(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937310
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
F21S 8/12 20060101AFI20160609BHJP
F21W 101/10 20060101ALN20160609BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20160609BHJP
【FI】
F21S8/12 125
F21W101:10
F21Y101:00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-158103(P2011-158103)
(22)【出願日】2011年7月19日
(65)【公開番号】特開2013-25943(P2013-25943A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕之
【審査官】
竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−076377(JP,A)
【文献】
特開2009−070732(JP,A)
【文献】
特開2004−095481(JP,A)
【文献】
特開2008−041271(JP,A)
【文献】
特開2009−187960(JP,A)
【文献】
特開2008−123753(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0125614(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/12
F21W 101/10
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向の幅よりも鉛直方向の幅が狭い形状の投影レンズと、
前記投影レンズの光軸よりも上方に、出射面が下向きに傾斜した状態で配置される光源と、
前記光源からの出射光を反射する楕円系反射面を有し、該反射面で反射される光のほぼ全てが前記投影レンズに入射するように大きさが調整された第1反射鏡と、
前記第1反射鏡の焦点近傍に配置され、前記投影レンズから投影される配光パターンに水平カットオフラインを形成する遮蔽板と、
前記光源からの出射光のうち前記第1反射鏡に入射しない光を反射するように配置された第2反射鏡と、
前記遮蔽板の上端より上側の前記第1反射鏡による反射光と非干渉の位置に配置され、前記第2反射鏡による反射光を前記投影レンズに向けて反射する第3反射鏡と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記第2反射鏡は楕円系反射面で、前記第3反射鏡は放物系反射面で構成されており、それぞれの反射面の焦点が前記遮蔽板の上端より上側に位置することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記第3反射鏡の全面にわたり反射光が入射するように、前記第2反射鏡の楕円系反射面の形状が調整されることを特徴とする請求項2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記第3反射鏡の車両後方側に集中して反射光が入射するように、前記第2反射鏡の楕円系反射面の形状が調整されることを特徴とする請求項2に記載の車両用前照灯。
【請求項5】
前記第3反射鏡による反射光で形成される配光パターンが、前記第1反射鏡による反射光で形成される配光パターンよりも水平方向に拡がるように、前記第2反射鏡の楕円系反射面と前記第3反射鏡の放物系反射面の形状が調整されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両用の前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯の中には、特定の目的を実現するために二つ以上のリフレクタを備えるものがある。例えば特許文献1には、LED実装基板の上部にヒートシンクを配置するために三つのリフレクタを設けたLEDランプユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−76377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用前照灯の投影レンズは車両前面の外観に大きな影響を与える。意匠的な観点から、投影レンズの上下幅を狭く(例えば20mm程度)したいという要望も存在する。しかしながら、単に投影レンズの上下幅を狭くするだけでは、投影レンズに入射する光束が減少し光量が低下するという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、凸レンズの上下が所定量切断された形状の投影レンズを備える車両用前照灯において、上下が切断されていない投影レンズを備える車両用前照灯と同等の光量を確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の車両用前照灯は、水平方向の幅よりも鉛直方向の幅が狭い形状の投影レンズと、投影レンズの光軸よりも上方に、出射面が下向きに傾斜した状態で配置される光源と、光源からの出射光を反射する楕円系の反射面を有し、該反射面で反射される光のほぼ全てが投影レンズに入射するように大きさが調整された第1反射鏡と、第1反射鏡の焦点近傍に配置され、投影レンズから投影される配光パターンに水平カットオフラインを形成する遮蔽板と、光源からの出射光のうち第1反射鏡に入射しない光を反射するように配置された第2反射鏡と、遮蔽板の上端より上側の第1反射鏡による反射光と非干渉の位置に配置され、第2反射鏡による反射光を投影レンズに向けて反射する第3反射鏡と、を備える。
【0007】
この態様によると、第1反射鏡による反射では投影レンズに入射させられない光を、第2反射鏡と第3反射鏡を用いて投影レンズに入射させるようにしたので、凸レンズの上下が所定量切断された形状の投影レンズを備える車両用前照灯であっても通常の投影レンズを備える車両用前照灯と同等の光量を確保することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凸レンズの上下が所定量切断された形状の投影レンズを備える車両用前照灯において、上下が切断されていない投影レンズを備える車両用前照灯と同等の光量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来技術のプロジェクタ型の車両用前照灯の概略断面図である。
【
図2】
図1に示した車両用前照灯の光束不足を補うように構成された車両用前照灯の概略断面図である。
【
図3】
図2に示した車両用前照灯の欠点を補うように構成された車両用前照灯の概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の概略断面図である。
【
図5】第1反射鏡により反射される光線の軌跡を示す図である。
【
図6】第2反射鏡および第3反射鏡により反射される光線の軌跡を示す図である。
【
図7】(a)〜(d)は車両用前照灯によって構成される配光パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1ないし3を参照して従来技術の車両用前照灯を説明し、
図4以降で本発明の一実施形態に係る車両用前照灯について説明する。なお、
図1ないし3は、車両用前照灯の光軸を含む鉛直平面における断面を示している。
【0011】
図1は、従来技術のプロジェクタ型の車両用前照灯50の概略断面図である。LED等の光源52から出射した光がリフレクタ54によって反射される。リフレクタ54で反射された光は、その一部がシェード56によって遮られ、残りが車両前方側に位置する投影レンズ60(一部を点線で示す)に入射する。このような車両用前照灯50において、投影レンズ60の上下を所定量切断して左右方向の幅よりも上下方向の幅を小さくした投影レンズ58を考える。このような上下幅の狭い投影レンズ58は、車両前方から観察したときの意匠的な効果を目的としたものである。しかし、上下幅の狭い投影レンズ58では、リフレクタ54で反射された光のうち、通常の投影レンズ60では入射していたレンズの上下部分(図中に点線で示した部分)に光が入射しなくなるため、光束不足になってしまう。
【0012】
図2は、
図1に示した車両用前照灯50の光束不足を補うように構成された車両用前照灯70の概略断面図である。車両用前照灯70では、光源72から出射した光を第1リフレクタ74が反射し、車両前方側に位置する投影レンズ78に入射させる。さらに、第1リフレクタの延長線上に第2リフレクタ75をさらに配置し、光源72から出射した光を同様に反射する。この第2リフレクタ75で反射された光は、シェード76の上端から離れた位置を通過して投影レンズ78に入射する。この構成により、投影レンズ78における光束不足は解消されるものの、シェード76の上端から離れた位置を通過する光は、路面の手前側つまり車両前方に近い部分に投影されることになる。この結果、路面の手前側が明るくなり過ぎ、視認性の観点からは好ましくないものとなる。
【0013】
図3は、
図2に示した車両用前照灯70の欠点を補うように構成された車両用前照灯90の概略断面図である。車両用前照灯90は、光源92、第1リフレクタ94、第2リフレクタ95、シェード96および投影レンズ98を含む。この構成では、
図2の第2リフレクタ75と比較して第2リフレクタ95をより光軸に近接して配置することで、第2リフレクタ95による反射光を投影レンズ98の中心付近に入射させている。この結果、路面の手前側が明るくなり過ぎることを防止できる。しかし、この構成では、第1リフレクタ94と第2リフレクタ95との間に不連続部分が生じ、この不連続部分から光が漏れてしまう(
図3の矢印Bで示す)ため、
図1の例と同様に光束不足になってしまう。
【0014】
図4は、上述の車両用前照灯の欠点を解消する、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯10の概略断面図である。
図4は、車両用前照灯10の光軸Axを含む鉛直平面によって切断された断面を示している。
【0015】
車両用前照灯10は、前方開口を有するランプボディ22と、前方開口部を覆うように配置された投影レンズ24とによって灯室26が形成され、灯室26内に光源および反射鏡等が配置される。
【0016】
車両用前照灯10は、光源を点灯することで、例えば車両前方25メートルの位置に配置される仮想鉛直スクリーン上に所定の配光パターンを形成することができる。本実施形態では、点灯時にロービーム用配光パターンが形成されるように配光制御されているが、ハイビーム用配光パターンなどの他の配光パターンが形成されるように配光制御してもよい。
【0017】
投影レンズ24は、その周縁部がランプボディ22の前端環状溝部23に保持されて固定される。投影レンズ24は、前方側表面および後方側表面が凸面の両凸非球面レンズであり、通常の凸面レンズと異なり、鉛直方向の上下部分が所定量だけ切断された形状となっている。したがって、車両前方から見たとき、水平方向の幅よりも鉛直方向の幅が小さく、水平方向に細長い形状として観察される。投影レンズ24の鉛直方向の長さは、例えば水平方向の長さの約20〜70%である。
【0018】
投影レンズ24は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に後方焦点F1を有しており、この後方焦点面上に形成される光源像を仮想鉛直スクリーン上に反転像として投影するように構成される。
【0019】
光源12は、第1反射鏡14に直接光を入射させるように、光軸Axよりも上方に、出射面が下向きに傾斜した状態で灯室26内に配置される。光源12は発光ダイオード(LED)などの半導体光源であることが好ましいが、ハロゲンランプやディスチャージランプなどの任意のランプであってもよい。以下の説明では、光源がLEDであるものとして説明する。光源は図示のように一つのLEDで構成されてもよいし、複数のLEDで構成されてもよい。
【0020】
第1反射鏡14は、光源12の出射面の直下に位置する回転楕円をベースとした楕円系の反射面を有しており、光源12から出射する光を反射する。第1反射鏡14は、楕円系反射面の焦点が投影レンズ24の後方焦点F1の近傍に位置するように設計されている。したがって、第1反射鏡14の反射面で反射される光のほぼ全てが投影レンズ24に入射する。
【0021】
遮蔽板20は、第1反射鏡14の楕円系反射面の焦点近傍にその上端が位置するように配置され、仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンに水平カットオフラインを形成する。
【0022】
第1反射鏡14と遮蔽板20との間に配置される第2反射鏡16は、光源12からの出射光のうち第1反射鏡14に入射しない光を第3反射鏡18に向けて反射するように構成される。第2反射鏡16は、第1反射鏡14の楕円形状の延長線上に配置されることが好ましい。第2反射鏡16は、楕円系反射面を光源12側に有しており、楕円系反射面の焦点F2は光軸Axよりも上方に位置する。
【0023】
第3反射鏡18は、第1反射鏡14による反射光と非干渉の位置に配置され、第2反射鏡16による反射光を投影レンズ24に向けて反射する。第3反射鏡18は回転放物面をベースとした放物系反射面で構成されており、その焦点が第2反射鏡16の焦点F2と略一致するように配置される。
【0024】
光源12を下向きに配置したことで、
図3に示した例のように第1反射鏡と第3反射鏡との間の隙間を考慮する必要がなくなり、かつ第3反射鏡を光軸の近くに配置することが可能になる。第3反射鏡18を光軸Axに近接させて配置すると、
図2に示した例と異なり、第3反射鏡18による反射光によって路面の手前側に明部ができないようにすることができる。
【0025】
図5は、第1反射鏡14により反射される光線の軌跡を示す図である。光源12から出射した光は、第1反射鏡14の焦点(または投影レンズ24の後方焦点)F1を経由して投影レンズ24に入射し、投影レンズ24の略全体から前方に光が出射される。
【0026】
図6は、第2反射鏡16および第3反射鏡18により反射される光線の軌跡を示す図である。光源12から出射した光のうち、第1反射鏡14に入射しない光は第2反射鏡16に入射する。第2反射鏡16に入射した光は、焦点F2を経由して第3反射鏡18に入射し、第3反射鏡18によって投影レンズ24の下側に入射する。この光が投影レンズ24によって投影されると、仮想鉛直スクリーンの水平カットオフラインの近傍を照らすことができる。
【0027】
図7(a)〜(d)は、車両用前照灯10によって構成される配光パターンの例を示す。図中の実線が第1反射鏡14によって形成される配光パターンC1を表し、点線が第2反射鏡16および第3反射鏡18によって形成される配光パターンC3を表している。なお、C2はホットスポットを表す。
【0028】
図7(a)は、第2反射鏡16による反射光が第3反射鏡18のうち車両後方側18aに集中して入射するように、第2反射鏡16の楕円系反射面の形状を調整したときの配光パターンを示す。このようにすると、配光パターンC3で示すように、水平カットオフラインの近傍に光を集めることができる。
【0029】
図7(b)は、第3反射鏡18の車両後方側18aから車両前方側18bに向けて、第2反射鏡16による反射光の光束が減少していくように第2反射鏡16の楕円系反射面の形状を調整したときの配光パターンを示す。このようにすると、第2および第3反射鏡による配光パターンC3を上下方向に均一に拡げることができる。
【0030】
第2反射鏡16および第3反射鏡18の反射面形状を調整して、水平方向における配光パターンを変えることも可能である。
図7(c)は、第2反射鏡16による反射光を水平方向に拡げつつ、第3反射鏡18のうち車両後方側18aに集中して第2反射鏡16による反射光が入射するように、第2反射鏡16の楕円系反射面と第3反射鏡18の放物系反射面の形状を調整したときの配光パターンを示す。このようにすると、
図7(a)の例と比較して配光パターンC3の幅を拡げることができる。
【0031】
図7(d)は、第2反射鏡16による反射光を水平方向に拡げつつ、第3反射鏡18の車両後方側18aから車両前方側18bに向けて第2反射鏡16による反射光の光束が減少していくように、第2反射鏡16の楕円系反射面と第3反射鏡18の放物系反射面の形状を調整したときの配光パターンを示す。図示のように、第2および第3反射鏡による反射光で形成される配光パターンC3が、第1反射鏡による反射光で形成される配光パターンC1よりも水平方向に拡がるようにすると、光源の光量が少ない場合に拡散を少なく済ませることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用前照灯によれば、下向きに配置された光源の直下に第1反射鏡を配置してできるだけ多くの光束を上下方向の幅が狭い投影レンズに入射させるとともに、第1反射鏡による反射では投影レンズに入射させられない光を、第2反射鏡と第3反射鏡を用いて投影レンズに入射させるようにした。これによって、凸レンズの上下が所定量切断された形状の投影レンズを備える車両用前照灯であっても、通常の投影レンズを備える車両用前照灯と同等の光量を確保することができる。また、第3反射鏡を投影レンズの光軸の近傍に配置することで、車両前方の路面手前側が明るくなり過ぎないようにすることができる。
【0033】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【0034】
実施の形態で説明した車両用前照灯のみでロービームを構成する代わりに、拡散光学系を追加してロービームを構成してもよい。また、
図7(a)〜(d)に示した配光パターンを組み合わせて使用してもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 車両用前照灯、 12 光源、 14 第1反射鏡、 16 第2反射鏡、 18 第3反射鏡、 20 遮蔽板、 24 投影レンズ、 Ax 光軸、 F1、F2 焦点。