【実施例】
【0139】
(実施例1)
ネズミ後肢末梢虚血モデルにおける臍由来細胞の効力
材料及び方法
臍細胞培養及び分離。臍由来細胞(UDS)は、米国特許公開第2005/0058631号又は同第2005/0054098号の記述に従って調製された。細胞は、10継代又は11継代(集団倍加約20〜25回)まで培養し、その後凍結保存した。
【0140】
虚血モデル治療群:
【0141】
【表1】
【0142】
注射用サンプル調製細胞は注射直前に解凍するか(群3〜5)、又は、細胞を24〜30時間培養した(群6)。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。細胞若しくはプラスミド(100μg)の全量をPBS 100μLに再懸濁させ、マウスに注射するために、27ゲージ針の300μLツベルクリン注射器に充填した。
【0143】
手術。0日目、胸腺欠損ヌードマウスにおいて、左大腿動脈の片側連結及び切除によって、急性後肢虚血を外科的に誘導した。UDC治療又は対照として、少なくともn=8の6つの群に、マウスを分けた。マウスを無作為に、群1〜5のための治療群に割り当てた。本研究において、群6は後で追加したため、無作為性は生じなかった。その上、スケジュールの調整ができなかったために、本来の研究と同時にマイクロCT/PETを実施することできなかった。この分析を、21日の研究が完了した後に登録された8匹の追加動物(4つの対照、4つの培養細胞1)の群で実施した。
【0144】
細胞注射。手術後1日目、足底領域のレーザードップラー撮像分析のために、マウスを麻酔した。マウスがまだ麻酔状態である間に、細胞を左の(虚血性の)肢の5つの部位、すなわち、(1)前脛骨筋に20μL、(2)腓腹筋に20μL×2ヶ所、(3)四頭筋束の大腿直筋に20μL×2ヶ所に注射した。
【0145】
分析。レーザードップラー撮像を、1、4、8、14、21日目に実行した。21日目に、薄切片形成及びCD31抗体による免疫組織化学染色のために、マウスを屠殺し、前脛骨筋(TA)、腓腹筋、四頭筋を摘出し、低温固定した。8日目に、筋肉の潅流状態を測定するために、フルオロメタンガスを使用したマイクロCT/PET分析を実施した。これらのマウスをその直後に屠殺し、低温固定の薄切片上のCD31免疫組織化学法のために、後肢筋肉を加工した。
【0146】
除外基準。手術後1日目に重度のつま先壊死を示したマウスを、注射の前に研究から除外した。また、重度の壊死(例えば、足全体の壊死)のために、又は、重度の体重低下を経験するか、若しくはさもなくば、激痛の兆しを示した場合は、そのマウスを研究の任意の時に除外した。
【0147】
結果
これらの実験のねらいは、齧歯類後肢虚血モデルにおいて、UDCが細胞を損傷から保護するかどうかを判定することであった。このモデルは、大腿部の血流に損傷を作り出し、損傷の約24時間後、その範囲に細胞を注射することによって、実施された。これらの動物の手足の潅流を推定し、これと、損傷のない反対側の手足とを比較することによって、結果を評価した。また、動物の脈管構造及び損傷を評価するための研究の終わりに、これらの動物から組織を収集した。この研究は、移植細胞の異種間の拒絶反応を回避するために、ヌードマウスにおけるヒト細胞でも実施された。
【0148】
図1に示す結果は、UDCがマウスに利益を与えることを示す。これは、培養細胞で処理して4日目及び8日目の動物では、潅流が改善され、また、8日目の注射の前に即座に解凍した120304細胞で処理した動物でも、血流は改善されたからである。細胞072804Aは、任意の時点で利益を示さなかった。このことは、2つの細胞ロット間の違いを示唆している。概して、動物は、この動物系統がある程度自然に修復する可能性を有している時間以上の改善を示した。また、これらの動物は、比較的若く、それは生得的な再生可能性における1つの要素である可能性がある。
【0149】
TA筋肉を研究の終わりに収集し、抗CD31抗体により血管内皮細胞を検出するために、切片を探査した。代表的な結果を
図2に示す。結果は、PBS対照動物が全体的な壊死を示し、虚血性手足において脈管構造を制限し(例えば、マウス番号26及び43)、一方、UDC治療の四肢が、CD31染色の相対的に高いレベルを示し、壊死のレベルを低減したことを示している。また、結果は、培養UDCで治療した動物が、対照物(PBS対照、及び、幾つかの場合では、正常な(損傷していない)四肢)と比較して改善された脈管構造を示したことを示唆している。正常四肢と比較して、虚血性であるが治療された四肢において、増加したCD 31染色が観察された。VEGFプラスミド、Umb072804Aで処理された動物は、PBS対照と同様の結果を示した。
【0150】
要約
これらの結果は、げっ歯類後肢虚血モデルにおいて、臍帯由来細胞は血流を改善し、組織壊死を低減するのに有効であるというエビデンスを提示している。研究は注射の前に即座に解凍された2つの異なるロットの臍細胞を含み、結果は、ロット間で違いが存在する可能性を示唆した。また、幾つかの活性を有すると思われる細胞を、注射の前に約48時間培養し、その他の治療群の中に含めた。これらの細胞は最も効果的であると思われ、これは、培養することが細胞の活性プロファイルを変えることを示唆している。また、組織学的な結果は、この治療が保護的な効果を提供することができるというエビデンスを提示している結果は、UDCが効果を及ぼすメカニズムについて、十分な情報を提示していない。作用に関する特定の理論若しくはメカニズムに拘束されるものではないが、新しい血管の成長を刺激し、損傷の進行から筋肉組織を保護することによって、例えば、アポトーシスから保護すること、又は、外因性の活性剤を補充することによって、これらの細胞が効果を及ぼす可能性が考えられる。作用の正確なメカニズムを調査するために、更なる研究が必要である。
【0151】
参考文献
1)Rehman,J.et al.(2004)Circulation 109:1292〜1298。
【0152】
(実施例2)
内皮ネットワーク形成アッセイ
血管形成、すなわち、新しい脈管構造の形成は、新しい組織の成長のために必要である。血管形成の誘導は、多くの病理学上の病状における重要な治療目標である。インビトロアッセイにおける臍帯組織由来細胞の潜在的な血管形成活性を同定するために、基底膜抽出物である商標名MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))の生物由来細胞培養基質でコーティングされた培養プレート上に内皮細胞を接種するという、よく確立された方法を行った(Nicosia and Ottinetti(1990)In Vitro Cell Dev.Biol.26(2):119〜28)。MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))上で内皮細胞を血管形成因子とともに処理することによって、細胞を毛細血管と同様のネットワークを形成するように刺激するだろう。このことは、血管形成の刺激因子及び阻害因子を試験するための共通のインビトロアッセイである(Ito et al.(1996)Int.J.Cancer 67(1):148〜52)。実験は、培養ウェルインサート上に接種した臍帯組織由来細胞とともに共培養するシステムを用いた。これらの透過性インサートは、内皮細胞培養培地と臍帯組織由来細胞培養培地との間の培地成分の受動的交換を可能にする。
【0153】
方法及び材料
細胞培養
臍帯組織由来細胞及び胎盤組織由来細胞。ヒト臍帯及び胎盤を受領し、細胞を前述のように単離した(実施例1参照)。細胞をゼラチンコート組織培養プラスチックフラスコ上の増殖培地(ダルベッコ変法必須培地(DMEM、Invitrogen(Carlsbad,CA))、15%(v/v)ウシ胎仔血清(Hyclone(Logan UT))、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン(Invitrogen)100μg/mL、0.001%(v/v)2−メルカプトエタノール(Sigma(St.Louis,MO)))の中で培養した。この培養物を、5%のCO
2下、37℃でインキュベーションした。実験に使用した細胞は、4継代〜12継代の間のものであった。
【0154】
活発に増殖している細胞をトリプシン処理し、計数し、COSTAR TRANSWELL直径6.5mmの組織培養インサート(Corning(Corning,NY))上に、細胞15,000個/インサートで接種した。細胞を、標準的増殖条件下、37℃、増殖培地中で、48〜72時間、インサート上で培養した。
【0155】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)。hMSCsをCambrex(Walkersville,MD)から購入し、MSCGM(Cambrex)中で培養した。培養物を標準的増殖条件下でインキュベーションした。
【0156】
活発に増殖しているMSCをトリプシン処理し、計数し、COSTAR TRANSWELL直径6.5mmの組織培養インサート(Corning(Corning,NY))上に、細胞15,000個/インサートで接種した。細胞を、標準的増殖条件下、増殖培地中で、48〜72時間、インサート上で培養した。
【0157】
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)。HUVECをCambrex(Walkersville,MD)から入手した。細胞を、EBM若しくはEGM内皮細胞培地(Cambrex)のいずれかの中で、別個の培養中で増殖させた。細胞を、標準的増殖条件下、標準組織培養プラスチック上で増殖させた。アッセイで用いた細胞は、4継代〜10継代の間のものであった。
【0158】
ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)。HCAECは、Cambrex Incorporated(Walkersville,MD)から購入した。これらの細胞もまた、EBM若しくはEGM培地配合物のいずれかの中で、別個の培養中で維持した。細胞を、標準的増殖条件下、標準組織培養プラスチック上で増殖させた。実験のために使用した細胞は、4継代〜8継代の間のものであった。
【0159】
内皮ネットワーク形成(MATRIGEL)アッセイ。培養プレートを、メーカーの仕様に従って、MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))でコーティングした。簡単に言うと、MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))を4℃で解凍し、約250μLに分注し、凍らせた24ウェル培養プレート(Corning)の各ウェル上に等しく分配した。その後、材料を凝固させるために、プレートを、37℃で30分間、インキュベーションした。活発に増殖している内皮細胞培養物をトリプシン処理し、計数した。細胞を2% FBSの入った成長培地中で、遠心分離し、再懸濁し、上澄みを吸引することによって、2回洗浄した。コートウェル上、2%(v/v)FBSの入った成長培地約0.5mLの中に、細胞を20,000細胞/ウェルで接種した。その後、細胞を定着させるように、約30分間インキュベーションした。
【0160】
その後、内皮細胞培養物を、内皮細胞反応の陽性対照とするために、10nmolヒトbFGF(Peprotech(Rocky Hill,NJ))、又は10nmolヒトVEGF(Peprotech(Rocky Hill,NJ))のいずれかで処理した。臍帯組織由来細胞を接種したトランスウェルインサートを、インサートチャンバー中に2% FBSを含む成長培地の入った適切なウェルに加えた。培養物を、5% CO
2下、37℃で、約24時間インキュベーションした。ウェルプレートをインキュベータから取り除き、内皮細胞培養物像をOlympus倒立顕微鏡(Olympus(Melville,NY))で収集した。
【0161】
結果
胎盤由来細胞又は臍帯由来細胞とともに共培養した系では、HUVECは細胞ネットワークを形成する(データ図示なし)。HUVEC細胞は、hMSC及び10ナノモルbFGFによる共培養実験において、限定的な細胞ネットワークを形成する(図示なし)。任意の処理なしのHUVEC細胞は、ネットワーク形成がほとんどないか、又は全くないことが示された(データ図示なし)。これらの結果は、臍帯組織由来細胞がHUVECを刺激する血管形成因子を放出することを示唆する。
【0162】
胎盤由来細胞又は臍帯由来細胞とともに共培養した系では、CAECは細胞ネットワークを形成する(データ図示なし)。
【0163】
表2−1は、増殖培地中に胎盤組織由来細胞及び臍帯組織由来細胞によって放出された既知の血管形成因子の濃度を示している。上述のように、胎盤組織由来細胞及び臍帯組織由来細胞をインサート上に接種した。細胞を、37℃、大気酸素中、インサート上で、48時間培養し、その後、2% FBS培地に切り換え、37℃、24時間に戻した。培地を取り除き、即座に凍結し、−80℃で保存し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce Chemical Company(Rockford,IL))によって分析した。示した結果は、2回の測定値の平均である。結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、検出できる濃度の血小板由来増殖因子−bb(PDGF−bb)、又は、ヘパリン結合表皮増殖因子(HBEGF)を放出しないことを示す。細胞は、測定可能な量の、メタロプロテアーゼ組織阻害因子1(TIMP−1)、アンジオポエチン2(ANG2)、トロンボポエチン(TPO)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)を放出する。
【0164】
【表2】
臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞を、大気酸素中、2% FBSを含む培地中で、24時間培養した。培地を除去し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce)で解析した。結果は、2回の分析の平均である。値は、培地ミリリットル当たりのピコグラムで報告された培地中の濃度である。Plac:胎盤由来細胞、Umb cord:臍帯由来細胞。
【0165】
表2−2は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞によって放出された既知の血管形成因子の濃度を示している。上述のように、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞をインサート上に接種した。細胞を、5%酸素、増殖培地中、インサート上で、48時間培養し、その後、2% FBS培地に切り換え、5% O
2下インキュベーション、24時間に戻した。培地を取り除き、即座に凍結し、−80℃で保存し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce Chemical Company(Rockford,IL))によって分析した。示した結果は、2回の測定値の平均である。結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、検出できる濃度の血小板由来増殖因子−bb(PDGF−BB)、又は、ヘパリン結合表皮増殖因子(HBEGF)を放出しないことを示す。細胞は、測定可能な量の、メタロプロテアーゼ組織阻害因子1(TIMP−1)、アンジオポエチン2(ANG2)、トロンボポエチン(TPO)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)を放出する。
【0166】
【表3】
臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞を、5%酸素中、2% FBSを含む培地中で、24時間培養した。培地を除去し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce)で解析した。結果は、2回の分析の平均である。値は、培地ミリリットル当たりのピコグラムで報告された培地中の濃度である。Plac:胎盤由来細胞、Umb cord:臍帯由来細胞。
【0167】
要約。
結果は、インビトロでのMATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))アッセイで、分娩後由来細胞が、ヒト臍静脈細胞と冠動脈内皮細胞との両方を、ネットワークを形成するよう刺激することができることを示す。この効果は、このアッセイシステムにおいて、既知の血管形成因子とともに見られたものと同様である。これらの結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、インビボでの血管形成を刺激するために有用であることを示唆する。
【0168】
(実施例3)
内皮細胞のインビトロでの増殖及び遊走におけるhUTCの効果
本研究は、ヒト臍組織由来細胞(hUTC)の、インビトロでの内皮細胞の増殖及び遊走についての効果を決定するために実施された。hUTC及び内皮細胞を共培養することによって、そして、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の培養物をhUTC溶解物とともにインキュベーションすることによって、これらの効果を調べた。本明細書で示された結果は、hUTCが内皮細胞の増殖及び遊走を誘導することを示す。更に、データは、これらの効果が部分的に、線維芽細胞増殖因子(FGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)によって媒介されることを示唆する。
【0169】
材料及び方法
細胞培養
凍結保存したヒト臍組織由来細胞(hUTC)(ロット番号120304)を、8〜9継代で解凍し、ゼラチンコートフラスコ上に接種し、ヘイフリック成長培地(DMEM低グルコース(Gibco、カタログ番号11885−084)、15% v/vウシ胎仔血清(FBS、Hyclone、カタログ番号SH30070.03)、0.001% v/v β−メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7154)、50U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン(Gibco、カタログ番号3810−74−0))中で培養した。本明細書に記述される研究について、使用した細胞は、10継代又は11継代であった。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、カタログ番号C2517A)、ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC、カタログ番号CC2585)、ヒト腸骨動脈内皮細胞(HIAEC、カタログ番号CC2545)をCambrexから入手し、内皮増殖培地(EGM−2MV、カタログ番号3202)中で、メーカーの推奨に従って培養した。また、ヒト間葉系幹細胞(MSC、カタログ番号PT−2501)をCambrexから購入し、間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM、カタログ番号PT−3001)中で、メーカーの推奨に従って維持した。ヒト皮膚線維芽細胞(CCD9)はATCCからのものであり、10% FBS、1U/mLペニシリン−ストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地中で維持した。
【0170】
所定の継代のために、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Invitrogen、カタログ番号14190)で一度洗浄し、トリプシン処理(0.25%トリプシン−EDTA、Invitrogen、カタログ番号25200−056)により解離させた。細胞は、Guava(登録商標)機器(Guava Technologies(Hayward,CA))を用いて計数し、細胞5000個/cm
2の密度で播種した。細胞を3〜4日毎に定期的に継代した。
【0171】
増殖因子と抗体
組み換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、カタログ番号100−18B)及び、組み替えヒト肝細胞増殖因子(HGF、カタログ番号100−39)は、Peprotech製であり、組み換えヒト血管内皮増殖因子(VEGF、カタログ番号293−VE)は、R and D Systems製であった。bFGFに対する抗体(カタログ番号ab11937)、HGFに対する抗体(カタログ番号ab10678)、VEGFに対する抗体(カタログ番号ab9570)をAbeam(Cambridge,MA)から購入した。
【0172】
細胞溶解物の調製
細胞溶解物を、以前に成長させた凍結hUTC(ロット番号120304)細胞ペレットから準備した。簡単に言うと、hUTC(ロット番号120304)を4日間培養し、トリプシン処理で採取し、遠心分離によってペレットにした。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、PBS中に細胞1×10
7個/mLで再懸濁した。懸濁液1mLのアリコートを1.5mL滅菌シリコン化微小遠心チューブ中に入れ、300rcfで5分間遠心分離した。PBSを吸引し、細胞ペレットを、使用するまで−80℃で保存した。
【0173】
細胞溶解物を調製するために、細胞ペレットを含むチューブを、液体窒素(LN2)中に60秒間浸し、その後、即座に37℃の水浴に60秒間、又は、解凍されるまでであるが3分未満、浸した。この段階を3回くり返した。この段階の後、凍結解凍サンプルを13,000rcf、4℃で、10分間遠心分離し、その後、氷上に置いた。上澄みを注意深く取り除き、新しい滅菌シリコン化1.5mLチューブに移した。遠心分離段階を3回繰り返し、結果的に生じた上澄みを集めた。タンパク質濃度を、Quickstart Bradfordタンパク質アッセイキット(Bio−rad、カタログ番号500−0201)のマイクロアッセイプロトコルを用いて、測定した。
【0174】
細胞増殖の測定
細胞を採取し、指定された培地配合物に直接、細胞5,000個/cm
2の濃度で播いた。共培養実験のために、24ウェルトランスウェル(Corning、カタログ番号3413)を、ウェルの底の上に播いた内皮細胞(細胞10,000個/ウェル)とともに用い、hUTC、MSC、若しくは、線維芽細胞を、トランスウェルインサート(細胞1,650個/トランスウェルインサート)の内側に播いた。指定された期間で、hUTC、MSC、若しくは、線維芽細胞を含むインサートを取り除き廃棄した。各ウェルに90μLのトリプシンを加えることによって、内皮細胞を採取した。ピペッティングで上下させることによって、細胞を引き離し、その後、96ウェルプレートに移した。培地90μLを加えることによって、トリプシンを抑制した。染色溶液20μL(培地18μL+Guava Viacount Flex試薬1μL+DMSO 1μL)を加えることによって、細胞を染色し、Guava(登録商標)装置(Guava Technologies(Hayward,CA))を用いて定量した。
【0175】
HUVECの増殖におけるhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物の効果を研究するために、HUVECを、EGM−2MV培地の入った24ウェル組織培養皿上に細胞10,000個/ウェルの密度で接種し、8時間置いた。その後、0.5% FBSを含み増殖因子を含まないEGM−2MV培地0.5mL中で、一晩インキュベーションすることで、細胞を血清枯渇させた。その後、FBS、新たに準備したタンパク質を含むhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物62.5μg又は125μg、及び、FGF(7μg/mL)又はHGF(1μg/mL)に対する中和抗体を加えた。4日間の培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0176】
内皮細胞増殖におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムの研究のために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)、VEGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTCとの共培養中に含めた。細胞を最初に播いた時に、抗体を細胞培養培地に加えた。7日間の共培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0177】
細胞遊走の評価
細胞遊走を測定するために、6ウェルトランスウェル(Corning、カタログ番号3428)設定を用いた。指定された培地配合物に直接、細胞5,000個/cm
2の密度で、細胞を接種した。トランスウェルインサートの内側に、内皮細胞を接種し(細胞23,000個/トランスウェルインサート)、ウェルの底に、hUTC(ロット番号120304)又はMSCを播いた(細胞48,000個/ウェル)。共培養7日後に、トランスウェルの下側の細胞数を計数することによって、遊走を評価した。簡単に言うと、トランスウェルを、清潔なウェルへ移し、PBSで洗浄した。ウェルの底にトリプシンを加えることによって、ウェルの下側の細胞を採取した。完全増殖培地を加えることによって、トリプシンを抑制し、遠心分離によって、細胞を収集した。その後、細胞を培地25μLで再懸濁させ、このうちの20μLを用いて、Guava(登録商標)装置で細胞計数を得た。
【0178】
内皮細胞遊走におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムの研究のために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養中に入れた。細胞を最初に播いた時に、抗体を細胞培養培地に加えた。7日間の共培養の後、トランスウエルインサートの下側にあった細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0179】
結果
内皮細胞の増殖におけるhUTCの効果
内皮細胞の増殖におけるhUTCの効果を研究するために、共培養システムを利用した。このことは、24ウェル組織培養皿の底に播いた内皮細胞、及び、トランスウェルインサートの内側に播いたhUTCのトランスウェル設定を用いて実施された。これらの実験では、2つの異なる培地配合(「材料と方法」に記述されている培地組成物)、すなわち、(1)ヘイフリック培地80%+EGM−2MV培地20%(H80)、又は(2)ヘイフリック培地50%+EGM−2MV培地50%(H50)を用いた。共培養6日又は7日後、トランスウェルインサートを取り除き、内皮細胞をトリプシン処理によって採取し、Guava(登録商標)装置を用いて計数した。
【0180】
H50と比較して、H80中で培養された内皮細胞の増殖におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を、
図1に示す。H50中で維持されたHUVECの増殖は、H80中で維持されたものよりも高かったが(
図1A)、HCAEC及びHIAECは、これらの共細胞培地配合物中で同様の成長を示している(
図1B、及び
図1C)。両方の培地配合物において、内皮細胞と、hUTC(ロット番号120304)との共培養は、7日後に細胞数の顕著な増加を示す結果となった。hUTC及び内皮細胞のその後の共培養研究を、全て、ヘイフリック培地50%+EGM−2MV培地50%(H50)培地配合物で実施した。
【0181】
また、他の細胞型が内皮細胞増殖に影響を与える能力を有するかどうか決定するために、内皮細胞との共培養中で、MSC及び線維芽細胞を試験した。
図1Aに示すように、共培養培地(H50又はH80)中のHUVECの増殖、及び、MSC又は線維芽細胞とともに共培養したものには、全く違いがなかった。同じことが、hUTC(ロット番号120304)との共培養で、結果的に増加した細胞増殖を生じたHCAEC(
図1B)及びHIAEC(
図1C)についても真であったが、共培養培地(H50又はH80)中の細胞とMSCとともに共培養した細胞間では、違いは見られなかった。
【0182】
内皮細胞増殖におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムを調べるために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)、VEGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTCとの共培養中に含めた。
図2A〜
図2Dの結果は、FGF及びHGFに対する中和抗体を添加することが、HUVEC及びHCAECの両方において、hUTC(ロット番号120304)によって誘導された細胞数の増加を低減させたことを示している。これらの研究のために用いた濃度で、これらの中和抗体は、増殖因子によって誘導されたHUVECの増殖を阻止した(
図2A及び2B)。興味深いことに、VEGFに対する中和抗体は、HUVEC(
図2A及び2B)並びにHCAEC(
図2C及び2D)と、hUTC(ロット番号120304)との共培養によって誘導された細胞増殖について、有意な効果を有さなかったことがわかる。別の研究では、FGF及びVEGFに対する中和抗体の培養培地へ加えることによって、hUTC(ロット番号120304)の増殖は影響を受けなかった(データ図示なし)。
【0183】
HUVECの増殖におけるhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物の効果
また、HUVECの増殖における細胞溶解物の効果を決定するために研究が行われた。HUVECをEGM−2MV培地の入った24ウェルプレート上に、細胞5000個/cm
2の密度で、8時間接種した。その後、0.5%ウシ胎仔血清(FBS)を含み増殖因子を含まないEGM−2MV培地0.5mL中で、一晩インキュベーションすることによって、細胞を血清枯渇させた。インキュベーション後、新たに準備されたhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物を様々な濃度で加えた。幾つかの例では、FGF、HGF、及び中和抗体も含められた。4日間の培養の後、HUVECを収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0184】
図3は、細胞溶解物を加えることによって、低血清(0.5% FBS)で維持されている細胞と比較して、HUVECの細胞数の増加が導かれ、細胞数の増加が細胞溶解物の添加量に比例したということを示す。用いた細胞溶解物のより低い濃度(6.25μg/mL)により、結果的に、最適な培地条件(10% FBS)中でインキュベーションした細胞と同程度の細胞数になった。更に、FGF若しくはHGFのいずれかに対する中性抗体を加えることにより、2つの異なる濃度の細胞溶解物によって誘導された細胞数の増加を緩和した。これらの結果は、HUVECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養で得られた結果と一致する。
【0185】
内皮細胞の遊走におけるhUTCの効果
トランスウェル膜(孔の大きさ=8マイクロメートル)を通って移動してきた細胞の数を決定することによって、内皮細胞の遊走を評価した。反応細胞、すなわち、内皮細胞を、6ウェルトランスウェルインサート上に接種し、hUTCをウェルの底に播いた。共培養後、トランスウェルの下側の細胞を採取し、計数した。
図4Aは、hUTC及びMSCとともに共培養されたHUVECの遊走を示す。hUTC(ロット番号120304)は、トランスウェルの下側へのHUVECの移動を誘導したが、MSCは誘導しなかった(
図4A)。同じ結果が、hUTC(ロット番号120304)との共培養で、培地対照と比較して、結果的により多くのトランスウェルを通過した細胞移動が生じたHCAECにおいて観察された(
図4B)。
【0186】
FGF及びHGFに対する中和抗体を使用することによって、HUVEC及びHCAECの遊走行動におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を、更に試験した。
図5Aで示したように、これらの抗体によって、hUTC(ロット番号120304)によって誘導されたHUVECの遊走が低減された。HCAECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養において、HGFに対する中和抗体は、細胞遊走におけるhUTC(ロット番号120304)介在性の増加を妨げたが、FGFに対する中和抗体は、増加を妨げなかった(
図5B)。
【0187】
要約
本明細書で概説された結果は、インビトロでの内皮細胞の増殖行動及び遊走行動におけるhUTCの効果を説明する。hUTC(ロット番号120304)及び内皮細胞の共培養、若しくは、hUTC(ロット番号120304)から準備された細胞溶解物とともに内皮細胞を直接インキュベーションすることを用いて、本研究を実施した。
【0188】
増殖の研究のために、hUTC(ロット番号120304)の効果を試験し、異なる血管床由来の3つの内皮細胞型を、反応細胞として用いた。hUTCでの共培養は、内皮細胞の増殖の増強をもたらした。MSC又は線維芽細胞との共培養は、結果的に、培養対照と同程度の細胞数を生じた。FGF及びHGFに対する中和抗体を加えることによって、hUTC(ロット番号120304)に対するHUVECの増殖反応を弱めたが、VEGFに対する中和抗体では、そうではなかった。このことは、hUTC(ロット番号120304)による増殖の誘導が、FGF及びHGFによって仲介されることを暗示する。hUTC(ロット番号120304)溶解物とのHUVECのインキュベーションが、共培養で観察された結果と同じであることは、注目に値する。
【0189】
移動は、トランスウエルの下側にある細胞数を計数することで定量化した。HUVEC及びHCAECの両方をキラー細胞として使用した。増殖に関する試験とは異なり、これらの細胞の移動反応はわずかに異なる。hUTC(ロット番号120304)は、HUVEC及びHCAEC両方の遊走を誘導した。MSCは、HUVECの遊走を誘導しなかった。このことは、この反応がhUTC特異的であることを示唆する。FGF及びHGFに対する抗体は、HUVECの遊走におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を打ち消したが、HGFに対する抗体のみが、HCAECの遊走に影響を与えた。このことは、2つの内皮細胞型間の違いを示唆している。
【0190】
要約すると、データは、hUTCが、インビトロで内皮細胞の増殖及び遊走を誘導することを示す。これらの観察された効果において、中和抗体の使用は、FGF及びHGF両方に関係する。しかしながら、他の因子もまた、内皮細胞の増殖及び遊走行動に関わっている可能性がある。
【0191】
(実施例4)
臍由来細胞内でのテロメラーゼ発現
テロメラーゼは、染色体の完全性を保護し、また細胞の複製寿命を延長するために役立つ、テロメア繰り返し体を合成するように機能する(Liu,K et al.、PNAS,1999年:96:5147〜5152)。テロメラーゼは、テロメラーゼRNAテンプレート(hTER)、及びテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の、2つの成分からなる。テロメラーゼの調節は、hTERではなく、hTERTの転写によって決定される。hTERT mRNAに関するリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、それゆえ、細胞のテロメラーゼ活性を判定するための、公認された方法である。
【0192】
細胞単離。リアルタイムPCR実験を実行して、ヒト臍帯組織由来細胞のテロメラーゼ産生を判定した。ヒト臍帯組織由来細胞を、上述の実施例に従って調製した。全般的には、正常な分娩後の、National Disease Research Interchange(Philadelphia,Pa.)から得た臍帯を洗浄して、血液及び残渣を除去し、機械的に解離させた。次いで、その組織を、培養培地中、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、及びヒアルロニダーゼを含む消化酵素と共に、37℃でインキュベートした。ヒト臍帯組織由来細胞を、上記の実施例に記載される方法に従って培養した。間葉系幹細胞及び正常皮膚線維芽細胞(cc−2509ロット番号9F0844)を、Cambrex(Walkersville,Md)から入手した。多能性ヒト精巣胎芽性癌(奇形腫)細胞株nTera−2細胞(NTERA−2 cl.Dl)(Plaia et al.,Stem Cells,2006;24(3):531〜546を参照)を、ATCC(Manassas,Va.)から購入し、上述の方法に従って培養した。
【0193】
全RNAの単離。RNeasy(登録商標)kit(Qiagen(Valencia,Ca.))を使用して、RNAを細胞から抽出した。RNAは、50マイクロリットルDEPC処理済み水で溶出させ、−80℃で保存した。RNAは、TaqMan(登録商標)逆転写試薬(Applied Biosystems(Foster City,Ca.))でランダムヘキサマーを用い、25℃で10分間、37℃で60分間、及び95℃で10分間、逆転写させた。各試料を−20℃で保存した。
【0194】
リアルタイムPCR。Applied Biosystems Assays−On−Demand(商標)(TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイとしても既知)を、メーカーの仕様(Applied Biosystems)に従って使用して、cDNAサンプルに対してPCRを実行した。この市販のキットは、ヒト細胞内のテロメラーゼに関してアッセイを行うために、広く使用されている。簡潔には、hTERT(ヒトテロメラーゼ遺伝子)(Hs00162669)及びヒトGAPDH(内部対照)を、ABI prism 7000 SDSソフトウェア(Applied Biosystems)と共に7000配列検出システムを使用して、cDNA及びTaqMan(登録商標)Universal PCRマスターミックスと混合した。熱サイクル条件は、最初に50℃で2分間及び95℃で10分間とし、その後に、95℃で15秒間及び60℃で1分間の40サイクルとした。PCRデータは、メーカーの仕様に従って分析した。
【0195】
ヒト臍帯由来細胞(ATCC受入番号PTA−6067)、線維芽細胞、及び間葉系幹細胞を、hTERT及び18S RNAに関してアッセイした。表4−1に示すように、hTERT、よってテロメラーゼは、ヒト臍帯組織由来細胞内では検出されなかった。
【0196】
【表4】
【0197】
ヒト臍帯組織由来細胞(単離株022803、ATCC受託番号PTA−6067)及びnTera−2細胞のアッセイを行ったところ、それらの結果は、ヒト臍帯組織由来細胞の4つのロットでは、テロメラーゼの発現を示さなかったが、一方で、テラトーマ細胞株は、高レベルの発現を表した(表4−2)。
【0198】
【表5】
【0199】
それゆえ、本発明のヒト臍帯由来細胞は、テロメラーゼを発現しないということを、結論付けることができる。
【0200】
(実施例5)
ネズミ後肢虚血モデルにおけるhUTC移植の効力
過去のデータから、hUTCの全身投与は、片側後肢虚血のマウスで治療後5日目及び10日目に有意な血流改善をもたらすことが示された。加えて、ある比較実験研究は、hUTCの全身性(経静脈)注射は、局所(筋肉内)注射に比べ、より顕著な血流修復をもたらしたことを示している。
【0201】
この実施例は、末梢後肢虚血のマウスモデル(片側性虚血モデル)における、hUTC及びフィブリン糊中hUTCの筋肉注射の効果を評価する。免疫不全状態ヌードマウス及びNOD/scid IL2rγ
−/−(NSG)系統マウスが使用された。
【0202】
動物モデル&説明
本実施例の研究について、ヌードマウスとNSGマウスの間で比較が行われた。
【0203】
NSGマウス系統は、成熟リンパ球、T細胞、B細胞、及びNK細胞の欠損を含む複数の免疫不全を備えているため、異種移植研究用に関心が寄せられている。これらの動物は6ヶ月以上生存し、致死量以下の放射線照射後であっても胸腺リンパ腫を生じない(Ito M.et al.(2002)Blood.100:3175〜82)。
【0204】
片側性後肢虚血は、これらのマウスにおいて作製された。簡単に言えば、動物をイソフルラン吸入により麻酔した。左後肢中線で切開を行った。大腿動脈及びその分枝を、鼠径靱帯から、伏在動脈と膝窩動脈の分岐まで、結紮した。結紮間の領域は摘出し、切開部を5−0シルクVicryl縫合糸(Ethicon)で閉じた。
【0205】
細胞及びフィブリン糊
凍結細胞懸濁液が断熱容器輸送により供給された。受領後、細胞を液体窒素に移して長期保存した。細胞は、注射直前に解凍した。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。全用量をPBSに再懸濁させ、注射のため、28ゲージ針を備えた0.3mLツベルクリン注射器に充填した。
【0206】
フィブリン糊(EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(ヒト用)、Omrix Pharmaceuticals)を、この研究に用いた。使用前に構成成分を解凍し、最終濃度がトロンビン16〜24IU/mL、BAC2(フィブリノーゲン)39.3〜60.7mg/mLになるよう希釈した。トロンビンストック溶液(ストック濃度約800〜1200IU/mL)及びBAC2(フィブリノーゲン)(ストック濃度約55〜85mg/mL)を、トロンビンは1:50、BAC2は1:1.4に、それぞれ希釈した。
【0207】
実験計画
合計48匹のヌードマウス(週齢6〜8週)及び48匹のNOG/SCID(NSG)マウス(週齢6〜11週)を、誕生日付でマッチングし、表5−1に示すように無作為に群に分けた。
【0208】
【表6】
【0209】
エンドポイント検査は、下記のパラメータを測定することにより実施された:
1、7、14、21及び28日目のレーザードップラー撮像による血流評価;7日目(各群から3匹)及び28日目に、CD31染色による毛細血管密度の評価。
【0210】
方法
片側性後肢虚血の形成から1日後、溶媒、溶媒中hUTC、フィブリン糊、又はフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。
【0211】
hUTC注射は、特定の回数の溶媒中hUTC及びフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。これらは、上肢に注射3回(3回×20μL)、下肢に2回(2回×20μL)、合計用量100μLであった。対照動物は、細胞と同様にして溶媒を投与された。
【0212】
フィブリン糊中hUTCの注射のたびに、細胞はトロンビン中で再懸濁された(最終濃度16〜24IU/mL)。BAC2(フィブリノーゲン、最終濃度39.3〜60.7mg/mL)は、別個のエッペンドルフ管に分注した。
【0213】
注入直前に、トロンビン中hUTCを、BAC2の入った管に移し、混合し、0.3mLツベルクリン注射器(28ゲージ針)に充填し、マウス後肢に注射した。100μLを、5回の20μL筋肉内(IM)注射で投与した(上肢に3回注射、下肢に2回注射)。対照動物は、細胞と同様の方法で、フィブリン糊の投与を受けた。
【0214】
統計分析
データは、平均値±平均値の標準偏差として表現された。スチューデントの両側t検定で、各群の比較が行われた。
【0215】
血流の評価
マウス後肢の血液潅流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せる。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集した。7、14、21、及び28日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告される。
【0216】
結果及び分析
レーザードップラー潅流撮像
NSGマウスの、レーザードップラー潅流データ(非虚血の対照右肢に比べた虚血の左肢における潅流のパーセンテージとして表わされる)を、
図6及び表5−2(下記)に示す。最大の治療効果は、フィブリンマトリックス中で送達したhUTCで観察された。これらのマウスにおける相対的潅流量は、21日目で、フィブリン対照群のほぼ倍であった(40.3±2.43対22.6±2.34)。21及び28日目において、この影響は両対照群に比べて有意に大きく(P<0.001)、また溶媒のみで投与されたhUTCを投与された群に比べても有意に大きかった(P<0.05)。相対的潅流に対する溶媒中hUTC投与の効果は、28日目で、対照より27%大きかった(P<0.05)。この時点で、溶媒のみ中hUTC治療を受けたNSGマウスの虚血肢における相対的潅流は、30.0±2.3であり、一方、溶媒のみの治療を受けたマウスは23.7±1.6であった。
【0217】
【表7】
【0218】
ヌードマウスの潅流データを
図7及び表5−3に示す。フィブリン中hUTCでの治療は、虚血肢の潅流を有意に増加させ(P<0.05)、14日目(53.9±4.7)及び21日目(53.4±3.2)であった一方、フィブリンのみでの治療対照群はそれぞれ39.2±1.7及び40.9±3.7であった。フィブリン中細胞の効果は、28日目で、対照群(40.8±4.3)に比べて高い傾向を示した(52.0±5.8)。しかし、動物間の測定値に大きな偏差があったため有意ではなかった。21日目で、溶媒のみ中hUTCの局所投与は、潅流の強化傾向を示し(64.0±6.3対対照群43.7±7.4)、28日目(52.0±3.5対40.8±4.9)には潅流の有意な強化を示した(P<0.05)。フィブリン中又は溶媒のみで投与されたhUTCの効果の間には、有意な差はなかった。
【0219】
【表8】
【0220】
これらのデータは、NSGマウス系統とヌードマウス系統の両方において、IM注射により局所的に投与されたhUTCは、フィブリン担体と混合したときに早期の効果を有することを示している。NSGマウスにおいては、溶媒のみで細胞を投与した場合よりも、有意に、持続的効果が大きかった。
【0221】
結論
虚血形成から1日後にhUTCの直接筋肉内投与を行うことにより、NSGマウスとヌードマウスの両方において、虚血筋肉の再潅流が強化された。NSGマウスにフィブリンマトリックス中の細胞を投与したところ、溶媒のみで細胞を投与した場合よりも優れた反応を生じると見られた。ネズミの後肢末梢虚血モデルにおいて、hUTCの直接筋肉内投与で治療した動物は、NSGマウスとヌードマウスの両方において、虚血肢の再潅流強化が示された。しかしながら、フィブリン糊中hUTCで治療された動物は、NSGマウスにおいて、溶媒のみで細胞を投与された場合に比べ、より顕著かつ持続的な反応を呈した。
【0222】
(実施例6)
末梢肢虚血のNOD/scid IL2rγ
−/−マウスモデルにおけるhUTC移植の効力:投与量及び投与量の研究
この研究では、末梢後肢虚血のマウスモデル(片側性後肢虚血モデル)におけるhUTCの効力を評価した。この研究で、NOD/scid IL2rγ
−/−(NSG)系統マウスが使用された。血流修復の効果は、hUTCを(1)溶媒と共に局所投与(筋肉内)、(2)フィブリン糊と共に局所投与(筋肉内)、又は(3)全身投与(静脈内)した場合を評価された。この研究では、フィブリン糊あり又はなしで、様々な用量で筋肉内投与されたhUTCの、血流修復に対する効果も評価した。
【0223】
材料及び方法
動物モデル&説明
NSGマウスが使用された。NSGマウス系統は、成熟リンパ球、T細胞、B細胞、及びNK細胞の欠損を含む複数の免疫不全を備えているため、異種移植研究用に関心が寄せられている。これらの動物は6ヶ月以上生存し、致死量以下の放射線照射後であっても胸腺リンパ腫を生じない(Ito M.et al.(2002)Blood.100:3175〜82)。
【0224】
片側性後肢虚血は、これらのマウスにおいて作製された。簡単に言えば、動物をイソフルラン吸入により麻酔した。左後肢中線で切開を行った。大腿動脈及びその分枝を、鼠径靱帯から、伏在動脈と膝窩動脈の分岐まで、結紮した。結紮間の領域は摘出し、切開部を5−0シルクVicryl縫合糸(Ethicon)で閉じた。
【0225】
細胞及びフィブリン糊
凍結保存されたhUTCを、注射直前に解凍した。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。全用量を溶媒又はフィブリン糊中に再懸濁させ、注射のため、28ゲージ針を備えた0.3mLツベルクリン注射器に充填した。
【0226】
フィブリン糊(EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(ヒト用)、Omrix Pharmaceuticals)が使用された。使用前に構成成分を解凍し、最終濃度がトロンビン16〜24IU/mL、BAC2(フィブリノーゲン)39.3〜60.7mg/mLになるよう希釈した。トロンビンストック溶液(ストック濃度約800〜1200IU/mL)及びBAC2(フィブリノーゲン)(ストック濃度約55〜85mg/mL)が提供され、トロンビンは1:50、BAC2は1:1.4に、それぞれ希釈された。
【0227】
実験計画
NSGマウス(週齢6〜11週)を、誕生日付でマッチングし、下の表6−1に示すように無作為に群に分けた。
【0228】
【表9】
【0229】
片側性後肢虚血の形成から一日後、hUTCを全身的又は局所的に注射した。全身的注射については、溶媒100μL中の特定の回数のhUTCを、0.3ccツベルクリン注射器(28ゲージ針)を用いて、尾静脈から投与した。細胞注射は、約1分間かけて実施した。対照動物は溶媒のみを投与された。
【0230】
局所注射は、特定の回数の溶媒中hUTC及びフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。注射は5か所に行われた、それぞれ、20μL筋肉内(IM)注入を投与した。これらは、上肢に注射3回(3回×20μL)、下肢に2回(2回×20μL)、合計用量100μLであった。対照動物は、細胞と同様にして溶媒を投与された。
【0231】
フィブリン糊中hUTCの注射のたびに、細胞はトロンビン中で再懸濁された(最終濃度16〜24IU/mL)。BAC2(フィブリノーゲン、最終濃度39.3〜60.7mg/mL)は、別個のエッペンドルフ管に分注した。注入直前に、トロンビン中hUTCを、BAC2の入った管に移し、混合し、0.3mLツベルクリン注射器(28ゲージ針)に充填し、マウス後肢に注射した。100μL用量を、5回の20μL筋肉内(IM)注射で投与した(上肢に3回注射、下肢に2回注射)。対照動物は、細胞と同様の方法で、フィブリン糊の投与を受けた。
【0232】
血流の評価
マウス後肢の血液潅流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せた。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集した。損傷後7、14、21、及び28日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告される。
【0233】
結果
各群の虚血肢における相対的潅流の平均値(±標準誤差)値が、表6−2(下記)に表示されている。有意水準5%で、3セットのデータ(例えばIM(フィブリンなし)、IM(フィブリンあり)及びIV(フィブリンなし))について、二元配置分散分析法を実施した。時間と治療の全体的な影響が評価された。全ての群において、治療と時間に有意な効果があった(P<0.01)。ボンフェローニ検定を実施して、全ての群を対照と比較し、各セット(例えばIM、フィブリンありIM、及びIV)内で互いに比較した。
【0234】
【表10】
【0235】
3つの異なる投与方式での効果の度合には、明確な差はなかった。損傷から28日後で、フィブリン中1×10
6個のhUTCを用いた場合は、相対的潅流が約43.4%であり、hUTC単独では最大の相対的潅流40.6%を生じた(
図8参照)。全身投与された細胞については、hUTCが投与されたマウスの虚血肢における相対的潅流は、損傷から21日後と28日後において、対照よりも有意に大きかった(P<0.01)。
【0236】
局所(IM)投与を用いた場合では、2つの細胞投与用量が試験された。損傷から21日後と28日後において、高用量は、対照とは有意に異なっていた(P<0.05)。低用量では、どの日についても対照と有意な差はなかった。高用量群と低用量群は、どの時点についても、互いに有意な差はなかった(表6−2)。
【0237】
局所(IM)投与を用いて、フィブリン糊中hUTCの4つの異なる用量が試験された。1×10
6個の細胞を投与された群において、虚血肢における相対的潅流は、損傷から21日後(P<0.05)及び28日後(P<0.01)で、対照よりも有意に大きかった。細胞0.5、0.25及び0.125×10
6個の用量が投与された群における相対的潅流はどれも、損傷から21日後で、対照よりも有意に大きかった(それぞれP<0.001、P<0.01及びP<0.05)。用量群のいずれの間にも、有意な差はなかった(
図9)。
【0238】
用量増加に従って再潅流が増加に向かうわずかな傾向があり、これは特に損傷後14日目で明らかである(明確にするため、誤差バーなしのデータを
図10に示す)。
【0239】
まとめると、3つのどの方法によって投与されたhUTC治療動物も、虚血肢の再潅流増加を示した。この研究において、投与方式に伴う効果の度合には、明確な差はなかった。最高用量群において、損傷から28日後に、相対的潅流が有意に高くなっており、これは投与経路又は細胞数とは独立であったことがわかる。
【0240】
(実施例7)
末梢肢虚血のマウスモデルにおけるhUTC細胞移植の効力の評価:投与経路研究
この研究の目的は、hUTC細胞投与が末梢肢虚血のマウスモデル(片側性虚血モデル)において血流を修復するかどうかを評価することであった。静脈内投与と筋肉内投与の2つの投与経路の間で比較が行われた。筋肉内投与には、フィブリンマトリックス中の細胞懸濁液も含まれた。
【0241】
方法
治療群を下記の表7−1に示す。
【0242】
【表11】
【0243】
群5及び6のIM投与のフィブリン糊配合を、下記の表7−2に示す。
【0244】
【表12】
【0245】
オスの免疫寛容ヌードマウス(週齢8〜10週)に、外科的に誘導した片側性後肢虚血を施した。手術から1日後、両後肢の血流をレーザードップラー潅流撮像(LDPI)によって評価した。hUTC細胞の1回用量(10
6個)又は溶媒対照を、表7−1に示すように、6つの群のマウス(N=15匹/群)に投与した。投与経路は、尾静脈からのIV注射100μL、又は、同じ累積用量で、虚血肢の上脚(3か所)及び下肢(2か所)の骨格筋に20μLずつIM注射した。IM注射を受けた2つの群において、フィブリンマトリックスも含まれていた。
【0246】
1、3、7、10、14及び21日目で連続LDPIを実施した。21日目はこの研究の最終日となった。手術の3日前、及び手術から10日後に、水泳持久力を評価した。マウスは、水没して5秒以内に表面に浮かび上がることができない場合、水泳持久力の限界に達したと判断された。虚血後水泳持久力時間の、虚血前平均持久力時間に対する比が、比較された。死後の腓腹筋組織サンプルが、本研究の21日目に達した各群のマウス5匹ずつの、虚血肢及び正常肢から取得され、毛細血管(CD31/PECAM−1)及び小動脈(平滑筋αアクチン)の組織学的染色を行った。免疫染色スライドのデジタル画像から、脈管密度を定量化した。
【0247】
7日目に採取した組織の細胞生着及び脈管密度が評価された。IV細胞治療群と対照群との相対的潅流値平均の分離が、21日目で統計学的に異なっているということから、7日目の脈管密度分析は、有用でないと見なされた。細胞生着アッセイは、細胞検出方法の技術的困難のため実施されなかった。
【0248】
血流の評価
マウス後肢の血流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せる。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集する。5、10、15及び20日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告された。
【0249】
水泳持久力試験
マウスは、水泳チャンバにおいて泳ぎ又は浮いていられる能力についても監視された。このために、マウスは水泳チャンバで浮いていられるよう訓練された。マウスは3日間毎日訓練された。この期間の終了後、マウスは、疲労するまで浮かんでいられる時間の長さにより、評価された。これは、7〜10秒以内に呼吸するために水面に上がってこられなくなることとして定義された(ベースライン、−3日目)。0日目、マウスは片側性後肢損傷を被り、損傷から24時間後に細胞が投与された。動物は次に、10日目と15日目に、水泳能力/浮かんでいられる持久力について評価された。
【0250】
結果及び分析
肢の壊死による動物数の減少は全ての群で少なかった。動物数減少は全て、1週間以内に発生した。研究から除去された各群のマウス数(カッコ内に示す)は、群1(2)、群2(1)、群3(2)、群4(2)、群5(1)、及び群6(2)であった。
【0251】
レーザードップラー潅流撮像
レーザードップラー潅流データ(非虚血の対照右肢に比べた虚血の左肢における潅流のパーセンテージとして表わされる)を、
図11及び表7−3に示す。IV注射により生理食塩水を投与された対照に比べ、hUTC細胞のIV注射により治療されたマウスにおいて、相対的再潅流が強化された。この効果は、7、10及び21日目で顕著であった。他の治療群のいずれも、適切な対照との間の有意な差はなかった。全ての対照群動物において、相対的潅流の、説明のつかない最大値が、14日目に生じた。21日目までに、対照動物における値は減少した。IV対照群の2匹のマウスの14日目の相対的潅流値は、100%を超えた相対値により、除外された。これらの除外があっても、IV細胞群と対照群との間で、この時点で差はなかった。
【0252】
【表13】
【0253】
21日目に採取された薄い切片の免疫組織学的染色において、両下肢の毛細血管及び小動脈密度が測定された。微小血管密度と潅流との間に相関関係はなかった。毛細血管の相対的密度は、対照群と治療群との間で有意な差はなかった(
図12)。
【0254】
対照群と治療群の動物で、小動脈密度に差はなかった(
図13)。フィブリンと共に直接注射された筋肉中では、小動脈の密度が低くなる傾向があった。
【0255】
層流に対抗して泳ぐマウスの能力が、手術前及び手術から10日後に再び評価された。各セッションで、虚血導入前に水泳の合計時間が記録され、比較された。機能的評価において、対照群と治療群の間で有意な差はなかった。
【0256】
まとめると、この結果は、hUTCの静脈内投与は、損傷から3日目、10日目、及び21日目に、虚血筋肉中の血流の修復をもたらしていることを示している。特に、虚血形成から1日後のhUTC静脈内投与は、虚血筋肉の再潅流促進をもたらし、実験終了時(21日目)に相対的潅流がより高レベルとなった。他の治療は、この研究において用いられたどの測定によっても、明らかな影響は有していなかった。IV投与hUTCが再潅流を強化するメカニズムは、虚血領域の血管再成長の分析に基づいて、明らかではなかった。この観察された影響は、他のメカニズムで説明される可能性がある。最近、全身的に投与された骨髄由来間葉系幹細胞が、肺にトラップされ、そこで、公園焼成因子の分泌を介して離れたところでの保護を促進し、これにより、すでに受けた損傷の組織に対する度合を低減し得ることが示されている(Lee et al.(2009)Stem Cell.5(1):54〜63)。
【0257】
本発明は、上記で説明及び例示された実施形態に限定されるものではない。添付の特許請求の範囲内での、変型形態及び修正が可能である。
【0258】
〔実施の態様〕
(1) 末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを含む医薬組成物を、該疾患の治療に有効な量で投与することを含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能があって、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、方法。
(2) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、及び
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうちの1つ又は2つ以上を有する、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記末梢血管疾患が、末梢虚血である、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記医薬組成物が、末梢虚血の部位に投与される、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記医薬組成物が、筋肉内注射又は筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって投与される、実施態様4に記載の方法。
【0259】
(6) 前記医薬組成物が、局所的に投与される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記医薬組成物が、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又は該医薬組成物を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって投与される、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞(pericty)又は血管内皮系統に分化する、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記組成物が、抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0260】
(11) 前記組成物が、少なくとも1つの他の細胞種を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(12) 前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記医薬組成物が栄養効果をもたらす、実施態様1に記載の方法。
(14) 前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記医薬組成物が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
【0261】
(16) 前記医薬組成物が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
(17) 前記医薬組成物が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
(18) 前記フィブリン糊が、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む、実施態様1に記載の方法。
(19) 前記フィブリン糊が、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊とヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを、該疾患の治療に有効な量で投与することを含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、方法。
【0262】
(21) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、及び
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうちの1つ又は2つ以上を有する、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記末梢血管疾患が末梢虚血である、実施態様20に記載の方法。
(23) 前記細胞及びフィブリン糊が、前記末梢虚血部位に投与される、実施態様20に記載の方法。
(24) 前記フィブリン糊及び前記細胞集団が、局所的に投与される、実施態様20に記載の方法。
(25) 前記細胞集団及びフィブリン糊が、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又は該細胞集団を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって投与される、実施態様20に記載の方法。
【0263】
(26) 前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞又は血管内皮系統に分化する、実施態様20に記載の方法。
(27) 前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、実施態様20に記載の方法。
(28) 抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を投与することを更に含む、実施態様20に記載の方法。
(29) 少なくとも1つの他の細胞種を投与することを更に含む、実施態様20に記載の方法。
(30) 前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、実施態様29に記載の方法。
【0264】
(31) 前記細胞集団が栄養効果をもたらす、実施態様20に記載の方法。
(32) 前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、実施態様30に記載の方法。
(33) 前記細胞集団が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
(34) 前記細胞集団が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
(35) 前記細胞集団が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
【0265】
(36) 前記フィブリン糊が、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む、実施態様20に記載の方法。
(37) 前記フィブリン糊が、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様36に記載の方法。
(38) 前記フィブリン糊が、前記ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団と同時に、又はこれより前に、又は後に投与される、実施態様20に記載の方法。
(39) 末梢血管疾患を有する患者を治療するためのキットであって、フィブリノーゲン、トロンビン、及び、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団を、該疾患の治療に有効な量で含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、キット。
(40) 使用説明書を更に含む、実施態様39に記載のキット。
【0266】
(41) 前記フィブリノーゲン及び前記均質な単離細胞集団が、1つの組成物中にある、実施態様39に記載のキット。
(42) トロンビンが、使用の直前に前記組成物に添加される、実施態様40に記載のキット。
(43) 前記キットが、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様39に記載のキット。
(44) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうち1つ又は2つ以上を有する、実施態様39に記載のキット。