特許第5937259号(P5937259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5937259
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】放射性物質除去方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20160609BHJP
   G21F 9/32 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   G21F9/28 551Z
   G21F9/28 531Z
   G21F9/28 511C
   G21F9/32 Z
   G21F9/28 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-131452(P2015-131452)
(22)【出願日】2015年6月30日
【審査請求日】2015年6月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】竹田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大
(72)【発明者】
【氏名】井出 昇明
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−048097(JP,A)
【文献】 特開平05−256997(JP,A)
【文献】 特開2001−041659(JP,A)
【文献】 特開2001−133158(JP,A)
【文献】 特開2004−307297(JP,A)
【文献】 特開昭61−285313(JP,A)
【文献】 特開2011−237378(JP,A)
【文献】 特開平11−223325(JP,A)
【文献】 特開平10−281663(JP,A)
【文献】 特開昭62−212283(JP,A)
【文献】 特開2003−279017(JP,A)
【文献】 大迫政浩 他8名,放射能汚染廃棄物処理施設の長期管理手法に関する研究,平成25年度 環境研究総合推進費補助金 研究事業 総合研究報告書,2014年 3月,全57頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/32
B09C 1/02−1/09
F27B 7/28
F23G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む処理対象物を炉内で加熱する加熱処理を実行する放射性物質除去方法であって、
前記加熱処理の実行により前記放射性物質が付着する炉壁の内面側を除去する内面除去処理を実行し、
前記炉壁が、外面側に敷設された耐火物の内面側に当該耐火物よりも摩耗し易いコーティング層を形成して構成され、
前記内面除去処理が、前記加熱処理において前記炉内で前記処理対象物を流動させて、当該流動する処理対象物との接触により前記コーティング層の内面側を除去することにより、当該コーティング層に付着した放射性物質を同コーティング層の素材ごと削り取り、同コーティング層への放射性物質の蓄積を回避する処理である放射性物質除去方法。
【請求項2】
前記コーティング層が、ゼオライト、カオリナイト、イライト、バーミキュライト、マグネシア、カルシア、シリカ、珪藻土から選択される材料をコーティングして形成されている請求項1に記載の放射性物質除去方法。
【請求項3】
前記加熱処理をロータリーキルンで実行する請求項1又は2に記載の放射性物質除去方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含む処理対象物を炉内で加熱する加熱処理を実行する放射性物質除去方法、及び、同加熱処理を実行する加熱処理部を備えた放射性物質除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性物質を含む災害廃棄物の焼却に伴って発生する焼却灰や汚染土壌などの処理対象物から放射性セシウムなどの放射性物質を除去する放射性物質除去技術として、処理対象物を、炭酸カルシウムや塩化ナトリウムなどのセシウム揮発促進剤を添加した上で、炉内で加熱する加熱処理を実行することで、処理対象物から放射性物質を揮発除去するものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
放射性物質を含む処理対象物を炉内で加熱すると、耐火物等からなる炉壁の内面側に放射性物質が付着して蓄積され、炉内の空間線量率が高くなると同時に、炉外の空間線量率も高くなる場合がある。このことは、解体や補修工事における作業者の安全確保並びに使用後の耐火物の適正な廃棄処分等の点、ならびに放射線管理上の点で問題となる。そこで、炉壁から放射性物質を除去する方法として、炉内を空状態等で高温に加熱する所謂空焼き処理を行うことで、炉壁に蓄積された放射性物質を揮発除去する方法が検討されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−174051号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】水原 詞治,川本 克也,倉持 秀敏,大迫 政浩、「加熱による耐火物からの放射性セシウムのクリーニング効果」、第25回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2014・C6−2、2014年発行、P371−P372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の炉壁から放射性物質を除去する方法では、空焼き処理を実行して炉内を高温に加熱する必要があるため、エネルギの浪費が問題となる。
また、細孔を通じて炉壁の内部にまで放射性物質が侵入している場合や炉壁表面がスラグ層などにより閉塞している場合には、放射性物質の揮発が起こり難くなるため、空焼き処理を実行して炉内を高温に加熱した場合でも、放射性物質を完全には除去できない場合があった。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、エネルギの浪費を抑制しつつ、炉壁への放射性物質の蓄積による空間線量率の上昇を防止することができる放射性物質除去技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、放射性物質を含む処理対象物を炉内で加熱する加熱処理を実行する放射性物質除去方法であって、
前記加熱処理の実行により前記放射性物質が付着する炉壁の内面側を除去する内面除去処理を実行し、
前記炉壁が、外面側に敷設された耐火物の内面側に当該耐火物よりも摩耗し易いコーティング層を形成して構成され、
前記内面除去処理が、前記加熱処理において前記炉内で前記処理対象物を流動させて、当該流動する処理対象物との接触により前記コーティング層の内面側を除去することにより、当該コーティング層に付着した放射性物質を同コーティング層の素材ごと削り取り、同コーティング層への放射性物質の蓄積を回避する処理である点にある。
【0009】
本構成によれば、エネルギの浪費を抑制しつつ、炉壁への放射性物質の蓄積による空間線量率の上昇を防止する放射性物質除去方法を実現することができる。
即ち、上記加熱処理を実行して処理対象物から揮発除去された放射性物質が炉壁の内面側に付着し耐火物等の素材に強固に吸着した場合でも、上記内面除去処理を実行して炉壁の内面側を除去することで、当該炉壁の内面側に強固に吸着した放射性物質を炉壁の素材ごと削り取ることができる。すると、炉壁への放射性物質の蓄積および炉壁内への浸透・拡散が回避され、それに起因する炉内の空間線量率の上昇が防止されることになる。また、この内面除去処理については、炉内の加熱を伴わないため、エネルギ消費を抑制することができる。
更に、本構成によれば、上記加熱処理において炉内で処理対象物を流動させることで、当該流動する処理対象物との接触により炉壁の内面側に摩擦力又は衝突力を生じさせることができる。更に、耐火物の内面側に当該耐火物よりも摩耗し易いコーティング層を形成することで、流動する処理対象物との接触により生じた摩擦力又は衝突力によりそのコーティング層を好適に摩耗させる形態で、上記内面除去処理を実行することができる。従って、放射性物質がコーティング層に付着した場合でも、上記内面除去処理を実行してコーティング層の内面側を除去することで、当該コーティング層に付着した放射性物質を同コーティング層の素材ごと削り取り、同コーティング層への放射性物質の蓄積を好適に回避することができる。
また、上記内面除去処理により削り取られたコーティング層の素材は、炉内において加熱処理が施されている処理対象物に混入するので、追加のエネルギ消費を発生させることなく、処理対象物と同時に加熱処理を施すことができ、放射性物質を揮発除去した上で適性に処分することができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記コーティング層が、ゼオライト、カオリナイト、イライト、バーミキュライト、マグネシア、カルシア、シリカ、珪藻土から選択される材料をコーティングして形成されている点にある。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、前記加熱処理をロータリーキルンで実行する点にある。
【0013】
本構成によれば、上記加熱処理をロータリーキルンで実行するので、回転駆動するロータリーキルンの本体内部に形成された炉内において、処理対象物が炉壁の内面側に沿って好適に流動することになる。更に、この炉壁の内面側には、コーティング層が形成されているので、それに沿って流動する処理対象物との接触により、当該コーティング層の内面側を好適に除去して、同コーティング層への放射性物質の蓄積を一層好適に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の放射性物質除去システムの概略構成図
図2】第1実施形態の放射性物質除去システムにおけるロータリーキルンの部分断面図
図3】第2実施形態の放射性物質除去方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態について図1に基づいて説明する。
図1に示す放射性物質除去システムは、放射性セシウム(放射性物質の一例)を含む処理対象物Aから放射性セシウムを揮発除去する放射性物質除去方法を実施するためのシステムとして構成されている。よって、このシステムには、当該処理対象物Aを炉内3aで加熱する加熱処理を実行する加熱処理部Xが設けられている。
【0020】
尚、加熱処理が施される処理対象物Aには、セシウム揮発促進剤が予め添加されている。このようなセシウム揮発促進剤の種類や加熱条件等については、公知技術を採用でき、例えば、無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物と塩化化合物をセシウム揮発促進剤として添加すれば、加熱処理において比較的低温且つ比較的短時間の加熱により、処理対象物A中の放射性セシウムを良好に揮発させることができる。
【0021】
上記加熱処理部Xは、直接燃焼式のロータリーキルン1で構成されており、このロータリーキルン1は、基端部を覆う供給側ケーシング2と先端側を覆う排出側ケーシング4との間で回転駆動が可能なように横架され、内部に炉内3aを形成する円筒状のキルン本体3と、当該キルン本体3を回転駆動させる回転駆動部10を備える。そして、供給側ケーシング2に設けられた投入ホッパ5から炉内3aの基端側に投入された処理対象物Aが、回転駆動部10によるキルン本体3の回転駆動により、当該キルン本体3の内部に形成された炉内3aを基端側から先端側に向けて搬送される。同時に、この炉内3aでは、供給側ケーシング2に設けられたバーナ6から高温の燃焼ガスが吹き込まれる。
これにより、炉内3aでは、処理対象物Aを燃焼ガスに接触させて加熱する形態で加熱処理が実行されることになる。
【0022】
炉内3aで加熱処理が施された加熱処理後の処理対象物Aは、キルン本体3の先端部からそれを覆う排出側ケーシング4の内部に落下し、当該排出側ケーシング4の底部に形成された払出口4aより払い出される。
【0023】
一方、炉内3aにおいて処理対象物Aから揮発除去された放射性セシウムを含む排ガスEは、排出側ケーシング4の天井部に形成された排気口4bから排出される。この排出された放射性セシウムを含む排ガスEは、図示は省略するが、適宜冷却された後に、バグフィルタなどの乾式集塵手段や湿式スクラバのような湿式捕集手段に供給されて、放射性セシウムやそれが付着した粉塵が分離除去される。その後、排ガスEは、必要に応じて脱硝処理のような高度処理が行われた上で、大気中へと排気される。
尚、本実施形態では、ロータリーキルン1を、排ガスEが処理対象物Aに並行して流れる並行流方式としたが、排ガスEが処理対象物Aに対向して流れる対向流方式としても構わない。
【0024】
キルン本体3は、円筒状の鋼管で構成された本体ケーシング31の内面側に炉壁32を敷設して構成されており、その炉壁32の内面側に処理対象物Aの加熱処理が施される炉内3aが形成されている。
このような放射性物質除去システムでは、放射性物質を含む処理対象物Aを炉内3aで加熱すると、炉壁32の内面側に放射性物質が表面付着した後、長期間の連続運転により耐火物等の素材に強固に吸着し一部は炉壁32の内部に拡散浸透して蓄積され、炉内3aの空間線量率が高くなるという問題がある。
そこで、本実施形態の放射性物質除去システムでは、エネルギの浪費を抑制しつつ、炉壁32への放射性物質の蓄積による空間線量率の上昇を防止するための内面除去処理手段Yが設けられており、その詳細について以下に説明を加える。
【0025】
内面除去処理手段Yは、加熱処理の実行により放射性物質が付着する炉壁32の内面側を除去する内面除去処理を実行することで、炉壁32の内面側に強固に吸着した放射性物質を炉壁32の素材ごと削り取り、炉壁32への放射性物質の蓄積および炉壁32内への浸透・拡散を回避する手段として構成されている。
【0026】
具体的に、炉壁32が、外面側(本体ケーシング31側)に敷設されたレンガなどの耐火物33の内面側に当該耐火物33よりも摩耗し易いコーティング層34を形成して構成されている。
更に、加熱処理において回転駆動部10によりキルン本体3が回転駆動されるので、当該キルン本体3の内部に形成された炉内3aでは処理対象物Aがコーティング層34の内面側に沿って流動し、結果、そのコーティング層34の内面側には流動する処理対象物Aとの接触により摩擦力又は衝突力が生じることになる。
【0027】
すると、コーティング層34の内面側は、流動する処理対象物Aとの接触により生じた摩擦力又は衝突力により好適に摩耗することになって、同コーティング層34への放射性物質の蓄積が好適に回避されることになる。
即ち、耐火物33の内面側に形成されたコーティング層34と、キルン本体3を回転駆動する回転駆動部10とが、加熱処理において炉内3aで処理対象物Aを流動させて、当該流動する処理対象物Aとの接触によりコーティング層34を除去する内面除去処理を実行するための内面除去処理手段Yとして機能することになる。
【0028】
尚、炉内3aにおいて、上記内面除去処理により削り取られたコーティング層34の素材は、加熱処理が施されている処理対象物Aに混入されて、当該処理対象物Aと同時に加熱処理が施されることになる。このことで、この削り取られたコーティング層34の素材は、放射性物質が揮発除去された上で、処理対象物Aと共に払出口4aより払い出されることになる。
【0029】
コーティング層34の材質は、流動する処理対象物Aとの接触により摩耗することで当該コーティング層34に付着した放射性物質が素材ごと削り取られる程度の高摩耗性を有しているものであればよく、例えば、ゼオライト、粘土鉱物(カオリナイト、イライト、バーミキュライトなど)、酸化物(マグネシア、カルシア、シリカなど)、珪藻土などをコーティングして形成することができる。
また、このコーティング層34は、上記内面除去処理により経時的に減肉されるが、定期的な補修工事により再構築することができる。
また、本実施形態において、コーティング層34は、本体ケーシング31の内面側の全域に形成されているが、例えば、放射性物質の蓄積が問題となる部分にのみコーティング層34を形成しても構わない。
【0030】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図3に基づいて説明する。
尚、本実施形態は、上述した第1実施形態に対して、主に内面除去処理手段Yに関する構成のみが異なる。よって、他の同様の構成については、図面において同じ符号を付すと共に、詳細な説明は割愛する場合がある。
【0031】
本実施形態の内面除去処理手段Yは、上述した第1実施形態と同様に、加熱処理の実行により放射性物質が付着する炉壁32の内面側を除去する内面除去処理を実行することで、炉壁32の内面側に付着した放射性物質を炉壁32の素材ごと削り取り、炉壁32への放射性物質の蓄積を回避する手段として構成されている。
【0032】
具体的に、研磨材51を吹き付けて対象物の表面側を除去する所謂ブラスト処理を行うためのブラスト処理装置50が上記内面除去処理手段Yとして機能し、加熱処理を停止するメンテナンス時などの所定のタイミング等に炉壁32の内面側をブラスト処理により除去する形態で内面除去処理が実行される。
すると、当該炉壁32の内面側に付着した放射性物質は、当該炉壁32の素材ごと削り取られ、炉壁32への放射性物質の蓄積が好適に回避されることになる。
【0033】
尚、本実施形態において、上記ブラスト処理による内面除去処理を実行する所定のタイミングとは、炉壁32の内面側に放射性物質が問題となる濃度以上に蓄積される前のタイミングであればよく、例えば、加熱処理を一定時間実行する毎のタイミングとすることができる。
【0034】
また、図3では、炉壁32を耐火物33のみで構成した例を示しているが、上述した第1実施形態と同様に、当該炉壁32の内面側に炉壁32よりも摩耗し易いコーティング層を形成しても構わない。
【0035】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、加熱処理部Xを、加熱処理において炉内3aで処理対象物Aが流動するロータリーキルン1で構成したが、流動床式加熱炉やストーカ炉などの別の加熱炉で構成しても構わない。
【0036】
(2)上記実施形態では、本体ケーシング31の炉壁32を内面除去処理の対象としたが、供給側ケーシング2又は排出側ケーシング4の内部に設けられた炉壁や、加熱処理により処理対象物から揮発除去された放射性物質が付着する他の炉壁を内面除去処理の対象としても構わない。
【符号の説明】
【0037】
1 ロータリーキルン
3a 炉内
32 炉壁
34 コーティング層
A 処理対象物
X 加熱処理部
Y 内面除去処理手段
【要約】
【課題】エネルギの浪費を抑制しつつ、炉壁への放射性物質の蓄積による空間線量率の上昇を防止することができる放射性物質除去技術を提供する。
【解決手段】放射性物質を含む処理対象物Aを炉内で加熱する加熱処理を実行する放射性物質除去方法において、加熱処理の実行により放射性物質が付着する炉壁32の内面側を除去する内面除去処理を実行する。
【選択図】図2
図1
図2
図3