特許第5937263号(P5937263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5937263
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   H02K41/03 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-161345(P2015-161345)
(22)【出願日】2015年8月18日
【審査請求日】2015年9月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(72)【発明者】
【氏名】三澤 康司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】杉田 聡
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−297977(JP,A)
【文献】 特開2007−185033(JP,A)
【文献】 特開2003−299342(JP,A)
【文献】 特開2006−042485(JP,A)
【文献】 特開2001−169529(JP,A)
【文献】 特開2006−054974(JP,A)
【文献】 特開2009−100503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/00−41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁コアに複数の永久磁石が配置されて構成される固定子と、
前記永久磁石と磁気的空隙を介して配置された電機子巻線を有する電機子コアと、備えるリニアモータであって、
前記電機子コアは、巻線が取り付けられる複数の主ティースと、端部ティースと、を有し、
前記リニアモータの進行方向における前記電機子コアの長さをLc、前記永久磁石のピッチをτp、Nを自然数とすると、前記電機子コアの長さLcは、(N×τp−0.2×τp)≦Lc≦(N×τP+0.2×τp)で規定され、
前記リニアモータの前記進行方向における前記端部ティースの幅Byは、前記リニアモータの前記進行方向における1つの前記主ティースの幅Ayよりも大きい、リニアモータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記電機子コアは、巻線が取り付けられる複数の主ティースと、端部ティースと、を有し、
前記端部ティースの先端は、湾曲面を有する形状をなす、リニアモータ。
【請求項3】
界磁コアに複数の永久磁石が配置されて構成される固定子と、
前記永久磁石と磁気的空隙を介して配置された電機子巻線を有する電機子コアと、備えるリニアモータであって、
前記リニアモータの進行方向における前記電機子コアの長さをLc、前記永久磁石のピッチをτp、Nを自然数とすると、前記電機子コアの長さLcは、(N×τp−0.2×τp)≦Lc≦(N×τP+0.2×τp)で規定され、
前記電機子コアは、巻線が取り付けられる複数の主ティースと、端部ティースと、を有し、
前記端部ティースは、前記電機子コアの内側の方に突き出る凸部を有し、当該凸部は、前記進行方向の突出幅をBj、前記進行方向と垂直方向の突出高さをHj、前記永久磁石の高さをHmとすると、0.06×τp≦Bj≦0.08×τp、0.1×Hm≦Hj≦0.2×Hmで規定される、リニアモータ。
【請求項4】
請求項において、
前記電機子コアは、巻線が取り付けられる複数の主ティースと、端部ティースと、を有し、
前記主ティースのスロット幅Asは、前記端部ティースのスロット幅Bs以上である、リニアモータ。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか1項において、
前記固定子において、前記複数の永久磁石は、前記界磁コアの両面に前記進行方向に対して交互に極性が異なるように、かつ前記界磁コアの両面で前記固定子を貫通する方向の極性となるように、前記界磁コアの両面に配置され、
前記界磁コアの両面に対向するように2つの前記電機子コアが配置される、リニアモータ。
【請求項6】
請求項において、
前記2つの電機子コアは、板状部材によって連結されて一体化され、当該2つの電機子コアと前記板状部材によってコの字形状をなす、リニアモータ。
【請求項7】
請求項において、
前記板状部材は、前記リニアモータによって駆動される対象装置に前記リニアモータを固定するための固定部を有し、
前記板状部材の少なくとも前記固定部には、前記板状部材よりも熱伝達率の低い材質で構成される断熱部材が取り付けられている、リニアモータ。
【請求項8】
請求項1乃至の何れか1項において、
前記固定子は、前記永久磁石を両面に配置して構成され、固定用穴を有する固定子モジュールを複数個用意し、当該複数の固定子モジュールを前記固定用穴に固定部材を挿入することにより連結して構成される、リニアモータ。
【請求項9】
請求項1乃至の何れか1項において、
前記電機子コアは、巻線が取り付けられる複数の主ティースと、端部ティースと、を有し、
前記複数の主ティースは、前記電機子巻線を当該主ティースの先端から差し込むことを可能にするために、顎部を有さない直線形状をなしている、リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界磁コアに複数の永久磁石が配置されて構成される固定子と、永久磁石と磁気的空隙を介して配置された電機子巻線を有する電機子コアと、備えるリニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータにはコギング推力が発生する。このコギング推力は、リニアモータを駆動する際に振動や騒音の原因となったり、位置決め性能や速度安定性の低下の原因となったりしている。このため、リニアモータにおけるコギング推力は極力小さくすることが望ましい。このようなリニアモータのコギング推力を低減するための技術として、例えば特許文献1や特許文献2のような技術がある。
【0003】
特許文献1は、電機子コアの補助ティース(端部ティース)の形状を主ティースの外側先端部を切り落とした形状にすることによりコギング推力を低減することを開示している。また、特許文献2は、電機子コアにおいて巻線が取り付けられる主ティースと両端の補助ティースの形状を異なるようにすることによりコギング推力を低減することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−299342号公報
【特許文献2】特開2005−364374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示の技術では、主ティースと補助ティースの形状を異ならしめることに主眼が置かれており、電機子コアと固定子との関係については言及されていない。このため、コギング推力を低減する効果としては十分ではない。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、コギング推力をより効果的に低減するための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によるリニアモータは、界磁コアに複数の永久磁石が配置されて構成される固定子と、永久磁石と磁気的空隙を介して配置された電機子巻線を有する電機子コアと、備えている。ここで、リニアモータの進行方向における電機子コアの長さをLc、永久磁石のピッチをτp、Nを自然数とすると、電機子コアの長さLcは、(N×τp−0.2×τp)≦Lc≦(N×τP+0.2×τp)で規定される。
【0008】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本発明の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
【0009】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本発明の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リニアモータにおけるコギング推力をより効果的に低減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態によるリニアモータの外観を示す図である。
図2図1に示されるリニアモータ1のA−A’における断面構成を示す図である。
図3図1に示されるリニアモータ1のB−B’における断面構成を示す図である。
図4】天板30に断熱板40を取り付けた場合の、リニアモータ1のB−B’における断面構成(変形例)を示す図である。
図5図4の変形例によるリニアモータを天板30の方向から見た様子を示す図である。
図6】本発明の実施形態によるリニアモータ1の電機子コア10と固定子20との関係、及び電機子コア10の特徴を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態によるリニアモータ1の電機子コア10の端部ティース幅と主ティース幅との関係を説明するための図である。
図8】端部ティース102における凸部の有無によるコギング推力の大きさの比較結果を示す図である。
図9】電機子コア10の端部ティース102に設けられる凸部の、コギング推力を低減するために有効なサイズを考察するための図(実験結果)である。
図10】主ティース101の先端が直線状(ストレートティース)となっていることの利点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
リニアモータの推力特性を向上するためには、電機子コアと界磁マグネット間のギャップ磁束密度を大きくし、電機子巻線を高密度化する必要がある。ギャップ磁束密度を大きくするために、電機子コア形状はマグネットと対抗するティース先端を双方凸形状にすることが一般的であり、このコア形状は、推力特性の向上に有効である。しかし、この形状において、電機子コアのスロット内の巻線を高密度化するためには、電機子コアをティース毎に分割して個々に巻線する必要がある(特許文献1参照)。また、コアを精度良く並べて固定し一体化する必要もある。この方法は、モータの部品点数が増えると共に、電機子コアの剛性が低くなるという課題がある(課題A)。
【0013】
また、リニアモータには、マグネットと電機子コアの間に磁気吸引力が作用する。この磁気吸引力は、リニアモータの最大推力に対し4〜5倍の大きさとなる。そのため、リニアモータを取り付ける装置には、磁気吸引力を保持する高剛性の構造体が必要である(課題B)。
【0014】
本発明の実施形態は、コギング推力を低減させるリニアモータの構成だけでなく、このような課題A及びBをも解決するための技術を開示するものである。
【0015】
従って、本実施形態は、リニアモータのコギング推力の低減、推力特性の向上、磁気吸引力の低減、リニアモータ自身の機械剛性の向上、及び組立性の改善を達成することができるリニアモータの構造について開示する。
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0017】
本実施形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0018】
<リニアモータの構成>
図1は、本実施形態によるリニアモータ1の外観の概略構成を示す図である。リニアモータ1は、2つの電機子コア10_1及び10_2(以下では、単に電機子コア10と称する場合もある)と、それらを連結する天板(連結板とも言う)30と、固定子20と、によって構成される。固定子20は、界磁コア201と、界磁コア201に固定ネジ204によって固定された複数のマグネット202とによって構成される。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態によるリニアモータ1は、上下2つの電機子コア10_1及び10_2によって固定子20を挟み込む構造を採っている。つまり、2つの電機子コア10_1及び10_2と天板30によってコの字を形成している。リニアモータ1においては、固定子20が被固定面(一例として壁や床)に固定され、電機子コア10_1及び10_2が固定子20に沿って移動(進行)方向MDに移動するようになっている。
【0020】
図2は、図1に示されるリニアモータ1のA−A’における断面構成を示す図である。図2に示されるように、電機子コア10_1及び10_2はそれぞれ、固定子20の永久磁石202の設置面に対向するように設置される。
【0021】
各電機子コア10_1及び10_2は、主ティース101と、端部ティース102と、主ティースに取り付けられた電機子巻線(空芯コイル)103とによって構成される。
【0022】
また、固定子20は、界磁コア201と、界磁コア201の両面に移動方向MDに対して交互に極性(N及びS)が異なるように並べられた複数の永久磁石202によって構成される。固定子20は、永久磁石(界磁マグネット)202のピッチτpのN(Nは整数)倍、或いは永久磁石202のピッチτpの2倍(2×τp)の長さにモジュール化し、当該界磁モジュールを電機子コア10_1及び10_2の移動方向MDに対して複数個並べることにより、固定子20の長さを容易に変更することができるようにしても良い。界磁コア201には複数の固定ネジ用貫通穴203が形成されており、上記モジュールを複数個用意し、それぞれを固定ネジ204によって連結することにより、1つの固定子20を構成する。
【0023】
電機子コア長Lcは、固定子20の総長さより短く、電機子コアおよび電機子巻線103の全ての部位が界磁マグネット202と対向するように構成されている。このような構造を採ることにより、電機子巻線103が発生する全磁束を推力に使用できるため、必要最小限の電機子電流でリニアモータ1を駆動することができるようになる。その結果、銅損の低減と省電力化を実現することができる。
【0024】
図3は、図1に示されるリニアモータ1のB−B’における断面構成を示す図である。図3からも分かるように、固定子20の両側に配置された2つの電機子コア10_1及び10_2は、天板(連結板)30によって連結され、電機子コア10_1及び10_2と天板30が一体化されている。なお、各電機子コア10_1及び10_2と天板30は、例えば、ネジによって固定される。
【0025】
図4は、天板30に断熱板40を取り付けた構成であって、リニアモータ1のB−B’における断面構成(変形例)を示す図である。また、図5は、当該構成をなすリニアモータ1を天板30の方向から見た様子を示す図である。変形例によるリニアモータ1においては、天板30と電機子コア10_1及び10_2を固定するためのネジ301を配置した箇所(一例として天板端部)にネジ301を覆い隠すように断熱板40を配置している。この断熱板40は、板状部材である天板30よりも熱伝達率が低い材質で構成される。駆動対象装置が天板30に取り付けられた場合、天板30との接触面から駆動対象装置に熱が伝達し、当該装置に悪影響を及ぼす可能性がある。また、ネジ301は金属で構成されるため(樹脂製のネジもあるが、強度の面から金属製であることが望ましい)、電機子コア10_1及び10_2から駆動対象の装置(図示せず)に熱が伝達し、当該装置に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、天板30における駆動対象装置の接触面を覆い隠すように断熱板40を配置している。なお、天板30全体を覆うように断熱板を配置しても良い。これにより、天板30の全体から駆動対象装置に伝達する熱を遮断することが可能となる。
【0026】
<電機子コアと固定子との関係、及び電機子コアの特徴>
図6は、本発明の実施形態によるリニアモータ1の電機子コア10と固定子20との関係、及び電機子コア10の特徴を説明するための図である。
【0027】
(i)電機子コア長と固定子長の関係
リニアモータ1のコギング推力の主要因は、電機子コア10の端部に界磁マグネット202による磁束が作用する「端効果」である。つまり、右側端部のコア(右端部ティース)が固定子20に設置された永久磁石202に吸引される力と左側コア(左端部ティース)が永久磁石202から離れる力が相対的に異なっているとコギング推力が生じる。この吸引される力と離れる力を相対的に等しくするとコギング推力は理論的に「0」となる。この吸引される力と離れる力を相対的に等しくし、端効果を低減するためには、電機子コア10の全長Lcを、界磁マグネット202のピッチτpの整数倍に近接した長さにすることが効果的である。端効果は、電機子コアと界磁マグネット磁束の吸引力に起因するため、Lcをτpの整数倍に近接した長さに最適化することで、コア両端部に作用する磁気吸引力をバランス化して相殺することができる。
【0028】
また、電機子コア10の主ティース101のスロット幅Asは、電機子コア10の端部ティース102のスロット幅Bs以上であることが望ましい。このようにすることにより、端部ティース102のテーパ形状部(湾曲面形状部)2021のRを大きくすることができ、また、端部ティース102の幅Byを大きく取ることができるようになる。
【0029】
図7Bに示されるように、電機子コア長LcがN×τpに等しいときにコギング推力を小さくすることができるようになる。
【0030】
(ii)端部ティース幅と主ティース幅の関係
図7は、本発明の実施形態によるリニアモータ1の電機子コア10の端部ティース幅と主ティース幅との関係を説明するための図である。ここでは、主ティース幅Ayが端部ティース幅Byよりも大きい場合と端部ティース幅Byが主ティース幅Ayよりも大きい場合(図7A参照)とで比較している(図7B参照)。
【0031】
図7Bに示されるように、主ティース幅Ayが端部ティース幅Byよりも大きい場合と端部ティース幅Byが主ティース幅Ayよりも大きい場合(図7A参照)とでコギング推力を測定する実験を行ったところ、全てのケースの電機子コア長Lc、つまり、LcがN×τp−0.5×τp〜N×τp+0.5×τpまでの長さにおいて、端部ティース幅Byが主ティース幅Ayよりも大きい場合にコギング推力が小さくなっている。
【0032】
また、実用上コギング推力の低減に効果的なLcの範囲は、LcがN×τp−0.2×τp〜N×τp+0.2×τpの範囲にあるときである。
【0033】
従って、コギング推力を低減するために有効なLcの長さとティース幅の条件は、N×τp−0.2×τp≦Lc≦N×τp+0.2×τp、かつBy>Ayである。
【0034】
(iii)端部ティースの形状
界磁マグネット202にはマグネット個々の磁束密度バラツキが存在するため、単純にLcをτpの整数倍に近接した長さにするだけでは、コギング推力を全て相殺することはできないこともある。そのため、電機子コア10両端の端部ティース102の先端を長くしてテーパ形状にするとともに、端部ティース102の内側に凸部を設けることで、端効果を相殺しやすくする。このテーパ形状は、直線的よりも円弧状であるとより効果的である。
【0035】
図8は、端部ティース102における凸部の有無によるコギング推力の大きさの比較結果を示す図である。図8Aは、端部ティース102の内側(主ティース101が存在する側)に凸部を設けた場合と、設けない場合の構成例を示す図である。図8Bは、端部ティース102の内側に凸部を設けた場合と、設けない場合でコギング推力がどの程度異なるかを示す図である。図8Bからも分かるように、電機子コア10の端部ティース102の内側に凸状形状部を設けることにより、コギング推力を40%程度低減することができるようになる。
【0036】
(iv)端部ティースにおける凸部のサイズ
図9は、電機子コア10の端部ティース102に設けられる凸部の、コギング推力を低減するために有効なサイズを考察するための図(実験結果)である。図9Aは有効な凸部の幅Bjを示す図であり、図9Bは有効な凸部の高さHjを示す図である。
【0037】
図9A及びBからも分かるように、凸部は大きければ大きいほど良いというものではない。例えば、凸部幅Bjは、0.07×τpのときにコギング推力が最小となり、0.06×τp〜0.08×τpの範囲で十分なコギング推力低減効果を得られることが分かった。また、永久磁石202の厚さをHmとすると、凸部高さHjは、0.15×Hmのときにコギング推力が最小となり、0.1×Hm〜0.2×Hmの範囲で十分なコギング推力低減効果を得られることが分かった。
【0038】
<推力特性及び機械剛性向上、組立性改善、及び磁気吸引力低減を実現する構成>
リニアモータ1の推力特性の向上と、モータを取り付ける構造体の簡素化を実現するため、上述のように、本発明の実施形態では、永久磁石(界磁マグネット)202をリニアモータ1の中央に配置し、その外側に2つの電機子コアを設ける構造としている。
【0039】
また、リニアモータ1の推力特性を向上するためには、永久磁石(界磁マグネット)202と電機子コア10_1及び10_2との間のギャップ磁束密度を大きくする必要がある。このため、本発明の実施形態では、リニアモータ1の構造として、固定子20を貫通する方向に界磁コア201の両側に配置した永久磁石202の極性を交互に並べることでマグネット磁束の漏洩を減少させ、マグネット磁束を最大限、推力発生に活用することができる。
【0040】
さらに、推力特性の向上のためには、電機子巻線103を電機子コア10_1及び10_2のスロット部に高密度に配置することが有効である。これを実現するため、従来の電機子コアでは、主ティースを分割して個々に巻線を行い、巻線後に一体化する方法が一般的である。そして、従来の電機子コアにおいては、ティース先端に凸部(顎付きティース)を設けた分割コアに巻線を行うことが一般的である。一方、本発明の実施形態では、図10に示されるように、主ティース101の先端を直線状(ストレートティース)にする。これにより、電機子巻線103を主ティース101の先端から差し込むことができるようになるため、電機子コア10_1及び10_2を分割する必要がない。したがって、電機子コア10_1及び10_2を一体構成することが可能となり、電機子コア10_1及び10_2の機械剛性の低下、組立精度の悪化、部品点数の増大、などの課題を解決しつつ、高密度巻線を電機子コア10に配置することができる。
【0041】
さらに、リニアモータ1においては、永久磁石(界磁マグネット)202と電機子コア10_1及び10_2との間に磁気吸引力が作用するが、2つの電機子コア10_1及び10_2を板状の部品である天板(連結板)30で連結して一体化することにより、リニアモータ1を取り付ける構造体には磁気吸引力が作用しなくなるため、リニアモータ1を取り付ける構造体を簡素化することが可能となる。
【0042】
<まとめ>
本実施形態によるリニアモータでは、リニアモータの進行方向(移動方向MD)における電機子コアの長さをLc、永久磁石のピッチをτp、Nを自然数とすると、電機子コアの長さLcが、(N×τp−0.2×τp)≦Lc≦(N×τP+0.2×τp)で規定される。このようにすることにより、従来のリニアモータに比べてコギング推力を効果的に低減することが可能となる。
【0043】
ここで、リニアモータの進行方向における端部ティースの幅Byは、リニアモータの進行方向における1つの主ティースの幅Ayよりも大きいことが好ましい。このようにすることにより、さらにコギング推力を低減することが可能となる。また、端部ティースの先端は、湾曲面を有する形状をなすことが好ましい。湾曲面を持たせることにより、直線的な形状を採用した場合よりもコギング推力を低減することが可能となる。
【0044】
端部ティースは、電機子コア内側に突き出る凸部を有するようにしても良い。この場合、当該凸部は、進行方向の突出幅をBj、進行方向と垂直方向の突出高さをHj、永久磁石の高さをHmとすると、0.06×τp≦Bj≦0.08×τp、0.1×Hm≦Hj≦0.2×Hmで規定されるようなサイズとすることが好ましい。このようにすることにより、さらに、より効果的にコギング推力を低減することが可能となる。
【0045】
また、主ティースのスロット幅Asは、端部ティースのスロット幅Bs以上となるように電機子を構成することが望ましい。これにより、端部ティースの湾曲面形状部のRを大きく取ることができ、また端部ティース幅Byをより大きく取ることができるので、コギング推力低減に寄与することが可能となる。
【0046】
さらに、固定子において、複数の永久磁石は、界磁コアの両面に進行方向に対して交互に極性が異なるように、かつ界磁コアの両面で固定子を貫通する方向の極性となるように、界磁コアの両面に配置される。また、2つの電機子コアは、界磁コアの両面に対向するように配置される。この場合、2つの電機子コアは、板状部材(天板)によって連結されて一体化され、当該2つの電機子コアと板状部材によってコの字形状をなすように構成される。
【0047】
また、板状部材は、リニアモータによって駆動される対象装置にリニアモータを固定するための固定部(ネジ穴)を有する。そして、板状部材の固定部(ネジ穴の部分)には、板状部材よりも熱伝達率の低い材質で構成される断熱部材が取り付けられる。これにより、リニアモータにおいて発生した熱が駆動対象装置に伝達されることを抑制できるようになる。なお、板状部材(天板)の全体に亘って断熱部材を取り付けるようにしても良い。
【0048】
固定子は、複数の固定子モジュールを連結することにより構成される。具体的には、各固定子モジュールには固定用穴(貫通穴、ネジ穴)が設けられ、この固定用穴に固定部材(例えば、ネジ)を挿入して留めることにより、所望の長さの固定子が構成される。
【0049】
本実施形態によるリニアモータにおいて、複数の主ティースは、従来の主ティースに設けられていた顎部を有さない直線形状をなしている。これにより、電機子巻線を主ティースの先端から差し込むことをできるようになるため、電機子コアを分割して構成する必要がなくなって一体形成することができるようになり、電機子コアの剛性を高めることができるようになる。
【符号の説明】
【0050】
1 リニアモータ
10_1 電機子コア
10_2 電機子コア
20 固定子
30 天板
101 主ティース
102 端部ティース
103 電機子巻線
201 界磁コア
202 永久磁石(界磁マグネット)
203 固定ネジ用貫通穴
204 固定ネジ
【要約】
【課題】コギング推力をより効果的に低減するための技術を提供する。
【解決手段】本発明によりリニアモータは、界磁コアに複数の永久磁石が配置されて構成される固定子と、永久磁石と磁気的空隙を介して配置された電機子巻線を有する電機子コアと、備えている。ここで、リニアモータの進行方向における電機子コアの長さをLc、永久磁石のピッチをτp、Nを自然数とすると、電機子コアの長さLcは、(N×τp−0.2×τp)≦Lc≦(N×τP+0.2×τp)で規定される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
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図8
図9
図10