特許第5937210号(P5937210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5937210臍帯組織由来細胞を用いた末梢血管疾患の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937210
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】臍帯組織由来細胞を用いた末梢血管疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20160609BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20160609BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A61K37/547
   A61K35/51
   A61K37/02
   A61K45/00
   A61P9/08
【請求項の数】31
【全頁数】62
(21)【出願番号】特願2014-524988(P2014-524988)
(86)(22)【出願日】2011年8月10日
(65)【公表番号】特表2014-525398(P2014-525398A)
(43)【公表日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】US2011047264
(87)【国際公開番号】WO2013022447
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2014年8月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513069064
【氏名又は名称】デピュイ・シンセス・プロダクツ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ブエンスセソ・チャリト・エス
(72)【発明者】
【氏名】キーム・アンソニー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ダーナラジ・スリデビ
(72)【発明者】
【氏名】アトラス・ロイー
(72)【発明者】
【氏名】ヌル・イスラエル
(72)【発明者】
【氏名】メイドラー・ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】バル・リリアナ
【審査官】 加藤 文彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−522024(JP,A)
【文献】 Tissue Engineering,2006年,Vol.12, No.6 ,p.1651-1661
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/48
A61K 35/51
A61K 38/00
A61K 45/00
A61P 9/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肢に末梢血管疾患を有する患者における再灌流を強化するための医薬組成物であって、製薬上許容される担体と、フィブリン糊と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団を、該疾患の治療に有効な量で含み、
該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、
該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及びテロメラーゼを発現せず、
前記単離細胞集団は、酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現し、
前記フィブリン糊は、16〜24IU/mLのトロンビンと、39.3〜60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを最終濃度として含み、前記医薬組成物が、前記肢の上肢部および下肢部に筋肉内注射される、
医薬組成物。
【請求項2】
前記単離細胞集団が、次の特性
(a)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、
のうち1つ又は2つ以上を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記末梢血管疾患が、末梢虚血である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞又は血管内皮系統に分化する、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が、抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を更に含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が、少なくとも1つの他の細胞種を更に含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が栄養効果をもたらす、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
肢に末梢血管疾患を有する患者における再灌流を強化するための薬剤であって、該薬剤が、フィブリン糊と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを、該疾患の治療に有効な量で含み、
該臍帯組織は、実質的に血液を含まず
該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及びテロメラーゼを発現せず、
前記単離細胞集団は、酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現し、
前記フィブリン糊は、16〜24IU/mLのトロンビンと、39.3〜60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを最終濃度として含み、前記医薬組成物が、前記肢の上肢部および下肢部に筋肉内注射される、
薬剤。
【請求項15】
前記単離細胞集団が、次の特性:
)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうちの1つ又は2つ以上を有する、請求項14に記載の薬剤。
【請求項16】
前記末梢血管疾患が末梢虚血である、請求項14又は15に記載の薬剤。
【請求項17】
前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞又は血管内皮系統に分化する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項18】
前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、請求項14〜17のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項19】
抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物を更に含む、請求項14〜18のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項20】
少なくとも1つの他の細胞種の投与を更に含む、請求項14〜19のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項21】
前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、請求項20に記載の薬剤。
【請求項22】
前記細胞集団が栄養効果をもたらす、請求項14〜16のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項23】
前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、請求項22に記載の薬剤。
【請求項24】
前記細胞集団が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、請求項14〜23のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項25】
前記細胞集団が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、請求項14〜24のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項26】
前記細胞集団が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、請求項14〜25のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項27】
肢に末梢血管疾患を有する患者における再灌流を強化するためのキットであって、フィブリノーゲン、トロンビン、及び、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団を、該疾患の治療に有効な量で含み、
該臍帯組織は、実質的に血液を含まず
該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及びテロメラーゼを発現せず、
前記単離細胞集団は、酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現し、
前記フィブリン糊は、16〜24IU/mLのトロンビンと、39.3〜60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを最終濃度として含み、前記医薬組成物が、前記肢の上肢部および下肢部に筋肉内注射される、
キット。
【請求項28】
使用説明書を更に含む、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記フィブリノーゲン及び前記均質な単離細胞集団が、1つの組成物中にある、請求項27に記載のキット。
【請求項30】
トロンビンが、使用の直前に前記組成物に添加される、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記単離細胞集団が、次の特性:
)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうち1つ又は2つ以上を有する、請求項27に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許出願第11/617,346号(2006年12月28日出願)の一部継続出願であり、これは米国特許仮出願第60/754,366号(2005年12月28日出願)の利益を主張するものであり、この内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、末梢血管疾患患者、特に末梢虚血のある患者の、細胞療法又は再生療法分野に関する。特に本発明は、血管新生を刺激し、血流を改善し、末梢虚血事象により損傷した骨格筋の再生、修復、及び改善を行い、並びに、骨格筋を虚血損傷から保護する能力を有する臍帯組織に由来する細胞を提供する。
【背景技術】
【0003】
本明細書を通して、特許、公開された出願、技術論文及び学術論文などの各種刊行物が引用される。それらの引用された各出版物はその全体が、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0004】
末梢血管疾患(PVD)は、血管(特に四肢の、心臓から離れた領域)におけるアテローム性動脈硬化閉塞により生じ、その閉塞近辺及び下流の組織に対する血流の低下を招き、酸素潅流が不十分になり得る。PVDはしばしば、腸骨血管、大腿及び膝窩血管、鎖骨下血管に現われ、その影響は血栓、塞栓、又は外傷によって悪化し得る。米国では、特に高齢者及び糖尿病患者を含め、約800万〜1200万人がPVDに苦しんでいると推定されている。
【0005】
PVDの一般的な症状には、上肢・下肢及び手足の痙攣、四肢及び手足におけるしびれ、脱力、筋肉疲労、痛み、四肢及び手足の低体温、手足の変色、皮膚の乾燥又は鱗状化、並びに高血圧が挙げられる。最も一般的な症状は、閉塞した血管の下流の筋肉における痛み、緊張、及び疲労による跛行又は感覚であり、これらは歩行などの何らかの運動形態中に起こるが、一定の休止時間後に自然に解消する。
【0006】
病理生理学的には、閉塞した血管は、その閉塞部位及びその遠位側にある組織に虚血を引き起こす。この虚血は一般に末梢虚血と呼ばれ、これは心臓から離れた場所で生じることを意味する。虚血の程度は、閉塞の大きさと数、その閉塞が筋肉又は臓器の近くにあるかどうか、及び十分な重複脈管構造があるかどうかに相関する。より重篤な場合は、虚血に冒された組織に壊死が生じ、冒された四肢の切断、あるいは患者の死亡さえももたらすことがある。
【0007】
より重篤なPVDの現行の治療方法には、化学療法レジメン、血管形成、ステント挿入、再建術、バイパス移植、罹患組織の切除、又は切断が挙げられる。残念ながら、多くの患者にとって、そのようなインターベンションは限られた成功しか収めておらず、多くの患者で、状態又は症状が悪化している。
【0008】
現在、幹細胞(分裂かつ分化が可能)又はその他の供給源(平滑筋細胞及び骨格筋細胞を含む)から得た筋肉細胞のいずれかを用いて、組織損傷の修復又は逆転を支援することに関心が寄せられている。標的組織を再構築するための臨床ツールとして幹細胞移植を利用することにより、生理学的及び解剖学的機能を復元させることができる。幹細胞に関係する本出願の技術は広範に及び、組織工学、遺伝子治療送達及び細胞療法を包含し、すなわち、外部から生細胞又は細胞成分を供給することにより、これらの剤を生産又は含有するバイオ治療薬を標的部位に送達するものである(総括についてはTresco,P.A.et al.(2000)Advanced Drug Delivery Reviews 42:2〜37を参照されたい)。幹細胞の識別により、再生医療用に特定の細胞型を選択的に生成することを目的とした研究が促進されている。
【0009】
これまで、治療法として可能性のある幹細胞技術を実現するにあたり、十分な数の幹細胞を得るのが困難であることが障害であった。胚組織又は胎生組織は幹細胞資源のうちの一つである。これまでに、ヒトを含む数多くの哺乳類種から胚幹細胞及び前駆細胞が単離されており、そのうちの幾つかの細胞型は自己再生能及び増殖能を示し、数多くの異なる細胞系統へと良好に分化することが示されている。しかしながら、胎芽又は胎児の供給源から得た幹細胞の偏差には、倫理的及び道徳的な問題が提起されており、分化複能性又は分化多能性細胞の他の供給源を特定することによりこの問題を回避することが望ましい。
【0010】
臍帯及び胎盤などの分娩後に得られる組織は、幹細胞の代替源として関心を集めている。これまでに、例えば、胎盤の潅流による幹細胞の回収法あるいは臍帯血又は組織からの回収法が報告されている。これらの手法では、得られる臍帯血の量又は細胞の質が不十分であり、並びにこれらの資源より得られる細胞集団の性質が均一でなく又は性質に欠くため、幹細胞の調達法としては限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一連の骨格筋、周細胞、又は脈管系統に分化する能力を有するそのような細胞の実質的に均一な集団を、確実かつ十分に特性付けられた状態で豊富に供給することは、骨格筋の修復、再生及び改善のため、脈管形成の刺激及び/又は支援のため、並びに、特にPVD患者における末梢虚血事象後の血流の改善のための、様々な診断及び治療用途に有利となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、末梢血管疾患を有する患者を治療する方法を特徴とし、この方法は、末梢血管疾患を治療するために、臍帯組織由来細胞の有効量を患者に対して投与することを含み、この臍帯組織由来細胞は、実質的に血液を含まないヒト臍帯組織から誘導され、この細胞は、培養中で自己複製及び増殖が可能であり、少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮表現型に分化する潜在能力を有し、この細胞は、増殖のためにL−バリンを必要とし、少なくとも約5%の酸素中で増殖でき、この細胞は更に、下記の特性のうち少なくとも1つを含む:(a)培養下で少なくとも約40回倍加する潜在能力、(b)コーティングされた、若しくはコーティングされていない組織培養容器上に付着して増殖し、このコーティングされた組織培養容器は、ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、又はフィブロネクチンのコーティングを含む、(c)組織因子、ビメンチン、及びα−平滑筋アクチンのうちの少なくとも1つの産生、(d)CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、PD−L2及びHLA−A、B、Cのうちの少なくとも1つの産生、(e)フローサイトメトリーによって検出されるような、CD31、CD34、CD45、CD80、CD86、CD117、CD141、CD178、B7−H2、HLA−G、及びHLA−DR、DP、DQのうち少なくとも1つの産生の欠如、(f)線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞である、ヒト細胞と比べて、インターロイキン8;レチクロン1;ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド1(黒色腫増殖刺激活性、α);ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド6(顆粒球走化性タンパク質2);ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド3;腫瘍壊死因子、α誘導タンパク質3のうちの、少なくとも1つをコードする遺伝子に関して増大する、遺伝子の発現、(g)線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞のヒト細胞と比べて、低身長ホメオボックス2;熱ショック27kDaタンパク質2;ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド12(ストロマ細胞由来因子1);エラスチン(大動脈弁上狭窄症、ウィリアムズ−ビューレン症候群);ホモサピエンスmRNA;cDNA DKFZp586M2022(クローンDKFZp586M2022由来);間葉ホメオボックス2(増殖停止特異的ホメオボックス);sine oculisホメオボックスホモログ1(ドロソフィラ);クリスタリン、α B;形態形成のdisheveled関連アクチベータ2;DKFZP586B2420タンパク質;ニューラリン1の類似体;テトラネクチン(プラスミノーゲン結合タンパク質);src相同性3(SH3)及びシステイン豊富ドメイン;コレステロール25−ヒドロキシラーゼ;runt関連転写因子3;インターロイキン11受容体α;プロコラーゲンC−エンドペプチダーゼエンハンサー;frizzledホモログ7(ドロソフィラ);仮定的遺伝子BC008967;コラーゲン、VIII型、α 1;テネイシンC(ヘキサブラキオン);iroquoisホメオボックスタンパク質5;へファエスチン;インテグリンβ 8;シナプス小胞糖タンパク質2;神経芽腫、腫瘍形成抑制1;インスリン様増殖因子結合タンパク質2、36kDa;ホモサピエンスcDNA FLJ12280 fis、クローンMAMMA1001744;サイトカイン受容体様因子1;カリウム中間体/低コンダクタンスカルシウム活性化チャネル、サブファミリーN、メンバー4;インテグリン、β 7;PDZ結合モチーフ(TAZ)を有する転写コアクチベータ;sine oculisホメオボックスホモログ2(ドロソフィラ);KIAA1034タンパク質;小胞関連膜タンパク質5(ミオブレビン);EGF含有フィビュリン様細胞外マトリックスタンパク質1;初期成長応答3;distal−lessホメオボックス5;仮定的タンパク質FLJ20373;アルド−ケト還元酵素ファミリー1、メンバーC3(3−αヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、II型);バイグリカン;PDZ結合モチーフ(TAZ)を有する転写コアクチベータ;フィブロネクチン1;プロエンケファリン;インテグリン、β様1(EGF様リピートドメインを有する);ホモサピエンスmRNA完全長インサートcDNAクローンEUROIMAGE 1968422;EphA3;KIAA0367タンパク質;ナトリウム利尿ペプチド受容体C/グアニル酸シクラーゼC(心房ナトリウム利尿ペプチド受容体C);仮定的タンパク質FLJ14054;ホモサピエンスmRNA;cDNA DKFZp564B222(クローンDKFZp564B222由来);BCL2/アデノウイルスE1B 19kDa相互作用タンパク質3様;AE結合タンパク質1;シトクロムcオキシダーゼサブユニットVIIaポリペプチド1(筋肉)、のうちの、少なくとも1つをコードする遺伝子に関して減少する、遺伝子の発現、ニューラリン1の類似体;B細胞転位遺伝子1;仮定的タンパク質FLJ23191;及びDKFZp586L151のうちの、少なくとも1つをコードする遺伝子に関して減少する、遺伝子の発現、(h)MCP−1、IL−6、IL−8、GCP−2、HGF、KGF、FGF、HB−EGF、BDNF、TPO、MIP1b、RANTES、及びTIMP1のうちの、少なくとも1つの分泌、(i)ELISAで検出した場合に、TGF−β2、ANG2、PDGFbb、MIP1a及びVEGFのうち少なくとも1つの分泌の欠如。
【0013】
特定の一実施形態において、この末梢血管疾患は、末梢虚血である。特定の実施形態において、この細胞は、投与の前にインビトロで誘導され、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮系統細胞に分化している。他の実施形態において、この細胞は、末梢血管疾患の治療を促進するため、遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される。
【0014】
本方法の幾つかの実施形態において、細胞は、少なくとも1つの他の細胞種と共に投与され、これには、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞が含まれ得る。この、他の細胞型は、臍帯組織由来細胞と同時に、又は臍帯組織由来細胞の前に、若しくは臍帯組織由来細胞の後に、投与することができる。
【0015】
他の実施形態において、この細胞は、少なくとも1つの他の薬剤と共に投与され、これは例えば、抗血栓薬、抗炎症薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、又は抗アポトーシス薬であり得る。この、他の薬剤は、臍帯組織由来細胞と同時に、又は臍帯組織由来細胞の前に、若しくは臍帯組織由来細胞の後に、投与することができる。
【0016】
この細胞は好ましくは、末梢虚血部位又はその近くに投与されるが、末梢虚血部位から離れた部位に投与することもできる。これらは注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又は細胞を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって、投与することができる。この細胞は、患者の骨格筋、血管平滑筋、又は血管内皮に対して、栄養効果(例えば増殖)をもたらし得る。この細胞は、骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、骨格筋前駆細胞、周細胞、血管平滑筋前駆細胞、又は血管内皮前駆細胞の、末梢血管疾患(例えば末梢虚血)の部位(単数又は複数)への遊走を誘発し得る。
【0017】
本発明の別の一態様は、末梢血管疾患を有する患者を治療するための医薬組成物及びキットを特徴とし、これは、製薬上許容される担体と、上記の臍帯組織由来細胞又はそのような臍帯組織由来細胞から作製される調製物とを含む。幾つかの好ましい実施形態において、この調製物はFGF及びHGFを含む。この医薬組成物及びキットは、上述したような本発明の方法を実施するために設計及び/又は配合される。
【0018】
本発明の別の一態様により、上述の方法は、臍帯組織由来細胞から作製された調製物を使用して実施され、この調製物は、臍帯組織由来細胞の細胞溶解物、臍帯組織由来細胞の細胞外マトリックス、又は臍帯組織由来細胞が増殖した馴化培地を含む。そのような調製物は、FGF及びHGFを含むことが望ましい。
【0019】
本発明の他の態様は、臍帯組織由来細胞の細胞溶解物、細胞外マトリックス、又は馴化培地を含む調製物を包含した医薬組成物及びキットを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態は、末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを含む医薬組成物を、その疾患の治療に有効な量で投与することを含み、この臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない。単離細胞集団は、下記のうち1つ又は2つ以上を有し得る:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
(d)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する。
【0021】
一実施形態において、この末梢血管疾患は、末梢虚血である。この医薬組成物は、末梢虚血の部位に投与される。別の一実施形態において、この医薬組成物は局所的に投与される。一実施形態において、この医薬組成物は、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又はこの医薬組成物を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって、投与される。別の一実施形態において、この医薬組成物は筋肉内注射及び筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって投与される。別の一実施形態において、この医薬組成物は、循環中に直接侵入しないように、間質空間内へ注入することにより投与される。単離細胞集団は、投与前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞、又は血管内皮系統に分化し得る。この細胞集団は、末梢血管疾患の治療を促進するため、遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作され得る。所望により、この組成物は更に、抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を含む。あるいは、この組成物は更に、少なくとも1つの他の細胞種(例えば、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞)を含む。一実施形態において、この医薬組成物は栄養効果(例えば血管内皮細胞の増殖)をもたらす。別の一実施形態において、この医薬組成物は、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、末梢疾患部位への遊走を誘導する。更に別の一実施形態において、この医薬組成物は、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、末梢疾患部位への遊走を誘導する。別の一実施形態において、この医薬組成物は、周細胞の、末梢血管疾患部位への遊走を誘導する。一実施形態において、フィブリン糊はフィブリノーゲン及びトロンビンを含む。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む。
【0022】
本発明の別の一実施形態は、末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊(例えばフィブリノーゲンとトロンビンとを含む組成物)と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを含む医薬組成物を、その疾患の治療に有効な量で投与することを含み、この臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない。この単離細胞集団は、下記の1つ又は2つ以上を含む、他の特徴を有し得る:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
(d)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する。
【0023】
一実施形態において、この末梢血管疾患は末梢虚血であり、かつ所望により、フィブリン糊と細胞集団とが、末梢虚血の部位に投与される。様々な投与経路を使用することができ、これには、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又はこの細胞を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによる投与が挙げられる。一実施形態において、この細胞集団とフィブリン糊とは、局所的に投与される(例えば、筋肉内注射及び筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって)。別の一実施形態において、この細胞とフィブリン糊とは、循環中に直接侵入しないように、間質空間内へ注入することにより投与される。所望により、この単離細胞集団は、投与前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞、又は血管内皮系統に分化する。この細胞集団は、末梢血管疾患の治療を促進するため、遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作され得る。一実施形態において、この方法は更に、抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を投与することを含む。別の一実施形態において、この方法は更に、少なくとも1つの他の細胞種(例えば、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞)を投与することを含む。一実施形態において、この細胞集団は栄養効果(例えば血管内皮細胞の増殖)をもたらす。この細胞集団は、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、末梢疾患部位への遊走を誘導し得る。あるいは、この細胞集団は、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、末梢疾患部位への遊走を誘導し得る。この細胞集団は、周細胞の、末梢血管疾患部位への遊走を誘導し得る。フィブリン糊は、フィブリノーゲンとトロンビンとを含み得る。一実施形態において、このフィブリン糊は、ヒト臍帯組織から得られた単離均質細胞集団と同時に、又はこれより前に、又は後に投与される。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む。
【0024】
本発明の別の一実施形態は、末梢血管疾患を有する患者を治療するためのキットであって、フィブリノーゲン、トロンビン、及び、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団の、その疾患の治療に有効な量を含み、この臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、前記均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない。このキットは更に、使用指示書を含み得る。一実施形態において、フィブリノーゲンと、均質な単離細胞集団とは、使用の直前にトロンビンを添加し得る組成物中に提供される。この単離細胞集団は、下記の1つ又は2つ以上を含む、他の特徴を有し得る:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
(d)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する。
【0025】
一実施形態において、このキットは、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む。一実施形態において、このキットは、フィブリン及び第XII因子を含むフィブリノーゲン構成成分と、トロンビン及びカルシウムを含むトロンビン構成成分とを含む。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は、「発明を実施するための形態」の項とそれに続く実施例を参照することにより理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】内皮細胞増殖における、hUTC(ロット番号120304)、MSC、及び線維芽細胞の影響を示す。共培養の培地(Hayflick 80%+EGM−2MV 20%又はHayflick 50%+EGM−2MV 50%)に、内皮細胞を、細胞5000個/cm(細胞10,000個/ウェル)の密度で24ウェル組織培養皿の底部に播種し、hUTC(ロット番号120304)、MSC、又は線維芽細胞は、細胞5000個/cm(細胞1,650個/インサート)の密度で、トランスウエルインサートの内側に播種した。7日間の共培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。更に内皮細胞を陽性対照として、EGM−2MV培地中に保持した。図1Aは、HUVEC。図1Bは、HCAEC。図1Cは、HIAEC。
図2】内皮細胞増殖における、hUTC(ロット番号120304)及び中和抗体の影響を示す。共培養の培地(Hayflick 50%+EGM−2MV 50%)に、HUVEC又はHCAECを、細胞5000個/cm(細胞10,000個/ウェル)の密度で24ウェル組織培養皿の底部に播種し、hUTC(ロット番号120304)は、細胞5000個/cm(1,650個/インサート)の密度で、トランスウエルインサートの内側に播種した。FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)、又はVEGF(1μg/mL)に対する中和抗体も、この時点で添加された。7日間の共培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。更に内皮細胞を陽性対照として、EGM−2MV培地中に保持した。増殖因子のみで処理された細胞、及び増殖因子と中和抗体で処理された細胞を示す。図2Aは、HUVEC。図2Bは、HCAEC。
図3】HUVECの増殖における、hUTC(ロット番号120304)細胞溶解物及び中和抗体の影響を示す。HUVECは、EGM−2MV培地中細胞5000個/cm(細胞10,000個/ウェル)の密度で24ウェル組織培養皿の底部に播種し、8時間置いた。その後、0.5% FBSを含み増殖因子を含まないEGM−2MV培地0.5mL中で、一晩インキュベーションすることで、細胞を血清枯渇させた。その後、FBS、新たに準備したhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物、及び、FGF(7μg/mL)又はHGF(1μg/mL)に対する中和抗体を加えた。4日間の培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。薄い灰色のバーは培地対照。中程度の灰色のバーは、タンパク質62.5μgを含む溶解物でインキュべーションしたHUVEC。濃い灰色のバーは、タンパク質125μgを含む溶解物でインキュべーションしたHUVEC。
図4】内皮細胞の遊走に対するhUTCとMSCの影響を示す。共培養の培地(Hayflick 50%及びEGM−2MV 50%)に、HUVEC又はHCAECは、細胞5000個/cm(細胞23,000個/インサート)の密度でトランスウエルインサートの内側に播種し、hUTC(ロット番号120304)又はMSCは、6ウェルの組織培養皿の底部に、細胞5000個/cm(細胞48,000個/ウェル)の密度で、播種した。7日間の共培養の後、トランスウエルインサートの下側にあった細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。更に内皮細胞を、対照としてEGM−2MV培地中に保持した。図4Aは、HUVEC。図4Bは、HCAEC。
図5】内皮細胞の遊走における、hUTC(ロット番号120304)及び中和抗体の影響を示す。共培養の培地(Hayflick 50%及びEGM−2MV 50%)に、HUVEC又はHCAECは、細胞5000個/cm(細胞23,000個/インサート)の密度でトランスウエルインサートの内側に播種し、hUTC(ロット番号120304)は、6ウェルの組織培養皿の底部に、細胞5000個/cm(細胞48,000個/ウェル)の密度で、播種した。FGF(7μg/mL)又はHGF(1μg/mL)に対する中和抗体も、この時点で添加された。7日間の共培養の後、トランスウエルインサートの下側にあった細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。更に内皮細胞を、対照としてEGM−2MV培地中に保持した。図5Aは、HUVEC。図5Bは、HCAEC。
図6】実施例5に開示されている研究の、NSGマウスでの実験によるレーザードップラー潅流データを示す。データは平均値±標準誤差として示されている。データポイントの識別は凡例に記載されている。カッコ内の数字は、(1)該当する対照に比較してP<0.001、(2)フィブリンなしのhUTC細胞に比較してP<0.05。
図7】実施例5に開示されている研究の、ヌードマウスでの実験によるレーザードップラー潅流データを示す。データは平均値±標準誤差として示されている。データポイントの識別は凡例に記載されている。カッコ内の数字は、(1)該当する対照に比較してP<0.001、(2)フィブリンなしのhUTC細胞に比較してP<0.05。
図8】実施例6に開示されている研究の、全身的(IV)、局所的(IM)、及び局所的+フィブリン糊投与を比較したレーザードップラー潅流データを示す。データは平均値±標準誤差として示されている。
図9】実施例6に開示されている研究の、局所的(IM)に投与されたフィブリンの離中hUTCの様々な投与量を示したレーザードップラー潅流データを示す。データは平均値±標準誤差として示されている。
図10】実施例6に開示されている研究で損傷後14目の、全身的(IV)、局所的(IM)、及び局所的+フィブリン糊投与を比較したレーザードップラー潅流データを示す。明確にするためデータは平均値として示す。
図11】実施例7に開示されている研究のレーザードップラー潅流データを示す。データポイントの識別は凡例に記載されている。は、P<0.05、***は、P<0.001。
図12】実施例7に開示されている研究の、21日目まで生存したマウスの虚血肢を非虚血肢と比較した毛細血管の密度を示す。
図13】実施例7に開示されている研究の、21日目まで生存したマウスの虚血肢を非虚血肢と比較した小動脈の密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書及び請求項を通して様々な用語が使用される。これらの用語には、特に断らないかぎりは当該技術分野における通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義される用語は、本明細書に提供される定義と一致する様式で解釈される。
【0029】
「幹細胞」は、単一細胞の、自己複製する能力、並びに自己複製前駆細胞、非複製前駆細胞、及び最終分化細胞を含めた子孫細胞を産生するために分化する能力の双方によって定義される、未分化細胞である。幹細胞はまた、インビトロで、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)から、様々な細胞系統の機能的細胞へと分化する能力によって、並びに、移植後に、複数の胚葉の組織を生じさせる能力、及び胚盤胞内への注射後に、全てではないが殆どの組織に、実質的に寄与する能力によって、特徴付けられる。
【0030】
幹細胞は、その発達能によって、(1)全能性、(2)多能性、(3)複能性、(4)少能性、及び(5)単能性として分類される。「全能性」細胞は、全ての胚細胞型及び胚体外細胞型を生じさせることが可能である。「多能性」細胞は、全ての胚細胞型を生じさせることが可能である。「複能性」細胞には、細胞系統のサブセットで、特定の組織、臓器、又は生理系内の全てを生じさせることが可能であるものが含まれる。例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血球限定の少能性前駆細胞、並びに血液の正常構成要素である全ての細胞型及び成分を含む子孫を生成することができる。「少能性」細胞は、複能性幹細胞より制限された細胞系統サブセットを生じさせることができる。「単能性」細胞は、単一の細胞系統(例えば精子発生幹細胞など)を生じさせることができる。
【0031】
幹細胞はまた、それらの幹細胞を得ることができる供給源に基づいても分類される。「成体幹細胞」は、全般的には、複数の分化細胞型を含む組織内に見出される、複能性の未分化細胞である。成体幹細胞は、自己複製することができる。通常の状況下では、成体幹細胞はまた、その細胞が起源とする組織の、特殊化した細胞型、また恐らくは他の組織型を産生するように、分化することもできる。「胚幹細胞」は、胚盤胞期の胚の内部細胞塊からの、多能性細胞である。「胎生幹細胞」は、胎児組織又は胎膜を起源とする幹細胞である。「分娩後幹細胞」は、出産後に入手可能な胚体外組織、すなわち、胎盤及び臍帯を実質的に起源とする、複能性若しくは多能性の細胞である。これらの細胞は、迅速な増殖、及び多くの細胞系統への分化に関する潜在能力を含めた、多能性幹細胞に固有の特徴を保有することが見出されている。分娩後幹細胞は、血液由来(例えば、臍帯血から得られる幹細胞のような)又は非血液由来(例えば、臍帯及び胎盤の非血液組織から得られるような)のものとすることができる。
【0032】
「胚組織」は、典型的には、胚(ヒトでは、受精から、約6週間の発達までの期間を指す)を起源とする組織として定義される。胎児組織は、ヒトでは約6週間の発達から分娩までの期間を指す、胎児に由来する組織を指す。胚体外組織は、胚又は胎児に関連するが、胚又は胎児を起源とはしない組織である。胚体外組織としては、胚体外膜(絨毛膜、羊膜、卵黄嚢、及び尿膜)、臍帯、及び胎盤(それ自体は、絨毛膜及び母体基底脱落膜から形成される)が挙げられる。
【0033】
「分化」は、特殊化されていない(「未確定の」)細胞、又は比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの、特殊化細胞の特徴を獲得するプロセスである。「分化した」細胞は、細胞の系統の範囲内で、より特殊化した(「確定した」)状態を呈している細胞である。「確定した」という用語は、分化のプロセスに適用される場合、通常の状況下では、特定の細胞型又は細胞型のサブセットへと分化を継続して、通常の状況下では、異なる細胞型へと分化することも、又はより未分化の細胞型に復帰することもできない地点まで、分化経路が進行している細胞を指す。「脱分化」は、細胞が細胞系統内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用されるとき、細胞の「系統」は、その細胞の遺伝性、すなわち、その細胞がどの細胞に由来するか、またその細胞がどのような細胞を生じさせることができるかを規定する。ある細胞の系統とは、所定の発生及び分化の遺伝体系内にその細胞を位置付けるものである。
【0034】
広義には、「前駆細胞」は、それ自体よりも分化した子孫を作り出す能力を有し、かつ前駆細胞のプールを補充する能力を更に保持する細胞である。その定義によれば、幹細胞自体もまた、最終分化細胞へのより直接的な前駆細胞であるため、前駆細胞である。以下でより詳細に説明されるように、本発明の細胞に言及する場合、この広い意味での前駆細胞の定義を使用することができる。より狭義には、前駆細胞は、分化経路での中間体である細胞として定義される場合が多く、すなわち、前駆細胞は、幹細胞から生じるものであり、成熟細胞型又は細胞型のサブセットを産生する際の中間体である。このタイプの前駆細胞は、全般的には、自己複製が不可能である。したがって、このタイプの細胞が、本明細書で言及される場合には、その細胞は、「非複製前駆細胞」、又は「中間的前駆体」若しくは「中間的前駆細胞」と称される。
【0035】
本明細書で使用されるとき、「中胚葉性、外胚葉性又は内胚葉性系統に分化する」という表現は、それぞれ、特定の中胚葉性、外胚葉性又は内胚葉性系統になることが確定した細胞を指す。中胚葉性系統に分化する(特定の中胚葉性細胞を生じさせる)細胞の例としては、脂肪形成、軟骨形成、心臓形成、皮膚形成、造血、血管形成、筋形成、神経形成、尿生殖器形成、骨形成、心膜形成(pericardiogenic)、又は間質性細胞が挙げられるがこれらに限定されない。外胚葉性系統に分化する細胞の例としては、上皮細胞、神経形成細胞、及び神経膠形成細胞が挙げられるがこれらに限定されない。内胚葉性系統に分化する細胞の例としては、多能性細胞、肝臓形成細胞、腸の内層を生じさせる細胞、並びに膵臓形成及び脾臓形成細胞を生じさせる細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明に使用される細胞は一般に、「臍帯組織由来細胞(UTC又はhUTC)」を指すものとして一般的に引用される。それらの細胞はまた、場合によって、「臍由来細胞(UDC)」と称することもできる。更には、それらの細胞は、幹細胞又は前駆細胞であるとして説明することができ、後者の用語は、広義に使用される。由来する、という用語は、その細胞が、それらの生物学的起源から得られ、インビトロで、増殖されているか又は他の方法で操作されている(例えば、増殖培地中で培養されて、その集団を増殖させ、かつ/又は細胞株を産生する)ことを示すために使用される。臍幹細胞のインビトロ操作、及び本発明の臍由来細胞の独自の特徴が、以下で詳細に説明される。
【0037】
「周細胞」は、当該技術分野においてルジェ細胞とも呼ばれ、典型的に微小血管の血管基底膜内に埋め込まれた状態で見出される細胞を指し(Armulik A et al.(2005)Circ.Res.97:512〜23)、これは、とりわけ、内皮細胞とのコミュニケーション/シグナリング、血管収縮、血管拡張、血流の調節、血管形成及び発達、血管形成、並びに内皮分化及び成長の停止において、役割を果たしていると考えられている(Bergers G et al.(2005)Neuro−Oncology 7:452〜64)。
【0038】
培養中の細胞を説明するうえで様々な用語が用いられる。「細胞培養物」とは、全般的には、生体から取得され、制御条件下で増殖される(「培養下」又は「培養される」)細胞を指す。「初代細胞培養物」は、最初の継代培養の前に、生物から直接取得された細胞、組織、又は器官の培養物である。細胞は、細胞増殖及び/又は細胞分裂を促進する条件下で、増殖培地内に定置される場合に、培養増殖して、細胞の大集団を生じさせる。細胞を培養中で増殖させる場合、細胞増殖の速度は、細胞の数が倍加するのに必要な時間の量によってしばしば測定される。この時間は、「倍加時間」と称される。
【0039】
「細胞株」は、初代細胞培養物の1回以上の継代培養によって形成される、細胞の集団である。継代培養の各回は、「継代数」と呼ばれる。細胞が継代培養される場合、それらの細胞は、「継代されている」として言及される。特定の細胞の集団又は細胞株は、細胞が継代された数によってしばしば呼ばれるか又は特徴付けられる。例えば、10回継代された培養細胞集団はP10培養物と呼ばれる場合がある。初代培養、すなわち、組織から細胞を単離した後の最初の培養はP0と称される。最初の継代培養の後、細胞は2次培養(P1又は継代数1)といわれる。2回目の継代培養の後では、細胞は3次培養(P2又は継代数2)となる、といった具合である。当業者であれば、継代期間中に集団は何度も倍加し得るものであり、したがってある培養の集団倍加の回数は継代数よりも大きいことは理解されるであろう。それぞれの継代間の期間における細胞の増殖(すなわち、集団倍加数)は、播種密度、支持体、培地、培養条件、及び継代間の時間等を含むがこれらに限定されない多くの因子に依存する。
【0040】
「馴化培地」は、特定の細胞又は細胞の集団が、その中で培養されて、その後取り出された、培地である。細胞が培地中で培養される場合、それらの細胞は、他の細胞に栄養的支援を提供することができる細胞因子を、分泌する場合がある。そのような栄養因子としては、ホルモン、サイトカイン、細胞外マトリックス(ECM)、タンパク質、小胞、抗体、及び顆粒が挙げられるが、これらに限定されない。細胞性因子を含む培地が馴化培地である。
【0041】
一般的に、「栄養因子」は、細胞の生存、成長、増殖、及び/又は成熟を促進するか、あるいは細胞の活性の増大を刺激する物質として定義される。
【0042】
培養脊椎動物細胞に言及する場合、「老化」という用語(同様に、「複製老化」又は「細胞老化」)は、有限の細胞培養に起因する特性、すなわち、それらの細胞が、有限数の集団倍加(「ヘイフリック限界」と称される場合がある)を超えて増殖する能力がないことを指す。細胞老化は、最初に、線維芽細胞様細胞を使用して説明されたが、培養下で成功裏に増殖させることができる、殆どの正常ヒト細胞型が、細胞老化を経る。種々の細胞型のインビトロでの寿命は、様々であるが、その最大寿命は、典型的には、100回未満の集団倍加である(これは、全ての培養細胞が老化することにより、その培養物を分裂不能にさせる、倍化の数である)。老化は、経時的な時間に応じて決定されるものではなく、むしろ、その培養物が経験している、細胞分裂又は集団倍加の数によって測定される。それゆえ、必須増殖因子を除去することによって休止させた細胞は、増殖因子が再導入されると、成長及び分裂を再開して、その後、継続的に増殖させた等価の細胞と同じ数の倍加を実施することが可能となる。同様に、様々な数の集団倍加の後に、液体窒素中で細胞を凍結させ、次いで解凍して培養する場合、それらの細胞は、未凍結のまま維持された培養細胞と実質的に同じ数の倍加を経る。老化細胞は、死細胞又は死に至りつつある細胞ではなく、実際には、プログラム細胞死(アポトーシス)に耐性を示し、3年もの長い間、その非分裂状態で維持されている。これらの細胞は、紛れもなく生存しており、代謝的に活性であるが、分裂することはない。この老化細胞の非分裂状態は、いずれの生物学的薬剤、化学的薬剤、又はウイルス剤によっても、可逆性であることは、未だに見出されていない。
【0043】
本明細書で使用される用語「増殖培地」は、全般に、臍帯組織由来細胞の培養に十分な培地を指す。具体的には、本発明の細胞の培養に関して、現時点で好ましい1つの培地は、ダルベッコ変法必須培地(DMEM)を含む。DMEM−低グルコース(DMEM−LG)(Invitrogen(Carlsbad,CA))が、特に好ましい。このDMEM−LGは、血清(最も好ましくはウシ胎児血清又はヒト血清)が添加されている。典型的に、15%(v/v)ウシ胎児血清(例えば、規定ウシ胎児血清、Hyclone(Logan UT))が、抗生物質/抗真菌剤(好ましくは100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、及び0.25mg/mLのアンホテリシンB(Invitrogen(Carlsbad,CA)))、並びに0.001%(v/v)の2−メルカプトエタノール(Sigma(St.Louis MO))と共に添加される。場合によっては、異なる増殖培地が使用されるか、又は異なる補助剤が提供され、これらは、通常は、増殖培地に対する補助剤として、本テキスト内に示される。特定の合成培地においては、細胞は血清が全く存在しない中で増殖し得る。そのような場合、細胞は特定の増殖因子を必要とする場合があり、これは細胞の支持及び維持のために培地に添加することができる。現在、無血清培地での増殖のために添加される好ましい因子としては、bFGF、EGF、IGF−I、及びPDGFのうち1つ又は2つ以上が挙げられる。より好ましい実施形態において、因子のうち2つ、3つ、又は4つ全てが無血清培地又は合成培地に添加される。他の実施形態において、細胞の増殖を支持又は改善するために、無血清培地にLIFが添加される。
【0044】
また本発明に関して、本明細書で使用されるとき、用語「標準増殖条件」とは、5%のCOを含む標準雰囲気中、37℃で細胞を培養することを指す。相対湿度は約100%に維持される。前述の条件は、培養に関して有用であるが、そのような条件は、細胞を培養するための、当該技術分野において利用可能な選択肢を認識する当業者によって、変更することが可能である点を理解されたい。
【0045】
用語「有効量」とは、本明細書で記述されるとき、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、化合物、材料、又は組成物の、濃度又は量を指す。そのような結果には、骨格組織の再生、修復若しくは改善、血流の改善、並びに/又は末梢虚血患者における血管形成の刺激及び/又は支持が挙げられるがこれらに限定されない。そのような有効活性は、例えば、本発明の細胞及び/又は組成物を、末梢虚血患者に対して投与することにより、達成することができる。インビボで患者に投与される臍帯組織由来細胞に関しては、有効量は、最小で数百個〜最多で数百万個超までの範囲であり得る。具体的な実施形態では、有効量は、10〜1011個の細胞の範囲、より具体的には、少なくとも約10個の細胞であり得る。投与される細胞の数は、治療される障害の詳細に応じて決定され、それらの詳細としては、医薬生物学者には周知の、他の要因の中でも特に、治療されるサイズ又は総容積/表面積、並びに治療される領域の場所に対する、投与部位の近接性が挙げられるが、これらに限定されないことが理解されるであろう。
【0046】
用語「治療する(treat)」、「治療している(treating)」又は「治療(treatment)」は、損傷、病理、又は病状の減弱又は改善における、何らかの成功又は成功の兆候を指し、これには、寛解(abatement)、緩解(remission)、症状の減少、損傷、病理、又は病状を患者にとってより許容できるものにすること、変性又は減退速度を遅くすること、変性による最終的な衰弱を和らげること、あるいは患者の肉体的又は精神的健康を改善すること、生存期間の長さを延長することなどの、何らかの客観的又は主観的パラメータを含む。症状の治療又は改善は、身体検査、神経学的検査及び/又は精神医学的評価の結果など客観的又は主観的パラメータに基づくものであり得る。
【0047】
「有効期間(又は時間)」及び「有効条件」という用語は、薬剤又は医薬組成物が、その意図された結果を達成するために必要であるか、若しくは好ましい、期間あるいは他の制御可能な条件(例えば、インビトロの方法に関しては、温度、湿度)を指す。
【0048】
用語「患者」又は「被験者」は、本明細書において互換可能に使用され、本明細書に記述される薬剤若しくは治療用組成物で治療されるか、又は、本明細書に記述される方法に従って治療される、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。
【0049】
「虚血」とは、脈管構造の何らかの狭窄又は閉塞によって起こる、生体臓器、組織、又は部分への血液供給の減少若しくは停止を指す。「虚血エピソード」又は「虚血イベント」は、本明細書において互換可能に使用され、何らかの一過性又は永久的虚血を指す。「末梢虚血」とは、脈管構造の何らかの狭窄又は閉塞によって起こる、心臓を除く、生体臓器、組織、又は部分への血液供給の減少若しくは停止を指す。「末梢血管疾患」(PVD)は、心臓及び脳以外の血管の疾患を指す。これはしばしば、四肢へ血管を運ぶ血管の狭窄を含み、次の2つのタイプの循環障害により起こるものである:(1)血管を狭める短期的な痙攣を含む機能的末梢血管疾患、(2)例えば炎症又は脂質妨害物によって起こる、血管内の構造的変化を含む器質的末梢血管疾患。本明細書で使用されるとき、PVDにはレイノー病、間欠性跛行及び重症虚血肢も含まれる。
【0050】
「薬学的に許容できる担体(又は培地)」という用語は、生物学的に適合可能な担体又は培地という用語と、互換的に使用することができ、治療的に投与される細胞及び他の薬剤と適合可能であるばかりではなく、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスクの比率に見合った、過度の毒性、炎症、アレルギー反応、若しくは他の合併症を伴わない、ヒト及び動物の組織と接触させる使用に関しても好適である、試薬、細胞、化合物、材料、組成物、並びに/あるいは剤形を指す。本明細書でより詳細に説明されるように、本発明での使用に関して好適な、薬学的に許容できる担体としては、液体材料、反固体材料(例えば、ゲル)、及び固体材料(例えば、細胞スカフォールド及びマトリックス、管、シート、並びに当該技術分野において既知であり、かつ本明細書でより詳細に説明されるような他の材料)が挙げられる。これらの反固体材料及び固体材料は、身体内部での分解に抵抗するように(「非生分解性」)設計することができ、又はそれらの材料は、身体内部で分解するように(「生分解性」、「生物浸食性」)設計することもできる。生分解性材料は、更に、「生体再吸収性」又は「生体吸収性」とすることができ、すなわち、その材料は、体液内に溶解して吸収される(水溶性インプラントが一例である)か、あるいは他の材料への転化によって、若しくは自然経路を通じた崩壊及び排出によって、分解され、最終的に身体から排出されることが可能である。生分解速度は、体内に埋め込まれた後の望ましい放出速度によって異なり得る。このマトリックスはまた、望ましいように、新たに成長する骨格筋、周細胞、血管平滑筋、又は血管内皮組織によって置き換えられるまでの間、一時的なスカフォールドとして機能する。よって、一実施形態において、このマトリックスは、臍帯組織由来細胞と共に使用される他の持続放出性薬剤のために提供され、かつ患者における組織成長のための構造を提供し得る。他の実施形態において、このマトリックスは単に、組織発生のための一時的なスカフォールドを提供する。このマトリックスは、粒子状形態(直径10マイクロメートル超のマクロ粒子、又は直径10マイクロメートル未満のミクロ粒子)であってよく、あるいは、構造的に安定した3次元インプラント(例えばスカフォールド)の形態であってもよい。インプラントは例えば、立方体、円筒形、チューブ、ブロック、フィルム、シート、又は適切な解剖学的形態であり得る。
【0051】
本明細書では、細胞又は組織移植に関して幾つかの用語が使用される。用語「自家移入」、「自家移植」、「自家移植片」などの用語は、移植ドナーが移植レシピエントでもある移植を指す。用語「同種異系移入」、「同種異系移植」、「同種異系移植片」などの用語は、移植ドナーが移植レシピエントと同じ種であるが、同じ個体ではないような移植を指す。ドナー細胞が、レシピエントと組織適合的に一致している細胞移植は、「同系移入」と称される場合がある。用語「異種移入」、「異種移植」、「異種移植片」などの用語は、移植ドナーがその移植レシピエントとは異なる種であるような移植を指す。
【0052】
本明細書で説明される様々な実施形態において、本発明は、臍組織に由来する前駆細胞及び細胞集団を利用する、末梢血管疾患治療のための、方法及び医薬組成物を特徴とする。これらの方法及び医薬組成物は、血管形成を刺激及び支持し、血流を改善し、末梢血管イベントによって損傷した骨格筋を再生、修復及び改善し、並びに/又は骨格筋を虚血損傷から保護するよう設計される。本発明の医薬品調製及び方法に使用される、細胞溶解物、馴化培地などを含む細胞、細胞集団及び調製物は、米国特許公開第2005/0058631号及び第2005/0054098号、並びに本明細書で下記に詳述されている。
【0053】
本発明の一実施形態は、本明細書に記述される臍帯組織由来細胞による末梢血管疾患の治療方法である。本発明の一実施形態において、この細胞は、医薬組成物の一部として提供される。
【0054】
本発明の別の一実施形態において、末梢血管疾患の治療方法は、フィブリン糊(フィブリンシーラントとも呼ばれる)を利用する。本明細書で使用される用語「フィブリン糊」は、フィブリン凝固を形成するために使用される任意の生物学的又は合成物質を包含するものとする。一実施形態において、このフィブリン糊は細胞着床のためのスカフォールドである。このフィブリン糊は最適なように、十分な期間、体内での分解に耐える能力を有する。一実施形態において、このフィブリン糊は、フィブリノーゲン(第I因子)(例えば組換えフィブリノーゲン又は血液から精製されたフィブリノーゲン)及びトロンビンを含む。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、フィブリノーゲン、トロンビン、第XIII因子、並びに所望により、カルシウム、アプロチニン、フィブロネクチン及びプラスミノーゲンのうち1つ又は2つ以上を含む。更に別の一実施形態において、このフィブリン糊は、フィブリノーゲン、トロンビン、並びに所望により、第XIII因子、抗フィブリン分解(anti-fribinolytic)剤(例えばトラネキサム酸(transexamic acid))、安定剤(例えばアルギニン塩酸塩)、カルシウム、アプロチニン、フィブロネクチン及びプラスミノーゲンのうち1つ又は2つ以上を含む。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、添加されたプロテアーゼ阻害剤を実質的に含まない。更に別の一実施形態において、このフィブリン糊は、BAC2(フィブリノーゲン)及びトロンビンを含む。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、EVICEL(登録商標)フィブリン糊(EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(ヒト)、Omrix Pharmaceuticals)(トロンビン及びBAC2(フィブリノーゲン))である。一実施形態において、このフィブリン糊は多成分系として提供することができ、これは、フィブリン(及び所望により第XIII因子)を含む1つの構成成分と、トロンビン(及び所望に寄りカルシウム)を含むもう1つの構成成分とが使用前に混合される。別の一実施形態において、このフィブリン糊は、米国特許仮出願第61/372,929号(2010年8月12日)に記述されているスカフォールドであり、このフィブリンスカフォールドの記述、特性及び使用に関する開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
このフィブリン糊は、本明細書に記述される臍帯組織由来細胞(臍由来細胞)と同時に、又は前に、又は後に投与することができる。一実施形態において、このフィブリン糊と本明細書に記述される臍由来細胞は、例えば医薬組成物などの組成物の形態で提供される。一実施形態において、この組成物は局所的に投与される(例えば筋肉注射又は筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって)。別の一実施形態において、このフィブリン糊と本明細書に記述される臍由来細胞は、局所的に投与される(例えば筋肉注射又は筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって)。別の一実施形態において、この組成物、又は細胞とフィブリン糊とは、循環中に直接侵入しないように、間質空間内へ注入することにより投与される。別の一実施形態において、この方法は、局所投与の直前にトロンビンが添加されたフィブリノーゲン中の細胞を提供することを含む。一実施形態において、このフィブリン糊は、約16〜約24IU/mL、あるいは18〜22IU/mLのトロンビンと、約39.3〜60.7mg/mL、あるいは約45〜約60mg/mL、あるいは約40〜約55mg/mL、あるいは約45〜約55mg/mLのフィブリノーゲン(例えばBAC2)とを含む。更に別の一実施形態において、このフィブリン糊は、約16、17、18、19、20、21、22、23又は24IU/mLのトロンビンと、約40、43、45、48、50、52、53、58又は60mg/mLのフィブリノーゲンとを含む。一実施形態において、約1×10個の細胞がこのフィブリン糊と共に使用される。
【0056】
本明細書で説明される方法によれば、哺乳類の臍帯は、満期妊娠若しくは早期妊娠のいずれかの終了時に、又はその直後に、例えば、出産後の圧出の後に回収される。この臍帯組織は、出産部位から、実験室へと、フラスコ、ビーカー、培養皿、又は袋などの、滅菌容器内で移送することができる。この容器は、溶液又は培地を含み得、それらの溶液又は培地としては、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ダルベッコ最小必須培地とも呼ばれる)若しくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの、食塩水、又はウィスコンシン大学液若しくはペルフルオロ化合物溶液などの、移植に使用される器官の移送のために使用される、任意の溶液が挙げられるが、これらに限定されない。限定するものではないが、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、及びナイスタチンなどの、1種以上の抗生物質及び/又は抗真菌剤を、培地若しくは緩衝液に添加することができる。臍組織は、ヘパリン含有溶液などの抗凝固溶液で、すすぐことができる。臍帯組織由来細胞の抽出の前に、この組織を約4〜10℃に保つことが好ましい。この組織は、臍由来細胞の抽出の前に凍結させないことが、更により好ましい。
【0057】
臍由来細胞の分離は好ましくは無菌的環境中で行われる。臍帯は、当該技術分野において既知の手段によって、胎盤から分離することができる。好ましくは、臍帯組織由来細胞の分離を行う前に、血液及び屑を組織から除去する。例えば、この臍組織は、緩衝溶液(リン酸緩衝生理食塩水を含むがこれに限定されない)で洗浄することができる。この洗浄緩衝液はまた、1種以上の抗真菌剤及び/又は抗生物質(例えばペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、及びナイスタチンを含むがこれらに限定されない)も含み得る。
【0058】
臍帯全体又はその断片若しくは切片を含む臍組織は、機械的な力(細断力又は剪断力)によって脱凝集される。現時点で好ましい実施形態では、この単離手順はまた、酵素消化プロセスも利用する。多くの酵素が、培養下での増殖を促進するための、複合組織マトリックスからの個々の細胞の単離に関して有用であることは、当該技術分野において既知である。弱い消化性(例えば、デオキシリボヌクレアーゼ、及び中性プロテアーゼであるディスパーゼ)から、強い消化性(例えば、パパイン及びトリプシン)の範囲にわたる消化酵素が市販されている。本明細書に適合する酵素の非網羅的なリストとしては、粘液溶解酵素活性、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、又はエラスターゼなど)、及びデオキシリボヌクレアーゼが挙げられる。メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、及び粘液溶解活性から選択される酵素活性が、現時点で好ましい。例えば、コラゲナーゼは、組織から様々な細胞を単離するために有用であることが既知である。デオキシリボヌクレアーゼは、一本鎖DNAを消化することができ、単離中の細胞凝集を最小限に抑えることができる。好ましい方法には、例えばコラゲナーゼ及びディスパーゼで、又はコラゲナーゼ、ディスパーゼ及びヒアルロニダーゼで、酵素処置することが含まれる。特定の実施形態において、コラゲナーゼと中性プロテアーゼディスパーゼの混合物が、この分離段階に使用される。より具体的な実施形態では、Clostridium histolyticum由来の少なくとも1種のコラゲナーゼ、並びにプロテアーゼ活性のディスパーゼ、及びサーモリシンのいずれかの存在下での消化を採用する。更に別の実施形態では、コラゲナーゼとディスパーゼ両方の酵素活性での消化を採用する。また、コラゲナーゼ活性及びディスパーゼ活性に加えて、ヒアルロニダーゼ活性での消化を含む方法も利用される。様々な組織源から細胞を単離するための、そのような多くの酵素処理が、当該技術分野において既知であることが、当業者には理解されるであろう。例えば、商標名LIBERASE(登録商標)(Roche(Indianapolis,IN))として販売されている組織解離用酵素配合物が、当該方法での使用に好適である。他の酵素の供給源が既知であり、当業者はまた、そのような酵素を、それらの天然源から直接取得することもできる。当業者はまた、本発明の細胞を単離する際の有用性に関して、新たな、又は追加的な酵素若しくは酵素の組合せを評価するための設備も、十分に備えている。好ましい酵素処理は、0.5時間、1時間、1.5時間、又は2時間以上の長さである。他の好ましい実施形態では、組織は、この解離段階の酵素処理の間、37℃でインキュベートされる。
【0059】
本発明の幾つかの実施形態において、臍組織は、例えば、新生児、新生児/母体、及び胎盤の母体の態様などの、様々な組織の態様を含む切片へと分離される。次いで、分離された切片は、本明細書で説明される方法に従って、機械的解離及び/又は酵素的解離によって解離される。新生児系統又は母体系統の細胞は、当該技術分野において既知の任意の手段によって、例えば、Y染色体に関する、核型分析又はその場ハイブリダイゼーションによって、同定することができる。
【0060】
分離された細胞、又は細胞が由来する臍組織は、細胞培養を開始又は播種するのに使用することができる。細胞外マトリックス又はリガンド、例えば、ラミニン、コラーゲン(ネイティブ、未変性、又は架橋)、ゼラチン、フィブロネクチン、及びその他の細胞外マトリックスタンパク質によりコーティングしていない又はコーティングした組織培養用滅菌容器に単離細胞を移入する。臍帯由来細胞は、細胞の生育を維持することのできる任意の培養培地で培養し、これには例えば、DMEM(高又は低グルコース)、改変DMEM、DMEM/MCDB 201、イーグル基本培地、ハムF10培地(F10)、ハムF−12培地(F12)、イスコフ改変ダルベッコ培地、間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM)、DMEM/F12、RPMI 1640、及び商標名CELL−GRO−FREE(登録商標)(Mediatech,Inc.(Herndon,VA))として販売されている無血清培地(serum/media free medium)などが挙げられるがこれらに限定されない。この培養培地は、例えば、好ましくは約2〜15%(v/v)のウシ胎児血清(FBS);ウマ血清(ES);ヒト血清(HS);好ましくは約0.001%(v/v)のβ−メルカプトエタノール(BME又は2−ME);1種以上の増殖因子、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、白血球阻止因子(LIF)、及びエリスロポエチン(EPO);L−バリンを含むアミノ酸;例えば、単独若しくは組合せでの、ペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、及びナイスタチンなどの、微生物汚染を制御するための、1種以上の抗生物質並びに/あるいは抗真菌剤を含めた、1種以上の構成成分を添加することができる。培養培地は好ましくは、下記の実施例で定義される増殖培地を含む。
【0061】
細胞は、細胞増殖を可能にする密度で、培養容器中に播種される。好ましい実施形態では、細胞は、空気中約0〜約5体積パーセントのCOで培養される。一部の好ましい実施形態では、細胞は、空気中約2〜約25パーセントのOで、好ましくは、空気中約5〜約20パーセントのOで培養される。細胞は、好ましくは、約25〜約40℃の温度で培養され、より好ましくは、約37℃の温度で培養される。細胞は、好ましくは、インキュベータ内で培養される。培養容器内の培地は、静的状態とすることができ、又は例えば、バイオリアクターを使用して、攪拌することもできる。臍帯由来細胞は、好ましくは、低酸化ストレス下で(例えば、グルタチオン、ビタミンC、カタラーゼ、ビタミンE、N−アセチルシステインを添加して)生育させる。「低酸化ストレス」とは、本明細書で使用されるとき、フリーラジカルが培養細胞に損傷を与えないか、又は損傷が最低限に抑えられる条件を指す。
【0062】
最も適切な細胞培地、培地調製、及び細胞培養技術の選択方法は、当該技術分野において周知であり、Doyle et al.(編)、1995年、「CELL & TISSUE CULTURE:LABORATORY PROCEDURES」、John Wiley & Sons(Chichester);Ho及びWang(編)、1991年、「ANIMAL CELL BIOREACTORS」、Butterworth−Heinemann(Boston)を含めた、様々な出展で説明され、それらは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
単離された細胞又は組織断片を、十分な期間にわたって培養した後に、臍組織からの遊走、若しくは細胞分裂のいずれか、又は双方の結果として、臍帯組織由来細胞が増殖することとなる。本発明の一部の実施形態では、臍帯組織由来細胞は、継代され、すなわち、最初に使用されたものと同じタイプ、若しくは異なるタイプの新鮮培地を収容する、別個の培養容器に取り出され、その細胞の集団は、有糸分裂的に増殖することができる。本発明の細胞は、継代数0と老化との間の任意の時点で、使用することができる。この細胞は、好ましくは、約3回〜約25回継代され、より好ましくは、約4回〜約12回継代され、好ましくは、10回又は11回継代される。クローニング及び/又はサブクローニングを実行することにより、細胞のクローン集団が単離されていることを確認することができる。
【0064】
本発明の幾つかの態様において、臍帯組織内に存在する種々の細胞型は、その臍帯組織由来細胞を単離することができるサブ集団へと分画される。分画又は選択は、細胞分離のための標準的技術を使用して達成することができ、それらの標準的技術としては、臍組織をその構成細胞へと解離する酵素処理、その後の特定の細胞型のクローニング及び選択、例えば、形態学的マーカー及び/又は生化学的マーカーに基づく選択;所望される細胞の選択的増殖(正の選択)、不必要な細胞の選択的破壊(負の選択);例えば大豆凝集素を使用するような、混合集団中での示差的な細胞凝集能に基づく分離;凍結−解凍手順;混合集団中での示差的な細胞接着特性;濾過;従来の遠心分離法及びゾーン遠心分離法;遠心溶出法(対向流遠心分離法);単位重力分離法;向流分布法;電気泳動;及び蛍光活性化セルソーター(FACS)が挙げられるが、これらに限定されない。クローン選択及び細胞分離技術の概説に関しては、参照により本明細書に組み込まれる、Freshney,1994,CULTURE OF ANIMAL CELLS:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES,3rd Ed.,Wiley−Liss,Inc.,New Yorkを参照されたい。
【0065】
培養培地は、例えば、必要に応じて、例えばピペットで、皿から培地を慎重に吸引して、新鮮培地を補充することによって変更される。インキュベーションは、十分な数又は密度の細胞が、皿内に蓄積するまで継続される。標準的技術を使用して、又はセルスクレーパーを使用して、元の外移植組織の切片を取り出し、残余の細胞をトリプシン処理することができる。トリプシン処理の後、細胞を収集して、新鮮培地に取り出し、上記のようにインキュベートする。一部の実施形態では、培地は、トリプシン処理の約24時間後に、少なくとも1回交換して、あらゆる浮遊細胞を除去する。培養中に残る細胞は、臍帯組織由来細胞であると見なされる。
【0066】
臍帯組織由来細胞は、凍結保存することができる。したがって、下記で詳細に説明される、好ましい一実施形態において、自家移入に関する(母又は子のいずれかに関する)臍帯組織由来細胞は、子供の誕生後に適切な臍組織から誘導して、次いで、それらが後に移植に必要とされる場合に利用可能となるように、凍結保存することができる。
【0067】
臍帯組織由来細胞は、例えば、増殖特性(例えば、集団倍加能力、倍加時間、老化までの継代数)、核型分析(例えば、正常核型;母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープの検出に関する)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;ポリメラーゼ連鎖反応(例えば、逆転写酵素PCR、リアルタイムPCR、及び従来のPCR))、タンパク質アレイ、タンパク質分泌(例えば、血漿凝固アッセイ又はPDC−馴化培地の分析によるもの、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によるもの)、混合リンパ球反応(例えば、PBMCの刺激の尺度として)、並びに/あるいは当技術分野において既知の他の方法によって、特徴付けることができる。
【0068】
臍組織由来の細胞の例は、2004年6月10日に、American Type Culture Collection(ATCC(10801 University Blvd.,Manassas,VA))に寄託されており、以下のATCCアクセッション番号が割り当てられている:(1)菌株表示UMB 022803(P7)は、アクセッション番号PTA−6067が割り当てられ;(2)菌株表示UMB 022803(P17)は、アクセッション番号PTA−6068が割り当てられている。
【0069】
様々な実施形態において、臍帯組織由来細胞は、以下の増殖の特徴のうちの1つ又は2つ以上を保有する:(1)培養下での増殖のためにL−バリンを必要とする;(2)約5%〜少なくとも約20%の酸素を含有する大気中での増殖が可能である;(3)老化に到達する前に、培養下で少なくとも約40回倍加する潜在能力を有する;(4)コーティングされた、若しくはコーティングされていない組織培養容器(ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、又はフィブロネクチンのコーティングを含む)上に付着して増殖する。
【0070】
特定の実施形態において、臍帯組織由来細胞は正常核型を所有しており、これは細胞が継代する際に維持される。核型分析は、胎盤由来の母体細胞から、新生児細胞を同定して識別するために、特に有用である。核型分析に関する方法は、当業者に利用可能であり、既知である。
【0071】
他の実施形態において、臍帯組織由来細胞は、(1)組織因子、ビメンチン、及びα−平滑筋アクチンのうちの少なくとも1つの産生;(2)フローサイトメトリーによって検出されるような、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、PD−L2、及びHLA−A、B、C細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生を含めた、特定のタンパク質の産生によって特徴付けることができる。他の実施形態において、臍帯組織由来細胞は、フローサイトメトリーによって検出されるような、CD31、CD34、CD45、CD80、CD86、CD117、CD141、CD178、B7−H2、HLA−G、及びHLA−DR、DP、DQ細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生の欠如によって、特徴付けることができる。組織因子、ビメンチン、及びα−平滑筋アクチンのうちの少なくとも2つを産生する細胞が、特に好ましい。タンパク質組織因子、ビメンチン、及びα−平滑筋アクチンの3つ全てを産生するような細胞が、より好ましい。
【0072】
他の実施形態において、臍帯組織由来細胞は、線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞のヒト細胞と比べて、インターロイキン8;レチクロン1;ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド1(黒色腫増殖刺激活性、α);ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド6(顆粒球走化性タンパク質2);ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド3;及び腫瘍壊死因子、α誘導タンパク質3のうちの、少なくとも1つをコードする遺伝子に関して増大する、遺伝子の発現によって特徴付けることができる。
【0073】
更に他の実施形態において、臍帯組織由来細胞は、線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞のヒト細胞と比べて、低身長ホメオボックス2;熱ショック27kDaタンパク質2;ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド12(ストロマ細胞由来因子1);エラスチン(大動脈弁上狭窄症、ウィリアムズ−ビューレン症候群);ホモサピエンスmRNA;cDNA DKFZp586M2022(クローンDKFZp586M2022由来);間葉ホメオボックス2(増殖停止特異的ホメオボックス);sine oculisホメオボックスホモログ1(ドロソフィラ);クリスタリン、α B;形態形成のdisheveled関連アクチベータ2;DKFZP586B2420タンパク質;ニューラリン1の類似体;テトラネクチン(プラスミノーゲン結合タンパク質);src相同性3(SH3)及びシステイン豊富ドメイン;コレステロール25−ヒドロキシラーゼ;runt関連転写因子3;インターロイキン11受容体α;プロコラーゲンC−エンドペプチダーゼエンハンサー;frizzledホモログ7(ドロソフィラ);仮定的遺伝子BC008967;コラーゲン、VIII型、α 1;テネイシンC(ヘキサブラキオン);iroquoisホメオボックスタンパク質5;へファエスチン;インテグリンβ 8;シナプス小胞糖タンパク質2;神経芽腫、腫瘍形成抑制1;インスリン様増殖因子結合タンパク質2、36kDa;ホモサピエンスcDNA FLJ12280 fis、クローンMAMMA1001744;サイトカイン受容体様因子1;カリウム中間体/低コンダクタンスカルシウム活性化チャネル、サブファミリーN、メンバー4;インテグリン、β 7;PDZ結合モチーフ(TAZ)を有する転写コアクチベータ;sine oculisホメオボックスホモログ2(ドロソフィラ);KIAA1034タンパク質;小胞関連膜タンパク質5(ミオブレビン);EGF含有フィビュリン様細胞外マトリックスタンパク質1;初期成長応答3;distal−lessホメオボックス5;仮定的タンパク質FLJ20373;アルド−ケト還元酵素ファミリー1、メンバーC3(3−αヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、II型);バイグリカン;PDZ結合モチーフ(TAZ)を有する転写コアクチベータ;フィブロネクチン1;プロエンケファリン;インテグリン、β様1(EGF様リピートドメインを有する);ホモサピエンスmRNA完全長インサートcDNAクローンEUROIMAGE 1968422;EphA3;KIAA0367タンパク質;ナトリウム利尿ペプチド受容体C/グアニル酸シクラーゼC(心房ナトリウム利尿ペプチド受容体C);仮定的タンパク質FLJ14054;ホモサピエンスmRNA;cDNA DKFZp564B222(クローンDKFZp564B222由来);BCL2/アデノウイルスE1B 19kDa相互作用タンパク質3様;AE結合タンパク質1;シトクロムcオキシダーゼサブユニットVIIaポリペプチド1(筋肉)のうちの、少なくとも1つをコードする遺伝子に関して減少する、遺伝子の発現によって特徴付けることができる。
【0074】
他の実施形態において、臍帯組織由来細胞は、MCP−1、IL−6、IL−8、GCP−2、HGF、KGF、FGF、HB−EGF、BDNF、TPO、MIP1b、RANTES、及びTIMP1のうちの、少なくとも1つの分泌によって特徴付けることができる。幾つかの実施形態において、臍帯組織由来細胞は、ELISAで検出した場合に、TGF−β2、ANG2、PDGFbb、MIP1a及びVEGFのうち少なくとも1つの分泌を欠いていることによって特性づけることができる。
【0075】
幾つかの好ましい実施形態において、細胞は、実質的に血液を含まない臍帯組織から誘導され、培養下で自己複製及び増殖が可能であり、増殖のためにL−バリンを必要とし、少なくとも約5%の酸素中で増殖可能であり、かつ、次の特性のうち少なくとも1つを含む:培養下で少なくとも約40回倍加する潜在能力を有する;コーティングされた若しくはコーティングされていない組織培養容器(ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、又はフィブロネクチンのコーティングを含む)上に付着して増殖する;ビメンチン及びα−平滑筋アクチンの産生;CD10、CD13、CD44、CD73、及びCD90の産生;並びに、遺伝子の発現が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞であるヒト細胞と比べて、インターロイキン8及びレチクロン1をコードする遺伝子に関して増大する。幾つかの実施形態において、そのような細胞はCD45及びCD117を産生しない。この段落で記述されている細胞は、末梢血管疾患を有する患者の治療のための方法に使用することができ、末梢血管疾患を治療するための医薬組成物に使用することができ、例えば、その医薬組成物は、それらの特性を有する細胞及び製薬上許容される担体を含み、かつ、本明細書に記述及び例示される方法及び医薬組成物を作製、使用、及び実践するためのキットに使用することができる。加えて、この段落で記述されている細胞は、馴化細胞培地を生成するのに使用でき、本明細書に記述及び例示される方法及び医薬組成物を作製、使用、及び実践するために使用可能な、例えば細胞抽出物及び細胞レベル下分画などの調製物を作製するのに使用できる。
【0076】
好ましい実施形態において、このセルはテロメラーゼ(hTert)を発現しない。したがって、本発明の一実施形態は、テロメラーゼ(hTert)を発現せず、かつ本明細書に開示される特性の1つ又は2つ以上を有する、臍由来細胞である。
【0077】
本発明の一実施形態において、細胞は、実質的に血液を含まないヒト臍帯組織から分離され、培養下で自己複製及び増殖が可能であり、かつ、CD117及び/又はテロメラーゼの産生を欠いている。この細胞は所望により、(i)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現し、並びに/又は(ii)CD31、CD34、又はCD45を発現せず、並びに/又は(iii)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、又は腸骨稜の骨髄細胞と比べて、より高いレベルのインターロイキン8又はレチクロン1を発現し、並びに/又は(iv)少なくとも、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮表現型のいずれかの細胞に分化する潜在能力を有し、並びに/又は(v)CD10、CD13、CD44、CD73、及びCD90を発現する。本発明の別の一実施形態において、細胞は、実質的に血液を含まないヒト臍帯組織から分離され、培養下で自己複製及び増殖が可能であり、かつ、CD117、CD34、CD31及び/又はテロメラーゼの産生を欠いている。本発明の更に別の一実施形態において、細胞は、実質的に血液を含まないヒト臍帯組織から分離され、培養下で自己複製及び増殖が可能であり、かつ、CD117、CD45、CD34、CD31及び/又はテロメラーゼの産生を欠いている。
【0078】
幾つかの態様で本発明と共に使用するために、現時点で好ましい細胞は、とりわけ、上述の特性を有する臍帯組織由来細胞であり、より具体的には、それらの細胞が、正常核型を有し、継代で正常核型を維持する場合であり、更には、それらの細胞が、マーカーCD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、及びHLA−A、B、Cのそれぞれを発現する場合であり、それらの細胞が、列記されたマーカーに対応する、免疫学的に検出可能なタンパク質を産生する場合である。前述に加えて、フローサイトメトリーによって検出されるような、マーカーCD31、CD34、CD45、CD117、CD141、又はHLA−DR、DP、DQのいずれに対応するタンパク質も産生しないような細胞が、更により好ましい。
【0079】
様々な表現型に導かれる株に沿って分化する潜在能力を有する特定の細胞は、不安定であるため、自然発生的に分化する場合がある。現在、本発明と共に使用するのに好ましい細胞は、自発的に分化しない細胞であり、例えば、筋芽細胞、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、血管形成(hemangiogenic)、血管形成(angiogenic)、脈管形成(vasculogenic)、又は血管内皮系に沿って自発的に分化しないものである。好ましい細胞は、増殖培地で生育させた場合に、細胞表面上に産生される細胞マーカーがほぼ安定しており、かつ例えば、商標名GENECHIP(Affymetrix,Inc.(Santa Clara,CA))として販売されている医療診断検査を用いて判定される各種遺伝子の発現パターンがほぼ安定している。この細胞は、例えば、複数回の集団倍加を経る継代時に、それらの表面マーカー特性を、実質的に一定なまま保持する。
【0080】
本発明の別の態様は、上述のような臍帯組織由来細胞の細胞集団の使用を特徴とする。幾つかの実施形態において、この細胞集団は不均質である。本発明の不均質細胞集団は、本発明の臍帯組織由来細胞を少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%含む。本発明の不均質細胞集団は更に、幹細胞又はその他の前駆細胞(例えば筋芽細胞又はその他の筋肉前駆細胞、血管芽細胞、又は血管前駆細胞)を含み、あるいは更に、完全に分化した骨格筋細胞、平滑筋細胞、周細胞、又は血管内皮細胞を含み得る。幾つかの実施形態において、この集団は実質的に均質であり、すなわち、実質的に臍帯組織由来細胞のみを含む(好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%又はそれ以上の臍帯組織由来細胞を含む)。本発明の均質細胞集団は、臍由来又は胎盤由来細胞を含み得る。臍由来細胞の均質集団は、好ましくは、母体系統の細胞を含まない。胎盤由来細胞の均質集団は、新生児又は母体系統のものであり得る。細胞集団の均質性は、当該技術分野において既知の任意の方法によって、例えば、細胞選別(例えば、フローサイトメトリー)によって、又は既知の方法によるクローン増殖によって、達成することができる。それゆえ、好ましい均質な細胞集団は、臍帯組織由来細胞のクローン細胞株を含み得る。そのような集団は、極めて望ましい機能性を有する細胞クローンが単離されている場合、特に有用である。
【0081】
また本明細書で提供されるのは、血管平滑筋、血管内皮、周細胞、又は骨格筋経路に沿った幹細胞分化を刺激するような、1つ又は2つ以上の因子の存在下、又は条件下において、培養された細胞集団の利用である。そのような因子は、当該技術分野において既知であり、当業者には、分化に好適な条件の決定は、慣用の実験方法を使用して達成することができる点が、理解されるであろう。そのような条件の最適化は、統計的実験計画及び分析によって達成することができ、例えば、応答曲面法により、例えば生物学的培養での、複数の変数の同時最適化が可能となる。現在好ましい因子としては、成長又は栄養因子、ケモカイン、サイトカイン、細胞酸生物、脱メチル化剤、及びその他の、血管形成(angiogenic)、血管形成(hemangiogenic)、脈管形成(vasculogenic)、骨格筋、血管平滑筋、又は血管内皮の経路又は系統に沿った幹細胞分化を刺激することが、既知であるか又は後でそれが見出される刺激が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
臍帯組織由来細胞は、治療に有用な遺伝子生成物を産生し、付加的な血管形成若しくは成長を促進若しくは支持する血管形成剤を産生し、又は、虚血損傷の領域に対して内皮前駆細胞を補充する因子を産生するよう、遺伝子組み換えを行うこともできる。内皮前駆細胞は、特に虚血イベントの後に、血管形成及び血流を促進する(Urbich C and Dimmeler S(2004)Circ.Res.95:343〜53)。内皮細胞補充の役割を担う因子には、VEGF、ストロマ由来因子−1(SDF−1)、エリスロポエチン(EPO)、G−CSF、スタチン、ストロゲン、PPARγ、CXCR4、FGF、及びHGFが挙げられるがこれらに限定されない。遺伝子改変は、様々なベクターのうちのいずれかを使用して達成することができ、それらのベクターとしては、組み込みウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルスベクター;非組み込み複製ベクター、例えば、パピローマウイルスベクター、SV40ベクター、アデノウイルスベクター;又は複製欠陥ウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。細胞内にDNAを導入する他の方法としては、リポソーム、電気穿孔法、粒子ガンの使用、又は直接的DNA注入によるものが挙げられる。
【0083】
宿主細胞は、好ましくは、とりわけ、プロモーター配列若しくはエンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位などの、1つ又は2つ以上の適切な発現制御要素、及び選択マーカーによって制御されるか、あるいは有効に関連するDNAで、形質転換又は形質移入される。任意のプロモーターを使用して、挿入遺伝子の発現を駆動することができる。例えば、ウイルスプロモーターとしては、CMVプロモーター/エンハンサー、SV40、パピローマウイルス、エプスタイン−バールウイルス、又はエラスチン遺伝子プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、目的の遺伝子の発現を制御するために使用される、これらの制御要素が、遺伝子の調節発現を可能とすることにより、インビボで必要とされる場合にのみ、その産物が合成される。一過性発現が所望される場合には、構成的プロモーターが、好ましくは、非組み込みベクター及び/又は複製欠陥ベクター内で使用される。あるいは、誘導性プロモーターを使用して、必要とされる際に、挿入遺伝子の発現を駆動することも可能である。誘導性プロモーターとしては、メタロチオネイン及び熱ショックタンパク質に関連するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
外来DNAの導入後に、操作された細胞を、富化培地中で増殖させ、次いで、選択培地に切り替えることができる。外来DNA中の選択マーカーは、選択に耐性を付与し、細胞が、例えば、プラスミド上に、その染色体中に外来DNAを安定に組み込み、増殖して増殖巣を形成することを可能にし、次にこの増殖巣は、クローン化して細胞株へと増殖することができる。この方法は、有利には、遺伝子産物を発現する細胞株を操作するために、使用することができる。
【0085】
本発明の細胞は、埋め込み部位での炎症若しくは拒絶反応を促進する因子の発現を、「ノックアウト」又は「ノックダウン」するように、遺伝子組み換えすることができる。標的遺伝子発現レベル又は標的遺伝子産物活性レベルの低減のための、負変調技術を、以下で説明する。「負変調」とは、本明細書で使用するとき、調節処理の非存在下での標的遺伝子産物のレベル及び/又は活性に対する、標的遺伝子産物のレベル及び/又は活性の低減を指す。骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、周細胞、血管内皮細胞、又はこれらの前駆細胞に本来ある遺伝子発現は、例えば、相同組み換え技法を用いて遺伝子を不活性化することにより発現を阻害するなど、数多くの技法を用いて低減又はノックアウトすることができる。典型的には、タンパク質の重要領域をコードするエクソン(すなわち、その領域に対して5’側のエクソン)が、陽性選択マーカー、例えばneoによって干渉され、標的遺伝子からの正常なmRNAの産生が妨げられて、その遺伝子の不活性化がもたらされる。遺伝子はまた、遺伝子の一部に欠失を作り出すことによって、又は遺伝子全体を欠失させることによって、不活性化することもできる。標的遺伝子と相同であり、ゲノム中では遠く離れている2つの領域を有するコンストラクトを使用することにより、2つの領域間に介在する配列を欠失させることができる(Mombaerts et al.,Proc.Nat.Acd.Sci.U.S.A.,1991,88:3084〜3087)。アンチセンス、DNAザイム、リボザイム、低分子干渉RNA(siRNA)、及び標的遺伝子の発現を阻害する他のそのような分子もまた、標的遺伝子活性のレベルを低減するために使用することができる。例えば、主要組織適合遺伝子複合体(HLA)の発現を阻害する、アンチセンスRNA分子は、免疫反応に関して、最も汎用的であることが示されている。また更には、標的遺伝子活性のレベルを低減する際に、3重螺旋分子を利用することもできる。これらの技術は、L.G.Davis et al.(編),1994,BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,2nd ed.,Appleton & Lange(Norwalk,CN)によって、詳細に説明されている。
【0086】
別の一態様において、本発明は、臍帯組織由来細胞から調製された細胞溶解物及び細胞可溶性分画、又は、臍帯組織由来細胞を含む不均質若しくは均質細胞集団、並びに、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、若しくは血管内皮経路に沿って分化するよう遺伝子組み換えされるか又は刺激された、臍帯組織由来細胞若しくはその集団を利用する。そのような溶解物及びその画分は、多くの有用性を有する。インビボでの細胞溶解物の可溶性画分(すなわち、実質的に膜を含まない)の使用により、例えば、拒絶反応、又は他の有害な免疫学的応答を誘発する可能性が最も高い、相当量の細胞表面タンパク質を導入することなく、有益な細胞内環境を、患者内で同種異系的に使用することが可能となる。細胞を溶解する方法は、当該技術分野において周知であり、機械的破壊、酵素破壊、化学的破壊、又はこれらの組み合わせの様々な手段を含む。そのような細胞溶解物は、増殖培地中の細胞から直接、したがって、分泌された増殖因子等を含有した状態で調製されてもよく、又は例えば、PBS若しくは他の溶液で、培地なしに洗浄した細胞から調製されてもよい。洗浄細胞は、好ましい場合には、元の集団密度よりも高い濃度で、再懸濁させることができる。
【0087】
一実施形態では、例えば、細胞を破壊し、その後に細胞画分を分離しないことによって、細胞溶解物の全体が調製される。別の実施形態では、当該技術分野において既知の慣用的方法、例えば、遠心分離、濾過、又は同様の方法によって、細胞の可溶性画分から、細胞膜画分が分離される。
【0088】
臍帯組織由来細胞の集団から調製される、細胞溶解物又は細胞可溶性画分は、そのまま使用するか、例えば限外濾過若しくは凍結乾燥によって更に濃縮するか、又は更に乾燥させるか、部分的に精製するか、当該技術分野において既知の、薬学的に許容できる担体若しくは希釈剤と組み合わせるか、又は生物学的製剤、例えば薬学的に有用なタンパク質組成物などの、他の化合物と組み合わせることができる。細胞溶解物又はその画分は、インビトロ若しくはインビボで、単独で、又は、例えば自家若しくは同系の生細胞と共に、使用することができる。細胞溶解物は、インビボに導入される場合には、治療部位で局所的に、又は遠隔に導入して、例えば、必要な細胞増殖因子を、患者に提供することができる。
【0089】
更なる一実施形態において、臍帯組織由来細胞はインビトロで培養して、高終了の生物学的産物を産生させることができる。臍帯組織由来細胞は、目的とする具体的な生物学的産物(例えば、栄養因子)を天然に産生するか、又は生物学的産物を産生するように遺伝子操作されており、本明細書で説明される培養技術を使用して、クローン増殖させることができる。あるいは、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮系統への分化を誘導する培地中で、細胞を増殖させることができる。いずれの場合でも、その細胞によって産生され、培地中に分泌された生物学的産物は、例えば、幾つか例を挙げると、示差的タンパク質沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、電気泳動、及びHPLCなどの、標準的な分離技術を使用して、容易に単離することができる。「バイオリアクター」を使用して、例えば、インビトロで3次元培養物に栄養を与えるための、フロー法を活用することができる。本質的には、新鮮培地が、3次元培養物を通過する際、生物学的産物は、培養物から洗い出され、次いで、上記のように、その流出物から単離することができる。
【0090】
あるいは、目的の生物学的産物は、細胞内部に留まる場合があり、それゆえ、その収集には、上述のように、細胞を溶解させることが必要となる場合がある。次いで、上記の技術のうちの、任意の1つ又は2つ以上を使用して、その生物学的産物を精製することができる。
【0091】
他の実施形態において、本発明は、以下に記述されるように、インビトロ及びインビボで使用するための、臍帯組織由来細胞から得た馴化培地を利用する。細胞馴化培地の使用により、拒絶又は他の有害な免疫反応を引き起こす可能性がある無傷細胞を導入することなく、臍帯組織由来細胞によって分泌された有益な栄養の因子を、同種で患者に使用することを可能にする。馴化培地は、培地に細胞を培養して、次に培地から細胞を取り除くことによって調製される。
【0092】
臍帯組織由来細胞の集団から調製される馴化培地は、そのまま使用するか、例えば限外濾過若しくは凍結乾燥によって更に濃縮するか、又は更に乾燥させるか、部分的に精製するか、当該技術分野において既知の、薬学的に許容できる担体若しくは希釈剤と組み合わせるか、又は生物学的製剤、例えば薬学的に有用なタンパク質組成物などの、他の化合物と組み合わせることができる。培養上清は、インビトロ又はインビボで、単独で、又は例えば、自家生細胞又は同系生細胞と組み合わせて、使用してもよい。インビボで導入する場合、馴化培地は、治療部位で局所的に導入してもよく、又は患者に必要な細胞の増殖、若しくは栄養の因子を供給するために遠隔で導入してもよい。
【0093】
別の実施形態では、液体、固体、又は半個体の基質上に臍帯組織由来細胞を培養することによって産生される、細胞外マトリックス(ECM)が調製、収集され、組織の修復又は置換を必要とする患者内への、生細胞の埋め込みの代替案として利用される。臍帯組織由来細胞が、インビトロで、本明細書の他の箇所で説明されるような3次元フレームワーク上に、所望の量のECMがそのフレームワーク上に分泌されるような条件下で、培養される。新たな組織を含む細胞が除去され、例えば注射剤調製としての更なる使用のために、そのECMが処理される。このことを達成するために、フレームワーク上の細胞を死滅させ、そのフレームワークから、あらゆる細胞残渣を除去する。このプロセスは、多種多様な方法で実施することができる。例えば、凍結保存剤を使用することなく、その生組織を液体窒素中で急速冷凍することができ、又は細胞が浸透圧に反応して破裂するように、滅菌蒸留水中に組織を浸漬させることができる。
【0094】
細胞を殺した後、弱い洗剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)又は双性イオン洗剤)ですすぐ処理により、細胞膜を破壊し細胞残渣を除去することができる。あるいは、細胞膜を分解し、細胞内容物の除去を可能とする試薬で、その組織を酵素消化させ、かつ/又は抽出することができる。そのような酵素の例としては、ヒアルロニダーゼ、ディスパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。洗剤の例としては、例えば、アルキルアリールポリエーテルアルコール(TRITON X−100)、オクチルフェノキシポリエトキシ−エタノール(Rohm and Haas(Philadelphia,PA))、BRIJ−35、ポリエトキシエタノールラウリルエーテル(Atlas Chemical Co.(San Diego,CA))、ポリソルベート20(TWEEN 20)、ポリエトキシエタノールソルビタンモノラウラート(Rohm and Haas(Philadelphia,PA))、ポリエチレンラウリルエーテル(Rohm and Haas(Philadelphia,PA))などの非イオン性洗剤;及び、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸化高級脂肪族アルコール、分枝鎖又は非分枝鎖中に7〜22個の炭素原子を含有するスルホン化アルカン及びスルホン化アルキルアレンなどの、イオン性洗剤が挙げられる。
【0095】
ECMの回収は、少なくとも部分的には、新しい組織が、生分解性又は非生分解性(金属の場合)である3次元フレームワーク上で形成されているかどうかによって、様々な方法で達成することができる。例えば、そのフレームワークが、非生分解性である場合には、音波処理、高圧水ジェット、機械的掻き取り、又は洗剤若しくは酵素での穏和な処理、あるいは上記の任意の組合せを、そのフレームワークに施すことによって、ECMを取り出すことができる。
【0096】
フレームワークが、生分解性である場合には、例えば、そのフレームワークを溶液中で分解させるか、又は溶解させることによって、ECMを収集することができる。あるいは、生分解性フレームワークが、それ自体ECMと共に注射することができる材料からなる場合には、そのフレームワーク及びECMは、その後の注射のために、全体として処理することができる。あるいは、ECMは、非生分解性フレームワークからのECMの収集に関して上述された方法のうちのいずれかによって、生分解性フレームワークから取り出すことができる。全ての収集プロセスは、好ましくは、ECMを変性させないように設計される。
【0097】
ECMを収集した後、更にECMを処理することができる。例えば、ECMは、音波処理などによる、当該技術分野において周知の技術を使用して、微粒子へと均質化することができるため、そのECMは、外科用ニードルの中を通過することができる。ECMの成分はまた、必要に応じて、γ線照射によって架橋することができる。好ましくは、ECMは、0.25〜2メガラドで照射することにより、ECMを滅菌及び架橋することができる。グルタルアルデヒドなどの、毒性の薬剤を使用する化学架橋も可能であるが、一般的には好ましくない。
【0098】
ECM中に存在する様々なタイプのコラーゲンなどの、タンパク質の量及び/又は比率は、本発明の細胞によって産生されるECMと、1種以上の他の細胞型のECMとを混合することによって、調整することができる。更には、タンパク質、増殖因子、及び/又は薬物などの、生物学的に活性な物質を、ECM中に組み込むことができる。例示的な生物学的に活性な物質としては、注射部位での治癒及び組織修復を促進する、TGF−βなどのような、組織増殖因子が挙げられる。そのような追加的薬剤は、例えば、細胞溶解物の全体、可溶性細胞分画、あるいは臍帯組織由来細胞によって産生される更なる精製成分及び産物と共に、本明細書で上述された任意の実施形態で利用することができる。
【0099】
別の一態様において、本発明は、末梢虚血エピソードにより生じた損傷又は損壊の治療のため、様々な方法で、臍帯組織由来細胞、臍帯組織由来細胞集団、臍帯組織由来細胞の構成成分及び産物を利用する医薬組成物を提供する。特定の実施形態は、生細胞(臍帯組織由来細胞単独、又は他の細胞種と混合して)を含む医薬組成物を包含する。他の実施形態は、臍帯組織由来細胞の構成成分(例えば、細胞溶解物、可溶性細胞分画、馴化培地、ECM、若しくはこれらの任意の構成成分)、又は産物(例えば、臍帯組織由来細胞から自然に産生されるか、若しくは臍帯組織由来細胞からの遺伝子組み換え、馴化培地により産生される、栄養因子又はその他の生物学的因子)を含む医薬組成物を包含する。いずれの場合でも、この医薬組成物は、当該技術分野において既知の、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、抗酸化剤、増殖因子、筋肉栄養因子、又は筋肉再生薬若しくは筋肉保護薬などの、他の活性剤を更に含み得る。
【0100】
この医薬組成物に添加できる他の構成成分の例としては次のものが挙げられるが、これらに限定されない:(1)他の筋有益(myobeneficial)薬若しくは筋保護薬、又は血管有益(angiobeneficial)薬若しくは血管保護薬、(2)選択された細胞外マトリックス成分(例えば、当該技術分野で既知の1つ又は2つ以上のタイプのコラーゲン、及び/又は増殖因子)、富血小板血漿、及び、薬剤(あるいは、臍帯組織由来細胞は、増殖因子を発現し産生するように、遺伝子操作することができる)、(3)抗アポトーシス薬(例えばエリスロポエチン(EPO)、EPOミメティボディ、トロンボポエチン、インスリン様増殖因子(IGF)−I、IGF−II、肝細胞増殖因子、カスパーゼ阻害剤)、(4)抗炎症化合物(例えば、p38 MAPキナーゼ阻害剤、TGF−β阻害剤、スタチン、IL−6及びIL−1阻害剤、ペミロラスト、トラニラスト、REMICADE(登録商標)(Centocor,Inc.(Malvern,PA))、シロリムス、及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)(例えばテポキサリン、トルメチン、スプラフェン)、(5)免疫抑制薬若しくは免疫調節薬(例えば、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、抗増殖薬、副腎皮質ステロイド、及び様々な抗体)、(6)抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンC及びE、コエンザイムQ−10、グルタチオン、L−システイン、並びにN−アセチルシステイン)、(6)局所麻酔薬、(7)栄養因子(例えば、アグリン、VEGF、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、NEGF−1、NEGF−2、PDGF、GDF、IGF1、IGF2、EGF、及びFGF)、並びに、(8)虚血組織へ内皮前駆細胞を補充し、取り込むよう作用する因子(例えば、例を挙げるなら、VEGF、SDF−1、EPO、G−CSF、スタチン、エストロゲン、PPARγ、及びCXCR4など)。
【0101】
本発明の医薬組成物は、臍帯組織由来細胞、それらの構成成分又は産物(製薬上許容される担体又は培地と共に配合された、臍帯組織由来細胞から作製された調製物を含む)を含む。製薬上許容される好適な担体としては、水、食塩水(例えばリンガー液)、アルコール、油、ゼラチン、ポリビニルピロリジン、炭水化物(例えばラクトース、アミロース、若しくはデンプン、脂肪酸エステル)、及びヒドロキシメチルセルロースが挙げられる。そのような調製物は、滅菌することができ、また必要に応じて、滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩、緩衝剤、及び着色剤などの、補助剤と混合することができる。本発明での使用に好適な医薬担体は、当該技術分野において既知であり、例えば、Pharmaceutical Sciences(17th Ed.Mack Pub.Co.(Easton,PA))及び国際特許公開WO 96/05309号に記述されている。
【0102】
排他的ではないが、典型的には、臍帯組織由来細胞の成分又は産物を含むが、生細胞を含まない医薬組成物は、液体として(又は経口送達が適切である場合には、固形錠剤、カプセル剤などとして)製剤される。これらは、標的の骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮組織に対し、薬剤及び生物学的分子の送達を達成するための、当該技術分野において既知の任意の許容される経路によって投与するよう配合することができ、この経路には経口、経鼻、点眼及び腸管外(静脈内を含む)が挙げられるがこれらに限定されない。腸管外投与の具体的な経路は、筋肉、皮下、腹膜内、髄腔内、大槽内、又は針付き注射器を経由し、又はカテーテル(ポンプ機器を伴うか若しくは伴わない)を経由するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
臍帯組織由来の生細胞を含む医薬組成物は、典型的に、液体、半固体(例えばゲル(フィブリン糊を含む))、又は固体(例えば、血管若しくは骨格筋組織操作に適切なマトリックス、スカフォールド、及び同様物)として配合される。液体組成物は、標的の血管又は骨格筋組織への生細胞の送達を達成するため、当該技術分野において既知の、許容可能な任意の経路による投与用に、配合される。典型的にこれらは、針付き注射器を経由し、及び/又はカテーテル(ポンプ機器を伴うか若しくは伴わない)を経由して、筋内送達、静脈送達、若しくは動脈内送達を含むがこれらに限定されない投与経路によって、拡散的な方法で、あるいは、末梢虚血性の損傷、損壊、若しくは窮迫部位を標的とした方法での、注射若しくは輸液を含む。
【0104】
半固体若しくは固体担体中に生細胞を含む医薬組成物は、典型的に、虚血性の損傷、損壊、若しくは窮迫部位への外科的な埋め込みのために配合される。液体組成物もまた、外科的手技によって投与することができる点が、理解されるであろう。具体的な実施形態では、半個体又は個体の医薬組成物は、非生分解性若しくは生分解性とすることができる、半透性のゲル、格子、細胞スカフォールドなどを含み得る。例えば、特定の実施形態において、外因性細胞を周囲から隔絶することが望ましいか又は適切である可能性があるが、依然として、周囲の骨格筋若しくは血管細胞に対して、その外因性細胞が生物由来分子(例えば、筋栄養因子、血管栄養因子、内皮前駆細胞補充因子)を分泌し送達することができる可能性がある。これらの実施形態において、細胞は、自律性インプラントとして配合することができ、このインプラントは、移植細胞を宿主組織から物理的に分離するような、非分解性の選択透過性障壁によって囲まれた、臍帯組織由来生細胞又は臍帯組織由来細胞を含む細胞集団を含む。そのようなインプラントは、「免疫防護性」と称される場合があるが、薬理学的に誘導された免疫抑制が存在することなく、免疫細胞及び巨大分子が移植細胞を殺すことを妨げることができるため、時折「免疫保護性」と呼ばれる(このような装置及び方法の概説については、例えば、P.A.Tresco et al.,(2000)Adv.Drug Delivery Rev.42:3〜27を参照されたい)。
【0105】
他の実施形態では、本発明の医薬組成物に関して、多種多様な分解性ゲル及び分解性ネットワークが利用される。例えば、持続放出性製剤に関して特に好適な、分解性材料としては、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、メチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲンなどの、生体適合性ポリマーが挙げられる。薬物送達ビヒクル中の分解性ポリマーの構造、選択、及び使用は、A.Domb et al.,1992,Polymers for Advanced Technologies 3:279〜292を含めた、幾つかの刊行物で概説されている。
【0106】
他の実施形態において、生分解性、好ましくは、生体再吸収性若しくは生体吸収性の、スカフォールド若しくはマトリックスの上、又はその中に、細胞を送達することが望ましいか又は適切であり得る。これらの典型的な3次元生体材料は、スカフォールドに付着されるか、スカフォールド内部に分散されるか、又はスカフォールド内に封入された細胞外マトリックス内に組み込まれる、生細胞を含む。体内の標的部分にいったん埋め込まれたこれらのインプラントは、宿主組織に一体化され、ここに移植細胞が徐々に定着する(例えば、Tresco,PA,et al.(2000)上記参照、及びHutmacher,DW(2001)J.Biomater.Sci.Polymer Edn.12:107〜174を参照)。
【0107】
生体適合性マトリックスは、ホモポリマー、コポリマー、及びブロックポリマー、並びにこれらの組み合わせを含む天然ポリマー、改質天然ポリマー、又は合成生分解性ポリマーで構成され得る。概して、ポリマーは合成の元になるモノマーに基づいて命名されることに留意する。
【0108】
好適な生分解性ポリマー若しくはポリマー類の例としては、フィブリン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンビン、ポリ(アミノ酸)、酸化セルロース、トロポエラスチン、絹、リボ核酸、デオキシリボ核酸、タンパク質、ポリヌクレオチド、再構成基底膜マトリックス、デンプン、デキストラン、アルギン酸塩、ヒアルロン、キチン、キトサン、アガロース、多糖類、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリエチレングリコール、脱細胞化組織、自己集合性ペプチド、ポリペプチド、グリコサミノグリカン、それらの誘導体、及びそれらの混合物が挙げられる。グリコール酸及び乳酸の両方について、中間環状二量体は、一般に、重合に先行して調製及び精製される。これらの中間二量体はそれぞれ、グリコリド及びラクチドと呼ばれる。他の有用な生分解性ポリマー若しくはポリマー類には、脂肪族ポリエステル、ポリ(シュウ酸アルキレン)、チロシン由来ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトエステル、オイルオキサエステル、ポリアミドエステル、アミノ基を含むポリオキサエステル、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリオキサレート、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(エステル)、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ無水物、ポリアセテート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリアミノ酸、ポリアミド、並びにそれらの混合物及びコポリマーが挙げられるがこれらに限定されない。追加的な有用な生分解性ポリマーとしては、L−乳酸及びD−乳酸のステレオポリマー、ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパンとセバシン酸とのコポリマー、セバシン酸コポリマー、カプロラクトンのコポリマー、ポリ(乳酸)/ポリ(グリコール酸)/ポリエチレングリコールのコポリマー、ポリウレタンとポリ(乳酸)とのコポリマー、α−アミノ酸のコポリマー、α−アミノ酸とカプロン酸とのコポリマー、α−ベンジルグルタメートとポリエチレングリコールとのコポリマー、コハク酸塩とポリ(グリコール)とのコポリマー、ポリホスファゼン、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、及びこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。二成分系、三成分系もまた想到される。
【0109】
一般に、マトリックスとして用いられる適切な生分解性ポリマーは、意図された適用に適切であり、組織が成長し治癒されるまで十分に無傷のままであり、炎症反応若しくは有毒反応を引き起こさず、目的を果たした後に体内で代謝され、形成されるべき望ましい最終産物へと容易に加工され、許容できる品質保持期間を示し、容易に滅菌されるような機械的な特性を有するように、望ましく構成される。
【0110】
本発明の一態様において、このマトリックスを形成するために用いられる生体適合性ポリマーは、ヒドロゲルの形態である。本発明の一実施形態において、このヒドロゲルはフィブリン糊を含む。一般的に、ヒドロゲルは、自重の20%以上の水を吸収し、かつ明瞭な三次元構造を維持することのできる架橋ポリマー材料である。この定義には、水性環境で膨潤する乾燥架橋ポリマー、並びに水で膨潤させた材料を含む。ポリマーが生物由来のものであろうと、半合成的なものであろうと、又は完全に合成させたものであろうと、親水性ポリマーの母体を架橋してヒドロゲルを製造することができる。ヒドロゲルは、合成ポリマー材料から製造してもよい。このような合成ポリマーは、特性及び予想され得るロット間の不均一さを調整することができ、一般的に免疫原性の心配のない、信頼できる材料源になる。このマトリックスは、自己集合性ペプチドから形成されるヒドロゲルを含み得、これについては米国特許第5,670,483号及び同第5,955,343号、米国特許出願公開第2002/0160471号、並びにPCT国際特許出願WO 02/062969号に記述されている。
【0111】
薬剤送達用途においてヒドロゲルを価値あるものにする特性としては、平衡膨潤度、吸着動力学、溶質透過性、及びこれらのインビボ性能特性が挙げられる。化合物の透過性の一部は、膨潤度すなわち含水量、及び生分解速度による。ゲルの機械的強度は膨潤強度に正比例することから、複合系により機械的強度を増強させるよう、基質にヒドロゲルを取り付け得ることも、本発明に企図される範囲に含まれる良好な例である。幾つかの実施形態において、ヒドロゲルを多孔質基材に浸透させて、ヒドロゲルの有用な送達特性と共に基材の機械強度を得ることもできる。
【0112】
本発明で使用できるスカフォールド若しくはマトリックス(時に、「フレームワーク」と総称される)の非限定的例としては、織物、編物、編組、メッシュ、不織布、ねじれ編みなどの布状構造、多孔性発泡体、半多孔性発泡体、有孔フィルム若しくはシート、微粒子、ビーズ、及び球、並びに上記の構造を組み合わせた複合構造が挙げられる。例えば、商標名VICRYL縫合糸(Ethicon,Inc.(Somerville,NJ))として販売されているグリコール酸と乳酸との吸収性合成コポリマー(PGA/PLA)で構成される繊維を用いて、不織性マットを形成することができる。米国特許第6,355,699号に記述されるように、例えば、冷凍乾燥法(凍結乾燥法)などのプロセスにより作製された、ポリ(ε−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーからなる発泡体も、利用することができる。自己集合性ペプチド(例えば、RAD16)などのヒドロゲルもまた、使用することができる。その場で形成される分解性ネットワークも、本発明の使用に好適である(例えば、Anseth,KS et al.(2002)J.Controlled Release 78:199〜209;Wang,D.et al.,(2003)Biomaterials 24:3969〜3980;米国特許公開第2002/0022676号(He et al.)を参照)。これらの、その場で形成される材料は、注射に好適な流体として配合し、次いで、その場又はインビボで、様々な手段(例えば、温度、pH、露光の変更)によって導入することができる。
【0113】
別の実施形態では、このフレームワークは、生体吸収性材料、例えば、PGA、PLA、PCLのコポリマー若しくはブレンド、又はヒアルロン酸から作製された、マルチフィラメント糸で構成することができる、フェルトである。この糸は、圧着、切断、カーディング、及びニードリングからなる、標準的なテキスタイル加工技術を使用して、フェルトへと作製される。別の実施形態では、細胞は、複合材料構造体とすることができる、発泡体スカフォールド上に播種される。
【0114】
上記の多くの実施形態において、フレームワークは、血管形状などの有用な形状に成型することができる。更に、臍帯組織由来細胞は、例えば、繊維芽細胞含有GDC血管内コイルを調製するために使用される方式に対応する方式で、事前形成された非分解性の、外科用装置又は埋め込み可能装置上に、培養することができる点が、理解されるであろう(Marx,WF et al.,(2001)Am.J.Neuroradiol.22:323〜333)。
【0115】
これらのマトリックス、スカフォールド、又は装置は、細胞付着を増強するために、細胞の接種の前に処理することができる。例えば、接種の前に、ナイロンマトリックスは、0.1モルの酢酸で処理して、ポリリシン、PBS、及び/又はコラーゲン中でインキュベートすることにより、そのナイロンをコーティングすることができる。ポリスチレンは、硫酸を使用して、同様に処理することができる。フレームワークの外側表面もまた、そのフレームワークの血漿コーティング、あるいはタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸)、遺伝子材料(例えばサイトカイン及び増殖因子)、細胞マトリックス、並びに/又はその他の材料(細胞の生存及び分化に影響を与える因子のうち、ゼラチン、アルギン酸塩、寒天、アガロース、及び植物ゴムなどを含むがこれらに限定されない)のうち1種以上の添加などによって、細胞の付着若しくは増増殖、及び組織の分化を改善するように、改変することができる。
【0116】
hUTC含有フレームワークは、当該技術分野において既知の方法に従って調製される。例えば、細胞は、準集密又は集密まで、培養容器内で自由に増殖させて、その培養物から取り上げ、フレームワーク上に接種することができる。必要に応じて、細胞の接種前、接種中、若しくは接種後に、培養培地に増殖因子を添加することにより、分化及び組織形成を誘発させることができる。あるいは、フレームワーク上での細胞の増殖が増強されるように、又はインプラントの拒絶のリスクが低減されるように、フレームワーク自体を改変することができる。それゆえ、1種以上の生物学的に活性な化合物を、局所放出のために、フレームワークに添加することができ、それらの化合物としては、抗炎症化合物、免疫抑制剤、又は増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
臍帯組織由来細胞、臍帯組織由来細胞の一部、又は臍帯組織由来細胞を含む細胞集団、又は臍帯組織由来細胞の構成要素、又は臍帯組織由来細胞により産生された産物は、特に末梢血管疾患患者において、骨格筋細胞及び組織の修復、再生及び改善を支援し促進するため、血流を改善するため、そして血管形成を刺激及び/又は促進するために、様々な方法で使用することができる。そのような利用は、インビトロ法、エクスビボ法、及びインビボ法を包含する。
【0118】
一実施形態において、上述のように、臍帯組織由来細胞は、この細胞によって自然に産生されるか、骨格筋、血管平滑筋、周皮細胞、若しくは、血管内皮系統へと分化するように誘導された細胞によって産生されるか、又は、遺伝子操作経由の細胞によって産生される、生物学的産物を産生するよう、インビトロで培養することができる。例えば、TIMP1、TPO、KGF、HGF、FGF、HBEGF、BDNF、MIP1b、MCP1、RANTES、I309、TARC、MDC、及びIL−8は、増殖培地中で増殖させた臍由来細胞から分泌されることが見出されている。加えて、VEGF、SDF−1、EPO、G−CSF、スタチン、エストロゲン、PPARγ、及びCXCR4などの内皮前駆細胞補充のための因子は、臍帯組織由来細胞により産生され得、増殖培地中に分泌され得る。骨格筋又は血管の修復及び再生に使用するための他の栄養因子(まだ検出も試験もされていないが)は、臍帯組織由来細胞により産生され、かつ培地中に分泌される可能性が高い。
【0119】
この点において、本発明の他の一実施形態では、未分化臍帯組織由来細胞、又は骨格筋若しくは血管系統への分化を刺激する条件下で培養された臍帯組織由来細胞のいずれかから、馴化培地を産生するための、臍帯組織由来細胞の利用を特徴とする。そのような馴化培地は、インビトロ又はエクスビボでの、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、若しくは血管内皮前駆細胞の培養における使用が想到され、あるいは、インビボでの、臍帯組織由来細胞の均質集団、又は、臍帯組織由来細胞と、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、若しくは血管内皮前駆細胞とを含む不均質集団を含む移植細胞を支持するための使用が想到され、あるいは、例えば虚血性損傷部位へ内皮前駆細胞を補充するための使用が想到される。
【0120】
更に別の一実施形態は、様々な目的のための、hUTC細胞溶解物、可溶性細胞画分若しくはその成分、又はECM若しくはその成分の使用を含む。上述のように、これらの成分の一部は、医薬組成物中で使用することができる。他の実施形態では、細胞溶解物又はECMを使用して、外科的な使用のための、若しくは埋め込みのための、若しくはエクスビボ目的のための物質又は装置を、コーティングするか、あるいは他の方法で処理することにより、そのような処理の過程で接触する細胞又は組織の、治癒若しくは生存が促進される。幾つかの好ましい実施形態において、臍帯組織由来細胞から作製されるそのような調製物は、FGF及びHGFを含む。
【0121】
別の一実施形態において、臍帯組織由来細胞は、他の細胞、特に、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、又は血管内皮前駆細胞に、栄養的支持を提供するためのインビトロでの共培養において、有利に使用される。幾つかの好ましい実施形態において、この栄養的支持とは、細胞の増殖である。共培養に関しては、臍帯組織由来細胞及び望ましい他の細胞は、それら2つの細胞型が接触する条件下で共培養されることが、望ましい場合がある。このことは、例えば、培養培地中、又は好適な培養基質上に、不均質な細胞の集団として、それらの細胞を播種することによって達成することができる。あるいは、臍帯組織由来細胞をまずコンフルエンスまで成長させることができ、その後、培養中で、2番目の望ましい細胞型の基質として役立つ。この後者の実施形態では、それらの細胞は、例えば、膜又は同様の装置によって、更に物理的に分離させることができ、これにより、共培養の期間の後に、他の細胞型を取り出して、個別に使用することができる。骨格筋若しくは血管細胞型の増殖及び分化を促進するための共培養における臍帯組織由来細胞の使用には、研究及び臨床上/治療上の分野において、妥当性が見出され得る。例えば、臍帯組織由来細胞の共培養を利用して、例えば、基礎研究の目的で、又は、薬剤スクリーニングアッセイの目的で、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮細胞の培養中での成長及び分化を促進することができる。また、臍帯組織由来細胞の共培養は、後で治療目的に投与するために、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮前駆細胞のエクスビボ増殖に利用することもできる。例えば、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は血管内皮前駆細胞を、エクスビボでの臍帯組織由来細胞の共培養で増殖した個人のものから採取し、その後、その個人(自家移入)若しくは他の個人(同系若しくは同種移入)に戻すことができる。これらの実施形態において、エクスビボでの増殖後、臍帯組織由来細胞と、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、若しくは血管内皮前駆細胞とを含む混合細胞集団を、治療が必要な患者に投与可能であることが理解されよう。あるいは、自家移入が適切又は望ましい状況では、共培養された細胞集団を、患者に投与するために、培養中で物理的に分離して、自家の骨格筋、血管平滑筋、若しくは血管内皮前駆体を取り除くことができる。
【0122】
米国特許出願公開第2005/0058631号、同第2005/0054098号、及び同第2005/0058630号に記述されているように、臍帯組織由来細胞は、体内に効果的に移植され、かつ、許容された動物モデルにおいて、血流を改善し、組織壊死を低減したことが示されている。本発明で示す発見とともに、これらの見解は、本発明の好ましい実施形態を支持し、臍帯組織由来細胞は、末梢血管疾患患者における骨格筋及び/又は血管組織を修復又は再生することによって、あるいは、末梢血管疾患患者における血流を改善し、又は、血管形成を刺激及び/又は支持することによって、虚血性損傷又は損壊を治療するための細胞療法に用いられる。一実施形態において、臍帯組織由来細胞は、体内の標的位置、特に、虚血エピソードの位置若しくはその付近に移植され、この臍帯組織由来細胞は、骨格筋、血管平滑筋、周細胞、若しくは、血管内皮表現型のうち1つ又は2つ以上に分化することができ、この臍帯組織由来細胞は、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋前駆細胞、周前駆細胞、若しくは、血管内皮前駆細胞、並びに/又は、骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、周細胞、若しくは、血管内皮細胞に、その場で栄養的補助を提供することができ、この臍帯組織由来細胞は、虚血性損傷の部位へ内皮前駆細胞を補充する因子を産生することができ、あるいは、この臍帯組織由来細胞は、これらのうち2つ以上の方法において有益な効果を及ぼすことができる。この臍帯組織由来細胞は、GFGFm、IL−6、IL−8、HGF、IGF−1、TPO、及び同様物を含むがこれらに限定されない栄養因子を分泌する。この臍帯組織由来細胞は、新しい血管の形成を刺激するための血管芽細胞などの、血管前駆細胞の補充を助けることができる。
【0123】
臍帯組織由来細胞は、投与された患者の体に、栄養作用を及ぼすことができる。例えば、臍帯組織由来細胞は、骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、周細胞、又はそれらの前駆細胞に栄養作用を及ぼすことができる。幾つかの好ましい実施形態において、この栄養作用とは、そのような細胞の増殖である。臍帯組織由来細胞は、投与された患者の体内で、細胞の遊走を誘導することもできる。そのような遊走は、末梢虚血のような末梢血管疾患の修復、再生、治療を促進することができる。例えば、末梢血管疾患の部位又はその近くに投与された臍帯組織由来細胞は、罹患した組織及びその周囲を、修復、再生、又は治療するために、末梢血管疾患の部位へと細胞の遊走を誘導することができる。臍帯組織由来細胞は、骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、周細胞、又はそれらの前駆細胞の遊走を誘導することができる。好ましい実施形態において、臍帯組織由来細胞は、末梢血管疾患の部位又は少なくともその近くに、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の遊走を誘導する。幾つかの実施形態において、遊走は、FGF及び/又はHGFによって、好ましくは、臍帯組織由来細胞によって発現したFGF及びHGFによって、誘導又は支持される。また、細胞溶解物、細胞内分画、及び同様物を含む、臍帯組織由来細胞から作られた調製物は、末梢血管疾患を治療するために用いることができる。そのような調製物は、本明細書に記述及び例示されているような製薬上許容される担体と共に配合することができ、かつ、末梢血管疾患を治療するために有効な量で、患者に投与することができる。好ましい実施形態において、臍帯組織由来細胞から作製される調製物は、FGF及びHGFを含む。
【0124】
本発明の特定の実施形態は、末梢虚血性損傷又は損壊を治療するための、血管の直接の修復、再生、置換、又は、血管の修復、再生、若しくは置換の支持を目的とする。
【0125】
臍帯組織由来細胞は、単独で(例えば、実質的に均質な集団として)投与でき、あるいは、他の細胞とともに混合剤として投与できる。上述したように、臍帯組織由来細胞は、マトリックス若しくはスカフォールドとともに、又は、従来の製薬上許容される担体とともに、医薬調製物中に配合して投与することができる。臍帯組織由来細胞を他の細胞と共に投与する場合、他の細胞と同時に投与することができ、また他の細胞と連続して投与することができる(他の細胞の前でも後でもよい)。臍帯組織由来細胞と併用投与してもよい細胞には、筋細胞、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、又は血管内皮前駆細胞、及び/又は他の複能性若しくは多能性幹細胞が挙げられるがこれらに限定されない。種々の型の細胞を、投与の直前若しくは少し前に臍帯由来細胞と混合することができ、又はそれらの細胞と共に、投与前の一定期間にわたって、共培養することもできる。
【0126】
臍帯組織由来細胞は、当該技術分野において既知の、抗炎症薬、抗アポトーシス薬、抗酸化剤、増殖因子、血管形成因子、又は、筋再生薬若しくは筋保護薬のような、他の有益な薬剤若しくは生物由来分子又は他の活性薬剤と共に投与することができる。臍帯組織由来細胞が他の薬剤と共に投与される場合、それらの臍帯組織由来細胞は、単一の医薬組成物として一緒に、又は別個の医薬組成物として、他の薬剤と同時に、若しくは逐次的に(他の薬剤の投与より前、又は後のいずれかで)、投与することができる。他の薬剤は、当該技術分野の医師が適切だと判断した場合、移植前に開始して回復経過全体にわたって継続する治療レジメンの一部であってよく、移植時又は移植の後に開始する治療レジメンの一部であってもよい。
【0127】
臍帯組織由来細胞と共に投与できる他の構成成分の例としては次のものが挙げられるが、これらに限定されない:(1)他の血管形成因子、血管形成薬、又は筋再生性若しくは筋保護性の因子若しくは薬剤、(2)選択された細胞外マトリックス成分(例えば、当該技術分野で既知の1つ又は2つ以上のタイプのコラーゲン、及び/又は増殖因子)、富血小板血漿、及び、薬剤(あるいは、臍帯組織由来細胞は、増殖因子を発現し産生するように、遺伝子操作することができる)、(3)抗アポトーシス薬(例えばエリスロポエチン(EPO)、EPOミメティボディ、トロンボポエチン、インスリン様増殖因子(IGF)−I、IGF−II、肝細胞増殖因子、カスパーゼ阻害剤)、(4)抗炎症化合物(例えば、p38 MAPキナーゼ阻害剤、TGF−β阻害剤、スタチン、IL−6及びIL−1阻害剤、ペミロラスト、トラニラスト(Tranliast)、REMICADE(登録商標)(Centocor,Inc.(Malvern,PA))、シロリムス、及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)(例えばテポキサリン、トルメチン、スプラフェン)、(5)免疫抑制薬若しくは免疫調節薬(例えば、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、抗増殖薬、副腎皮質ステロイド、及び様々な抗体)、(6)抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンC及びE、コエンザイムQ−10、グルタチオン、L−システイン、並びにN−アセチルシステイン)、(6)局所麻酔薬、など。
【0128】
一実施形態において、臍帯組織由来細胞は、未分化細胞、すなわち、成長培地の中で培養された細胞として投与する。あるいは、臍帯組織由来細胞は、培養中で、望ましい骨格筋、血管平滑筋、周細胞、又は、血管内皮の表現型への分化を刺激する条件に曝露した後に、投与することができる。
【0129】
本発明の細胞は、外科的埋め込み、注射、送達(例えば、カテーテル、注射器、シャント、ステント、マイクロカテーテル、又はポンプによる)又は他の方法で、虚血損傷、損壊、又は窮迫部位に、直接的若しくは間接的に投与することができる。本発明の細胞、若しくはその組成物の投与経路には、静脈内、筋肉、皮下、鼻内、髄腔内、大槽内、又は針付き注射器を経由し、又はカテーテル(ポンプ機器を伴うか若しくは伴わない)を経由するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
細胞が、半固体又は固体の装置内に投与される場合、身体内の正確な場所内への外科的埋め込みが、典型的には、好適な投与手段である。しかしながら、液体若しくは流体の医薬組成物を、血液を通じて、若しくは、罹患した筋肉組織に(例えば、拡散性虚血損傷の場合のような拡散性の患部全体に)直接投与してもよい。臍帯組織由来細胞の遊走は、化学的シグナル、増殖因子、又はカルパインによって導くことができる。
【0131】
臍帯組織由来細胞、又は、臍帯組織由来細胞を含む組成物及び/又はマトリックスは、マイクロカテーテル、体内カテーテル法(intracatheterization)、又はミニポンプを経由して部位に送達することができる。溶媒賦形剤又は担体は、患者に対し、特に、細胞分化が誘導されるべき部位に対し局所的に投与するために、製薬上許容されることが既知である任意のものでありうる。例としては、液体培地、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、滅菌生理食塩水、滅菌リン酸緩衝生理食塩水、リーボビッツ培地(L15、Invitrogen(Carlsbad,CA))、滅菌ブドウ糖液、及び、他の任意の生理学的に許容される液体が挙げられる。
【0132】
他の実施形態は、製薬上許容される担体及び臍帯組織由来細胞構成成分(例えば、細胞溶解物又はその成分)、又は産物(例えば、臍帯組織由来細胞から自然に産生されるか、若しくは臍帯組織由来細胞からの遺伝子組み換え、馴化培地により産生される、栄養因子又はその他の生物学的因子)、又は、臍帯組織由来細胞増殖成長培地、又は、増殖培地から精製された産物を投与することによって、末梢虚血損傷若しくは損壊を治療する方法を包含する。好ましい実施形態において、この生物学的因子はFGF及びHGFである。これらの方法は、当該技術分野において既知の、増殖因子、血管形成因子、筋再生薬、又は筋保護薬などの、他の活性薬剤を更に含み得る。
【0133】
臍帯組織由来細胞、又は、本明細書に記述されている任意の他の治療組成物若しくは医薬組成物を投与するための剤形及びレジメンは、個々の患者の病状(例えば、末梢虚血イベントに由来する損傷若しくは損壊の性質及び程度、年齢、性別、体重、全般的な医学的状態、及び、医師に既知であるその他の因子)を考慮して、良好な臨床慣例に従って開発される。それゆえ、患者に投与される医薬組成物の有効量は、当該技術分野において既知であるような、これらの考慮事項によって決定される。
【0134】
臍帯組織由来細胞は、混合リンパ球反応における同種のPBMCを刺激しないことが示されている。したがって、同種又は異種による移植でさえ、臍帯組織由来細胞は、場合によっては許容可能である可能性がある。幾つかの実施形態において、臍帯組織由来細胞はそれ自体、免疫抑制効果を提供し、それによって、移植された臍帯組織由来細胞の宿主拒絶反応を妨げる。このような例では、細胞治療中の薬理学的な免疫抑制は、必要でなくなる可能性がある。
【0135】
しかしながら、他の場合には、細胞療法を開始する前に、患者を薬理学的に免疫抑制することが、望ましいか、又は適切な場合がある。このことは、全身性若しくは局所性の免疫抑制剤の使用を通じて達成することができ、又は上述のように、封入装置内の細胞を送達することによって、達成することができる。移植細胞に対する免疫反応を、低減若しくは排除するための、これらの手段及び他の手段は、当該技術分野において既知である。代わりに、臍帯組織由来細胞を、上記で述べたように、免疫原性を低減するように、遺伝子操作してもよい。
【0136】
生きている患者内の、移植された臍帯組織由来細胞の生存は、様々な走査技術、例えば、コンピュータ体軸断層撮影(CAT又はCT)スキャン、磁気共鳴映像(MRI)スキャン、又は陽電子放出断層撮影(PET)スキャンの使用を通じて、判定することができる。移植生存の判定はまた、骨格筋組織又は血管組織を摘出し、目視で、又は顕微鏡を介して、それらを検査することによって、死後に実施することもできる。あるいは、骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、周細胞、血管内皮細胞に特異的な染色で、細胞を処理することが可能である。移植細胞はまた、ローダミン標識マイクロスフェア若しくはフルオレセイン標識マイクロスフェア、ファーストブルー、第2鉄微小粒子、ビスベンズアミドなどの、トレーサー染色剤、又はβ−ガラクトシダーゼ若しくはβ−グルクロニダーゼなどの、遺伝子導入されたリポーター遺伝子産物の、事前組み入れによっても、同定することができる。
【0137】
別の一態様において、本発明は、血管形成を刺激及び/又は支持するため、血流を改善ため、並びに、末梢虚血イベントによって損傷又は損壊した骨格筋を再生、修復、及び改善するための、様々な方法で、臍帯組織由来細胞、臍帯組織由来細胞集団、臍帯組織由来細胞の構成成分及び産物を利用するキットを提供する。虚血イベントによって引き起こされた損壊若しくは損傷の治療、又は、他の予定された治療のために用いられる場合、キットは、少なくとも臍帯組織由来細胞及び製薬上許容される担体(液体、半固体、固体)を含む1つ又は2つ以上の細胞集団を含み得る。このキットはまた、細胞を投与する手段、例えば注射による手段も、任意選択的に含み得る。このキットは、細胞の使用に関する使用説明書を、更に含み得る。軍隊使用のためなどの、野戦病院使用のために調製されるキットは、組織スカフォールド、外科用縫合糸などを含む、全手順供給品を含み得、細胞は、急性損傷の修復と併せて使用される。明細書に記述されるアッセイ及びインビトロ法のためのキットは、(1)臍帯組織由来細胞又は臍帯組織由来細胞の構成成分若しくは産物、(2)インビトロ法を実践するための試薬、(3)適切な場合、他の細胞若しくは細胞集団、並びに(4)インビトロ法を実行するための使用説明書、のうちの1つ又は2つ以上を含み得る。
【0138】
以下の実施例は、より詳細に本発明を記述する。これらの実施例は、本明細書で記述される本発明の態様の更なる例示を提供するためのものであり、限定するためのものではない。
【実施例】
【0139】
(実施例1)
ネズミ後肢末梢虚血モデルにおける臍由来細胞の効力
材料及び方法
臍細胞培養及び分離。臍由来細胞(UDS)は、米国特許公開第2005/0058631号又は同第2005/0054098号の記述に従って調製された。細胞は、10継代又は11継代(集団倍加約20〜25回)まで培養し、その後凍結保存した。
【0140】
虚血モデル治療群:
【0141】
【表1】
【0142】
注射用サンプル調製細胞は注射直前に解凍するか(群3〜5)、又は、細胞を24〜30時間培養した(群6)。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。細胞若しくはプラスミド(100μg)の全量をPBS 100μLに再懸濁させ、マウスに注射するために、27ゲージ針の300μLツベルクリン注射器に充填した。
【0143】
手術。0日目、胸腺欠損ヌードマウスにおいて、左大腿動脈の片側連結及び切除によって、急性後肢虚血を外科的に誘導した。UDC治療又は対照として、少なくともn=8の6つの群に、マウスを分けた。マウスを無作為に、群1〜5のための治療群に割り当てた。本研究において、群6は後で追加したため、無作為性は生じなかった。その上、スケジュールの調整ができなかったために、本来の研究と同時にマイクロCT/PETを実施することできなかった。この分析を、21日の研究が完了した後に登録された8匹の追加動物(4つの対照、4つの培養細胞1)の群で実施した。
【0144】
細胞注射。手術後1日目、足底領域のレーザードップラー撮像分析のために、マウスを麻酔した。マウスがまだ麻酔状態である間に、細胞を左の(虚血性の)肢の5つの部位、すなわち、(1)前脛骨筋に20μL、(2)腓腹筋に20μL×2ヶ所、(3)四頭筋束の大腿直筋に20μL×2ヶ所に注射した。
【0145】
分析。レーザードップラー撮像を、1、4、8、14、21日目に実行した。21日目に、薄切片形成及びCD31抗体による免疫組織化学染色のために、マウスを屠殺し、前脛骨筋(TA)、腓腹筋、四頭筋を摘出し、低温固定した。8日目に、筋肉の潅流状態を測定するために、フルオロメタンガスを使用したマイクロCT/PET分析を実施した。これらのマウスをその直後に屠殺し、低温固定の薄切片上のCD31免疫組織化学法のために、後肢筋肉を加工した。
【0146】
除外基準。手術後1日目に重度のつま先壊死を示したマウスを、注射の前に研究から除外した。また、重度の壊死(例えば、足全体の壊死)のために、又は、重度の体重低下を経験するか、若しくはさもなくば、激痛の兆しを示した場合は、そのマウスを研究の任意の時に除外した。
【0147】
結果
これらの実験のねらいは、齧歯類後肢虚血モデルにおいて、UDCが細胞を損傷から保護するかどうかを判定することであった。このモデルは、大腿部の血流に損傷を作り出し、損傷の約24時間後、その範囲に細胞を注射することによって、実施された。これらの動物の手足の潅流を推定し、これと、損傷のない反対側の手足とを比較することによって、結果を評価した。また、動物の脈管構造及び損傷を評価するための研究の終わりに、これらの動物から組織を収集した。この研究は、移植細胞の異種間の拒絶反応を回避するために、ヌードマウスにおけるヒト細胞でも実施された。
【0148】
図1に示す結果は、UDCがマウスに利益を与えることを示す。これは、培養細胞で処理して4日目及び8日目の動物では、潅流が改善され、また、8日目の注射の前に即座に解凍した120304細胞で処理した動物でも、血流は改善されたからである。細胞072804Aは、任意の時点で利益を示さなかった。このことは、2つの細胞ロット間の違いを示唆している。概して、動物は、この動物系統がある程度自然に修復する可能性を有している時間以上の改善を示した。また、これらの動物は、比較的若く、それは生得的な再生可能性における1つの要素である可能性がある。
【0149】
TA筋肉を研究の終わりに収集し、抗CD31抗体により血管内皮細胞を検出するために、切片を探査した。代表的な結果を図2に示す。結果は、PBS対照動物が全体的な壊死を示し、虚血性手足において脈管構造を制限し(例えば、マウス番号26及び43)、一方、UDC治療の四肢が、CD31染色の相対的に高いレベルを示し、壊死のレベルを低減したことを示している。また、結果は、培養UDCで治療した動物が、対照物(PBS対照、及び、幾つかの場合では、正常な(損傷していない)四肢)と比較して改善された脈管構造を示したことを示唆している。正常四肢と比較して、虚血性であるが治療された四肢において、増加したCD 31染色が観察された。VEGFプラスミド、Umb072804Aで処理された動物は、PBS対照と同様の結果を示した。
【0150】
要約
これらの結果は、げっ歯類後肢虚血モデルにおいて、臍帯由来細胞は血流を改善し、組織壊死を低減するのに有効であるというエビデンスを提示している。研究は注射の前に即座に解凍された2つの異なるロットの臍細胞を含み、結果は、ロット間で違いが存在する可能性を示唆した。また、幾つかの活性を有すると思われる細胞を、注射の前に約48時間培養し、その他の治療群の中に含めた。これらの細胞は最も効果的であると思われ、これは、培養することが細胞の活性プロファイルを変えることを示唆している。また、組織学的な結果は、この治療が保護的な効果を提供することができるというエビデンスを提示している結果は、UDCが効果を及ぼすメカニズムについて、十分な情報を提示していない。作用に関する特定の理論若しくはメカニズムに拘束されるものではないが、新しい血管の成長を刺激し、損傷の進行から筋肉組織を保護することによって、例えば、アポトーシスから保護すること、又は、外因性の活性剤を補充することによって、これらの細胞が効果を及ぼす可能性が考えられる。作用の正確なメカニズムを調査するために、更なる研究が必要である。
【0151】
参考文献
1)Rehman,J.et al.(2004)Circulation 109:1292〜1298。
【0152】
(実施例2)
内皮ネットワーク形成アッセイ
血管形成、すなわち、新しい脈管構造の形成は、新しい組織の成長のために必要である。血管形成の誘導は、多くの病理学上の病状における重要な治療目標である。インビトロアッセイにおける臍帯組織由来細胞の潜在的な血管形成活性を同定するために、基底膜抽出物である商標名MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))の生物由来細胞培養基質でコーティングされた培養プレート上に内皮細胞を接種するという、よく確立された方法を行った(Nicosia and Ottinetti(1990)In Vitro Cell Dev.Biol.26(2):119〜28)。MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))上で内皮細胞を血管形成因子とともに処理することによって、細胞を毛細血管と同様のネットワークを形成するように刺激するだろう。このことは、血管形成の刺激因子及び阻害因子を試験するための共通のインビトロアッセイである(Ito et al.(1996)Int.J.Cancer 67(1):148〜52)。実験は、培養ウェルインサート上に接種した臍帯組織由来細胞とともに共培養するシステムを用いた。これらの透過性インサートは、内皮細胞培養培地と臍帯組織由来細胞培養培地との間の培地成分の受動的交換を可能にする。
【0153】
方法及び材料
細胞培養
臍帯組織由来細胞及び胎盤組織由来細胞。ヒト臍帯及び胎盤を受領し、細胞を前述のように単離した(実施例1参照)。細胞をゼラチンコート組織培養プラスチックフラスコ上の増殖培地(ダルベッコ変法必須培地(DMEM、Invitrogen(Carlsbad,CA))、15%(v/v)ウシ胎仔血清(Hyclone(Logan UT))、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン(Invitrogen)100μg/mL、0.001%(v/v)2−メルカプトエタノール(Sigma(St.Louis,MO)))の中で培養した。この培養物を、5%のCO下、37℃でインキュベーションした。実験に使用した細胞は、4継代〜12継代の間のものであった。
【0154】
活発に増殖している細胞をトリプシン処理し、計数し、COSTAR TRANSWELL直径6.5mmの組織培養インサート(Corning(Corning,NY))上に、細胞15,000個/インサートで接種した。細胞を、標準的増殖条件下、37℃、増殖培地中で、48〜72時間、インサート上で培養した。
【0155】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)。hMSCsをCambrex(Walkersville,MD)から購入し、MSCGM(Cambrex)中で培養した。培養物を標準的増殖条件下でインキュベーションした。
【0156】
活発に増殖しているMSCをトリプシン処理し、計数し、COSTAR TRANSWELL直径6.5mmの組織培養インサート(Corning(Corning,NY))上に、細胞15,000個/インサートで接種した。細胞を、標準的増殖条件下、増殖培地中で、48〜72時間、インサート上で培養した。
【0157】
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)。HUVECをCambrex(Walkersville,MD)から入手した。細胞を、EBM若しくはEGM内皮細胞培地(Cambrex)のいずれかの中で、別個の培養中で増殖させた。細胞を、標準的増殖条件下、標準組織培養プラスチック上で増殖させた。アッセイで用いた細胞は、4継代〜10継代の間のものであった。
【0158】
ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)。HCAECは、Cambrex Incorporated(Walkersville,MD)から購入した。これらの細胞もまた、EBM若しくはEGM培地配合物のいずれかの中で、別個の培養中で維持した。細胞を、標準的増殖条件下、標準組織培養プラスチック上で増殖させた。実験のために使用した細胞は、4継代〜8継代の間のものであった。
【0159】
内皮ネットワーク形成(MATRIGEL)アッセイ。培養プレートを、メーカーの仕様に従って、MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))でコーティングした。簡単に言うと、MATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))を4℃で解凍し、約250μLに分注し、凍らせた24ウェル培養プレート(Corning)の各ウェル上に等しく分配した。その後、材料を凝固させるために、プレートを、37℃で30分間、インキュベーションした。活発に増殖している内皮細胞培養物をトリプシン処理し、計数した。細胞を2% FBSの入った成長培地中で、遠心分離し、再懸濁し、上澄みを吸引することによって、2回洗浄した。コートウェル上、2%(v/v)FBSの入った成長培地約0.5mLの中に、細胞を20,000細胞/ウェルで接種した。その後、細胞を定着させるように、約30分間インキュベーションした。
【0160】
その後、内皮細胞培養物を、内皮細胞反応の陽性対照とするために、10nmolヒトbFGF(Peprotech(Rocky Hill,NJ))、又は10nmolヒトVEGF(Peprotech(Rocky Hill,NJ))のいずれかで処理した。臍帯組織由来細胞を接種したトランスウェルインサートを、インサートチャンバー中に2% FBSを含む成長培地の入った適切なウェルに加えた。培養物を、5% CO下、37℃で、約24時間インキュベーションした。ウェルプレートをインキュベータから取り除き、内皮細胞培養物像をOlympus倒立顕微鏡(Olympus(Melville,NY))で収集した。
【0161】
結果
胎盤由来細胞又は臍帯由来細胞とともに共培養した系では、HUVECは細胞ネットワークを形成する(データ図示なし)。HUVEC細胞は、hMSC及び10ナノモルbFGFによる共培養実験において、限定的な細胞ネットワークを形成する(図示なし)。任意の処理なしのHUVEC細胞は、ネットワーク形成がほとんどないか、又は全くないことが示された(データ図示なし)。これらの結果は、臍帯組織由来細胞がHUVECを刺激する血管形成因子を放出することを示唆する。
【0162】
胎盤由来細胞又は臍帯由来細胞とともに共培養した系では、CAECは細胞ネットワークを形成する(データ図示なし)。
【0163】
表2−1は、増殖培地中に胎盤組織由来細胞及び臍帯組織由来細胞によって放出された既知の血管形成因子の濃度を示している。上述のように、胎盤組織由来細胞及び臍帯組織由来細胞をインサート上に接種した。細胞を、37℃、大気酸素中、インサート上で、48時間培養し、その後、2% FBS培地に切り換え、37℃、24時間に戻した。培地を取り除き、即座に凍結し、−80℃で保存し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce Chemical Company(Rockford,IL))によって分析した。示した結果は、2回の測定値の平均である。結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、検出できる濃度の血小板由来増殖因子−bb(PDGF−bb)、又は、ヘパリン結合表皮増殖因子(HBEGF)を放出しないことを示す。細胞は、測定可能な量の、メタロプロテアーゼ組織阻害因子1(TIMP−1)、アンジオポエチン2(ANG2)、トロンボポエチン(TPO)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)を放出する。
【0164】
【表2】
臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞を、大気酸素中、2% FBSを含む培地中で、24時間培養した。培地を除去し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce)で解析した。結果は、2回の分析の平均である。値は、培地ミリリットル当たりのピコグラムで報告された培地中の濃度である。Plac:胎盤由来細胞、Umb cord:臍帯由来細胞。
【0165】
表2−2は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞によって放出された既知の血管形成因子の濃度を示している。上述のように、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞をインサート上に接種した。細胞を、5%酸素、増殖培地中、インサート上で、48時間培養し、その後、2% FBS培地に切り換え、5% O下インキュベーション、24時間に戻した。培地を取り除き、即座に凍結し、−80℃で保存し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce Chemical Company(Rockford,IL))によって分析した。示した結果は、2回の測定値の平均である。結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、検出できる濃度の血小板由来増殖因子−bb(PDGF−BB)、又は、ヘパリン結合表皮増殖因子(HBEGF)を放出しないことを示す。細胞は、測定可能な量の、メタロプロテアーゼ組織阻害因子1(TIMP−1)、アンジオポエチン2(ANG2)、トロンボポエチン(TPO)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)を放出する。
【0166】
【表3】
臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞を、5%酸素中、2% FBSを含む培地中で、24時間培養した。培地を除去し、SearchLight多重ELISAアッセイ(Pierce)で解析した。結果は、2回の分析の平均である。値は、培地ミリリットル当たりのピコグラムで報告された培地中の濃度である。Plac:胎盤由来細胞、Umb cord:臍帯由来細胞。
【0167】
要約。
結果は、インビトロでのMATRIGEL(BD Discovery Labware(Bedford,MA))アッセイで、分娩後由来細胞が、ヒト臍静脈細胞と冠動脈内皮細胞との両方を、ネットワークを形成するよう刺激することができることを示す。この効果は、このアッセイシステムにおいて、既知の血管形成因子とともに見られたものと同様である。これらの結果は、臍帯由来細胞及び胎盤由来細胞が、インビボでの血管形成を刺激するために有用であることを示唆する。
【0168】
(実施例3)
内皮細胞のインビトロでの増殖及び遊走におけるhUTCの効果
本研究は、ヒト臍組織由来細胞(hUTC)の、インビトロでの内皮細胞の増殖及び遊走についての効果を決定するために実施された。hUTC及び内皮細胞を共培養することによって、そして、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の培養物をhUTC溶解物とともにインキュベーションすることによって、これらの効果を調べた。本明細書で示された結果は、hUTCが内皮細胞の増殖及び遊走を誘導することを示す。更に、データは、これらの効果が部分的に、線維芽細胞増殖因子(FGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)によって媒介されることを示唆する。
【0169】
材料及び方法
細胞培養
凍結保存したヒト臍組織由来細胞(hUTC)(ロット番号120304)を、8〜9継代で解凍し、ゼラチンコートフラスコ上に接種し、ヘイフリック成長培地(DMEM低グルコース(Gibco、カタログ番号11885−084)、15% v/vウシ胎仔血清(FBS、Hyclone、カタログ番号SH30070.03)、0.001% v/v β−メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7154)、50U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン(Gibco、カタログ番号3810−74−0))中で培養した。本明細書に記述される研究について、使用した細胞は、10継代又は11継代であった。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、カタログ番号C2517A)、ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC、カタログ番号CC2585)、ヒト腸骨動脈内皮細胞(HIAEC、カタログ番号CC2545)をCambrexから入手し、内皮増殖培地(EGM−2MV、カタログ番号3202)中で、メーカーの推奨に従って培養した。また、ヒト間葉系幹細胞(MSC、カタログ番号PT−2501)をCambrexから購入し、間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM、カタログ番号PT−3001)中で、メーカーの推奨に従って維持した。ヒト皮膚線維芽細胞(CCD9)はATCCからのものであり、10% FBS、1U/mLペニシリン−ストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地中で維持した。
【0170】
所定の継代のために、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Invitrogen、カタログ番号14190)で一度洗浄し、トリプシン処理(0.25%トリプシン−EDTA、Invitrogen、カタログ番号25200−056)により解離させた。細胞は、Guava(登録商標)機器(Guava Technologies(Hayward,CA))を用いて計数し、細胞5000個/cmの密度で播種した。細胞を3〜4日毎に定期的に継代した。
【0171】
増殖因子と抗体
組み換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、カタログ番号100−18B)及び、組み替えヒト肝細胞増殖因子(HGF、カタログ番号100−39)は、Peprotech製であり、組み換えヒト血管内皮増殖因子(VEGF、カタログ番号293−VE)は、R and D Systems製であった。bFGFに対する抗体(カタログ番号ab11937)、HGFに対する抗体(カタログ番号ab10678)、VEGFに対する抗体(カタログ番号ab9570)をAbeam(Cambridge,MA)から購入した。
【0172】
細胞溶解物の調製
細胞溶解物を、以前に成長させた凍結hUTC(ロット番号120304)細胞ペレットから準備した。簡単に言うと、hUTC(ロット番号120304)を4日間培養し、トリプシン処理で採取し、遠心分離によってペレットにした。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、PBS中に細胞1×10個/mLで再懸濁した。懸濁液1mLのアリコートを1.5mL滅菌シリコン化微小遠心チューブ中に入れ、300rcfで5分間遠心分離した。PBSを吸引し、細胞ペレットを、使用するまで−80℃で保存した。
【0173】
細胞溶解物を調製するために、細胞ペレットを含むチューブを、液体窒素(LN2)中に60秒間浸し、その後、即座に37℃の水浴に60秒間、又は、解凍されるまでであるが3分未満、浸した。この段階を3回くり返した。この段階の後、凍結解凍サンプルを13,000rcf、4℃で、10分間遠心分離し、その後、氷上に置いた。上澄みを注意深く取り除き、新しい滅菌シリコン化1.5mLチューブに移した。遠心分離段階を3回繰り返し、結果的に生じた上澄みを集めた。タンパク質濃度を、Quickstart Bradfordタンパク質アッセイキット(Bio−rad、カタログ番号500−0201)のマイクロアッセイプロトコルを用いて、測定した。
【0174】
細胞増殖の測定
細胞を採取し、指定された培地配合物に直接、細胞5,000個/cmの濃度で播いた。共培養実験のために、24ウェルトランスウェル(Corning、カタログ番号3413)を、ウェルの底の上に播いた内皮細胞(細胞10,000個/ウェル)とともに用い、hUTC、MSC、若しくは、線維芽細胞を、トランスウェルインサート(細胞1,650個/トランスウェルインサート)の内側に播いた。指定された期間で、hUTC、MSC、若しくは、線維芽細胞を含むインサートを取り除き廃棄した。各ウェルに90μLのトリプシンを加えることによって、内皮細胞を採取した。ピペッティングで上下させることによって、細胞を引き離し、その後、96ウェルプレートに移した。培地90μLを加えることによって、トリプシンを抑制した。染色溶液20μL(培地18μL+Guava Viacount Flex試薬1μL+DMSO 1μL)を加えることによって、細胞を染色し、Guava(登録商標)装置(Guava Technologies(Hayward,CA))を用いて定量した。
【0175】
HUVECの増殖におけるhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物の効果を研究するために、HUVECを、EGM−2MV培地の入った24ウェル組織培養皿上に細胞10,000個/ウェルの密度で接種し、8時間置いた。その後、0.5% FBSを含み増殖因子を含まないEGM−2MV培地0.5mL中で、一晩インキュベーションすることで、細胞を血清枯渇させた。その後、FBS、新たに準備したタンパク質を含むhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物62.5μg又は125μg、及び、FGF(7μg/mL)又はHGF(1μg/mL)に対する中和抗体を加えた。4日間の培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0176】
内皮細胞増殖におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムの研究のために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)、VEGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTCとの共培養中に含めた。細胞を最初に播いた時に、抗体を細胞培養培地に加えた。7日間の共培養の後、細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0177】
細胞遊走の評価
細胞遊走を測定するために、6ウェルトランスウェル(Corning、カタログ番号3428)設定を用いた。指定された培地配合物に直接、細胞5,000個/cmの密度で、細胞を接種した。トランスウェルインサートの内側に、内皮細胞を接種し(細胞23,000個/トランスウェルインサート)、ウェルの底に、hUTC(ロット番号120304)又はMSCを播いた(細胞48,000個/ウェル)。共培養7日後に、トランスウェルの下側の細胞数を計数することによって、遊走を評価した。簡単に言うと、トランスウェルを、清潔なウェルへ移し、PBSで洗浄した。ウェルの底にトリプシンを加えることによって、ウェルの下側の細胞を採取した。完全増殖培地を加えることによって、トリプシンを抑制し、遠心分離によって、細胞を収集した。その後、細胞を培地25μLで再懸濁させ、このうちの20μLを用いて、Guava(登録商標)装置で細胞計数を得た。
【0178】
内皮細胞遊走におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムの研究のために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養中に入れた。細胞を最初に播いた時に、抗体を細胞培養培地に加えた。7日間の共培養の後、トランスウエルインサートの下側にあった細胞を収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0179】
結果
内皮細胞の増殖におけるhUTCの効果
内皮細胞の増殖におけるhUTCの効果を研究するために、共培養システムを利用した。このことは、24ウェル組織培養皿の底に播いた内皮細胞、及び、トランスウェルインサートの内側に播いたhUTCのトランスウェル設定を用いて実施された。これらの実験では、2つの異なる培地配合(「材料と方法」に記述されている培地組成物)、すなわち、(1)ヘイフリック培地80%+EGM−2MV培地20%(H80)、又は(2)ヘイフリック培地50%+EGM−2MV培地50%(H50)を用いた。共培養6日又は7日後、トランスウェルインサートを取り除き、内皮細胞をトリプシン処理によって採取し、Guava(登録商標)装置を用いて計数した。
【0180】
H50と比較して、H80中で培養された内皮細胞の増殖におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を、図1に示す。H50中で維持されたHUVECの増殖は、H80中で維持されたものよりも高かったが(図1A)、HCAEC及びHIAECは、これらの共細胞培地配合物中で同様の成長を示している(図1B、及び図1C)。両方の培地配合物において、内皮細胞と、hUTC(ロット番号120304)との共培養は、7日後に細胞数の顕著な増加を示す結果となった。hUTC及び内皮細胞のその後の共培養研究を、全て、ヘイフリック培地50%+EGM−2MV培地50%(H50)培地配合物で実施した。
【0181】
また、他の細胞型が内皮細胞増殖に影響を与える能力を有するかどうか決定するために、内皮細胞との共培養中で、MSC及び線維芽細胞を試験した。図1Aに示すように、共培養培地(H50又はH80)中のHUVECの増殖、及び、MSC又は線維芽細胞とともに共培養したものには、全く違いがなかった。同じことが、hUTC(ロット番号120304)との共培養で、結果的に増加した細胞増殖を生じたHCAEC(図1B)及びHIAEC(図1C)についても真であったが、共培養培地(H50又はH80)中の細胞とMSCとともに共培養した細胞間では、違いは見られなかった。
【0182】
内皮細胞増殖におけるhUTC介在性増加の潜在的なメカニズムを調べるために、FGF(7μg/mL)、HGF(1μg/mL)、VEGF(1μg/mL)に対する中和抗体を、HUVEC及びHCAECと、hUTCとの共培養中に含めた。図2A図2Dの結果は、FGF及びHGFに対する中和抗体を添加することが、HUVEC及びHCAECの両方において、hUTC(ロット番号120304)によって誘導された細胞数の増加を低減させたことを示している。これらの研究のために用いた濃度で、これらの中和抗体は、増殖因子によって誘導されたHUVECの増殖を阻止した(図2A及び2B)。興味深いことに、VEGFに対する中和抗体は、HUVEC(図2A及び2B)並びにHCAEC(図2C及び2D)と、hUTC(ロット番号120304)との共培養によって誘導された細胞増殖について、有意な効果を有さなかったことがわかる。別の研究では、FGF及びVEGFに対する中和抗体の培養培地へ加えることによって、hUTC(ロット番号120304)の増殖は影響を受けなかった(データ図示なし)。
【0183】
HUVECの増殖におけるhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物の効果
また、HUVECの増殖における細胞溶解物の効果を決定するために研究が行われた。HUVECをEGM−2MV培地の入った24ウェルプレート上に、細胞5000個/cmの密度で、8時間接種した。その後、0.5%ウシ胎仔血清(FBS)を含み増殖因子を含まないEGM−2MV培地0.5mL中で、一晩インキュベーションすることによって、細胞を血清枯渇させた。インキュベーション後、新たに準備されたhUTC(ロット番号120304)細胞溶解物を様々な濃度で加えた。幾つかの例では、FGF、HGF、及び中和抗体も含められた。4日間の培養の後、HUVECを収集して、Guava(登録商標)装置を使用して計数した。
【0184】
図3は、細胞溶解物を加えることによって、低血清(0.5% FBS)で維持されている細胞と比較して、HUVECの細胞数の増加が導かれ、細胞数の増加が細胞溶解物の添加量に比例したということを示す。用いた細胞溶解物のより低い濃度(6.25μg/mL)により、結果的に、最適な培地条件(10% FBS)中でインキュベーションした細胞と同程度の細胞数になった。更に、FGF若しくはHGFのいずれかに対する中性抗体を加えることにより、2つの異なる濃度の細胞溶解物によって誘導された細胞数の増加を緩和した。これらの結果は、HUVECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養で得られた結果と一致する。
【0185】
内皮細胞の遊走におけるhUTCの効果
トランスウェル膜(孔の大きさ=8マイクロメートル)を通って移動してきた細胞の数を決定することによって、内皮細胞の遊走を評価した。反応細胞、すなわち、内皮細胞を、6ウェルトランスウェルインサート上に接種し、hUTCをウェルの底に播いた。共培養後、トランスウェルの下側の細胞を採取し、計数した。図4Aは、hUTC及びMSCとともに共培養されたHUVECの遊走を示す。hUTC(ロット番号120304)は、トランスウェルの下側へのHUVECの移動を誘導したが、MSCは誘導しなかった(図4A)。同じ結果が、hUTC(ロット番号120304)との共培養で、培地対照と比較して、結果的により多くのトランスウェルを通過した細胞移動が生じたHCAECにおいて観察された(図4B)。
【0186】
FGF及びHGFに対する中和抗体を使用することによって、HUVEC及びHCAECの遊走行動におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を、更に試験した。図5Aで示したように、これらの抗体によって、hUTC(ロット番号120304)によって誘導されたHUVECの遊走が低減された。HCAECと、hUTC(ロット番号120304)との共培養において、HGFに対する中和抗体は、細胞遊走におけるhUTC(ロット番号120304)介在性の増加を妨げたが、FGFに対する中和抗体は、増加を妨げなかった(図5B)。
【0187】
要約
本明細書で概説された結果は、インビトロでの内皮細胞の増殖行動及び遊走行動におけるhUTCの効果を説明する。hUTC(ロット番号120304)及び内皮細胞の共培養、若しくは、hUTC(ロット番号120304)から準備された細胞溶解物とともに内皮細胞を直接インキュベーションすることを用いて、本研究を実施した。
【0188】
増殖の研究のために、hUTC(ロット番号120304)の効果を試験し、異なる血管床由来の3つの内皮細胞型を、反応細胞として用いた。hUTCでの共培養は、内皮細胞の増殖の増強をもたらした。MSC又は線維芽細胞との共培養は、結果的に、培養対照と同程度の細胞数を生じた。FGF及びHGFに対する中和抗体を加えることによって、hUTC(ロット番号120304)に対するHUVECの増殖反応を弱めたが、VEGFに対する中和抗体では、そうではなかった。このことは、hUTC(ロット番号120304)による増殖の誘導が、FGF及びHGFによって仲介されることを暗示する。hUTC(ロット番号120304)溶解物とのHUVECのインキュベーションが、共培養で観察された結果と同じであることは、注目に値する。
【0189】
移動は、トランスウエルの下側にある細胞数を計数することで定量化した。HUVEC及びHCAECの両方をキラー細胞として使用した。増殖に関する試験とは異なり、これらの細胞の移動反応はわずかに異なる。hUTC(ロット番号120304)は、HUVEC及びHCAEC両方の遊走を誘導した。MSCは、HUVECの遊走を誘導しなかった。このことは、この反応がhUTC特異的であることを示唆する。FGF及びHGFに対する抗体は、HUVECの遊走におけるhUTC(ロット番号120304)の効果を打ち消したが、HGFに対する抗体のみが、HCAECの遊走に影響を与えた。このことは、2つの内皮細胞型間の違いを示唆している。
【0190】
要約すると、データは、hUTCが、インビトロで内皮細胞の増殖及び遊走を誘導することを示す。これらの観察された効果において、中和抗体の使用は、FGF及びHGF両方に関係する。しかしながら、他の因子もまた、内皮細胞の増殖及び遊走行動に関わっている可能性がある。
【0191】
(実施例4)
臍由来細胞内でのテロメラーゼ発現
テロメラーゼは、染色体の完全性を保護し、また細胞の複製寿命を延長するために役立つ、テロメア繰り返し体を合成するように機能する(Liu,K et al.、PNAS,1999年:96:5147〜5152)。テロメラーゼは、テロメラーゼRNAテンプレート(hTER)、及びテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の、2つの成分からなる。テロメラーゼの調節は、hTERではなく、hTERTの転写によって決定される。hTERT mRNAに関するリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、それゆえ、細胞のテロメラーゼ活性を判定するための、公認された方法である。
【0192】
細胞単離。リアルタイムPCR実験を実行して、ヒト臍帯組織由来細胞のテロメラーゼ産生を判定した。ヒト臍帯組織由来細胞を、上述の実施例に従って調製した。全般的には、正常な分娩後の、National Disease Research Interchange(Philadelphia,Pa.)から得た臍帯を洗浄して、血液及び残渣を除去し、機械的に解離させた。次いで、その組織を、培養培地中、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、及びヒアルロニダーゼを含む消化酵素と共に、37℃でインキュベートした。ヒト臍帯組織由来細胞を、上記の実施例に記載される方法に従って培養した。間葉系幹細胞及び正常皮膚線維芽細胞(cc−2509ロット番号9F0844)を、Cambrex(Walkersville,Md)から入手した。多能性ヒト精巣胎芽性癌(奇形腫)細胞株nTera−2細胞(NTERA−2 cl.Dl)(Plaia et al.,Stem Cells,2006;24(3):531〜546を参照)を、ATCC(Manassas,Va.)から購入し、上述の方法に従って培養した。
【0193】
全RNAの単離。RNeasy(登録商標)kit(Qiagen(Valencia,Ca.))を使用して、RNAを細胞から抽出した。RNAは、50マイクロリットルDEPC処理済み水で溶出させ、−80℃で保存した。RNAは、TaqMan(登録商標)逆転写試薬(Applied Biosystems(Foster City,Ca.))でランダムヘキサマーを用い、25℃で10分間、37℃で60分間、及び95℃で10分間、逆転写させた。各試料を−20℃で保存した。
【0194】
リアルタイムPCR。Applied Biosystems Assays−On−Demand(商標)(TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイとしても既知)を、メーカーの仕様(Applied Biosystems)に従って使用して、cDNAサンプルに対してPCRを実行した。この市販のキットは、ヒト細胞内のテロメラーゼに関してアッセイを行うために、広く使用されている。簡潔には、hTERT(ヒトテロメラーゼ遺伝子)(Hs00162669)及びヒトGAPDH(内部対照)を、ABI prism 7000 SDSソフトウェア(Applied Biosystems)と共に7000配列検出システムを使用して、cDNA及びTaqMan(登録商標)Universal PCRマスターミックスと混合した。熱サイクル条件は、最初に50℃で2分間及び95℃で10分間とし、その後に、95℃で15秒間及び60℃で1分間の40サイクルとした。PCRデータは、メーカーの仕様に従って分析した。
【0195】
ヒト臍帯由来細胞(ATCC受入番号PTA−6067)、線維芽細胞、及び間葉系幹細胞を、hTERT及び18S RNAに関してアッセイした。表4−1に示すように、hTERT、よってテロメラーゼは、ヒト臍帯組織由来細胞内では検出されなかった。
【0196】
【表4】
【0197】
ヒト臍帯組織由来細胞(単離株022803、ATCC受託番号PTA−6067)及びnTera−2細胞のアッセイを行ったところ、それらの結果は、ヒト臍帯組織由来細胞の4つのロットでは、テロメラーゼの発現を示さなかったが、一方で、テラトーマ細胞株は、高レベルの発現を表した(表4−2)。
【0198】
【表5】
【0199】
それゆえ、本発明のヒト臍帯由来細胞は、テロメラーゼを発現しないということを、結論付けることができる。
【0200】
(実施例5)
ネズミ後肢虚血モデルにおけるhUTC移植の効力
過去のデータから、hUTCの全身投与は、片側後肢虚血のマウスで治療後5日目及び10日目に有意な血流改善をもたらすことが示された。加えて、ある比較実験研究は、hUTCの全身性(経静脈)注射は、局所(筋肉内)注射に比べ、より顕著な血流修復をもたらしたことを示している。
【0201】
この実施例は、末梢後肢虚血のマウスモデル(片側性虚血モデル)における、hUTC及びフィブリン糊中hUTCの筋肉注射の効果を評価する。免疫不全状態ヌードマウス及びNOD/scid IL2rγ−/−(NSG)系統マウスが使用された。
【0202】
動物モデル&説明
本実施例の研究について、ヌードマウスとNSGマウスの間で比較が行われた。
【0203】
NSGマウス系統は、成熟リンパ球、T細胞、B細胞、及びNK細胞の欠損を含む複数の免疫不全を備えているため、異種移植研究用に関心が寄せられている。これらの動物は6ヶ月以上生存し、致死量以下の放射線照射後であっても胸腺リンパ腫を生じない(Ito M.et al.(2002)Blood.100:3175〜82)。
【0204】
片側性後肢虚血は、これらのマウスにおいて作製された。簡単に言えば、動物をイソフルラン吸入により麻酔した。左後肢中線で切開を行った。大腿動脈及びその分枝を、鼠径靱帯から、伏在動脈と膝窩動脈の分岐まで、結紮した。結紮間の領域は摘出し、切開部を5−0シルクVicryl縫合糸(Ethicon)で閉じた。
【0205】
細胞及びフィブリン糊
凍結細胞懸濁液が断熱容器輸送により供給された。受領後、細胞を液体窒素に移して長期保存した。細胞は、注射直前に解凍した。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。全用量をPBSに再懸濁させ、注射のため、28ゲージ針を備えた0.3mLツベルクリン注射器に充填した。
【0206】
フィブリン糊(EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(ヒト用)、Omrix Pharmaceuticals)を、この研究に用いた。使用前に構成成分を解凍し、最終濃度がトロンビン16〜24IU/mL、BAC2(フィブリノーゲン)39.3〜60.7mg/mLになるよう希釈した。トロンビンストック溶液(ストック濃度約800〜1200IU/mL)及びBAC2(フィブリノーゲン)(ストック濃度約55〜85mg/mL)を、トロンビンは1:50、BAC2は1:1.4に、それぞれ希釈した。
【0207】
実験計画
合計48匹のヌードマウス(週齢6〜8週)及び48匹のNOG/SCID(NSG)マウス(週齢6〜11週)を、誕生日付でマッチングし、表5−1に示すように無作為に群に分けた。
【0208】
【表6】
【0209】
エンドポイント検査は、下記のパラメータを測定することにより実施された:
1、7、14、21及び28日目のレーザードップラー撮像による血流評価;7日目(各群から3匹)及び28日目に、CD31染色による毛細血管密度の評価。
【0210】
方法
片側性後肢虚血の形成から1日後、溶媒、溶媒中hUTC、フィブリン糊、又はフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。
【0211】
hUTC注射は、特定の回数の溶媒中hUTC及びフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。これらは、上肢に注射3回(3回×20μL)、下肢に2回(2回×20μL)、合計用量100μLであった。対照動物は、細胞と同様にして溶媒を投与された。
【0212】
フィブリン糊中hUTCの注射のたびに、細胞はトロンビン中で再懸濁された(最終濃度16〜24IU/mL)。BAC2(フィブリノーゲン、最終濃度39.3〜60.7mg/mL)は、別個のエッペンドルフ管に分注した。
【0213】
注入直前に、トロンビン中hUTCを、BAC2の入った管に移し、混合し、0.3mLツベルクリン注射器(28ゲージ針)に充填し、マウス後肢に注射した。100μLを、5回の20μL筋肉内(IM)注射で投与した(上肢に3回注射、下肢に2回注射)。対照動物は、細胞と同様の方法で、フィブリン糊の投与を受けた。
【0214】
統計分析
データは、平均値±平均値の標準偏差として表現された。スチューデントの両側t検定で、各群の比較が行われた。
【0215】
血流の評価
マウス後肢の血液潅流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せる。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集した。7、14、21、及び28日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告される。
【0216】
結果及び分析
レーザードップラー潅流撮像
NSGマウスの、レーザードップラー潅流データ(非虚血の対照右肢に比べた虚血の左肢における潅流のパーセンテージとして表わされる)を、図6及び表5−2(下記)に示す。最大の治療効果は、フィブリンマトリックス中で送達したhUTCで観察された。これらのマウスにおける相対的潅流量は、21日目で、フィブリン対照群のほぼ倍であった(40.3±2.43対22.6±2.34)。21及び28日目において、この影響は両対照群に比べて有意に大きく(P<0.001)、また溶媒のみで投与されたhUTCを投与された群に比べても有意に大きかった(P<0.05)。相対的潅流に対する溶媒中hUTC投与の効果は、28日目で、対照より27%大きかった(P<0.05)。この時点で、溶媒のみ中hUTC治療を受けたNSGマウスの虚血肢における相対的潅流は、30.0±2.3であり、一方、溶媒のみの治療を受けたマウスは23.7±1.6であった。
【0217】
【表7】
【0218】
ヌードマウスの潅流データを図7及び表5−3に示す。フィブリン中hUTCでの治療は、虚血肢の潅流を有意に増加させ(P<0.05)、14日目(53.9±4.7)及び21日目(53.4±3.2)であった一方、フィブリンのみでの治療対照群はそれぞれ39.2±1.7及び40.9±3.7であった。フィブリン中細胞の効果は、28日目で、対照群(40.8±4.3)に比べて高い傾向を示した(52.0±5.8)。しかし、動物間の測定値に大きな偏差があったため有意ではなかった。21日目で、溶媒のみ中hUTCの局所投与は、潅流の強化傾向を示し(64.0±6.3対対照群43.7±7.4)、28日目(52.0±3.5対40.8±4.9)には潅流の有意な強化を示した(P<0.05)。フィブリン中又は溶媒のみで投与されたhUTCの効果の間には、有意な差はなかった。
【0219】
【表8】
【0220】
これらのデータは、NSGマウス系統とヌードマウス系統の両方において、IM注射により局所的に投与されたhUTCは、フィブリン担体と混合したときに早期の効果を有することを示している。NSGマウスにおいては、溶媒のみで細胞を投与した場合よりも、有意に、持続的効果が大きかった。
【0221】
結論
虚血形成から1日後にhUTCの直接筋肉内投与を行うことにより、NSGマウスとヌードマウスの両方において、虚血筋肉の再潅流が強化された。NSGマウスにフィブリンマトリックス中の細胞を投与したところ、溶媒のみで細胞を投与した場合よりも優れた反応を生じると見られた。ネズミの後肢末梢虚血モデルにおいて、hUTCの直接筋肉内投与で治療した動物は、NSGマウスとヌードマウスの両方において、虚血肢の再潅流強化が示された。しかしながら、フィブリン糊中hUTCで治療された動物は、NSGマウスにおいて、溶媒のみで細胞を投与された場合に比べ、より顕著かつ持続的な反応を呈した。
【0222】
(実施例6)
末梢肢虚血のNOD/scid IL2rγ−/−マウスモデルにおけるhUTC移植の効力:投与量及び投与量の研究
この研究では、末梢後肢虚血のマウスモデル(片側性後肢虚血モデル)におけるhUTCの効力を評価した。この研究で、NOD/scid IL2rγ−/−(NSG)系統マウスが使用された。血流修復の効果は、hUTCを(1)溶媒と共に局所投与(筋肉内)、(2)フィブリン糊と共に局所投与(筋肉内)、又は(3)全身投与(静脈内)した場合を評価された。この研究では、フィブリン糊あり又はなしで、様々な用量で筋肉内投与されたhUTCの、血流修復に対する効果も評価した。
【0223】
材料及び方法
動物モデル&説明
NSGマウスが使用された。NSGマウス系統は、成熟リンパ球、T細胞、B細胞、及びNK細胞の欠損を含む複数の免疫不全を備えているため、異種移植研究用に関心が寄せられている。これらの動物は6ヶ月以上生存し、致死量以下の放射線照射後であっても胸腺リンパ腫を生じない(Ito M.et al.(2002)Blood.100:3175〜82)。
【0224】
片側性後肢虚血は、これらのマウスにおいて作製された。簡単に言えば、動物をイソフルラン吸入により麻酔した。左後肢中線で切開を行った。大腿動脈及びその分枝を、鼠径靱帯から、伏在動脈と膝窩動脈の分岐まで、結紮した。結紮間の領域は摘出し、切開部を5−0シルクVicryl縫合糸(Ethicon)で閉じた。
【0225】
細胞及びフィブリン糊
凍結保存されたhUTCを、注射直前に解凍した。トリパンブルー染色及び血球計で計数することによって、細胞を計数し、生存性を決定した。全用量を溶媒又はフィブリン糊中に再懸濁させ、注射のため、28ゲージ針を備えた0.3mLツベルクリン注射器に充填した。
【0226】
フィブリン糊(EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(ヒト用)、Omrix Pharmaceuticals)が使用された。使用前に構成成分を解凍し、最終濃度がトロンビン16〜24IU/mL、BAC2(フィブリノーゲン)39.3〜60.7mg/mLになるよう希釈した。トロンビンストック溶液(ストック濃度約800〜1200IU/mL)及びBAC2(フィブリノーゲン)(ストック濃度約55〜85mg/mL)が提供され、トロンビンは1:50、BAC2は1:1.4に、それぞれ希釈された。
【0227】
実験計画
NSGマウス(週齢6〜11週)を、誕生日付でマッチングし、下の表6−1に示すように無作為に群に分けた。
【0228】
【表9】
【0229】
片側性後肢虚血の形成から一日後、hUTCを全身的又は局所的に注射した。全身的注射については、溶媒100μL中の特定の回数のhUTCを、0.3ccツベルクリン注射器(28ゲージ針)を用いて、尾静脈から投与した。細胞注射は、約1分間かけて実施した。対照動物は溶媒のみを投与された。
【0230】
局所注射は、特定の回数の溶媒中hUTC及びフィブリン糊中hUTCを、虚血後肢筋肉に注射した。注射は5か所に行われた、それぞれ、20μL筋肉内(IM)注入を投与した。これらは、上肢に注射3回(3回×20μL)、下肢に2回(2回×20μL)、合計用量100μLであった。対照動物は、細胞と同様にして溶媒を投与された。
【0231】
フィブリン糊中hUTCの注射のたびに、細胞はトロンビン中で再懸濁された(最終濃度16〜24IU/mL)。BAC2(フィブリノーゲン、最終濃度39.3〜60.7mg/mL)は、別個のエッペンドルフ管に分注した。注入直前に、トロンビン中hUTCを、BAC2の入った管に移し、混合し、0.3mLツベルクリン注射器(28ゲージ針)に充填し、マウス後肢に注射した。100μL用量を、5回の20μL筋肉内(IM)注射で投与した(上肢に3回注射、下肢に2回注射)。対照動物は、細胞と同様の方法で、フィブリン糊の投与を受けた。
【0232】
血流の評価
マウス後肢の血液潅流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せた。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集した。損傷後7、14、21、及び28日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告される。
【0233】
結果
各群の虚血肢における相対的潅流の平均値(±標準誤差)値が、表6−2(下記)に表示されている。有意水準5%で、3セットのデータ(例えばIM(フィブリンなし)、IM(フィブリンあり)及びIV(フィブリンなし))について、二元配置分散分析法を実施した。時間と治療の全体的な影響が評価された。全ての群において、治療と時間に有意な効果があった(P<0.01)。ボンフェローニ検定を実施して、全ての群を対照と比較し、各セット(例えばIM、フィブリンありIM、及びIV)内で互いに比較した。
【0234】
【表10】
【0235】
3つの異なる投与方式での効果の度合には、明確な差はなかった。損傷から28日後で、フィブリン中1×10個のhUTCを用いた場合は、相対的潅流が約43.4%であり、hUTC単独では最大の相対的潅流40.6%を生じた(図8参照)。全身投与された細胞については、hUTCが投与されたマウスの虚血肢における相対的潅流は、損傷から21日後と28日後において、対照よりも有意に大きかった(P<0.01)。
【0236】
局所(IM)投与を用いた場合では、2つの細胞投与用量が試験された。損傷から21日後と28日後において、高用量は、対照とは有意に異なっていた(P<0.05)。低用量では、どの日についても対照と有意な差はなかった。高用量群と低用量群は、どの時点についても、互いに有意な差はなかった(表6−2)。
【0237】
局所(IM)投与を用いて、フィブリン糊中hUTCの4つの異なる用量が試験された。1×10個の細胞を投与された群において、虚血肢における相対的潅流は、損傷から21日後(P<0.05)及び28日後(P<0.01)で、対照よりも有意に大きかった。細胞0.5、0.25及び0.125×10個の用量が投与された群における相対的潅流はどれも、損傷から21日後で、対照よりも有意に大きかった(それぞれP<0.001、P<0.01及びP<0.05)。用量群のいずれの間にも、有意な差はなかった(図9)。
【0238】
用量増加に従って再潅流が増加に向かうわずかな傾向があり、これは特に損傷後14日目で明らかである(明確にするため、誤差バーなしのデータを図10に示す)。
【0239】
まとめると、3つのどの方法によって投与されたhUTC治療動物も、虚血肢の再潅流増加を示した。この研究において、投与方式に伴う効果の度合には、明確な差はなかった。最高用量群において、損傷から28日後に、相対的潅流が有意に高くなっており、これは投与経路又は細胞数とは独立であったことがわかる。
【0240】
(実施例7)
末梢肢虚血のマウスモデルにおけるhUTC細胞移植の効力の評価:投与経路研究
この研究の目的は、hUTC細胞投与が末梢肢虚血のマウスモデル(片側性虚血モデル)において血流を修復するかどうかを評価することであった。静脈内投与と筋肉内投与の2つの投与経路の間で比較が行われた。筋肉内投与には、フィブリンマトリックス中の細胞懸濁液も含まれた。
【0241】
方法
治療群を下記の表7−1に示す。
【0242】
【表11】
【0243】
群5及び6のIM投与のフィブリン糊配合を、下記の表7−2に示す。
【0244】
【表12】
【0245】
オスの免疫寛容ヌードマウス(週齢8〜10週)に、外科的に誘導した片側性後肢虚血を施した。手術から1日後、両後肢の血流をレーザードップラー潅流撮像(LDPI)によって評価した。hUTC細胞の1回用量(10個)又は溶媒対照を、表7−1に示すように、6つの群のマウス(N=15匹/群)に投与した。投与経路は、尾静脈からのIV注射100μL、又は、同じ累積用量で、虚血肢の上脚(3か所)及び下肢(2か所)の骨格筋に20μLずつIM注射した。IM注射を受けた2つの群において、フィブリンマトリックスも含まれていた。
【0246】
1、3、7、10、14及び21日目で連続LDPIを実施した。21日目はこの研究の最終日となった。手術の3日前、及び手術から10日後に、水泳持久力を評価した。マウスは、水没して5秒以内に表面に浮かび上がることができない場合、水泳持久力の限界に達したと判断された。虚血後水泳持久力時間の、虚血前平均持久力時間に対する比が、比較された。死後の腓腹筋組織サンプルが、本研究の21日目に達した各群のマウス5匹ずつの、虚血肢及び正常肢から取得され、毛細血管(CD31/PECAM−1)及び小動脈(平滑筋αアクチン)の組織学的染色を行った。免疫染色スライドのデジタル画像から、脈管密度を定量化した。
【0247】
7日目に採取した組織の細胞生着及び脈管密度が評価された。IV細胞治療群と対照群との相対的潅流値平均の分離が、21日目で統計学的に異なっているということから、7日目の脈管密度分析は、有用でないと見なされた。細胞生着アッセイは、細胞検出方法の技術的困難のため実施されなかった。
【0248】
血流の評価
マウス後肢の血流は、Moor LDI装置を備えたレーザードップラー撮像を用いて評価した。動物をイソフルラン吸入で麻酔し、37℃に設定した加温パッドに乗せる。ベースライン虚血を確定するため、両後肢の足底領域の血液潅流データを、損傷形成から24時間収集する。5、10、15及び20日目に、連続潅流評価を実施した。データは、左肢(虚血)対右肢(非虚血)における潅流値の比として報告された。
【0249】
水泳持久力試験
マウスは、水泳チャンバにおいて泳ぎ又は浮いていられる能力についても監視された。このために、マウスは水泳チャンバで浮いていられるよう訓練された。マウスは3日間毎日訓練された。この期間の終了後、マウスは、疲労するまで浮かんでいられる時間の長さにより、評価された。これは、7〜10秒以内に呼吸するために水面に上がってこられなくなることとして定義された(ベースライン、−3日目)。0日目、マウスは片側性後肢損傷を被り、損傷から24時間後に細胞が投与された。動物は次に、10日目と15日目に、水泳能力/浮かんでいられる持久力について評価された。
【0250】
結果及び分析
肢の壊死による動物数の減少は全ての群で少なかった。動物数減少は全て、1週間以内に発生した。研究から除去された各群のマウス数(カッコ内に示す)は、群1(2)、群2(1)、群3(2)、群4(2)、群5(1)、及び群6(2)であった。
【0251】
レーザードップラー潅流撮像
レーザードップラー潅流データ(非虚血の対照右肢に比べた虚血の左肢における潅流のパーセンテージとして表わされる)を、図11及び表7−3に示す。IV注射により生理食塩水を投与された対照に比べ、hUTC細胞のIV注射により治療されたマウスにおいて、相対的再潅流が強化された。この効果は、7、10及び21日目で顕著であった。他の治療群のいずれも、適切な対照との間の有意な差はなかった。全ての対照群動物において、相対的潅流の、説明のつかない最大値が、14日目に生じた。21日目までに、対照動物における値は減少した。IV対照群の2匹のマウスの14日目の相対的潅流値は、100%を超えた相対値により、除外された。これらの除外があっても、IV細胞群と対照群との間で、この時点で差はなかった。
【0252】
【表13】
【0253】
21日目に採取された薄い切片の免疫組織学的染色において、両下肢の毛細血管及び小動脈密度が測定された。微小血管密度と潅流との間に相関関係はなかった。毛細血管の相対的密度は、対照群と治療群との間で有意な差はなかった(図12)。
【0254】
対照群と治療群の動物で、小動脈密度に差はなかった(図13)。フィブリンと共に直接注射された筋肉中では、小動脈の密度が低くなる傾向があった。
【0255】
層流に対抗して泳ぐマウスの能力が、手術前及び手術から10日後に再び評価された。各セッションで、虚血導入前に水泳の合計時間が記録され、比較された。機能的評価において、対照群と治療群の間で有意な差はなかった。
【0256】
まとめると、この結果は、hUTCの静脈内投与は、損傷から3日目、10日目、及び21日目に、虚血筋肉中の血流の修復をもたらしていることを示している。特に、虚血形成から1日後のhUTC静脈内投与は、虚血筋肉の再潅流促進をもたらし、実験終了時(21日目)に相対的潅流がより高レベルとなった。他の治療は、この研究において用いられたどの測定によっても、明らかな影響は有していなかった。IV投与hUTCが再潅流を強化するメカニズムは、虚血領域の血管再成長の分析に基づいて、明らかではなかった。この観察された影響は、他のメカニズムで説明される可能性がある。最近、全身的に投与された骨髄由来間葉系幹細胞が、肺にトラップされ、そこで、公園焼成因子の分泌を介して離れたところでの保護を促進し、これにより、すでに受けた損傷の組織に対する度合を低減し得ることが示されている(Lee et al.(2009)Stem Cell.5(1):54〜63)。
【0257】
本発明は、上記で説明及び例示された実施形態に限定されるものではない。添付の特許請求の範囲内での、変型形態及び修正が可能である。
【0258】
〔実施の態様〕
(1) 末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊と、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを含む医薬組成物を、該疾患の治療に有効な量で投与することを含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能があって、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、方法。
(2) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、及び
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうちの1つ又は2つ以上を有する、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記末梢血管疾患が、末梢虚血である、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記医薬組成物が、末梢虚血の部位に投与される、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記医薬組成物が、筋肉内注射又は筋肉中の脂肪蓄積内への注射によって投与される、実施態様4に記載の方法。
【0259】
(6) 前記医薬組成物が、局所的に投与される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記医薬組成物が、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又は該医薬組成物を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって投与される、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞(pericty)又は血管内皮系統に分化する、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記組成物が、抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0260】
(11) 前記組成物が、少なくとも1つの他の細胞種を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(12) 前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記医薬組成物が栄養効果をもたらす、実施態様1に記載の方法。
(14) 前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記医薬組成物が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
【0261】
(16) 前記医薬組成物が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
(17) 前記医薬組成物が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、実施態様1に記載の方法。
(18) 前記フィブリン糊が、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む、実施態様1に記載の方法。
(19) 前記フィブリン糊が、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 末梢血管疾患を有する患者を治療する方法であって、フィブリン糊とヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団とを、該疾患の治療に有効な量で投与することを含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、方法。
【0262】
(21) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、及び
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうちの1つ又は2つ以上を有する、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記末梢血管疾患が末梢虚血である、実施態様20に記載の方法。
(23) 前記細胞及びフィブリン糊が、前記末梢虚血部位に投与される、実施態様20に記載の方法。
(24) 前記フィブリン糊及び前記細胞集団が、局所的に投与される、実施態様20に記載の方法。
(25) 前記細胞集団及びフィブリン糊が、注射、注入、患者に埋め込まれるデバイスにより、又は該細胞集団を含むマトリックス若しくはスカフォールドの埋め込みによって投与される、実施態様20に記載の方法。
【0263】
(26) 前記単離細胞集団が、投与の前に、インビトロで誘導され、骨格筋、血管筋、周細胞又は血管内皮系統に分化する、実施態様20に記載の方法。
(27) 前記細胞集団が、末梢血管疾患の治療を促進する遺伝子産物を産生するよう遺伝子操作される、実施態様20に記載の方法。
(28) 抗血栓薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、抗アポトーシス薬、及びこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を投与することを更に含む、実施態様20に記載の方法。
(29) 少なくとも1つの他の細胞種を投与することを更に含む、実施態様20に記載の方法。
(30) 前記他の細胞種が、骨格筋細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、又はその他の複能性若しくは多能性幹細胞である、実施態様29に記載の方法。
【0264】
(31) 前記細胞集団が栄養効果をもたらす、実施態様20に記載の方法。
(32) 前記栄養効果が、血管内皮細胞の増殖である、実施態様30に記載の方法。
(33) 前記細胞集団が、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
(34) 前記細胞集団が、血管平滑筋細胞及び/又は血管平滑筋前駆細胞の、前記末梢疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
(35) 前記細胞集団が、周細胞の、前記末梢血管疾患部位への遊走を誘導する、実施態様20に記載の方法。
【0265】
(36) 前記フィブリン糊が、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む、実施態様20に記載の方法。
(37) 前記フィブリン糊が、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様36に記載の方法。
(38) 前記フィブリン糊が、前記ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団と同時に、又はこれより前に、又は後に投与される、実施態様20に記載の方法。
(39) 末梢血管疾患を有する患者を治療するためのキットであって、フィブリノーゲン、トロンビン、及び、ヒト臍帯組織から得られた均質な単離細胞集団を、該疾患の治療に有効な量で含み、該臍帯組織は、実質的に血液を含まず、かつ、該均質な単離細胞集団は、培養時に自己複製能及び増殖能を示し、分化する潜在能力を有し、かつCD117及び/又はテロメラーゼを発現しない、キット。
(40) 使用説明書を更に含む、実施態様39に記載のキット。
【0266】
(41) 前記フィブリノーゲン及び前記均質な単離細胞集団が、1つの組成物中にある、実施態様39に記載のキット。
(42) トロンビンが、使用の直前に前記組成物に添加される、実施態様40に記載のキット。
(43) 前記キットが、約16〜約24IU/mLのトロンビンと、約39.3〜約60.7mg/mLのフィブリノーゲンとを含む、実施態様39に記載のキット。
(44) 前記単離細胞集団が、次の特性:
(a)酸化された低密度リポタンパク質受容体1、レチクロン、ケモカイン受容体リガンド3、及び/又は顆粒球走化性タンパク質を発現する、
(b)CD31、CD34又はCD45を発現しない、
(c)ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞又は腸骨稜骨髄細胞と比較して、インターロイキン8又はレチクロン1の発現レベルが増加している、
(d)少なくとも骨格筋、血管平滑筋、周細胞又は血管内皮表現型の細胞に分化する潜在能力を有する、並びに、
(e)CD10、CD13、CD44、CD73及びCD90を発現する、のうち1つ又は2つ以上を有する、実施態様39に記載のキット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13