したものとした。しかし、支軸部22に替え、各ロッド部21の先端を折り曲げただけの係入部としてもよい。この場合は、シャフト11aの両端部のみ筒状としてもよい。
【0035】
また、アーム20は、平行な2本のロッド部21を備えたが、ロッド部21を1本とし、ロッド部21の基端部21aを軸支する支軸(図示せず)を両側壁2に架け渡し、ロッド部21の先端部をシャフト11aの中心で外嵌するようにしてもよい。さらに、アーム20のロッド部21は、基端部21aが側壁2に軸支されず、水底3に立設した支柱又は水底3に直接、軸支され、揺動するようにしてもよい。
【0036】
さらに、アーム20に替え、各側壁2に鉛直姿勢の2本のガイド部材を固定し、このガイド部材間で回転軸11が昇降するようにしてもよい。この場合は、当然ながら、回転軸11の両端部が羽根板12の端縁よりも突出する。
【0037】
また、上部ストッパ40及び下部ストッパ30も、両側壁2に架け渡されるようにしてもよい。そして、上部ストッパ40は、水車ゲート10の羽根板12でなく、回転軸11を衝止するようにしてもよい。下部ストッパ30は、アーム20でなく、水車ゲート10の回転軸11を衝止するようにしてもよい。
【0038】
また、回転軸及び羽根板の比重によっては、羽根板が水底に衝突するまで沈まない場合がある。このような場合は、下部ストッパ40を必ずしも備えなくてもよい。
【0039】
また、羽根板12が例えば、120°の間隔で回転軸から突出し、真上を向いた羽根板12が上部ストッパ40に当接するときは、水底3を向く羽根板12は、斜め下向きとなる。この場合は、斜め下向きの羽根板12の先端と水底3との間隔が所定の開度となるようにする。
【符号の説明】
【0040】
1…………水路
2…………側壁
3…………水底
10………水車ゲート
11………回転軸
11a……シャフト
11b……フロート
12………羽根板
12a……下端縁
12b……上端部
13………緩衝部材
20………アーム
21………ロッド部
21a……基端部
22………支軸部
30………下部ストッパ
40………上部ストッパ
43………緩衝部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7