特許第5937289号(P5937289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937289
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】室内設備の冠水を防止する防火扉
(51)【国際特許分類】
   E06B 5/16 20060101AFI20160609BHJP
   E06B 7/32 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   E06B5/16
   E06B7/32 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-509229(P2016-509229)
(86)(22)【出願日】2014年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2014063372
(87)【国際公開番号】WO2015177874
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2016年2月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼下 真
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−16491(JP,U)
【文献】 特開2001−234676(JP,A)
【文献】 特開2013−87509(JP,A)
【文献】 実開平7−10379(JP,U)
【文献】 特開2012−255322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/16
E06B 7/28−7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃性の液体を収容した貯留設備、及び冠水が回避されるべき一つ以上の設備を内部に設置した室を遮断する防火扉であって、
室内から室外に向けて開くことが困難に設置され、前記貯留設備から流出した不燃性の液体を堰き止める片開き式の親扉と、
前記親扉に設けた開口部を閉塞すると共に、上半部が室外から室内に向けて開くと、下半部が室内から室外に向けて開くように、前記親扉と回転自在に連結し、室内に流出した前記液体を前記下半部から排出できる回転式の子扉と、
回転中心が水平方向に延びるように配置され、前記開口部の内壁と前記子扉の側面を回転自在に連結する一対の回転軸と、
前記液体で室内が所定の水位以上になると前記子扉の下半部を開き、前記液体で室内が所定の水位未満になると前記子扉の下半部を閉じるように、前記子扉を開閉する力が調整された自閉手段と、を備える室内設備の冠水を防止する防火扉。
【請求項2】
前記自閉手段は、前記子扉の下端部に配置され、前記子扉の下半部が室内から室外に向けて開いた状態から、前記子扉の下半部が室外から室内に向けて回転する力を付勢する一つ以上の錘を含んでいる請求項1記載の室内設備の冠水を防止する防火扉。
【請求項3】
前記親扉に対して前記子扉の閉止状態を維持する一つ以上のマグネットキャッチを更に備える請求項1又は2記載の室内設備の冠水を防止する防火扉。
【請求項4】
前記親扉は、
前記開口部の内壁と前記子扉の上半部との隙間を閉塞すると共に、前記子扉の上半部に当接する第1戸当り部と、
前記開口部の内壁と前記子扉の下半部との隙間を閉塞すると共に、前記子扉の下半部に当接する第2戸当り部と、を有し、
前記回転軸は、室内から室外に向けて貫通する隙間ができないように、前記第1戸当り部及び第2戸当り部で遮蔽されている、請求項1から3のいずれかに記載の室内設備の冠水を防止する防火扉。
【請求項5】
前記開口部は、人の通過が自在な程度に開口されている、請求項1から4のいずれかに記載の室内設備の冠水を防止する防火扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内設備の冠水を防止する防火扉に関する。特に、室内に設置された水などの液体を収容した貯留設備が地震などで破損した場合に、貯留設備から流出した液体で他の設備が冠水しないように、液体を排出する防火扉の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火建築物又は準耐火建築物に対しては、火災の発生時に、火災及び煙の拡大を一定範囲内に留めることを目的とした「防火区画」を設定することが日本の建築基準法に定められている。この防火区画は、耐火構造の床、耐火壁、防火扉などの防火設備の設置といった規定を設けて、火災を局所的に留める役割を有している。
【0003】
建築物及び工作物の設備(以下、「建築物など」という)に設ける区画であって、液体の貯蔵設備、又は液体の通過経路(以下、「液体貯留等設備」という)を区画の内部に有している場合には、地震などの外力又は経年劣化に伴う「液体貯留等設備」の損傷に起因する液体の漏洩又は溢出に対して、この液体が可燃性の液体の場合に、危険物に関する法令で引火防止仕様が規定されている。
【0004】
一方、発電所などでは、水などの不燃性の液体を収容する貯留設備を防火区画に設置した建築物を設けている。可燃性の液体を収容する貯留設備を防火区画に設置している場合には、前述したように、法令又は規定などで防火対策が実施されている。
【0005】
しかし、室内に設置された不燃性の液体を収容する貯留設備が地震などで破損した場合には、防火扉で室内が塞がれているので、貯留設備から流出した液体で室内の水位が上がり、この液体で他の設備が冠水する心配がある。貯留設備の破損が想定されるような大規模な地震が発生した場合には、防火対策のため防火扉を閉じておくことが想定される。大規模な地震が発生した場合には、人員が室内から安全な場所に退避することが優先され、排水するために、防火扉を開いた状態にしておくことは考え難い。
【0006】
上述したように「防火区画」が設定された建築物は、関連法令により構造及び設備が厳密に規制されているので、これらの規制を逸脱して、室内に流出した不燃性の液体を排出する経路を建築物に設けることが困難である。
【0007】
室内を閉塞する防火扉がスイング式の片開き戸であって、この防火扉が室内から室外に向けて開くように設置してある場合は、室内が所定の水位に達したときに、水圧で防火扉を押し開いて、液体を室外に排出できる。一方、上述した防火扉が室外から室内に向けて開くように設置してある場合は、液体を室外に排出することなく、室内の水位が上がり、液体で他の設備が冠水する心配がある。なお、引き戸式の防火扉であっても、液体で他の設備が冠水する心配がある。
【0008】
片開き式の防火扉であって、室内から室外に向けて開くことが困難に設置してある場合には、片開き式の親扉となる防火扉に子扉を設けて、液体を子扉から室外に排出することで、室内を所定の水位に低減することが考えられる。
【0009】
片開き式の親扉となる防火扉に子扉を設けた例としては、親扉に対して子扉を開閉自在に連結し、子扉を室内外から親扉に3点施錠できると共に、子扉から緊急脱出したときは、子扉を自動復帰できるように構成した、子扉付き鋼製ドアが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
又、片開き式の親扉となる防火扉に子扉を設けた例としては、加圧給気ファンを附室に設けた加圧防炎システムであって、親扉と子扉からなる防火扉を附室と廊下の間に設け、親扉は附室側に開くことができ、子扉は、パワーヒンジに抗して廊下側に開くことができる、加圧防炎システムにおける防火扉が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013―108344号公報
【特許文献2】特開2000―70390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1による防火扉は、親扉が開く方向と反対方向に子扉を開くことができるが、施錠を解除しないと子扉を開くことができず、人員の退避が優先される非常時には、子扉の施錠を解除することを期待することが困難である。人為的な操作に期待することなく、室内が所定の水位に達したときに、液体を子扉から室外に自動的に排出できる防火扉が求められている。
【0013】
又、特許文献2による防火扉は、附室に設けた加圧給気ファンを駆動して、親扉が開く方向と反対方向に子扉を自動的に開くことができる。しかし、特許文献2による防火扉は、親扉と子扉が開く方向が互いに異なる両開き戸で構成しているので、既存の片開き式の防火扉に適用することが困難である。室内が所定の水位に達したときに、液体を子扉から室外に自動的に排出できると共に、既存の片開き式の防火扉と交換自在な、防火扉が求められている。そして、以上のことが本発明の課題といってよい。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、室内が所定の水位に達したときに、液体を子扉から室外に自動的に排出できる室内設備の冠水を防止する片開き式の防火扉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、不燃性の液体を貯蔵する設備を室内に設置した室を遮断する防火扉であって、親扉と子扉で構成し、親扉は、室内に流出した不燃性の液体を堰き止めるように室内を閉じ、水平方向に延びる回転軸により子扉を親扉と回転自在に連結すると共に、室内が所定の水位になると、室外に液体を排出できるように、子扉の下半部が室外に向けて開く力が調節された子扉を親扉に連結することで、これらの課題を解決できると考え、これに基づいて、以下のような新たな室内設備の冠水を防止する防火扉を発明するに至った。
【0016】
(1)本発明による室内設備の冠水を防止する防火扉は、不燃性の液体を収容した貯留設備、及び冠水が回避されるべき一つ以上の設備を内部に設置した室を遮断する防火扉であって、室内から室外に向けて開くことが困難に設置され、前記貯留設備から流出した不燃性の液体を堰き止める片開き式の親扉と、前記親扉に設けた開口部を閉塞すると共に、上半部が室外から室内に向けて開くと、下半部が室内から室外に向けて開くように、前記親扉と回転自在に連結し、室内に流出した前記液体を前記下半部から排出できる回転式の子扉と、回転中心が水平方向に延びるように配置され、前記開口部の内壁と前記子扉の側面を回転自在に連結する一対の回転軸と、前記液体で室内が所定の水位以上になると前記子扉の下半部を開き、前記液体で室内が所定の水位未満になると前記子扉の下半部を閉じるように、前記子扉を開閉する力が調整された自閉手段と、を備える。
【0017】
(2)前記自閉手段は、前記子扉の下端部に配置され、前記子扉の下半部が室内から室外に向けて開いた状態から、前記子扉の下半部が室外から室内に向けて回転する力を付勢する一つ以上の錘を含んでいることが好ましい。
【0018】
(3)前記親扉に対して前記子扉の閉止状態を維持する一つ以上のマグネットキャッチを更に備えることが好ましい。
【0019】
(4)前記親扉は、前記開口部の内壁と前記子扉の上半部との隙間を閉塞すると共に、前記子扉の上半部に当接する第1戸当り部と、前記開口部の内壁と前記子扉の下半部との隙間を閉塞すると共に、前記子扉の下半部に当接する第2戸当り部と、を有し、前記回転軸は、室内から室外に向けて貫通する隙間ができないように、前記第1戸当り部及び第2戸当り部で遮蔽されていることが好ましい。
【0020】
(5)前記開口部は、人の通過が自在な程度に開口されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明による室内設備の冠水を防止する防火扉は、不燃性の液体を収容する貯留設備が地震などで破損した場合に、貯留設備から流出した液体で室内の水位が上がると、液体の水圧で子扉の下半部が開き、液体を室外へ排出するので、室内の水位が下がり、室内設備の冠水を防止できる。
【0022】
又、本発明による室内設備の冠水を防止する防火扉は、室内に流出した不燃性の液体を排出する経路を設けることが困難な「防火区画」であっても、防火扉に設けた子扉の下半部から液体を室外へ排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉が適用される室の配置例を示す平面図である。
図2】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の正面図であり、防火扉を室内から観た状態図である。
図3】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の横断面図である。
図4】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の縦断面図であり、親扉に設けた開口部を子扉が閉止した状態図である。
図5】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の縦断面図であり、親扉に対して子扉が一方の方向に回転した状態図である。
図6】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す図であり、図6(A)は、回転軸の正面図、図6(B)は、図6(A)のA−A矢視断面図、図6(C)は、図6(A)のB−B矢視断面図、図6(D)は、図6(A)のC−C矢視断面図である。
図7】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す斜視図であり、子扉側に設けた軸部と親扉側に設けた軸受部を対向配置した状態図である。
図8】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す斜視図であり、子扉側に設けた軸部と親扉側に設けた軸受部を対向配置した状態図である。
図9】前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す図であり、図9(A)は、親扉に対して子扉を直角に傾倒した状態で示す回転軸の正面図、図9(B)は、図9(A)のA−A矢視断面図、図9(C)は、図9(A)のB−B矢視断面図、図9(D)は、図9(A)のC−C矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
[室内設備の冠水を防止する防火扉の構成]
最初に、本発明の一実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉が適用される室の配置例を示す平面図である。
【0025】
図2は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の正面図であり、防火扉を室内から観た状態図である。図3は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の横断面図である。
【0026】
図4は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の縦断面図であり、親扉に設けた開口部を子扉が閉止した状態図である。図5は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉の縦断面図であり、親扉に対して子扉が一方の方向に回転した状態図である。
【0027】
(全体構成)
図1を参照すると、本発明の一実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉(以下、防火扉と略称する)10は、「防火区画」に設定された室Rを遮断している。室Rは、防火壁Wで囲われている。室Rの内部で火災が発生した場合に、防火扉10を閉じておくことで、火炎が室外に侵入することを防止できる。
【0028】
図1を参照すると、室Rの内部には、不燃性の液体(以下、水という)Lを収容した貯留設備であるタンクTを設置している。又、室Rの内部には、一組の設備F1・F2を設置している。
【0029】
図1を参照して、相当の地震が発生した場合であっても、容易に破損しないように、タンクTは、耐震設計及び耐震施工されている。しかし、想定外の地震が発生して、タンクTが破損すると、防火扉10で室Rが塞がれているので、タンクTから流出した水Lで室Rの内部の水位が上がることになる。なお、図中の複数の矢印は、水Lの流出経路を示している。
【0030】
図1を参照して、一組の設備F1・F2は、所定の水位H2を超えても(図2参照)、冠水しないように、図示しないコンクリート基礎を設けて設置されている。しかし、図2を参照して、許容限界レベルの水位H1を超えると、一組の設備F1・F2が冠水する心配がある。一組の設備F1・F2は、冠水が回避されるべき設備である。そこで、本発明は、防火扉10の本体である親扉1に回転式の子扉2を設けて、室Rの内部が所定の水位L2未満に低減するまで水Lを室外の廊下Haに排水することにした。
【0031】
図1から図3を参照すると、防火扉10は、片開き式の親扉1と回転式の子扉2を備えている。親扉1は、室内から室外に向けて開くことが困難に設置されている。又、親扉1は、タンクTから流出した水Lを堰き止める。
【0032】
図1から図5を参照すると、子扉2は、親扉1の中央部に設けた開口部1hを閉塞している。又、子扉2は、その上半部2shが室外から室内に向けて開くと、下半部2ihが室内から室外に向けて開くように、親扉1と回転自在に連結している。そして、子扉2は、室Rの内部に流出した水Lを下半部2ihから排出できる(図1参照)。
【0033】
又、図1から図5を参照すると、防火扉10は、一対の回転軸3・3と自閉手段となる錘4を備えている。一対の回転軸3・3は、それらの回転中心Qが水平方向に延びるように配置されている。又、回転軸3は、開口部1hの内壁と子扉2の側面を回転自在に連結している。
【0034】
図2から図5を参照すると、錘4は、子扉2の下端部に配置されている。錘4は、子扉2の下半部2ihが室内から室外に向けて開いた状態から、子扉2の下半部2ihが室外から室内に向けて回転する力を付勢している(図4参照)。
【0035】
図2又は図3を参照すると、親扉1は、矩形の開口部1hを中央部に形成している。開口部1hは、後述するように、子扉2で閉塞することができる。そして、開口部1hを人が通過できる程度の大きさに開口することで、災害時に、子扉2を開いて開口部1hの下部から緊急脱出することもできる。
【0036】
(親扉の構成)
次に、親扉の構成を説明する。図2から図5を参照すると、親扉1は、鋼板を折り曲げ加工及び溶接加工して、内部に空洞を有する袋状に形成している。親扉1の内部には、断熱材を収容しておくことが好ましい。親扉1は、その外形を規格の寸法にすることが好ましく、1818mm×764mm(高さ×幅)とすることができ、1818mm×812mm(高さ×幅)とすることができる。
【0037】
図2又は図3を参照すると、親扉1は、その下面を除く三方がドア枠11fで囲われている。鉛直方向に延びる一方のドア枠11fと親扉1の一方の側面を複数のヒンジ11bで回転自在に連結することで、片開き式の親扉1とすることができる。
【0038】
図3から図5を参照すると、ドア枠11fは、戸当りとなる段差111を設けている。親扉1が段差111に当接することで、室内を閉止できる。ドア枠11fの内壁と親扉1の側面との隙間dに対して段差111を突出させることで、室内で発生した火炎が室外に侵入することを遮断できる。又、段差111には、緩衝部材11dを取り付けている。緩衝部材11dは、親扉1を閉めたときの衝撃を緩和すると共に、隙間dを気密封止している。又、床面FLには、親扉1の底面がスライド自在なフラット下枠12fを取り付けている(図4又は図5参照)。
【0039】
図2を参照すると、親扉1は、複数のヒンジ11bと反対側にドアノブ12を配置している。ドアノブ12を回転させることで、親扉1とドア枠11fを連結しているラッチボルト(図示せず)が解除され、親扉1を開くことができる。親扉1を閉じると、ラッチボルト(図示せず)が自動復帰して、風圧などで親扉1が容易に開かないようにすることができる。ドアノブ12は、施錠機能を有しているものを用いることが好ましい。
【0040】
図2を参照すると、親扉1は、ドアクローザー13を上部のヒンジ11b寄りに取り付けている。ドアクローザー13は、人為的に開けられた親扉1を解放すると、自動的に閉める機能を有している。又、ドアクローザー13は、その本体に充填された緩衝油とダンパ機構に作用により、親扉1が急激に閉じることがないように、又は、風圧などで親扉1が急激に開くことがないように、親扉1の回転速度を緩慢にする機能を有している。
【0041】
このように構成された親扉1を図1に示した室Rに配置した場合には、親扉1は、室内から室外に向けて開くことが困難に設置されている。そして、親扉1は、タンクTから流出した水Lを堰き止めることになる(図1参照)。
【0042】
(子扉の構成)
次に、子扉の構成を説明する。図2から図5を参照すると、子扉2は、鋼板を折り曲げ加工及び溶接加工して、内部に空洞を有する袋状に形成している。子扉2の内部には、断熱材を収容しておくことが好ましい。子扉2は、親扉1の中央部に形成された矩形の開口部1hを通常、塞ぐように配置されている。
【0043】
図2から図5を参照すると、親扉1は、第1戸当り部11sと第2戸当り部12sを備えている。第1戸当り部11sは、上枠11uと一対の縦枠11v・11vで構成している。上枠11uは、開口部1hの上側から突出している。一対の縦枠11v・11vは、開口部1hの両側面から突出している。
【0044】
図5に示した状態から、仮想の回転中心Qを中心に、子扉2を時計方向に回転すると、子扉2の上面に固定した上枠部材21fが上枠11uに当接すると共に、子扉2の側面に固定した縦枠部材23fが縦枠11vに当接することで、子扉2の回転を停止できる(図4参照)。図4に示した状態では、第1戸当り部11sは、開口部1hの内壁と子扉2の上半部2shとの隙間を閉塞している。
【0045】
図2から図5を参照すると、第2戸当り部12sは、下枠12dと一対の縦枠12v・12vで構成している。下枠12dは、開口部1hの下側から突出している。一対の縦枠12v・12vは、開口部1hの両側面から突出している。
【0046】
図5に示した状態から、仮想の回転中心Qを中心に、子扉2を時計方向に回転すると、子扉2の下面に固定した下枠部材22fが下枠12dに当接すると共に、子扉2の側面に固定した縦枠部材23fが縦枠12vに当接することで、子扉2の回転を停止できる(図4参照)。図4に示した状態では、第2戸当り部12sは、開口部1hの内壁と子扉2の下半部2ihとの隙間を閉塞している。
【0047】
図2を参照すると、子扉2は、ドアノブ22nを上半部2shに配置している。上半部2shのドアノブ22nを把持して、室内側からドアノブ22nを引くと、上半部2shが室外から室内に向けて開くと共に、下半部2ihが室内から室外に向けて開くように子扉2を回転できる(図5参照)。
【0048】
同様に、図2を参照すると、子扉2は、ドアノブ22nを下半部2ihに配置している。下半部2ihのドアノブ22nを把持して、室内側からドアノブ22nを押すと、上半部2shが室外から室内に向けて開くと共に、下半部2ihが室内から室外に向けて開くように子扉2を回転できる(図5参照)。図2の紙面と反対側にもドアノブ22nを設けており、このドアノブ22nを把持して、室外側から子扉2を回転できる。なお、ドアノブ22nは、図示されたシリンダタイプに限定されることなく、レバータイプでもよい。
【0049】
図2又は図4及び図5を参照すると、子扉2は、一対のマグネットキャッチ24・24を上部に配置している。図4に示すように、子扉2の上半部2shが上枠11uに当接した状態では、一対のマグネットキャッチ24・24は、上枠11uを吸着している。そして、一対のマグネットキャッチ24・24は、風圧などに抗して、親扉1に対する子扉2の閉止状態を維持できる。
【0050】
(自閉手段の構成)
次に、自閉手段の構成を説明する。図2又は図4及び図5を参照すると、子扉2は、その下端部に自閉手段となる帯板状の錘4を取り付けている。錘4は、水平方向に分割して配置してもよい。
【0051】
図5に示すように、子扉2の下半部2ihが室内から室外に向けて開いた状態では、錘4が無いと、上半部2shの重量と下半部2ihの重量が均衡しているので、子扉2は、時計方向又は反時計方向に容易に回転できる。そこで、子扉2の下端部に錘4を設けて、子扉2の下半部2ihが室外から室内に向けて開口部1hを閉じるように、子扉2を時計方向に回転するようにした(図4参照)。
【0052】
(回転軸の構成)
次に、回転軸の構成を説明する。図6は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す図であり、図6(A)は、回転軸の正面図、図6(B)は、図6(A)のA−A矢視断面図、図6(C)は、図6(A)のB−B矢視断面図、図6(D)は、図6(A)のC−C矢視断面図である。
【0053】
図7は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す斜視図であり、子扉側に設けた軸部と親扉側に設けた軸受部を対向配置した状態図である。
【0054】
図8は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す斜視図であり、子扉側に設けた軸部と親扉側に設けた軸受部を対向配置した状態図である。
【0055】
図9は、前記実施形態による室内設備の冠水を防止する防火扉に備わる回転軸の構成を示す図であり、図9(A)は、親扉に対して子扉を直角に傾倒した状態で示す回転軸の正面図、図9(B)は、図9(A)のA−A矢視断面図、図9(C)は、図9(A)のB−B矢視断面図、図9(D)は、図9(A)のC−C矢視断面図である。
【0056】
図2を参照すると、一対の回転軸3・3は、子扉2の左右に線対称に配置されているので、右側の回転軸3を代表して、以下、回転軸3の構成を説明する。
【0057】
図6から図9を参照すると、回転軸3は、円筒状の軸受部31と円柱状のボス32で構成している。軸受部31は、親扉1に設けた開口部1hの側面の内壁から突出している。又、軸受部31は、ボス32を受容して回転自在に連結する円形の軸受穴31hを開口している。
【0058】
図6から図9を参照すると、ボス32は、四角柱状の中間縦枠部材30の一方の面から突出している。中間縦枠部材30は、子扉2の側面に配置された縦枠部材23fの中間部に配置している。又、中間縦枠部材30は、一対の雌ねじ部30s・30sを設けている。ボルト部材30bを用いて、子扉2の内部から雌ねじ部30sに螺合することで、中間縦枠部材30を子扉2の側面に固定できる(図6(D)参照)。
【0059】
図6(B)又は図7及び図9(B)を参照すると、軸受部31は、その円環状の肉厚部31wが第1戸当り部11sの縦枠11vに連続すると共に、第2戸当り部12sの縦枠12vに連続している。このように、軸受部31は、室内から室外に向けて貫通する隙間ができないように、第1戸当り部11s及び第2戸当り部12sで遮蔽されている。
【0060】
図6(C)又は図8及び図9(C)を参照すると、中間縦枠部材30は、ボス32の外周から窪んだ一対の溝部32d・32dを形成している。溝部32dに形成された円弧状の壁は、軸受部31の外周を案内できる。前記円弧状の壁に連続する平坦な壁が、縦枠11v又は縦枠12vに当接することで(図9(C)参照)、親扉1に対する子扉2の回動角度を規定できる。
【0061】
[室内設備の冠水を防止する防火扉の作用]
次に、実施形態による防火扉10の作用及び効果を説明する。図1から図4を参照して、防火扉10は、タンクTから流出した水Lが親扉1で堰き止められると、水位が上昇して一組の設備F1・F2が冠水することを防止するため、親扉1に子扉2を設けて、所定の水位L2の水圧が子扉2の閉止力を上回ることで、子扉2を開いて水Lを排水させる経路を確保するものである。
【0062】
具体的には、図2を参照して、親扉1に対して子扉2が開く所定の水位H2(開放レベル)を以下のとおり設定する。図2を参照して、床面FLから子扉2の下端縁までの距離を「a」とする。又、子扉2が開く水位H2を「b」とする。更に、子扉2の横幅を「w」とする。このように設定すると、子扉2への水圧Pは、三角形分布するものとし、P=(b−a)×ρ×w×(1/2)で計算できる。なお、「ρ」は、タンクTに収容された液体の単位容積質量である。
【0063】
図2を参照して、水位H2における水圧Pによる子扉2の回転モーメント「M1」は、M1=P×{c−(b−a)×(1/2)}で計算できる。なお、「c」は、仮想の回転中心Qから子扉2の下端縁までの距離である。図4又は図5を参照して、錘4による子扉2の時計方向の回転モーメントを「M2」とすると、「M1」>「M2」の関係になることで、親扉1に対して子扉2の下半部2ihを開くことができ、水Lを室外に排出できる。
【0064】
図2又は図5を参照して、「M1」≒「M2」となるときの「b」を水Lの排出レベルとすると、水位H2未満では水Lを子扉2の下半部2ihから排出し続けるので、室内の水位が低減して子扉2の下半部2ihを閉じることができる。子扉2の下半部2ihを閉じた後に、タンクTから水Lが継続して流出し、室内の水位が水位H2以上に達すると、子扉2の下半部2ihを再度開くことができる。このように、実施形態による防火扉10は、室内が所定の水位H2未満になるように、子扉2の下半部2ihを開閉できる。
【0065】
図1又は図2を参照して、一組の設備F1・F2への冠水が回避される許容レベル「H1」を「H1」>「H2」の関係になるに設定しておけば、室内の水位は水位H2を超えることがないので、一組の設備F1・F2への冠水が防止される。
【0066】
図1から図3を参照すると、実施形態による防火扉10は、貯留設備から流出した液体で室内の水位が上がることに起因して、液体の水圧で子扉2の下半部2ihが開き、液体を室外へ排出するので、室内設備の冠水を防止できる。又、実施形態による防火扉10は、災害時に、子扉2を開いて開口部1hの下部から緊急脱出することもできる。
【0067】
図2から図4を参照すると、実施形態による防火扉10は、子扉2が、親扉1の厚さ方向に突出しないように、一対の回転軸3・3で連結されているので、ドアクローザー13を取り外して、引き戸式の防火扉にも適用できる。
【0068】
図6から図9を参照すると、実施形態による防火扉10は、室内から室外に向けて貫通する隙間ができないように、子扉2に設けた回転軸3が第1戸当り部11s及び第2戸当り部12sで遮蔽されている。これにより、実施形態による防火扉10は、室内から室外に向けて、又は、室外から室内に向けて、火炎を遮ることができる。そして、実施形態による防火扉10は、防火扉としての機能を満足することができる。
【0069】
本発明による防火扉は、既設の防火扉と交換することが可能であり、改造工事を安価にすることが期待される。
【0070】
本発明による室内設備の冠水を防止する防火扉は、不燃性の液体を収容する貯留設備が地震などで破損した場合に、貯留設備から流出した液体で室内の水位が上がると、液体の水圧で子扉が開き、液体を室外へ排出するので、室内の水位が下がり、室内設備の冠水を防止できるという効果がある。
【0071】
本発明による室内設備の冠水を防止する防火扉は、室内に流出した不燃性の液体を排出する経路を設けることが困難な「防火区画」であっても、防火扉に設けた子扉から液体を室外へ排出できるという効果がある。
【符号の説明】
【0072】
1 親扉
2 子扉
2sh 上半部
2ih 下半部
3・3 一対の回転軸
4 錘(自閉手段)
10 防火扉
F1・F2 設備
L 水(不燃性の液体)
R 室
T タンク(貯留設備)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9