特許第5937231号(P5937231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937231
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   A01G31/00 612
   A01G31/00 601A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-555009(P2014-555009)
(86)(22)【出願日】2013年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2013075956
(87)【国際公開番号】WO2015045045
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】516046628
【氏名又は名称】MIRAI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 茂治
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−245554(JP,A)
【文献】 特開2009−125048(JP,A)
【文献】 特開2009−034064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に多段に並ぶ複数の支持フレームを備えた栽培用ラックと、
前記複数の支持フレームの各々に支持され、培養液を溜めるための貯留槽を形成する栽培ベッド本体と、
前記栽培ベッド本体の外側に塗布された断熱層であって、前記栽培ベッド本体よりも熱伝導率が大きい材料で形成されている前記断熱層と、
前記複数の支持フレームの各々に支持され、下側の段の前記栽培ベッドの方向に照明を当てる照明部と
を具備する
植物栽培装置。
【請求項2】
請求項1に記載された植物栽培装置であって、
前記断熱層は、前記栽培ベッドの底面と側面とを覆う
植物栽培装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された植物栽培装置であって、
更に、培養液タンクと、
前記培養液タンクと前記栽培ベッドとの間で前記培養液を循環させる培養液循環系統と、
前記培養液タンクの内部の前記培養液の温度を制御する温度制御部と
を具備する植物栽培装置。
【請求項4】
請求項に記載された植物栽培装置であって、
更に、前記栽培用ラックと前記栽培用ラックが配置される部屋の天井との間の空間である天井空間に冷気を供給する空調機を具備し、
前記培養液循環系統は、前記天井空間に配置される上部配管を具備し、
前記培養液は、前記上部配管を経由した後に前記栽培ベッドに供給される
植物栽培装置。
【請求項5】
請求項に記載された植物栽培装置であって、
更に、前記栽培用ラックが配置された部屋に冷気を供給する空調機と、
前記空調機から排出された冷気によって発生するドレンを前記培養液タンクに供給するドレン配管と
を具備する植物栽培装置。
【請求項6】
部屋に配置された栽培用ラックであって、前記部屋の床面に対して鉛直方向に多段に並ぶ複数の支持フレームを備えた前記栽培用ラックと、
前記複数の支持フレームの各々に支持され、培養液を溜めるための貯留槽を形成する栽培ベッド本体と、
前記栽培ベッド本体の外側に塗布された断熱層と、
前記複数の支持フレームの各々に支持され、下側の段の前記栽培ベッドの方向に照明を当てる照明部と、
培養液タンクと、
前記培養液タンクと前記栽培ベッドとの間で前記培養液を循環させる培養液循環系統と、
前記培養液タンクの内部の前記培養液の温度を制御する温度制御部と、
前記栽培用ラックが配置された部屋に冷気を供給する空調機と、
前記空調機から排出された冷気によって発生するドレンを前記培養液タンクに供給するドレン配管と
を具備する
植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光によって植物を栽培する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内で植物に照明光を当てて栽培する植物工場に関する技術が知られている。特許文献1には、植物工場に関する技術の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−39996号公報
【発明の概要】
【0004】
植物工場においては、植物が育つために必要な光が人工の照明装置によって供給される。照明装置は、光と共に熱も発生する。その発生熱は、植物の生育に影響を及ぼす可能性がある。例えば、照明の発熱によって場所による温度差が生じる場合、植物の育成環境が場所によって不均一になり、好ましくない。従って、照明による発熱が植物の生育にもたらす好ましく無い影響を抑制する技術が望まれる。
【0005】
本発明の一実施形態において、植物栽培装置は、鉛直方向に多段に並ぶ複数の支持フレームを備えた栽培用ラックと、複数の支持フレームの各々に支持され、培養液を溜めるための貯留槽を形成する栽培ベッド本体と、栽培ベッド本体の外側に塗布された断熱層と、複数の支持フレームの各々に支持され、下側の段の栽培ベッドの方向に照明を当てる照明部とを備える。照明の発熱が、栽培ベッド本体に塗布された断熱層によって遮られる。この断熱層は、発泡スチロール等の断熱材に比べてサイズが小さい。そのため栽培用ラックのサイズを大きくすることなく、栽培ベッドに対する熱の影響を低減し、栽培条件を均一化することが可能となる。
【0006】
本発明により、照明による発熱が植物の生育にもたらす好ましく無い影響を抑制する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明に関する上述の及びその他の目的、利点、特徴は、いくつかの実施形態に関して、添付図面と併せて以下の記載から更に明らかとなるであろう。その添付図面には下記のものが含まれる。
図1図1は、植物栽培装置を示す正面図である。
図2図2は、栽培用ラックの側面図である。
図3図3は、栽培ベッドの付近を拡大した側面図である。
図4図4は、栽培ベッドの上面図である。
図5図5は、栽培ベッドの上面図である。
図6図6は、栽培ベッドの正面図である。
図7図7は、栽培ベッドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る植物栽培装置を示す。図1に示された座標系のx軸正方向から見た植物栽培装置の正面図が示されている。建造物の内部に、植物栽培室1が用意される。植物栽培室1には通常、外部から日光が入射する窓が設けられず、植物は人工光のみを光源として育てられる。
【0009】
植物栽培室1に、植物栽培装置が設置される。植物栽培装置は、床面3に載置される栽培用ラック2を備える。栽培用ラック2は、多数の柱4と、それらの柱によって支持された多数の支持フレーム5を備える。これらの柱4や支持フレーム5は、水や肥料塩に腐食しにくく熱伝導率が高い材料(アルミニウム、金属メッキを施した合成樹脂、ステンレス)の骨材によって形成される。
【0010】
各支持フレーム5は、栽培ベッド6を支持する棚板又は棚枠として機能する。栽培ベッド6は支持フレーム5と同様の材料によって形成される。支持フレーム5は、鉛直方向(図1のz軸方向)に多段に配置される。支持フレーム5は更に、水平方向(図1のy方向)に複数並んで配置される。各支持フレーム5の下側に、照明7が取り付けられる。照明7は、その下段側の栽培ベッド6に植えられた植物に光を当てる。照明7としては、蛍光灯などを用いることも可能だが、植物の生育に必要な波長帯の光を選択的に出力するLED(発光ダイオード)を用いることが望ましい。
【0011】
図2は、栽培用ラック2をy軸正方向から見た側面図である。図3は、植物25を栽培している状態における一つの栽培ベッド6の付近を描いた断面図である。栽培ベッド6は、y軸方向を長手方向とする細長い平面形状を有する。栽培ベッド6は、液体(培養液)を溜めることが可能な容器の形状を有する栽培ベッド本体21と、栽培ベッド本体21に断熱塗料22を塗布することによって形成される断熱層からなる。
【0012】
断熱塗料22は、余計な熱が栽培ベッド6に伝達することを妨げる。特に、ある段の支持フレーム5に支持された栽培ベッド6には、下側の照明7、すなわち、その支持フレーム5に支持されて下段側の栽培ベッド6に照明を当てるための照明7が発生する熱が伝達されやすい。断熱塗料22により、下側の照明7からの熱を効果的に断熱することができる。断熱塗料22は膜厚が小さい(数mm以下のオーダー)ため、例えば発泡スチロールなどの断熱材を用いた場合に比べて、栽培用ラック2のサイズが大きくなることを防ぐことができる。従って、断熱塗料22は、多段に重なった多数の栽培ベッド6を有する栽培用ラック2に用いるのに適している。
【0013】
断熱塗料22は、図3に断熱塗料22a、22b、22c、22dとして示されるように、栽培ベッド本体21の各面を覆うように塗布される。栽培ベッド本体21の下面に断熱塗料22aが塗布される。栽培ベッド本体22の底面、すなわち培養液を溜める貯留部の底面に断熱塗料22bが塗布される。栽培ベッド本体22の外側の長手方向の側面、すなわちx軸方向に概ね垂直な外側の側面に断熱塗料22cが塗布される。栽培ベッド本体22の内側の長手方向の側面、すなわちx軸方向に概ね垂直な内側の側面に断熱塗料22dが塗布される。更に、栽培ベッド6の長手方向の両端部の外面及び内面に断熱塗料22e、22fを塗布することも好ましい。
【0014】
断熱塗料22としては、塗布され乾燥した状態で高い断熱性を発揮する材料を用いることが望ましい。そのような塗料の一例として、セラミック断熱塗料が知られている。セラミック断熱塗料においては、溶剤にセラミックの微粒子(例示:直径10〜100μm)の粉末が混入されている。個々の微粒子は中空の内部空間を有し、その内部空間は真空(減圧雰囲気)であることが望ましい。このような断熱塗料は、塗布され乾燥した状態で、セラミックの微粒子が密集した層を塗膜中に形成する。この層は、外部からの熱を反射する反射性能と、熱が膜厚方向に伝導することを妨げる断熱性能が高い。このようなセラミック断熱塗料の一例として、株式会社エクセラの商品名「PENTA GUARD(ペンタガード)」が挙げられる。
【0015】
断熱塗料22としては、面内方向、すなわち栽培ベッド6の底面に沿った方向(xy面内の方向)に比較的高い熱伝導率を有する材料を用いることが望ましい。このような材料を用いると、栽培ベッド6の長手方向の熱勾配を断熱塗料22による熱伝導で均一化し、栽培ベッド6内での植物25の生育条件を均一化することができる。セラミック断熱塗料の中には、塗布され乾燥した状態において、セラミックの微粒子が面内方向に並んで薄膜を形成し、面直方向にセラミック薄膜とセラミック微粒子を含まない層からなる層状を形成する塗料がある。このようなセラミック断熱塗料は、面内方向において熱伝導がセラミック微粒子によって妨げられる程度が小さいため、比較的熱伝導率が高く、断熱塗料22として用いるのに適している。より好ましくは、断熱塗料22は面内方向の熱伝導率が栽培ベッド本体21よりも大きい材料である。
【0016】
栽培ベッド6の内部に、植物25の成長に有用な肥料塩などを混ぜた水溶液である培養液24が供給される。栽培ベッド6の貯留部の上部に、パネル23が設置される。パネル23には、植物25を茎などの部分によって支持するための穴が設けられる。植物25をパネル23の穴に植えることにより、植物25がパネル23に支持される。その状態で、植物25の根が培養液24に浸かり、葉(土壌により栽培した場合に地表面から上に出る部分)がパネル23の上部に出る。植物25は、根から培養液24の水分と肥料塩の養分とを吸収し、且つ上段の照明7からの光を利用することにより成長する。
【0017】
図4は、栽培ベッド6の上面図である。図3におけるパネル23と植物25を取り除いた状態が示されている。栽培ベッド6の底面に、培養液導入口27と、培養液排出口29が設けられる。これらが設けられる位置は、栽培ベッド6の長手方向(y軸方向)の両端付近である。図4の例では、栽培ベッド6のy軸負方向の端部付近に培養液導入口27が設けられ、y軸正方向の端部付近に培養液排出口29が設けられる。図4では培養液導入口27と培養液排出口29はそれぞれ2個ずつ描かれているが、これらの個数は設計によって適切に決められる。培養液導入口27は給水配管26に接続され、培養液排出口29は排水配管28に接続される。
【0018】
給水配管26には、所定の値に制御された流量で培養液24が流れる。その培養液24は、培養液導入口27から栽培ベッド6の内部に供給される。培養液排出口29から、それと同じ流量で培養液24が排水配管28に排出される。その結果、培養液24が一定の流量の水流30−1、30−2を形成して栽培ベッド6の内部を長手方向に流れ、常に新鮮な培養液24が栽培ベッド6に供給される。培養液24の流れを円滑にするために、培養液導入口27に対して培養液排出口29の側がわずかに下がるように栽培ベッド6を配置してもよい。
【0019】
以上の構成を備えた植物栽培装置は、以下のように動作する。植物栽培室1の内部に培養液タンク8が設置される。培養液タンク8の中に、培養液24が貯蔵される。培養液タンク8の内部の培養液24の水位は、水位センサ14によって監視される。培養液タンク8の内部の水位が所定の基準よりも低下すると、水位センサ14が発信する水位を示す検出信号に応答して電磁弁11が開かれ、水供給系統10から培養液タンク8に所定量の水位に達するまで水又は培養液24が供給される。この水位センサ14の検出信号に基づく電磁弁11の制御は、コンピュータによって実現される制御装置により自動的に実行される。水が供給される場合には、培養液24の肥料塩等の濃度が低下しすぎないように、培養成分が別途、培養液タンク8に供給される。
【0020】
培養液タンク8には更に、温度調節部15が設けられる。温度調節部15は、温度センサによって培養液タンク8の内部の水温を監視し、その水温が一定範囲内となるように、ペルチェ素子などの温度制御手段によって培養液24の温度を自動的に制御する。
【0021】
培養液タンク8の内部の培養液24が、循環ポンプ9によって栽培用ラック2の各栽培ベッド6に供給される。具体的には、循環ポンプ9によって培養液24が培養液タンク8から給水配管12にポンプアップされる。給水配管12の先端は、各栽培ベッド6の給水配管26(図4)に接続されており、培養液24が培養液導入口27から栽培ベッド6の内部に供給される。培養液24は栽培ベッド6の内部を流れ、培養液排出口29から排水配管28に排出される。排出された培養液24は、排水配管13を通って培養液タンク8に戻される。以上のように、培養液タンク8と各栽培ベッド6との間で培養液24の循環系統が形成される。この循環系統には更に、培養液24中の不純物を取り除くフィルターが設けられる。
【0022】
栽培用ラック2の各照明7が点灯され、各照明7の下側の段の栽培ベッド6に配置された植物25に光が当てられる。各栽培ベッド6の植物25は、その根から培養液24の水分及び養分を吸収し、葉に照明7の光を受けることにより成長する。
【0023】
図4に示すように、栽培ベッド6には、長手方向の一端(培養液導入口27)から培養液24が供給され、他端(培養液排出口29)から培養液が排出される。この栽培ベッド6に対して、同じ支持フレーム5の下側に取り付けられた照明7の熱が加えられる。そのため、仮に何らかの熱対策を施さない場合を考えると、栽培ベッド6内の水流に温度差が生じる。すなわち、上流側の水流30−1に対して、下流側の水流30−2の方が、照明7の熱が長時間加えられるため、温度が高くなる。その結果、植物25が栽培ベッド6の長手方向に不均一に成長する可能性がある。植物工場においては植物の品質が一定であることが利点として求められているため、このような不均一性は望ましくない。
【0024】
本実施形態においては、栽培ベッド6の下面に断熱塗料22aが塗布され、底面に断熱塗料22bが塗布される。これらの断熱塗料22a、22bにより、栽培ベッド6の直下の照明7から受ける熱の影響を低減することができる。その結果、栽培ベッド6の長手方向の温度差が低減し、植物25の生育を均一化することができる。
【0025】
本実施形態においては更に、栽培ベッド6の長手方向の側面の外面と内面に断熱塗料22c、22dが塗布される。これらの面に塗布する場合には特に、面内方向(栽培ベッド6の断熱塗料22c、22dが塗布される側面に平行な方向、図3図4の例ではyz面内の方向)の熱伝導率が比較的高い断熱塗料22c、22dを採用することが望ましい。このような断熱塗料22c、22dによって熱が水流方向に移動することにより、栽培ベッド6の長手方向の熱勾配をより小さくし、植物25の生育条件を更に均一化することができる。
【0026】
このような効果は、図4に示されるように培養液24が供給される栽培ベッド6に限らず得ることができる。図5は、栽培ベッド6aの他の構成例を示す。この例においては、栽培ベッド6aの内部に、栽培ベッド6aの長手方向に延長した管状の形状を有し、延長方向に並んだ多数の穴31を有するピッコロチューブなどの給水配管30が配置される。図5の例では、給水配管30はy軸負方向から栽培ベッド6aの内部に導入され、その先端は、栽培ベッド6aのy軸正方向の端部の近くに配置される。給水配管30の根元は、図1の給水配管12に接続される。このような場合、給水配管30の根元(y軸負方向)付近の栽培ベッド6aの端部に、培養液排出口29aが設けられる。栽培ベッド6aは、培養液排出口29aの側(y軸負方向側)に向かってわずかに下がるように傾斜を持って配置されてもよい。
【0027】
図5の構成を備えた栽培ベッド6aの場合、循環ポンプ9によって圧力を掛けられた培養液24が給水配管30の内部に供給されると、培養液24が各穴31から栽培ベッド6aの内部に供給され、概ね栽培ベッド6aの幅方向(x軸方向)の水流32が形成される。この水流32は、栽培ベッド6aの幅方向の両端において、培養液排出口29aに向かう長手方向の水流33となり、培養液排出口29aから排水配管13に排出される。このような構成によっても、各栽培ベッド6aの内部の培養液を一定の流量で循環することが可能となる。
【0028】
図5の構成の場合でも、何らかの熱対策を施さなかった場合、下からの照明7の熱により、水流33の下流側の温度が高くなる温度勾配が発生する。従って、図4の場合と同様に、断熱塗料22a〜22fを塗布することにより、照明7からの熱の影響を低減することができる。更に、断熱塗料22a〜22fの熱伝導により、栽培ベッド6aの長手方向の温度を均一化することができる。
【0029】
植物栽培装置は更に、図1に示された上部配管20を備えることが望ましい。植物栽培室1の温度及び湿度調節を行うための空調機16は、植物栽培室1の天井19に近い天井空間に冷気などを供給する。上部配管20を設けることにより、空調機16の冷気によって培養液24を冷却することができる。
【0030】
既に説明したように、培養液タンク8の内部の培養液24は、循環ポンプ9によって給水配管12にポンプアップされ、栽培ベッド6に供給された後、栽培ベッド6から排水配管13に回収され、培養液タンク8に戻される。給水配管12は更に、栽培用ラック2の最上段と天井19との間の位置に設置される上部配管20の一端に接続される。上部配管20の他端は、排水配管13に接続される。
【0031】
培養液24は、給水配管12から上部配管20に供給される。空調機16が出力する冷気は、一般的に、植物栽培室1の天井空間の付近に供給されることが多い。従って、天井空間には冷気が比較的大きい流量で供給される。上部配管20を流れる培養液24は、その冷気によって効率的に冷却されて、培養液タンク8に戻される。
【0032】
栽培ベッド6を循環する培養液24の温度は、照明7の熱によって上昇する。そのため培養液タンク8の内部の培養液24の温度は上昇する傾向にある。温度調節部15は、その培養液24を冷却して、温度を一定範囲内に保つ。このような植物栽培装置において、上部配管20を設けることにより、培養液24の温度上昇が抑制され、温度調節部15の動作に必要な電力を抑制することができる。
【0033】
更に、培養液24の温度上昇を抑制するために、空調機16のドレンを用いることも可能である。空調機16を冷房運転しているとき、冷媒の気化等によって冷却される冷却配管の表面において空気中の水蒸気が凝結することにより、液相の水が発生する。その水がドレンとして排出される。ドレンは、冷却配管の表面で凝結した水であるため、室温よりも低温である。従って、ドレンを冷却水として使用することができる。
【0034】
空調機16が発生するドレンは、ドレン配管17に供給される。ドレン配管17は、電磁弁18を介して培養液タンク8に接続される。このような構成において、電磁弁18は以下のように制御される。
【0035】
培養液タンク8の制御装置は、通常は電磁弁18を開き、ドレンを培養液タンク8に供給する。そのドレンにより、培養液タンク8の内部の培養液24の温度を下げることができる。水位センサ14の検出信号により培養液タンク8の水位が予め設定された上限値以上の場合、又は温度センサの検出値により培養液タンク8の内部の培養液24の温度が予め設定された下限値以下の場合、制御装置は電磁弁18を閉じ、ドレンの供給を停止する。このような動作により、温度調節部15が冷却のためにペルチェ素子などを動作させるための電力を抑制することができる。更に、水供給系統10による水の供給量を抑制することができる。
【0036】
栽培ベッド6の構成としては、以上に説明したものと異なる構成を採用することも可能である。以上の説明では、図6に示したように、自立した構造を有する水槽が栽培ベッド6として用いられていた。このような栽培ベッド6は、支持フレーム5に置き、固定金具35などによって支持フレーム5に対して固定することによって使用される。
【0037】
これに対して、図7の栽培ベッド6bでは、支持フレーム5から自立した構造を有する水槽を用いない。表面に断熱塗料37が塗布された複数の支持体36によって、栽培ベッド6の底面をなす平面が形成される。これら複数の支持体36は、相互に結合して一つの構造部材としてもよいし、別個に分離された部品として栽培用ラック2の支持フレーム5によって支持してもよい。
【0038】
支持体36の上面に、栽培ベッド枠38が固定される。栽培ベッド枠38は、支持体36から上面に突出する側壁面を形成し、例えば図4の栽培ベッド6と同様にy軸方向を長手方向とする矩形の平面形状を形成する。このように形成された支持体36と栽培ベッド枠38との上を、合成樹脂などの柔軟なシート状の素材であり液体を通さない不透水性シート39で覆う。この不透水性シート39の上から栽培ベッド枠38によって囲われた領域の内部に培養液24を供給することにより、栽培ベッド6bを形成することができる。図6における栽培ベッド本体21が不要であるため、軽量化が可能である。このような場合、図4における培養液導入口27と培養液排出口29に相当する構成要素は、不透水性シート39のy軸両端付近に穴を空けて、それぞれ水密性を維持するように給水配管26と排水配管28に接続することによって形成される。又は、培養液導入口27と培養液排出口29として、給水配管26と排水配管28の先端部を栽培ベッド6bの上側に配置し、上側から培養液を供給してもよい。また、図6に示したような構成の栽培ベッド6においても、図7に示した不透水性シート39と同様のシートを用いることができる。その場合、栽培ベッド本体21や断熱塗料22として高度な遮水性が要求されないため、材料の選択の幅を広くすることができる。
【0039】
以上、いくつかの実施形態によって本発明を説明したが、これらの実施の諸形態は単に発明を説明するために挙げられたものであり、請求の範囲の内容を限定するために参照されるべきでない。以上に説明した実施形態は、本発明の範囲内で様々に変更することができる。例えば、以上の実施形態を矛盾の無い範囲で任意に組み合わせたものも、本発明の実施形態に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7